(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ガス供給異常判定システム
(51)【国際特許分類】
G01M 3/00 20060101AFI20240405BHJP
G01F 3/22 20060101ALI20240405BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20240405BHJP
【FI】
G01M3/00 C
G01F3/22 B
G01F1/00 T
(21)【出願番号】P 2020118551
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】坪井 研
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直也
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】山下 真純
(72)【発明者】
【氏名】小西 良平
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-160616(JP,A)
【文献】特開2019-178956(JP,A)
【文献】特開2005-077327(JP,A)
【文献】特開2020-051935(JP,A)
【文献】特開2016-206038(JP,A)
【文献】米国特許第04984448(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
G01F 3/22
G01F 1/00
F17D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給箇所へガスを導くガス管での差し水を含むガス供給異常を判定するガス供給異常判定システムであって、
前記ガス管により構成される一のガス供給系統において所定の前記ガス供給箇所へ供給されるガスの流量を測定する流量測定部を有すると共にガスの圧力を測定する圧力測定部を有するガスメータを備え、
所定の第1測定期間毎の測定時点において、前記流量測定部により測定されるガス流量と前記圧力測定部により測定されるガス圧力に関連するガス圧力関連値とを判定情報として、前記ガス供給系統毎に前記測定時点毎で記憶する第1記憶部と、
前記第1記憶部に記憶された前記判定情報のうち、一の前記ガス供給系統に設けられる前記ガスメータに関し、すべての前記ガスメータの夫々で一の前記測定時点における前記ガス流量と他の前記測定時点における前記ガス流量とが同一となっているときで、夫々の前記ガスメータにおいて前記測定時点における零より大きい前記ガス流量に対応する前記ガス圧力関連値に関し、一の前記測定時点における前記ガス圧力関連値と他の前記測定時点における前記ガス圧力関連値とが異なる場合に、当該ガス圧力関連値を測定した前記ガスメータの近傍において前記ガス供給異常が発生している可能性があると判定する供給異常判定としての第1供給異常判定を実行する供給異常判定部とを備えるガス供給異常判定システム。
【請求項2】
前記供給異常判定部は、前記判定情報に関し、前記ガス圧力関連値として、前記測定時点にて前記ガス流量が零のときの前記ガス圧力と推定できる値から、前記測定時点における前記零より大きい前記ガス流量での前記ガス圧力を減算した値を用いる請求項1に記載のガス供給異常判定システム。
【請求項3】
前記ガス管が、ガス本管とそこから分岐され前記ガスメータに連通するガス支管とから構成されているものにおいて、
前記供給異常判定部は、前記供給異常判定において、少なくとも2つの前記ガスメータにて前記ガス供給異常が発生していると判定した場合、前記ガス本管にて前記差し水による水溜りが発生していると判定する請求項1又は2に記載のガス供給異常判定システム。
【請求項4】
前記供給異常判定部は、前記第1供給異常判定において前記ガス供給異常が発生していると判定した場合、一の前記測定時点における前記ガス圧力関連値と他の前記測定時点における前記ガス圧力関連値とが異なる値を示した前記ガスメータにおいて、前記ガス流量と前記ガス圧力とを前記第1測定期間より短い第2測定期間において経時的に連続して前記ガス圧力を測定し、測定された前記ガス流量が前記第2測定期間において零より大きい値で一定であり且つ測定された前記ガス圧力が前記第2測定期間において所定の判定変動幅を超えて変動している場合に、前記ガス供給異常としての差し水が発生している可能性が高いと判定する前記供給異常判定としての第2供給異常判定を実行する請求項1~3の何れか一項に記載のガス供給異常判定システム。
【請求項5】
前記ガス供給系統を構成する前記ガス管の高さ情報を含む3次元的な配設情報と、前記供給異常判定部による前記供給異常判定の判定結果とに基づいて、前記ガス管での差し水の発生箇所を推定する差し水発生箇所推定部を備える請求項1~4の何れか一項に記載のガス供給異常判定システム。
【請求項6】
一の前記ガス供給系統に設けられる前記ガスメータの夫々は、前記第1測定期間よりも長い期間である送信期間毎に、当該送信期間で取得して前記ガスメータの第2記憶部に記憶されている前記判定情報を、ネットワーク回線を介して監視センターの前記第1記憶部へ送信する通信部を備えている請求項1~5の何れか一項に記載のガス供給異常判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給箇所へガスを導くガス管での差し水及びガス漏洩を含むガス供給異常を判定するガス供給異常判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
埋設されたガス管の近傍に水道管が埋設されている場合、当該水道管が破損したときに破損箇所からの水流が周辺の土砂や石を巻き込み、当該土砂や石がガス管に衝突するサンドブラストが発生することがある。当該サンドブラストによりガス管が破損した場合、ガス管の内部に泥水が侵入する(以下、差し水と呼ぶことがある)ことがある。当該差し水や異物がガス管の内部へ侵入すると、ガス供給箇所へ適切にガス(例えば、都市ガス13A等)が供給されないガス供給異常が生じる虞があるため、現状では、それらの発生を防止するべく、例えば、地中に埋設するガス管を保護材により防護する技術がある(特許文献1を参照)。
また、上述したようなガス供給異常が発生した場合、ガス事業者は、ガス供給箇所でのガス使用者からの連絡によりガス供給異常の発生の可能性があることを知り、当該連絡に基づいてガス供給異常の発生の有無の調査、及び対応を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、現状では、ガス事業者は、ガス供給箇所でのガス使用者からの連絡によりガス供給異常の発生の可能性があることを知るため、連絡があるまでは、ガス供給異常の発生の有無を確認する術がなく、改善の余地があった。
更には、ガス使用者から連絡があった場合には、現地にガス事業者の検査員が赴いて、ガス管への水の侵入状況や、破損状況を確認する必要があり、経済性の観点から問題があった。
また、これまでの方法では、例えば、ガス供給箇所でのガスの供給が停止した後でガス事業者に連絡が入った後に、復旧対応をしていたため、ガス供給箇所においてガス供給異常に伴ってガス供給停止が発生してから復旧するまでに、比較的長時間を要し、ガス使用者の利便性を損なうという問題もあった。
【0005】
本発明は、ガス使用者からの連絡の有無に関わらず、ガス供給異常に対する対応を早期に行うことができながらも、検査員が現地に赴くことなくガス供給異常を検知できると共に、従来に比べガス使用者の利便性の向上を図り得るガス供給異常判定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのガス供給異常判定システムは、ガス供給箇所へガスを導くガス管での差し水を含むガス供給異常を判定するガス供給異常判定システムであって、その特徴構成は、
前記ガス管により構成される一のガス供給系統において所定の前記ガス供給箇所へ供給されるガスの流量を測定する流量測定部を有すると共にガスの圧力を測定する圧力測定部を有するガスメータを備え、
所定の第1測定期間毎の測定時点において、前記流量測定部により測定されるガス流量と前記圧力測定部により測定されるガス圧力に関連するガス圧力関連値とを判定情報として、前記ガス供給系統毎に前記測定時点毎で記憶する第1記憶部と、
前記第1記憶部に記憶された前記判定情報のうち、一の前記ガス供給系統に設けられる前記ガスメータに関し、すべての前記ガスメータの夫々で一の前記測定時点における前記ガス流量と他の前記測定時点における前記ガス流量とが同一となっているときで、夫々の前記ガスメータにおいて前記測定時点における零より大きい前記ガス流量に対応する前記ガス圧力関連値に関し、一の前記測定時点における前記ガス圧力関連値と他の前記測定時点における前記ガス圧力関連値とが異なる場合に、当該ガス圧力関連値を測定した前記ガスメータの近傍において前記ガス供給異常が発生している可能性があると判定する供給異常判定としての第1供給異常判定を実行する供給異常判定部とを備える点にある。
【0007】
発明者らは、一のガス供給系統に設けられるガスメータに関し、すべてのガスメータの夫々で一の測定時点におけるガス流量と他の測定時点におけるガス流量とが同一となっているときで、夫々のガスメータにおいて測定時点における零より大きいガス流量に対応するガス圧力関連値に関し、一の測定時点におけるガス圧力関連値と他の測定時点におけるガス圧力関連値とが異なる場合、対象のガスメータの近傍において、差し水が発生している可能性があると言えることを見出し、上述の発明を完成させた。
上記特徴構成によれば、ガス使用者がガス使用箇所において、ガス供給停止等の異常を感じる前に、システム側でガス供給異常の判定を行いその判定結果に基づいて対応を行うことができるから、ガス使用者からの連絡がきた後に対応する場合に比べ、迅速な対応をとることができ、安全性の向上を図ることができる。
更には、検査員が現場に赴くことなく、一定の信頼度のあるガス供給異常に関する判定結果を得ることができるから、緊急保安に関する人員の削減を図ることができ、経済的メリットを享受できる。
更には、ガス供給異常によりガスの供給停止が発生する前で被害が拡大する前に対応をとることができるから、長期間のガス供給停止の発生を防止でき、ガス使用者の利便性の向上を図ることができる。
因みに、上記特徴構成によれば、ガス供給系統でガス流量がある状態、即ち、ガス使用がある状態であっても、供給異常判定を実行できるから、当該判定において、例えば、ガス供給系統の上流側でガス管を遮断する遮断弁を閉止する必要がなく、ガス供給系統でのガス使用状態に縛られることなく柔軟性の高い供給異常判定を実現できる。
以上より、ガス使用者からの連絡の有無に関わらず、ガス供給異常に対する対応を早期に行うことができながらも、検査員が現地に赴くことなくガス供給異常を検知できると共に、従来に比べガス使用者の利便性の向上を図り得る供給異常判定システムを実現できる。
【0008】
尚、ガス供給系統とは、当該技術分野において一般的にブロックと呼ばれる供給系統より小規模のガス供給系統であって、一つ以上のガス本管からガスが供給される供給系統で、その供給系統よりも下流へガスが供給されない供給系統を言うものとする。当該明細書においては、一の住戸区画(1以上の住戸を含む)へガスを供給する供給系統が主に該当する。
また、本発明において、ガス供給異常とは、ガス供給系統での差し水以外に、異物の混入、及びガス漏洩を含むものとする。
【0009】
ガス供給異常判定システムの更なる特徴構成は、
前記供給異常判定部は、前記判定情報に関し、前記ガス圧力関連値として、前記測定時点にて前記ガス流量が零のときの前記ガス圧力と推定できる値から、前記測定時点における前記零より大きい前記ガス流量での前記ガス圧力を減算した値を用いる点にある。
【0010】
通常、ガス供給系統でガス流量が零のときのガス圧で静圧としてのガス供給圧力は、常に一定であるわけではなく、多少の変動がある。
上記特徴構成によれば、供給異常判定部は、判定情報に関し、ガス圧力関連値として、測定時点にてガス流量が零のときのガス圧力(静圧)と推定できる値から測定時点における零より大きいガス流量でのガス圧力(動圧)を減算した値を用いて、ガス供給異常を判定しているから、上流側から供給されるガス供給圧力が変動する場合であっても、その変動の影響を除外して判定することでき、より現場の実情を反映した判定結果を得ることができる。
尚、ガス流量が零より大きい測定時点においては、ガス流量が零のときの静圧を実測することはできない。そこで、本発明では、静圧としてのガス流量が零のときのガス圧力と推定される値を用いており、例えば、ガス流量が零より大きい測定時点の前後で、ガス流量が零の測定時点にて測定されるガス圧力の平均値として導出される値(推定値)を好適に採用できる。
【0011】
ガス供給異常判定システムの更なる特徴構成は、
前記ガス管が、ガス本管とそこから分岐され前記ガスメータに連通するガス支管とから構成されているものにおいて、
前記供給異常判定部は、前記供給異常判定において、少なくとも2つの前記ガスメータにて前記ガス供給異常が発生していると判定した場合、前記ガス本管にて前記差し水による水溜りが発生していると判定する点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、差し水による水溜りの発生箇所が、ガス供給系統のうち、どの辺りにあるかを、より詳細に判定することができ、その後の復旧作業において有益な情報を提供することができる。
【0013】
ガス供給異常判定システムの更なる特徴構成は、
前記供給異常判定部は、前記第1供給異常判定において前記ガス供給異常が発生していると判定した場合、一の前記測定時点における前記ガス圧力関連値と他の前記測定時点における前記ガス圧力関連値とが異なる値を示した前記ガスメータにおいて、前記ガス流量と前記ガス圧力とを前記第1測定期間より短い第2測定期間において経時的に連続して前記ガス圧力を測定し、測定された前記ガス流量が前記第2測定期間において零より大きい値で一定であり且つ測定された前記ガス圧力が前記第2測定期間において所定の判定変動幅を超えて変動している場合に、前記ガス供給異常としての差し水が発生している可能性が高いと判定する前記供給異常判定としての第2供給異常判定を実行する点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、第1供給異常判定において、差し水等のガス供給異常が発生している可能性が高いと判定しているときに、第1測定期間より短い第2測定期間において経時的に連続してガス圧力を測定し、測定されたガス流量が第2測定期間において零より大きい値で一定であり且つ測定されたガス圧力が第2測定期間において所定の判定変動幅を超えて変動している場合に、ガス供給異常が発生している可能性が高いと判定する供給異常判定としての第2供給異常判定を実行することで、差し水が発生しているときの特徴的な現象としてのガス通流による水面の振動に伴うガス圧力の変動の有無を見ることで、差し水の発生の有無をより高い確度で判定できる。
【0015】
ガス供給異常判定システムの更なる特徴構成は、
前記ガス供給系統を構成する前記ガス管の高さ情報を含む3次元的な配設情報と、前記供給異常判定部による前記供給異常判定の判定結果とに基づいて、前記ガス管での差し水の発生箇所を推定する差し水発生箇所推定部を備える点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、差し水発生箇所推定部は、供給異常判定部による供給異常判定の判定結果のみならず、高さ情報を含む3次元的なガス管の配設情報を含めて、差し水の発生箇所を推定するから、ガス管への差し水が侵入してガス管の高低差に応じて移動した差し水の流動軌跡をも考慮して、差し水発生箇所を特定することができる。
【0017】
ガス供給異常判定システムの更なる特徴構成は、
一の前記ガス供給系統に設けられる前記ガスメータの夫々は、前記第1測定期間よりも長い期間である送信期間毎に、当該送信期間で取得して前記ガスメータの第2記憶部に記憶されている前記判定情報を、ネットワーク回線を介して監視センターの前記第1記憶部へ送信する通信部を備えている点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、ガスメータは、第1測定期間よりも長い期間である送信期間毎に、当該送信期間で取得して第2記憶部に記憶している判定情報を監視センターへ送信するから、ガスメータでの電力消費を低減しながらも、当該ガスメータにて取得した判定情報を、ガス供給系統の他のガスメータとも通信可能に構成されている監視センターへ送信して、ガス供給異常の判定を、ガス供給系統の全体で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るガス供給異常判定システムの概略構成図である。
【
図2】ガス供給異常の判定方法を説明するための概略図である。
【
図3】ガス供給異常の判定方法を説明するためのグラフ図である。
【
図4】ガス供給系統におけるガス管及びガスメータの配設状態と、差し水の滞留箇所とを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るガス供給異常判定システム100は、ガス使用者からの連絡の有無に関わらず、差し水等のガス供給異常に対する対応を早期に行うことができながらも、検査員が現地に赴くことなくガス供給異常を検知できると共に、従来に比べガス使用者の利便性の向上を図り得るものに関する。
以下、
図1~4に基づいて、当該実施形態に係るガス供給異常判定システム100について説明する。
【0021】
〔ガスメータ〕
ガスメータMは、超音波流量計として構成されており、ガス管から住居等のガス供給箇所(図示せず)へ供給されるガスの流量を計測するものである。
当該ガスメータMには、
図1の一部断面図に示すように、一次側のガス配管に連通接続されるガス流入口11と、二次側のガス配管に連通接続されるガス流出口12と、当該ガス流入口11とガス流出口12とを接続するガス流路Lが形成されている。
ガス流路Lには、整流流路を形成する筒状部材20が配設されると共に、当該筒状部材20の内部には、筒軸心に沿って延びる整流板21が複数設けられている。
詳細な図示は省略するが、当該ガスメータMには、筒状部材20の内部に形成される整流流路に超音波を伝播させる一対の送受波器SJ1、SJ2とが備えられている。
より詳細には、ガス流路Lを通流するガスの流れ方向に対して、当該流れ方向に沿った第1方向及び当該第1方向とは逆方向の第2方向に超音波を伝搬させて、第1方向の所定伝搬距離を伝搬した超音波を受信すると共に第2方向の所定伝搬距離を伝搬した超音波を受信する一対の送受波器SJ1、SJ2を有すると共に、第1方向で所定伝搬距離を超音波が伝搬する第1伝搬時間と第2方向で所定伝搬距離を超音波が伝搬する第2伝搬時間とを計測し、計測された第1伝搬時間及び第2伝搬時間と所定伝搬距離とからガス流路を通流するガスのガス流速を導出し、当該ガス流速とガス流路L(整流流路)の流路断面積とからガス流量を導出する制御装置Cを有する超音波流量計50(流量計測部の一例)を備える。
【0022】
制御装置Cは、ガスメータMの内部の中央に形成される中央空間Kに制御基板として実装されており、ソフトウェア群と演算装置や第2記憶部C3等のハードウェア群とが協働する状態で設けられている。更に、制御装置Cでは、ガスメータMにおいて、ガス流量の演算等を行う制御部C1や、制御部C1からの各種信号をガスメータMの外部の監視センターCSへネットワーク回線N等を介して送信する第2通信部C2(通信部の一例)等の機能部位が備えられる。
また、図示は省略するが、ガスメータMには、制御部C1にて演算されたガス流量を外部から視認可能な状態で表示する表示部(図示せず)が設けられている。
【0023】
筒状部材20にて構成される整流流路の上流側には、ガスメータMの上流側のガス圧が著しく低下したときに安全上の観点からガス流路Lを遮断する遮断弁30が設けられており、当該遮断弁30は、弁体31がガス流路L内に突出形成される弁座部32に着座する形態で、ガス流路Lの開閉部位LKを閉止して、ガス流路Lを閉止する。
【0024】
ガス流路Lとしての整流流路には、その流路軸心に略直交する方向に開口LRが形成されると共に、整流流路の内部と連通する状態で連通空間SKが併設されている。当該連通空間SKは、整流流路の流れが阻害されないように、整流流路から外れた位置で且つガスメータMの内部に形成されている。当該連通空間SKの内部には、圧力測定部としての圧力センサS1が配設されており、当該圧力センサS1は整流流路を通流するガスの圧力(流量が零の場合は静圧Ps、流量がある場合は動圧Pd)を測定し、測定された圧力を、制御部C1が受信する。
【0025】
さて、当該実施形態に係るガス供給異常判定システム100は、一のガス供給系統GK(
図4に図示)での差し水等のガス供給異常が発生している可能性があるか否かを判定するべく、以下のように構成されている。
まずもって、ガスメータMに設けられる第2記憶部C3は、所定の第1測定期間毎の測定時点において同一タイミングで、自身に設けられる超音波流量計50により測定されるガス流量と自身に設けられる圧力センサS1により測定されるガス圧力に関するガス圧力関連値とを判定情報として記憶する。尚、同一タイミングとは、第1測定期間より短い時間幅を有するタイミングを意味するものとし、ガス流量とガス圧力が計測されるタイミングは、第1測定期間に対して十分に短い時間幅であれば、多少のずれがあっても構わない。
【0026】
更に、一のガス供給系統に設けられるガスメータMの夫々は、第2通信部C2及びネットワーク回線Nを介して、第1測定期間よりも長い期間である送信期間毎に、当該送信期間で取得して第2記憶部C3に記憶している判定情報を監視センターCSへ送信し、監視センターCS側では、当該判定情報を第1通信部CS1にて受信して第1記憶部CS2へ記憶する。
これにより、第1記憶部CS2は、所定の第1測定期間毎の測定時点において同一タイミングで、ガスメータM毎の超音波流量計50により測定されるガス流量と圧力センサS1により測定されるガス圧力に関連するガス圧力関連値とを判定情報として、ガス供給系統GK毎に測定時点毎で記憶することになる。
【0027】
監視センターCSは、第1記憶部CS2に記憶された判定情報のうち、一のガス供給系統GKに設けられるすべてのガスメータM(
図4では、M1~M5)に関し、ガスメータMの夫々で一の測定時点におけるガス流量と他の測定時点におけるガス流量とが同一となっているときで、測定時点における零より大きいガス流量に対応するガス圧力関連値に関し、一の測定時点におけるガス圧力関連値と他の測定時点におけるガス圧力関連値とが異なる場合に、当該ガス圧力関連値を測定したガスメータMの近傍においてガス供給異常が発生している可能性があると判定する供給異常判定としての第1供給異常判定を実行する供給異常判定部CS3を備える。
【0028】
尚、当該実施形態において、ガス供給系統GKとは、当該技術分野において一般的にブロックと呼ばれる系統より小規模のガス供給系統であって、一つ以上のガス本管からガスが供給される供給系統を言うものとする。当該明細書においては、一の住戸区画(1以上の住戸を含む)へガスを供給する供給系統が主に該当する。
また、当該明細書において、ガス供給異常とは、ガス供給系統での差し水以外に、異物の混入、及びガス漏洩を含むものとする。
【0029】
ここで、ガス供給異常の判定において、一次側からのガスの供給圧力の変動が判定に及ぼす影響を低減するべく、ガス圧力関連値は、所定の測定箇所(ガスメータMの設置箇所)で、測定時点においてガス流量が零のときのガス圧力と推定される値(静圧)から、測定時点においてガス流量が零より大きいときのガス圧力(動圧)を減算した値とする。
尚、ガス流量が零より大きい測定時点において、静圧を実測することはできない。そこで、当該実施形態では、静圧としてのガス流量が零のときのガス圧力と推定される値として、例えば、ガス流量が零より大きい測定時点の前後で、ガス流量が零の測定時点にて測定されるガス圧力の平均値として導出される値を好適に採用する。
【0030】
図2、3を用いて、供給異常判定部CS3による一のガスメータMでのガス供給異常の判定について、説明を追加する。
ガス供給本管L2から伸びるガス供給支管L3aにガスメータMが設けられる構成において、ガス供給異常としての差し水が発生していない状態(
図2(a)に示す状態)から、差し水が発生している状態(
図2(b)に示す状態)となった場合を考える。
ここで、
図2(a)の様に、差し水が発生していない状態でのガスメータMを通流するガス流量をL1a〔m
3/h〕、静圧をPs1〔Pa〕、動圧をPd1〔Pa〕とし、
図2(b)の様に、差し水が発生している状態でのガスメータMを通流するガス流量をL2a〔m
3/h〕、静圧をPs2〔Pa〕、動圧をPd2〔Pa〕とする。
差し水が発生しガスメータMの近傍のガス供給本管L2の内部に水が滞留している場合、当該滞留部位においてガス供給本管L2のガス通流面積が減少して圧力損失が増加するため、水が滞留していない場合に比べて、動圧が当該圧力損失分だけ減少することになる。
【0031】
さて、上述したように、ガス供給圧力(静圧)は経時的に変化するものであるので、
図3に示すように、差し水が発生した状態での静圧Ps2が、差し水が発生していない状態での静圧Ps1より増加した場合を考える。ここで、ガス使用量が零より大きい場合、圧力センサS1により静圧は計測できないので、
図3では、ガス使用が零の場合に圧力センサS1にて計測された複数の静圧を用いて、既知の方法にて近似した近似式Lαを導出し、ガス使用量が零より大きい場合の測定時点での静圧を推定するものとする。
ここで、差し水が発生していない状態でのガス流量L1a〔m
3/h〕と差し水が発生している状態でのガス流量L2a〔m
3/h〕とが同一である場合、差し水による圧力損失の影響により、以下の〔式1〕に示す関係が成立する。
【0032】
〔式1〕
Ps1-Pd1<Ps2-Pd2
【0033】
そこで、供給異常判定部CS3は、第1供給異常判定により、ガスメータMの夫々で一の測定時点におけるガス流量と他の測定時点におけるガス流量とが同一となっているときで、測定時点における零より大きいガス流量に対応するガス圧力関連値(静圧推定値-動圧)に関し、一の測定時点におけるガス圧力関連値(静圧推定値-動圧)と他の測定時点におけるガス圧力関連値とが異なる場合に、当該ガス圧力関連値を測定したガスメータMの近傍においてガス供給異常が発生している可能性があると判定するのである。
【0034】
供給異常判定部CS3は、第1供給異常判定によりガス供給異常が発生していると判定した場合、より高い判定精度で判定するべく、以下の第2供給異常判定を実行しても構わない。当該第2供給異常判定は、ガス管の内部に差し水が滞留しているときに、ガスが通流している場合、
図3に示すように、滞留している差し水の表面がガス流動により振動するため、差し水の滞留箇所のガスメータMの圧力センサS1にて測定される動圧が振動するという知見に基づくものである。
即ち、供給異常判定部CS3は、第1供給異常判定においてガス供給異常が発生していると判定した場合、一の測定時点におけるガス圧力関連値(静圧推定値-動圧)と他の測定時点におけるガス圧力関連値とが異なる値を示したガスメータMにおいて、ガス流量とガス圧力とを第1測定期間より短い第2測定期間において経時的に連続して測定し、測定されたガス流量が第2測定期間において零より大きい値で一定であり且つ測定されたガス圧力が第2測定期間において所定の判定変動幅(測定される動圧よりも十分に小さい値)を超えて変動している場合に、ガス供給異常としての差し水が発生している可能性が高いと判定する供給異常判定としての第2供給異常判定を実行する。
【0035】
このように、第1供給異常判定にてガス供給異常が発生していると判定された場合に限って、第2供給異常判定を実行することで、高いサンプリングレートで連続してガス圧力を測定する第2供給異常判定の実行回数を低減できるから、通常は電池駆動のガスメータMでの消費電力を低減して、省電力化を図ることができると共に、電池寿命を伸ばすことができる。
【0036】
更に、供給異常判定部CS3は、一のガス供給系統GKに関し、少なくとも2つのガスメータMにてガス供給異常が発生していると判定した場合(
図4でM3~M5にて測定された値にてガス供給異常が判定された場合)、ガスメータMが直接接続しているガス供給支管ではなく、その上流のガス供給本管L2にて差し水による水溜りMTが発生していると判定する。
【0037】
さて、ガス管は、水平方向に延設される際に、例えばその土地の海抜に合わせる形で、高さ方向で異なる高さに配設される場合がある。このような配設状態にあるガス管に差し水が発生した場合、差し水が、差し水発生箇所からガス管の内部に侵入した後、ガス管の内部で上方から下方へと流動することがあるため、差し水の発生箇所と滞留箇所とが異なる場合がある。
そこで、監視センターCSでは、ガス供給系統GKを構成するガス管の高さ情報を含む3次元的な配設情報を第1記憶部CS2に記憶し、当該ガス管の3次元的な配置情報と、供給異常判定部CS3による供給異常判定の判定結果とに基づいて、ガス管での差し水の発生箇所を推定する差し水発生箇所推定部CS4を備える。
所定の差し水発生箇所からガス管の内部に侵入した差し水は、ガス管の3次元的な配置状態に応じて、ガス管の内部を流動するため、差し水発生箇所推定部CS4は、供給異常判定部CS3により判定した差し水の滞留箇所の推定値と、ガス管の三次元的な配設情報とにより、差し水の発生箇所を推定することができるのである。
【0038】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、ガス供給系統には、一のガスメータのみが設けられる場合も権利範囲に含むものである。
【0039】
(2)上記実施形態たでは、ガスメータMが流量測定部として超音波流量計50を有する構成例を示したが、例えば、流量測定部として膜式メータを備える構成を採用しても構わない。即ち、ガス流量(m3/h)は、一定時間毎のガス通過量(m3)を計測し、当該計測したガス通過量及びガスの通過に要した時間に基づいて、ガス流量(m3/h)に換算することも可能である。
【0040】
(3)上記実施形態では、ガスの供給圧力の変動の判定結果の影響を抑制するべく、ガス圧力関連値は、所定の測定箇所で、測定時点において、ガス流量が零のときのガス圧力と推定される値(静圧)から、測定時点においてガス流量が零より大きいときのガス圧力(動圧)を減算した値とした。
しかしながら、例えば、ガス供給系統の上流に、一次側の供給圧力が変動した際に二次側の圧力を設定圧力へ調整する応答性が十分に高い整圧装置が設けられている場合等には、ガス圧力関連値として、動圧を直接採用することもできる。
【0041】
(4)上記実施形態において、ガス供給異常の判定は、監視センターCSで実行する構成例を示したが、一のガス供給系統GKに設けられるガスメータMが一つの場合には、当該ガスメータMにてガス供給異常の判定を実行して、判定結果を当該ガスメータMの表示部(図示せず)に表示するように構成しても構わない。
この場合、ガスメータMの制御装置Cが、上記実施形態の監視センターCSの第1記憶部CS2及び供給異常判定部CS3としての機能を果たすように構成される。
【0042】
(5)上記実施形態では、監視センターCSには、差し水発生箇所推定部CS4が設けられる構成例を示したが、当該差し水発生箇所推定部CS4を設けない構成を採用しても構わない。
【0043】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のガス供給異常判定システムは、ガス供給異常に対する対応を早期に行うことができながらも、検査員が現地に赴くことなくガス供給異常を検知できると共に、従来に比べガス使用者の利便性の向上を図り得るガス供給異常判定システムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
50 :超音波流量計
100 :ガス供給異常判定システム
C1 :制御部
C2 :第2通信部
C3 :第2記憶部
CS :監視センター
CS1 :第1通信部
CS2 :第1記憶部
CS3 :供給異常判定部
CS4 :差し水発生箇所推定部
GK :ガス供給系統
L2 :ガス供給本管
L3a :ガス供給支管
M :ガスメータ
N :ネットワーク回線
S1 :圧力センサ