(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】膜
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20240405BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240405BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240405BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240405BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20240405BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240405BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240405BHJP
A61K 35/39 20150101ALI20240405BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20240405BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240405BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
A61K9/70
A61P3/10
A61K35/12
A61K31/7088
A61K38/00
A61K39/395 D
A61L27/38
A61K35/39
A61K35/407
A61K35/17
B32B5/26
(21)【出願番号】P 2021518789
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(86)【国際出願番号】 GB2019052767
(87)【国際公開番号】W WO2020070484
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-26
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521136530
【氏名又は名称】ジ・エレクトロスピニング・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ジェームズ・マッキーン
(72)【発明者】
【氏名】テオドル-マテイ・チルステア
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダン・ロッブ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0150984(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107596448(CN,A)
【文献】特表2012-519559(JP,A)
【文献】特表2008-514341(JP,A)
【文献】特開2015-006400(JP,A)
【文献】特開平08-033472(JP,A)
【文献】国際公開第2006/080009(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61L
B32B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側部分(7)及び内側部分を完全に又は部分的に包囲する生体適合性膜(4、10)を含む治療用組成物(5、6)であって、生体適合性膜は少なくとも2つの層:
50%以上の気孔率、5μm未満の平均孔径を有し、10~250μmの範囲の厚さを有し、非生分解性である、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークの第1の層(1);及び
電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリマー繊維の多孔質不織ネットワークの第2の層(2)であって、第2の層(2)は第1の層(1)の気孔率と実質的に同等又はそれより高い気孔率を有し、且つ/又は第2の層(2)の平均繊維径は、第1の層(1)の平均繊維径より大きく、且つ/又は第2の層(2)の平均孔径は、第1の層(1)の平均孔径より大きい、第2の層(2)
を含み、且つ
内側部分(7)は治療薬(3)を含む、治療用組成物。
【請求項2】
生体適合性膜(4、10)が、治療薬(3)を含む内側部分(7)を部分的に又は完全に封入したポーチ又はバッグ(5、6、11)の形態にある、請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項3】
担体(8)を更に含み、担体上又は担体中に治療薬(3)が配置され、好ましくは、治療薬(3)が、
担体(8)の表面に付いている;
担体(8)の孔中に配置されている;且つ/又は
担体(8)内に封入されている、請求項2に記載の治療用組成物。
【請求項4】
第1の層(1)が、封入された内側部分(7)及び任意選択で治療薬(3)に面するか又は接し;一方で、第2の層(2)が外に面するように、ポーチ又はバッグ(6)が配列される、請求項2又は3に記載の治療用組成物。
【請求項5】
第1の層(1)が外に面し;一方で、第2の層(2)が、封入された内側部分(7)及び任意選択で治療薬(3)に面するか又は接するように、ポーチ又はバッグ(5)が配列される、請求項2に記載の治療用組成物。
【請求項6】
第1の層(1)が外に面し;一方で、第2の層(2)が、封入された内側部分(7)、担体(8)及び、任意選択で治療薬(3)に面するか又は接するように、ポーチ又はバッグ(5)が配列される、請求項3に記載の治療用組成物。
【請求項7】
生体適合性膜(10)が、第1の層(1)が2つの第2の層(2)の間に形成されている3層を含み、生体適合性膜(4)がポーチ又はバッグ(11)の形態にある場合、内側部分(7)が、第2の層(2)のうちの一方の層の内向き表面内に形成され;2つの第2の層(2)のうちの他方の層が、外向き表面を形成し;担体が、任意選択で内側部分(7)の内に配置される、請求項2又は3に記載の治療用組成物。
【請求項8】
第1の層(1)が、50%~90%、任意選択で50~80%の範囲の気孔率を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項9】
第1の層(1)が、2μm未満の平均孔径を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項10】
第1の層(1)が、10~150μmの範囲、好ましくは20~150μmの範囲、最も好ましくは50~150μm又は50~200μmの範囲の厚さを有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項11】
第1の層(1)のポリマー繊維の平均径が、700nm未満、好ましくは600nm未満、好ましくは500nm未満、最も好ましくは100~500nmの範囲、更により好ましくは50~500nmの範囲である、請求項1から10のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項12】
第2の層(2)が、ポリウレタン、又は他の任意の生体適合性の熱可塑性ポリマー若しくはポリマーブレンドである又はそれを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項13】
生体適合性膜(4、10)の第1の層(1)及び第2の層(2)が、非生分解性である、請求項1から12のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項14】
治療薬(3)が、治療用細胞、薬物、核酸、ポリヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、抗体、脂質ナノ粒子等の粒子、細胞外小胞又はエキソソームから選択され、任意選択でポリヌクレオチドは、DNA、RNA、RNAi、saRNA又はsiRNAを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項15】
生体適合性膜(4)が、担体を完全に又は部分的に包囲する、請求項3に記載の治療用組成物。
【請求項16】
担体(8)が、ポリマー繊維の多孔質不織ネットワーク、又はヒドロゲル、ゼラチン、コラーゲン(任意選択で繊維若しくはスポンジ)若しくは脱細胞化組織を含む、請求項3又は15に記載の治療用組成物。
【請求項17】
細胞(3)を含み、細胞が好ましくは膵臓のβ細胞又は膵島細胞である、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項18】
外に面する第2の層が、ヒドロゲル、ゼラチン若しくはコラーゲン(任意選択で繊維若しくはスポンジ)、又は脱細胞化組織を更に含む、請求項4又は7に記載の治療用組成物。
【請求項19】
第2の層(2)が電界紡糸繊維から形成され、
(i)気孔率が70~98%の範囲、好ましくは80~95%の範囲であり;且つ/又は
(ii)平均孔径が5~80μmの範囲、好ましくは10~50μmの範囲であり;且つ/又は
(iii)ポリマー繊維の平均径が1~10μmの範囲、好ましくは2~8μmの範囲、最も好ましくは3~7μmの範囲である
請求項1から18のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項20】
(i)第2の層(2)の気孔率が、第1の層(1)の気孔率の少なくとも120%、110%、100%以内であり、任意選択で第1の層(1)の気孔率と比較して100%~110%、100%~150%、100%~175%、又は100%~190%、又は100%から199%若しくは200%までであり;且つ/又は
(ii)第2の層(2)の平均孔サイズ/径が、第1の層(1)の孔サイズ/径の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍又は少なくとも100倍であり;且つ/又は
(iii)第2の層(2)のポリマー繊維の平均径が、第1の層(1)の直径の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍又は少なくとも100倍である、
請求項1から19のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項21】
1種又は複数の添加剤を更に含み、添加剤は、担体(8)、又は第1の層(1)若しくは第2の層(2)のうちの一方若しくは両方の内に好ましくは配置され、更に、添加剤は、VEGF等の成長因子、架橋剤、成長因子、カタラーゼ及び他の酵素;又はCaO
2若しくはヘモグロビン等の酸素放出材料、過酸化物(例えば、H
2O
2、CaO
2、MgO
2、Li
2O
2、Na
2O
2)、過炭酸ナトリウム(Na
2H
3CO
6)、パーフルオロカーボン、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(骨成長促進材料)、最も好ましくは、CaO
2及び/又はMgO
2から選択される、請求項1から20のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項22】
少なくとも2つの層を含む膜であって、
(i)第1の層(1)は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む生体適合性、非生分解性膜であり、生体適合性膜は50%以上の気孔率、5μm未満の平均孔径を有し、10~250μmの範囲の厚さを有し;且つ
(ii)第2の層(2)は、第1の層の上に配置され、第2の層(2)は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリマー繊維の多孔質不織ネットワークであり;
第2の層(2)の繊維はポリウレタンであってもよく、又はポリウレタンでなくてもよく、第2の層(2)は、第1の層(1)の気孔率と実質的に同等又はそれより高い気孔率を有し;且つ/又は
第2の層(2)は、第1の層(1)の平均繊維径より大きい第2の層(2)の平均繊維径を有し;
且つ/又は第2の層(2)の平均孔径は第1の層(1)の平均孔径より大きい、膜。
【請求項23】
第1の層(1)及び/又は第2の層(2)が、請求項1から21のいずれか一項に規定されるものである、請求項22に記載の膜。
【請求項24】
治療による人体又は動物体の処置のための方法における使用のための、請求項22又は23に記載の膜。
【請求項25】
治療用細胞を免疫保護する方法、又は(好ましくはI型)糖尿病を処置する方法における使用のための、請求項24に記載の膜。
【請求項26】
治療による人体又は動物体の処置のための方法における使用のための、請求項1から21のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項27】
治療用細胞を免疫保護する方法、又は(好ましくはI型)糖尿病を処置する方法における使用のための、請求項26に記載の治療用組成物。
【請求項28】
処置を必要とする非ヒト動物体の処置の方法であって、治療上有効な量の請求項1から
21のいずれか一項に記載の治療用組成
物を非ヒト動物体に投与することを含む方法。
【請求項29】
請求項1から21のいずれか一項に記載の治療用組成物を含む装置であって、内側部分(7)は、担体材料(8)を有する又は有しない、膵臓のベータ細胞又は膵島細胞を含む、装置。
【請求項30】
請求項1から21のいずれか一項に記載の治療用組成物を含む装置であって、内側部分(7)は肝細胞を含む、装置。
【請求項31】
請求項1から21のいずれか一項に記載の治療用組成物を含む装置であって、内側部分は赤血球及び/又は白血球、好ましくはCAR-T細胞等の改変された白血球を含む、装置。
【請求項32】
請求項1から21のいずれか一項に記載の治療用組成物を製造する方法であって、
(i)熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む生体適合性膜(4)を製造するための電界紡糸プロセス;及び
(ii)内側部分(7)が完全に又は部分的に包囲された治療用組成物を製造するための、任意選択でエッジの溶着(welding)による、生体適合性膜を形作る工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボで標的細胞へ材料の選択的な通過を可能にする、生体適合性膜に関する。特に本発明は、内側部分及び内側部分を完全に又は部分的に包囲する生体適合性膜を含む治療用組成物に関し、生体適合性膜は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む。本発明は、膜の製造方法及び治療での膜の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
真正糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しない、又はインスリンに応答しない状態である。疾病管理予防センターによれば、米国の2900万人を超える人々が真正糖尿病を抱えて生活し、8600万が糖尿病前症、人の2型糖尿病及び他の慢性疾患のリスクを増加させる深刻な健康状態を抱えて生活している。糖尿病を有する総人口のおよそ5%、又は米国のほぼ150万人が、1型糖尿病(T1D)を有している。2010年には、米国ヘルスケアシステムへのT1Dの年間コストは、およそ144億ドルであると見積もられた。1型糖尿病は、患者の免疫系が無くなり、膵臓のベータ(β)細胞を攻撃し破壊する自己免疫疾患である。ベータ細胞は、正確な量の必須ホルモンインスリンを産生することによって、血糖(グルコース)レベルを調節する役割を担っている。T1Dの患者、及び多くの2型の患者は、生存するためにインスリンを必要とする。ベータ細胞喪失がT1Dの主要な病因であるので、この疾患は細胞補充療法に対する理想的な候補である。
【0003】
細胞療法は、糖尿病の処置のために提案されてきた。細胞は、インスリンを放出する、又は放出しないことによって、血糖レベル/血清グルコースレベルに応答する必要がある。膵臓のβ細胞又はβ細胞へ分化する幹細胞のいずれかの細胞療法を開発している、いくつかの会社が存在している。インビボで成功するためには、細胞を、以下の望ましい特性を有する膜ポーチ(又は等価物)に移植する必要がある:
・血管新生を促進する(又は、少なくとも可能にする);
・グルコース分子及びインスリン分子の流動を可能にする;
・宿主免疫細胞が中に入って、導入された細胞を破壊するのを防ぐ;
・導入された細胞が(癌をもたらす可能性がある)宿主の中に逃げるのを防ぐ;
・生命にかかわる細胞を2年間(現在の商業的目標)支援する;
・(何か問題が生じた場合)容易な除去を可能にする。
【0004】
今日まで、これらの特性をすべて満たす材料は、まだ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/112190号
【文献】国際公開第2008/039530号
【文献】米国特許出願公開第2017/0325933号
【文献】CN107596448
【文献】CN103623410
【文献】CN101785875
【文献】CN101708344
【文献】CN108498857
【文献】GB2518800
【文献】国際公開第2006/080009号
【文献】国際公開第2013/117926号
【文献】米国特許出願公開第2012/0115386号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Schweicherら;Front Biosci (Landmark Ed)、2014年; 19: 49~76頁、「Membranes to achieve immunoprotection of transplanted islets」
【文献】Zondervanら; Design of a polyurethane membrane for the encapsulation of islets of Langerhans. Biomaterials. 1992年;13(3):136~144頁
【文献】Zhuoら; J Appl Polym Sci, 2008
【文献】Luoら、Biomaterials (102 (2016) 249~258頁)
【文献】Thanos, C. G., Gaglia, J. L. & Pagliuca, F. W. in Cell Therapy: Current Status and Future Directions 19~52頁(Humana Press, Cham, 2017)
【文献】Martinez,O.An Efficient Algorithm to Calculate the Center of the Biggest Inscribed Circle in an Irregular Polygon.(2012)
【文献】Greiner and Wendorff、Angew. Chem. Int. Ed. 2007、46、5670~5703頁
【文献】Weber, M., Hoheisel, A. & Glasmacher, B. (2016). Automated control of the laser welding process of heart valve scaffolds. Current Directions in Biomedical Engineering、2(1)、301~305頁
【文献】Wirth, E.ら、Preliminary Study of Ultrasonic Welding as a Joining Process for Electrospun Nanofibre Mats、Nanomaterials 8、746頁(2018)
【文献】You, Y.,Won Lee,S., Jin Lee, S. & Park, W. H. Thermal interfibre bonding of electrospun poly(l-lactic acid) nanofibres. Mater. Lett. 60、1331~1333頁 (2006)
【文献】Rianjanu, A., Kusumaatmaja, A., Suyono, E. A. & Triyana, K. Solvent vapor treatment improves mechanical strength of electrospun polyvinyl alcohol nanofibres. Heliyon 4、e00592 (2018)
【文献】Musiari, F.ら、Feasibility study of adhesive bonding reinforcement by electrospun nanofibres、Procedia Struct. Integr. 2, 112~119頁(2016)
【文献】Krishnan, L.ら、Vascularization and cellular isolation potential of a novel electrospun cell delivery vehicle. J. Biomed. Mater. Res. A 102、2208~19頁(2014)
【文献】Z.-M. Huangら、Composites Science and Technology 63 (2003) 2223~2253頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
体内の細胞材料を封入するための改善された材料を提供する必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上で議論した望ましい特性は、本発明によって、特に請求項1に記載する膜を含む治療用組成物によって提供される。
【0009】
本発明は、外部物質をインビトロ及びインビボの両方で特定の標的細胞へ送達することを制御するための、サイズ選択膜又は「分子ふるい」として作用することができる、生体適合性膜を利用する。膜は、グルコース等の溶質分子の通過を可能にするが、細胞等の大きい粒子の通過を防ぐような、好適なサイズの孔を含む。膜は、任意選択で足場上に、目的の標的細胞と一緒にパッケージ化して、疾患の処置で使用するための人工組織及び人工器官を提供することができる。有利には、膜はあらゆる封入された細胞を宿主の免疫系から遮蔽することができる。
【0010】
本発明の膜は、治療薬を含有する「ポーチ」又は「バッグ」の形態をとった、治療用組成物を形成するように形作られる。治療薬は、膜によって封入される。上で言及したように、ある分子が通過できるように、膜は選択的に浸透性である。治療薬が細胞である場合、これらは一般に膜内部(ポーチ)内側の所定位置に恒久的に保持される。しかしながら、治療薬が薬物分子等のより小さい物質である場合、これは膜を通ってポーチから拡散し、患者に入る可能性がある。
【0011】
従って、第1の態様では、本発明は、内側部分(7)及び内側部分を完全に又は部分的に包囲する生体適合性膜(4、10)を含む治療用組成物(5、6)であって、生体適合性膜は、少なくとも2つの層:
50%以上の気孔率、5μm未満の平均孔径を有し、10~250μmの範囲の厚さを有する、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークの第1の層(1);及び
電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリマー繊維の多孔質不織ネットワークの第2の層(2)であって、第2の層(2)の平均繊維径は、第1の層(1)の平均繊維径より大きく、且つ/又は第2の層(2)の平均孔径は、第1の層(1)の平均孔径より大きい、第2の層(2)
を含み、且つ
内側部分(7)は治療薬(3)を含む、治療用組成物を提供する。
【0012】
一部の実施形態では、第2の層(2)は、第1の層(1)の気孔率と実質的に同等又はそれより高い気孔率を有すると規定される。
【0013】
一部の実施形態では、第2の層(2)は、第1の層(1)の平均繊維径より大きい平均繊維径を有すると規定される。
【0014】
一部の実施形態では、第2の層(2)は、第1の層(1)の平均孔径より大きい平均孔径を有すると規定される。
【0015】
一部の実施形態では、第2の層(2)は、第1の層(1)の気孔率と実質的に同等又はそれより高い気孔率を有し、且つ第2の層(2)の平均繊維径は、第1の層(1)の平均繊維径より大きいと規定される。一部の実施形態では、第2の層(2)は、第1の層(1)の気孔率と実質的に同等又はそれより高い気孔率を有し、且つ第2の層(2)の平均孔径は第1の層(1)の平均孔より大きいと規定される。一部の実施形態では、第2の層(2)は、第1の層(1)の平均繊維径より大きい平均繊維径を有し、且つ第2の層(2)の平均孔径は、第1の層(1)の平均孔径より大きいと規定される。
【0016】
一部の実施形態では、第2の層(2)の繊維はポリウレタンであり得、一方で、それらは本明細書で規定されるもの、又は他の任意の生体適合性の熱可塑性ポリマー若しくはポリマーブレンドであり得る。一部の実施形態では、生体適合性膜(4、10)は、治療薬(3)を含む内側部分(7)を部分的に又は完全に封入した、ポーチ又はバッグ(5、6、11)の形態にある。一部の実施形態では、治療用組成物は、担体(8)を更に含み、担体上又は担体中に治療薬(3)が配置され、好ましくは、治療薬(3)は、
担体(8)の表面に付いている;
担体(8)の孔中に配置されている;且つ/又は
担体(8)内に封入されている。
【0017】
一部の実施形態では、第1の層(1)が、封入された内側部分(7)及び任意選択で治療薬(3)に面するか又は接し;一方で、第2の層(2)が外に面するように、ポーチ又はバッグ(6)が配列される(arrange)。一部の実施形態では、第1の層(1)が外に面し;一方で、第2の層(2)が、封入された内側部分(7)及び任意選択で治療薬(3)に面するか又は接するように、ポーチ又はバッグ(5)が配列される。一部の実施形態では、第1の層(1)が外に面し;一方で、第2の層(2)が、封入された内側部分(7)、担体(8)及び、任意選択で治療薬(3)に面するか又は接するように、ポーチ又はバッグ(5)が配列される。一部の実施形態では、生体適合性膜(10)は3層を含み:生体適合性膜(4)がポーチ又はバッグ(11)の形態にある場合、第1の層(1)は2つの第2の層(2)の間に形成され、内側部分(7)は、第2の層(2)のうちの一方の層の内向き表面内に形成され;2つの第2の層(2)のうちの他方の層は、外向き表面を形成し;担体は、任意選択で内側部分(7)の内に配置される。
【0018】
一部の実施形態では、第1の層(1)は、50~90%、任意選択で50~80%の範囲の気孔率を有する。一部の実施形態では、第1の層(1)は、2μm未満の平均孔径を有する。一部の実施形態では、第1の層(1)は、10~150μmの範囲、好ましくは20~150μmの範囲、最も好ましくは50~150μm又は50~200μmの範囲の厚さを有する。一部の実施形態では、第1の層(1)のポリマー繊維の平均径は、700nm未満、好ましくは600nm未満、好ましくは500nm未満、最も好ましくは100~500nmの範囲、更により好ましくは50~500nmの範囲である。
【0019】
一部の実施形態では、第2の層(2)は、ポリウレタン、又は他の任意の生体適合性熱可塑性ポリマー若しくはポリマーブレンド及び/又は他の熱可塑性ポリマー、任意選択でポリエチレンを含む本明細書に記述されたものである又はそれを含む。
【0020】
一部の実施形態では、生体適合性膜(4、10)の第1の層(1)及び/又は第2の層(2)は、非生分解性である。一部の実施形態では、治療薬(3)は、治療用細胞、薬物、核酸、ポリヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、抗体、脂質ナノ粒子等の粒子、細胞外小胞又はエキソソームから選択され、任意選択でポリヌクレオチドはDNA、RNA、RNAi、saRNA又はsiRNAを含む。一部の実施形態では、生体適合性膜(4)は、担体を完全に又は部分的に包囲する。一部の実施形態では、担体(8)は、ポリマー繊維の多孔質不織ネットワーク、又はヒドロゲル、ゼラチン、コラーゲン(任意選択で繊維若しくはスポンジ)若しくは脱細胞化組織を含む。一部の実施形態では、組成物は細胞(3)を含み、細胞は好ましくは膵臓のβ細胞又は膵島細胞である。
【0021】
外に面する第2の層を有する一部の実施形態では、第2の層(2)は、ヒドロゲル、ゼラチン若しくはコラーゲン(任意選択で繊維若しくはスポンジ)、又は脱細胞化組織を更に含む。
【0022】
一部の実施形態では、第2の層(2)は電界紡糸繊維から形成され、
(i)気孔率は70~98%の範囲、好ましくは80~95%の範囲であり;且つ/又は
(ii)平均孔径は5~80μmの範囲、好ましくは10~50μmの範囲であり;且つ/又は
(iii)ポリマー繊維の平均径は1~10μmの範囲、好ましくは2~8μmの範囲、最も好ましくは3~7μmの範囲である。
【0023】
いくつかの実施形態では:
(i)第2の層(2)の気孔率は、第1の層(1)の気孔率の少なくとも120%、110%、100%以内であり、任意選択で第1の層(1)の気孔率と比較して100%~110%、100%~150%、100%~175%、又は100%~190%、又は100%から199%若しくは200%までであり;且つ/又は
(ii)第2の層(2)の平均孔サイズ/径は、第1の層(1)の孔サイズ/径の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍又は少なくとも100倍であり;且つ/又は
(iii)第2の層(2)のポリマー繊維の平均径は、第1の層(1)の直径の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍又は少なくとも100倍である。
【0024】
上記のいかなる組合せも想定される。一部の実施形態では、「第1の層(1)の気孔率と実質的に同等又はそれより高い気孔率を有する第2の層(2)」という用語は、第2の層は第1の層より大きい気孔率を有することを意味する。一部の実施形態では、この用語は、気孔率が第1の層の気孔率と実質的に同等であることを意味し、これは、第2の層の気孔率は例えば2つの有効数字まで、第1の層の気孔率に正確に同等であることを意味することができる。同様に一部の実施形態では、第2の層の気孔率が第1の層の気孔率よりわずかに小さい可能性があるとも想定され、例えば、ここでは5%の差異が想定される。
【0025】
一部の実施形態では、治療用組成物は1種又は複数の添加剤を更に含み、添加剤は、担体(8)、又は第1の層(1)若しくは第2の層(2)のうちの一方若しくは両方の内に好ましくは配置され、更に、添加剤は、VEGF等の成長因子、架橋剤、成長因子、カタラーゼ及び他の酵素;又はCaO2若しくはヘモグロビン等の酸素放出材料、過酸化物(例えば、H2O2、CaO2、MgO2、Li2O2、Na2O2)、過炭酸ナトリウム(Na2CO3)、パーフルオロカーボン、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(骨成長促進材料)、最も好ましくは、CaO2及び/又はMgO2から選択される。
【0026】
一部の実施形態では、第2の層(2)の気孔率は、第1の層(1)の気孔率の少なくとも120%、110%、100%、90%又は80%以内である。
【0027】
一部の実施形態では、第2の層(2)の平均孔サイズ/径は、第1の層(1)の孔サイズ/径の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍又は少なくとも100倍である。一部の実施形態では、第2の層(2)の孔サイズ/径は、第1の層(1)の孔サイズ/径の100倍までである。一部の実施形態では、第2の層(2)の孔サイズ/径は、第1の層(1)の孔サイズ/径の2~5、2~10、2~20、2~50、2~100、5~10、5~20、5~50、5~100、10~20、10~50、10~100、20~50、20~100、又は50~100倍である。
【0028】
一部の実施形態では、第2の層(2)のポリマー繊維は第1の層(1)のポリマー繊維より大きい直径を有する。一部の実施形態では、第2の層(2)のポリマー繊維の平均径は、第1の層(1)の直径の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍又は少なくとも100倍である。一部の実施形態では、第2の層(2)のポリマー繊維は、第1の層(1)の直径の100倍までである。一部の実施形態では、第2の層(2)のポリマー繊維は、第1の層(1)の直径の2~5、2~10、2~20、2~50、2~100、5~10、5~20、5~50、5~100、10~20、10~50、10~100、20~50、20~100、又は50~100倍である。
【0029】
第2の層(2)又は第2の層(2)の一方の層が、(例えば、
図10及び13に示されるように)内向き表面を有する配列の利点は、担体が必ずしも必要でないということである。代わりに、第2の層(2)は、担体として機能する働きがある。
【0030】
第2の態様では、少なくとも2つの層を含む膜であって、
(i)第1の層(1)は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む生体適合性膜であり、生体適合性膜は、50%以上の気孔率、5μm未満の平均孔径を有し、10~250μmの範囲の厚さを有し;且つ
(ii)第2の層(2)は第1の層の上に配置され、第2の層(2)は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリマー繊維の多孔質不織ネットワークであり、第2の層(2)のこの繊維はポリウレタンであってもよく、又はポリウレタンでなくてもよく、第2の層(2)は、第1の層(1)の平均繊維径より大きい第2の層(2)の平均繊維径を有し、且つ/又は第2の層(2)の平均孔径は第1の層(1)の平均孔径より大きい、膜も提供される。
【0031】
一部の実施形態では、第1の層(1)及び/又は第2の層(2)は本明細書で規定される通りである。
【0032】
態様のいずれか1つにおいて、膜又は治療用組成物は、一部の実施形態では、治療による人体又は動物体の処置のための方法における使用のためのものであり得る。一部の実施形態では、膜又は治療用組成物は、(好ましくはI型)糖尿病を処置する方法における使用のためのものであり得る。
【0033】
処置を必要とする人体又は動物体の処置の方法であって、治療上有効な量の治療用組成物を人体又は動物体に投与することを含む方法、又は、治療用細胞を免疫保護する方法、若しくは(好ましくはI型)糖尿病を処置する方法における使用のための方法が提供される。更に治療用組成物を含む装置(device)であって、内側部分は、担体材料を有する又は有しない、膵臓のベータ細胞又は膵島細胞を含む、装置も提供される。更に治療用組成物を含む装置であって、内側部分は肝細胞を含む、装置も提供される。更に治療用組成物を含む装置であって、内側部分は、赤血球及び/又は、白血球(例えば、B細胞若しくはT細胞)、好ましくは改変された(engineered)白血球、例えば、CAR-T細胞(キメラ抗原レセプターT細胞)を含む、改変されたT細胞を含む、装置も提供される。
【0034】
第3の態様では、治療用組成物を製造する方法であって、
(i)熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む、生体適合性膜(4)を製造するための電界紡糸プロセス;及び
(ii)内側部分(7)が完全に又は部分的に包囲された治療用組成物を製造するための、任意選択でエッジの溶着(welding)による、生体適合性膜を形作ること
を含む方法が提供される。
【0035】
有利には、本発明の態様のいずれかによる本発明の膜は、多くの生体分子(典型的には、サイズが100nm未満である、例えばグルコース)に対して透過性であるが、このサイズより大きい分子/粒子の通過を阻止する。有利には、膜は細胞の通過に対して不透過性である。
【0036】
本発明で使用される膜は、目的の標的細胞を封入し、従って細胞の微小環境を制御するために使用することができる。ポリマー繊維のネットワークの多孔質の性質は、溶質が膜を通過し、従って目的の標的細胞に到達することを可能にする。従って、細胞は持続され、生存率が維持される。しかしながら、孔サイズは、細胞等のより大きい分子が膜を通過できないように制御される。従って、導入された細胞が宿主から漏れることを防ぐ(それは調節性の観点から不可欠である)。更に、宿主免疫細胞が標的細胞へアクセスしてそれらを破壊することを防ぐ。最終的に、膜は標的細胞を単離し、必要であると判明した場合、宿主から標的細胞を除去することを可能にする。
【0037】
従って本発明は、上に概説した望ましい特性の多くを満たすことに対処している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】実施例1で形成された治療用組成物のトップ層を示す、SEM画像の図である。
【
図2】実施例1で形成された治療用組成物のボトム層を示す、SEM画像の図である。
【
図3】
図1及び
図2の画像の組合せに相当し、両方の層が見えるSEM画像の図である。
【
図4】実施例2で作られた電界紡糸前駆体の、走査型電子顕微鏡写真の図である。
【
図5A】脱細胞化コラーゲン膜で溶着する前に、電界紡糸前駆体がどのように折られるかの概要を示す図である。
【
図5B】約60%包囲された脱細胞化コラーゲン膜を有する、治療用組成物を示す図である。
【
図5C】約80%包囲された脱細胞化コラーゲン膜を有する、治療用組成物を示す図である。
【
図5D】100%包囲された脱細胞化コラーゲン膜を有する、治療用組成物を示す図である。
【
図6A】左側の開いた入口を有する、電界紡糸前駆体から作られた治療用組成物、及び「ポーチ」の中に注入されるヒドロゲルを含有するシリンジを示す図である。
【
図6B】ヒドロゲルが治療用組成物を満たし、電界紡糸膜が完全にヒドロゲルを包囲(すなわち、100%被覆)していることを示す図である。
【
図7】LPS濃度の応答としてELISAによって測定された、IL-8放出を示す図である。
【
図8】培地でのATP検出を示す図である。*でラベル表示した試料は、バッグを除去したウェルからのものである。検出された信号は、低過ぎるのでグラフに出現しない。他の系列は、ウェル内にTHP-1細胞を有する対照ウェルからのATP放出を表す。
【
図9】より小さい直径の繊維を有する層(1)及びより大きい直径の繊維を有する第2の層(2)を含む、平らな二層の生体適合性膜(4)を示す図である。層は縮尺通りに示されておらず、一方は他方より厚いか、又は厚くない可能性がある。
【
図10】
図9からの生体適合性膜(4)が折られて1つの配列を形成する(2Dだが、これは3Dでも同様に当てはまる)ことを示す図であり、これによって、より小さい直径の繊維を有する層(1)は、バッグ又はポーチ(5)が提供される患者の皮下環境と接触することができるように、外に面する。より大きい直径の繊維を有する層(2)は、バッグ又はポーチ(5)の内側部分(7)内に入れられ得る治療薬(この場合担体(8)上に担持された細胞(3))と接触することができるように、内に面する。
【
図11】
図9からの生体適合性膜(4)が折られて(2Dだが、これは3Dでも同様に当てはまる)
図11のバッグ又はポーチ(6)を形成することを示す図であり、より小さい直径の繊維を有するこうした層(1)は、バッグ又はポーチ(6)の内側部分(7)の内に入れられ得る治療薬(この場合、担体(8)上に担持された細胞(3))と接触することができるように、内に面する。ここで層(1)は、担体の必要性を置き換えることもできる、又は、ヒドロゲル等のさらなる担体と接続することができる。より大きい直径の繊維を有する層(2)は、バッグ又はポーチ(6)が提供される患者の皮下環境と接触することができるように、外に面する。
【
図12】
図9からの生体適合性膜(4)が折られて(2Dだが、これは3Dでも同様に当てはまる)1つの配列を形成することを示す図であり、これによって、より小さい直径の繊維を有する層(1)は、バッグ又はポーチ(5)が提供される患者の皮下の環境と接触することができるように、外に面する。この実施形態では、得られるバッグ又はポーチ(9)を、内側部分(7)を含有し、それ自体が治療薬(この場合、担体(8)上に担持された細胞(3))を含有する両凹のディスクにするような方法で、生体適合性膜は折られ、調製される。
【
図13A】より大きい直径の繊維を有する2つの第2の層(2)の間に、より小さい直径の繊維を有する第1の層(1)を含む、三層の生体適合性膜(10)を示す図である。
【
図13B】折られてバッグ又はポーチ(11)を形成する、
図13Aからの三層の生体適合性膜(10)を示す(2Dだが、これは3Dでも同様に当てはまる)図であり、より大きい直径の繊維を有する外側の層(2)は、バッグ又はポーチが提供される患者の皮下環境と接触することができ、より大きい直径の繊維を有する内側の層(2)は、治療薬(この場合、担体(8)上に担持された細胞(3))を含有する内側部分(7)と接触することができる。より小さい直径の繊維を有する層(1)は、より大きい直径の繊維を有する2つの層(2)の間に位置し、外側の患者の皮下環境にも、バッグ又はポーチの内側部分(7)にも直接接触しない。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図10及び13に示される配列(すなわち、第2の層(2)又は第2の層(2)の一方の層が、内向き表面を有する)の利点は、担体が必ずしも必要でないということである。代わりに、第2の層(2)が、担体として機能する働きがある。
【0040】
Schweicherら;Front Biosci (Landmark Ed)、2014年; 19: 49~76頁、「Membranes to achieve immunoprotection of transplanted islets」は、糖尿病の処置用に移植された膵島細胞又はベータ細胞を封入し免疫保護するための半透膜の使用のレビューを提供している。この論文は、多くの有望な封入の研究及び多数の装置開発にもかかわらず、細胞の封入は、臨床設定にまだ影響を与えていないことを概説している。封入された膵島の広範囲な応用を制限しているいくつかの要因としては、免疫系からの膵島の不完全な分離及び装置内の細胞への不十分な生理的栄養素のアクセシビリティが挙げられる。
【0041】
細胞の封入用装置は、様々な有機材料及び無機材料を利用した。有機(ポリマー)材料の中で、熱可塑性ポリマーもそれらの機械的及び化学安定性に起因して使用されてきたが、ヒドロゲルが今日まで最も成功を収めた。ポリウレタンの使用は、Zondervanら; Design of a polyurethane membrane for the encapsulation of islets of Langerhans. Biomaterials. 1992年;13(3):136~144頁に言及されている。しかしながら、ポリウレタンを製造するための電界紡糸の使用は開示されていない。
【0042】
Zhuoら; J Appl Polym Sci, 2008は、電界紡糸によるポリウレタンナノファイバーの調製方法を開示している。DMF溶液から電界紡糸された、得られたナノファイバーは、約700~50nmの範囲の超微細な直径を有した。特に、溶液濃度が、ポリマー溶液の超微細な繊維への変換に影響を及ぼす主な役割を果たし、溶液濃度の増加とともに直径が増加することが見出された。
【0043】
国際公開第2008/112190号は、糖尿病の動物がインスリンを製造するための、バイオ人工膵臓及びそれを製造する方法を提供している。バイオ人工膵臓は、インスリンを分泌する細胞を導入するために使用されるフィリングポートを備えた穿孔中央部分を含有し、中央部分上での免疫遮断性膜の形成とともに、中央部分上に生体適合性ポリマーネットワークが堆積する。
【0044】
国際公開第2008/039530号は、内層及び外層を含む組織工学的に設計された椎間板を提供しており、外層はポリマーナノファイバーを含むナノファイバー状ポリマー担体であり、内層は、その中に治療用細胞が入れられ、培養されるヒドロゲル組成物を含む。
【0045】
米国特許出願公開第2017/0325933号は、すべて、電界紡糸を含む方法によって製造された合成ポリマーの皮質層(cortex layer)によって包囲された、線維芽細胞層、平滑筋層、内皮細胞層及び内腔を含む人工血管を提供している。
【0046】
CN107596448は、生体膜ステント材料及び前記膜を製造する方法を提供しており、膜は外層、中央層及び内層を含む。内層はポリウレタンから構成される電界紡糸繊維膜を含み、中央層は、ポリウレタンとCa塩を有するポリカプロラクトンとの混合物を含み、外層はCa塩を有するポリカプロラクトンを含む。
【0047】
CN103623410は、抗菌性組成物、並びに体内で使用する人工臓器及び人工組織の製造において前記抗菌性組成物を使用するインプラントを提供している。抗菌性組成物は、高圧電界紡糸を通してポリウレタンで被覆され、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの境界内に含有される抗菌剤を形成する。
【0048】
CN101785875は、極細ナノファイバー状人工血管の調製方法を提供しており、この方法は、ポリウレタン電界紡糸を使用して高い気孔率を有するプロステーゼを製造し、隣接する血管の内皮下層への細胞の増殖を抑制しながら、材料交換を促進する。
【0049】
CN101708344は、ナノファイバー人工血管及びその製造方法を提供している。人工血管の内側部分は、架橋剤及びヘパリンナトリウムとともに、ゼラチン及び氷酢酸の溶液を混合することによって調製され、その後にポリウレタンが外層として電界紡糸によって追加される。内層は血液相容性を改善し、外層は生物学的安定性を有し、且つ物理的及び機械的特性を改善することができる。
【0050】
CN108498857は、人工フラーレンキャリー髄核(artificial fullerene-carried nucleus pulposus)の調製方法を提供しており、電界紡糸によるポリウレタン膜でまわりが被覆されたキセロゲルの内層を含んでいる。これは、その水和作用及びサイズ特性に影響を及ぼすことなくキセロゲルを含有し、キセロゲルインプラントの望まない動きを防ぎ、こうした装置の貯蔵寿命を強化する。
【0051】
GB2518800は、電界紡糸生体適合性材料から得られる十二指腸内皮膜を提供しており、これは真正糖尿病及び脂肪症の処置に使用することができる。十二指腸内皮膜は十二指腸の中に入れられて、食品が腸粘膜と接触するのを抑制し、腸粘膜の細胞への食品の生理的影響を防ぐ。材料は電界紡糸から得られ、より大きい接着性、傷の低減、及びより大きいはね返りの抑制(bounce restraint)を含む、有益な医療装置特性を提供する。
【0052】
国際公開第2006/080009号は移植可能なバイオリアクターを提供し、第1のコンパートメントは患者の血管と流体連通を維持することができ、第2のコンパートメントは細胞を含有するために配置され、コンパートメントは膜によって分離されている。コンパートメントを分離する膜、又は全体としての装置は、電界紡糸ポリウレタンを含む電界紡糸材料から製作することができる。この装置は、糖尿病の処置において使用することができ、この装置にとって、細胞コンパートメントの細胞はインスリン分泌細胞である。
【0053】
Luoら、(Biomaterials (102 (2016) 249~258頁)は、2枚のPETメッシュの間にはさまれた2枚の同一の電界紡糸ポリウレタン膜の使用を記述している。この目的は、治療用細胞を含有する移植可能な免疫単離膜を製造し、内側の細胞への栄養素の供給に影響を与えるおそれがある移植後の線維性堆積を妨げることである。それは、生体適合性膜に基づくフラットなマイクロ封入装置を提供する。別のPETメッシュは、構造的安定性を提供するために使用される。
【0054】
ここで本発明に言及すると、内側部分は、治療用組成物の内部を含む。内側部分は、生体適合性膜によって完全に又は部分的に包囲される。「包囲する」とは、生体適合性膜が内側部分を三次元で包む又は囲むことを意味し、内側部分が典型的には、少なくとも50%、より好ましくは60%、70%、80%、90%又は95%生体適合性膜によって包囲されることを意味する。
【0055】
内側部分は一般に中空ではなく、実質的に連続的な塊から形成されている。内側部分は、例えば、その上に、又はその中に治療薬が配置される、担体(足場を含む)を含むことができる。従って、治療用組成物は、一般に、生体適合性膜によって封入される内側部分を有する、完全に囲まれた連続的な塊である。
【0056】
治療用組成物は、形状が一般に管状ではなく、すなわち、好ましくは、外環境に接触する空洞化部分を有さない。治療用組成物は、パッケージ、ポーチ又はバッグの形態をとることができる。
【0057】
本発明の文脈において、「ポーチ」及び「バッグ」という用語は、ポーチ又はバッグを構成する材料がその中に意図した内容物を入れることができる環境の外側の境界を形成し、ポーチ又はバッグの意図した入口及び出口以外の場所から、意図した内容物が進入及び退出することを排除する、非剛性の容器を示すという通常の意味を有する。前記入口及び出口を密閉して、ポーチ又はバッグの内部をポーチ又はバッグを構成する材料で完全に包囲することができる。本発明では、ポーチ又はバッグを形成する生体適合性膜は、治療薬に関して不透過性であり、従って治療薬より小さい選択された分子に対して透過性である一方で、治療薬を抑制する際にバッグ又はポーチとして作用する。本発明のポーチ又はバッグは、とりわけ、円、正方形及び他の多角形に基づく様々な形状及び構造を採用することができ、とりわけ、ディスク、直方体及び他の多面体を形成することができる。
【0058】
ポーチ又はバッグは、形状がおよそ球状であり得る。それは、0.5~10cm、好ましくは1~5cmの範囲の平均最大直径を有することができる。
【0059】
本発明の文脈において、担体は本明細書で定義され、本明細書でも言及されるように、足場を含むことができる。例えば、担体はヒドロゲル又はコラーゲン繊維であり得るが、コラーゲンは足場としても記述することができる。
【0060】
一部の実施形態では、治療用組成物(5、6)は、両凹のディスク形状、例えば、赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))に類似して形成される。例を、
図12の(9)として示す。例えば、好適な材料のOリングを使用して、両凹のディスクの周辺まわりの構造を提供することによって、両凹のディスク形状を形成及び維持するのを助けるために使用することができる。
【0061】
部分的に包囲されたとは、生体適合性膜は内側部分を完全に包囲していないが、ある程度の被覆を提供することを意味する。内側部分は、典型的には少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%生体適合性膜によって包囲される。
【0062】
完全に包囲されるとは、内側部分が生体適合性膜によって完全に封入される(すなわち100%包囲される)ように、生体適合性膜が内側部分を完全に被覆する、包む又は囲むことを意味する。
【0063】
本発明による膜は、電界紡糸によって製造されたシート状のポリウレタン材料である。本発明による電界紡糸ポリウレタンは、リノール酸と直鎖ポリ(エーテルウレタン)の混合物をジクミル過酸化物で架橋することによってポリウレタンネットワークが形成される、上で議論した、Zondervanらが開示した方法によって製造されたポリウレタン材料とは構造的に異なる材料を提供する。電界紡糸プロセスは、従来技術の方法と比較して、より均一でより調整可能なポリウレタン繊維のネットワークをもたらす。
【0064】
好ましくは、繊維はナノファイバーである。「ナノファイバー」という用語は、直径がnm又はμmで好都合に測定されるごく細い繊維を意味する。
【0065】
従って膜におけるポリマー繊維の平均径は、1000nm未満、典型的には900nm、800nm、700nm、600nm又は500nm未満、最も好ましくは100~500nm又は50~500nmの範囲である。平均繊維径のまわりの繊維径分布の相対標準偏差は、典型的には30%以下である。
【0066】
典型的には、足場におけるポリマー繊維の平均径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定される。通常、平均からの標準偏差もSEMによって測定される。
【0067】
繊維のネットワークは空間における繊維のランダム分布であり、繊維間に間隔を置いて相互連結する網を形成する。ネットワークは、ネットワークを構成する繊維間に小さい空間を有し、ネットワーク中に孔又はチャネルを形成して、流体が通過することを可能にする。
【0068】
繊維の多孔質ネットワークは不織ネットワークであり、すなわち、多孔質ネットワーク中で、繊維は典型的にはランダムに配向する。従って、繊維の多孔質不織ネットワーク中のポリマー繊維は、これといったいかなる特定の配向も有さず、すなわち、多孔質不織ネットワーク中の繊維は、典型的にはランダムに配向する、又は少なくともランダム配向に近づいている。膜におけるポリマー繊維の整列の度合は、完全にランダムでなければ、従って低い。
【0069】
バリア膜と呼んでもよい膜は、サイズ選択的である、すなわち、あるサイズの分子又は粒子に対して選択的に多孔質である。バリア膜に関する以下の議論は、特に、第1の層(1)に当てはまる。
【0070】
従って本発明による膜は、サイズ選択的バリアとして作用する。多孔質膜は、細胞に対して透過性ではない。膜における孔又はチャネルは、イオン、代謝物質、タンパク質、及び/又は生理活性分子(例えば、グルコース)の拡散を可能にするほど十分大きいが、細胞がナノファイバーネットワークを浸透し透過するのを防ぐ。膜を通る流体及び分子の流れは、当該技術分野で公知の技術を使用して測定することができ、例は本明細書に記述されている。
【0071】
治療用分子及び栄養素の流動特性は、1×10-6cm2/秒~1×10-7cm2/秒の範囲、理想的には最低1×10-5cm2/秒の値であり得る。流動特性は、文献(Thanos, C. G., Gaglia, J. L. & Pagliuca, F. W. in Cell Therapy: Current Status and Future Directions 19~52頁(Humana Press, Cham, 2017))に記述されている他のタイプのバリア膜と同等であるべきである。
【0072】
本発明によるバリア膜は、繊維のネットワークを含む材料の薄く、柔軟で、シート状の層として定義され得る。それは、境界又は被膜として作用し得る。例えば、膜は、生体の仕切りとして作用し得る。
【0073】
本発明の典型的なバリア膜は、25~250μm、例えば、10又は20~150μmの範囲の厚さを有する。
【0074】
バリア膜は、典型的には、50%以上、例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%以上の気孔率を有する。換言すれば、膜は、(流体が膜を透過していない場合)典型的には50%より大きい、例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%以上の体積の空気を有する。好ましい実施形態では、気孔率は50~80%の範囲である。
【0075】
バリア膜におけるポリマー繊維の多孔質ネットワークは、例えば、0.5~100μm、例えば1μm~10μm、好ましくは20、15、10又は5μm未満の平均孔径を有し得る。膵臓中のランゲルハンス島は、典型的には100~200μmの直径を有し、そのためこうした孔はこうした細胞の通過を防ぐであろう。だが、孔サイズは足場を通ってどれだけ遠くまで測定するかに依存し、ナノファイバーのランダム配向に起因して2つの孔が同じ形状であることはないので、孔サイズを正確に測定するのは困難であり得る。これに対処するために、孔サイズは、SEMを採用し、孔の不規則な多角形の内側に最大内接円を当てはめることによって、測定することができる。次に、膜の所与の試料について平均を計算することができる。
【0076】
孔サイズは、典型的な細胞の直径未満(およそ20ミクロン未満)であるように調整される。こうした気孔率は、足場の膜を通って細胞が増殖するのを防ぐのに有益である。孔サイズは、平均孔面積から以下の式を使用して、計算することができる。
【0077】
【0078】
式1:平均孔面積(A)を平均孔径(d)へ変換するために使用される式。
【0079】
本発明では、例示的な孔サイズは、3本以上の繊維の交差によって形成される、不規則な多角形に当てはめることができる最大内接円の直径として定義され得る。このプロセスの数学的な記述は、Martinez,O.An Efficient Algorithm to Calculate the Center of the Biggest Inscribed Circle in an Irregular Polygon.(2012)に見出すことができる。
【0080】
膜は、孔サイズ、気孔率又は平均繊維径の勾配を有する可能性がある。本発明の1つの好ましい実施形態では、膜は二層構造を有し、孔サイズ、気孔率及び/又は平均繊維径は2つの層で異なる。
【0081】
不織ネットワークの気孔率、平均孔径及び平均繊維径は、例えば、Greiner and Wendorff、Angew. Chem. Int. Ed. 2007、46、5670~5703頁で説明されているように、相互に関係している。
【0082】
膜を形成するために使用されるポリマーは、生体適合性ポリマーである。膜は、非細胞毒性である。好ましくはポリマーは、生腐食性(bioerodible)ポリマー又は生分解性ポリマーではない。ポリマーは、熱可塑性ポリウレタンポリマーである。一般にポリウレタンは、耐久性(非吸収性)ポリマーである。このことは、いずれ必要な場合、治療用組成物を体から容易に取り出すことを可能にする。
【0083】
熱可塑性ポリウレタンは、一部の実施形態では、ポリカーボネート-ウレタンであり得る。熱可塑性ポリウレタンは、一部の実施形態では、シリコーン-ポリカーボネート-ウレタンであり得る。熱可塑性ポリウレタンは、一部の実施形態では、ポリエーテル-ウレタンであり得る。熱可塑性ポリウレタンは、一部の実施形態では、シリコーン-ポリエーテル-ウレタンであり得る。熱可塑性ポリウレタンは、一部の実施形態では、ポリエステル-ウレタンであり得る。熱可塑性ポリウレタンは、一部の実施形態では、ポリオール-ウレタンであり得る。熱可塑性ポリウレタンは、一部の実施形態では、ポリエステル-エーテル-ウレタンであり得る。
【0084】
本発明による膜は、ポリマー繊維のネットワークに加えて他の成分を含んでもよい。
【0085】
膜を形成するポリマーネットワークは、一般に均一であり、異なる形態へ順応性があり、制御可能な構造及び特性を有する。
【0086】
本発明による治療用組成物は、治療薬、例えば、1つ又は複数の薬物又は細胞と一緒に、本発明の第1の態様による膜を含む。膜は、治療薬を部分的に又は完全に封入することができる。膜は、典型的には治療用組成物の外側部分を形成し、治療薬は内側部分を形成する。
【0087】
本発明の膜によってマイクロ封入された細胞は、好ましくは足場である担体上又は担体中に担持され得る。本発明で細胞を担持する足場は、有利には、機械的強度を提供し、繊維の多孔質ネットワークの開口気孔構造の完全性を維持するのに好適である成分を更に含むことができる。この第2の成分は、繊維の多孔質ネットワークの変形又は延伸を有利に制限することができ、それによって、細胞増殖を促進する多孔質ネットワークの気孔率及び孔サイズへの必然的で有害な変化を最小限にすることができる。足場上に配置される細胞を有する、足場を調製する方法は、国際公開第2013/117926号に開示されている。
【0088】
足場は細胞増殖を支えるのに好適であり、一般に、繊維の多孔質ネットワークを含む。繊維は、典型的にはポリマーである。本発明の足場は、細長い、又は円柱形であり得る。
【0089】
或いは、治療薬を異なる担体材料と混合してもよい。好適な材料としては、ヒドロゲル、ポリマー発泡体及び脱細胞化組織、並びに/又はアルギネートが挙げられる。
【0090】
バリア膜、すなわち、第1の層(1)は、一部の実施形態では、材料の外層、例えば第2の層(2)によって包囲され得る。外層(第2の層)は、バリア膜(第1の層)を完全に又は部分的に包囲することができる。典型的には、材料のこの外層は、生体適合性膜のトップの上にさらなる層を形成する。外層は、インビボでの接着性及び血管新生を促進するように作用することができる。外層は、電界紡糸繊維及び/又は他の担体足場材料(例えば、ヒドロゲル、ゼラチン発泡体、脱細胞化組織等)から形成され得る。
【0091】
この外層は、細胞封入装置の文脈において、以下で更に議論される。
【0092】
本発明の治療用組成物は、目標組織、例えば、損傷組織又は患部組織の中へ、治療用細胞をより効率的に移植するために使用することができる。例えば、こうした治療用組成物は、細胞に体内の最適位置へのアクセスを提供することができる。本発明の治療用組成物は、器官代用物として作用することができる。細胞は、例えば膵臓のβ細胞であることができ、治療用組成物は人工の治療用膵臓として作用することができる。或いは、細胞は幹細胞であってもよい。
【0093】
従って、治療用組成物は、糖尿病の処置、特に糖尿病I型の処置に有用であり得る。
【0094】
一部の実施形態では、細胞タイプ又は処置は、以下のいずれか1つ又は複数と関係があり得る。一部の実施形態では、治療用使用又は細胞タイプは、糖尿病細胞治療:膵臓のβ細胞だけではなく、それらへの発展途上の細胞、例えば、iPSC、hPSC及び/又はhES、膵臓の前駆体、内分泌腺の前駆体、及びβ細胞と関連するものである。
【0095】
一般に、一部の実施形態では、細胞タイプは、任意の幹細胞又は前駆細胞であり得る。例としては、所望の表現型に分化する(幹細胞又は前駆細胞を含む)細胞であり得る。
【0096】
一部の実施形態では、治療はAMD(加齢黄斑変性症)に関するものである。一部の実施形態では、従って、細胞タイプは網膜色素上皮細胞であり得る。
【0097】
一部の実施形態では、治療は血友病又は癌、特に白血病等の血液癌に関するものである。一部の実施形態では、従って、細胞タイプは第IX因子(FIX)及び第XIII因子を産生する肝細胞であり得る。
【0098】
一部の実施形態では、細胞は、1つ又は複数の遺伝子改変細胞である又はそれを含むことができる。例えば、白血球。一部の実施形態では、白血球が患者又は組織適合(tissue match)から抽出され、エキソビボで改変され、次に、患者に戻された可能性がある。一部の実施形態では、治療はALSに関してである。一部の実施形態では、従って、細胞タイプはアストロサイトであり得る。
【0099】
処置は、本発明の組成物を、人体又は動物体の中へ、例えば、肝臓の近くに、外科的に移植することを含み得る。
【0100】
本発明の治療用組成物は、体内の治療用細胞の生存を有利に改善することができる。
【0101】
本発明の治療用組成物は、注入又はカテーテルによって組織への送達を促進することができるので、典型的には細長く、例えば円柱形であり得る。しかしながら、更に以下で議論するように、治療用組成物は原則として任意の形状であり得る。一部の実施形態では、それは、一般に中空管の形状ではない。
【0102】
従って、治療用組成物は、多角柱の形状を有してもよい。多角柱は、例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、七角柱、八角柱、九角柱又は十角柱であり得る。多角柱は、例えば、六角柱であり得る。しばしば、多角柱は直角柱(right prism)であり、これは例えば、直角三角柱、直角四角柱、直角五角柱、直角六角柱、直角七角柱、直角八角柱、直角九角柱又は直角十角柱であり得る。多角柱は、例えば、直角六角柱であり得る。しばしば、多角柱は直角正角柱(right regular prism)であり、これは、例えば、直角正三角柱、直角正四角柱、直角正五角柱、直角正六角柱、直角正七角柱、直角正八角柱、直角正九角柱又は直角正十角柱であり得る。多角柱は、例えば、直角正六角柱であり得る。
【0103】
治療用組成物は、円柱又は多角柱の形状を有することができる。多角柱は、例えば、更に上で定義されたようであり得、例えば、それは直角正多角柱であり得る。
【0104】
治療用組成物が円柱又は多角柱の形状を有する場合、高さは、例えば、5mm~10cmであり得る。しばしば、円柱又は多角柱の高さは、8mm~8cm、又は例えば1cm~6cmである。
【0105】
治療用組成物が円柱又は多角柱の形状を有する場合、円柱又は多角柱の直径は、典型的には2mm~5cmである。円柱の直径の意味はよく理解される。多角形の直径もよく理解され、任意の組の頂点間の最大距離である。従って、多角柱の直径は、角柱のいずれかの多角面上の任意の組の頂点間の最大距離である。従って六角柱の場合、特に直角正六角柱の場合、直径は、角柱のいずれかの六角面の直径であり、六角面の頂点(又は2つの辺の交点)から、面の中心を通って、(面の、2つの向かい側の辺が交差する)面の向かい側の頂点まで測定される。
【0106】
円柱又は多角柱の直径は、例えば4mm~3cm、又は例えば6mm~2cmであり得る。
【0107】
有利には、本明細書で記述されるサイズ、高さ及び直径の範囲内にある治療用組成物は、一般に、細胞の2D層に対して3D細胞培養の利点を提供するのに十分なすべての三次元に広がる、細胞増殖を支えるのに十分大きい。
【0108】
電界紡糸は、典型的には、多孔質、不織、繊維状、ポリマー膜のフラットなシートを製造する。こうした膜の工業的生産の間に、これらは一般に、回転ドラム上、フラットコレクター上又はロールツーロール様式で収集される。こうした膜が免疫保護細胞封入装置として使用されるためには、適切に形作られる必要がある。これは、2枚のシート若しくはシートの一部を一緒に結合する、又は1枚のシートの一部をそれ自身の上に折ることによって達成される。結合は、当該技術分野で公知の様々な技術、例えば、レーザー溶着(Weber, M., Hoheisel, A. & Glasmacher, B. (2016). Automated control of the laser welding process of heart valve scaffolds. Current Directions in Biomedical Engineering、2(1)、301~305頁)、音波溶着(sonic welding)(Wirth, E.ら、Preliminary Study of Ultrasonic Welding as a Joining Process for Electrospun Nanofibre Mats、Nanomaterials 8、746頁(2018))、熱溶着(You, Y.,Won Lee,S., Jin Lee, S. & Park, W. H. Thermal interfibre bonding of electrospun poly(l-lactic acid) nanofibres. Mater. Lett. 60、1331~1333頁(2006))、溶媒結合(Rianjanu, A., Kusumaatmaja, A., Suyono, E. A. & Triyana, K. Solvent vapor treatment improves mechanical strength of electrospun polyvinyl alcohol nanofibres. Heliyon 4、e00592 (2018))又は接着(Musiari, F.ら、Feasibility study of adhesive bonding reinforcement by electrospu
n nanofibres、Procedia Struct. Integr. 2, 112~119頁(2016))によって達成することができる。
【0109】
更に、電界紡糸材料の小さなサイズの管状構造を数mm~cmの直径範囲で製造することは、当該技術分野で周知の技術である(Krishnan, L.ら、Vascularization and cellular isolation potential of a novel electrospun cell delivery vehicle. J. Biomed. Mater. Res. A 102、2208~19頁(2014))。上述の結合技術と小さい管の製造との組合せを使用して、本発明で使用する囲まれた治療用装置を形成することができる。
【0110】
電界紡糸材料が製造された後、それは所望のサイズ及び形状へ切断され得る。次に、それを折り重ね、(例えば、音波溶着により)自身に固着して(stick)、最終的な3-次元製品を生成することができる。或いは、別の2片の電界紡糸材料を、音波溶着によって一緒に固定して、バッグ又はポーチを作り出すことができる。任意選択で、さらなる層、例えば、コラーゲン繊維を(例えば、コラーゲン膜の形態で)最終製品に追加してもよく、これが電界紡糸膜を異なる程度に包囲してもよい(例えば、それが部分的に又は完全に電界紡糸膜を包囲してもよく、例えば、それが60、80又は100%だけ包囲してもよい)。本発明は、(i)細胞、生体分子又は他の活性剤;及び(ii)足場を含む、治療用組成物を更に提供する。生体分子又は他の活性剤は、薬物、核酸、ヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、抗体又はエキソソームであり得る。核酸は、DNA、RNA、RNAi、SaRNA又はSiRNAを含むことができる。任意選択で、治療用組成物は、(i)細胞、例えば、付着性治療用細胞、及び(ii)足場を含む。細胞は、足場の繊維の多孔質ネットワーク内に配置され得る。細胞は、足場の孔中に配置され得る。細胞は、足場の表面上に配置され得る(例えば、付着し得る)。細胞は足場の孔に配置され得、且つ足場の表面上にも配置され得る(例えば、付着し得る)。
【0111】
足場のポリマーは、膜における繊維のポリマーと同じポリマーであるか、又は異なるポリマーであり得る。しばしば、それは同じポリマーである。本発明の一実施形態では、足場は、コラーゲン、コラーゲン繊維又はコラーゲンスポンジから形成することができる。好適なポリマーは、以下で更に議論される。
【0112】
本発明の治療用組成物では、膜は、内側部分の少なくとも一部のまわりに配置され得る。
【0113】
本発明は、有利には、治療用細胞の封入、並びに続く患者の体内への移植、及び必要な場合の回収のための装置も提供する。この装置は、本発明の第1の態様による治療用組成物の好ましい実施形態である。
【0114】
この装置は好ましくは:治療薬を含む、封入される内側部分;本明細書で開示され、内側部分を封入する、バリア膜層(第1の層);及びバリア膜層を包囲する外層(第2の層)を含むことができる。
【0115】
本明細書で外層への言及は、第2の層を指すと理解することもできる。
【0116】
装置の外層は、1つ又は複数の異なる層を含むことができる。
【0117】
バリア膜は、移植された治療用細胞が患者の中に流出することを防ぎ、且つ患者の免疫細胞が治療用細胞へ到達することを防ぐ。
【0118】
外層は、典型的には細胞透過性材料、例えば、内側のバリア膜に隣接した血管新生を可能にする足場材料である。
【0119】
好ましい実施形態では、外層は比較的大きい直径(典型的には、1000~10000nmの範囲)の電界紡糸繊維を含む。外層は、典型的には膜層より大きい気孔率、孔サイズ及び平均繊維径を有する。
【0120】
好ましくは、外層は電界紡糸ポリウレタン繊維から形成され、
(i)気孔率は70~98%の範囲、好ましくは80~95%の範囲であり;且つ/又は
(ii)平均孔径は5~80μmの範囲、好ましくは10~50μmの範囲であり;且つ/又は
(iii)ポリマー繊維の平均径は1~10μmの範囲、好ましくは2~8μmの範囲、最も好ましくは3~7μmの範囲である。
【0121】
好ましくは外層は、繊維、好ましくは電界紡糸ポリウレタン繊維から形成される。外層は、吸収性又は非吸収性であり得る。或いは、外層はヒドロゲルであり得る。さらなる態様では、それは脱細胞化組織を含み得る。
【0122】
内側部分は、治療薬と一緒に任意選択で担体材料を含む。この材料は、治療用組成物に関連して上で議論した足場材料であり得る。内側部分の材料は、事実上繊維状、例えば、電界紡糸ポリウレタン繊維であり得る。或いは、それはヒドロゲル、発泡体、又は組織アルギネート、ゼラチン若しくはコラーゲン(任意選択で繊維若しくはスポンジ)、又は脱細胞化組織であり得る。
【0123】
好ましくは、内側部分(任意の担体若しくは足場を含む)及び/又は外層(すなわち、第2の層)は、繊維から形成された材料を含み得る。こうした繊維は、典型的には生体適合性ポリマーを含む。任意の好適な生体適合性ポリマーを用いることができ、生体適合性ポリマーは、例えば、天然ポリマー又は合成ポリマーである。一部の実施形態では、ポリマーは生腐食性又は生分解性のポリマーである。
【0124】
前節における内側部分(任意の担体又は足場を含む)及び/又は外層(すなわち、第2の層)の繊維は、例えば以下のいずれかのポリマー:ポリ(L-ラクチド);ポリ(グリコール酸);ポリヒドロキシ酪酸;ポリスチレン;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリ(エチレンオキシド);ポリ(エステルウレタン);ポリ(ビニルアルコール);ポリアクリロニトリル;ポリラクチド;ポリグリコリド;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリアミド;脂肪族ポリアミド;芳香族ポリアミド;ポリベンズイミダゾール;ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ[エチレン-co-(ビニル)アセテート];ポリ(塩化ビニル);ポリ(メタクリル酸メチル);ポリ(ビニルブチラール);ポリ(ビニリデン)フルオリド;ポリ(ビニリデン(フルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン);酢酸セルロース;ポリ(酢酸ビニル);ポリ(アクリル酸);ポリ(メタクリル酸);ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;ポリ(フェニレンスルフィド);ヒドロキシプロピルセルロース;ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリシルシスキオキサン、シリコーン、エポキシ、シアン酸エステル、ビスマレイミドポリマー;ポリケトン、ポリエーテル、ポリアミン、ポリホスファゼン、ポリスルフィド、有機/無機ハイブリッドポリマー若しくはこれらのコポリマー、例えば、ポリ(ラクチド-co-グリコリド);ポリラクチド-co-ポリ(ε-カプロラクトン)若しくはポリ(L-ラクチド)-co-ポリ(ε-カプロラクトン);又はこれらのブレンド、例えば、ポリ(ビニルアルコール)とポリ(アクリル酸)のブレンドを含むことができる。
【0125】
繊維は、生腐食性又は生分解性ポリマー、例えば、ポリ(L-ラクチド);ポリ(グリコール酸);ポリヒドロキシ酪酸;及びポリ(エステルウレタン)から選択されるポリマーを含んでもよい。
【0126】
繊維は、或いは、例えば、バイオポリマー、又は合成ポリマーとバイオポリマーのブレンドを含んでもよい。例えば、以下のバイオポリマー、及び合成ポリマーとバイオポリマーのブレンド:コラーゲン;コラーゲン/ポリ(エチレン)オキシド;コラーゲン/ポリ(ε-カプロラクトン);コラーゲン/ポリラクチド-co-ポリ(ε-カプロラクトン);ゼラチン;ゼラチン/ポリ(ε-カプロラクトン);ゼラチン/ポリ(エチレンオキシド);カゼイン/ポリ(ビニルアルコール);カゼイン/ポリ(エチレンオキシド);リパーゼ;セルラーゼ/ポリ(ビニルアルコール);ウシ血清アルブミン/ポリ(ビニルアルコール);ルシフェラーゼ/ポリ(ビニルアルコール);α-キモトリプシン;フィブリノーゲン;絹;再生絹;再生カイコ絹;カイコ絹/ポリ(エチレンオキシド);絹フィブロイン;絹フィブロイン/キトサン;絹フィブロイン/キチン;絹/ポリ(エチレンオキシド)(共軸(coaxial));人工スパイダーシルク;キチン;キトサン;キトサン/ポリ(エチレンオキシド);キトサン/ポリ(ビニルアルコール);四級化キトサン/ポリ(ビニルアルコール);ヘキサノイルキトサン/ポリラクチド;セルロース;又は酢酸セルロース、が使用され得る。
【0127】
繊維は、或いは、例えば、2種又はそれ以上のポリマーのブレンド、コポリマー(例えば、ブロックコポリマーであり得る)、又は無機材料とポリマーのブレンドを含むことができる。
【0128】
2種又はそれ以上のポリマーのこうしたブレンドの非限定的な例としては、ポリビニルピロリドン/ポリラクチドブレンド;ポリアニリン/ポリスチレンブレンド;ポリアニリン/ポリ(エチレンオキシド)ブレンド;ポリ(塩化ビニル)/ポリウレタンブレンド、ポリ[(m-フェニレンビニレン)-co-(2,5-ジオクチルオキシ-p-フェニレンビニレン)]/ポリ(エチレンオキシド)ブレンド;ポリ[2-メトキシ-5-(2'-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン](MEH-PPV)/ポリスチレンブレンド、ポリアニリン/ポリスチレンブレンド;ポリアニリン/ポリカーボネートブレンド、ポリ(エチレンテレフタレート)/ポリ(エチレンテレフタレート)-co-ポリ(エチレンイソフタレート)ブレンド、ポリスルホン/ポリウレタンブレンド;キトサン/ポリラクチドブレンド、ポリグリコリド/キチンブレンド、及びポリラクチド/ポリ(ラクチド-co-グリコリド)ブレンドが挙げられる。
【0129】
こうしたブロックコポリマー系の非限定的な例としては、ポリラクチド-b-ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマー;ポリ(ラクチド-co-グリコリド)-b-ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマー;ポリ[(トリメチレンカーボネート)-b-(ε-カプロラクトン)]ブロックコポリマー;ポリスチレン-b-ポリジメチルシロキサン及びポリスチレン-b-ポリプロピレンブロックコポリマー;ポリスチレン-b-ポリブタジエン-b-ポリスチレンブロックコポリマー並びにポリスチレン-b-ポリイソプレンブロックコポリマーが挙げられる。
【0130】
従って、ナノファイバーは、例えば、前節で列挙されたいずれかの材料を含むことができる。上記のポリマー、コポリマー、及び2種又はそれ以上のポリマーのブレンドを含むナノファイバーの足場は、Greiner and Wendorff、Angew. Chem. Int. Ed. 2007、46、5670~5703頁に詳述されている電界紡糸によって製造することができる。
【0131】
本発明の治療用組成物又は装置は、好ましくは電界紡糸材料の繊維と混合された添加剤を更に含んでもよい。こうした添加剤としては、VEGF等の成長因子を挙げることができる。添加剤は、或いは、CaO2又はヘモグロビン等の酸素放出材料であってもよい。膵島移植の重大な問題が低酸素状態に起因する膵島の早期死亡であるので、酸素放出剤を有することによって、低酸素症に対処することができる。別の添加剤としては、架橋剤が挙げられる。例えば、ヒドロゲルの架橋用のカルシウムイオン。好適な添加剤は、以下:ヘモグロビン、過酸化物(例えば、H2O2、CaO2、MgO2、Li2O2、Na2O2)、過炭酸ナトリウム(Na2CO3)、パーフルオロカーボン、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(骨成長促進材料)、成長因子、カタラーゼ及び他の酵素から選択され得る。他の添加剤としては、一部の実施形態では、抗菌剤、抗ウイルス薬、抗真菌剤、及び/又は銀ナノ粒子を挙げることができる。
【0132】
成長因子の例としては、以下:コロニー刺激因子(m-CSF、G-CSF、GM-CSF)、表皮成長因子(EGF)、エリトロポイエチン(EPO)、線維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子(HGF)、肝臓癌由来成長因子(HDGF)、インターロイキン、ケラチン生成細胞成長因子(KGF)、移動刺激因子(MSF)、肝細胞成長因子様タンパク質(hepatocyte growth factor-like protein)(HGFLP)としても知られるマクロファージ刺激タンパク質(MSP)、ミオスタチン(GDF-8)、ニューレグリン(例えば、ニューレグリン1、2、3又は4)、ニューロトロフィン(例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン-3又は4)、胎盤の成長因子(PGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、レナラーゼ(RNLS)、T-細胞成長因子(TCGF)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF-α)又はベータ(TGF-β)等のトランスフォーミング成長因子、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、血管内皮成長因子(VEGF)又はWntシグナル伝達経路に関与する因子のいずれか1つ又は複数を挙げることができる。
【0133】
特に、成長因子は、インスリン及び/又はインスリン様成長因子であり得る。上で言及したインターロイキンを含むサイトカインも好ましい。
【0134】
添加剤は、本発明の組成物又は装置のいずれかの成分層に存在し得る。それは、好ましくは外側部分及び/又は内側部分に存在する。
【0135】
しばしば、本発明の治療用組成物又は装置における細胞は、付着性治療用細胞を含む。付着性細胞は、付着性細胞の培養用に特に処理された培養容器に付着することができる細胞である。付着性細胞の概念は、当業者に周知である。当業者は、細胞が付着性かどうかを識別することができる。治療用細胞は、治療効果を有することができる細胞である。治療用細胞は、典型的には生細胞である。治療用細胞は、典型的には損傷組織又は患部組織を修復することができる細胞である。治療用細胞は、好ましくは自家性である。換言すれば、細胞は、好ましくは、損傷組織又は患部組織を修復するために細胞が投与される患者に由来する。或いは、細胞は好ましくは同種異系である。換言すれば、細胞は、好ましくは、損傷組織又は患部組織を修復するために細胞が投与される患者と、免疫学的に適合性がある患者に由来する。細胞は、半同種異系であり得る。半同種異系集団は、典型的には、細胞が投与される患者と免疫学的に適合性がある、2人又はそれ以上の患者から産生される。換言すれば、すべての細胞は、好ましくは、それらが投与される患者と遺伝的に同一である、又は十分に遺伝的に同一であり、それらが投与される患者と細胞が免疫学的に適合性がある。
【0136】
組成物は、典型的には1個を超える細胞、例えば、少なくとも約2個、少なくとも約5個、少なくとも約10個、少なくとも約20個、少なくとも約30個、少なくとも約40個、少なくとも約50個、少なくとも約100個、少なくとも約200個、少なくとも約500個、少なくとも約1000個、少なくとも約2000個、少なくとも約5000個、少なくとも約10000個、少なくとも約50000個、少なくとも約100000個、少なくとも約2×105個、少なくとも約5×105個、少なくとも約1×106個、少なくとも約2×106個、少なくとも約5×106個、少なくとも約1×107個、少なくとも約2×107個、少なくとも約5×107個、少なくとも約1×108個又は少なくとも約2×108個の細胞を含む。一部の事例では、組成物は少なくとも1.0×107個、少なくとも1.0×108個、少なくとも1.0×109個、少なくとも1.0×1010個、少なくとも1.0×1011個、若しくは少なくとも1.0×1012個の細胞又は更にそれ以上の細胞を含み得る。
【0137】
組成物中の細胞の数は、典型的には形状のサイズに依存する。特に円柱形であり、約4mm~約8mmの長さ、及び約200μm~約500μmの直径を有する本発明の足場では、細胞の数はしばしば、約0.5×105~約3×105個、例えば、約1×105~約2×105個である。
【0138】
付着性治療用細胞は、膵臓のβ細胞、例えば、ベータ細胞凝集体を含むことができる。ベータ細胞凝集体は、2個又はそれ以上の細胞の集塊であり、そのうちの少なくとも1個はベータ細胞である。ベータ細胞凝集体の一例は、ランゲルハンス島である。ランゲルハンス島は、例えば、死体ドナーの膵臓から単離され得る。
【0139】
本発明は、本発明のバリア膜、治療用組成物又は装置の製造方法を提供する。好ましい実施形態では、生体適合性膜は、電界紡糸を通してシート膜として製造され得る。次に、こうしたシート膜は、最終的な治療用組成物又は装置へ容易に形作ることができる。
【0140】
或いは、本発明の膜は、これらの層の任意の組合せによる既存構造のコーティング、及び続く、音波溶着、ヒートシーリング、溶媒結合、接着、レーザー溶着等によるシーリングに組み込むことができる。
【0141】
ナノファイバー不織布の好適な製造方法は、米国特許出願公開第2012/0115386号に開示されている。
【0142】
本発明は、本明細書で規定される本発明の治療用組成物を製造する方法を更に提供し、(i)足場及び(ii)細胞、生体分子又は他の活性剤を、培養容器において組み合わせることを含む。(i)足場、及び(ii)細胞の両方、生体分子又は他の活性剤は、本明細書のどこかで更に定義されるであろう。
【0143】
一実施形態では、本発明の治療用組成物を製造する方法は、(i)足場及び(ii)付着性治療用細胞、薬物、核酸、ヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド又はエキソソームを培養容器において組み合わせることを含む。
【0144】
本発明の治療用組成物を製造する方法は、例えば、(i)足場を組み合わせる工程、及び(ii)付着性治療用細胞が足場の表面上及び外側部分の中に浸透及び増殖することを可能にする工程、並びに、それによって前記治療用組成物を製造する工程を含み得る。
【0145】
容器に添加される細胞の数は、典型的には、本発明の組成物中に存在しなければならない細胞の数に相当する。足場に付着している添加された細胞の割合は、足場を容器から取り出し、存在する場合は、どれだけの細胞が容器に残存しているか決定することによって、測定することができる。細胞を培養するための技術は、当業者に周知である。
【0146】
足場及び細胞は、任意の好適な培養容器において組み合わせることができる。容器は、フラスコ又はフラットプレートのウェル、例えば標準的な6-ウェル、24-ウェル又は96-ウェルプレートであり得る。こうしたフラスコ及びプレートは、Corning社、Fisher scientific社、VWR suppliers社、Nunc社、Starstedt社又はFalcon社から市販されている。
【0147】
本発明は、治療による人体又は動物体の処置のための方法における使用のための、本発明の治療用組成物を更に提供する。
【0148】
すべての例において、治療用細胞は、好ましくは患者又は同種異系ドナーに由来する。細胞が患者に由来することは、細胞自身が患者の免疫系によって確実に拒絶されなくするはずである。ドナーとレシピエントとの間の差は、最終的に細胞のクリアランスをもたらすであろうが、損傷組織又は患部組織の少なくとも一部をそれらが修復する前ではない。
【0149】
本発明の治療用組成物は、任意の好適な患者に投与され得る。患者は、一般にヒトの患者である。患者は、幼児、年少者又は成人であり得る。患者は、損傷組織若しくは患部組織を有する、又は、損傷組織若しくは患部組織を有する疑いがあるとわかっている可能性がある。患者は、関連する疾患又は傷害にかかりやすい、又はかかるリスクがある可能性がある。患者は、糖尿病を有する可能性がある。
【0150】
細胞のトランスフェクションは、当該技術分野で周知である。細胞は、典型的には薬剤をコードする核酸でトランスフェクトされる。例えば、ウイルス粒子又は薬剤をコードする他のベクターを用いることができる。
【0151】
核酸は、細胞内での薬剤の発現を引き起こす。核酸分子は、好ましくは、薬剤をコードする配列に作動可能に連結され、活性であり、又は細胞内で誘発され得るプロモーターを含むであろう。
【0152】
組成物は、任意の経路によって投与され得る。好適な経路としては、限定されるものではないが、静脈内、筋肉内、腹腔内又は他の適切な投与経路が挙げられる。組成物は、損傷組織又は患部組織に好ましくは直接投与される。カテーテルを介する注入又は挿入によることが、特に好ましい。
【0153】
上で言及したように、本発明の膜は電界紡糸によって形成される。好ましくは、本発明で使用するいかなる足場も、電界紡糸によって製造される。
【0154】
本発明の好ましい実施形態では、繊維(好ましくは、ナノファイバー)前駆体溶液を収集基材上に電界紡糸し、熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の不織ネットワークを含む生体適合性膜を製造することを含む、生体適合性多孔質膜を製造する方法が提供され;ナノファイバー前駆体溶液は、溶媒中に溶解したポリマーを含む。
【0155】
ポリマー繊維のネットワークは、繊維の単一層又は複合(2又はそれ以上の)層を含むことができる。層の気孔率及び各層内の孔サイズは、同じか又は異なってもよい。
【0156】
電界紡糸プロセスは、多層構造を有する膜を製造するように容易に適合させることができる。多層構造の製造は、更に以下で議論される。
【0157】
従って本発明の第1の態様による膜は、傾斜構造を有してもよい。これは、膜の少なくとも1つの特性(例えば、密度、固体性(solidity)、気孔率、繊維サイズ、孔サイズ)が、1つの側から他の側へ膜の本体を通過する時に変動することを意味する。電界紡糸プロセス中の条件を変更することによって、特性は変動する。
【0158】
典型的な多層膜は、本明細書で記述するように二層構造を含む。膜を足場と組み合わせる場合、一部の実施形態では、より小さい平均孔径を有する層が足場と接触することが好ましい。次に、これは足場と一緒に三層構造を形成する。
【0159】
膜におけるポリマー繊維は、以下で更に詳述するように、電界紡糸によって製造される。足場を形成する繊維(以下で更に議論する)も、電界紡糸によって、又は溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸及び押出を含むがこれらに限定されない当業者に公知な他の好適な方法によって形成され得る。電界紡糸が好ましい。
【0160】
電界紡糸の使用は、ある利点を提供する。例えば、バッチ対バッチの再現性、及び現行のオートメーション装置との適合性が存在し得る。更に、特定の平均繊維径及び平均からの小さい標準偏差を有するポリマー(ナノ)繊維を、非常に着実に製造することができる。これは、気孔率及び孔サイズの制御を提供する。
【0161】
膜及び足場のポリマー繊維は、同じポリマーを含んでもよく、異なるポリマーを含んでもよい。それらが同じポリマーである場合、ポリマーはポリウレタンである。
【0162】
足場の繊維は、内側及び/又は外側部分の繊維と同じか又は異なってもよい。一部の実施形態では、足場繊維は内側部分の繊維と同じである。一部の実施形態では、(外側部分の繊維が内側部分の繊維と異なる場合)足場繊維は外側部分の繊維と同じである。例えば、足場は、典型的には、生体吸収性且つ生体適合性のポリマー、例えば、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)又はポリカプロラクトン(PCL)を含む、又は例えばそれからなる。ポリヒドロキシ酪酸又はポリ(エステルウレタン)が或いは用いられ得る。
【0163】
より一般的には、足場の繊維は以下:ポリ(ラクチド);ポリ(グリコリド);ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA);ポリカプロラクトン(PCL);ポリヒドロキシ酪酸;ポリ(ε-カプロラクトン);ポリスチレン;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリ(エチレンオキシド);ポリ(エステルウレタン);ポリ(ビニルアルコール);ポリアクリロニトリル;ポリラクチド;ポリグリコリド;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリアミド;脂肪族ポリアミド;芳香族ポリアミド;ポリベンズイミダゾール;ポリ(エチレンテレフタレート);ポリ[エチレン-co-(酢酸ビニル)];ポリ(塩化ビニル);ポリ(メタクリル酸メチル);ポリ(ビニルブチラール);ポリ(フッ化ビニリデン);ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン);酢酸セルロース;ポリ(酢酸ビニル);ポリ(アクリル酸);ポリ(メタクリル酸);ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;ポリ(フェニレンスルフィド);ヒドロキシプロピルセルロース;ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリシルシスキオキサン、シリコーン、エポキシ、シアン酸エステル、ビスマレイミドポリマー;ポリケトン、ポリエーテル、ポリアミン、ポリホスファゼン、ポリスルフィド、有機/無機ハイブリッドポリマー又はこれらのコポリマー、例えば、ポリ(ラクチド-co-グリコリド);ポリラクチド-co-ポリ(ε-カプロラクトン)若しくはポリ(L-ラクチド)-co-ポリ(ε-カプロラクトン);又はこれらのブレンド、例えばポリ(ビニルアルコール)とポリ(アクリル酸)のブレンドから選択され得る。
【0164】
一部の実施形態では、足場は、繊維の形態で、又はコラーゲンスポンジとしてコラーゲンを含んでもよい。コラーゲン足場は、コラーゲンの高い生体適合性に起因して有用である。一部の実施形態で使用することができる、コラーゲンの代替としては、上に列挙したポリマー及び以下の生腐食性又は生分解性ポリマーが挙げられる。
【0165】
足場の繊維は、生腐食性又は生分解性ポリマー、例えば、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリヒドロキシ酪酸及びポリ(エステルウレタン)から選択されるポリマーを、独立して含む又はそれからなることができる。
【0166】
足場の繊維は、或いは、例えばバイオポリマー、又は合成ポリマーとバイオポリマーのブレンドを独立して含む、又はそれからなることができる。
【0167】
本発明の第1の態様による膜は、複数の層を含むことができる。例えば、膜は1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの異なる層を含むことができる。層は、異なるレベルの気孔率を含んでもよい。
【0168】
典型的には、本発明の膜における複数の層は、約30μm~約1000μmの厚さ(深さ)を有する。膜における複数の層は、例えば、約30μm~約800μm、例えば、約40μm~約600μm、又は約50μm~約400μm、又は50μm~200μm又は50μm~150μmの厚さ(深さ)を有することができる。膜における複数の層は、例えば、約50μm~約200μm、又は例えば、約80μm~約120μmの厚さ(深さ)を有することができる。
【0169】
膜における各層の気孔率及び孔サイズは、本発明の第1の態様による膜について上に定義された通りであり得る。従って、各層は、50%以上の気孔率を独立して有することができる。更に、膜の各層は、10μm~20μmの平均孔サイズを独立して有することができる。
【0170】
電界紡糸のプロセスはそれ自体周知であり、例えば、以下のレビュー記事:Z.-M. Huangら、Composites Science and Technology 63 (2003) 2223~2253頁、及びGreiner and Wendorff、Angew.Chem. Int. Ed. 2007、46、5670~5703頁に記述されている。当業者は、この技術を好適に適用する方法を知っているであろう。それは以下で簡単に議論される。
【0171】
電界紡糸のプロセスは、典型的には、収集基材を特定の速度で回転させながら、収集基材上、又は収集基材上の前の層の上に、繊維前駆体溶液を電解紡糸することを含み、繊維前駆体溶液は、溶媒に溶解した特定の所望のポリマーを含む。
【0172】
典型的には、電界紡糸を実行する際に、繊維状ネットワークを製造するポリマー又はポリマーブレンドは、必要な濃度の均一溶液が得られるまで適切な溶媒に溶解される。ポリマー溶液の濃度は、一般に、連続繊維を形成するために、鎖の適切なからみ合いを達成するのに十分な高さでなければならない。次に、ポリマー溶液は、典型的には容器、通常は導電性(典型的には、金属)毛管に接続されたシリンジに装填される。毛管は、接地された収集装置から一定の距離で、高電圧(通常、高電圧DC電源の正端子)に接続される。収集装置は金属であってもよく、典型的には、繊維が上に堆積する収集基材で覆われている。収集装置は、材料の均一な堆積を確実にするために、好ましくは回転可能である。繊維は、典型的には、ポリマー溶液を一定の流速で金属毛管を通して通過させ、一方で毛管と収集装置の間に電場を確立するために毛管に高電圧を印加することによって、製造される。印加電圧は、毛管の先端におけるポリマー小滴の表面張力に打ち勝つのに、十分な高さでなければならない。電荷が小滴の表面で高まるにつれて、追加の電荷に応じるために表面積は増加しなければならず、これは、小滴からのテーラーコーンの形成を通して起こり、そこから連続繊維が抽出される。繊維が、接地されたコレクターに向かって移動するにつれて、溶媒は急速に蒸発し、ジェット上の表面電荷のクーロン反発力から発生する不安定性に起因して、繊維は更に伸ばされる。高い電荷密度に由来するジェットの不安定性は、ジェットを急速に動きまわらせ(whip about)、ナノ/マイクロ直径の固体の(乾いた)フィラメントをもたらす。基材上のランダム不織繊維層が望ましい場合、コレクターはゆっくり(例えば、約100rpmの速度で)回転する。或いは、整列した繊維の層が望ましい場合、コレクターは高速で(例えば、約2500rpmの速度で)回転してもよい。堆積中の回転速度を変えることによって、ランダムに向いた不織層から高度に整列した繊維の層までの範囲の、異なる繊維整列の複数の層を堆積させることができる。一定量の材料が堆積して、特定の望ましい厚さの1つの層又は複数の層が生成した後、繊維から任意の残留溶媒/湿気を除去するために、層又は複数の層は乾燥される。典型的には、それは、真空下、室温(およそ25℃)で、例えば24~48時間乾燥される。
【0173】
電界紡糸プロセスで使用される繊維前駆体の溶液又は複数の溶液において、任意の好適なポリマーを用いることができる。用いられるポリマーは、膜又は足場に関連して上で列挙した、任意のポリマーであってもよい。すべてのそれらのポリマーを電界紡糸プロセスで使用して、Greiner and Wendorff、Angew. Chem. Int. Ed. 2007、46、5670~5703頁に詳述されている、ナノファイバーの多孔質三次元ネットワークを製造することができる。
【0174】
任意の好適な溶媒を、ナノファイバー前駆体溶液に用いることができる。電界紡糸において、例えば、水、並びに極性、非極性、プロトン性及び非プロトン性有機溶媒を含む、広範囲の溶媒を使用することができる。溶媒は、用いられるポリマー又はブレンドに適合するように、特にポリマーの必要な濃度の均一溶液が得られ得るように、選択される。
【0175】
溶液中のポリマーの濃度は、連続繊維が形成されるために、鎖の適切なからみ合いを達成するのに十分な高さであるべきである。典型的には、前記溶媒中のポリマーの濃度は、約1wt%~約20wt%である。前記溶媒中のポリマーの濃度は、例えば、約2wt%~約10wt%であり得る。例えば、前記溶媒中のポリマーの濃度は、約3wt%~約5wt%であり得る。
【0176】
典型的には繊維形成モジュールの分注毛管は、約0.5mm~約1.0mmの内径を有する。
【0177】
収集基材上の均一な堆積を確実にするために、電界紡糸は、前記堆積中に繊維形成モジュールに対して繊維収集装置の少なくとも一部を動かすことを、典型的には更に含む。従って、通常、電界紡糸は、前記堆積中に繊維収集装置の少なくとも一部を動かすことを更に含む。
【0178】
収集基材上の複数の層の堆積は、特定の望ましい厚さの複数の層が得られるまで継続される。複数の層のこの厚さは、本発明の膜について上で更に定義されたものでもよく、例えば、約30μm~約1000μm、又は例えば、約50μm~約200μm若しくは150μm、例えば、約80μm~約120μmであってもよい。
【0179】
従って、典型的には、前記電圧を印加する一方で、前記繊維前駆体溶液を分注毛管を通して供給する工程は、足場前駆体の複数の層の厚さが、適切な厚さを有するまで実施される。
【0180】
典型的には、繊維前駆体溶液が分注毛管を通して供給される流速は、100μl/時間~3000μl/時間である。より典型的には、それは400μl/時間~2500μl/時間、例えば、約2000μl/時間である。
【0181】
分注毛管と収集基材との間の距離は、典型的には200mm~400mmである。より典型的には、それは200mm~300mm、例えば約250mmである。
【0182】
分注毛管と繊維収集装置の両端に印加される電圧は、典型的には2kV~15kVである。より典型的には、それは4kV~10kV、例えば、約5~8kVである。
【0183】
通常、電界紡糸は、22℃~28℃の温度で実施される。より典型的には、電界紡糸は、23℃~27℃、例えば、約25℃で実施される。
【0184】
典型的には、電界紡糸は、20%~45%の相対湿度を有する空気中で実施される。電界紡糸は、例えば、35%~45%、例えば、約40%の相対湿度を有する空気中で実施され得る。
【0185】
膜又は足場を製造する電界紡糸プロセスは、こうして製造されたポリマー繊維の複数の層を乾燥させ、残留溶媒を除去すること;及び、ポリマー繊維の複数の層を細長いストリップに切断し、それによって、前記足場前駆体を製造することを更に含んでもよい。典型的には、足場前駆体は真空下で乾燥される。典型的には、乾燥は真空下の室温で行われる。
【0186】
典型的には、電界紡糸プロセスは、こうして製造された膜又は足場を収集基材から取り出すことを更に含む。収集基材は、典型的には、離型紙シート、アルミ箔、又はシリコーン被覆シートを含む。
【0187】
本発明は、以下のさらなる態様によっても定義され得る。
【0188】
本発明のさらなる態様では、内側部分、及び内側部分を完全に又は部分的に包囲する生体適合性膜を含む治療用組成物であって、生体適合性膜は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む、治療用組成物も提供される。上述の膜は、薬剤、例えば、栄養素を選択的に通過させるが、細胞は通過させない細胞封入装置として作用するように、配合することができる。
【0189】
本発明のさらなる態様では、少なくとも2つの層を含む膜であって、
(i)第1の層は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む生体適合性膜であり;
(ii)第2の層は第1の層の上に配置される、膜も提供される。
【0190】
本発明のさらなる態様では、治療用細胞を免疫保護する方法における使用のための、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む生体適合性膜も提供される。
【0191】
本発明のさらなる態様では、治療による人体又は動物体の処置の方法における使用のための、上で定義された膜又は治療用組成物も提供される。
【0192】
本発明のさらなる態様では、
(i)熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む生体適合性膜を製造するための電界紡糸プロセス;及び
(ii)内側部分が完全に又は部分的に包囲された治療用組成物を製造するための、生体適合性膜を成形する工程
を含む、本発明の第1の態様による治療用組成物を製造する方法も提供される。
【0193】
特に明白でない限り、以下は本発明のいずれの態様にも当てはまる。一部の実施形態では、生体適合性膜は、50%以上、好ましくは50~80%の範囲の気孔率を有する。
【0194】
一部の実施形態では、生体適合性膜は、5μm未満の平均孔径を有し、平均孔径は好ましくは2μm未満である。
【0195】
一部の実施形態では、生体適合性膜は、10~250μmの範囲、好ましくは10~150μm又は20~150μmの範囲、最も好ましくは50~150μm又は50~200μmの範囲の厚さを有する。
【0196】
一部の実施形態では、ポリマー繊維の平均径は700nm未満、好ましくは600nm未満、好ましくは500nm未満であり、最も好ましくは100~500nmの範囲、更により好ましくは50~500nmの範囲である。
【0197】
一部の実施形態では、生体適合性膜は非生分解性である。
【0198】
一部の実施形態では、生体適合性膜は二層構造を含む。一部の実施形態では、より高い気孔率を有する層は、内を向き、例えば創傷部位の方であり、より低い気孔率の層は、外を向いて、細菌及び微粒子が、例えば、創傷部位の中へ通過することを防ぎ、一方で、好ましくはそれでも創傷部位の中への酸素及び/又は水を許可するように、二層は配列される。この配列は、例えば、内部創傷ケア、例えば、歯周炎、神経鞘、ヘルニア修復パッチ、合成骨膜、及び/又は瘻孔において有用であり得る。そのため、対応する内部創傷ケア装置も提供される。これは、本明細書で記述するいずれかの添加剤も含む。
【0199】
一部の実施形態では、組成物は治療薬を更に含み、治療薬は好ましくは内側部分に存在し、好ましくは治療薬は、治療用細胞、薬物、核酸、ヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、抗体、脂質ナノ粒子等の粒子、細胞外小胞又はエキソソームから選択され、任意選択で、核酸はDNA、RNA、RNAi、SaRNA又はSiRNAを含む。
【0200】
一部の実施形態では、組成物は担体を更に含み、担体上又は担体中に治療薬が配置され、好ましくは、治療薬は、担体の表面に付いている、担体の孔中に配置されている、又は両方である。
【0201】
一部の実施形態では、生体適合性膜は、担体を完全に又は部分的に包囲する。
【0202】
一部の実施形態では、担体は、ポリマー繊維の多孔質不織ネットワーク又はヒドロゲル、ゼラチン、コラーゲンスポンジ若しくは脱細胞化組織を含む。
【0203】
一部の実施形態では、組成物は細胞を含み、細胞は好ましくは膵臓のβ細胞又は膵島細胞である。
【0204】
一部の実施形態では、組成物は、生体適合性膜の外表面に配置された外層を更に含み、好ましくは、外層は電界紡糸繊維、好ましくはポリウレタン繊維から形成され、且つ/又はヒドロゲル、ゼラチン若しくはコラーゲンスポンジ、若しくは脱細胞化組織を含む。
【0205】
一部の実施形態では、外層は生体適合性膜の気孔率より高い気孔率を有し、且つ/又は、外層の平均繊維径は生体適合性膜の平均繊維径より大きく、且つ/又は、外層の平均孔径は内層の平均孔径より大きい。
【0206】
一部の実施形態では、外層は電界紡糸ポリウレタン繊維から形成され、
(i)気孔率は70~98%の範囲、好ましくは範囲80~95%の範囲であり;且つ/又は
(ii)平均孔径は5~80μm範囲、好ましくは10~50μmの範囲であり;且つ/又は
(iii)ポリマー繊維の平均径は1~10μmの範囲、好ましくは2~8μmの範囲、最も好ましくは3~7μmの範囲である。
【0207】
一部の実施形態では、組成物は1種又は複数の添加剤を更に含み、添加剤は好ましくは担体又は外層(存在する場合)内に配置され、更に添加剤は、VEGF等の成長因子、架橋剤、成長因子、カタラーゼ及び他の酵素;又はCaO2若しくはヘモグロビン等の酸素放出材料、過酸化物(例えば、H2O2、CaO2、MgO2、Li2O2、Na2O2)、過炭酸ナトリウム(Na2CO3)、パーフルオロカーボン、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(骨成長促進材料)、最も好ましくは、アルギネートヒドロゲルの架橋剤として作用することができるCaO2及び/又はMgO2から選択され;酸素放出材料と組み合わせたカタラーゼも好ましく、これは放出された任意の毒性過酸化水素を有利に取りきる。
【0208】
本発明のさらなる態様では、少なくとも2つの層を含む膜であって、(i)第1の層は、電界紡糸によって形成された熱可塑性ポリウレタンポリマー繊維の多孔質不織ネットワークを含む生体適合性膜であり;(ii)第2の層は第1の層の上に配置される、膜も提供される。一部の実施形態では、第1の層は、50%以上、好ましくは50~80%の範囲の気孔率を有し;5μm未満の平均孔径を有し;10~150μmの範囲、好ましくは20~150μmの範囲、最も好ましくは50~150μm又は50~200μmの範囲の厚さを有し;又は、ポリマー繊維の平均径は、700nm未満、好ましくは600nm未満、好ましくは500nm未満、最も好ましくは100~500nmの範囲、更により好ましくは50~500nmの範囲である生体適合性膜として定義される。一部の実施形態では、第2の層は、生体適合性膜の外表面上に配置された外層を更に含み、好ましくは外層は電界紡糸繊維、好ましくはポリウレタン繊維から形成され、且つ/又はヒドロゲル、ゼラチン若しくはコラーゲンスポンジ、若しくは脱細胞化組織を含み;外層は生体適合性膜の気孔率より高い気孔率を有し、且つ/又は、外層の平均繊維径は、生体適合性膜の平均繊維径より大きく、且つ/又は、外層の平均孔径は、内層の平均孔径より大きく;且つ、それは電界紡糸ポリウレタン繊維から形成され、(i)気孔率は70~98%の範囲、好ましくは80~95%の範囲であり;且つ/又は(ii)平均孔径は5~80μmの範囲、好ましくは10~50μmの範囲であり;且つ/又は(iii)ポリマー繊維の平均径は1~10μmの範囲、好ましくは2~8μmの範囲、最も好ましくは3~7μmの範囲である。一部の実施形態では、膜は1種又は複数の添加剤を更に含み、添加剤は好ましくは、VEGF等の成長因子、架橋剤、成長因子、カタラーゼ及び他の酵素;又はCaO2若しくはヘモグロビン等の酸素放出材料、過酸化物(例えば、H2O2、CaO2、MgO2、Li2O2、Na2O2)、過炭酸ナトリウム(Na2CO3)、パーフルオロカーボン、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(骨成長促進材料)、最も好ましくはアルギネートヒドロゲル中の架橋剤として作用することができるCaO2及び/又はMgO2から選択され;酸素放出材料と組み合わせたカタラーゼも好ましく、これは任意の毒性過酸化水素を有利に取りきる。
【0209】
本発明は、以下の実施例で更に説明される。
【実施例1】
【0210】
熱可塑性芳香族ポリカーボネート系ポリウレタン(PU)(Chronoflex、Advansource社、米国)を、電界紡糸による装置前駆体/膜の製造に使用した。ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)(Sigma Aldrich社、英国)中、5.0wt%又は25wt%のPU含有溶液を調製した。
【0211】
装置前駆体は、電界紡糸繊維の2つの異なる層である、不織のトップ層及びボトム層を含有した。電界紡糸足場前駆体は、一定の供給速度8.333×10-7l/秒でポリマー溶液を、ボトム層及びトップ層の両方のために、シリンジポンプを介して送達することによって調製し、+5kVDC~+8kVの加速電圧で直角に電界紡糸した。温度及び相対湿度は、気候制御電界紡糸機(LE-100、Bionicia社、スペイン)において、一定(それぞれ、25℃及び40%RH)に保持した。繊維は、針の先端から20cmに置かれた回転コレクターのまわりに巻き付けられた離型紙シート上に収集した。トップ及びボトムの不織層を調製する時、コレクターは200rpmで回転した。40mm/秒の移動速度を有するプログラム可能な電動ステージを使用して、縦方向の移動も適用した。望ましいシート厚さ、すなわち装置前駆体のために望ましい厚さを製作するために、電界紡糸を270分間実施した。
【0212】
繊維径及び足場モフォロジーの特性評価を、走査型電子顕微鏡(SEM)(Fibremetricソフトウェアを装備したPhenom G2 Pro、Phenom World社、オランダ)によって、平均繊維径及び相対標準偏差を決定するために複数画像の自動画像特性評価を使用して実施した。Fibremetricソフトウェアは、取り込んだSEM画像内の繊維の位置を自動的に識別し、各繊維の直径を特定の位置で20回測定する。典型的には、1つの画像当たり約100のこうした測定を実施する。繊維の直径は、或いは、複数のSEM画像の手動測定/分析を介して得ることができる。
【0213】
ボトム層上の繊維の平均繊維径は、±30%の許容差で600nmであった。トップ層上の繊維の平均繊維径は、±40%の許容差で5μmであった。シートの厚さは、マイクロメータを使用して測定する。材料の目標平均厚さは、±20%の許容差で150μmであった。
【0214】
繊維状マットを、約10mbar、25℃で24時間以上真空炉で乾燥し、製作プロセスから残存する残留溶媒の量を低減した。
【0215】
図は、層を説明している。Tで終わるファイル(
図1)はトップ層であり、Bで終わるもの(
図2)はボトム層である。最後の画像(
図3)は、両方の層を見ることができる組合せである。
【実施例2】
【0216】
電界紡糸
電界紡糸による装置前駆体/膜の製造において、熱可塑性芳香族ポリカーボネート系ポリウレタン(PU)(Chronoflex、Advansource社、米国)を使用した。ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)(Sigma Aldrich社、英国)中、4wt%のPU含有溶液を調製した。電界紡糸前駆体は、ポリマー溶液をシリンジポンプを介して15mL/時間の一定供給速度で送達することによって調製し、+20kVDC~+8kVの加速電圧で直角に電界紡糸した。温度及び相対湿度は、気候制御電界紡糸機(LE-100、Bionicia社、スペイン)において、一定(それぞれ、25℃及び40%RH)に保持した。繊維は、針の先端から20cmに置かれた回転コレクターのまわりに巻き付けられた離型紙シート上に収集した。コレクターは、100rpmで回転した。40mm/秒の移動速度を有するプログラム可能な電動ステージを使用して、縦方向の移動も適用した。望ましいシート厚さ、すなわち装置前駆体のために望ましい厚さを製作するために、電界紡糸を250分間実施した。
【0217】
繊維径、孔サイズ及び足場モフォロジーの特性評価を、走査型電子顕微鏡(SEM)(Fibremetricソフトウェアを装備したPhenom G2 Pro、Phenom World社、オランダ)によって、平均繊維径及び平均孔サイズ径を決定するために複数画像の自動画像特性評価を使用して実施した。Fibremetricソフトウェアは、取り込んだSEM画像内の繊維の位置を自動的に識別し、各繊維の直径を特定の位置で20回測定する。典型的には、1つの画像当たり約100のこうした測定を実施する。繊維の直径は、或いは、複数のSEM画像の手動測定/分析を介して得ることができる。Fibremetricソフトウェアは、繊維間の自由空間の面積も孔サイズの尺度として自動的に測定する。得られたデータは、標準的技法として円形孔を仮定し、式1を使用して平均孔径に変換した。
【0218】
【0219】
式1:平均孔面積(A)を平均孔径(d)に変換するために使用される式。
【0220】
繊維の平均繊維径は、±190nmの許容差で445nmであった。平均孔径は、1.5μm±0.8μmである。シートの厚さは、マイクロメータを使用して測定される。材料の目標平均厚さは、±20%の許容差で160μmであった。
図1は、上述の方法を使用して製造された繊維の走査型電子顕微鏡を示す。繊維状マットを、約10mbar、25℃で24時間以上真空炉で乾燥し、製作プロセスから残存する残留溶媒の量を低減した。
【0221】
後工程
固形組成物の包囲:
足場を、音波溶着機を使用して、様々な概念実証治療用組成物に作り上げた。電界紡糸前駆体を特定のサイズへ切断し、折り重ね、次に自身に音波溶着した(
図5a~c)。市販の脱細胞化コラーゲン膜(Chondro-Gide(登録商標)、Geistlich社)を、異なる程度に、すなわち、約60%、約80%及び100%包んだ/包囲した。
【0222】
液状組成物の包囲:
1wt%のヒアルロン酸を、蒸留水とイソプロパノールの50/50混合物に分散させることによって、ヒドロゲルを調製した。均質化するために、混合物をローラー混合機上に24h間放置した。上で言及した音波溶着機を使用して、小さい入口は開いたままの空の「ポーチ」を作り出した。ヒドロゲルをシリンジに満たし、「ポーチ」に注入し、その後音波溶着機を再度利用して入口を閉じ、完全に包囲された治療用組成物を作り出した。
図6A及び6Bを参照されたい。
【0223】
細胞研究:
外的環境に添加されるとタンパク質の分泌を誘発するように設計された薬剤で細胞を刺激した後、電界紡糸前駆体材料から製造された「ポーチ」内に含有される細胞から、分泌されたタンパク質が放出されることを示す研究を実行した。
【0224】
実験計画の概要:
THP-1細胞は、適切な薬剤であるリポ多糖(LPS)で刺激すると、インターロイキンIL-8を分泌する免疫誘導細胞株(immune derived cell line)である。分泌されるIL-8のレベルは、細胞へ投与されるLPSの濃度に比例する。IL-8は、ELISAに基づくイムノアッセイを使用して検出することができる。このため、ポーチを包囲する培地中でIL-8が検出されるということは、IL-8等の分泌されたタンパク質が膜を通って移動することを、電界紡糸材料が可能にしていることを実証する。「ポーチ」からの細胞の「脱出」を調べるために、発明者らは実験の最後に培地中のATPのレベルを測定した。ATPは細胞によって「ジャストインタイム」方式で製造され、且つ分泌されず、従って外部培地中でのATPの検出は、外的環境に細胞が混入したことを示唆する。
【0225】
方法
上述のように、電界紡糸材料を折り、エッジに沿って溶着して、1つの短辺に沿って開口を有するバッグを形成した。それぞれのバッグは、24ウェルのプレート内に直立するように設計されている。開口が上を向いてバッグがウェルプレートの壁に支えられるように、ピンセットを使用して1ウェル当たり1バッグずつ、24ウェルのプレートにバッグを入れ、細胞を含有する培地をバッグの中に分注させた。
【0226】
非付着性細胞タイプである、THP-1細胞を研究用に使用した。THP-1細胞のストックは、T175cm2フラスコで培養した。これらの細胞のアリコートを、Luna細胞計数装置を使用して計数し、1ml当たり200,000細胞の濃度に希釈し、次に、500μlのこのストックをバッグの開口の中に分注した(1ウェル当たりtバッグ1つ当たり細胞100,000個)。加えて、1mlの同一の(細胞のない)培地を、ウェル中であるがバッグの外側に素早く分注した。次に、バッグを含有する24ウェルのプレートを、37℃、5%のCO2及び95%の湿度で24時間インキュベートした。
【0227】
24時間後、各ウェルから500μlの培地を取り出し、LPSを2倍の濃度で含有する500μlの培地を再投与することによって、様々な濃度のリポ多糖(LPS-細菌細胞壁抽出物)をバッグの外側の培地に添加した。次に、プレートを24、48、72及び96時間再インキュベートし、各時点で培地の小さいアリコート(70μl)を外側の溶液から取り出し、後のアッセイのために凍結した(-30℃)。
【0228】
培地中のIL-8の検出
プレートに基づくELISAシステムを使用して、細胞から培地に放出されたIL-8のレベルを検出した。手短に言えば、免疫吸着プレートは、製造者の指示によって、ヒトIL-8への一次抗体で被覆された。規定の時点で外的環境から取り出された培地のアリコート(20μl)をイムノアッセイプレートに添加し、抗体被覆プレートと4℃で終夜相互作用させた。次に、ウェルを緩衝液で洗浄し、培地及び非結合材料を取り出し、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)で標識した二次抗体をすべてのウェルに添加し、洗浄して非結合性二次抗体を取り出し、次にHRP基質で処理した。従って、HRPシグナルは培地中のIL-8の量に比例する。
図7は、様々な実験条件の測定されたIL-8シグナルを示している。データは、THP-1細胞と添加されたLPSの量との用量反応があり、「ポーチ」は、IL-8とLPSの両方が膜を通過できるようにすることを示している。ポーチの内部は細胞にとって良好な環境を提供し、細胞は実験の期間中、生き続けた。
【0229】
ATPの検出
バッグから外的環境の中に放出された細胞を検出するために、実験の最後に、ピンセットを使用してバッグをウェルプレートから物理的に取り出し、別のプレートに入れた。各ウェルからの培地を1mlのピペットで混合し、1.5mlの遠心分離管の中に、1ウェル当たり1本の管ずつ移した。管を800Gで5分間遠心分離し、管の中のすべての細胞をペレット化した。管内に少量(およそ50μl)残すように注意しながら、培地を吸引によって取り出した。次に、Promega ATP GLO検出試薬を(製造者の手順によって)使用して、各管の中のATPの濃度を検出した。細胞が管内に存在する場合のみATPは存在し、従ってこの読み出しは管の中の細胞の数に比例する。
図8は、バッグが取り出された状態(アスタリスクでマーク)のウェル中のATPの検出、及び細胞が存在する状態のウェル中のATPの検出を示している。データは、実験の期間中にポーチから脱出できた細胞が存在しないことを明確に示している。
【0230】
アッセイ後のウェルの目視検査
ATPの検出に加えて、培地を取り出した後に顕微鏡を使用して24ウェルのマイクロプレートを視覚的に検査して、培地吸引の後に、ウェルに付着した又はプレートに残存している細胞を確認した。細胞は検出されなかった。
【実施例3】
【0231】
外表面上により大きい直径の繊維を有する、バッグ又はポーチの調製
図9に示す生体適合性膜(4)のフラットシートを、より大きい直径の繊維を有する層(2)が外に面するように、
図11のバッグ又はポーチ(5)に折り込んで、バッグ又はポーチ(5)が提供される患者の皮下環境と接触できるようにした。より小さい直径繊維を有する層(1)は内に面して、バッグ又はポーチ(5)内に入れられ得る治療薬(この場合、細胞(3))と接触できるようにした。
【実施例4】
【0232】
内表面上により大きい直径の繊維を有する、バッグ又はポーチの調製
上の実施例3のようであるが、
図9に示す生体適合性膜のフラットシート(4)を、より大きい直径の繊維を有する層(2)が内に面するように、
図10のバッグ又はポーチ(6)に折り込んで、バッグ又はポーチ(6)内に入れられ得る治療薬(この場合、細胞(3))と接触できるようにした。より小さい直径の繊維を有する層(1)は外に面して、バッグ又はポーチ(6)が提供される患者の皮下環境と接触することができるようにした。
【実施例5】
【0233】
両凹のディスク形状のバッグ又はポーチの調製
実施例2又は3を出発点として、
図12に示すような両凹のディスク(9)と類似してポーチ又はバッグの設計を強化することができる。
図12では、生体適合性膜(4)を折って(2Dだが、これは3Dにも同様に当てはまる)1つの配列を形成し、それによって、より小さい直径の繊維を有する層(1)は外に面し、バッグ又はポーチ(5)が提供される患者の皮下環境と接触することができるようにした。この実施形態では、得られるバッグ又はポーチ(9)を両凹のディスクにするような方法で、生体適合性膜を折って調製し、これは内側部分(7)を含有し、それ自体は治療薬(この場合、担体(8)上に担持された細胞(3))を含有する。
図12は、最外層がより小さい直径を有する繊維を含有する例を示しており;層が交換されて、より大きい直径を有する繊維が外表面である反対の状況は、相応して類似する構造を採用する。例えば、好適な材料のOリングを使用して、両凹のディスクの周囲のまわりに構造を提供することによって、両凹のディスク形状を形成し維持するのを支援することができる。
【実施例6】
【0234】
三層膜及び関連するバッグ又はポーチの調製
図13Aに示すような、より大きい直径の繊維を有する2つの層(2)の間に、より小さい直径の繊維を有する層(1)を含む、三層の生体適合性膜(10)を、電界紡糸によって形成することができる。この三層膜(10)を使用して、上で議論した二層膜と同じ方式でバッグ又はポーチを形成し、三層膜(10)の折りから形成された、
図13Bに示されるような三層のバッグ又はポーチ(2Dだが、これは同様に3Dにも当てはまる)をもたらし、バッグ又はポーチ(11)を形成することができ、より大きい直径の繊維を有する外側の層(2)は、バッグ又はポーチが提供される患者の皮下環境と接触することができ、より大きい直径の繊維を有する内側の層(2)は、治療薬(この場合、担体(8)上に担持された細胞(3))を含有する内側部分(7)と接触することができる。より小さい直径の繊維を有する層(1)は、より大きい直径の繊維を有する2つの層(2)の間に位置し、理想的には、患者の外側皮下環境、及びバッグ又はポーチの内側部分(7)のどちらにも直接接触しない。
【符号の説明】
【0235】
1 第1の層
2 第2の層
3 治療薬
4 生体適合性膜
5 バッグ又はポーチ
6 バッグ又はポーチ
7 内側部分
8 担体
9 両凹形状のバッグ又はポーチ
10 三層の生体適合性膜
11 三層のバッグ又はポーチ