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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20240405BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/0637 20160101ALI20240405BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240405BHJP
【FI】
H01M8/02
H01M8/0247
H01M8/0637
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019224871
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021093340
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】猪野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健司
(72)【発明者】
【氏名】鄭 光珍
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智史
(72)【発明者】
【氏名】日野 良太
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特許第6524309(JP,B1)
【文献】特開平02-040862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/06
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスを改質して得られた水素が供給される燃料極、空気中の酸素が供給される空気極、及び前記燃料極及び空気極の間に介在して前記空気極に供給された空気中の酸素イオンを前記燃料極に透過させ得る電解質を有して電力を発生させ得るセルと、
前記燃料極に供給される燃料ガスの流通経路に配設され、前記セルによる発電に伴って前記燃料極で生じる水蒸気を保持して前記燃料ガスに混合させ得るとともに、前記燃料ガスを反応させて水素を生成し得る改質触媒を具備し、当該改質触媒による触媒反応にて生成された水素を前記燃料極に供給し得る水蒸気保持部材と、
燃料ガスを流通させ得る燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダと、
前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダに取り付けられるとともに、前記水蒸気保持部材の表面側の複数位置に向かって燃料ガスをそれぞれ噴出し得る複数の噴出口が形成された遮蔽板と、
を有した燃料電池システムであって
前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダと前記遮蔽板との間には、供給される燃料ガスを収容しつつ前記複数の噴出口を介して噴出させ得る収容空間が形成され、前記燃料ガスは前記収容空間に収容されて昇圧されつつ前記複数の噴出口のそれぞれから噴出されることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
記複数の噴出口は、前記遮蔽板に形成された複数の貫通孔から成ることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダは、所定部位に凹形状を有し、当該凹形状を前記遮蔽板が覆った状態で取り付けられることにより前記収容空間が形成されることを特徴とする請求項記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記収容空間に燃料ガスを導入する導入流路及び当該収容空間から燃料ガスを排出する排出流路は、前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダに形成された切欠きから成ることを特徴とする請求項記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記遮蔽板と前記水蒸気保持部材との間には、前記複数の噴出口から噴出された燃料ガスを収容し得る供給空間を有することを特徴とする請求項2~の何れか1つに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスを改質して得られた水素が供給される燃料極と、空気中の酸素が供給される空気極と、燃料極及び空気極の間に介在して空気極で生成された酸素イオンを燃料極に透過させ得る電解質とを有して電力を発生させ得るセルを有する燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素や炭化水素などを燃料とし、酸素と電気化学反応させることで電力を発生させ得る燃料電池システムは、エネルギー変換効率が高いことが知られており、近年において、種々形態の燃料電池システムが提案されている。ただし、炭化水素を燃料とした場合は、炭化水素から水素を生成する改質反応が必要となり、炭化水素を水と反応させる水蒸気改質により水素を作ることが行われている。この水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、600℃以上の温度が必要となり、常に600℃以上の熱を供給し続ける必要があるとともに、水を加熱するなどして水蒸気を発生させて供給する必要もある。特に、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)と称される燃料電池は、600℃以上の温度で運転され、発電で生じる温度と燃料である炭化水素から水素を生成する改質反応の温度が近似していることから、燃料電池の排熱を利用して炭化水素から水素を生成(改質反応)することが可能とされており、発電効率がより高いものとされている。
【0003】
一方、本出願人は、燃料電池による発電に伴って燃料極から水蒸気が発生することに着目し、その水蒸気を保持して改質に直接利用することを提案した(特許文献1参照)。かかる従来の燃料電池システムは、水蒸気を保持し得るとともに燃料ガスを反応させて水素を生成し得る改質触媒を有した水蒸気保持部材を具備し、かかる水蒸気保持部材によって、セルによる発電に伴って燃料極で生じる水蒸気を保持して燃料ガスに混合させるとともに、改質触媒によって生成した水素を燃料極に供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6524309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダに形成された溝形状の一方側に燃料ガスの導入口及び他方側に燃料ガスの排出口をそれぞれ形成し、導入口から導入した燃料ガスを溝形状で流通させつつ水蒸気保持部材に供給していたので、溝形状の上流側から燃料ガスが集中して水蒸気保持部材に供給されてしまい、運転条件によっては煤が発生してセルが破損してしまう虞があった。
【0006】
特に、上記従来技術においては、燃料極から発生した水蒸気を保持して改質触媒による改質反応に利用していたので、過多の水蒸気を外部から供給して改質に利用するものに比べ、煤の発生原因である熱分解反応が過大となり易く、セルの寿命を短くする要因にもなっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、水蒸気保持部材に対して燃料ガスを均等に供給することができ、煤の発生を抑制することができる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、燃料ガスを改質して得られた水素が供給される燃料極、空気中の酸素が供給される空気極、及び前記燃料極及び空気極の間に介在して前記空気極に供給された空気中の酸素イオンを前記燃料極に透過させ得る電解質を有して電力を発生させ得るセルと、前記燃料極に供給される燃料ガスの流通経路に配設され、前記セルによる発電に伴って前記燃料極で生じる水蒸気を保持して前記燃料ガスに混合させ得るとともに、前記燃料ガスを反応させて水素を生成し得る改質触媒を具備し、当該改質触媒による触媒反応にて生成された水素を前記燃料極に供給し得る水蒸気保持部材と、燃料ガスを流通させ得る燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダと、前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダに取り付けられるとともに、前記水蒸気保持部材の表面側の複数位置に向かって燃料ガスをそれぞれ噴出し得る複数の噴出口が形成された遮蔽板とを有した燃料電池システムであって前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダと前記遮蔽板との間には、供給される燃料ガスを収容しつつ前記複数の噴出口を介して噴出させ得る収容空間が形成され、前記燃料ガスは前記収容空間に収容されて昇圧されつつ前記複数の噴出口のそれぞれから噴出されることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の燃料電池システムにおいて、前記複数の噴出口は、前記遮蔽板に形成された複数の貫通孔から成ることを特徴とする。
【0011】
請求項記載の発明は、請求項記載の燃料電池システムにおいて、前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダは、所定部位に凹形状を有し、当該凹形状を前記遮蔽板が覆った状態で取り付けられることにより前記収容空間が形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項記載の発明は、請求項記載の燃料電池システムにおいて、前記収容空間に燃料ガスを導入する導入流路及び当該収容空間から燃料ガスを排出する排出流路は、前記燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダに形成された切欠きから成ることを特徴とする。
【0013】
請求項記載の発明は、請求項2~の何れか1つに記載の燃料電池システムにおいて、前記遮蔽板と前記水蒸気保持部材との間には、前記複数の噴出口から噴出された燃料ガスを収容し得る供給空間を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、水蒸気保持部材の表面側の複数位置に向かって燃料ガスをそれぞれ噴出し得る複数の噴出口を具備したので、水蒸気保持部材に対して燃料ガスを均等に供給することができ、煤の発生を抑制することができる。
また、燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダと遮蔽板との間には、供給される燃料ガスを収容しつつ複数の噴出口を介して噴出させ得る収容空間が形成されたので、収容空間がチャンバとして機能して複数の噴出口からの燃料ガスの噴出量を略均等にすることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、燃料ガスを流通させ得る燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダと、燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダに取り付けられた遮蔽板とを具備するとともに、複数の噴出口は、遮蔽板に形成された複数の貫通孔から成るので、複数の噴射口を所定の位置に精度よく且つ容易に形成することができる。
【0017】
請求項の発明によれば、燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダは、所定部位に凹形状を有し、当該凹形状を前記遮蔽板が覆った状態で取り付けられることにより収容空間が形成されるので、燃料電池システムの形態に応じて収容空間の容量や形成位置を容易に設定することができる。
【0018】
請求項の発明によれば、収容空間に燃料ガスを導入する導入流路及び当該収容空間から燃料ガスを排出する排出流路は、燃料極側セパレータ又は燃料極側ホルダに形成された切欠きから成るので、切欠きの大きさや位置又は数を任意に設定して形成することにより、収容空間に導入される燃料ガスの流量や収容空間から排出される燃料ガスの流量を任意に調整することができる。
【0019】
請求項の発明によれば、遮蔽板と水蒸気保持部材との間には、複数の噴出口から噴出された燃料ガスを収容し得る供給空間を有するので、水蒸気保持部材の表面側に亘って燃料ガスをより均等に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムを示す平面図及び正面図
図2図1におけるII-II線を断面した模式図
図3】同燃料電池システムにおけるセルを示す断面模式図
図4】同燃料電池システムを示す分解斜視図
図5】同燃料電池システムにおける燃料極側セパレータ(遮蔽板の取り付け前)を示す斜視図
図6】同燃料電池システムにおける遮蔽板を示す3面図
図7】同燃料電池システムにおける燃料極側セパレータ(遮蔽板の取り付け後)を示す平面図
図8図7におけるVIII-VIII線を断面した模式図
図9】同燃料電池システムにおける空気極側セパレータを示す平面図
図10】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システムを示す平面図及び正面図
図11】同燃料電池システムにおけるXI-XI線を断面した模式図
図12】同燃料電池システムを示す分解斜視図
図13】同燃料電池システムにおける遮蔽板を示す3面図
図14】同燃料電池システムにおける燃料極側ホルダ(遮蔽板の取り付け前)を示す斜視図
図15】同燃料電池システムにおける燃料極側ホルダ(遮蔽板の取り付け後)を示す平面図
図16図15におけるXVI-XVI線を断面した模式図
図17】同燃料電池システムにおける空気極側ホルダを示す平面図
図18】本実施形態による技術的優位性を示す実験結果のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
第1の実施形態に係る燃料電池システムは、図1~9に示すように、燃料ガスを改質して得られた水素が供給される燃料極1aと、空気中の酸素が供給される空気極1bと、燃料極1a及び空気極1bの間に介在して空気極1bで生成された酸素イオンを燃料極1aに透過させ得る電解質1cとを有して電力を発生させ得るセル1を有するもので、燃料極側セパレータ2(燃料極側端子)及び空気極側セパレータ3(空気極側端子)と、排気側マニホールド4及び供給側マニホールド5と、シール材(6~10)と、水蒸気保持部材11と、集電体12と、遮蔽板13とを具備している。なお、本実施形態においては、平板型構造の単セルを有する燃料電池システムに適用されている。
【0022】
セル1は、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)と称されるもので、燃料電池システムに組み込まれて使用されている。かかるセル1は、固体の電解質1cを燃料極1a(アノード)及び空気極1b(カソード)にて挟持した積層構造を有しており、全体が固体から成るものとされている。なお、セル1を構成する固体酸化物形燃料電池等の高温型燃料電池システムは、セルの発電で生じる温度と改質反応の温度が近似していることから、燃料電池の排熱を利用して炭化水素から水素を生成(改質反応)することが可能とされており、発電効率がより高いものとされている。
【0023】
セル1の電解質1cは、セラミック類(ZrO、CeO、Ga系酸化物)等の酸素イオン導電性物質から成り、一方の面に燃料極1aが接触して形成されるとともに他方の面に空気極1bが接触して形成されている。燃料極1a(アノード)は、例えば電解質1cの原料を含み、触媒(NiO等)と造孔剤を混ぜて焼成して得られた電極から成るもので、燃料ガスを改質して得られた水素が供給されるとともに、水蒸気保持部材11及び遮蔽板13を介して燃料極側セパレータ2と電気的に接続されている。また、セル1の空気極1b(カソード)は、例えばランタン、ストロンチウム、コバルト等の金属酸化物等を含む電極から成るもので、空気中の酸素が供給されるとともに、集電体12を介して空気極側セパレータ3と電気的に接続されている。
【0024】
しかして、空気極1bにおいては、供給された空気中の酸素と電子から酸素イオンが生成されるとともに、生成された酸素イオンが電解質1cを透過して燃料極1aに向かうこととなる。一方、燃料極1aにおいては、燃料ガスを改質して得られた水素と電解質1cを透過した酸素イオンとが反応して水(HO)が生成され、生じた電子が不図示の負荷を通って空気極1bに流れることとなるので、電力を発生させ得るようになっている。
【0025】
固体酸化物形燃料電池の反応温度は600℃以上と高温のため、生成された水(HO)はすべて水蒸気として発生することとなる。なお、燃料ガスは、都市ガスやLPガス(メタン、エタン、プロパン又はブタン)などの炭化水素系ガスから成り、水蒸気保持部材11にて担持された改質触媒による触媒反応によって水素を生成し得るものである。したがって、燃料極1aにおいては、水(HO)の他、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)が生成されることとなる。なお、供給する燃料ガスは、炭化水素系ガスの他、アルコール類やエーテル類から成るガスであってもよい。
【0026】
マニホールド(4、5)は、燃料電池システムに燃料ガス及び空気を供給及び排出するためのもので、燃料ガス及び空気を供給及び排出するための管(H1~H4)がそれぞれ形成されている。これらマニホールド(4、5)の間には、本実施形態に係る燃料電池システムの構成部品である、燃料極側セパレータ2、空気極側セパレータ3、シール材(6~10)、水蒸気保持部材11、集電体12及び遮蔽板13がそれぞれ積層して配設されている。
【0027】
燃料極側セパレータ2は、導電性を有した耐熱性の金属板から成り、配線(不図示)と接続可能な端子部aが一体形成されるとともに、燃料極1aと電気的に接続されている。ここで、本実施形態に係る燃料極側セパレータ2は、図5に示すように、凹形状2aと、燃料導入口2bと、燃料排出口2cと、燃料導入流路2dと、燃料排出流路2eとを有した矩形状の金属板から成る。
【0028】
凹形状2aは、燃料極側セパレータ2の所定部位(略中央位置)に形成されたもので、所定寸法の深さを有した有底凹形状から成る。この凹形状2aの周縁部には、段部2aaが形成されており、当該段部2aaに遮蔽板13が取付可能とされている。そして、段部2aaに遮蔽板13を取り付けると、図7、8に示すように、凹形状2aを遮蔽板13が覆った状態となって収容空間S1が形成される。なお、凹形状2aの形成方法は、切削加工のほか、曲げ加工やその他の加工であってもよい。
【0029】
燃料導入口2bは、供給された燃料ガスを導入し、導入流路2dを介して収容空間S1に導くための開口部から成るとともに、燃料排出口2cは、収容空間S1に導入された燃料ガスを排出流路2eを介して排出するための開口部から成る。また、収容空間S1に燃料ガスを導入する導入流路2d及び当該収容空間S1から燃料ガスを排出する排出流路2eは、燃料極側セパレータ2に形成された複数の切欠きから成り、導入流路2dが燃料導入口2b及び凹形状2aを連通して形成されるとともに、排出流路2eが燃料排出口2c及び凹形状2aを連通して形成されている。
【0030】
遮蔽板13は、燃料極側セパレータ2の凹形状2aを覆って取り付けられた導電性を有した金属製板材から成り、図6に示すように、複数の貫通孔から成る複数の噴出口13aと、周縁部に形成された段部13bとを有して構成されている。そして、図7に示すように、遮蔽板13を燃料極側セパレータ2に取り付けると、図2、8に示すように、凹形状2aとの間に収容空間S1が形成されるとともに、複数の噴出口13aによって、収容空間S1内の燃料ガスを水蒸気保持部材11の表面側の複数位置に向かって噴出し得るようになっている。
【0031】
すなわち、燃料極側セパレータ2と遮蔽板13との間には、供給される燃料ガスを収容しつつ複数の噴出口13aを介して噴出させ得る収容空間S1が形成されており、燃料導入口2bから導入された燃料ガスは、導入流路2dを流通して収容空間S1に至り、そこで収容されて昇圧されつつ複数の噴出口13aのそれぞれから噴出されるので、水蒸気保持部材11の一方の面側(表面側)に向かって広い領域で且つ均一の流量で燃料ガスを噴出可能とされている。
【0032】
また、遮蔽板13の周縁部には、段部13bが形成されており、その段部13bに水蒸気保持部材11が積層されるようになっている。これにより、遮蔽板13と水蒸気保持部材11との間には、図2、8に示すように、複数の噴出口13aから噴出された燃料ガスを収容し得る供給空間S2が形成されている。しかして、本実施形態の遮蔽板13の表面側及び裏面側には、収容空間S1及び供給空間S2がそれぞれ形成されており、チャンバ或いはバッファとして機能するようになっている。なお、段部13bが形成されない遮蔽板13を用いてもよく、その場合、供給空間S2が形成されないこととなる。また、段部13bの形成方法は、切削加工のほか、曲げ加工やその他の加工であってもよい。
【0033】
空気極側セパレータ3は、導電性を有した耐熱性の金属板から成り、図9に示すように、内側(単セルに対して内側)に空気を流通させる空気流路3cが形成されるとともに、空気極1bと電気的に接続されている。空気流路3cは、空気極側セパレータ3に形成された複数(単数であってもよい)の溝形状から成り、空気極側セパレータ3と集電体12とが積層された状態において、空気が流通可能な流路を形成するようになっている。なお、空気極側セパレータ3は、配線(不図示)と接続可能な端子部bが一体形成されている。
【0034】
集電体12は、セル1の空気極1bと空気極側セパレータ3との間に介在した導電性部材から成り、空気極1bと空気極側セパレータ3との間の電気的接続を良好に維持させるためのもので、例えば金属メッシュ、金属スポンジ又は多孔質金属等から成るものである。また、本実施形態に係る水蒸気保持部材11は、集電体12と同様の部材(例えばメッシュ状のステンレスから成る導電性部材)に包まれており、燃料極1aと燃料極側セパレータ2との間の電気的接続を良好に維持させるようになっている。
【0035】
水蒸気保持部材11は、燃料極1aに供給される燃料ガスの流通経路(本実施形態においては、燃料極側セパレータ2及び遮蔽板13とセル1の燃料極1aとの間)に配設されるとともに、セル1による発電に伴って燃料極1aで生じる水蒸気を保持して燃料流路2aにて供給された燃料ガスに混合させ得るものである。さらに、本実施形態に係る水蒸気保持部材11は、燃料ガスを反応させて水素を生成し得る改質触媒を具備し、当該改質触媒による触媒反応にて生成された水素を燃料極1aに供給し得るようになっている。
【0036】
より具体的には、本実施形態に係る水蒸気保持部材11は、通気性及び可撓性を有したシート状部材から成るもので、無機繊維又は有機繊維を有した紙状部材から成るとともに、燃料ガスを反応させて水素を生成し得る改質触媒を担持して構成されている。例えば、所定量の水にセラミック繊維及びパルプ等の有機繊維及び無機繊維を混合した後、担体となるマグネシウム及びアルミニウムの複合酸化物を投入する。その後、カチオンポリマー、アルミナゾル及び高分子凝集剤を投入した後、抄紙し、プレス及び乾燥することにより通気性及び可撓性を有したシート状部材を得る。そして、得られたシート状部材を600から850℃で1から24時間焼成した後、触媒となる金属イオンを含有する水溶液に0.1から4時間含浸し、乾燥後、600から800℃で1から24時間焼成することにより、水蒸気保持部材11を得ることができる。触媒となる金属イオンを含有する水溶液としては、硝酸Ni、硫酸Ni、塩化Ni、硝酸Ru、硫酸Ru、塩化Ru、硝酸Rh、硫酸Ru、塩化Rhなどから1種類以上を選び作製することができる。シート状部材の焼成温度は好ましくは700℃から800℃、焼成時間は2から10時間の範囲が好ましい。
【0037】
このようにして得られた水蒸気保持部材11は、マグネシウム及びアルミニウムの複合酸化物を担体としてNi、Ru、Rhなどを触媒金属(すなわち、燃料ガスを反応させて水素を生成し得る改質触媒)として担持した紙状部材(ペーパー状部材)から成り、例えば厚さ0.1から1.0(mm)程度、気孔率70~90(%)程度、触媒金属量2~9.5(mg/cm)程度とされるのが好ましい。気孔率は70%を下回ると燃料ガスが拡散しにくくなり、圧力損失が増大するため好ましくない。一方で90%を上回ると触媒と燃料ガスの接触が減って、触媒性能が低下するため好ましくない。触媒金属量は2mg/cmを下回ると十分な触媒性能が得られず、9.5mg/cmを上回ると触媒粒子のシンタリングが起こり、粒子径の増大が発生し、投入触媒金属量に見合った触媒性能が得られないため好ましくない。紙厚は薄いほど燃料電池システムそのものの体積を小さくできるが、0.1mm以下とすると気孔率、触媒金属量が不均一となりやすいため好ましくない。一方、1.0mmよりも厚くするとペーパーが占有する体積が大きくなり、燃料電池システムそのものの体積が大きくなるため好ましくない。
【0038】
なお、水蒸気保持部材11は、導電性を有し、燃料極側セパレータ2と燃料極1aとを電気的に接続させるものが好ましく、本実施形態の如く集電体に包まれたものの他、メッシュ状に成形して電気的な接続及び通気性をより向上させるようにしてもよい。このように、水蒸気保持部材11を導電性材料から成る集電体で包まれた状態又は燃料極側セパレータ2と燃料極1aとを電気的に接続させる導電性材料から成るものとすれば、水蒸気保持部材11を介して燃料極側セパレータ2と燃料極1aとの電気的接続を確実に行わせることができる。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。
第2の実施形態に係る燃料電池システムは、第1の実施形態の如く平板型構造の単セルを有するシステムに適用されたもので、図10~17に示すように、セル1と、燃料極側ホルダ14及び空気極側ホルダ15と、シール材(17、18)と、水蒸気保持部材16と、集電体19と、遮蔽板20とを具備している。なお、セル1は、第1の実施形態と同様のもので、水蒸気保持部材16及び集電体19は、第1の実施形態の水蒸気保持部材11及び集電体12と同様のものであるため、それらの詳細な説明を省略する。
【0040】
燃料極側ホルダ14は、燃料ガスを流通させ得るもので、図14に示すように、凹形状14aと、燃料導入口14bと、燃料排出口14cとを有した矩形状の金属板から成るとともに、燃料ガスを供給及び排出するための管H5、H6が形成されている。凹形状14aは、燃料極側ホルダ14の所定部位(略中央位置)に形成されたもので、所定寸法の深さを有した有底凹形状から成る。この凹形状14aの周縁部には、段部14aaが形成されており、当該段部14aaに遮蔽板20が取付可能とされている。
【0041】
そして、段部14aaに遮蔽板20を取り付けると、図15、16に示すように、凹形状14aを遮蔽板20が覆った状態となって収容空間S1が形成される。燃料導入口14bは、供給された燃料ガスを収容空間S1に導入するための開口部から成るとともに、燃料排出口14cは、収容空間S1に導入された燃料ガスを排出するための開口部から成る。なお、本実施形態に係る燃料極側ホルダ14は、セル1の燃料極1aと電気的に接続されている。
【0042】
遮蔽板20は、燃料極側ホルダ14の凹形状14aを覆って取り付けられた導電性を有した金属製板材から成り、図13に示すように、複数の貫通孔から成る複数の噴出口20aと、周縁部に形成された段部20bとを有して構成されている。そして、図15に示すように、遮蔽板20を燃料極側ホルダ14に取り付けると、図11、16に示すように、凹形状14aとの間に収容空間S1が形成されるとともに、複数の噴出口20aによって、収容空間S1内の燃料ガスを水蒸気保持部材16の表面側の複数位置に向かって噴出し得るようになっている。
【0043】
すなわち、燃料極側ホルダ14と遮蔽板20との間には、供給される燃料ガスを収容しつつ複数の噴出口20aを介して噴出させ得る収容空間S1が形成されており、燃料導入口14bから導入された燃料ガスは、収容空間S1に至り、そこで収容されて昇圧されつつ複数の噴出口20aのそれぞれから噴出されるので、水蒸気保持部材16の一方の面側(表面側)に向かって広い領域で且つ均一の流量で燃料ガスを噴出可能とされている。
【0044】
また、遮蔽板20の周縁部には、段部20bが形成されており、その段部20bに水蒸気保持部材16が積層されるようになっている。これにより、遮蔽板20と水蒸気保持部材16との間には、図11、16に示すように、複数の噴出口20aから噴出された燃料ガスを収容し得る供給空間S2が形成されている。しかして、本実施形態の遮蔽板20の表面側及び裏面側には、収容空間S1及び供給空間S2がそれぞれ形成されている。なお、段部20bが形成されない遮蔽板20を用いてもよく、その場合、供給空間S2が形成されないこととなる。なお、段部20bの形成方法は、切削加工のほか、曲げ加工やその他の加工であってもよい。
【0045】
空気極側ホルダ15は、導電性を有した耐熱性の金属板から成り、図17に示すように、内側(単セルに対して内側)に空気を流通させる空気流路15cが形成されるとともに、空気を供給及び排出するための管H7、H8が形成されている。かかる空気流路15cは、空気極側ホルダ15に形成された複数(単数であってもよい)の溝形状から成り、空気極側ホルダ15と集電体19とが積層された状態において、空気が流通可能な流路を形成するようになっている。なお、本実施形態に係る空気極側ホルダ15は、セル1の空気極1bと電気的に接続されている。
【0046】
次に、本実施形態に係る燃料電池システムの技術的優位性を示す実験について説明する。
遮蔽板(13、20)が取り付けられることにより水蒸気保持部材(11、16)の表面側の複数位置に向かって燃料ガスをそれぞれ噴出し得るものを実施例αとするとともに、複数の噴射口を有さないものであって燃料供給量が互いに異なるものを比較例β、γとした。なお、使用したセル1は、何れも固体酸化物形燃料電池(SOFC)、使用した水蒸気保持部材(11、16)は、何れも上記実施形態と同様のもの、運転温度は何れも約750℃、燃料は何れもメタンガス、何れも外部から水を供給しない、空気の供給量は何れも1000mL/minとし、燃料供給量は、実施例α及び比較例βが38mL/min、比較例γが50mL/minとした。
【0047】
上記条件の下、それぞれを運転して時間経過に対する発電出力(W)を計測した結果、図18に示すように、比較例βは、14W程度の発電しかできず、煤の発生により4.5時間で損傷して発電されなくなり、比較例γは、煤の発生により100時間で損傷して発電されなくなった。これに対し、実施例αは、比較例β、γに比べて煤の発生がほとんどなく、1000時間以上発電が継続した。
【0048】
上記第1の実施形態及び第2の実施形態に係る燃料電池システムによれば、水蒸気保持部材(11、16)の表面側の複数位置に向かって燃料ガスをそれぞれ噴出し得る複数の噴出口(13a、20a)を具備したので、水蒸気保持部材(11、16)に対して燃料ガスを均等に供給することができ、煤の発生を抑制することができる。特に、上記第1の実施形態及び第2の実施形態によれば、燃料ガスを流通させ得る燃料極側セパレータ2又は燃料極側ホルダ14と、燃料極側セパレータ2又は燃料極側ホルダ14に取り付けられた遮蔽板(13、20)とを具備するとともに、複数の噴出口(13a、20a)は、遮蔽板(13、20)に形成された複数の貫通孔から成るので、複数の噴射口(13a、20a)を所定の位置に精度よく且つ容易に形成することができる。
【0049】
また、第1の実施形態及び第2の実施形態に係る燃料電池システムによれば、燃料極側セパレータ2又は燃料極側ホルダ14と遮蔽板(13、20)との間には、供給される燃料ガスを収容しつつ複数の噴出口(13a、20a)を介して噴出させ得る収容空間S1が形成されたので、収容空間S1がチャンバとして機能して複数の噴出口(13a、20a)からの燃料ガスの噴出量を略均等にすることができる。
【0050】
さらに、第1の実施形態及び第2の実施形態に係る燃料極側セパレータ2又は燃料極側ホルダ14は、所定部位に凹形状(2a、14a)を有し、当該凹形状(2a、14a)を遮蔽板(13、20)が覆った状態で取り付けられることにより収容空間S1が形成されるので、燃料電池システムの形態に応じて収容空間S1の容量や形成位置を容易に設定することができる。
【0051】
またさらに、第1の実施形態によれば、収容空間S1に燃料ガスを導入する導入流路2d及び当該収容空間S1から燃料ガスを排出する排出流路2eは、燃料極側セパレータ2(又は第2実施形態に係る燃料極側ホルダ14に適用してもよい)に形成された切欠きから成るので、切欠きの大きさや位置又は数を任意に設定して形成することにより、収容空間S1に導入される燃料ガスの流量や収容空間から排出される燃料ガスの流量を任意に調整することができる。
【0052】
加えて、第1の実施形態及び第2の実施形態に係る燃料電池システムによれば、遮蔽板(13、20)と水蒸気保持部材(11、16)との間には、複数の噴出口(13a、20a)から噴出された燃料ガスを収容し得る供給空間S2を有するので、水蒸気保持部材(11、16)の表面側に亘って燃料ガスをより均等に供給することができる。なお、供給空間S2は、遮蔽板(13、20)に形成された段部(13a、20a)の高さ寸法により容量が調整可能とされている。
【0053】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば水蒸気保持部材(11、16)は、紙状部材でなくてもよく、例えば遮蔽板(13、20)をセル1の空気極1b側(すなわち、空気極側セパレータ3、空気極側ホルダ15)に取り付けることにより収容空間S1を形成するようにしてもよい。また、多孔質のブロック状部材、発泡金属或いはハニカム状部材等であってもよい。さらに、供給される燃料ガスは、都市ガス(メタンガス、LNG)、プロパンガス、ブタンガス(カセットコンロ用など)、バイオ燃料(発酵メタンなど)などの他、アルコールやエーテル類から成るガスを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
水蒸気保持部材の表面側の複数位置に向かって燃料ガスをそれぞれ噴出し得る複数の噴出口を具備した燃料電池システムであれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 セル
1a 燃料極
1b 空気極
1c 電解質
2 燃料極側セパレータ
2a 凹形状
2aa 段部
2b 燃料導入口
2c 燃料排出口
2d 導入流路
2e 排出流路
3 空気極側セパレータ
3a 空気導入口
3b 空気排出口
3c 空気流路
4 マニホールド
5 マニホールド
6~10 シール材
11 水蒸気保持部材
12 集電体
13 遮蔽板
13a 噴出口
13b 段部
14 燃料極側ホルダ
14a 凹形状
14aa 段部
14b 燃料導入口
14c 燃料排出口
15 空気極側ホルダ
16 水蒸気保持部材
17、18 シール材
19 集電体
20 遮蔽板
20a 噴出口
20b 段部
S1 収容空間
S2 供給空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18