(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】軽量窯道具
(51)【国際特許分類】
F27D 3/12 20060101AFI20240405BHJP
C04B 35/18 20060101ALI20240405BHJP
C04B 35/443 20060101ALI20240405BHJP
C04B 35/19 20060101ALI20240405BHJP
C04B 35/04 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
F27D3/12 S
C04B35/18
C04B35/443
C04B35/19
C04B35/04
(21)【出願番号】P 2019227713
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】391029509
【氏名又は名称】イソライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】末吉 篤
(72)【発明者】
【氏名】康 頤璞
(72)【発明者】
【氏名】上道 健太郎
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292704(JP,A)
【文献】特開2017-178681(JP,A)
【文献】特開2012-224487(JP,A)
【文献】特開2011-042519(JP,A)
【文献】特開2001-080973(JP,A)
【文献】特開2020-066561(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108975935(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109020592(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/00 - 5/00
C04B 35/18
C04B 35/42 - 35/447
C04B 35/19
C04B 35/04
C04B 35/46 - 35/515
C04B 35/80
C04B 38/00 - 38/10
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、又は鉄含有化合物からなる粉末原料の焼成処理時に用いる軽量窯道具あって、
含有率5~40質量%の耐熱性無機繊維と
、残部の無機粉末とを構成要素とし、コランダムが0~85質量%、ムライトが0~43質量%、クオーツが0~60質量%、珪灰石が0~29質量%、ユークリプトタイトが0~41質量%、アルミン酸リチウムが0~60質量%、スポジュメンが0~60質量%、スピネルが0~56質量%、ペリクレースが0~61質量%、エンスタタイトが0~60質量%、フォルステライトが0~11質量%、及びコージライトが0~34質量%
であって、且つこれらコランダム、ムライト、クオーツ、珪灰石、ユークリプトタイト、アルミン酸リチウム、スポジュメン、スピネル、ペリクレース、エンスタタイト、フォルステライト、及びコージライトからなる群のうちの2種類以上を合計86質量%以上含む鉱物組成を有しており、かさ比重が0.7~1.5であり、RT~700℃における熱間線膨張係数が5×10
-6/K以下であることを特徴とする軽量窯道具。
【請求項2】
前記耐熱性無機繊維は、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカ・アルミナ繊維、シリカ・マグネシア・カルシア系のアルカリアースシリケートウール、及びシリカ・マグネシア系のアルカリアースシリケートウールのうち1種以上からなることを特徴とする、請求項1に記載の軽量窯道具。
【請求項3】
気孔率が30~80%であり、通気率が5×10
-8cm
2以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の軽量窯道具。
【請求項4】
曲げ強さが3~20MPaであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の軽量窯道具。
【請求項5】
1000℃×24hでの加熱線収縮率が0.5%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の軽量窯道具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、鉄含有化合物などのリチウムイオン二次電池の正極材として用いられる粉末原料や汎用のセラミック粉末の焼成処理時に用いられる、かさ比重が小さく且つ耐食性及び耐熱衝撃性に優れた軽量窯道具に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極活物質の製造工程では、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、又は鉄含有化合物などからなる粉末原料を熱処理炉で焼成処理して正極材を生成している。この焼成処理には、匣鉢、ルツボなどのセラミック容器や、棚板、敷板、セラミック治具などのセッターに代表されるセラミック製の窯道具が広く用いられている。これらの窯道具は、該焼成処理時に被焼成物の粉末原料から発生したリチウム等のアルカリ成分による浸食で短期間に劣化することのないように、耐食性に優れていることが一般に求められている。また、匣鉢の場合は、焼成処理後の降温時間を短縮して製造効率を高めるため、該熱処理炉内にエアーを送入して炉内温度を強制的に冷却するなどにより該匣鉢及びその内容物を急冷している。そのため、窯道具は耐熱衝撃性に優れていることも求められている。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、従来の窯道具の材質として一般に用いられているコージライトやムライトを主成分とする材質に代えて、耐食性を向上させるべくマグネシア及びスピネルよりなる化合物成分を含む材料を使用する技術が提案されている。また、特許文献2には、マグネシアを用いずにスピネルやコージライトを用いて窯道具の耐食性と耐熱衝撃性を向上させる技術が提案されている。
【0004】
更に特許文献3には、アルミナ、ムライト、スピネル、コージライト等の無機粉末材料に、該無機粉末材料の最大粒径の1.2~5倍の繊維長をもつアルミナ長繊維を該無機粉末材料100質量部に対して0.1~1質量部の割合で添加する熱処理容器の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、マグネシアやスピネルを含むセラミック粒子と、アルミナシリケート繊維やアルミナ繊維を含むセラミック繊維とからなり、コージライト相が形成された、かさ比重0.37~0.95のセラミックセッターが提案されている。
【0005】
更に特許文献5には、窯道具の材質にリチウムアルミノケイ酸塩であるβスポジュメンを用いる技術が開示されている。このように、窯道具の材質にリチウム成分を元来含んでいる材料を用いることで該リチウム成分に対する耐食性を著しく向上させることができるので、該窯道具を用いて粉末原料を熱処理する際に該粉末原料からリチウム成分が生じても腐食しにくく、よって、該窯道具の素材が本来有する優れた耐熱衝撃性を発揮させることができるので、繰り返し使用できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-165767号公報
【文献】特許5039640号明細書
【文献】特許6396938号明細書
【文献】特許5042286号明細書
【文献】特開2012-224487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1~3の窯道具は、かさ比重が大きい緻密な構造にすることで耐食性や耐熱衝撃性を高めており、そのため、この重くなった窯道具を搬送するローラー等の搬送機器に過度の荷重負荷がかかり、変形や摩耗等のトラブルを引き起こすことがあった。また、かさ比重が大きくなると熱容量も大きくなるので、その加熱や冷却に多くのエネルギーと時間を要し、省エネルギー及び製造効率の点からも好ましくない。
【0008】
具体的には、特許文献1及び2の窯道具はかさ比重が2より大きく、特許文献1の窯道具は更に熱膨張率が高いため、耐熱衝撃性に問題があった。特許文献3の窯道具は耐熱衝撃性を有しているものの、気孔率が30%前後であることから、かさ比重が2より大きい。また、特許文献5の窯道具もかさ比重が1.5~2.5と大きい。他方、特許文献4の窯道具はかさ比重が小さいものの、被焼成物に含まれる有機バインダーを除去するため通気率を大きくしていることから、該被焼成物に含まれるリチウム等のアルカリ成分が窯道具内部へ拡散し易く、よって耐食性が不十分であった。
【0009】
上記のように、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、又は鉄含有化合物などからなる粉末原料の焼成処理に用いる窯道具は、かさ比重が小さく且つ耐食及び耐熱衝撃性に優れていることが求められている。本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、又は鉄含有化合物などからなる粉末原料の焼成処理時に用いられる、かさ比重が小さく且つ耐食性及び耐熱衝撃性に優れた窯道具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る軽量窯道具は、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、又は鉄含有化合物からなる粉末原料の焼成処理時に用いる軽量窯道具あって、含有率5~40質量%の耐熱性無機繊維と、残部の無機粉末とを構成要素とし、コランダムが0~85質量%、ムライトが0~43質量%、クオーツが0~60質量%、珪灰石が0~29質量%、ユークリプトタイトが0~41質量%、アルミン酸リチウムが0~60質量%、スポジュメンが0~60質量%、スピネルが0~56質量%、ペリクレースが0~61質量%、エンスタタイトが0~60質量%、フォルステライトが0~11質量%、及びコージライトが0~34質量%であって、且つこれらコランダム、ムライト、クオーツ、珪灰石、ユークリプトタイト、アルミン酸リチウム、スポジュメン、スピネル、ペリクレース、エンスタタイト、フォルステライト、及びコージライトからなる群のうちの2種類以上を合計86質量%以上含む鉱物組成を有しており、かさ比重が0.7~1.5であり、RT~700℃における熱間線膨張係数が5×10-6/K以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、かさ比重が小さく且つ耐食性及び耐熱衝撃性に優れた窯道具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る軽量窯道具について説明する。この本発明の実施形態の軽量窯道具は、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、及び鉄含有化合物に対して耐食性を有する無機粉末と、耐熱性無機繊維とを主たる構成要素としている。また、この本発明の実施形態の軽量窯道具は、リチウム金属及びリチウム化合物、並びにコバルト金属及びコバルト化合物に対して特に反応しにくい鉱物が用いられている。
【0013】
具体的には、コランダム(Al2O3)が0~85質量%、ムライト(Al6O13Si2)が0~43質量%、クオーツ(SiO2)が0~60質量%、珪灰石(Ca3Si3O9)が0~29質量%、ユークリプトタイト(LiAlSiO4)が0~41質量%、アルミン酸リチウム(LiAlO2)が0~60質量%、スポジュメン(LiAlSi2O6)が0~60質量%、スピネル(MgAl2O4)が0~56質量%、ペリクレース(MgO)が0~61質量%、エンスタタイト(MgSiO3)が0~60質量%、フォルステライト(Mg2SiO4)が0~11質量%、及びコージライト(Mg2Al3(AlSi5O18))が0~34質量%の範囲内の鉱物組成を有しており、かさ比重が0.7~1.5であり、RT~700℃における熱間線膨張係数が5×10-6/K以下である。
【0014】
軽量窯道具の鉱物組成を上記の範囲内にするため、軽量窯道具の原料には上記鉱物そのものを使用してもよいし、上記の鉱物組成の範囲内になるように配合した2種類以上の無機粉末を混合して焼成処理してもよい。あるいは、上記の鉱物組成の範囲内になるように配合した2種類以上の無機粉末を混合して成形した後、焼成処理をしてもよい。
【0015】
本発明の実施形態の軽量窯道具の一方の主成分である無機粉末は、メジアン径(D50)が1nm~1mmの範囲内であるのが好ましく、0.1~10μmの範囲内であるのがより好ましい。メジアン径が1mmより大きな無機粉末を用いて配合した粉末原料は、その流動性が悪くなり、後述する乾式加圧成形時に良好に成形するのが困難になる。逆に無機粉末のメジアン径が1nmより小さいと、原料費が高くなるうえ、生産性が低下するので好ましくない。なお、メジアン径D50とは、レーザー回折式粒度分布測定装置によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0016】
本発明の実施形態の軽量窯道具のもう一方の主成分である耐熱性無機繊維は、例えば、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカ・アルミナ繊維、及びシリカ・マグネシア・カルシア系やシリカ・マグネシア系のアルカリアースシリケートウール(AES繊維)のうちの1種以上が好ましい。これらの耐熱性無機繊維は耐熱温度が500℃以上1600℃以下であるので、窯道具の原材料に適している。なお、耐熱温度T℃は、最高使用温度T℃と称されることがあり、雰囲気温度T℃で24時間加熱したときの加熱線収縮率が3.0%以下の場合をいう。
【0017】
上記の耐熱性無機繊維は、平均繊維径が2~15μmであるのが好ましく、4~10μmであるのがより好ましい。また、上記の耐熱性無機繊維は、平均繊維長が200μm以上であるのが好ましい。但し、5000μm以上の繊維長では繊維同士が絡まりあいやすく、均一な混合ができにくくなって成形性の低下や亀裂の発生につながるので、上記の平均繊維長の上限は5000μmが好ましい。
【0018】
なお、上記の平均繊維長とは、測定対象となる繊維群を電子顕微鏡で撮影し、得られた画像上の任意の100本の繊維に対して、それらの長手方向の端から端までの直線距離を計測し、それらを算術平均して求めたものである。一方、上記の平均繊維径とは、測定対象となる繊維群を電子顕微鏡で撮影し、得られた画像上の任意の200本の繊維に対して、それらの任意の部分の幅を計測し、それらを算術平均して求めたものである。
【0019】
上記の耐熱性無機繊維には市販されているものを用いてもよく、例えばアルミナ繊維ではデンカ株式会社製のアルセン(商品名)、ムライト繊維では株式会社ITM社製のファイバーマックス(商品名)や三菱ケミカル株式会社製のマフテック(商品名)、シリカ・アルミナ繊維ではイソライト工業株式会社製のイソウール(商品名)、シリカ・マグネシア・カルシア系のアルカリアースシリケートウールではイソライト工業株式会社製のイソウールBSSR1300(商品名)、シリカ・マグネシア系のアルカリアースシリケートウールではユニフラックス社製のイソフラックス1400(商品名)などを好適に使用することができる。
【0020】
本発明の実施形態の軽量窯道具は、上記の耐熱性無機繊維の総和の含有率が5~40質量%であるのが好ましい。この含有率が5質量%未満では、該軽量窯道具のかさ比重を1.5以下にすることが困難になる。逆にこの含有率が40質量%を超えると、該軽量窯道具の曲げ強さが3MPa未満になって強度が不十分になるおそれがある。
【0021】
本発明の実施形態の窯道具は、加熱前の寸法をL0、雰囲気温度1000℃で24時間加熱した後の寸法をL1としたとき、(L0-L1)/L0×100で算出した加熱線収縮率を好適には0.5%以下に、より好適には0.3%以下にすることができる。この加熱線収縮率が0.5%を超えると、加熱・冷却の熱ストレスがかかる繰り返し使用により早期に損傷するので好ましくない。なお、この加熱線収縮率は耐熱性無機繊維の添加量を増減することにより調整することができる。
【0022】
本発明の実施形態の窯道具は、「気孔率=(1-かさ比重/真比重)×100」により求めた気孔率を好適には30~80%に、より好適には40~50%にすることができる。この気孔率が30%未満では、かさ比重が1.5よりも大きくなるおそれがある。逆にこの気孔率が80%を超えると、曲げ強度が3MPa未満になるおそれがある。なお、窯道具の気孔率は焼成後のかさ比重及び添加した原料の比例と真密度より調整することができる。
【0023】
本発明の実施形態の窯道具は、JIS R2115に準じて測定した通気率を好適には5×10-8cm2以下に、より好適には1×10-8cm2以下にすることができる。この通気率が5×10-8cm2を超えると、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、鉄含有化合物などから発生したアルカリ分や融液が窯道具の内部まで浸食するので好ましくない。なお、この通気率は窯道具の気孔率及び気孔サイズにより調整することができる。
【0024】
本発明の実施形態の軽量窯道具は、JIS R1601に準じて、常温の試験片をスパン100mmで支持し、3点曲げ試験により測定した曲げ強さを好適には3MPa以上に、より好適には5MPa以上にすることができる。この曲げ強さが3MPa未満では、ハンドリング性に劣るうえ、耐熱衝撃性も劣るので好ましくない。なお、この曲げ強さは主に窯道具のかさ比重により調整することができる。
【0025】
ところで、上記の耐熱性無機繊維や無機粉末から成形体を成形する方法として、従前から湿式成形法がよく行なわれている。この方法は、耐熱性無機繊維、無機粉末、及び無機バインダーに大量の水を加えてスラリー状とし、これを真空吸引あるいはプレスして脱水する方法である。しかしながら、この湿式成形法で得た成形体は、吸引方向に対して略直交する方向に各繊維が延在して積層しやすく、また、無機バインダーの歩留を上げるために凝集させるため、成形体そのものが大粒子状の無機バインダーの集合体から形成される傾向にある。そのため、成形体の強度に方向性が生じて所望の高強度が得られないことがあった。
【0026】
また、同様にして耐熱性無機繊維、無機粉末、及び無機バインダーを用い、今度は少量の水を加えて混合した後、これを加圧成形する湿式加圧成形法がある。この方法は、耐熱性無機繊維の量が多いと成形性が低下しやすくなるうえ、成形体のかさ比重が小さくなるように加圧成形すると、十分な強度が得られなくなるという問題を抱えている。これに対して、本発明の実施形態の軽量窯道具は、好適には乾式加圧成形法により上記の耐熱性無機繊維や無機粉末から成形体を成形する。これにより、耐熱性無機繊維はランダムな方向に延在した状態でほぼ均一に分散するので、かさ比重が小さくても所望の強度を確保することができる。
【0027】
具体的には、本発明の実施形態の軽量窯道具の好適な製造方法は、先ず、上記の耐熱性無機繊維及び無機粉末をそれぞれ上記鉱物組成の範囲内に収まるように量り取って混合機で混合する。その際、該混合機のブレードの回転速度を3000rpm以上にすることで繊維を十分に解繊するのが好ましい。このように、耐熱性無機繊維を解繊することで、該耐熱性無機繊維群をある特定方向に配向させることなくランダムな方向に延在させることができ、該混合により得られる混合物中にほぼ均一に該耐熱性無機繊維群を分散させることができる。これにより、かさ比重が2未満であっても、かさ比重が2以上の従来品と同等以上の強度を得ることができる。
【0028】
次に、上記混合により得た混合物を、焼成処理後にかさ比重が0.7~1.5の範囲内になるように乾式加圧成形し、得られた成形体を加熱炉に装入して雰囲気温度1100~1400℃で焼成処理する。この焼成処理時の炉内雰囲気には特に限定はなく、大気雰囲気に代表される酸化性ガス雰囲気でもよいし、不活性ガス雰囲気でもよいが、大気雰囲気がより好ましい。
【0029】
上記の焼成温度は、耐熱性無機繊維や無機粉末の種類や含有量に応じて1100~1400℃の範囲内で適宜調整するのが好ましい。これにより、かさ比重が0.7~1.5、好ましくは0.9~1.1の窯道具を作製することができる。このかさ比重が0.7未満では、窯道具が強度不足となり、逆にかさ比重が1.5を越えると窯道具の蓄熱量を低くできず、耐熱衝撃性に劣る。なお、焼成時間には特に限定がないが、3~12時間程度が好ましい。
【0030】
上記の焼成処理では、無機粉末同士が反応し、リチウム含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、ニッケル含有化合物、鉄含有化合物などに対して耐食性を有する鉱物に変化する。更に、かさ比重が上記のように0.7~1.5程度に小さくなると共に、耐熱衝撃性が向上する。これにより、本発明の実施形態の窯道具は、JIS R1618に準じて測定したRT(室温)~700℃における熱間線膨張係数を5×10-6/K以下に、好適には4×10-6/K以下にすることができる。この熱間線膨張係数が5×10-6/Kを超えると、耐熱衝撃性に劣るので好ましくない。次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
下記の方法で鉱物組成が異なる複数の窯道具の試料を作製し、それらの耐熱衝撃性及び耐食性を評価した。すなわち、耐熱性無機繊維として、デンカ株式会社製のアルミナ繊維(Al2O3:97質量%、SiO2:3質量%、平均繊維径4.0μm、平均繊維長3500μm)が10質量%、無機粉末として、丸ス釉薬合資会社製のユークリプタイト粉末(メジアン径12μm) が10質量%、キンセイマテック株式会社製のペタライト粉末(メジアン径23μm)が30質量%、昭和電工株式会社製のスピネル粉末(メジアン径18μm)が40質量%、キャボットコーポレーション社製のフュームドアルミナ(比表面積100m2/g、メジアン径15nm)が10質量%の配合割合となるようにそれぞれ量り取り、これらを円筒形容器の底部に3000rpm程度の回転数で回転可能なブレードを備えた、せん断機能を有する粉体用の混合機に装入し、該ブレードの回転数3000rpmの条件で混合した。得られた混合物を、かさ比重が0.9となるよう乾式加圧して匣鉢の形状に成形した。得られた成形体を雰囲気温度1400℃の大気雰囲気中で3時間かけて焼成処理した。このようにして試料1の窯道具を作製した。
【0032】
また、耐熱性無機繊維、無機粉末の配合割合を様々に変えると共に、焼成処理時の雰囲気温度を様々に変えた以外は上記試料1の場合と同様にして試料2~30の窯道具を作製した。その際、耐熱性無機繊維には、ITM株式会社製のムライト繊維(平均繊維径5.0μm、平均繊維長3000μm、Al2O3:72質量%、SiO2:28質量%)、イソライト工業株式会社製のシリカ・アルミナ繊維(イソウール、Al2O3:46質量%、Al2O3+SiO2:99質量%、平均繊維径4.2μm、平均繊維長4200μm)、イソライト工業株式会社製のアルカリアースシリケートウール(イソウールBSSR1300、平均繊維径3.5μm、平均繊維長4500μm)を用いた。
【0033】
また、無機粉末には、丸ス釉薬合資会社製のアルミン酸リチウム粉末(メジアン径6μm)、共立マテリアル株式会社製のジルコニア粉末(メジアン径16μm)、宇部マテリアルズ株式会社製のマグネシア粉末(メジアン径3μm)、浅田製粉株式会社製のエンスタタイト粉末(メジアン径6μm)、日産化学工業株式会社製のフォルステライト粉末(メジアン径3μm)、丸ス釉薬合資会社製のスポジュメン粉末(メジアン径6μm)、住友化学株式会社製のアルミナ粉末(メジアン径5μm)、江尻鋳材株式会社製のコージライト(メジアン径6μm)、太平洋ランダム株式会社製のムライト(メジアン径12μm)、松尾産業株式会社製のタルク(メジアン径6μm)、株式会社丸東製のシリカ(メジアン径4μm)、近江鉱業株式会社製の石灰石(メジアン径23μm)、草葉化学株式会社製の粘土(メジアン径17μm)、キャボットコーポレーション社製のフュームドシリカ(表面積60m2/g、メジアン径45nm)を用いた。上記試料1~30の作製に用いた原料の種類及び含有量(単位:質量%)を、焼成処理時の炉内温度(雰囲気温度)と共に下記表1及び表2に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
上記にて作製した試料1~30の窯道具の各々に対して、かさ比重、曲げ強さ、加熱線収縮率、熱間線膨張係数、気孔率、及び通気率を測定した。なお、かさ比重は「質量/体積」により計算し、曲げ強さはJIS R1601に準拠した3点曲げ試験により測定した。加熱線収縮率は加熱前の寸法をL0、雰囲気温度1000℃で24時間加熱した後の寸法をL1としたとき、(L0-L1)/L0×100で算出した。熱間線膨張係数はJIS R1618に準拠して測定し、気孔率は「気孔率=(1-かさ比重/真比重)×100」により計算し、通気率はJIS R2115に準拠して測定した。また、鉱物組成をX線粉末回析法により分析した。更に、耐食性及び耐熱衝撃性について下記の要領で評価した。
【0037】
「耐熱衝撃性の評価」
炭酸リチウム及び酸化コバルトをCO:Li=1:1のモル比となるように混合して、コバルト酸リチウムの混合粉を得た。上記にて作製した試料1~30の匣鉢に、上記の混合粉を10kgずつ充填し、加熱炉内に装入して雰囲気温度950℃まで300℃/hrで昇温し、雰囲気温度950℃で10時間保持した。この10時間の保持が経過した後、該加熱炉内にエアーを導入することで強制冷却して該匣鉢を室温まで降温させた。該冷却した各試料の匣鉢から混合粉を一旦除去し、該匣鉢内面の損傷の有無を目視にて確認した。その後、再び該匣鉢内に上記混合物を充填し、上記の条件で昇温及び降温を行った。この昇温と降温のサイクルを、亀裂等の欠陥が生じるまで繰り返した。すなわち、損傷が生じるまでの繰り返し使用可能回数で耐熱衝撃性を評価した。
【0038】
「耐食性の評価」
また、上記の耐熱衝撃性の評価で行った昇温と降温を1サイクル行った後に、一旦各試料の匣鉢から混合粉を除去し、匣鉢内面の損傷の有無を目視にて観察することで耐食性を評価した。そして、内面に損傷が認められた場合を「不可」、内面に損傷が認められなかった場合を「良」と評価した。上記の測定結果及び評価結果を、下記表3及び表4に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
本発明の要件を満たす試料1~16の窯道具は、いずれもかさ比重が0.7~1.5の範囲内にあり、曲げ強さが3MPa以上であり、1000℃×24hでの加熱線収縮率が0.5%以下であり、RT~700℃における熱間線膨張係数が5×10-6/K以下であり、気孔率が30~80%の範囲内にあり、通気率が5×10-8cm2以下であった。また、いずれも耐熱衝撃性の指標となる繰り返し使用可能回数が11回以上であり、耐食性の評価が「良」であった。
【0042】
一方、本発明の比較例である試料17の窯道具は、かさ比重が0.6と小さく、気孔率(空隙率)は81%あったため、曲げ強さが小さく、2MPaであった。また、耐熱衝撃性の回数が少なく、耐食性は「不可」となった。比較例である試料18の窯道具は、かさ比重が1.6と大きく、気孔率は29%であった。また耐熱衝撃性の回数が少なく、耐食性は「不可」となった。比較例である試料19~30の窯道具は、かさ比重や曲げ強さ、加熱線収縮率、熱間線膨張係数、気孔率、及び通気率のうちの少なくともいずれかにおいて、本発明の要件を満たす範囲であっても、鉱物組成が本発明の要件から外れるものについては耐熱衝撃性の回数が少なく、耐食性は「不可」となった。