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特許7466547血管内皮細胞活性化物質のスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】血管内皮細胞活性化物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240405BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240405BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240405BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240405BHJP
   C07K 14/475 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N5/077
C07K14/475
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021539317
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020030921
(87)【国際公開番号】W WO2021029436
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019147942
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】田口 明彦
(72)【発明者】
【氏名】田浦 映恵
(72)【発明者】
【氏名】小川 優子
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-502114(JP,A)
【文献】Stem Cells,2010年,vol. 28, no. 7,pp. 1292-1302
【文献】神経治療学,2017年,vol.34, no.1,pp.31-36
【文献】Molecular neurobiology,2016年,vol. 53, no. 9,pp. 6057-6068,Epub 2015 Nov 3
【文献】生化学,2017年,vol. 89, no. 3,pp. 368-376
【文献】Nature,2005年09月22日,vol. 437, no. 7058,pp. 497-504
【文献】Stroke,2020年02月19日,vol. 51, no. 4,pp. 1279-1289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、血管内皮細胞活性化促進又は抑制物質のスクリーニング方法:
1)標識されたVEGFの存在下、血管内皮細胞を被験物質とともに培養する工程、
2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を決定する工程、
3)前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量に基づき、前記被験物質の血管内皮細胞活性化効果を評価する工程。
【請求項2】
血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が、被験物質との培養前後における、血管内皮細胞内における標識されたVEGF由来のシグナルの変化によって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血管内皮細胞への標識VEGFの取り込み量が、被験物質との培養前後における、培養上清中における標識されたVEGF由来のシグナルの変化によって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
被験物質による血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量の変化を、標準物質による血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量の変化と比較する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程3)において、前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が増加した場合に、前記被験物質は血管内皮細胞活性化促進物質として有用と評価し、前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が減少した場合に、前記被験物質は血管内皮細胞抑制物質として有用と評価する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
さらに、アンジオポエチン2、エンドグリン、IGFBP(インスリン様増殖因子結合タンパク質)、TNFα、及びTGFαからなる群から選ばれる1又は2以上のサイトカインの培養上清中の濃度を決定する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
サイトカインが、少なくともアンジオポエチン2を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
血管内皮細胞へのVEGF取り込み量の増加に加えて、上記培養上清中のサイトカイン濃度が減少した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化促進物質の候補として有用と評価し、血管内皮細胞へのVEGF取り込み量の減少に加えて、培養上清中のサイトカイン濃度が増加した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化抑制物質として有用と評価する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
血管内皮細胞活性化促進物質が虚血性疾患治療薬の候補であり、血管内皮細胞活性化抑制物質が血管新生阻害薬の候補である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
下記の工程を含む、虚血性疾患治療薬のスクリーニング方法:
1)標識されたVEGFの存在下、血管内皮細胞を被験物質とともに培養する工程、
2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を決定する工程、
3)前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が増加した場合に、前記被験物質を虚血性疾患治療薬の候補として選択する工程。
【請求項11】
下記の工程を含む、血管新生阻害薬のスクリーニング方法:
1)標識されたVEGFの存在下、血管内皮細胞を被験物質とともに培養する工程、
2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を決定する工程、
3)前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が減少した場合に、前記被験物質を血管新生阻害薬として選択する工程。
【請求項12】
標識が蛍光標識である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
血管内皮細胞がヒト血管内皮細胞である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願:
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2019-147942(2019年8月9日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
技術分野:
本発明は、血管内皮細胞活性化を制御する物質のスクリーニング方法に関する。より詳細には、血管内皮細胞内へのVEGFの取り込み量を指標として、血管内皮細胞活性化促進又は抑制物質をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄単核球細胞(Bone Marrow-Mononuclear Cell:BM-MNC)の移植は、虚血組織における血管新生を活性化することが知られている。BM-MNCは造血幹細胞を比較的高い割合で含有し、自家組織から容易に調製できるため、細胞療法の供給源に適しており、四肢虚血、心筋梗塞、脳梗塞などの虚血性疾患の実験的治療に頻繁に使用されているが、どのようにBM-MNCが血管新生を活性化するかはわかっていない。
【0003】
当初は、BM-MNCに含まれる造血幹細胞から内皮細胞への分化が基本的なメカニズムとして提案されていたが、その後の研究において、内皮細胞に分化するのは極めて少数の移植細胞であり、根本的なメカニズムではないことが判明した。複数の増殖因子やエクソソームの分泌も提唱されているが、はっきりしたエビデンスは示されていない。さらに、移植後の細胞の生存期間は比較的短いことが知られており、増殖因子やエクソソームの分泌は、BM-MNC移植後に長期間観察される強力な血管新生活性化作用の根本的なメカニズムではないと考えられている。
【0004】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は最も重要な血管新生促進因子の1つである。VEGFは細胞表面に存在するVEGF受容体に結合することで、チロシンキナーゼを活性化し、細胞内にシグナルを伝達し、細胞の機能や構造に変化を与える。VEGF受容体であるVGFR1とVGFR2の発現比率を指標として血管新生能の高い内皮細胞をスクリーニングする方法(特許文献1)や、VEGFR1を細胞表面に発現する培養血管内皮細胞株を利用して、VEGFR1のリン酸化や当該細胞の遊走を指標として血管新生促進作用を有する物質をスクリーニングする方法が報告されている(特許文献2)。また、VEGFとエンドスタチンの血中濃度を測定することにより、血管新生能を評価する方法が報告されている(特許文献3)。以上のように、従前は、VEGFの濃度や、VEGF受容体の動態等により、血管新生促進能力の測定を行なってきたが、本発明のように、VEGFの血管内皮細胞の取り込み量で、候補物質の血管新生促進能力を直接測定するという発想は、全く欠如していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-065697号公報
【文献】特開2007-244273号公報
【文献】WO2002/031497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、BM-MNC移植による血管新生の作用機序を応用し、その機能を代替する低分子物質をスクリーニングする方法を確立し、脳梗塞や心筋梗塞、四肢虚血を含む虚血性疾患、あるいは、癌、炎症性疾患、リウマチなどの血管新生が病態の進行に関与する疾患の新たな治療薬候補を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来、BM-MNCは、血管新生促進に関する各種成長因子などを分泌することにより、血管新生を促進すると考えられてきた。本発明者らは、BM-MNCが、血管新生促進に関する各種成長因子などを分泌することにより、血管内新生を促進するのではなく、BM-MNCが、血管内皮細胞に作用し、血管新生を促進する因子の血管内皮細胞における取り込みを、促進することにより、結果として、血管新生が促進されることを発見した。そして、VEGFあるいは、他の血管新生促進因子の血管内皮細胞における取り込み量の変化を指標として、BM-MNCと同様の作用を有する低分子化合物をスクリーニングすることで、新たな虚血疾患治療薬候補の探索が可能になることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(13)に関する。
(1)下記の工程を含む、血管内皮細胞活性化促進又は抑制物質のスクリーニング方法:
1)標識されたVEGFの存在下、血管内皮細胞を被験物質とともに培養する工程、
2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を決定する工程、
3)前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量に基づき、前記被験物質の血管内皮細胞活性化効果を評価する工程。
上記標識としては、蛍光標識、酵素標識、又は放射性標識が挙げられ、好ましくは蛍光標識である。
(2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が、被験物質との培養前後における、血管内皮細胞内における標識されたVEGF由来のシグナルの変化によって決定される、(1)に記載の方法。
(3)血管内皮細胞への標識VEGFの取り込み量が、被験物質との培養前後における、培養上清中における標識されたVEGF由来のシグナルの変化によって決定される、(1)に記載の方法。
(4)被験物質による血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量の変化を、標準物質による血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量の変化と比較する工程をさらに含む、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)工程3)において、前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が増加した場合に、前記被験物質は血管内皮細胞活性化促進物質として有用と評価し、前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が減少した場合に、前記被験物質は血管内皮細胞抑制物質として有用と評価する、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)さらに、アンジオポエチン2、エンドグリン、IGFBP(インスリン様増殖因子結合タンパク質)、TNFα、及びTGFαからなる群から選ばれる1又は2以上のサイトカインの培養上清中の濃度を決定する工程を含む、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記サイトカインが、少なくともアンジオポエチン2を含む、(6)に記載の方法。
(8)被験物質とともに培養することにより、血管内皮細胞へのVEGF取り込み量の増加に加えて、上記培養上清中のサイトカイン濃度が減少した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化促進物質の候補として有用と評価し、血管内皮細胞へのVEGF取り込み量の減少に加えて、培養上清中のサイトカイン濃度が増加した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化抑制物質として有用と評価する、(6)又は(7)に記載の方法。
(9)血管内皮細胞活性化促進物質が虚血性疾患治療薬の候補であり、血管内皮細胞活性化抑制物質が血管新生阻害薬の候補である、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
換言すれば、(1)~(8)の方法は、虚血性疾患治療薬あるいは血管新生阻害薬のスクリーニング方法となりうる。前記虚血性疾患としては、例えば、四肢虚血、心筋梗塞・狭心症・心不全を含む虚血性心疾患、脳梗塞などの虚血性脳血管障害等が挙げられる。血管新生阻害薬は、固形腫瘍や血管腫などの癌、慢性関節リウマチ、クロ?ン病、ベーチェット病、乾癬、粥状動脈硬化、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、未熟児網膜症、加齢性黄斑変性症など、血管新生が病態の進行に関与する疾患(血管新生病)の治療に有用である。
(10)下記の工程を含む、虚血性疾患治療薬のスクリーニング方法:
1)標識されたVEGFの存在下、血管内皮細胞を被験物質とともに培養する工程、
2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を決定する工程、
3)前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が増加した場合に、前記被験物質を虚血性疾患治療薬の候補として選択する工程。
(11)下記の工程を含む、血管新生阻害薬のスクリーニング方法:
1)標識されたVEGFの存在下、血管内皮細胞を被験物質とともに培養する工程、
2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を決定する工程、
3)前記血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が減少した場合に、前記被験物質を血管新生阻害薬として選択する工程。
(12)標識が蛍光標識である、(1)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)血管内皮細胞がヒト血管内皮細胞である、(1)~(12)のいずれかに記載の方法。
【0009】
これまで、VEGF受容体の発現やVEGFの分泌量を指標として血管新生活性化作用を評価する手法は知られているが(前掲)、VEGFの取り込み量の促進を指標として、血管内皮細胞の活性化作用を評価する方法は知られていない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、BM-MNCと同様の機構で血管内皮細胞を活性化する作用を有する物質を公知の低分子化合物等からスクリーニングすることができ、生体内におけるBM-MNCの機能を低分子化合物で置換することが可能になる。標識VEGFの細胞内取り込み量を指標としたスクリーニング系は、血管内皮細胞活性化促進又は抑制物質のハイスループットスクリーニングを可能とする。同定された被験物質は、標的が血管内皮細胞であるため、薬物送達の観点からも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、BM-MNCとの共培養によるヒト臍帯静脈血管内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)への血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)取り込みを示す。
(A)培地中のVEGF濃度の有意な減少が、BM-MNCとの共培養によって観察された。対照的に、セルカルチャーインサートによるBM-MNCとの非接触共培養は、VEGFレベルを減少させなかった。(B)HUVEC及びBM-MNCは、抗CD31抗体及び抗CD45抗体によって明確に区別することができた。(C-G)ストレプトアビジン-Allophycocyanin(APC)のHUVECへの取り込みは観察されなかった(C)。HUVEC培養のみ(D)と比較して、VEGFのHUVECへの取り込みがBM-MNC共培養後に上昇していることが観察された(E)。1-オクタノール(F)又はカルベノキソロン(G)によるBM-MNCギャップ結合の遮断は、共培養効果を無効にした。(H-J)ストレプトアビジン-APCのBM-MNCへの結合は観察されなかった(H)。BM-MNCを単独で培養した場合(I)又はHUVECと共培養した場合(J)、BM-MNCへのVEGFの取り込みはほとんど観察されなかった。*p<0.01 versus medium、**p<0.01 versus medium、各群n=3(A)。
図2図2は、in vitroでのギャップ結合を介したBM-MNCからHUVECへのBCECF(2’,7’-Bis(carboxyethyl)-4 or 5-carboxyfluorescein)移行を示す。
(A-D)ナイーブ(A)及びBCECF標識BM-MNC(B)と共培養したHUVEC(A-C)のFACS分析。BCECF標識BM-MNCとの共培養後にBCECF陽性のHUVECが観察された。セルカルチャーインサートを用いて共培養した場合(C)、又はギャップ結合脱共役剤1-オクタノールを適用した場合(D)、BCECF移行は遮断された。(E、F)HUVECはAlexa Fluor(登録商標)488蛍光標識抗体(以下、Alexa488)単独(E)又は抗Cx37(コネキシン37)抗体及びAlexa488(F)で染色した。HUVECでは、Cx37の発現はほとんど見られなかった。(G、H)アイソタイプコントロール抗体(G)又は抗Cx43(コネキシン43)抗体(H)で染色したHUVEC。Cx43の発現はHUVECで観察された。(I、J)BM-MNCはAlexa488単独(I)、又は抗Cx37抗体及びAlexa488(J)で染色した。Cx37の発現はBM-MNCにおいて観察された。(K、L)アイソタイプコントロール抗体(K)又は抗Cx43抗体(L)で染色したBM-MNC。Cx43の発現はHUVECで観察された。
図3図3は、in vivoでのギャップ結合を介したBM-MNCから内皮細胞へのBCECFの移行を示す。
(A-D)脳梗塞後脳への静脈内注射の5分後に移植したBCECF陽性BM-MNC。BCECF陽性細胞(A)が脳微小血管系(B)に観察された。画像を重ね合わせることで、BCECFはCD31陽性内皮細胞膜を通過してBM-MNCから内皮細胞への移行が実証される(C、D)。(E、F)反対側の健康な大脳皮質ではコネキシン37(Cx37)の発現は観察されなかったが(E)、同側では脳梗塞誘発48時間後に明らかに発現された(F)。(G、H)コネキシン43(Cx43)の発現は健康な皮質ではほとんど観察されなかったが(G)、脳梗塞後には発現の増加が観察された(H)。(I-L)BCECFの浸潤(J)を伴うCx37の蓄積(J)が内皮細胞において観察された(K、L)。(M-P)BCECFの浸潤(N)を伴うCx43の蓄積(M)が内皮細胞において観察された(O、P)。スケールバー、20μm(A),5μm(D,I),40μm(E)
図4図4は、内皮細胞の微細構造の変化が、BM-MNC移植動物におけるオートファジーの減少を示唆することを示す。
(A)非脳梗塞マウスにおける内皮細胞、基底層、周皮細胞及び星状細胞(astrocyte foot processes)からなる正常な毛細血管。(B、C)病変部の毛細血管の代表的な写真。相当数のオートファゴソーム様液胞が、PBS処置マウスの内皮細胞において観察された(B)。対照的に、星状細胞(astrocyte foot processes)の消失にもかかわらず、脳梗塞誘発72時間後のBM-MNC処置マウスの内皮細胞中には、付着した周皮細胞を伴う数個のオートファゴソーム様液胞が観察された(C)。(D、E)PBS処置マウスの内皮細胞において、相当数のオートファゴソーム様液胞が観察された(D)。対照的に、BM-MNC処置マウスの内皮細胞では、オートファゴソーム様の液胞はほとんど観察されなかった(E)。(F、G)非損傷対側皮質における毛細血管の写真。オートファゴソーム様液胞が、PBS処置マウスのいくつかの内皮細胞において観察された(F)。対照的に、BM-MNC処置マウスの内皮細胞においてオートファゴソーム様液胞は観察されなかった(G)。(H)定量分析により、BM-MNC移植が関連領域におけるオートファゴソーム様液胞の形成を抑制することが確認された。スケールバー、2μm(A)、p<0.01versus PBS、各群n=5(H)。
図5図5は、脳梗塞後の内皮細胞におけるオートファジーマーカーLC3の発現を示す。
(A)病変領域のほとんどのCD31陽性内皮細胞は、PBS及びBM-MNC処置マウスの両方においてLC3を発現する。(B)病変周辺領域において、LC3陽性内皮細胞はBM-MNC処置マウスにおいてめったに観察されなかったが、ほとんどの内皮細胞はPBS処置マウスにおいてLC3陽性であった。(C)損傷を受けていない対側皮質では、PBSを投与されたマウスではいくつかのLC3陽性内皮細胞が観察されたが、BM-MNCを投与されたマウスではLC3陽性内皮細胞は観察されなかった。スケールバー、20μm(A)
図6図6は、BM-MNC移植後のHif-1α発現を示す。
(A-C)脳損傷誘発後3時間(B)又は48時間(C)において、損傷を受けていない脳(A)、及び脳梗塞後領域において、Hif-1αの発現はほとんど観察されなかった。(D)しかしながら、BM-MNC移植の1時間後、毛細血管様構造においてHif-1α発現の増加が観察された。(E-H)BCECFシグナル(E)は、CD31陽性内皮細胞におけるHif-1α発現と共局在していた(G、H)。スケールバー、40μm(A),10μm(E)
図7図7は、HUVEC培養上清中の各種サイトカイン濃度の変化を示す。
HUVEC単独培養(PBS)、BM-MNCとの共培養(BM-MNC)。グラフは、上清中のサイトカイン濃度の培養6時間での変化量(pM)を示す。(A)Angiopoetin-2、(B)Endoglin、(C)TGFα、(D)IGFBP-1、(E)TNFα。
図8図8は、低分子化合物によるHUVEC(ヒト臍帯静脈血管内皮細胞)のVEGF取り込み促進作用を、標準物質と比較したものである。
(A)蛍光バックグラウンド、(B)標準物質/被験物質なし、(C)標準物質(Caffeic acid)、(D)被験物質1(4-0-Caffeoylquinic acid)、(E)被験物質2(Chicoric acid)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、血管内皮細胞におけるVEGFの取り込みを指標とした血管内皮細胞活性化促進物質又は抑制物質、特にBM-MNCと同様の機構で血管内皮細胞の活性化を制御する作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【0013】
1.工程1)標識されたVEGFの存在下、血管内皮細胞を被験物質とともに培養する「血管内皮細胞」
本発明で使用される「血管内皮細胞」は、VEGFに対するレセプターを発現している培養可能な血管内皮細胞であれば特に限定されないが、哺乳動物由来の細胞が好ましく、特にヒト由来の細胞がより好ましい。ヒト血管内皮細胞としては、例えば、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)、ヒト臍帯動脈内皮細胞(HUAEC)、ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC)、ヒト冠状動脈内皮細胞(HCAEC)、ヒト肺動脈内皮細胞(HPAEC)、ヒト伏在静脈血管内皮細胞(HSaVEC)、ヒト皮膚血管内皮細胞(HDBEC)、ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMEC)、ヒト子宮微小血管内皮細胞(HUtMEC)、ヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)、ヒト心臓微小血管内皮細胞(HCMEC)、ヒト皮膚微小リンパ管内皮細胞(HDLEC)などが挙げられ、いずれも市販の培養細胞株を利用することができる。特に好ましいのは、HUVEC及びHBMECである。
【0014】
「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」
本発明で使用される血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、使用する血管内皮細胞に発現しているVEGF受容体に結合できるものであれば特に限定されないが、哺乳動物由来のVEGFが好ましく、特にヒト由来のVEGFがより好ましい。VEGFには、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、PIGF-1、PIGF-2など7つのファミリーが存在する。一般にVEGF-AをVEGFと呼ぶこともあり、本明細書においても、単にVEGFと記載する場合には、VEGF-Aを意味するものとする。
【0015】
本発明では、標識されたVEGFを使用することができる。標識方法は特に限定されず、酵素標識、放射性標識、蛍光標識など、公知の方法を適宜選択して用いることができる。本発明においては、蛍光標識が好ましい。
【0016】
酵素標識に使用する酵素としては、HRP(Horseradish peroxidase)、AP(Alkaline phosphatase)が挙げられ、HRPはDABやTABなどの発色基質を用いて、APはBCIP/NBTやpPNPPなどの発色基質を用いて発色させる。
放射性標識に使用する放射性同位体としては、125I、Hなどを使用することができ、タンパク質ヨウ素標識試薬を用いて、酵素的又は化学的酸化により検出対象であるタンパク質に組み込む。
【0017】
蛍光標識に使用する蛍光物質としては、PE(Phycoerythrin)、APC(Allophycocyanin)、GFP、CFP、RFPなどのなどの蛍光蛋白質、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)、Coumarin、TRITC(Tetramethylrhodamine)、Alexa Fluor(登録商標)、Cy(登録商標)、Texas Red(登録商標)、BODIPY(登録商標)FL、Super Brightなどの低分子蛍光色素を好適に使用することができるが、これらに限定されない。蛍光標識のシグナルは、光学顕微鏡、高感度CCDカメラ、共焦点レーザー顕微鏡、フローサイトメトリーなどの検出方法と画像処理技術によって検出・定量することができる。
【0018】
検出は、感度を上げるためにビオチン-アビジン系やビオチン-ストレプトアビジン系を用いて蛍光シグナルを増幅してもよい。
【0019】
「被験物質」
本発明の方法においてスクリーニングの対象となる被験物質の種類は特に限定されない。後述する虚血性疾患治療薬としての使用を考慮した場合、合成や取扱いが容易な低分子化合物が好ましい。低分子化合物とは、分子量が約1万以下の化合物を意味する。
【0020】
「血管内皮細胞の培養」
血管内皮細胞は、標識VEGFの存在下で被験物質とともに培養する。培養には、市販の内皮細胞用の培地を用いてもよいし、基本培地に細胞の維持増殖に必要な各種栄養源や分化誘導に必要な各成分を添加して作成してもよい。基本培地としては、DMEM、Keratinocyte-SFM、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM、Improved MEM Zinc Option、IMDM、Medium 199、Eagle MEM、α MEM、ハム培地、RPMI 1640 培地、Fischer’s培地、McCoy’s培地、ウイリアムスE培地、及びこれらの混合培地など、哺乳動物細胞の培養に使用できる培地であればいずれも用いることができる。
【0021】
栄養源としては、グリセロール、グルコース、果糖、ショ糖、乳糖、ハチミツ、デンプン、デキストリン等の炭素源、また、脂肪酸、油脂、レシチン、アルコール類等の炭化水素類、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム等の窒素源、食塩、カリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等の無機塩類、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム及び硫酸マンガン、各種ビタミン類、アミノ酸類等を含むことができる。
【0022】
培地には、その他必要に応じて、レチノイン酸、ピルビン酸、βメルカプトエタノール等のアミノ酸還元剤、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、3’チオールグリセロール、増殖因子(epidermal growth factor;EGF,basic fibrobrast growth factor;bFGF,Insulin-like growth factor;IGFなど)、血清あるいは血清代替物等を添加してもよい。なお血清代替物としては、例えば、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、市販のKnockout Serum Replacement(KSR)、bovine pituitary extract(BPE)、Chemically-defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)、B27 supplement(Gibco社製)、Y-27632(和光純薬)が挙げられる。
【0023】
これらの成分を配合して得られる培地のpHは5.5~9.0、好ましくは6.0~8.0、より好ましくは6.5~7.5の範囲である。
【0024】
培養は、36℃~38℃、好ましくは36.5℃~37.5℃で、1%~25% O、1%~15% COの条件下で行われる。
【0025】
2.工程2)血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を決定する
「血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量の決定」
血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量は、被験物質との培養前後における、血管内皮細胞内における標識VEGF由来のシグナル強度の変化を測定することにより、直接的に決定することができる。あるいは被験物質との培養前後における、培養液中に残存する標識VEGF由来のシグナル強度の変化を測定することにより、血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量を間接的に決定してもよい。
【0026】
血管内皮細胞内における標識されたVEGF由来のシグナルの変化を測定する場合、血管内皮細胞と被験物質を、標識VEGFの存在下において、少なくとも10分以上、20分以上、30分以上、より好ましくは30分~4時間、更に好ましくは1~3時間程度、被験物質と培養した後に測定することが推奨されるが、培養条件や使用する細胞に応じて適宜変更しても良い。
【0027】
培養上清中における標識されたVEGF由来のシグナルの変化を測定する場合、血管内皮細胞と被験物質を、標識VEGFの存在下において、少なくとも30分以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、より好ましくは4時間以上、特に好ましくは6時間程度、被験物質と培養した後に測定することが推奨されるが、培養条件や使用する細胞に応じて適宜変更しても良い。
【0028】
細胞内における標識VEGFの量は、例えば、FACSを使用することで簡便に測定することができる。培養上清中に残存する標識VEGFの量は、例えば、分光蛍光光度計及びマイクロプレートリーダー、Bio-Plexリーダーを利用して測定することができる。
【0029】
3.工程3)被験物質の血管内皮細胞活性化効果を評価する
被験物質の血管内皮細胞活性化効果は、前記被験物質による血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量に基づいて評価する。評価は、被験物質単独で行ってもよいし、血管内皮細胞へのVEGF取り込み促進作用が既知の化合物を標準物質として使用し、当該標準物質と比較して評価してもよい。
【0030】
被験物質単独で評価を行う場合、最も単純には、被験物質とともに培養することにより、血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が有意に増加した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化物質の候補として同定する。あるいは、一定の基準値が設定できれば、その基準値を上回るVEGFの取り込み量が認められた場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化物質の候補として同定する。
【0031】
被験物質単独で評価を行う場合、最も単純には、被験物質とともに培養することにより、血管内皮細胞へのVEGFの取り込み量が有意に減少した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞抑制物質の候補として同定する。あるいは、一定の基準値が設定できれば、その基準値を上回るVEGFの取り込み量が認められた場合に、当該被験物質を血管内皮細胞抑制物質の候補として同定する。
【0032】
「標準物質」
標準物質と比較して評価する場合には、同一の条件において、標準物質を添加した場合と、被験物質を添加した場合における、血管内皮細胞へのVEGF取り込み量を比較することで、血管内皮細胞活性化効果を評価する。なお、標準物質は血管内皮細胞のVEGF取り込み促進作用が確認できている物質であれば特に限定されない。後述する実施例では、本発明の方法により、発明者らが血管内皮細胞に対するVEGF取り込み促進効果を確認しているCaffeic acidを使用することにより、他の低分子化合物の血管内皮細胞に対するVEGF取り込みを評価したが、標準物質はこれに限定されるものではない。
【0033】
「血管内皮細胞活性化促進物質」
本発明の方法でスクリーニングされる「血管内皮細胞活性化促進物質」とは、BM-MNCと同様の機構で血管内皮細胞の活性化を促進する作用を有する物質である。
【0034】
「血管内皮細胞活性化抑制物質」
本発明の方法でスクリーニングされる「血管内皮細胞活性化抑制物質」とは、BM-MNCと逆の作用を発揮し、血管内皮細胞の活性化を抑制する作用を有する物質である。
【0035】
4.培養上清中のサイトカイン濃度の評価
必要に応じて、上記方法は、さらに、アンジオポエチン2、エンドグリン、IGFBP(インスリン様増殖因子結合タンパク質)、TNFα、及びTGFαからなる群から選ばれる1又は2以上のサイトカインの培養上清中の濃度を決定する工程を含んでいてもよい。サイトカイン濃度は、VEGFと同様の方法で測定できるが、市販のマルチプレックスシステムを使用して複数のサイトカインを同時測定してもよい。例えば、被験物質とともに培養することにより、血管内皮細胞へのVEGF取り込み量の増加に加えて、上記培養上清中のサイトカイン濃度が減少した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化促進物質の候補として同定する。逆に、被験物質とともに培養することにより、血管内皮細胞へのVEGF取り込み量の減少に加えて、培養上清中のサイトカイン濃度が増加した場合に、当該被験物質を血管内皮細胞活性化抑制物質の候補として同定する。評価に使用するサイトカインとしては、特にアンジオポエチン2とTGFαが好ましく、アンジオポエチン2がより好ましい。
【0036】
5.虚血性疾患治療薬のスクリーニング
「虚血性疾患治療薬」
本発明のスクリーニング方法で同定された血管内皮細胞活性化促進物質は、BM-MNCと同様の作用機序で血管内皮細胞による血管新生を活性化させることができる。そのため、床ずれ・皮膚潰瘍、手術瘢痕、難治性消化性潰瘍を含む創傷、潰瘍性大腸炎、クローン病などの慢性炎症性腸疾患を含む炎症性疾患、重症四肢虚血、心筋梗塞・狭心症・心不全を含む虚血性心疾患、脳梗塞などの虚血性脳血管障害、糖尿病性ニューロパチー、重症虚血を伴うがんなどの虚血に起因する疾患(虚血性疾患)の治療薬として有用である。換言すれば、本発明のスクリーニング方法は、虚血性疾患治療薬の候補物質のスクリーニングに利用できる。
【0037】
6.血管新生阻害薬のスクリーニング
「血管新生阻害薬」
本発明のスクリーニング方法で同定された血管内皮細胞活性化阻害物質は、BM-MNCの作用に拮抗する機序で血管内皮細胞による血管新生活性化を抑制することができる。そのため、血管新生阻害薬として、病態の進行と血管新生が密接に関連する癌、慢性関節リウマチ、、クロ-ン病、ベーチェット病、乾癬、粥状動脈硬化、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、未熟児網膜症、加齢性黄斑変性症などの血管新生病の治療薬として有用である。換言すれば、本発明のスクリーニング方法は、上記した血管新生阻害薬の候補物質のスクリーニングに利用できる。
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
実施例1:BM-MNCによるHUVECのVEGF取り込みの促進
1.材料及び方法
・BM-MNCの調製
骨髄は、6週齢、オスのC57BL/6マウス(Japan SLC)から得た。大腿骨及び脛骨を解剖し、PBSを用いて骨から骨髄を抽出した。骨髄を機械的に分離し、BM-MNCをFicoll-Paque Premium(GE Healthcare)を用いた密度勾配遠心分離によって単離した。
【0040】
・内皮細胞の調製とBM-MNCとの共培養
メーカーのプロトコルに従い、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC、Kurabo)を培地(HuMedia-EB2、Kurabo)、血清及び増殖添加剤とともに培養した。HUVECを6ウェルプレート(1000μl、1.5x10細胞/ウェル)に播種し、72時間インキュベートした。試料から上清(200μl)を集めた。次に、共培養実験のために、HuMedia-EB2のみ、又はHuMedia-EB2に懸濁させたBM-MNC懸濁液(1×10細胞/ウェル)、をHUVECに添加した。6時間共培養の後、上清(200μl)をウェルから集めた。
【0041】
HUVECとBM-MNCとの間のギャップ結合介在性細胞間相互作用の関連性を評価するために、BM-MNCをギャップ結合阻害剤である1-オクタノール(最終濃度1mM)又はギャップ結合阻害剤であるカルベノキソロン(CDX:終濃度100μM、Sigma)とともにインキュベートし、HUVECと共培養する前にHuMedia-EB 2で2回洗浄した。
【0042】
・VEGF測定
ヒト血管内皮増殖因子(hVEGF)の濃度を、メーカーのプロトコルに従いBio-Plex Multiplex System(Bio-Rad)を用いて測定した。予想したとおり、BM-MNC懸濁液中のhVEGFレベルは検出限界以下であった。HUVECとBM-MNCとの間の細胞間相互作用の効果を評価するため、セルカルチャーインサート(1μm孔径:Thermo Fisher)を用いて直接の細胞間相互作用を防止した。
【0043】
・BM-MNCのサイトゾルへの低分子蛍光分子の導入
BM-MNCを1μMのBCECF-AM(2’,7’-bis-(2-carboxyethyl)-5-(and-6)-carboxyfluorescein,acetoxymethylester、Thermo Fisher)とともに室温で30分間インキュベートした。使用前に、BCECF標識BM-MNCをPBSで2回洗浄した。
【0044】
・HUVECによるVEGFの取り込み
ビオチン結合VEGF(R&D Systems)をストレプトアビジン結合APC(Thermo Fisher、モル比4:1)とともに室温で10分間インキュベートした。HUVECをPBS中に懸濁した。2×10個のBM-MNC及びAPC標識VEGF(最終濃度10nM)を1×10個のHUVECに加え、37℃で3時間インキュベートした。同時インキュベーション後、細胞混合物をPBSで2回洗浄し、Phycoerythrin(PE)標識抗ヒトCD31抗体(BD Bioscience)、FITC(Fluorescein isothiocyanate)標識抗マウスCD45抗体(BD Bioscience)及び7-AAD(BD Bioscience)で染色した。HUVEC中のAPCのレベル(CD31陽性、CD45陰性及び7AAD陰性)をFACS Calibur蛍光セルソーター(BD Bioscience)で評価した。VEGF取り込みに対するギャップ結合の役割を評価するために、BM-MNCを1-オクタノールとともにインキュベートした。
【0045】
・局所脳虚血の誘発及びBM-MNC投与
再現性に優れたマウス脳梗塞モデルを採用した(Taguchi A et al.,“A Reproducible and Simple Model of Permanent Cerebral Ischemia in CB-17 and SCID Mice.”J Exp Stroke Transl Med.2010;3(1):28-33.)。すなわち、3%ハロタン吸入麻酔下で双極鉗子を用いて7週齢のオスのCB-17マウス(オリエンタル酵母)の左中大脳動脈(MCA)遠位部分を結紮及び切断して永久局所的脳虚血を誘発した。術中、直腸温をモニターし、フィードバック調節式加温パッドで37.0±0.2℃に制御した。MCA領域における脳血流(CBF)もモニターした。MCA閉塞直後にCBFが75%以上減少したマウスを実験に使用した(成功率100%)。術前の動物の体重は20~25グラムであった。脳梗塞誘発48時間後に、5×10個のBM-MNC又はPBSを尾静脈から注入した。
【0046】
・免疫組織化学
梗塞皮質を分析するために組織化学的に、マウスをペントバルビタールナトリウムで深く麻酔し、生理食塩水終濃度4%パラホルムアルデヒドを含む生理食塩水で灌流して固定した。脳を注意深く摘出し、ビブラトーム(Leica)を用いて冠状切片(20μm)を作製した。非脳梗塞CB-17マウスの切片も、大脳皮質でのコネキシン37及び43の発現を評価するために作製した。切片をCD31(BD Pharmingen、希釈率1:50)、LC3(Medical&Biological Laboratories、1:500)、HIF-1α(Hif-1α R&D、1:50)、コネキシン37(Cloud-Clone、1:50)、コネキシン43(Proteintech、1:200)又はDAPI(BD Bioscience、1:1000)に対する一次抗体で免疫染色した。抗Hif-1α抗体を3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)法によって可視化し、Mayerのヘマトキシリン溶液(Wako)で対比染色した。Alexa 555結合抗体(Novus Biologicals)を二次抗体として使用して、CD31、コネキシン37及びコネキシン43を可視化した。Alexa647、Alexa488又はAlexa633(すべてNovus Biologicals)-結合抗体を、それぞれHif-1α、LC3、コネキシン37又はコネキシン43抗体を検出するための二次抗体として使用した。
【0047】
・電子顕微鏡分析
超微細構造を分析するため、動物を4%パラホルムアルデヒドと2%グルタルアルデヒド含有PBS(pH7.4)を含む固定液で灌流した。脳を注意深く摘出し、4℃のパラホルムアルデヒドに24時間浸漬した。冠状脳切片をマイクロスライサーで100μmの厚さに薄切した。切片を1%OsOで固定した。1時間、脱水し、エポキシ樹脂中でシリコン処理したスライドグラス上に平らに包埋した。虚血性病変、脳梗塞周辺領域又は対応する対側性皮質領域を含む大脳皮質の超薄切片を切り出し、Formvar被覆シングルスロット(2x1mm)グリッドに載せ、2%酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。電子顕微鏡写真は、JEM-1400EX+(JDEL)を使用し80kVで撮影した。虚血性病変、脳梗塞周辺領域及び対応する対側性皮質領域におけるオートファゴソーム様液胞の数を数えた。
【0048】
・データ解析
群間の統計的比較は、一元配置分散分析(ANOVA)、続いてDunnett’s検定を用いたpost-hoc分析を用いて決定した。指示がある場合は、Student’s t検定を使用して個々の比較を行った。全ての実験において、平均±SDとして示した。
【0049】
2.結果
(1)BM-MNCはギャップ結合介在性相互作用を通してHUVECへのVEGFの取り込みを促進する
VEGFは、最も顕著な血管新生促進因子の1つである。最初にHUVEC培地中のVEGFレベルに対するBM-MNCの効果を評価した。マウスBM-MNCをHUVECと共培養し、共培養の前及び6時間後に培地中のhVEGFのレベルを評価した。hVEGFレベルはBM-MNCとの共培養後にベースラインから有意に減少したが、対照においては増加した(図1A)。セルカルチャーインサートによって分離されたBM-MNCとの共培養では、hVEGFレベルは減少しなかった。この発見は、BM-MNCが細胞間相互作用を介してHUVECへのhVEGFの取り込みを促進し得るという仮説を支持する。
【0050】
仮説を確認するために、APC標識VEGFをHUVEC培地に添加し、HUVECへのAPC標識VEGFの取り込みをFACSによって評価した。HUVEC及びBM-MNCは、CD31及びCD45に対する抗体によって区別した(図1B)。HUVECへのVEGFの取り込みの増加は、BM-MNCとの共培養後に観察された(図1C-E)。ギャップ結合は、骨髄の造血幹細胞(HSC)と内皮細胞間の相互作用を含む、細胞間相互作用において重要な役割を果たすことが知られている。VEGFの取り込みに対するギャップ結合を介した細胞間相互作用の本質的な寄与を調べた。BM-MNCが共培養の前にギャップ結合阻害薬(1-オクタノール又はカルベノキソロン)で前処理されている場合、HUVECへのAPC-VEGFの取り込みは改善されなかった(図1F、G)。HUVECの存在下又は非存在下で共培養した場合、BM-MNCにおいてVEGFの取り込みがほとんど観察されなかったことに留意すべきである(図1H-J)
【0051】
(2)ギャップ結合を介したBM-MNCから内皮細胞への低分子量物質のin vitro輸送
BM-MNCとHUVEC、低分子量蛍光の間の仮定されたギャップ結合介在性相互作用を確認するため、低分子蛍光物質(BCECF)をBM-MNCの細胞質に導入した。BCECFの分子量は約520であり、ギャップ結合を通過することが知られている。BM-MNCからHUVECへのBCECFの移行をFACSによって評価した(図2A、B)。BM-MNCとHUVECをセルカルチャーインサートで分離して共培養しても移動は観察されず(図2C)、ギャップ結合脱共役剤1-オクタノールを塗布した場合も移動は認められなかった(図2D)。BM-MNCとHUVECとの間のギャップ結合介在性相互作用を確認するために、コネキシン37及び43の発現を調べた。コネキシン37の発現は観察されなかったが(図2E、F)、コネキシン43の発現はHUVECの細胞表面で観察された(図2G、H)。対照的に、コネキシン37(図2I、J)及びコネキシン43(図2K)の両方の発現がBM-MNCで観察された。
【0052】
(3)ギャップ結合を介したBM-MNCから内皮細胞への低分子量物質のin vivo移動
BCECF標識BM-MNCを脳梗塞誘発48時間後にマウスに静脈内移植した。BM-MNC注入の5分後、マウスを安楽死させ、BCECFの局在を蛍光顕微鏡により評価した。BM-MNCから内皮細胞へのBCECF移行の証拠とともに、BCECF陽性細胞が脳梗塞領域の微小血管系において観察された(図3A-D)。BM-MNCと内皮細胞との間のギャップ結合介在性細胞間相互作用を調査するために、脳梗塞後の脳におけるコネキシン37の発現を調査した。非脳梗塞マウスではコネキシン37の発現はほとんど観察されず(図3E)、脳梗塞誘発の48時間後の病変領域ではコネキシン37の発現の増加が観察された(図3F)。同様に、非脳梗塞マウスにおいてコネキシン43の発現は観察されなかった(図3G)。しかし、コネキシン43発現は、脳梗塞誘発の48時間後に病変領域において増加した(図3H)。in vivoでのBM-MNCと内皮細胞との間のギャップ結合介在性の細胞間相互作用を確認するために、BCECF標識BM-MNCを脳梗塞誘発48時間後にマウスに静脈内移植した。BCECF陽性シグナルは、コネキシン37(図3I-L)及びコネキシン43(図3M-P)の蓄積を伴う内皮細胞において観察された。
【0053】
(4)BM-MNC移植は脳梗塞後の内皮細胞におけるオートファジーを減少させる
BM-MNC移植後の内皮細胞における超微細構造変化を調べるために、電子顕微鏡検査用の試験片を調製した。図4Aは、内皮細胞、基底膜、周皮細胞、及び星状細胞(astrocyte foot processes)で構成される病変のない脳の正常な血液脳関門(BBB)を有する無傷の毛細血管を示す。
【0054】
予想通り、ニューロン及びグリア細胞の変性及び壊死は、脳梗塞誘発72時間後(すなわち、それぞれPBS及びBM-MNC投与の24時間後)の病巣中心において有意であったが、血管構造は依然としてPBS処置マウス(図4B)及びBM-MNC処置マウス(図4C)の両方で比較的良好に維持された。PBS処置マウス(図4B)では、内皮細胞中に多数のオートファゴソーム様液胞が形成され、時には非晶質物質を含有したり、層状構造を有していた。不明瞭なクリステを伴う変性ミトコンドリアもEC細胞質において観察され、核ヘテロクロマチンも減少した。対照的に、BM-MNC処置マウスではほとんど変化が見られなかった(図4C)。
【0055】
脳梗塞周辺領域では、PBSを投与されたマウス内皮細胞の細胞質内に様々なサイズの液胞が形成された(図4D)。対照的に、BM-MNCを投与されたマウスは、内皮細胞においてオートファゴソーム様液胞形成をほとんど示さなかった(図4E)。内皮細胞におけるいくらかの液胞が、PBSを投与されたマウスの病変のない対側皮質で観察された(図4F)が、BM-MNCを投与されたマウスにおいてはそのような液胞は観察されなかった(図4G)。異なる領域におけるオートファゴソーム様液胞数を計測したところ、BM-MNC移植はすべての関連領域でオートファゴソーム様液胞の形成を減少させることが確認された(図4H)。
【0056】
内皮細胞におけるオートファゴソーム様液胞を調べるために、脳梗塞誘発72時間後(すなわち、PBS又はBM-MNC注射の24時間後)の脳切片をオートファジーマーカーであるLC3で染色した。LC3陽性血管内皮細胞は、脳梗塞領域においては、PBS処置マウス及びBM-MNC処置マウスの両方において観察された。脳梗塞周辺領域では、PBS投与マウスにおいはLC3陽性血管内皮細胞が観察されたが、BM-MNC処置マウスにおいてほとんど観察されなかった(図5B)。脳梗塞反対側においては、PBS投与マウスにおいはLC3陽性血管内皮細胞が観察されたが、BM-MNC処置マウスにおいては、全く観察されなかった。(図5C)。これらのデータは、BM-MNC移植が、脳虚血後の内皮細胞におけるオートファジーを抑制することを実証する。
【0057】
(5)BM-MNC移植後の脳梗塞後の微小血管系におけるHif-1α発現の増加
内皮細胞におけるVEGF取り込みの上流調節因子を最終的に調査するために、脳梗塞後の脳におけるHif-1αの発現を調査した。以前の報告と同様に、脳梗塞誘発3時間後(図6B)又は48時間後(図6C)において、損傷を受けていない脳ではHif-1αの発現はほとんど観察されなかった(図6A)。BM-MNCは、脳梗塞の誘発後48時間に静脈内投与され、細胞投与後1時間で、脳梗塞後の脳の血管系様細胞におけるHif-1αの発現が見られた。BCECF標識BM-MNCの移植後のHif-1α活性化の可能性の増加を調べた。BCECF標識BM-MNCを脳梗塞誘発後48時間で静脈内注射し、内皮細胞におけるBCECF及びHif-1αの局在を細胞注射後30分で調べた。その結果、内皮細胞ではBCECFとHif-1αの共局在が観察された(図6E-H)。これらのデータは、BM-MNCからの低分子量物質の移動が脳梗塞後の脳の内皮細胞においてHif-1αの発現を潜在的に誘導し得ることを示した。
【0058】
3.考察
本結果により、BM-MNCが低分子物質のギャップ結合介在性細胞間交換によりHif-1α発現を増加させることで、VEGF取り込みをアップレギュレートし、内皮細胞活性化をサポートすることが実証された。
【0059】
内皮細胞は骨髄血管ニッチで骨髄細胞集団と連絡することが知られており、これはギャップ結合に仲介される。本実験では、脳内皮細胞におけるコネキシン37と43の発現が脳梗塞後にアップレギュレートされることを実証した。低分子水溶性物質は、移植されたBM-MNCから内皮細胞に移動し、この移動によりHif-1α含有量が増加した。Hif-1αの活性化は、内皮細胞へのVEGF取り込みのアップレギュレーションを誘導することが知られている(Gleadle JM and Ratcliffe PJ.,(1997)Blood.15;89(2):pp503-9.)。これらの知見は、内皮細胞におけるHif-1αのBM-MNC介在性活性化、それに続くVEGF取り込みのアップレギュレーションが、脳梗塞における細胞療法による血管形成の重要なメカニズムであることを示す。このBM-MNCによるVEGF取り込みに至る複雑な過程を低分子で代替することができれば、それは脳梗塞など血管新生が関与する疾患に対して、細胞療法に代わる治療法として有用である。
【実施例2】
【0060】
実施例2:BM-MNCによるHUVECの各種サイトカイン取り込みの促進
1.材料及び方法
BM-MNCは、実施例1に記載した方法で調製した。実施例1にしたがいHUVECをBM-MNCと共培養し、培養上清中の各種サイトカイン濃度の培養6時間での変化量を調べた。各種サイトカイン(Angiopoietin、Endoglin、IGFBP-1(Insulin-like growth factor binding protein-1)、TNF-α、TGF-α(いずれもヒト由来))の濃度は、Bio-Plex ProヒトCancer Biomarker 2 18-Plexパネル#171AC600M(BioRad)を用いて同時に測定した。比較のため、BM-MNCの代わりに、同量の培地を添加して同様にHUVECを培養したときの各種サイトカインの濃度も測定した。
【0061】
2.結果
結果を図7に示す。Angiopoetin-2は、HUVECのみの場合には培養上清中の濃度は7081pMに増加したが、BM-MNCと共培養した場合には培養上清中の濃度は1618pM低下し、結果としてBM-MNCは培養上清中のAngiopoetin-2を8699pM低下させる。同様に、Endoglin、IGFBP-1、TNFα、TGFαについても、BM-MNCとの共培養により、培養上清中の濃度は有意な差を持って低下した。なおこの実験系では、BM-MNCとの共培養前と、共培養6時間後の、培養上清中の濃度の変化を観察しており、値がプラスであれば、培養上清中の濃度が上昇したこと、値がマイナスであれば培養上清中の濃度が低下したこと、値が0であれば、培養上清中の濃度に変化がなかったことを示す。
【0062】
3.考察
培養上清中のAngiopoetin-2、Endoglin、IGFBP-1、TNFα、TGFαなどのサイトカイン濃度の低下は、BM-MNCとの共培養により、VEGFに加えて、これらサイトカインの細胞内への取り込みが増加することを示唆する。これらのサイトカインも、血管新生に深く関与している分子であり、BM-MNCとの共培養によりVEGFと同様にHUVECでの取り込みが増加したと考えられる。そのため、これらのサイトカインの培養上清中濃度の減少あるいはHUVECへの取り込み量を測定することにより、血管内皮細胞活性化促進又は抑制物質のスクリーニングが、可能となる。
【実施例3】
【0063】
実施例3:標準物質を使った血管活性化物質の定量的評価方法の標準化
発明者らは、本発明の実験系(スクリーニング系)により、100μg/mlのCaffeic acid(3,4-dihydroxycinnamic acid、CAS登録番号331-39-5)には、HUVECのVEGF取り込み作用があることが確認された。事実、Caffeic acidは、クロロゲン酸類に属するポリフェノールであり、クロロゲン酸類に属するポリフェノールには血管機能向上効果が知られている(Am J Hypertens.2007 May;20(5):508-13.Ferulic acid restoresendothelium-dependent vasodilation in aortas of spontaneously hypertensiverats.)。このことから、本実験系は血管内皮細胞活性化作用のスクリーニングに有用と判断された。
本実施例では、このCaffeic acid(100μg/ml)を標準物質として、他の低分子化合物の血管内皮細胞に対するVEGF取り込み促進作用を定量的に評価できることを示す。
【0064】
1.材料及び方法
ビオチン結合VEGF(R&D Systems)をストレプトアビジン結合APC(Thermo Fisher、モル比4:1)とともに室温で10分間インキュベートし、APC結合VEGFを作成した。上記等同様の方法でHUVECを回収し、PBS中に懸濁した。
【0065】
実験サンプルとして、以下の1-6を用意した。
1.HUVECにAPC結合VEGFを加えないサンプル(蛍光バックグランド)
2.HUVECにAPC結合VEGFを加え、PBSを添加後、3時間培養したもの(標準物質/被検物質なし)
3.HUVECにAPC結合VEGFを加え、100μg/mlのCaffeic acidを添加後、3時間培養したもの(標準物質)
4.HUVECにAPC結合VEGFを加え、VEGF取り込み促進作用が未知である4-0-Caffeoylquinic acid(CAS登録番号905-99-7)を100μg/mlとなるように添加後、3時間培養したもの(被検物質1)
5.HUVECにAPC結合VEGFを加え、VEGF取り込み促進作用が未知であるChicoric acid(CAS登録番号6537-80-0)を100μg/mlとなるように添加後、3時間培養したもの(被検物質2)
【0066】
2.結果
本測定系のバックグランド蛍光(APC結合VEGFを加えなかったサンプルの蛍光強度)は1.54であった(図8A)。標準物質/被検物質なし(PBS添加)のサンプルは、4.92の蛍光強度を示した(図8B)。標準物質(100μg/ml Caffeic acid)添加サンプルは、6.78の蛍光強度を示した。被験物質1及び2(各100μg/mlの4-0-Caffeoylquinic acid、Chicoric acid)添加サンプルは、それぞれ、6.56、3.90の蛍光強度を示した(図8D、E)。
【0067】
標準物質/被検物質なしの場合のVEGF取り込み量は、3.38(蛍光強度4.92よりバックグランド蛍光1.54を差し引いた値)、標準物質(Caffeic acid)添加サンプルのVEGF取り込み量は、5.24であった。これらの結果は、標準物質の添加によりHUVECではVEGF取り込みが55%増加したことを示す((標準物質添加時のVEGF取り込み量[5.24]-標準物質/被検物質なしの場合のVEGF取り込み量[3.38])/標準物質/被検物質なしの場合のVEGF取り込み量[3.38])。
【0068】
被検物質1(4-0-Caffeoylquinic acid)では、HUVECには49%増加のVEGF取り込みが起こることが示されており、結果として、標準物質に比し、その取り込み促進能力は88%であることが判明した([49%]/[55%])。
【0069】
被検物質2(Chicoric acid)では、HUVECには30%減少のVEGF取り込みが起こることが示されており、結果として、標準物質に比し、その取り込み促進能力は-55%であることが判明した([-30%]/[55%])。
【0070】
3.考察
以上のように、本測定系を用いることにより、標準物質であるCaffeic acidに比べて、どの程度の血管内皮細胞活性化作用を有しているかの判定が可能である。さらに、本測定系を用いることにより、血管活性化を促進する物質だけでなく、血管活性化を抑制する物質の定量的判定も可能である。なお、標準物質は適宜変更することも可能である。
【0071】
なおCaffeoylquinic acidは血管内皮活性化作用があることが知られている(Int J Food Sci Nutr.2019 May;70(3):267-284.TNF-α-induced oxidative stress and endothelial dysfunction in EA.hy926 cells is prevented by mate and green coffee extracts,5-caffeoylquinic acid and its microbial metabolite,dihydrocaffeic acid.Wang S,et al.)。また、Chicoric acidはHydroxycinnamic acidであるが、それらは血管新生阻害作用があることが知られており(2011年度KAKEN費実績報告書(研究課題/領域番号:21390033)、血管新生阻害療法のためのバイオプローブ分子設計とケミカルジェネティクス、研究代表者:永澤 秀子)、本測定系の結果とも一致している。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、BM-MNCと同様の機構で血管内皮細胞を活性化する作用を有する物質を、in vitroで簡便にスクリーニングすることができる。本発明の方法で同定された物質は、生体内でのBM-MNCの機能を代替し、脳梗塞や四肢虚血などの虚血性疾患、あるいは癌などの血管新生病の治療薬の候補物質として有用である。
【0073】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】