(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂フィルムおよびそれを含む積層体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240405BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20240405BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240405BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240405BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B32B15/082 Z
B32B17/10
B32B27/30 102
C03C27/12 D
C03C27/12 L
(21)【出願番号】P 2020549299
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037630
(87)【国際公開番号】W WO2020067176
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2018180673
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】小林 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】磯上 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】保田 浩孝
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-539905(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019452(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/019445(WO,A1)
【文献】特開2004-155110(JP,A)
【文献】特開昭61-061835(JP,A)
【文献】特開平06-210729(JP,A)
【文献】特開2011-152693(JP,A)
【文献】特開平09-164592(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181386(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
B32B 1/00-43/00
C03C 27/12
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂材料から構成されるポリビニルアセタール樹脂フィルムであって、少なくとも一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率が3%以上であり、かつ、一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率と他方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率との差分絶対値が0.5%以上であり、ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤の量がポリビニルアセタール樹脂フィルムの総質量に基づいて0~20質量%である、ポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項2】
前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂材料中のポリビニルアセタール樹脂の、ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度が100mPa・s以上である、請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さが10~350μmである、請求項1または2に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリビニルアセタール樹脂フィルム中のポリビニルアセタール樹脂の量がポリビニルアセタール樹脂フィルムの総質量に基づいて75質量%以上である、請求項1~3のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に機能性層を有する、機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項6】
前記機能性層が導電層である、請求項5に記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項7】
前記導電層を形成する材料が銀または銅を含んでなる、請求項6に記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項8】
前記導電層が線幅1~30μmの複数の線状導電性材料で構成されている、請求項6または7に記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
【請求項9】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートすることを含む、請求項5~8のいずれかに記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
透明基材と、請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは請求項5~8のいずれかに記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムとを含む、積層体。
【請求項11】
複数の透明基材の間に、請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは請求項5~8のいずれかに記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムが挟持された、積層体。
【請求項12】
さらに可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を含む、請求項10または11に記載の積層体。
【請求項13】
前記透明基材がガラスである、請求項10~12のいずれかに記載の積層体。
【請求項14】
請求項10~13のいずれかに記載の積層体からなる乗物用ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂から構成されるフィルムは、透明性、柔軟性、衝撃吸収性、ガラスとの接着性等に優れるため、各種車両や建築用の合わせガラス用中間膜として広く用いられている。従来、このようなポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて、ガラスと積層する際などの良好な取扱性や作業性を改善するために樹脂フィルムの表面形状を制御することが知られており、例えば、エンボス加工などにより両面に微細な凹凸を付与した可塑化ポリビニルアセタール樹脂層やシートから構成される合わせガラス用中間膜が提案されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-214276号公報
【文献】特開2000-290046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、建物または乗物のガラスに種々の機能を付与することを目的として、例えば導電層、紫外線/赤外線反射層、色補正層などの機能性層を設けた合わせガラス用中間膜が開発されている。このような機能性を有する中間膜に用いられる樹脂フィルムには、ロール状に巻回する際やガラス等の透明基材と積層する際の良好な取扱性や作業性が求められると同時に、機能性層による所望の機能を十分に発揮させ得るものであることが求められる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1および2に記載されるような両面が比較的粗い表面形状を有している合わせガラス用中間膜に機能性層を設ける場合、その工程中または積層後に機能性層の変形や破壊が起こりやすく、これにより機能性層の機能が低下したり損なわれたりするといった問題がある。また、樹脂フィルムの両面に微細な凹凸が形成されていても、両面が同じような表面形状であることにより、該樹脂フィルムをロール状に巻回する際に接触する樹脂フィルムの一方の面の凹凸と他方の面の凹凸とが嵌合しやすくなり、樹脂フィルム同士の密着性が強くなるため、巻回時に皺が発生しやすくなるとともに自着を生じることもある。特に、フィルムロールにおける皴の発生は、可塑剤量の少ないまたは可塑剤を含まない薄膜の樹脂フィルムにおいて起こりやすく、その取扱性や作業性は必ずしも十分に満足のいくものではない。
【0006】
そこで、本発明は、ロール状に巻回する際や透明基材と積層させる際の優れた取扱性や作業性を有するとともに、機能性層を設けた場合に機能性層の変形や破壊を生じ難く、長期にわたり高い機能性を発揮させ得る低可塑または無可塑のポリビニルアセタール樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]ポリビニルアセタール樹脂材料から構成されるポリビニルアセタール樹脂フィルムであって、少なくとも一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率が3%以上であり、かつ、一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率と他方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率との差分絶対値が0.5%以上であり、ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤の量がポリビニルアセタール樹脂フィルムの総質量に基づいて0~20質量%である、ポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[2]前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂材料中のポリビニルアセタール樹脂の、ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度が100mPa・s以上である、前記[1]に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[3]前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さが10~350μmである、前記[1]または[2]に記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[4]前記ポリビニルアセタール樹脂フィルム中のポリビニルアセタール樹脂の量がポリビニルアセタール樹脂フィルムの総質量に基づいて75質量%以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に機能性層を有する、機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[6]前記機能性層が導電層である、前記[5]に記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[7]前記導電層を形成する材料が銀または銅を含んでなる、前記[6]に記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[8]前記導電層が線幅1~30μmの複数の線状導電性材料で構成されている、前記[6]または[7]に記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム。
[9]ポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートすることを含む、前記[5]~[8]のいずれかに記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法。
[10]透明基材と、前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは前記[5]~[8]のいずれかに記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムとを含む、積層体。
[11]複数の透明基材の間に、前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは前記[5]~[8]のいずれかに記載の機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムが挟持された、積層体。
[12]さらに可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を含む、前記[10]または[11]に記載の積層体。
[13]前記透明基材がガラスである、前記[10]~[12]のいずれかに記載の積層体。
[14]前記[10]~[13]のいずれかに記載の積層体からなる乗物用ガラス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロール状に巻回する際や透明基材と積層させる際の優れた取扱性や作業性を有するとともに、機能性層を設けた場合に機能性層の変形や破壊を生じ難く、長期にわたり高い機能性を発揮させ得る低可塑または無可塑のポリビニルアセタール樹脂フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0011】
<ポリビニルアセタール樹脂フィルム>
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて、少なくとも一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率は3%以上であり、かつ、一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率と他方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率との差分絶対値は0.5%以上である。合わせガラス用中間膜に用いられるような従来のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、一般的にその両表面が同じような表面形状を有するが、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは両表面の相対拡散反射率を上記関係になるよう制御することにより、樹脂フィルムの一方の面と他方の面とが互いに異なる表面形状を有する。これにより、製膜後の長尺のフィルムをロール状に巻回する際に隣接する樹脂フィルムの一方の面と他方の面との間に微細な空隙が生じ、空気の巻込みによるロール皴の発生を抑制することができ、良好な外観のフィルムロールを得ることができる。また、機能性層や他の層、ガラスなどの透明基材を貼合する面を適切に選択することにより、機能性層の変形や破壊、合わせガラスにおける発泡等に対する高い抑制効果を得ることができる。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおける少なくとも一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率は3%以上である。樹脂フィルムが、上記相対拡散反射率が3%以上である表面を有しないと、樹脂フィルムの一方の面と他方の面が同じような表面形状を有する傾向にあり、両表面が互いに接した際に適度な空隙を生じにくく、互いに接する面間の密着性が強くなる傾向にある。このため、樹脂フィルムをロール状に巻回する際に空気を巻き込んで皺を生じやすく、また、自着しやすくなることでフィルムの取扱性や作業性が低下することがある。さらに、樹脂フィルムをガラス等の透明基材と積層する際に気泡を取込みやすい一方で脱気し難いため、得られる合わせガラスにおける発泡が発生しやすくなる。
【0013】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて、一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率と他方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率との差分絶対値は0.5%以上である。一方の面と他方の面の上記相対拡散反射率の差分絶対値が0.5%未満であると、樹脂フィルムの一方の面と他方の面が同じような表面形状となるため、樹脂フィルムをロール状に巻回する際にフィルム同士が強く密着しやすくなり、ロール皴や保管時の自着が生じやすくなる。本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの一方の面と他方の面の上記相対拡散反射率の差分絶対値は、好ましくは0.8%以上、より好ましくは1%以上である。前記差分絶対値の上限は特に限定されるものではないが、通常5%以下であり、例えば3%以下であってよく、好ましくは2.5%以下である。
【0014】
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの一方の面は比較的粗い表面形状を有し、他方の面は比較的滑らかな表面形状を有することが好ましい。このような異なる表面形状を有することにより、樹脂フィルムをロール状に巻回する際に空気を巻き込みにくく、ロール皴の発生を抑制することができる。また、フィルム同士が強く密着し難くなるため保管時の自着を抑制し、樹脂フィルムの取扱性や作業性を改善することができる。さらに、機能性層を比較的滑らかな表面形状を有する面側に積層することにより、樹脂フィルムと機能性層との密着性が上がり、機能性層の経時的な変形や破壊を抑制することができる。また、機能性層を積層した樹脂フィルムの比較的粗い表面形状を有する面側にガラス等の透明基材を貼合することにより、空気の巻込みを低減することができ、得られる合わせガラスにおける発泡を抑制することができる。
【0015】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて、一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率は3%以上であり、好ましくは3.5%以上、より好ましくは4%以上、さらに好ましくは4.5%以上、さらにより好ましくは5%以上であり、また、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下である。また、他方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率は、好ましくは2%以上であり、より好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは3.5%以上であり、また、好ましくは7%以下、より好ましくは6.5%以下、さらに好ましくは6%以下である。ポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて、通常、波長550nmにおける相対拡散反射率が高い方の面が比較的粗い表面形状を有する面となり、上記相対拡散反射率が低い方の面が比較的滑らかな表面形状を有する面となる。
【0016】
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの波長550nmにおける相対拡散反射率は、例えば、ポリビニルアセタール樹脂材料を溶融押出法により製膜する際に用いるロールの表面形状やロールの材質を制御する、溶融押出成形する際のプレス圧を制御する、エンボス加工の条件(樹脂フィルム温度およびロール表面温度等)を制御するなどの方法により調整することができる。
【0017】
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの波長550nmにおける相対拡散反射率は、例えば、紫外可視近赤外分光光度計を用いて、フィルムの各面側から入射角0°で光を入射することにより測定することができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。なお、上記相対拡散反射率には樹脂フィルムの鏡面反射は含まれない。
【0018】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて、一方の面(通常、比較的粗い表面形状を有する面)の平均表面粗さ(Rz)は、好ましくは2μm以上、より好ましくは2.5μm以上、さらに好ましくは3μm以上、特に好ましくは3.5μm以上であり、また、好ましくは7.5μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは6.5μm以下である。一方の面の平均表面粗さが上記範囲内であると、樹脂フィルムをロール状に巻回する際に隣接するフィルム間に適度な空隙が生じ、空気の巻込みを抑えることができるためロール皴を抑えて良好な外観のフィルムロールを得ることができる。また、フィルム同士が強く密着し難くなるため保管時の自着を抑制し、樹脂フィルムの取扱性や作業性を改善することができる。
【0019】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて、他方の面(通常、比較的滑らかな表面形状を有する面)の平均表面粗さ(Rz)は、好ましくは2μm未満、より好ましくは1.8μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下である。他方の面の平均表面粗さは小さいほど好ましく、その下限値は特に限定されるものではなく0μmであってもよいが、通常0.01μm以上であり、0.1μm以上であってもよい。上記範囲の平均表面粗さを有する表面は、機能性層を貼合する面として好適であり、このような表面に機能性層を貼合することにより機能性層の経時的な変形や破壊を効果的に抑制することができる。
【0020】
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの平均表面粗さは、JIS B0601-2001に準拠して測定することができる。
【0021】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さは、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは40μm以上である。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さが前記値以上であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの収縮または変形を抑制することができ、機能性層を積層した場合に樹脂フィルムの収縮や変形に起因する機能性層の歪等が生じにくくなる。また、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さは、好ましくは350μm以下、より好ましくは330μm以下、さらに好ましくは200μm以下、特に好ましくは120μm以下、最も好ましくは100μm未満である。ポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さが前記値以下であると、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムに隣接して可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を貼合した場合に、該可塑化ポリビニルアセタール樹脂層から本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムへの可塑剤移行量を少なくすることができる。これにより積層体の耐貫通性を向上させることができるため、例えば、衝突時の頭部衝撃の低減効果に優れる乗物用ガラスとして好適な積層体を得ることができる。
なお、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さは、例えば、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定できる。
【0022】
(ポリビニルアセタール樹脂)
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、ポリビニルアセタール樹脂を含むポリビニルアセタール樹脂材料から構成される。ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマー等のポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化によって製造される樹脂である。なお、本発明において「ポリビニルアセタール樹脂材料」には、ポリビニルアセタール樹脂からなるもの、および、ポリビニルアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるもののいずれもが含まれる。
【0023】
本発明におけるポリビニルアセタール樹脂フィルムに含まれるポリビニルアセタール樹脂は、1つのポリビニルアセタール樹脂であるか、または粘度平均重合度、アセタール化度、酢酸ビニル単位含有量、ビニルアルコール単位含有量、エチレン単位含有量、アセタール化に用いられるアルデヒドの分子量、および鎖長のうちいずれか1つ以上がそれぞれ異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂であってよい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、溶融成形の容易性の観点、並びに合わせガラス作製時の機能性層、別の層または別のフィルムの変形および合わせガラス使用時のガラスのずれ等を防ぎやすい観点から、ポリビニルアセタール樹脂は、粘度平均重合度の異なる少なくとも2つのポリビニルアセタール樹脂の混合物であるか、または粘度平均重合度の異なる少なくとも2つのポリビニルアルコール系樹脂の混合物のアセタール化物であることが好ましい。
【0024】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、好ましくは40モル%以上、より好ましくは45モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、さらにより好ましくは60モル%以上、特に好ましくは68モル%以上であり、好ましくは86モル%以下、より好ましくは84モル%以下、さらに好ましくは82モル%以下である。アセタール化度は、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位等)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準とした、アセタールを形成する上記単位の量である。アセタール化度が前記した下限値と上限値との範囲内であると、得られるポリビニルアセタール樹脂フィルムの力学的強度が十分なものになりやすく、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が良好になりやすいため好ましい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が、前記した下限値と上限値との範囲内であることが好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、耐水性の観点からは65モル%以上であることが好ましい。アセタール化度は、アセタール化反応におけるアルデヒドの使用量を調整することにより調整できる。
【0025】
ポリビニルアセタール樹脂の酢酸ビニル単位含有量は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.3モル%以上であり、さらに好ましくは0.5モル%以上であり、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下であり、特に好ましくは0.5~3モル%または5~8モル%である。酢酸ビニル単位の含有量は、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位等)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準とした酢酸ビニル単位の量である。酢酸ビニル単位含有量は、ポリビニルアセタール樹脂の極性に影響を及ぼし得、それによってポリビニルアセタール樹脂フィルムの可塑剤相溶性または機械的強度が変化し得る。酢酸ビニル単位含有量が前記した下限値と上限値との範囲内であると、場合により隣接して積層される可塑化ポリビニルアセタール樹脂層との良好な接合、および光学歪の低減等が達成されやすい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂の酢酸ビニル単位含有量が、前記範囲内であることが好ましい。酢酸ビニル単位の含有量は、原料のポリビニルアルコール系樹脂のケン化度を適宜調整することにより調整できる。
【0026】
ポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位含有量は、好ましくは9~36モル%、より好ましくは18~34モル%、さらに好ましくは22~34モル%、さらにより好ましくは26~34モル%、特に好ましくは26~31モル%、特により好ましくは26~30モル%である。ビニルアルコール単位含有量は、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位等)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準としたビニルアルコール単位の量である。ビニルアルコール単位含有量が前記範囲内であると、場合により隣接して積層される可塑化ポリビニルアセタール樹脂フィルムとの屈折率差が小さくなり、光学むらの少ない合わせガラスを得やすい。一方で、さらに遮音性能を合わせて付与するために好ましいビニルアルコール単位含有量は9~29モル%、より好ましくは12~26モル%、さらに好ましくは15~23モル%、特に好ましくは16~20モル%である。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位含有量が、前記範囲内であることが好ましい。ビニルアルコール単位含有量は、アセタール化反応におけるアルデヒドの使用量を調整することにより前記範囲内に調整できる。
【0027】
ポリビニルアセタール樹脂は通常、アセタールを形成する単位、ビニルアルコール単位および酢酸ビニル単位から構成されており、これらの各単位量は、例えばJIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」または核磁気共鳴法(NMR)によって測定される。
【0028】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂材料中のポリビニルアセタール樹脂の、ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度は、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは200mPa・s以上、さらに好ましくは240mPa・s以上、特に好ましくは265mPa・s以上である。ポリビニルアセタール樹脂の前記粘度が前記下限値以上であると、機能性層を積層して合わせガラスを作製する際に機能性層の変形や破壊を抑制することができ、得られる合わせガラスにおいて熱によりガラスがずれる現象を効果的に防止し得る。前記粘度の上限値は、良好な製膜性が得られやすい観点から、通常は1000mPa・s以下、好ましくは800mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下、さらに好ましくは450mPa・s以下である。
【0029】
前記粘度は、粘度平均重合度の高いポリビニルアルコール系樹脂を原料または原料の一部として用いて製造したポリビニルアセタール樹脂を使用または併用することにより調整できる。ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するために使用されるポリビニルアセタール樹脂が複数の樹脂の混合物からなる場合、前記粘度は、そのような混合物の粘度である。
【0030】
前記ポリビニルアセタール樹脂材料中のポリビニルアセタール樹脂のピークトップ分子量は、好ましくは115,000~200,000、より好ましくは120,000~160,000、特に好ましくは130,000~150,000である。ポリビニルアセタール樹脂のピークトップ分子量が前記範囲内であると、好適なフィルム製膜性および好適なフィルム物性(例えば、ラミネート適性、耐クリープ性および破断強度)が得られやすい。前記ピークトップ分子量は、粘度平均重合度の高いポリビニルアルコール系樹脂を原料または原料の一部として用いて製造したポリビニルアセタール樹脂を使用または併用することにより調整できる。
【0031】
前記ポリビニルアセタール樹脂材料中のポリビニルアセタール樹脂の分子量分布、即ち重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは2.7以上、より好ましくは2.8以上、特に好ましくは2.9以上である。ポリビニルアセタール樹脂の分子量分布が前記下限値以上であると、製膜性および好適なフィルム物性(例えば、ラミネート適性、耐クリープ性および破断強度)を両立させやすい。前記分子量分布は、粘度平均重合度の異なるポリビニルアルコール系樹脂の混合物をアセタール化したり、粘度平均重合度の異なるポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化物を混合したりすることにより調整できる。分子量分布の上限値は特に限定されなるものではないが、製膜しやすさの観点から、通常は10以下、好ましくは5以下である。
【0032】
前記ポリビニルアセタール樹脂材料が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のピークトップ分子量および分子量分布が、上記範囲内であることが好ましい。
なお、ピークトップ分子量および分子量分布は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、分子量既知のポリスチレンを標準として求められる。
【0033】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂は、従来公知の方法により製造でき、代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂(例えばポリビニルアルコール樹脂またはエチレンビニルアルコールコポリマー)をアルデヒドによりアセタール化することによって製造できる。限定されるものではないが、具体的には例えば、濃度3~30質量%のポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーの水溶液を80~100℃の温度範囲で保持した後、10~60分かけて徐々に冷却し、温度が-10~30℃まで低下したところで、アルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、30~300分間アセタール化反応を行う。次に、反応液を30~200分かけて20~80℃の温度まで昇温し、30~300分保持した後、反応液を必要に応じて濾過した後、アルカリ等の中和剤を添加して中和し、樹脂を濾過、水洗および乾燥することにより、本発明に使用し得るポリビニルアセタール樹脂を製造できる。
【0034】
アセタール化反応に用いる酸触媒は特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれも使用できる。そのような酸触媒の例として、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸および塩酸等が挙げられる。これらの中でも、酸の強度および洗浄時の除去のしやすさの観点から、塩酸、硫酸および硝酸が好ましく用いられる。
【0035】
好適な破断エネルギーを有するポリビニルアセタール樹脂が得られやすい観点から、ポリビニルアセタール樹脂の製造に使用されるアルデヒドまたはケト化合物は、2~10個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状または環状化合物であることが好ましく、直鎖状または分岐状化合物であることがより好ましい。これにより、相応の直鎖状または分岐状のアセタール基がもたらされる。また、本発明において使用されるポリビニルアセタール樹脂は、複数のアルデヒドまたはケト化合物の混合物により、ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーをアセタール化して得られるアセタール化物であってもよい。
【0036】
本発明において使用されるポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも1つのポリビニルアルコール系樹脂と、2~10個の炭素原子を有する1つ以上の脂肪族非分岐のアルデヒドとの反応により生じるものであることが好ましい。そのようなアルデヒドとしては、好適な破断エネルギーを有するポリビニルアセタール樹脂が得られやすい観点から、n-ブチルアルデヒドが好ましい。アセタール化に使用するアルデヒドにおけるn-ブチルアルデヒドの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。本発明の好ましい一態様において、ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂である。
【0037】
ポリビニルアセタール樹脂を製造するために使用されるポリビニルアルコール系樹脂は、単独であるか、または粘度平均重合度若しくは加水分解度等が異なるポリビニルアルコール系樹脂の混合物であってよい。
【0038】
ポリビニルアセタール樹脂の原料となるポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは300以上、さらに好ましく400以上、さらにより好ましくは600以上、特に好ましくは700以上、特により好ましくは750以上である。ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度が前記下限値以上であると、合わせガラスの作製時に機能性層の変形および破壊を抑制しやすく、得られる合わせガラスにおいて熱によりガラスがずれる現象を防止し得る。また、ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は、好ましくは5000以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下、特に好ましくは2300以下、特により好ましくは2000以下である。ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度が前記上限値以下であると、良好な製膜性を得やすい。
【0039】
なお、ポリビニルアセタール樹脂の好ましい粘度平均重合度の値は、上記したポリビニルアルコール系樹脂の好ましい粘度平均重合度の値と同一である。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂の粘度平均重合度が、前記下限値以上かつ前記上限値以下であることが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は、JIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定することができる。
【0040】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムは、良好な製膜性を得やすい観点から、未架橋のポリビニルアセタールを含むことが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが、架橋されたポリビニルアセタールを含むことも可能である。ポリビニルアセタールを架橋するための方法は、例えば、EP 1527107B1およびWO 2004/063231 A1(カルボキシル基含有ポリビニルアセタールの熱自己架橋)、EP 1606325 A1(ポリアルデヒドにより架橋されたポリビニルアセタール)、およびWO 2003/020776 A1(グリオキシル酸により架橋されたポリビニルアセタール)に記載されている。また、アセタール化反応条件を適宜調整することで、生成する分子間アセタール結合量をコントロールしたり、残存水酸基のブロック化度をコントロールしたりすることも有用な方法である。
【0041】
(可塑剤)
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤の量は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの総質量に基づいて0~20質量%である。前記可塑剤量が20質量%を超えると、良好な製膜性が得られず、機能性層を積層して合わせガラスを作製する際に機能性層の変形および破壊を生じやすくなる傾向にあり、良好な機能性を発揮し得なくなる。可塑剤量を少なくするまたは可塑剤を配合しないことにより、ポリビニルアセタール樹脂フィルムは、成膜性および取扱性に優れる傾向にあり、機能性層を積層させるのに適した樹脂フィルムとなり得るが、同時に低可塑または無可塑のポリビニルアセタール樹脂フィルムでは、ロール皺が発生しやすくなる傾向にある。本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムでは、樹脂フィルムの両表面の相対拡散反射率が上記特定の関係になるよう制御することにより、樹脂フィルムの一方の面と他方の面とが異なる表面形状を有する。このため、可塑剤量が少ないことに起因して本来ロール皺が生じやすい樹脂フィルムであっても、隣接する樹脂フィルム間に適度な空隙を生じ、ロール皺の発生を効果的に抑制することができるとともに、比較的滑らかな面に機能性層を積層することにより、機能性層の経時的な変形および破壊を生じ難い合わせガラスを得ることができる。
【0042】
前記可塑剤量は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの総質量に基づいて好ましくは0~19質量%、より好ましくは0~15質量%、さらに好ましくは0~10質量%、特に好ましくは0~5質量%である。ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤の量が前記範囲内であると、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製膜性および取扱性が優れる傾向にあり、該ポリビニルアセタール樹脂フィルムを用いて合わせガラスを作製した際に機能性層の変形や破壊を抑制し、その結果、良好な機能性を得られる。
【0043】
ポリビニルアセタール樹脂フィルム中に可塑剤が含まれる場合、可塑剤として、好ましくは、下記群の1つまたは複数の化合物が使用される。
・多価の脂肪族または芳香族酸のエステル。例えば、ジアルキルアジペート(例えば、ジヘキシルアジペート、ジ-2-エチルブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ジヘプチルアジペート、ジノニルアジペート、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート);アジピン酸とアルコール若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル(例えば、ジ(ブトキシエチル)アジペート、ジ(ブトキシエトキシエチル)アジペート);ジアルキルセバケート(例えば、ジブチルセバケート);セバシン酸と脂環式若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル;フタル酸のエステル(例えば、ブチルベンジルフタレート、ビス-2-ブトキシエチルフタレート);および脂環式多価カルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル(例えば、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル)が挙げられる。
・多価の脂肪族若しくは芳香族アルコールまたは1つ以上の脂肪族若しくは芳香族置換基を有するオリゴエーテルグリコールのエステルまたはエーテル。例えば、グリセリン、ジグリコール、トリグリコール、テトラグリコール等と、直鎖状若しくは分岐状の脂肪族若しくは脂環式カルボン酸とのエステルが挙げられる。具体的には、ジエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)(以下において、「3GO」と称することもある)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘキサノエート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジプロピレングリコールジベンゾエートが挙げられる。
・脂肪族または芳香族アルコールのリン酸エステル。例えば、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニル-2-エチルヘキシルホスフェート、およびトリクレジルホスフェートが挙げられる。
・クエン酸、コハク酸および/またはフマル酸のエステル。
【0044】
また、多価アルコールと多価カルボン酸とからなるポリエステル若しくはオリゴエステル、これらの末端エステル化物若しくはエーテル化物、ラクトン若しくはヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル若しくはオリゴエステル、またはこれらの末端エステル化物若しくはエーテル化物等を可塑剤として用いてもよい。
【0045】
ポリビニルアセタール樹脂フィルム中に可塑剤が含まれる場合、該ポリビニルアセタール樹脂フィルムと積層され得る可塑化ポリビニルアセタール樹脂層との間で可塑剤が移行することに伴う問題(例えば、経時的な物性変化等の問題)を抑制する観点から、積層する可塑化ポリビニルアセタール樹脂層に含まれるものと同じ可塑剤、または該可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の物性(例えば、耐熱性、耐光性、透明性および可塑化効率)を損なわない可塑剤を使用することが好ましい。このような観点から、可塑剤として、3GO、トリエチレングリコール-ビス(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコール-ビスヘプタノエートが含まれることが好ましく、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)が含まれることが特に好ましい。
【0046】
さらに、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、別の添加剤を含んでいてよい。そのような添加剤としては、例えば、水、紫外線吸収剤、酸化防止剤、接着調整剤、増白剤若しくは蛍光増白剤、安定剤、色素、加工助剤、耐衝撃性改良剤、流動性改良剤、架橋剤、顔料、発光材料、屈折率調整剤、遮熱材料、有機若しくは無機ナノ粒子、焼成ケイ酸および表面活性剤等が挙げられる。
【0047】
一態様において、機能性層として導電層を積層する場合、導電性構造体の腐食を抑制するために、ポリビニルアセタール樹脂フィルムが腐食防止剤を含有することが好ましい。そのような場合、ポリビニルアセタール樹脂フィルムに含有される腐食防止剤の量は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂材料の質量に基づいて、好ましくは0.005~5質量%である。腐食防止剤の例としては、置換された、または置換されていないベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0048】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルム中のポリビニルアセタール樹脂の量は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムの総質量に基づいて75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。ポリビニルアセタール樹脂フィルム中のポリビニルアセタール樹脂の量が前記範囲内であると、透明性、製膜性および取扱性に優れたポリビニルアセタール樹脂フィルムを製造しやすく、該ポリビニルアセタール樹脂フィルムを用いた合わせガラスの作製時に機能性層の変形や破壊を抑制しやすく、その結果、良好な機能性が得られやすい。
【0049】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、多成分による層分離構造を有していてもよいが、層分離構造は島成分の平均粒径が100nm未満であることが好ましく、80nm未満であることがより好ましく、海島の層分離構造を示さないことが特に好ましい。海島の層分離構造を示さないか、十分に細かい粒径を示すことにより、車のフロントガラスなどにも使用可能な透明性を確保できる。
【0050】
<ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法>
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法は特に限定されない。前記ポリビニルアセタール樹脂、場合により所定量の可塑剤、および必要に応じて他の添加剤を配合し、これを均一に混練した後、押出法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法等の公知の製膜方法によりフィルム状に成形することで作製し得る。
【0051】
公知の製膜方法の中でも特に押出機を用いてフィルムを製造する方法が好適に採用される。押出時の樹脂温度は150~250℃が好ましく、170~230℃がより好ましい。樹脂温度が高くなりすぎるとポリビニルアセタール樹脂が分解を起こし、揮発性物質の含有量が多くなる。一方で温度が低すぎる場合にも、揮発性物質の含有量は多くなる。揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から、減圧により揮発性物質を除去することが好ましい。
【0052】
溶融押出において、表面形状や材質の異なる冷却ロールを用いることにより、樹脂フィルム表面の波長550nmにおける相対拡散反射率を特定の範囲に制御することができる。例えば、平滑な面を形成するために、金属弾性ロールおよび金属剛体ロール等の鏡面金属冷却ロールに代表される平滑な(鏡面)冷却ロールを用いることができ、粗い面を形成するために、所望の表面形状(表面粗さ)に対応した金属製や硬質ゴム製等のエンボスロールを用いることができる。樹脂フィルムの各表面の波長550nmにおける相対拡散反射率が上記特定の範囲となるよう、樹脂フィルムの両表面の表面形状を制御するためにこれらのロールを適宜選択し、Tダイから押出した樹脂材料を製膜することが好ましく、押出した樹脂材料をニップするロール対の一方を鏡面ロールに、他方を凹凸形成するのに適したエンボスロールにすることが好ましい。このような方法により、平滑な面と比較的粗い面とを有する樹脂フィルムを得ることができる。
【0053】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの両表面の表面形状を制御しやすく、上記特定の相対拡散反射率を得やすい観点から、製膜時のロール対の少なくとも一方に弾性ロールを用いることが好ましく、金属弾性ロールを用いることがより好ましい。また、同様の観点から、冷却ロールから剥離する際のポリビニルアセタール樹脂フィルムの温度は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムに含まれるポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度より、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上、特に好ましくは40℃以上低いことが好ましい。冷却ロールから剥離する際のポリビニルアセタール樹脂フィルムの温度と上記ガラス転移温度とが上記関係を満たすと、冷却ロールからの剥離時のポリビニルアセタール樹脂フィルムの粘着性に起因する表面荒れ、またはフィルムの収縮等に起因する厚さむらが低減されやすい。なお、ポリビニルアセタール樹脂フィルムに含まれるポリビニルアセタール樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂である場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度と、冷却ロールの剥離点でのポリビニルアセタール樹脂フィルムの温度とが上記関係を満たすことが好ましい。
【0054】
本発明において、ポリビニルアセタール樹脂フィルム表面の波長550nmにおける相対拡散反射率は樹脂フィルムの表面形状に影響を受けるものであるが、表面凹凸のピッチや尖り度等によってもその値が変化するため、表面粗さ(Rz)と上記拡散反射率とは必ずしも一定の相関関係を有するものではない。したがって、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいては、各表面における上記相対拡散反射率を上記特定の範囲に制御することが重要である。
【0055】
<機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム>
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、機能性層等の他の層を積層した際の経時的な変形および破壊を抑制する効果に優れるため、機能性層を積層するための樹脂フィルムとして好適である。したがって、本発明は、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に機能性層を有する機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムも対象とする。本発明において機能性層は、合わせガラスなどの積層体に特定の機能を付与する層を意味する。機能性層は1層または複数層であってよい。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが複数の機能性層を有する場合、それぞれの機能性層の種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
機能性層を設ける場合、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの表面のうち、波長550nmにおける相対拡散反射率の低い方の面に機能性層を設けることが好ましい。相対拡散反射率の低い方の面に機能性層を設けることにより、樹脂フィルムと機能性層との密着性が向上し、機能性層の経時的な変形や破壊が生じ難くなる。機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムが複数の機能性層を有する場合、機能性層の種類や目的により積層する面を適宜選択すればよいが、後述する積層体(合わせガラス)を形成する際に、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの相対反射率が高い方の面を透明基材と貼合することにより、合わせガラス等における発泡を効果的に抑制し得ることから、複数の機能性層はいずれも相対拡散反射率の低い方の面に設けることが好ましい。
【0057】
ポリビニルアセタール樹脂フィルムの機能性層を有する面において、ポリビニルアセタール樹脂フィルムは、その面の全面に機能性層を有してもよいし、その面の一部に機能性層を有してもよい。後述するような可塑化ポリビニルアセタール樹脂層をポリビニルアセタール樹脂フィルムに積層して積層体を作製する場合は、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層中の可塑剤がポリビニルアセタール樹脂フィルムに移行できるよう、ポリビニルアセタール樹脂フィルムがその面の一部に機能性層を有することが好ましい。ただし、機能性層が可塑化ポリビニルアセタール樹脂層からポリビニルアセタール樹脂フィルムへの可塑剤の移行を阻害しない場合は、その限りでない。
【0058】
機能性層は、好ましくは、導電層、赤外線反射層または紫外線反射層のような特定波長電磁波反射層、色補正層、赤外線吸収層、紫外線吸収層、蛍光・発光層、遮音層、エレクトロクロミック層、フォトクロミック層、サーモクロミック層、意匠性層および高弾性率層からなる群から選択される1つ以上である。
【0059】
本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、可塑剤含有量が比較的少ないため樹脂フィルムの変形等を生じ難く、かつ、樹脂フィルムの両面が上記特定の相対拡散反射率を有するよう構成されているため、機能性層を積層する面を適切に選択することにより機能性層の経時的な変形および破壊に対する高い抑制効果を得ることができる。このため、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムは、従来のポリビニルアセタール樹脂フィルムにおいて変形や破断の生じやすかった導電層を含む樹脂フィルムの製造に特に好適である。したがって、本発明の一態様において、機能性層は、好ましくは導電層である。
【0060】
導電層の厚みは、電気抵抗および製造容易性等の観点から、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~15μm、特に好ましくは3~10μmである。導電層の厚みは、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0061】
導電層は、電気抵抗、発熱性能、電磁波吸収性および光学特性等の観点から、好ましくは、線状、格子状または網状の形状を有する。ここで、線状の例としては、直線状、波線状およびジグザグ状等が挙げられる。1つの導電層において、形状は単一であってもよいし、複数の形状が混在していてもよい。
【0062】
ある態様、例えば印刷法により導電層を形成し、例えば前方視認性の確保が重要でない領域で積層体(合わせガラス)を部分的に加熱したり、センサーまたはアンテナとして使用したりする態様では、十分な発熱量またはセンサー若しくはアンテナとしての機能性の確保および製造容易性の観点から、導電層は線幅0.001~5mmの複数の線状導電性材料で構成されていることが好ましい。即ち、前記した線状、格子状または網状の形状を構成する線状導電性材料(配線)の線幅は、好ましくは0.001~5mmである。前記線幅は、より好ましくは0.01~2mm、特に好ましくは0.03~1mmである。
【0063】
別の態様、例えば積層体を全面的に加熱する態様では、十分な発熱量および良好な前方視認性の両方を確保しやすい観点から、導電層は線幅1~30μmの複数の線状導電性材料で構成されていることが好ましい。即ち、前記した線状、格子状または網状の形状を構成する線状導電性材料の線幅は、好ましくは1~30μmである。前記線幅は、より好ましくは2~15μm、特に好ましくは3~12μmである。
【0064】
導電層を構成する導電性材料は、電気抵抗または発熱量の確保の容易性、および製造容易性の観点から、好ましくは銀または銅を含んでなり、より好ましくは銀または銅のみからなる。また、経済的観点から、導電層を構成する導電性材料は、より好ましくは銅を含んでなり、より好ましくは銅のみからなる。
【0065】
導電層が金属箔に基づく態様においては、導電層の少なくとも一面が低反射率処理されていることが好ましく、導電層の両面が低反射率処理されていることがより好ましい。本発明において「低反射率処理されている」とは、JIS R 3106に準じて測定された可視光反射率が30%以下となるよう処理されていることを意味する。前方視認性の観点からは、可視光反射率が10%以下となるよう処理されていることがより好ましい。可視光反射率が前記上限値以下であると、導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを用いて積層体を作製した際に、所望の可視光反射率を得やすく、積層体を乗物用合わせガラスとして使用した場合等に、前方視認性に優れる傾向にある。
【0066】
低反射率処理の方法としては、例えば、黒化処理(暗色化処理)、褐色化処理およびめっき処理等が挙げられる。工程通過性の観点から、低反射率処理は黒化処理であることが好ましい。従って、良好な前方視認性の観点から、可視光反射率が10%以下となるよう、導電層の片面、両面または全面が黒化処理されていることが特に好ましい。黒化処理は、具体的にはアルカリ系黒化液等を用いて行われる。
【0067】
<機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法>
機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムの製造方法は特に制限されず、例えば、機能性層を設けるポリビニルアセタール樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートすることを含む方法により製造できる。
【0068】
前記機能性層を構成する材料をコート、印刷またはラミネートする方法は特に限定されない。
コートする方法としては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂材料の溶融物を機能性層にコートする方法(例えば、機能性層上に前記樹脂材料を溶融押出する方法、若しくは機能性層上に前記樹脂材料をナイフ塗布等により塗布する方法);ポリビニルアセタール樹脂フィルムに蒸着、スパッタリングまたは電気蒸着により機能性層を付与する方法;機能性層が樹脂材料からなる場合に、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂材料と機能性層を構成する樹脂材料とを同時に押出する方法;または機能性層を構成する樹脂材料の溶液中にポリビニルアセタール樹脂フィルムをディップする方法が挙げられる。
【0069】
印刷する方法としては、例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、またはグラビア印刷が挙げられる。当該印刷する方法では、機能性層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを積層する前に、乾燥するかまたは熱若しくは光により硬化するインクが使用される。
【0070】
ラミネートする(貼合せる)方法としては、例えば、機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを重ねて熱圧着させる方法;溶媒、若しくはポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂および溶媒を含む樹脂材料(組成物)の溶液を、機能性層およびポリビニルアセタール樹脂フィルムの一方若しくは両方に塗布するか、または機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとの間に注入し、機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる方法;接着剤で機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる方法が挙げられる。接着剤を使用して接合する方法において使用できる接着剤としては、当技術分野において一般的に使用される接着剤を使用してよく、アクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤およびホットメルト接着剤が挙げられる。光学的に優れた特性が求められる態様では、接着剤に由来するヘイズが生じない観点から、接着剤を使用せずに機能性層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合する方法が好ましい。
【0071】
機能性層が導電層である態様では、印刷法において使用されるインクは、通常、導電性粒子および/または導電性繊維を含む。導電性粒子または導電性繊維は特に限定されず、例えば金属粒子(例えば金、銀、銅、亜鉛、鉄若しくはアルミニウムの粒子);金属で被覆された粒子若しくは繊維(例えば銀めっきされたガラス繊維若しくはガラス小球);または導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト若しくはグラフェンの粒子若しくは繊維等が挙げられる。さらに、導電性粒子は、導電性金属酸化物の粒子等の半導体の粒子、例えばインジウムドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛またはアンチモンドープ酸化スズの粒子であってもよい。前記インクは、導電性の観点から、銀粒子、銅粒子および/またはカーボンナノチューブを含むことが好ましく、銀粒子または銅粒子を含むことがより好ましく、経済的観点から銅粒子を含むことが特に好ましい。
【0072】
本発明の好ましい一態様において、導電層(導電性構造体)は、金属箔のエッチング構造体である。この態様は、導電性構造体を付与する際の生産効率が高い観点および黒化処理がしやすい観点から好ましい。金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる工程は、例えば下記方法(I)~(III)のいずれかで行える。
(I)ポリビニルアセタール樹脂フィルムと金属箔とを重ねて熱圧着させる方法、
(II)金属箔上にポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂材料の溶融物を被覆して接合する方法、例えば、金属箔上に前記樹脂材料を溶融押出する方法、若しくは金属箔上に前記樹脂材料をナイフ塗布等により塗布する方法、または
(III)溶媒、若しくはポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂および溶媒を含む樹脂材料(組成物)の溶液または分散液を、金属箔およびポリビニルアセタール樹脂フィルムの一方若しくは両方に塗布するか、または金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとの間に注入し、金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを接合させる方法。
【0073】
上記方法(I)における金属箔とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを熱圧着する際の接合温度は、ポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する樹脂の種類に依存するが、通常は90~170℃、好ましくは100~160℃、より好ましくは105~155℃、さらに好ましくは105~150℃である。接合温度が上記範囲内であると、良好な接合強度を得やすい。
上記方法(II)における押出時の樹脂温度は、ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の揮発性物質の含有量を低下させる観点から、150~250℃が好ましく、170~230℃がより好ましい。
上記方法(III)における溶媒としては、ポリビニルアセタール樹脂に通常使用される可塑剤を使用することが好ましい。
【0074】
得られた金属箔付ポリビニルアセタール樹脂フィルムから導電層の所望の形状を形成する工程は、公知のフォトリソグラフィの手法を用いて行える。前記工程は、例えば後の実施例に記載のとおり、まず金属箔付ポリビニルアセタール樹脂フィルムの金属箔上にドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチング抵抗パターンを形成し、次いで、エッチング抵抗パターンが付与されたポリビニルアセタール樹脂フィルムをエッチング液に浸漬して導電層の形状を形成した後、公知の方法により残存するフォトレジスト層を除去することによって行える。
【0075】
<積層体>
本発明は、透明基材と、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムを含む積層体に関する。本発明はまた、複数の透明基材の間に、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムを含む積層体にも関する。
【0076】
前記透明基材は、透明性、耐候性および力学強度の観点から、好ましくは無機ガラス(以下、単にガラスと称することもある)、またはメタクリル樹脂シート、ポリカーボネート樹脂シート、ポリスチレン系樹脂シート、ポリエステル系樹脂シート、ポリイミド系樹脂シート、若しくはポリシクロオレフィン系樹脂シート等の有機ガラスであり、より好ましくは無機ガラス、メタクリル樹脂シートまたはポリカーボネート樹脂シートであり、特に好ましくは無機ガラスである。無機ガラスとしては特に制限されないが、フロートガラス、強化ガラス、半強化ガラス、化学強化ガラス、グリーンガラスまたは石英ガラス等が挙げられる。また、使用する透明基材の形状に特に制限はなく、単純な平面状の透明基材であっても、曲率を有する透明基材であってもよい。
【0077】
機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムを含む積層体において、前記ポリビニルアセタール樹脂フィルムにおける機能性層は透明基材と接していてもよいし、後述する可塑化ポリビニルアセタール樹脂層等の他の層と接していてもよい。
【0078】
機能性層として導電層を含む場合、導電層の各配線は、通常、バスバーと接続される。バスバーとしては、当技術分野において通常使用されているバスバーが使用され、その例としては、金属箔テープ、導電性粘着剤付き金属箔テープおよび導電性ペースト等が挙げられる。また、導電層を形成する際同時に、金属箔の一部をバスバーとして残すことによりバスバーを形成してもよい。バスバーにはそれぞれ給電線が接続され、各給電線が電源に接続されることから、電流が導電性構造体に供給される。
【0079】
本発明において、積層体は可塑化ポリビニルアセタール樹脂層をさらに含んでいてもよい。可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、ポリビニルアセタール樹脂および可塑剤を含有する層である。可塑化ポリビニルアセタール樹脂層に含まれるポリビニルアセタール樹脂および可塑剤としては、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成し得るものとして先に例示したものと同様のものを用いることができる。
【0080】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層における可塑剤の含有量は、層の積層前の初期状態では、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の総質量に基づいて、好ましくは16.0質量%以上、より好ましくは16.1~36.0質量%、さらに好ましくは22.0~32.0質量%、特に好ましくは26.0~30.0質量%である。前記可塑剤含有量が前記範囲内であると、耐衝撃性に優れた合わせガラスが得られやすい。また、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層として、遮音機能を有する可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を用いることもできる。その場合、可塑剤の含有量は、層の積層前の初期状態では、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の総質量に基づいて、好ましくは30質量%以上、より好ましくは30~50質量%、さらに好ましくは31~40質量%、特に好ましくは32~35質量%である。
【0081】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、必要に応じて、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成する添加剤として例示したような添加剤を含有してよい。また、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムと同様の方法により製造できる。
【0082】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の厚みは、好ましくは100~1600μm、より好ましくは350~1200μm、さらに好ましくは700~900μmである。可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の厚みが前記範囲内であると、優れた耐貫通性を得やすい。上記厚みは、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0083】
積層体が可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を有する場合、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量と、前記可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量との差は、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂または可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂が複数の樹脂の混合物からなる場合、本発明のポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂の平均ビニルアルコール単位の量と、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層のポリビニルアセタール樹脂の平均ビニルアルコール単位の量とが、前記関係を満たしていることが好ましい。前記差が前記上限値以下であると、積層体において可塑剤が移行した後の平衡状態におけるポリビニルアセタール樹脂フィルムと可塑化ポリビニルアセタール樹脂層との屈折率差が小さくなることから、互いに寸法が異なる可塑化ポリビニルアセタール樹脂層とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを使用した場合にその境界が視認しにくいため好ましい。
【0084】
一方、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムを構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量と、前記可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を構成するポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位の量とに差をつけることで、可塑剤が移行した後の平衡状態においてポリビニルアセタール樹脂フィルムにおける可塑剤量と可塑化ポリビニルアセタール樹脂層における可塑剤量との間に差をつけ、遮音性能に優れる積層体を得ることも可能である。その場合、前記ビニルアルコール単位の量の差は好ましくは5モル%以上、より好ましくは8モル%以上である。
【0085】
可塑化ポリビニルアセタール樹脂層は市販の可塑化ポリビニルブチラールシートであってもよく、赤外線吸収能または反射能を持つナノ粒子が分散された可塑化ポリビニルアセタール樹脂層、着色された可塑化ポリビニルアセタール樹脂層、または遮音機能を有する可塑化ポリビニルアセタール樹脂層であってもよい。
【0086】
<積層体の製造方法>
積層体は、当業者に公知の方法で製造できる。例えば、透明基材の上に本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を任意の順で任意の枚数重ねて配置し、さらにもう一つの透明基材を重ねたものを、予備圧着工程として温度を高めることによってポリビニルアセタール樹脂フィルムおよび場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を透明基材に全面または局所的に融着させ、次いでオートクレーブで処理することで、積層体を製造できる。また、本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムまたは機能性層付きポリビニルアセタール樹脂フィルム、並びに場合により可塑化ポリビニルアセタール樹脂層等の積層体を構成する透明基材以外の層をあらかじめ予備接着した上で2つの透明基材の間に配置して高温で互いに融着させることにより、積層体を製造してもよい。
この際、透明基材に接する本発明のポリビニルアセタール樹脂フィルムの表面は、波長550nmにおける相対拡散反射率が高い方の面であることが好ましい。相対拡散反射率の高い方の面が透明基材と接することにより、透明基材とポリビニルアセタール樹脂フィルムとを貼合する際に脱気しやすくなり、積層体(合わせガラス)における発泡を抑制することができる。
【0087】
本発明の積層体は、建物または乗物に用いられる合わせガラスとして使用できる。従って、本発明はまた、乗物用合わせガラスである積層体に関する。乗物用合わせガラスとは、汽車、電車、自動車、船舶または航空機といった乗物のための、フロントガラス、リアガラス、ルーフガラスまたはサイドガラス等を意味する。
【0088】
本発明において、積層体がポリビニルアセタール樹脂フィルムに隣接または近接して可塑化ポリビニルアセタール樹脂層を含む場合、通常、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層に含まれる可塑剤は、時間経過に伴ってポリビニルアセタール樹脂フィルムの層に移行し、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層に含まれる可塑剤量とポリビニルアセタール樹脂フィルムの層に含まれる可塑剤量とは同程度となる。本発明において、この平均可塑剤量は、好ましくは18~35質量%、より好ましくは20~30質量%、特に好ましくは25~29質量%である。平均可塑剤量が前記範囲内であると、例えば衝突時の乗車人物の頭部への衝撃が緩和される等、合わせガラスの所望の特性が得られやすい。可塑化ポリビニルアセタール樹脂層に含まれる可塑剤の量、可塑化ポリビニルアセタール樹脂層の厚さ、ポリビニルアセタール樹脂フィルムに含まれる可塑剤の量、およびポリビニルアセタール樹脂フィルムの厚さを調整することにより、平均可塑剤量は前記範囲内に調整できる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の実施例において「%」は特に断りのない限り、「質量%」を意味する。
【0090】
[実施例1]
(1)ポリビニルアセタール樹脂フィルムの作製
表1に示す物性を有するポリビニルブチラール樹脂1(以下、「樹脂1」と称する)を、溶融混練してストランド状に押出し、ペレット化した。単軸押出機とTダイを用いて、得られたペレットを230℃で溶融押出した。冷却ロールとして金属弾性ロール(ロールA)および硬質ゴムロール(ロールB)を用いてニップし、後述する条件で巻き取ることで、金属弾性ロール側の表面(1面)が平滑である、平均厚み50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルム(1)のロールを得た。
上記製造は、
図1に示すような装置を用いて行い、使用したTダイの幅は500mm、ロールAおよびBの幅は600mmであった。また、得られるポリビニルアセタール樹脂フィルムの幅が300mmとなるよう、フィルム幅方向の中心から150mmを超える両端部はシェア刃を用いインラインでスリットを行い、巻取張力90N/m幅、巻取速度10m/分、巻長300mで、内径76mm、外径88mm、幅400mmのABS樹脂製コアにロール状に巻き取った。
【0091】
【0092】
上記表1および下記表2に記載のポリビニルアセタール樹脂1および2、並びに各混合物の粘度は、ポリビニルアセタール樹脂1、2およびこれらの各比率の混合物を、トルエン/エタノール=1/1の混合溶液中に濃度10質量%となるよう加え、溶解させ、得られた溶液の粘度を、ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定した。
【0093】
(2)ポリビニルアセタール樹脂フィルムの物性/特性の評価
得られたポリビニルアセタール樹脂フィルム(1)の波長550nmにおける相対拡散反射率および平均表面粗さRzを下記の方法に従い測定し、ポリビニルアセタール樹脂フィルムロール(1)の外観を評価した。結果を表2に示す。
【0094】
<波長550nmにおける相対拡散反射率の測定>
積分球付属装置(株式会社島津製作所製、ISR603)を設置した紫外可視近赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-3600 Plus)を用い、入射角0度で光を入射し、波長550nmにおいてポリビニルアセタール樹脂フィルムの鏡面反射を含まない相対拡散反射率を測定した。測定は光源側に1面を向け、1面に直接光が入射する場合と、光源側に2面を向け、2面に直接光が入射する場合で行い、前者を1面の相対拡散反射率、後者を2面の相対拡散反射率とした。標準板には硫酸バリウムを用いた。相対拡散反射率は次式で算出される値である。
相対拡散反射率=(測定試料での拡散反射光の量)/(標準板での拡散反射光の量)×100
【0095】
<フィルム表面の平均表面粗さの測定>
JIS B0601-2001に準拠して、後述するロールA側のポリビニルアセタール樹脂フィルム面(以下において「1面」とも称する)およびロールB側のポリビニルアセタール樹脂フィルム面(以下において「2面」とも称する)の各々について、平均表面粗さRzを測定した。
【0096】
<フィルムロールの外観の評価>
ポリビニルアセタール樹脂フィルムロールの表面(幅300mm×長さ300mm)のしわの有無を目視で観察し、下記基準で評価した。結果を表2に示す。
A:しわは観察されなかった。
B:1本以上、6本未満のしわが観察された。
C:6本以上、10本未満のしわが観察された。
D:10本以上のしわが観察された。
【0097】
[実施例2]
樹脂1を、樹脂1:表1に記載のポリビニルブチラール樹脂2(以下、「樹脂2」と称する)=75:25(質量比)の混合物に変更した以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(2)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
[実施例3]
ロールAの金属弾性ロールを金属剛体ロールに変更した以外は、実施例2と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(3)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0099】
[実施例4]
樹脂1:樹脂2=75:25(質量比)の混合物を、樹脂1:樹脂2=50:50(質量比)の混合物に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(4)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0100】
[実施例5]
樹脂1:樹脂2=75:25(質量比)の混合物を、(樹脂1:樹脂2=75:25(質量比)の混合物):可塑剤(3GO)=82:18(質量比)の混合物に変更した以外は実施例2と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(5)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0101】
[実施例6]
フィルムの平均厚みを125μmに変更した以外は、実施例2と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(6)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0102】
[実施例7]
フィルムの平均厚みを300μmに変更した以外は、実施例2と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(7)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0103】
[比較例1]
ロールBの硬質ゴムロールを金属弾性ロールに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(8)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0104】
[比較例2]
ロールAの金属弾性ロールを硬質ゴムロールに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(9)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0105】
[比較例3]
樹脂1:樹脂2=75:25(質量比)の混合物を、(樹脂1:樹脂2=75:25(質量比)の混合物):可塑剤(3GO)=78:22(質量比)に変更した以外は実施例2と同様にしてポリビニルアセタール樹脂フィルム(10)のロールを製造し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0106】
【0107】
[実施例1~7および比較例1~3]
(3)機能性層(導電層)付きポリビニルアセタール樹脂フィルムの作製
上記実施例1~7および比較例1~3で製造したポリビニルアセタール樹脂フィルム(1)~(10)に、それぞれ、片面が黒化処理された厚み7μmの銅箔を、黒化処理面とポリビニルアセタール樹脂フィルムの1面とが接するような向きで重ねた。次に、その上下を厚み50μmのPETフィルムで挟み、110℃に設定した熱圧着ロールの間を通過(圧力:0.2MPa、速度0.5m/分)させた後、上下のPETフィルムを剥離することにより、銅箔が接合されたポリビニルアセタール樹脂フィルムを得た。
次いで、前記銅箔が接合されたポリビニルアセタール樹脂フィルムの銅箔上に、ドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチング抵抗パターンを形成した。次に、前記エッチング抵抗パターンが形成された、銅箔が接合されたポリビニルアセタール樹脂フィルムを、銅エッチング液に浸漬して導電性構造体を形成した後、常法により、残存するフォトレジスト層を除去した。これにより、導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを得た。この導電層を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムは、ポリビニルアセタール樹脂フィルムと導電性構造体(導電層)との間に接着剤層を有していない。導電性構造体は、縦横各5cmの正方形の内部に、線幅10μmの銅線が500μm間隔で格子状に並んだ銅メッシュ構造を有し、その上辺および下辺がバスバーに相当する幅5mmの銅線構造と接続された構造を有しており、導電性構造体として機能できるものであった。
【0108】
(4)積層体(合わせガラス)の作製
上記で得られた導電性構造体を有するポリビニルアセタール樹脂フィルムを、縦5cm、横5cmに切り出し、縦10cm、横10cm、厚み3mmのガラスの上に配置した。このとき、前記フィルムの導電性構造体を有さない面がガラスと接する向きで、かつ導電性構造体がガラスの中央付近にくるように配置した。次に、導電性構造体の両端部にある各々のバスバー(5mm幅銅線)に、電極(導電性粘着剤付き銅箔テープ)を、ガラスから外へ各電極端部がはみ出すように貼り付けた。さらに、その上に、縦10cm、横10cm、厚み0.76mmの可塑化ポリビニルアセタール樹脂層(ビニルアルコール単位の量29モル%および粘度平均重合度1700のポリビニルブチラール樹脂100質量部に対して可塑剤として3GOを39質量部含有する)、および縦10cm、横10cm、厚み3mmのガラスを重ねて配置した。
続いて、これを真空バッグに入れ、真空ポンプを用いて室温で15分間減圧にした後、減圧したまま100℃まで昇温し、そのまま60分間加熱した。降温後、常圧に戻し、プレラミネート後の積層体を取り出した。その後、これをオートクレーブに投入し、140℃、1.2MPaで30分間処理し、積層体を作製した。
【0109】
(5)積層体の物性/特性の評価
得られた積層体について、以下の方法に従い、通電性、ベーク試験後の外観および導電性構造体の視認性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0110】
<通電性の評価>
各々のバスバーに貼り付けた2つの電極間の抵抗を、テスターで測定した。合わせガラス作製前後に抵抗値を測定し、通電性を下記基準で評価した。
A:合わせガラス作製後の抵抗値が合わせガラス作製前の抵抗値の1.5倍以内と極めて良好。
B:合わせガラス作製後の抵抗値が合わせガラス作製前の抵抗値の1.5倍を超え2倍以内と良好。
C:合わせガラス作製後の抵抗値が合わせガラス作製前の抵抗値の2倍を超え4倍以内であるが実用可能。
D:合わせガラス作製後の抵抗値が合わせガラス作製前の抵抗値の4倍を超え、実用不可能。
【0111】
<ベーク試験後の外観の評価>
上記<合わせガラスの作製>で得られた合わせガラス10枚を、120℃のオーブン内に200時間放置した。放置後の合わせガラスにおいて、端部から1cm以内の領域を除いた部分における発泡の有無を平面視にて目視で観察し、発泡の状態を下記基準で評価した。
A:10枚全ての合わせガラスに発泡が観察されなかった。
B:1枚以上、3枚未満の合わせガラスに発泡が観察された。
C:3枚以上、5枚未満の合わせガラスに発泡が観察された。
D:5枚以上の合わせガラスに発泡が観察された。
【0112】
<導電性構造体の視認性の官能評価>
黒化処理面側を観察者に向けた合わせガラスを、観察者から約50cm離れた位置に配置し、観察者がガラスを通して5m先を見たときに、導電性構造体の銅線が視認できるか否かを、下記基準で官能的に評価し、前方視認性が求められる用途への適用可否を判断した。
A ほとんど気にならず極めて良好。
B 焦点をずらした際に少し気になったが良好。
C 少し気になったが実用可能。
D 気になり実用不可能。
【0113】
[実施例8]
導電性構造体の線幅を5μmに変更した以外は、実施例2と同様にして積層体の作製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0114】
[実施例9]
導電性構造体の線幅を20μmに変更した以外は、実施例2と同様にして積層体の作製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0115】
[実施例10]
導電性構造体の線幅を30μmに変更した以外は、実施例2と同様にして積層体の作製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0116】
[実施例11]
導電性構造体の線幅を40μmに変更した以外は、実施例2と同様にして積層体の作製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0117】
【0118】
ポリビニルアセタール樹脂フィルム中の可塑剤量がポリビニルアセタール樹脂フィルムの総量に基づいて0~20質量%であって、少なくとも一方の面の波長550nmにおける相対拡散反射率が3%以上であり、かつ、各表面の波長550nmにおける相対拡散反射率の差分絶対値が0.5%以上であるポリビニルアセタール樹脂フィルムでは、ロール状に巻回した際の外観が良好であり、通電性およびベーク試験後の外観が優れる積層体(実施例1~11)を得られる。一方で、本発明の規定を満たさないポリビニルアセタール樹脂フィルム(比較例1~3)では、積層体の通電性およびベーク試験後の外観は劣る。