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  • 特許-繊維補強セメント組成物 図1
  • 特許-繊維補強セメント組成物 図2
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  • 特許-繊維補強セメント組成物 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】繊維補強セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240405BHJP
   C04B 14/48 20060101ALI20240405BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240405BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240405BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/48 A
C04B18/08 Z
C04B18/14 Z
C04B20/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020119147
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022015947
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亘
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓
(72)【発明者】
【氏名】恩田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6432811(JP,B1)
【文献】特開2018-008849(JP,A)
【文献】特許第6573143(JP,B1)
【文献】特開2012-171805(JP,A)
【文献】特開2012-171806(JP,A)
【文献】特開2015-227287(JP,A)
【文献】特開2009-030427(JP,A)
【文献】特開平09-052744(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138879(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/003572(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細骨材と結合材と繊維と水とを含み、前記細骨材は吸水率が1.5%以上のスラグ細骨材であり、前記細骨材の単位量が473kg/m 3 以上905kg/m 3 以下、前記結合材の単位量が897kg/m 3 以上1162kg/m 3 以下、前記水の単位量が135kg/m 3 以上175kg/m 3 以下であり、前記繊維の混入率が0.5~2.0%である、繊維補強セメント組成物。
【請求項2】
材齢28日の自己収縮ひずみが200×10 -6 以上400×10 -6 以下である、請求項1に記載の繊維補強セメント組成物。
【請求項3】
前記水の単位量が135kg/m 3 以上155kg/m 3 以下である、請求項1または2に記載の繊維補強セメント組成物。
【請求項4】
水粉体容積比が42.5%である、請求項1から3のいずれか1項に記載の繊維補強セメント組成物。
【請求項5】
水結合材比が15.0%以上15.1%以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の繊維補強セメント組成物。
【請求項6】
モルタル細骨材容積比が22~41%である、請求項1から5のいずれか1項に記載の繊維補強セメント組成物。
【請求項7】
前記スラグ細骨材は風砕されたフェロニッケルスラグ細骨材である、請求項1からのいずれか1項に記載の繊維補強セメント組成物。
【請求項8】
前記結合材はフライアッシュを含む、請求項1からのいずれか1項に記載の繊維補強セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維補強セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリート(以下、セメント組成物という)の曲げ強度や引張強度を向上させるために、金属繊維などの繊維補強物をセメントに添加することが知られている。特許文献1には鋼繊維を含むコンクリートが開示されている。このコンクリートはセメントと、粗骨材と、細骨材と、鋼繊維と、フライアッシュと、高性能AE減水剤と、を含み、フライアッシュと高性能AE減水剤の配合量が所定の範囲に調整されている。特許文献2には金属繊維を含むセメント組成物が開示されている。このセメント組成物はセメントと、シリカフュームと、フライアッシュと、石膏と、金属繊維と、を含み、シリカフュームとフライアッシュの配合量が所定の範囲に調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-227191号公報
【文献】特許第4558569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維はセメント組成物の強度の向上に寄与するが、反面フレッシュ時の流動性を低下させる。また、セメント組成物においては、ひび割れ防止などの観点から自己収縮の低減が求められている。本発明は流動性が改善され、自己収縮の抑えられた繊維補強セメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の繊維補強セメント組成物は細骨材と結合材と繊維と水とを含み、細骨材は吸水率が1.5%以上のスラグ細骨材であり、細骨材の単位量が473kg/m 3 以上905kg/m 3 以下、結合材の単位量が897kg/m 3 以上1162kg/m 3 以下、水の単位量が135kg/m 3 以上175kg/m 3 以下であり、繊維の混入率が0.5~2.0%である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、流動性が改善され、自己収縮の抑えられた繊維補強セメント組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例と比較例のスランプフローを示すグラフである。
図2】実施例と比較例の自己収縮ひずみを示すグラフである。
図3】実施例と比較例の圧縮強度を示すグラフである。
図4】他の実施例における自己収縮ひずみを示すグラフである。
【実施例
【0008】
以下、本発明を、超高強度コンクリートを例に、実施例に基づいて説明する。まず、実施例1~3及び比較例1~3について説明する。表1に実施例1~3と比較例1~3のコンクリートの配合を、表2に使用材料の諸元を示す。なお、表2中、Ig.lossは強熱減量(試料を強熱した際に生じる質量の減少率)を意味し、BETはJIS R 1626「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」による測定結果であることを意味する。実施例1~3のコンクリートは、水と、結合材と、細骨材と、粗骨材と、短繊維と、化学混和剤と、を含んでいる。結合材として、セメントとフライアッシュとシリカフュームを用いた。細骨材として大平洋金属株式会社製のフェロニッケルスラグ細骨材(商品名:パムコサンド)を用いた。実施例1~3は、水の単位水量をそれぞれ175kg/m3、155kg/m3、135kg/m3とした。比較例1~3では、細骨材として一般的な硬質砂岩砕砂を用いた。比較例1,2は結合材としてセメントとシリカフュームを用いており、水の単位水量をそれぞれ175kg/m3、155kg/m3とした。比較例1,2では,質量比でセメント:シリカフューム=9:1としている。比較例3は比較例2にフライアッシュを添加したもので、水の単位水量は155kg/m3である。比較例3では、シリカフュームの構成比率(容積比)を比較例2と同程度とし、比較例2のセメントの一部をフライアッシュに置換している。水粉体容積比、短繊維混入率、単位粗骨材量は実施例1~3、比較例1~3で同一とした。短繊維混入率はコンクリート1m3(水、粉体(結合材)、細骨材、粗骨材、空気、短繊維をすべて含む)当たりの短繊維の体積百分率であり、実施例1~3及び比較例1~3では1.0%とした。モルタル細骨材容積比s/morは、細骨材容積/(水、結合材、細骨材の総容積)である。細骨材率s/aは、細骨材の容積/(細骨材と粗骨材の総容積)である。
【0009】
実施例1~3及び比較例1~3では、短繊維として鋼繊維を用いた。鋼繊維の寸法は直径0.2mm、長さ15mmであるが、直径は0.1~1mmの範囲で、長さは10~30mmの範囲で適宜選択することができる。材料としては、コストや強度の観点から鋼製が好ましいが、他の金属、有機繊維などを用いることもできる。
【0010】
【表1】
【0011】
【表2】
【0012】
図1(a)に実施例1~3と比較例1~3のスランプフローを示す。スランプフローはJIS A 1150:2007「コンクリートのスランプフロー試験方法」に従い測定した。比較例1ではスランプフローは570mm程度であり、実用上最低限の流動性が確保された。これに対し、比較例2ではスランプフローは430mm程度であり、流動性が不足する結果となった。比較例3ではフライアッシュを添加した効果により、流動性が改善された。実施例1~3はいずれも良好な流動性を示し、実施例3(単位水量135kg/m3)でも比較例3と同程度のスランプフローを示した。実施例1~3では比較例1,2と比べて、単位水量の変化に対するスランプフローの変化が緩やかである。これは、単位水量の選択の自由度が大きいことを意味しており、流動性以外のファクタで最適な単位水量を決定する余地が増えることにつながる。比較例1,2ではセメントの練上げが困難となる可能性を踏まえ、実施例1~3よりも高性能減水剤の使用量を増やしており、比較例3でも実施例1~3より高性能減水剤の使用量を若干増やしている。換言すれば、仮に高性能減水剤の使用量を実施例1~3と比較例1~3で同じとすれば、比較例1~3の流動性はさらに低下することになる。さらに別の言い方をすれば、実施例1~3では少ない量の高性能減水剤で、良好な流動性を確保することができることになる。
【0013】
図1(b)はモルタル細骨材容積比を横軸としてスランプフローを示したものである。モルタル細骨材容積比はモルタルの容積に対する細骨材の容積であるから、モルタル細骨材体積比が増加するほど、細骨材がモルタルの流動性を阻害する程度が高くなる。図1(b)より、実施例1、2では比較例1,2,3のいずれと比べても、同じモルタル細骨材容積比におけるスランプフロー値が大きく、モルタル細骨材容積比が22~40%の範囲で良好な流動性が確保されることがわかる。
【0014】
図2は、実施例1~3と比較例1~3についてコンクリートの自己収縮ひずみを示す。測定は、日本コンクリート工学協会「超流動コンクリート研究委員会報告書(II)」に示される「高流動コンクリートの自己収縮試験方法」を参考に、20℃封緘状態とした100×100×400mmの角柱供試体の打込み直後からの長さ変化を供試体の中心に設置した埋込み型ひずみ計で測定することにより行った。比較例1~3はコンクリート打設直後の自己収縮が大きく、大きなひずみが生じた。特に、一般的な結合材と細骨材を使用した比較例1,2では、コンクリート打設後28日目に800(×10-6)程度の自己収縮ひずみが発生した。これに対し実施例1~3では、自己収縮が抑えられ、コンクリート打設後28日目のひずみは200~400(×10-6)程度に抑えられた。実施例1~3の比較より、単位水量が少ないほど(モルタル細骨材容積比が大きいほど)自己収縮は小さくなる傾向にある。図3は、実施例1~3と比較例1~3の圧縮強度の時間的変化を示す。コンクリートは打込み直後から20℃封緘状態とした。圧縮強度については実施例1~3と比較例1~3で大きな差は生じなかった。具体的には、実施例1~3は、強度発現は緩慢であるが、材齢14日程度以降は比較例1~3と同等以上の圧縮強度が得られた。実施例1~3の比較より、単位水量が少ないほど(モルタル細骨材容積比が大きいほど)圧縮強度は高くなる傾向にある。
【0015】
実施例1~3の細骨材は風砕処理されたフェロニッケルスラグ細骨材である。風砕処理とは、フェロニッケルを製錬する際に副産される溶融状態のスラグに高圧の空気を吹き付け、細かな球状の粒子に分離し、分離されて空中を飛翔する粒子を壁に衝突させる処理である。高温の粒子は空中を飛翔する際に冷却され、最終的に球状に固められる。このようにして製造されたフェロニッケルスラグ細骨材は吸水率が比較的大きくなる場合がある。そしてこのフェロニッケルスラグ細骨材をコンクリートに用いると、吸水された水が放出されることで、ペーストの収縮を低減する「内部養生効果」が発揮される。このような理由により、風砕処理されたフェロニッケルスラグ細骨材は、コンクリートの自己収縮ひずみが抑えられると同時に、流動性を高めることができるものと考えられる。
【0016】
ここで再び図1を参照し、単位水量が同一(155kg/m3)またはモルタル細骨材容積比が同一(31.6%)の実施例2、比較例2,3を比べると、比較例2,3の差の方が比較例3と実施例2の差より大きい。これは、流動性に関しては、フライアッシュを添加した効果の方がフェロニッケルスラグ細骨材を用いた効果より大きいことを意味している。一方、図2において実施例2、比較例2,3を比べると、比較例2,3の差よりも、比較例3と実施例2の差が大きくなっている。これは、自己収縮の低減に関しては、フェロニッケルスラグ細骨材を用いた効果の方がフライアッシュを添加した効果より大きいことを意味している。つまり、コンクリートの自己収縮の低減と流動性の向上を両立させるためには、フライアッシュを添加することが好ましいといえるが、フェロニッケルスラグ細骨材を用いることで、コンクリートの自己収縮のさらなる低減と流動性のさらなる向上が可能となることがわかる。
【0017】
次に、実施例4~7及び比較例4について説明する。表1に実施例4~7及び比較例4のコンクリートの配合を示す。使用材料の諸元は表2に示す通りである。実施例4~7及び比較例4では、短繊維混入率が実施例1~3及び比較例1~3と異なっている。
【0018】
実施例4,5と比較例4では、短繊維混入率を2.0%としている。実施例4,5はそれぞれ、短繊維混入率以外は実施例1,2に対応している。実施例4と実施例5を比較すると、単位水量の低下(またはモルタル細骨材容積比の増加)とともにスランプフローが低下しており、その傾向は実施例1,2と同様である。さらに、実施例1,4と比較例1,4を比較すると、実施例1に対する実施例4のスランプフローの低下の程度(約150mm)は、比較例1に対する比較例4のスランプフローの低下の程度(約300mm)より小さい。実施例6は単位水量を実施例2と同じとして、短繊維混入率を1.5%としている。スランプフローは実施例2(短繊維混入率1.0%)と実施例5(短繊維混入率2.0%)の中間にある。実施例7は単位水量を実施例3と同じとして、短繊維混入率を0.5%としている。短繊維混入率が低いため、大きなスランプフローが得られている。実施例1~7より、単位水量135~175kg/m3の範囲(及びモルタル細骨材容積比約22~41%の範囲)且つ短繊維混入率0.5~2.0%の範囲では、短繊維混入率の変動に対し、スランプフローが実施例1~3と同様の傾向で変動すると考えられる。
【0019】
一方、図2には実施例4,7におけるコンクリートの自己収縮ひずみを示している。上述のように、実施例4は実施例1に対して短繊維混入率だけが異なっているが、自己収縮ひずみはほぼ実施例1と同様の傾向を示している。実施例7は実施例3に対して短繊維混入率だけが異なっているが、自己収縮ひずみはほぼ実施例3と同様の傾向を示している。これより、自己収縮の低下には、主に細骨材の種類が寄与しており、短繊維混入率はほとんど影響を及ぼさないことが分かる。また、実施例4と比較例4の比較から、短繊維混入率が2%の場合も、フライアッシュが流動性の向上に対して一定の効果を有することが分かり、自己収縮の抑制にも一定の効果を有することが推測される。
【0020】
繊維はコンクリートの曲げ強度や引張強度を高めるために添加されるため、混入率が高いほどコンクリート強度は向上する。一方、混入率が高いと流動性は低下する。上述の実施例1~7及び比較例1~4からわかるように、0.5~2.0%程度の混入率でコンクリートの自己収縮の低下と流動性の向上を両立させることができる。
【0021】
水の単位水量は上述の実施例1~7の範囲、すなわち135~175kg/m3の範囲から適宜選択することができる(同様に、モルタル細骨材容積比は約22~41%の範囲から適宜選択することができる)。135~175kg/m3の範囲であれば、流動性の確保と自己収縮の低減を両立することができる。流動性を重視する場合、単位水量を大きくすることが好ましく、自己収縮の低減を重視する場合、単位水量を小さくすることが好ましい。
【0022】
以上本発明を実施例によって説明したが、本発明は上述の実施例に限定されない。例えば、本発明は超高強度コンクリートだけでなく、高強度コンクリートや一般的なコンクリートにも適用することができる。あるいは、粗骨材は省略することができる。すなわち、本発明はコンクリートだけでなくモルタルにも適用可能である。また、細骨材としては一定以上の吸水率、例えば1.5%以上、好ましくは2.5%以上の吸水率を有するスラグ細骨材であれば、実施例1~7で用いたフェロニッケルスラグ細骨材と同等の効果を奏すると考えられる。
【0023】
他のスラグ細骨材として、高炉スラグ細骨材が挙げられる。一実施例では、細骨材として、実施例1~7で用いたフェロニッケルスラグ細骨材と、高炉スラグ細骨材と、安山岩砕砂と、硬質砂岩砕砂と、石灰岩砕砂を用い、水結合材比、混和剤添加量などの他の配合条件を同一としてモルタルを作製し、自己収縮ひずみを測定した。図4に示すように、高炉スラグ細骨材はフェロニッケル細骨材と同等の自己収縮低減効果が確認された。モルタルの流動性を示すJPロート14を、土木学会基準JSCE-F541-1999「充填モルタルの流動性試験方法」に従って測定した。JPロート14はフェロニッケルスラグ細骨材で66(s)、高炉スラグ細骨材で57(s)、安山岩砕砂委で131(s)、硬質砂岩砕砂で147(s)、石灰岩砕砂で70(s)であり、高炉スラグ細骨材はフェロニッケル細骨材と同等の流動性を有することが確認された。高炉スラグ細骨材の吸水率は1.6%であった。本実施例では繊維を混入していないため、繊維を混入した場合、流動性は低下する可能性があるが、繊維を混入した場合でも自己収縮の低減効果と流動性に関しては、高炉スラグ細骨材はフェロニッケル細骨材と同等の性能を発揮すると考えられる。
図1
図2
図3
図4