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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240405BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20240405BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240405BHJP
   C09J 201/06 20060101ALI20240405BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J4/02
C09J11/06
C09J201/06
C09J133/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021055428
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152600
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和才 真希子
(72)【発明者】
【氏名】太田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正登
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104314(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/064376(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/158349(WO,A1)
【文献】特開2011-184576(JP,A)
【文献】国際公開第2021/019359(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/036209(WO,A1)
【文献】特開2018-016781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線の照射により粘着力が低下する粘着剤層を有する粘着シートであって、
粘着剤層は、粘着剤組成物の熱硬化物から形成され、(A)と(C)の熱反応物を含む活性エネルギー線硬化型粘着剤によって構成されており、
粘着剤組成物は、(A)、(B)、(C)、及び(D)を少なくとも含み、(A)は(A1)を含(B)は(B1)を含むが(B2)を含まず、(D)は(D1)を含むが(D2)を含まず、
(A):1に対する(B)の質量比が0.1超2.0以下である、粘着シート。
(A)水酸基を有する粘着性ベースポリマー
(A1)ガラス転移温度が異なる複数の、水酸基を有するアクリル樹脂を組み合わせてなり、かつ、その組み合わせられるすべてのアクリル樹脂は、いずれも-70℃以上40℃以下の範囲にガラス転移温度を有する
(B)活性エネルギー線反応性化合物
(B1)1分子中に3個以上のラジカル反応基を有する活性エネルギー線反応性モノマー
(B2)活性エネルギー線反応性のオリゴマー又はポリマー
(C)架橋剤
(D)光重合開始剤
(D1)α-ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤
(D2)(D1)以外のアルキルフェノン系光重合開始剤
【請求項2】
(A1)は、さらに、組み合わせられるすべてのアクリル樹脂が、いずれも10万以上に質量平均分子量を有する、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
(A1)は、その構成成分として(成分a)及び(成分b)を含み、(成分b):1に対する(成分a)の質量比が1.0超9.0未満である、請求項2に記載の粘着シート。
(成分a)-10℃以上にガラス転移温度を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体
(成分b)-30℃以下にガラス転移温度を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体
【請求項4】
(B)が、1分子中に5個以上のラジカル反応基を有する活性エネルギー線反応性モノマーを含む、請求項1~3のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項5】
(D)が、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)を含む、請求項1~4のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項6】
(D)は、100質量部の(B)に対し、0.1質量部以上20質量部以下の範囲で含有されている、請求項1~5のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項7】
粘着剤層の、23℃におけるポリエチレンテレフタレートに対する初期粘着力X1が0.5(N/25mm)以上、180℃で20分加熱し、さらに活性エネルギー線を照射した後の、23℃におけるポリエチレンテレフタレートに対する加熱・照射後粘着力X3が0.3(N/25mm)以下、である請求項1~6のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項8】
150℃以上の高温環境下で使用される、請求項1~7のいずれかに記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から活性エネルギー線を与えて易剥離化させる活性エネルギー線剥離型の粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
基板(薄型電子回路基板等)の製造工程において、樹脂フィルムを基材に使用した片面粘着シートを基板に貼り合わせて固定することにより、基板上での部品の実装や部材の加工が行われている。部品の実装や部材の加工が完了して完成した基板と粘着シートは互いに分離される。このような粘着シートによる基板の仮固定においては、実装や加工の工程中は必要十分な粘着力が要求される一方で、粘着シートを剥離する際に基板にかかる負荷が大きいと基板にダメージが生じてしまうため、粘着シートの剥離時の粘着性は極力低いことが求められる。
また近年では、車載用途を中心に、電子部品・半導体部品には従来よりも高い耐熱性が要求されている。それに伴い、上記各部品を構成する材料(例えば半導体パッケージにおけるチップの封止樹脂)も、より高い耐熱性が要求されている。高い耐熱性を有する樹脂は、一般に硬化させるのに必要な加熱温度が高い。そのため、このような耐熱性の高い樹脂を硬化させる工程で使用される粘着シートにも高い耐熱性が求められる。
【0003】
上記用途への使用を意図したものとして、使用時には十分な粘着性を有しているが、使用後に何らかの外部刺激(例えば紫外線の照射)を与えることで粘着性が著しく低減する粘着シートが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-106283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1開示の粘着シートは、紫外線の照射により架橋硬化され、粘着力が低下する紫外線剥離型の粘着剤によって構成された粘着剤層を、紫外線を透過させ得る基材上に設けたものであり、使用時には被着体に対し十分な粘着力を保ちつつ、基材側から紫外線を照射し粘着剤を架橋硬化させることによって粘着剤層の粘着力を低下させ、被着体の剥離を容易にする。
【0006】
しかし、特許文献1開示の粘着シートは、粘着剤層中の粘着成分が熱影響を受けやすいため、紫外線の照射が高温条件(例えば180℃、20分)での工程後であると、粘着剤層の粘着力を十分に低下できない。そのため、粘着シートの剥離時に被着体へ糊残りが生じる(紫外線照射前に高温加熱した場合の、紫外線照射後の粘着力の低下性が不良)。また貼着初期の粘着力が小さいため常温での被着体の保持が難しい傾向もある(初期タックが小。常温での貼着初期の粘着力が不良)。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。本発明は、上記基板の製造工程や上記電子部品・半導体部品の製造工程を含む各種製造工程における被着体に貼着して使用される粘着シートにおいて、高温条件(例えば180℃、20分)での工程で好適に使用でき、かつ該工程で使用後に活性エネルギー線を照射すると粘着剤層の粘着性が十分に低減され、被着体上へ糊残りを生じさせることなく容易に剥離可能な、活性エネルギー線剥離型の粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、活性エネルギー線の照射により粘着力が低下する粘着剤層を有する粘着シートが、以下の要件を満たすことによって、高温条件での工程に使用した際の粘着成分の熱劣化抑制、さらに活性エネルギー線照射したときの易剥離化や糊残り性に有効であることを見出した。
・粘着性ベースポリマーとして水酸基を有するもの(特定ベースポリマー)を用い、かつ架橋剤を含める。
・活性エネルギー線反応性化合物として所定個以上のラジカル反応基を有し、かつ分子量が大きくないもの(特定の活性エネルギー線反応性モノマー)を用いる。
・光重合開始剤としてα-ヒドロキシアセトフェノン系のもの(特定の光重合開始剤)を用いる。
・上記特定ベースポリマーに対する上記特定の活性エネルギー線反応性モノマーの配合量が特定の範囲である。
・上記各成分を含む粘着剤組成物の熱硬化物で粘着剤層を形成する。つまり粘着剤層は特定ベースポリマーと架橋剤の熱反応物を含有する。
本発明者らは、こうした新たな知見に基づき、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0009】
以下では、(A)水酸基を有する粘着性ベースポリマー、(B)活性エネルギー線反応性化合物、(B1)1分子中に3個以上のラジカル反応基を有する活性エネルギー線反応性モノマー、(B2)活性エネルギー線反応性のオリゴマー又はポリマー、(C)架橋剤、(D)光重合開始剤、(D1)α-ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤、(D2)(D1)以外のアルキルフェノン系光重合開始剤、とする。また(A1)水酸基を有するアクリル樹脂、(成分a)-10℃以上にガラス転移温度を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体、(成分b)-30℃以下にガラス転移温度を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体、とする。
【0010】
本発明によれば、活性エネルギー線の照射により粘着力が低下する粘着剤層を有する粘着シートであって、
粘着剤層は、粘着剤組成物の硬化物から形成され、(A)と(C)の熱反応物を含む活性エネルギー線硬化型粘着剤によって構成されており、
粘着剤組成物は、(A)、(B)、(C)、及び(D)を少なくとも含み、(A):1に対する(B)の質量比が0.1超2.0以下である、粘着シート
が提供される。
【0011】
上記の粘着シートは、以下の態様を含みうる。
・(A)は、(A1)を含むことができる。
・(A1)は、-70℃以上40℃以下の範囲にガラス転移温度を有することができる。
・(A1)は、構成成分として(成分a)及び(成分b)を含むことができる。
・(成分b):1に対する(成分a)の質量比が1.0超9.0未満であってもよい。
・(B)は、(B1)を含むことができるが、(B2)を含まないことが好ましい。
・(B)は、1分子中に5個以上のラジカル反応基を有する活性エネルギー線反応性モノマーを含むことができる。
・(D)は、(D1)を含むことができるが、(D2)を含まないことが好ましい。
・(D)は、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)を含むことができる。
・(D)は、100質量部の(B)に対し、0.1質量部以上20質量部以下の範囲で含有されていてもよい。
・粘着剤層の、23℃におけるポリエチレンテレフタレートに対する初期粘着力X1は、0.5(N/25mm)以上であってもよい。
・粘着剤層の、180℃で20分加熱し、さらに活性エネルギー線を照射した後の、23℃におけるポリエチレンテレフタレートに対する加熱・照射後粘着力X3は、0.3(N/25mm)以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る活性エネルギー線剥離型の粘着シートは、粘着剤組成物の熱硬化物から形成され、活性エネルギー線の照射により粘着力が低下する粘着剤層を有し、粘着剤組成物中の特定ベースポリマーに対する特定の活性エネルギー線反応性モノマーの配合量が特定範囲であり、さらに架橋剤と特定の光重合開始剤を含む。粘着剤層は粘着剤組成物の熱硬化物から形成されているため、粘着剤層中に特定ベースポリマーと架橋剤の熱反応物が存在する。この粘着剤層の構成により、高温条件(例えば180℃、20分)での工程によっても、粘着成分の熱劣化による凝集力の低下が抑制され、その結果、該工程後に活性エネルギー線を照射することで粘着剤層の粘着性が十分に低減され、被着体上への糊残りが発生しにくい活性エネルギー線剥離型の粘着シートを提供できる。
上記粘着シートは、上記構成により、高温(例えば150℃以上、好ましくは170℃以上)の環境下での使用に適していると言える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0014】
本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。他の類似用語も同様である。「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
本明細書において、数平均分子量(Mn1、Mn2)及び質量平均分子量(Mw1、Mw2)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。ガラス転移温度(Tg1、Tg2)は、示差走査型熱量計(DSC)によって求めることができる。
本明細書において、特に明記しない限り、「粘着剤層」とは粘着力が低下する前(活性エネルギー線の照射前)の粘着剤層を意味する。また「活性エネルギー線硬化型粘着剤」は、再剥離性を有する粘着剤(再剥離型粘着剤)であり、「粘着シート」は再剥離性を有する粘着シート(再剥離型粘着シート)である。「再剥離性」とは、被着体に対して貼り直し可能な性能、をいう。
【0015】
1.<粘着シート>
本発明の一形態に係る粘着シートは、粘着剤層を有する。粘着シートは、粘着剤層のみから構成されていてもよく(基材レス)、また基材に粘着剤層を積層したもの(基材付き)でもよい。上記基材には、高分子フィルム(PETフィルム等)等が使用され得る。上記基材レスの場合、粘着シート(粘着剤層)の両表面に剥離シートを備えていてもよい(両面剥離シート付き)。上記基材付きの場合、粘着剤層の基材とは反対面の一表面に剥離シートを備えていてもよい(片面剥離シート付き)。
【0016】
上記剥離シートとしては、剥離シート用基材とこの剥離シート用基材の片面に設けられた剥離剤層とを有する剥離性積層シート、あるいは、極性基材としてポリオレフィンフィルム(例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等)が挙げられる。
上記剥離シート用基材には、紙類や高分子フィルムが使用され得る。上記剥離剤層を構成する剥離剤としては、例えば、汎用の付加型もしくは縮合型のシリコーン系剥離剤や長鎖アルキル基含有化合物が用いられる。特に、反応性が高い付加型シリコーン系剥離剤が好ましく用いられる。
粘着シートが基材レス、すなわち粘着剤層のみで構成されており、かつ両面剥離シート付きの態様である場合、粘着シート(粘着剤層)の両表面に剥離力が互いに異なる1対の剥離シートを有することが好ましい。すなわち、剥離シートは、剥離しやすくするために、一方の剥離シートと他方の剥離シートとの剥離性を異なるものとすることが好ましい。一方からの剥離性と他方からの剥離性が異なると、剥離性が高い方の剥離シートだけを先に剥離することが容易となって作業性が向上する。
【0017】
2.<粘着剤層>
粘着剤層(粘着シートが基材レスの場合、粘着シート自体。以下同じ。)は、活性エネルギー線硬化型粘着剤によって構成されている。活性エネルギー線硬化型粘着剤を用いれば、貼り付け時には低弾性で柔軟性が高く取り扱い性に優れ、剥離を要する場面においては、活性エネルギー線を照射することにより粘着力を低下させ得る粘着剤層を備えた粘着シートを得ることができる。
「活性エネルギー線硬化型粘着剤」とは、活性エネルギー線の照射により硬化して粘着力が低下する粘着剤であり、活性エネルギー線の照射前には所定の粘着力を有する粘着剤のことをいう。「粘着力」は、剥離力(貼り合わせた対象から剥がすのに必要な力)と同義である。「活性エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味する。例えば、紫外線、電子線、可視光線、X線、イオン線等が挙げられる。中でも、汎用性の点から、紫外線又は電子線が好ましく、紫外線が特に好ましい。
【0018】
活性エネルギー線硬化型粘着剤は、本発明の一形態に係る、特定組成の、粘着剤組成物の熱硬化物から形成される。
【0019】
2-1.<粘着剤組成物>
一形態に係る粘着剤組成物(以下単に「組成物」ともいう。)は、ベースポリマー、活性エネルギー線反応性化合物、(C)架橋剤、及び光重合開始剤、を含む。ベースポリマー、活性エネルギー線反応性化合物、及び光重合開始剤は、それぞれ、(A)水酸基を有する粘着性ベースポリマー、(B)活性エネルギー線反応性モノマー、及び(D)α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤を、95質量%以上(好ましくは100質量%)含む。ベースポリマー、活性エネルギー線反応性化合物、及び光重合開始剤は、それぞれ、(A)、(B)、及び(D)以外の成分を含むことはありうる。すなわち、一形態に係る組成物は、少なくとも(A)、(B)、(C)、及び(D)を含んで構成される。以下、各成分を詳細に説明する。
【0020】
2-1-1.(ベースポリマー)
一形態に係る組成物では、ベースポリマーとして水酸基を有するもの、具体的には(A)水酸基を有する粘着性ベースポリマー、を用いる。組成物の形成に用いる(A)は、粘着剤層を構成する活性エネルギー線硬化型粘着剤の母剤となる。(A)は水酸基を有するものであればよく、材料は特に限定されない。高温条件(例えば180℃、20分)での工程によっても、粘着成分の熱劣化による凝集力の低下が抑制され、その結果、該工程後に活性エネルギー線を照射することで粘着剤層の粘着性が十分に低減され、被着体上への糊残りが発生しにくい活性エネルギー線剥離型の粘着シートが得られやすい観点で、好ましくは、(A1)水酸基を有するアクリル樹脂で構成するとよい
(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0021】
組成物中での(A)の含有量(総量)は特に限定されないが、他成分との配合バランスを考慮すると、組成物の全固形分総量(100質量%)に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、である。
【0022】
(A1)水酸基を有するアクリル樹脂
(A)を(A1)で構成する場合、(A1)は、好ましくは、高温剥離力や弾性率の性能を発現させるための成分a(第1の(メタ)アクリル酸エステル重合体)と、剥離力の性能を発現させるための成分b(第2の(メタ)アクリル酸エステル重合体)と、を含む。より好ましくは、成分aとして、成分bのガラス転移温度(Tg2)よりも高いガラス転移温度(Tg1)を持つもの、を含む(Tg1>Tg2)。
これら成分a及び成分bの、(A1)中での含有総量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、である。上限は100質量%である。なお、成分a及び成分bの質量平均分子量(Mw1、Mw2)が低すぎると、凝集力が不足し、高温条件での工程後、活性エネルギー線を照射したときの剥離力の上昇や糊残りを生じやすい。このため、成分a及び成分bとして、上記条件(Tg1>Tg2)を満足することに加え、質量平均分子量(Mw1、Mw2)が適度に高いもの(Mw1及びMw2が10万以上)、を用いることが好ましい。
【0023】
(A1)の水酸基価(固形分)は、好ましくは1(mgKOH/g)以上、より好ましくは3(mgKOH/g)以上、好ましくは20(mgKOH/g)以下、より好ましくは15(mgKOH/g)以下、である。(A1)の水酸基価を上記範囲内に調整することにより、(A1)が粘着剤層に適度な粘着力を付与するのに適した架橋密度に架橋され、その結果、使用時には十分な粘着性を有しつつ、高い耐熱性が得られやすい。
【0024】
-成分a-
成分aとしては、例えば、質量平均分子量(Mw1)が10万以上(好ましくは20万以上)で、かつガラス転移温度(Tg1)が-10℃以上(好ましくは-5℃以上)のものが用いられる。Mw1が10万未満では糊残りや再剥離時に剥離力が重くなる不都合を生じやすく、一方、Tg1が-10℃未満のものを用いた場合、高温時の剥離力や弾性率が低下し、ともに好ましくない。なお、Mw1が高すぎると相溶性異常の不都合を生じやすく、またTg1が高すぎると被着体との貼り合せがしにくくなる不都合を生じやすい。このため、成分aとしては、上記条件(Mw1が10万以上、かつTg1が-10℃以上)を満足することに加え、Mw1が200万以下(好ましくは100万以下)、及び/又は、Tg1が40℃以下(好ましくは30℃以下)、となるものが望ましい。
成分aの、数平均分子量(Mn1)に対するMw1の比で表される分散度(Mw1/Mn1)は、特に制限されず、粘着性の観点から、好ましくは1以上30以下、程度とすることができる。
【0025】
成分aは、当該重合体を構成するモノマー単位として、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)を含む。一形態に係る組成物は(C)架橋剤を含有するため、水酸基含有モノマーが有する水酸基が(C)と反応するものとなり、得られる粘着剤の凝集力を制御し易いものとなる。これにより、得られる粘着剤層が所望の粘着力を発揮し易いものとなる。
【0026】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA、HEA)、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。水酸基含有モノマーは、これらの中でも、成分aを合成する際の、他のモノマーとの相溶性や共重合性が良好であり、かつ(C)架橋剤との架橋反応が特に良好である、との観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、より好ましくはメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、である。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
成分aは、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、含有する。水酸基含有モノマーの割合(含有率)の下限値を上記値にすることにより、高い凝集力と耐熱性を享受し得る。成分aは、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、含有する。水酸基含有モノマーの含有率の上限値を上記値にすることにより、適度な粘着力を享受し得る。
【0028】
成分aは、所望の粘着力を発現し易いという観点から、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーに加え、好ましくはアルキル基の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む。
【0029】
アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル(MMA、MA)、(メタ)アクリル酸エチル(EMA、EA)、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル(EHMA、EHA)、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、これらの中でも、粘着性をより向上させる観点から、好ましくはアルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸エステルのうち1種以上を含む。アルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸エステルは、Tgの調整の観点から、より好ましくは(メタ)アクリル酸エチル(EMA、EA)のうち1種以上を含み、さらに好ましくはアクリル酸エチル(EA)及びメタクリル酸エチル(EMA)、である。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
成分aは、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、含有する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が上記範囲であると、Tgを適切な範囲に調整でき、常温での適度な粘着力が得られる。
【0031】
成分aは、本発明の効果が発揮される範囲内において、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマー及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルの他、その他のモノマーを含んでもよい。この場合、水酸基含有モノマー由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、の合計の割合(含有率)は、成分aの全構成モノマー単位(100質量%)に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、である。
【0032】
その他のモノマーは、水酸基含有モノマー及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合できるものであれば特に制限されない。その他のモノマーとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の環状基を有する(メタ)アクリレート; メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート; スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族モノビニル; アクリロニトリル(AN)、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル; 蟻酸ビニル、酢酸ビニル(VA)、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル; 水酸基以外の官能基(例えば、カルボキシ基、グリシジル基、アミド基、N-置換アミド基、三級アミノ基等)を有するモノマー;等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
カルボキシ基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2-ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー及びω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
グリシジル基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル及び3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。
【0035】
アミド基又はN-置換アミド基を有するモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-オクチルアクリルアミド及びジアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
【0036】
三級アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0037】
成分aの水酸基価(固形分)は、好ましくは1(mgKOH/g)以上、より好ましくは3(mgKOH/g)以上、好ましくは20(mgKOH/g)以下、より好ましくは15(mgKOH/g)以下、である。成分aの水酸基価を上記範囲内に調整することにより、適度な粘着力と耐熱性とを両立しやすくすることができる。
【0038】
上記成分aの水酸基価は、以下の計算式によって算出することができる。なお、水酸基含有モノマーが複数種含まれる場合には、各水酸基を有するモノマーごとに以下の計算式によって水酸基価を求め、合算した値を成分aの水酸基価とする。
【0039】
(計算式1)
水酸基価(mgKOH/g)={(A1/100)÷B1}×C1×D1×1000
【0040】
上記式1中の、
・A1は、成分aに使用される全モノマー中の、成分aに使用される水酸基含有モノマーの含有率(質量%)、
・B1は、成分aに使用される水酸基含有モノマーの分子量、
・C1は、水酸基含有モノマー1分子中における水酸基の数、
・D1は、水酸化カリウム(KOH)の分子量、
である。
【0041】
成分aの重合方法は特に制限されない。重合方法としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の方法を適用することができる。好ましくは溶液重合である。溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、モノマー、重合開始剤、及び必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させることにより行われる。この場合、有機溶媒、モノマー及び重合開始剤の少なくとも一部を逐次添加してもよい。
【0042】
-成分b-
成分bとしては、例えば、質量平均分子量(Mw2)が10万以上(好ましくは20万以上)で、かつガラス転移温度(Tg2)が-30(マイナス30)℃以下(好ましくは-35℃以下)のものが用いられる。Mw2が20万未満では、糊残りや再剥離時に剥離力が重くなる等の不都合を生じやすい。Tg2が-30℃以下となるものとしたのは、粘着力はその粘着剤が持つガラス転移温度(Tg)のプラス30℃(Tg+30℃)前後で発現し始めることを考慮したものである。なお、Mw2が高すぎると相溶性異常の不都合を生じやすい。このため、成分bとしては、上記条件(Mw2が10万以上、かつTg2が-30℃以下)を満足することに加え、Mw2が200万以下(好ましくは100万以下)、及び/又は、Tg2が-70℃以上(好ましくは-60℃以上)、となるものが望ましい。
成分bの、数平均分子量(Mn2)に対するMw2の比で表される分散度(Mw2/Mn2)は、特に制限されず、粘着性の観点から、好ましくは1以上30以下、程度とすることができる。
【0043】
成分bは、成分aと同様、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを含む。水酸基含有モノマーとしては、上記成分aで説明したものが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
成分bは、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、含有する。水酸基含有モノマーの割合(含有率)の下限値を上記値にすることにより、粘着剤層が適度に硬くなり、その結果、適度な凝集力を得られやすい。成分bは、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、含有する。水酸基含有モノマーの含有率の上限値を上記値にすることにより、粘着剤層が適度に柔らかくなり、その結果、適度な粘着力を発現できる、とのメリットを享受し得る。
【0045】
成分bは、成分aと同様、所望の粘着力を発現し易いという観点から、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーに加え、好ましくはアルキル基の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む。
アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、上記成分aで説明したものが挙げられる。これらの中でも、粘着性をより向上させる観点から、好ましくはアルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸エステルのうち1種以上を含む。アルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸エステルは、硬さと柔らかさとを両立し易い観点から、より好ましくは(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル(EHMA、EHA)のうち1種以上を含み、さらに好ましくはアクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)、である。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
成分bは、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、含有する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が上記範囲であると、被着体から容易に脱落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与しつつ、優れた剥離性も保持できる、とのメリットを享受し得る。
【0047】
成分bは、成分aと同様、本発明の効果が発揮される範囲内において、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマー及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルの他、その他のモノマーを含んでもよい。この場合、水酸基含有モノマー由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、の合計の割合(含有率)は、成分bの全構成モノマー単位(100質量%)に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、である。
その他のモノマーとしては、上記成分aで説明したものが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
成分bの水酸基価(固形分)は、好ましくは1(mgKOH/g)以上、より好ましくは3(mgKOH/g)以上、好ましくは20(mgKOH/g)以下、より好ましくは15(mgKOH/g)以下、である。成分bの水酸基価を上記範囲内に調整することにより、適度な粘着力と耐熱性を両立するのメリットが得られやすい。上記成分bの水酸基価は、上記成分aの水酸基価の算出方法に準じて算出することができる。
【0049】
成分bの重合方法は、成分aと同様、特に制限されないが、好ましくは溶液重合である。
【0050】
-成分aと成分bの配合比-
(A1)中での成分aの質量比は、成分b:1に対して、好ましくは1.0を超え、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、である。成分a質量比の下限値を上記値とすることにより、高い凝集力と十分な被膜性のメリットを享受し得る。一方、成分aの質量比は、成分b:1に対して、好ましくは9.0未満、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは2.5以下、である。成分a質量比の上限値を上記値とすることにより、適度な粘着力のメリットを享受し得る。
【0051】
-成分aと成分bのガラス転移温度差(Tg1-Tg2)-
凝集力、粘着性及び相溶性の観点で、Tg1とTg2の差(Tg1-Tg2)が、好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上となるように、成分aと成分bを選択すると、さらによい。こうすることで、適度な粘着性を有しつつ、高い耐熱性を持つメリットを享受し得る。
またこれとは別に、あるいはこれとともに、Mw1とMw2の比(Mw1/Mw2)が、例えば0.05以上20以下(好ましくは0.2以上5以下)となるように、成分aと成分bを選択してもよい。こうすることで、相溶性を確保しつつ、糊残りの発生しにくい粘着剤層を形成し得る。
【0052】
-重合態様-
成分aと成分bの重合態様については、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。また、当該重合体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
2-1-2.(活性エネルギー線反応性化合物)
組成物の形成に用いる(B)活性エネルギー線反応性化合物は、光重合開始剤の存在下で、活性エネルギー線(前出)の照射によって重合硬化する材料である。一形態に係る組成物では、(B)として単量体の形態、具体的には(B)1分子中に3個以上のラジカル反応基を有する活性エネルギー線反応性モノマー、を用いることが必要である。(B)は、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化性であってもよい。粘着剤層が(B)を含むことにより、被着体に貼着されて使用された後、活性エネルギー線の照射による(B)の重合により粘着剤層が硬化して粘着剤層の粘着力が低下し、被着体から粘着シートを容易に剥離することができる。
(B)が、1分子中に3個以上のラジカル反応基を有していても、少数または多数の単量体の重合により形成される、より分子量の大きい(B2)活性エネルギー線反応性のオリゴマー又はポリマーであると、(A)との不相溶の不都合を生ずる。(B)が、活性エネルギー線反応性モノマーであっても、ラジカル反応基が2個未満の2官能もしくは単官能のモノマーであると、活性エネルギー線を照射したときに剥離力が十分に低下しない不都合を生ずる。
【0054】
(B)は、3個以上のラジカル反応基を有する3官能以上の活性エネルギー線反応性モノマーであるため、(B)の重合時に架橋反応が進み、粘着剤層の硬化とそれによる粘着力の低下を効果的に起こすことができる。粘着剤層の硬化とそれによる粘着力の低下をより効果的に起こす観点からは、(B)に含まれる反応基の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上、である。粘着剤層の硬化とそれによる粘着力の低下をより効果的に起こす観点からは、1分子中に5個以上のラジカル反応基を有する活性エネルギー線反応性モノマーの使用量は、(B)の全量(100質量%)に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%、である。
ラジカル反応基とは、ラジカルによって反応・硬化する官能基を意味する。特に限定されず、例えば、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、アリル基、チオール基等が挙げられる。ラジカル反応基は、活性エネルギー線を照射したときの硬化速度の観点から、この中でも、アクリレート基、メタクリレート基が好ましく、より好ましくはアクリレート基である。(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0055】
3官能以上の活性エネルギー線反応性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の3官能型; ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能型; プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の5官能型; ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能型; 等が挙げられる。これらの中でも、(A)との相溶性を向上させる観点からは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましく、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートがより好ましい。
(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(B)の分子量としては、好ましくは200~1500であり、より好ましくは250~1000であり、より好ましくは400~700である。(B)の粘度としては、好ましくは25℃で300~10000mPa・s程度であり、より好ましくは5000~8000mPa・sである。
【0057】
組成物中での(B)の質量比は、(A):1に対して、好ましくは0.1を超え、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.4以上、特に好ましくは0.5以上、である。(B)質量比の下限値を上記値とすることにより、活性エネルギー線を照射したときの剥離力低下のメリットを享受し得る。(B)の質量比は、(A):1に対して、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.6以下、である。(B)質量比の上限値を上記値とすることにより、十分な被膜性のメリットを享受し得る。
【0058】
2-1-3.(架橋剤)
組成物の形成に用いる(C)架橋剤、は、(A)を架橋して架橋高分子を形成し得る物質を意味する。架橋高分子を形成することで、高温条件での工程に使用した際の粘着成分の熱劣化抑制、さらに活性エネルギー線照射したときの易剥離化のメリットを享受し得る。
(C)としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤の他、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。なかでも好ましくは、イソシアネート系架橋剤である。
【0059】
イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(別名:HDI)等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロン ジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート(別名:2,4-TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートHL」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物;等が挙げられる。
【0060】
組成物中での(C)の含有量(総量)は、架橋剤の種類や官能基の数等によって異なるため特に限定されるものではないが、100質量部の(A)に対して、好ましくは0.1量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、である。(C)の含有量とすることにより、糊残りを防ぐ点や粘着力を調整し易い点で都合が良い。
【0061】
2-1-4.(光重合開始剤)
組成物の形成に用いる(D)光重合開始剤は、活性エネルギー線(前出)の照射により(B)の重合を開始させるものである。一形態に係る組成物では、(D)として特定の、具体的には(D)α-ヒドロキシアセトフェノン系の光重合開始剤、を用いることが必要である。(D1)以外のアルキルフェノン系光重合開始剤、例えば(D2)ベンジルメチルケタール系の光重合開始剤(例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等)を用いると、メカニズムは明らかではないが、高温条件での工程に使用した際の粘着成分の熱劣化の不都合が生じやすいことが本発明者らにより見出されたからである。
【0062】
(D)としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)、等が挙げられる。中でも、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)が好ましい。
(D)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
(D)としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。上記市販品としては、例えば、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンとしてIGM RESINS社の「OMNIRAD659」; オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)としてIGM RESINS社の「ESACURE ONE」や「ESACURE KIP160」;等が挙げられる。
【0064】
組成物中での(D)の含有量(総量)は、100質量部の(B)に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、である。(D)の含有量を上記範囲とすることにより、高温条件での工程に使用した際の粘着成分の熱劣化が抑制され、かつ、活性エネルギー線による硬化が十分に進み、適切に粘着力が低下する粘着剤層が得られやすい。
【0065】
2-1-5.(任意成分)
一形態に係る組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分((A)、(B)、(C)、(D))以外の、(E)任意成分、を含有してもよい。(E)としては、例えば、粘着剤用の添加剤として公知の成分を挙げることができる。例えば可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、レベリング剤、金属腐食防止剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤等の中から必要に応じて選択できる。また、着色を目的に染料や顔料を添加してもよい。
【0066】
可塑剤としては、例えば無官能基アクリル重合体を用いてもよい。無官能基アクリル重合体としては、アクリレート基以外の官能基を有しないアクリル単量体単位のみからなる重合体や、アクリレート基以外の官能基を有しないアクリル単量体単位と官能基を有しない非アクリル単量体単位とからなる重合体を挙げることができる。無官能基アクリル重合体は架橋しないため、粘着性に影響を与えない。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤(好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤を配合する場合、硬化膜の耐熱性、耐候性等の耐久性の観点で、フェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。これら酸化防止剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
金属腐食防止剤としては、粘着剤の相溶性や効果の高さから、ベンゾトリアゾール系樹脂を好ましい例として挙げることができる。
シランカップリング剤としては、例えば、メルカプトアルコキシシラン化合物(例えば、メルカプト基置換アルコキシオリゴマー等)、(メタ)アクリロキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
【0067】
一形態に係る組成物は、上記成分((A)、(B)、(C)、(D)、必要に応じて(E))を混合することにより、調製(製造)することができる。各成分を混合する順序は、特に制限されるものではなく、これらの成分が均一に混合されればよい。
【0068】
2-2.<熱硬化物>
上記活性エネルギー線硬化型粘着剤は、上記組成物(塗工液)の熱硬化物から形成される。粘着剤層は上記活性エネルギー線硬化型粘着剤によって構成されるため、粘着剤層の製造には、加熱工程が含まれる。
上記活性エネルギー線硬化型粘着剤によって構成された粘着剤層を上記組成物の熱硬化物から形成することで、粘着剤層中に(B)及び(D)の他、(A)と(C)の熱反応物が存在することとなり、この構成によって、高温条件(例えば180℃、20分)での工程によっても、粘着成分の熱劣化による凝集力の低下が抑制される。その結果、高温条件での工程後に活性エネルギー線を照射することで粘着剤層の粘着性が十分に低減され、被着体上への糊残りを発生しにくくすることができる。この知見は本発明者らによって初めて見出されたものである。
【0069】
上記組成物には、溶剤が含まれていてもよい。この場合、溶剤は、上記組成物の塗工適性の向上のために用いられる。溶剤としては、例えば、トルエン等の炭化水素類; ハロゲン化炭化水素類; アルコール類; エーテル類; メチルイソブチルケトン等のケトン類; エステル類; エチレングリコールモノメチルエーテル等のポリオール及びその誘導体; 等が挙げられる。
上記組成物が溶剤を含む場合、該組成物を加熱することによって溶剤が除去されると同時に、活性エネルギー線硬化型粘着剤による粘着剤層が形成される。
【0070】
3.<粘着シートの製造例>
一形態に係る粘着シートの製造例は、以下のとおりである。まず、剥離シート(基材レスの場合)又は基材(基材付きの場合)の一表面に、一形態に係る組成物を塗工して、組成物による塗工層を形成する。塗布方法は公知方法を適用でき、ロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、及びグラビアコーター法等が挙げられる。
次に、塗工層を加熱乾燥及び硬化させて、組成物の熱硬化物から形成された活性エネルギー線硬化型粘着剤による粘着剤層を形成する。加熱乾燥条件は、塗工層の厚みや被塗物(剥離シート又は基材)の耐熱性等により適宜調整すればよい。一例として、100℃以上200℃以下で0.5分間以上10分間以下、好ましくは120℃以上180℃以下で1分間以上5分間以下、である。
一形態において、加熱乾燥及び硬化後に得られる組成物の熱硬化物を、所定期間、保存(静置)してもよい。すなわち粘着剤層の製造には、加熱工程の他、養生工程が含まれていてもよい。加熱乾燥後に養生を行うことで、(A)と(C)の架橋未反応部分が残っている場合でも、架橋反応を完結させることができ、粘着剤層の性能安定化に寄与し得る。養生条件は、一例として、20℃(室温)以上60℃以下で3日以上2週間以下、である。
【0071】
粘着剤層の厚み(加熱乾燥後の厚み)は、用途に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、好ましくは5μm以上200μm以下、である。粘着剤層の厚みを上記範囲内とすることにより、粘着性能を維持しつつ粘着剤のはみ出しやべたつきを抑制することができ、加工性を高め得る。粘着剤層が形成された後、必要に応じて、公知方法により粘着剤層の露出面に剥離シートを貼着してもよい。
【0072】
4.<粘着シートの使用例>
一形態に係る粘着シートの使用例は、以下のとおりである。まず、被着体の表面に粘着シートをその粘着剤層の露出面を対向させた状態で貼着する。次に、被着体の表面に貼着された粘着シートに対して活性エネルギー線を照射して、粘着剤層の粘着力を低下させる。照射する活性エネルギー線の各種条件(照射強度(mJ/cm2)や照射時間(秒)等)は、特に限定されず、必要に応じて設定することができる。そして最後に、粘着力の低下した粘着シートを被着体から引き離す。
一形態に係る組成物は、上記のとおり、特定の(B)(すなわち上記(B))、及び特定の(D)(すなわち上記(D))を含む。そのため、該組成物の熱硬化物から形成された活性エネルギー線硬化型粘着剤による粘着剤層は、活性エネルギー線の照射により重合硬化し、その結果、活性エネルギー線の照射前に対して照射後に粘着力が効果的に低下する。
一形態に係る粘着シートが備える粘着剤層は、活性エネルギー線の照射前は、被着体に対して適度な粘着力を有しつつ、各種製造工程(基板(薄型電子回路基板等)の製造工程(部品の実装や部材の加工を含む)や、電子部品・半導体部品の製造工程を含む)においては被着体に対して容易に剥がれない粘着力で貼着するものとなり得る。一方、上記粘着剤層は、活性エネルギー線の照射後は、上記(B)の重合により粘着力が効果的に低下して被着体から容易に剥離可能となる。
【0073】
5.<粘着剤層の粘着力>
一形態に係る粘着シートが備える粘着剤層の、活性エネルギー線の照射前後の粘着力、及び、活性エネルギー線の照射前に対する照射後の粘着力の低下率は、用途及び使用条件に応じて適宜設計することができる。特に、各種製造工程(前出)での使用で、高温条件での工程に耐え得るようにするには、以下のように設計することが好ましい。
【0074】
粘着剤層の23℃におけるポリエチレンテレフタレートに対する粘着力1(初期粘着力X1)は、好ましくは0.5(N/25mm)以上、より好ましくは2.0(N/25mm)以上、である。X1が0.5(N/25mm)未満では、粘着力が不足し、被着体との貼り合わせが悪くなり、作業性低下等の不都合を招くおそれがある。
【0075】
活性エネルギー線を照射した後の、粘着剤層の23℃におけるポリエチレンテレフタレートに対する粘着力2(照射後粘着力X2)は、好ましくは0.2(N/25mm)以下、より好ましくは0.05(N/25mm)以下、である。X2が0.2(N/25mm)を超えると、被着体からの剥離が容易ではなくなり、作業性低下等の不都合を招くおそれがある。
粘着剤層の粘着力の低下率(粘着力2/粘着力1)は、特に限定されず、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.4以下、である。
【0076】
180℃で20分加熱後に活性エネルギー線を照射した後の、粘着剤層の23℃におけるポリエチレンテレフタレートに対する粘着力3(加熱・照射後粘着力X3)は、好ましくは0.3(N/25mm)以下、より好ましくは0.1(N/25mm)以下、である。X3が0.3(N/25mm)を超えると、被着体からの剥離が容易ではなくなり、作業性低下等の不都合を招くおそれがある。
【0077】
なお、「ポリエチレンテレフタレートに対する粘着力」とは、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μm)に、粘着シート(幅25mm×長さ100mm)の粘着剤層を貼り合わせ(貼り合わせ条件:2kgローラー1往復)、温度23℃、湿度65%の環境下で20分間放置した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを引っ張り試験(剥離速度:300mm/分、剥離角度180°)に供して測定される粘着力をいう。
【0078】
6.<粘着シートの用途>
本発明の一形態に係る粘着シートは、上記のとおり、基板(薄型電子回路基板等)の製造工程(部品の実装や部材の加工を含む)や、電子部品・半導体部品の製造工程を含む、各種製造工程等、高温条件(例えば180℃、20分)での工程を含む広範な用途に使用することができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実験例(実施例及び比較例を含む)に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されない。以下の記載において、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示すものとする。
【0080】
[組成物の構成成分]
ベースポリマーとして、以下のものを準備した。
・A1a: 水酸基を有するアクリル樹脂
(ガラス転移温度:0℃、質量平均分子量30万)
・A1b: 水酸基を有するアクリル樹脂
(ガラス転移温度:-42℃、質量平均分子量39万)
・A: 水酸基を有さないアクリル樹脂
(ガラス転移温度:-7℃、質量平均分子量15万)
【0081】
なお、上記「A1a」は、メタクリル酸エチル(EMA)、アクリル酸エチル(EA)、アクリロニトリル(AN)、及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)のコポリマーであり、質量比は、EMA:EA:AN:HEMA=46:47:5:2、である。
上記「A1b」は、アクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)、酢酸ビニル(VA)、及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)のコポリマーであり、質量比は、EHA:VA:HEMA=63.7:35:1.3、である。
上記「A」は、アクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)、アクリル酸メチル(MA)、及びアクリル酸(AA)のコポリマーであり、質量比は、EHA:MA:AA=25:70:5、である。
【0082】
活性エネルギー線反応性化合物として、以下のものを準備した。
・B1: 活性エネルギー線反応性モノマー
(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アクリレート基6個)
・B1b: 活性エネルギー線反応性モノマー
(アルコキシポリアルキレングリコールアクリレート、アクリレート基1個)
・B: 活性エネルギー線反応性オリゴマー
(ウレタンアクリレート、アクリレート基9個、質量平均分子量0.2万)
【0083】
架橋剤として、以下のものを準備した。
・C1: 架橋剤1(HDI系、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体)
【0084】
光重合開始剤として、以下のものを準備した。
・D1: α-ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤
(オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1--(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン])
・D2: ベンジルメチルケタール系光重合開始剤
(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン)
【0085】
任意成分として、以下のものを準備した。
・E1: 酸化防止剤(ヒンダードフェノール系)
(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
・E4: 溶剤(トルエンとメチルイソブチルケトンの混合溶剤)
【0086】
[実験例1~22]
1.組成物の作製
上記構成成分を表1及び表2に示す固形分比(質量換算)で均一に混合し溶解させて粘着剤組成物(塗工液)を調製した。なお、各塗工液中の全固形分はいずれも30質量%に調製した。
【0087】
2.粘着シートの作製
各実験例で得られた塗工液を、ベーカー式アプリケーターにて、基材(厚み12μmのPETフィルム)の片面に、形成後の粘着剤層の厚さが10μm程度となるように塗布した後、160℃で2分間加熱処理を行い、架橋させることにより(硬化物の生成)、基材フィルムの片面に粘着剤層を形成した。その後、この粘着剤層表面にセパレータ(離型処理が片面に施された厚み25μmのPETフィルム)をその離型処理面が接する形態で貼り合せた。その後、40℃、50%RHの環境下で5日間保存(架橋反応を終了させるための養生)を行なって、各実験例の粘着シート(基材/粘着剤層/セパレータ)を作製した。
【0088】
3.評価
各実験例で得られた粘着シートについて、粘着剤層の物性を以下の方法により評価(又は測定)した。結果を表1及び表2に示す。
【0089】
(2-1)初期粘着力(X1)
各実験例で得られた粘着シートを(幅25mm×長さ100mm)のサイズにカットし、得られたシート片からセパレータを剥離して試験片(基材/粘着剤層)とした。試験片の粘着剤層の表面全面に、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社、ルミラーS10、厚み50μm、幅30mm)を貼着した(温度23℃、湿度65%、2kgローラー1往復)。このようにして得られた評価用サンプルを引っ張り試験に供した。引っ張り試験機に評価用サンプルをセットした後、温度23℃、湿度65%の環境下で20分間放置した後に、引っ張り試験を開始した。引っ張り試験の条件は、剥離角度:180°、剥離速度(引っ張り速度):300mm/分とした。上記粘着シートからPETフィルムを剥離した時の荷重を測定し、その際の最大荷重を粘着シートの初期粘着力X1とし、以下の基準で評価した。
【0090】
◎:2.0(N/25mm)以上(貼り合わせ性が極めて良好)
○:2.0(N/25mm)未満0.5(N/25mm)以上(貼り合わせ性が良好)
×:0.5(N/25mm)未満(貼り合わせ性が不十分)
【0091】
(2-2)照射後粘着力(X2)
上記(2-1)と同じ工程で得た評価用サンプルについて、同環境(温度23℃、湿度65%)下にて、基材側から紫外線を照射(照射強度:220mW/cm2、積算光量:190mJ/cm2)した後、上記(2-1)と同様に、引っ張り試験に供した。そして粘着シートからPETフィルムを剥離した時の荷重を測定し、その際の最大荷重を粘着シートの照射後粘着力X2とし、以下の基準で評価した。
【0092】
◎:0.05(N/25mm)以下(剥離性が極めて良好)
○:0.05(N/25mm)を超え0.2(N/25mm)以下(剥離性が良好)
×:0.2(N/25mm)を超過(剥離性が不十分)
【0093】
(2-3)加熱・照射後粘着力(X3)
上記(2-1)と同じ工程で得た評価用サンプルを180℃で20分間加熱した後、同環境(温度23℃、湿度65%)下に放冷した。その後、上記(2-2)と同様に、基材側から紫外線を照射した後、引っ張り試験に供した。そして粘着シートからPETフィルムを剥離した時の荷重を測定し、その際の最大荷重を粘着シートの加熱・照射後粘着力X3とし、以下の基準で評価した。
【0094】
◎:0.1(N/25mm)以下(剥離性が極めて良好)
○:0.1(N/25mm)を超え0.3(N/25mm)以下(剥離性が良好)
×:0.3(N/25mm)を超過(剥離性が不十分)
【0095】
(2-4)糊残り(X4)
上記(2-3)にて、粘着シートを剥離したPETフィルムの、粘着シート貼着面を、顕微鏡(倍率150倍)で観察し、PETフィルムに付着したままの粘着剤層成分の有無(糊残りX4)を確認し、具体的には、粒径(不定形の場合には最長辺の長さ)1000μm以上の付着物個数を数え、以下の基準で評価した。
【0096】
○:付着物個数が5個未満(糊残りなし)
×:付着物個数が5個以上(糊残りあり)
【0097】
(2-5)被膜性(基材密着性)
上記(2-1)と同じ工程で得た試験片について、粘着剤層の基材への密着性を目視により観察し、以下の基準で評価した。
【0098】
○:剥がれあり(密着性が良好)
×:剥がれなし(密着性が不十分)
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
4.考察
表1及び表2で示すように、液剤中に(A)として水酸基を有するものを含めなかった場合(実験例12)、粘着力(X1、X2、X3)、糊残り(X4)及び被膜性、の1つ以上を満足させることができなかった。
(A)として水酸基を有するものを含めたとしても、(B)を含まなかったり(実験例13)、また(B)を含んでいても、(A):1に対する(B)の質量比が、0.1以下(実験例1)か、2.0を超える(実験例10)と、粘着力(X1、X2、X3)、糊残り(X4)及び被膜性、の1つ以上を満足させることができなかった。
(A)として水酸基を有するものを含め、かつ(A):1に対する(B)の質量比範囲が適切(0.1超2.0以下)であっても、含有させた(B)が3官能未満(実験例14)か、(B)が3官能以上でもモノマーでない(実験例15)か、(C)を含まない(実験例18)か、(D)を含まない(実験例16)か、(D)を含んでいてもそれがα-ヒドロキシアセトフェノン系でない(実験例17)と、粘着力(X1、X2、X3)、糊残り(X4)及び被膜性、の1つ以上を満足させることができなかった。
これに対し、(A)として水酸基を有するものを含め、(A):1に対する(B)の質量比範囲が適切(0.1超2.0以下)であり、(B)として3官能以上のモノマーを含み、(C)を含み、かつ(D)としてα-ヒドロキシアセトフェノン系を含む場合(実験例2~9、11)であると、粘着力(X1、X2、X3)、糊残り(X4)及び被膜性、のすべてを満足させることができた。

【0102】
なお、(A)を水酸基を有するアクリル樹脂((A1))で構成し、かつ(A1)を成分aに相当するもの(A1a)と成分bに相当するもの(A1b)で構成した場合(実験例4、19~22)において、(A1a):1に対する(A1b)の質量比は、2.3(実験例4)を中心に、その値が9.0(実験例22、参考例)にまで大きくなると、粘着力(X1)につき評価結果自体は良好(〇)であったものの、剥離の際大きな力を付与した場合、シートの変形(ジッピング)が生じ剥離力が軽くなりやすい傾向がみられた。一方、その値が1.0(実験例19、参考例)にまで小さくなると、粘着力(X3)や被膜性が悪化する傾向が見られた。これに対し、(A1a):1に対する(A1b)の質量比が適切(1.0超9.0未満)であると(実験例4、20、21)、上記不都合は生じず、満足する性能が得られることが確認できた。