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特許7466375インプリント方法、インプリント装置及び物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】インプリント方法、インプリント装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240405BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020087609
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021182594
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 有弘
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 陽司
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170684(WO,A1)
【文献】特開2019-106536(JP,A)
【文献】特開2018-092996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0104389(US,A1)
【文献】特開2021-082808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/00
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型を用いて基板上の複数のショット領域のそれぞれにインプリント材のパターンを形成するインプリント方法であって、
前記基板と前記インプリント材とを密着させる機能を有し、第1光の照射により前記インプリント材に対する撥液性が増加する膜を前記基板上に形成する第1工程と、
前記第1工程の後、前記膜に前記インプリント材を硬化させる第2光のうち前記基板上の各ショット領域の外に漏れる漏れ光及び前記漏れ光が前記型と前記基板との間で反射を繰り返すことによる迷光が照射されることで生じる、前記基板上の各ショット領域に配置される前記インプリント材の液滴のサイズの差が低減するように、前記第1光を前記基板上に形成された前記膜に照射する第2工程と、
前記第2工程の後、前記膜の上に前記インプリント材の液滴を配置し、当該インプリント材の液滴と前記型とを接触させた状態で前記第2光を照射することで前記パターンを形成する第3工程と、
を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記基板上の各ショット領域に配置される前記インプリント材の液滴のサイズの差が許容範囲に収まるように、前記第1光を前記膜に照射することを特徴とする請求項1に記載のインプリント方法。
【請求項3】
前記第2工程では、前記基板上の各ショット領域に配置される前記インプリント材の液滴のサイズが同一となるように、前記第1光を前記膜に照射することを特徴とする請求項2に記載のインプリント方法。
【請求項4】
前記第2工程では、前記基板内で強度分布を有する前記第1光を前記膜に照射することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項5】
記第2工程では、前記複数のショット領域間で、前記インプリント材の液滴のサイズの差が前記許容範囲に収まるように、前記第1光を前記膜に照射することを特徴とする請求項2に記載のインプリント方法。
【請求項6】
記第2工程では、前記複数のショット領域のそれぞれにおいて、前記インプリント材の液滴のサイズの差が前記許容範囲に収まるように、前記第1光を前記膜に照射することを特徴とする請求項2に記載のインプリント方法。
【請求項7】
記基板の1つのショット領域ごとに前記第2工程及び前記第3工程を行うことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項8】
記複数のショット領域に対して前記第2工程を一括して行うことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項9】
前記第1光と前記第2光とは、異なる光源から射出された光であることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項10】
前記第1光と前記第2光とは、互いに異なる波長を有することを特徴とする請求項9に記載のインプリント方法。
【請求項11】
前記第1光と前記第2光とは、同一の光源から射出された光であることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載のインプリント方法。
【請求項12】
型を用いて基板上の複数のショット領域のそれぞれにインプリント材のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記基板と前記インプリント材とを密着させる機能を有し、第1光の照射により前記インプリント材に対する撥液性が増加する膜が形成された前記基板上に前記インプリント材の液滴を配置するディスペンサと、
前記ディスペンサが前記基板上に前記インプリント材の液滴を配置する前に、前記膜に前記インプリント材を硬化させる第2光のうち前記基板上の各ショット領域の外に漏れる漏れ光及び前記漏れ光が前記型と前記基板との間で反射を繰り返すことによる迷光が照射されることで生じる、前記基板上の各ショット領域に配置される前記インプリント材の液滴のサイズの差が低減するように、前記第1光を前記膜に照射する照射部と、
を有することを特徴とするインプリント装置。
【請求項13】
前記照射部が前記第1光を前記膜に照射した後、前記ディスペンサにより前記膜の上に前記インプリント材の液滴を配置し、当該インプリント材の液滴と前記型とを接触させた状態で第2光を照射することで前記パターンを形成する処理を行う処理部を更に有することを特徴とする請求項12に記載のインプリント装置。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のインプリント装置を用いてパターンを基板に形成する工程と、
前記工程で前記パターンが形成された前記基板を処理する工程と、
処理された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント方法、インプリント装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント技術は、基板上に形成された密着膜の上にインプリント材の液滴を配置し、かかるインプリント材と型とを接触させて、型に形成された微細なパターンに対応するインプリント材のパターンを基板上に形成する微細加工技術である。インプリント技術によれば、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。
【0003】
インプリント技術では、インプリント材の硬化法の1つとして光硬化法がある。光硬化法は、基板上に配置されたインプリント材と型とを接触させた状態で紫外線などの光を照射してインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から型を引き離すことでインプリント材のパターンを基板上に形成する方法である。
【0004】
光硬化法では、基板上のショット領域から漏れた光(漏れ光)が、パターンが形成されていないショット領域に形成されている密着膜に到達する(照射される)場合がある。密着膜に光が照射されると、密着膜の表面状態が変化するため、そこに配置されるインプリント材の液滴の大きさが変化してしまう。漏れ光が照射される量はショット領域内の位置によって異なるため、ショット領域内に配置されるインプリント材の液滴の大きさが不均一になる。
【0005】
インプリント材の液滴の大きさが不均一になると、ショット領域内、或いは、基板上の各ショット領域でインプリント材の液滴の広がりに偏りが生じ、インプリント材がショット領域を超えて外側にはみ出してしまうことがある。このような場合、型のパターン領域のエッジ部分にインプリント材が付着したり、型のパターン(凹部)にインプリント材が十分に充填されず、基板上に形成されるパターンに未充填欠陥が生じたりしてしまう。
【0006】
そこで、インプリント材がショット領域を超えて外側にはみ出してしまうことを抑制するための技術が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、基板上のショット領域の周囲(全周)に光を照射して、基板上の密着膜をインプリント材に対して撥液性にすることで、インプリント材の液滴を濡れ広がり難くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-92996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1には、基板上のショット領域の周囲に照射する光の光強度分布について具体的な開示がない。例えば、基板上のショット領域の周囲に同じ強さで光りを照射すると、基板上の密着膜の撥液性は一律で同じになるため、ショット領域内の漏れ光が到達している領域と漏れ光が到達していない領域とで、密着膜の撥液性に分布が生じてしまう。また、特許文献1には、漏れ光に関する記載がなく、漏れ光の対策はなされていない。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、基板上に配置されるインプリント材の液滴の大きさを均一にするのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント方法は、型を用いて基板上の複数のショット領域のそれぞれにインプリント材のパターンを形成するインプリント方法であって、前記基板と前記インプリント材とを密着させる機能を有し、第1光の照射により前記インプリント材に対する撥液性が増加する膜を前記基板上に形成する第1工程と、前記第1工程の後、前記膜に前記インプリント材を硬化させる第2光のうち前記基板上の各ショット領域の外に漏れる漏れ光及び前記漏れ光が前記型と前記基板との間で反射を繰り返すことによる迷光が照射されることで生じる、前記基板上の各ショット領域に配置される前記インプリント材の液滴のサイズの差が低減するように、前記第1光を前記基板上に形成された前記膜に照射する第2工程と、前記第2工程の後、前記膜の上に前記インプリント材の液滴を配置し、当該インプリント材の液滴と前記型とを接触させた状態で前記第2光を照射することで前記パターンを形成する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、基板上に配置されるインプリント材の液滴の大きさを均一にするのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一側面としてのインプリント装置の構成を示す概略図である。
図2】第1実施形態におけるインプリント方法を説明するためのフローチャートである。
図3】密着層の上に配置されたインプリント材の液滴を示す概略断面図である。
図4】基板上の複数のショット領域の配列を示す図である。
図5】基板上のインプリント材と型のパターン領域との接触前後の状態を示す図である。
図6】漏れ光が未処理ショット領域に与える影響を説明するための図である。
図7図2に示すS02の工程を説明するための図である。
図8】照射部からの光の照射時間とインプリント材の液滴のサイズの変化量との関係の一例を示す図である。
図9】照射部の構成の一例を示す概略図である。
図10】第2実施形態におけるインプリント方法を説明するためのフローチャートである。
図11】物品の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置1の構成を示す概略図である。インプリント装置1は、物品としての半導体素子、液晶表示素子、磁気記憶媒体などのデバイスの製造工程であるリソグラフィ工程に採用され、基板にパターンを形成するリソグラフィ装置である。インプリント装置1は、基板上に供給されたインプリント材と型とを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型のパターンが転写された硬化物のパターンを形成する。なお、型は、モールド、テンプレート、或いは、原版とも称される。
【0016】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料(硬化性組成物)が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。
【0017】
硬化性組成物は、光の照射、或いは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。
【0018】
インプリント材は、スピンコーターやスリットコーターによって基板上に膜状に付与されてもよい。また、インプリント材は、液体噴射ヘッドによって、液滴状、或いは、複数の液滴が繋がって形成された島状又は膜状で基板上に付与されてもよい。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0019】
基板には、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられ、必要に応じて、その表面に基板とは別の材料からなる部材が形成されていてもよい。具体的には、基板は、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスなどを含む。
【0020】
インプリント装置1は、本実施形態では、インプリント材の硬化法として光硬化法を採用する。インプリント装置1は、図1に示すように、型8を保持して移動する型保持部3と、基板10を保持して移動する基板保持部4と、基板上にインプリント材の液滴を配置するディスペンサ5とを有する。また、インプリント装置1は、インプリント材を硬化させる光(第2光)9を照射する硬化部2と、基板上のインプリント材と型8との接触状態を撮像する撮像部6と、型8や基板10に設けられたマークを検出する検出部7とを有する。更に、インプリント装置1は、光(第1光)35を照射する照射部20と、制御部21とを有する。
【0021】
本明細書及び添付図面では、基板10の表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転及びZ軸周りの回転のそれぞれを、θX、θY及びθZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御又は駆動(移動)は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御又は駆動(移動)を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸周りの回転、Y軸に平行な軸周りの回転、Z軸に平行な軸周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。
【0022】
基板保持部4は、基板10を保持する基板チャック16と、少なくともX軸方向及びY軸方向の2軸に関して基板チャック16を駆動する(基板10の位置を制御する)基板駆動機構17とを含む。基板保持部4には、その側面に、X、Y、Z、θX、θY及びθZの各方向に対応した複数の参照ミラー18が設けられている。また、複数の参照ミラー18のそれぞれに対して、各参照ミラーにビームを照射して基板保持部4の位置を計測する複数のレーザ干渉計(測長器)19が設けられている。基板10(基板保持部4)の位置決めは、制御部21の制御下において、レーザ干渉計19で計測された基板保持部4の位置に基づいて行われる。なお、参照ミラー18及びレーザ干渉計19に代えて、エンコーダを用いて基板保持部4の位置を計測してもよい。
【0023】
型保持部3は、型8を保持する型チャック11と、少なくともZ軸方向の1軸に関して型チャック11を駆動する(型8の上下方向(Z軸方向)の位置を制御する)型駆動機構38とを含む。型駆動機構38が型チャック11を下方(-Z方向)に駆動することによって、型チャック11に保持された型8のパターン領域8aと基板上のインプリント材14とを接触させる(押印)。型駆動機構38が型チャック11を上方(+Z方向)に駆動することによって、基板上の硬化したインプリント材14から型8を引き離す(離型)。なお、押印及び離型では、型チャック11を駆動する代わりに、基板チャック16を上下方向に駆動してもよいし、型チャック11と基板チャック16とを相対的に駆動してもよい。
【0024】
型8のパターン領域8aには、本実施形態では、基板上に形成すべきパターン(凹凸)を反転させたパターンが形成されている。型8のパターン領域8aは、型チャック11に保持された状態において、基板側に突出した部分、所謂、メサと称される部分に形成されている。なお、型8のパターン領域8aは、パターンが形成されていない平面(平坦部)に置換することが可能である。
【0025】
型保持部3には、例えば、石英板からなる光透過部材41と型8とで規定される空間(キャビティ)13が設けられていてもよい。かかる空間13の圧力を調整することで、押印時や離型時に型8を変形させることが可能である。例えば、押印時に空間13の圧力を高くすることで、型8を基板10に対して凸形状に変形させた状態でパターン領域8aとインプリント材14とを接触させることができる。
【0026】
検出部7は、型8に設けられているマークと、基板10に設けられているマークとを検出する。検出部7の検出結果に基づいて、制御部21では、型8と基板10との相対的な位置(位置ずれ)を求め、型8及び基板10の少なくとも一方を移動させることで型8と基板10とを位置合わせ(アライメント)することができる。
【0027】
制御部21は、インプリント装置1の内部に設けられていてもよいし、インプリント装置1とは別の場所に設けられていてもよい。制御部21は、CPUやメモリなどを含む情報処理装置(コンピュータ)で構成され、記憶部に記憶されたプログラムに従って、インプリント装置1の全体を制御する。制御部21は、インプリント装置1の各部を制御して、基板上の複数のショット領域のそれぞれにインプリント材のパターンを形成するインプリント処理を行う処理部として機能する。インプリント処理では、基板上にインプリント材14を配置し、型8をインプリント材14に接触させた状態でインプリント材14を硬化させる。そして、型8と基板10との間隔を広げて、基板上の硬化したインプリント材14から型8を引き離すことで、基板上のインプリント材14に型8のパターンを転写する。このような一連の処理を、基板上の複数のショット領域のそれぞれに対して行う。従って、1つの基板上の複数のショット領域のそれぞれに対してインプリント処理を行う場合には、かかる1つの基板上の複数のショット領域の数だけインプリント処理が繰り返し行われることになる。
【0028】
<第1実施形態>
図2を参照して、本発明の第1実施形態におけるインプリント方法について説明する。S01(第1工程)では、基板上のインプリント処理の対象とする1つのショット領域(対象ショット領域)にインプリント材14の液滴を配置する前に、基板上(基板10の全体)に密着膜を形成(塗布)する。密着膜は、塗布装置などの外部装置によって基板上に形成してもよいし、インプリント装置1に塗布装置を設けてインプリント装置内で基板上に形成してもよい。
【0029】
S02(第2工程)では、基板上の対象ショット領域にインプリント材14の液滴を配置する前に、照射部20からの光35を、対象ショット領域上の密着膜に照射する。
【0030】
S03(第3工程)では、S02で光35が照射された密着膜の上にインプリント材14の液滴を配置し、インプリント材14の液滴と型8とを接触させた状態で硬化部2からの光9を照射することでインプリント材14のパターンを形成する(インプリント処理)。
【0031】
S04では、インプリント材14のパターンを形成した対象ショット領域が最終ショット領域であるかどうかを判定する。対象ショット領域が最終ショット領域である場合には、処理を終了する。一方、対象ショット領域が最終ショット領域ではない場合には、次のショット領域を対象ショット領域として、S02に移行する。このように、S03でインプリント材14のパターンが形成される対象ショット領域が最終ショット領域になるまで、S02及びS03を繰り返す。
【0032】
図2に示すS01の工程について説明する。基板上に形成される密着膜は、基板10とインプリント材14とを密着させる機能を有する。かかる密着膜は、インプリント材14に対して親液性を有するが、例えば、450nm以下の波長の光が照射されることで、インプリント材14に対して親液性から撥液性に変化する、即ち、インプリント材14に対する撥液性が増加する性質を有する。
【0033】
密着膜に光を照射することで、かかる密着膜がインプリント材14に対して親水性を示すようになるメカニズムは解明されていないが、本発明者らは以下のように推測している。密着膜の表面に雰囲気中の水分が吸着されると、表面エネルギーが増加する。このような状態の密着膜に光を照射することで、表面に吸着された水分が脱離し、光を照射する前に比べて、表面エネルギーが低下するため、密着膜がインプリント材14に対して撥水性を示すと考えられる。
【0034】
ここで、密着膜(の成分)の一般的な例について説明するが、密着膜は、以下の材料に限定されるものではない。また、密着膜は、例えば、特表2009-503139号公報、特開2014-189616号公報、特開2014-3123号公報にも開示されている。
【0035】
密着膜の材料としては、エチレン性不飽和基と親水性基とを有するポリ(メタ)アクリレート化合物が好ましい。エチレン性不飽和基としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。親水性基としては、アルコール性水酸基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、エーテル基などが挙げられる。ポリ(メタ)アクリレート化合物(アクリル樹脂)は、エチレン性不飽和基と、親水性基とを含み、エチレン性不飽和基と親水性基とは、同一の繰り返し単位に含まれていてもよいし、別々の繰り返し単位に含まれていてもよい。
【0036】
また、密着膜の材料は、揮発性溶剤を含み、エステル構造、ケトン構造、水酸基及びエーテル構造のうちのいずれかを少なくとも1つ有する有機溶剤であることが好ましい。密着膜の材料は、他の成分として、架橋剤、熱重合開始剤、界面活性剤を含有していてもよい。架橋剤としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、メチロール化合物、メチロールエーテル化合物、ビニルエーテル化合物などのカチオン重合性化合物が好ましい。熱重合開始剤としては、例えば、アゾ系化合物、有機過酸化物が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましく、フッ素系、Si系、又は、フッ素・Si系であることが好ましい。
【0037】
図3(a)及び図3(b)は、基板上に形成された密着膜102の上に配置されたインプリント材14の液滴を示す概略断面図である。図3(a)及び図3(b)を参照するに、基板10の上に密着膜102が形成され、密着膜102の上にインプリント材14の液滴が配置されている。図3(a)は、光を照射していない密着膜102の上にインプリント材14の液滴を配置した場合を示している。図3(a)を参照するに、インプリント材14と密着膜102とが親水性の関係にあるため、インプリント材14の液滴は、密着膜102に低い接触角で接液して濡れ広がった状態になる。図3(b)は、光を照射した密着膜102の上にインプリント材14の液滴を配置した場合を示している。図3(b)を参照するに、密着膜102が光の照射によって親水性から撥液性に変化しているため、インプリント材14の液滴の接触角が増加し、濡れ広がり難くなっている。
【0038】
図2に示すS02の工程について説明する。図4(a)及び図4(b)は、基板上の複数のショット領域の配列を示す図である。図4(a)及び図4(b)を参照するに、201は、インプリント処理が行われてないショット領域(未処理ショット領域)を示している。また、202は、これからインプリント処理が行われるショット領域(対象ショット領域)を示し、203は、インプリント処理が行われたショット領域(処理済ショット領域)を示している。
【0039】
図5(a)は、基板上のインプリント材14と型8のパターン領域8aとを接触させる前の状態を示している。図5(a)に示すように、密着膜102が基板10の上に形成され、インプリント材14の液滴が密着膜102の上に配置されている。図5(b)は、基板上のインプリント材14と型8のパターン領域8aとを接触させた後の状態、即ち、型8のパターン領域8aがインプリント材14の液滴を押し広げた状態を示している。図5(b)に示すように、硬化部2(の光源)から発せられた光9がインプリント材14に照射され、インプリント材14が硬化される。この際、インプリント材14が配置されているショット領域305よりも広い範囲に光9が照射されてしまう。ここでは、ショット領域305の外に漏れる光を漏れ光307と称し、漏れ光307が照射される(到達する)範囲を漏れ光範囲306と称する。また、漏れ光307は、型8と基板10との間で反射を繰り返す迷光304となり、漏れ光範囲306よりも離れた領域に到達する。
【0040】
漏れ光307は、図6(a)に示すように、インプリント処理が行われてない未処理ショット領域201に影響を与える。漏れ光307が未処理ショット領域201に到達すると、上述したように、未処理ショット領域201に形成されている密着膜102のインプリント材14に対する性質が親液性から撥液性に変わる。従って、未処理ショット領域201では、インプリント材14の液滴が濡れ広がり難くなってしまう。
【0041】
図6(b)は、基板上の4つのショット領域SR1、SR2、SR3及びSR4に対して、ショット領域SR1、ショット領域SR2、ショット領域SR3、ショット領域SR4の順にインプリント処理を行う様子を模式的に示している。ショット領域SR1、SR2及びSR3は、インプリント処理が行われた処理済ショット領域であり、ショット領域SR4は、これからインプリント処理が行われる対象ショット領域である。図6(b)を参照するに、ショット領域SR1、SR2及びSR3のコーナー部分では、漏れ光307(漏れ光範囲306)が複数回重なるため、漏れ光307の影響が、漏れ光307が照射される回数に比例して大きくなる。具体的には、ショット領域SR4において、漏れ光307が複数回重なるコーナー部306aでは、漏れ光307が到達しないコーナー部306bに比べて、密着膜102の撥液性が大きくなる。従って、ショット領域SR4のコーナー部306aでは、ショット領域SR4のコーナー部306bと比較して、インプリント材14の液滴が濡れ広がり難くなるため、未充填欠陥などの欠陥が発生しやすくなる。
【0042】
更に、インプリント処理が行われたショット領域に隣接するショット領域から離れたショット領域においても、漏れ光307が影響を与える。具体的には、図5(b)に示すように、漏れ光307が型8と基板10との間で反射を繰り返して迷光304となり、より離れたショット領域にも到達し、かかるショット領域の濡れ性を変化させてしまう。1つのショット領域に対するインプリント処理だけであれば、漏れ光307及び迷光304の影響は軽微である。但し、複数のショット領域に対するインプリント処理を継続していると、インプリント処理が後に行われるショット領域ほど、これまでのインプリント処理による漏れ光307及び迷光304が積算され、その影響が大きくなる。
【0043】
このように、基板上のショット領域に与えられる漏れ光307の影響は、インプリント処理が行われる順番によって異なる。例えば、図4(a)に矢印204で示すように、基板上の複数のショット領域に対してインプリント処理を一方向に行う場合を考える。具体的には、インプリント処理が右下の端のショット領域から始まり、左下の端のショット領域に対するインプリント処理が終了すると、1つ上の段(行)の右端のショット領域からインプリント処理を再開する場合を考える。この場合、基板10の左側のショット領域は、基板10の右側のショット領域と比べて、漏れ光307及び迷光304の影響が大きくなる。なお、インプリント処理を行う順番を左右で逆にすると、漏れ光307及び迷光304の影響は、基板10の左側のショット領域よりも基板10の右側のショット領域で大きくなる。また、基板上のショット領域に対して、インプリント処理を一方向(片道)ではなく、二方向(往復)で行う場合は、往路と復路とで、漏れ光307及び迷光304が影響を与える範囲が異なる。
【0044】
本実施形態では、このような漏れ光307及び迷光304の影響を、インプリント処理を行う前に取得(確認)する。具体的には、密着膜102が形成された基板を用意し、かかる基板上にインプリント材14の液滴を配置して、インプリント材14に型8を接触させずに(型8を近接させて)光9を照射し、インプリント材14を液滴の状態で硬化させる。そして、実際のインプリント処理と同様の順番で基板上の全てのショット領域でインプリント材14の液滴の配置と硬化とを繰り返しながら、基板上の硬化したインプリント材14の液滴のサイズ(大きさ)を計測する。例えば、インプリント装置1が有する撮像部6を用いてインプリント材14の液滴のサイズを計測してもよいし、インプリント装置1から基板を取り出して外部の光学顕微鏡やSEMなどを用いてインプリント材14の液滴のサイズを計測してもよい。
【0045】
また、基板上のショット領域内の全てのインプリント材14の液滴について、そのサイズを計測することが好ましい。但し、基板上のショット領域内のエリアごとに抜き取りでインプリント材14の液滴のサイズを計測してもよい。インプリント材14の液滴のサイズの計測の対象とする計測数は任意である。但し、計測数が少なすぎると、漏れ光307及び迷光304の影響の範囲を把握することが難しくなるため、漏れ光307及び迷光304の影響の範囲を把握することができるように、計測数を調整(設定)することが好ましい。
【0046】
また、インプリント材14の液滴のサイズは、絶対値として計測(評価)してもよいし、相対値として計測してもよい。例えば、漏れ光307及び迷光304が影響していない最初のショット領域内のインプリント材14の液滴のサイズを基準として、その他のショット領域内の同じ位置の液滴のサイズを相対的に評価してもよい。
【0047】
本実施形態では、このようにして計測されたインプリント材14の液滴のサイズから、漏れ光307及び迷光304が影響する範囲を推測して取得することができる。
【0048】
図7(a)は、基板上の各ショット領域に配置されたインプリント材14の液滴のサイズを模式的に示す図である。図7(a)では、基板上のショット領域401、402及び403のそれぞれでのインプリント材14の液滴のサイズ、詳細には、各ショット領域の4箇所のコーナー部及び1箇所の中央部の代表的な5箇所でのインプリント材14の液滴のサイズを数値で示している。また、本実施形態では、インプリント材14の液滴のサイズを5段階で示し、「1」が最も小さく、「5」が最も大きいものとする。インプリント処理の順番は、図7(a)に矢印204で示すように、右下の端のショット領域から始まり、左下の端のショット領域が終了すると、1つ上の段(行)の右端のショット領域に戻るような一方向に進むものとする。
【0049】
図7(a)を参照するに、ショット領域401は、最初にインプリント処理が行われるショット領域であるため、漏れ光307(及び迷光304)の影響を受けていない。従って、ショット領域401では、インプリント材14の液滴のサイズが全て最大の「5」となる。ショット領域402は、基板10の中央付近のショット領域であるため、それまでのインプリント処理による漏れ光307及び迷光304の影響を若干受けることになる。従って、ショット領域402の右下のコーナー部でのインプリント材14の液滴のサイズが「2」となる。一方、漏れ光307の影響を直接受けていないショット領域402の左上のコーナー部でのインプリント材14の液滴のサイズは「4」となる。ショット領域403は、最後にインプリント処理が行われるショット領域であるため、それまでのインプリント処理による漏れ光307及び迷光304の影響を大きく(積算分)受けることになる。従って、ショット領域403の右下のコーナー部でのインプリント材14の液滴のサイズが最小の「1」となる。また、ショット領域403の中央部、左上及び右上のコーナー部でのインプリント材14の液滴のサイズは「2」となり、漏れ光307及び迷光304の影響が少ないショット領域403の左上のコーナー部でのインプリント材14の液滴のサイズは「3」となる。このように、漏れ光307及び迷光304の影響が大きい箇所では、インプリント材14の液滴のサイズが小さくなり、漏れ光307及び迷光304の影響が小さい箇所では、インプリント材14の液滴が大きくなる。
【0050】
そこで、本実施形態では、S02において、照射部20からの光35を、基板上の各ショット領域に形成された密着膜102に照射する。具体的には、漏れ光307及び迷光304(光9)が照射されることで生じる、各ショット領域(基板上の複数の位置のそれぞれ)に配置されるインプリント材14の液滴のサイズの差が低減するように、照射部20からの光35を密着膜102に照射する。この際、インプリント材14の液滴のサイズの差が許容範囲に収まるように、照射部20からの光35を密着膜102に照射することが好ましい。また、インプリント材14の液滴のサイズが同一となるように、照射部20からの光35を密着膜102に照射することが更に好ましい。そのため、照射部20からの光35として、基板内やショット領域内で強度分布を有する光35を密着膜102に照射する。このように、S02は、基板内やショット領域内に強度分布を有する光35を照射し、光35を照射した領域内に形成された密着膜102を撥液性にするとともに、その撥液性に分布を形成する工程である。
【0051】
ここで、図7(b)、図7(b)及び図7(c)を参照して、基板上のショット領域401、402及び403のそれぞれに照射する光35の強度分布の制御について説明する。本実施形態では、最後にインプリント処理が行われるショット領域403でのインプリント材14の液滴のうち最も小さな液滴のサイズと、その他のショット領域でのインプリント材14の液滴のサイズとが同一となるように、光35の強度分布を制御する。図7(b)乃至図7(d)には、基板上の各ショット領域に照射する光35の強度分布を変化させている様子を示している。また、本実施形態では、照射部20から照射する光35の強度を5段階で示し、「0」が最も弱く、「4」が最も強いものとする。
【0052】
図7(b)は、ショット領域401でのインプリント材14の液滴のサイズ、ショット領域401に形成された密着膜102に照射する光35の強度、及び、光35を照射した後のショット領域401でのインプリント材14の液滴のサイズを示している。ショット領域401では、上述したように、インプリント材14の液滴のサイズに差がなく、そのサイズも最も大きい。そこで、ショット領域401(に形成された密着膜102)には、照射部20から、強度分布を有さず、且つ、最も強い強度「4」を有する光35を照射する。これにより、光35が照射された後のショット領域401にインプリント材14の液滴を配置すると、そのサイズが「1」となる。
【0053】
図7(c)は、ショット領域402でのインプリント材14の液滴のサイズ、ショット領域402に形成された密着膜102に照射する光35の強度、及び、光35を照射した後のショット領域402でのインプリント材14の液滴のサイズを示している。ショット領域402では、インプリント材14の液滴のサイズに差がある。そこで、ショット領域402(に形成された密着膜102)には、照射部20から、強度分布を有する光35を照射する。具体的には、ショット領域402の右下のコーナー部(インプリント材14の液滴のサイズが小さい箇所)には、照射部20から、強度「1」を有する光35を照射する。一方、ショット領域402の左上のコーナー部(インプリント材14の液滴のサイズが大きい箇所)には、照射部20から、強度「3」を有する光35を照射する。また、ショット領域402の中央部、右上及び左下のコーナー部には、照射部20から、強度「2」を有する光35を照射する。これにより、光35が照射された後のショット領域402にインプリント材14の液滴を配置すると、そのサイズが「1」となる。
【0054】
図7(d)は、ショット領域403でのインプリント材14の液滴のサイズ、ショット領域403に形成された密着膜102に照射する光35の強度、及び、光35を照射した後のショット領域403でのインプリント材14の液滴のサイズを示している。ショット領域403では、インプリント材14の液滴のサイズに差がある。そこで、ショット領域403(に形成された密着膜102)には、照射部20から、強度分布を有する光35を照射する。具体的には、ショット領域403の右下のコーナー部(インプリント材14の液滴のサイズが小さい箇所)には、照射部20から、強度「0」を有する光35を照射する。一方、ショット領域403の左上のコーナー部(インプリント材14の液滴のサイズが大きい箇所)には、照射部20から、強度「2」を有する光35を照射する。また、ショット領域403の中央部、右上及び左下のコーナー部には、照射部20から、強度「1」を有する光35を照射する。これにより、光35が照射された後のショット領域403にインプリント材14の液滴を配置すると、そのサイズが「1」となる。
【0055】
このように、本実施形態では、基板上のインプリント材14を配置する前に、各ショット領域でのインプリント材14の液滴のサイズが同一となるように、密着膜102に照射する光35の強度分布を制御する。これにより、基板上にインプリント材14の液滴を配置した際に、基板内でインプリント材14の液滴のサイズを均一にすることがきる。なお、ショット領域内で分布だけを有する光35を照射した場合、図7(a)に示すように、ショット領域内の各位置でもインプリント材14の液滴のサイズが異なるため、インプリント材14の液滴のサイズを均一にすることはできない。基板上の各ショット領域で、分布だけではなく、強度も制御しながら、光35を照射する必要がある。
【0056】
照射部20から密着膜102に照射する光35の照射時間や光量に対する、基板上のインプリント材14の液滴のサイズの変化量は、事前に取得(確認)しておくことが好ましい。照射部20からの光35の照射時間や光量と、基板上のインプリント材14の液滴のサイズの変化量との関係は、インプリント材14の種類や密着膜102の種類によって異なる。従って、インプリント材14の種類や密着膜102の種類ごとに、実験を経て、照射部20からの光35の照射時間や光量と、基板上のインプリント材14の液滴のサイズの変化量との関係を取得する必要がある。
【0057】
図8は、照射部20からの光35の照射時間と基板上のインプリント材14の液滴のサイズの変化量との関係の一例を示す図である。図8では、縦軸は、照射部20から密着膜102に照射する光35の照射時間を示し、横軸は、インプリント材14の液滴の面積減少率を示している。インプリント材14の液滴の面積減少率は、インプリント材14に対する密着膜102の撥液の状態、即ち、インプリント材14の液滴のサイズの変化量の指標の1つである。なお、図8では、インプリント材14の液滴の面積減少率として、照射部20から密着膜102に光35を照射していない場合におけるインプリント材14の液滴のサイズ(面積)を100%として、相対的なサイズを示している。また、ここでは、基板上に形成された密着膜102に対して、ショット領域内で均一な光35を照射時間を変えながら照射し、その後、インプリント材14の液滴を配置して硬化させ、その液滴のサイズを計測している。図8を参照するに、光35の照射時間が長くなるにつれて、インプリント材14の液滴のサイズ(面積)が減少していくことがわかる。このような関係を取得しておくことで、各ショット領域でのインプリント材14の液滴のサイズが同一となるように、照射部20から密着膜102に照射する光35の強度分布を制御することが可能となる。
【0058】
図9を参照して、基板上の各ショット領域に照射する光35の強度分布を変化させることを可能とする照射部20の構成の一例について説明する。照射部20は、光源302と、光学素子504aと、光変調素子(空間光変調素子)503と、光学素子504bとを含む。
【0059】
光源302は、基板上に形成される密着膜102の性質を親液性から撥液性に変化させるために必要な光出力が得られる光源で構成され、例えば、ランプ、レーザダイオード、LEDなどから構成される。光源302からの光35は、光学素子504aを介して、光変調素子503に導かれる。光変調素子503は、本実施形態では、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)で構成されている。但し、光変調素子503は、DMDに限定されるものではなく、LCDデバイスやLCOSデバイスなどのその他の素子で構成されていてもよい。光変調素子503は、光源302と基板10との間に配置され、制御部21に制御下で、基板10に対して、光35を照射する照射領域や光35の強度、即ち、光35の強度分布を任意に設定することができる。光変調素子503で照射領域や強度が制御された光35は、光学素子504bを介して、基板上に形成された密着膜102に投影される倍率が調整される。
【0060】
本実施形態では、インプリント材14を硬化させる光9を照射する硬化部2とは別に、密着膜102に光35を照射する照射部20を設けている(即ち、光9と光35とは、異なる光源から射出された光である)。但し、密着膜102に対して、硬化部2からの光9を照射してもよい(即ち、光9と光35とは、同一の光源から射出された光であってもよい)。また、光9と光35とは、それぞれが実現すべき機能を有する範囲において、互いに異なる波長を有していてもよいし、同一の波長を有していてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、インプリント材14の液滴のサイズの差が許容範囲に収まるように、照射部20からの光35を密着膜102に照射する上で、以下の条件を満たすことが好ましい。
【0062】
例えば、照射部20から密着膜102に照射する光35は、インプリント材14が撥液しすぎない範囲で強度を制御するようにする。密着膜102の撥液性が大きくなりすぎると、インプリント材14の液滴が十分に濡れ広がらなくなるため、未充填欠陥が発生しやすくなってしまう。このような未充填欠陥を抑制するためには、基板上のインプリント材14と型8とを接触させている接触時間を長くする必要がある。但し、基板上のインプリント材14と型8とを接触させている接触時間を長くすると、生産性が低下するため、現実的ではない。一方、密着膜102の撥液性が飽和するまで光35を照射すると、インプリント材14の液滴同士が接合し難くなるため、基板上のインプリント材14と型8とを接触させている接触時間を長くしても未充填欠陥が発生するようになる。この場合、基板上のインプリント材14の液滴の配置パターンを変更して、液滴同士の間隔を詰める必要があるが、液滴同士の間隔が詰まることで、液滴の密度が大きくなり、基板上に形成されるインプリント材14のパターンの膜厚(残膜厚)が厚くなってしまう。
【0063】
また、基板上のインプリント材14の液滴の面積が減少すると、各ショット領域でのインプリント材14(の液滴)の被覆率が低下することになる。インプリント材14の1つの液滴のサイズは微小であるが、1つのショット領域に対して3万から6万の液滴が配置されるため、ショット領域の全体での影響は大きくなる。例えば、密着膜102の撥液性が飽和するまで光35を照射すると、ショット領域の全体で、ショット領域の面積に対する液滴の被覆率が約10%異常減少するため、未充填欠陥が発生する可能性がある。
【0064】
密着膜102の撥液性(撥液の状態)と未充填欠陥との関係は、インプリント材14の種類、密着膜102の種類、型8のパターン、インプリント材14の液滴の配置パターンによって変化する(異なる)。基板上のインプリント材14と型8とを接触させている接触時間において型8のパターンに対するインプリント材14の充填状態を調整することができる範囲で、密着膜102の撥液性を制御することが好ましい。例えば、ショット領域の面積比でインプリント材14の液滴の被覆面積の減少率を10%未満に抑えることが好ましく、5%以下に抑えることが更に好ましい。但し、かかる数値は一例であって、実際に行われるインプリント処理の各種条件に応じて、最適な数値範囲を決定することが好ましい。なお、被覆面積とは、ショット領域の面積と、かかるショット領域に配置される全てのインプリント材14の液滴の面積(総和)との割合である。密着膜102に光35を照射していない場合(インプリント材14の液滴のサイズが最も大きい場合)での被覆面積を100%とし、密着膜102に光35を照射した場合においてインプリント材14の液滴の面積が減少した分を被覆面積の減少率としている。
【0065】
次に、図2に示すS03の工程について説明する。S02において、基板上の各ショット領域に対して、照射部20から各ショット領域に適した強度分布を有する光35を照射することで、密着膜102の親液性及び撥液性に分布が形成される。このような密着膜102の上にインプリント材14の液滴を配置することで、かかるインプリント材14の液滴のサイズを同一にすることができる。これにより、基板上の全てのショット領域に対して、同一の条件でインプリント処理を行うことができる。換言すれば、基板上の全てのショット領域で共通のインプリント材14の液滴の配置パターン(ドロップレシピ)を用いることができる。
【0066】
本実施形態のように、基板上の複数のショット領域間でインプリント材14の液滴のサイズを同一にすることの利点は以下の通りである。基板上の複数のショット領域間でインプリント材14の液滴のサイズを同一にしなかった場合、最初にインプリント処理を行うショット領域と最後にインプリント処理を行うショット領域との間で、インプリント材14の液滴の濡れ広がりの状態が異なってしまう。最初にインプリント処理を行うショット領域に対して配置パターンを最適化すると、最後にインプリント処理を行うショット領域では、インプリント材14の液滴が濡れ広がり難くなる。従って、最後にインプリント処理を行うショット領域において、未充填欠陥が発生しやすくなる。一方、最後にインプリント処理を行うショット領域に対して配置パターンを最適化すると、最初にインプリント処理を行うショット領域では、インプリント材14の液滴が濡れ広がりやすくなる。従って、最初にインプリント処理を行うショット領域において、インプリント材14がショット領域を超えて外側にはみ出しやすくなる。基板上の各ショット領域に対して配置パターンを最適化することも考えられるが、全てのショット領域に対して配置パターンを最適化することは非常に手間がかかる。また、インプリント処理の順番を変更したり、ディスペンサ5から吐出するインプリント材14の液滴の量を変更したりすると、その度、配置パターンを再度最適化する必要があるため、現実的ではない。本実施形態であれば、上述したように、基板上の全てのショット領域で共通のインプリント材14の液滴の配置パターンを用いることができる。
【0067】
また、本実施形態では、基板上の複数のショット領域間でインプリント材14の液滴のサイズを同一にすることについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、基板上の複数のショット領域のそれぞれにおいて、インプリント材14の液滴のサイズを同一にすることも本発明の一側面を構成する。
【0068】
<第2実施形態>
図10を参照して、本発明の第2実施形態におけるインプリント方法について説明する。第1実施形態では、基板上のショット領域にインプリント処理を行う前に、かかるショット領域に形成された密着膜102に対して、照射部20から光35を照射している(即ち、基板10の1つのショット領域ごとにS02及びS03を行う)。本実施形態では、基板上の各ショット領域にインプリント処理を行う前に、基板上に形成された密着膜102に対して、照射部20から光35を照射する(即ち、基板上の複数のショット領域の全てに対して一括して光35を照射する)。
【0069】
本実施形態では、第1実施形態と比較して、S02の工程がS22の工程に置換されている。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、基板上の各ショット領域に配置されるインプリント材14の液滴のサイズを事前に計測し、各ショット領域に照射する光35の強度分布を求めておく。S22では、基板上に形成された密着膜102に対して、即ち、基板上の複数のショット領域の全てに対して、各ショット領域に適した強度分布で、照射部20から光35を照射する。
【0070】
S22において、基板上の各ショット領域に光35を照射する順番は、限定されるものではなく、例えば、インプリント処理の順番であってもよいし、別の順番であってもよい。また、基板上の各ショット領域に目的とする強度分布を有する光35を照射することができるのであれば、1つのショット領域ごとに光35を照射する必要はなく、複数のショット領域に対して一括して光35を照射してもよい。例えば、複数の光変調素子503を用いて、基板上の2×2又は3×3のショット領域に対して光35を照射してもよいし、基板上の全てのショット領域に対して光35を一括して照射してもよい。
【0071】
本実施形態において、基板10に形成された密着膜102に対して、強度分布を有していない(均一な)光35を一括して照射しても、インプリント材14の液滴のサイズを同一にすることはできない。また、基板上の各ショット領域に対して、各ショット領域に適した強度分布を有する光35を正確に位置合わせして照射する必要がある。基板上の各ショット領域と各ショット領域に適した強度分布を有する光35との間にずれがあると、そのずれた領域において、インプリント材14の液滴のサイズを制御することができなくなる。
【0072】
<第3実施形態>
第1実施形態及び第2実施形態では、インプリント装置1において、基板上に形成された密着膜102に対して光35を照射して撥液化処理を行っているが、これに限定されるものではない。本実施形態では、インプリント装置1の外部において、密着膜102の撥液化処理を行う場合について説明する。
【0073】
基板10に形成された密着膜102に光35を照射する工程は、必ずしもインプリント装置1で行う必要はない。例えば、インプリント装置1と外部との間で基板10を搬送する搬送装置に光35を照射する装置を設けてもよい。但し、光35を照射する装置は、基板上の各ショット領域に対して、各ショット領域に適した強度分布を有する光35を正確に位置合わせして照射する必要がある。基板上の各ショット領域と各ショット領域に適した強度分布を有する光35との間にずれがあると、そのずれた領域において、インプリント材14の液滴のサイズを制御することができなくなる。
【0074】
<第4実施形態>
インプリント装置1を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは、各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型などである。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMなどの揮発性又は不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAなどの半導体素子などが挙げられる。型としては、インプリント用のモールドなどが挙げられる。
【0075】
硬化物のパターンは、上述の物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入などが行われた後、レジストマスクは除去される。
【0076】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。図11(a)に示すように、絶縁体などの被加工材が表面に形成されたシリコンウエハなどの基板を用意し、続いて、インクジェット法などにより、被加工材の表面にインプリント材を付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材が基板上に付与された様子を示している。
【0077】
図11(b)に示すように、インプリント用の型を、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材に向け、対向させる。図11(c)に示すように、インプリント材が付与された基板と型とを接触させ、圧力を加える。インプリント材は、型と被加工材との隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型を介して照射すると、インプリント材は硬化する。
【0078】
図11(d)に示すように、インプリント材を硬化させた後、型と基板を引き離すと、基板上にインプリント材の硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材に型の凹凸のパターンが転写されたことになる。
【0079】
図11(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材の表面のうち、硬化物がない、或いは、薄く残存した部分が除去され、溝となる。図11(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材の表面に溝が形成された物品を得ることができる。ここでは、硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子などに含まれる層間絶縁用の膜、即ち、物品の構成部材として利用してもよい。
【0080】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0081】
1:インプリント装置 8:型 10:基板 14:インプリント材 20:照射部 102:密着膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11