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特許7466293二種類の材料を混合してなる補修材及び補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】二種類の材料を混合してなる補修材及び補修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240405BHJP
   E04F 15/12 20060101ALI20240405BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240405BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240405BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E04F15/12 L
C09D175/04
C09D7/61
C09D5/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019206087
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021080632
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519322842
【氏名又は名称】株式会社M&I
(74)【代理人】
【識別番号】100117145
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 純
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勇
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112782(JP,A)
【文献】特開昭60-038136(JP,A)
【文献】特開2017-176992(JP,A)
【文献】特開平04-304276(JP,A)
【文献】特開昭59-114374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04F 15/12
C09D 175/04
C09D 7/61
C09D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフローティング工程と着色工程とを有する木製の家具、器、額縁、床面又は壁における凹部、欠け、割れ、穴の被補修箇所に対して補修材を使用して補修する補修方法において、前記フローティング工程において、少なくともポリウレタン、有機溶剤及び水性媒体を含有し、かつ低乳白色によって透明性を有する水性ウレタン樹脂組成物からなる第一材料を被補修箇所上に被覆し塗膜を形成した後、前記着色工程において、少なくともポリウレタン、有機溶剤及び水性媒体を含有し、かつ低乳白色によって透明性を有する水性ウレタン樹脂組成物からなる第一材料と、少なくとも酸化鉄を破砕して得られた着色粉体を主体とする第二材料とを混合することによって精製された補修材を塗布した後、乾燥させることを特徴とする補修方法。
【請求項2】
前記補修方法における前処理工程として、欠落箇所を有する被補修箇所上にエポキシ樹脂を有する充填剤を凹部分に充填する工程を有することを特徴とする請求項に記載された補修方法。
【請求項3】
前記補修方法における補修材を塗布した後に、被補修箇所に第一材料を霧状にして吹き付ける艶調整工程を有することを特徴とする請求項又はに記載された補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製の家具、器、額縁、床面又は壁における凹部、欠け、割れ、穴等を補修し、又は接着するために使用される補修材に関し、特に有機溶剤特有の臭いを防止し、かつ安全性の高い補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
木製家具、床面又は壁における凹部、欠け、割れ、穴等を修繕し、又は接着するために使用される補修材は、補修する対象箇所の色味に合わせて、溶剤にカラーパウダーを混合し濃度や粘度を調整する必要がある。
このような施工前の混合調整には、施工者の技術・技能や経験が必要とされる難易度の高い工程である。
一方、屋内の補修には、補修後における補修材に起因する一般環境における低濃度曝露による発がん性や、補修材に含まれる揮発性物質の発散による人体に対する刺激症状が問題視されることも近年増加している。
本発明者は、第一にシックハウス症候群を防止し、発がん性物質を使用しない補修材による施工を行うため、新規なカラーパウダーと、当該カラーパウダーと親和性の高い新規な溶剤についての開発を行っている。
そして本発明者は、カラーパウダーとして無機顔料を主体として使用することを決定した。
【0003】
次に本発明者は、当該カラーパウダーと親和性の高い溶剤の開発に着手した。その結果、本発明者は、現在販売されている溶剤中に含まれる一部の有機溶剤に、シックハウス症候群や発がん性物質の原因があることを知り、そのような有機溶剤を含まず、かつ前記カラーパウダーと親和性の高い溶剤の組み合わせに苦心した。
また有機溶剤中に含まれる有機物が栄養となり黴が発生・増殖する可能性も考えられる。このような埃や黴は屋内の美観や家具等の外観を損ねるだけではなく、アレルギーやシックハウス症候群との関連も指摘されている。
又、近年の気候変動により、日本国内における高温多湿化は顕著になり、黴の成育状況、被害状況に大きな変化が現れている。そのようなことから、埃や黴が原因のアレルギー、シックハウス、真菌症といった問題は益々深刻度合いを増している。
又、アルコールを主成分とする溶剤は、汚れや黴の発生を予防する効果は低い。即ち、主成分となるアルコールは揮発性が高いため、効果の持続期間が短く、補修剤を塗布した後すぐに黴が発生する環境になってしまうという欠点があった。又、木材としてヒバ材が使用されている場合、アルコールを主成分とする補修材を使用すると、ヒバ独自の風合いが消滅してしまうことが知られている。
【0004】
その結果、現在使用されているカラーパウダーを溶融する溶剤の代わりに水性ウレタンを使用することを考え、実際に現場で補修実験を行った。
しかし水性ウレタンは、液体時には強い乳白色又は黄褐色を呈しており、補修後の養生期間中に、空気中の湿気と反応して硬化する過程で半透明からほぼ無色透明になるという性質を有している。
そのため水性ウレタンを使用して補修を行っても施工自体に問題はないが、施工準備の段階で問題点が明らかとなった。それは、施工を行う前に補修する箇所の周辺部と補修材の色味を検討し、溶剤に混合するカラーパウダーの割合を決定する段階である。
その際、従来の油性や水性溶剤は、乳白色又は黄褐色を有し、硬化後に変色するため、液体状態では補修する箇所の周辺部との色のマッチングが難しく、相応の経験や技能が要求されることが判明した。また、大気中の湿度の関係や紫外線の照射等による外部要因によって、必ずしも一定の割合で無色透明になるわけではなく、一部に乳白色や黄褐色を残す場合があり得る。
【0005】
また現在、補修剤を塗布した後に艶調整の工程として主に以下の手法が知られている。
かかる手法は、フローリング等のピースをマスキングテープで囲い、艶調整液を塗布し、乾燥後にマスキングテープを剥離する方法である。しかし、マスキングテープでピースを囲う手法をとる場合、艶調整剤入りの水性ウレタンや水性ワックスを塗布することができるため、発ガン性のある有機溶剤を使用することなく作業ができるが、艶調整を行なった部分と行なっていない部分の境目が明瞭になる場合も多い。また、有機溶剤を含む場合は、有機溶剤特有の刺激臭があり発がん性などの人体への影響が懸念される。更に、水性材料を含む場合は、噴霧されるミストの粒子が粗いことと、それに起因して艶調整の添加剤としての炭酸マグネシウムが白い粒状に噴霧されることが多く、補修該当部位に白い点のように付着することがしばしば起こることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-53500号公報
【文献】特許第6085357号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、補修材に起因する一般環境における低濃度曝露による発がん性を抑制し、補修材に含まれる揮発性物質の発散による人体に対する刺激症状を抑制し得る補修材を提供することを目的とする。
施工前における補修材の混合工程において、施工者の技術・技能や経験を大幅に軽減できる補修材を提供することを目的とする。
本発明は、完全に溶融し合う第一材料と第二材料との組み合わせからなる補修材を提供することを目的とする。
更に本発明は、マスキングテープを使用することなく簡易な方法によって艶調整を行い、補修箇所が目立たない自然な風合いを保持しながら発がん性などを有しない水性の材料(第一材料等)を用い、なおかつ従来の有機溶剤(ラッカー系)の缶スプレーでの良好な仕上がりと遜色ない仕上がりを期待できる工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の問題点を解決するため、以下の構成を有する補修材を採用した。
(1)本発明は、第一材料と第二材料とから構成される補修材であって、前記第一材料が少なくともポリウレタン、有機溶剤及び水性媒体を含有し、かつ低乳白色によって透明性を有する水性ウレタン樹脂組成物からなり、前記第二材料が少なくとも破砕された酸化鉄を主体とする着色粉体からなる構成されていることを特徴とする二種類の材料を混合してなる補修材である。
本発明は、少なくとも二種類の材料を混合して製造される補修材に関するものである。上記二種類の材料以外を混合して得られる補修材であっても、本発明の上記組成から構成される補修材の効果を保有している補修材は、全て本発明の技術的範囲に属することになる。
ここで第一材料としては、例えば、ポリウレタン、アルコール系溶剤、水及び添加剤を混合して得られる水性ウレタン樹脂組成物等のことである。
本発明の第一材料を構成するポリウレタンは、主鎖にウレタン結合をもつ液体状のウレタン樹脂のことである。
現在の補修材は主に有機溶剤系のものが使用されているが、本発明では水性でかつ塗膜性能に優れた材料を選択している点に特徴がある。
【0009】
また本発明の第一材料を構成する有機溶剤としては、例えば、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノーノルマルーブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、オルトージクロルベンゼン、キシレン、クレゾ-ル、コルベンザン、酢酸イソビチル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、酢酸ノルマルーブチル等を主成分とするものが挙げられる。もちろん補修材用の有機溶剤として好適に使用できるのであれば、上記以外の材料を主成分とするものも含まれる。
また本発明に使用される水性媒体とは、主として水素と酸素の化合物を意味するが、無色透明のものであれば、重水や不純物を有する広義の意味で使用される水も含むものである。
更に本発明の第一材料は低乳白色によって透明性を有していることが必須である。現在市販されている一般的な補修材用のウレタン樹脂を有する溶剤は、乳白色を有している。
【0010】
本発明における透明性を有する材料とは、透視度が6mmを超えるものをいう。ここで定義される透視度とは、透視度を計測するサンプル溶液を、直径100mm、高さ80mmのビーカーに少しずつ充填して計測した値である。木の模様を印刷した標識紙の上にビーカーを載置する。かかる状態において、空のビーカーにサンプル溶液を少しずつ充填し、目視によって標識紙の木の模様が判別できなくなる水深をmmで表したものが、本発明における透視度である。本発明に使用される第一材料は、透視度が6mmを超えることが必要である。
【0011】
本発明の第二材料は、金属鉄を酸素によって酸化して得られた酸化鉄を粉砕して得られた着色粉体である。ここで酸化鉄は顔料として使用できるものであれば、どのような方法で生産されたものも含まれる。例えば、天然の酸化鉄であるいわゆる黄土や、水和酸化鉄を主成分とし、ケイ酸コロイドと少量のマンガンを含む天然の土を原料とするシェンナや、含水酸化鉄を主要顕色成分とするオーカーや、二酸化マンガンを含むアンバー等が挙げられる。
現在の補修材における着色材料は、主に絵具等のペースト状のものが使用されている。しかし、ペースト状のものは保管年数が短期間であり、蓋をした状態であっても経年によって硬化してしまい、再度使用することが困難になる。一度開封したものは、より劣化期間が短縮する傾向にある。
本発明に使用される第二材料は、酸化鉄を粉砕して得られた着色粉体であることから、半永久的に保管できる効果を有する。また第一材料と第二材料とを完全に分けて保存することができるため、被補修箇所の色目に応じて、第一材料と第二材料との混合割合を調整することができ塗料の隠蔽力を操作できる利点もある。
更に本発明に使用される第二材料は、酸化鉄を粉砕して粉状にしたものであることから、本発明に使用される第一材料との溶融を阻害する不純物の混入がないため、無機顔料として純度が高く、水性ウレタン樹脂組成物への溶融性に優れているという利点が挙げられる。例えば、モホーク社の製造している着色材料を本発明に使用される第一材料に混合した場合、完全に溶融せず、玉のような残留物が発生する場合がある。
【0012】
(2)本発明は、前記第一材料と前記第二材料の混合比率が、20重量%~70重量%:30~80重量%であることを特徴とする上記(1)に記載された二種類の材料を混合してなる補修材である。
第二材料の混合比率が80重量%を超えると、補修材に固形分が残留し、泥のようなペースト状態になり流動性を失うため被補修箇所に塗布することが困難となる。一方、第二材料の混合比率が塗料としての機能を失うため被補修箇所に塗布することが困難になってしまうため、補修剤としての効果を奏することが困難となる。
【0013】
(3)本発明は、少なくともフローティング工程と着色工程とを有する木製の家具、器、額縁、床面又は壁における凹部、欠け、割れ、穴の被補修箇所に対して補修材を使用して補修する補修方法において、前記フローティング工程において、低乳白色によって透明性を有する水性ウレタン樹脂組成物からなる第一材料を被補修箇所上に被覆し塗膜を形成した後、前記着色工程において、少なくともポリウレタン、有機溶剤及び水性媒体を含有し、かつ低乳白色によって透明性を有する水性ウレタン樹脂組成物からなる第一材料と、少なくとも酸化鉄を破砕して得られた着色粉体を主体とする第二材料とを混合することによって精製された補修材を塗布した後、乾燥させることを特徴とする補修方法である。
(4)本発明は、前記補修方法における前処理工程として、欠落箇所を有する被補修箇所上にエポキシ樹脂を有する充填剤を凹部分に充填する工程を有することを特徴とする上記(3)に記載された補修方法である。
【0014】
(5)本発明は、前記補修方法における補修材を塗布した後に、被補修箇所に第一材料を霧状にして吹き付ける艶調整工程を有することを特徴とする上記(3)又は(4)に記載された補修方法である。
ここで第一材料を霧状に吹き付ける方法としては、エアブラシと呼ばれる塗装器具を用いて該当補修部位に吹き付ける施工法が挙げられる。このような艶調整工程を用いることによって、従来の有機溶剤缶スプレー式艶調整剤の仕上がりに遜色ない艶調整をより簡便に行うことができる。例えば、本発明の艶調整工程を採用すれば、フローリング等にマスキングテープで囲う必要性がなくなり、更にエアにより第一材料を霧状にして吹き付ける為、自然に境目を暈して該当部位にコーティング塗布を行うことも可能となる。
本発明の補修方法を採用することによって、発がん性を有しない水性材料でかつ高品質な仕上がりを実現でき、高品質の補修を全工程において発がん性のある有機溶剤を用いないで完了できる。特に艶調整缶スプレーを単純に使用しても添加剤が白く該当部位に付着する現象が発生し、レベルの高い結果を満足に得られないことがある。更に、有機溶剤(ラッカー系)缶スプレーを使用する場合は、発がん性材料を排除するができず、また刺激臭が強く、本発明の効果を達成することは困難である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る補修材は、補修材に起因する一般環境における低濃度曝露による発がん性を抑制し、補修材に含まれる揮発性物質の発散による人体に対する刺激症状を抑制し得る効果を奏する。
本発明に係る補修材は、補修前と補修後における材料の変色を抑止することによって、施工前における補修材の混合工程において、施工者の技術・技能や経験を大幅に軽減できるという優れた効果を奏する。
また本発明は、完全に溶融し合う第一材料と第二材料とから構成されるため、数多くの補修状況に簡便に対応し得る補修材を提供するという優れた効果を奏する。
更に本発明は、マスキングテープを使用することなく簡易な方法によって艶調整を行うことが可能となり、また補修箇所が目立たない自然な風合いを保持しながら発がん性などを有しない水性の材料(第一材料)を用い、なおかつ従来の有機溶剤(ラッカー系)の缶スプレーでの良好な仕上がりと遜色ない仕上がりを期待できる工法を提供するという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態の一例を記載する。以下に記載する実施形態は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。
実施形態1
本発明の実施形態1に係る補修剤は、以下の第一材料と第二材料を混合して形成される。
(1)第一材料
ウレタン樹脂 :33.1重量%
アルコール系溶剤 : 1.8重量%
水 :63.6重量%
添加剤 : 1.5重量%
本実施形態1に使用される第一材料は低乳白色によって透明性を有している。透視度は50mmであった。
因みに現在補修剤の有機溶剤として使用されているウレタン樹脂(モホーク社製)は、透視度が6.0mmであった。
【0017】
(2)第二材料
白色顔料:酸化チタン
赤色顔料:朱
青色材料:紺青
その他、全36種類のカラーパウダー
【0018】
上記36種類のカラーパウダーやアニリンを混ぜ合わせることによりほとんどの木製の床や家具の色を表現することができる。
補修する床や家具の色を把握し、調和するカラーパウダーを塗料皿に準備する。第一材料50重量%と第二材料50重量%を混合した。第一材料と第二材料の配合割合は、第一材料:第二材料=20~70重量%:30~80重量%の間で混合するのが好ましい。
また被補修箇所の色目に併せて、2種類以上のカラーパウダーを混合しても良い。
本発明に係る補修剤は、第一材料の透明性が高いため、被補修部分の色目との調整を簡単に行うことができる。すなわち、従来の透明度6.0mmの強乳白色の第一材料を使用すると、カラーパウダーを配合した際に第一材料の乳白色と混濁し、意図する乾燥後の色を調合することが困難になる。
一方、本実施形態の第一材料は、透視度50mmを有することから透明度が高いため、カラーパウダーを配合する段階で最終的に得られる色目の想定をたやすく行うことができる。したがって、本実施形態1に係る補修剤を使用することによって、混合された材料の乾燥前と乾燥後における材料の変色を抑止することができるため、施工前における補修材の混合工程において、施工者の技術・技能や経験を大幅に軽減できるという優れた効果が認められる。
【0019】
実施形態2
本発明に係る補修方法を使用して、床(フローリング)に付いた傷の補修を行った。
工程1
まず充填材として2液型エポキシ樹脂によるパテを選択し、主剤と硬化剤を手の中で充分に練る。主剤と硬化剤が混ざることにより化学反応によって約1020分で硬化がはじまる。
樹脂の硬化が始まる前にフローリングの凹部分に充填する。凹みに充填された樹脂が充分に硬化したことを確認する。
【0020】
工程2
次にサンドペーパーを使用して、凹部分を更に平滑にする。
サンドペーパー240番を用意し、サンドペーパーを「すり板」に巻きつける。すり板としては、木片等を使用する。サンドペーパーによって凹み箇所を削ってより平らにします。
【0021】
工程3
次に凹み部分における色を戻す工程に移る。
現状、凹みや傷部にパテが埋まって平らになっている状態である。
木部の色つけに必要な主な道具や材料は以下の通りである。
・低乳白色によって透明性を有する第一材料
ポリウレタン樹脂33重量%
アルコール系溶剤2重量%
水63重量%
添加剤2重量%
・第二材料
キャラフカラーパウダー
キャラフアニリンリキッド(合成染料添加液剤)
・不織布(布おむつ)
・平筆
・水
【0022】
(1)フローティング
フローティングとは、着色の前段階に行う作業工程であり、着色と着色の間に任意に行う工程である。着色をした塗膜の表面はなだらかではない為、光を乱反射する。その為、実際の色味よりも乱反射の影響で白っぽく見えてしまう。
その為、水性ウレタンを不織布に含ませて、着色した塗膜面に塗布する。この工程を施すことにより最初に着色した塗膜の上に一層塗膜が形成される。その結果、塗膜面がなだらかになり、光の乱反射が抑制され実際の色味が可視化される。
次に15cm×15cmの不織布をたたみ、第一材料を染み込ませてパテとパテ周辺に塗布する。これによって白っぽさを消去する。その後、ドライヤーで乾かしながら数回このフローティングの工程を繰り返す。
【0023】
(2)着色
塗料皿において、上記の第一材料と第二材料を混合する。
第二材料としては、36種類の色が用意されており、この36種類のパウダーやアニリンを混ぜ合わせることによりほとんどの木製の床や家具の色を表現することができる。
また第二材料において、パウダーの量に対してリキッドを多く入れれば色の隠蔽力を弱めることができる。一方、パウダーの比率を高くすれば隠蔽力は強くなる。
塗料皿から任意の量の第二材料をとり、筆でパテの上に塗布する。
次に第二材料を塗布した箇所をフローティングする。
フローティング後に、色彩の調整作業を行う。例えば、明度の明るい又は暗い色のパウダーを溶いて平筆または面相筆で上から塗る。
ある程度色がマッチした状況で、次に面相筆を使って木目を再現する。
(3)コーティング塗装
第一材料には、主に艶あり、半艶、つや消しの3種類がある。第一材料を着色した被着色箇所の上から艶を調整するためのコーティング塗装を行う。
【0024】
以下、被補修箇所がフローリングの場合を例に説明する。
(実施例1)
フローリングの艶調整は、フローリングのピース(板と板の切れ目)を考慮して艶を調整する。
第一にフローリングのピースをマスキングテープで囲む。第二にすり板に不織布(オムツ布)を3重くらいにして巻きつけてから不織布にリキッドを染み込ませて、ピースの中にリキッドを塗布する。ここでリキッドはグロス、エクストラマット(つや消し)、シルクマット(半つや)の3種類があり、フローリングの艶に適合するものを適宜選択して塗布する。
リキッドは例えばグロスとシルクマットを混ぜて使用することも可能である。また、グロスを塗布し乾燥させた後にシルクマットを重ねて塗布することも可能である。周囲と艶が合うように適宜選択する。
良い仕上がりになるまで繰り返しリキッドを重ねて塗布しても良い。
【0025】
(実施例2)
従来より、有機溶剤(ラッカー系)の缶スプレー式艶調整剤が広く使われており、艶調整に優れた効果があることが知られているが、第一材料をエアブラシと呼ばれる塗装器具を用いて該当補修部位に吹き付けることで、従来の有機溶剤缶スプレー式艶調整剤の仕上がりに遜色ない艶調整を行うことができる。
前記例1との相違点としては、フローリングにピースをマスキングテープで囲う必要がなくなる点が挙げられる。
すなわちエアにより第一材料を霧状にして吹き付ける為、自然に境目を暈して該当部位にコーティング塗布を行うことができる。例2の塗装方法は、木製の家具にも有用な方法である。
この艶調整の工法により修理おける工程全てについて有機溶剤を用いずに完了させることが可能である。