(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】構造を識別する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20240405BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240405BHJP
G02B 21/34 20060101ALI20240405BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20240405BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G02B21/34
G01N21/41 101
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2021530122
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 IB2019060309
(87)【国際公開番号】W WO2020110071
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-09-29
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】521227252
【氏名又は名称】ラ トローブ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】アビー,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】バラウル,エウゲーニウ
(72)【発明者】
【氏名】パーカー,ベリンダ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-501391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0206101(US,A1)
【文献】国際公開第2008/039212(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2008/0252894(US,A1)
【文献】Kan, T., et al.,Sub-micron aperture plate for intracellular calcium transient measurement,The 13th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems, 2005. Digest of Technical Papers. TRANSDUCERS'05.,IEEE,2005年,2,1306-1309,https://ieeexplore.ieee.org/document/1497320,ESR D2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料内の構造を識別する方法であって、
上側表面及び下側表面を有する試料保持器を提供することであって、前記上側表面は、それに関連するプラズモニック層を有し、前記プラズモニック層は、サブミクロン構造の周期的アレイを含む、提供することと、
前記試料を前記試料保持器の前記上側表面に貼り付けることと、
光が前記試料及び試料保持器と相互作用するように、前記光で前記試料を照明することと、
前記試料及び試料保持器と
前記光との相互作用後の前記光を使用して
カラーの画像を形成することであって、前記試料の少なくとも1つの局所化構造特性は、前記受け取られた光の色に基づいて前記画像内で可視である、形成することと、
前記構造をその色に少なくとも部分的に基づいて前記画像から識別することと
を含む方法。
【請求項2】
前記試料の前記局所化構造特性は、局所的誘電定数又は屈折率である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記画像において、所与の誘電定数又は屈折率を有する前記試料内の構造は、対応する色範囲内で出現する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記構造は、細胞、細胞の群、細胞の一部、細胞間の間質腔を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記構造の識別及び/又は前記試料の特徴の識別を可能にする以下の工程:
・前記構造の形態学を視覚化する工程、
・前記構造の存在を視覚化する工程、
・構造の不在を有する前記試料の領域を視覚化する工程、
・構造の絶対的又は相対的寸法を視覚化する工程
の任意の1つ又は複数を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記試料の
選択された局所化構造特性が、受け取られた光の所定の色又は色の範囲において前記画像内で可視にされるように、前記照明
及び前記試料保持器の少なくとも1つの特性を選択することを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
以下の特性:
前記照明の偏光、
前記サブミクロン構造の周期的アレイの周期、及び/又は寸法、及び/又は形状、及び
前記プラズモニック層を含む厚さ及び/又は材料
の1つ又は複数が選択される、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
識別される前記構造は、所与の色
又は所与の色帯域で出現する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料は、前記プラズモニック層の固有減衰長より厚い、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記試料は、ほぼ透明である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
識別される前記構造は、癌の指標である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記構造は、癌細胞、癌細胞の一部、癌細胞の群、腫瘍性細胞、健康な細胞、所与のタイプの細胞、細胞状態の指標、寄生体、細胞の群、異常細胞、感染細胞、所与のタイプの組織である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記試料は、生体試料であって、
前記画像からの前記構造の識別は、
欠陥がある又は異形の形態を示す視覚的特徴を識別する、前記画像の色に少なくとも部分的に基づく、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
形態学に基づいて前記特徴を検証することを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記画像の色帯域を選択的に処理するために前記画像をカラーフィルタリングすること、
前記画像の色分布又は色ヒストグラムを判断すること、
前記画像内の1つ又は複数の構造を識別するために特徴抽出方法を行うこと、
画像認識システムでデジタル画像を処理すること
の任意の1つ又は複数をさらに含む、請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記色は前記試料の少なくとも1つの細胞の状態を判断可能にすることを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの細胞の疾病状態を判断することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記試料は、同じタイプの複数の細胞を含み、及び前記方法は、前記同じタイプの細胞から、少なくとも1つの細胞を、前記少なくとも1つの細胞と、前記複数の細胞における
他の細胞との間の色コントラストに基づいて区別することを含む、請求項
16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記試料は、異なるタイプの複数の細胞を含み、及び前記方法は、前記複数の細胞内の1つ又は複数のタイプの少なくとも1つの細胞を、前記少なくとも1つの細胞と、前記複数の細胞における細胞との間の色コントラストに基づいて区別することを含む、請求項
16又は17に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の細胞内の、異常である少なくとも1つの細胞を区別することを含む、請求項
18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の細胞内の、良性異常状態を有する少なくとも1つの細胞を区別することを含む、請求項
18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
カラー画像を形成するためのシステムであって、
前記システムは請求項1から21のいずれか一項に記載の方法を実行するように適合され、画像形成システムと、照明システムと、上側表面及び下側表面を有する試料保持器であって、前記上側表面は、それに関連するプラズモニック層を有し、前記プラズモニック層は、サブミクロン構造の周期的アレイを含む、試料保持器とを有する顕微鏡を含むシステム。
【請求項23】
前記試料のデジタル画像を生成するための画像捕捉システムを含む、請求項
22に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本開示は、光学的顕微鏡検査、組織学及び病理学の分野に関する。1つの形式では、本開示は、光学顕微鏡及び増強型試料保持器を使用して組織学を行うシステム及び方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
La Trobe Universityの名義におけるPCT/オーストラリア特許出願公開第2018/050496号(その内容全体が参照により本明細書に援用される)は、サブミクロン構造の周期的アレイを含むプラズモニック層を有する試料保持器の使用を通して増強型画像コントラストを提供する光学顕微鏡検査のシステム及び方法を開示している。この開示では、ナノスライドへの参照は、その両方の内容がすべての目的のために参照により本明細書に援用されるPCT/オーストラリア特許出願公開第2018/050496号又は2018年11月29日出願の本出願人の同時係争中の「Microscopy method and system」という名称のオーストラリア特許出願公開第2018904553号及び本出願と同じ日に出願されたオーストラリア特許出願公開第2018904553号に対する優先権を主張する国際特許出願の教示による試料保持器への参照である。このような試料保持器を使用する顕微鏡検査は、本明細書において組織学的プラズモニックス又は色コントラスト顕微鏡検査(CCMと略称される)と呼ばれる。試料は、プラズモニック層に隣接して試料保持器上に置かれる。使用中、試料及び試料保持器が照明され、試料の画像が生成される。本発明者らは、試料及びプラズモニック層と光との相互作用を介して色コントラストが測定対象画像内に呈示されることを観測した。特に、異なる誘電定数を有する試料の領域は、異なる色で画像内に出現する。強度コントラストの増加も実現される。これとは対照的に、非特異性染色を使用する従来の光学顕微鏡検査から取得される画像は、通常、使用される染色に対応する単一色の強度コントラストを呈示するのみである。対比染色又はバイオマーカが使用された場合でも、これらの従来技術は、特異色の画像を提供するのみである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
開示の概要
一態様では、本発明は、試料内の構造を識別する方法であって、
上側表面及び下側表面を有する試料保持器を提供することであって、上側表面は、それに関連するプラズモニック層を有し、プラズモニック層は、サブミクロン構造の周期的アレイを含む、提供することと、
試料を試料保持器の上側表面に貼り付けることと、
光が試料及び試料保持器と相互作用するように、前記光で試料を照明することと、
前記試料及び試料保持器との相互作用後の前記光を使用して画像を形成することであって、試料の少なくとも1つの局所化構造特性は、受け取られた光の色に基づいて画像内で可視である、形成することと、
構造をその色に少なくとも部分的に基づいて画像から識別することと
を含む方法を提供する。
【0004】
好ましくは、試料は、生体試料である。
【0005】
好ましくは、試料の局所化構造特性は、局所的誘電定数又は屈折率である。好ましい実施形態では、画像内において、所与の誘電定数又は屈折率を有する試料内の構造は、対応する色範囲内で出現する。このようにして、その誘電定数又は屈折率により近隣の構造と異なる構造は、誘導された色コントラストにより近隣の構造から視覚的に区別可能にされることになる。
【0006】
本明細書において開示されるすべての態様の実施形態では、構造は、限定しないが、細胞、癌細胞、癌細胞の一部、癌細胞の群、腫瘍性細胞、健康な細胞、所与のタイプの細胞、細胞状態の指標、寄生体、細胞の群、異常細胞、感染細胞、所与のタイプの組織であり得る。
【0007】
本方法は、構造の識別及び/又は試料の特徴の識別を可能にする以下の工程:
・構造の形態を視覚化する工程、
・構造の存在を視覚化する工程、
・構造の不在を有する試料の領域を視覚化する工程、
・構造の絶対的又は相対的寸法を視覚化する工程
の任意の1つ又は複数をさらに採用し得る。
【0008】
さらに、場合により、色コントラストは、構造の他の認識可能又は特徴的な特性がない構造の存在を指示し得、例えばいくつかの場合、構造の形態は、欠陥があり得るが、色コントラストが画像内のその明白な色から構造を識別するために使用され得る。
【0009】
2018年11月29日出願の本出願人の同時係争中の「Microscopy method and system」という名称のオーストラリア特許出願公開第2018904553号及び本出願と同じ日に出願されたオーストラリア特許出願公開第2018904553号に対する優先権を主張する国際特許出願は、本発明の本態様の実施形態において試料の画像を形成するために使用され得る試料保持器及び撮像方法並びに本明細書において開示される他のすべての態様において開示される試料保持器及び撮像方法の別の例を開示する。このようにして、試料から結論を導き出す組織学者/病理学者の能力が強化され得る。
【0010】
本方法は、試料の選択された局所化構造特性が、受け取られた光の所定の色又は色の範囲において画像内で可視にされるように、照明又は試料保持器の少なくとも1つの特性を選択することを含み得る。一例では、照明の偏光が選択され得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、
サブミクロン構造の周期的アレイの周期、及び/又は寸法、及び/又は形状、及び
プラズモニック層を含む厚さ及び/又は材料
の任意の1つ又は複数は、興味ある代表的構造からの、試料及び試料保持器から受け取られた光が、選択された色で画像内に出現するように選択され得る。例えば、プラズモニック層特性を選択した試料保持器に関して、代表的癌細胞は、青色でない周囲構造とは対照的に、ユーザにより青色であるとして知覚され得ることが本発明者らにより示された。様々なプラズモニック層特性を有する試料保持器を使用することにより、同じ細胞が異なる色で出現し得る。
【0012】
好ましくは、識別される構造は、所与の色で出現する。最も好ましくは、構造は、識別を補助するために予測色帯域内で出現する。
【0013】
試料は、プラズモニック層の固有減衰長より厚いことができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、試料は、ほぼ透明である。
【0015】
本明細書において言及されるように、試料は、染色又は標識付けされる必要がないが、いくつかの実施形態では、染色又は標識付けは、ナノスライドと併せて使用され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、構造は、細胞、癌細胞、癌細胞の一部、癌細胞の群、腫瘍性細胞、健康な細胞、所与のタイプの細胞、細胞状態の指標、寄生体、細胞の群、異常細胞、感染細胞、所与のタイプの組織であり得る。
【0017】
好ましくは、識別される構造は、癌の指標である。構造は、癌細胞又は癌細胞の群である。
【0018】
別の態様では、生体試料内の特徴差別化の方法が提供され、特徴は、欠陥のある又は異形の形態を潜在的に有し、本方法は、
上側表面及び下側表面を有する試料保持器を提供することであって、上側表面は、それに関連するプラズモニック層を有し、プラズモニック層は、サブミクロン構造の周期的アレイを含む、提供すること、
生体試料を試料保持器の上側表面に貼り付けること、
光が試料及び試料保持器と相互作用するように、前記光で試料を照明すること、
前記試料及び試料保持器との相互作用後の前記光を使用して画像を形成することであって、生体試料の少なくとも1つの局所化構造特性は、受け取られた光の色に基づいて画像内で可視であり、それにより、特徴が画像内のその色に基づいてその周囲から差別化されることを可能にする、形成すること
を含む。
【0019】
本方法は、形態学に基づいて特徴を検証することを含み得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、本明細書において説明される方法は、以下の処理工程又は副工程:
受け取られた画像の色帯域を選択的に処理するために画像をカラーフィルタリングする処理工程又は副工程、
受け取られた画像の色分布又は色ヒストグラムを判断する処理工程又は副工程、
画像内の1つ又は複数の構造を識別するために特徴抽出方法を行う処理工程又は副工程、
画像認識システムでデジタル画像を処理する処理工程又は副工程
の任意の1つ又は複数を含み得る。
【0021】
本発明の別の態様では、
サブミクロン構造の周期的アレイを含むプラズモニック層を有する試料保持器を提供すること、
試料を染色することなく、プラズモニック層に隣接して試料保持器上に試料を置くこと、
試料及び試料保持器を照明し、且つ試料内の構造が視覚化されることを可能にするためにその画像を形成すること
を含む方法が提供される。
【0022】
本明細書では、「画像を形成すること」は、ユーザが試料(若しくはその一部)の画像を知覚し得るように人間知覚可能画像を形成すること(例えば、光を集束することにより)又は格納、伝送、表示若しくは他の下流処理のために試料(若しくはその一部)のデジタル若しくは写真画像を生成することを含む。
【0023】
別の態様では、試料内の癌の兆候を識別する方法が提供され、本方法は、
サブミクロン構造の周期的アレイを含むプラズモニック層を有する試料保持器を提供することと、
プラズモニック層に隣接して試料保持器上に試料を置くことと、
試料及び試料保持器を照明し、且つ試料内の構造が視覚化されることを可能にするためにその画像を形成することであって、画像は、試料の局所化誘電定数に依存して試料の画像内に空間色コントラストを呈示する、照明及び形成することと、
画像内の試料の1つ又は複数の特徴を、特徴の色に少なくとも部分的に基づいて識別することと、
特徴の1つ又は複数の特性が癌の兆候であるかどうかを判断することと
を含む。
【0024】
本方法は、癌に固有である、画像内の試料の1つ又は複数の特徴が同じ色又は狭い色帯域において見られることを含み得る。
【0025】
別の態様では、試料内の少なくとも1つの細胞の状態を判断する方法が提供され、本方法は、サブミクロン構造の周期的アレイを含むプラズモニック層を有する試料保持器を提供することと、プラズモニック層に隣接して試料保持器上に試料を置くことと、試料及び試料保持器を照明し、且つ試料内の構造が視覚化されることを可能にするためにその画像を形成することであって、画像は、試料の局所化誘電定数に依存して試料の画像内に空間色コントラストを呈示する、照明及び形成することと、画像内の少なくとも1つの細胞の色に少なくとも部分的に基づいて、少なくとも1つの細胞の状態を判断することとを含む。
【0026】
本方法は、少なくとも1つの細胞の疾病状態を判断することを含み得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、試料は、同じタイプの複数の細胞を含み得、及び本方法は、同じタイプの細胞から、少なくとも1つの細胞を、少なくとも1つの細胞と、複数の細胞における細胞との間の色コントラストに基づいて区別することを含み得る。いくつかの実施形態では、試料は、異なるタイプの複数の細胞を含み得、及び本方法は、複数の細胞内の1つ又は複数のタイプの少なくとも1つの細胞を、少なくとも1つの細胞と、複数の細胞における細胞との間の色コントラストに基づいて区別することを含み得る。
【0028】
好ましくは、本方法は、複数の細胞内の、異常である少なくとも1つの細胞を区別することを含む。いくつかの場合、異常状態は、癌、良性異常又は感染を含み得る。本方法は、複数の細胞内の、良性異常状態を有する少なくとも1つの細胞を区別することを含み得る。例えば、本方法は、複数の乳房上皮細胞を含む母集団内の増殖又は非浸潤性乳管癌(DCIS)などの良性異常/状態から正常な乳房組織を区別する方法を提供し得る。
【0029】
別の態様では、上に記載の態様の任意の1つの態様の実施形態を使用して画像を形成するためのシステムが提供される。本システムは、画像形成システムと、照明システムと、上側表面及び下側表面を有する試料保持器であって、上側表面は、それに関連するプラズモニック層を有し、プラズモニック層は、サブミクロン構造の周期的アレイを含む、試料保持器とを有する顕微鏡を含み得る。本システムは、試料の画像を生成するための画像捕捉システムを含み得る。上側表面及び下側表面という用語は、試料調製又は使用中のいずれかの試料保持器の特定の配向を指すように意図されていないことに留意すべきである。
【0030】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるような構造を識別する自動化方法又は部分的自動化方法は、その両方の内容がすべての目的のために参照により本明細書に援用される、2018年11月29日出願の本出願人の同時係争中の「Automated method of identifying a structure」という名称のオーストラリア特許出願公開第2018904551号及び本出願と同じ日に出願されたオーストラリア特許出願公開第2018904551号に対する優先権を主張する国際特許出願の態様の実施形態に従って行われ得る。
【0031】
図面の簡単な説明
本発明の例示的実施形態は、添付図面を参照して非限定的例として説明されことになる。本国際出願と共に出願された添付図面は、本発明の実施形態において使用されるカラー画像であって、その使用から生じるカラー画像を含む。色情報は、実施形態の本開示の一部を形成する。画像の白黒再生又は階調再生が発生すれば、色開示は、元々申請された文書から取得され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1a】本開示の実施形態において使用される例示的試料保持器の詳細を示す。本発明は、
図1b及び1cに示される特定微細構造アレイを有する試料保持器の使用に限定されると考えるべきではない。
【
図2a】本発明の実施形態における使用のために様々な試料が置かれる
図1aからの例示的試料保持器を示す。
【
図2b】本発明の実施形態における使用のために様々な試料が置かれる
図1aからの例示的試料保持器を示す。
【
図3】本発明の実施形態を行うために使用可能なシステムの概略図である。
【
図4】本発明の実施形態において行われる1つの方法内の工程を示すフローチャートである。
【
図5a】色コントラストが試料の構造を識別するために使用され得る、従来の顕微鏡用スライド上の非染色試料を使用して形成された画像(上部)及びナノスライド上の非染色試料を使用して形成された画像(下部)を示す。
【
図5b】従来の顕微鏡用スライド上の非染色試料を使用して形成された画像(一番上)、試料の構造を識別するために使用され得る第1の色コントラスト画像を示す第1の偏極の光を使用するナノスライド上の非染色試料(第2番目)、試料の構造を識別するために使用され得る第2の色コントラスト画像を示す第1の偏極に対して90°の第2の偏極の光を使用するナノスライド上の非染色試料(第3番目)及びトルイジンブルー染色を受けた均等な試料を示す。
【
図6】色コントラストが試料の構造を識別するために使用され得る、従来の顕微鏡用スライド上の非染色試料を示す本発明の実施形態を使用して形成された2対の画像(水平方向に配置された)(左側)とナノスライド上の非染色試料(右側)とを示す。カラープロットは、最上部系列及び最下部系列の画像内の選択された空間位置の可視スペクトル全体にわたる透過強度(%)を示す。
【
図7a】健康な肺組織の2つの均等な部分を示す。上部画像は、H&E染色され、下部画像は、対応するナノスライド画像である。目盛棒は、5μmである。
【
図7b】健康な肺組織の2つの均等な部分を示す。上部画像は、H&E染色され、下部画像は、対応するナノスライド画像である。目盛棒は、5μmである。
【
図8】乳癌組織から同一条件下で収集された画像を示し、色コントラストが使用される場合の興味ある構造を検出する相対的容易さを示す。
【
図9】乳癌転移を有する肺組織のH&E染色免疫組織化学的検出とナノスライドを使用した撮像との比較を示す。
【
図10】乳癌転移を有する肺組織部分内の癌細胞を検出するためのナノスライドを使用した方法に対するH&E染色の別の比較を示す。
【
図11a】小動物、MMTV-PyMTマウスモデル研究のための病理学ワークフローを概略的に示す。
【
図11b】小動物、MMTV-PyMTマウスモデル研究のための病理学ワークフローを概略的に示す。
【
図12】H&E、Ki67及びナノスライド画像の対応スライスの大視野(3.8mm)部分を示し(最上部から最下部に)、一番下の行は、腫瘍性細胞に関して陽性であると識別された画像の一部分を示す。腫瘍性MMTV-PyMT乳癌細胞に整合するHSL値を有する領域は、薄青色(ナノスライド)及び鮮緑色(Ki67)で示される。
【
図13】HSL色空間及び乳癌病理学者による評価に基づく構造の識別(小動物データの識別)を指示する例示的出力を示す。
【
図14】ナノスライドを使用したPyMTモデル内の癌陽性に対応するHSL色空間値の例示的範囲を示す。
【
図15】黄色外形(第1の列)により識別された腫瘍性領域のH&E画像並びにナノスライド及びKi67陽性の相対強度を示す。
【
図16a】光度(L)対色相(H)に応じてプロットされた専門乳癌病理学者により評価された領域の出力を示す。
【
図16b】HSL色空間値に基づいて癌性であるとして明白に識別された細胞の百分比を示す。
【
図16c】24匹のマウスから収集されたデータのKi67及びナノスライド画像の病理学評点を示す、癌性であるとして識別された細胞の百分比は、腫瘍段階を指示する。
【
図16d】3つの異なるクラスの腫瘍性領域のナノスライドのDice係数とKi67のDice係数との一致を示す。
【
図17】ヒト細胞内の構造を検出するために使用される本発明の実施形態の例示的実施を示す。この場合、構造は、癌細胞である。
【
図18】ヒト乳房上皮細胞内の正常、良性及び癌病理学を区別するためのナノスライドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施形態の詳細な説明
本発明者らは、ナノスライドが光学顕微鏡検査において使用される場合に呈示される色コントラストが、組織学及び病理学を行う能力を強化し得ることをさらに認識した。特定の実施形態では、ナノスライドの使用は、色をコントラストする(通常、試料を染色又は標識付けする必要なく)際に構造的差異が提示されるため、試料内の構造を速やかに識別する能力を強化する。他の実施形態では、ナノスライドの使用は、試料の一部分内の色コントラストを選択的に呈示することにより試料内の構造を見る能力を強化し得、色コントラストを選択的に呈示する試料の部分は、試料保持器からの固有減衰距離内の部分(例えば、平面領域)である。対照的に、照明されると試料内の強度コントラストを強化するか又は引き起こすために染色液又は染料を使用する従来の光学顕微鏡検査は、強度コントラストを生成するために試料の全厚さを使用する。これは、試料のビュー(又はその撮影された画像)が実際には試料の全厚さを介した全光吸収の2次元投影であるという欠点を有する。これは、画像内の試料の詳細を曖昧にする影響があり得る。対照的に、ナノスライドによる組織学は、試料保持器に最も近い試料の一部分内の色コントラストのみを誘起し、したがって受け取られた光における強度コントラストを生成するために染色又は標識付けのみに依存する従来の顕微鏡検査より小さい寸法を有する構造を有用に示し得る。例えば、
図7a及び7bに示す画像の対を参照されたい。分かるように、ナノスライド導出画像は、強度コントラストに加え位置間の色コントラストを実証することに加えて、定性的により鮮明な画像を有する。
【0034】
図1aは、本開示の一例において使用される試料保持器の実施形態を示す。
図1aは、本発明における使用に好適な試料保持器全体に渡る断面を示す。試料保持器100は、プラズモニック層102が蒸着される基板を含む。
図1b及び1cは、作製され、且つ実施形態において使用され得るサブミクロンアレイを有する2つのタイプのプラズモニック層102を示す。層は、それぞれ150nm厚さの銀塩フィルムであるが、他の好適な材料が使用され得る。
図1bは、六角形パターンで配置された450nm周期を有する円形状ナノ開口の形式のサブミクロンアレイを有する。
図1cは、長方形パターン上の十字形ナノ開口を有する。十字形ナノ開口は、一方向(ここでは、0°方向として定義される)に450nm周期を、且つ直交方向(90°方向として定義される)に400nm周期を有する。これらのアレイは、470~550nm範囲(電磁スペクトルの可視領域内である)内の表面プラズモンポラリトン(SPP)共振モードを有する。プラズモニック層102の表面を保護するために、ガラス様材料である水素シルセスキオキサン(HSQ)の層104(10nm±1nm)がプラズモニック層102の製作後に蒸着される。HSQによりキャッピングした後、試料保持器100は、試料が支持され得る従来の顕微鏡用スライドのものと同様の上側表面を有する。使用中、HSQ層は、組織付着力を促進する極性表面も提示する。
【0035】
撮像対象試料は、La Trobe Universityの名義におけるPCT/オーストラリア特許出願公開第2018/050496号の実施形態に従って準備され、試料保持器上に置かれる。本発明の好ましい実施形態において染色又は標識付けされる必要がない試料106(通常、生体組織のスライス)は、
図2Aに示すようにプラズモニック層に隣接する試料保持器上に置かれる。
【0036】
図3は、本開示による方法を行うように構成されたシステム300の概略図である。概観では、システム100は、試料保持器100を収容するように適合された顕微鏡310を含む。顕微鏡は、透過又は反射モードで画像を捕捉し得る。試料保持器100は、プラズモニック層を有するナノスライド(PCT/オーストラリア特許出願公開第2018/050496号の態様に従って作製された試料保持器)である。撮像される試料106は、試料保持器上に置かれる。いくつかの実施形態では、顕微鏡は、ユーザにより見るための接眼レンズを有する従来の光学顕微鏡であるが、表示、格納又は他の後の使用のためのデジタル画像を生成するために画像捕捉システムを代替的に又は追加的に含み得る。いくつかの形式では、顕微鏡310は、自動化スライドスキャナの一部分を形成し得る。示された例示的システム300は、試料の捕捉されたデジタル画像の表示のためのユーザ端末312及び捕捉された画像を格納するためのデータ格納システムを含む。
【0037】
図4は、試料(
図2a又は2bなどの試料106など)内の構造を識別するために使用され得る本開示の一態様の工程を示すフローチャートである。本方法は、工程400において試料106をナノスライドに貼り付けることにより始まる。スライド及び試料保持器は、402において設定されるように照明され、画像が形成される。任意選択的に、画像は、工程404においてデジタル形式で捕捉される。これに続いて、ユーザにより直接知覚された画像、すなわち工程404において捕捉された画像は、分析され、且つ試料内の1つ又は複数の構造的特徴が408において識別される。分析工程406及び識別工程408は、2018年11月29日出願の本出願人の同時係争中の「Automated method of identifying a structure」という名称のオーストラリア特許出願公開第2018904551号及び本出願と同じ日に出願されたオーストラリア特許出願公開第2018904551号に対する優先権を主張する国際特許出願に記載されたように、人により又は自動的な方法でのいずれかで行われ得る。
【0038】
分析工程406は、少なくとも画像内に呈示された色を使用して行われる。本発明では、画像内の特定位置における色は、試料の局所的物理的性質を表す。特に、サブミクロン構造の周期的アレイを含むプラズモニック層を有する試料保持器を使用することにより、試料内の局所化誘電定数を符号化する色コントラストが呈示される。分析は、試料内の興味ある1つ又は複数の構造を代表する画像内の特徴を識別するために行われる。興味ある構造は、例えば、細胞、細胞の群、細胞の一部、細胞間の間質腔、細胞内の空隙及び上記のいずれかの形態を含み得る。最も好ましくは、興味ある特徴及び/又は構造は、試料の健康状態を指示する。
【0039】
画像内の著しい光学コントラストの基礎をなす機構は、試料保持器のプラズモニック層の金属面における自由電子の集合的振動との光の共振相互作用(表面プラズモンポラリトン(SPP)として知られる)である。誘電体試料に接触するサブ波長開口のアレイを通る透過光のスペクトル変化は、SPP共振モードλ
θ
SPPの波長シフトΔλの関数であり、ここで、上付き文字θは、入射偏光角度(符号は、非偏光に関して除去される)を表し、下付き文字は、誘電定数が試料(d=s)又は空気(d=a)のものであるかどうかを指示する。SPPモードは、透過スペクトル内のピークにより特徴付けられ、厚さtの試料がナノ開口の上に置かれる場合の空気に対する対応波長シフトは、以下の式により与えられる。
Δλ≒(λ
θ
SPP,s-λ
θ
SPP,a)(1-exp(-2t/l
d)) (1)
ここで、l
d≒λ/2√ε
dは、SPP電磁場の固有減衰長であり、それ自体、試料の誘電定数ε
dの関数である。しかし、好ましい実施形態では、試料は、試料の固有減衰長より著しく厚いことに留意すべきである。これは、
図2bの例に示される。この例では、固有減衰長l
dは、参照番号110により指示される。分かるように、試料保持器100上の試料108は、減衰長110より厚い。膜厚が増加すると、透過SPP共鳴ピークは、λ
θ
SPPに等しくなるまで一層赤方偏移され、その後、これ以上の色変化は、発生しない。要するに、標準的透過明視野顕微鏡を使用する際、試料内の局所的誘電定数の変化に直接関係する色の空間分解分布が結果として生じることになる。光学スペクトルにおいて符号化された局所的誘電定数により、顕著な色コントラスト効果が生成される。これは、光学的に透明な試料内のいかなる構造(コントラストの欠如に起因して検出することが以前に困難であった)も画像内の捕捉された色コントラストのために可視光画像内で検出可能であることを意味する。さらに且つ照明されると、試料内の強度コントラストを誘起又は強化するために染色液又は染料を使用する従来の光学顕微鏡検査とは対照的に又は好ましい実施形態では、試料内の狭い(プラズモニック層の固有減衰長未満の)層上の識別可能な色コントラストのみを生成する。従来の顕微鏡検査は、試料の全厚さにわたる強度コントラストを示す。これは、試料の画像が実際には試料の全厚さ(200nmより著しく厚いことができる - 例えば、4μm厚さである
図6の試料を参照されたい)にわたる全光吸収の2次元投影であるという欠点(従来の顕微鏡検査において)を有する。これは、見る人にとって試料内の詳細を曖昧にする影響があり得る。視覚的に、これは、画像内で可視である構造を不鮮明又は曖昧にし得る。対照的に、ナノスライドによる組織学は、試料保持器に最も近い試料の一部分における色コントラストのみを誘起し、したがって染色又は標識付けのみに依存する従来の顕微鏡検査より小さい寸法を有する構造を有用に示し得る。例えば、
図7を参照されたい。従来の光学顕微鏡検査において理解されるように、より薄いスライスは、この問題をいくぶん改善し得るが、薄いスライスは、薄いスライスで感知可能強度コントラストを示さないことがあり得るという付随する欠点を引き起こす。
【0040】
図5a、5b及び6は、本発明の実施形態を使用することにより捕捉された画像のいくつかの例を示し、例示的試料の構造を識別する能力を示す。画像は、顕微鏡下で出現すると染色又は標識付けなしに提示される。
【0041】
これらの組織学的試料に関して、遺伝子組み換えマウスは、38の未翻訳配列19のイントロン1、エクソン2~3及び316bpの一部を含む、1.3KbのMBP 58配列及び3.4Kbのc-mycゲノムDNAで構成される4.7Kb DNA断片のマイクロインジェクションにより生成された。2-50系図は、染色体9上の構造の約10の複製を担持し、7つの元々生成されたものから、その系図のみにおいて明らかな振戦表現型に基づいて分離された。遺伝子組み換えマウス及び非遺伝子組み換え同腹子は、2分間37℃においてリン酸塩緩衝食塩水により左心室を介して潅流され、続いてリン酸緩衝液(200IUヘパリン/100mlを含むpH7.4)中の4%パラホルムアルデヒド/2.5%グルタルアルデヒドにより潅流された。
図5bに関して、組織は、部分が顕微鏡切片作成法を介して視神経から切断される前に1時間にわたって4℃においてそのままにされた。組織は10%緩衝ホルマリン内で固定され、パラフィン包埋され、且つスライドガラス又はナノスライド上に4μmで切片化された。
図5bでは、一番下の画像対は、トルイジンブルー染色された均等な試料を示す。目盛棒は、5μmである。
【0042】
図5a及び6に関して、乳腺は、自発的乳腺腫瘍が発現する時点で50日歳Bl/6 MMTV-PyMT陽性雌マウスから分離された。組織(対照Bl/6マウスから導出されるものを含む)は、10%緩衝ホルマリン内で固定され、パラフィン包埋され、且つスライドガラス又はナノスライド上に4μmで切片化された。
【0043】
ナノ開口の周期的アレイを含む使用されるナノスライドは、集束イオンビーム(FIB)リソグラフィ技術(Helios NanoLab 600 Dual Beam FIB-SEM、FEI)又はフォトリトグラフィ(大面積用)のいずれかを使用して作製された。水素シルセスキオキサン(HSQ)保護層がアレイ製作後に回転塗布された。HSQは、電子への暴露を介してアモルファスシリコン酸化物に変換された。他の実施形態では、金属酸化物キャッピング層(例えば、SiO
2)がHSQの代わりに使用され得る。
図5bの例では、周期的アレイは、
図1cに関連して述べられた長方形パターン上に十字形ナノ開口を有する構造を有する。十字形ナノ開口は、一方向(ここでは0°方向として定義される)に450nm周期を、且つ直交方向(90°方向として定義される)に400nm周期を有する。
【0044】
明視野及びDICデータは、60×(NA=0.7)対物鏡を有するNikon Ti-U顕微鏡システムを使用して収集され、スペクトルデータは、1200格子/mmにおいてIsoPlane SCT 320(Princeton Instruments)を使用し収集された。スペクトルデータは、ベア基板に対して正規化された。ここで提示されるすべての画像は、何であれいかなる画像操作も適用されることなく顕微鏡を介して「見られる」ものである。Bruker Dimension Icon AFMが地形学的データ及びライン走査を収集するために使用された。
【0045】
乳房組織の非染色4μm部分の2つの明視野光学画像を示す
図5aを参照する。最上部画像は、従来のスライドガラス上の非染色部分である。一番下の画像は、ナノスライド上の均等な部分である。撮像時間は、1秒未満であった。最上部画像において分かるように、ほとんどいかなる構造も試料がほぼ透明であることに起因して見ることができず、したがって、画像は、コントラストの欠如を表示する。下側画像において容易に分かるように、ナノスライドを使用することにより、試料内の構造は、画像内に呈示される色コントラストに起因して容易に視覚化され得る。試料内の様々な構造の色は、様々な誘電定数の領域を反映する。さらに、同じタイプの構造は、試料全体にわたり同じ色で出現する傾向もあり、このような構造の信頼できる識別を可能にする。
【0046】
図5bは、70nm厚さである視神経スライスから収集された画像を示す。目盛棒は、5μmである。このような部分は、通常、透過型電子顕微鏡検査(TEM)を使用することのみにより見ることができるが、非染色試料を示す最上部パネルにおいて分かるように、従来の光学顕微鏡検査を使用することではほぼ不可視である。第2及び第3のパネルは、画像(左側)と、その拡大詳細図(右側)とを示す。中央パネルは、0°の入射偏光により照明された試料により捕捉された画像を示す。下側パネルは、同じ試料であるが、90°の入射偏極を有する光により照明された試料を示す。一番下のパネルは、トルイジンブルー染色を受けた均等な試料を示す。予想通り、わずかな強度コントラストのみが観察可能である。
【0047】
入射偏光方向を変更すること(従来の明視野像への影響はなかった)は、広範囲の病理学に関して重大であるミエリン鞘などの組織の細胞下構造が選択的に増強されることを可能にすることが本発明者らにより観察された。これは、偏光角度のそれぞれに平行方向のサブミクロンアレイの様々な周期性に起因すると思われる。異なる周期性は、所与の誘電定数の構造が出現する色が変化するように透過スペクトルをチューニングすると考えられる。これは、いくつかの特性を有する構造の選択的強化又は着色を可能にする。要するに、典型的標的構造(例えば、細胞タイプ)の色チューニングは、標的構造が特徴的な色で又は色帯域内に出現するように、サブミクロン周期構造のパラメータ(例えば、周期、寸法、形状、アレイ幾何学形状の1つ又は複数)を選択することにより行われ得る。理解されるように、これは、標的構造の迅速な検出又はその特性の迅速な判断を強化し得る。
【0048】
図6は、各対の右画像が本発明の実施形態を使用して形成された2対の画像(各対は、水平方向に配置される)を示し、且つ左画像は、従来の顕微鏡用スライド上の非染色試料を示す。上側対の画像は、健康な乳房組織を示す。下側画像は、癌性乳房組織を示す。
【0049】
分かるように、両組の画像において、試料組織のいくつかの構造が視覚化され得、したがって隣接構造から色差別化に基づいて識別され得る。印象的なことに、画像の下側対の癌細胞は、ナノスライド上で濃青色として現れる。理解され得るように、色に基づいて標的構造を識別する能力は、組織学の処理を大いに促進し得る。本発明者らは、この感度を異なる細胞密度を有し(異なる量のタンパク質に恐らく起因して)、したがって若干異なる誘電定数を発現する癌細胞に帰する。この色コントラスト(通常、それらの形態の変化と共に)は、癌細胞の存在を正しく識別する容易さ(又はその可能性)を改善し得る。例えば、
図8及び9を参照されたい。
【0050】
最上部系列及び最下部系列の画像内の選択された空間位置の可視スペクトル全体にわたる透過強度(%)を示す色プロットも提供される。示唆したように、背景領域は、観察者にとってやや青色であるように見える。この領域のスペクトル内容は、青色トレースにより透過強度プロットで示される。健康な構造は、橙色/黄色又は緑色のいずれかに見える。スペクトルトレースは、橙色及び緑色トレースのそれぞれにより右側に指示される。最後に、一番下の対の画像内のみに存在する癌細胞は、濃青色に見える。これらの細胞のスペクトルトレースは、右側に紫色で指示される。示された各スペクトルの結果的に認識可能な色は、CIE 1931色空間に従ってCIEプロットを使用して判断され得る。
【0051】
上に指摘したように、ナノスライドは、画像内の少なくとも1つの細胞の色に少なくとも部分的に基づいて試料内の少なくとも1つの細胞の状態を判断する方法において使用され得る。本方法は、少なくとも1つの細胞の疾病状態を判断することを含み得る。有利には、試料は、同じタイプの細胞を含み得、且つ本方法は、複数の細胞内の少なくとも1つの細胞と細胞との間の色コントラストに基づいて、同じタイプの細胞の中からいくつかの細胞(又はそれらの状態)を区別することに関わり得る。これは、異常細胞を際立たせることを可能にし得る。いくつかの場合、異常状態は、癌、良性異常又は感染を含み得る。
【0052】
本発明者らは、ナノスライドの使用が組織に関連して細胞の変動の判断を可能にする可能性があることと、良性及び腫瘍性組織がラベルなしCCMにより区別される可能性があるかどうかとを実証する以下の実験を行った。実験の特別な焦点は、ナノスライドが、すべての乳癌の場合の20~25%を表す非浸潤性乳管癌(DCIS)のKi67と同等のレベルの癌細胞検出を実現するために使用される可能性があるかどうかを判断することであった。既存病理学ワークフローに適合するため、ナノスライドは、H&E(ヘマトキシリン及びエオジン)染色に対する理想的補助物である可能性があり、癌細胞に対する特異性を改善し、且つ誤診率を恐らく低減する一方、またIHC染色と比較して組織準備時間を低減する。
【0053】
図11a及び11bは、併せて、小動物、MMTV-PyMTマウスモデル研究の病理学ワークフローを概略的に示す(どのように連続切片がナノスライド、H&E及びKi67の直接比較のために採取されたかを示すことを含む)。
【0054】
本研究では、画像は、自発的乳房腫瘍形成のMMTV-PyMTモデルを利用した。ここでは、マウスは、50日の年齢以内に前浸潤性及び浸潤性腫瘍を発現する。前浸潤性及び浸潤性腫瘍は、増殖マーカKi67のためのIHC染色を使用することにより良性上皮細胞から区別可能であることが既に示された。全体で24匹のマウスがこの研究のために使用された。研究設計のワークフローが
図11a及び11bに示される。切片化されナノスライド上に置かれた組織のスライス毎に、近隣の部分は、H&E染色される(専門家ヒト分析によるグラウンドトゥルース分析としての使用のために)一方、以下の2つの部分は、IHC染色により(一方は、増殖マーカにより、他方は、対照IgGにより)処理された。
【0055】
図12は、対応スライスのH&E、Ki67及びナノスライド画像(上から下に)の大視野(3.8mm)部分を示し、各スライスは、4μm厚さである(>>ナノスライドのI
d)。これらの部分は、一連の異なる組織タイプ(例えば、リンパ節、コラーゲン、筋組織、リガメントなど)をカバーし、且つ前浸潤性及び腫瘍性乳房組織の領域も含む。グラウンドトゥルース病理学的評価及び比較Ki67 IHC染色を使用することにより、癌細胞に関連するHSL値がナノスライドに関して識別された(下記を参照されたい)。同様の手法は、IHC染色画像のセグメント化に既に適用されてきた。Ki67及びナノスライドの両方を使用したガン組織のHSL値の範囲に基づいて、HSL色空間の固有特性を活用することにより、本発明者らは、腫瘍性組織を表示するためのみに画像を閾値化することができた。ナノスライド及びKi67に関してこの手順を行った結果が
図12の一番下の行に示される。なお、オーバーレイされた大視野陽性結果においてKi67とナノスライドとの間の優れた全体的一致がある(2つのスライスは、組織生検において12μmだけ分離される)ことに留意されたい。Ki67とナノスライドとの間のこの高度の相関は、この研究において使用されたスライドのすべてにわたって観測された。
【0056】
ナノスライドとIHC染色との間の性能及び相関を定量化するために、高解像度撮像データがスライドから収集された。合計64領域が24匹のマウスの群全体にわたって調べられた。確立されたプロトコルに従い、組織は、真陽性(TP)、真陰性(TN)、偽陽性(FP)及び偽陰性(FN)として分類された(方法を参照されたい)。2つのキー情報が組織分類のために使用された。第1のキー情報は、癌含有領域が識別された場合の病理学的注釈であり、高解像度H&E染色スライドが癌の段階とマージンとを識別するために使用された。組織の形態学的評価は、専門ヒト乳房及びマウス乳腺病理学者(O’Toole)及び乳癌研究者(Parker)により行われ、且つ
図13において提示される分析のために「グラウンドトゥルース」を形成した。分類は、以下の説明に従って適用された。
【0057】
【0058】
第2の情報は、トレーニングデータからの基準値に対して比較された画像ピクセルHSL色空間値に由来した。正常、増殖、DCIS(非浸潤性乳管癌)及び浸潤性腫瘍乳房組織を含む領域は、ナノスライド及びKi67染色の両方に対して独立に分析された。各タイプの領域及び結果として得られる組織分類のいくつかの例示的画像が
図13に示される。画像(第1及び第3列)は、顕微鏡下で出現すると提示される。大視野陽性分析(
図12、一番下の行)の結果を確認すると、前浸潤性及び浸潤性腫瘍組織内の腫瘍性細胞は、染色の結果(Ki67:褐色)又は局所的誘電定数の変動の結果(ナノスライド:青/紫色)のいずれかとして、比色分析差分相互作用を介して同じ組織及び良性組織内の周辺細胞から容易に区別された。
図12及び13から分かるように、スライド全体にわたって観測された脂肪及び他のタイプの非癌性組織は、ナノスライド及びKi67の両方上で特徴的に異なる色(HSL)を有し、この関連性を支持する。
図13から分かるように、ナノスライド上の正常細胞は、TNとしてほぼ一様に分類されると思われる。ナノスライド画像上の浸潤性細胞画像は、TNエリアにより囲まれた大多数のTP領域として分類され、自動化画像分析による精密な分類を示す。DCIS及び増殖画像は、混合されたFN、TP、TN領域のエリアにより囲まれた腫瘍領域の中心に向かう多数TPの領域を含む。
【0059】
ナノスライド画像及びKi67画像の両方に関して、癌細胞の平均RGB空間値及びHSL空間値は、グラウンドトゥルース標準から判断された。癌細胞は、ナノスライド上で撮像されると、色相が概して青色として発現する一方、Ki-67陽性核は、乳房組織の画像内で褐色色相とし発現する。
【0060】
Ki67及びナノスライド内の陽性癌細胞の平均RGB及びHSLチャンネル値が表1に要約される。本発明者らにより判断されたKi67陽性のRGB値は、(Shi et al., Scientific Reports, 2016)からの公開された値に近い。
【0061】
【0062】
ナノスライド及びKi67内の細胞陽性に関連する色変化の変動性に基づいて、平均HSL色空間値(H、S及びLのそれぞれの)を中心に±15%閾値が陽性癌細胞のセグメント化に使用された。すなわち、この範囲内において、細胞は、癌に関して「陽性」であると見なされた。ナノスライドを使用する癌陽性に対応するHSL色空間値の例示的範囲が
図14に示される。
【0063】
公開された標準に対して結果をさらに検証するために、本発明者らは、「正常」、増殖、DCIS及び浸潤性病変を判別するための確立された評点行列を使用した。
図15において提示された結果において明らかにされるように、両方の手法(ナノスライド及びKi67)は、無作為前臨床研究において同様の百分比の腫瘍性細胞を識別する。H&Eのみを使用するDCISに関して、病理学者の中では低率の合意がある。DCISは、極めて変わり易い形態を有する不均質病変を含む。正常及び湿潤性の極限では、乳癌は、識別することが容易である一方、DCISは、微妙であり、且つ結果的に特に大視野においてH&Eのみに基づく誤診に直面する。
【0064】
研究された小動物モデル全体にわたり、Ki67及びナノスライド内の癌細胞に対応する測定値(HSL)は癌特定領域(又はこのモデルにおける前癌病変であるもの - 増殖)にほぼ完全に制約される。他のタイプの組織では、色は十分に異なるため、これらの他の組織は病理学者又は自動化画像分析のいずれかにより癌と勘違いされる可能性がない。
【0065】
図15は、陽性細胞の画像ピクセルHSL色空間値と平均値との絶対差を示す。χは、選択された基準HSL色空間に対する画像ピクセルHSL色空間の類似性を、癌細胞の予め判断された中央値に基づいて定義するために使用されるメトリックである(平均HSL値の表1を参照されたい)。
【数1】
【0066】
H、S及びLは、HSL色空間内のピクセル値であり、HM、SM、LMは、表1からの平均値である。しかし、これは、顕微鏡下でこれらの試料を調べる際に人間の眼により知覚されるコントラストを必ずしも反映しないことに留意されたい。
【0067】
本明細書において開示される方法は、構造間のスペクトル出力の差をそれらの構造を識別するために利用する。
図6は、ナノスライド画像内の色コントラストを生じる良性及び腫瘍性乳房組織の受け取られた色スペクトルを示す。24匹のMMTV-PyMTマウス研究に基づいて、癌細胞のスペクトル出力は、デジタル病理学を行うための新規な機構を提供する他のタイプの非癌組織と異なるように見える。公開された標準に対して結果をさらに検証するために、本発明者らは、「正常」、増殖、DCIS及び湿潤性病変を判別するための確立された評点行列を使用した。
図16aに提示された結果(
図6の試料に関係する)において明らかにされるように、両方の手法(ナノスライド及びKi67)は、無作為前臨床研究において同様の百分比の腫瘍性細胞を識別する。DCISは、極めて変わり易い形態を有する不均質な病変を含む一方、正常及び湿潤性の極限において、乳癌は、識別することが容易であり、DCISは、微妙であり、且つ結果的に特に大視野においてH&Eのみに基づく誤診に直面する。
【0068】
図16aは、本明細書において説明された自動化方法がナノスライド試料保持器を使用してどのように試料内の構造間を判別するかを示す。この場合、「健康な」組織と浸潤性癌組織とは、画像の色相(H、°)及び光度(L、%)を根拠に識別され得ることが示された。「健康な」組織部分は、その90%が前湿潤性及び湿潤性腫瘍を最終的に発現することになるMMTV-PyMTマウスから採取され、したがって浸潤癌領域と比較すると少量のオーバーラップが予測され得ることに留意されたい。正常乳房組織と癌乳房組織との差は、野生型動物内の正常/良性組織と腫瘍性組織との間の明確な判別によりさらに検証される。
【0069】
Ki67とナノスライドとの一致を試験するために、本発明者らは、画像ピクセルHSL色空間値に従って腫瘍性細胞を含むとして2人の病理学者により識別された組織の百分比(面積による)を比較し、その結果が
図16bに要約される。領域に関して、検査された(N=30)ナノスライド及びKi67は、非常に正の相関がある性能メトリックを呈示する。Ki67及びナノスライド結果のPearson相関係数r及び対応p値は、以下の正相関を確認する:r(28)=.62、p<.001。調べられた担癌組織のうち、いずれも非零Ki67陽性及び零ナノスライド陽性の両方を有さず、且つ2つのみが非零ナノスライド陽性であるが、零Ki67陽性を有した。
図16cは、24匹のマウスから収集されたデータのKi67及びナノスライド画像の病理学評点を示し、癌性であるとして識別された細胞の百分比は、腫瘍段階を指示する。Ki67とナノスライドとの正相関は、乳癌病理学者の手作業評点(
図16c)を支持し、3つの異なるクラスの腫瘍性領域のナノスライド及びKi67のSorensen-Dice係数(DSC)係数を示す
図16dと一致する。DSCは、以下のように定義される:
DSC=2TP/(2TP+FP+FN)。
Ki67及びナノスライドデータの両方からの64の高解像度(200×倍率)画像の分析に基づいて、ナノスライド及びKi67(
図16d)の両方に関して計算された。
【0070】
病理学評価
C57 Bl/6 MMTV-PyMTモデルにおいて乳腺腫瘍の自発的発達のタイミングを確認する例では、様々な段階におけるC57 Bl/6 MMTV-PyMTマウスの乳腺が採取され、専門ヒト乳房及びマウス乳腺病理学者(O’Toole)及び乳癌研究者(Parker)によるH&E及びKi67により形態学的に評価された。ナノスライド試料は、無作為化され、独立に評点付けされ、次にKi67及びナノスライドの結果と事後分析で比較された。病理学評価のベンチマークは、高解像度において且つ時間制約なしにH&E染色組織部分を分析するトレーニングされた病理学者であった。これは、対照試験であったため、マウスの癌段階は、病理学者により既に知られていた。加えて、病理学者は、いかなる腫瘍性組織領域も評価中に見失われなかったことを確認するために、IHC染色を参照し直す可能性がある。癌を含む腫瘍領域又は管を高解像度で見る際、病理学者は、癌細胞の数を計数する。
【0071】
これがすべての試料に関して行われると、病理学者は、Ki67又はナノスライドのいずれかを使用して個々の陽性細胞の数を比較し(Ki67の「茶色」及びナノスライドの「緑/青」の色変化により判断されるように)、且つ「百分比陽性細胞」の最終計数に到達するために、この数を、H&E画像の病理学の評価から識別された癌細胞の総数により除算した。この分析は、この研究において使用された24匹のマウス全体にわたる24の癌含有領域に関して行われた。癌段階の知識に基づいて、結果は、以下の4段階に分類することができた:「正常」、「増殖」、「DCIS」及び「湿潤性」。病理学者により判断される陽性癌細胞の百分比の平均値は、各カテゴリ内で計算され、2つの独立した組の評点間で平均化されたこの平均値であり、棒グラフの棒の高さにより表される。
図10dに示す誤差バーを生成するために使用される様々な試料全体にわたる範囲(例えば、最小及び最大百分比)である。正常、DCIS及び湿潤性病変を判別するための評点行列が以下の表に示される。
【0072】
【0073】
本明細書において開示される方法は、複数の細胞内で異常状態を有する少なくとも1つの細胞を区別することであって、識別は、良性異常状態と健康状態との間で見られることを可能にすることを含む、区別することを含み得る。例えば、本方法は、複数の乳房上皮細胞を含む母集団内の増殖などの良性異常/状態から正常乳房組織を区別する方法を提供し得る。
図17は、IHC染色(中間行)及びH&E染色(一番下の行)により撮影された対応する画像と比較した、ヒト細胞(最上部行)内の構造を検出するために使用される本発明の実施形態の例示的実施を示す。正常乳房縮小術、増殖又は非浸潤性乳管癌ヒト組織の連続切片は、ヘマトキシリン及びエオジン染色され、増殖マーカKi67のためにIHC染色される(両方ともスライドガラス上において)か、又はナノスライド(無染色)上に置かれた。光学顕微鏡検査は、組織形態及び色を視覚化するために使用された。上に論述したように、中間行内の茶色着色は、Ki67陽性を指示する。ナノスライド画像内の細胞の差分色外観は、細胞の状態を指示し、且つ特に、癌細胞の存在は、上に指摘したように青/紫色に見える。
【0074】
図18aは、
図17からのCCMにより撮像された乳房組織内のDCISを示す画像を示し、18bは、
図17からのIHC染色により撮像された乳房組織内のDCISを示す画像を示す。各画像において、右手パネルは、試料の癌の平均色の15%内の色を有する各捕捉された画像の一部を識別するセグメント化画像を示す(CCM色範囲の
図14及び表1を参照されたい)。容易に観測され得るように、かなりの数の分化細胞がCCM画像内で観測され得る。これは、いくつかの癌細胞を明白に識別する増殖マーカ(
図18b)に基づくIHC染色に遜色がない。
【0075】
理解されるように、癌と他の病気との識別は、細胞形態の微妙な変化(細胞骨格及び細胞核に対する変性など)に基づき得る。これは、細胞対称性、形状、核多形性/核構成を含む。細胞タイプを区別することは、細胞寸法、形状及び組織構成に基づき得る。本発明の実施形態の使用は、このような特性及び構造の増強された可視性を可能にし得る。さらに、形態が低減される/欠陥がある場合(組織保存/調製技術に起因して又は発見することが困難になるごくわずかな癌スライドのみが存在する場合)、形態のみを根拠に癌の精確な診断を行うことは、非常に困難である。このような状況では、本発明の実施形態は、色コントラストを区別特徴として依然として提示し得る。すなわち、色コントラストは、より大規模な形態が、欠陥があるとしても依然として可視であり得る。本明細書において提示された例は、細胞の色が非癌性細胞と比較して癌細胞内で異なり得ることを指示する。
【0076】
図8は、以下の技術を使用することにより、乳癌組織から同一条件下で収集された画像を示す:
(左列)本発明の実施形態によるナノスライド。これらの画像は、染色、標識付け又は画像強調なしに数秒内に収集された。
(中央列)H&E染色 - 組織撮像のために最も広く使用される現在の標準。
(右列)同じ非染色試料の明視野顕微鏡検査。
【0077】
画像収集後、分析は、興味ある構造(例えば、癌細胞)を識別するために行われる。ナノスライド画像では、癌細胞は、画像内で暗緑色/青色に見える(それらの形態を背景に対して明瞭に目立たせる)ことに起因して病理学者により瞬時に識別できた。しかし、標準的H&E手法を使用する同じ分析は、周囲の健康細胞からの明確な差別化を困難にする染色の一様な色に起因して、はるかに難題であった。H&E染色を使用することは、癌細胞を健康細胞から差別化する際の困難性に起因して、多くの初期段階癌の高率な誤診に至り得る。画像では、目盛棒は、5μmである。予想通り、非染色試料は、いかなる役立つコントラストも示さない。
【0078】
従来の光学顕微鏡検査を使用することにより、細胞が湿潤性又は転移性である可能性があることを判断することは、困難である。転移が患者死亡の原因であることを考えれば、浸潤癌又は転移する可能性が最も高い癌を識別し得る診断は、病理学において現在利用可能でないものを提示し得る。
【0079】
図9は、この目的のために本発明の実施形態を使用する相対的な容易さを示す。理解されるように、癌細胞は、H&Eにより通常容易に検出されないが、免疫組織化学法(切断後、通常、2日かかる)を介して且つ本明細書において説明されたナノスライド撮像技術(切断後に数秒かかる)の使用を介して差別化され得る。
図9は、3つの行の2つの画像を示す。各行では、右画像は、低倍率のものであり、左側は、癌細胞を含む領域の拡大図を示す。最上部行は、H&E染色を受けた試料である。中間行は、抗mCherry免疫組織化学的検出に付される。一番下の行は、ナノスライド上に置かれた非染色試料である。ナノスライド上の癌細胞を示す拡大領域が
図10に示される。目盛棒は、5μmである。
図10は、H&E染色肺癌組織部分のさらなる詳細を示す(これは、このタイプの癌の診断テストとして通常使用されないことに留意されたい)。対応するCCM画像では、癌細胞(2日間の免疫組織化学検出手順により確認された)は、赤色矢印により指示される。本明細書に記載の方法を使用することにより、癌細胞は、他の細胞に対してより濃い色合いの茶色で癌細胞を示す色コントラストの結果として、病理学者により容易に識別される可能性がある。
【0080】
大多数の乳癌は、導管上皮内で発生する。上皮細胞内の様々な状態(正常、増殖(良性異常)及び癌の最早期段階を含む)を区別することは、困難であり得る。これは、精確な患者診断、監視及び治療(手術に関して決定することを含む)において非常に重要である。上に提示されたデータは、上皮癌細胞がナノスライド上の青/紫色外観により区別され得ることを示す。この外観は、癌細胞を同じ組織内の他の細胞から区別するだけでなく、様々な組織にわたる癌対良性又は正常上皮細胞も区別する。併せて、これは、本明細書において開示された方法が元の同じ細胞の様々な状態(癌及び感染を含む様々な疾病に関連性があり得る)を区別すること(人又はコンピュータ実施分析により)を可能にする能力を支援する。
【0081】
さらに、本発明のいくつかの実施形態は、組織学者及び病理学者がいかなる特殊装置又はトレーニング(スライド準備及び病理学的視覚化及び評価が既に使用したものに加えて)も使用することを必要としない。ナノスライドは、従来の顕微鏡用スライドに類似している。したがって、CCMは、既存の病理学ワークフロー(視覚化のために従来の顕微鏡を使用することを含む)内に組み込まれ得るが、病理学者に高コントラスト像を提供し得る。特に、癌に関して、CCMは、いかなる追加染色又は準備も必要とすることなく、「IHCSのような」画像を提供する。
【0082】
臨床設定では、標準的IHCSは、4時間かかり、CCMを使用することにより、結果/画像は、試料が顕微鏡下に行くと直ちに取得される。ある病理学者は、1日当たり200~300試料を調べることになる。診断することが難しい場合(初期癌を含む)の5~10%では、ワークフローと、より確定的な診断を待つ時間のコストとへの著しい阻害を表す追加の特別染色が要求される。
【0083】
本明細書において開示され定義された本発明は、述べられた又は本文若しくは図面から明らかな個々の特徴の2つ以上のすべての代替組み合わせに拡張することが理解されるであろう。これらの様々な組み合わせのすべてが本発明の様々な代替態様を構成する。