(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ポリシラザン及び炭素繊維強化ポリマーの積層板
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20240405BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240405BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20240405BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240405BHJP
B64D 33/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
B32B5/02 B
B32B27/00 101
B32B27/04 Z
C08J7/04 Z
B64D33/00 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019194221
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-10-24
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キンレン, パトリック ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】グローヴ, ランディー ジェー.
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-508637(JP,A)
【文献】特表2015-506834(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0111338(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0104726(US,A1)
【文献】特開2013-111763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
F02K 1/82
B64D 33/00
C08J 7/04-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の側面(110)と、前記第1の側面の反対側の第2の側面(120)とを有する炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシート(102)、及び前記CFRPのシート(102)の前記第1の側面(110)と前記第2の側面(120)のうちの一方又は両方を覆うポリシラザンの層(130)を備え
、
前記CFRPのシート(102)の前記第1の側面(110)が孔(170)を含む、積層板(100)。
【請求項2】
前記CFRPのシート(102)の前記第1の側面(110)と前記第2の側面(120)のうちの少なくとも一方が金属と電気的に連通する、請求項
1に記載の積層板。
【請求項3】
前記シート(102)の前記第1の側面(110)と前記第2の側面(120)のうちの少なくとも一方が、金属のセル状コア(160)又は金属合金のセル状コア(160)と電気的に連通する、請求項
1に記載の積層板(100)。
【請求項4】
前記孔(170)が、約0.75(0.03インチ)から約1.5mm(0.06インチ)の直径を有する、請求項
3に記載の積層板(100)。
【請求項5】
前記孔の側壁(172)が、ポリシラザン(174)でコーティングされている、請求項
4に記載の積層板(100)。
【請求項6】
前記ポリシラザンの層(174)が約1-10μmの厚さを有する、請求項
5に記載の積層板(100)。
【請求項7】
前記孔(170)が、前記シート(102)の前記第1の側面(110)の約5-20%を覆う、請求項
6に記載の積層板(100)。
【請求項8】
前記ポリシラザンが、無機ポリシラザン、有機ポリシラザン、又はこれらの混合物である、請求項
7に記載の積層板(100)。
【請求項9】
前記CFRPのシート(102)が露出した炭素繊維を含む、請求項
8に記載の積層板(100)。
【請求項10】
前記金属のセル状コア(160)がアルミニウムを含む、請求項
9に記載の積層板(100)。
【請求項11】
請求項1に記載の積層板(100)を備えた航空機エンジンのスラストリバーサ(205)。
【請求項12】
炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシート(102)に電気的に接続された金属構造の酸化を抑制するための方法であって、前記CFRPのシート(102)が第1の側面(1
10)と、前記金属構造に電気的に連通する第2の側面(120)とを有し、本方法が、液体ポリシラザン組成物を前記CFRPのシート(102)の少なくとも前記第1の側面(110)に適用すること、及び前記
液体ポリシラザン組成物を硬化させることを含む、方法。
【請求項13】
前記液体ポリシラザン組成物が、無機ポリシラザン、有機ポリシラザン、又はこれらの混合物を含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記液体ポリシラザン組成物が、ポリシラザンと、前記ポリシラザンに対して不活性な溶媒との溶液を含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項15】
前記溶媒が、炭化水素、C
2-C
6カルボン酸のC
1-C
6アルキルエステル、及びこれらの混合物から選択される、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリシラザンが、前記液体ポリシラザン組成物中に前記組成物の約10-50重量%の濃度で存在する、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリシラザンが、前記液体ポリシラザン組成物中に前記組成物の約10-20重量%の濃度で存在する、請求項
15に記載の方法。
【請求項18】
前記液体ポリシラザン
組成物が、前記第1の側面(110)に、前記ポリシラザンの硬化時に約1-10μmの厚さを有するポリシラザンの層(130)を生成する厚さで適用される、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
前記液体ポリシラザン
組成物が、前記第1の側面(110)に、約5-15mL/m
2のレートで適用される、請求項
18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、炭素繊維強化ポリマーのシートとポリシラザン層とを備えた積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]繊維強化ポリマー(FRP)は、とりわけ、航空宇宙、自動車、船舶、スポーツ用品、及び土木/構造工学の用途に使用される構造要素及び部品を製造するために広く使用されている。FRPは、高い比強度を有する強固で軽量の材料である。FRPは、典型的には、繊維と未硬化の結合ポリマーとを混合し、次いで結合ポリマーを硬化させることによって形成される。特定の種類のFRPは炭素繊維強化ポリマー(CFRP)である。CFRPは、ますます一般的となっており、多数の異なる用途を有している。
【0003】
[0003]CFRPは、金属構成要素と組み合わせた様々な装置において使用される。例えば、航空機エンジンのスラストリバーサの内壁には、典型的にはハニカム構成に、セル状コアと、このコアに接続された外板とが用いられることが多い。スラストリバーサ壁部のCFRP外板には通常、スラストリバーサ壁部に隣接する空洞を通る気流により生成されるノイズを低減するために穴が開けられている。
【0004】
[0004]CFRPはまた、様々なスポーツ用品を作製するために、セル状コアと組み合わせて使用される。そのような用品の例には、自転車のディスクホイール、スキー、及びスノーボードが含まれる。
【0005】
[0005]CFRPと金属構成要素とが互いから完全に電気的に単離されない限り、CFRPと金属構成要素の組み合わせは、適切な条件(ガルバニック結合が可能な条件)下で、金属からCFRPへの電子の流れ、即ち、ガルバニック腐食、又は換言すれば金属の酸化を生じさせるであろう。
【0006】
[0006]結果として、金属構成要素、例えば、航空機エンジンのスラストリバーサに使用されるアルミニウム製ハニカムコア材料が、CFRPに電気接続されるか又はガルバニック結合される装置を、水分により引き起こされる酸化から保護する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
[0007]本発明は、金属構成要素がCFRPと電気的又はガルバニック連通する装置における金属構成要素のガルバニック腐食の問題に解決法を提供する。この解決法は、ポリシラザン又はその混合物を、CFRP及び/又は金属構成要素と、装置を取り巻く環境内の酸素又は水分との間のバリヤ材料として用いることを含む。
【0008】
[0008]したがって、本発明は、水及び酸素がCFRP内部の炭素繊維と接触することを防ぐために、ポリシラザンのコーティングをCFRP上に適用することを含む。結果として、酸化/還元反応が、CFRPの中又は表面において酸素を遮断すること又は酸素の還元を実質的に低減することにより防止又は抑制され、即ち、CFRPはカソードとして働かず、金属構成要素はアノードとして働かない。したがって、金属構成要素は、アノードとして機能せず、電子を失わない。要するに、金属構成要素は酸化されず、腐食しない。
【0009】
[0009]代替的に、ポリシラザン又はその混合物が金属構成要素に適用され、水及び電解質が金属構成要素とCFRPとの間に電気的又はガルバニック接続を生成することを抑制されることにより、CFRPとのガルバニック連通が防止される。
【0010】
[0010]一態様において、本発明は、ポリシラザンの層でコーティングした炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートを含む積層板を提供する。
【0011】
[0011]別の態様では、本発明は、第1の側面と、第1の側面の反対側の第2の側面とを有する炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートを備え、ポリシラザンの層がCFRPのシートの第1の側面を覆う積層板を提供する。
【0012】
[0012]別の態様では、本発明は、第1の側面と、第1の側面の反対側の第2の側面とを有する炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートに隣接して金属のセル状コアを含み、金属のセル状コアがポリシラザンの層でコーティングされている装置を提供する。
【0013】
[0013]別の態様では、本発明は、炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートに電気的に接続された金属構造の酸化を抑制するための方法を提供し、この方法は、液体ポリシラザン組成物をCFRPのシートに適用すること、及び組成物を硬化させることを含む。
【0014】
[0014]一態様において、本発明は、炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートに隣接する金属構造の酸化を抑制するための方法を提供し、この方法は、液体ポリシラザン組成物を金属構造に適用すること、及び組成物を硬化させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】[0015]本発明の積層板の側断面図である。
【
図2】[0016]本発明の積層板の側断面図である。
【
図3】[0017]a、b、及びcは、金属構造に隣接する積層板の側断面図である。
【
図4】[0018]孔を有する積層板の斜視図である。
【
図4a】[0019]本発明の積層板の孔を通る、
図4のA-Aにおける側断面図である。
【
図5】[0020]金属構造に隣接する、孔を有する積層板の斜視図である。
【
図6】[0021]民間航空機のジェット発電装置の断面図である。
【
図7】[0022]スラストリバーサの内壁の等角断面図である。
【
図8】[0023]炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートに電気的に接続された金属構造の酸化を抑制するための例示的方法を示すフロー図である。
【
図9】[0024]炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートに隣接する金属構造の酸化を抑制するための例示的方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[0025]ここで使用される「ポリシラザン」は、化合物中に複数のSi--N反復単位を有するオリゴマー、環式、多環式、線状ポリマー、又は樹脂質ポリマーを意味する。
【0017】
[0026]「電気的連通」及び「ガルバニック連通」は、ここでは互換可能に使用され、材料間の電子の伝達又は移動を可能にする材料間の十分な接続を指す。
【0018】
[0027]本発明は、金属構成要素がCFRPと電気的又はガルバニック連通する装置における金属構成要素のガルバニック腐食に対処する。金属及び金属合金という用語は、ここでは互換可能に使用される。本発明は、ポリシラザン又はその混合物を、CFRP及び/又は金属構成要素と、装置を取り巻く環境内の酸素又は水分との間のバリヤ材料として用いることを含む。
【0019】
[0028]CFRPに接続された金属構成要素を含む装置が、それら部品を互いから完全に単離する方法で製造されることはほとんどない。したがって、このような装置の金属構成要素は酸化及び腐食し易い。例えば、スラストリバーサ壁部の外板といったいくつかのCFRPシート内の孔は炭素繊維に露出しており、それにより酸素が外板内部の酸素と接触し得る。したがって、例えばスラストリバーサ壁部のセル状コアが、金属、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金から形作られて、CFRPと接触するとき、アルミニウムは酸化及び腐食し易い。
【0020】
[0029]更に、酸化及び腐食は、水及び電解質がCFRPと金属構成要素とをつなぐ橋となるために、湿った環境、即ち湿潤環境において増大する。ガルバニック腐食のプロセスは、アルミニウムの腐食率を、アルミニウムがCFRPにガルバニック結合されていないときに通常起こる率の100倍以上に上昇させる。
【0021】
[0030]したがって、本発明は、ポリシラザン又はポリシラザンの混合物のコーティングを、典型的には溶媒中のポリシラザンの溶液又は懸濁液としてCFRP上に適用すること、及びこのコーティングを硬化させることを含み、それにより、ウォータープルーフで良好な撥水特性を有するポリシラザンの層をCFRP上に有する積層板が得られる。ポリシラザン層は、水及び酸素がCFRP内部の露出した炭素繊維と接触することを防ぐ。このことにより、次に、CFRPと金属構成要素との間の酸化/還元反応が、CFRPの中又は表面において酸素を遮断すること又は酸素の還元を実質的に低減することにより防止又は抑制され、即ち、CFRPはカソードとして働かず、金属構成要素はアノードとして働かない。したがって、金属構成要素は電子を失わず、要するに、金属構成要素は酸化せず、腐食しない。
【0022】
[0031]CFRPのコーティングに替えて又は加えて、ポリシラザン又はその混合物が金属構成要素に適用され、水及び電解質が金属構成要素とCFRPとの間に電気的又はガルバニック接続が生成されることを抑制することにより、CFRPとのガルバニック連通が防止される。
【0023】
[0032]本発明は、一種又は複数種のポリシラザンでコーティングされた炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートを含む積層板を提供する。ポリシラザンのコーティングは、複数の層の単層とすることができる。ポリシラザンは、典型的には液体ポリシラザン組成物として適用される。このような組成物は、液体担体中のポリシラザン又はポリシラザンの混合物の配合物であり、即ち、溶媒系中のポリシラザン(複数種可)の溶液又は懸濁液である。
【0024】
[0033]
図1及び
図2に示されるように、本発明は、炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシート102及びポリシラザンコーティングを備えた積層板100を提供する。CFRPシート102は、第1の側面110と、第1の側面の反対側の第2の側面120とを有する。コーティングは、シート102の一方の側面の少なくとも一部を覆う。
【0025】
[0034]ポリシラザン組成物は、硬化後、シート102の一方の側面又は両方の側面にポリシラザンコーティングが存在するように、シートの一方の側面又は両方の側面に適用することができる。したがって、
図1に示されるように、積層板100は、第1の側面110と、第1の側面の反対側の第2の側面120とを有するCFRPシート102、及びシート102の第1の側面110の少なくとも一部を覆うポリシラザンの層130を備えることができる。これにより、水の蓄積と酸化/還元反応とが防止される。ポリシラザンをシート102の両方の側面に適用することにより、さらに腐食からの保護を得ることができる。この代替例が
図2に示されている。
図2では、CFRPシート102は、第1の側面110と、第1の側面110の反対側の第2の側面120とを有し、シート102の第1の側面110をポリシラザンの層130が、第2の側面120をポリシラザンの層140が、それぞれ覆っている。いずれの構成においても、ポリシラザンは、CFRPシート102の一側面の一部を覆うか、又は、好ましくは、CFRPシート102の側面全体を覆うことができる。最大の耐食性は、CFRPシート102の側面全体をコーティングすることにより達成される。
【0026】
[0035]本発明の積層板は、一又は複数のCFRPシートが金属構造又は金属合金構造に隣接する装置において利用することができる。その結果得られる装置は、ポリシラザンコーティングを持たない同様の装置と比較して、向上した耐食性を有する。
【0027】
[0036]
図3のa-cは、金属構造160に隣接する単一の積層板100を示している。本発明は、二つ以上の積層板100に対し、金属構造160、例えば金属構造160の両側が隣接する装置も包含する。加えて、本発明は、単一の積層板100が二つ以上の金属構造160、例えば、第1の側面110に隣接する第1の金属構造及び第2の側面120に隣接する第2の金属構造に隣接している装置を包含する。
【0028】
[0037]
図3のa-cは、シート102上に異なる構成のポリシラザンを有する単一の積層板100を示している。
図3aでは、積層板100はポリシラザン層130を第1の側面110上に有し、金属構造160が第2の側面120に隣接している。
図3bでは、積層板100はポリシラザン層140を第2の側面120上に有し、金属構造160が第2の側面120に隣接している。
図3cでは、積層板100は、ポリシラザン層130及び140を、それぞれ第1の側面110及び第2の側面120上に有し、金属構造160は第2の側面120に隣接している。
【0029】
[0038]上記構成のいずれにおいても、積層板100は、金属構造160と電気的に接触していても、又は金属構造160から電気的に絶縁されていてもよい。多くの装置において、電気的絶縁は達成が困難であり、上記のように、少なくともいくらかの微小な電気的接触が存在し、それは金属の酸化及び腐食を招き得る。ポリシラザン層又はコーティングはウォータープルーフであり、良好な撥水特性を有する。したがって、積層板100は、水が金属構造160及びCFRPシート102と同時と接触することを防ぐこと、及び/又は酸素がシート102内部の炭素繊維に到達することを防ぐことにより、金属構造160の腐食を最小化することができ、それは次に、CFRPシート102がカソードとして機能し且つ金属構造160がアノードとして機能する酸化-還元反応を防止又は最小化する。
【0030】
[0039]
図3のa-cは第2の側面120に隣接する金属構造160を示しているが、金属構造160は、積層板100の第1の側面110及び/又は第2の側面120に隣接してもよい。
【0031】
[0040]積層板100の一部の使用においては、少なくとも部分的にシート102を通って延びる一又は複数の穴又は孔をシート102が有することが必要である。複数の孔170を有する積層板の一実施例が
図4に示されている。以下に更に詳細に説明するように、このような積層板は、航空機エンジンの部品を作製するために有用である。
【0032】
[0041]孔170は、装置の最終的な用途に応じた形状及びサイズにされる。孔は、多面を有しても、不規則な形状であっても、又はほぼ円形でもよい。例えば、孔170は、約0.75(0.03インチ)から約1.5mm(0.06インチ)、又は約1mm(0.04インチ)から約1.25mm(0.05インチ)の直径を有することができる。
【0033】
[0042]
図4aに示されるように、孔170は、孔の側壁172を含む。積層板100は、孔170の側壁172上にポリシラザン側壁コーティング174が結果として得られるような方法で製造することができる。側壁172のポリシラザン側壁コーティング174は、更なるウォータープルーフ及び撥水をCFRPに提供し、CFRPと接触する金属構造の腐食を更に低減する。
【0034】
[0043]ポリシラザン側壁コーティング174は、約1-10μm、約1-5μm、又は約2-3μmの厚さを有することができる。このような厚さは、積層板の腐食低減特性を達成するために十分であり、孔の直径を最小限に変化させるにすぎない。
【0035】
[0044]金属構造160は、金属のセル状コア、好ましくはハニカムコア、例えばアルミニウムハニカムコアとすることができる。ハニカムコアは、航空機、並びに自転車のディスクホイール、スキー及びスノーボード等のスポーツ用品を含む様々な用途に使用される。一部の実施例では、金属のセル状コアは、航空機エンジンのスラストリバーサの金属のハニカムコアである。金属のハニカムコアは、アルミニウム又はアルミニウム合金とすることができる。
【0036】
[0045]
図5は、金属構造160がハニカムコア162であり、ハニカムコアが積層板100に隣接している装置を示している。一部の装置では、積層板100及びハニカムコア162は、互いに物理的に接続されている。いくつかの装置では、積層板100及びハニカムコア162は、物理的に接続されているが、電気的には互いから絶縁されている。代替的に、積層板100は、ハニカムコア162と電気的に接触している。上述のように、積層板100がハニカムコア162等の金属構造と電気的に接触しているとき、積層板のポリシラザン層は、金属構造に増強された腐食保護を提供する。
【0037】
[0046]
図5に示される積層板100のシート102は穿孔されている。代替的には、シート102は孔を有さない。
【0038】
[0047]本発明の積層板は、航空機エンジンのスラストリバーサの構成要素を製造するために特に有用である。スラストリバーサ壁部は、典型的にはエポキシ含浸穿孔炭素繊維ファブリックの、最上層と、ハニカムコアと、エポキシ含浸炭素繊維ファブリックとすることができる材料の最下層とを有するサンドイッチ構造である。
【0039】
[0048]CFRP上のポリシラザンのコーティング又は層は、水をはじき、酸素の還元を防ぐ。CFRPシート及び金属構造がスラストリバーサ壁部の構成要素であり、CFRPシートが穿孔されている場合、ポリシラザンコーティングと孔の組み合わせにより、スラストリバーサを通って空気が流れるにつれて金属が急速に乾燥する。これはスラストリバーサ壁部上及びリバーサコア内部における水の蓄積を防ぎ、結果として、コアの腐食が低減するであろう。
【0040】
[0049]
図6に示されるように、典型的な民間航空機ジェット発電装置201は、エンジン202、付属のカウリング203、ファン204、及びスラストリバーサカウリング205を備える。ファン204は、ファンの気流の矢印207により示されるように、発電装置201に空気を取り込む。ファンの気流は、カウリング203に入り、スラストリバーサ内壁210とスラストリバーサ外壁212との間の環状のファン空気バイパスダクト208を通過する。スラストリバーサ内壁210は、内表面214及び外表面216を有する。
【0041】
[0050]
図7に示されるように、スラストリバーサ内壁210は、穿孔された炭素繊維、典型的には炭素繊維強化樹脂の最上層320を有するサンドイッチ構造である。孔322は、例えば層が特に穿孔レイアップツール(図示しない)上で硬化されるとき、いずれかの従来の方法で最上層320に製造される。孔322は、スラストリバーサ内壁210の適切な音響的特性を維持するように設計される。発電装置201に取り付けられるとき、穿孔炭素繊維の最上層320の最上面324は、ファンの気流207と直接相互作用する。
【0042】
[0051]孔322は、実質的に円形で、スラストリバーサ壁部に隣接する空洞を通過する空気が生じさせるノイズを低減する大きさである。好ましい孔322は、約0.75(0.03インチ)から約1.5mm(0.06インチ)の直径を有する。更に好ましくは、孔は、約1mm(0.04インチ)から約1.25mm(0.05インチ)の直径を有する。
【0043】
[0052]最適なノイズ低減は、壁部210の面積の約1-20%、約5-18%、又は約7-14%を覆う孔により得られる。
【0044】
[0053]接着剤236の層は、典型的には、穿孔炭素繊維の最上層320を金属、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金のハニカムコア330に接着するために使用される。接着剤は、音響的特性のために、穿孔された穴を結合後維持し、シートと金属構成要素との間に最大の接着を与えるために網状とすることができる。適切な接着剤には、ポリイミド及びビスマレイミドの接着剤材が含まれる。
【0045】
[0054]一部の実施例では、ハニカムコア330は、特定のハニカムセル335を形成するために波形を付け、次いで接着性樹脂333を用いて結合させ、同じ又は異なる樹脂(図示しない)でコーティングしたアルミニウム又はアルミニウム合金強化シート332を含む。
【0046】
[0055]最上層320は、スラストリバーサの内壁210上にウォータープルーフ及び撥水層334を生成するためにポリシラザンでコーティングされる。したがって、壁部210は、CFRPのシート及びポリシラザンの層を含む積層板である。ポリシラザン層334は、約1-10μm、約1-5μm、又は約2-3μmの厚さを有する。このような厚さは、孔の減音特性が維持されるように、孔の直径を最小限に変化させる。
【0047】
[0056]ポリシラザン層は、極めて撥水性であり、CFRP積層板壁部210が迅速に水を流すことを可能にする。水を迅速に流すことで、空気が構造を通って流れるとコア330は迅速に乾燥する。これはスラストリバーサ壁部及びリバーサコア内部における水の蓄積を防ぎ、結果として、コアの腐食が低減するであろう。
【0048】
[0057]水によって媒介されるコアの腐食を低減するため、層334は、最上層320とハニカムコア330との間の電気的絶縁層に対する必要性を排除又は低減する。しかしながら、一部の実施例では、電気的絶縁材料の任意選択的層(図示しない)がCFRPシートとハニカムコアとの間に位置してCFRP層からコアを電気的絶縁してもよい。適切な電気的絶縁材料は、繊維ガラスの層である。
【0049】
[0058]スラストリバーサ外壁212は、内壁210について記載したように、積層板を含むように製造することもできる。
【0050】
[0059]基層338は、ハニカムコア330の底面340に対して、例えば接着剤の層342により付着させる。基層は、CFRPでも、アルミニウム又はアルミニウム合金といった金属でもよい。
【0051】
[0060]一部の実施例では、スラストリバーサ内壁210は、基層338の底部に付着した絶縁層345を有し、この絶縁層は、発電装置に取り付けたときエンジン202に隣接及び近接する層である。
【0052】
[0061]本発明の積層板の製造は、液体ポリシラザン組成物をCFRPのシートに適用すること、及び組成物を硬化させることを含む。ポリシラザンの硬化は、簡便には、周囲温度及び圧力で実行される。硬化は熱で加速させることもできる。
【0053】
[0062]液体ポリシラザン組成物における使用のための適切な溶媒は、ポリシラザンに対して不活性である。即ち、ポリシラザンの担体として機能するのであって、ポリシラザンと反応しない。このような溶媒には、炭化水素、C2-C6カルボン酸のC1-C6アルキルエステル、及びこれらの混合物が含まれる。代表的な炭化水素には、直鎖又は分岐鎖C7-C10炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、及びヘプタン)、環式C5-C10飽和炭化水素、例えばシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等、及び芳香族炭化水素、例えばトルエン及びキシレンが含まれる。代表的なアルキルエステルには、酢酸t-ブチルが含まれる。液体ポリシラザン組成物は、3-アミノプロピルトリエトキシシランといったシランも含み得る。
【0054】
[0063]一部の実施例では、ポリシラザンは、液体ポリシラザン組成物中に組成物の約10-50重量%の濃度で存在する。他の実施例では、ポリシラザンは、液体ポリシラザン組成物中に組成物の約10-20重量%の濃度で存在する。他の実施例では、ポリシラザンは、液体ポリシラザン組成物中に組成物の約12-15重量%、又は13-14重量%の濃度で存在する。
【0055】
[0064]適切な液体ポリシラザン組成物には、Durazane(登録商標)(例えば、Durazane(登録商標)1500 RC及び1500 SC、AGS TutoProm(登録商標)、及びHuntington Specialty ChemicalsからHS-922として市販されているポリシラザン樹脂/溶媒ブレンドが含まれる。
【0056】
[0065]ポリシラザンは、シリコン原子と窒素原子が交互に基礎的バックボーンを形成するポリマーである。各シリコン原子は二つの別個の窒素原子に結合し、各窒素原子は二(2)つのシリコン原子に結合する。結果的に、式[R1R2Si-NR3]nの鎖及び環の両方が生じる。R1-R3はそれぞれ、水素原子又は有機置換基を表す。典型的な有機置換基は、1-6の炭素原子と、アリル及びビニルといった不飽和基とを有するアルキル基である。
【0057】
[0066]すべてのR基が水素原子であるとき、ポリマーは、ペルヒドロポリシラザンとして設計される。ペルヒドロポリシラザンは、無機ポリシラザンとしても知られ、式[H2Si-NH]nで表すことができる。
【0058】
[0067]炭化水素置換基がシリコン原子に結合しているとき、ポリマーは、オルガノポリシラザンと命名される。オルガノポリシラザンは、有機ポリシラザンとしても知られ、式[R1R2Si-NH]n(R1及びR2はそれぞれ水素又は炭化水素基であり、ここでR1及びR2のうちの少なくとも一つは水素でない)により表すことができる。好ましいR1及びR2基は、1-6の炭素原子を有するアルキル基、ビニル、及びアリルである。
【0059】
[0068]ここでの使用のために適切なポリシラザンは、米国特許第4395460号及び同第6329487に開示されている。
【0060】
[0069]米国特許第4395460号に開示されるポリシラザンは、不活性で、本質的に無水の、25℃から370℃の範囲の温度の雰囲気内において、
(A)アンモニアと、
(B)
(i)一般式[ClaRbSi]2を有する塩素含有ジシラン
及び
(ii)一般式[ClcRdSi]2を有する塩素含有ジシランの混合物
からなる群より選択される塩素含有ジシランと
を接触させて反応させることにより調製することができ、
上式中、
aは1.5-2.0の値を有し、
bは1.0-1.5の値を有し、
cとdの比は1:1から2:1の範囲内であり;
a+bの和は3に等しく;
c+dの和は3に等しく;且つ
いずれの場合のRも、ビニル基、1-3の炭素原子のアルキルラジカル及びフェニル基からなる群より選択される。
【0061】
[0070]米国特許第6329487号に開示されるポリシラザンは、
[0071]a)少なくとも一つのSi--H接合を有する少なくとも一つのハロシランを液体無水アンモニア中に導入することであって、液体無水アンモニアの量がハロシラン上のシリコン-ハライド接合の化学量論量の少なくとも二倍であり、ハロシランが無水液体アンモニアと反応して前駆アンモノリシス生成物及びハロゲン化アンモニウム塩又はその酸が形成され、ハロゲン化アンモニウム塩又はその酸が無水液体アンモニアに可溶化されイオン化されることにより、酸性環境が提供される、導入すること;及び
[0072]b)ステップ(a)のハロシランからの新規シラザン及び/又はポリシラザン中に取り込まれるSi--H接合の量に対してSi--H接合の数を減らすために十分な時間にわたり、前駆アンモノリシス生成物を酸性環境に維持すること
により調製することができる。
【0062】
[0073]CFRPシート上にポリシラザン層を形成するために使用されるポリシラザンは、無機ポリシラザン、有機ポリシラザン、又はこれらの混合物とすることができる。いくつかの実施例では、ポリシラザンは、無機ポリシラザン又はその混合物である。
【0063】
[0074]他の実施例では、ポリシラザンは、有機ポリシラザン又はその混合物である。
【0064】
[0075]ここに開示される積層板の製造の間に、液体ポリシラザン組成物は、ポリシラザンの硬化時に、任意の所望の厚さを有するポリシラザンの層を生成する厚さでCFRPシートに適用することができる。ポリシラザン層の好ましい厚さは、約1-10μm、約1-5μm、又は約2-3μmである。そのような厚さは、CFRPシート中に存在する孔のいずれかを閉塞させることも、又はそのような孔のいずれの直径を変更することもなく、適当な水及び酸素のバリヤを形成するために十分である。そのような層の厚さを与えるための適切な適用レートは約5-15mL/m2である。
【0065】
[0076]特定の実装態様を開示したが、本発明が関連する技術分野の当業者には、本発明にはその精神及び範囲から逸脱せずに多くの修正例及び変形例が可能であることが明らかであろう。
【0066】
[0077]したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲の要素の精神及び範囲、又はその妥当な等価物によってのみ制限されると考慮するべきである。
【0067】
[0078]条項1.第1の側面と、第1の側面の反対側の第2の側面とを有する炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシート、及びCFRPのシートの第1の側面と第2の側面のうちの一方又は両方を覆うポリシラザンの層を備えた積層板。
[0079]条項2.CFRPのシートの第1の側面が孔を含む、条項1による積層板。
[0080]条項3.CFRPのシートの第1の側面と第2の側面のうちの少なくとも一方が金属と電気的に連通している、条項1又は条項2による積層板。
[0081]条項4.シートの第1の側面と第2の側面のうちの少なくとも一方が、金属のセル状コア又は金属合金のセル状コアと電気的に連通している、条項2による積層板。
[0082]条項5.孔が、約0.75(0.03インチ)から約1.5mm(0.06インチ)の直径を有する、条項2-4のいずれか一つによる積層板。
[0083]条項6.孔の側壁がポリシラザンでコーティングされている、条項2-5のいずれか一つによる積層板。
[0084]条項7.ポリシラザンの層が約1-10μmの厚さを有する、条項1-6のいずれか一つによる積層板。
[0085]条項8.孔がシートの第1の側面の約5-20%を覆う、条項2-7のいずれか一つによる積層板。
[0086]条項9.ポリシラザンが無機ポリシラザン、有機ポリシラザン、又はこれらの混合物である、条項1-8のいずれか一つによる積層板。
[0087]条項10.CFRPのシートが露出した炭素繊維を含む、条項1-9のいずれか一つによる積層板。
[0088]条項11.金属のセル状コアがアルミニウムを含む、条項1-10のいずれか一つによる積層板。
[0089]条項12.条項1-11のいずれか一つによる積層板を備えた航空機エンジンのスラストリバーサ。
[0090]条項13.炭素繊維強化ポリマー(CFRP)のシートに電気的に接続された金属構造の酸化を抑制するための方法であって、CFRPのシートが第1の側面と、金属構造と電気的に連通する第2の側面とを有し、本方法が、液体ポリシラザン組成物を少なくともCFRPのシートの第1の側面に適用すること、及び組成物を硬化させることを含む、方法。
[0091]条項14.液体ポリシラザン組成物が、無機ポリシラザン、有機ポリシラザン、又はこれらの混合物を含む、条項13による方法。
[0092]条項15.液体ポリシラザン組成物が、ポリシラザンと、ポリシラザンに対して不活性の溶媒との溶液を含む、条項13又は条項14による方法。
[0093]条項16.溶媒が、炭化水素、C2-C6カルボン酸のC1-C6アルキルエステル、及びこれらの混合物より選択される、条項15による方法。
[0094]条項17.ポリシラザンが、液体ポリシラザン組成物中に組成物の約10-50重量%の濃度で存在する、条項13-16のいずれか一つによる方法。
[0095]条項18.ポリシラザンが、液体ポリシラザン組成物中に組成物の約10-20重量%の濃度で存在する、条項13-16のいずれか一つによる方法。
[0096]条項19.液体ポリシラザンが、第1の側面に、ポリシラザンの硬化時に約1-10μmの厚さを有するポリシラザンの層を生成する厚さで適用される、条項13-18のいずれか一つによる方法。
[0097]条項20.液体ポリシラザンが、第1の側面に、約5-15mL/m2のレートで適用される、条項13-19のいずれか一つによる方法。
【0068】
[0098]本明細書では、詳細に且つその特定の実施例を参照して記載したが、当業者には、特許請求の範囲に規定される範囲から逸脱せずに修正例及び変形例が可能であることが明らかであろう。更に詳細には、いくつかの態様が特に有利であるとしてここに特定されているが、本開示内容は必ずしもそのような特定の態様に限定されるものではない。