(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20240405BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240405BHJP
G01M 15/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01M13/045
G01H17/00 Z
G01M15/00
(21)【出願番号】P 2019188930
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0075915
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ドン-チュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジン-クォン
(72)【発明者】
【氏名】キム、デ-ウン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジュン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、イル-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ホン-ウク
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョン-ジュン
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0112952(US,A1)
【文献】米国特許第03508629(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンの一側に設けられた振動検知手段により検知された前記エンジンの振動信号を、燃焼ノッキングによる振動信号と、クランクピンとコネクティングロッドとの間に設けられた軸受の振動信号とに分離する信号分離ステップと、
前記軸受の振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数帯域の信号を抽出して積分する信号処理ステップと、
前記エンジンの運転中における軸受の破損を検知するために、予め設定されたエンジン状態特定条件である際に、前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高いかを判断する軸受損傷判断ステップと、
軸受が損傷されたことを確定する軸受損傷確定ステップと、を含み、
前記軸受の振動信号は、燃焼ノッキングによる振動信号と、前記エンジン状態特定条件またはクランク軸の回転角度によって互いに区別されることを特徴とする、振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項2】
前記軸受の振動信号は、前記クランク軸の回転角度に対して予め設定された検知区間で発生するものから入力されることを特徴とする、請求項1に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項3】
前記検知区間は、各気筒毎に設定され、TDC(top dead center)前後の一定角度範囲であることを特徴とする、請求項2に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項4】
前記検知区間は、前記クランク軸の回転角度によって、各気筒毎に別に設定されることを特徴とする、請求項2に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項5】
前記エンジン状態特定条件は、前記エンジンが減速し始める減速初期であるか、前記エンジンが減速しながらアイドルに移行することを含む、請求項1に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項6】
前記エンジンが減速しながらアイドルに移行する状態は、減速中のフューエルカットであってアイドルに移行して、減速中のフューエルカットではなく、アイドルに移行することで行われることを特徴とする、請求項5に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項7】
前記エンジン状態特定条件である際に、
前記エンジン状態特定条件毎にそれぞれモニタリングカウンタを増加させるモニタリングカウンタ増加ステップを含み、
前記軸受損傷判断ステップの後に、
前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高い度に損傷カウンタを増加させる損傷カウンタ増加ステップをさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項8】
前記軸受損傷確定ステップでは、
増加された前記モニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする、請求項7に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項9】
前記軸受損傷確定ステップの後には、予め設定された安全最高エンジン回転数以下となるように前記エンジンの回転数を制限するリンプホームモードステップ、
または車両の室内に設けられ、前記軸受の損傷時に乗員に前記軸受の損傷を警報する警告手段を作動させる警告手段作動ステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項10】
車両のエンジンの一側に設けられた振動検知手段により検知された前記エンジンの振動信号を、燃焼ノッキングによる振動信号と、クランクピンとコネクティングロッドとの間に設けられた軸受の振動信号とに分離する信号分離ステップと、
前記軸受の振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数帯域の信号を抽出して積分する信号処理ステップと、
前記エンジンの運転中における軸受の破損を検知するために、予め設定されたエンジン状態特定条件である際に、前記軸受の振動信号が、前記エンジン状態特定条件毎に予め設定された前記軸受の損傷基準より高い度に損傷カウンタを増加させる損傷カウンタ増加ステップと、
軸受が損傷されたことを確定する軸受損傷確定ステップと、を含み、
前記軸受損傷確定ステップでは、増加されたモニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする、振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項11】
前記エンジン状態特定条件は、前記エンジンが減速し始める減速初期であるか、前記エンジンが減速しながらアイドルに移行するか、または前記エンジンが減速中のフューエルカット状態からアイドル状態に移行する状態の何れか1つであることを含む、請求項10に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項12】
前記エンジン状態特定条件毎にそれぞれモニタリングカウンタを増加させるモニタリングカウンタ増加ステップをさらに含み、
前記軸受損傷確定ステップでは、
増加された前記モニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、増加された前記損傷カウンタが損傷確定累積損傷カウンタに達すると、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする、請求項11に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項13】
車両のエンジンの一側に設けられた振動検知手段により検知された前記エンジンの振動信号を、燃焼ノッキングによる振動信号と、クランクピンとコネクティングロッドとの間に設けられた軸受の振動信号とに分離する信号分離ステップと、
前記軸受の振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数帯域の信号を抽出して積分する信号処理ステップと、
前記エンジンの運転中における軸受の破損を検知するために、予め設定されたエンジン状態特定条件である際に、前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高いかを判断する軸受損傷判断ステップと、
軸受が損傷されたことを確定する軸受損傷確定ステップと、を含み、
前記軸受の振動信号は、クランク軸の回転角度に対して予め設定された検知区間で検知されることを特徴とする、振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項14】
前記検知区間は、前記クランク軸の回転角度によって、各気筒毎に別に設定されることを特徴とする、請求項13に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項15】
前記検知区間は、各気筒の点火時期から所定の角度範囲で形成されることを特徴とする、請求項14に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項16】
前記検知区間は、各気筒のTDC(top dead center)前後の一定角度範囲であることを特徴とする、請求項14に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項17】
前記エンジン状態特定条件である際に、
前記エンジン状態特定条件毎にそれぞれモニタリングカウンタを増加させるモニタリングカウンタ増加ステップと、
前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高い度に損傷カウンタを増加させる損傷カウンタ増加ステップと、をさらに含むことを特徴とする、請求項13に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項18】
前記軸受損傷確定ステップでは、
増加されたモニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする、請求項13に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項19】
前記信号処理ステップでは、前記軸受から発生した振動信号において1.5kHz~2.5kHzを中心周波数とし、前記中心周波数において予め設定された周波数帯域以内を固有周波数帯域とし、前記固有周波数帯域以外の信号を除去することを特徴とする、請求項1、10、または13の何れか一項に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【請求項20】
前記軸受は、前記クランク軸のクランクピンと前記コネクティングロッドとが連結される部位に設けられていることを特徴とする、請求項
1または1
3に記載の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の損傷を直接検知するセンサがなくても、車両に搭載されたエンジンから放射される振動信号を処理することで、軸受の損傷が検知できるようにした、振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンでは種々の部品が互いに結合された状態で作動し、各部品が結合されて作動する部位には、摩擦を低減させるために軸受が取り付けられている。
【0003】
図1には、コネクティングロッド11とクランク軸12が結合される部位が示されている。前記コネクティングロッド11の大端部は、前記クランク軸12においてクランクピン12bを包むように締結されており、前記コネクティングロッド11の大端部と前記クランクピン12bとの間には軸受13が備えられる。前記クランク軸12は、クランクジャーナル12aを介して前記シリンダーブロックに支持されており、前記コネクティングロッド11の小端部はピストン14と連結される。また、前記コネクティングロッド11の大端部と前記クランクピン12bとの間にはエンジンオイルが満たされ、前記作動時に、前記コネクティングロッド11の大端部と前記クランクピン12bとの間の摩擦を低減させる。定常状態(
図1参照)では、前記軸受13と前記クランクピン12bとの間の間隙が小さく、その間にオイルによる油膜が形成され、騒音と振動が小さい。
【0004】
しかし、前記エンジンが異常な条件(例えば、異物流入、オイル不足、不良なコネクティングロッドジャーナル加工状態など)で長期間耐久が進み(
図2参照)、前記軸受13が摩耗されて損傷された状態で運転し続けると、前記軸受13と前記クランクピン12bとの間の間隙Gが大きくなり、エンジンの作動時に、前記コネクティングロッド11と前記クランクピン12bの打撃により騒音と振動が発生する。
【0005】
このような状態が持続すると、
図3に示されたように、前記軸受13が前記クランクピン12bに焼きついて、前記コネクティングロッド11の大端部と前記クランクピン12bとの間へのオイル供給が遮断される。このように、前記軸受13が前記コネクティングロッド11により損傷された状態でエンジンが作動すると、焼きつきに繋がり、前記軸受13、前記コネクティングロッド11の大端部などに金属接触が発生して、正常範囲を超える騒音と振動が生じる。また、前記軸受13などが破損される現象が発生する。
【0006】
前記軸受13が破損されると、摩擦抵抗の増加により、車両のエンスト現象が発生する。すなわち、前記軸受13が破損されると、摩擦抵抗の増加によりエンジンの出力が低下し、それを取り戻すためにアクセルペダルを操作すると、エンジンの回転数(rpm)は増加する。しかし、エンジンの回転数の増加は、前記軸受13が取り付けられた部位の摩擦抵抗をさらに上昇させる悪循環が繰り返される。この際、摩擦抵抗の増加によって前記摩擦部位の温度が上昇し、前記軸受13の温度の上昇により焼きつきが加速化し、前記軸受13に隣接した部品、すなわち、前記コネクティングロッド11、前記クランクピン12bも損傷されることになる。
【0007】
このように、前記軸受13の焼きつきが発生する場合、前記エンジンの総合的な問題に繋がってエンストなどの問題が発生し、これは、ある1つの部品の修理や交替だけでは解決できず、前記エンジン全体を整備または交替しなければならなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するために発明されたものであって、別のハードウェアを追加しなくても、エンジンから放射される振動信号を分離して処理し、それをモニタリングしながら、所定の回数を超える振動が入力されると、それを軸受の損傷と確定する、振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような目的を達成するための本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法は、車両のエンジンの一側に設けられた振動検知手段により検知された前記エンジンの振動信号を、燃焼ノッキングによる振動信号と、クランクピンとコネクティングロッドとの間に設けられた軸受の振動信号とに分離する信号分離ステップと、前記軸受の振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数帯域の信号を抽出して積分する信号処理ステップと、前記エンジンの運転中における軸受の破損を検知するために、予め設定されたエンジン状態特定条件である際に、前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高いかを判断する軸受損傷判断ステップと、軸受が損傷されたことを確定する軸受損傷確定ステップと、を含み、前記軸受の振動信号は、燃焼ノッキングによる振動信号と、前記エンジン状態特定条件によって互いに区別されることを特徴とする。
【0010】
前記エンジン状態特定条件は、前記エンジンが減速し始める減速初期であるか、前記エンジンが減速しながらアイドルに移行するか、または前記エンジンが減速中のフューエルカット状態からアイドル状態に移行する状態のうち何れか1つであるかを判断することを含む。
【0011】
前記エンジン状態特定条件である際に、前記エンジン状態特定条件毎にそれぞれモニタリングカウンタを増加させるモニタリングカウンタ増加ステップを含み、前記軸受損傷判断ステップの後に、前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高い度に損傷カウンタを増加させる損傷カウンタ増加ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0012】
前記軸受損傷確定ステップでは、増加された前記モニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする。
【0013】
前記軸受の振動信号は、前記クランク軸の回転角度に対して予め設定された検知区間で発生するものから入力されることを特徴とする。
【0014】
前記検知区間は、各気筒毎に設定され、TDC(top dead center)前後の一定角度範囲であることを特徴とする。
【0015】
前記軸受損傷確定ステップの後には、予め設定された安全最高エンジン回転数以下となるように前記エンジンの回転数を制限するリンプホームモードステップ、または車両の室内に設けられ、前記軸受の損傷時に乗員に前記軸受の損傷を警報する警告手段を作動させる警告手段作動ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0016】
一方、振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法は、車両のエンジンの一側に設けられた振動検知手段により検知された前記エンジンの振動信号を、燃焼ノッキングによる振動信号と、クランクピンとコネクティングロッドとの間に設けられた軸受の振動信号とに分離する信号分離ステップと、前記軸受の振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数帯域の信号を抽出して積分する信号処理ステップと、前記エンジンの運転中における軸受の破損を検知するために、予め設定されたエンジン状態特定条件である際に、前記軸受振動信号が、前記エンジン状態特定条件毎に予め設定された前記軸受の損傷基準より高い度に損傷カウンタを増加させる損傷カウンタ増加ステップと、軸受が損傷されたことを確定する軸受損傷確定ステップと、を含み、前記軸受損傷確定ステップでは、増加されたモニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする。
【0017】
前記エンジン状態特定条件は、前記エンジンが減速し始める減速初期であるか、前記エンジンが減速しながらアイドルに移行するか、または前記エンジンが減速中のフューエルカット状態からアイドル状態に移行する状態の何れか1つであるかを判断することを含む。
【0018】
前記エンジン状態特定条件毎にそれぞれモニタリングカウンタを増加させるモニタリングカウンタ増加ステップをさらに含み、前記軸受損傷確定ステップでは、増加された前記モニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、増加された前記損傷カウンタが前記損傷確定累積損傷カウンタに達すると、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする。
【0019】
尚、本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法は、車両のエンジンの一側に設けられた振動検知手段により検知された前記エンジンの振動信号を、燃焼ノッキングによる振動信号と、クランクピンとコネクティングロッドとの間に設けられた軸受の振動信号とに分離する信号分離ステップと、前記軸受の振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数帯域の信号を抽出して積分する信号処理ステップと、前記エンジンの運転中における軸受の破損を検知するために、予め設定されたエンジン状態特定条件である際に、前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高いかを判断する軸受損傷判断ステップと、軸受が損傷されたことを確定する軸受損傷確定ステップと、を含み、前記軸受の振動信号は、前記クランク軸の回転角度に対して予め設定された検知区間で検知されることを特徴としてもよい。
【0020】
前記検知区間は、前記クランク軸の回転角度によって、各気筒毎に別に設定されることを特徴とする。
【0021】
前記検知区間は、各気筒の点火時期から所定の角度範囲で形成されることを特徴とする。
【0022】
前記検知区間は、各気筒のTDC(top dead center)前後の一定角度範囲であることを特徴とする。
【0023】
前記エンジン状態特定条件である際に、前記エンジン状態特定条件毎にそれぞれモニタリングカウンタを増加させるモニタリングカウンタ増加ステップと、前記軸受の振動信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高い度に損傷カウンタを増加させる損傷カウンタ増加ステップと、をさらに含むことを特徴とする。
【0024】
前記軸受損傷確定ステップでは、増加されたモニタリングカウンタが、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、前記軸受の損傷を確定することを特徴とする。
【0025】
前記信号処理ステップでは、前記軸受から発生した振動信号において1.5kHz~2.5kHzを中心周波数とし、前記中心周波数において予め設定された周波数帯域以内を固有周波数帯域とし、前記固有周波数帯域以外の信号を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
上記のような構成を有する本発明の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法によると、別のハードウェア的な構成要素を付加することなく、エンジンに既に取り付けられているノッキングセンサに入力される振動信号を処理して軸受の損傷を検知することができる。特に、前記車両が減速中である状態で軸受に加えられる負荷が急変する状態で、軸受の損傷による分別可能な振動を用いて、軸受の損傷を正確に検知することができる。
【0027】
前記軸受の損傷初期にそれを検知することができるため、前記軸受が損傷された状態で車両を無理に走行し、エンジンが損傷されることを防止することができる。
【0028】
また、軸受の損傷が検知されると、前記車両のリンプホームモードに移行するようにすることで、前記軸受の損傷が進行することを防止しつつ、前記車両を安全地帯または自動車整備工場に移動させることができる。
【0029】
尚、運転者がそれを認知するようにすることで、整備を誘導することができる。
【0030】
そして、損傷された軸受がどの気筒の軸受であるかを認知することができる。これにより、エンジンを分解してからどの気筒の軸受であるかを調べるのではなく、損傷された軸受を直ちに交替可能であるため、軸受の交替にかかる時間を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】エンジンにおけるコネクティングロッドとクランクピンが連結される部位で、軸受の焼きつきが起こる過程を示した断面図である。
【
図2】エンジンにおけるコネクティングロッドとクランクピンが連結される部位で、軸受の焼きつきが起こる過程を示した断面図である。
【
図3】エンジンにおけるコネクティングロッドとクランクピンが連結される部位で、軸受の焼きつきが起こる過程を示した断面図である。
【
図4】本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法を行うためのシステムを示したブロック図である。
【
図5】本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法を示したフローチャートである。
【
図6a】正常なエンジンで、減速時に振動センサにより測定された信号を高速フーリエ変換した状態を示したグラフである。
【
図6b】軸受が損傷されたエンジンで、減速時に振動センサにより測定された信号を高速フーリエ変換した状態を示したグラフである。
【
図7】クランク軸の回転角度による、各気筒毎に軸受の振動信号を検知する検知区間が設定された例を示したグラフである。
【
図8a】エンジンで、減速初期時におけるコネクティングロッドの負荷の変動を示したグラフである。
【
図8b】正常なエンジンで、減速初期時におけるエンジンの状態とノッキングセンサの状態を示したグラフである。
【
図8c】軸受が損傷されたエンジンで、減速初期時におけるエンジンの状態とノッキングセンサの状態を示したグラフである。
【
図9a】エンジンで、減速中のアイドルに移行した時におけるコネクティングロッドの負荷の変動を示したグラフである。
【
図9b】正常なエンジンで、減速中のアイドルに移行した時におけるエンジンの状態とノッキングセンサの状態を示したグラフである。
【
図9c】軸受が損傷されたエンジンで、減速中のアイドルに移行した時におけるエンジンの状態とノッキングセンサの状態を示したグラフである。
【
図10a】エンジンで、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行した時におけるコネクティングロッドの負荷の変動を示したグラフである。
【
図10b】正常なエンジンで、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行した時におけるエンジンの状態とノッキングセンサの状態を示したグラフである。
【
図10c】軸受が損傷されたエンジンで、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行した時におけるエンジンの状態とノッキングセンサの状態を示したグラフである。
【
図11a】本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法において、各運転条件による軸受の損傷基準を示したグラフである。
【
図11b】本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法において、各運転条件による軸受の損傷基準を示したグラフである。
【
図11c】本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法において、各運転条件による軸受の損傷基準を示したグラフである。
【
図12】本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法において、軸受の損傷確定前後の車速、アクセルペダル値、エンジン回転数、センサ信号の状態を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照し、本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法について詳細に説明する。
【0033】
先ず、本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法を行うためのシステムを説明すると、次のとおりである。
【0034】
図4に示されたように、エンジン10の一側に設けられ、前記エンジン10から伝達される振動を測定して前記エンジンのノッキングを検知する振動検知手段の一例であるノッキングセンサ15と、前記エンジン10の運転を制御するものであって、前記エンジン10から発生する振動信号のうち、軸受の損傷により発生する振動信号の大きさが軸受の損傷基準より大きいと、前記エンジン10の軸受13が損傷されたと判断する制御部20と、を含む。
【0035】
エンジン10の一側には、前記エンジン10の作動時に前記エンジン10から発生する振動を検知する検知手段であるノッキングセンサ15が設けられている。前記ノッキングセンサ15は、燃焼時にノッキングが発生すると、ノッキングにより生じる振動信号を検知する。
【0036】
本発明では、前記クランク軸12のクランクピン12bと前記コネクティングロッド11とが連結される部位に設けられた軸受13が損傷された際にも振動が発生することに着目し、前記ノッキングセンサ15が、ノッキングにより発生する振動だけでなく、前記軸受13の損傷による振動もともに検知するようにする。
【0037】
前記軸受13は、前記クランク軸12の回転時にクランクピン12bを中心とする回転(軸受がクランクピンを中心として自転)と、前記クランクピン12bが形成する軌跡によって前記クランク軸12を中心とする回転(前記クランク軸を中心とする公転)を同時に行う。
【0038】
一般に、回転する軸を支持する軸受は、回転中に、一定の力を位相に関わらず持続的に受ける。
【0039】
しかし、クランク軸12のクランクピン12bに設けられている軸受13(以下、「軸受」は、クランク軸のクランクピンに設けられている軸受を意味する)は、前記クランク軸12の回転中心に対して衛星運動(自転と公転)をし、前記軸受13には、燃焼室で発生する燃焼圧力と、ピストン14とコネクティングロッド11の作動による慣性力が作用する。かかる力(燃焼圧力による力と、慣性力による力)は、前記クランク軸12の位相によって変わるため、前記軸受13に加えられる力は、前記クランク軸12の位相によって変わる特性がある。本発明では、これを用いて前記クランクピン12bに設けられている軸受13の損傷を検知する。
【0040】
但し、前記ノッキングセンサ15により検知した振動は信号分離と信号処理を経て、ノッキングと軸受の損傷をそれぞれ検知することになる。
【0041】
前記ノッキングセンサ15により検知した振動信号は、信号が発生し得るエンジンの特定回転角度範囲であるウィンドウ(window)に対して、クランク軸の回転角度(
図7のX軸:クランク軸の2回転角度を1サイクルとする)によって処理されることで、どの気筒の軸受13が損傷されたかも確認することができる。
【0042】
特に、
図7に示されたように、各気筒毎に、検知区間を設定し、前記軸受13の損傷を検知することができる。
【0043】
前記検知区間は、前記クランク軸の回転角度に対して設定されることができる。この際、前記検知区間は、各気筒毎に設定されてもよい。
図7に示されたように、1~4番の気筒の軸受の振動信号を検知するために、各気筒毎にA1~A4の検知区間を設定することができる。
【0044】
この際、前記検知区間は、各気筒のTDC(top dead center)直前から前記TDC以後の所定の角度までそれぞれ設定することができる。特に、前記検知区間の開始点は、点火時期とTDCとの間で開示することができる。前記コネクティングロッド11の負荷は、各気筒で点火時期から急激に増加するため、前記コネクティングロッド11の負荷が増加する区間で前記軸受13の振動信号を検知することができる。
【0045】
これにより、どの気筒の軸受が損傷され、軸受の損傷信号が発生したかを把握することができる。
【0046】
一方、前記ピストンのTDC近所で軸受13の損傷を検知する理由は、次のとおりである。エンジンのコンロッド軸受が損傷すると、ピストンのTDC近所で騒音が発生する。前記ピストン14の上死点近所で燃焼室の燃焼圧力が最大となり、間隙が大きくなった軸受13で衝撃性騒音が発生する。また、前記軸受13と前記クランク軸12のクランクピン12bとの間隙が大きくなることにより、前記ピストン14の上部面がシリンダーヘッドと衝突して騒音が発生する。上記のような理由から、前記ピストン14のTDC近所で振動特性をモニタリングする。
【0047】
前記エンジン10の一側には、前記ノッキングセンサ15の他に、前記エンジン10の状態を測定するための各種センサが設けられている。例えば、エンジンオイルの温度を測定するためのオイル温センサ16が設けられており、前記エンジンオイルの温度を把握することができる。
【0048】
制御部20は、運転者の操作に応じて前記エンジン10の燃焼を制御しながら、前記ノッキングセンサ15から入力される信号を処理し、前記コネクティングロッド軸受13の損傷有無を判断する。例えば、前記制御部20は、運転者の操作に応じて前記エンジン10の燃焼を制御するエンジン制御部21と、前記ノッキングセンサ15からの信号を、ノッキングによる振動信号と、軸受の損傷による振動信号とに分離し、軸受信号を定量化させる信号処理部22と、前記信号処理部22により処理された軸受信号を用いて軸受13の損傷を判断する前記軸受損傷判断部23と、を含むことができる。前記制御部20には、後述の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法がロジックとして格納されているため、前記制御部20により、振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法が行われる。
【0049】
前記エンジン制御部21は、運転者の操作、前記車両の走行状態などに応じて、前記エンジン10が要求トルクを発生するように前記エンジン10の燃焼を制御する。前記エンジン制御部21による前記エンジン10の制御は、通常のエンジン10の制御に相当するため、詳細な説明は省略する。
【0050】
信号処理部22は、前記ノッキングセンサ15から出力された信号のうち、前記軸受13の損傷による振動信号を燃焼ノッキングによる振動信号から分離する。前記信号処理部22により分離されたノッキング信号は、別のノッキング制御ロジックによってノッキングを制御するのに用いられる。特に、前記信号処理部22により分離された軸受信号から所定の固有周波数帯域の信号を抽出し、それを増幅、積分して、定量化された軸受信号として処理する。
【0051】
軸受損傷判断部23は、前記軸受信号を予め設定された軸受の損傷基準と比較し、前記軸受13の損傷を判断する。前記軸受損傷判断部23は、後述の振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法により前記軸受13の損傷を判断する。前記軸受損傷判断部23により、前記軸受13が損傷されたと確定されると、前記エンジン制御部21は、リンプホームモードで前記エンジンが作動するように制御する。
【0052】
警告手段は、前記制御部20により前記軸受13が損傷されたと判断されると、前記軸受13の損傷を乗員が認知するように警報する。
【0053】
例えば、前記警告手段は、前記車両の室内または計器盤に設けられている警告灯31であってもよい。前記制御部20は、前記軸受13の損傷が検知されると、前記警告灯31を点灯させて乗員が前記軸受13の損傷を認知するようにする。
【0054】
一方、前記警告手段の他の例として、前記車両の室内の一側に設けらるスピーカであってもよい。
【0055】
本発明に係る振動信号を用いたエンジンの軸受の損傷検知方法は、車両のエンジン10の一側に設けられた振動検知手段により検知された前記エンジン10の振動信号を、燃焼ノッキングによる振動信号と、前記軸受13から発生した振動信号とに分離する信号分離ステップ(S120)と、前記軸受13から発生した振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数帯域の信号を抽出し、それを増幅、積分して、定量化された軸受信号として処理する信号処理ステップ(S130)と、前記軸受信号が、予め設定された軸受の損傷基準より高いかを比較する軸受損傷判断ステップ(S160)と、を含む。
【0056】
図6aおよび
図6bには、軸受が損傷されていない正常エンジン(
図6a)と、軸受が損傷されたエンジン(
図6b)の振動信号がそれぞれ示されている。
【0057】
走行中に、減速条件で前記ノッキングセンサにより測定された信号を高速フーリエ変換(Fast Fourier transform、FFT)処理して比較すると、軸受13が損傷されたエンジンは、正常エンジンに比べて、2kHz近所で固有の周波数を有していることが分かる。前記ノッキングセンサ15により測定された燃焼ノッキングの周波数が1次5~6kHz、2次11~12kHz、3次15~16kHzで固有の周波数を有するのに対し、軸受13が損傷されると、2kHz付近で固有の周波数を有するため、これを用いて軸受13の損傷を検知する。
【0058】
また、正常エンジンでは、運転中に減速が行なわれると、エンジンの速度が低くなりながら前記軸受13に加えられる荷重が低くなるが、軸受が損傷されたエンジンでは、軸受の損傷により遊びが大きくなり、前記エンジン10で検知される振動が大きくなる。これは、ノッキングによる振動とは異なる特性を示すため、このような原理を用いて、軸受13の損傷を検知する。
【0059】
診断開始条件満足判断ステップ(S110)では、前記エンジン10または車両が、前記軸受13の損傷を検知するための状態であるかを判断する。本発明では、前記エンジン10の作動中に、前記エンジン10から発生する振動を用いて前記軸受13の損傷を検知するため、前記エンジン10が十分にウォームアップ(warm up)されて前記エンジン10の振動信号が安定化しているかを判断した後、前記軸受13の診断を開始する。前記エンジン10がウォームアップされる前には、各種機具類の摩擦によるノイズが発生し、正確な軸受13の損傷判断が不可能であるため、前記エンジン10がウォームアップされたかを判断し、前記エンジンがウォームアップされた状態で軸受13の損傷を診断する。一方、前記エンジン10の振動を用いて前記エンジン10の状態を診断するため、本発明では、冷却水の温度の代りに、エンジンオイルの温度から前記ウォームアップ有無を判断する。前記エンジンオイルの温度(T_oil)が、予め設定された診断開始温度(T_THD)より高いと(T_oil>T_THD)、前記軸受13の損傷の診断を開始することができる。ここで、前記診断開始温度(T_THD)は、80℃と設定されることができる。
【0060】
信号分離ステップ(S120)では、前記エンジン10に設けられた振動検知手段により測定された信号を分離する。前記振動検知手段により測定された信号には、前記エンジン10のノッキングによる振動と、前記軸受13の損傷による振動などが重なっている状態であるため、前記振動検知手段により測定された振動信号から、軸受による振動信号を分離する。前記振動検知手段としてノッキングセンサが使用可能であり、以下では、前記振動検知手段の一例としてノッキングセンサを挙げて説明する。
【0061】
前記ノッキングセンサ15により測定された振動信号から、前記軸受13による振動信号を分離する過程は、前記ノッキングセンサ15により測定した振動信号を高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)し、前記軸受13の振動信号による周波数帯域(2kHz近所)を分離する。それ以外の周波数帯域、すなわち、1次5~6kHz、2次11~12kHz、3次15~16kHzはノッキングの検知に用いられる。軸受の損傷時に正常なエンジン10とは異なる信号が出力される周波数帯域(2kHz近所)を分離し、それを前記軸受13の損傷の検知に用いる。
【0062】
信号処理ステップ(S130)では、前記信号分離ステップ(S120)で分離された軸受信号からノイズを除去し定量化させる。
【0063】
前記信号処理ステップ(S130)では、分離された軸受の振動信号から、信号処理フィルタを用いて所定の固有周波数の信号を抽出し、それを増幅、積分して、定量化された軸受信号として処理する。
【0064】
前記軸受13の振動信号を信号処理フィルタに通過させ、固有周波数に隣接した帯域の信号のみを残し、それ以外の帯域の信号を除去する。前記軸受13の損傷により前記エンジン10で振動が発生すると、ノッキング時とは異なって、2kHz付近で異常信号が発生する(
図6a参照)。したがって、前記信号処理ステップ(S130)では、前記2kHz付近、例えば、1.5kHz~2.5kHzの領域内で選択された周波数を中心周波数とし、前記中心周波数前後の所定の範囲の隣接した帯域の信号のみを残す。例えば、2kHzを中心周波数とした場合には、2kHz±0.435kHzとし、1.565kHz~2.435kHzの信号のみを残し、それ以外(1.565kHz未満、2.435kHz超過)の信号は除去する。前記中心周波数および前記中心周波数前後の隣接した帯域の大きさは、状況に応じて選択可能である。
【0065】
その後、増幅、積分過程などを経て定量化することで、前記軸受13の損傷を検知するための軸受信号として処理する。
【0066】
このように、前記軸受の信号を、ノイズが除去された定量化状態となるように処理した後、それを軸受の損傷基準と比較する。
【0067】
いうまでもなく、前記信号分離ステップ(S120)で用いられない周波数帯域である1次5~6kHz、2次11~12kHz、3次15~16kHzを用いてノッキングを検知するプロセスは、本発明と関わらず別に行われる。
【0068】
前記信号分離ステップ(S120)および前記信号処理ステップ(S130)は、前記診断開始条件満足判断ステップ(S110)の後に、前記エンジン10が作動中であれば継続して行われる。
【0069】
エンジン状態判断ステップ(S140)では、前記エンジン10の状態が軸受13の損傷を検知するための状態であるかを判断する。すなわち、前記エンジン10の運転状態を検知しながら、前記軸受13の破損を判断するための運転条件であるエンジン状態特定条件に該当するかを判断する。すなわち、前記エンジン状態特定条件は、様々なエンジンの運転状態のうち、前記軸受13の破損の検知に適した前記エンジンの特定運転条件を意味する。
【0070】
前記軸受13の損傷有無は、主に前記エンジン10の減速時にモニタリングすることができるため、前記エンジン10が減速中の状態であるかを検知する。
【0071】
前記エンジン10が減速中であると、前記コネクティングロッド11を介して前記軸受13に加えられる負荷が急変するが、前記軸受13が損傷された状態であると、前記軸受13から分別可能な振動信号が発生する。したがって、それを用いて前記軸受13の損傷を検知する。
【0072】
特に、前記エンジン状態判断ステップ(S140)では、前記エンジン10が減速中であると、予め設定された条件であるかを判断することが好ましい。したがって、前記エンジン状態特定条件は、前記エンジン10の状態が、エンジンの回転数が減少し始める減速初期状態、エンジンの回転数が減少しながらアイドルエンジン回転数に変わる、減速中のアイドルに移行する状態、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する状態の何れか1つであるかを検知する。軸受が破損されていないと、前記エンジン10が減速初期状態、エンジンの減速中のアイドルへの移行状態、減速中のフューエルカット状態であっても、前記軸受13に作用する負荷が小さいため、軸受13から発生する信号が大きくない。しかし、前記軸受13が損傷された状態であると、前記軸受13から発生した振動信号が予め設定された値を超える分別力を有することになるため、本発明では、それを活用して前記軸受13の損傷を判断する。
【0073】
すなわち、前記クランクピン12bと前記コネクティングロッド11との間に設けられた軸受13が破損される前記軸受13の破損による振動信号と、前記クランク軸の回転による振動信号は、前記検知されたエンジンの運転状態によって互いに区別される。これを用いて、前記クランクピン12bと前記コネクティングロッド11との間に設けられた軸受13の破損を検知する。
【0074】
車両減速条件で軸受13の損傷を検知する理由は、次のとおりである。
【0075】
車両加速中に減速すると、エンジンの回転数は、中高速条件から徐々に減少する。この際、エンジンの出力が不要であるため燃焼が起こらず、吸入空気量も減少する。吸入空気量の減少に伴い、前記ピストン14が圧縮すべき空気が減少するため、燃焼室内の圧力上昇が小さくなる。燃焼室内の圧力が小さくなったが、相対的にエンジンが高速条件であるため、ピストンがTDCに上がりながら有している慣性力によってピストンがシリンダーヘッドと衝突する可能性が高くなる。このような理由から、上述のように、軸受の損傷による騒音が発生するため、減速条件を用いて軸受の損傷を検知する。
【0076】
また、前記エンジン状態判断ステップ(S140)では、前記エンジン10の状態が、アイドル運転状態、部分負荷運転状態の何れか1つであるかを検知してもよい。
【0077】
前記エンジン状態判断ステップ(S140)では、前記エンジン10から前記制御部20に入力されるrpm信号から、前記エンジン10の状態を判断することができる。
【0078】
前記信号分離ステップ(S120)、前記信号処理ステップ(S130)、前記エンジン状態判断ステップ(S140)は、前記エンジン状態判断ステップ(S140)が先に行われ、その後に前記信号分離ステップ(S120)、前記信号処理ステップ(S130)が行われてもよい。
【0079】
前記エンジン10の状態が、減速初期状態、減速中のアイドルに移行する状態、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する状態の何れか1つであると、モニタリングカウンタを増加させるモニタリングカウンタ増加ステップ(S150)が行われる。
【0080】
前記エンジン10が、減速初期であるか、減速中のアイドルに移行するか、または減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行すると、モニタリングカウンタを現在のモニタリングカウンタより増加させる(現在のモニタリングカウンタ→現在のモニタリングカウンタ+1)。
【0081】
一方、本発明で用いるカウンタは、次のとおり定義する。
【0082】
モニタリングカウンタは、運転中の前記エンジンが、上述のそれぞれのエンジン状態特定条件に移行する度に増加するカウンタである。
【0083】
損傷判断累積モニタリングカウンタは、それぞれのエンジン状態特定条件毎に前記モニタリングカウンタを1つずつ累積し、前記軸受13の損傷を確定する基準であって、前記モニタリングカウンタを1つずつ累積した値のうち最大値を意味する。
【0084】
損傷カウンタは、前記軸受の信号が前記軸受の損傷基準以上である度に増加するカウンタである。
【0085】
損傷確定累積損傷カウンタは、それぞれのエンジン状態特定条件毎に前記損傷カウンタを1つずつ累積し、前記軸受の損傷を確定する基準であって、前記損傷カウンタを1つずつ累積した値のうち最大値を意味する。
【0086】
前記モニタリングカウンタ増加ステップ(S150)では、同一のエンジン状態でのみ、前記モニタリングカウンタを増加させる。例えば、減速中のアイドルに移行する状態に対する現在のモニタリングカウンタが「1」である状態で、さらに減速中のアイドルに移行すると前記エンジンの状態が検知されると、減速中のアイドルに移行する状態に対するモニタリングカウンタを「2」に増加させる。新たに減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する状態が検知されると、減速中のアイドルに移行する状態に対するモニタリングカウンタはそのままとし、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する状態に対するモニタリングカウンタを増加させる(+1)。
【0087】
これは、それ以外の状態、すなわち、減速初期であるか、減速中のアイドルに移行するか、または減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する状態でも同様であり、前記エンジン10の状態が同一である状態でのみ前記モニタリングカウンタを増加させ、互いに異なるエンジン状態では、独立してモニタリングカウンタを管理する。
【0088】
このように、前記エンジン状態特定条件毎にそれぞれ前記モニタリングカウンタを増加しながら、それぞれのエンジンのエンジン状態特定条件毎に、軸受の振動信号が予め設定された軸受の損傷基準より高いかを比較する。
【0089】
軸受損傷判断ステップ(S160)では、軸受の信号を予め設定された軸受の損傷基準と比較する。
【0090】
前記信号処理ステップ(S130)で変換された軸受13の信号を、前記軸受13が損傷されたと判断する軸受の損傷基準と比較し、前記軸受の信号が前記軸受の損傷基準以上であるかを判断する。
【0091】
前記軸受の損傷基準は、前記エンジン10の運転状態によって異なるように設定されることが好ましい。また、前記減速初期時における軸受の損傷基準に比べて、減速中のアイドルへの移行状態である際に、前記軸受の損傷基準が低く設定されることができる。
【0092】
損傷カウンタ増加ステップ(S170)では、前記軸受損傷判断ステップ(S160)で前記軸受の信号が前記軸受の損傷基準以上であると、前記損傷カウンタを現在の損傷カウンタより増加させる(現在の損傷カウンタ→現在の損傷カウンタ+1)。
【0093】
もし、現在の損傷カウンタが「0」である状態で、前記軸受の信号が前記軸受の損傷基準以上であると、前記損傷カウンタを「1」に増加させる。
【0094】
一方、前記損傷カウンタ増加ステップ(S170)において、前記損傷カウンタを増加させる基準は、検知された前記エンジンの運転状態によって、すなわち、前記エンジン状態特定条件毎に異なるように設定されることができる。前記エンジンの運転状態が減速初期である際に前記損傷カウンタを増加させる基準と、前記エンジンの運転状態が減速中のアイドルへの移行である際に前記損傷カウンタを増加させる基準と、前記エンジンの運転状態が減速中のフューエルカット状態からアイドルへの移行である際に前記損傷カウンタを増加させる基準が、異なるように設定されることができる。
【0095】
前記軸受損傷確定ステップ(S180)では、前記損傷カウンタを用いて前記軸受13の損傷を確定する。
【0096】
前記軸受損傷確定ステップ(S180)では、軸受の損傷を確定するために、前記モニタリングカウンタを増加させて累積した値(累積モニタリングカウンタ)が、予め設定された損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、前記損傷カウンタを累積した値(累積損傷カウンタ)が、前記軸受の損傷を確定するために予め設定された損傷確定累積損傷カウンタ以上であると、前記軸受13の損傷を確定することができる。前記損傷確定累積損傷カウンタは、前記軸受13の損傷を判断するために累積される前記損傷カウンタのうち最大値を意味し、前記増加されたモニタリングカウンタが損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で、増加された前記損傷カウンタが前記損傷確定累積損傷カウンタ以上であると、前記軸受13の損傷を確定する。
【0097】
ここで、増加されたモニタリングカウンタが損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件とは、増加されたモニタリングカウンタが前記損傷判断累積モニタリングカウンタに達するために増加している場合、増加されたモニタリングカウンタが前記損傷判断累積モニタリングカウンタに達した場合である。そして、増加されたモニタリングカウンタが前記損傷判断累積モニタリングカウンタに達した後、最も古いモニタリングカウンタを削除すると同時に、新しいモニタリングカウンタを追加する場合も含まれる。
【0098】
これにより、前記モニタリングカウンタを増加させて累積した値が前記損傷判断累積モニタリングカウンタに達する前であっても、損傷カウンタの累積値が前記損傷確定累積損傷カウンタに達すると、損傷であると確定する。また、前記モニタリングカウンタの累積値が前記損傷判断累積モニタリングカウンタに達した場合にも同様である。尚、モニタリングカウンタの累積値が前記損傷判断累積モニタリングカウンタに達した後には、最も古いモニタリングカウンタを削除し、新規モニタリングカウンタを算入して、前記損傷判断累積モニタリングカウンタを一定に維持しながら、損傷カウンタの累積値と前記損傷確定累積損傷カウンタを比較して損傷を確定する。
【0099】
増加されたモニタリングカウンタが損傷判断累積モニタリングカウンタになるか維持される条件で、前記損傷確定累積損傷カウンタ以上に前記軸受が損傷されたと検知されるということは、前記軸受13が損傷され、頻繁に軸受の損傷に関連する信号が出力されるということを意味する。
【0100】
前記軸受損傷確定ステップ(S180)の一例として、前記損傷判断累積モニタリングカウンタを「5」と設定し、前記損傷確定累積損傷カウンタを「2」と設定したときに、前記損傷判断累積モニタリングカウンタが5以内である状態で、前記損傷確定累積損傷カウンタが2以上である場合、前記軸受13が損傷されたと確定することができる。
【0101】
ここで、前記軸受の損傷を確定するためにそれぞれ設定される前記損傷判断累積モニタリングカウンタと前記損傷確定累積損傷カウンタは、必要に応じて異なるように設定されることができる。
【0102】
特に、前記エンジン状態特定条件によって、前記損傷判断累積モニタリングカウンタと前記損傷確定累積損傷カウンタを異なるように設定することができる。例えば、検知された前記エンジンの運転状態が減速初期である際に、前記損傷判断累積モニタリングカウンタと前記損傷確定累積損傷カウンタをそれぞれ「5」および「2」と設定し、前記軸受13の破損を確定することができる。一方、前記エンジン状態特定条件が減速中のアイドルへの移行、または減速中のフューエルカット状態からアイドルへの移行である際には、それと異なって、すなわち、前記損傷判断累積モニタリングカウンタと前記損傷確定累積損傷カウンタをそれぞれ「5」および「2」ではない他の例に設定することができる。
【0103】
尚、前記損傷判断累積モニタリングカウンタに達すると、最も古いモニタリングカウンタを削除すると同時に、新しいモニタリングカウンタを追加することで、累積されたモニタリングカウンタを、最大値である前記損傷判断累積モニタリングカウンタに一定に維持して前記軸受13の損傷を検知することもできる。すなわち、累積されたモニタリングカウンタが、前記損傷判断累積モニタリングカウンタとして設定された「5」に達すると、一番目のモニタリングカウンタは削除し、新しいモニタリングカウンタを追加する方式により前記損傷判断累積モニタリングカウンタ(例えば、5)を維持しながら、前記損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか等しい条件で前記損傷確定累積損傷カウンタをカウントし、軸受の損傷を判断することができる。
【0104】
前記軸受損傷確定ステップ(S180)において、軸受の損傷を確定するかを決定する条件として、エンジン状態特定条件毎に1つずつ増加されたモニタリングカウンタが損傷判断累積モニタリングカウンタと等しい際(第1条件)に、すなわち、累積されたモニタリングカウンタのうち最大値が損傷判断累積モニタリングカウンタと等しい際に、軸受損傷確定ステップ(S180)が行われる。
【0105】
また、前記軸受損傷確定ステップ(S180)では、前記損傷カウンタを累積させた値が前記損傷確定累積損傷カウンタに達したか(第2条件)を判断する。
【0106】
すなわち、前記軸受損傷確定ステップ(S180)では、前記モニタリングカウンタを累積した値が前記損傷判断累積モニタリングカウンタと等しいとともに、前記損傷カウンタを累積した値が前記損傷確定累積損傷カウンタに達すると、前記軸受が損傷されたと確定する。
【0107】
上記の2つの条件の何れか1つでも満たさないと(前記モニタリングカウンタを累積した値が前記損傷判断累積モニタリングカウンタより小さい場合、前記損傷カウンタを累積した値が前記損傷確定累積損傷カウンタより小さい場合)、前記エンジン状態特定条件への移行有無を判断するエンジン状態判断ステップ(S140)の前に戻る。
【0108】
したがって、前記軸受損傷確定ステップ(S180)では、好ましくは、前記第1条件および第2条件を満たす場合に行われることが好ましい。
【0109】
前記軸受損傷確定ステップ(S180)では、損傷カウンタを累積した値が前記損傷確定累積損傷カウンタに既に達した状態であると、前記軸受の損傷が確かになるため、前記累積されたモニタリングカウンタが前記損傷判断累積モニタリングカウンタより小さくても、前記軸受の損傷を確定することができる。
【0110】
すなわち、前記軸受損傷確定ステップ(S180)において、前記累積されたモニタリングカウンタが前記損傷判断累積モニタリングカウンタより小さくても、前記損傷カウンタを累積した値が前記損傷確定累積損傷カウンタに達すると、前記軸受の損傷を確定することができる。
【0111】
その理由は、今後モニタリングカウンタが累積されて前記損傷判断累積モニタリングカウンタと等しくなる際に、前記第2条件は既に満たされていて、前記軸受の損傷確定が確かであるためである。
【0112】
例えば、同一のエンジン状態に対して前記損傷カウンタを累積し、前記軸受の損傷を確定することができる。前記エンジンがアイドル作動する場合、前記損傷判断累積モニタリングカウンタにかかわらず、前記損傷確定累積損傷カウンタが3以上になると前記軸受の損傷を確定することができる。
【0113】
一方、前記軸受損傷確定ステップ(S180)で前記軸受13が損傷されていないと判断されると、前記モニタリングカウンタ増加ステップ(S150)の前に戻り、前記軸受13の損傷を持続してモニタリングする。累積されたモニタリングカウンタが前記軸受の損傷判断累積モニタリングカウンタより小さいか、累積された損傷カウンタが前記損傷確定累積損傷カウンタより小さい場合が、これに該当し得る。
【0114】
リンプホームモードステップ(S191)は、前記軸受13が損傷されたと確定されると行われる。
【0115】
前記リンプホームモードステップ(S191)では、前記軸受13の損傷がそれ以上進行されないように、前記エンジン10の回転数(rpm)を、予め設定された安全最高エンジン回転数以下に制限する。前記エンジン10の最大回転数が制限されることにより、前記軸受13の損傷が進行されることを防止することができる。
【0116】
また、前記リンプホームモードステップ(S191)では、rpmが制限された状態で適切な変速が可能であるように、アクセルペダルの値も所定の値に制限する。
【0117】
尚、前記エンジン10の始動が保持されるように、予め設定された始動維持最低エンジン回転数で前記エンジン10が運転されるようにする。
【0118】
このように、前記軸受の損傷が発生した場合、リンプホームモードステップ(S191)によって始動が保持されている状態で、出力が制限された状態で前記車両が走行されるようにすることで、前記車両が整備可能な場所まで移動できるようにする。
【0119】
一方、運転者が軸受の損傷を認知するように警告手段作動ステップ(S192)も行われる。前記軸受損傷確定ステップ(S180)で前記軸受13が損傷されたと確定されると、乗員がそれを認知するように、前記車両に設けられた警告手段を作動させる。例えば、前記車両の室内の一側または前記計器盤には警告灯が設けられているが、前記警告灯31を点灯させることで、前記乗員が前記軸受13の損傷を認知するようにする。一方、前記警告手段作動ステップ(S192)では、前記警告灯31を点灯させることだけでなく、警告音、振動などを用いて乗員に軸受の損傷を警報することで、焼きつきに繋がることを避けることができる。
【0120】
図12には、軸受の損傷確定前後の車速、アクセルペダル値、エンジン回転数、センサ信号の状態が示されている。軸受が損傷されたエンジンは、前記軸受13の損傷を検知する前には、前記軸受13の損傷により、前記ノッキングセンサ15により測定されて処理された軸受信号が大きかった(
図12のA部分参照)。しかし、軸受13の損傷を検知し、前記リンプホームモードステップ(S191)および前記警告手段作動ステップ(S192)を経た後には、前記軸受13が損傷されたとしても、エンジン10の回転数とアクセルペダル値が制限された状態であって、前記ノッキングセンサ15により測定される軸受信号は、正常な軸受が適用されたレベルに低くなり(
図12のB部分参照)、前記軸受13の損傷が進行されることを抑制することができる。この際、運転者は、警告灯31などのような警告手段の作動によって軸受の損傷を認知することになるため、前記車両を自動車整備工場に移動させ、損傷された軸受13の整備を行うことができる。
【0121】
一方、
図8a~
図11cには、前記エンジン10の状態毎に、前記コネクティングロッド11に作用する負荷と、前記コネクティングロッド軸受13の正常時と損傷時の状態のグラフが示されている。前記エンジン10の状態によって、前記エンジン状態判断ステップ(S140)から前記軸受損傷確定ステップ(S180)までの実施例を説明すると、次のとおりである。
【0122】
先ず、
図8a、
図8b、および
図8cには、前記エンジン10が減速初期である際に前記軸受13に作用する負荷の変動と、前記軸受13が正常な場合と損傷された場合において損傷を判断する過程が示されている。
【0123】
前記軸受13が正常な場合には、車両が走行すると、前記エンジン10は、フューエルカットを伴う減速(PUC)、フューエルカットを伴わない減速(PU)、部分負荷(PL)、アイドル(IS)状態などを経ながら作動する。前記軸受13が損傷されていない状態であると(
図8b参照)、前記エンジン状態判断ステップ(S140)では、前記エンジン10が減速し始める状態(PU)であると検知する度に、前記モニタリングカウンタも1ずつ増加する。これと同時に、減速開始時点では、軸受の負荷の変化により軸受信号も増加するが、その大きさが軸受の損傷基準に達しないため、損傷カウンタは増加しない。
【0124】
一方、軸受が損傷された状態(
図8c参照)では、前記エンジン10が減速状態(PU)に移行する度に(S140)、モニタリングカウンタも1ずつ増加する(S150)。これと同時に、軸受の負荷の変化により軸受信号が増加された状態で、その大きさを前記軸受損傷基準と比較すると(S160)、軸受信号が前記軸受の損傷基準を超える。前記軸受信号が前記軸受の損傷基準を超える度に前記損傷カウンタを増加させ(S170)、前記損傷カウンタを累積する。軸受が正常である状態に比べて、前記軸受が損傷された状態では、車両が減速を始め、軸受の負荷が急激に減少する時点で、分別可能な騒音、振動が発生するため、それを検知し、検知された回数を累積する。
【0125】
図8cでは、モニタリングカウンタと損傷カウンタを累積し、前記モニタリングカウンタが5に累積される間に(損傷判断累積モニタリングカウンタ=5)、損傷カウンタが3に累積され(累積損傷カウンタ=3)、予め設定された基準(損傷確定累積損傷カウンタ)以上であるため、前記軸受13が損傷されたと確定する(S180)。
【0126】
このように減速初期に軸受の損傷が確定されると(S180)、前記リンプホームモードステップ(S191)、前記警告手段作動ステップ(S192)の何れか1つ、または前記リンプホームモードステップ(S191)と前記警告手段作動ステップ(S192)の両方が行われる。
【0127】
さらに、上述の過程は、フューエルカットで、且つ減速初期状態でも、同一の方法により行われることができる。
【0128】
図9a、
図9b、及び
図9cには、減速中のアイドルに移行する間に、前記コネクティングロッド11に作用する負荷の変動と、前記軸受13が正常である場合と損傷された場合において損傷を判断する過程が示されている。前記エンジン10が減速中のアイドルに移行する間には、エンジンの回転数(rpm)がアイドル時のrpmに変わるために負荷の変動が発生するが、軸受が損傷された状態では、正常な場合に比べて負荷の変動時点で相対的に大きい振動が発生するため、それを検知して軸受の損傷を判断する。
【0129】
前記軸受13が正常である場合には、車両が走行すると、前記エンジン10は、フューエルカットを伴う減速(PUC)、フューエルカットを伴わない減速(PU)、部分負荷(PL)、アイドル(IS)状態などを経ながら作動する。前記軸受13が損傷されていないと(
図9b参照)、前記エンジン状態判断ステップ(S140)で前記エンジン10が減速中のアイドルに移行する状態(PU->IS)を検知する度に、前記モニタリングカウンタも1ずつ増加する。これと同時に、減速中のアイドルに移行する時(PU->IS)に、軸受の負荷の変化により軸受信号も増加するが、その大きさが軸受の損傷基準に達していないため、損傷カウンタは増加しない。
【0130】
しかし、軸受13が損傷された状態で前記エンジン10が運転されながら、減速中のアイドルに移行する状態(PU->IS)であると検知されると(S140)、前記モニタリングカウンタも1ずつ増加する(S150)。もし、軸受13が損傷された状態では、前記エンジン10が減速中のアイドルに移行すると(PU->IS)、前記軸受13の損傷によって遊びが大きくなり、前記軸受13が設けられた部位から発生する振動が正常時より大きいため、前記軸受の信号が前記軸受の損傷基準を超えると、その度に損傷カウンタを増加させて(S170)、それを累積する。
【0131】
累積されたモニタリングカウンタが軸受の損傷確定のための損傷判断累積モニタリングカウンタである「5」に累積される間に、累積された損傷カウンタが、予め設定された損傷確定累積損傷カウンタである「2」を超えると、前記軸受13が損傷されたと確定する(S180)。
図9cにおいて、前記損傷カウンタの累積量(累積損傷カウンタ)が「3」になる時点ではない、「4」になる時点で軸受の損傷と確定する理由は、前記損傷カウンタの累積量が4になる時点で、累積モニタリングカウンタが損傷判断累積モニタリングカウンタとして設定された5になるためである。
【0132】
このように、減速中のアイドルに移行する間(PU->IS)に軸受の損傷を検知し、前記軸受13の損傷が確定されると(S180)、同様に、前記リンプホームモードステップ(S191)、前記警告手段作動ステップ(S192)の何れか1つ、または前記リンプホームモードステップ(S191)と前記警告手段作動ステップ(S192)の両方が行われる。
【0133】
さらに、上述の過程は、フューエルカットで、且つ減速初期状態でも、同一の方法により行われることができる。
【0134】
一方、
図10a、
図10b、及び
図10cには、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する間に、コネクティングロッド11に作用する負荷の変動と、前記軸受13が正常である場合と損傷された場合が示されている。前記エンジン10が減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行すると、減速中のフューエルカット状態からアイドルへrpmを変更するために、前記エンジン10は燃焼を再び開始し、負荷の変動が発生する。この際、軸受が損傷された場合には、正常な場合に比べて分別可能な振動が発生するため、それを用いて前記軸受13の損傷を検知する。
【0135】
前記軸受13が正常である場合には、車両が走行すると、前記エンジン10は、フューエルカットを伴う減速(PUC)、フューエルカットを伴わない減速(PU)、部分負荷(PL)、アイドル(IS)状態などを経ながら作動する。前記軸受13が損傷されていないと(
図10b参照)、前記エンジン状態判断ステップ(S140)で前記エンジン10が減速中のフューエルカットからアイドルに移行する状態(PUC->IS)であると検知する度に、前記モニタリングカウンタも1ずつ増加する。これと同時に、減速中のフューエルカットからアイドルに移行する時(PUC->IS)に、軸受の負荷の変化により軸受信号が変わる。前記軸受信号の大きさが上述の
図8bおよび
図9bで説明した実施例よりは大きいが、
図10bでもその大きさが軸受の損傷基準に達していないため、損傷カウンタは増加せず、持続的に前記軸受の状態をモニタリングする。
【0136】
しかし、軸受13が損傷された状態で前記エンジン10が運転されながら、減速中のフューエルカットからアイドルに移行する状態(PUC->IS)であると検知されると(S140)、前記モニタリングカウンタも1ずつ増加する(S150)。前記軸受13が損傷された状態では、前記エンジン10が減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行すると(PUC->IS)、前記軸受13の損傷によって遊びが大きくなり、前記軸受13が設けられた部位から発生する振動が正常時より大きく検知される。この際、一部の軸受信号が前記軸受の損傷基準を超え、残りの一部は前記軸受の損傷基準を超えない。前記エンジン10が減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する度に(PUC->IS、S140)、モニタリングカウンタを増加させながら(S150)、軸受信号が軸受の損傷基準を超える度に損傷カウンタを増加させる(S160)。
【0137】
累積されたモニタリングカウンタが損傷判断累積モニタリングカウンタ(「5」)である間に、累積損傷カウンタが予め設定された基準(損傷確定累積損傷カウンタ=「2」)以上であると、前記軸受13が損傷されたと確定する(S180)。
【0138】
このように、減速中のフューエルカット状態からアイドルに移行する(PUC->IS)度に、軸受の損傷を検知して前記軸受13の損傷が確定されると(S180)、同様に、前記リンプホームモードステップ(S191)、前記警告手段作動ステップ(S192)の何れか1つまたは両方が行われる。
【0139】
図11a~
図11cには、前記軸受から発生した信号から、前記エンジン10の運転状態によって軸受の損傷を判断するための軸受の損傷基準の例が示されている。11aは、エンジンが減速初期である状態(PU)、11bは、エンジンが減速中のアイドルに移行する状態(PU->IS)、11cは、エンジンが減速中のフューエルカットからアイドルに移行する状態(PUC->IS)で、軸受の損傷基準を設定する例示である。
【0140】
それぞれの図を参照すると、正常な場合には、軸受の損傷基準(threshold)以上で振動信号の分布が比較的集中されているのに対し、軸受が損傷された状態では、前記軸受の損傷基準を超える場合が多く、その分布も分散されている。
【0141】
また、前記エンジン10の運転状態によって、前記軸受の損傷基準も異なるように設定される。これは、それぞれのエンジンの運転状態によって、前記ノッキングセンサ15により測定される軸受信号のレベルが異なるため、それぞれのエンジン運転状態によって、好適な軸受の損傷基準を異ならせる。前記
図11a~
図11cに、それぞれのエンジンの運転状態において、軸受の損傷基準の一例が記載されており、前記軸受の損傷基準は、適切に他の値に変更されることができる。
【符号の説明】
【0142】
10:エンジン
11:コネクティングロッド
12:クランク軸
12a:クランクジャーナル
12b:クランクピン
13:軸受
14:ピストン
15:ノッキングセンサ
16:オイル温センサ
20:制御部
21:エンジン制御部
22:信号処理部
23:軸受損傷判断部
31:警告灯
S110:診断開始条件満足判断ステップ
S120:信号分離ステップ
S130:信号処理ステップ
S140:エンジン状態判断ステップ
S150:モニタリングカウンタ増加ステップ
S160:軸受損傷判断ステップ
S170:損傷カウンタ増加ステップ
S180:軸受損傷確定ステップ
S191:リンプホームモードステップ
S192:警告手段作動ステップ