(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】シリコーン多孔体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20240405BHJP
A45D 33/34 20060101ALI20240405BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20240405BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CFH
A45D33/34 E
B01D46/00
(21)【出願番号】P 2019196190
(22)【出願日】2019-10-29
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【氏名又は名称】山田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【氏名又は名称】山本 喜幾
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳典
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勇史
(72)【発明者】
【氏名】増山 圭司
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-505285(JP,A)
【文献】特開昭54-078766(JP,A)
【文献】特開2003-237205(JP,A)
【文献】特開2014-208721(JP,A)
【文献】特開2017-061592(JP,A)
【文献】特開平06-240044(JP,A)
【文献】特開2006-063279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00- 44/60、 67/20
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡形成材を含んだシリコーン成形体から当該気泡形成材を抽出除去することによりシリコーンゴム基材に3次元連通気孔構造を形成したシリコーン多孔体であって、
シリコーンゴム基材内に有機系繊維を含んでなり、
前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、有機系繊維を1~8wt%含
み、
前記有機系繊維の繊維長は、0.2~10mmである
ことを特徴とするシリコーン多孔体。
【請求項2】
気泡形成材を含んだシリコーン成形体から当該気泡形成材を抽出除去することによりシリコーンゴム基材に3次元連通気孔構造を形成したシリコーン多孔体であって、
シリコーンゴム基材内に有機系繊維を含んでなり、
前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、有機系繊維を1~8wt%含
み、
前記有機系繊維の繊維径は、1~100μmである
ことを特徴とするシリコーン多孔体。
【請求項3】
気泡形成材を含んだシリコーン成形体から当該気泡形成材を抽出除去することによりシリコーンゴム基材に3次元連通気孔構造を形成したシリコーン多孔体であって、
シリコーンゴム基材内に有機系繊維を含んでなり、
前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、有機系繊維を1~8wt%含
み、
前記有機系繊維の融点が100℃~260℃である
ことを特徴とするシリコーン多孔体。
【請求項4】
気泡形成材を含んだシリコーン成形体から当該気泡形成材を抽出除去することによりシリコーンゴム基材に3次元連通気孔構造を形成したシリコーン多孔体であって、
シリコーンゴム基材内に有機系繊維を含んでなり、
前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、有機系繊維を1~8wt%含
み、
前記有機系繊維は、化学繊維である
ことを特徴とするシリコーン多孔体。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか一項に記載のシリコーン多孔体を備える化粧用パフまたはフィルター。
【請求項6】
気泡形成材を含んだシリコーン成形体から当該気泡形成材を抽出除去することによりシリコーンゴム基材に3次元連通気孔構造を形成したシリコーン多孔体
を備える化粧用パフまたはフィルターであって、
シリコーンゴム基材内に有機系繊維を含んでなり、
前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、有機系繊維を1~8wt%含む
ことを特徴とするシリコーン多孔体
を備える化粧用パフまたはフィルター。
【請求項7】
請求項1~
4の何れか一項に記載のシリコーン多孔体の製造方法であって、
シリコーン原料と、水溶性の気泡形成材と、有機系繊維とを混合してシリコーン混合物を形成する分散工程と、
前記シリコーン混合物を架橋してシリコーン成形体とする架橋工程と、
前記シリコーン成形体を水に接触させて前記水溶性の気泡形成材を抽出除去する抽出除去工程とからなる
ことを特徴とするシリコーン多孔体の製造方法。
【請求項8】
気泡形成材を含んだシリコーン成形体から当該気泡形成材を抽出除去することによりシリコーンゴム基材に3次元連通気孔構造を形成したシリコーン多孔体であって、シリコーンゴム基材内に有機系繊維を含んでなり、前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、有機系繊維を1~8wt%含むことを特徴とするシリコーン多孔体の製造方法であって、
シリコーン原料と、水溶性の気泡形成材と、有機系繊維とを混合してシリコーン混合物を形成する分散工程と、
前記シリコーン混合物を架橋してシリコーン成形体とする架橋工程と、
前記シリコーン成形体を水に接触させて前記水溶性の気泡形成材を抽出除去する抽出除去工程とからなる
ことを特徴とするシリコーン多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、3次元連通気孔構造を有するシリコーン多孔体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3次元的に連通した気孔を有するシリコーン多孔体は、柔軟性や通気性に優れており、その性質を利用して化粧用パフや各種フィルターなどの様々な用途に利用されている。このようなシリコーン多孔体は、主材料中に予め気泡形成材を混入・分散させた後に、該気泡形成材を取り除いて気泡(空腔)を形成する抽出法により製造することが知られている。このような抽出法は、湿式法と乾式法とに大別され、(1)湿式法は、主材料を溶媒に溶解させ、これに気泡形成材を混合して分散させると共に所定形状に成形し、その後気泡形成材を溶解・除去することで行われる。また、(2)乾式法は、加熱して溶解状態とした主材料に気泡形成材を混合させると共に所定形状に成形し、その後気泡形成材を溶解・除去することで行われる。このような湿式法や乾式法では、主材料の溶媒への溶解や加熱溶解を必要とし、工程の手間が嵩む等の難点がある。別の抽出法としてエマルジョン法がある。これは、液状の主材料に水および/または水溶性の気泡形成材を混合して分散させた後に、所定形状に成形された主材料を得、次いでこの主材料から水または水溶性ポリマーを除去する方法である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリコーン多孔体は、前述のように3次元連通気孔構造により柔軟性や通気性に優れるといった利点がある一方で、その構造上、気孔の形成割合(気孔率)を高めると相対的に引裂強度が低下する。
【0005】
すなわち本発明は、シリコーン多孔体を指で圧縮するように触れた際に異物感がなく、引裂強度に優れたシリコーン多孔体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するための手段は、
気泡形成材を含んだシリコーン成形体から当該気泡形成材を抽出除去することによりシリコーンゴム基材に3次元連通気孔構造を形成したシリコーン多孔体であって、
シリコーンゴム基材内に有機系繊維を含んでなることを要旨とする。
この発明によれば、シリコーン多孔体の骨格をなすシリコーンゴム基材に有機系繊維を含有することで、しっかりとした骨格を形成して引裂強度に優れた3次元連通気孔構造のシリコーン多孔体とすることができる。
【0007】
別の手段は、
前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、前記有機系繊維を1wt%以上含むことを要旨とする。
この発明によれば、有機系繊維を含有しないシリコーン多孔体と比べて引裂強度を20%を超えて向上することができる。
【0008】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するための更に別の手段は、
シリコーン原料と、水溶性の気泡形成材と、有機系繊維とを混合してシリコーン混合物を形成する分散工程と、
前記シリコーン混合物を架橋してシリコーン成形体とする架橋工程と、
前記シリコーン成形体を水に接触させて前記水溶性の気泡形成材を抽出除去する抽出除去工程とからなることを要旨とする。
この発明によれば、シリコーン多孔体の骨格をなすシリコーンゴム基材に有機系繊維を含有することができ、しっかりとした骨格を形成して引裂強度に優れた3次元連通気孔構造のシリコーン多孔体とすることができる。
【0009】
更に別の手段は、
前記シリコーン原料に対し、前記有機系繊維を1wt%以上混合して前記シリコーン混合物を形成することを要旨とする。
この発明によれば、有機系繊維を混合することなく形成したシリコーン多孔体と比べて引裂強度が20%を超えて向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリコーン多孔体を指で圧縮するように触れた際に異物感がなく、引裂強度に優れたシリコーン多孔体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るシリコーン多孔体の製造方法を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係るシリコーン多孔体およびその製造方法について、好適な実施例を挙げて説明する。本願の発明者は、シリコーン原料と、水溶性の気泡形成材と、有機系繊維とを混合して、該気泡形成材が分散された未架橋のシリコーン混合物とした後、このシリコーン混合物を架橋させることによりシリコーン樹脂からなるシリコーンゴム基材を形成し、水で気泡形成材を抽出除去することにより形成されるシリコーン多孔体において、シリコーンゴム基材に有機系を含有することにより3次元連通気孔構造の骨格がしっかりとしたものになり、引裂強度に優れることを知見したものである。
【0013】
前記シリコーン原料は、一液性または二液性の何れであってもよいが、常温で液体状態を保っている液状シリコーンが使用される。二液型の場合には、架橋反応を開始するタイミングのコントロールが容易であり、架橋反応が進行している過程で混合されるのを抑制することができて好適である。また、シリコーン原料としては、縮合反応架橋型の原料を用いても良く、また、付加反応架橋型の原料を用いても良い。この場合に、架橋する際に副生成物を放出しない付加反応架橋型のシリコーン原料を採用することが好ましい。本発明に使用される常温硬化型のシリコーン原料は、型取り母型の試作品を作るのに使用される材料であって、主剤に硬化剤を添加後、撹拌し、混合時に巻き込んだ空気を減圧脱泡により除去し、硬化、養生する。この養生は、シリコーン原料を型枠に注入後、常温で約1日保持するものであり、その後は直ちに脱型が可能である。
【0014】
前記水溶性の気泡形成材としては、水に可溶性であって、前記シリコーン原料と100℃以下の温度で混合されることにより、該気泡形成材が該シリコーン原料中に均一かつ安定的に分散される物質であれば、何れも使用可能である。この気泡形成材には、少なくとも1種類以上の水溶性無機物および少なくとも1種類以上の水溶性有機物が含まれる。例えば、水溶性無機物としては、NaCl(塩)、KCl、CaCl、NH4Cl、NaNO3、NaNO2等が挙げられる。
【0015】
また水溶性有機物としては、TME(トリメチロールエタン)、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、しょ糖、可溶性でんぷん、ソルビトール、グリシンまたは各有機酸(リンゴ酸、クエン酸、グルタミン酸、コハク酸、コハク酸)のナトリウム塩等が挙げられる。また、水溶性有機物としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールジアセテート等のポリエチレングリコール誘導体、式(1) R1O(CH2CH2O)nR2で示されるアルキルエーテルに由来する化合物その他、水に溶解し、かつ樹脂に対して粘度を低下させる化合物を使用可能である。ここで、式(1)中のR1は炭化水素基であり、R2は水素または炭化水素基を示している。また、R1およびR2は、飽和または不飽和の炭化水素基の何れであっても良い。ここで、ポリエチレングリコールは、メルトフローが高く、かつ水溶解性が高いので好適に使用し得る。またポリエチレングリコールの分子量は2,000~30,000、好ましくは5,000~25,000、更に好ましくは15,000~25,000の範囲が好適である。また水溶性有機物として、R1O(CH2CH2O)nR2の構造に由来するものは、0℃~100℃の温度で液体状態のものが適宜選択される。R1O(CH2CH2O)nR2の構造に由来するものを使用する場合は、前記水溶性無機物が前記シリコーン原料中へ分散する分散性が高まり、均一な混合物が得られる利点がある。また、シリコーン混合物を成形して架橋させた時でも、得られたシリコーン成形体中で水溶性無機物は良好な分散性が保たれ均一な混合状態が維持される。
【0016】
前記有機系繊維としては、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリウレタン系繊維等の各種化学繊維が挙げられる。このような、有機系繊維を含有するシリコーン多孔体とすることで、有機系繊維を含有しないシリコーン多孔体と比べて優れた引裂強度を実現できる。また、有機系繊維を含有するシリコーン多孔体は、無機系繊維等を含有する場合と比べても優れた引裂強度の向上を図り得る。また、有機系繊維は1種類である必要はなく、異なる複数種類の有機系繊維を混合することができる。このような有機系繊維は、可撓性や引張強度等の物理的性質に優れ、シリコーン原料の架橋により形成されるシリコーンゴム基材の変形に追従して有機系繊維が可撓変形すると共に、シリコーンゴム基材の引裂強度を高めることができる。ここで、有機系繊維は、シリコーン原料を架橋する架橋温度以上の融点を有するものが採用される。具体的には、融点が100℃~260℃の有機系繊維を採用することが好ましい。このような融点の有機系繊維を用いることで、シリコーン原料の架橋時に有機系繊維が溶融するのを防止することができる。このような有機系繊維として、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維を好適に採用することができ、特にポリエチレン繊維の中でも超高分子量ポリエチレン繊維を採用することでシリコーン多孔体の引裂強度と柔軟性を両立できるため好適に採用することができる。
【0017】
また、有機系繊維の繊維長は特に限定されるものではないが、0.2~10mmの繊維長の有機系繊維を用いることが好ましく、0.4mm以上の繊維長とすることがより好ましい。このような繊維長とすることで、シリコーンゴム基材の変形に対して有機系繊維を追従して変形させることができると共にシリコーンゴム基材の引裂強度を高めることができる。すなわち、有機系繊維の繊維長が0.2mmに満たない場合には、有機繊維自体が破断しやすくシリコーン多孔体の引裂強度を十分に向上し得ない可能性が高くなり、また10mm以上の繊維長とした場合には、シリコーンゴム基材の変形時に有機系繊維が十分に追従して変形せず異物感が生ずる可能性が高まる。また、有機系繊維の繊維径は特に限定されるものではないが、1~100μmの繊維径の有機系繊維を用いることが好ましく、より好適には10~90μmである。このような繊維径とすることで、シリコーンゴム基材の変形に対して有機系繊維を追従して変形させることができると共にシリコーンゴム基材の引裂強度を高めることができる。すなわち、有機系繊維の繊維径が1μmに満たない場合には、有機繊維自体が破断しやすくシリコーン多孔体の引裂強度を十分に向上し得ない可能性が高くなり、また100μm以上の繊維径とした場合には、シリコーンゴム基材の変形時に有機系繊維が十分に追従して変形せず異物感が生ずる可能性が高まる。
【0018】
また、有機系繊維は、前記シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対し、前記有機系繊維を0.5wt%以上含むことが好ましく、1wt%以上含むようにすることがより好適である。すなわち、シリコーンゴム基材(シリコーン樹脂)に対し0.5wt%以上の有機系繊維を含有することで、シリコーン多孔体の引裂強度を高めることができる。さらに、シリコーンゴム基材(シリコーン樹脂)に対し、1wt%以上の有機系繊維を含有することで、有機系繊維を含まずに同一条件で形成したシリコーン多孔体と比べて、有機系繊維を含有するシリコーン多孔体の引裂強度を20%以上高めることができる。また、シリコーンゴム基材(シリコーン樹脂)に対し10wt%を超える有機系繊維を含有するシリコーン多孔体は、シリコーン原料の架橋時にその多孔体構造(3次元連通気孔構造)形状を形成することが困難になる。このため、有機系繊維の含有量(含有割合)は、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対して0.5~10wt%の範囲とすることが好ましく、1~9wt%の範囲とすることが好適である。
【0019】
前記シリコーン原料に水溶性の気泡形成材を混合した混合物は、水(H2O)が含まれないように該原料を混合して調整することが好ましい。すなわち、混合原料は、水および/または水溶性気泡形成材の水溶液を含まず、シリコーン原料と、水溶性気泡形成材とを直接混合する。なお、混合物中に水(H2O)成分が混入した場合は、架橋工程において当該水成分の蒸発の程度に応じて均質な3次元連通気孔構造が形成されないおそれがあり、また、通気性がばらついたり物理的強度が劣ったりした多孔体になるおそれがある。
【0020】
前記シリコーン原料と水溶性気泡形成材(水溶性無機物および水溶性有機物)との配合重量の合計量を100wt%とした場合に、前記シリコーン原料と、水溶性気泡形成材(水溶性無機物および水溶性有機物)との混合割合(wt%)は、6:94~36:64の範囲内が好適である。前記シリコーン原料が6wt%未満の場合には、水溶性気泡形成材の抽出・除去時にシリコーン成形体自体が、その形状を維持することが困難になる。一方、前記水溶性気泡形成材が64wt%未満の場合には、シリコーン成形体内に充分な数の気泡が形成されなくなり、3次元連通気孔構造が形成されない可能性がある。
【0021】
前記水溶性気泡形成材を構成する、水溶性無機物と水溶性有機物との混合割合(混合比)は、両者の重量比率が9:91~97:3の範囲が好適である。前記水溶性無機物が9未満の場合には、3次元的に連通したシリコーン多孔体の構造が得られなくなり、97を越える場合には、水溶性気泡形成材の抽出割合が低下して充分な気泡率、すなわち多孔度が得られなくなる。
【0022】
前記シリコーン原料、水溶性気泡形成材(水溶性無機物および水溶性有機物)の混合割合を前述の範囲に設定した場合、これら混合物を成形したシリコーン成形体へ水を浸漬させることで、該水溶性気泡形成材は容易かつ充分に抽出・除去可能である。すなわち、水溶性無機物を包むように存在する水溶性有機物を、網目状に連続した状態で分散させることができ、シリコーン成形体を水に浸漬することで水溶性有機物と共に水溶性無機物を除去することができる。これにより、前記シリコーン原料を主材料とし、均質性および強度を備える3次元連通気孔構造を有するシリコーン多孔体が得られる。
【0023】
図1に、本発明に係るシリコーン多孔体の製造工程を示す。主原料であるシリコーン原料に水溶性の気泡形成材および有機系繊維を投入し、100℃以下の温度で混合することで、該気泡形成材および有機系繊維が該シリコーン原料に均一に分散したシリコーン混合物が得られる(分散工程)。この段階では、シリコーン混合物は未架橋状態である。得られたシリコーン混合物を2軸ロール等を通過させて所定形状に成形して、得られたシリコーン成形体を架橋する(架橋工程)。次いで、前記シリコーン成形体を水または所定温度の温水に浸漬して、前記水溶性気泡形成材を抽出除去する(抽出除去工程)ことで、有機系繊維を含有した3次元連通気孔構造を有するシリコーン多孔体が得られる。
【0024】
前述のシリコーン原料、水溶性気泡形成材および有機系繊維の混合には、1軸式または2軸式押出機、ニ一ダ、加圧式ニ一ダ、コニーダ、バンバリーミキサ、ヘンシェル型ミキサあるいはロータ型ミキサその他の混合機等が好適に使用される。この混合に関し特殊な装置は必要なく、また混合速度等も限定されない。混合時の温度は、有機系繊維の融点温度以下であれば良く、常温で行うことができる。加温すればシリコーン原料の架橋は促進されるが、環境温度が低いと混合した原料の粘度が高くなり、生産性や効率が悪くなるので、適度に配合された原料を加温して混合機にかけるのが好ましい。また、過度な架橋が中間成形品に生じると、後工程であるシート成形において可撓性や柔軟性が失われたり、架橋した分子構造がゲル状物の異物となり、製品不良をきたす。混合時間は、混合物の物性により左右されるが、該混合物が充分に混合されればよく、通常は15~30分程度でよい。余り長時間で混合すると、混合する過程で主材料であるシリコーン原料の架橋が進行してしまう可能性があり、良好なシリコーン多孔体が得られない要因になるので注意が必要である。混合された原料は、押出、射出、プレスまたはローラーにより所要形状に成形が可能であるが、殊に量産性が高い押出または複雑形状を形成し得る射出による成形が好適である。
【0025】
各成分を混合することにより得られたシリコーン混合物を所要形状に成形すると共に、架橋することで得たシリコーン成形体は、溶媒である水に所定時間(例えば10~48時間、シリコーン成形体の形状・厚さ等にもよる)浸漬させることで前記水溶性気泡形成材が抽出・除去される。本発明のシリコーン原料は常温で架橋することから、架橋する温度と時間とを変量させることで成形される。すなわち、架橋温度を常温とした場合は72時間、40℃とした場合は24時間放置することで架橋できる。なお、架橋温度は、シリコーンの結合反応が阻害されない限り高温とすることができ、100~150℃、7分~7時間の加温とすることも可能である。例えば、架橋温度を130℃とした場合は10分程度の加温により架橋することができる。
【0026】
その後、前記シリコーン成形体を溶媒に浸漬させる。この際の浸漬は、特に限定されないが、前記シリコーン成形体全体を水に接触させる水中浸漬による抽出・除去が好適である。このとき使用される水の温度についても、殊に限定がなく室温程度のものであってもよいが、前記各水溶性物質の効率的な除去のために、15~90℃の温水を利用してもよい。そして、水溶性気泡形成材を除去した成形体を乾燥することで、シリコーン多孔体が得られる。この乾燥温度は特に限定されるものではなく、シリコーン原料から得られたシリコーン多孔体の耐熱温度以下であって有機系繊維の融点温度以下の温度であれば良い。
【0027】
これにより、シリコーン多孔体の骨格をなすシリコーンゴム基材に有機系繊維を含有することができ、しっかりとした骨格を形成して引裂強度に優れた3次元連通気孔構造のシリコーン多孔体とすることができ、化粧用パフや各種フィルターなどに用いた際の耐久性を高めることができると共に、シリコーン多孔体の用途を多様化することができる。特に、シリコーン原料に対し0.5wt%以上の有機系繊維を混合して前記シリコーン混合物を形成することが好ましい。すなわち、シリコーン原料に対し0.5wt%以上の有機系繊維を混合してシリコーン多孔体を形成することで、シリコーン多孔体の引裂強度を高めることができる。さらに、シリコーンゴム基材(シリコーン樹脂)に対し、1wt%以上の有機系繊維を混合してシリコーン多孔体を形成することで、有機系繊維を含まずに同一条件でシリコーン多孔体を形成した場合と比べて、有機系繊維を含有するシリコーン多孔体の引裂強度を20%以上高めることができる。また、シリコーン原料に対し10wt%を超える有機系繊維を混合する場合には、シリコーン原料の架橋時にその形状を維持することが困難になる。このため、シリコーン原料に対する有機系繊維の混合割合は、0.5~10wt%の範囲とすることが好適である。また、架橋する際に副生成物が発生しない付加反応型のシリコーン原料を採用することで、シリコーン原料に対する有機系繊維の混合割合を0.5~10wt%の範囲とすることにより、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維の含有量(含有割合)を0.5~10wt%の範囲としたシリコーン多孔体を形成することができる。
【0028】
〔実験例〕
以下に、本発明に係るシリコーン多孔体の実験例を示す。このシリコーン多孔体は、予め選択されたシリコーン原料、水溶性気泡形成材(水溶性無機物および水溶性有機物)および有機系繊維を所定割合で混合し、得られたシリコーン混合物を汎用の押出機または2軸ロール、熱プレス等を使用して所定の板状に成形し、その後水溶性気泡形成材を除去してシリコーン多孔体を形成する。その後、日本産業規格JIS K6252:2007に準拠して、打ち抜き型を用いてシリコーン多孔体から厚み2.0mm、長さ100mmの切込みなしアングル形試験片を作成して引裂強度(N/mm)を測定した。各実験例および比較例の結果を、表1および表2に示す。ここで、シリコーン原料は、架橋する際に副生成物が発生しない二液付加反応型の液状シリコーン(Momentive社製、商品名:TSE3453T)であり、水溶性無機物は、NaCl(日本精塩(株)製、商品名:やき塩)であって、各実験例および比較例において何れも共通の材料を使用している。また、水溶性有機物は、前記式(1)で示されるアルキルエーテルであって、R1=炭素数12個のアルキル基、R2=H、n=7である水溶性有機物1、およびR1=R2=炭素数1個のアルキル基(メチル基)、n=4である水溶性有機物2から選択した水溶性有機物を各実験例および比較例において使用している。
【0029】
以下に、有機系繊維を含有しないシリコーン多孔体を比較例とし、有機系繊維または無機系繊維或いは添加剤を含有するシリコーン多孔体を実験例として、その測定結果を表1または表2に示す。
(比較例1)
シリコーン原料と水溶性気泡形成材(水溶性無機物および水溶性有機物1)との配合重量の合計量100wt%に対し、シリコーン原料を13wt%と、水溶性無機物を72wt%と、水溶性有機物1を15wt%とした総量5Lのベース原料を用意し、プラネタリーミキサー((株)愛工舎製作所)により回転数100rpmで20分間撹拌し、未架橋状態のシリコーン混合物を形成する。なお、撹拌温度は40℃とした。このシリコーン混合物を130℃に設定された熱プレスでシー卜状のシリコーン成形体とし、このシート状のシリコーン成形体を10分間過熱し、該成形体を架橋させた。
架橋したシート状シリコーン成形体を90℃に温調した温水に24時間浸漬し、前記水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出した。その後、乾燥機(100℃)で乾燥させることで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。
【0030】
(比較例2)
シリコーン原料と水溶性気泡形成材(水溶性無機物および水溶性有機物1)との配合重量の合計量100wt%に対し、シリコーン原料を6wt%と、水溶性無機物を81wt%と、水溶性有機物1を13wt%とした総量5Lのベース原料を用意し、前記比較例1と同様の手順により架橋してシート状シリコーン成形体とした後に水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。
【0031】
(実験例1)
実験例1は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維1を3.75wt%混合し、有機系繊維1を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例1の有機系繊維1は、超高分子ポリエチレン繊維(東洋紡株式会社製、商品名:イザナス)であって、繊維長0.4mm、繊維径80μmである。すなわち、実験例1における有機系繊維1のシリコーン原料に対する混合割合は3.75wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維1の含有割合は3.75wt%である。
【0032】
(実験例2)
実験例2は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維2を3.75wt%混合し、有機系繊維2を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例2の有機系繊維2は、超高分子ポリエチレン繊維(東洋紡株式会社製、商品名:イザナス)であって、繊維長0.8mm、繊維径80μmである。すなわち、実験例2における有機系繊維2のシリコーン原料に対する混合割合は3.75%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維2の含有割合は 3.75wt%である。
【0033】
(実験例3)
実験例3は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維2を1wt%混合し、有機系繊維2を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。すなわち、実験例3における有機系繊維2のシリコーン原料に対する混合割合は、1wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維2の含有割合は1wt%である。
【0034】
(実験例4)
実験例4は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維2を8wt%混合し、有機系繊維2を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。すなわち、実験例4における有機系繊維2のシリコーン原料に対する混合割合は、8wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維2の含有割合は8wt%である。
【0035】
(実験例5)
実験例5は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維3を3.75wt%混合し、有機系繊維3を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例5の有機系繊維3は、超高分子ポリエチレン繊維(東洋紡株式会社製、商品名:イザナス)であって、繊維長2mm、繊維径80μmである。すなわち、実験例5における有機系繊維3のシリコーン原料に対する混合割合は、3.75wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維3の含有割合は 3.75wt%である。
【0036】
(実験例6)
実験例6は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維4を3.75wt%混合し、有機系繊維4を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例6の有機系繊維4は、超高分子ポリエチレン繊維(東洋紡株式会社製、商品名:イザナス)であって、繊維長5mm、繊維径80μmである。すなわち、実験例6における有機系繊維4のシリコーン原料に対する混合割合は、3.75wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維4の含有割合は3.75wt%である。
【0037】
(実験例7)
実験例7は、シリコーン原料と水溶性気泡形成材(水溶性無機物および水溶性有機物2)との配合重量の合計量100wt%に対し、シリコーン原料を13wt%と、水溶性無機物を72wt%と、水溶性有機物2を15wt%とした総量5Lのベース原料を用意した。そして、このシリコーン原料に対して上記有機系繊維2を3.75wt%混合し、有機系繊維2を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物2とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。すなわち、実験例7における有機系繊維2のシリコーン原料に対する混合割合は3.75%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維2の含有割合は3.75wt%である。
【0038】
(実験例8)
実験例8は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維5を3.75wt%混合し、有機系繊維5を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例8の有機系繊維5は、ポリアミド繊維(ダイワボウポリテック株式会社製、商品名:NZ)であって、繊維長10mm、繊維径24μmである。すなわち、実験例8における有機系繊維5のシリコーン原料に対する混合割合は、3.75wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維5の含有割合は3.75wt%である。
【0039】
(実験例9)
実験例9は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維6を3.75wt%混合し、有機系繊維6を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例9の有機系繊維6は、ポリプロピレン繊維(ダイワボウポリテック株式会社製、商品名:PZ)であって、繊維長3mm、繊維径18μmである。すなわち、実験例9における有機系繊維6のシリコーン原料に対する混合割合は、3.75wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維6の含有割合は3.75wt%である。
【0040】
(実験例10)
実験例10は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例2と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維2を3.75wt%混合し、有機系繊維2を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。すなわち、実験例10における有機系繊維2のシリコーン原料に対する含有量は、3.75wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維2の割合は3.7wt%である。
【0041】
(実験例11)
実験例11は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して無機系繊維を3.75wt%混合し、無機系繊維を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例11の無機系繊維は、ガラス繊維(東洋紡株式会社製、商品名:PE9575)であって、繊維長4mm、繊維径40μmである。
【0042】
(実験例12)
実験例12は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して添加剤(無機系フィラー)を3.75wt%混合し、無機系繊維を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。この実験例12の添加剤(無機系フィラー)は、平均粒径8μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製、商品名:R重炭)である。
【0043】
(実験例13)
実験例13は、シリコーン原料と、水溶性無機物と、水溶性有機物1とを上記比較例1と同様の配合割合で混合したベース原料に、シリコーン原料に対して有機系繊維2を0.5wt%混合し、有機系繊維2を含有するベース原料を比較例1と同様の手順により撹拌すると共に架橋してシート状シリコーン成形体とした後に、水溶性無機物と水溶性有機物1とを抽出することで、シート状成形体に多数の気泡が3次元で連通しているシリコーン多孔体を得た。すなわち、実験例13における有機系繊維2のシリコーン原料に対する混合割合は、0.5wt%であり、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対する有機系繊維2の含有割合は0.5wt%である。
【0044】
【0045】
【0046】
表1または表2に示すように、実験例1~10,13で得られた有機系繊維を含有するシリコーン多孔体は、外観も水抽出により得られた気泡(セル)構造も良好であった。また、実験例1~10で得られた有機系繊維を含有するシリコーン多孔体の引裂強度(N/mm)は、実験例1~10の夫々との関係で、ベース原料に対するシリコーン原料の混合割合が対応する比較例1および比較例2に係る有機系繊維を含有しないシリコーン多孔体と比べて、20%を超えて引裂強度が向上することが分かる。なお、表1および表2において、引裂UP比率の項は、有機系繊維を含有しない比較例1または比較例2のシリコーン多孔体に対する引裂強度の比率(実験例の引裂強度/比較例の引裂強度)を百分率で表したものであり、実験例1~9,11~13は比較例1に対する値であり、実験例10は比較例2に対する値である。しかるに実験例11で得られた無機系繊維を含有するシリコーン多孔体や実験例12で得られた添加剤(無機系フィラー)を含有するシリコーン多孔体は、その外観こそは良好であるものの、シリコーン原料に対して同量の有機系繊維を混合した場合(実験例1~10)と比べて比較例1に係る有機系繊維を含有しないシリコーン多孔体からの引裂強度(N/mm)の向上割合は10%に満たず低いことが分かる(引裂UP比率が110%を超えず引裂強度の向上の程度が僅かである)。すなわち、シリコーンゴム基材に対して有機系繊維を含有するシリコーン多孔体は、シリコーンゴム基材に対して無機系繊維や添加剤を同等の割合で含有するシリコーン多孔体と比べて引裂強度の向上に優れることが分かる。また、実験例13からも分かるように、少量の有機系繊維を含有するシリコーン多孔体により無機系繊維や添加剤(無機系フィラー)を含有するシリコーン多孔体と同等の引裂強度を実現でき、シリコーン原料に対する有機系繊維の混合量を抑制しながらも優れた引裂強度の向上を図り得る。更に、実験例1~10,13で得られた有機系繊維を含有するシリコーン多孔体は、シリコーン多孔体を指で圧縮するように触れた際に異物感(チクチク感)がなく、触感が良好であった。一方で、実験例11の無機系繊維を含有するシリコーン多孔体では、シリコーン多孔体を指で圧縮するように触れた際に異物感(チクチク感)を生じ、触感が低下している。
【0047】
すなわち、実験例1~10、実験例13の結果から分かるように、シリコーン原料と、水溶性気泡形成材と、有機系繊維とを混合して形成したシリコーン混合物を架橋してシリコーン成形体とした後に、水溶性気泡形成材を抽出除去することで、シリコーンゴム基材内に有機系繊維を0.5wt%以上含んでなるシリコーン多孔体を製造することができ、優れた引裂強度を実現できることが分かる。また、実験例1~10の結果から、シリコーン原料に対し1~10wt%の有機系繊維を混合して前記シリコーン混合物を形成することで、シリコーンゴム基材のシリコーン樹脂に対して有機系繊維を1wt%以上含むシリコーン多孔体を得ることが可能となり、有機系繊維を含まないシリコーン多孔体と比べて引裂強度が20%を超えて向上することができることが分かる。