(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】呼吸警報を発生させるための装置及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20240405BHJP
A61B 5/08 20060101ALN20240405BHJP
【FI】
A61B5/00 102A
A61B5/08
(21)【出願番号】P 2021541452
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2020051549
(87)【国際公開番号】W WO2020156909
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-10
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ ローハン
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502854(JP,A)
【文献】特表2015-522314(JP,A)
【文献】特開2016-159094(JP,A)
【文献】特表2016-535643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸警報を選択的に発生させるコンピュータ
が実施する方法において、前記方法は、
被験者の呼吸に応答して被験者監視信号を受信するステップ、
呼吸中の
呼吸の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて前記被験者監視信号を処理するステップであり、それにより監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成する、ステップ、
前記呼吸不安定性信号が既定の条件を満たしているかどうかを決定するために、前記呼吸不安定性信号を監視するステップ、並びに
前記呼吸不安定性信号が既定の条件を満たしていることに応答して、呼吸警報を発生させるステップ
を有
し、
前記呼吸不安定性信号を監視するステップ及び前記呼吸警報を発生させるステップは、
前記呼吸不安定性信号の大きさのパラメータが既定のしきい値を超えるときを検出するために前記呼吸不安定性信号を監視するステップ、並びに
前記大きさのパラメータが前記既定のしきい値を超えることに応答して、
前記大きさのパラメータが前記既定のしきい値を超えたままでいる時間の長さの尺度であるしきい値突破期間を決定するステップ、及び
前記しきい値突破期間が既定の時間期間に等しい又はそれ以上である場合、呼吸不安定性警報を発生させるステップ
を有する、コンピュータ
が実施する方法。
【請求項2】
呼吸中の
呼吸の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する前記関数は、エントロピー関数である、請求項1に記載のコンピュータ
が実施する方法。
【請求項3】
前記関数を用いて前記被験者監視信号を処理する前に、バンドパスフィルタを使用して前記被験者監視信号をフィルタリングするステップをさらに有する、請求項1又は2に記載のコンピュータ
が実施する方法。
【請求項4】
前記被験者監視信号を処理するステップは、
前記被験者監視信号のウィンドウを取得するステップであり、前記ウィンドウは、第1の既定の時間の長さにわたり捕捉される前記被験者監視信号のウィンドウ化される部分である、ステップ、及び
前記関数を用いて前記ウィンドウを処理するステップであり、それにより、前記呼吸不安定性信号の呼吸不安定性値を生成する、ステップ
を反復的に有する、請求項1乃至3の何れか一項に記載のコンピュータ
が実施する方法。
【請求項5】
任意の反復において取得される前記被験者監視信号のウィンドウの開始時間は、直前の反復において取得された前記被験者監視信号のウィンドウの開始時間の後である、請求項4に記載のコンピュータ
が実施する方法。
【請求項6】
前記被験者監視信号のウィンドウを取得するステップは、前記被験者監視信号の、前記第1の既定の時間の長さからなる最新の部分を取得するステップを有する、請求項4又は5に記載のコンピュータ
が実施する方法。
【請求項7】
前記第1の既定の時間の長さは、10秒以上である、請求項4乃至6の何れか一項に記載のコンピュータ
が実施する方法。
【請求項8】
前記既定の時間期間は、10秒以上であり、好ましくは、前記大きさのパラメータは、前記呼吸不安定性信号の大きさの値である、請求項
1に記載のコンピュータ
が実施する方法。
【請求項9】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、請求項1乃至
8の何れか一項に記載の方法を実施するためのコード手段を有するコンピュータプログラム。
【請求項10】
呼吸警報を選択的に発生させるための処理システムにおいて、前記処理システムは、
被験者の呼吸に応答して被験者監視信号を受信し、
呼吸中の
呼吸の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて前記被験者監視信号を処理し、それにより、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成し、
前記呼吸不安定性信号が既定の条件を満たしているかどうかを決定するために、前記呼吸不安定性信号を監視し、並びに
前記呼吸不安定性信号が既定の条件を満たしていることに応答して呼吸警報を発生させる
ように適応
し、
前記呼吸不安定性信号を監視する及び前記呼吸警報を発生させることは、
前記呼吸不安定性信号の大きさのパラメータが既定のしきい値を超えるときを検出するために前記呼吸不安定性信号を監視すること、並びに
前記大きさのパラメータが前記既定のしきい値を超えることに応答して、
前記大きさのパラメータが前記既定のしきい値を超えたままでいる時間の長さの尺度であるしきい値突破期間を決定すること、及び
前記しきい値突破期間が既定の時間期間に等しい又はそれ以上である場合、呼吸不安定性警報を発生させること
を有する、処理システム。
【請求項11】
呼吸警報を選択的に発生させるための被験者監視システムにおいて、前記システムは、
被験者の呼吸に応答して被験者監視信号を生成するように適応する1つ以上の被験者監視センサ、及び
前記1つ以上の被験者監視センサにより生成される前記被験者監視信号を受信するように適応する請求項
10に記載の処理システム
を有する、被験者監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者を監視する分野、特に、被験者の呼吸の監視に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば病院のような臨床環境において、呼吸は被検者の状態の重要な指標であるため、被検者又は患者の呼吸が一般に監視される。
【0003】
被験者の呼吸に応答する信号を得るために、例えば圧力センサ、(例えば、心電図、ECG、電極を使用する)胸部インピーダンスセンサ、プレチスモグラフィセンサ及び筋電図(EMG)センサ等を使用する、呼吸数を監視するための様々な技法が提案されている。胸部インピーダンスを検出するためのECG電極は、現在の臨床環境において最も一般的に使用される。呼吸を監視するための他の技術は代わりに、例えば酸素飽和度(SpO2)のような呼吸の影響を受けるパラメータを監視する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被験者の呼吸困難或いは問題を検出、測定又は監視し、呼吸困難/問題に応答して臨床医への警報を発生させることが継続的に所望される。例えば、無呼吸又は呼吸停止は、特に新生児の臨床環境において特に問題である。
【0005】
しかしながら、呼吸困難又は問題を特定する典型的な方法は通常、低い或いは高い呼吸数、一定の時間期間に呼吸がないこと、又は被験者の酸素飽和度が一定のしきい値より下に低下することを検出する。これらの手法は、、被験者の呼吸が単に一定の時間期間(例えば、閉塞性又は混合性無呼吸によって)非効率的であるとき、又は呼吸停止が短い長さだけである、若しくは喘ぎ或いは息切れが点在する場合には、認識できないという点で、これらの手法は制限的である。従って、呼吸困難を特定する既存の方法は、感度及び精度の不足に悩まされる。
【0006】
これだけではなく、呼吸数を直接測定するための従来のセンサも、少なくとも心臓のアーチファクト及び被験者の動きが原因による、信頼性及び感度の不足に悩まされる。特に、心臓の鼓動又は身体の動きは、例えば胸部インピーダンス測定のような幾つかのセンサにとって呼吸と似ている。従って、不正確な呼吸センサのせいで、呼吸困難/問題を検出しようとする試みが失敗する可能性がある。
【0007】
故に、呼吸困難及び/又は問題を検出する方法を改善するか、或いは被験体の呼吸の困難に正確に応答する信号を生成することが望まれる。
【0008】
米国特許出願公開第2015/164375A1号は、心肺の健康状態を監視するための方法を開示している。実施形態は、動きデータを取得することを有し、そのデータのスペクトルエントロピーが計算される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、請求項により定義される。
【0010】
本発明の一態様による例に従って、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成するコンピュータ実装方法が提供される。
【0011】
このコンピュータ実装方法は、被験者の呼吸に応答する被験者監視信号を受信するステップ、並びに呼吸中の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて、前記被験者監視信号を処理し、それにより、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成するステップを有する。
【0012】
本発明は、被験者の呼吸に応答する信号の周期性及び振幅規則性の尺度を直接計算することにより、潜在的な呼吸困難又は問題を表す呼吸不安定性を監視することを提案する。例えば、呼吸波形は、特別な関数を用いて処理され、不規律さ(disorganization)(すなわち、周期性及び規則性の変化)又は被験者の呼吸のランダム性の尺度を示す信号を生成する。
【0013】
そのような関数の使用は、不規則な呼吸パターンの有無が定量化されることを可能にする。それにより、呼吸不安定性信号は、被験者の呼吸困難の指標を提供し、被験者の呼吸の変化を特定する。特に、(前記関数により得られる)低い尺度は、被験者の呼吸が周期的及び予測可能である、すなわち、被験者は呼吸困難ではないことを示すのに対し、(前記関数により得られる)高い尺度は、被験者の呼吸の不規律さ又は呼吸が無いこと、すなわち、被験者は呼吸困難であることを示す。
【0014】
本発明は、呼吸不安定性信号が呼吸困難の早期マーカーを提供することができ、被験者の呼吸の変化に対し、被験者の呼吸を監視する既存のコンピュータ実装方法よりも素早く及び/又は確実に応答することに気付いている。従って、被験者の呼吸困難の改善される尺度又は指標が生成される。
【0015】
さらに、呼吸不安定性信号は、被験者の呼吸における短い停止/中断、並びに非効率な息継ぎ技術を検出することが可能であり、これらは呼吸の周期性又は振幅規則性の変化を誘発する。
【0016】
本発明は、呼吸警報を発生させるために、そのような呼吸不安定性信号が直接監視され得ることにも気付いている。呼吸警報は、被験者の状態の変化に対する臨床医の注意を引くための臨床支援ツールとして機能するので、臨床医は、患者を治療及び/又は診断するために、患者のパラメータを処理及び分析することが可能である。
【0017】
呼吸不安定性信号を監視する処理は、好ましくは、呼吸警報を発生させるかどうかを決定するために、呼吸信号を直接監視するステップを有する。特に、呼吸不安定性信号を監視するステップは、呼吸警報を発生させるかどうかを決定するために、呼吸不安定性信号だけを(例えば、他の被験者監視パラメータなしで)監視するステップを有する。
【0018】
もちろん、呼吸不安定性信号が既定の条件を満たさない場合、呼吸警報が発生する必要はない。従って、幾つかの実施形態において、呼吸不安定性信号が既定の条件を満たさないことに応答して、呼吸警報が発生しない。
【0019】
呼吸警報自体は、基礎疾患の診断又は特定を提供するのではなく、むしろ患者の状態の変化又は逸脱に注意を向ける。言い換えると、呼吸警報は、臨床医が患者又は被験者の状態の望ましくない変化を特定するのを支援するための臨床支援ツールとして機能する。
【0020】
好ましくは、呼吸警報は、例えば音声、視覚及び/又は触覚アラームのような臨床医が知覚可能な警報を有する又は開始する。
【0021】
好ましくは、呼吸中の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数は、エントロピー関数である。
【0022】
本発明の文脈において、エントロピー関数は、時系列入力データを処理して、この時系列入力データの変動の規制及び/又は予測不可能性を定量化する1つ以上の出力値を供給する任意の関数である。言い換えると、エントロピー関数は、その出力を決定するために、信号周期性と信号振幅の両方を考慮に入れる。故に、エントロピー関数は、時系列入力データの不規律さの尺度を供給することができる。適切なエントロピー関数の例は、近似エントロピー(ApEn)、サンプルエントロピー(SampEn)及び分布エントロピー(DistEn)等を含む。当業者には他のエントロピー関数も明らかである。
【0023】
コンピュータ実装方法は、前記関数を用いて被験者監視信号を処理する前に、バンドパスフィルタを用いて被験者監視信号をフィルタリングするステップを有する。
【0024】
バンドパスフィルタは、被験者監視信号における他の通常の身体機能(例えば、心拍又は嚥下)の影響を最小限に抑えるために使用される。従って、呼吸情報は、被験者監視信号から抽出又は分離される。これは呼吸不安定信号の精度を向上させる。
【0025】
バンドパスフィルタの正確なパラメータは、コンピュータ実装方法が実施される環境に依存する。例えば、新生児環境において、バンドパスフィルタは、0.1Hzの下限及び/又は2Hzの上限を持つ範囲内、例えば0.45Hz~1.45Hzの範囲の周波数を分離することができる。成人ケア環境において、バンドパスフィルタは、0.13Hzの下限及び/又は0.35Hzの上限を持つ範囲内、例えば0.15Hz~0.30Hzの範囲の周波数を分離することができる。これは、新生児被験者と成人被験者との間の予測呼吸数の差を考慮に入れている。一般に言えば、バンドパスフィルタは、0.1Hz~2Hzの範囲内の周波数を分離することができる。
【0026】
被験者監視信号を処理するステップは、被験者監視信号のウィンドウを得るステップであり、前記ウィンドウは第1の既定の時間の長さにわたり捕捉される被験者監視信号のウィンドウ化した部分である、ステップ、及び前記関数を用いてウィンドウを処理し、それにより、呼吸不安定性信号の呼吸不安定性値を生成するステップ、を反復的に有する。
【0027】
呼吸不安定性信号の値を反復的に得ることは、呼吸不安定性信号の値が連続的に生成され、呼吸不安定性信号が「リアルタイム」で生成されることを可能にすることを意味する。呼吸不安定性信号の連続した値を生成するために被験者監視信号のウィンドウを使用することは、例えばパイプライン技術が使用されるように、呼吸不安定性信号の値を決定する効果的で資源効率のよいコンピュータ実装方法を提供する。
【0028】
好ましくは、任意の反復において取得される被験者監視信号のウィンドウの開始時間は、直前の反復において取得された被験者監視信号のウィンドウの開始時間の後である。当業者は十分理解しているように、各ウィンドウは、夫々の開始時間から夫々の終了時間に及ぶ。
【0029】
従って、異なる反復に用いられるウィンドウが互いに重畳する可能性があるので、任意の反復におけるウィンドウの開始時間は、直前の反復で得られた被験者監視信号のウィンドウ内にある可能性がある。従って、呼吸不安定性信号の値は、被験者監視信号の移動ウィンドウで反復的に行われる関数の出力とすることができる。
【0030】
少なくとも1つの実施形態において、被験者監視信号のウィンドウを取得するステップは、被験者監視信号の、第1の既定の時間の長さからなる最新の部分を取得するステップを有する。
【0031】
従って、ウィンドウは、関数を用いて処理するための最新の利用可能なデータを表してもよい。これは、呼吸不安定性信号が被験者の最新のパラメータを表すことができ、故に、呼吸不安定性/問題が特定される速度を向上させることを意味する。これは、呼吸困難により患者が悪化する可能性を減らす。
【0032】
幾つかの実施形態において、第1の既定の時間の長さは、10秒以上である。好ましくは、第1の既定の時間の長さは、13秒以上、例えば15秒以上である。
【0033】
幾つかの例によれば、コンピュータ実装方法は、呼吸不安定性信号の大きさのパラメータが既定のしきい値を超えるときを検出するために、呼吸不安定性信号を監視するステップ、並びに前記大きさのパラメータが前記既定のしきい値を超えていることに応答して、前記大きさのパラメータが前記既定のしきい値を超えたままでいる時間の長さの尺度であるしきい値突破期間を決定し、前記しきい値突破期間が既定の時間期間を超える場合、呼吸不安定性警報を発生させるステップを有する。
【0034】
この実施形態において、呼吸不安定性信号が一定の時間期間、既定のしきい値を上回ったままでいるとき、呼吸不安定性警報が発生する。そのようなシナリオは、被験者が呼吸困難(例えば、無呼吸又は空気流の減少)を持つことを示す。警報を発生させることにより、被験者の呼吸困難が見過ごされる可能性が減少し、それにより被験者の転帰を改善する。
【0035】
好ましくは、呼吸不安定性警報は、例えば音声、視覚及び/又は触覚アラームのような臨床医が知覚可能な警報を有する又は開始する。これは、検出される呼吸困難が被験体にあるとき、臨床医が警報を受けることを意味し、これは、呼吸困難が確認されることなく、被験体が呼吸困難に陥る可能性を減らす。
【0036】
幾つかの実施形態において、既定の時間期間は、10秒以上である。幾つかの好ましい実施形態において、大きさのパラメータは、呼吸不安定性信号の大きさの値である。
【0037】
もう1つの実施形態において、パラメータは、(例えば1秒及び2秒等のような、一定の期間にわたり捕捉される平均である)移動平均を有してもよい。そのような実施形態は、ノイズ又は不正確な監視が前記警報に与える影響をさらに減らし、誤った警報が発生する可能性を低らす。
【0038】
幾つかの例によれば、コンピュータ実装方法は、如何なる適切な説明されるコンピュータ実装方法を用いて、呼吸不安定性信号を生成するステップ、呼吸不安定性信号のウィンドウを取得するステップであって、呼吸不安定性信号のウィンドウは第2の既定の時間の長さにわたる呼吸不安定性信号のウィンドウ化される部分である、ステップ、呼吸不安定性信号のウィンドウが既定の基準を満たしているかどうかに基づいて、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報を発生させるかどうかを決定するために、呼吸不安定性信号のウィンドウを処理するステップ、及び呼吸不安定性信号のウィンドウを処理するステップの結果に基づいて、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報を発生させるステップを有する。
【0039】
例えば敗血症のような、幾つかの疾患の1つの早期指標は、呼吸ドライブの低下である。呼吸ドライブの安定性は、呼吸中の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて得られる呼吸不安定性信号から導出され得ることが確認されている。特に、呼吸不安定性信号をウィンドウ化(又は任意選択でセグメント化)し、各ウィンドウを別々に処理することは、呼吸不安定性信号の長期分析を行うことを可能にする。
【0040】
好ましくは、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報は、臨床医が知覚可能な警報、例えば、音声、視覚及び/又は触覚アラームを有する又は開始する。これは、呼吸困難を引き起こす疾患が被験者にあると予測されるとき、臨床医が警報を受けることを意味し、これは、被験者が疾患を特定される前に進行する時間を減らす。
【0041】
ウィンドウを処理するステップは、呼吸不安定性信号のウィンドウの大きさの平均を取るステップ、及び前記呼吸不安定性信号の前記大きさの平均が既定の平均の大きさのしきい値よりも大きい場合、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報を発生させることを決定するステップを有する。
【0042】
呼吸不安定性信号の算術平均又は平均は、呼吸に影響を及ぼす疾患が起こる可能性の非常に正確な指標であると特定されている。
【0043】
代替の実施形態において、ウィンドウを処理することは、呼吸不安定性信号のウィンドウの大きさが既定の値を上回る(相対的な)時間の長さを決定するステップ、及びこの時間の長さが疾患を示す既定の時間の長さを上回る場合、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報を発生させることを決定するステップを有する。この疾病を示す既定の時間の長さは、呼吸不安定信号のウィンドウの長さの割合(例えば、90%以上又は95%以上)として表すことができる。
【0044】
好ましくは、第2の既定の時間の長さは、1時間以上である。本発明者は、特に、より長い時間期間(>1時間)にわたる呼吸不安定性信号の特徴が、特に代表的であり、通例は一定の時間期間にわたり(すなわち、少なくとも1時間にわたり)起こる呼吸に影響を及ぼす疾患の発症に応答することを確認した。好ましくは、第2の既定の時間期間は、2時間以上、例えば3時間以上である。
【0045】
本発明の一態様による例に従って、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、説明される如何なるコンピュータ実装方法を実施するためのコード手段を有するコンピュータプログラムが提供される。
【0046】
本発明の一態様による例に従って、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸警報を発生させるための処理システムも提供される。この処理システムは、被験者の呼吸に応答する被験者監視信号を受信し、呼吸中の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて、被験者監視信号を処理し、それにより、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成し、呼吸不安定性信号が所定の条件を満たしているかどうかを決定するために、呼吸不安定性信号を監視し、並びに呼吸不安定性信号が既定の条件を満たしていることに応答して、呼吸警報を発生させるように適応する。
【0047】
処理システムは、被験者監視システムに組み込まれてもよい。従って、呼吸警報を発生させるための被験者監視システムであって、この被験者監視システムは、被験者の呼吸に応答して被験者監視信号を生成するように適応する1つ以上の被験者監視センサ、及び前記1つ以上の被験者監視センサにより生成される被験者監視信号を受信するように適応する本明細書に記載の処理システムを有する。
【0048】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記載される実施形態から明らかになり、これを参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明をより良く理解するため、及び本発明がどのように実施されるかをより明確に示すために、単なる例として、添付の図面を参照する。
【
図1】
図1は、一実施形態による方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施形態の基本的概念を理解するための波形を示す。
【
図3】
図3は、もう1つの実施形態による方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、さらにもう1つの実施形態による方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、一実施形態の使用事例のシナリオを示すグラフである。
【
図6】
図6は、一実施形態による被験者監視システムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、図面を参照して説明される。詳細な説明及び特定の例は、装置、システム及び方法の例示的な実施形態を示しているが、例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。本発明の装置、システム及び方法のこれら及び他の特徴、態様並びに利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲及び添付の図面からより良く理解されるだろう。図面は単に概略的なものであり、一定の縮尺で描かれていないことを理解されたい。同じ又は類似の部分を示すために、同じ参照番号が図面を通じて使用されることも理解されたい。
【0051】
本発明は、事実上、不規律さの尺度である、呼吸波形の周期性及び振幅規則性の尺度を直接計算することにより、呼吸不安定性を監視することを提案する。正常な呼吸は、ある程度周期的な信号である一方、呼吸の完全な停止は、測定(すなわち、最小の振幅規則性を持つ非周期的な)ノイズを反映する呼吸信号となる。従って、前記尺度は、被験者の呼吸の変化に応答し、正常な呼吸パターンと異常な呼吸パターンとを区別することができる。
【0052】
従って、実施形態は、「正常な」又は臨床的に許容可能な呼吸は、通例、周期的であり、規則的な振幅である(すなわち、各周期は、略同じ振幅を持つ)一方、「異常な」又は臨床的に許容できない呼吸は、不規則である又は呼吸が無いかの何れかであり、ここで、呼吸が無いことは、ノイズによる非周期的で不規則な振幅信号に至るという認識に基づいている。従って、例えばエントロピー計測のような周期性及び振幅規則性の尺度は、正常呼吸と異常呼吸とを区別することができる。
【0053】
実施形態は、潜在的な呼吸の悪化をより迅速に特定するために、呼吸モニタにおいて使用されてもよい。実施形態は、例えば敗血症のような呼吸ドライブを低下させる疾患の発症により引き起こされ得る、長期の呼吸安定性の低下を検出するために使用されてもよい。従って、実施形態は、例えば新生児室又は長期集中治療室或いは病棟のような臨床環境において使用され得る。
【0054】
【0055】
方法10は、被験者の呼吸に応答する前記被験者監視信号を取得又は受信するステップ11を有する。被験者監視信号は、例えば胸部インピーダンス測定値、圧力センサ信号、空気流の測定値、プレチスモグラフィセンサからの測定値又は筋電図(EMG)センサからの測定値のような、被験者の吸気及び/又は呼気に応答する如何なる信号である。
【0056】
方法10は、呼吸中の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて、被験者監視信号を処理するステップ12も有する。このように被験者監視信号を処理することが、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成する。
【0057】
被験者監視信号を処理するための1つの適切な関数は、エントロピー関数である。エントロピー関数は、信号のランダム性又は複雑性の指標として扱える尺度を出力する。そのような尺度は、被験者の呼吸不安定性を反映していると認識されている。エントロピー関数の例は、近似エントロピー(ApEn)、サンプルエントロピー(SampEn)、分布エントロピー(DistEn)等を有する。
【0058】
ステップ12は、例えば、第1の既定の時間期間にわたる被験者監視信号の抽出である、被験者監視信号のウィンドウを取得するサブステップ12Aを有する。ステップ12は、周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて被験者監視信号のウィンドウを処理するサブステップ12Bをさらに有する。特に、サブステップ12Bは、被験者監視信号のウィンドウの複雑さを示す1つ以上の値、好ましくは単一値を生成するためにウィンドウを処理するステップを有する。例えば、サブステップ12Bは、エントロピー関数を用いて被験者監視信号のウィンドウを処理するステップを有する。
【0059】
ステップ12Bにおいて使用される正確な処理は、実装の詳細に依存する。例として、被験者監視信号のウィンドウは、サンプル又はデータ点のN長の列/ベクトルとして形成されてもよい。次いで、このシリーズ又はベクトルは、例えば近似エントロピー(ApEn)のようなエントロピー関数を用いて処理され、呼吸不安定性信号の単一値を生成する。例えばサンプルエントロピー(SampEn)、分布エントロピー(DistEn)のような他の適切なエントロピー関数も当業者は分かっている。
【0060】
エントロピー関数に必要な入力パラメータは、当業者はよく分かっていて、これらの入力パラメータは、エントロピー関数に必要な入力パラメータを供給するために、被験者監視信号(の一部)を処理することが容易に可能である。通例、エントロピー関数の出力は、0~1又は-1~1を範囲とする数値である。
【0061】
ステップ12は、被験者監視信号の異なるウィンドウに対し反復的に繰り返され、それにより、呼吸不安定性信号の異なる尺度を生成する。特定の反復において使用される各ウィンドウは、好ましくは、時間的に前の反復のウィンドウが開始された後に開始される。従って、後続するウィンドウの開始時間は、先行するウィンドウの開始時間の後である。これは事実上、被験者監視信号の移動ウィンドウが取得され、反復的に処理されることを意味する。幾つかの実施形態において、後続する反復のウィンドウは、先行する反復のウィンドウに重畳してもよい。
【0062】
ウィンドウの長さは、好ましくは10秒より長く、例えば15秒以上である。従って、第1の既定の時間期間は、10秒以上、例えば15秒以上でもよい。
【0063】
呼吸不安定性信号は、連続的に、すなわちリアルタイムで生成される。従って、被験者監視信号のウィンドウを得るステップ12Aは、被験者監視信号の最新の部分を得るステップを有する。従って、ステップ12Aにおいて取得されるウィンドウの終了時間は、現在の時点(すなわち、被験者監視信号の最新の利用可能なデータ)で終了する。これは、呼吸不安定性信号が利用可能なデータを反映し、呼吸不安定性又は呼吸不全事象が特定可能となる速度を向上させることを意味する。
【0064】
このように、呼吸不安定性信号は、経時的に構築される。特に、呼吸不安定性信号の変動は、被験者の呼吸安定性の変動を示し、それにより呼吸不全事象を示すことができる。
【0065】
呼吸不安定性信号は、次いで処理30、40において処理され、呼吸(不安定性)警報を発生させるかどうかを決定する。このような処理30、40の実施形態は、後に明細書において明らかにされる。
【0066】
幾つかの実施形態において、方法10は、処理ステップ12の前に、被験者監視信号をフィルタリング(好ましくはバンドパスフィルタリング)するステップ13をさらに有する。これは、呼吸不安定性信号にあるノイズの影響を減らし、それにより、呼吸不安定性信号の精度を高める。フィルタリングは、被験者監視信号から呼吸関連情報を分離するように設計される。フィルタの特性は、実装の詳細に依存する。
【0067】
好ましくは、フィルタは、2Hz以下、例えば1.5Hz以下の上限を有する。幾つかの実施形態において、フィルタは、それに加えて又はその代わりに、0.10Hz以上の下限を持ってもよい。従って、ステップ13は、0.10Hz~2Hzの範囲にある周波数を分離するために、被験者監視信号をフィルタリングするステップを有する。
【0068】
新生児環境における性能を向上させるために、ステップ13は、0.45Hz~1.45Hzの範囲にある周波数を分離するために被験者監視信号をフィルタリングするステップを有する。成人は通例、ゆっくりとした速度で呼吸するので、成人の臨床環境における性能を向上させるために、ステップ13は、0.13Hz~0.35Hz、例えば0.15Hz~0.30Hzの範囲にある周波数を分離するために、被験者監視信号をフィルタリングするステップを有する。他の適切な実施形態も当業者には明らかである。
【0069】
ステップ13は、本発明の幾つかの実施形態において省略されてもよく、例えば、被験者監視信号が、例えば空気流を直接測定する呼吸モニタからのような、被験者の呼吸にのみ応答する場合である。
【0070】
図2は、呼吸不安定性信号の生成を説明する波形を示す。各々の波形は、キャプチャされる信号、又はキャプチャ開始時間t
sで始まり、キャプチャ終了時間t
eで終わる、同一の時間期間を別の方法で表す信号を表す。この図において、キャプチャ開始時間とキャプチャ終了時間との間の時間間隔は5分であり、明確にするために、この時間間隔を10個の30秒セグメントに分割する。
【0071】
第1の波形21は、例えば胸部インピーダンス計測から得られる、第1のバンドパスフィルタリングされた被験者監視信号を示す。第2の波形22は、上述した方法10を用いて、第1の波形21から生成される第1の呼吸不安定性信号を示す。
【0072】
第3の波形23は、例えば圧力センサから得られる、第2の異なるバンドパスフィルタリングされた被験者監視信号(例えば、弾動信号、BSG)を示す。第4の波形24は、上述した方法10を用いて、第3の波形23から生成される第2の呼吸不安定性信号を示す。
【0073】
呼吸を監視する従来の方法との対比のために、第5の波形25は、酸素飽和度SpO2を示し、第6の波形26は、測定される呼吸数を示す。測定される呼吸数(呼吸数26)は、第1及び第2の被験者監視信号の一方又は両方から得られる。
【0074】
時刻tdesatにおいて、飽和度の低下事象が起こる(SpO2の測定値が、例えば80%未満のように、実際の許容可能な値より下がる)。これは、呼吸中断又は問題が発生した、すなわち呼吸不全事象が発生した可能性が高いことを示す。しかしながら、測定される呼吸数26は、(呼吸の停止が比較的短いため、その期間中、呼吸数がゼロより上のままであるように)無呼吸が起きたことを示されない。従って、呼吸数26を監視するだけでは、呼吸不全事象の開始を検出又は予測するには不十分であり、SpO2は呼吸不全事象が発生するときを示すので、SpO2を監視することが、呼吸不全事象の発生を予測することができない。
【0075】
しかしながら、第1の呼吸不安定性信号22及び第2の呼吸不安定性信号24は共に、呼吸不全事象が開始する前に上昇し、時間t1で上昇し始め、その時点において、呼吸数の尺度は正常範囲内にある。トリガ時間ttにおいて、第1の呼吸不安定性信号22及び第2の呼吸不安定性信号24は共に、夫々のしきい値T1、T2を上回り、これは、呼吸不全事象が予測されることを示すことができる。当業者は、呼吸不安定性信号に適切なしきい値を容易に設定することができる。
【0076】
言い換えると、呼吸不安定性信号は、呼吸不全事象の開始の早期指標を、例えばその事象が発生する30秒以上前に供給することができる。従って、呼吸不安定性信号は、被験者の呼吸不安定性の良好な指標を提供し、それにより、呼吸不全事象が発生する可能性の良好な指標を提供する。
【0077】
従って、呼吸不安定性信号は、先行的なアラームを発生させ、アラーム疲労に対処するために使用され得る飽和度の低下の早期マーカーである。さらに、予想されるように、呼吸波形が規則的である(すなわち、呼吸が「正常」であるか、又は臨床的に許容できる範囲内にある)とき、呼吸不安定性信号は、低いままである。
【0078】
図3は、上述した方法に従って生成される呼吸不安定性信号に基づいて、呼吸不安定性警報を選択的に発生させる方法30を示す。方法30は、呼吸不安定性信号を効果的に監視して、警報、すなわち呼吸警報を発生させるかどうかを決定する。
【0079】
方法30は、呼吸不安定性信号が既定のしきい値を超えているかどうかを決定するために、呼吸不安定性信号を監視するステップ31を有する。従って、ステップ31は、呼吸不安定性信号の大きさが既定のしきい値を超えているかどうかを決定するステップを有する。
【0080】
呼吸信号の大きさが既定のしきい値を超えていないことに応答して、前記方法はステップ31を繰り返す。
【0081】
(ステップ31において決定されるように)呼吸不安定性信号の大きさが既定のしきい値を超えていることに応答して、前記方法は、タイマーを開始するステップ32に進み、このステップは、呼吸不安定性信号の大きさが既定のしきい値を超えている時間を計ることを意図している。
【0082】
ステップ32を行った後、呼吸不安定性信号が依然として既定のしきい値を超えているかどうかを再決定するステップ33が行われる。ポジティブな決定(すなわち、前記大きさが依然として既定のしきい値を超えていること)に応答して、前記方法はステップ34に進む。そうでなければ、前記方法はステップ31に戻る。任意で、ステップ31に戻るとき、ステップ32で開始したタイマーを停止し、任意でステップ33Aにおいてリセットする。そうでなければ、前記停止するステップ及びリセットするステップの1つ以上が、(タイマーを始動する前の)ステップ31で行われてもよい。
【0083】
従って、ステップ32及び33は、大きさのパラメータが既定のしきい値を超えたままでいる時間の長さの尺度であるしきい値突破期間を効果的に決定する。しきい値突破期間は、タイマーにより測定される時間の長さである。
【0084】
ステップ34は、しきい値突破期間が既定の時間期間よりも長いかどうかを決定するステップを有する。しきい値突破期間(すなわち、タイマーの時間)が既定の時間期間よりも長いことに応答して、呼吸不安定性警報を発生させるステップ35が行われる。そうでなければ、前記方法はステップ33に戻る。
【0085】
従って、ステップ34及び35は、しきい値突破期間が既定の時間期間よりも長い又は等しい場合、呼吸不安定性警報を発生させる単一のステップを効果的に有する。そうでなければ(すなわち、しきい値突破期間が既定の時間期間未満である場合)、呼吸不安定性警報は発生しない。
【0086】
既定の時間期間の長さは、実装の詳細に依存して(すなわち、信頼性と感度とを上手く両立させるように)変化する。しかしながら、適切な信頼性のために、既定の時間期間は、好ましくは10秒以上、例えば15秒以上である。
【0087】
既定の時間期間の長さと、呼吸不安定性信号を得るのに使用されるウィンドウの長さとの間には、反比例の関係がある。従って、ウィンドウの長さが増大するにつれて、既定の時間期間の長さは減少する。
【0088】
このように、方法30は、呼吸不安定性信号の大きさが、少なくとも既定の時間期間中、既定のしきい値を超えたままでいる場合、呼吸不安定性警報を発生させる。既定の時間期間を超えたままでいるこの必要条件は、(例えば、呼吸不安定性警報が瞬間的な大きさだけに基づいて発生する場合に起こる)呼吸不安定性警報を誤ってトリガするノイズの可能性を減らし、それにより、呼吸不安定性警報の信頼性を向上させる。
【0089】
方法30において使用される呼吸信号の大きさは、好ましくは、呼吸信号の瞬間的な大きさ(すなわち、呼吸不安定性信号の最新の利用可能な値)である。
【0090】
しかしながら、方法30は、呼吸信号の大きさの代わりに、呼吸信号の大きさの他のパラメータ、例えば呼吸信号の大きさの(例えば1秒又は2秒のような直前の一定の時間期間にわたる)平均、呼吸信号の大きさの勾配、及び呼吸信号の大きさの勾配の(例えば1秒又は2秒のような直前の一定の時間期間にわたる)平均等を使用するように適応してもよい。前記一定の時間期間は、例えば1秒以上、例えば2秒以上でもよい。特に、前記一定の時間期間は、上に開示される「既定の時間期間」の何れかに等しい。
【0091】
従って、ステップ31は、呼吸不安定性信号の大きさのパラメータが、既定のしきい値を超えるときを検出するステップを代わりに有し、ここでパラメータは、平均の大きさ、瞬間的な大きさ、平均勾配及び瞬間勾配でもよい。
【0092】
図4は、呼吸(不安定性)警報を発生させるかどうかを決定するために、呼吸不安定性信号を監視する代替の方法40を示す。
【0093】
方法40は、呼吸不安定性信号のウィンドウを取得するステップ41を有する。この呼吸不安定性信号のウィンドウは、第2の既定の時間の長さにわたる呼吸不安定性信号のウィンドウ部分である。
【0094】
方法40は、呼吸不安定性信号の前記ウィンドウが既定の基準を満たすかどうかを決定するステップ42をさらに有する。従って、ステップ42は、(そのウィンドウ内にある)呼吸信号の1つ以上の特性が既定の基準を満たすかどうかを決定するためにウィンドウを処理するステップを有する。
【0095】
前記ウィンドウが既定の基準を満たすと決定するステップ42に応答して、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報を発生させるステップ43が行われる。そうでない場合、ステップ41が繰り返される(すなわち、呼吸不安定性信号の新しいウィンドウを再取得する)。
【0096】
ステップ42において使用される基準は、異なる実施形態において異なってもよい。
【0097】
一実施形態において、ステップ42の基準は、ウィンドウ内における呼吸不安定性信号の平均の大きさが既定の平均の大きさのしきい値を超えることである。
【0098】
従って、一実施形態において、ステップ42は、呼吸不安定性信号のウィンドウの大きさの平均を取るステップ、及び前記呼吸不安定性信号の大きさの平均が、既定の平均の大きさのしきい値よりも大きい場合、呼吸信号のウィンドウは既定の基準を満たすと決定するステップを有する。言い換えると、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報は、呼吸不安定信号のウィンドウの大きさの平均が、既定の平均の大きさのしきい値よりも大きい場合、発生する。
【0099】
もう1つの例において、ステップ42の基準は、ウィンドウ内における呼吸不安定信号の大きさが、既定の総時間量以上にわたり既定のしきい値を超えている総時間量である。例として、ステップ42の基準は、呼吸不安定性信号の大きさが、ウィンドウの一定のパーセンテージの長さ以上にわたり(例えば、50%を超えて又は75%を超えて、好ましくは90%を超える又は95%を超えて)の既定のしきい値を超えることでもよい。既定のしきい値は、呼吸不安定性信号の最大可能値の50%以上(例えば、呼吸不安定性信号の最大値が1である場合、0.5以上)でもよい。
【0100】
他の多数の基準がステップ42において使用され得る。基本的な原理は、呼吸不安定性信号のウィンドウが、通常又は従来の動作(例えば、測定される不安定性がしきい値より下のままである場合)から逸脱しているかどうかをステップ42が決定すべきであることである。
【0101】
第2の既定の時間の長さは、好ましくは1時間以上、例えば3時間以上、例えば6時間以上である。従って、方法40は、呼吸不安定性信号の長期傾向を監視するように適応してもよい。
【0102】
方法10のステップ12と類似した方法で、方法40は、反復的に行われてもよく、それにより、呼吸不安定性信号のウィンドウを反復的に取得し、呼吸不安定性信号を生成すべきかどうかを決定するために前記ウィンドウを処理する。
【0103】
後続する反復のウィンドウは、先行する反復のウィンドウの開始時間の後に開始(つまり、後の開始時間を持つ)すべきである。幾つかの実施形態において、簡単にするために、後続の反復のウィンドウは、先行する反復のウィンドウの後又は終了時に開始する。これは、(長期の)ウィンドウが大量のデータを含み、重畳するウィンドウを連続的に保存及び処理することが合理的に可能でないときに必要とされる。そう言ったとしても、幾つかの実施形態において、後続の反復のウィンドウが、先行する反復のウィンドウの後の既定の遅延時間で開始してもよい。処理能力を節約するために、既定の遅延時間は、ウィンドウの長さの5%以上、例えばウィンドウの長さの10%又は25%以上でもよい。
【0104】
幾つかの実施形態において、ウィンドウが反復的に取得される場合、ステップ42は、現在のウィンドウと以前に取得されたウィンドウとの間の類似性尺度、例えば相互相関のような相関値を決定するステップを有する。従って、ステップ42の基準は、類似性尺度が既定の類似性値未満である(すなわち、現在のウィンドウが以前のウィンドウと実質的に異なる)ことである。これは、被験者の呼吸不安定性が大きく変化したことを示す。類似性尺度が相互相関している場合、既定の類似性値は、0.65以上、例えば0.5以上、例えば0.4以上でもよい。
【0105】
従って、呼吸不安定性信号を監視する方法は一般に、警報、例えば呼吸不安定性警報又は呼吸に影響を及ぼす疾患の警報を発生させるかどうかを決定するために、何らかの基準に従って、呼吸不安定性信号を処理するステップを有する。特定の実施形態において、呼吸不安定性信号のウィンドウが取得され、警報を発生させるかどうかを決定するために処理される。これは、呼吸信号の傾向が考慮されることを可能にし、ノイズが影響を及ぼす可能性を減らす。
【0106】
もちろん、警報を発生させるかどうかを決定するために、呼吸不安定信号を監視する他の方法は、当業者には明らかである。特に、呼吸不安定性信号は、呼吸不安定性信号が既定の条件を満たすかどうかを決定するために監視されてもよい。
【0107】
簡単な例において、(呼吸不安定性)警報が、呼吸不安定性信号の瞬時値が既定のしきい値を突破する場合に発生してもよい。もう1つの例において、(呼吸不安定性)警報が、呼吸不安定性信号の勾配(すなわち、導関数)があるしきい値を突破する場合に発生してもよい。
【0108】
図5は、第2の実施形態による方法40の使用事例を示し、この事例において、ステップ42の基準は、ウィンドウの平均の大きさが既定のしきい値を超えているかどうかである。
【0109】
図5は、敗血症の臨床的な疑いが行われた時間の前後の時間における呼吸不安定性信号のウィンドウの平均的な大きさの尺度を示し、この時間は、例えば病原体の存在を特定するための血液サンプルのオーダリングにより示されるような、臨床医が最初に敗血症の疑いを示した時間(時間t=0)である。
図5のデータは、49人の異なる敗血症乳児を含む症例から得られ、エラーバーは、前記乳児の標準誤差を示す。ウィンドウの長さは、3時間であり、各ウィンドウは、先行するウィンドウに(ウィンドウが重畳しないように)直接隣接する。
【0110】
図5は、呼吸不安定性信号のウィンドウの平均の大きさが、敗血症の臨床的な疑いという結果に至るまでの時間に、どのように増大し、その後も高いままであることをはっきりと示す。
【0111】
従って、呼吸不安定性信号のウィンドウの平均の大きさは、敗血症の発症の明確な指標又は予測因子である。言い換えると、呼吸不安定性信号の長期傾向(ウィンドウが大きいので)は、敗血症が被験者に起こる確率の指標として働くことができる。
【0112】
このように、呼吸不安定性信号のウィンドウの大きさの平均が既定の平均の大きさのしきい値よりも大きい場合、呼吸に影響を及ぼす疾患の警報(例えば、敗血症警報)が発生する。
【0113】
例えば、TAVに設定される既定の平均の大きさのしきい値は、敗血症が臨床的に疑われる9時間以上前に警報を発生させる。このしきい値は、偽陽性の発生を減らすために、感度を犠牲にして、例えばTAV2まで増大してもよい。
【0114】
理論に束縛されるものではないが、例えば敗血症のような疾患は、呼吸ドライブを低下させ、呼吸ドライブの安定性に長期的な影響を与えると考えられ、これは、呼吸不安定性信号の(例えば、ウィンドウ>1時間を用いる)長期分析により検出されることができる。従って、敗血症の発症は、正確に及び臨床的な疑いの前に検出される。
【0115】
従って、上述のことから、提案される呼吸安定性信号を生成及び処理する方法は、呼吸不全事象(例えば、無呼吸及び敗血症等)の予測を事前に及び既存の方法よりも高い精度で行うことを可能にすることが明らかである。
【0116】
本明細書に説明される警報を発生させる如何なるステップも、臨床医が知覚可能な如何なる出力も生成し、それにより臨床医に警報する、臨床医が知覚可能な出力装置、例えばディスプレイ、アラーム或いは振動要素をトリガ又は制御する警報信号を生成するステップを有する。他の視覚出力、音声出力及び/又は触覚出力が使用されてもよい。従って、警報を発生させるステップは、臨床医が知覚可能な出力を生成し、それにより臨床医に警報するステップを有する。
【0117】
警報を発生させるのではなく、方法は、単に呼吸不安定性信号を臨床医に提示する(例えば、ディスプレイを使用して)だけでもよい。これは、臨床医が、被験者の呼吸不安定性を直感的及び精度を上げて容易に評価することを可能にする。これは、例えば、臨床医が、治療計画(例えば、無呼吸を克服するために、被験者に投与するカフェインのレベル)又は被験者の退院準備に関する決定を行うことを可能にする。
【0118】
方法は、例えば、上記実施形態を用いて、呼吸不安定性警報を臨床医に提示するステップ及び適切な警報を発生させるステップの両方を有することが理解される。
【0119】
図6は、本発明の一実施形態による被験者監視システム60を示す。
【0120】
被験者監視システム60は、被験者監視信号を生成するように適応する1つ以上のセンサ61、62を有する。適切なセンサの例は、胸部インピーダンスセンサ及び/又は圧力センサを含む。
【0121】
被験者監視システムは、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成するための処理システム65をさらに有する。処理システム65は、それ自体で、例えばクラウドコンピューティング環境で実施されるように、本発明の実施形態を形成することができる。
【0122】
処理システム65は、(例えば、センサから)被験者の呼吸に応答する被験者監視信号を受信し、呼吸中の周期性及び振幅規則性の尺度を導出する関数を用いて被験者監視信号を処理し、それにより、監視される被験者の呼吸不安定性を表す呼吸不安定性信号を生成するように適応する。
【0123】
処理システムはさらに、呼吸不安定性信号が既定の条件を満たしているかどうかを決定するために、呼吸不安定性信号を監視し、呼吸不安定性信号が既定の条件を満たしていることに応答して、呼吸警報を発生させるように適応する。
【0124】
従って、処理システム65は、上述した方法を行うように適応する。実際に、当業者は、本明細書に記載の如何なる方法も実行するために処理システム65を修正することが容易に可能である。従って、フローチャートの各ステップは、処理システムにより行われる異なるアクションを表し、処理システムの夫々のモジュールにより行われる。
【0125】
処理システムは、必要とされる様々な機能を行うために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて、様々な方法で実施される。処理器は、必要な機能を実行するためにソフトウェア(例えば、マイクロコード)を用いてプログラムされる1つ以上のマイクロプロセッサを使用する処理システムの一例である。しかしながら、処理システムは、処理器を用いて又は用いずに実施されてもよく、幾つかの機能を行うための専用ハードウェアと、他の機能を行うための処理器(例えば、1つ以上のプログラムされるマイクロプロセッサと関連する回路)との組み合わせとして実施されてもよい。
【0126】
本開示の様々な実施形態に用いられる処理システム構成要素の例は、これらに限定されないが、従来のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を含む。
【0127】
様々な実施において、処理器又は処理システムは、例えばRAM、PROM、EPROM及びEEPROMである揮発性並びに不揮発性コンピュータメモリのような1つ以上の記憶媒体に関連付けられてもよい。前記記憶媒体は、1つ以上の処理器及び/又は処理システム上で実行されるとき、必要な機能を行う1つ以上のプログラムで符号化されてもよい。様々な記憶媒体は、処理器又は処理システム内に固定されてもよいし、又は記憶媒体に記憶される1つ以上のプログラムが処理器又は処理システムに読み込まれるように、移送可能でもよい。
【0128】
幾つかの実施形態において、示されるように、処理システム65は、患者モニタ66に組み込まれてもよい。しかしながら、以下に説明される患者モニタ66の構成要素は代わりに、別個のモジュールとして又は別のシステムに分配されてもよい。
【0129】
患者モニタ66は、1つ以上のセンサ61、62から信号(例えば、患者監視信号)を受信するように適応する送受信機67を有してもよい。送受信機67は、患者監視信号を処理システム65で処理するためのデジタル形式に変換するためのアナログ-デジタル変換器を有してもよい。
【0130】
患者モニタ66は、臨床医のための警報を表示するように適応するディスプレイ68又は他のユーザーインターフェースを有してもよい。従って、処理システム65により発生する警報(例えば、呼吸不安定性警報)は、ディスプレイ68により表示される臨床医が知覚可能な警報(例えば、赤色光)をトリガさせる。その代わりに又はそれに加えて、患者モニタ66は、処理システム65により発生する警報に応答して、臨床医に警報するための他のユーザーインターフェース、例えば(例えば、臨床医の手首に取り付け可能である)振動要素又はスピーカを有する。
【0131】
ディスプレイ68は、その代わりに又はそれに加えて、臨床医に呼吸不安定性信号を提示するように適応してもよい。これは、臨床医が、被験者の呼吸不安定性を直感的及び精度を上げて容易に評価することを可能にする。これは、例えば、臨床医が、治療計画(例えば、無呼吸を克服するために、被験者に投与するカフェインのレベル)又は被験者の退院準備に関する決定を行うことを可能にする。
【0132】
「呼吸不安定性信号」の値の増大は、呼吸不安定性(すなわち、複雑性又はランダム性)の増大を示すという仮定が本出願を通じて行われている。しかしながら、実施形態は、「呼吸不安定性信号」の値の減少が不安定性の増大を示すように反対にされてもよい。従って、そのような実施形態の「しきい値を超える(上回る)」という言及は、必要に応じて、当業者に理解されるように、「しきい値未満」と読まれるべきである。
【0133】
開示される方法は、好ましくは、コンピュータ実装方法であると理解される。そのようなものとして、コンピュータプログラムが処理システム、例えばコンピュータ上で実行されるとき、記載される如何なる方法も実施するためのコード手段を有する前記コンピュータプログラムの概念も提案される。従って、一実施形態によるコンピュータプログラムのコードの異なる部分、行又はブロックは、処理システム又はコンピュータにより、本明細書に説明される如何なる方法も行うように実行される。幾つかの代替実施において、ブロックに記載される機能が、図に記載される順序から外れて起こる場合がある。例えば、連続して示される2つのブロックは、実際には、略同時に実行されてもよいし、又はこれらブロックが、含まれる機能に依存して、時として反対の順序で実行されてもよい。
【0134】
開示される実施形態に対する変形例は、図面、本開示及び添付の特許請求の範囲を学ぶことにより、請求される発明を実施する際、当業者により理解及び実施されることができる。請求項において、「有する」という用語は、それ以外の要素又はステップを排除するものではなく、複数あることを述べていなくても、それが複数あることを排除するものではない。単一の処理器又は他のユニットが請求項に挙げられる幾つかの項目の機能を果たしてもよい。ある方法が互いに異なる従属請求項に挙げられているという単なる事実は、これらの方法の組み合わせが有利に使用されることができないことを示してはいない。コンピュータプログラムが上述されている場合、このコンピュータプログラムは、例えば他のハードウェアと共に又はその一部として供給される光学記憶媒体又はソリッドステート媒体のような適切な媒体に記憶/配布されてもよいが、他の形態、例えばインターネット、又は有線或いはワイヤレスの電話通信システムを介して配布されてもよい。「に適応する」という用語が請求項又は明細書に用いられる場合、「に適応する」という用語は、「ように構成される」と言う用語と同様であることを意味する。請求項における如何なる参照符号もその範囲を限定すると解釈されるべきではない。