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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   B62D 61/12 20060101AFI20240405BHJP
   B62D 61/10 20060101ALI20240405BHJP
   B62D 57/032 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
B62D61/12
B62D61/10
B62D57/032 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021101772
(22)【出願日】2021-06-18
(65)【公開番号】P2023000768
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】平岡 実
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 竣也
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001442(JP,A)
【文献】特開2013-144513(JP,A)
【文献】特開2019-064359(JP,A)
【文献】特開2016-159752(JP,A)
【文献】特開2009-090404(JP,A)
【文献】特表2018-528037(JP,A)
【文献】特開2018-176798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 61/10 ー 61/12
B62D 57/032
A61G 5/04 - 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体と、
前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行車輪と、
前記車両本体に支持されるとともに、複数の前記走行車輪を前記車両本体に対して位置変更可能に支持する支持機構と、
前記支持機構の動作を制御する制御装置と、が備えられ、
前記制御装置は、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置するように前記支持機構の動作を制御する重心位置制御を実行し、
前記制御装置は、前記重心位置制御として、前記車両本体が斜面を走行するときに、傾斜下方側の前記走行車輪を前記車両本体に対して傾斜下方側へ移動させるように前記支持機構の動作を制御し、かつ、傾斜上方側の前記走行車輪を前記車両本体に対して傾斜下方側へ移動させるように前記支持機構の動作を制御する作業車。
【請求項2】
前記車両本体の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、
前記支持機構の状態を検知する状態検知手段と、が備えられ、
前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段及び前記状態検知手段の検出情報に基づいて、前記重心位置を求めるように構成されている請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記支持機構は、複数の前記走行車輪夫々の位置を変更させる複数の油圧シリンダを備えており、
前記状態検知手段は、複数の前記油圧シリンダ夫々の伸縮操作量を検出する複数のストロークセンサを備えている請求項2に記載の作業車。
【請求項4】
車両本体と、
前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行車輪と、
前記車両本体に支持されるとともに、複数の前記走行車輪を前記車両本体に対する位置を変更可能な状態で支持する支持機構と、
前記支持機構の動作を制御する制御装置と、
前記車両本体の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、が備えられ、
前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段の検出情報に基づいて前記車両本体が水平姿勢になるように前記支持機構の動作を制御する水平制御、及び、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置するように前記支持機構の動作を制御する重心位置制御を実行可能であり、
前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段が検出した前記車両本体の水平姿勢からの傾斜角が所定値以上の場合は前記重心位置制御を実行し、前記傾斜角が前記所定値未満の場合は前記水平制御を実行する作業車。
【請求項5】
複数の前記走行車輪の接地圧を検出する接地圧検出手段が備えられ、
前記制御装置は、前記重心位置制御として、傾斜下方側の前記走行車輪の接地圧と傾斜上方側の前記走行車輪の接地圧とが等しくなるように前記支持機構の動作を制御するように構成されている請求項1又は4に記載の作業車。
【請求項6】
前記支持機構は、複数の前記走行車輪の夫々を前記車両本体に対して昇降可能に支持する複数の屈折リンク機構を備えている請求項1から5のいずれか一項に記載の作業車。
【請求項7】
車両本体と、
前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行車輪と、
前記車両本体に支持されるとともに、複数の前記走行車輪を前記車両本体に対する位置を変更可能な状態で支持する支持機構と、
前記支持機構の動作を制御する制御装置と、
前記車両本体の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、が備えられ、
前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段の検出情報に基づいて前記車両本体が水平姿勢になるように前記支持機構の動作を制御する水平制御、及び、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置するように前記支持機構の動作を制御する重心位置制御を実行可能であり、
前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段が検出した前記車両本体の水平姿勢からの傾斜角が所定値以上の場合は前記重心位置制御を実行し、且つ、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置させることができる範囲内で前記車両本体を水平姿勢に近づけるように前記支持機構を制御する作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸のある不整地を走行するのに適した作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
上記したような作業車として、従来では、車両本体に対して屈折リンク機構を介して4つの走行車輪が支持され、走行車輪の高さを変更させることにより、不整地であっても車両本体の姿勢を維持しながら走行できるようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-111985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成では、走行面に凹凸はあるものの全体としては平らな地面、あるいは、緩やかに傾斜している地面等を走行する場合には、車両本体の姿勢を適正な姿勢に維持しながら走行することが可能である。
【0005】
しかし、例えば、山間地等のように急勾配の路面を走行するような場合には、走行車輪の高さを変更させて車両本体の姿勢を適正な姿勢に維持させるだけでは良好な移動走行が行えないおそれがある。例えば、地面の勾配が例えば40度を越えて大きく傾斜している急勾配の路面であれば、重心位置が大きく傾斜下方側に寄った状態となり、作業車の姿勢が不安定になるおそれがある。
【0006】
そこで、急勾配の路面を走行するような場合であっても、安定した状態で走行させることが可能な作業車が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車の特徴構成は、車両本体と、前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行車輪と、前記車両本体に支持されるとともに、複数の前記走行車輪を前記車両本体に対して位置変更可能に支持する支持機構と、前記支持機構の動作を制御する制御装置と、が備えられ、前記制御装置は、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置するように前記支持機構の動作を制御する重心位置制御を実行し、前記制御装置は、前記重心位置制御として、前記車両本体が斜面を走行するときに、傾斜下方側の前記走行車輪を前記車両本体に対して傾斜下方側へ移動させるように前記支持機構の動作を制御し、かつ、傾斜上方側の前記走行車輪を前記車両本体に対して傾斜下方側へ移動させるように前記支持機構の動作を制御する点にある。
【0008】
本発明によれば、制御装置が重心位置制御を実行することにより、支持機構が動作して、複数の走行車輪の車両本体に対する位置が変更して、車両本体の重心位置が平面視において複数の走行車輪の中央に位置する状態あるいは中央に近づいた状態となる。
【0009】
説明を加えると、従来の構成では、平坦な地面に接地しているときに、車両本体の重心位置が平面視において複数の走行車輪の略中央に位置する状態となっている。このような状態のまま作業車が急勾配の傾斜地を走行すると、平面視において車両本体の重心位置が傾斜下方側に大きく寄った状態となる。そこで、このような場合には、重心位置が平面視において複数の走行車輪の中央に位置するように、車両本体に対する走行車輪の位置を変更するのである。
【0010】
例えば、傾斜下方側の走行車輪を車両本体に対して傾斜下方側へ移動させる動作、傾斜上方側の走行車輪を車両本体に対して傾斜上方側へ移動させる動作、あるいは、傾斜下方側の走行車輪と傾斜上方側の走行車輪との間隔を広げる動作などによって、重心位置を中央に近づけることができる。
【0011】
その結果、急勾配の路面を走行するような場合であっても、安定した状態で走行することが可能となった。
【0012】
本発明においては、前記車両本体の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、前記支持機構の状態を検知する状態検知手段と、が備えられ、前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段及び前記状態検知手段の検出情報に基づいて、前記車両本体の重心位置を求めるように構成されていると好適である。
【0013】
本構成によれば、車両本体の傾斜状態と、支持機構によって指示される複数の走行車輪の車両本体に対する位置の情報とから、傾斜地等を走行しているときの実際の車両本体の重心位置を演算等により求めることができる。
【0014】
本発明においては、前記支持機構は、複数の前記走行車輪夫々の位置を変更させる複数の油圧シリンダを備えており、前記状態検知手段は、複数の前記油圧シリンダ夫々の伸縮操作量を検出する複数のストロークセンサを備えていると好適である。
【0015】
本構成によれば、油圧シリンダの伸縮操作量が変化することにより、支持機構が走行車輪の車両本体に対する位置を変更させることができる。そこで、ストロークセンサにより油圧シリンダの伸縮操作量を検出することにより、支持機構の現在の状態、すなわち、走行車輪の車両本体に対する現在の位置情報を求めることができる。尚、油圧シリンダは、塵埃や水分等に対して影響を受け難く長期にわたって良好な動作が行える。
【0016】
本発明に係る作業車の特徴構成は、車両本体と、前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行車輪と、前記車両本体に支持されるとともに、複数の前記走行車輪を前記車両本体に対する位置を変更可能な状態で支持する支持機構と、前記支持機構の動作を制御する制御装置と、前記車両本体の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、が備えられ、前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段の検出情報に基づいて前記車両本体が水平姿勢になるように前記支持機構の動作を制御する水平制御、及び、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置するように前記支持機構の動作を制御する重心位置制御を実行可能であり、前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段が検出した前記車両本体の水平姿勢からの傾斜角が所定値以上の場合は前記重心位置制御を実行し、前記傾斜角が前記所定値未満の場合は前記水平制御を実行すると好適である。
【0017】
本構成によれば、制御装置が水平制御を実行することにより、支持機構が動作して、車両本体が水平姿勢になるように姿勢が調整される。このような水平制御は、作物が植え付けられた圃場等のように、凹凸があるものの全体として平らな地面あるいは緩やかに傾斜している地面等を走行する場合に利用される。このような地面を走行するときに、車両本体の姿勢を水平姿勢に維持することで、例えば、圃場に対する対地作業を良好に行うことが可能である。
【0018】
又、本構成によれば、制御装置が重心位置制御を実行することにより、支持機構が動作して、複数の走行車輪の車両本体に対する位置が変更して、車両本体の重心位置が平面視において複数の走行車輪の中央に位置する状態あるいは中央に近づいた状態となる。
【0019】
説明を加えると、従来の構成では、平坦な地面に接地しているときに、重心位置が平面視において複数の走行車輪の略中央に位置する状態となっている。このような状態のまま作業車が急勾配の傾斜地を走行すると、平面視において重心位置が傾斜下方側に大きく寄った状態となる。そこで、このような場合には、重心位置が平面視において複数の走行車輪の中央に位置するように、車両本体に対する走行車輪の位置を変更するのである。
【0020】
例えば、傾斜下方側の走行車輪を車両本体に対して傾斜下方側へ移動させる動作、傾斜上方側の走行車輪を車両本体に対して傾斜上方側へ移動させる動作、あるいは、傾斜下方側の走行車輪と傾斜上方側の走行車輪との間隔を広げる動作などによって、重心位置を中央に近づけることができる。その結果、急勾配の路面を走行するような場合であっても、安定した状態で走行することが可能となる。
【0021】
従って、傾斜が緩やか場合には水平制御を実行し、傾斜が急勾配である場合には重心位置制御を実行する等の使い分けが可能となり、走行路面の状況の違いに応じて適切な制御を行うことが可能となり、使い勝手のよいものとなる。
また、本構成によれば、車両本体の水平姿勢からの傾斜角が所定値以上であれば、姿勢が不安定になるおそれが大であるから、重心位置制御を実行することにより、姿勢の安定化しながら走行することが可能である。一方、傾斜角が所定値未満であれば、姿勢が不安定になるおそれは少なくので、水平制御を実行することにより、車両本体を水平姿勢に維持しながら各種の作業を良好に行うことができる。このように傾斜角の違いにより、適正な制御を使い分けることができる。
【0022】
本発明においては、複数の前記走行車輪の接地圧を検出する接地圧検出手段が備えられ、前記制御装置は、前記重心位置制御として、傾斜下方側に位置する前記走行車輪の接地圧と、傾斜上方側に位置する前記走行車輪の接地圧とが等しくなるように前記支持機構の動作を制御するように構成されていると好適である。
【0023】
傾斜地を走行しているときは平面視において重心位置が傾斜下方側に寄った状態となる。そのとき、傾斜下方側に位置する走行車輪の接地圧が傾斜上方側に位置する走行車輪の接地圧よりも小さい値になる。
【0024】
そこで、本構成によれば、複数の走行車輪の接地圧を検出して、傾斜下方側に位置する走行車輪の接地圧と、傾斜上方側に位置する走行車輪の接地圧とが等しくなるように支持機構の動作を制御する。このように接地圧が等しくなることで、平面視において、車両本体の重心位置が傾斜下方側に位置する走行車輪の接地部と傾斜上方側に位置する走行車輪の接地部との中央に位置する状態となる。
【0025】
その結果、急勾配の路面を走行するような場合であっても、安定した状態で走行することが可能となった。
【0026】
本発明においては、前記支持機構は、複数の前記走行車輪の夫々を前記車両本体に対して昇降可能に支持する複数の屈折リンク機構を備えていると好適である。
【0027】
本構成によれば、支持機構として、複数のリンク同士を揺動可能に連結するという簡単な構成の屈折リンク機構を用いることで、簡単な構造で安価に構成することが可能である。
【0028】
【0029】
【0030】
本発明に係る作業車の特徴構成は、車両本体と、前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行車輪と、前記車両本体に支持されるとともに、複数の前記走行車輪を前記車両本体に対する位置を変更可能な状態で支持する支持機構と、前記支持機構の動作を制御する制御装置と、前記車両本体の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、が備えられ、前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段の検出情報に基づいて前記車両本体が水平姿勢になるように前記支持機構の動作を制御する水平制御、及び、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置するように前記支持機構の動作を制御する重心位置制御を実行可能であり、前記制御装置は、前記傾斜状態検出手段が検出した前記車両本体の水平姿勢からの傾斜角が所定値以上の場合は前記重心位置制御を実行し、且つ、前記車両本体の重心位置が平面視において複数の前記走行車輪の中央に位置させることができる範囲内で前記車両本体を水平姿勢に近づけるように前記支持機構を制御すると好適である。
【0031】
本構成によれば、重心位置を中央に寄せるように支持機構を制御する重心位置制御を実行しているときに、そのときの車両本体の姿勢が水平姿勢になるように支持機構を制御する水平制御を合わせて実行することにより、さらなる姿勢の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】作業車の側面図である。
図2】作業車の平面図である。
図3】制御ブロック図である。
図4】基準姿勢を示す図である。
図5】水平制御の動作説明図である。
図6】水平制御の動作説明図である。
図7】重心位置制御の動作説明図である。
図8】重心位置制御の動作説明図である。
図9】制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、図中に示される矢印FRの方向を「前」、矢印BKの方向を「後」、矢印RHの方向を「右」、矢印LHの方向を「左」、矢印UPの方向を「上」、矢印DWの方向を「下」とする。
【0034】
図1,2に示すように、作業車には、車両全体を支持する平面視で略矩形状の車両本体1と、車両本体1を支持する複数の走行車輪2と、複数の走行車輪2の夫々に対応して設けられた複数の補助車輪3と、複数の走行車輪2を車両本体1に対して位置変更可能に支持する支持機構Aと、複数の走行車輪2を各別に駆動する複数の油圧モータ6とが備えられている。
【0035】
走行車輪2は、車両本体1の左右両側における前後夫々に位置する。本実施形態では、作業車は、左前、右前、左後、及び右後の4つの走行車輪2を備える。又、左前、右前、左後、及び右後の4つの支持機構Aを備える。支持機構Aは、屈折リンク機構4と、屈折リンク機構4の姿勢を個別に変更可能な複数の油圧シリンダ29,30と、を備えている。
【0036】
車両本体1には、全体を支持する矩形枠状の車体フレーム7と、油圧シリンダ29,30に向けて作動油を送り出す油圧供給源8と、油圧供給源8から姿勢変更操作手段5に供給される作動油を制御する弁機構9とが備えられている。油圧供給源8は、エンジンによって駆動される油圧ポンプを備えている。弁機構9の上側には、弁機構9の作動を制御するECU13(Electronic Control Unit)が備えられている。ECU13は、マイクロコンピュータを備えており、制御プログラムに従って種々の制御を実行可能である。油圧制御弁11及びECU13により、制御装置Cが構成されている。
【0037】
〔支持機構〕
上述したように、支持機構Aは、屈折リンク機構4と複数の油圧シリンダ29,30と、を備えている。図1に示すように、複数(具体的には4つ)の走行車輪2は、屈折リンク機構4を介して車両本体1に対して各別に昇降可能に支持されている。屈折リンク機構4は、縦軸芯Y周りで回動可能に車体フレーム7に支持され、屈折リンク機構4を旋回操作させる旋回用油圧シリンダ(以下、旋回シリンダと称する)18が備えられている。
【0038】
屈折リンク機構4には、縦軸芯Y周りで回動可能に車体フレーム7に支持される基端部24と、上側端部が基端部24の下部に横軸芯X1周りで回動可能に支持された第一リンク25と、一端部が第一リンク25の下側端部に横軸芯X2周りで回動可能に支持され且つ他端部に走行車輪2が支持された第二リンク26とが備えられている。
【0039】
図2に示すように、走行車輪2は、第二リンク26の揺動側端部において、左右方向外方側に位置する状態で支持されている。油圧モータ6は、第二リンク26の揺動側端部において、左右方向内方側(走行車輪2とは反対側)に位置する状態で支持されている。
【0040】
複数の屈折リンク機構4の夫々に対応して、屈折リンク機構4の姿勢を各別に変更可能な複数の油圧シリンダ29,30が備えられている。すなわち、車両本体1に対する第一リンク25の揺動姿勢を変更可能な第一油圧シリンダ29と、第一リンク25に対する第二リンク26の揺動姿勢を変更可能な第二油圧シリンダ30と、が備えられている。第一油圧シリンダ29及び第二油圧シリンダ30は、夫々、第一リンク25の近傍に集約して配置されている。
【0041】
第二油圧シリンダ30の作動を停止した状態で第一油圧シリンダ29を伸縮操作すると、第一リンク25、第二リンク26及び走行車輪2の夫々が、相対的な姿勢を一定に維持したまま一体的に、基端部24に対する枢支連結箇所の横軸芯X1周りで揺動する。第一油圧シリンダ29の作動を停止した状態で第二油圧シリンダ30を伸縮操作すると、第一リンク25の姿勢が一定に維持されたまま、第二リンク26及び走行車輪2が、一体的に、第一リンク25と第二リンク26との連結箇所の横軸芯X2周りで揺動する。
【0042】
複数の屈折リンク機構4夫々の中間屈折部に回転可能に補助車輪3が支持されている。補助車輪3は走行車輪2と略同じ外径の車輪にて構成されている。第一リンク25と第二リンク26とを枢支連結する支軸が横幅方向外方側に突出するように延長形成され、支軸の延長突出箇所に補助車輪3が回動可能に支持されている。
【0043】
図示はしないが、屈折リンク機構4、走行車輪2、補助車輪3、及び、油圧シリンダ29,30の夫々が、旋回シリンダ18の操作により、一体的に縦軸芯周りで回動することにより旋回操作させることができる。
【0044】
油圧モータ6に対応する油圧制御弁11により作動油の流量調整が行われることで、油圧モータ6の回転速度すなわち走行車輪2の回転速度を変更することができる。油圧制御弁11は制御装置Cによって制御される。
【0045】
〔センサ〕
この作業車は種々のセンサを備える。
図1図3に示すように、4つの第二油圧シリンダ30の夫々について、ヘッド側圧力センサS1及びキャップ側圧力センサS2を備える。ヘッド側圧力センサS1は、第二油圧シリンダ30のヘッド側室の油圧を検出する。キャップ側圧力センサS2は、第二油圧シリンダ30のキャップ側室の油圧を検出する。
【0046】
図3に示すように、4つの第一油圧シリンダ29及び4つの第二油圧シリンダ30の夫々について、伸縮操作量を検出可能な複数のストロークセンサS3を備える。各油圧シリンダ29,30の伸縮操作量は、操作対象である第一リンク25及び第二リンク26の揺動位置に対応する検出値である。従って、複数のストロークセンサS3が支持機構Aの状態を検知する状態検知手段に対応する。
【0047】
図1図3に示すように、車両本体1には、傾斜状態検出手段としての傾斜センサS4が備えられている。傾斜センサS4は、周知の構成である慣性計測装置(Inertial Measurement Unit)(IMU)を用いて構成されている。IMUは、三軸加速度センサとジャイロセンサとを有し、車両本体1の姿勢変化状態、具体的には、前後方向並びに左右方向の傾きを検知することができる。
【0048】
走行車輪2には、油圧モータ6により駆動される走行車輪2の回転速度を検出する回転センサS5が備えられている。回転センサS5にて検出された走行車輪2の回転速度に基づいて、走行車輪2の回転速度が目標の値となるように、油圧モータ6への作動油の供給が制御される。油圧モータ6に供給される作動油の圧力を検出する圧力センサS6が備えられている。圧力センサS6にて検出された作動油の圧力に基づいて、走行車輪2の駆動トルクが目標の値となるように、油圧モータ6への作動油の供給(圧力)が制御される。
【0049】
4つの旋回シリンダ18の夫々について、伸縮操作量を検出可能なストロークセンサS7を備える。旋回シリンダ18の伸縮操作量は、操作対象である屈折リンク機構4の回動位置(旋回角)に対する検出値である。
【0050】
この作業車は、図1図4に示すように、4個の走行車輪2が全て接地し且つ4個の補助車輪3が全て地面から浮上する4輪走行状態が通常の走行形態である。尚、詳述はしないが、走行形態としては、この形態以外に、屈折リンク機構4を姿勢変更することにより、種々の走行形態を採ることができる。
【0051】
〔ECU〕
図3に示すように、ECU13は、姿勢制御部100及び走行制御部101を備えている。姿勢制御部100は、傾斜センサS4の検出情報に基づいて車両本体1が水平姿勢になるように支持機構Aの動作を制御する水平制御を実行する。
【0052】
水平制御において、姿勢制御部100は、傾斜センサS4の検出情報に基づいて、車両本体1の水平姿勢からの前後方向での傾斜角及び左右方向での傾斜角が水平姿勢に対応する値になるように、4個の第一油圧シリンダ29及び4個の第二油圧シリンダ30の作動を制御する。
【0053】
図5に示すように、地面に凹凸があり、前後方向一方側の走行車輪2が凹部OUに入り込むような場合であっても、水平制御を実行することにより、車両本体1の前後方向の姿勢が水平となり、姿勢が安定化する。図6に示すように、左右方向一方側の走行車輪2が凹部OUに入り込む場合であっても、水平制御を実行することにより、車両本体1の左右方向の姿勢が水平となり、姿勢が安定化する。
【0054】
姿勢制御部100は、傾斜センサS4及びストロークセンサS3の検出情報に基づいて、車両本体1の重心位置Gを求め、車両本体1の重心位置Gが、平面視において複数の走行車輪2の中央に位置するように支持機構Aの動作を制御する重心位置制御を実行する。
【0055】
説明を加えると、傾斜センサS4の出力によって車両本体1の傾斜状態が検知される。姿勢制御部100は、傾斜センサS4の検出結果より車両本体1の水平姿勢からの前後方向での傾斜角及び左右方向での傾斜角を求める。そして、複数のストロークセンサS3にて検出される各油圧シリンダ29,30の伸縮操作量の検出結果より、支持機構Aの状態(車両本体1に対する第一リンク25の角度、第一リンク25に対する第二リンク26の角度)を検知することができる。その結果、作業車が全体としてどのような傾斜状態にあり、車両本体1の重心位置Gが、4個の走行車輪2の接地位置に対してどのような位置にあるかを演算により判別することができる。
【0056】
姿勢制御部100は、上述したようにして求めた重心位置Gが、平面視において複数の走行車輪2の中央に位置する目標姿勢となるように、各油圧シリンダ29,30を操作する。
【0057】
図4に示すような車両本体1が水平姿勢となる基準姿勢における車両本体1の重心位置Gは、作業車の製造段階において、予め精度よく求めておくことが可能である。ここでは、平面視において、重心位置Gが車両本体1の略中央(4つの走行車輪2の中央位置)に位置しているものとする。すなわち、側面視において、重心位置Gは前後の走行車輪2の中央に位置し、前後方向視において、重心位置Gは左右の走行車輪2の中央に位置している。
【0058】
図7に示すように、急な斜面を走行するときには、重心位置Gは、平面視で前部側の走行車輪2の接地部と後部側の走行車輪2の接地部との間において中央位置よりも下方側に寄った状態となり、作業車の姿勢が不安定となる。傾斜がさらに急になると、重心位置Gは大きく下方側に寄った状態となり、姿勢がさらに不安定となる。そこで、このような急な斜面を走行するときには、上記したような重心位置制御を実行することにより、走行安定性を向上させることができる。
【0059】
走行制御部101は、回転センサS5にて検出された走行車輪22の回転速度が目標速度となり、かつ、圧力センサS6にて検出される駆動トルクが目標の値となるように、油圧モータ6の作動を制御する。
【0060】
〔姿勢変更処理〕
図9のフローチャートを参照しながら、ECU13により実行される姿勢変更処理について説明する。姿勢変更処理は、作業車の走行中に繰り返し実行される。
【0061】
傾斜センサS4が車両本体1の前後左右の傾きを検知する(ステップ#01)。車両本体1の水平姿勢からの傾斜角が設定値以上あるか否かを判別する(ステップ#02)。設定値としては、例えば、15度~45度などの大きく傾斜した状態に相当する角度が設定される。
【0062】
傾斜角が設定値未満で、圃場等のように、凹凸はあるものの概ね平らな地面や緩やかな傾斜面等を走行していることが想定されるときは、上記した水平制御を実行する(ステップ#03)。具体的には、各油圧シリンダ29,30に備えられているストロークセンサS3にて検出される伸縮操作量が、目標姿勢(車両本体1が水平姿勢となる状態)に対応する検出値になるように、油圧制御弁11を切り換えて各油圧シリンダ29,30を操作させる。
【0063】
傾斜センサS4にて検出される車両本体1の水平姿勢からの傾斜角が設定値以上であれば、複数のストロークセンサS3にて検出される各油圧シリンダ29,30の伸縮操作量の検出結果より、現在の支持機構Aの状態を検知する(ステップ#04)。具体的には、車両本体1に対する第一リンク25の角度、及び、第一リンク25に対する第二リンク26の角度を求めて、車両本体1に対して、4つの走行車輪2がどのような位置関係にあるかを演算にて求める。
【0064】
そして、傾斜センサS4の検出結果に基づいて、車両本体1の傾斜状態を求めることができるので、車両本体1の傾斜状態と、上記したようにして求めた車両本体1に対する4つの走行車輪2の位置関係とから、現在の車両本体1の重心位置Gが4つの走行車輪2に対してどのような位置にあるかを演算にて求める(ステップ#05)。
【0065】
このようにして求めた重心位置Gが、平面視において、4つの走行車輪2の中央に位置するように、4つの走行車輪2の車両本体1に対する位置を変更して、車両本体1の地面に対する姿勢を変更させる(ステップ#06)。
【0066】
例えば、図8に示すように、山間地等において急な斜面を走行するときには、傾斜下方側の走行車輪2を車両本体1に対して傾斜下方側へ移動させるように、第一リンク25及び第二リンク26を揺動させ、かつ、傾斜上方側の走行車輪2を車両本体1に対して傾斜上方側へ移動させるように、第一リンク25及び第二リンク26を揺動させる。そのことにより傾斜下方側の走行車輪2と傾斜上方側の走行車輪2との間隔を広げることになり、平面視において重心位置Gを中央に近づけることができる。
【0067】
車両本体1の水平姿勢からの傾斜角の大きさに応じて、水平制御と重心位置制御とを使い分けることにより、圃場だけでなく、山間地等において急な斜面を走行するときにおいても、姿勢を安定化させて走行することが可能となる。
【0068】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、傾斜センサS4の検出情報と支持機構Aの状態とから重心位置Gを求めるようにしたが、この構成に加えて、車両本体1に搭載される貯留物の重量の変化の情報を加味して重心位置Gを求めるようにしてもよい。
【0069】
説明を加えると、例えば、車両本体1に、肥料、あるいは、除草剤や殺虫剤等の薬剤を貯留する貯留タンクを備え、走行に伴って肥料や薬剤を圃場に散布するように構成されるものにおいて、貯留タンクの重量を重量センサにて計測して、その重量センサの検出結果を、傾斜センサS4の検出情報及び支持機構Aの状態に加味して、車両本体1の重心位置Gを求める構成である。
【0070】
(2)上記実施形態のように、実際の車両本体1の重心位置Gを求めるのではなく、複数の走行車輪2の接地圧を検出する接地圧検出手段を備え、重心位置制御として、傾斜下方側の走行車輪2の接地圧と傾斜上方側の走行車輪2の接地圧とが等しくなるように支持機構Aの動作を制御するように構成してもよい。
【0071】
この場合、接地圧検出手段としては、上記実施形態の圧力センサS1,S2を利用することができる。すなわち、油圧供給源8から圧油が供給されていない状態における圧力センサS1,S2の検出値を用いて走行車輪2の接地圧を検出するのである。又、接地圧検出手段としては、走行車輪2の接地圧を検出する専用の圧力センサを用いてもよい。
【0072】
(3)上記実施形態では、傾斜センサS4により検知される車両本体1の水平姿勢からの傾斜角が設定値以上あるとき重心位置制御を実行するようにしたが、この構成に代えて、作業車を遠隔操縦可能な通信機能を備え、操作者が遠隔操作にて重心位置制御の実行を指令する構成としてもよく、また、常時、重心位置制御を実行する構成とする等、種々の形態を採用することが可能である。
【0073】
(4)上記実施形態では、傾斜センサS4により検知される車両本体1の水平姿勢からの傾斜角が設定値以上あるときは重心位置制御だけを実行するようにしたが、この構成に限らず、重心位置制御を実行しているときに、重心位置Gを平面視で車両本体1の略中央位置に位置させることができる範囲内で車両本体1を水平姿勢に近づけるように水平制御を合わせて実行するようにしてもよい。
【0074】
(5)支持機構Aの態様は上述のものに限定されない。例えば、支持機構Aが、1つのリンク、又は3つ以上のリンクを備える機構であってもよい。
【0075】
(6)支持機構Aの姿勢を変更する装置として、油圧シリンダ29,30に代えて、電動のアクチュエータを備えるものでもよい。
【0076】
(7)走行車輪22が、電動モータやエンジン等により駆動される構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、凹凸のある不整地を走行するのに適した作業車に適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 車両本体
2 走行車輪
4 屈折リンク機構
29,30 油圧シリンダ
A 支持機構
C 制御装置
G 重心位置
S1、S2 接地圧検出手段(圧力センサ)
S3 状態検知手段(ストロークセンサ)
S4 傾斜状態検出手段(傾斜センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9