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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】車両制御システムおよび車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240405BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01M17/02
G01M17/007 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020219334
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104248
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】森 亮介
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012711(JP,A)
【文献】特開2020-085610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを装着し、自動運転機能を備えた車両に搭載され、前記タイヤの試験のために前記車両にコースを自動運転で走行させる車両制御システムであって、
前記車両を走行させる動力源に電力を供給する第1電源と、
前記自動運転機能を提供する自動運転処理部と、
第2電源と、を有し、
前記タイヤの試験は、前記第1電源を停止して、前記第1電源による前記動力源への電力の供給を停止したイグニッションオフ状態での前記車両の走行を含み、
前記第2電源は、前記イグニッションオフ状態において前記自動運転処理部に電力を供給し、前記車両を前記イグニッションオフ状態から、前記第1電源により前記動力源へ電力を供給するイグニッションオン状態に遷移させる場合、前記第1電源に電力を供給して前記第1電源を起動し、
前記自動運転処理部は、前記車両の挙動を制御する制御部を備え、
前記制御部の制御に従い動作し、前記タイヤを制動する第1制動装置と、
前記第1制動装置とは異なる駆動システムで動作し、前記タイヤを制動する第2制動装置と、をさらに有し、
前記制御部は、前記タイヤの試験における前記車両の走行シナリオ、前記コースの状況および前記車両の状況の少なくとも1つに応じて、前記第1制動装置による前記車両の減速度を制御し、
前記第2制動装置は、前記第1制動装置の動作異常に応じて動作する、車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて
記制御部は、前記イグニッションオフ状態において、少なくとも前記車両の減速および操舵の制御を行う、車両制御システム。
【請求項3】
請求項に記載の車両制御システムにおいて、
前記制御部は、所定の条件において前記車両が所定の回数以上減速した場合、前記タイヤの試験を停止させる、車両制御システム。
【請求項4】
タイヤを装着し、自動運転機能を備えた車両に、前記タイヤの試験のためにコースを自動運転で走行させる車両制御方法であって、
前記車両は、前記車両を走行させる動力源に電力を供給する第1電源と、前記自動運転機能を提供する自動運転処理部と、第2電源と、を有し、
前記自動運転処理部は、前記車両の挙動を制御する制御部を備え、
前記車両は、前記制御部の制御に従い動作し、前記タイヤを制動する第1制動装置と、
前記第1制動装置とは異なる駆動システムで動作し、前記タイヤを制動する第2制動装置と、をさらに有し、
前記第1電源を停止して、前記第1電源による前記動力源への電力の供給を停止したイグニッションオフ状態で前記車両を走行させ、
前記第2電源により前記イグニッションオフ状態において前記自動運転処理部に電力を供給し、
前記車両を前記イグニッションオフ状態から、前記第1電源により前記動力源へ電力を供給するイグニッションオン状態に遷移させる場合、前記第2電源により前記第1電源に電力を供給して前記第1電源を起動し、
前記制御部は、前記タイヤの試験における前記車両の走行シナリオ、前記コースの状況および前記車両の状況の少なくとも1つに応じて、前記第1制動装置による前記車両の減速度を制御し、
前記第2制動装置は、前記第1制動装置の動作異常に応じて動作する、車両制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の制御システムにおいて、
前記第2電源は、前記第1電源および前記自動運転処理部と接続される、車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムおよび車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの試験方法として、台上試験方法と、実車試験方法とが知られている。台上試験方法としては、例えば、ドラムの疑似面をタイヤに接触させ、ドラムを回転させているときに、タイヤが発する騒音を測定する方法がある(特許文献1参照)。一方、実車試験方法では、試験専用の周回コースに沿って車両を実際に走行させながら、各種の試験が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-134213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述したタイヤの実車試験において、自動運転機能を備えた車両にタイヤを装着し、試験のためのコースを周回走行させ、試験データを取得することが行われている。タイヤの試験の1つとして、通過騒音(PBN:Pass By Noise)試験がある。
【0005】
通過騒音試験では、タイヤを装着した車両がコース上の試験区間を走行する際に、タイヤと路面との摩擦によって発生する走行騒音の騒音レベルが測定される。そのため、通過騒音試験では、走行雑音に車両の動力源であるエンジンまたはモータの駆動音を含まないように、エンジンまたはモータに電力を供給する電源を停止して、動力源を停止した状態(以下、「イグニッションオフ状態」という)で、試験区間を車両が慣性走行する。上述したように、タイヤの試験では、車両にコースを周回走行させる。そのため、通過騒音試験では、イグニッションオフ状態の車両が試験区間を通過した後、動力源に電力を供給し、動力源が駆動した状態(以下、「イグニッションオン状態」という)に車両を遷移させて走行させる必要がある。従来、車両をイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移させるには、停止した電源を起動するための手動操作が必要となり、手間がかかっていた。
【0006】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、タイヤの試験の効率化を図ることができる、車両制御システムおよび車両制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る車両制御システムは、タイヤを装着し、自動運転機能を備えた車両に搭載され、前記タイヤの試験のために前記車両にコースを自動運転で走行させる車両制御システムであって、前記車両を走行させる動力源に電力を供給する第1電源と、前記自動運転機能を提供する自動運転処理部と、第2電源と、を有し、前記タイヤの試験は、前記第1電源を停止して、前記第1電源による前記動力源への電力の供給を停止したイグニッションオフ状態での前記車両の走行を含み、前記第2電源は、前記イグニッションオフ状態において前記自動運転処理部に電力を供給し、前記車両を前記イグニッションオフ状態から、前記第1電源により前記動力源へ電力を供給するイグニッションオン状態に遷移させる場合、前記第1電源に電力を供給して前記第1電源を起動する。
上記構成を有することにより、第2電源から第1電源に電力を供給して第1電源を起動することで、車両をイグニッションオフ状態から自動的にイグニッションオン状態に遷移させることができるので、タイヤの試験の効率化を図ることができる。
【0008】
本発明の一態様に係る車両制御システムにおいて、前記自動運転処理部は、前記車両の挙動を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記イグニッションオフ状態において、少なくとも前記車両の減速および操舵の制御を行ってよい。
上記構成を有することにより、イグニッションオフ状態においても、車両の周辺に存在する障害物の回避などが可能となるので、タイヤの試験の安全性の向上を図ることができる。
【0009】
本発明の一態様に係る車両制御システムにおいて、前記制御部の制御に従い動作し、前記タイヤを制動する第1制動装置と、前記第1制動装置とは異なる駆動システムで動作し、前記タイヤを制動する第2制動装置と、をさらに備えてよい。
上記構成を有することにより、制動系統が多重化され、タイヤの試験の安全性の向上を図ることができる。
【0010】
本発明の一態様に係る車両制御システムにおいて、前記第2制動装置は、前記第1制動装置の動作異常に応じて動作してよい。
上記構成を有することにより、第1制動装置の動作に異常が生じた場合にも、第2制動装置による車両の減速が可能となるので、タイヤの試験の安全性の向上を図ることができる。
【0011】
本発明の一態様に係る車両制御システムにおいて、前記制御部は、前記タイヤの試験における前記車両の走行シナリオ、前記コースの状況および前記車両の状況の少なくとも1つに応じて、前記第1制動装置による前記車両の減速度を制御してよい。
上記構成を有することにより、タイヤへの負荷を考慮しつつ、緊急性に応じて車両を減速させることができるので、タイヤの試験の安全性の向上とタイヤの負荷の低減とを図ることができる。
【0012】
本発明の一態様に係る車両制御システムにおいて、前記制御部は、所定の条件において前記車両が所定の回数以上減速した場合、前記タイヤの試験を停止させてよい。
上記構成を有することにより、タイヤの試験を継続することが好ましくない条件下では試験を停止させることができるので、タイヤの試験の安全性の向上と、試験の測定結果の信頼性の確保とを図ることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る車両制御方法は、タイヤを装着し、自動運転機能を備えた車両に、前記タイヤの試験のためにコースを自動運転で走行させる車両制御方法であって、前記車両は、前記車両を走行させる動力源に電力を供給する第1電源と、前記自動運転機能を提供する自動運転処理部と、第2電源と、を有し、前記第1電源を停止して、前記第1電源による前記動力源への電力の供給を停止したイグニッションオフ状態で前記車両を走行させ、前記第2電源により前記イグニッションオフ状態において前記自動運転処理部に電力を供給し、前記車両を前記イグニッションオフ状態から、前記第1電源により前記動力源へ電力を供給するイグニッションオン状態に遷移させる場合、前記第2電源により前記第1電源に電力を供給して前記第1電源を起動する。
上記構成を有することにより、第2電源から第1電源に電力を供給して第1電源を起動することで、車両をイグニッションオフ状態から自動的にイグニッションオン状態に遷移させることができるので、タイヤの試験の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タイヤの試験の効率化を図ることができる、車両制御システムおよび車両制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る車両制御システムを備える車両の構成例を示すブロック図である。
図2図1に示す車両が走行するコースの一例を示す平面図である。
図3図1に示す車両制御システムの動作の一例を示すフローチャートである
図4図1に示す制御部による第1制動装置の制御の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して例示説明する。なお、各図中、同一符号は、同一または同等の構成要素を示している。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制御システム100を備える車両1の構成例を示すブロック図である。本実施形態に係る車両制御システム100は、タイヤ7を装着した車両1に搭載され、車両1に、図2に示す、タイヤ7の試験を行うためのコース200を自動運転で走行させるものである。コース200の詳細は後述する。
【0018】
図1に示すように、車両1は、エンジン2と、動力伝達装置3と、操舵装置4と、第1制動装置5と、第2制動装置6と、タイヤ7と、通信装置8と、車載センサ9と、制御部10と、第1バッテリ11と、第2バッテリ12とを備える。通信装置8、車載センサ9および制御部10は、車両1が備える自動運転機能を提供する自動運転処理部13を構成する。自動運転処理部13の構成は、図1に示す構成に限られるものではなく、車両1の自動運転機能を提供するための種々の構成が含まれてよい。本実施形態に係る車両制御システム100は、第1電源としての第1バッテリ11と、第2電源としての第2バッテリ12と、自動運転処理部13とを少なくとも含む。車両制御システム100は、第1制動装置5および第2制動装置6をさらに含んでよい。
【0019】
エンジン2は、車両1を走行させる動力源である。エンジン2は、第1バッテリ11から供給される電力により駆動する。車両1は、動力源として、エンジン2の代わりに、モータを備えてよい。また、車両1は、動力源として、エンジン2とモータとを備えてよい。
【0020】
動力伝達装置3は、エンジン2から発生した動力をタイヤ7に伝達する。動力伝達装置3は、トランスミッションなどを含む。
【0021】
操舵装置4は、タイヤ7の操舵角を制御する。操舵装置4は、ステアリングなどを含む。
【0022】
第1制動装置5は、タイヤ7を制動する。第1制動装置5は、後述する制御部10の制御に従い動作する。したがって、例えば、自動運転処理部13への電力供給が停止するなどして制御部10が動作しない場合、第1制動装置5も動作を停止する。
【0023】
第2制動装置6は、タイヤ7を制動する。第2制動装置6は、制御部10の制御とは独立して動作可能である。第2制動装置6は、第1制動装置5とは別系統の駆動システムにより駆動される。例えば、第2制動装置6は、油圧式のアクチュエータに流体を注入することで、アクチュエータを駆動し、ブレーキペダルを機械的に押圧することで、タイヤ7を制動する。
【0024】
通信装置8は、無線による通信が可能な通信モジュールを含む。通信装置8は、例えば、
4G(4th Generation)および5G(5th Generation)などの移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。通信装置8は、通信インタフェースを介して、車両1が走行するコース200の周辺に設けられた定点センサ14と通信する。定点センサ14は主に、コース200に関する情報を検出する。コース200に関する情報は、コース200上の状況(他の車両あるいは障害物などの物体の有無など)に関する情報を含んでよい。定点センサ14は、例えば、赤外線、ミリ波などの電磁波を放射し、その電磁波が周辺物で反射した反射波を検出することで、周辺物および周辺物との距離を三次元的に検出する3D-LiDAR(Light Detection and Ranging)センサを含んでよい。通信装置8は、定点センサ14が検出したコース200に関する情報を受信し、受信したコース200に関する情報を制御部10に出力する。
【0025】
車載センサ9は主に、車載センサ9が搭載された車両1に関する情報を検出する。車載センサ9が検出する情報には、車両1の位置または速度などの車両1の状況に関する情報を含んでよい。車載センサ9が検出する情報には、車両1の周辺の状況に関する情報を含んでよい。車載センサ9は、車両1に搭載された、速度メータ、タコメータ、燃料メータまたは走行距離メータなどの各種のメータから情報を取得してよい。車載センサ9は、GPS(Global Positioning System)などの測位システムを利用して車両1の位置を検出するGPSセンサを含んでよい。車載センサ9は、GPSを利用して車両1の速度を検出する速度センサを含んでよい。車載センサ9は、モノクロカメラまたはステレオカメラなどの、車両1の周辺を撮像するカメラを含んでよい。車載センサ9は、LiDARセンサを含んでよい。車載センサ9は、検出した車両1に関する情報を制御部10に出力する。
【0026】
制御部10は、1つ以上のプロセッサである。プロセッサとしては、CPU(Central Processing Unit)などの汎用プロセッサまたは特定の処理に特化した専用プロセッサを使用することができる。制御部10には、1つ以上の専用回路が含まれてよい。また、制御部10において、1つ以上のプロセッサを1つ以上の専用回路に置き換えてもよい。専用回路としては、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)を使用することができる。
【0027】
制御部10は、エンジン2、動力伝達装置3、操舵装置4および第1制動装置5を制御することで、車両1の挙動を自動運転で制御する。自動運転レベルは、例えば、SAE(Society of Automotive Engineering)によって定義されるレベル3-5であってよい。
【0028】
制御部10は、車載センサ9および定点センサ14の全部または一部から検出結果を取得し、取得した検出結果に基づき、車両1の位置および車両1の周辺の障害物の検出を行う。制御部10は、車両1の位置および車両1の周辺の障害物の検出結果に基づき、車両1の走行を制御する。
【0029】
第1バッテリ11は、例えば、鉛蓄電池またはリチウムイオン電池などの二次電池である。第1バッテリ11は、車両1の動力源(エンジン2および/またはモータ)に電力を供給して、エンジン2を駆動する。第1バッテリ11は、例えば、上述した通過騒音試験のために車両1を慣性走行させる場合、動作を停止する。第1バッテリ11が動作を停止することで、車両1の動力源は動作を停止し、車両1はイグニッションオフ状態になる。第1バッテリ11は、第2バッテリ12が二次電池である場合には、第2バッテリ12を充電してよい。第1バッテリ11は、車両1に搭載された種々の電気機器または電子機器に電力を供給してよい。
【0030】
第2バッテリ12は、例えば、鉛蓄電池またはリチウムイオン電池などの二次電池である。第2バッテリ12は、一次電池であってもよい。第2バッテリ12は、自動運転処理部13に電力を供給する。より具体的には、第2バッテリ12は、イグニッションオン状態に加えて、イグニッションオフ状態においても、自動運転処理部13に電力を供給する。第2バッテリ12により自動運転処理部13に電力が供給されることで、イグニッションオフ状態においても、自動運転処理部13による車両1の自動運転が可能となる。制御部10は、イグニッションオフ状態において、少なくとも車両1の減速および操舵の制御を行う。そのため、イグニッションオフ状態においても、車両1の周辺に存在する障害物の回避などが可能となるので、タイヤ7の試験の安全性の向上を図ることができる。
【0031】
上述したように、タイヤ7の試験においては、車両1は通常、コース200を周回走行する。そのため、イグニッションオフ状態で所定の測定を行った後、車両1をイグニッションオン状態に遷移させる必要がある。第2バッテリ12は、車両1をイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移させる場合、第1バッテリ11に電力を供給して第1バッテリ11を起動する。第1バッテリ11は、第2バッテリ12により起動されると、車両1の動力源に電力を供給して駆動させ、車両1をイグニッションオン状態に遷移させる。
【0032】
このように本実施形態においては、車両1をイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移させる場合、第2バッテリ12が第1バッテリ11に電力を供給して第1バッテリ11を起動する。そのため、車両1をイグニッションオフ状態から自動的にイグニッションオン状態に遷移させることができるので、車両1の状態の遷移のための手動操作が不要となり、タイヤ7の試験の効率化を図ることができる。
【0033】
上述したように、車両1は、自動運転機能により、コース200を自動運転で走行する。コース200は、例えば、タイヤ7を試験するためのコースである。図2は、車両1がタイヤ7の試験のために走行するコース200の一例を示す平面図である。
【0034】
図2に示すように、コース200は、互いに平行に延びる2本の直線路200a,200bと、直線路200a,200bの両端に配置され、かつ双方の直線路200a,200bの端部を結ぶように連結された半円状の曲線路200c,200dとからなる、閉じた周回コースである。車両1は、周回コースであるコース200を所定の方向に(図2では、左回りに)周回走行する。
【0035】
コース200は、複数の区間に分けられる。例えば、コース200は、位置P1を始点とし、位置P2を終点とする試験区間210を含む。位置P1および位置P2は、直線路200aに含まれる。したがって、試験区間210は、直線区間である。試験区間210は、タイヤ7の試験に関する種々の測定を行うための区間である。タイヤ7の試験としては、例えば、上述した通過騒音試験がある。通過騒音試験は、タイヤの試験に関する所定の規格(例えば、タイヤ単体騒音規制に係る国際基準であるECE R117-02)に基づいて実施される。試験区間210における路面は、ISO10844の規格に基づく路面であってよい。上述したように、通過騒音試験では、車両1の走行雑音が車両1の動力源の駆動音を含まないように、車両1は、試験区間210の手前で動力源を停止したイグニッションオフ状態となり、試験区間210を慣性走行する。車両1は、試験区間210を通過すると、イグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移する。試験区間210の通過は、例えば、車両1の位置情報などから検出することができる。タイヤ7の試験は、通過騒音試験に限られず、他の試験であってもよい。
【0036】
通過騒音試験の場合、試験区間210の路面の幅方向の両側にマイクが配置され、車両1は、試験区間210の路面の中央を、予め定められた速度で走行する。路面の両側に配置されたマイクはそれぞれ、車両1が試験区間210を走行している間に、車両1の走行騒音の騒音レベルを検出し、タイヤ7の試験データとして取得する。
【0037】
コース200はさらに、調整区間220と、バンク区間230と、加速区間240とを含む。
【0038】
調整区間220は、位置P2を始点とし、位置P3を終点とする区間である。位置P3は、直線路200bと曲線路200dとが連結された位置である。調整区間220は、直線路200aのうち、試験区間210以後の区間と、曲線路220cと、直線路200bとを含む区間である。すなわち、調整区間220は、試験区間210の終点と、後述するバンク区間230の始点とに連結された区間である。調整区間220では、車両1による他の車両の追い越しおよび他の車両による車両1の追い越しが許容される。調整区間220において、試験区間210に進入する車両の順番の調整などが行われる。
【0039】
バンク区間230は、位置P3を始点とし、位置P4を終点とする区間である。位置P4は、直線路200aと曲線路200dとが連結された位置である。バンク区間230は、例えば、路面がカーブの内周から外周に向かって高くなるような傾斜が設けられている。すなわち、バンク区間230は、例えば、カーブ形状を有し、路面がカーブの内周から外周に向かって高くなるように傾斜している区間である。この傾斜により、バンク区間230では、車両1は、半円状のコーナーの外側を走行して遠心力を利用することにより、一定速度(例えば、60km/h)を維持して走行する。
【0040】
バンク区間230では、その形状のため、車両1から見た視野が制限されるにも関わらず、比較的高速を維持したまま走行することが求められる。そのため、安全性の観点から、バンク区間230を走行するのは1台だけに限られてよい。したがって、ある車両がバンク区間230を走行している間、他の車両は、バンク区間230の手前の調整区間220において減速・停止するなどして、バンク区間230への進入を待機するように制御されてよい。
【0041】
加速区間240は、位置P4を始点とし、位置P1を終点とする区間である。すなわち、加速区間240は、試験区間210の始点(位置P1)と連結された区間である。加速区間240の距離は、試験区間210におけるタイヤ7の試験に必要な速度、車両1に装着されたタイヤ7の種別、車両1の荷重および車両1の加速性能などに応じて決定される。加速区間240では、制御部10は、試験区間210への進入の際に必要な速度まで、例えば、所定の加速率で車両1を加速する。
【0042】
次に、本実施形態に係る車両制御システム100の動作について説明する。
【0043】
図3は、本実施形態に係る車両制御システム100の動作の一例を示すフローチャートであり、車両制御システム100における車両制御方法を説明するための図である。図3においては、通過騒音試験のような、イグニッションオフ状態で車両1を走行させた後、車両1をイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移させる試験を例として説明する。
【0044】
例えば、車両1がコース200の試験区間210に進入する前に、第1バッテリ11による動力源(エンジン2および/またはモータ)への電力の供給を停止し、車両1をイグニッションオフ状態で走行させる(ステップS101)。
【0045】
第2バッテリ12は、イグニッションオン状態において、自動運転処理部13に電力を供給するが、車両1がイグニッションオフ状態に遷移しても、自動運転処理部13に電力を供給する(ステップS102)。これにより、イグニッションオフ状態においても、自動運転機能による車両1の制御(例えば、車両1の減速および操舵)が可能となる。
【0046】
例えば、車両1がコース200の試験区間210を通過すると、第2バッテリ12は、第1バッテリ11に電力を供給し、第1バッテリ11を起動する(ステップS103)。第1バッテリ11は、第2バッテリ12からの電力供給により起動すると、動力源(エンジン2および/またはモータ)に電力を供給し、動力源を駆動する。動力源の駆動により、車両1は、イグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に自動的に遷移する。イグニッションオフ状態からイグニッションオン状態への遷移の要否は、制御部10が判定する。制御部10は、例えば、車載センサ9などの検出結果から得られる車両1の位置情報に基づき、車両1が試験区間210を通過したと判定すると、車両1のイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態への遷移が必要であると判定する。そして、制御部10は、車両1のイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態への遷移が必要であると判定すると、第2バッテリ12に第1バッテリ11への電力の供給を指示する。第2バッテリ12は、制御部10の指示に従い、第1バッテリ11に電力を供給する。
【0047】
図3を参照して説明したように、本実施形態に係る車両制御方法は、第1バッテリ11を停止し、イグニッションオフ状態で車両1を走行させるステップと、第2バッテリ12によりイグニッションオフ状態において自動運転処理部13に電力を供給するステップと、車両1をイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移させる場合、第2バッテリ12により第1バッテリ11に電力を供給して第1バッテリ11を起動する。
【0048】
そのため、車両1をイグニッションオフ状態から自動的にイグニッションオン状態に遷移させることができるので、タイヤ7の試験の効率化を図ることができる。
【0049】
上述したように、本実施形態に係る車両制御システム100は、制御部10の制御に従い動作する第1制動装置5と、第2制動装置6とを備える。制御部10は、車載センサ9および定点センサ14の検出結果に基づき、第1制動装置5を制御する。例えば、制御部10は、車載センサ9および定点センサ14の検出結果に基づき、車両1の周辺の障害物の有無を判定し、車両1の周辺に障害物が存在すると判定した場合、車両1が障害物に接触などすることがないように、第1制動装置5などを制御する。制御部10による第1制動装置5の制御は、例えば、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を用いた制御モデルを構築することで実現可能である。上述したAIを用いた制御モデルの構築は、本発明とは直接関係しないので、詳細な説明を省略する。
【0050】
第2制動装置6は、制御部10の制御とは独立して動作可能であり、第1制動装置5とは別系統の駆動システムにより駆動される。第2制動装置6は、第1制動装置5の動作異常に応じて動作する。第2制動装置6は、例えば、所定時間以上、制御部10による第1制動装置5の制御が行われない場合、あるいは、第1制動装置5の駆動システムに対する電源断が発生した場合など、第1制動装置5の動作異常が生じた場合に動作し、車両1を減速させる。
【0051】
このように本実施形態においては、第1制動装置5とは異なる駆動システムで動作する第2制動装置6を設けることで、制動系統が多重化され、タイヤ7の試験の安全性の向上を図ることができる。
【0052】
次に、制御部10による第1制動装置5の制御について、より詳細に説明する。
【0053】
制御部10は、タイヤ7の試験における、車両1の走行経路、走行速度などを規定した走行シナリオ、コース200の状況および車両1の状況の少なくとも1つに応じて、第1制動装置5による車両1の減速度を制御してよい。例えば、制御部10は、タイヤ7の試験における車両1の走行シナリオ、コース200の状況および車両1の状況の少なくとも1つに応じて、3段階の減速度のうち、いずれかの減速度で車両1が減速するように、第1制動装置5を制御してよい。図4は、制御部10による第1制動装置5の制御の一例を示す図である。図4においては、第1制動装置5による車両1の減速度として、減速度「小」、減速度「小」よりも大きい減速度「中」、減速度「中」よりも大きい減速度「大」の3段階を設定する例を用いる。
【0054】
タイヤ7の試験における車両1の走行シナリオにおいて車両1の減速が必要な場合として、バンク区間230への進入を調整区間220で待機する場合、所定の計測が終了して減速する場合、あるいは、試験が終了し、車両1が所定の格納場所まで帰還する場合などがある。
【0055】
バンク区間230への進入を調整区間220で待機する場合、および、試験が終了し、車両1の所定の格納場所まで帰還する場合、車両1を急減速させる必要は乏しい。そのため、制御部10は、第1制動装置5による車両1の減速度を減速度「小」に設定する。車両1の減速度を小さくすることで、タイヤ7への負担を低減することができる。また、所定の計測が終了して減速する場合、すなわち、車両1が試験区間210を通過して、調整区間220を走行する場合、調整区間220を走行する他の車両との衝突などを防ぐために、比較的速やかに、車両1を減速させることが好ましい。したがって、制御部10は、所定の計測が終了して減速する場合、車両1の減速度を減速度「中」に設定する。
【0056】
また、コース200の状況により車両1の減速が必要な場合として、車両1の前方に、車両1の進行方向と同じ方向(順方向)に進行する障害物が存在する場合、車両1の前方に、移動していない障害物が存在する場合、車両1の前方に、車両1の進行方向と垂直な方向あるいは逆方向に移動する障害物が存在する場合、バンク区間230において、車両1の前方に障害物が存在する場合、あるいは、コース200の路面が濡れている場合などがある。
【0057】
車両1の前方に、車両1と同じ方向(順方向)に進行する障害物が存在する場合、車両1の速度が障害物の速度よりも大きくても、車両1と障害物との距離が急速には縮まらない。そのため、制御部10は、車両1の減速度を減速度「小」に設定する。車両1の減速度を減速度「小」に設定することで、タイヤ7の負荷を低減することができる。一方、車両1の前方に、車両1の進行方向と垂直な方向あるいは逆方向に移動する障害物が存在する場合、車両1と障害物との距離が急速に縮まる。そのため、制御部10は、車両1の減速度を減速度「大」に設定する。車両1の減速度を減速度「大」に設定することで、タイヤ7への負荷は大きくなるものの、車両1が前方の障害物と衝突する可能性を低減することができる。また、障害物が車両1の進行方向と逆方向に移動する場合と比べて、車両1の前方に、移動していない障害物が存在する場合、車両1と障害物との距離は縮まりにくい。そのため、制御部10は、車両1の減速度を減速度「中」に設定する。また、バンク区間230において、車両1の前方に障害物が存在する場合、および、コース200の路面が濡れている場合、緊急に車両1を停止させる必要はないものの、安全性の観点から、比較的速やかに車両1を減速させることが好ましい。そのため、制御部10は、車両1の減速度を減速度「中」に設定する。
【0058】
また、車両1の状況により車両1の減速が必要な場合として、車両1を自動運転させることは可能であるものの、自動運転機能を損なう可能性ある、車両1の異常(例えば、車載センサ9の故障、通信装置8の通信障害、タイヤ7のパンクなど)が検知された場合がある。この場合、緊急に車両1を停止させる必要はないものの、安全性の観点から、比較的速やかに車両1を減速させることが好ましい。そのため、制御部10は、車両1の減速度を減速度「中」に設定する。
【0059】
また、制御部10は、タイヤ7の試験のオペレータからの指示に基づき、第1制動装置5による車両1の減速度を制御してよい。例えば、オペレータより、コース200の閉鎖、地震の発生、降雨などによる試験の中止が指示されると、制御部10は、車両1を停止させる。この場合、制御部10は、緊急に車両1を停止させる必要はないものの、安全性の観点から、比較的速やかに車両1を減速させることが好ましい。そのため、制御部10は、車両1の減速度を減速度「中」に設定する。
【0060】
このように、タイヤ7の試験における車両1の走行シナリオ、コース200の状況および車両1の状況の少なくとも1つに応じて、第1制動装置5による車両1の減速度を制御することで、タイヤ7の負荷を考慮しつつ、緊急性に応じて車両1を減速させることができるので、タイヤ7の試験の安全性の向上とタイヤ7の負荷の低減とを図ることができる。
【0061】
また、制御部10は、上述した第1制動装置5により車両1を減速させる各場合での、第1制動装置5による車両1の減速の発生回数に制約を設定し、設定した回数以上、第1制動装置5による車両1の減速が発生した場合、タイヤ7の試験を停止させてよい。すなわち、制御部10は、所定の条件において車両1が所定の回数以上減速した場合、タイヤ7の試験を停止させてよい。
【0062】
図4に示す例では、車両1の前方の移動していない障害物の存在、車両1の前方の車両1の進行方向と垂直方向/逆方向に移動する障害物の存在、バンク区間230の障害物の存在、コース200の路面の濡れ、車両1の異常検知およびオペレータの指示による車両1の減速が所定回数以上、発生した場合、安全性の観点およびタイヤ7の負荷の増大に伴い、タイヤ7の試験の継続が好ましくないことがある。したがって、制御部10は、所定の条件(上述した各条件)で所定回数以上、第1制動装置5による車両1の減速が発生した場合、タイヤ7の試験を停止させる。こうすることで、タイヤ7の試験の安全性の向上と、試験の測定結果の信頼性の確保とを図ることができる。
【0063】
このように本実施形態に係る車両制御システム100は、車両1の動力源(エンジン2および/またはモータ)に電力を供給する第1バッテリ11と、自動運転機能を提供する自動運転処理部13と、第2バッテリ12とを備える。第2バッテリ12は、イグニッションオフ状態において自動運転処理部13に電力を供給する。また、第2バッテリ12は、車両1をイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移させる場合、第1バッテリ11に電力を供給して第1バッテリ11を起動する。
【0064】
また、本実施形態に係る車両制御方法は、第1バッテリ11を停止して、イグニッションオフ状態で車両1を走行させ、第2バッテリ12によりイグニッションオフ状態において自動運転処理部13に電力を供給し、車両1をイグニッションオフ状態からイグニッションオン状態に遷移させる場合、第2バッテリ12により第1バッテリ11に電力を供給して第1バッテリ11を起動する。
【0065】
そのため、車両1をイグニッションオフ状態から自動的にイグニッションオン状態に遷移させることができるので、手動操作が必要なくなり、タイヤ7の試験の効率化を図ることができる。
【0066】
本発明に係る車両制御システム100および車両制御方法は、上述した実施形態に示す具体的な構成に限られず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:車両、2:エンジン(動力源)、3:動力伝達装置、4:操舵装置、5:第1制動装置、6:第2制動装置、7:タイヤ、8:通信装置、9:車載センサ、10:制御部、11:第1バッテリ(第1電源)、12:第2バッテリ(第2電源)、13:自動運転処理部、14:定点センサ、100:車両制御システム、200:コース、200a,200b:直線路、200c,200d:曲線路、210:試験区間、220:調整区間、230:バンク区間、240:加速区間
図1
図2
図3
図4