(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ねじれ計、スリットリング、軸馬力計、トルク計
(51)【国際特許分類】
G01L 3/12 20060101AFI20240405BHJP
G01L 3/10 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01L3/12
G01L3/10 317
(21)【出願番号】P 2019200515
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 英敏
(72)【発明者】
【氏名】渡部 輝
(72)【発明者】
【氏名】森田 精治
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-140831(JP,A)
【文献】特開2007-240421(JP,A)
【文献】実開昭60-017431(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00-3/26
G01B 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸のねじれ量を測定するねじれ計であって、
前記回転軸の軸方向に所定距離を隔てて前記回転軸に篏合され、円周方向に沿って所定領域に第1遮光部及びスリット部が交互に形成された二つのスリットリングと、
前記スリットリングのそれぞれに対応して設けられ、前記第1遮光部及び前記スリット部を光学的に検出し、検出結果を示すパルス信号を出力する光学式エンコーダと、
各前記光学式エンコーダからのパルス信号に基づいて前記回転軸のねじれ量を演算するねじれ量演算部と、を備え、
前記スリット部は、
第1のスリット幅を有する第1のスリットと、
前記第1のスリット幅よりも狭い第2のスリット幅を有し、前記円周方向における前記第1のスリットの両端側にそれぞれ設けられている第2のスリットと、
前記第1のスリットと前記第2のスリットとの間に設けられ、前記第1遮光部よりも幅が狭い第2遮光部と、
を有することを特徴とするねじれ計。
【請求項2】
回転軸の周面に設けられ、前記回転軸のねじれ量を測定するために用いられるスリットリングであって、
所定領域において円周方向に第1遮光部及びスリット部が交互に形成され、
前記スリット部は、
第1のスリット幅を有する第1のスリットと、
前記第1のスリット幅よりも狭い第2のスリット幅を有し、円周方向における前記第1のスリットの両端側にそれぞれ設けられている第2のスリットと、
前記第1のスリットと前記第2のスリットとの間に設けられ、前記第1遮光部よりも幅が狭い第2遮光部と、
を有することを特徴とする、スリットリング。
【請求項3】
請求項1に記載のねじれ計と、
前記ねじれ計の測定結果に基づいて前記回転軸に作用する軸馬力を演算する軸馬力算出部と、
を備えることを特徴とする軸馬力計。
【請求項4】
請求項1に記載のねじれ計と、
前記ねじれ計の測定結果と前記回転軸の軸回転数とに基づいて前記回転軸のトルクである軸トルクを演算する軸トルク算出部と、
を備えるトルク計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじれ計、スリットリング、軸馬力計、トルク計、弾性係数測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、回転軸に発生するねじれを測定するねじれ計が開示されている。
このねじれ計は、回転軸に独立して装着された検出リング間の変位を検出することによってネジレ角を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のねじれ計は、検出リングに対して非接触で電力を供給する電力供給系が必要であり、また測定データを無線送信する通信系も必要である。よって装置構成が複雑であり、コスト高になると共にメンテナンス性にも難がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、装置構成が従来よりも簡単になるねじれ計、スリットリング、軸馬力計、トルク計及び弾性係数測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、回転軸のねじれ量を測定するねじれ計であって、前記回転軸の軸方向に所定距離を隔てて前記回転軸に篏合され、円周方向に沿って所定領域に第1遮光部及びスリット部が交互に形成された二つのスリットリングと、前記スリットリングのそれぞれに対応して設けられ、前記第1遮光部及び前記スリット部を光学的に検出し、検出結果を示すパルス信号を出力する光学式エンコーダと、各前記光学式エンコーダからのパルス信号に基づいて前記回転軸のねじれ量を演算するねじれ量演算部と、を備えることを特徴とするねじれ計である。
【0007】
(2)上記(1)のねじれ計であって、前記スリット部は、第1のスリット幅を有する第1のスリットと、前記第1のスリット幅よりも狭い第2のスリット幅を有し、前記円周方向における前記第1のスリットの両端側にそれぞれ設けられている第2のスリットと、前記第1のスリットと前記第2のスリットとの間に設けられ、前記第1遮光部よりも幅が狭い第2遮光部と、を有してもよい。
【0008】
(3)本発明の一態様は、回転軸の周面に設けられ、前記回転軸のねじれ量を測定するために用いられるスリットリングであって、所定領域において円周方向に第1遮光部及びスリット部が交互に形成され、前記スリット部は、第1のスリット幅を有する第1のスリットと、前記第1のスリット幅よりも狭い第2のスリット幅を有し、前記円周方向における前記第1のスリットの両端側にそれぞれ設けられている第2のスリットと、前記第1のスリットと前記第2のスリットとの間に設けられ、前記第1遮光部よりも幅が狭い第2遮光部と、を有することを特徴とする、スリットリングである。
【0009】
(4)上記(1)又は上記(2)のねじれ計と、前記ねじれ計の測定結果に基づいて前記回転軸に作用する軸馬力を演算する軸馬力算出部と、を備えることを特徴とする軸馬力計である。
【0010】
(5)上記(4)の軸馬力計と、前記軸馬力算出部が演算した前記軸馬力に基づいて前記回転軸のトルクである軸トルクを演算する軸トルク算出部と、を備えるトルク計である。
【0011】
(6)本発明の一態様は、第1の回転軸と第2の回転軸とを軸方向に相互接続する継手の横弾性係数を測定する弾性係数測定装置であって、前記第1の回転軸の軸方向に所定距離を隔てて前記第1の回転軸に篏合され、円周方向に沿って所定領域に第1遮光部及びスリット部が交互に形成された第1,第2のスリットリングと、前記第2の回転軸の軸方向に篏合され、前記第1の回転軸の前記円周方向に沿って所定領域に第1遮光部及びスリット部が交互に形成された第3のスリットリングと、前記第1,第2,第3のスリットリングのそれぞれに対応して設けられ、前記第1遮光部及び前記スリット部を光学的に検出し、検出結果を示すパルス信号を出力する第1,第2,第3の光学式エンコーダと、前記第1,第2の光学式エンコーダからのパルス信号に基づいて前記第1の回転軸のねじれ量である第1のねじれ量を演算し、前記第1のねじれ量及び第1の回転軸の回転数に基づいて前記第1の回転軸に作用する軸馬力を演算する演算装置と、を備え、前記演算装置は、第1、第3の光学式エンコーダの各パルス信号に基づいて前記第2の回転軸のねじれ量である第2のねじれ量を演算し、前記軸馬力及び前記第2のねじれ量に基づいて前記横弾性係数を演算する、ことを特徴とする弾性係数測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、装置構成が従来よりも簡単になるねじれ計、スリットリング、軸馬力計、トルク計及び弾性係数測定装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る測定装置100の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係るリットリング1の概略構成図である。
【
図3】本実施形態に係る光学式エンコーダ2を説明する図である。
【
図4】本実施形態に係る位相差Φ1の算出方法を説明する図である。
【
図5】本実施形態に係る軸馬力SHP及び軸トルクQを説明する図である。
【
図6】第1の実施形態に係る演算部4の動作の流れを示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る測定装置200の概略構成の一例を示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係るスリットリング30の展開図である。
【
図9】第2の実施形態に係る作用効果を説明する図である。
【
図10】第2の実施形態に係る作用効果を説明する図である。
【
図11】本実施形態に係る弾性係数測定装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係るねじれ計、スリットリング、軸馬力計、トルク計、弾性係数測定装置を、図面を用いて説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る測定装置100の概略構成の一例を示す図である。
ここで、測定装置100は、回転軸Xのねじれ量δを検出する。第1の実施形態に係る測定装置100は、本発明の「ねじれ計」の一例である。
【0016】
ここで、回転軸Xは、特に限定されるものではないが、例えば船舶の主機関の出力軸とプロペラとを連結する中間軸である。中間軸は、一端が出力軸に連結され、他端がプロペラ軸の一端に連結されると共に中間軸受によって支持されている。前記プロペラ軸には、プロペラが装着されている。前記中間軸は、主機関の回転動力を、プロペラ軸を介してプロペラに伝達する力伝達部材であり、比較的大きなねじれ力が中心軸(回転中心)周りに作用する。なお、前記プロペラ軸は、船尾管軸受によって支持され、一端が中間軸の他端に連結されると共に他端にプロペラが装着固定されている。
【0017】
以下において、第1の実施形態に係る測定装置100について説明する。
図1に示すように、測定装置100は、二つのスリットリング1、二つの光学式エンコーダ2及び演算装置3を備えている。
【0018】
各スリットリング1は、回転軸Xに挿入され篏合されており、回転軸Xの軸方向に所定距離を隔てて平行対峙する円盤状の部材である。
図1及び
図2に示すように、スリットリング1は、円周方向に沿って所定領域10にスリット部11及び遮光部12が交互に形成されている。
図2(a)は、第1の実施形態に係るスリットリング1の全体図である。
図2(b)は、第1の実施形態に係るスリットリング1の展開図である。なお、
図2における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されている。
【0019】
各スリット部11は、スリットであって、円周方向の幅(以下、「スリット幅」という。)W1がすべて同一である。このスリット部11は、回転軸Xの軸方向の光を透過させる。
【0020】
各遮光部12(第1遮光部)は、回転軸Xの軸方向の光を遮る部分であって、円周方向の幅(以下、「遮光幅」という。)W2がすべて同一である。例えば、遮光部12は、スリットリング1の同一の部材によって形成されている。すなわち、所定領域10において、円周方向に沿って等間隔にスリット部11が形成されれば、遮光部12も形成される。なお、第1の実施形態では、スリット幅W1=遮光幅W2は同一であって、W(=W1=W2)と称する場合がある。
第1の実施形態のスリットリング1は、スリットリング1に形成されているスリット部11及び遮光部12の数には、特に限定されず、複数であればよい。
また、スリット部11及び遮光部12は、全周にわたって設けられていてもよいし、一部分のみに設けられてもよい。
【0021】
なお、二つのスリットリング1のそれぞれを区別する場合には、一方を「第1のスリットリング1A」と称し、他方を「第2のスリットリング1B」と称する。
【0022】
光学式エンコーダ2は、二つのスリットリング1のそれぞれに対応して設けられ、所定領域10において形成されたスリット部11及び遮光部12を光学的に検出する。そして、光学式エンコーダ2は、その検出結果を示すパルス信号Pを出力する。
例えば、光学式エンコーダ2は、
図3に示すように、発光部21及び検出部22を有する。
【0023】
発光部21は、検出部22に対向して設けられており、光を発生させて検出部22に向けて照射する。例えば、発光部21は、発光ダイオードである。
【0024】
検出部22は、発光部21からの光を検出(受光)した場合には、その検出結果に応じた信号(例えば、Hiレベルの信号)を出力し、発光部21からの光を検出していない場合には、その検出結果に応じた信号(例えば、Loレベルの信号)を出力する。このように、検出部22は、発光部21からの光の検出の有無に応じたパルス信号Pを出力する。検出部22は、例えば、例えば、フォトトランジスタやフォトICである。
【0025】
具体的には、対向する発光部21と検出部22との間に、スリットリング1の所定領域10が配置されている。発光部21と検出部22との間の光路上にスリット部11があると、発光部21から検出部22への光が遮られない非遮光状態となる。よって、検出部22は、発光部21からの光を検出してHiレベルのパルス信号Pを出力する。一方、発光部21と検出部22との間の光路上に遮光部12があると、発光部21から検出部22への光が遮られる遮光状態となる。よって、検出部22は、発光部21からの光を検出できないため、Loレベルのパルス信号Pを出力する。
なお、
図3に示す光学式エンコーダ2は、透過型のフォトインタラプタである場合を例として説明したが、これに限定されず、反射型のフォトインタラプタであってもよい。
【0026】
なお、二つの光学式エンコーダ2のそれぞれを区別することを目的として、第1のスリットリング1Aに対応して設けられている光学式エンコーダ2を「第1の光学式エンコーダ2A」と称し、第2のスリットリング1Bに対応して設けられている光学式エンコーダ2を「第2の光学式エンコーダ2B」と称する。さらに、第1の光学式エンコーダ2Aからのパルス信号Pを「パルス信号P1」と称し、第2の光学式エンコーダ2Bからのパルス信号Pを「パルス信号P2」と称する。
【0027】
演算装置3は、第1の光学式エンコーダ2A及び第2の光学式エンコーダ2Bからの各パルス信号P1,P2に基づいて回転軸Xのねじれ量δを演算する。
【0028】
演算装置3は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサ及び不揮発性又は揮発性の半導体メモリ(例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory))を備えてもよい。例えば、演算装置3は、MCUなどのマイクロコントローラであってもよい。例えば、演算装置3は、コンピュータである。また、演算装置3は、ねじれ量δに基づいて回転軸Xに作用する軸馬力SHPや軸トルクQを演算してもよい。第1の実施形態では、演算装置3は、ねじれ量δを演算し、ねじれ量δに基づいて軸馬力SHP及び軸トルクQを演算する場合について説明するが、これに限定されず、軸馬力SHP及び軸トルクQを演算しなくてもよい。なお、演算装置3がねじれ量δに基づいて軸馬力SHPを演算する場合には、第1の実施形態に係る測定装置100は、本発明の「軸馬力計」の一例である。なお、演算装置3がねじれ量δに基づいて軸トルクQを演算する場合には、第1の実施形態に係る測定装置100は、本発明の「トルク計」の一例である。
【0029】
演算装置3は、演算部4、軸馬力算出部5、軸トルク算出部6及び出力部7を備える。
【0030】
演算部4は、回転数演算部41及び位相演算部42を備える。なお、演算部4は、本発明の「ねじれ量演算部」の一例である。
【0031】
回転数演算部41は、第1の光学式エンコーダ2Aからのパルス信号P1に基づいて回転軸Xの回転数Nrpmを求める。例えば、回転数演算部41は、パルス信号P1における立上りのタイミングに基づいて回転軸Xの回転数Nrpmを求める。より具体的には、所定領域10の円周CPは、回転数演算部41に予め設定されている。例えば、円周CPは、スリット幅W1×スリット部11の数X1(W1×X1)と、遮光幅W2×遮光部12の数X2(W2×X2)と、の合計である。ここで、演算部4は、基準パルス信号Pbを生成している。基準パルス信号Pbの周波数fbは、既知である。基準パルス信号Pbの周波数fbは、パルス信号P1及びパルス信号P2よりも高く、例えば、数MHz~数百MHzである。回転数演算部41は、パルス信号P1がHiレベルの期間T1において、基準パルス信号Pbのパルス数をカウントする。そして、回転数演算部41は、その基準パルス信号Pbのパルス数のカウント値n1と周波数fbとを以下の式(1)に代入することで回転数Nrpmを算出する。
【0032】
Nrpm=W1÷(1秒×n1/fb)×60秒÷CP …(1)
【0033】
回転数演算部41は、算出した回転数Nrpmを軸馬力算出部5、軸トルク算出部6及び出力部7に出力する。
【0034】
位相演算部42は、第1の光学式エンコーダ2Aからのパルス信号P1と、第2の光学式エンコーダ2Bからのパルス信号P2とに基づいて、パルス信号P1とパルス信号P22との位相差Φ1を計測する。この位相差Φ1は、第1のスリットリング1Aにおける回転の位相と、第2のスリットリング1Bの回転の位相との差である。
【0035】
具体的には、
図4に示すように、位相演算部42は、回転軸Xが第2方向に回転している場合には、パルス信号P1におけるLoレベルからHiレベルへの立上がりのタイミングと、パルス信号P2におけるLoレベルからHiレベルへの立上がりのタイミングとの間の期間T2において、基準パルス信号Pbのパルス数をカウントする。そして、位相演算部42は、期間T2における基準パルス信号Pbのパルス数のカウント値を「n2」とする。一方、位相演算部42は、回転軸Xが第2方向とは反対方向の第1方向に回転している場合には、パルス信号P1におけるHiレベルからLoレベルへの立下がりのタイミングと、パルス信号P2におけるHiレベルからLoレベルへの立下がりのタイミングとの間の期間T3において、基準パルス信号Pbのパルス数をカウントする。そして、位相演算部42は、期間T3における基準パルス信号Pbのパルス数のカウント値を「n2」とする。なお、演算部4は、パルス信号P1及びパルス信号P2に基づいて回転軸Xの回転方向が第1方向か第2方向かを判定してもよいし、外部から回転軸Xの回転方向の情報を取得してもよい。回転方向の検出は、公知の技術を用いてもよい。例えば、第1のスリットリング1Aと第2のスリットリング1Bとは、半ピッチ(W/2)分だけずらして回転軸Xに篏合されている。よって、演算部4は、パルス信号P1がLoレベルからHレベルに立ち上がった時のパルス信号P2がLoレベルもしくは Hレベルのいずれかであるかで回転方向が第1方向か第2方向かを判別してもよい。
位相演算部42は、以下に示す式(2)を用いて、位相差Φ1を求める。
【0036】
Φ1=W1÷n1×n2 …(2)
【0037】
なお、上記式(2)で用いられるカウント値n1は、式(1)で用いられるカウント値n1である。
位相演算部42は、求めた位相差Φ1をねじれ量算出部43に出力する。
【0038】
ねじれ量算出部43は、位相差Φ1からオフセット位相差Φ0を差し引くことで、ねじれ量δを算出する。オフセット位相差Φ0は、ねじれ量δが発生していない状態(例えば、回転軸Xに負荷(例えば、プロペラ)が取り付けられていない状態)でのパルス信号P1とパルス信号P2との位相差である。このオフセット位相差Φ0は、例えば、二つのスリットリング1や二つの光学式エンコーダ2の取り付け誤差によって生じるものである。よって、オフセット位相差Φ0が無視できる程度に小さい値であるならば、ねじれ量算出部43は、位相差Φ1をねじれ量δとして算出してもよい。ただし、オフセット位相差Φ0が無視できない程度であるならば、ねじれ量算出部43は、位相差Φ1からオフセット位相差Φ0を差し引いた値をねじれ量δ(=Φ1-Φ0)として算出する。なお、オフセット位相差Φ0は、予め測定することが可能であり、既知の値(定数)として取り扱うことができる。したがって、ねじれ量算出部43は、予めオフセット位相差Φ0を格納し、そのオフセット位相差Φ0を考慮してねじれ量δを演算してもよい。ねじれ量算出部43は、ねじれ量δを軸馬力算出部5及び軸トルク算出部6に出力する。
【0039】
軸馬力算出部5は、演算部4からの回転数Nrpm及びねじれ量δに基づいて、回転軸Xに作用する軸馬力SHPを演算する。軸馬力SHP(kW)は、周知のように回転軸Xの軸トルクQ(Nm)及び軸回転数N(min-1)によって、以下に示す式(3)のように与えられる。また、軸トルクQ(Nm)は、回転軸Xの横弾性係数G(N/mm2)、極慣性モーメントJ(mm4)及び単位長さ当たりのねじれ角θ´(rad/mm)によって、以下に示す式(4)のように与えられる。
【0040】
SHP=(2・π・Nrpm・Q/60)×1/1000 …(3)
【0041】
Q=G・J・θ´/1000 …(4)
【0042】
極慣性モーメントJは、
図5に示すように回転軸Xの直径D(mm)によって式(5)のように表される。さらに、ねじれ角θ´(rad/mm)は、
図5に示すように回転軸Xにおける第1のスリットリング1Aと第2のスリットリング1Bとの間隔l(mm)、当該間隔l(mm)におけるねじれ角θ(rad)及びねじれ量δ(mm)並びに回転軸Xの半径r(mm)によって式(6)のように表される。なお、ねじれ量δ(mm)は、
図5に示すようにねじれ角θ(rad)に対応する回転軸Xの周面距離であって、第1のスリットリング1Aと第2のスリットリング1Bとの相対的なズレ量である。
【0043】
J=πD4/32 …(5)
【0044】
θ´=θ/l,θ=δ/r …(6)
【0045】
式(3)は、式(4)から式(6)により、下記の式(7)のように表される。
【0046】
SHP=(2・π・Nrpm・G・(D4・π/32)・δ/(l・r))/(6・107)…(7)
【0047】
ここで、式(7)で表されているパラメータのうち、回転数Nrpm及びねじれ量δ以外の物理量を定数として演算装置3に予め記憶している。よって、軸馬力算出部5は、回転数Nrpm及びねじれ量δを式(7)に代入することで軸馬力SHPを算出することができる。
【0048】
ここで、
図5の点a,bは第1のスリットリング1Aの基準点aと第2のスリットリング1Bの基準点bを示している。
図5では二つの基準点a,b間に周面上のオフセットがない状態を示しているが、実際にはオフセット量が存在する。このオフセット量は、回転軸Xが回転停止している状態における二つの基準点a,bの周面周りの位置偏差であって、上述のオフセット位相差Φ0に相当する。
【0049】
軸トルク算出部6は、演算部4からの回転数Nrpm及びねじれ量δに基づいて、式(4)~式(6)を用いて回転軸Xに作用する軸トルクQを演算する。
【0050】
出力部7は、回転数Nrpm、軸馬力SHP及び軸トルクQを外部に出力する。例えば、出力部7は、アナログ出力である。出力部7は、ねじれ量δを外部に出力してもよい。
【0051】
次に、第1の実施形態に係る演算部4の動作の流れについて、
図6を用いて説明する。
図6は、第1の実施形態に係る演算部4の動作の流れを示す図である。
事前に、演算部4は、無負荷状態である回転軸Xが所定回転数Nth未満で回転している場合に、位相差Φ1を求め、その位相差Φ1をオフセット位相差Φ0として記憶している。
回転軸Xが所定回転数Nth以上で回転すると、演算部4は、第1の光学式エンコーダ2Aからのパルス信号P1と、第2の光学式エンコーダ2Bからのパルス信号P2とに基づいて、パルス信号P1とパルス信号P22との位相差Φ1を計測する(ステップS101)。そして、演算部4は、当該位相差Φ1からオフセット位相差Φ0を差し引くことでねじれ量δを求める(ステップS102)。また、軸馬力算出部5は、回転軸Xの回転数Nrpm及びねじれ量δに基づいて、回転軸Xに作用する軸馬力SHPを演算する(ステップS103)。さらに、軸トルク算出部6は、回転軸Xの回転数Nrpm及びねじれ量δに基づいて回転軸Xに作用する軸トルクQを演算する(ステップS104)。
【0052】
このように、ねじれ量δ及び軸回転数Nrpmに基づいて軸馬力SHP(kW)及び軸トルクQ(Nm)を容易に求めることが可能である。したがって、第1の実施形態によれば、装置構成が従来よりも簡単なねじれ計、軸馬力計及びトルク計を提供することが可能である。
【0053】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る測定装置200について説明する。
図7は、測定装置200の概略構成の一例を示す図である。第2の実施形態の測定装置200は、第1の実施形態と比較して、スリットリング1における所定領域10の構成が異なる点で相違し、その他の構成については第1の実施形態と同様である。ここで、測定装置200は、本発明の「ねじれ計」、「軸馬力計」及び「トルク計」の一例である。
【0054】
以下において、第2の実施形態に係る測定装置200について説明する。
図7に示すように、測定装置200は、二つのスリットリング30、二つの光学式エンコーダ2及び演算装置3を備えている。
二つのスリットリング30は、回転軸Xに挿入され篏合されており、回転軸Xの軸方向に所定距離を隔てて平行対峙する円盤状の部材である。
図8に示すように、スリットリング30は、円周方向に沿って所定領域10にスリット部13及び遮光部14が交互に形成されている。
図8は、第2の実施形態に係るスリットリング30の展開図である。なお、
図8における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されている。
【0055】
各スリット部13は、第1のスリット15、二つの第2のスリット16及び二つの遮光部17を備える。スリット部13の円周方向の長さW3は、遮光部14の遮光幅W4よりも長い。
【0056】
第1のスリット15は、回転軸Xの軸方向の光を透過させるスリットである。第1のスリット15における円周方向の幅を「第1のスリット幅」と称する。
第2のスリット16は、回転軸Xの軸方向の光を透過させるスリットであり、周方向における第1のスリット15の両端側にそれぞれ設けられている。第2のスリット16における円周方向の幅を「第2のスリット幅」と称する。第2のスリット幅は、第1のスリット幅よりも狭い。
遮光部17(第2遮光部)は、回転軸Xの軸方向の光を遮る部分であって、遮光幅がすべて同一である。遮光部17は、第1のスリット15と第2のスリット16との間に設けられ、遮光部14よりも遮光幅が狭い。
【0057】
各遮光部14(第1遮光部)は、遮光部12に相当し、回転軸Xの軸方向の光を遮る部分であって、遮光幅W4がすべて同一である。例えば、遮光部14は、スリットリング1の同一の部材によって形成されている。
第2の実施形態のスリットリング30は、スリットリング30に形成されているスリット部13及び遮光部14の数には、特に限定されず、複数であればよい。
また、スリット部13及び遮光部14は、全周にわたって設けられていてもよいし、一部分のみに設けられてもよい。
【0058】
なお、二つのスリットリング30のそれぞれを区別する場合には、一方を「第1のスリットリング30A」と称し、他方を「第2のスリットリング30B」と称する。
第1の光学式エンコーダ2Aは、第1のスリットリング30Aに対応して設けられている。第2の光学式エンコーダ2Bは、第2のスリットリング30Bに対応して設けられている。
【0059】
次に、第2の実施形態に係るスリットリング30の作用効果について説明する。
検出部22は、発光部21からの光の光量(相対光量)Iqを検出(受光)する。そして、検出部22は、その相対光量Iqが閾値Iqth以上である場合にはHiレベルのパルス信号を出力し、相対光量Iqが閾値Iqth未満である場合には、Loレベルのパルス信号を出力する。ここで、パルス信号PのHiレベルのパルス幅Pwは、所定領域10に形成されたスリット部11のスリット幅W1と等しいことが理想である。ただし、光学式エンコーダ2の特性上、スリット幅W1=パルス幅Pwとはならない。
すなわち、相対光量Iqを示す光電流信号は、所定領域10に形成されたスリットの幅と等しい矩形波とはならず、実際には、
図9に示すように、フォトインタラプタの特性上、台形となる。検出部22は、この台形の光電流と閾値Iqthとを比較することでパルス信号Pを生成する。よって、実際に生成されるパルス信号Pのパルス幅Pwは、スリット幅W1と等しくならない。なお、閾値Iqthには、ヒステリシス幅が設定されてもよい。すなわち、閾値Iqthは、二つの第1閾値Iqth1及び第2閾値Iqth2を有してもよい。この場合には、相対光量Iqを示す光電流信号が第1閾値Iqth1を上回ると、パルス信号がHiレベルとなり、相対光量Iqを示す光電流信号が第1閾値Iqth1よりも低い第2閾値Igth2を下回るとパルス信号がLoレベルとなる。
【0060】
そこで、第2の実施形態に係るスリットリング30は、スリット幅(第1のスリット幅)がスリット幅W1よりも狭い第1のスリット15を有し、その第1のスリット15の両端側に第2のスリット16を設ける。そして、第1のスリット15と第2のスリット16との間に遮光部17を設ける。ここで、第1のスリット幅及び二つの遮光部17の遮光幅を合計した長さがスリット幅W1となる。
これにより、第2のスリット16を透過してくる光量により、
図10に示す相対光量Iqを示す光電流信号は、
図9に示す光電流信号よりも早く立ち上がり、且つ、遅く立ち下がる。これにより、光学式エンコーダ2は、パルス幅Pwがスリット幅W1であるパルス信号Pを生成することができる。
【0061】
(変形例)
次に、第1の実施形態に係る弾性係数測定装置について
図11を参照して説明する。
【0062】
この弾性係数測定装置は、主機関の出力軸Xsと回転軸X(中間軸)とを連結する継手300(軸カップリング)の横弾性係数Gc(N/mm2)を測定するものである。この継手300は、出力軸Xsと回転軸X(中間軸)とを軸方向(直線状)に相互接続する機械部品である。また、回転軸X(中間軸)及び出力軸Xsは、本発明の一対の回転軸に相当し、回転軸X(中間軸)は本発明における一方の回転軸に相当し、出力軸Xsは本発明における他方の回転軸に相当する。回転軸Xは、第1の回転軸に相当する。出力軸Xsは、第2の回転軸に相当する。
【0063】
この弾性係数測定装置は、上述した軸馬力計に第3のスリットリング1C及び第3の光学式エンコーダ2Cを追加すると共に、演算装置3に代えて演算装置3Cを備える。
【0064】
第3のスリットリング1Cは、スリットリング1と同一であり、
図11に示すように出力軸Xsの周面に設けられている。この第3のスリットリング1Cは、出力軸Xsに挿入され篏合されている。
【0065】
第3の光学式エンコーダ2Cは、光学式エンコーダ2と同一であり、出力軸Xsの周囲に固定設置され、上記第3のスリットリング1Cの所定領域10に形成されたスリット部11及び遮光部12を光学的に検出する。そして、第3の光学式エンコーダ2Cは、その検出結果を示すパルス信号P(P3)を出力する。
【0066】
演算装置3Cは、上述した演算装置3と同様に一種のコンピュータであり、第1~第3の光学式エンコーダ2A~2Cの各パルス信号Pに基づいて、継手300(軸カップリング)の横弾性係数Gc(N/mm2)を演算する。すなわち、この演算装置3Cは、上述したように第1、第2の光学式エンコーダ2A,2Bの各パルス信号Pに基づいて軸馬力SHP及び軸回転数Nrpmを演算すると共に、第1、第3の光学式エンコーダ2A,2Cの各パルス信号Pに基づいて出力軸Xsと回転軸X(中間軸)とのねじれ量δc(mm)を演算する。
【0067】
また、演算装置3Cは、このようにして得られた軸馬力SHP及び軸回転数Nrpm並びにねじれ量δc(mm)を下式(8)に代入することにより横弾性係数Gc(N/mm2)を演算する。なお、この式(8)において、lxは第1のスリットリング1Aと第3のスリットリング1Cとの間隔(mm)である。また、このような演算装置3Cは、本発明の横弾性係数演算部に相当する。
【0068】
Gc=(96・107・SHP・lx・r)/(π2・Nrpm・δc・104) …(8)
【0069】
なお、弾性係数測定装置は、第2の実施形態に適用してもよい。この場合には、第3のスリットリング1Cに代えて第3のスリットリング30Cとなり、第3のスリットリング30Cは、スリットリング30と同一の構成となる。
【0070】
このように、変形例によれば、回転軸Xの周面に所定距離を隔てに設けられた二つのスリットリング及び出力軸Xsの周面に設けられた1つのスリットリング並びに固定設置された第1~第3の光学式エンコーダ2A~2Cとの組み合わせに基づいて横弾性係数Gc(N/mm2)を取得するので、装置構成が従来よりも簡単な弾性係数測定装置を提供することが可能である。
【0071】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0072】
100 測定装置
1 スリットリング
2 光学式エンコーダ
3 演算装置
4 演算部(ねじれ量演算部)
5 軸馬力算出部
6 軸トルク算出部