(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】吸音性能の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01H 7/00 20060101AFI20240405BHJP
【FI】
G01H7/00
(21)【出願番号】P 2020134626
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2020114116
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年8月21日 一般社団法人 日本音響学会発行 「日本音響学会2019年秋季研究発表会講演論文集 講演要旨・講演論文CD-ROM」にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年9月6日 日本音響学会2019年秋季研究発表会にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐生
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-194219(JP,A)
【文献】特開2012-068099(JP,A)
【文献】特開2019-032242(JP,A)
【文献】特開平10-252021(JP,A)
【文献】特開平03-276031(JP,A)
【文献】飯山陽平 他,残響時間測定におけるBMN-SSインパルス応答測定法の有効性について,電子情報通信学会技術研究報告,2018年07月19日,Vol.118,No.149,pp.1-6
【文献】David B.Nutter et al.,Measurement of Sound power and absorption in reverberation chambers using energy density,Journal Acoustical Society of America,2007年05月,Vol.121,No.5,pp.2700-2710
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間が空室の第1の状態と、前記対象空間に吸音率又は吸音力を測定すべき試料を配置した第2の状態とにおいて、
前記対象空間のインパルス応答を測定して、前記測定の結果から
測定対象とする帯域内を一定間隔で分割した所定周波数毎のエネルギー減衰曲線を求め、
前記エネルギー減衰曲線から
前記所定周波数毎の減衰定数とエネルギー成分を求め、
前記所定周波数毎の前記減衰定数に対する前記エネルギー成分の確率密度関数より、前記減衰定数の平均値を求め、
前記減衰定数の平均値に基づいて残響時間を求め、
前記第1の状態の前記残響時間と前記第2の状態の前記残響時間とから前記吸音率又は前記吸音力を求める、
吸音性能の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音率又は吸音力を測定する吸音性能の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁や天井の仕上げ材として用いられる材料等の吸音性能を把握するために、残響室法により吸音率や吸音力の測定が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の測定方法では、エネルギーレベル減衰が直線的に減衰すると仮定して、ある一定の帯域幅ごとに吸音率や吸音力を評価している。しかし、測定した帯域幅内に減衰率の異なる周波数が存在する場合には、エネルギーレベル減衰が直線的に減衰しないので、測定により求められる吸音率や吸音力に誤差を生じてしまう。
【0005】
引用文献1では、測定によって得られた残響波形を、べき乗減衰すると仮定した理論波形と比較する手法でこの問題に対処しているが、この手法もある一定の帯域幅ごとに吸音率や吸音力を評価しているので、帯域幅内の各周波数の減衰率のばらつきに対しては対処することができない。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、吸音率や吸音力の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る吸音性能の測定方法は、対象空間が空室の第1の状態と、前記対象空間に吸音率又は吸音力を測定すべき試料を配置した第2の状態とにおいて、前記対象空間のインパルス応答を測定して、前記測定の結果から所定周波数毎のエネルギー減衰曲線を求め、前記エネルギー減衰曲線から減衰定数とエネルギー成分を求め、前記減衰定数に対する前記エネルギー成分の確率密度関数より、前記減衰定数の平均値を求め、前記減衰定数の平均値に基づいて残響時間を求め、前記第1の状態の前記残響時間と前記第2の状態の前記残響時間とから前記吸音率又は前記吸音力を求める。
【0008】
第1態様に係る吸音性能の測定方法によれば、高い周波数分解能で所定周波数毎にエネルギー減衰曲線を抽出し、それらのエネルギー減衰曲線から求めた減衰定数により吸音率又は吸音力を算出することにより、低周波数において減衰曲線が湾曲することによる直線近似の誤差を低減するように減衰定数を求めることができる。これにより、測定点の違いによる吸音率や吸音力のばらつきを減らすことができ、低周波数域において吸音率や吸音力を適正に評価することができるので、吸音率や吸音力の測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記構成としたので、吸音率や吸音力の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る吸音性能の測定方法のフローを示す図である。
【
図2】
図2(a)は、周波数に対応する減衰定数及びエネルギー成分を示す表であり、
図2(b)は、減衰定数に対応するエネルギー成分を示す表であり、
図2(c)は、減衰定数の一定区間に対応するエネルギー成分の和を示す表である。
【
図3】減衰定数に対するエネルギー成分の値を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る吸音性能の測定方法について説明する。
【0012】
(吸音性能の測定方法)
図1には、本実施形態に係る吸音性能の測定方法のフローが示されている。
吸音性能の測定方法では、まず、ステップS100において、JIS A 1409の「残響室法吸音率の測定」に準拠するようにして、吸音率又は吸音力を測定すべき試料としての測定試料、スピーカ、及びマイクロホンを用意する。そして、対象空間としての残響室内の空間に、スピーカ及びマイクロホンを設置する。
【0013】
吸音率を測定すべき試料としては、例えば、壁や天井の仕上げ材が挙げられる。また、吸音力を測定すべき試料としては、例えば、劇場客席用椅子が挙げられる。
【0014】
次に、ステップS102において、残響室内の空間に測定試料を配置しない空室の状態(以下、「第1の状態」とする)で、残響室内の空間のインパルス応答の測定を行う。
【0015】
次に、ステップS104において、ある一定の周波数通過帯域f1~fNをN個に分割して所定周波数fnとし、ステップS102で測定されたインパルス応答h(t)から式(1)により、所定周波数fn毎のエネルギー減衰曲線Ws(f,t)を算出して求める。
【0016】
【0017】
次に、ステップS106において、
図2(a)に示すように、ステップS104で求められた所定周波数f
n毎のエネルギー減衰曲線W
s(f,t)から、所定周波数f
n毎の減衰定数とエネルギー成分を算出して求める。具体的には、エネルギー減衰曲線W
s(f,t)を最小二乗法により近似した直線の勾配を減衰定数とし、エネルギー減衰曲線W
s(f,t)の初期値をエネルギー成分とする。
【0018】
次に、ステップS108において、
図2(b)に示すように、ステップS106で求めた所定周波数f
n毎の減衰定数を昇順に並べ、
図2(c)に示すように、減衰定数の一定区間(δ
n~δ
n+1(=δ
n+dδ))内に対応するエネルギー成分の和を算出して求める。
【0019】
次に、ステップS110において、ステップS108で求めた減衰定数とエネルギー成分との関係を、
図3に示すように、減衰定数(横軸)に対するエネルギー成分(縦軸)の確率密度関数100として表す。そして、この確率密度関数100の減衰定数の平均値σを、第1の状態での残響室内の空間の減衰定数とする。
【0020】
次に、ステップS112において、ステップS110で求めた減衰定数の平均値σを用いて式(2)より残響時間Tを算出して求める。すなわち、式(3)に示すように、残響時間Tは、平均値σで6.9を除算することにより得られる。そして、得られた残響時間Tを残響時間T1とする。
【0021】
【0022】
【0023】
次に、ステップS114において、残響室内の空間に測定試料を配置した状態(以下、「第2の状態」とする)で、残響室内の空間のインパルス応答の測定を行う。
【0024】
次に、ステップS116において、ステップS104と同様にして、ステップS114で測定されたインパルス応答h(t)から式(1)により、所定周波数fn毎のエネルギー減衰曲線Ws(f,t)を算出して求める。
【0025】
次に、ステップS118において、ステップS106と同様にして、ステップS116で求められた所定周波数fn毎のエネルギー減衰曲線Ws(f,t)から、所定周波数fn毎の減衰定数とエネルギー成分を算出して求める。
【0026】
次に、ステップS120において、ステップS108と同様にして、減衰定数の一定区間(δn~δn+1(=δn+dδ))内に対応するエネルギー成分の和を算出して求める。
【0027】
次に、ステップS122において、ステップS110と同様にして、ステップS120で求めた減衰定数とエネルギー成分との関係を、減衰定数に対するエネルギー成分の確率密度関数として表し、そして、この確率密度関数の減衰定数の平均値を、第2の状態での残響室内の空間の減衰定数とする。
【0028】
次に、ステップS124において、ステップS112と同様にして、ステップS122で求めた減衰定数の平均値で6.9を除算することにより残響時間Tを得て、この残響時間Tを残響時間T2とする。
【0029】
次に、ステップS126において、ステップS112で得られた、第1の状態での残響時間T1と、ステップS124で得られた、第2の状態での残響時間T2とから、式(4)により、吸音率α1を算出して求める。または、式(5)により、吸音力α2を算出して求める。なお、式(4)及び式(5)において、Vは、残響室内の空間の容積であり、S1は、測定試料(吸音率を測定すべき試料)の面積であり、S2は、測定試料(吸音力を測定すべき試料)の個数である。
【0030】
【0031】
【0032】
(効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
図1に示されるように、本実施形態の吸音性能の測定方法によれば、高い周波数分解能で所定周波数f
n毎にエネルギー減衰曲線W
s(f,t)を抽出し、それらのエネルギー減衰曲線W
s(f,t)から求めた減衰定数により吸音率α
1又は吸音力α
2を算出することにより、低周波数において減衰曲線が湾曲することによる直線近似の誤差を低減するように減衰定数を求めることができる。
【0033】
これにより、測定点(マイクロホンの設置位置)の違いによる吸音率や吸音力の値のばらつきを減らすことができ、低周波数域において吸音率や吸音力を適正に評価することができるので、吸音率や吸音力の測定精度を向上させることができる。
【0034】
また、測定点(マイクロホンの設置位置)の違いによる吸音率や吸音力の値のばらつきを減らすことができるので、少ない測定点でも安定した測定が可能になる。さらに、少ない測定点での測定が可能になるので、測定の短時間化を図ることができる。
【0035】
図4のグラフの値102、104、106は、残響室内の空間に測定試料を配置した第2の状態で残響室内の空間のインパルス応答を測定することにより吸音率を求めたときの、周波数(横軸)に対する吸音率の変動係数(縦軸)を示したものである。
【0036】
値102は、本実施形態の吸音性能の測定方法により吸音率を求めたものであり、値104は、日本工業規格(JIS A 1409)で規格化されている残響室法吸音率の測定法により吸音率を求めたものであり、値106は、測定によって得られた残響波形を、べき乗減衰すると仮定した理論波形と比較する手法を用いて吸音率を求めたものである。測定試料は、密度32kg/m3、厚さ40mmのグラスウールとした。
【0037】
値102は、値104や値106よりも吸音率の変動係数が小さくなっており、特に、低い周波数において、値102は、値106よりも吸音率の変動係数がかなり小さくなっている。
【0038】
このことから、本実施形態の吸音性能の測定方法が、測定点の違いによる吸音率の値のばらつきを減らすことができるものであることがわかる。
【0039】
図5のグラフの値108、110、112は、残響室内の空間に測定試料を配置した第2の状態で残響室内の空間のインパルス応答を測定することにより吸音率を求めたときの、周波数(横軸)に対する吸音率(縦軸)を示したものである。
【0040】
値108は、本実施形態の吸音性能の測定方法により吸音率を求めたものであり、値110は、日本工業規格(JIS A 1409)で規格化されている残響室法吸音率の測定法により吸音率を求めたものであり、値112は、測定によって得られた残響波形を、べき乗減衰すると仮定した理論波形と比較する手法を用いて吸音率を求めたものである。測定試料は、密度32kg/m3、厚さ40mmのグラスウールとした。
【0041】
値112は、減衰曲線が湾曲し直線近似の精度が悪くなることで、低い周波数において残響時間が過小評価されているが、値108は、低い周波数でも高い吸音率を示し、値110に近い値となっており、低い周波数域における評価が改善されている。
【0042】
このことから、本実施形態の吸音性能の測定方法が、低い周波数域において吸音率を適正に評価できるものであることがわかる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
100 確率密度関数
σ 減衰定数の平均値