(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】防振装置及び方法、及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G03B 5/00 20210101AFI20240405BHJP
G03B 17/40 20210101ALI20240405BHJP
G03B 17/14 20210101ALI20240405BHJP
H04N 23/68 20230101ALI20240405BHJP
H04N 23/54 20230101ALI20240405BHJP
【FI】
G03B5/00 J
G03B17/40 B
G03B17/14
H04N23/68
H04N23/54
(21)【出願番号】P 2020046838
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019197650
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城田 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小俣 岳士
(72)【発明者】
【氏名】深堀 謙哉
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087937(JP,A)
【文献】特開2007-114311(JP,A)
【文献】特開2008-203317(JP,A)
【文献】特開2004-040298(JP,A)
【文献】特開2004-056581(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065821(WO,A1)
【文献】特開2004-271694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
H04N 23/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振れを補正するように撮像素子を移動させる移動量を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された移動量に基づいて前記撮像素子の移動による防振動作を制御する防振制御手段と、
撮影状態に応じて、第1の状態かどうかを判定する判定手段と、
前記撮像素子の移動による防振動作の基準となる位置である防振制御の中心位置を、前記撮像素子を有する撮像装置に装着されたレンズ装置のイメージサークルの中心位置に基づいて制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記防振制御の中心位置が第1の位置にある状態で前記イメージサークルの中心位置が
前記第1の位置から第2の位置へ変化した場合
、前記第1の状態と判定されていない場合よりも、前記第1の状態と判定されている場合のほうが、前記第2の位置から前記防振制御の中心位置までの距離が長くなるように前記防振制御の中心位置を制御することを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記イメージサークルの中心位置が前記第1の位置から前記第2の位置へ変化し、且つ、前記第1の状態と判定されていない場合、前記防振制御の中心位置を、前記第2の位置の方向に移動することを特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記イメージサークルの中心位置が前記第1の位置から前記第2の位置へ変化し、且つ、前記第1の状態と判定されていない場合、前記防振制御の中心位置を、前記第2の位置に移動することを特徴とする請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記イメージサークルの中心位置が前記第1の位置から前記第2の位置へ変化した場合、前記制御手段は、前記第1の状態と判定されていない場合よりも、前記第1の状態と判定されている場合のほうが、前記防振制御の中心位置の移動量が小さくなるように制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1の状態と判定された場合、前記イメージサークルの中心位置が前記第1の位置から前記第2の位置へ変化しても前記防振制御の中心位置を変更しないことを特徴とする請求項4に記載の防振装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第1の状態と判定されている間、防振制御の中心位置を、前記第1の状態に遷移したタイミングにおける防振制御の中心位置とすることを特徴とする請求項5に記載の防振装置。
【請求項7】
前記レンズ装置の光学状態に基づいて前記レンズ装置のイメージサークルの中心位置の情報を取得する取得手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項8】
前記光学状態は、ズーム位置、フォーカス位置、絞りの状態の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項7に記載の防振装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記振れの状態および撮影モードに応じて、前記第1の状態かをどうかを判定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項10】
前記判定手段は、前記振れの状態及び前記撮影モードが動画撮影モードか静止画撮影モードかに応じて、前記第1の状態かをどうかを判定することを特徴とする請求項9に記載の防振装置。
【請求項11】
前記第1の状態に対応する撮影状態は、タイムラプス動画撮影状態を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項12】
前記第1の状態に対応する撮影状態は、三脚に設置した状態での撮影状態を含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項13】
前記第1の状態に対応する撮影状態は、静止画撮影モードであって、撮影範囲が変化しないことを優先するべき状態を含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項14】
前記第1の状態に対応する撮影状態は、露光中、連写撮影中、およびブラケット撮影中の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項13に記載の防振装置。
【請求項15】
前記判定手段は、更に、前記第1の状態に対応する撮影状態と異なる、予め決められた撮影状態に対応する第2の状態であるかどうかを判定し、
前記イメージサークルの中心位置が前記第1の位置から前記第2の位置へ変化した場合、前記制御手段は、前記第2の状態であると判定された場合の前記防振制御の中心位置の移動量が、前記第1の状態であると判定された場合よりも大きく、且つ、前記第1の状態でも前記第2の状態でもないと判定された場合よりも小さくなるように前記防振制御の中心位置を制御することを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項16】
前記イメージサークルの中心位置が前記第1の位置から前記第2の位置へ変化した場合、前記制御手段は、前記第2の状態であると判定された場合の前記防振制御の中心位置が、前記第2の状態に遷移したタイミングにおける防振制御の中心位置と、変化した後の前記イメージサークルの中心位置との間となるように制御することを特徴とする請求項15に記載の防振装置。
【請求項17】
前記判定手段は、前記振れの状態および撮影モードに応じて、前記第2の状態かどうかを判定することを特徴とする請求項15または16に記載の防振装置。
【請求項18】
前記第2の状態に対応する撮影状態は、動画撮影モードであって撮像装置が静止した状態であること、動画撮影モードであって動画記録中であること、の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項17に記載の防振装置。
【請求項19】
レンズ装置が着脱可能に構成された撮像装置であって、
前記レンズ装置により形成された被写体像を光電変換して撮像信号を出力する撮像素子と、
前記撮像素子を、振れを補正するための駆動量に従って駆動する駆動手段と、
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の防振装置と
を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項20】
算出手段が、振れを補正するように撮像素子を移動させる移動量を算出する算出工程と、
防振制御手段が、前記算出工程で算出された移動量に基づいて前記撮像素子の移動による防振動作を制御する防振制御工程と、
判定手段が、撮影状態に応じて、第1の状態かどうかを判定する判定工程と、
制御手段が、
前記撮像素子の移動による防振動作の基準となる位置である防振制御の中心位置を、撮像装置に装着されたレンズ装置のイメージサークルの中心位置に基づいて制御する制御工程と、を有し、
前記制御工程では、前記防振制御の中心位置が第1の位置にある状態で前記イメージサークルの中心位置が
前記第1の位置から第2の位置へ変化した場合
、前記第1の状態と判定されていない場合よりも、前記第1の状態と判定されている場合のほうが、前記第2の位置から前記防振制御の中心位置までの距離が長くなるように前記防振制御の中心位置を制御することを特徴とする防振方法。
【請求項21】
コンピュータを、請求項1乃至18のいずれか1項に記載の防振装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置及び方法、及び撮像装置に関し、特に、撮像素子をシフトさせる防振機能を備える防振装置及び方法、及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置において、撮像装置に加わる振れ等を補正する振れ補正機能が種々提案されており、この振れ補正機能により、より良好な画質の画像を撮影することが可能になっている。このような撮像装置における振れ補正機能には、被写体像を撮像する撮像素子を撮像光学系の光軸に対してシフトさせることで像振れを低減するものがある。しかしながら、レンズ交換式カメラでは、装着された交換レンズのイメージサークル径が撮像素子のサイズに対して余裕がなかったり、イメージサークルの中心が交換レンズの製造誤差等によって撮像素子の中心からずれていたりする場合がある。そのような場合には、良好な防振を行うために必要な撮像素子のシフト量を十分に確保できない。
【0003】
特許文献1では、交換レンズのイメージサークルの中心位置の情報(レンズ光軸情報)をカメラに通信し、カメラにおいて撮像素子の中心とレンズ光軸とが一致するように、撮像素子をシフトさせる方法が開示されている。この方法によれば、製造誤差等によるレンズ光軸のずれを解消する事ができ、振れ補正のために必要な撮像素子の移動量をある程度確保する事ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、カメラの撮影状態によっては、撮像素子をシフトさせる事で、ユーザの意図に反して撮影範囲が変わり、意図しない構図で撮影される恐れがある。例えば、三脚を用いた撮影時やタイムラプス動画撮影時に、撮像素子がシフトされると、ユーザの撮影意図に関わらず撮影範囲が変わってしまい、ユーザが意図しない構図の画像になってしまう恐れがある。
【0006】
本発明は上記問題点を鑑みてなされたものであり、像振れ補正の補正範囲を有効に活用しながら、より撮影状況に応じた防振制御を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為に、本発明の防振装置は、振れを補正するように撮像素子を移動させる移動量を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された移動量に基づいて前記撮像素子の移動による防振動作を制御する防振制御手段と、撮影状態に応じて、第1の状態かどうかを判定する判定手段と、前記撮像素子の移動による防振動作の基準となる位置である防振制御の中心位置を、前記撮像素子を有する撮像装置に装着されたレンズ装置のイメージサークルの中心位置に基づいて制御する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記防振制御の中心位置が第1の位置にある状態で前記イメージサークルの中心位置が前記第1の位置から第2の位置へ変化した場合、前記第1の状態と判定されていない場合よりも、前記第1の状態と判定されている場合のほうが、前記第2の位置から前記防振制御の中心位置までの距離が長くなるように前記防振制御の中心位置を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、像振れ補正の補正範囲を有効に活用しながら、より撮影状況に応じた防振制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態における撮像システムの概略構成を示すブロック図。
【
図2】交換レンズのイメージサークルの中心が、撮像素子の中心に対してずれていない場合の撮像素子のシフト可能範囲を説明する図。
【
図3】交換レンズのイメージサークルの中心が、撮像素子の中心に対してずれている場合の撮像素子のシフト可能範囲を説明する図。
【
図4】
図3の場合において実効イメージサークルを定義した場合に許容される撮像素子のシフト可能範囲を説明する図。
【
図5】
図3の場合において、交換レンズのイメージサークルの中心方向に撮像素子の中心をシフトしたときの撮像素子のシフト可能範囲を説明する図。
【
図6】第1の実施形態における優先状態での撮像素子の防振制御の中心位置を示す図。
【
図7】第1の実施形態における優先状態に応じた防振制御処理を示すフローチャート。
【
図8】第2の実施形態における各優先状態での撮像素子の防振制御の中心位置を示す図。
【
図9】第2の実施形態における各優先状態において設定するゲイン設定値を示す図。
【
図10】第2の実施形態における優先状態に応じた防振制御処理を示すフローチャート。
【
図11】第3の実施形態における各優先状態において設定するゲイン設定値を示す図。
【
図12】第3の実施形態における優先状態に応じた防振制御処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態における撮像システムの概略構成を示すブロック図である。撮像システムは、カメラ本体100と該カメラ本体100に対して着脱可能な交換レンズ装置(以下、「交換レンズ」と呼ぶ。)200を含む。カメラ本体100は、スチルカメラであってもよいし、ビデオカメラであってもよい。
【0012】
カメラ本体100において、撮像素子101は、交換レンズ200が有する撮像光学系210により形成された被写体像を撮像(光電変換)する。撮像素子101からの出力信号(撮像信号)は画像処理部108に入力される。画像処理部108は、撮像信号に対して各種画像処理を行って画像データを生成する。画像データは、不図示のモニタに表示されたり、不図示の記録媒体に記録されたりする。
【0013】
撮像素子101は、不図示のシフト機構により撮像光学系210の光軸OPに対して交差する方向に移動可能である。例えば、光軸OPに直交する平面内においてシフトしたり、光軸OPを回転中心として光軸OPに直交する平面内において回転したりすることが可能である。以下の説明では、撮像素子101をシフトさせる場合を中心に説明する。
【0014】
カメラ振れ検出部105は、ユーザの手振れ等により生じたカメラ本体100の振れ(以下、「カメラ振れ」という。)を検出して、該カメラ振れを表すカメラ振れ検出信号をカメラマイコン102に出力する。カメラマイコン102は撮像素子101の移動を制御する制御部としての機能を有する。カメラマイコン102は、カメラ振れ検出信号からカメラ振れによる像振れを低減(補正)するための撮像素子101のシフト量(移動量)を演算し、該シフト量を含む防振指示をセンサ防振制御部103に出力する。センサ防振制御部103は、カメラマイコン102からの防振指示に応じてシフト機構に含まれるアクチュエータを制御することで、撮像素子101を上記シフト量だけシフト駆動する。これにより、センサ防振動作(像振れ補正)が行われる。
【0015】
カメラマイコン102は、姿勢検出部104にカメラ本体100の姿勢(以下、「カメラ姿勢」という。)の検出を指示し、姿勢検出部104はカメラ姿勢を検出して姿勢検出信号をカメラマイコン102に出力する。カメラ姿勢には、正位置、縦位置(グリップ上、グリップ下)、上向き等がある。また、カメラマイコン102は、カメラ通信部106及び交換レンズ200内のレンズ通信部229を介してレンズマイコン226と通信可能である。
【0016】
交換レンズ200において、撮像光学系210は、変倍レンズ201、絞り202、フォーカスレンズ203及び防振レンズ(光学素子)204を有する。ズーム制御部221は、変倍レンズ201の位置(以下、「ズーム位置」という。)を検出可能であり、カメラマイコン102からのズーム駆動指令に応じて変倍レンズ201を駆動することにより変倍を行う。フォーカス制御部223は、フォーカスレンズ203の位置(以下、「フォーカス位置」という。)を検出可能であり、カメラマイコン102からのフォーカス駆動指令に応じてフォーカスレンズ203を駆動することにより焦点調節を行う。
【0017】
絞り制御部222は、絞り202の開口径(以下、「絞り位置」という。)を検出可能であり、カメラマイコン102からの絞り駆動指令に応じて絞り202を駆動することにより光量調節を行う。絞り制御部222は、連続的に絞り位置を検出及び制御してもよいし、開放状態、2段(中間)、及び1段(最小)のように不連続的に絞り位置を検出及び制御してもよい。また、絞り位置の検出では、絞り202を駆動する駆動機構の駆動量を用いて絞り位置を検出してもよい。
【0018】
そして、ズーム制御部221、絞り制御部222及びフォーカス制御部223が検出したズーム位置、絞り位置及びフォーカス位置をカメラマイコン102に送信する。なお、送信するズーム位置は、変倍レンズ201の位置の情報であってもよいし、そのズーム位置に対応する焦点距離の情報であってもよい。
【0019】
防振レンズ204は、防振に際して、不図示のシフト機構により光軸に対して直交する方向成分を含む方向にシフト可能である。すなわち、光軸に直交する平面内でシフトしたり、光軸上の一点を回動中心として回動したりしてもよい。
【0020】
レンズ振れ検出部228は、ユーザの手振れ等により生じた交換レンズ200の振れ(以下、「レンズ振れ」という。)を検出して該レンズ振れを表すレンズ振れ検出信号をレンズマイコン226に出力する。
【0021】
レンズマイコン226は、レンズ振れ検出信号を用いてレンズ振れによる像振れを低減(補正)するための防振レンズ204のシフト量を演算し、該シフト量を含む防振指示をレンズ防振制御部224に出力する。レンズ防振制御部224は、レンズマイコン226からの防振指示に基づいて防振レンズ204の移動を制御する。具体的には、防振指示に応じてシフト機構に含まれるアクチュエータを制御することで、算出したシフト量だけ防振レンズ204を駆動することにより、レンズ防振が行われる。レンズマイコン226は、データ格納部(記憶部)227に格納された後述するイメージサークル情報等の情報を読み出し、カメラ本体100にイメージサークル情報等を送信する送信部としての機能を有する。
【0022】
データ格納部227は、撮像光学系210のズーム範囲(焦点距離の可変範囲)、フォーカス範囲(合焦可能な距離範囲)、絞り値の可変範囲等の光学情報を格納している。また、データ格納部227は、撮像光学系210のイメージサークルに関する情報(以下、「イメージサークル情報」という。)を格納している。ここで、イメージサークル情報は、イメージサークルの位置を表す情報と、イメージサークルのサイズを表す情報とを含む。本実施形態では、イメージサークルの位置を表す情報として、イメージサークルの中心位置を表すイメージサークル中心情報を格納している。
【0023】
図2は、撮像光学系210のイメージサークル1の中心3が撮像素子101の受光領域2の中心8と一致している理想的な場合の受光領域2のシフト可能範囲4を示している。シフト可能範囲は、通常、防振制御の中心位置(以下、「防振中心」と呼ぶ。)に対して、上下左右方向に対称である。防振中心とは、カメラ振れ検出部
105が検出した振れ量が0のときに撮像素子101の受光領域の中心8が位置する位置のことを指す。ここで、イメージサークル1内に受光領域2が収まるように撮像素子101をシフトする場合、イメージサークル1の中心3と一致する受光領域2の中心8を防振中心とすると、シフト可能範囲4は最大となる。
【0024】
図3は、
図2に示した理想的なイメージサークル1に対して、交換レンズの製造誤差により撮像素子101の受光領域2(中心8)に対して右下側にずれた状態のイメージサークル5(中心3′)を表している。この状態では、イメージサークル5内に受光領域2が収まるように撮像素子101をシフトすると、左上方向や左下方向にシフトする際に、
図2の状態に対してシフト可能量が減少する。また、
図3の状態で、左上方向や左下方向に
図2に示したシフト可能範囲4の最大量まで撮像素子101をシフトさせた場合、受光領域2の左上部分や左下部分がイメージサークル5の外に逸脱する。この場合、撮像信号により形成される画像の左上隅部や左下隅部が黒くなり、画像としての品位が低下してしまう。
【0025】
交換レンズの製造誤差は、撮像光学系210を構成する光学要素の光軸からの偏芯により生じるため、交換レンズごとの偏芯方向によってどの方向にも生じ得る。このため、どの交換レンズが装着されても受光領域2がイメージサークルを逸脱しないようにするためには、イメージサークル5のシフト量を最大製造誤差とした場合、
図4に示すように、実効イメージサークル7を定義することが考えられる。実効イメージサークル7は、受光領域2の中心8から、イメージサークル5までの最短距離を半径とした、受光領域2の中心8を中心とした円である。この実効イメージサークル7内でシフト可能範囲6を設定することにより、どの交換レンズが装着されても、防振制御時に受光領域2がイメージサークルを逸脱しないようにすることができる。しかしながら、シフト可能範囲6は、シフト可能範囲4と比較してシフト可能量がいずれの方向にも減少してしまい、十分なセンサ防振を行うことができない。
【0026】
また、実効イメージサークル7を大きくするために、設計段階でイメージサークル1を大きくすると、交換レンズ全体が大型化してしまう。
【0027】
上述した問題に対し、本実施形態では、上述した様に交換レンズ200のデータ格納部227に、イメージサークル情報を予め記憶しておく。このイメージサークル情報は、例えば、交換レンズの製造時において交換レンズの個体ごとの測定により得られるものである。例えば、
図3に示した本来のイメージサークル1(中心3)に対する実際のイメージサークル5(中心3′)のずれ量とずれ方向を、個々の交換レンズで測定する。そして、測定により得られたずれ量と、ずれ方向を表すベクトル情報をイメージサークル5の中心位置を表すイメージサークル中心情報として、データ格納部227に記憶する。レンズマイコン226は、交換レンズ200がカメラ本体100に接続されたときにイメージサークル情報をカメラマイコン102に送信し、カメラマイコン102は、受信したイメージサークル情報をカメラ側のデータ格納部(不図示)に記憶し、この情報を用いて、後述するようにして防振中心とシフト可能範囲とを設定する。
【0028】
まず、カメラマイコン102は、受信したイメージサークル中心情報を用いて、
図5に示すように、防振制御における受光領域2のシフト初期位置9(中心8’)を設定する。このとき、センサシフト初期位置9の中心8′が防振中心となるため、防振中心8’がイメージサークル5の中心3’と一致するように、センサシフト初期位置9を設定する。そして、センサシフト初期位置9に受光領域2が来るように、受光領域2をシフトする。このように、防振中心8’を中心3’と一致させることで、
図2に示した理想状態と同程度のシフト可能範囲10を確保することができる
。
【0029】
ここで、イメージサークル5の中心3′及びイメージサークルの大きさは、撮像光学系210の光学状態としてのズーム位置、フォーカス位置、絞りの状態及びカメラ姿勢(正位置、グリップ上縦位置、グリップ下縦位置、上向き)に応じて変化する。このため、ズーム位置、フォーカス位置、絞りの状態及びカメラ姿勢が変化した場合にも、最大限有効なシフト可能範囲を確保するためには、変化後のイメージサークル5の中心3′と防振中心8′とを一致させ、そのセンサシフト初期位置9に受光領域2を移動する必要がある。そのため、カメラマイコン102は周期的に撮像光学系210の光学状態の情報を取得し、レンズ装置から受信しておいたイメージサークル中心情報と光学情報とに基づいて現在の光学状態に対応したイメージサークルの中心位置を取得する。尚、光学状態の情報は、周期的に取得する代わりに、光学状態の変化が生じたタイミングで取得してもよい。
しかしながら、例えば、タイムラプス動画撮影中や三脚に設置した状態での撮影においては、ユーザは撮影範囲があまり変わらない事を期待していると考えられる。このように、撮影状態によっては、撮像光学系210の光学状態やカメラ姿勢に応じて受光領域2が移動する事で、ユーザの意図に反して撮影範囲が変わり、ユーザの意図と異なる画像となってしまう恐れがある。
【0030】
そこで、本実施形態では、撮影範囲が変化しない事を優先すべき状態(以下、「優先状態」と呼ぶ。)かどうかをカメラ本体100が判定し、優先状態と判定している状態では、優先状態に遷移した時の防振制御の中心位置を防振中心として固定する。優先状態に遷移した時の防振制御の中心位置とは、優先状態に遷移したタイミングにおいて、カメラの振れ量が0の場合、撮像素子10の受光領域2の中心位置と一致する。
【0031】
ここで、
図6を用いて優先状態における防振中心について説明する。優先状態に遷移した時は、イメージサークル21の中心23に防振中心が設定されている。そして、優先状態のまま、撮像光学系210の光学状態としてのズーム位置、フォーカス位置、絞りの状態及びカメラ姿勢の変化し、イメージサークル21がイメージサークル25に遷移し、中心23の位置が中心23′の位置に移動したものとする。この場合、遷移前のイメージサークル21の中心23を、防振中心として固定する。
【0032】
本実施形態では、カメラ本体100がタイムラプス動画撮影中、または三脚設置状態を検知した場合に優先状態と判断する。なお、三脚設置状態の検知はカメラ本体100に内蔵されたジャイロにて角速度を検出し、検出された角速度情報からカメラ本体100の振動状態を推定し、検出された角速度がある閾値以下の場合、カメラ本体100は三脚設置状態にあると検知する。このようにして優先状態と判定された場合には、防振中心を、優先状態が検出された時の位置に固定し、優先状態から抜けた場合は、イメージサークルの変化に合わせて、変化後の中心位置に移動させるように制御する。
【0033】
次に、
図7に示すフローチャートを用いて、本実施形態においてカメラマイコン102が行う処理について説明する。カメラ本体100の電源が入り、防振制御が開始されると、カメラマイコン102は、S701にて、カメラ本体100が優先状態か否かを判定する。本実施形態では一例として、タイムラプス動画撮影が開始された場合、もしくは三脚設置状態と検知された場合に、カメラマイコン102は優先状態と判定する。優先状態と判定した場合はS702へ、優先状態と判定しなかった場合はS703へ進む。
【0034】
S702では、撮像素子101による防振中心を、優先状態と判定されたときの防振中心の位置に固定する。一方、S703では、撮像素子101による防振中心をイメージサークルの中心と一致させる。そして、S704に進み、防振処理を継続する場合はS701に戻って、上記処理を継続して行い、防振処理を終了する場合は処理を終了する。
【0035】
上記の通り第1の実施形態によれば、イメージサークルが移動した際に、ユーザの撮影意図に反して撮像素子が移動し、撮影範囲が大きく変化してしまうことを防ぐことができる。
【0036】
なお、第1の実施形態では、優先状態ではない場合に、センサシフト初期位置9の中心8’を中心3’と一致させるものとして説明したが、本発明はこれに限られるものでは無い。センサシフト初期位置9の中心8’を中心3’に近づけることで、
図4に示すシフト可能範囲6よりもシフト可能範囲を大きく取ることができる。
【0037】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態で前述した優先状態が複数の状態から成り、各状態に応じて撮像素子の防振中心が異なる場合について説明する。なお、撮像システムの構成は第1の実施形態と同様であるため説明を省略し、動作における差異についてのみ説明する。
【0038】
本実施形態の優先状態は、複数の優先状態を含む。一例として、優先状態1~優先状態3とする。第1の実施形態と同じく、カメラ本体100がタイムラプス動画撮影中、または三脚設置状態と検知した場合には優先状態1と判定する。カメラ本体100が手持ち静止されている状態と検知され、かつ動画撮影モードである場合(以下、「パワードIS状態」という。)は優先状態2と判定する。カメラ本体100が動画撮影モードにて動画記録中は優先状態3と判定する。上記3つの撮影状態では、ユーザが撮影範囲をあまり変えたくない状態であると考えられるため、優先状態と判定する。
【0039】
図8に示す様に、優先状態に遷移した時のイメージサークル21(中心23)が、優先状態のまま撮像光学系210のズーム位置、フォーカス位置、絞りの状態等の光学状態や、カメラ姿勢が変化するのに伴い、イメージサークル25(中心23′)に遷移した場合を考える。この時、第2の実施形態では、優先状態に応じて撮像素子101の防振中心を、イメージサークルの中心23と中心23′との間の位置とする。優先状態に遷移した時の撮像素子101の防振中心から、イメージサークル25の中心23′までの撮像素子101のシフト量をIL
1とする。また、各優先状態における撮像素子101の防振中心までのシフト量をIL
2、各優先状態におけるゲイン設定値をβ
1~3(優先状態1ではβ
1、優先状態2ではβ
2、優先状態3ではβ
3)とする。この場合、IL
2は式(1)より算出することができる。
IL
2
= IL
1
× β
1~3 …(1)
【0040】
図9に、本実施形態における各優先状態におけるゲイン設定値β
1~3の一例を示す。ゲイン設定値βは0に近い値ほど、優先状態における撮像素子101の防振中心が優先状態に遷移した時の撮像素子101の防振制御の中心に近い位置となる。
図8を用いて、各優先状態における撮像素子101の防振中心について説明する。優先状態1の場合、第1の実施形態と同じく、
図6に示すように、中心23を撮像素子101の防振中心とする。優先状態2の場合は
図8(a)に示す位置32、優先状態3の場合は
図8(b)に示す位置33を撮像素子101の防振中心とする。
【0041】
図10は、第2の実施形態における、撮像素子101の防振中心を算出するフローチャートである。カメラ本体100の電源が入り、防振制御が開始されると、S901にて、カメラマイコン102は、カメラ本体100が優先状態か否かを判定する。優先状態であると判定された場合、S902にてどの優先状態かを判定する。タイムラプス動画撮影の場合、もしくは三脚設置状態とカメラ本体100が検知した場合、優先状態1と判定されて、S903において優先状態1における防振中心を算出する。S902にてカメラ本体100がパワードIS状態の場合、優先状態2と判定されて、S904において優先状態2における防振中心を算出する。S902にてカメラ本体100が動画記録中の場合、優先状態3と判定されて、S905にて優先状態3における防振中心を算出する。
【0042】
次にS906では、撮像素子101による防振中心を前述のS903~S905のいずれかで算出した位置に設定して、S908に進む。
【0043】
一方、S907では、カメラマイコン102が優先状態と判定しなかった場合、第1の実施形態と同様に、撮像素子101の防振中心を、現在のイメージサークルの中心位置に移動し、S908に進む。
【0044】
S908では、防振処理を継続するかどうかを判断し、防振処理を継続する場合はS901に戻って上記処理を継続して行い、防振処理を終了する場合は処理を終了する。
【0045】
上記の通り第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果に加えて、撮影状態に応じた撮影範囲と防振制御との兼ね合いを図ることができる。なお、第2の実施形態では、防振制御の中心位置を、優先状態に遷移したときの受光領域2の中心位置のまま固定する優先状態(β=0の優先状態1)を備える形態について説明をしたが、必ずしもこの優先状態を備える必要はない。βは撮像装置が備える撮影状態やモードに応じて、適宜設定することができる。また、第2の実施形態のように、優先状態でないときは撮像素子101の防振中心を、変化後のイメージサークルの中心位置に移動することは、β=1であるとみなすことができる。優先状態ではないときよりも優先状態のときのβのほうが小さければ、優先状態のときにイメージサークルの中心位置の変化に伴う撮影範囲の変化を軽減することができる。
【0046】
なお、0<β<1とした場合、防振制御の中心位置は、優先状態に遷移したときの受光領域の中心位置と、変化後のイメージサークルの中心位置とを結ぶ直線上にある必要はない。防振制御の中心位置が、優先状態に遷移したときの受光領域の中心位置から、変化後のイメージサークルの中心位置の方向へ移動するように制御すれば、本実施形態の効果を奏することができる。
【0047】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、第2の実施形態で前述した優先状態が複数の状態から成り、各状態に応じて撮像素子の防振中心が異なる場合において、前述した優先状態1~優先状態3と異なる、優先状態4、優先状態5を追加した場合について説明する。なお、撮像システムの構成は第1の実施形態と同様であり、優先状態1~優先状態3の動作は第2の実施形態と同様であるため説明を省略し、追加した優先状態の動作についてのみ説明する。
【0048】
第3の実施形態では、一例として、静止画撮影モードに設定されている状態において、カメラ本体100が露光中と検知した場合には優先状態4と判定する。また、カメラ本体100が連写撮影中、または、ブラケット撮影中と検知した場合は優先状態5と判定する。上記3つの撮影状態では、ユーザが撮影範囲をあまり変えたくない状態であると考えられるため、優先状態と判定する。
【0049】
第3の実施形態における全体的な処理は第2の実施形態で説明したものと同じであるが、各優先状態における撮像素子101の防振中心までのシフト量IL2を算出する式が異なる。各優先状態におけるゲイン設定値をβ4~5(優先状態4ではβ4、優先状態5ではβ5)とした場合、IL2は式(2)より算出することができる。
IL2 = IL1× β4~5 …(2)
【0050】
図11に、本実施形態における各優先状態におけるゲイン設定値β
1~5の一例を示す。ゲイン設定値β
1~3は第2の実施形態で説明したものと同じである。ゲイン設定値βは0に近い値ほど、優先状態における撮像素子101の防振中心が優先状態に遷移した時の撮像素子101の防振制御の中心に近い位置となる。
【0051】
図12は、第3の実施形態における、撮像素子101の防振中心を算出するフローチャートである。
図12は、第2の実施形態において
図10を参照して説明した撮像素子101の防振中心を算出するフローチャートに、第3の実施形態である優先状態4と優先状態5の説明を追加したものである。
【0052】
カメラ本体100の電源が入り、防振制御が開始されると、S1201にて、カメラマイコン102は、カメラ本体100が優先状態か否かを判定する。優先状態であると判定された場合、S1202にてどの優先状態かを判定する。カメラ本体100が露光中の場合、優先状態4と判定されて、S1206において優先状態4における防振中心を算出する。S1202にてカメラ本体100が連写撮影中、もしくはブラケット撮影中の場合、優先状態5と判定されて、S1207において優先状態5における防振中心を算出する。なお、S1202からS1203~S1205への処理は、
図10におけるS902からS903~S905への処理と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0053】
次にS1208では、撮像素子101による防振中心を前述のS1203~S1207のいずれかで算出した位置に設定して、S1210に進む。
【0054】
一方、S1209では、カメラマイコン102が優先状態と判定しなかった場合、第1の実施形態と同様に、撮像素子101の防振中心を、現在のイメージサークルの中心位置に移動し、S1210に進む。
【0055】
S1210では、防振処理を継続するかどうかを判断し、防振処理を継続する場合はS1201に戻って上記処理を継続して行い、防振処理を終了する場合は処理を終了する。本第3の実施形態では、優先状態4の場合、露光期間中はS1201に戻って上記処理を継続して行い、露光期間が終わり次第、処理を終了する。また、優先状態5の場合は、連写撮影中または、ブラケット撮影中はS1201に戻って上記処理を継続して行い、連写撮影または、ブラケット撮影が終了次第、処理を終了する。
【0056】
<他の実施形態>
また、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0057】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0058】
1,5,21,25:イメージサークル、2:受光領域、3,3’,23,23’:イメージサークルの中心、4,6,10:シフト可能範囲、8:受光領域の中心、8’,32,33:シフト初期位置の中心、9:シフト初期位置、100:カメラ本体、101:撮像素子、102:カメラマイコン、103:センサ防振制御部、105:カメラ振れ検出部、108:画像処理部、200:交換レンズ、201:変倍レンズ、202:絞り、203:フォーカスレンズ、204:防振レンズ、221:ズーム制御部、222:絞り制御部、223:フォーカス制御部、224:レンズ防振制御部、226:レンズマイコン、227:データ格納部