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特許7466553生物学的製剤における可視粒子及び/またはサブビジブル粒子のキャラクタリゼーション方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】生物学的製剤における可視粒子及び/またはサブビジブル粒子のキャラクタリゼーション方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240405BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240405BHJP
   G01N 15/10 20240101ALI20240405BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20240405BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N15/10 Z
C12Q1/02
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021544299
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 US2020015699
(87)【国際公開番号】W WO2020160161
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】62/798,750
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュ シャオビン
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表昭63-502958(JP,A)
【文献】特表2016-512848(JP,A)
【文献】特表2016-524711(JP,A)
【文献】特表2017-525390(JP,A)
【文献】国際公開第2018/007456(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/143332(WO,A1)
【文献】特表2015-503766(JP,A)
【文献】特表2016-519145(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0136937(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0137500(US,A1)
【文献】John den Engelsman,Strategies for the Assessment of Protein Aggregates in Pharmaceutical Biotech Product Development,Pharm Res,2011年,28,pp.920-933,DOI 10.1007/s11095-010-0297-1
【文献】Krista Rule Wigginton,Gold-coated polycarbonate membrane filter for pathogen concentration and SERS-based detection,Analyst,2010年,135,pp.1320-1326
【文献】M. Rocchia,Microplastic identification and characterization by Raman imaging spectroscopy,Thermo Fisher Scientific,2017年11月10日,pp.1-5
【文献】Jared S. Bee,Trace Levels of the CHO Host Cell Protease Cathepsin D Caused Particle Formation in a Monoclonal Antibody Product,Biotechnol. Prog.,2015年,Vol. 31, No. 5,pp.1360-1369,DOI 10.1002/btpr.2150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
G01N 27/62
G01N 15/10
G01N 1/00~ 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質のキャラクタリゼーション方法であって、
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉すること;
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を分析して、タンパク質の存在を同定すること;及び
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を質量分析法分析に供して前記タンパク質をキャラクタリゼーションすること
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、ラマン分光法を使用して分析される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、少なくとも約100μmのサイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、固有の不純物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
金でコーティングされたポリカーボネート膜上に、前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金でコーティングされたポリカーボネート膜の細孔サイズが、約5μmである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を分析した後に前記サンプルを尿素に溶解することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
尿素の濃度が約8Mである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を分析した後に変性条件下で前記サンプルを消化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプルが、目的のタンパク質をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記目的のタンパク質が抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記目的のタンパク質が治療用抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
質量分析法分析の前に、前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を液体クロマトグラフィー分離に供することをさらに含み、質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記液体クロマトグラフィーシステムが、ナノ液体クロマトグラフィーシステムである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
質量分析計がタンデム質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質が、宿主細胞由来タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の少なくとも1種のタンパク質の定量方法であって、
記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉すること;
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を分析して、前記少なくとも1種のタンパク質の存在を同定すること;及び
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を質量分析法分析に供して前記少なくとも1種のタンパク質を定量すること
を含む、法。
【請求項18】
前記少なくとも1種のタンパク質が、宿主細胞由来タンパク質である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、タンパク質の凝集体である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質のキャラクタリゼーション方法であって、
記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉すること;
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を分析して、タンパク質の存在を同定すること;及び
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を質量分析法分析に供して、前記タンパク質が宿主細胞由来タンパク質であるかどうかを決定するために前記タンパク質をキャラクタリゼーションすること
を含む、法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、概して、サンプル中に形成された可視粒子及び/またはサブビジブル粒子中の1種以上のタンパク質をキャラクタリゼーションまたは定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
タンパク質ベースのバイオ医薬品は、がん、自己免疫疾患、感染症、及び心血管代謝障害の治療のための重要な薬品として台頭してきており、それらは製薬業界で最も急速に成長している製品セグメントのうちの1つである。ロバストかつ安定したバイオ医薬品は、バイオ医薬品業界で成功を収めるための重要な要素である。重要な基準は、可視粒子及び/またはサブビジブル粒子を本質的に含まない製剤の開発である。特にそのようなタンパク質ベースのバイオ医薬品における可視粒子及び/またはサブビジブル粒子は、数年間バイオ医薬品業界内での議論及び調査の焦点となってきた。合成材料または生物学的材料から構成された、様々な供給源由来の粒子は、患者において免疫原性作用の可能性を高めることがあり、また医薬品に対する様々な影響を有する可能性がある。したがって、これらの粒子を医薬品から低減または排除する助けとするために、これらの粒子の起源、組成、及び結果を調査することが重要になる場合がある。
【0003】
可視粒子及び/またはサブビジブル粒子がバイオ医薬品中で生じる場合、それらの組成の同定は、それらの形成の理解及び軽減において重要なステップである。しかしながら、これらの粒子は小さく、壊れやすく、単離が難しく、少量の材料のみから構成されていることから、これはワークフロー及び分析試験を決定するには困難な課題である。前述したことから、サンプル中で形成され得るそのような可視粒子及び/またはサブビジブル粒子をキャラクタリゼーションするための改善された方法に対する要求が存在することが理解されるであろう。
【発明の概要】
【0004】
概要
バイオ医薬品を開発する際の重要な基準は、可視粒子及びサブビジブル粒子を含まない製剤を開発することである。そのような粒子が生じる場合には、それらの同定及び定量がバイオプロセスの重要なステップになる可能性がある。
【0005】
本明細書に開示の例示的な実施形態は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーション、同定、及び/または定量する方法を提供することによって前述した要求を満たす。
【0006】
本開示は、少なくとも一部において、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法を提供する。
【0007】
例示的な一実施形態では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること、及び質量分析計を使用してタンパク質をキャラクタリゼーションすることを含む。
【0008】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、ラマン分光法を使用して少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定することを含み得る。
【0009】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、少なくとも約5μmのサイズを有する少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を含み得る。
【0010】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、固有の不純物を含む少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を含み得る。
【0011】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、金でコーティングされたポリカーボネート膜上に、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含み得る。
【0012】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、金でコーティングされた約5μmの細孔サイズを有するポリカーボネート膜上に、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含み得る。
【0013】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定した後にサンプルを尿素に溶解することをさらに含み得る。
【0014】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定した後にサンプルをグアニジン塩酸塩に溶解することをさらに含み得る。
【0015】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定した後にサンプルを8Mの尿素溶液に溶解することをさらに含み得る。
【0016】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定した後にサンプルを変性条件下で消化することをさらに含み得る。
【0017】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、目的のタンパク質をさらに含むサンプルを含み得る。
【0018】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、抗体をさらに含むサンプルを含み得る。
【0019】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、治療用抗体をさらに含むサンプルを含み得る。
【0020】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、質量分析計に連結された液体クロマトグラフィーシステムを含み得る。
【0021】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、質量分析計に連結されたナノ液体クロマトグラフィーシステムを含み得る。
【0022】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、タンパク質をキャラクタリゼーションするためにタンデム質量分析計を使用することを含み得る。
【0023】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、宿主細胞由来タンパク質であるタンパク質を含み得る。
【0024】
本開示は、少なくとも一部において、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法を提供する。
【0025】
例示的な一実施形態では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること、及び質量分析計を使用してタンパク質をキャラクタリゼーションすることを含む。
【0026】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、ラマン分光法を使用して少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定することを含み得る。
【0027】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、少なくとも約5μmのサイズを有する少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を含み得る。
【0028】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、固有の不純物であってもよい。
【0029】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、金でコーティングされたポリカーボネート膜上に、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含み得る。
【0030】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、金でコーティングされた約5μmの細孔サイズを有するポリカーボネート膜上に、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含み得る。
【0031】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定した後にサンプルを尿素に溶解することをさらに含み得る。
【0032】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定した後にサンプルを8Mの尿素溶液に溶解することをさらに含み得る。
【0033】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定した後にサンプルを変性条件下で消化することをさらに含み得る。
【0034】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、目的のタンパク質をさらに含むサンプルを含み得る。
【0035】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、抗体をさらに含むサンプルを含み得る。
【0036】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、治療用抗体をさらに含むサンプルを含み得る。
【0037】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、質量分析計に連結された液体クロマトグラフィーシステムを含み得る。
【0038】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、質量分析計に連結されたナノ液体クロマトグラフィーシステムを含み得る。
【0039】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、タンパク質をキャラクタリゼーションするためにタンデム質量分析計を使用することを含み得る。
【0040】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法は、宿主細胞由来タンパク質であるタンパク質を含み得る。
【0041】
本開示は、少なくとも一部において、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法を提供する。
【0042】
例示的な一実施形態では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること、及び質量分析計を使用して、タンパク質が宿主細胞由来タンパク質であるかどうかを決定するためにタンパク質をキャラクタリゼーションすることを含む。
【0043】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、ラマン分光法を使用して少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在を同定することを含み得る。
【0044】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、少なくとも約5μmのサイズを有する少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を含み得る。
【0045】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、固有の不純物であってもよい宿主細胞由来タンパク質を含み得る。
【0046】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、金でコーティングされたポリカーボネート膜上に、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含み得る。
【0047】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、金でコーティングされた約5μmの細孔サイズを有するポリカーボネート膜上に、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含み得る。
【0048】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在を同定した後にサンプルを尿素に溶解することをさらに含み得る。
【0049】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在を同定した後にサンプルを8Mの尿素溶液に溶解することをさらに含み得る。
【0050】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在を同定した後にサンプルを変性条件下で消化することをさらに含み得る。
【0051】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、目的のタンパク質をさらに含むサンプルを含み得る。
【0052】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法は、抗体をさらに含むサンプルを含み得る。
【0053】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、治療用抗体をさらに含むサンプルを含み得る。
【0054】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、質量分析計に連結された液体クロマトグラフィーシステムを含み得る。
【0055】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、質量分析計に連結されたナノ液体クロマトグラフィーシステムを含み得る。
【0056】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、タンパク質をキャラクタリゼーションするためにタンデム質量分析計を使用することを含み得る。
【0057】
この実施形態の一態様では、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法は、宿主細胞由来タンパク質であるタンパク質を含み得る。
[本発明1001]
サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること;
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること;及び
質量分析計を使用して前記タンパク質をキャラクタリゼーションすること
を含む、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質のキャラクタリゼーション方法。
[本発明1002]
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、ラマン分光法を使用して同定される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、少なくとも約100μmのサイズを有する、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、固有の不純物である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
金でコーティングされたポリカーボネート膜上に、前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉することをさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記金でコーティングされたポリカーボネート膜の細孔サイズが、約5μmである、本発明1001の方法。
[本発明1007]
ラマン分光分析を行った後に前記サンプルを尿素に溶解することをさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記尿素の濃度が約8Mである、本発明1006の方法。
[本発明1009]
ラマン分光分析を行った後に変性条件下で前記サンプルを消化することをさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記サンプルが、目的のタンパク質をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記目的のタンパク質が抗体である、本発明1009の方法。
[本発明1012]
前記目的のタンパク質が治療用抗体である、本発明1009の方法。
[本発明1013]
前記質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、本発明1001の方法。
[本発明1014]
前記液体クロマトグラフィーシステムが、ナノ液体クロマトグラフィーシステムである、本発明1012の方法。
[本発明1015]
前記質量分析計がタンデム質量分析計である、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記タンパク質が、宿主細胞由来タンパク質である、本発明1001の方法。
[本発明1017]
サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること;
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、少なくとも1種のタンパク質の存在を同定すること;及び
質量分析計を使用して前記少なくとも1種のタンパク質を同定すること
を含む、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の少なくとも1種のタンパク質の定量方法。
[本発明1018]
前記少なくとも1種のタンパク質が、宿主細胞由来タンパク質である、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子が、タンパク質の凝集体である、本発明1017の方法。
[本発明1020]
サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること;
前記少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること;及び
質量分析計を使用して、前記タンパク質が宿主細胞由来タンパク質であるかどうかを決定するために前記タンパク質をキャラクタリゼーションすること
を含む、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質のキャラクタリゼーション方法。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】医薬品中で見られる粒子の粒子サイズの範囲を示す(ミクロン単位)。
図2】医薬品中の粒子状物質の種類を示す。
図3】タンパク質凝集体の一般的なメカニズムの概略的なスキームを示す。
図4】医薬品における粒子形成の潜在的原因を示す。
図5】2005年から2017年までの粒子状物質によるFDAの薬物リコールのグラフを示す。
図6】2008年から2012年までのFDAの滅菌注射薬のリコールの理由を示すチャートを示す。
図7】例示的な実施形態による、タンパク質または宿主細胞由来タンパク質のキャラクタリゼーションのための2つのワークフローを示す。
図8】いくつかの例示的な実施形態による、タンパク質または宿主細胞由来タンパク質のキャラクタリゼーションのためのワークフローを示す。
図9】例示的な一実施形態による可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉する方法を示す。
図10】例示的な一実施形態による、可視粒子またはサブビジブル粒子を評価するために行われた濾紙の切除を示す。
図11】例示的な実施形態による、可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉するために使用される濾紙の切断領域におけるmAb1のペプチド断片の存在量の比較を示す。図は、配列番号:1~6をそれぞれ出現順に開示している。
図12】例示的な実施形態による、金でコーティングされたポリカーボネート膜上で可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉する方法を示す。
図13】例示的な実施形態による、金でコーティングされたポリカーボネート膜上で単離及び捕捉された、ラマン分光法を使用して分析された粒子の暗視野照明を示す。
図14】例示的な実施形態に従って分析された異なるロット(ロット5~12)からの薬液中のメタロプロテイナーゼ阻害剤1(TIMP1)の相対存在量を示す。
図15】例示的な実施形態に従って分析された異なるロット(ロット5~12)からの薬液中のC-Cモチーフケモカイン13(CCL13)の相対存在量を示す。
図16】例示的な実施形態による、標的化LC-MS/MSを使用して高分子量サンプル中で同定された宿主細胞由来タンパク質の相対的定量を示す。
図17】例示的な実施形態による、金フィルター上で可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉する方法を示す。
図18】例示的な実施形態による、金フィルター上で可視粒子またはサブビジブル粒子を単離する方法を示す。
図19】例示的な実施形態による、ラマン分光法を使用した可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在の確認を示す。
図20】例示的な実施形態に従ってキャラクタリゼーションされた粒子中のmAb1の存在量を示す。
図21】例示的な実施形態に従って撮影されたサブビジブル粒子を含むサンプルの暗視野画像を示す。
図22】例示的な実施形態に従って撮影されたサブビジブル粒子を含むサンプルの暗視野画像及びラマン画像を示す。
図23】例示的な実施形態による、粒子をキャラクタリゼーションするために使用される2つのフィルターについての、経時的なVmax容量及び濁度の減少のグラフを示す。
図24】例示的な実施形態に従って実施された濾紙の切除を示す。
図25】例示的な実施形態に従って実施された、mAb2を含む粒子についての72時間にわたる粒子中のmAb2の重鎖及び軽鎖の正規化された存在量のグラフを示す。
図26】例示的な実施形態に従って実施された、mAb2を含む粒子の時間に対する宿主細胞由来タンパク質の相対存在量の平行プロットを示す。
図27】例示的な実施形態に従って実施された、時間T=0時間における粒子中のmAb2の相対量に対する、時間T=0時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質対時間T=0時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在量の比のバブルプロットを示す。
図28】例示的な実施形態に従って実施された、時間T=24時間における粒子中のmAb2の相対量に対する、時間T=24時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質対時間T=0時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在量の比のバブルプロットを示す。
図29】例示的な実施形態に従って実施された、時間T=48時間における粒子中のmAb2の相対量に対する、時間T=48時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質対時間T=0時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在量の比のバブルプロットを示す。
図30】例示的な実施形態に従って実施された、時間T=72時間における粒子中のmAb2の相対量に対する、時間T=72時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質対時間T=0時間における粒子中の宿主細胞由来タンパク質の存在量の比のバブルプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
詳細な説明
可視粒子及びサブビジブル粒子の存在は、タンパク質を含む薬物の処方中の主要な問題である。これらの粒子はタンパク質系または非タンパク質系のいずれかの場合があり、製剤の安定性を監視するために分析する必要がある。医薬品中のそのような粒子の免疫原性についての懸念の高まりのため、その内容をキャラクタリゼーションするためのロバストな方法及び/またはワークフローが必要とされている。
【0060】
タンパク質を含む医薬品の処方開発中の主要な課題は、それらの限定的な安定性を克服することである。凝集は、最も深刻な劣化メカニズムのうちの1つである。凝集体は、サイズ、可逆性、及び構造など多くの状況で変化する場合がある。例えば、それらのサイズは、ナノメートル範囲の二量体から、人間の目に見える数百ミクロンの大きな凝集体までの範囲の可能性がある(図1を参照)。凝集体は、タンパク質系粒子のみならず、例えば製品の品質に影響を与える包装材料または添加剤に由来する非タンパク質系粒子を含む場合があり、そのため分析が必要とされる。
【0061】
米国薬局方に開示されている“Visible Particulates in Injections <790>”及び“subvisible Particulate Matter in Therapeutic Protein Injections <1787>”について指定されている章は、医薬品の粒子状物質含有量についての一般的な指針を得るのに役立つ。医薬品中に存在し得る粒子状物質のタイプは図2に概説されている。
【0062】
図2に示されるような薬品に固有の粒子状物質は、凝集したタンパク質を含み得る。凝集体は、異なるタイプの異なるメカニズム及び経路に起因して形成される場合がある(図3を参照のこと)。これらのメカニズムは相互に排他的ではなく、同じ製品内で並行して発生する可能性がある(John Philo&Tsutomu Arakawa,Mechanisms of Protein Aggregation,10 CURRENT PHARMACEUTICAL BIOTECHNOLOGY 348-351(2009))。主なメカニズムは、タンパク質自体だけでなく、製剤、不純物または汚染物質の存在、並びに上述した化学的または物理的ストレスへの曝露などの他の様々な要因にも依存する。異なる凝集メカニズム及びそれによって生じる凝集体の構造的差異がそれらの潜在的な免疫原性にどのように影響を及ぼすかはこれまでのところ完全には理解されていない。
【0063】
図4に列挙されている医薬品における粒子形成の潜在的な原因のいくつかは、言い換えると熱応力、保存期間中の分解、医薬品中の添加剤の化学的分解、機械的応力、及び界面応力に起因する。医薬品中のそのような粒子の潜在的な結果は、製品を危険に安全でないものにする(毛細血管閉塞、免疫原性、または細胞毒性の原因)か、有効性を変更する(低い効力もしくは高い効力の原因、または体内の薬物の生体内分布及びクリアランスの変更)か、薬物の薬物動態を変更するか、製品の一貫性をなくすか、バイオプロセスの一貫性をなくす可能性がある。
【0064】
注射薬のFDAリコールは、粒子状物質が薬物リコールの主な理由の1つであることを示唆している(図5を参照)。2008年から2012年にかけて、可視粒子の存在は、滅菌注射薬のリコールの22%を占めた(図6を参照)。
【0065】
規制機関は、粒子状物質についての医薬品分析に、製品の特性評価及び管理の一部として可視粒子及びサブビジブル粒子分析を含めることを要求しており、安全性及び有効性に対するそれらの潜在的影響を評価するためにリスク評価を含める必要がある。分析には、粒子状物質を形成する傾向の評価及び安定性の評価のための複数のストレス条件も含まれる。このような分析の後に、粒子状物質の形成を最小限に抑えるための戦略を実施する必要がある。可視粒子については、粒子状物質の試験に関する米国薬局方(U.S.P.)の指針に、(i)充填プロセスにおける100%目視検査の要件(USP<1>Injections)、(ii)100%目視検査の指針(USP<790>Visible Particulates in Injections)、及び(iii)検査者の訓練、サンプリング方法、及び検査の説明が記載されており、予防/検査ライフサイクルに重点が置かれている(USP<1790>Visual Inspection of Injections)。米国薬局方(U.S.P.)には、(i)サブビジブル粒子の制限(≧10μm粒子≦25個/ml;≧25μm粒子≦3個/ml)、並びに粒子計数のための2つの方法である光遮蔽法及び顕微鏡法の推奨(USP<788>Particulate Matter in Injections)、(ii)生物製剤の具体的要件、及びタンパク質系粒子を数えるための顕微鏡検査の使用の中止(USP<787>Subvisible Particulate Matter in Therapeutic Protein Injections)、並びに(iii)粒子の種類を識別する方法などの、サブビジブル粒子についての粒子状物質の試験についての指針も記載されており、タンパク質系粒子のキャラクタリゼーションに重点が置かれている(USP<1787>Measurement of Subvisible Particulate Matter in Therapeutic Protein Injections)。最後に、点眼液中の粒子状物質については、粒子状物質の試験に関する米国薬局方(U.S.P.)の指針は、USP<789>Particulate Matter in Ophthalmic Solutions及びUSP<1788>Methods for the Determination of Particulate Matter in Injections and Ophthalmic Solutionsの章において指針が示されている。
【0066】
タンパク質製剤の開発及び評価中の主要な課題の1つは、潜在的な分解生成物、特に凝集体及び粒子のキャラクタリゼーション及び定量である(Linda Narhi,Jeremy Schmit&Deepak Sharma,Classification of protein aggregates,101 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 493-498(2012))。
【0067】
装置のメーカーは、サブビジブルサイズ範囲の分析の空白部分を克服するための新規な分析技術の提供に取り組んできたが、それらの重要な科学的評価を支援するためのワークフローを確立することに対する大きな需要が存在する。
【0068】
既存の方法の限界を踏まえ、医薬品中の可視粒子またはサブビジブル粒子の同定及びキャラクタリゼーションのための効果的かつ効率的な方法が開発された。
【0069】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法及び材料を実施または試験において使用できるものの、以降では特定の方法及び材料について説明する。言及される全ての出版物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0070】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。「約」及び「おおよそ」という用語は、当業者によって理解される標準的な変化形が可能なように理解されるべきである。範囲が示されている場合には終点が含まれる。
【0071】
いくつかの例示的な実施形態において、本開示は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法を提供する。
【0072】
本明細書において、「タンパク質」という用語には、共有結合しているアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーが含まれる。タンパク質は、当該技術分野で「ポリペプチド」として一般的に知られている1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連する天然に存在する構造バリアント、及びペプチド結合を介して連結されたそれらの合成による天然に存在しない類似体、関連する天然に存在する構造バリアント、及びそれらの合成による天然に存在しない類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチドまたはポリペプチド」は、天然に存在しないペプチドまたはポリペプチドを指す。合成ペプチドまたはポリペプチドは、例えば自動化されたポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成方法が当業者に公知である。タンパク質は、単一の機能する生体分子を形成するために、1つまたは複数のポリペプチドを含み得る。タンパク質には、バイオ治療用タンパク質、研究または治療で使用される組み換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のいずれも含まれ得る。別の例示的な態様では、タンパク質には、抗体断片、ナノボディ、組み換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどが含まれ得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えばピチア属の種(Pichia sp.))、哺乳動物系(例えばCHO細胞、及びCHO-K1細胞のようなCHO派生物)などの組み換え細胞ベースの産生系を使用して産生され得る。バイオ治療用タンパク質及びその製造に関して説明されているレビューについては、Ghaderi et al.,”Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(BIOTECHNOL.GENET.ENG.REV.147-175(2012))を参照のこと。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾物、付加物、及び他の共有結合された部位を含む。これらの修飾物、付加物、及び部位には、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGtag、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識及び他の染料などが含まれる。タンパク質は、組成及び溶解度に基づいて分類できることから、タンパク質には、球状タンパク質や繊維状タンパク質などの単純なタンパク質;核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などの複合タンパク質;並びに一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質などの誘導タンパク質が含まれ得る。
【0073】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、宿主細胞由来タンパク質、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0074】
本明細書で使用される「抗体」という用語には、4本のポリペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互接続された2本の重(H)鎖と2つの軽(L)鎖とを含む免疫グロブリン分子、並びにそれらの多量体(例えばIgM)が含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVと略される)と重鎖定常領域とを含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVと略される)と軽鎖定常領域とを含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(C.sub.L1)を含む。V領域及びV領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分化することができ、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存される領域が点在する。各V及びVは、3つのCDRと4つのFRとから構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置されている。様々な例示的な実施形態において、抗big-ET-1抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、あるいは天然にもしくは人工的に改変されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRのサイドバイサイド分析に基づいて定義することができる。本明細書で使用される「抗体」という用語には、完全な抗体分子の抗原結合断片も含まれる。
【0075】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」や抗体の「抗原結合断片」などの用語には、抗原に特異的に結合して複合体を形成する任意の天然に存在する、酵素的に得られる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解または組み換え遺伝子工学技術(抗体可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む)などの任意の適切な標準的手法を使用して、完全な抗体分子から誘導することができる。そのようなDNAは公知である、及び/または例えば販売元のDNAライブラリー(例えばファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であり、あるいは合成することができる。DNAは、例えば1つ以上の可変及び/または定常ドメインを適切な構成に配置するため、またはコドンを導入するため、システイン残基を形成するため、アミノ酸を修飾、追加、もしくは削除するなどのために化学的に、または分子生物学手法を使用することによって、配列決定及び操作をすることができる。
【0076】
本明細書で使用される「抗体断片」には、例えば、抗体の抗原結合領域または可変領域などのインタクト抗体の一部が含まれる。抗体断片の例としては、限定するものではないが、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトライアボディ、テトラボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって連結されている組み換え一本鎖ポリペプチド分子である。抗体断片は、様々な手段によって製造することができる。例えば、抗体断片は、インタクト抗体の断片化によって酵素的もしくは化学的に製造することができる、及び/またはこれは部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組み換えにより製造することができる。あるいは、またはこれに加えて、抗体断片は、完全にまたは部分的に合成により製造することができる。抗体断片は、任意選択的には一本鎖抗体断片を含んでいてもよい。あるいは、またはこれに加えて、抗体断片は、例えばスルフィド結合によって一体に連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的には多分子複合体を含んでいてもよい。
【0077】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生された抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当該技術分野で利用可能なまたは公知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、またはファージクローンを含む単一のクローンから誘導することができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組み換え、及びファージディスプレイ技術、またはそれらの組み合わせの使用を含む、当該技術分野で公知の多種多様な技術を使用して作製することができる。
【0078】
本明細書で使用される「宿主細胞由来タンパク質」という用語は、宿主細胞によって発現されるタンパク質を含み、対象の目的タンパク質とは無関係な場合がある。宿主細胞由来タンパク質は、製造プロセスに由来する可能性がある製造に関連する不純物である場合があり、細胞基質由来、細胞培養由来、及び下流由来の3つの主要なカテゴリーが含まれ得る。細胞基質由来の不純物としては、限定するものではないが、宿主生物及び核酸(宿主細胞のゲノム、ベクター、または全DNA)に由来するタンパク質が挙げられる。細胞培養由来の不純物としては、限定するものではないが、誘導物質、抗生物質、血清、及びその他の培地成分が挙げられる。下流由来の不純物としては、限定するものではないが、酵素、化学的及び生化学的処理試薬(例えば臭化シアン、グアニジン、酸化剤、及び還元剤)、無機塩(例えば重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えばモノクローナル抗体)、及びその他の浸出物が挙げられる。
【0079】
いくつかの例示的な実施形態では、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子は、プロセスに関連する不純物を含み得る。
【0080】
いくつかの例示的な実施形態では、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子は、製品に関連する不純物を含み得る。
【0081】
本明細書で使用される「製品に関連する不純物」(例えば前駆体、特定の分解生成物)は、活性、有効性、及び安全性に関して望まれる製品の特性に匹敵する特性を有さない製造及び/または保管中に生じる分子バリアントである場合がある。そのようなバリアントは、修飾のタイプを特定するために単離及びキャラクタリゼーションにおいて多大な労力が必要とされる場合がある。製品に関連する不純物には、切断された形態、修飾された形態、及び凝集体が含まれ得る。切断された形態は、ペプチド結合の切断を触媒する加水分解酵素または化学物質によって形成される。修飾された形態には、限定するものではないが、脱アミド化、異性化、ミスマッチのS-S結合、酸化、または改変された複合体形態(例えばグリコシル化、リン酸化)が含まれる。修飾された形態には、翻訳後修飾された任意の形態も含まれ得る。凝集体には、目的生成物の二量体及びより高次の多量体が含まれる。(Q6B Specifications:Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products,ICH August 1999,U.S.Dept.of Health and Humans Services)。
【0082】
いくつかの例示的な実施形態では、可視粒子またはサブビジブル粒子はタンパク質凝集体を含み得る。本明細書で使用される「タンパク質凝集体」という用語は、サイズ、可逆性、及び構造が様々な場合があるタンパク質モノマーの集合体を指す。タンパク質凝集体形成のメカニズムのいくつかが図4に概説されている。
【0083】
本明細書で使用される「製剤」という用語は、1種以上の薬学的に許容されるビヒクルと一緒に配合される有効な薬剤を指す。
【0084】
本明細書で使用される「有効な薬剤」という用語には、医薬品の生物学的に有効な成分が含まれ得る。有効な薬剤とは、薬理学的活性を提供すること、またはその他疾患の診断、治癒、緩和、治療、もしくは予防に直接的な効果をもたらすこと、または動物の生理学的機能を回復、修正、もしくは変更する直接的な効果を有することが意図された、医薬品において使用される任意の物質または物質の組み合わせを意味し得る。有効な薬剤を調製するための非限定的な方法としては、発酵プロセス、組み換えDNA、天然供給源からの単離及び回収、化学合成、またはそれらの組み合わせの使用を挙げることができる。
【0085】
いくつかの例示的な実施形態では、製剤はタンパク質製剤であってもよい。
【0086】
本明細書で使用される「タンパク質製剤」という用語は、1種以上の薬学的に許容されるビヒクルと一緒に製剤化される治療用タンパク質を指す。いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、治療計画における投与に適した単位用量で存在する。
【0087】
いくつかの別の実施形態では、製剤は、限定するものではないが、緩衝剤、増量剤、調性調整剤、界面活性剤、可溶化剤、及び防腐剤などの添加剤をさらに含み得る。その他の追加的な添加剤については機能に基づいて選択することもでき、製剤との適合性については、例えばLOYD V.ALLEN,REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY(19 ed.1995),JOHN E HOOVER,REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES (1975)、及びLYOD ALLEN,ANSEL’SPHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS(10ed.)の中で見ることができ、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0088】
いくつかの例示的な実施形態では、製剤は安定であってもよい。
【0089】
製剤の安定性は、有効な薬剤の化学的安定性、物理的安定性、または機能的安定性を評価することを含み得る。本発明の製剤は、典型的には、有効薬剤の高レベルの安定性を示す。
【0090】
タンパク質製剤に関し、本明細書において使用される「安定」という用語は、本明細書に記載の例示的な条件下での保存後に許容可能な程度の化学構造または生物学的機能を保持できる製剤内のタンパク質を指す。製剤は、その中に含まれるタンパク質が、規定の期間保存した後にその化学構造または生物学的機能の100%を維持していなくても安定である可能性がある。特定の状況下では、規定の期間保存した後のタンパク質の構造または機能の約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、または約99%の維持が、「安定」とみなされる場合がある。
【0091】
いくつかの例示的な実施形態では、脂肪酸粒子は少なくとも5μmのサイズであってもよい。さらに、これらの脂肪酸粒子は、サイズに応じて、可視(>100μm)、サブビジブル(<100μm、これはミクロン(1~100μm)及びサブミクロン(100nm~1000nm)にさらに分けることができる)、及びナノメートル粒子(<100nm)に分類することができる(Linda Narhi,Jeremy Schmit&Deepak Sharma,Classification of protein aggregates,101 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 493-498(2012))。
【0092】
いくつかの例示的な実施形態では、粒子は、ラマン分光法によってタンパク質として検出することができる。本明細書で使用される「ラマン分光法」という用語は、ラマン散乱法に基づく分光法を指す。ラマン分光法は、指紋領域(2000~400cm-1)のバンドの存在及び位置を特定可能なラマンスペクトルを提供することができ、これは、ラマンスペクトルのデータベースとの比較による分析された物質の化学的同定を可能する(C.V.Raman and K.S.Krishnan,A new type of secondary radiation,121 NATURE 501-502(1928);Zai-Qing Wen,Raman spectroscopy of protein pharmaceuticals,96 JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 2861-287(2007))。
【0093】
本明細書で使用される「クロマトグラフィー」という用語は、液体または気体によって運ばれる化学混合物を、液体固定相または固体固定相の周囲または上を流れる際の化学物質の異なる分布の結果として複数の成分に分離することができるプロセスを指す。クロマトグラフィーの非限定的な例としては、従来の逆相(RP)、イオン交換(IEX)、及び順相クロマトグラフィー(NP)が挙げられる。それぞれ疎水性相互作用、親水性相互作用、及びイオン相互作用が主要な相互作用モードであるRP、NP、及びIEXクロマトグラフィーとは異なり、混合モードのクロマトグラフィーでは、これらの相互作用モードを2つ以上組み合わせて使用することができる。
【0094】
本明細書で使用される「質量分析計」という用語には、特定の分子種を識別し、それらの正確な質量を測定することができる装置が含まれる。この用語は、検出及び/またはキャラクタリゼーションのためにポリペプチドまたはペプチドを中で溶離させることができる任意の分子検出器を含むことを意図している。質量分析計は、イオン源、質量分析器、及び検出器の3つの主要部分を含み得る。イオン源の役割は、気相イオンを形成することである。分析対象の原子、分子、またはクラスターは、気相に移され、同時にイオン化することができる。(エレクトロスプレーイオン化と同様)。イオン源の選択は用途に大きく依存する。
【0095】
明細書で使用される「質量分析器」という用語には、種、すなわち原子、分子、またはクラスターをそれらの質量に応じて分離できる装置が含まれる。高速タンパク質配列解析に使用可能な質量分析器の非限定的な例は、飛行時間型(TOF)、磁気/電気セクター型、四重極質量フィルター型(Q)、四重極イオントラップ型(QIT)、オービトラップ型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FTICR)、及び加速器質量分析法(AMS)である。
【0096】
本明細書で使用される「タンデム質量分析」という用語には、質量選択及び質量分離の複数の段階を使用することによってサンプル分子に関する構造情報が得られる技術が含まれる。前提条件は、サンプル分子を気相に移して完全なままイオン化できること、及び最初の質量選択段階の後に予測可能かつ制御可能な形で壊れるように誘導できることである。マルチステージMS/MS、またはMSは、有意義な情報を取得できるか、フラグメントイオンシグナルが検出可能である限り、最初に前駆体イオン(MS)を選択及び単離してフラグメント化し、一次フラグメントイオン(MS)を単離してこれをフラグメント化し、二次フラグメントイオン(MS)を単離するなどして行うことができる。タンデムMSは、多種多様な分析器の組み合わせを用いて首尾よく行われてきた。特定の用途のために組み合わせられる分析器が何であるかは、感度、選択性、及び速度などの多くの様々な要因だけでなく、サイズ、コスト、及び有効性によっても決定され得る。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリーは、空間的タンデムと時間的タンデムであるが、時間的タンデム分析器が空間的にまたは空間的タンデム分析器と連結されているハイブリッドも存在する。空間的タンデム質量分析計は、イオン源と、プリカーサーイオン活性化デバイスと、少なくとも2つの非トラッピング質量分析器とを含む。装置の1つの区域でイオンが選択され、中間領域で解離され、その後生成物イオンがm/z分離及びデータ取得のために別の分析器に送られるように、特定のm/z分離機能を設計することができる。時間的タンデム質量分析計では、イオン源で生成されたイオンを、同じ物理的デバイス内で捕捉、単離、フラグメント化、及びm/z分離することができる。
【0097】
質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトタンパク質及びそれらの翻訳後修飾のサロゲートの典型として使用することができる。これらは、実験的及び理論的なMS/MSデータを相関させることによってタンパク質のキャラクタリゼーションのために使用することができ、後者はタンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。キャラクタリゼーションには、限定するものではないが、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列決定、タンパク質デノボ配列決定、翻訳後修飾の位置特定、または翻訳後修飾の同定、または適合分析、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0098】
本明細書で使用される「データベース」という用語は、データベース内の全ての可能な配列に対して未解釈のMS-MSスペクトルを検索する可能性を提供するバイオインフォマティクスツールを指す。このようなツールの非限定的な例は以下のものである:Mascot(http://www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(http://www.chem.agilent.com)、PLGS(http://www.waters.com)、PEAKS(http://www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(http://download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(http://www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(http://www.sagenresearch.com)、OMSSA(http://www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(http://www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(http://www.http://prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(https://www.proteinmetrics.com/products/byonic)、またはSequest(http://fields.scripps.edu/sequest)。
【0099】
例示的な実施形態
本明細書に開示の複数の実施形態は、サンプル中のタンパク質の迅速なキャラクタリゼーションのための組成物、方法、及びシステムを提供する。
【0100】
いくつかの実施形態では、本開示は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること、及び質量分析計を使用してタンパク質をキャラクタリゼーションすること、を含む、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質をキャラクタリゼーションする方法を提供する。
【0101】
いくつかの実施形態では、本開示は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること、及び質量分析計を使用してタンパク質をキャラクタリゼーションすること、を含む、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質を同定する方法を提供する。
【0102】
いくつかの実施形態では、本開示は、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を検出すること、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を単離及び捕捉して、タンパク質の存在を同定すること、及び質量分析計を使用して、タンパク質が宿主細胞由来タンパク質であるかどうかを決定するためにタンパク質をキャラクタリゼーションすること、を含む、サンプル中の少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中の宿主細胞由来タンパク質を同定する方法を提供する。
【0103】
いくつかの例示的な実施形態では、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質の存在を同定するためにラマン分光法を使用することができる。
【0104】
いくつかの例示的な実施形態では、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子は、少なくとも約2μmのサイズを有し得る。一態様では、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子は、少なくとも約2μm、少なくとも約3μm、少なくとも約4μm、少なくとも約5μm、少なくとも約6μm、少なくとも約7μm、少なくとも約8μm、少なくとも約9μm、少なくとも約10μm、少なくとも約11μm、少なくとも約12μm、少なくとも約13μm、少なくとも約14μm、少なくとも約15μm、少なくとも約20μm、少なくとも約25μm、少なくとも約30μm、少なくとも約35μm、少なくとも約40μm、少なくとも約45μm、少なくとも約50μm、少なくとも約55μm、少なくとも約60μm、少なくとも約65μm、少なくとも約70μm、少なくとも約7μm、少なくとも約80μm、少なくとも約85μm、少なくとも約90μm、少なくとも約95μm、または少なくとも約100μmのサイズを有し得る。
【0105】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は固有の不純物であってもよい。
【0106】
いくつかの例示的な実施形態では、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子は、金でコーティングされたポリカーボネート膜上に捕捉することができる。いくつかの例示的な実施形態では、金でコーティングされたポリカーボネート膜は約5μmの細孔サイズを有し得る。
【0107】
いくつかの例示的な実施形態では、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子は濾紙上に捕捉することができる。いくつかの例示的な実施形態では、濾紙は約5μmの細孔サイズを有し得る。
【0108】
いくつかの例示的な実施形態では、方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子を捕捉するために使用される金でコーティングされたポリカーボネート膜または濾紙の一部を切除することをさらに含み得る。
【0109】
いくつかの例示的な実施形態では、方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質または宿主細胞由来タンパク質の存在を同定した後に、サンプルを尿素に溶解することをさらに含み得る。一態様では、サンプルは、8Mの尿素溶液に溶解することができる。
【0110】
いくつかの例示的な実施形態では、方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質または宿主細胞由来タンパク質の存在を同定した後、変性条件下でサンプルを変性させることをさらに含み得る。一態様では、サンプルは、適切な温度でジチオトレイトールを使用して変性させることができる。
【0111】
いくつかの例示的な実施形態では、方法は、少なくとも1種の可視粒子またはサブビジブル粒子中のタンパク質または宿主細胞由来タンパク質の存在を同定した後に、変性条件下でサンプルを消化することをさらに含み得る。一態様では、サンプルは、加水分解剤を使用して消化することができる。酵素的消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、外膜プロテアーゼT(OmpT)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、キモトリプシン、ペプシン、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、及びアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来のプロテアーゼが挙げられる。非酵素的消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、高温、マイクロ波、超音波、高圧、赤外線、溶媒(非限定的な例はエタノール及びアセトニトリルである)、固定化酵素的消化(IMER)、磁性粒子固定化酵素、及びオンチップ固定化酵素の使用が挙げられる。タンパク質消化に利用可能な技術に関して説明されている最近のレビューについては、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(J.Proteome Research 2013,12,1067-1077)を参照のこと。加水分解剤の1つまたは組み合わせは、配列特異的な形でタンパク質またはポリペプチドのペプチド結合を切断し、予測可能なより短いペプチドのコレクションを生成することができる。
【0112】
いくつかの例示的な実施形態では、サンプルは目的のタンパク質をさらに含み得る。一態様では、目的のタンパク質は、治療用抗体、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、抗体断片、融合タンパク質、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0113】
例示的な一実施形態では、タンパク質または宿主細胞由来タンパク質は、目的のタンパク質の翻訳後修飾であってもよい。様々な翻訳後修飾としては、限定するものではないが、切断、N-末端伸長、タンパク質分解、N-末端のアシル化、ビオチン化(リシン残基のビオチンによるアシル化)、C-末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(通常はタンパク質のN-末端におけるアセチル基の付加)、アルキル化(通常はリシンまたはアルギニン残基におけるアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内またはポリペプチド鎖間の共有結合による架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存性修飾(プロリン及びリシンヒドロキシル化及びカルボキシ末端アミド化)、ビタミンK依存性修飾(ここでのビタミンKは、γ-カルボキシグルタミン酸(グル残基)を形成するグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子である)、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(共有結合グリシン残基)、グリコシル化(アスパラギン、ヒドロキシリシン、セリン、またはトレオニンのいずれかへグリコシル基を付加させて糖タンパク質を得る)、イソプレニル化(ファルネソール及びゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポエート官能基の付加)、ホスホパンテテイニル化(脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチド、及びロイシン生合成の場合のような補酵素Aからの4’-ホスホパンテテイニル部位の付加)、リン酸化(リン酸基の付加、通常はセリン、チロシン、トレオニン、またはヒスチジンへの付加)、及び硫酸化(硫酸基の付加、通常はチロシン残基への付加)が挙げられる。アミノ酸の化学的性質を変える翻訳後修飾としては、限定するものではないが、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、及び脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸またはアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が挙げられる。構造変化を伴う翻訳後修飾としては、限定するものではないが、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)及びタンパク質分解切断(ペプチド結合におけるタンパク質の切断)が挙げられる。特定の翻訳後修飾には、ISGylation(ISG15タンパク質(インターフェロン活性化遺伝子)への共有結合)、SUMOylation(SUMOタンパク質(低分子ユビキチン様修飾因子)への共有結合)、及びユビキチン化(タンパク質ユビキチンへの共有結合)などの他のタンパク質またはペプチドの付加が含まれる。UniProtによって収集されたPTMのより詳細な統制されている用語については、http://www.uniprot.org/docs/ptmlistを参照のこと。
【0114】
別の例示的な実施形態では、サンプルは、培養細胞培養液(CCF)、採取細胞培養液(HCCF)、プロセス適格性評価(PPQ)などのバイオプロセスの任意のステップから、最終製剤製品を構成する薬液(DS)もしくは医薬品(DP)の下流処理における任意のステップから得ることができる。いくつかの別の特定の例示的な実施形態では、サンプルは、清澄化、クロマトグラフィー精製、ウイルス不活化、または濾過の下流プロセスの任意のステップから選択することができる。一態様では、医薬品は、診療所、出荷、保管、または取り扱いにおける製造された医薬品から選択することができる。
【0115】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は液体クロマトグラフィーに連結することができる。一態様では、質量分析計はナノ液体クロマトグラフィーに連結することができる。いくつかの例示的な実施形態では、液体クロマトグラフィーにおいてタンパク質を溶離するために使用される移動相は、質量分析計と適合性を有することができる移動相とすることができる。一態様では、移動相は、酢酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、またはギ酸アンモニウム、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0116】
別の例示的な実施形態では、質量分析計は、ナノスプレーを含み得る。
【0117】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、タンパク質をキャラクタリゼーションするためのタンデム質量分析計であってもよい。
【0118】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質または宿主細胞由来タンパク質は、治療用抗体、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、抗体断片、融合タンパク質、またはこれらの組み合わせであってもよい。一態様では、抗体断片には、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、トライアボディ、テトラボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれ得る。
【0119】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質または宿主細胞由来タンパク質は抗体の消化産物であってもよい。消化産物は、加水分解剤によって形成することができる。消化産物は、製品に関連する不純物であってもよい。
【0120】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質または宿主細胞由来タンパク質は、約4.5~約9.0の範囲のpIを有することができる。一態様では、タンパク質は、約4.5、約5.0、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、約8.5、約8.6、約8.7、約8.8、約8.9、または約9.0のpIを有し得る。
【0121】
例示的な一実施形態では、サンプル中の可視粒子またはサブビジブル粒子の数は、少なくとも2個であってもよい。
【0122】
例示的な一実施形態では、可視粒子またはサブビジブル粒子の中のタンパク質または宿主細胞由来タンパク質の種類は少なくとも2種であってもよい。
【0123】
方法は、前述したタンパク質、不純物、及びカラムのいずれかに限定されず、同定または定量する方法は任意の適切な手段によって行い得ることが理解される。
【0124】
いくつかの例示的な実施形態では、本開示は、粒子検査100、粒子単離110、粒子捕捉120、及びクロマトグラフィーカラム130に連結された質量分析計140を含むワークフローを提供する(図7を参照)。
【0125】
いくつかの例示的な実施形態では、ワークフローは、タンパク質の存在を同定することが可能なラマン分光法150をさらに含み得る。
【0126】
いくつかの例示的な実施形態では、粒子検査100は、目視検査、光遮蔽、またはマイクロフローイメージングによって行うことができる。例示的な一実施形態では、粒子検査は、目視検査、FTIR分光法、ラマン分光法、またはマイクロフローイメージング(MFI)によって行うことができる。
【0127】
いくつかの例示的な実施形態では、粒子単離110及び粒子捕捉120は濾過装置を使用して行うことができる。
【0128】
いくつかの例示的な実施形態では、クロマトグラフィーカラム130は移動相を用いて洗浄することができることができる。例示的な一実施形態では、移動相は、酢酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、またはギ酸アンモニウム、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0129】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計140はナノスプレーを含み得る。
【0130】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計140はタンデム質量分析計であってもよい。例示的な一実施形態では、質量分析計140は空間的タンデム質量分析計であってもよい。例示的な一実施形態では、質量分析計140は時間的タンデム質量分析計であってもよい。
【0131】
ワークフローの例示的な一実施形態を図8に示す。
【0132】
システムは、前述したタンパク質、宿主細胞由来タンパク質、分光法、またはクロマトグラフィーカラムのいずれかに限定されないことが理解される。
【0133】
本明細書で示される方法の工程の数字及び/または文字による連続したラベル付けは、方法またはその任意の実施形態を特定の示された順序に限定することを意図するものではない。
【0134】
特許、特許出願、公開された特許出願、アクセッション番号、技術論文、及び学術論文を含む様々な刊行物が、明細書全体にわたって引用されている。これらの引用された参考文献のそれぞれは、その全体が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0135】
本開示は、本開示をより詳細に説明するために示されている以降の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。これらは説明を目的としており、開示の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【実施例
【0136】
実施例1
1.1 粒子の検出
mAb1製剤を含むプロセス適格性評価(PPQ)ロット(ロット番号1)のバイアルの評価において、PPQロットの約264個のバイアル(約4.5%)は、可視粒子を有していた。PPQロットの許容限度は0.7%であるため、ロットは不合格とされた。
【0137】
PPQロットを、正常であると判明したポリソルベートレベルの存在について評価した。
【0138】
PPQロットからの粒子(粒子1)を灰色のフィルター上で捕捉した(図9を参照)。
【0139】
1.2 粒子の単離
濾紙上で切除を行った:(a)切断領域1-粒子1が負荷されている4mm×4mmの領域、(b)切断領域2-タンパク質溶液が負荷されている4mm×4mmの領域、及び(c)切断領域3-タンパク質が負荷されていない4mm×4mmの領域(図10を参照)。切断領域/サンプルを8Mの尿素に溶解させた。
【0140】
サンプルを、8Mの尿素及び5mMのジチオトレイトール(DTT)と共に50℃で30分間インキュベートし、続いて10mMのインドール-3-酢酸(IAA)と共に室温で30分間インキュベートした。インキュベートしたサンプルを変性条件下で1μgのrLysCを用いて1時間消化した後、Tris-HClで希釈した。この混合物に1μgのトリプシンを添加し、消化を3時間継続した。その後、消化混合物を20%のギ酸(FA)で酸性にした後、ナノLC-MS/MS分析を行った。
【0141】
1.3 ペプチド分析
粒子1の組成を明らかにするために、粒子1のペプチド分析を、Thermo QExtivic HF質量分析計と連結されたナノLC-MS/MS Thermo EASY-nLCを使用して行った。存在するタンパク質の同定、Sequestモードを使用するProteome Discovererv.1.4ソフトウェアは、CHOタンパク質配列データベースに対して質量スペクトルデータを検索することによって使用した。ペプチド品質スコアは、検索アルゴリズムがサンプル中のペプチドを誤って含める確率を計算するProteome Discoverer内のPeptideValidatorノードを使用してデコイデータベースに対して処理することによって導き出した。偽発見率(FDR)、または偽陽性率は、ペプチド同定検索によって見出される全ての同定の中での偽陽性同定の数を推定する統計値である。5%未満のFDR(中及び高信頼性ペプチド)で評価されたペプチドは保持され、1%未満のFDR(高信頼性)しきい値で評価されたものは高信頼性として記録した。各HCPを確実に同定するためには、タンパク質あたり最低2つの中または高信頼性(合格)ペプチドが必要であった。1つの高信頼性ペプチドのみによって同定されたタンパク質のペプチドのMS/MSスペクトルを、3つ以上の連続したbイオンとyイオン並びに少数の豊富な外来イオンのカバー率について手動で調べ、それらの許容性を判断した。
【0142】
全てのサンプルを、mAb1の存在量について分析した。切断領域1(粒子1を含む)は豊富に存在するmAb1タンパク質を示し、続いて切断領域2(粒子1を含まないタンパク質溶液)にはmAb1が若干存在し、切断領域3にはmAb1タンパク質が少ない/存在しないことが示された(図11を参照)。
【0143】
mAb1-TIMP1以外の宿主細胞由来タンパク質が粒子1に存在することが判明した(表1)。ただし、TIMP1は、粒子1なしのタンパク質溶液中に存在しなかった。これは、TIMP1が粒子の中に多く含まれていることを示している。
【0144】
【表1】
【0145】
実施例2
mAb1からの製剤を含むPPQロット(ロット番号1)において、4つの追加の粒子(粒子2~5)を確認した。これらの粒子を捕捉し、分析した。
【0146】
2.1 粒子の単離
検出された各粒子を、図12に示されるように、5μMの細孔サイズと40/20nmコーティングとを有する個々のRap ID金被覆ポリカーボネート膜上に載せた。
【0147】
実施例1で示したように、タンパク質溶液から粒子を単離するために膜上で切除を行った。
【0148】
2.2 ラマン分析
粒子の成分を同定するためにラマン分光法を使用した。この方法は、非弾性光散乱を使用して各分子に固有のエネルギースペクトルを生成し、その後様々な化学構造のフィンガープリントを含む参照ライブラリーと比較する。ラマン分析により、4つの粒子全て(粒子2、3、4、及び5)がタンパク質を含むことが確認された。暗視野照明からは、領域の周囲の粒子がタンパク質シグナルを有さないか非常にわずかであることが示された。これにより、フィルターから粒子を切り取っても、MS分析に汚染が生じなかったことが確認された(図13を参照)。
【0149】
2.3 ペプチド分析
粒子の組成を明らかにするために、実施例1で示した通りにナノLC-MS/MSを使用して粒子のペプチド分析を行った。表2には、薬液ロット(DS)と共に粒子1~5において同定された宿主細胞由来タンパク質が列挙されており、これらの全てにmAb1が含まれている。宿主細胞由来タンパク質を、通常のナノLC-MS/MSを使用してスクリーニングし、標的化ナノLC-MS/MSを使用して確認した。粒子3及び4はサイズが小さく、粒子1及び粒子5の約10~50分の1のタンパク質の量であった。これは、同定された宿主細胞由来タンパク質が少ないという結果を説明していると考えられる。
【0150】
【表2】
【0151】
調査から、単離された不合格のmAb1ロット番号1の粒子における宿主細胞由来タンパク質の存在が確認された。
【0152】
実施例3
mAb1製剤を含む他のロットにおいて可視粒子が宿主細胞由来タンパク質を多く含んでいるかどうかを調査するために、mAb1製剤を含む臨床ロット(ロット番号2)及びmAb1製剤を含む他の2つのPPQロット(ロット番号3及び4)における粒子を評価した。
【0153】
粒子の単離、ラマン分析、及びペプチド分析は、実施例2で示した通りに行った。
【0154】
表3に、ロット番号1(PPQロット)、ロット番号2(臨床ロット)、ロット番号3(PPQロット)、及びロット番号4(PPQロット)からの粒子において同定された宿主細胞由来タンパク質が列挙されている。宿主細胞由来タンパク質は、通常のナノLC-MS/MSを使用してスクリーニングし、標的化ナノLC-MS/MSを使用して確認した。一部の宿主細胞由来タンパク質は最初のスクリーニングでは同定されなかったものの、確認分析を使用して同定された。ロット番号2(臨床ロット)の粒子はサイズが小さく、ロット番号4(PPQロット)の粒子の約15~30分の1のタンパク質の量を有していた。これは、同定された宿主細胞由来タンパク質が少ないという結果を説明していると考えられる。これらのロット2~4からの粒子中に存在することが確認された宿主細胞由来タンパク質を比較すると、ロット番号1から単離された可視粒子で特定されたタンパク質に相当することが示唆される。
【0155】
【表3】
【0156】
実施例4
PPQロットを構成し得るmAb1の薬液が宿主細胞由来タンパク質を多く含むかどうかを調べるために、薬液ロット(ロット番号5~12)を評価した。
【0157】
4.1 PLBD2レベル
薬液を、ハムスター推定ホスホリパーゼB様2(PLBD2)ELISAキット、CUSABIOからのカタログCSB-EL014125Haを使用するLC-MS MRM法を使用して、PLBD2について試験した。このキットは、ハムスターの推定ホスホリパーゼB様(PLBD2)濃度の定量測定を提供するとされている。キットに含まれるハムスターPLBL2標準が0.12~8ng/mlの範囲にわたる検出を示す検量線を作成した。ロット番号5~12の薬液は、PLBD2レベルが定量の下限(1ppm、つまり1mgのmAb1中に1ngのPLBD)を下回っていることを示した。
【0158】
したがって、上の全てのロットの薬液は、異常なPLBD2レベルではないことが示された。
【0159】
4.2 直接ペプチドマッピングを使用するHCPプロファイリング
薬液の組成を明らかにするために、実施例1に示した通りにナノLC-MS/MSを使用してペプチド分析を行った。通常のナノLC-MS/MSを使用して宿主細胞由来タンパク質をスクリーニングし、標的化ナノLC-MS/MSを使用して確認した。試験したいずれのロット(ロット番号5~12)においても宿主細胞由来タンパク質は同定されなかった(表4)。TIMP1及びCCL13は、全てのロットの最初のスクリーニングでは同定されなかったものの、より感度の高い確認試験を使用したところ、全てのロットに存在することが判明した。ロット5~12からの薬液中の宿主細胞由来タンパク質TIMP1及びCCL13の相対存在量を、ロット番号5の相対存在量に対して正規化してプロットした(図14及び15を参照)。
【0160】
8つのロットのうち、ロット番号9及びロット番号11は、PPQロット1及び3をそれぞれ調製するために使用した薬液から構成された。ロット番号9及びロット番号11の薬液中の宿主細胞由来タンパク質をこれらが使用されたPPQロットと比較したところ、これらは他の原薬ロットと比較して、粒子が生成したロットで観察された宿主細胞由来タンパク質のレベルが評価されなかったことを示唆している。
【0161】
【表4】
【0162】
4.3 抗HCP免疫精製(IP)濃縮及びそれに続くペプチドマッピングを使用するHCPプロファイリング
薬液ロットに存在する宿主細胞由来タンパク質をさらに評価するために、より感度の高い抗HCP免疫精製を行った。ビオチン化抗HCP抗体のプールを使用して、治療用タンパク質及びその他の成分を除去することにより、HCPをプルダウン及び濃縮した。濃縮の後、HCPを酵素で消化し、HCPの同定及び定量のためにナノLC-MSに注入した。濃縮により、HCPをより高感度に同定及び定量することができる。
【0163】
表5に、抗HCP免疫精製濃縮を使用してHCPプロファイリングを行うことにより同定された宿主細胞由来タンパク質が列挙されている。
【0164】
【表5】
【0165】
ロット番号1(PPQロット、表5)からロット番号9(ロット番号1を調製するために使用された薬液ロット1、表3)において同定された宿主細胞由来タンパク質を比較すると、ロット番号1と関連付けられる固有の宿主細胞由来タンパク質はないと結論付けることができる。これは、PPQロットにおける宿主細胞由来タンパク質のプロファイルが薬液ロットの宿主細胞由来タンパク質のプロファイルと類似していたことを示唆している。
【0166】
実施例5
宿主細胞由来タンパク質は、凝集体形成の結果として濃縮される可能性がある。これは、薬液ロット(ロット番号6)の宿主細胞由来タンパク質を、以下の表6に示す高分子量種のmAb1が濃縮されたロットと比較することによって調査した。
【0167】
【表6】
【0168】
実施例2で示した通りにロット13~15について粒子の単離及びラマン分析を行った。
【0169】
5.1 直接ペプチドマッピングを使用して同定した宿主細胞由来タンパク質
サンプルをSpeedVacを使用して乾燥し、次いで8Mの尿素及び10mMのTCEP-HClで溶解し、50℃で30分間変性させ、続いて室温で30分間10mMのインドール-3-酢酸(IAA)と共にインキュベートした。インキュベートしたサンプルを1μgのrLysCを用いて変性条件下で1時間消化した後、Tris-HClで希釈した。この混合物に1μgのトリプシンを添加し、消化を3時間継続した。その後、消化混合物を20%のギ酸(FA)で酸性にした後、ナノLC-MS/MS分析を行った。HMWのmAb1種が濃縮されたロットで6つの宿主細胞由来タンパク質が同定されたものの、薬液ロットでは同定されなかった(表7)。
【0170】
【表7】
【0171】
5.2 標的化LC-MS/MSを使用する宿主細胞由来タンパク質の相対定量
上のステップ5.1から同定されたペプチド/タンパク質を使用して、断片化するこれらの特定のペプチドを質量分析計が探してHCPをさらに確認及び定量するために、同定されたペプチドの質量リストを形成した。そのようにすることで、標的化スクリーニングにより、検出感度が向上した。HMW mAb1種が濃縮されたロット(ロット番号13~15)で7つの宿主細胞由来タンパク質が同定された。HMW mAb1種が濃縮されたロットで同定された宿主細胞由来タンパク質の量は、薬液ロット(ロット番号6)の宿主細胞由来タンパク質の量よりも約2~60倍多かった。図16は、濃縮されたHMW mAb1種を含むロットにおける宿主細胞由来タンパク質の相対定量のチャートを示している。
【0172】
5.3 抗HCP IP濃縮及びそれに続くペプチドマッピングを使用して同定された宿主細胞由来タンパク質
ビオチン化抗HCP抗体のプールを使用して、治療用タンパク質及び他の成分を除去することにより、HCPをプルダウン及び濃縮した。濃縮の後、HCPを酵素で消化し、HCPの同定及び定量のためにナノLC-MSに注入した。HMW mAb1種が濃縮されたロット(ロット番号13~15)において31個の宿主細胞由来タンパク質が同定された。31個の宿主細胞由来タンパク質のうち、薬液ロットは2個の宿主細胞由来タンパク質の存在のみを示した(表8)。
【0173】
【表8】
【0174】
上の結果は、mAb1薬液ロットよりもHMW mAb1種を含むロットにおける宿主細胞由来タンパク質のより多い量及び濃縮を示している。これは、宿主細胞由来タンパク質が濃縮されたHMWmAb1種であることを示唆している。
【0175】
実施例6
mAb1を含む医薬品を、mAb1の薬液、mAb1のHMW種を含むロット、及びmAb1のPPQロットの試験に加えて、可視粒子及び宿主細胞由来タンパク質の存在についても試験した。
【0176】
6.1 粒子の検出
mAb1を含む医薬品が入っている2つのバイアル(バイアル#1及びバイアル#2)を手作業で検査して、粒子の存在を検出した。
【0177】
6.2 粒子の単離
各バイアルについて、検出された粒子を、図17に示されるような、5μMの細孔サイズ及び40/20nmコーティングを有する別個の(Rap ID)金被覆ポリカーボネート膜上に置いた。
【0178】
膜上で切除を行った:(a)粒子サンプル-粒子を含む直径3mmの円形領域を切除し、(b)陰性対照-粒子を含まない直径3mmの円形領域を切除した(図18)。粒子サンプルと陰性対照を8Mの尿素に溶解した。表9に示すように、2つのバイアルの膜から3つの粒子サンプルと2つの陰性対照を単離した。
【0179】
【表9】
【0180】
6.3 ラマン分析
実施例2で示した通りに粒子についてラマン分光を行った。表9に列挙されている粒子1の1つのラマンスペクトルから、粒子がタンパク質系であることが確認された(図19を参照)。図19で見られる緑色のトレースはタンパク質の参照スペクトルであり、図19に見られる赤いトレースは粒子サンプルのスペクトルである。
【0181】
6.4 ペプチド分析
実施例2で示した通りに粒子についてペプチド分析を行った。
【0182】
全ての粒子サンプル及び陰性サンプルを、mAb1の存在量について分析した。粒子サンプルは、mAb1タンパク質が非常に多く存在することを示し、陰性サンプルは、mAb1タンパク質が存在しないことを示した(図20を参照)。存在量のピークは、mAb1で最も多い存在量の上位2つのペプチドの平均ピーク面積に基づいて見積もった。
【0183】
ペプチド分析から得られたmAb1以外のタンパク質を表10に示す。粒子サンプル及び陰性サンプル中のmAb1存在量を1E6に対して正規化し、表10でppm単位で他のタンパク質を相対定量した。表10のNDという用語はタンパク質が検出されなかったことを表す。
【0184】
【表10】
【0185】
粒子サンプル及び陰性サンプル中のタンパク質の存在量は表11に示す。
【0186】
【表11】
【0187】
ペプチド分析から、mAb1を含む医薬品から単離された粒子中に宿主細胞由来タンパク質が存在することが明らかになった。
【0188】
実施例7
サブビジブル粒子の検出を、mAb1を含有する製剤原薬(FDS)を使用しても行った。
【0189】
サブビジブル粒子を単離するために、1.5mlのFDS溶液を、5μMの細孔サイズと40/20nmのコーティングとを有する金でコーティングされたポリカーボネート膜上にピペットで載せた。次いでこれをmilli-Q水で洗浄した。最初に1.5mlのFDS溶液を0.2μMのフィルター(Millipore)にピペットで載せ、通過した画分を回収することにより、比較のために粒子を含まない陰性対照を形成した。その後、通過した画分を、5Mの細孔サイズと40/20nmのコーティングとを有する金でコーティングされたポリカーボネート膜にピペットで移し、milli-Q水で洗浄した。
【0190】
ラマン分析及びペプチド分析を、実施例2に記載の通りに行った。タンパク質を含む粒子は、ラマン分光法を使用して確認した。記載の方法によって同定されたタンパク質を含む粒子の暗視野画像が図21に示されている。サブビジブル粒子のペプチド分析から、mAb1と共に宿主細胞由来タンパク質-メタロプロテイナーゼ阻害剤1の存在が示された一方で、粒子を含まない陰性対照はmAb1の存在のみを示した。粒子を含まない陰性対照に宿主タンパク質メタロプロテイナーゼ阻害剤1が存在しないことは、宿主細胞由来タンパク質がサブビジブル粒子のみの中に多く含まれていることを示唆している(表12)。
【0191】
【0192】
実施例8
バイオプロセスにおける宿主細胞由来タンパク質の存在を評価するために、mAb2の前臨床製造及びプロセス開発(PMPD)から採取された細胞培養液(HCCF)を試験した。mAb2のHCCFは、滅菌濾過後及び凍結融解サイクルにおける粒子の存在を示した。生産工程及び製品供給(Industrial Operations and Product Supply(IOPS))におけるHCCF滅菌濾過工程中に、高い背圧が生じた。これは、一部の不溶性物質がフィルターを詰まらせていることを示している。
【0193】
粒子の単離、ラマン分析、及びペプチド分析は、実施例2で示した通りに行った。図22は、粒子の暗視野画像及びラマン画像を示している。mAb2以外に、粒子の1つの中で743個の宿主細胞由来タンパク質が同定された。上位10個のHCP(シーケンスカバレッジに基づく)は、L-乳酸デヒドロゲナーゼ(UniProtアクセッション:Q06BU8)、アクチン、細胞質(UniProtアクセッション:G3GVD0)、トランスケトラーゼ(UniProtアクセッション:G3GUU5)、Rab GDP解離阻害剤ベータ(UniProtアクセッション:G3GR73)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(UniProtアクセッション:P17244)、V型プロトンATPアーゼ触媒サブユニットA(UniProtアクセッション:G3H066)、トランスゲリン(UniProtアクセッション:G3H7Z2)、グルタチオンS-トランスフェラーゼMu5(UniProtアクセッション:G3ILF1)、クロライド細胞内チャネルタンパク質4(UniProtアクセッション:G3HMU4)、及びロイコトリエンA-4ヒドロラーゼ(UniProtアクセッション:G3HBI9)であった。
【0194】
実施例9
バイオプロセスの異なる段階における宿主細胞由来タンパク質からなる粒子は、濾過容量の低下をもたらす可能性がある。バイオプロセスにおける宿主細胞由来タンパク質の存在を評価するために、mAb3/mAb2バイオプロセスの細胞培養液(CCF)を試験した。
【0195】
9.1 濾過容量の評価
PMPD及びIOPSプロセスは、様々なプログラムからのいくつかのロットにおいて異常に低いCCF濾過スループットを示した。mAb3/mAb2ロットのうちの1つについて、室温で0、24、48、及び72時間インキュベートした後、採取プールの濾過容量を評価した。濾過容量の評価は、上述した時点でCCFフィルタープールでVmax法を使用して行った(Vmax(商標)定圧試験プロトコル、Merck Millipore)。Vmax(商標)試験では、時間とその時間までに回収された体積を一定間隔で記録した。その後、データを時間/体積対時間としてプロットした。
【0196】
評価には、Sartopore(登録商標)2(それぞれ0.45μm及び0.2μmの2層のフィルター)及びLifeASSURE(商標)(それぞれ0.65μm及び0.2μmの2層のフィルター)の2種類のフィルターを使用した。時間単位での時間に対するVmax容量(L/m)のプロット(図23を参照)は、経時的なVmax(商標)の減少を示し、これは時間の経過に伴う凝集または粒子の形成を示唆している。時間の増加は濁度の増加も示した。この濁度の増加と濾過容量の減少は、フィルターを詰まらせる経時的な宿主細胞由来タンパク質または薬液の析出に起因する可能性がある。
【0197】
9.2 タンパク質存在量の定量
濁度の増加及び濾過容量の減少の原因を明らかにするために、mAb2(pI:約6.3)のCCFを、pH5.60~6.10で0、24、48及び72時間、前濾過でインキュベートした。各時点のインキュベートしたCCF液を、LifeASSURE(商標)フィルター(それぞれ0.65μm及び0.2μmの2層のフィルター)を使用して濾過した。
【0198】
経時的に析出したタンパク質が何であるかを評価するために、フィルターを切り開き、4mmのディスクを分析した(図24を参照)。切断したフィルターを8Mの尿素及び10mMのTCEP-HClに浸し、50℃で30分間インキュベートして、切断したフィルター上のタンパク質を溶解、変性、及び還元した。次いで、サンプルを10mMのインドール-3-酢酸(IAA)と共にRTで30分間インキュベートした。インキュベートしたサンプルを変性条件下で1μgのrLysCを用いて1時間消化した後、Tris-HClで希釈した。この混合物に1μgのトリプシンを添加し、消化を3時間継続した。その後、消化混合物を20%ギ酸(FA)を用いて酸性にした後、ナノLC-MS/MS分析を行った。タンパク質の存在量は、特定のタンパク質に割り当てられた上位3つのペプチドイオンの質量分析シグナルの存在量の平均に基づいた。
【0199】
合計2366個の定量可能なタンパク質が、mAb2のCCFにおいて同定された。同定されたタンパク質から、1880個のタンパク質が追加の分析に組み込まれた(486個のタンパク質は、タンパク質あたり2個未満の固有のペプチドを示したため除外した)。最も多く含まれるタンパク質はmAb2であった。フィルター上のmAb2の存在量は経時的に変化しなかった(図25及び表13を参照)。
【0200】
【表13】
【0201】
mAb2 LCの平均存在量を1E6に設定し、他のタンパク質の存在量をHCPペプチド質量分析計のピーク面積を使用して計算し、mAb2 LCの平均存在量に対して正規化した。最も多く含まれる上位50種のタンパク質(表14に記載)はフィルターを詰まらせる可能性が高いためこれらを詳細に調べた。
【0202】
【表14】
【0203】
時間に対するmAb2の相対存在量の並行プロットから、高存在量のHCPのいくつかが経時的に増加することが明らかになった(図26を参照)。
【0204】
インキュベートされたCCFフィルターに異なる時点で析出したHCPの量を理解するために、時間TにおけるHCPの存在量/T0におけるHCPの存在量対時間TにおけるmAb2LCの相対量(ppm)の比のバブルプロットが図27(T=0時間)、図28(T=24時間)、図29(T=48時間)、及び図30(T=72時間)に示されている。図28で見られるように、いくつかのHCP(例えば補体C1q腫瘍壊死、伸長因子1-ベータ、78kDaグルコース調節タンパク質、及び伸長因子1-デルタ様アイソフォーム1)は2倍よりも多く増加し、これは濾過容量の緩やかな減少と相関していた。48時間後には、多くのHCPが2倍よりも多く増加し、濾過容量の同様の有意な減少と相関していた(図29を参照)。72時間では、上位50種のHCPのほぼ全ての72時間における存在量が、0時間における存在量と比較して2倍よりも多く増加した(図30を参照)。9個のタンパク質形態では、上位50種のHCPは、0時間における存在量と比較して5倍よりも多く増加した(表14)。
【0205】
上位50種のHCPの中でも、フィブロネクチンは、72時間で4.6倍の増加を示し、最も高い分子量を有しており、最も可能性の高い濾過容量減少の原因であった。
【0206】
サブビジブル粒子または可視粒子は、濾過容量の低下を引き起こす可能性があり、サブビジブル粒子もしくは可視粒子の形成の根本的原因または濾過容量の低下の根本的原因を見つけることは、医薬品またはバイオプロセスにとって必要不可欠な場合がある。原因が特定された後、それを回避するための措置を講じることができる。本明細書に記載の方法は、可視粒子及びサブビジブル粒子の形成の根本的原因の特定を容易にすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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【配列表】
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