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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】流量調整弁及び冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/68 20060101AFI20240405BHJP
【FI】
F16K31/68 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021144723
(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公開番号】P2023037897
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100213757
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 詩人
(72)【発明者】
【氏名】横田 純一
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-156344(JP,A)
【文献】特開2003-307371(JP,A)
【文献】特開2003-83643(JP,A)
【文献】特開2002-350011(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0516857(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0114923(US,A1)
【文献】特開昭61-140763(JP,A)
【文献】特開2019-215113(JP,A)
【文献】特開2009-127926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/64-31/72
F16K 51/00
F16K 7/17
F25B 41/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象の温度に応じて、通過する冷媒の流量を調整する流量調整弁であって、
前記冷媒が導入される一次ポートと、
前記一次ポートから流入した前記冷媒を通過させる弁ポートを有する弁本体と、
前記弁本体に移動自在に設けられて前記弁ポートの開度を変更する弁体と、
前記弁ポートを通過した前記冷媒を送り出す二次ポートと、
前記弁体に所定の弁閉力を付与する弁閉力付与手段と、
前記弁体を駆動する駆動エレメントと、を備え、
前記駆動エレメントは、封入ガスが封入される封入空間を形成するとともに前記冷却対象から受熱する第1ケース部と、前記冷媒が導入される空間を形成する第2ケース部と、前記第1ケース部と前記第2ケース部との間に設けられて空間を区画する金属製のダイヤフラムと、前記冷媒が導入される空間において前記ダイヤフラムに当接することで前記弁体に弁開力を伝達可能な伝達部材と、を有し、
前記伝達部材は、少なくとも、前記ダイヤフラムに接触する接触部が、前記ダイヤフラムと同種の金属または樹脂によって構成されていることを特徴とする流量調整弁。
【請求項2】
前記伝達部材の全体が、前記ダイヤフラムと同種の金属または樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の流量調整弁。
【請求項3】
前記伝達部材は、その基部が金属により構成されるとともに、前記接触部の表面が、前記ダイヤフラムと同種の金属または樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の流量調整弁。
【請求項4】
前記弁体は、前記弁ポートを通過して前記伝達部材に向かって延びる延長部を有し、
前記伝達部材は、一面側に前記接触部が設けられるとともに他面側において前記延長部に当接する板部を有し、
前記弁本体は、前記延長部が通過可能な筒部を有するとともに、該筒部の先端を前記板部の他面側に当接させることで、前記伝達部材の弁開側への移動を規制することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の流量調整弁。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の流量調整弁と、前記冷媒を所定方向に送り出す送流体手段と、前記冷媒を放熱する放熱手段と、前記冷媒を通過させるとともに前記冷却対象から受熱する受熱部と、を備え、前記流量調整弁と前記送流体手段と前記放熱手段とを接続する流路において前記冷媒を循環させることを特徴とする冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量調整弁及び冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷媒(流体)を用いて冷却対象を冷却する冷却装置では、冷却対象の温度に応じて冷却能力が変化するような構成が採用されることがある。従来、このような冷却装置として、作動流体の圧力に応じて弁開度が調節される流量調整弁が設けられたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された冷却装置では、冷却器の上流側と下流側とにおける作動流体の圧力差によってダイヤフラムが変位し、流量調整弁が移動することにより、冷却器を通過する作動流体の流量が調節されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-038302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された冷却装置では、作動流体の圧力差を利用して弁を移動させる圧力式の調節方法が採用されているため、例えば作動流体における温度変化に対する圧力変化が小さい場合や、冷却器の上流側からダイヤフラムに至るまでの流路において圧力損失が大きい場合等に、冷却対象の温度変化に対する弁開度の応答性(即ち、冷却能力の応答性)が低くなってしまう可能性があった。そこで、作動流体とは異なる弁開度調節用のガスを用い、冷却対象の温度変化に応じて弁開度調節用のガスの圧力を変化させることにより、弁開度を調節する方法(温度検知方式の流量調節方法)が考えられる。
【0005】
このような温度検知方式の流量調節方法では、ダイヤフラムによって、作動流体(冷媒)が導入される空間と、弁開度調節用のガスが導入された空間と、が区画され、ガスが導入された空間の温度が上昇した際に、この空間の圧力が上昇することで、ダイヤフラムから弁体に弁開力が付与され、弁開度が大きくなる。このとき、ダイヤフラムと弁体とを近接させて配置することは困難であり、冷媒が通過する空間に、弁開力を伝達するための伝達部材を設ける必要がある。しかしながら、冷媒として水等の導電性流体が用いられる場合に、互いに異種金属により構成された伝達部材とダイヤフラムとが接触すると、これらの金属間に電位差が生じ、腐食が発生する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、腐食を抑制することができる流量調整弁及び冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流量調整弁は、冷却対象の温度に応じて、通過する冷媒の流量を調整する流量調整弁であって、前記冷媒が導入される一次ポートと、前記一次ポートから流入した前記冷媒を通過させる弁ポートを有する弁本体と、前記弁本体に移動自在に設けられて前記弁ポートの開度を変更する弁体と、前記弁ポートを通過した前記冷媒を送り出す二次ポートと、前記弁体に所定の弁閉力を付与する弁閉力付与手段と、前記弁体を駆動する駆動エレメントと、を備え、前記駆動エレメントは、封入ガスが封入される封入空間を形成するとともに前記冷却対象から受熱する第1ケース部と、前記冷媒が導入される空間を形成する第2ケース部と、前記第1ケース部と前記第2ケース部との間に設けられて空間を区画する金属製のダイヤフラムと、前記冷媒が導入される空間において前記ダイヤフラムに当接することで前記弁体に弁開力を伝達可能な伝達部材と、を有し、前記伝達部材は、少なくとも、前記ダイヤフラムに接触する接触部が、前記ダイヤフラムと同種の金属または樹脂によって構成されていることを特徴とする。
【0008】
以上のような本発明によれば、冷媒が導入される空間においてダイヤフラムに当接する伝達部材のうち少なくとも接触部が、ダイヤフラムと同種の金属または樹脂によって構成されていることで、冷媒として導電性流体が使用された場合でも、異種金属接触による電位差の発生を抑制することができ、伝達部材及びダイヤフラムの腐食を抑制することができる。尚、「同種の金属」とは、主たる構成金属が同一であることを意味し、添加物に多少の差異があってもよい。具体的には、クロム・ニッケル系ステンレスのように、クロムとニッケル(および鉄)とを主な構成金属とするステンレスであれば、SUS304とSUS316との組み合わせのように添加物に多少の差異があってもよい。
【0009】
この際、本発明の流量調整弁では、前記伝達部材の全体が、前記ダイヤフラムと同種の金属または樹脂により構成されていることが好ましい。このような構成によれば、伝達部材の全体が1種類の材料により構成されることで、容易に製造することができる。また、伝達部材が金属により構成される場合には、伝達部材の耐荷重性を確保しやすく、伝達部材が樹脂により構成される場合には、低コスト化することができる。
【0010】
また、本発明の流量調整弁では、前記伝達部材は、その基部が金属により構成されるとともに、前記接触部の表面が、前記ダイヤフラムと同種の金属または樹脂により構成されていてもよい。このような構成によれば、接触部において電位差の発生を抑制しつつ、基部の材質の選択自由度を向上させることができる。例えば、ダイヤフラムは変形容易であることが要求され、伝達部材は剛性が高いことが要求される場合があるが、このような場合に、それぞれを異種金属により構成することで、要求される特性を確保しやすい。また、基部が金属により構成されることで、上記のように耐荷重性を確保しやすい。
【0011】
また、本発明の流量調整弁では、前記弁体は、前記弁ポートを通過して前記伝達部材に向かって延びる延長部を有し、前記伝達部材は、一面側に前記接触部が設けられるとともに他面側において前記延長部に当接する板部を有し、前記弁本体は、前記延長部が通過可能な筒部を有するとともに、該筒部の先端を前記板部の他面側に当接させることで、前記伝達部材の弁開側への移動を規制することが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、板部には、他面側において、筒部と当接することで力が作用するとともに、延長部に当接することで力が作用し、一面側において、ダイヤフラムに接触することで力が作用する。従って、伝達部材の移動が規制される場合、及び、伝達部材から弁体に力が伝達される場合のいずれにおいても、板部の略同一部位に両面側から力が作用することとなり、板部に対するせん断応力を低減することができる。これに対し、例えば伝達部材の中央部に対してダイヤフラムから力が作用するとともに、伝達部材の端部に弁本体が当接して移動が規制される構成では、力が作用する位置のずれによってせん断応力が生じやすい。また、上記のようにせん断応力を低減すれば、伝達部材が樹脂等により構成されて耐荷重性が低下した場合であっても、肉厚を薄くすることができ、伝達部材の大型化を抑制することができる。
【0013】
本発明の冷却装置は、上記いずれかに記載の流量調整弁と、前記冷媒を所定方向に送り出す送流体手段と、前記冷媒を放熱する放熱手段と、前記冷媒を通過させるとともに前記冷却対象から受熱する受熱部と、を備え、前記流量調整弁と前記送流体手段と前記放熱手段とを接続する流路において前記冷媒を循環させることを特徴とする。以上のような本発明によれば、上記の流量調整弁と同様に、伝達部材及びダイヤフラムの腐食を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の弁装置によれば、冷媒として導電性流体が用いられた場合でも伝達部材及びダイヤフラムの腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一例である実施形態にかかる冷却装置を示すシステム図である。
図2】前記冷却装置に設けられた流量調整弁を示す断面図である。
図3】前記流量調整弁の要部を拡大して示す断面図である。
図4】本発明の変形例の流量調整弁の要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の冷却装置100は、図1に示すように、4つの流量調整弁1と、冷媒を所定方向に送り出す送流体手段としてのポンプ101と、冷媒を放熱する放熱手段としての放熱器102と、4つの受熱部としての冷却器(例えばコールドプレート)103と、を備え、冷媒が循環する流路を形成する。この冷却装置100は、例えば、水等の導電性の冷媒を用いることで、電気自動車やハイブリッド車等に搭載される電気機器を冷却する。即ち、電気自動車やハイブリッド車にはモータやインバータ等の発熱を伴う発熱部品が搭載されており、冷却装置100はこれらの発熱部品を冷却する。あるいは、大型のコンピュータシステムやサーバ等に搭載される電子部品を冷却する。即ち、大型のコンピュータシステムやサーバ等にはCPUやメモリ等の発熱量の大きい発熱部品が搭載されており、冷却装置100はこれらの発熱部品を冷却する。複数の発熱部品を1つのユニット(冷却対象)と捉え、図1に示す例では、冷却装置100は4つの冷却対象201~204を冷却するものとする。尚、冷却装置が冷却する冷却対象の数は任意であるが、冷却対象の数と同数の流量調整弁及び冷却器が設けられていることが好ましい。尚、冷媒として、純水やフッ素系不活性液体(例えばフロリナート(登録商標)や、ガルデン(登録商標)、ノベック(登録商標))等の絶縁性の冷媒を用いてもよい。
【0017】
4つの冷却対象201~204のそれぞれに対して冷却器103及び流量調整弁1が設けられており、4つの流量調整弁1は並列に接続されている。ポンプ101によって送り出された冷媒は、冷却対象201~204に接触するように設けられた冷却器103内を通過することで冷却対象201~204と熱交換し、流量調整弁1を通過し、放熱器102によって放熱され、再びポンプ101に戻る。尚、冷却器103は、冷媒を通過させるとともに冷却対象201~204から受熱することで受熱部として機能するものであればよく、冷却対象201~204から冷媒に充分に熱伝達させることができるものであればよい。即ち、冷却器103と冷却対象201~204とが直接接触してもよいし、熱伝達部材を介して冷却対象201~204から冷却器103に熱伝達される構成であってもよい。このとき、各々の冷却器103を通過する冷媒の流量は、後述するように流量調整弁1によって調節され、温度の高い冷却対象201~204に対して設けられた冷却器103に、より多くの冷媒が流れるようになっている。図1に示す例では、冷却対象201の温度が比較的高く、冷却対象201に対して設けられた冷却器103を通過する冷媒の流量が多くなっている。尚、冷却対象201~204の合計の発熱量に基づいて、ポンプ101が送り出す冷媒の流量が調節されてもよい。
【0018】
ポンプ101としては、液体状態の冷媒(液冷媒)を送り出すためのポンプを用いることが好ましい。このとき、冷却器103及び流量調整弁1を通過する冷媒は液体であることが好ましいが、冷却装置100の流路の一部において冷媒が気液混合状態となってもよい。放熱器102は、自然に放熱する方式であってもよいし、送風されて放熱する方式であってもよいし、あるいは、水冷方式であってもよい。
【0019】
以下に、流量調整弁1の詳細について説明する。流量調整弁1は、図2に示すように、弁本体としてのハウジング2と、一次側導管3と、二次側導管4と、弁体5と、弁体5に弁閉方向の力を付与する弁閉力付与手段としての圧縮ばね6と、駆動エレメント7と、を備える。一次側導管3と二次側導管4とは平行に延びており、これらの延在方向をX方向とし、X方向に直交する2方向をY方向及びZ方向とする。
【0020】
ハウジング2は、ハウジング本体21と、蓋体22と、を備える。ハウジング本体21は、全体が金属部材によって構成され、X方向の一方側(図2における右側)に開口した一次ポート211と、X方向の他方側(図2における左側)に開口した二次ポート212と、図2におけるZ方向の上側(以降において単に「上側」と呼ぶことがある)に開口した開口部213と、一次ポート211と二次ポート212との間に延びる第1隔壁部214及び第2隔壁部215と、第1隔壁部214に形成された弁ポート216及び連通孔217と、第2隔壁部215から図2におけるZ方向の下側(以降において単に「下側」と呼ぶことがある)に突出した筒部(ガイド部)218と、第2隔壁部215に形成された連通孔219と、を有する。
【0021】
一次ポート211と二次ポート212とは、中心部同士がZ方向にオフセットして配置され、一次ポート211の中心部の方が上側に配置されている。一次ポート211には一次側導管3が接続され、二次ポート212には二次側導管4が接続される。
【0022】
開口部213は、ハウジング本体21内に弁体5及び圧縮ばね6を配置するために形成されており、蓋体22によって閉塞されるようになっている。尚、蓋体22は、ろう付けや溶接等によってハウジング本体21に対して気密に固定されればよい。
【0023】
第1隔壁部214は、一次ポート211の下端部と二次ポート212の上端部との間においてXY平面に沿って延びる板状に形成されている。第2隔壁部215は、第1隔壁部214に対して略平行に延びるとともに、間隔を開けつつ下側に配置されている。ハウジング本体21内には、第1空間A1と第2空間A2とが形成される。第1空間A1は、一次ポート211に連通する空間であって、弁体5のうち後述するニードル部52を収容する。第2空間A2は、二次ポート212に連通する空間であって、弁ポート216を通過した冷媒が流出する。なお、第1空間A1は第1隔壁部214よりも上側に形成され、第2空間A2は第1隔壁部214と第2隔壁部215との間に形成される。
【0024】
弁ポート216は、一次ポート211から流入した冷媒を通過させるものであって、第1空間A1と第2空間A2とを連通するように第1隔壁部214に形成された貫通孔である。連通孔217は、X方向において弁ポート216よりも二次ポート212側に形成され、第1空間A1と第2空間A2とを常に連通する。即ち、ハウジング2は、弁体5が弁ポート216の周囲の弁座部216Aに着座して全閉状態となっても、一次ポート211と二次ポート212との間で冷媒が通過可能な流路を有する。
【0025】
筒部218は、円筒状に形成され、その内周面が、後述する延長部53を案内する案内面となり、その外周面が、後述する伝達部材75を案内する案内面となる。連通孔219は、第1隔壁部214に形成された連通孔217に対してZ方向から見て重なる位置に形成され、第2空間A2と、第2隔壁部215の下側における空間(後述する第3空間A3)と、を連通し、均圧孔として機能する。
【0026】
弁体5は、ハウジング2に移動自在に設けられて弁ポート216の開度を変更するものであって、上面に形成されたばね受け部51と、下側に形成されたニードル部52と、ニードル部52の先端から下側に延びる延長部53と、を有する。ばね受け部51は、圧縮ばね6と当接することでZ方向の下側への弁閉力(付勢力)が付与される部分である。ニードル部52は、下側に向かうにしたがって先細るように円錐台状に形成され、弁座部216Aに対して接近または離隔することで弁ポート216の開度(弁開度)が調節されるようになっている。延長部53は、断面円状の棒状部であって、弁ポート216を通過して後述する伝達部材75に向かって延びており、筒部218に挿通される。延長部53の外径が筒部218の内径よりも若干小さくなっていることにより、延長部53が筒部218の内周面によって案内され、弁体5がZ方向に沿って移動するようになっている。
【0027】
圧縮ばね6は、Z方向を軸方向とするコイル状に形成され、ハウジング2の蓋体22と弁体5のばね受け部51との間に配置される。圧縮ばね6は、弁体5に対して所定の弁閉力(付勢力)を付与するように、自然状態から圧縮されて配置される。即ち、蓋体22によって圧縮ばね6が所定量圧縮された状態において、蓋体22とハウジング本体21とが溶接や接着等によって固定される。このとき、蓋体22がハウジング本体21に螺合されるようになっており、蓋体22をハウジング本体21に螺合させていくことで圧縮ばね6が圧縮されていく構成としてもよい。
【0028】
図3に示すように、駆動エレメント7は、金属製の第1ケース部71及び第2ケース部72と、ダイヤフラム73と、吸着材74と、伝達部材75と、を有する。第2ケース部72は、上ケースであって、開口が形成された板部721と、板部721の外周縁から下側に向かって延びる筒状部722と、筒状部722の下端から外側に向かって延びるフランジ部723と、を有して有底筒状に形成される。第2ケース部72は、ハウジング本体21の下方側端部に対して加締め及びろう付けによって気密に固定される。
【0029】
第1ケース部71は、下ケースであって、底部711と、底部711の外周縁から上側に向かって延びる筒状部712と、筒状部712の上端から外側に向かって延びるフランジ部713と、を有し、上側に開口した有底筒状(箱状)に形成される。筒状部712には、後述する封入空間A4に封入ガスを導入するための管状の導入部714が設けられており、導入部714は、封入ガスの導入後に封止される。底部711の下面が冷却器103に接触することにより、冷却対象201~204の熱が、冷却器103を介して封入空間A4(及び吸着材74)に伝わるようになっている。即ち、第1ケース部71は、受熱部としての底部711を有することで、冷却対象201~204から受熱するように構成されている。
【0030】
ダイヤフラム73は、金属により構成され、弁体5に対して弁開力を付与可能なものであって、外周縁部がフランジ部713、723によって挟み込まれることで保持され、ダイヤフラム73とフランジ部713、723とが溶接やろう付けによって気密に固定される。上記のように第2ケース部72がハウジング本体21に対して気密に固定されることから、ハウジング本体21の下面と第2ケース部72とダイヤフラム73とによって囲まれた第3空間A3が形成される。第3空間A3は、連通孔219によってハウジング2内の第2空間A2と連通され、冷媒が導入される空間となっている。
【0031】
第1ケース部71の上側の開口がダイヤフラム73によって覆われることにより、封入空間A4が形成される。ダイヤフラム73は、第2ケース部72によって形成される第3空間A3と、第1ケース部71によって形成される封入空間A4と、を区画する。封入空間A4には、封入ガスとして、例えば二酸化炭素が封入される。封入ガスは、使用される温度域で気体状態として存在するものであり、安定性や環境負荷等を考慮して封入ガスの種類が適宜に選択されればよい。
【0032】
吸着材74は、例えば活性炭等の多孔質体であり、吸着材74の材質や表面積、空孔の大きさ等は、封入ガスの種類に応じて選択され、且つ、後述する圧力温度特性が所望の特性となるように選択されればよい。吸着材74は、包装体76内に収容され、封入空間A4の内部に設けられる。包装体76は、吸着材74が通過不能であり且つ封入ガスが通過可能な材料(例えば不織布)によって形成されている。これにより、駆動エレメント7を組み立てる際に吸着材74がこぼれてしまうことを抑制しつつ、封入ガスと吸着材74とを接触させることができるようになっている。
【0033】
第1ケース部71の底部711の中央部には、封入空間A4側に向かって凸状(下面側から見て凹状)の凸部711Aが形成されている。包装体76は、底部711に対して凸部711Aを避けるように接触するとともに、凸部711Aの上面から離隔するように配置されている。包装体76が底部711の上面に接触することで、効率よく熱伝達されるようになっている。また、凸部711Aは、溶接部となることがあり、この際、溶接部と包装体76とが離隔していることで、溶接時に包装体76が加熱されてしまうことが抑制される。尚、吸着材74及びその周囲の構成は上記に限定されず、例えば底部711に凸部711Aが形成されていなくてもよいし、吸着材74が包装体76内に収容されず、塊状の吸着材が設けられていてもよい。
【0034】
吸着材74は、封入ガスを吸着可能であるとともに温度が上昇するにしたがって吸着量が減少する特性を有する。封入ガスが封入され且つ吸着材74が設けられた封入空間A4の圧力は、温度上昇とともに高くなる。
【0035】
伝達部材75は、冷媒が導入される空間である第3空間A3に配置され、ダイヤフラム73に沿うように延びる板本体751と、板本体751から上側に突出した筒状の被案内部752と、を有する。板本体751のうち、被案内部752よりも内側の領域を板部751Aとする。板本体751は、板部751Aを含む下面全体がダイヤフラム73に当接して力を受け、板部751Aの上面が弁体5の延長部53の先端(下端面)に当接して力を伝達する。即ち、封入空間A4の圧力が上昇してダイヤフラム73が上側に凸に変位しようとすると、板本体751を介して弁体5に力が伝達され、この力が弁開力となる。このように、板本体751の下面側の全体が、ダイヤフラム73に接触する接触部754となる。尚、弁体5の延長部53と板本体751の上面とが固定されていてもよい。
【0036】
被案内部752の内径が筒部218の外径よりも若干大きくなっており、被案内部752が筒部218の外周面によって案内されることにより、伝達部材75がZ方向に沿って移動するようになっている。伝達部材75がZ方向に移動して弁開度が所定値となった際に、筒部218の先端(先端面)218Aと板部751Aの上面とが当接し、伝達部材75及び弁体5の移動が規制されるようになっており、このとき弁開度が最大となる。
【0037】
伝達部材75が移動する際、以下に説明するように力が作用する。まず、ダイヤフラム73が上側に凸に変位することで弁開度が上昇していく際、板部751Aには、下面側(他面側)においてダイヤフラム73から力が作用し、上面側(一面側)において延長部53が当接して力が作用する。即ち、伝達部材75から弁体5に力が伝達される場合、板部751Aの略同一部位に両面側から力が作用する。一方、弁開度が最大となって伝達部材75の移動が規制される際、板部751Aには、下面側(他面側)においてダイヤフラム73から力が作用し、上面側(一面側)において筒部28が当接して力が作用する。即ち、伝達部材75の移動が規制される場合、板部751Aの略同一部位に両面側から力が作用する。
【0038】
本実施形態では、接触部754を含む伝達部材75の全体が金属により構成されており、さらにこの金属は、ダイヤフラム73を構成する金属と同種のものである。ダイヤフラム73及び伝達部材75を構成する金属としては、ステンレス(SUS304やSUS316等)が例示される。これにより、ダイヤフラム73と伝達部材75との間に導電性の冷媒が存在する場合であっても、各々を構成する金属のイオン化傾向が等しいことから、金属間に電位差が生じることが抑制されている。
【0039】
上記のような流量調整弁1では、冷却対象201~204の温度が上昇した際、封入空間A4の温度も上昇し、封入空間A4の圧力が上昇する。第3空間A3と封入空間A4との圧力差に応じてダイヤフラム73が上側に凸に変位することにより、伝達部材75が移動し、弁体5も上側に移動して弁開度が上昇する。これにより、弁ポート216を通過する冷媒の流量が増大する。即ち、冷却対象201~204の温度上昇に応じて冷媒の通過量も上昇するような構成となっている。
【0040】
冷却装置100では、冷媒が流れる方向において、流量調整弁1が冷却器103に対して下流側に設けられており、即ち、冷媒が流れる方向において、放熱器102と冷却器103と流量調整弁1とがこの順で並んでいる。上記のように流量調整弁1において、冷却対象201~204の温度に応じて弁開度が変化し、通過する冷媒の流量が調節されることから、各々の冷却器103を通過する冷媒の流量が独立に変化する。
【0041】
放熱器102において冷却された冷媒は、冷却器103を通過することによって冷却対象201~204と熱交換し、温度上昇する。このように温度上昇した冷媒が流量調整弁1を通過することとなり、第3空間A3には、温度上昇した冷媒が導入される。
【0042】
以上の本実施形態によれば、冷媒が導入される第3空間A3においてダイヤフラム73に当接する伝達部材75の全体がダイヤフラム73と同種の金属により構成されていることで、冷媒として導電性流体が使用された場合でも、異種金属接触による電位差の発生を抑制することができ、伝達部材75及びダイヤフラム73の腐食を抑制することができる。
【0043】
これに対し、伝達部材75における下面側に腐食が生じた場合、伝達部材75のZ方向寸法(厚さ)が小さくなるため、ダイヤフラム73が所定量変形した場合に、弁体5を移動させる距離が本来よりも低下してしまい、封入空間A4の圧力変化に対する弁開度の特性が変化してしまう。伝達部材75の腐食を抑制することにより、このような封入空間A4の圧力変化に対する弁開度の特性の変化が生じにくく、流量調整弁の流量特性を維持しやすくすることができる。また、ダイヤフラム73の腐食を抑制することにより、ダイヤフラム73の変形に関する特性(弾性等)の変化を低減し、封入空間A4の圧力変化に対するダイヤフラム73の変形特性を保ちやすくすることができる。即ち、封入空間A4の圧力変化に対する弁開度の特性に変化が生じにくく、流量調整弁1の流量特性を維持しやすくすることができる。
【0044】
また、伝達部材75の全体が金属により構成されていることで、1種類の材料により構成することができ、容易に製造することができる。また、伝達部材75の耐荷重性を確保しやすい。
【0045】
また、伝達部材75の板部751Aが、一面側においてダイヤフラム73と当接するとともに、他面側において延長部53及び筒部28と当接することで、上記のように板部751Aの略同一部位に両面側から力が作用し、せん断応力を低減することができる。これにより、板部751Aの肉厚を薄くすることができ、伝達部材75の大型化を抑制することができる。
【0046】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、前記実施形態では、伝達部材75の全体がダイヤフラム73と同種の金属により構成されるものとしたが、伝達部材は、全体が樹脂により構成されていてもよい。このような構成によれば、前記実施形態と同様に腐食を抑制することができるとともに、低コスト化することができる。また、伝達部材の全体を樹脂により構成することで耐荷重性が低下した場合であっても、上記のように板部に対するせん断応力を低減することにより、肉厚を薄くすることができ、伝達部材の大型化を抑制することができる。
【0047】
また、伝達部材は、全体が1種類の材料によって構成されるものに限定されず、複数種類の材料によって構成されてもよい。例えば、図4に示す変形例のように、伝達部材75の基部75Aが金属により構成されるとともに、板本体751の下面(接触部754の表面)751Bが樹脂により構成されていてもよい。即ち、基部75Aが例えば黄銅により構成され、下面751Bに樹脂のコーティングが施されている構成としてもよい。図4に示す例では、筒状の被案内部752の内周面752Aも樹脂により構成されている。内周面752Aは、筒部28に対する摺接面として機能し、樹脂コーティングが施されていることで摺動抵抗が低減されている。また、板部751Aの上面751Cにも樹脂コーティングが施されており、延長部53が伝達部材75と異なる金属により構成されている場合であっても腐食が抑制される。
【0048】
図4に示す変形例によれば、前記実施形態と同様に腐食を抑制することができるとともに、基部75Aの材質の選択自由度を向上させることができる。例えば、ダイヤフラム73は変形容易であることが要求され、伝達部材75は剛性が高いことが要求される場合があるが、このような場合に、それぞれを異種金属により構成することで、要求される特性を確保しやすい。また、基部75Aが金属により構成されることで、耐荷重性を確保しやすい。
【0049】
また、図4に示す変形例において、板本体751の下面751Bが、ダイヤフラム73と同種の金属により構成されていてもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、伝達部材75において板部751Aの略同一部位に両面側から力が作用するものとしたが、伝達部材に対してダイヤフラム側から力が作用する位置と、その反対側から力が作用する位置と、がずれていてもよい。例えば、伝達部材の弁開側への移動を規制する際に、伝達部材の外周縁近傍に規制部を当接させる構成としてもよい。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…流量調整弁、2…ハウジング(弁本体)、211…一次ポート、212…二次ポート、216…弁ポート、218…筒部、218A…先端、5…弁体、53…延長部、6…圧縮ばね(弁閉力付与手段)、7…駆動エレメント、71…第1ケース部、72…第2ケース部、73…ダイヤフラム、75…伝達部材、751A…板部、754…接触部、101…ポンプ(送流体手段)、102…放熱器(放熱手段)、103…冷却器(受熱部)、201~204…冷却対象、A3…第3空間、A4…封入空間
図1
図2
図3
図4