(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】サムターン、扉用錠前、および扉
(51)【国際特許分類】
E05B 3/06 20060101AFI20240405BHJP
E05C 1/06 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
E05B3/06 Z
E05C1/06 B
E05C1/06 E
(21)【出願番号】P 2020164989
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】安部 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】師岡 聖
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-077441(JP,A)
【文献】特開2014-091912(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104314372(CN,A)
【文献】特開2015-165080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 3/06
E05C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばね部材の付勢力によって扉端面より施錠位置に突出すると共に解除位置に退避する錠の操作に使用されるサムターンにおいて、
回転力を伝達させることで前記錠を進退駆動させる回転シャフトと、
前記回転シャフトの先端に回転不能な状態で固定された操作つまみ部と、
前記回転シャフトの回転に抵抗する減衰力を付与する減衰部と、
を備えていることを特徴とするサムターン。
【請求項2】
前記減衰部は、少なくとも前記ばね部材の付勢力より大きい減衰力を発揮する機能を有する、請求項1に記載のサムターン。
【請求項3】
前記回転シャフトにはピニオン歯車が一体に回転可能に支持され、
前記減衰部は、前記ピニオン歯車に噛み合う係合歯を有し、前記係合歯の回転に減衰力を付与する回転ダンパーである、請求項1又は2に記載のサムターン。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のサムターンと、前記錠と、を備えていることを特徴とする扉用錠前。
【請求項5】
請求項4に記載の扉用錠前を備えていることを特徴とする扉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サムターン、扉用錠前、および扉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、扉に設けられるサムターンとして、例えば特許文献1に示されるように、ばね部材の付勢力によって扉端面より施錠位置に突出すると共に解除位置に退避する錠の操作に使用されるものが知られている。この場合、施錠する際には、サムターンの操作つまみ部を一方向に回転操作することで、扉内に退避されている錠にばね部材の付勢力が付与されて施錠位置まで突出して施錠される。解錠する際には、操作つまみ部を施錠時と反対方向に反転操作することで、錠にばね部材の付勢力が付与されて解除位置まで退避して解錠される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の扉では、錠はばね部材とともに樹脂の嵌合のみで箱錠と連結されている。錠はばね部材の付勢力によって勢いよく急加速して施錠位置および解錠位置となるように動作するため、施錠時と解錠時においてばね部材の大きな付勢力で錠が箱錠に衝突することによって大きな衝突音が発生している。そのため、扉としての高級感が低下するという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0005】
本開示は、錠の施錠時及び解錠時に発生する衝突音を抑制することができるサムターン、扉用錠前、および扉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様のサムターンは、ばね部材の付勢力によって扉端面より施錠位置に突出すると共に解除位置に退避する錠の操作に使用されるサムターンであって、回転力を伝達させることで前記錠を進退駆動させる回転シャフトと、前記回転シャフトの先端に回転不能な状態で固定された操作つまみ部と、前記回転シャフトの回転に抵抗する減衰力を付与する減衰部と、を備えている。
【0007】
本開示の他の態様の扉用錠前は、上述したサムターンと、前記錠と、を備えている。
【0008】
本開示の他の態様の扉は、上述した扉用錠前を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態による扉に設けられたサムターンの斜視図である。
【
図2】
図1に示すサムターンのカバー体を外した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示すように、本実施形態のサムターン1は、左右一方の側部においてヒンジによって建物の開口部に開閉可能に支持されるプッシュプルハンドルを備えた扉100の室内面に設けられている。扉100としては、例えば外開きの玄関扉である。サムターン1は、ばね部材(図示省略、以下「錠付勢ばね」という)の付勢力によって扉端面より施錠位置に突出すると共に解除位置に退避する錠(図示省略)の操作に使用される。扉100の扉用錠前(図示省略)は、サムターン1と錠とを備えている。
【0011】
扉100の表裏面には、扉100を開閉操作するためのプッシュプルハンドルが設けられている。扉100の扉端面には、ラッチ(図示省略)を有するラッチ錠が取り付けられている。ラッチ錠のラッチは、扉100の扉端面からラッチが突出し、扉100を収容する開口枠の凹状の受け部(図示省略)に係合している。扉100を開ける際には、プッシュプルハンドルを押し込むことでラッチが扉100の内側に退入し、ラッチと受け部の係合が外れて扉100を屋外側に開くことができる。
【0012】
錠は、扉100の厚み方向の中央部に内設されている。錠は、錠箱内に錠付勢ばねを介して配置され、サムターン1の回転動作に連動する。錠は、不図示の錠付勢ばねの付勢力によって施錠時に扉端面から突出し、および解錠時に扉端面内に退避する。
【0013】
錠箱には、施錠機構が備えられている。施錠機構は、サムターン1の回転を錠の進退方向に伝達する回動部材と、回動部材に連動して錠付勢ばねと介して錠を突出位置(施錠位置)と退避位置(解錠位置)とを切り替える駆動機構を備えている。錠は、上述した錠付勢ばねのばね力によって進退方向の中間位置を起点にして突出方向及び収納方向に付勢されている。
【0014】
図2から
図4に示すように、サムターン1は、支持盤11と、支持盤11に対して回転可能に挿通され回転力を伝達させることで錠を進退駆動させる回転シャフト12と、回転シャフト12の先端に回転不能な状態で固定された操作つまみ部13と、回転シャフト12に係合するピニオン歯車14と、回転シャフト12の回転に抵抗する減衰力を付与しピニオン歯車14に噛み合う一対の回転ダンパー15(減衰部)と、を備えている。
【0015】
支持盤11、回転シャフト12、ピニオン歯車14、及び回転ダンパー15は、室内側から
図1に示すカバー体16によって覆われている。カバー体16は、
図1に示すように、有頂筒状に形成され、操作つまみ部13をカバー体16の外に突出させた状態で支持盤11に装着されている。カバー体16の天壁161の中心部には、回転シャフト12の第1周胴部122(後述する)が回転自在に貫通される貫通穴が形成されている。
【0016】
図2から
図4に示すように、支持盤11には、室内側の固定面11aにおいてピニオン歯車14や一対の回転ダンパー15が配置されている。支持盤11には、固定面11aの中心部に形成され回転シャフト12の第2円筒部122(後述する)が回転自在に貫通された円形断面の軸挿通孔111(
図4参照)と、径方向で軸挿通孔111を挟んだ左右両側に形成され回転ダンパー15が収納される一対の収納凹部112と、を有している。収納凹部112は、固定面11aに設けられ、回転シャフト12の中心軸O方向からみた平面視で円形に窪んだ形状をなしている。支持盤11の固定面11aには、収納凹部112に回転ダンパー15の減衰本体部152(後述する)が収納されて固定されている。
【0017】
図4に示すように、回転シャフト12は、ツマミ係合軸部121、第1周胴部122、第2周胴部123、および係合軸部124が軸方向に沿ってその順で配置されている。ツマミ係合軸部121は、断面矩形状に形成され、操作つまみ部13が係合される。操作つまみ部13は、
図2に示すように、内側に設けられる不図示の係合凹部をツマミ係合軸部121に係合させることで、ツマミ係合軸部121に対して中心軸O周りに回転不能に係合されている。
【0018】
第1周胴部122には、
図4に示すように、ピニオン歯車14が外側に嵌合される。ピニオン歯車14は、第1周胴部122に対して回転不能な状態で一体的に設けられ、回転シャフト12とともに回転する。第2周胴部123は、第1周胴部122より大径に形成され、支持盤11の軸挿通孔111に挿通されて回転自在に支持されている。回転シャフト12は、第2周胴部123が支持盤11に支持された状態で、支持盤11の固定面11aから第1周胴部122とツマミ係合軸部121が突出し、支持盤11の裏面11bから係合軸部124が突出する。係合軸部124は、錠を施錠及び解錠に切り替える駆動部(上述した回動部材)するための作動レバー(図示省略)に係合する。
【0019】
回転シャフト12は、
図5に示すように、回転ダンパー15によって回転範囲(サムターン回転角θ)が90度の範囲に規制されている。回転シャフト12は、回転前の位置となる解錠位置P1と、90度回転させた回転後の位置となる施錠位置P2と、で切り替え可能に設けられている。
【0020】
図2及び
図5に示すように、操作つまみ部13は、回転シャフト12の回転軸O方向からみて楕円形状をなし、内側に設けられる不図示の係合凹部が回転シャフト12のツマミ係合軸部121に係合することによって回転シャフト12に対して回転不能な状態で一体的に設けられている。
【0021】
操作つまみ部13を正逆両方向に回転させることで回転シャフト12が一体で同じく正逆両方向に回転し、扉100の施錠と解錠を行うことができる。操作つまみ部13は、
図5に示すように、解錠位置P1でツマミ形状である楕円形状の長軸方向を上下方向に向けた状態でツマミ係合軸部121(
図2参照)に係合されている。操作つまみ部13は、
図6に示すように、解錠位置P1から時計回りに例えば90度回転させた施錠位置P2に回転させた状態で長軸方向が左右方向を向く位置となる。
【0022】
図2から
図4に示すように、ピニオン歯車14は、外周面に歯部14aを有し、中心部に軸孔14bが設けられ、回転シャフト12の第1周胴部122の外側に不図示のキーによって回転不能な状態で一体的に嵌合されている。ピニオン歯車14は、操作つまみ部13によって回転シャフト12を回転させることで回転シャフト12と一緒に回転する。歯部14aは、一対の回転ダンパー15のダンパー歯車153に噛み合っている。
【0023】
一対の回転ダンパー15は、それら回転ダンパー15の両方を合わせて少なくとも錠付勢ばねの付勢力より大きい減衰力を発揮する機能を有する。回転ダンパー15は、回転シャフト12とともに回転するピニオン歯車14に噛合し、ピニオン歯車14からの回転力が伝達されることで連動し、自動で回転シャフト12に一定の回転力を付与する。
【0024】
回転ダンパー15は、軸部151と、軸部151に一定の減衰力を付与する減衰本体部152と、軸部151に係合されピニオン歯車14に噛み合うダンパー歯車153(係合歯)と、を備えている。一対の回転ダンパー15は、それぞれ支持盤11の収納凹部112に減衰本体部152が収納された状態でビス等の固定部材によって支持盤11に固定されている。
【0025】
減衰本体部152は、軸部151に対して、上述したサムターン回転角θで例えば90度の範囲でダンパー歯車153にダンパー機能が作用するように設定されている。具体的には、正逆両方向(時計回り、反時計回り)で第2サムターン回転角θ2(
図6参照)の範囲(回転を開始して45度から90度の範囲)において、回転ダンパー15によって生じる減衰力が上述した錠付勢ばねの付勢力よりも大きくなって効果的に減衰するダンパー効果が得られる。本実施形態では、第2サムターン回転角θ2が45度から90度の範囲で回転ダンパー15でダンパー効果が発揮され、このときのダンパー効果が発揮し始める角度を45度としているがこれは一例であって、上述したように回転ダンパー15によって生じる減衰力が上述した錠付勢ばねの付勢力よりも大きくなるときのサムターン回転角(例えば38度であってもよい)に設定される。
【0026】
次に、本実施形態によるサムターン1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図5及び
図6に示すように、本実施形態によるサムターン1では、回転シャフト12とともに回転するピニオン歯車14は、
図6に示す回し始めの第1サムターン回転角度θ1で45度回転したときに回転ダンパー15のダンパー機能が作用し、残りの第2サムターン回転角度θ2で45度から90度までの回転は低速で回転動作して所定の停止位置(施錠位置P2)で回転が停止する。なお、
図6は、施錠時を示しているが、施錠位置P2から解錠位置P1に回転させる解錠時の動作も施錠時と同じである。回転ダンパー15のダンパー歯車153をピニオン歯車14に噛合させることにより、予め設定された減衰力に対応した回転速度で回転シャフト12をゆっくり回転させることができ、回転の停止時もゆっくり静かに回転させることができる。例えば、勢いよく操作つまみ部13を回転させても、その回転の停止時は回転ダンパー15で設定された低速となり、回転ダンパー15の抵抗により回転速度を減速させて回転する。
【0027】
本実施形態によるサムターン1では、錠が扉100から突出する際と引き込む際に発生する錠箱との衝突音を減少することができ、滑らかな操作感が得られ、扉100として高級感をもたせることができる。
【0028】
本実施形態では、操作つまみ部13をサムターン回転角度θで例えば45度だけ回転させることで、残りの45度は自動的に回転するので操作つまみ部13から手を離してもよい。
【0029】
本実施形態では、回転ダンパー15が少なくとも錠付勢ばねの付勢力より大きい減衰力を発揮する機能を有しているので、サムターン1の操作つまみ部13を回転操作して回転シャフト12を回転させて回転ダンパー15のダンパー効果を発揮させると、錠付勢ばねの付勢力より回転ダンパー15の減衰力が大きくなるため、施錠時及び解錠時の錠の進退移動にかかる速度を確実に低減させることができる。
【0030】
本実施形態では、回転シャフト12にはピニオン歯車14が一体に回転可能に支持され、回転ダンパー15がピニオン歯車14に噛み合うダンパー歯車153を有してダンパー歯車153の回転に減衰力を付与する構成となるため、サムターン1に回転ダンパー15を備えてもコンパクトな構造を実現することができる。
【0031】
本実施形態では、回転ダンパー15がサムターン1に装備されているので、扉100の表面(室内面100a)側から回転ダンパー15の減衰力を調整することが可能となる。そのため、回転ダンパー15の減衰力を使用者の好みに合わせて容易に調整することができる。
【0032】
本実施形態のサムターン1では、円筒形状のサムターンであるため、レバーハンドルと異なってハンドル位置によるトルク変動が少ないため、ソフトクローズ動作が簡易な構成を実現することができる。
【0033】
本実施形態では、
図2及
図4に示すように、回転ダンパー15が支持盤11の収納凹部112に埋め込まれた構成となっているので、サムターン1のコンパクト化を図ることができる。
【0034】
このように本実施形態によるサムターン、扉用錠前、および扉では、錠の施錠時及び解錠時に発生する衝突音を抑制することができる。
【0035】
以上、本開示によるサムターン、扉用錠前、および扉の実施形態について説明したが、本開示は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
例えば、上記実施形態において、サムターン1内に一対の回転ダンパー15を設けた構成としているが、回転シャフト12に対して2つの回転ダンパー15を設けることに限定されることはない。例えば、サムターン1内に設ける回転ダンパー15が1つでもよいし、3つあってもかまわない。
【0037】
本実施形態では、回転シャフト12に減衰力を付与する減衰部として、回転ダンパー15を採用しているが、これに限定されることはなく、他の構成の減衰部であってもかまわない。要は、サムターン1に回転シャフト12の回転に抵抗する減衰力を付与する減衰部が設けられていればよいのであって、例えば、他の減衰部として、回転シャフト12をブラシのようなもので摩擦力を与える減衰部を採用してもよい。
【0038】
本実施形態では、回転ダンパー15において、少なくとも錠付勢ばねの付勢力より大きい減衰力を発揮する機能を有するものを採用しているが、必ずしも錠付勢ばねの付勢力より大きい減衰力を発揮する機能をもたせることに限定されることはない。
【0039】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…サムターン、11…支持盤、12…回転シャフト、13…操作つまみ部、14…ピニオン歯車、15…回転ダンパー(減衰部)、100…扉、112…収納凹部、151…軸部、152…減衰本体部、153…ダンパー歯車(係合歯)