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特許7466560バインダーシステムのためのホルムアルデヒド捕捉剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】バインダーシステムのためのホルムアルデヒド捕捉剤
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/22 20060101AFI20240405BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20240405BHJP
   C08G 18/54 20060101ALI20240405BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20240405BHJP
   C08K 5/205 20060101ALI20240405BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
B22C1/22 B
C08L61/10
C08G18/54
C08K5/21
C08K5/205
C08K5/29
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021552637
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020056210
(87)【国際公開番号】W WO2020182724
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】102019106021.4
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591194322
【氏名又は名称】ヒュッテネス-アルベルトゥス ヒェーミッシェ ヴェルケ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【住所又は居所原語表記】Wiesenstrasse 23,D-40549 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】クローゼ アニカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンケルハウス ダニエル
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-517047(JP,A)
【文献】国際公開第2018/099887(WO,A1)
【文献】特表2019-535537(JP,A)
【文献】特開2008-183580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0126449(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0283116(US,A1)
【文献】特開2011-168686(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101524737(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00-3/02
C08L 61/10
C08G 18/54
C08K 5/21
C08K 5/205
C08K 5/29
A61L 9/00ー9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーシステムであって、
(i)次のものを含む、フェノール樹脂成分:
a)1種又は複数のフェノール樹脂
b)溶媒
(ここで、前記フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準にして、前記フェノール樹脂a)の濃度が、40%~60%である)
(ii)次のものを含むポリイソシアネート成分:
c)1種又は複数の、1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネート
(ここで、前記ポリイソシアネート成分(ii)の合計質量を基準にして、前記イソシアネートc)の濃度が、60%~100%である)
(iii)次のものを含むさらなる成分:
e)1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、
(ここで、前記成分(iii)の合計質量を基準にして、前記アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の合計濃度が、0.1%~100%である)
を含み、
ここで、成分(i)、(ii)、及び(iii)各々が、別々の容器の中に存在する、バインダーシステム。
【請求項2】
前記アミノ酸e)が、アラニン、グリシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、リン、トレオニン、シン、及びアルギニンらなる群から選択される、請求項1に記載のバインダーシステム。
【請求項3】
前記フェノール樹脂成分(i)において、
a)前記フェノール樹脂が、
- 非エーテル化末端メチロール基
及び/若しくは
- エーテル化末端メチロール基
を含むオルト,オルト’-縮合型レゾールであり、
並びに/又は
b)前記溶媒が
- C4~C6ジカルボン酸のジアルキルエステル、
- 飽和及び不飽和脂肪酸アルキルエステル、
- アルキレンカーボネート、
- カシューナッツシェル油、カシューナッツシェル油の複数の成分、及びカシューナッツシェル油の誘導体からなる群からの物質、
- 液状の炭化水素、
- アルキルシラン、アルキル/アルコキシシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン、アルキル/アルコキシシロキサン、及び式(I)のアルコキシシロキサン
の群からの化合物、
【化1】
[式中、nは、0~20の整数であり、且つ
それぞれのRは、他のRから独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基及び1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基の群から選択される]
並びに、それらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2のいずれか一項に記載のバインダーシステム。
【請求項4】
前記フェノール樹脂成分(i)がさらに、
g)分子状ホルムアルデヒド(0.1%未満の濃度)、
及び/又は
h)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物、及びこれらのβ-ジカルボニル化合物をホルムアルデヒドと反応させることにより形成される反応生成物、
及び/又は
i)前記フェノールの群からのモノマー性化合物(10%以下の濃度)、
(ここで、それらの濃度は、それぞれの場合において、フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準としたものである)、
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のバインダーシステム。
【請求項5】
前記ポリイソシアネート成分(ii)において、
c)1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネートが以下のものからなる群から選択され
- メチレンビス(フェニルイソシアネート)、
- ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、
- 脂肪族イソシアネート、
- 脂環族イソシアネート、
- 1分子あたり、少なくとも2個のイソシアネート基及び1個のカルボジイミド基を有するイソシアネート、
- 1分子あたり、少なくとも2個のイソシアネート基及びウレトンイミン基を有するイソシアネート、
及び/又は、前記ポリイソシアネート成分(ii)がさらに、
d)溶媒、
ここで前記溶媒が、好ましくは、以下のものからなる群から選択される:
- C4~C6ジカルボン酸のジアルキルエステル、
- 飽和及び不飽和脂肪酸アルキルエステル、
- アルキレンカーボネート、
- 液状の炭化水素、
- アルキルシラン、アルキル/アルコキシシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン、アルキル/アルコキシシロキサン、及び式(I)のアルコキシシロキサン
の群からの化合物、
【化2】
[式中、nは、0~20の整数であり、且つ
それぞれのRは、他のRから独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基及び1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基の群から選択される]
並びに、それらの混合物、
を含み、
及び/又は
前記ポリイソシアネート成分(ii)がさらに、
m)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物(ここで、前記β-ジカルボニル化合物の濃度が、前記ポリイソシアネート成分の合計質量を基準にして、1%~38%である)
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のバインダーシステム。
【請求項6】
成形物を製造するためのプロセスであって、前記プロセスが、
- 成形材料基材を、請求項1~5のいずれかに記載の、バインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)と混合することにより、成形材料混合物を製造するステップ、
- 前記成形材料混合物を成形するステップ、
- 前記成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させて、成形物を形成するステップ
を含む、プロセス。
【請求項7】
前記成形材料混合物が、
- 前記バインダーシステムの成分(i)及び(ii)を、前記バインダーシステムの成分(i)及び(ii)の合計濃度が、前記成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.6%~14%になるように、計量仕込みするか、
及び/又は
- 前記バインダーシステムの成分(i)及び(ii)を、前記イソシアネートc)の中のイソシアネート基の、前記フェノール樹脂a)の中のヒドロキシル基に対する化学量論比が、0.5~1.5の範囲に入るように、計量仕込みするか、
及び/又は
- 前記バインダーシステムの成分(iii)を、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の合計量が、前記成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.1%~5.0%となるように、計量仕込みする、
ことによって製造される、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
成分(iii)と共に前記成形材料混合物の中に導入される、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される前記物質e)の濃度が、前記フェノール樹脂成分(i)と共に前記成形材料混合物の中に導入される分子状ホルムアルデヒドg)の量に対して、過剰モルである、請求項又はに記載のプロセス。
【請求項9】
前記バインダーシステムが、前記成形された成形材料混合物を、
- ガス状の第三級アミン、若しくは2種以上のガス状の第三級アミンの混合物、
又は
- 液状の第三級アミン、若しくは2種以上の液状の第三級アミンの混合物、
と接触させることによって、前記成形された成形材料混合物の中で硬化される、請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
- 成形材料基材を、請求項1~5のいずれかに記載のバインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)と混合することにより、成形材料混合物を製造し、前記成形材料混合物を成形し、そして前記成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させて成形物を得るテップ、
- キャリヤー液体の中に分散された1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物を前記成形物に塗布して、その表面に前記コーティング組成物を備えた領域を有する、コーティングされた成形物を形成させるステップ、
- 前記コーティングされた成形物を、50℃~200℃の範囲の温度で加熱処理して、その表面に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配された領域を有する、鋳造用型及び鋳造用中子からなる群からの物品を形成させるステップ、
を含む、請求項のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1~5のいずれかに記載のバインダーシステム製造するための、
e)アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、
の使用。
【請求項12】
不揮発性の反応生成物を形成させることによる、熱負荷の下で成形物から放出される前記分子状ホルムアルデヒドを結合するための、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質の使用であって、前記成形物が、請求項1~5のいずれかに記載のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーシステム、より具体的には、ポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスからなる群からのプロセスにおいて使用することを目的としたバインダーシステム;このバインダーシステムを含む成形材料混合物;その中で本発明のバインダーシステムが使用されるプロセス;並びに鋳造用型(foundry mold)及び鋳造用中子(foundry core)からなる群からの物品;に関する。本発明はさらに、本発明のバインダーシステムを製造するためのアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、そしてそれぞれの本発明の成形材料混合物の使用、さらには、鋳造用型、鋳造用中子、及び押湯(feeder)からなる群からの物品を製造するための、本発明のバインダーシステム又は本発明の成形材料混合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
押湯、鋳造用型、及び鋳造用中子の製造において、その成形材料基材は多くの場合、バインダーシステムを使用して結合されるが、それらは、常温硬化して、ポリウレタンを形成する。それらのバインダーシステムには以下の二成分が含まれる:その分子の中に少なくとも2個のOH基を有するポリオール(通常は溶媒中の溶液の形態)(ポリオール成分)、及びその分子の中に少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート(溶媒中の溶液、又は無溶媒の形態)(ポリイソシアネート成分)。そのポリオール成分は、通常、溶媒中の溶液の形態にあるフェノール樹脂である。したがって、そのポリオール成分は、以後においては、フェノール樹脂成分と呼ぶ。それら2種のバインダー成分は、成形材料混合物を製造するための成形材料基材に添加され、混合され、成形された成形材料混合物の中で、重付加反応により反応して、ポリウレタンバインダーを与える。この場合、そのバインダーシステムは、塩基性触媒(好ましくは第三級アミンの形態にある)の存在下に硬化されるが、それらの触媒は、成形材料混合物が成形された後で、キャリヤーガスを用いて型の中に導入される(ポリウレタンコールドボックスプロセス)か、又は、成形材料混合物が成形されるより前に溶液として添加される(ポリウレタンノーベークプロセス)。このタイプのバインダーシステムは、たとえば、特許出願の、国際公開第2017/153474A1号パンフレット及び国際公開第2016/165916A1号パンフレットに記載されている。
【0003】
フェノール-ホルムアルデヒド樹脂を加工する場合、ホルムアルデヒドの放出を完全に回避することは不可能である。フェノール-ホルムアルデヒド樹脂の加工に伴うこれらの放出、並びに、ポリウレタンコールドボックスプロセス又はポリウレタンノーベークプロセスで製造される押湯、鋳造用中子、及び鋳造用型からのホルムアルデヒドの蒸発及びガス放出は、かなりの作業場汚染をもたらし、これは、通常、ヒュームフードなどのような防護手段では、十分に捕捉することができない。
【0004】
そのような押湯、鋳造用中子、及び鋳造用型からのホルムアルデヒドの放出は、高温では、特に促進される。ポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスにおいては、熱を供給することなく、バインダーシステムが硬化されるというのは事実である。しかしながら、押湯、鋳造用中子、及び鋳造用型を金属鋳込みの中で使用するという、広く実施されている条件では、常に、ホルムアルデヒドの放出が存在する。
【0005】
独国特許出願公開第102 44 442A1号明細書には、少なくとも1種のホルマール、並びにたとえば低温滑沢剤、燃料、ワニス、分散体、又は水性ペイント/インキを保存することを目的とした、尿素及びアミノ酸を含む成分から選択される少なくとも1種の放出-抑制性添加剤を含む、アルデヒドの放出低減能を有する保存剤が開示されている。独国特許出願公開第102 44 442A1号明細書は、本出願の技術分野からは極めてはるかに取り残された分野に関するものである。
【0006】
独国特許第23 49 598B号明細書には、加熱硬化成形組成物において、より具体的にはマスク成形プロセスによる鋳造成形組成物において使用するための、フェノール-ホルムアルデヒド縮合物(任意選択によりレゾール及び変性剤を添加し、そして硬化剤を含む)をベースとするバインダーが開示されているが、それは、そのフェノール-ホルムアルデヒド縮合物には、追加の量のアミノカルボン酸が含まれていることを特徴としている。そのアミノ酸は、フェノール-ホルムアルデヒド縮合物そのものを調製する際に添加され、そのため、そのアミノ酸は、「縮合される」形で、別の言い方をすれば、フェノール-ホルムアルデヒド縮合物の内部に、組みこまれている。したがって、押湯、鋳造用中子、及び鋳造用型の製造の際に、そのアミノ酸はもはや、ホルムアルデヒド捕捉剤として利用されることはない(或いは、極めて限られた量でしか利用されない)。独国特許第23 49 598B号明細書において、バインダーにアミノ酸を添加する目的は、そのバインダーの水溶解性を改良することなのである。独国特許第23 49 598B号明細書の開示においては、ホルムアルデヒドの放出を抑制することは、その役目ではない。
【0007】
ある種の場合においては、押湯、鋳造用中子、及び鋳造用型の製造には、バインダーシステムを硬化させるステップより下流に、ポリウレタンコールドボックスプロセス又はポリウレタンノーベークプロセスにおいて製造された成形物を高温に曝露させるステップが含まれる。
【0008】
鉄及び鋼の鋳込みにおいては、特に、その表面に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配置された領域を有する、鋳造用型及び鋳造用中子を使用するのが好ましい。このコーティングが、鋳込みの際に金属の溶融物と接触状態となる型又は中子の表面を形成している。このタイプのコーティングは、一般的に、レフラクトリーコーティング、又はレフラクトリーコーティングをベースとするコーティングと呼ばれている。このコーティングは、鋳込み金属に関して、境界層及び/又はバリヤー層として機能し、金属と中子又は型との間の界面で鋳込み欠陥が生成するメカニズムを抑制するため、及び/又は冶金学的効果の利用を調節するためなどを含む目的で使用される。一般的に言って、鋳造技術におけるレフラクトリーコーティングは、具体的には、以下の目的を達成するためであり、このことは、当業者には公知である:
- 鋳込み表面の平滑度を改良するため、及び/又は;
- 成形材料混合物の成分と金属の溶融物との間の化学反応を防止して、型/中子と鋳込み物との間の分離を容易とするため、及び/又は
- 鋳込み物の表面欠陥、たとえば気泡、貫入、線条、及び/又は膨れを防止するため。
【0009】
鋳造用型及び鋳造用中子のためのコーティングを製造するための調合済み組成物(一般的に、当該技術分野では、レフラクトリーコーティング組成物と呼ばれている)は、通常、キャリヤー液体(たとえば、水、アルカノール、又は水と1種又は複数のアルカノールとの混合物)の中の、微粒子で、耐火性若しくは高度に耐火性の無機物質(耐火物)の懸濁液であり、多くの場合、そのキャリヤー液体の溶液又は懸濁液の中にさらなる成分を含んでいる。鋳造用型又は鋳造用中子を製造するためには、そのレフラクトリーコーティング組成物を、鋳型の相当する表面領域に塗布し、次いで、そのキャリヤー液体を加熱処理により除去して、コーティングを形成させる。そのキャリヤー液体は、一般的には40℃より高い温度、好ましくは50℃~200℃の範囲の温度で除去される。これらの温度では、硬化してポリウレタンを形成させるバインダーシステムを含む成形材料混合物から製造された成形物が、顕著な量のホルムアルデヒドを放出する。そのような放出は、かなりの作業場汚染をもたらす。
【0010】
本発明が低減させようとしているホルムアルデヒドの放出の原因としては、具体的には、次の二つの放出源が挙げられる:
- 分子状ホルムアルデヒド(すなわち、フェノール樹脂に結合されていないホルムアルデヒド)、これは、フェノール樹脂成分(i)と共に、成形材料混合物の中に持ち込まれる;
- 押湯、鋳造用中子、及び鋳造用型を熱曝露させることによる、バインダー(フェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂、及びポリイソシアネート成分(ii)のポリイソシアネート)から形成されたポリウレタン)の少なくとも部分的な分解の結果として放出される、ホルムアルデヒド。
【0011】
本発明は、それら両方の放出源からのホルムアルデヒドの放出を低減させる方法及び手段を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、具体的には(これらに限定される訳ではない)、フェノール樹脂成分及びポリイソシアネート成分を含むバインダーシステムを有する成形材料混合物から製造された、押湯、鋳造用中子、及び鋳造用型から放出されるホルムアルデヒドの放出を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、本発明の第一の態様において、バインダーシステム、より具体的には、ポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスからなる群からのプロセスにおいて使用することを目的としたバインダーシステムによって達成されるが、そのバインダーシステムには、以下のものが含まれる:
(i)次のものを含む、フェノール樹脂成分:
a)1種又は複数のフェノール樹脂
b)溶媒
(ここで、そのフェノール樹脂a)の濃度は、フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準にして、40%~60%、好ましくは45%~60%、より好ましくは48%~55%である);
(ii)次のものを含むポリイソシアネート成分:
c)1種又は複数の、1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネート
d)任意選択により溶媒
(ここで、そのイソシアネートc)の濃度は、ポリイソシアネート成分(ii)の合計質量を基準にして、60%~100%、好ましくは70%~98%、より好ましくは75%~95%である);
(iii)次のものを含むさらなる成分:
e)1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質
ここで、成分(i)、(ii)、及び(iii)が、互いに、空間的に分離されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のバインダーシステムは、好ましくは、以下のものからなっている:
(i)上で定義された、フェノール樹脂成分(より具体的には、以下で述べる好ましい実施態様の一つ)、及び
(ii)それらから分離され、そして上で定義されたポリイソシアネート成分(より具体的には、以下で述べる好ましい実施態様の一つ)、及び
(iii)次のものを含むさらなる成分:
e)上で定義された、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質。
【0015】
本発明のバインダーシステムは、より好ましくは、以下のものを含むか、又はそれらからなっている:
(i)上で定義された、フェノール樹脂成分、及び
(ii)それらから分離され、そして上で定義されたポリイソシアネート成分、及び
(iii)グリシンを含むか、又はそれからなる、さらなる成分。
【0016】
本発明のバインダーシステムにおいては、そのポリイソシアネート成分(ii)の中のイソシアネート基の、そのフェノール樹脂成分(i)の中のヒドロキシル基に対する化学量論比は、好ましくは0.5~1.5の範囲、さらに好ましくは0.6~1.4の範囲、より好ましくは0.7~1.3の範囲、特に好ましくは0.8~1.2の範囲、極めて特に好ましくは0.9~1.1の範囲、特別に好ましくは0.95~1.05の範囲である。そのポリイソシアネート成分(ii)の中のイソシアネート基の、そのフェノール樹脂成分(i)の中のヒドロキシル基に対する化学量論比が1に近いのが好ましくはあるものの、ヒドロキシル基に対してイソシアネート基が過剰に存在するのが有利である場合や、イソシアネート基に対してヒドロキシル基が過剰に存在するのが有利である場合もある。
【0017】
本発明のバインダーシステムにおいては、フェノール樹脂成分(i)、ポリイソシアネート成分(ii)、及びさらなる成分(iii)が、相互に分離されている、すなわち、それらが別々の容器の中にある。フェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂と、ポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートとの間の付加反応(ポリウレタン生成反応)は、それら二つの成分(i)及び(ii)が、成形材料混合物の中で、成形材料基材及び任意選択により、製造される成形材料混合物のさらなる成分と共に混合され、そしてその成形材料混合物が成形されるまでには、起きてはならない。
【0018】
アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)は、ホルムアルデヒドとの反応を介して分子状ホルムアルデヒドと結合して、不揮発性の反応生成物を形成することが可能となる;すなわち、それらが、ホルムアルデヒド捕捉剤として機能する。得られる反応生成物の構造は、当業者には公知である。アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の反応においては、アミノ酸/尿素のアミノ基が、メチロール化反応をする。尿素の場合においては、この反応は、次のように進行する:
【化1】
【0019】
物質e)として、尿素の場合には、特に熱に曝露させたときには、メチレン基の生成を伴う縮合反応を介した鎖の伸長が可能となる:
【化2】
【0020】
この場合において形成される反応生成物が、さらなる縮合反応に与って、そのため長鎖で、可能であれば、ホルムアルデヒド-尿素樹脂に似た構造を有する架橋した樹脂状の反応生成物を形成することが可能である。
【0021】
いかなる特定な理論に拘束されることもなく、現在のところ、次のように考えている:本発明においては、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群からの物質e)とホルムアルデヒドとの反応において、フェノール環を含まない反応生成物を形成するが、その理由は、アミノ酸及び尿素からなる群からの物質e)は、成形材料混合物の製造の段階で初めて本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)と遭遇するからである。この時点においては、本発明のバインダーのフェノール樹脂成分(i)の中では、フェノールとホルムアルデヒドとの間での縮合反応は、すでに完結してしまっている。これが、独国特許第23 49 598B号明細書における手順との重要な違いであるが、その理由は、その場合においては、アミノ酸が、フェノール-ホルムアルデヒド縮合物(フェノール樹脂)そのものを調製している途中に添加され、そのため、そのフェノール-ホルムアルデヒド縮合物の中に(「縮合される」ことによって)組みこまれるからである。
【0022】
本発明のバインダーシステムの成分(iii)の中にはホルムアルデヒドが存在しないので、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)とホルムアルデヒドとの上述の反応は、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)の中に存在するアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)が、分子状ホルムアルデヒドと接触した場合にのみ起きる。これは、たとえば、成形材料混合物の製造において、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)が、顕著な濃度の分子状ホルムアルデヒドを含むフェノール樹脂成分(i)と組み合わさったとき(詳細は後述)、又はそのような成形材料混合物から製造された成形物が熱曝露にかけられたときの状況である。驚くべきことには、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)が、ホルムアルデヒドの放出を極めて効果的に低減させることができるということが見出された。別の言い方をすれば、固体の形態にある物質e)とガス状のホルムアルデヒドとの間の反応が、驚くべきことには、極めて高効率である。
【0023】
ある種の場合においては、本発明では、そのフェノール樹脂成分(i)が、極めて低濃度の分子状ホルムアルデヒドを有するバインダーシステムを使用することによって成形物を製造すること(詳細は後述)、並びにポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスからなる群からのプロセスによって、熱を加えることなく、そのバインダーシステムを硬化させること(詳細は後述)が、好ましいというのは事実である。しかしながら、そのようにして製造された成形物であってさえも、時間の経過と共に、特に熱曝露の条件下では、ホルムアルデヒドを放出する傾向を有している。このホルムアルデヒドは、本発明においては、バインダーシステムの成分(iii)の中に存在しているアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質との反応によって結合されて、不揮発性の反応生成物を形成し、それによって、ホルムアルデヒドの放出が抑制される。
【0024】
そのアミノ酸e)は、好ましくは、アラニン、グリシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、メチオニン、セリン、トレオニン、チロシン、リシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から、より好ましくは、グリシン、グルタミン、アラニン、バリン、及びセリンからなる群からからなる群から選択される。グリシンが特に好ましい。
【0025】
成分(iii)の中のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の合計濃度は、それぞれの場合において、成分(iii)の合計質量を基準にして、0.1%~10%、好ましくは10%~80%、より好ましくは15%~60%であるのが好ましい。
【0026】
本発明において好ましい、第一の実施態様においては、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)が、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)からなっている。
【0027】
第二の実施態様においては、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)が、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)を含むだけではなく、さらに1種又は複数の、25℃、101.325kPaで固体の形態にある、さらなる成分を含む。たとえば、成分(iii)が、
e)1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、好ましくはグリシンを含むだけではなく、
f)1種又は複数の、酸化鉄、デンプン、トウモロコシの穂軸の顆粒、木粉、成形材料基材(たとえば、石英)、グラファイト、酸化マグネシウム、及びスポンジューメンからなる群からのさらなる成分も、含んでいる。
【0028】
したがって、この第二の実施態様においては、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)は、上述の成分e)及びf)を含むか、又は上述の成分e)及びf)からなる混合物である。
【0029】
本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)のさらなる成分f)は、通常、慣用される成形材料混合物の成分(たとえば成形材料基材)、及び成形材料混合物で慣用される添加剤混合物、たとえば鋳込み欠陥を防止するための、慣用される添加剤混合物の成分から選択される。これらのタイプの添加剤混合物は、当業者には公知である。
【0030】
たとえば、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)は、以下のものを含むか、又はそれらからなる混合物である:
e)1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、好ましくはグリシン、
f)1種又は複数の、製造される成形材料混合物の中に存在する成分、たとえば成形材料基材。
【0031】
1種又は複数の、製造される成形材料混合物、たとえば成形材料基材の中にも存在しているさらなる成分f)との混合物の成分としてのアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)を添加することによって、その成形材料混合物を製造する際の、成分(iii)の計量及び混合による組込みが、より容易となる。適切な成形材料基材に関しては、本発明の第二の態様の文脈における観察を参照されたい。
【0032】
たとえば、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)は、以下のものを含むか、又はそれらからなる混合物である:
e)1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、好ましくはグリシン、
f)1種又は複数の、酸化鉄、デンプン、トウモロコシの穂軸の顆粒、木粉、グラファイト、酸化マグネシウム、石英、及びスポンジューメンからなる群から選択される、成形材料混合物のための慣用される添加剤混合物の成分。
【0033】
成形材料混合物のための慣用される添加剤混合物の成分との混合物の成分として、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)を添加することによって、成形材料混合物を製造する際の、成分(iii)の計量及び混合による組込みが、より容易となり、そして、その成形材料混合物を製造する場合の、相互に組み合わされる成分の数が低減される。
【0034】
アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)も含めて、25℃、101.325kPaで固体の形態で存在する成分の割合は、成分(iii)の合計質量を基準にして、好ましくは50%~100%、より好ましくは75%~100%、極めて好ましくは85%~100%である。成分(iii)には、固体又は均一な固体混合物、より具体的には、粉体の形態又は顆粒の形態にあるものが含まれているのが好ましい。ダスチングを防止する目的で、ある種の場合においては、成分(iii)に、同様に25℃、101.325kPaで、液体の形態で存在している成分を、少しの割合で含んでいるのが好ましい。たとえば、成分(iii)の固体の成分を、そのバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の組成物に相当する液体組成物と混合してもよい。25℃、101.325kPaで液体の形態で存在している成分(iii)の成分の割合は、成分(iii)の合計質量を基準にして、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、極めて好ましくは5%以下、さらには1%以下である。
【0035】
バインダーシステム、より具体的には、ポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスからなる群からのプロセスにおいて使用することを目的とするバインダーシステムのためのフェノール樹脂成分(i)は、従来技術から公知である。
【0036】
フェノール樹脂a)は、1種又は複数の、一般式(II)のフェノールモノマーと、
【化3】
1種又は複数の、一般式R’CHO(ここで、R’は、水素原子又は1~8個の炭素原子を有するアルキル基である)のアルデヒドとの縮合物である。式(II)において、A、B、及びCは、相互に独立して、水素、16個以下の炭素原子を有する不飽和脂肪族基、及び16個以下の炭素原子を有する飽和脂肪族基からなる群から選択される。この場合の脂肪族基は、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、オクチル、及びノニルからなる群からのもの、又はアルケニル基、より好ましくはペンタデセニル、ペンタデカジエニル、及びペンタデカトリエニルからなる群からのものである。好ましい、式(II)のフェノールモノマーは、その中で、置換基A、B、及びCの少なくとも1個、好ましくは置換基A、B、及びCの2個、又は置換基A、B、及びCの全部が水素であるようなものである。
【0037】
フェノール樹脂の製造に適し、式(II)の範囲に入るフェノールモノマーとしては、たとえば、以下のものが挙げられる:フェノール(ヒドロキシベンゼン、C65OH)、アルキルフェノールたとえば、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、並びにさらには、カルダノール(式(II)の化合物で、A及びCが水素であり、Bが、脂肪族、非分岐状のアルキル、又は15個の炭素原子、及び0、1、2又は3個の二重結合を有するアルケニル基であるものの呼称)。
【0038】
フェノール(ヒドロキシベンゼン、C65OH)、o-クレゾール、カルダノール及びそれらの混合物が、フェノール樹脂を調製するのに好ましいフェノールモノマーである。フェノール樹脂を調製するのに好ましいアルデヒドは、ホルムアルデヒドであるが、それは、パラホルムアルデヒドの形態で使用することも可能である。ホルムアルデヒドは、単独のアルデヒドとしても使用できるし、或いは、1種又は複数のさらなるアルデヒドとの組合せで使用することもできる。
【0039】
本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)には、好ましくは、オルト縮合型のレゾールの形態にあるフェノール樹脂a)が含まれる。「オルト縮合型の(ortho-fused)レゾール」という用語は、その分子に、次のものが含まれているフェノール樹脂を指す:
- フェノールモノマーで構成され、そしてオルト,オルト’位でのメチレンエーテルブリッジによって結合された芳香族環、
- 及びオルト位に配された末端メチロール基(その末端メチロール基は、エーテル化されていてもよい)。
【0040】
「オルト」又は「オルト’」という用語は、フェノールのヒドロキシル基に対して、それぞれ、オルト位又はオルト’位を指している。この場合、本発明において好適に使用されるオルト縮合型のレゾールの分子において、メチレン基で結合された芳香族環(さらには、メチレンエーテルブリッジで結合された芳香族環)が存在するということは、不可能ではない。本発明において好適に使用されるオルト縮合型のレゾールの分子において、オルト位に末端水素原子又は末端メチル基(o-クレゾールが追加の反応物として使用された場合;下記参照)(さらには、オルト位に末端メチロール基)がさらに存在するということもまた、不可能ではない。これらの場合において、本発明において好適に使用されるオルト縮合型のレゾールの分子の中での、メチレンエーテルブリッジ対メチレンブリッジの比率は、1:1又はそれ以上であり、且つ(オルト位にある末端メチロール基)対(オルト位にある末端水素原子及び/又は末端メチル基)の比率が、同様に、1:1又はそれ以上である。これらのタイプのフェノール樹脂はさらに、ベンジルエーテル樹脂とも呼ばれる。そのようなオルト縮合型のレゾールの構造は、一般式(III)によって表される:
【化4】
【0041】
式(III)において、
- Xは、水素、メチル基のCH3、メチロール基のCH2OH、及びエーテル化メチロール基からなる群から選択されるが、ここで、好ましくは、基Xの少なくとも1個が、メチロール基のCH2OH又はエーテル化メチロール基であり、
- Rは、フェノール性ヒドロキシル基に対してメタ位若しくはパラ位にある、水素、又は置換基、好ましくは、メチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、オクチル、ノニル、ペンタデセニル、ペンタデカジエニル、及びペンタデカトリエニルからなる群からの置換基であり、
- mは、1、又は1より大の整数、好ましくは1~10の整数であり、
- (m+1)個の基(IIIa)のそれぞれに対するnは、
【化5】
独立して0及び1から選択されるが、ここで、n=1である基(IIIa)の数が、n=0である基(IIIa)の数より大きいか、又はn=1である基(IIIa)の数が、n=0である基(IIIa)の数に等しい。
【0042】
当業者の一般的な理解に従えば、「オルト縮合型のレゾール(ortho-fused resole)」又は「オルト縮合型のフェノール性レゾール(ortho-fused phenolic resole)」(別な言い方として、オルト縮合型フェノール性レゾール(ortho-condensed phenolic resole))には、次のテキストブックに開示されている化合物が包含される:「Phenolic Resins:A century of progress」:(編集者:L.Pilato、出版社:Springer、出版年:2010)、特にはp.477、図18.22。その用語にはさらに、VDGデータシートR 305「Urethane cold-box process」(1998年2月)の3.1.1で特定される、「ベンジルエーテル樹脂(オルト-フェノールレゾール)」も含まれる。その用語には、さらに、欧州特許第1 057 554B1号明細書、特にその中のパラグラフ[0004]~[0006]に開示されている、「ベンジルエーテル樹脂タイプのフェノール樹脂」も包含される。
【0043】
オルト縮合型のレゾールは、ヒドロキシル基に対して、オルト位及びオルト’位に水素を有するフェノールモノマーを、過剰モルのホルムアルデヒドと重縮合させることにより、得ることができる。ヒドロキシル基に対して、オルト位及びオルト’位に水素を有するフェノールモノマーに加えて、さらなるフェノールモノマーとして、o-クレゾールを使用してもよい。ホルムアルデヒドとフェノールモノマーとを、1:1超から2:1まで、好ましくは1.2:1から1.5:1までのモル比で、液相中、典型的には130℃未満の温度で、弱酸性媒体中、二価の金属イオン(好ましくはZn2+)触媒を使用して、反応させるのが好ましい。オルト縮合型のレゾール又はベンジルエーテル樹脂の調製は、従来技術から公知であり、特に、欧州特許第1 057 554B1号明細書を参照されたい。
【0044】
そのフェノール樹脂a)は、以下のものを含むオルト縮合型のレゾールであるのが好ましい:
- 末端非エーテル化メチロール基の-CH2OH
及び/又は
- 末端エーテル化メチロール基の-CH2OZ、ここでZは、
- 1~12個の炭素原子を有する直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であるか、
- 7~9個の炭素原子を有するアラルキル基、若しくはフルフリル基であるか、又は、
- 式(IV)の構造を有する基
【化6】
[式(IV)において、nは、0~20、好ましくは0~4の整数であり、
そしてそれぞれのRは、他のRから独立して、以下のものからなる群から選択され:ヒドロキシル基、1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基(好ましくはエトキシ、プロポキシ、又はブトキシ基)]、並びに式(IIIb)のレゾール構造を有する基、
【化7】
[(式(IIIb)においては、
- Xは、水素、又はメチル基、又はメチロール基のCH2OHであり、
- Rは、フェノール性ヒドロキシル基に対してメタ位若しくはパラ位にある、水素、又は置換基、好ましくは、メチル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、オクチル、ノニル、ペンタデセニル、ペンタデカジエニル、及びペンタデカトリエニルからなる群からの置換基であり、
- mは、1、又は1より大の整数、好ましくは1~10の整数であり、
- (m+1)個の基(IIIa)のそれぞれに対するnは、
【化8】
独立して0及び1から選択されるが、ここで、n=1である基(IIIa)の数が、n=0である基(IIIa)の数より大きいか、又はn=1である基(IIIa)の数が、n=0である基(IIIa)の数に等しい]。
【0045】
式(IV)において、基Rの一つだけが、先に説明したような式(IIIb)のレゾール構造を有しているか、又は基Rが、そのレゾール構造を有していないのが好ましい。
【0046】
先に説明したようなエーテル化末端メチロール基においては、その非エーテル化末端メチロール基の-CH2OHの中の酸素原子に結合された水素原子が、基Zで置換される。
【0047】
この場合において、(上に示したような)第一の好ましい代替法においては、Zが、1~12個の炭素原子を有する直鎖状若しくは分岐状のアルキル基である、すなわち、基-CH2OZが、アルコキシメチレン基である。ここで好ましいのは、1~9個の炭素原子を有する、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、及びエチルヘキシルからなる群からの、アルキル基である。これらのタイプの樹脂は、オルト縮合型のレゾールの非エーテル化末端メチロール基の-CH2OHのヒドロキシル基を、第一級、第二級、又は第三級のアルカノール、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、及びエチルヘキシルアルコールと反応させることによって、調製することができる。
【0048】
(上に示したような)第二の好ましい代替法においては、Zが、5~9個の炭素原子を有する、直鎖状若しくは分岐状のアリールアルキル基(アリール基によって置換されたアルキル基)、又はフルフリル基である。この場合の好ましい基Rは、ベンジル及びフルフリルである。これらのタイプの樹脂は、オルト縮合型のレゾールの非エーテル化末端メチロール基の-CH2OHのヒドロキシル基を、フルフリルアルコール又はアラルキルアルコール、たとえば、ベンジルアルコールと反応させることによって、調製することができる。
【0049】
さらなる好ましい代替法においては、そのオルト縮合型のレゾールのエーテル化末端メチロール基の基Zが、先に説明したような式(IV)の構造を有している。この場合好ましくは、式(IV)において、n=0であり、基Rの一つが、式(IIIb)のレゾール構造を有し、そして他の基がエトキシ基であるか、又は式(IV)の中の基Rが全部、エトキシ基である。これらのタイプのレゾールは、オルト縮合型のレゾールの非エーテル化ヒドロキシル基(すなわち、非エーテル化末端メチロール基のCH2OHのヒドロキシル基)を、オルトケイ酸のエステルと反応させることによって、調製することができる。詳しくは、特許出願の国際公開第2009/130335号パンフレットを参照されたい。
【0050】
フェノール樹脂a)において、末端メチロール基CH2OHの、エーテル化末端メチロール基CH2OZに対する比率は、好ましくは1より大、より好ましくは2より大、さらに好ましくは4より大、特に好ましくは10より大である。この場合において、この比率の記述は、個々のレゾール分子の末端メチル基に関するのではなく、そのフェノール樹脂成分(i)の中の全部のレゾール分子の、末端(エーテル化及び非エーテル化の)メチロール基のすべてに関連すると理解されたい。この場合、レゾールa)は、2個のエーテル化末端メチロール基を有するレゾール分子、1個のエーテル化末端メチロール基を有するレゾール分子、1個の非エーテル化末端メチロール基を有するレゾール分子、及び2個の非エーテル化末端メチロール基を有するレゾール分子の、所望の比率での混合物である。
【0051】
用語としての溶媒b)には、溶媒活性を有する個々の化合物、及び溶媒活性を有する異なった化合物の混合物の両方が含まれる。その溶媒b)は、その中で、フェノール樹脂成分(i)の成分a)及び各種のさらなる成分(それらが固体である場合)を溶液状態にする液体、並びに、それと、フェノール樹脂成分(i)の成分a)及び各種のさらなる成分(それらが液体である場合)とが混和性あるような液体であって、それにより、そのフェノール樹脂成分が単一の液相を構成する。溶媒b)は、具体的には、フェノール樹脂成分(i)の粘度を調節して、成形材料基材との混合をより容易とするのに役立つ。
【0052】
フェノール樹脂成分(i)の溶媒b)は、好ましくは以下のもからなる群から選択される:
- C4~C6ジカルボン酸のジアルキルエステル(当該技術分野では、多くの場合、「二塩基酸エステル」と呼ばれている)、好ましくは、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルからなる群からのもの、
- 飽和及び不飽和脂肪酸のアルキルエステル、好ましくは植物油アルキルエステル、好ましくはナタネ油メチルエステル、トール油メチルエステル、トール油ブチルエステル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、及びミリスチン酸イソブチルからなる群からのもの、
- アルキレンカーボネート、好ましくはプロピレンカーボネート、
- カシューナッツシェル油、カシューナッツシェル油の成分、及びのカシューナッツシェル油誘導体、好ましくはカルドール、カルダノール、並びにそれらの化合物の誘導体及びオリゴマーからなる群の物質、
- 25℃、101.325kPaで液状である炭化水素、好ましくはシクロアルカン、6~22個の炭素原子を有するアルカン、及び芳香族炭化水素からなる群からのもの(ここでその芳香族炭化水素は、好ましくは、アルキルベンゼン、アルケニルベンゼン、ジアルキルナフタレン、ジアルケニルナフタレンからなる群から選択される)、
- アルキルシラン、アルキル/アルコキシシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン、アルキル/アルコキシシロキサン、及び式(I)のアルコキシシロキサン
の群からの化合物、
【化9】
[式(I)の中のnは、0~20の整数であり、且つ
それぞれのRは、他のRから独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基及び1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基の群から選択される]
並びに、それらの混合物。
【0053】
その中でn=0であり、且つ全部の基Rがアルキル基である、式(I)の化合物は、アルキルシランである。その中でn=0であり、且つ全部の基Rがアルコキシキル基である、式(I)の化合物は、アルコキシシランである(アルキルシリケートとも呼ばれる)。その中でn=0であり、且つ1個又は複数の基Rがアルキル基であり、残りの基Rがアルコキシ基である、式(I)の化合物は、アルキル/アルコキシシランである。その中でn>0であり、且つ全部の基Rがアルキル基である、式(I)の化合物は、アルキルシロキサンである。その中でn>0であり、且つ全部の基Rがアルコキシ基である、式(I)の化合物は、アルコキシシロキサンである。その中でn>0であり、且つ1個又は複数の基Rがアルキル基であり、残りの基Rがアルコキシ基である、式(I)の化合物は、アルキル/アルコキシシロキサンである。好ましい式(I)の化合物は、アルコキシシラン(アルキルシリケート)(すなわち、式(I)において、n=0)及びアルコキシシロキサン(アルキルシリケートオリゴマー)(その中で、nが、2~5の整数であり、ここでそのアルコキシ基が、好ましくは、エトキシ、プロポキシ又はブトキシ基である)である。特に好ましいのは、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)及びエトキシシロキサン(その中で、nが、2~5の整数である)である。
【0054】
「炭化水素」という用語は、化学の分野で慣用される意味合いに従って、炭素と水素のみからなる有機化合物を表す。
【0055】
特に好ましいフェノール樹脂成分(i)は、以下のようなものである:
a)そのフェノール樹脂が、先に説明したようなオルト縮合型のレゾールの群から選択される、そして
b)その溶媒が、先に説明した好ましい溶媒の群から選択される。
【0056】
本発明のバインダーシステムの一つの特に好ましい実施態様においては、そのフェノール樹脂成分(i)に、以下のものが含まれる:
a)オルト縮合型のレゾール(その分子は、それぞれ、以下の構造的特徴を有している):
- フェノールモノマーで構成され、そしてオルト,オルト’位でのメチレンエーテルブリッジによって結合された芳香族環、
- 末端メチロール基の-CH2OH及び/又は末端アルコキシメチレン基の-CH2OZ(式中、Zは、1~12個の炭素原子を有するヒドロカルビル基である)
- 1分子あたり6個の炭素原子の、少なくとも1種の芳香族環(ヒドロキシル基が、その芳香族環の炭素原子の一つに結合され、そしてヒドロカルビル基が、その芳香族環の炭素原子の少なくとも一つに結合されるが、そのヒドロカルビル基には、11~26個の炭素原子及び0~4個の二重結合が含まれる)、
b)以下のものからなる群からの化合物を、溶媒b)の質量を基準にして、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の濃度で含む溶媒
- 25℃、101.325kPaで液状である炭化水素、好ましくはシクロアルカン、6~22個の炭素原子を有するアルカン、及び芳香族炭化水素からなる群からのもの、ここでその芳香族炭化水素は、好ましくは、アルキルベンゼン、アルケニルベンゼン、ジアルキルナフタレン、ジアルケニルナフタレンからなる群から選択される、
- アルキルシラン、アルキル/アルコキシシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン、アルキル/アルコキシシロキサン、及び式(I)のアルコキシシロキサン;
【化10】
[式中、nは、0~20の整数であり、
それぞれのRは、他のRから独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基及び1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基の群から選択される]
【0057】
さらに詳しくは、特許出願の国際公開第2018/113852A1号パンフレットを参照されたい。
【0058】
本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)には、任意選択により、さらなる成分が含まれる。
【0059】
本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)が、可能な限り低い濃度で、
g)分子状ホルムアルデヒド
を含むのが好ましい。
【0060】
分子状ホルムアルデヒド(「遊離のホルムアルデヒド(free formaldehyde)」と呼ばれることも多い)は、フェノール樹脂a)の中に結合されていないが、分子の形態で存在しているホルムアルデヒドである。「分子状ホルムアルデヒド(molecular formaldehyde)」という用語には、本明細書においては、モノマー性のホルムアルデヒド、並びにオリゴマー性及びポリマー性のいずれもの形態、たとえばパラホルムアルデヒド(2個以上のモノマー単位で構成される短鎖で、直鎖状のポリ(オキシメチレン)の混合物)、及び1,3,5-トリオキサンが包含される。
【0061】
フェノール樹脂成分(i)の中に含まれ、そして成形材料混合物の製造の際に成形材料混合物の中に持ち込まれる分子状ホルムアルデヒドが、先に説明したように、ホルムアルデヒドの主たる放出源であって、本発明は、その抑制を目標としている。
【0062】
ある種の場合においては、分子状ホルムアルデヒドg)の濃度が、0.1%未満、より好ましくは0.08%未満、極めて好ましくは0.05%未満であるのが好ましいが、その濃度は、それぞれの場合において、そのフェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準としたものである。
【0063】
フェノール樹脂成分(i)の中で分子の形態にあるホルムアルデヒドg)の濃度は、たとえば、KCN法によって求めることができる。この方法を用いるには、分析のためのサンプルを、イソプロパノールと蒸留水との混合物(イソプロパノール:H2Oの混合比=3:1)の中に溶解させ、シアン化カリウムを過剰に添加すると、そのサンプルの中に含まれている分子状ホルムアルデヒドが、シアノヒドリンへと定量的に転化される。次いで、過剰のシアン化カリウムを、硝酸水銀(II)溶液及び指示薬としてのジフェニルカルバゾンを用いて逆滴定する。
【0064】
そのKCN法は、以下の詳しい記述に従って実施するのが好ましい。ここで必要となる溶液は以下のものである:
【0065】
【表1】
【0066】
それぞれの測定に先立って、空試験値を求めなければならない。この目的のためには、最初に、400mLのビーカーに、100mLの「PA/水」を仕込む。マグネチックスターラーを用いて混合し、最初に40mLのホウ酸塩緩衝液、次いで20mLのKCN溶液を添加する。2分後に、5mLのリン酸塩緩衝液及び3~5滴の指示薬溶液を添加して、その溶液の着色を観察する。0.05モル濃度のHg(NO32水溶液を用いて滴定する。滴定の終点は、色が変化して紫色となる点である。その色は、終点に到達後、少なくとも10秒間は、安定であるべきである。0.05MのHg(NO32溶液の消費量を「空試験値」として記録する。
【0067】
ホルムアルデヒドの定量を実施するにあたっては、予想されるホルムアルデヒド含量に合わせて、最初のサンプル質量を調節するということを守るべきであって、その測定で、0.05モル濃度のHg(NO32溶液の約10~20mLが必要となるようにするのが好ましい。次の表は、選択するべき初期サンプル質量の目安となる数値を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
化学はかりを使用して、400mLのビーカーの中にサンプルを秤りこみ、100mLの「IPA/水」の中に溶解させる。マグネチックスターラーを用いて混合し、最初に40mLのホウ酸塩緩衝液、次いで20mLのKCN溶液を添加する。その溶液のpHは、9.3の領域内とするべきである。2分間の反応時間(KCN溶液の添加の瞬間から計測)が終わったら、5mLのリン酸塩緩衝液及び3~5滴の指示薬溶液を添加し、その溶液の着色を観察する。0.05モル濃度のHg(NO32水溶液を用いて滴定する。滴定の終点は、色が変化して紫色となる点である。その色は、終点に到達後、少なくとも10秒間は、安定であるべきである。0.05MのHg(NO32溶液の消費量を「消費値」として記録する。
【0070】
次の式を使用して、分子状ホルムアルデヒドg)の濃度(単位、重量%)を、計算する:
【数1】
【0071】
フェノール樹脂成分(i)の中の分子状ホルムアルデヒドg)の濃度は、HPLCによっても同程度の正確さで求めることが可能であり、一般的には、HPLC定量が好ましい。
【0072】
上述の好ましいフェノール樹脂a)(オルト縮合型のレゾール)の調製においては、先に説明したように、フェノールモノマーを、比較的高い過剰モルのホルムアルデヒドと反応させると、その結果として、反応生成物として得られたレゾールa)には、高い残存量の分子状ホルムアルデヒドg)が、必然的に存在する。
【0073】
そのような場合においては、特に、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)に対して、分子状ホルムアルデヒドg)との反応性を有する、1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物を混ぜ込むことが好ましい。β-ジカルボニル化合物h)と反応することによって、そのフェノール樹脂成分(i)の中の分子状ホルムアルデヒドが不揮発性の反応生成物の形態で結合され、それにより、そのフェノール樹脂成分(i)の中の分子状ホルムアルデヒドの濃度が低減される。したがって、ある種の場合においては、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)には、以下のものが含まれる:
h)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物とホルムアルデヒドとの反応によって形成される、1種又は複数の反応生成物。
【0074】
「β-ジカルボニル化合物」(ベータ-ジカルボニル化合物)という用語は、化学の分野で慣用される意味合いに従って、1分子あたり2個のカルボニル基C=Oを有する有機化合物を指しているが、ここで、その2個のカルボニル基の炭素原子は、カルボニル基の一部ではない、単一の炭素原子を介して互いに結合されている。ホルムアルデヒドとの反応を介して、β-ジカルボニル化合物が分子状ホルムアルデヒドと結合して、不揮発性の反応生成物を形成することが可能となる、すなわち、それらがホルムアルデヒド捕捉剤として機能する。β-ジカルボニル化合物のこの活性は、特許出願の国際公開第2016/165916A1号パンフレットなどの参考文献に記載されている。
【0075】
国際公開第2016/165916A1号パンフレットに記載されているようにして、β-ジカルボニル化合物をフェノール樹脂成分(i)に添加することによって、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の中の分子状ホルムアルデヒドg)の濃度を低減させることが可能となる。低濃度の分子状ホルムアルデヒドg)を有するフェノール樹脂成分(i)を使用することによって、本発明のバインダーシステムを含む成形材料混合物の中、そしてその混合物から製造される成形物の中に、可能な限り少ない分子状ホルムアルデヒドg)しか導入されないことが確約できる。このことは、その成形材料混合物の加工の際、及びそれから製造された成形物を使用する際の、ホルムアルデヒドの放出の低減に寄与する。
【0076】
したがって、ある種の場合においては、フェノール樹脂成分(i)の調製において、分子状ホルムアルデヒドg)の合計量に対して過剰モルの、1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物を添加するのが好ましい。詳しくは、特許出願の国際公開第2016/165916A1号パンフレットを参照されたい。したがって、ある種の場合においては、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)には、以下のものが含まれる:
h)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物及びさらには、それらのβ-ジカルボニル化合物とホルムアルデヒドとの反応により形成される1種又は複数の反応生成物(ここで、未反応のβ-ジカルボニル化合物と、ホルムアルデヒドとの反応生成物の中に結合されたβ-ジカルボニル化合物との合計濃度が、好ましくは0.1%~14%、好ましくは0.6%~5%であるが、その濃度は、それぞれの場合において、フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準にしたものである)。
【0077】
ある種の場合においては、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の中に存在しているβ-ジカルボニル化合物h)が、好ましくは、マロン酸のジアルキルエステル(マロン酸ジアルキル)の群から選択され、ここでそのアルキル基は、相互に独立して、1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択される。特に好ましいのは、マロン酸ジエチル(マロン酸ジエチルエステル)及びマロン酸ジメチル(マロン酸ジメチルエステル)である。マロン酸ジアルキルとホルムアルデヒドとの典型的な反応生成物の例としては、以下のものが挙げられる:2-メチレンマロン酸エステル、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)マロン酸エステル、2-(ヒドロキシメチル)マロン酸エステル、及び2-(3-ヒドロキシ-2-オキサプロピル)マロン酸エステル。さらに詳しくは、特許出願の国際公開第2016/165916A1号パンフレットを参照されたい。
【0078】
本発明は、しかしながら、上で定義された成分h)を含むフェノール樹脂成分(i)の使用に限定される訳ではない。
【0079】
しかしながら、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)が、分子状ホルムアルデヒドg)を低濃度でしか含まない場合であってさえも、このフェノール樹脂成分(i)を含むバインダーシステムを用いて製造した成形物が、時間の経過と共にホルムアルデヒドを放出することを防止することが不可能であるが、その理由は、特に、そのバインダー(フェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂とポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートとから形成されるポリウレタン)が、(少なくとも部分的に)分解されるためであり、これは、熱曝露をされると、否応なく開始される。このホルムアルデヒドは、本発明において本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)の中に存在している、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)との反応を介して、不揮発性の反応生成物の形で結合され、その結果として、ホルムアルデヒドの放出が低減されているのである。
【0080】
本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)が、可能な限り低い濃度で、
i)フェノールの群からのモノマー性化合物
を含むのが好ましい。
【0081】
フェノールの群からのモノマー性化合物は、フェノール樹脂a)の中に結合されてはいないが、モノマーの形態にある、フェノールモノマーである。そのフェノール樹脂成分(i)の中に、フェノールの群からのモノマー性化合物i)が含まれているのなら、それらは、通常、残存量の、フェノール樹脂を製造した際に転化されなかったフェノールモノマーである。したがって、フェノールの群からの、フェノール樹脂成分(i)の中に存在しているいずれのモノマー性化合物i)も、通常は、このフェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂a)の中で、メチレンブリッジ又はメチレンエーテルブリッジによって結合されているフェノールモノマーと同じものである。
【0082】
フェノールi)の群からのモノマー性化合物の濃度は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、極めて好ましくは1%以下であるが、その濃度は、それぞれの場合において、そのフェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準にしたものである。
【0083】
本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)が、フェノール樹脂a)として、レゾールを含んでいる場合には、そのフェノール樹脂成分(i)には、通常、
j)ヒドロキシベンジルアルコールの群からの、1種又は複数の化合物、
も含まれる。
【0084】
ヒドロキシベンジルアルコールj)の群からの化合物は、具体的には、サリゲニン(2-ヒドロキシベンジルアルコール、o-ヒドロキシベンジルアルコール)、及びホモサリゲニン(4-ヒドロキシベンジルアルコール、p-ヒドロキシベンジルアルコール)である。これらの化合物は、1分子のフェノール(=ヒドロキシベンゼン)に1分子のホルムアルデヒドが付加することにより、フェノール樹脂を調製する間に生成する。詳しくは、独国特許出願公開第10 2016 125 700A1号明細書を参照されたい。
【0085】
本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)において、ヒドロキシベンジルアルコールj)の群からの化合物の濃度は、モノマー性フェノール(=モノマー性ヒドロキシベンゼン)の濃度より高いのが好ましい。ヒドロキシベンジルアルコールの群からの化合物j)の、モノマー性フェノール(=ヒドロキシベンゼン)に対する質量比は、好ましくは、1.2以上、好ましくは1.2~30であり、且つ/又は、サリゲニンの、フェノール(ヒドロキシベンゼン)に対する質量比は、好ましくは、1.1以上、好ましくは1.1~25であるが、ここでモノマー性フェノールの濃度は、好ましくは、それぞれの場合において、2.5%未満、好ましくは2%未満であり、それらの濃度は、それぞれの場合において、フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準にしている。
【0086】
ある種の場合においては、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)には、
k)1種又は複数のシラン、
が含まれる。
【0087】
ある種の場合においては、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)には、
l)フッ化水素酸
が含まれる。
【0088】
フッ化水素酸は、鋳造用型及び鋳造用中子の部分に改良された耐湿性をもたらすが、フッ化水素酸が、シランl)と共に使用される場合には、特にそうである。
【0089】
ある種の場合においては、そのフェノール樹脂成分(i)に以下のものを含む、バインダーシステムが好ましい:
a)先に説明した式(III)のオルト縮合型のレゾール、
b)先に説明した好ましい溶媒の群から選択される溶媒、
h)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物、並びにさらには、それらのβ-ジカルボニル化合物とホルムアルデヒドとの反応により形成された1種又は複数の反応生成物。
【0090】
本発明は、しかしながら、そのフェノール樹脂成分(i)が上で定義された成分h)を含むバインダーシステムに限定される訳ではない。
【0091】
バインダーシステム、より具体的には、ポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスからなる群からのプロセスにおいて使用することを目的とするバインダーシステムのためのポリイソシアネート成分(ii)は、従来技術から公知である。
【0092】
1分子あたり2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネートc)は、一般的には、ポリイソシアネートと呼ばれる。1分子あたりちょうど2個のイソシアネート基を有するイソシアネートは、特別に、ジイソシアネートと呼ばれる。
【0093】
1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネートc)は、好ましくは、以下のものからなる群から選択される:
- メチレンビス(フェニルイソシアネート)(略称MDI、それらは、多くの場合、事実上ジフェニルメタンジイソシアネートとも呼ばれている)、好ましくは4.4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)、
- ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(「ポリメリックMDI」とも呼ばれる)、
- 脂肪族イソシアネート、
- 脂環族イソシアネート、
- 1分子あたり、少なくとも2個のイソシアネート基及び1個のカルボジイミド基を有するイソシアネート(それぞれ、カルボジイミド変性ジ-及びポリ-イソシアネートとも呼ばれる)、好ましくはカルボジイミド変性MDI、
- 1分子あたり、少なくとも2個のイソシアネート基及び1個のウレトンイミン基を有するイソシアネート(それぞれ、ウレトンイミン変性ジ-及びポリ-イソシアネートとも呼ばれる)、好ましくはウレトンイミン変性MDI。
【0094】
「ポリメリックMDI」という用語にはさらに、各種のポリメチレンポリフェニルイソシアネートの混合物も包含される。
【0095】
カルボジイミド変性ジ-及びポリ-イソシアネート並びにウレトンイミン変性ジ-及びポリ-イソシアネートの構造及び調製法は当業者には公知であり、以下の文献に記載されている:Kunststoff-Handbuch[Plastic handbook],volume 7,「Polyurethane[Polyurethanes]」(Carl Hanser Verlag Munich Vienna 1993)、テキストブックの「Synthetic Methods in Step-Growth Polymers」(edited by Martin E.Rogers and Timothy Long,Wiley 2003)、並びにたとえば、欧州特許第0 054 294B1号明細書、国際公開第2007/065578A1号パンフレット、及び米国特許第10,011,677B2号明細書。ポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスからなる群からのプロセスにおける、カルボジイミド-及び/又はウレトンイミン-変性MDIの使用は、欧州特許第2 640 764B1号明細書などの文献に記載がある。
【0096】
たとえば以下のような、1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有する、異なったイソシアネートc)の混合物を使用することも可能である:
- MDIとポリメリックMDIとの混合物、
- MDIと、カルボジイミド変性MDI及び/又はレトンイミン変性MDIとの混合物
- ポリメリックMDIと、カルボジイミド変性MDI及び/又はレトンイミン変性MDIとの混合物。
【0097】
ある種の好ましい変法においては、そのポリイソシアネート成分に、
d)溶媒
が含まれる。
【0098】
用語としての溶媒b)には、溶媒活性を有する個々の化合物、及び溶媒活性を有する異なった化合物の混合物の両方が含まれる。溶媒d)は、その中で、成分c)及びポリイソシアネート成分(ii)の各種のさらなる成分(それらが固体である場合)を溶液とする液体、並びにそれと共に、成分c)及びポリイソシアネート成分(ii)の各種のさらなる成分(それらが液体である場合)が混和性である液体であり、それにより、そのポリイソシアネート成分が、単一の液相を構成する。溶媒d)は、具体的には、ポリイソシアネート成分(ii)の粘度を調節して、成形材料基材との混合をより容易とするのに役立つ。
【0099】
溶媒d)は、好ましくは、以下のものからなる群から選択される:
- C4~C6ジカルボン酸のジアルキルエステル(当該技術分野では、多くの場合、「二塩基酸エステル」と呼ばれている)、好ましくは、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルからなる群からのもの、
- 飽和及び不飽和脂肪酸のアルキルエステル、好ましくは植物油アルキルエステル、好ましくはナタネ油メチルエステル、トール油メチルエステル、トール油ブチルエステル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、及びミリスチン酸イソブチルからなる群からのもの、
- アルキレンカーボネート、好ましくはロピレンカーボネート、
- 25℃、101.325kPaで液状である炭化水素、好ましくはシクロアルカン、6~22個の炭素原子を有するアルカン、及び芳香族炭化水素からなる群からのもの(ここでその芳香族炭化水素は、好ましくは、アルキルベンゼン、アルケニルベンゼン、ジアルキルナフタレン、ジアルケニルナフタレンからなる群から選択される)、
- アルキルシラン、アルキル/アルコキシシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン、アルキル/アルコキシシロキサン、及び式(I)のアルコキシシロキサン
の群からの化合物、
【化11】
[式(I)の中のnは、0~20の整数であり、且つ
それぞれのRは、他のRから独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基及び1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基の群から選択される]
並びに、それらの混合物。
【0100】
その中でn=0であり、且つ全部の基Rがアルキル基である、式(I)の化合物は、アルキルシランである。その中でn=0であり、且つ全部の基Rがアルコキシキル基である、式(I)の化合物は、アルコキシシランである(アルキルシリケートとも呼ばれる)。その中でn=0であり、且つ1個又は複数の基Rがアルキル基であり、残りの基Rがアルコキシ基である、式(I)の化合物は、アルキル/アルコキシシランである。その中でn>0であり、且つ全部の基Rがアルキル基である、式(I)の化合物は、アルキルシロキサンである。その中でn>0であり、且つ全部の基Rがアルコキシ基である、式(I)の化合物は、アルコキシシロキサンである。その中でn>0であり、且つ1個又は複数の基Rがアルキル基であり、残りの基Rがアルコキシ基である、式(I)の化合物は、アルキル/アルコキシシロキサンである。好ましい式(I)の化合物は、アルコキシシラン(アルキルシリケート)(すなわち、式(I)において、n=0)及びアルコキシシロキサン(アルキルシリケートオリゴマー)(その中で、nが、2~5の整数であり、ここでそのアルコキシ基が、好ましくは、エトキシ、プロポキシ又はブトキシ基である)である。特に好ましいのは、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)及びエトキシシロキサン(その中で、nが、2~5の整数である)である。
【0101】
「炭化水素」という用語は、化学の分野で慣用される意味合いに従って、炭素と水素のみからなる有機化合物を表す。
【0102】
本発明の特に好ましいバインダーシステムは、そのポリイソシアネート成分(ii)の中で、
c)1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有する、1種又は複数の(好ましくは全部の)イソシアネートが、先に説明した、好ましいイソシアネートの群から選択され、そして
d)その溶媒が、先に説明した好ましい溶媒の群から選択された、
ものである。
【0103】
特に好ましいバインダーシステムは、そのポリイソシアネート成分(ii)の中で、
c)MDI、ポリメリックMDI、カルボジイミド変性MDI、及びウレトンイミン変性MDI、並びにそれらの混合物からなる群からの、1種又は複数のイソシアネート(上述のイソシアネートc)の合計濃度が75%~95%である)、並びに
d)溶媒として、
- 上で定義された式(I)のアルコキシシラン(アルキルシリケート)(すなわち、式(I)において、n=0)、及び上で定義された式(I)のアルコキシシロキサン(アルキルシリケートオリゴマー)(その中で、nが、2~5の整数であり、アルコキシ基が好ましくはエトキシ基である、好ましくはテトラエチルオルトシリケート)の群からの、1種又は複数の化合物
又は
- アルキレンカーボネートの群からの1種又は複数の化合物(好ましくはプロピレンカーボネート)、及び脂肪酸アルキルエステル(好ましくは、ナタネ油メチルエステル及びトール油メチルエステルからなる群から)、
(その溶媒d)の濃度は、5%~25%であるが、ここで、成分c)及びd)の濃度は、それぞれの場合において、ポリイソシアネート成分(ii)の合計質量を基準としている)、
であるものである。
【0104】
ある種の場合においては、本発明のバインダーシステムのポリイソシアネート成分(i)が、
m)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物(ポリイソシアネート成分(ii)の合計質量を基準にして1%~38%、好ましくは1%~20%、より好ましくは1%~10%、極めて好ましくは1%~5%の濃度で)
を含んでいるのが好ましい。
【0105】
先に説明したように、β-ジカルボニル化合物は、反応を介して分子状ホルムアルデヒドと結合して、不揮発性の反応生成物を形成させることができる。本発明のバインダーシステムのポリイソシアネート成分(ii)の中にはホルムアルデヒドが存在しないので、β-ジカルボニル化合物m)とホルムアルデヒドとの上述の反応は、本発明のバインダーシステムのポリイソシアネート成分(ii)の中に含まれるβ-ジカルボニル化合物m)が、分子状ホルムアルデヒドと接触状態となったときにのみ起きる。このような状態になるのは、たとえば、成形材料混合物の製造の際に、本発明のバインダーシステムのポリイソシアネート成分(ii)が、(先に説明したような)顕著な分子状ホルムアルデヒドの濃度を含む、本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)と接触するようになったとき、或いは、そのような成形材料混合物から製造された成形物が、熱曝露にかけられたときである。
【0106】
本発明のバインダーシステムのポリイソシアネート成分(ii)の中に存在しているβ-ジカルボニル化合物m)は、好ましくは、マロン酸のジアルキルエステル(マロン酸ジアルキル)の群から選択され、ここでそのアルキル基は、相互に独立して、1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択される。特に好ましいのは、マロン酸ジエチル(マロン酸ジエチルエステル)及びマロン酸ジメチル(マロン酸ジメチルエステル)である。マロン酸ジアルキルとホルムアルデヒドとの典型的な反応生成物の例としては、以下のものが挙げられる:2-メチレンマロン酸エステル、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)マロン酸エステル、2-(ヒドロキシメチル)マロン酸エステル、及び2-(3-ヒドロキシ-2-オキサプロピル)マロン酸エステル。さらに詳しくは、特許出願の国際公開第2016/165916A1号パンフレットを参照されたい。本発明のバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の中に存在しているβ-ジカルボニル化合物h)が、このバインダーシステムのポリイソシアネート成分(ii)の中に存在しているβ-ジカルボニル化合物m)と同一であれば、特に好ましい。
【0107】
しかしながら、本発明は、上で定義された成分m)を含むポリイソシアネート成分(ii)の使用に限定される訳ではない。
【0108】
本発明では、そのフェノール樹脂成分(i)が、(前述のように)極めて低濃度の分子状ホルムアルデヒドg)を有するバインダーシステムを使用することによって成形物を製造すること、並びにポリウレタンコールドボックスプロセス及びポリウレタンノーベークプロセスからなる群からのプロセスによって、熱を加えることなく、そのバインダーシステムを硬化させること(詳細は後述)が可能であるというのは事実である。しかしながら、このようにして製造した成形物であってさえも、経時的にホルムアルデヒドを放出する傾向を有し、特に熱曝露の場合にはそうである。このホルムアルデヒドは、アミノ酸及び尿素からなる群から選択され、本発明においてバインダーシステムの成分(iii)の中に存在している物質e)、さらには、ポリイソシアネート成分(ii)の中に存在している各種のβ-ジカルボニル化合物m)との反応によって結合されて、不揮発性の反応生成物を形成し、それによって、ホルムアルデヒドの放出が低減される。
【0109】
ある種の場合においては、そのポリイソシアネート成分(ii)が、さらなる成分n)を含む。したがって、ある種の場合においては、そのポリイソシアネート成分(ii)が以下のものを含んでいるのが好ましい:
n)1種又は複数の、以下のものからなる群からの物質;
- シラン、
- 酸塩化物、たとえば、塩化ホスホリル、塩化フタロイル、
- クロロシラン、
- メタンスルホン酸、
- リン-酸素酸のエステル、
- 以下のものの予備的な混合物を反応させることによって調製可能な添加剤;
(av)1.0%~50.0%のメタンスルホン酸、
(bv)1種又は複数のリン-酸素酸の1種又は複数のエステル(そのエステル(bv)の合計量が、5.0%~90.0%の範囲である)、
(cv)アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン、及びウレイドシランからなる群から選択される、1種又は複数のシラン(それらのシラン(cv)の合計量が、5.0%~90.0%の範囲である)、
ここで、水の割合は、その予備的な混合物の中の成分(av)、(bv)及び(cv)の合計量を基準にして、0.1%以下である。
【0110】
上述の成分n)は、ポリウレタンの生成を阻害することによって、その中にバインダーシステムの両方の成分が混合されている成形材料混合物が、そのバインダーシステムの反応性が高いにも関わらず、使用不可能となる、すなわち、もはや成形できなくなるようなことが無く、貯蔵することが可能な時間(「砂寿命(sand lifetime)」)を延長させるのに、実質的に役立つ。砂寿命が長いということは、準備した成形材料混合物のバッチが、そのバインダーシステムが時期尚早の硬化を起こした結果として、使用不能とならないようにするのに、望ましい。上述の添加剤は、可使時間延長剤(bench life extender)とも呼ばれ、当業者には公知である。典型的には、塩化ホスホリル(POCl3、CAS No.10025-87-3)、塩化o-フタロイル(塩化1,2-ベンゼンジカルボニル、CAS No.88-95-9)、及びベンゼンホスフォラスオキシジクロリド(CAS No.842-72-6)からなる群からの酸塩化物が慣用的に使用されている。さらなる適切な添加剤は、メタンスルホン酸及びさらにはリン-酸素酸、好ましくはホスフィン酸、ホスホン酸、リン酸、ペルオキソホスホン酸、ハイポジホスホン酸、ジホスホン酸、ハイポ二リン酸、二リン酸、及びペルオキソ二リン酸からなる群からのものである。一つの好ましい砂寿命延長添加剤は、特許出願の国際公開第2013/117256号パンフレットに記載されているような、上述の成分(av)、(bv)、及び(cv)の予備的な混合物を反応させることによって調製可能な添加剤混合物である。
【0111】
ある種の場合においては、そのポリイソシアネート成分(ii)に、1種又は複数の、可塑剤の群からのさらなる成分n)が含まれる。
【0112】
物質n)の合計濃度は、ポリイソシアネート成分(ii)の合計質量を基準にして、5%以下、好ましくは3%以下である。
【0113】
本発明のバインダーシステムの一つの好ましい実施態様においては、成分(i)及び(ii)の一方又は両方に、
o)1分子あたり、少なくとも1個の構造単位-Si(Cn2n+12-O-(ここで、nは1~3の整数である)、及び少なくとも1個のポリアルコキシ基を含む、1種又は複数のシリコーン界面活性剤
を含むが
ここで、そのシリコーン界面活性剤o)の濃度は、成分(i)の質量と成分(ii)の質量との総合計を基準にして、好ましくは0.001%~1.0%、好ましくは0.001%~0.8%、特別に好ましくは0.002%~0.5%である。好ましいシリコーン界面活性剤については、欧州特許第3 333 205A1号明細書を参照されたい。フェノール樹脂成分(i)だけ、又はポリイソシアネート成分(ii)だけ、又は成分(i)と(ii)との両方、のどれがシリコーン界面活性剤o)を含んでいるかには関係なく、シリコーン界面活性剤o)の濃度は、成分(i)の質量及び成分(ii)の質量を総合計したものを基準として、好ましくは0.001%~1.0%、より好ましくは0.001%~8%、特別に好ましくは0.002%~0.5%である。
【0114】
本発明のバインダーシステムにおいては、当業者は、その中に含まれ、そしてアミノ酸及び尿素からなる群から選択される成分(iii)の量、従って物質e)の量を選択して、不揮発性の反応生成物を形成させることによって、そのバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の中に存在する分子状ホルムアルデヒドg)、並びに本発明のバインダーシステムを用いて製造される加工の際、及びそれから製造された成形物のさらなる加工(特に、熱曝露を含めて)、貯蔵、及び使用の際に放出されるホルムアルデヒドを、可能な限り高い割合で結合させるようにするであろう。この文脈においては、当業者が配慮するべきことは、その中に含まれる、使用される成分(iii)の量、従って物質e)の量を、バインダー成分(i)と(ii)との間の反応性に悪影響を与えることなく、砂寿命(上記参照)が必要以上に短縮されることなく、そして本発明のバインダーシステムを含む成形材料混合物から製造される成形物の強度が損なわれないように、選択しなければならないということである。
【0115】
したがって、その中に含まれ、使用される、成分(iii)の量、従って物質e)の量は、任意選択によりバインダーシステムの中の、さらなるホルムアルデヒド捕捉剤(たとえば、本発明のある種のバインダーシステムの、フェノール樹脂成分(i)の中及び/又はポリイソシアネート成分(ii)の中に存在させる、上述のβ-ジカルボニル化合物)の存在、及び/又は、ホルムアルデヒド捕捉剤を含むコーティング(これについては、後ほどさらに詳しく説明する)を用いて製造される成形物が得られる可能性によって、並びにさらに、バインダーシステムの反応性、及び本発明のバインダーシステムを含む成形材料混合物から製造される成形物の強度の要件によって、成形材料混合物を製造するために使用されるフェノール樹脂成分(i)の量で決まってくる。
【0116】
本発明のバインダーシステムに、成分(iii)の中のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)以外のホルムアルデヒド捕捉剤が含まれていない場合には、物質e)の、対象相手の(available)ホルムアルデヒドの合計量に対するモル比は、好ましくは、4:1から1:1までである。本発明のバインダーシステムに、成分(iii)の中のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)に加えて、さらなるホルムアルデヒド捕捉剤が含まれているような場合には、全部のホルムアルデヒド捕捉剤の合計量の、対象相手のホルムアルデヒドの合計量に対するモル比は、好ましくは4:1から1:1までである。この文脈において、対象相手の(available)ホルムアルデヒドとは、そのバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の中に存在している分子状ホルムアルデヒドg)と、バインダーの分解によって放出される可能性のあるホルムアルデヒドとの合計量を指しているが、これについては、ホルムアルデヒドの2種の放出源に関する先の説明を参照されたい。
【0117】
本発明の第二の態様は、成形材料基材、並びにさらに本発明の第一の態様におけるバインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)を含む成形材料混合物に関する。
【0118】
本発明の第一の態様に関する先の観察は、好ましいバインダーシステムに関連してもあてはまる。
【0119】
本発明の第二の態様による成形材料混合物には、
- 上述の本発明の第一の態様に従った、バインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)、
- 及び成形材料基材、
- 及び任意選択によりさらなる成分、
が含まれるが、
ここで、上述の本発明の第一の態様に従ったバインダーシステムの成分(i)と(ii)との合計濃度は、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、典型的には0.6%~14%である。
【0120】
鋳造用中子又は鋳造用型を製造するための成形材料混合物の中での、上述の本発明の第一の態様に従ったバインダーシステムの成分(i)と(ii)との合計濃度が、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、典型的には0.6%~3%、好ましくは0.8%~2%、より好ましくは1.0%~1.6%である。
【0121】
押湯を製造するための成形材料混合物の中での、上述の本発明の第一の態様に従ったバインダーシステムの成分(i)と(ii)との合計濃度が、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、典型的には8%~14%、好ましくは10%~12%である。
【0122】
本発明の成形材料混合物においては、そのポリイソシアネート成分(ii)の中のイソシアネート基の、そのフェノール樹脂成分(i)の中のヒドロキシル基に対する化学量論比は、好ましくは0.5~1.5の範囲、さらに好ましくは0.6~1.4の範囲、より好ましくは0.7~1.3の範囲、特に好ましくは0.8~1.2の範囲、極めて特に好ましくは0.9~1.1の範囲、特別に好ましくは0.95~1.05の範囲である。そのポリイソシアネート成分(ii)の中のイソシアネート基の、そのフェノール樹脂成分(i)の中のヒドロキシル基に対する化学量論比が1に近いのが好ましくはあるものの、ヒドロキシル基に対してイソシアネート基が過剰に存在するのが有利である場合や、イソシアネート基に対してヒドロキシル基が過剰に存在するのが有利である場合もある。
【0123】
「成形材料基材(molding material base)」という用語には、成形材料基材に適合性を有する個々の材料のみならず、成形材料基材に適合性を有する異なった材料の組合せも包含される。
【0124】
成形材料基材としての適合性は、押湯、鋳造用型、及び鋳造用中子を製造するために典型的に使用されるすべての成形材料基材に備わっているが、そのような例としては、ケイ砂及び特殊砂が挙げられる。「特殊砂(specialty sand)」という用語には、天然の鉱物質の砂、並びに顆粒の形態で製造されるか、或いは破砕、摩砕、及び分級操作によって顆粒の形態に加工された焼結及び融解の生成物、並びに、他の物理化学的手段によって形成され、標準的な鋳造用バインダーと共に、押湯、中子、及び型を製造するための成形材料基材として使用される無機の鉱物質の砂、が包含される。特殊砂としては、以下のものが挙げられる:
- 天然の鉱物質、又は鉱物質の混合物の形態にあるケイ酸アルミニウム、たとえばJ sand、及びKerphalite KF、
- 工業用焼結セラミックスの形態にあるケイ酸アルミニウム、たとえば、耐火粘土及びCerabeads、
- 天然の重質鉱物質、たとえばR sand、クロマイトサンド、及びジルコンサンド、
- 工業用酸化物セラミックス、たとえばM sand、及びボーキサイトサンド、
- 並びに、工業用非酸化物セラミックス、たとえば炭化ケイ素。
【0125】
その成形材料基材に、部分的に、再循環した鋳造用砂が含まれているのが好ましい。
【0126】
押湯を製造するための成形材料混合物は、押湯化合物(feeder compound)とも呼ばれる。本発明の押湯化合物には、本発明の上述の第一の態様に従ったバインダーシステムの成分(i)及び(ii)並びに成形材料基材に加えて、典型的には、以下のものが含まれる:断熱性充填剤たとえば中空のマイクロビーズ、任意選択により繊維物質、そして発熱押湯の場合においては、易酸化性の金属、及びその易酸化性の金属のための酸化剤。ポリウレタンコールドボックスプロセスによる押湯の製造、さらには押湯の成分として好適な物質は、当業者には公知であり、たとえば、国際公開第2008/113765号パンフレット及び独国特許第10 2012 200 967号明細書を参照されたい。
【0127】
成形材料混合物の中に組みこまれたフェノール樹脂成分(i)が、分子状ホルムアルデヒドg)を含んでいる場合には、このホルムアルデヒドは、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)を介して導入された、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される単一又は複数の物質e)と反応して、不揮発性の反応生成物を形成し、それによって、その成形材料混合物からの分子状ホルムアルデヒドg)の放出が低減される。この場合においては、その成形材料混合物には、(上述の成分に加えて)ホルムアルデヒドと、1種又は複数のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)との、1種又は複数の反応生成物が含まれる。
【0128】
本発明のプロセスにおいて、成形材料混合物から製造された成形物が、その貯蔵、さらなる加工、又は使用される過程で、さらなる分子状ホルムアルデヒドを放出するということも不可能ではないので、本発明の成形材料混合物が、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)と、フェノール樹脂成分(i)からの分子状ホルムアルデヒドg)との反応により生成した反応生成物だけではなく、未反応のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)も含んでいるのが有利である。この目的のためには、成分(iii)と共に成形材料混合物の中に導入されるアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の濃度が、フェノール樹脂成分(i)と共に成形材料混合物の中に導入される分子状ホルムアルデヒドg)に対して、過剰モルとなるように設定する。本発明の第一の態様に関連した上述の観察は、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される好ましい物質e)に関してもあてはまる。
【0129】
本発明の成形材料混合物に関しては、好ましくは、
- 未反応のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、
及び
- アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)であって、ホルムアルデヒドとの反応生成物として結合されたもの、
その合計量が、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.1%~5.0%、好ましくは0.1%~3.5%、より好ましくは0.1%~2.0%、極めて好ましくは0.5%~2.0%である。
【0130】
本発明の一つの特に好ましい成形材料混合物においては、
- グリシン、
及び
- ホルムアルデヒドとの反応生成物の形で結合されたグリシン
その合計量が、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.1%~5.0%、好ましくは0.1%~3.5%、より好ましくは0.1%~2.0%、極めて好ましくは0.5%~2.0%である。
【0131】
本発明の第三の態様は、以下のステップを含むプロセスに関する:
- 成形材料基材を、本発明の第一の態様におけるバインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)、並びに任意選択によりその製造される成形材料混合物のさらなる成分と混合することにより、成形材料混合物を製造するステップ、
- その成形材料混合物を成形するステップ、
- その成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させて、成形物を形成するステップ。
【0132】
本発明のプロセスにおいては、その成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることにより生成した成形物に、熱を加えて、さらなる加工にかけてもよい。本発明のプロセスには、成形された成形材料混合物において、そのバインダーシステムを硬化させることによって形成された成形物を加熱処理することを含む、さらなる加工ステップが含まれていてもよい。
【0133】
本発明の第二の態様に関連した上記の観察は、好ましい成形材料混合物に関してもあてはまる。
【0134】
成形材料混合物を製造するために、本発明のバインダーシステムの成分(i)及び(ii)は、そのバインダーシステムの成分(i)及び(ii)の合計濃度が、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.6%~14%となるように計量仕込みするのが好ましい。
【0135】
成形材料混合物を製造する目的で、本発明のバインダーシステムの成分(i)及び(ii)を、イソシアネートc)の中のイソシアネート基の、フェノール樹脂a)の中のヒドロキシル基に対する化学量論比が、0.5~1.5の範囲となるように計量仕込みするのが好ましい。
【0136】
成形材料混合物を製造する目的で、当業者は、使用される成分(iii)の量、従って、その中に含まれるアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の量を、不揮発性の反応生成物を形成させることによって、そのバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の中に存在している分子状ホルムアルデヒドg)、並びにその成形材料混合物を加工する際、及びそれらから製造された成形物をさらなる加工(特に熱曝露)、貯蔵、及び使用する際に放出されるホルムアルデヒドを、可能な限り高い割合で結合させるのに十分となるように、計量仕込みするであろう。この際、当業者が配慮するべきは、その中に含まれる、使用される成分(iii)の量、従って物質e)の量を、バインダー成分(i)と(ii)との間の反応性に悪影響を与えることなく、砂寿命(上記参照)が必要以上に短縮されることなく、そして本発明のバインダーシステムを含む成形材料混合物から製造される成形物の強度が損なわれないように、選択しなければならないということである。
【0137】
したがって、使用される、成分(iii)の量、従ってその中に含まれる物質e)の量は、成形材料混合物を製造するために使用されるフェノール樹脂成分(i)の量によって、任意選択により、そのバインダーシステムの中のさらなるホルムアルデヒド捕捉剤(たとえば、上述のβ-ジカルボニル化合物)の存在、及び/又はホルムアルデヒド捕捉剤を含むコーティングを用いて製造される成形物が得られる可能性(この詳細については、後ほど説明する))によって、そしてさらには、バインダーシステムの反応性の要件、及び本発明のバインダーシステムを含む成形材料混合物から製造される成形物の強度の要件によって、決まってくる。
【0138】
本発明のバインダーシステムに、成分(iii)の中のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)以外のホルムアルデヒド捕捉剤が含まれていない場合には、物質e)の、対象相手のホルムアルデヒドの合計量に対するモル比は、好ましくは、4:1から1:1までである。本発明のバインダーシステムに、成分(iii)の中のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)に加えて、さらなるホルムアルデヒド捕捉剤が含まれているような場合には、全部のホルムアルデヒド捕捉剤の合計量の、対象相手のホルムアルデヒドの合計量に対するモル比が、好ましくは4:1から1:1までである。この文脈において、対象相手のホルムアルデヒドとは、そのバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)の中に存在している分子状ホルムアルデヒドg)と、バインダーの分解によって放出される可能性のあるホルムアルデヒドとの合計量を指しているが、これについては、ホルムアルデヒドの2種の放出限に関する先の説明を参照されたい。
【0139】
成形材料混合物を製造するために、本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)を、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の合計量が、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.1%~5.0%、好ましくは0.1%~3.5%、極めて好ましくは0.1%~2.0%、特別に好ましくは0.5%~2.0%となるように計量仕込みするのが特に好ましい。本発明のバインダーシステムの中の成分(iii)が、物質e)としてグリシンを含んでいるのならば、好ましくは、成形材料混合物を製造するために、成分(iii)を、グリシンの量が、その成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.1%~5.0%、好ましくは0.1%~3.5%、極めて好ましくは0.1%~2.0%、特別に好ましくは0.5%~2.0%となるように計量仕込みする。
【0140】
成形材料混合物は、典型的には、成形材料混合物を型の中に充填、吹込み、又は射出し、任意選択によりその後で、圧縮することによって、成形される。
【0141】
成形された成形材料混合物の中では、バインダーシステムが、好ましくは、熱を加えることなく硬化する。この目的のためには、そのバインダーシステムを硬化させるために、その成形された成形材料混合物を以下のものと接触させる:
- ガス状の第三級アミン、若しくは2種以上のガス状の第三級アミンの混合物、
又は
- 液状の第三級アミン、若しくは2種以上の液状の第三級アミンの混合物。
【0142】
ガス状の第三級アミン又は2種以上のガス状の第三級アミン混合物の存在下に、フェノール樹脂成分(i)及びポリイソシアネート成分(ii)を含むバインダーシステムを硬化させることは、ポリウレタンコールドボックスプロセスとして、従来技術から公知である。液状の第三級アミン又は2種以上の液状の第三級アミン混合物の存在下に、フェノール樹脂成分(i)及びポリイソシアネート成分(ii)を含むバインダーシステムを硬化させることは、ポリウレタンノーベークプロセスとして、従来技術から公知である。
【0143】
その第三級アミンは、好ましくは以下のもからなる群から選択される:トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、及びそれらの混合物。使用するための第三級アミンは、室温では液体であり、ポリウレタンコールドボックスプロセスで使用するためには、熱を加えることによって蒸発させ、その蒸発させた第三級アミンを、(任意選択により、キャリヤーガス気流の手段によって)、型の中に噴霧又は注入する。
【0144】
原理的には、熱を加えることによって、本発明のバインダーシステムを硬化させることもまた可能である。それに相当する技術は、当業者には公知である(たとえば、ホットボックスプロセス)。しかしながら、本発明においては、熱を加えてバインダーシステムを硬化させるのは好ましくない。
【0145】
本発明のプロセスにおいて製造される成形物には、本発明の第一の態様において、バインダーシステムを硬化させることにより形成された、ポリウレタンにより結合された成形材料基材が含まれる。本発明のプロセスにおいて製造された成形物にはさらに、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、及び/又は1種又は複数の、それらの物質e)とホルムアルデヒドとの反応によって形成された反応生成物が含まれる。本発明のプロセスの好ましい変法においては、製造された成形物に、e)グリシン、及び/又は1種又は複数の、グリシンとホルムアルデヒドとの反応によって形成された反応生成物が含まれる。
【0146】
そのような反応生成物は、本発明のプロセスにおいては、次の場合に生成する:第一には、成形材料混合物の製造の際に、分子状ホルムアルデヒドg)が、フェノール樹脂成分(i)に同伴した場合、第二に(そして特に)は、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムに熱を加えることによって硬化させた場合(これは、しかしながら、本発明においては好ましくない)、そしてさらには、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成された成形物を、加熱を伴うさらなる加工にかけた場合(詳細は後述)。その結果として、バインダーシステムを硬化させることによって形成された成形物にさらに、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)とフェノール樹脂成分(i)からの分子状ホルムアルデヒドg)との反応によって形成された、各種の1種又は複数の反応生成物、並びに1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される未反応の物質e)(これが、成形物をさらに加工する際に生成するホルムアルデヒドと結合して、不揮発性の反応生成物を形成し、それによって、その成形物からのホルムアルデヒドの放出を低減させる)が含まれているのが好ましい。本発明の第一の態様に関連した上述の観察は、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の好ましい濃度に関してもあてはまる。
【0147】
本発明のプロセスの第一のバージョンにおいては、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって生成する成形物が、押湯、鋳造用型、及び鋳造用中子からなる群からの物品である。別の言い方をすれば、本発明のプロセスによって得られる成形物が、さらなる加工ステップなしで、鋳造用中子、鋳造用型、又は押湯として使用することができる。鋳造用中子、鋳造用型、及び押湯、並びにそれらの「立体配置」、機能、及び使用は、当業者には公知である。
【0148】
本発明のプロセスの第二のバージョンにおいては、多重成形物を形成させ、それを組み合わせて、鋳造用型及び鋳造用中子、又は鋳造用型と単一の中子、若しくは複数の中子との組合せからなる群からの物品を形成させる。多重成形物からなるこのタイプの物品は、たとえば、中子パッケージとも呼ばれる。このタイプの組合せの鋳造用型及び鋳造用中子、又は鋳造用型と1種又は複数の中子との間のこのタイプの組合せは、特に、複雑な形状の鋳造品を製造する際には、必要とされる。相互に組み合わされる成形物は、その目的のために、相互に挿入され、特別な場合には、相互に、ねじ止め又は接着により結合される。
【0149】
本発明のプロセスのさらなるバージョンにおいては、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成された成形物を、さらなる加工ステップにかけて、鋳造用中子、鋳造用型、又は押湯を形成させるが、鋳造用中子、鋳造用型、及び押湯からなる群からの、そのようにして形成された物品には、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成された成形物が含まれる。
【0150】
本発明のプロセスの好ましい第一の特異的変法においては、そのさらなる加工ステップは、コーティングを用いて、その成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることにより形成される成形物を得ることである。この第一の特異的変法においては、本発明のプロセスには、以下のステップが含まれる:
- 製造される成形材料混合物の、成形材料基材を、本発明のバインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)、並びに任意選択によりさらなる成分と混合し、その成形材料混合物を成形し、そしてその成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させて、成形物を形成させることによって、成形材料混合物を製造するステップ、
- キャリヤー液体の中に分散された1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物をその成形物に塗布して、その表面にコーティング組成物を備えた領域を有する、コーティングされた成形物を形成させるステップ、
- そのコーティングされた成形物を、40℃より高い、好ましくは50℃~200℃の範囲の温度で加熱処理して、その表面に、1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが分散された領域を有する、鋳造用型及び鋳造用中子からなる群からの物品を形成させるステップ。
【0151】
キャリヤー液体の中に分散された1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物は、レフラクトリーコーティング組成物とも呼ばれる。このタイプのレフラクトリーコーティング組成物は、従来技術から公知であり、たとえば、特許出願の国際公開第2011/003637A1号パンフレットに記載されている。それらから形成されたコーティングは、「レフラクトリーコーティング」、又は「レフラクトリーコーティングをベースとするコーティング」とも呼ばれる。
【0152】
当業熟練者の通常の理解に合わせれば(参照:DIN 51060:2000-06)、「耐火性(refractory)」であると認識される化合物、物質、及び鉱物質は、鉄の溶融物、通常鋳鉄の鋳込み又は固化に含まれる温度曝露に、少なくとも短時間でも耐えうるようなものである。「高度に耐火性の(highly refractory)」化合物、物質、及び鉱物質は、鋼鉄の溶融物の鋳込みの熱に、短時間でも耐えうるものである。鋼鉄の溶融物を鋳込む際にかかる温度は、通常、鉄又は鋳鉄の溶融物を鋳込む際にかかるであろう温度よりは高い。耐火性の化合物、物質及び鉱物質(耐火物)、並びに高度に耐火性の化合物、物質、及び鉱物質は、たとえばDIN 51060:2000-06からも、当業者には公知である。特に断らない限り、粉末状の耐火物は、0.1μm~500μmの範囲、好ましくは1μm~200μmの範囲の平均粒径(好ましくは、ISO 13320:2009-10に従い、光散乱法により測定したもの)を有している。特に好適な耐火物は、使用される特定の金属の溶融物の温度より少なくとも200℃高い融点を有する物質、及び/又はその金属の溶融物といかなる反応も起こさない物質である。「耐火性」という用語には、本明細書で使用するとき、高度に耐火性の物質も含まれる。
【0153】
それらの耐火物は、レフラクトリーコーティングにおいて典型的に使用されるような耐火物から選択されるが、それらの例としては、以下のものからなる群から選択される耐火物が挙げられる:石英、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、非膨潤性フィロケイ酸塩、ケイ酸ジルコニウム、かんらん石、タルク、マイカ、グラファイト、コークス、長石、珪藻土、カオリン、焼成カオリン、メタカオリン、酸化鉄、及びボーキサイト。
【0154】
レフラクトリーコーティングをベースとするコーティングを製造するための組成物には、多くの場合、さらなる成分、たとえば湿潤剤、レオロジー添加剤、バインダー、懸濁助剤、及び/又は殺虫剤などが含まれている。適切な湿潤剤、レオロジー添加剤、バインダー、懸濁助剤、及び殺虫剤、並びにそれらの機能及び効果は、当業者には公知である。
【0155】
キャリヤー液体は、単に、その中に懸濁及び溶解されている物質を成形物に塗布するためのビヒクルとしての役目を果たしているだけであって、そのコーティングされた成形物を加熱処理することにより、除去される。標準条件下(25℃及び1013.25hPa)では、そのキャリヤー液体は、液体の形態にあり、そして、標準的な圧力下(1013.25hPa)、40℃より高い、好ましくは50℃~200℃の範囲の温度で、蒸発させることができる。キャリヤー液体は、好ましくは、水、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールからなる群から選択される。
【0156】
コーティング組成物を成形物に塗布する方法は、典型的には、以下のものからなる群から選択される:噴霧法、浸漬法、フローコーティング法、及び塗装法、好ましくは浸漬法。
【0157】
コーティングされた成形物を、40℃より高い、好ましくは50℃~200℃の範囲の温度で加熱処理することによって、その塗布したコーティング組成物からキャリヤー液体を除去する。1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含む、そのようにして得られたコーティングは、鋳造用型又は鋳造用中子の表面を形成し、それが、鋳込みの際に金属の溶融物と接触することになる。
【0158】
成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成される成形物を熱曝露させると、多くの場合、分子状ホルムアルデヒドが生成する。本発明のプロセスにおいて、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成される成形物を、たとえば上述の本発明のプロセスの第一の特異的変法におけるような、加熱処理を伴うさらなる加工ステップにかける場合には、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成される成形物が、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)を含み、前記成形物のさらなる加工の際に発生するホルムアルデヒドを、不揮発性の反応生成物を形成させることにより結合し、それによってホルムアルデヒドの放出を低減させるのが好ましい。
【0159】
上述の本発明のプロセスの第一の特異的変法において特に好適に採用されるのは、キャリヤー液体の中に分散された、1種又は複数の耐火物の粒子状物質、及びさらには、1種又は複数の、ホルムアルデヒドと反応することによって不揮発性の化合物を形成することが可能な化合物を含み、それによって、そのコーティング組成物のキャリヤー液体を除去するための加熱処理の際のホルムアルデヒドの放出がさらに低減される、コーティング組成物である。このタイプのコーティング組成物、及びさらには、それらの調製法、使用、及び効果については、独国特許出願公開第10 2018 118 291.0号明細書に記載されている(これは、同一の出願人からの特許出願であるが、本特許出願の優先日では未公開である)。
【0160】
上述の本発明のプロセスの第一の特異的変法において特に好ましいのは、以下のものからなる群からの、1種又は複数のホルムアルデヒド捕捉剤を含むコーティング組成物を使用することである:
- β-ジカルボニル化合物
- ジ-及びトリ-水酸基フェノール
- フェノール-ホルムアルデヒドノボラック及びレソルシノール-ホルムアルデヒドノボラック
- アミノ酸
- 第一級及び第二級アミノシラン
- アルカリ金属亜硫酸水素塩
- メラミン、ベンゾグアナミン、尿素、及びそれらの誘導体
- ヒドラジン及びカルボノヒドラジド、並びにそれらの誘導体
- 第一級及び第二級アミン
- 木の樹脂(tree resin)、タンニン、及びリグニン。
【0161】
コーティングされた成形物を加熱処理することにより生成するホルムアルデヒドは、その塗布されたコーティング組成物に含まれるホルムアルデヒド捕捉剤と結合されて、不揮発性の反応生成物を形成するが、そのため、そのコーティング組成物から形成されたコーティングには、コーティング組成物の中に含まれるホルムアルデヒド捕捉剤とホルムアルデヒドとの反応によって形成された1種又は複数の反応生成物が含まれる。
【0162】
ホルムアルデヒドの放出を最大限に低減させるためには、ある種の場合においては、本発明のプロセスにおいて、
- その成形材料混合物で、そのフェノール樹脂成分(i)が、
g)0.1%未満、より好ましくは0.08%未満、極めて好ましくは0.05%未満の濃度の分子状ホルムアルデヒド、及び
h)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物、
を含む本発明のバインダーシステムを使用して製造され、
(ここで、濃度は、それぞれの場合において、フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準としたものである)、
そして、
- 成分(iii)と共に成形材料混合物の中に導入されるアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の濃度が、フェノール樹脂成分(i)と共に成形材料混合物の中に導入される分子状ホルムアルデヒドg)に対して、過剰モルとなるように調節され、
そして、
- そのコーティングが、1種又は複数の、ホルムアルデヒドと反応することによって不揮発性の化合物を形成することが可能な化合物を含むコーティング組成物を使用して製造されることが好ましい。
【0163】
本発明のプロセスの好ましい第二の特異的変法には、以下のステップが含まれる:
- 成形材料基材を、本発明のバインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)、並びに任意選択によりその製造される成形材料混合物のさらなる成分と混合することにより、成形材料混合物を製造するステップ、
- 成形材料混合物を成形し、その成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって、成形物を製造するステップ、
- キャリヤー液体の中に分散された1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物をその成形物に塗布して、その表面にコーティング組成物を備えた領域を有する、コーティングされた成形物を形成させるステップ、
- そのコーティングされた成形物を、1種又は複数の、前述の成形材料混合物又はまた別の成形材料混合物を成形することによって製造されるさらなる成形物と組合せ、そしてその成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させて、組合わされた成形物を形成させるステップ、
- その組合わされた成形物を、40℃よりは高い、好ましくは50℃~200℃の範囲の温度で加熱処理して、その表面に、1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配された、鋳造用型及び鋳造用中子及び鋳造用型と中子との組合せからなる群からの物品を得るステップ。
【0164】
本発明のプロセスのこの第二の特異的変法においては、鋳造用型及び鋳造用中子、又は1種の中子又は2種以上の中子を備えた鋳造用型の組合せからなる群からの物品を形成させる組合せを意図した、多重成形物が製造される。これらの成形物の少なくとも一つは、本発明の上述の第一の態様に従った、バインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)を含む成形材料混合物を成形し、そしてその成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることにより製造される。この成形物に塗布されるのは、キャリヤー液体の中に分散された1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物であり、その表面にコーティング組成物を備えた領域を有する、コーティングされた成形物が形成される。そのさらなる成形物は、同一の成形材料混合物を使用しても、或いは異なった成形材料混合物しても、製造される。この異なった成形材料混合物には、本発明によらないバインダーシステムが含まれていてもよい。キャリヤー液体の中に分散された、1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物を、そのさらなる成形物の、一つ、二つ以上、又は全部に塗布して、その表面に、コーティング組成物を用いて備えられた領域を有する、コーティングされた成形物を形成させてもよい。次いで、本発明のバインダーシステムを含む成形材料混合物から製造された、少なくとも1種のコーティングされた成形物を含む、そのようにして製造された成形物を組み合わせて、組合わされた成形物を形成させる。
【0165】
その組み合わされた成形物を、40℃より高い、好ましくは50℃~200℃の範囲の温度で加熱処理することによって、その塗布したコーティング組成物からキャリヤー液体を除去する。1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含む、そのようにして得られたコーティングは、鋳造用型又は鋳造用中子の表面を形成し、それが、鋳込みの際に金属の溶融物と接触することになる。
【0166】
この本発明のプロセスの第二の特異的変法においては、同様に、本発明のプロセスの第一の特異的変法の文脈において先に説明したようなコーティング組成物を採用するのが好ましく、前記組成物には、キャリヤー液体の中に分散された、1種又は複数の耐火物の粒子状物質、及びさらにはホルムアルデヒドと反応して不揮発性の化合物を形成することが可能な1種又は複数の化合物が含まれ、それによって、そのコーティング組成物のキャリヤー液体を除去するための加熱処理の際のホルムアルデヒドの放出が、さらに低減される。
【0167】
この本発明のプロセスの第二の特異的変法において特に好ましいのは、本発明の上述の第一の態様によるバインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)を含む成形材料混合物を成形し、そしてその成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることにより組み合わせて、成形物全体を製造することである。したがって、本発明のプロセスの第二の特異的変法に従ったプロセスに、以下のステップを含むのが好ましい:
- 先に説明したような本発明の第一の態様におけるバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)及びポリイソシアネート成分(ii)を、成形材料基材並びに任意選択により製造されるその成形材料混合物のさらなる成分と混合することにより、成形材料混合物を製造するステップ、
- それぞれの場合において、その成形材料混合物を成形し、そしてその成形された成形材料混合物のバインダーシステムを硬化させることによって、2種以上の成形物を製造するステップ、
- その成形物の1種、2種以上又は全部に対して、キャリヤー液体の中に分散された、1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物を塗布して、その表面にコーティング組成物を用いて備えられた領域を有する、コーティングされた成形物を形成させるステップ、
- その成形物の1種、2種以上、又は全部がコーティングされた成形物である、それらの成形物を組み合わせて、組合わされた成形物を形成させるステップ、
- その組合わされた成形物を、40℃よりは高い、好ましくは50℃~200℃の範囲の温度で加熱処理して、その表面に、1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配されている、鋳造用型及び鋳造用中子及び鋳造用型と中子との組合せからなる群からの物品を得るステップ。
【0168】
本発明の第四の態様は、鋳造用型及び鋳造用中子からなる群からの物品に関する。そのような物品は、上述の本発明の第三の態様に従ったプロセスによって製造することができる。
【0169】
このタイプの物品には、典型的には、以下のものを含む成形物が含まれる:
- 本発明のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された、成形材料基材、
- 及びさらには、1種又は複数のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、及び/又はそれらとホルムアルデヒドとの反応生成物。
【0170】
このタイプの物品には、典型的には、以下のものを含む成形物が含まれる:
- 本発明の第一の態様におけるバインダーシステムの、フェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成されたポリウレタンを硬化させることによって結合された成形材料基材、
- 及びさらには、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、及び/又は1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)とホルムアルデヒドとの、1種又は複数の反応生成物。
【0171】
ある種の場合においては、そのような物品には、以下のものを含む成形物が含まれる:
- 本発明の第一の態様において、本発明のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、好ましくは、バインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成された、硬化されたポリウレタンによって結合された成形材料基材、
- 及びさらには、1種又は複数のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)とホルムアルデヒドとの、1種又は複数の反応生成物。
【0172】
本発明の物品には、好ましくは、以下のものを含む成形物が含まれる:
- 本発明の第一の態様において、本発明のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、好ましくは、バインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成された、硬化されたポリウレタンによって結合された成形材料基材、
- 並びにさらには、グリシン及び/又はそれとホルムアルデヒドとの反応生成物。
【0173】
第一の特異的実施態様においては、本発明の物品には、以下のものを含む成形物が含まれる:
- 上述のような本発明の第一の態様において、本発明のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、好ましくは、バインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成された、硬化されたポリウレタンによって結合された成形材料基材、
- 及びさらには、1種又は複数のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)とホルムアルデヒドとの反応により形成される、1種又は複数の反応生成物、
ここで、その物品の表面は、その中に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配されている、領域を有している。
【0174】
この第一の特異的実施態様においては、本発明の物品は、本発明の上述の第一の態様に従って、バインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、及びさらには、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)をホルムアルデヒドと反応させることによって形成される、1種又は複数の反応生成物を含む。その物品の表面は、その中に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配されている、領域を有している。そのコーティングが、鋳込みの際に金属の溶融物と接触状態となる鋳造用型及び鋳造用中子の表面を形成している。この場合、そのコーティングが、その物品の表面全体に広がる必要はない。そのようなコーティングは、一般的には、レフラクトリーコーティングと呼ばれている。
【0175】
この第一の特異的実施態様における本発明の物品は、上述の第一の特異的変法に従って、本発明のプロセスによって製造することが可能である。
【0176】
この第一の特異的実施態様による物品は、好ましくは、以下のものを含む成形物を含んでいる:
- 本発明の第一の態様において、本発明のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、好ましくは、バインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成された、硬化されたポリウレタンによって結合された成形材料基材、
- 及びさらには、グリシンとホルムアルデヒドとの反応によって形成される、1種又は複数の反応生成物、
ここで、その物品の表面は、その中に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配されている、領域を有している。
【0177】
第二の特異的実施態様においては、本発明の物品には、相互に組み合わされた多重成形物が含まれるが、ここで、その相互に組み合わされた成形物には、以下のものが含まれる:
- 上述のような本発明の第一の態様において、本発明のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、好ましくは、バインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成された、硬化されたポリウレタンによって結合された成形材料基材、
- 及びさらには、1種又は複数のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)とホルムアルデヒドとの反応により形成される、1種又は複数の反応生成物、
ここで、その物品の表面は、その中に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配されている、領域を有している。
【0178】
この第二の特異的実施態様においては、本発明の物品には、相互に組み合わされた多重成形物が含まれる。相互に組み合わされた成形物の少なくとも一つには、本発明の上述の第一の態様に従って、バインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、及びさらには、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)をホルムアルデヒドと反応させることによって形成される、1種又は複数の反応生成物が含まれる。好ましくは、相互に組み合わされた成形物の全部に、本発明の上述の第一の態様に従って、バインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、及びさらには、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)をホルムアルデヒドと反応させることによって形成される、1種又は複数の反応生成物が含まれる。その物品の表面は、その中に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配されている、領域を有している。そのコーティングが、鋳込みの際に金属の溶融物と接触状態となる鋳造用型及び鋳造用中子の表面を形成している。この場合、そのコーティングが、その物品の表面全体に広がる必要はない。そのようなコーティングは、一般的には、レフラクトリーコーティングと呼ばれている。
【0179】
この第二の特異的実施態様における本発明の物品は、上述の第二の特異的変法に従って、本発明のプロセスによって製造することが可能である。
【0180】
この第二の特異的実施態様による物品は、好ましくは、相互に組み合わされた多重成形物を含み、その相互に組み合わされた成形物の少なくとも一つには、以下のものが含まれる:
- 上述のような本発明の第一の態様において、本発明のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、好ましくは、バインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成された、硬化されたポリウレタンによって結合された成形材料基材、
- 及びさらには、グリシンとホルムアルデヒドとの反応によって形成される、1種又は複数の反応生成物、
ここで、その物品の表面は、その中に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配されている、領域を有している。
【0181】
本発明の特に好ましい物品においては、そのコーティングには、ホルムアルデヒドと、以下のものからなる群から選択される1種又は複数の化合物との反応によって形成される反応生成物が含まれる:
- β-ジカルボニル化合物
- ジ-及びトリ-水酸基フェノール
- フェノール-ホルムアルデヒドノボラック及びレソルシノール-ホルムアルデヒドノボラック
- アミノ酸
- 第一級及び第二級アミノシラン
- アルカリ金属亜硫酸水素塩
- メラミン、ベンゾグアナミン、尿素、及びそれらの誘導体
- ヒドラジン及びカルボノヒドラジド、並びにそれらの誘導体
- 第一級及び第二級アミン
- 木の樹脂(tree resin)、タンニン、及びリグニン;
別の言い方をすれば、このタイプの特に好ましい物品においては、そのコーティングに、そのコーティング組成物の中に存在しているホルムアルデヒド捕捉剤と、そのコーティングされた成形物を加熱処理する際に形成されるホルムアルデヒドとの反応によって形成される、反応生成物が含まれる。
【0182】
本発明のさらなる態様は、以下のことに関連する:
- 上述の本発明の第一の態様におけるバインダーシステムを製造するため、及び上述の本発明の第二の態様における成形材料混合物を製造するための、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、特にグリシンの使用、
- 鋳造用型、鋳造用中子、及び押湯からなる群からの物品を製造するための、本発明の上述の第一の態様におけるバインダーシステムの使用、
- 本発明の上述の第三の態様に記載のプロセスにおける、本発明の上述の第一の態様におけるバインダーシステムの使用(ここで、本発明のプロセスにおいては、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成される成形物は、熱を加えるさらなる加工にかけてもよい)、
- 本発明の上述の第三の態様に記載のプロセスにおける、本発明の上述の第一の態様におけるバインダーシステムの使用(ここで、本発明のプロセスには、その中に、成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させることによって形成された成形物の加熱処理が存在する、さらなる加工ステップが含まれていてもよい)、
- 熱曝露により成形物から放出される分子状ホルムアルデヒドを、不揮発性の反応生成物を形成させることにより、結合させるためのアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質の使用(ここでその成形物には、先に説明したような、本発明の第一の態様におけるバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、好ましくは先に説明したような、本発明の第一の態様におけるバインダーシステムの、フェノール樹脂成分(i)のフェノール樹脂及びポリイソシアネート成分(ii)の中のポリイソシアネートから形成されるポリウレタンを硬化させることによって結合された成形材料基材、が含まれる)。その成形材料基材には、好ましくは、部分的に、再循環した鋳造用砂が含まれている。
【0183】
本発明の第一の態様に関連した上述の観察は、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される好ましい物質e)に関してもあてはまる。
【0184】
本発明の第一の態様に関連した上述の観察は、そのバインダーシステムの好ましい特色及び実施態様に関してもあてはまる。
【0185】
本発明の第三の態様に関連した上述の観察は、このプロセスの好ましい特色、バージョン(version)及び変法(variant)に関してもあてはまる。
【実施例
【0186】
以後において、加工実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに説明する。
【0187】
1.バインダーシステムの組成
%で表した数字は、フェノール樹脂成分(i)、ポリイソシアネート成分(ii)及び/又は成分(iii)の合計質量を基準したものである。それらの成分は、空間的に互いに分離されている、すなわち、それらが別々の容器の中に存在している。
【0188】
バインダーシステムI
フェノール樹脂成分(i):
フェノール樹脂a):末端メチロール基CH2OH、及びさらにはメタノール-エーテル化末端メチロール基-CH2OCH3を有するオルト,オルト’-縮合型レゾール、54.5%
溶媒b):C4~C6ジカルボン酸のジアルキルエステルと、ナタネ油メチルエステルとの混合物
イソシアネート成分(ii):
イソシアネートc):ポリメリックMDI、85%
溶媒d):ナタネ油メチルエステル
【0189】
バインダーシステムII
フェノール樹脂成分(i):
フェノール樹脂a):末端メチロール基CH2OH、及びさらにはメタノール-エーテル化末端メチロール基-CH2OCH3を有するオルト,オルト’-縮合型レゾール、53.5%
溶媒b):C4~C6ジカルボン酸のジアルキルエステルと、ナタネ油メチルエステルとの混合物
イソシアネート成分(ii):
イソシアネートc):ポリメリックMDI、80%
溶媒d):ケイ酸テトラエチル
【0190】
バインダーシステムIII
フェノール樹脂成分(i):
フェノール樹脂a):末端メチロール基CH2OH、及びさらにはメタノール-エーテル化末端メチロール基-CH2OCH3を有するオルト,オルト’-縮合型レゾール、52%
溶媒b):C4~C6ジカルボン酸のジアルキルエステルと、芳香族炭化水素との混合物
イソシアネート成分(ii):
イソシアネートc):ポリメリックMDI、81%
溶媒d):C10~C13アルキルベンゼン
【0191】
バインダーシステムI、II、及びIIIのそれぞれにおける本発明ではない変法は、上に示した成分(i)及び(ii)からなっており、それらの成分は、相互に空間的に分離されている、すなわち別々の容器の中に存在している。
【0192】
バインダーシステムIについては、成分(iii)の組成が異なる、本発明のまた別の変法を試験したが、それらは、それぞれの場合において、別々の容器で備えた。グリシンの濃度は、それぞれの場合において、成分(iii)の合計質量を基準にしたものである。
【0193】
成分(iii)変法1
アミノ酸e):グリシン、100%
【0194】
成分(iii)変法2
アミノ酸e):グリシン、25%
さらなる成分f):Sand H32
【0195】
成分(iii)変法3
アミノ酸e):グリシン、25%
さらなる成分f):木粉、酸化鉄、
上で示したバインダーシステムIのフェノール樹脂成分(i)に相当する組成物と混合したが、変法3での成分(iii)における固体の割合は、変法3での成分(iii)の合計質量を基準にして、少なくとも80%である。
【0196】
成分(iii)変法4a
アミノ酸e):グリシン、25%
さらなる成分f):デンプン、酸化鉄
【0197】
成分(iii)変法4b
アミノ酸e):グリシン、50%
さらなる成分f):デンプン、酸化鉄。
【0198】
成分(iii)の変法3、4a及び4bのさらなる成分f)は、成形材料混合物では慣用されている添加剤混合物の成分である。そのような添加剤は、従来技術であり、鋳込み欠陥を防止するために使用されている。比較のために、成分(iii)に、それぞれ比較用の添加剤3又は4を置き換えて、本発明ではない成形材料混合物を製造したが、それぞれは、上述の、成分(iii)の変法3又は4a及び4bのさらなる成分を含んでいるが、尿素及びアミノ酸からなる群から物質は含んでいない。比較用添加剤3において、成分(iii)の変法3のさらなる成分は、成分(iii)の変法3に対して、相対的に、同じ濃度比で存在させる。比較用添加剤4において、成分(iii)の変法4a及び4bのさらなる成分は、成分(iii)の変法4a及び4bに対して、相対的に、同じ濃度比で存在させる。
【0199】
本発明のバインダーシステムII及びIIIの変法それぞれにおいては、上述の変法1での成分(iii)を使用した。
【0200】
2.試験片(コールドボックスプロセス)の製造
成形材料基材としてのH32ケイ砂を含む成形材料混合物、並びにセクション1に記載した、バインダーシステムI、II及びIIIの一つのそれぞれの場合における一つの(本発明であるか、又は本発明ではない)変法を使用し、コールドボックスプロセスにより、曲げ用試験バー(186mm×22mm×11mm)の形状の試験片を作製した。
【0201】
成形材料混合物を製造するために、混合容器の中に、成形材料基材(100質量部)を仕込んだ。次いで、それぞれのバインダーシステムのフェノール樹脂成分(i)(0.7質量部)及びポリイソシアネート成分(ii)(0.7質量部)並びに、必要に応じて、成分(iii)(質量部については、以下の表参照)又は先に説明したような比較用添加剤を、それらの成分が直接混合されることが回避されるような方法で、その混合容器の中に量り込んだ。成形材料基材、フェノール樹脂成分(i)、ポリイソシアネート成分(ii)、及び必要に応じて、成分(iii)(質量部については、以下の表参照)又は比較用添加剤を、ブルミキサー(bull mixer)中、レベル4で、120秒間混合して、成形材料混合物を得た。
【0202】
成形材料混合物を、Multiserw中子射出成形機を用い、4bar(400kPa)の射出圧力で成形した。その成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させるために、その混合物を、ジメチルプロピルアミン(キャリヤーガス気流中)を用い、Titronic 110 Plusガス化装置の手段により、20~30℃の範囲の温度、2bar(200kPa)のガス化圧力で、10秒間かけてガス化させた。
【0203】
3.加熱処理でのホルムアルデヒド放出の測定
選択された、レフラクトリーコーティングをベースとするコーティングなしの試験片を、筒状オーブン中で、177℃の温度に曝露させた。177℃に加熱されたオーブンの中に試験片を導入してから1分後から、オーブン空気中のホルムアルデヒド濃度の測定を開始した。この目的のためには、その筒状オーブンからLpDNPHカートリッジ(LpDNPH Cartridge S10 容積3mL、Supelco製)を介し、Xact 5000ポンプ(Draeger製)を使用して、1.5L/分の流速で10分間、空気を抜きだす。そのカートリッジを、DIN 16000-3に従って、HPLCにより分析した。その測定結果を、以下の表1~3に示す。
【0204】
4.曲げ強度の測定
成形材料混合物にグリシンを添加しても、バインダーシステムI~IIIを用いて製造した成形物の強度に悪影響がないことを確認する目的で、バインダーシステムI~IIIの各種の変法を用いて製造した試験片について、各種のパラメーター(硬化終了後の経過時間、成形するまでの成形材料混合物の貯蔵時間、製造した試験片の貯蔵条件、レフラクトリーコーティングをベースとするコーティング)の関数として、曲げ強度を調べた。それぞれの測定は、別々に製造した試験片について実施した。その測定結果を、以下の表1及び2に示す。これらの表の中の用語は、以下のような意味合いを有している:
B-1h:硬化後直ちに試験片をレフラクトリーコーティング組成物の中に浸漬させ、ダイジェスター中、室温で保存し、1時間後に試験。
B-24h:硬化後直ちに試験片をレフラクトリーコーティング組成物の中に浸漬させ、ダイジェスター中、室温で保存し、24時間後に試験。
B-72h:硬化後直ちに試験片をレフラクトリーコーティング組成物の中に浸漬させ、ダイジェスター中、室温で保存し、72時間後に試験。
D-1h:硬化後直ちに試験片をレフラクトリーコーティング組成物の中に浸漬させ、オーブン中、150℃で1時間乾燥、室温に冷却してから試験。
【0205】
そのレフラクトリーコーティング組成物には、それぞれの場合において、キャリヤー液体としての水、及び耐火物としてのケイ酸アルミニウムの粒子状物質が含まれている。
F-24h:硬化後直ちに試験片を100%相対湿度、室温で24時間保存し、貯蔵状態から取り出してから直ちに試験。
F-72h:硬化後直ちに試験片を100%相対湿度、室温で72時間保存し、貯蔵状態から取り出してから直ちに試験。
【0206】
5.結果のまとめ
試験したバインダーシステムでは、成分(iii)の中のアミノ酸e)としてグリシンを使用した場合、約20~50%のホルムアルデヒドの放出低減が達成され、十分な曲げ強度を保持していた。添加したアミノ酸e)の量は、成形材料基材の100質量部を基準にして、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.25~2質量部である(表1参照)。
【0207】
ホルムアルデヒド放出の低減に関する限り、アミノ酸e)を純粋な形で添加するか(変法1)、或いは成形材料基材を含む混合物の一部として添加するか(変法2)、或いは成形材料混合物のための典型的な添加剤混合物の成分との混合物の一部として添加するか(変法3、4a、4b)では、実質的な差はない(表3参照)。1種又は複数の、いずれの場合にも、所望される成形材料混合物(たとえば、それぞれの成形材料基材、又はそれぞれのフェノール樹脂成分)の中に存在しているか、又は所望される成形材料混合物に典型的に添加される(たとえば、鋳込み欠陥を防止するための添加剤混合物)さらなる成分f)との混合物の一部としてアミノ酸e)を添加することは、実用的なメリットがあるが、その理由は、アミノ酸e)の添加及び計量が、容易となるからである。
【0208】
6.さらなる実施例
社内での検討では、他のアミノ酸、特にはグルタミン、アラニン、バリン、及びセリンからなる群からのもの、並びに尿素も、ホルムアルデヒド放出の低減には、同様の効果を有していることが見出された。
【0209】
【表3】
【0210】
【表4】
【0211】
【表5】
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕バインダーシステムであって、
(i)次のものを含む、フェノール樹脂成分:
a)1種又は複数のフェノール樹脂
b)溶媒
(ここで、前記フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準にして、前記フェノール樹脂a)の濃度が、40%~60%である)
(ii)次のものを含むポリイソシアネート成分:
c)1種又は複数の、1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネート
(ここで、前記ポリイソシアネート成分(ii)の合計質量を基準にして、前記イソシアネートc)の濃度が、60%~100%である)
(iii)次のものを含むさらなる成分:
e)1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、
(ここで、前記成分(iii)の合計質量を基準にして、前記アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の合計濃度が、0.1%~100%である)
を含み、
ここで、成分(i)、(ii)、及び(iii)が、互いに、空間的に分離されている、バインダーシステム。
〔2〕前記アミノ酸e)が、アラニン、グリシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、メチオニン、セリン、トレオニン、チロシン、リシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選択される、前記〔1〕に記載のバインダーシステム。
〔3〕前記フェノール樹脂成分(i)において、
a)前記フェノール樹脂が、
- 非エーテル化末端メチロール基
及び/若しくは
- エーテル化末端メチロール基
を含むオルト,オルト’-縮合型レゾールであり、
並びに/又は
b)前記溶媒が
- C 4 ~C 6 ジカルボン酸のジアルキルエステル、
- 飽和及び不飽和脂肪酸アルキルエステル、
- アルキレンカーボネート、
- カシューナッツシェル油、カシューナッツシェル油の複数の成分、及びカシューナッツシェル油の誘導体からなる群からの物質、
- 液状の炭化水素、
- アルキルシラン、アルキル/アルコキシシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン、アルキル/アルコキシシロキサン、及び式(I)のアルコキシシロキサン
の群からの化合物、
【化1】
[式中、nは、0~20の整数であり、且つ
それぞれのRは、他のRから独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基及び1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基の群から選択される]
並びに、それらの混合物からなる群から選択される、前記〔1〕又は〔2〕のいずれか一項に記載のバインダーシステム。
〔4〕前記フェノール樹脂成分(i)がさらに、
g)分子状ホルムアルデヒド(0.1%未満の濃度)、
及び/又は
h)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物、及びこれらのβ-ジカルボニル化合物をホルムアルデヒドと反応させることにより形成される反応生成物、
及び/又は
i)前記フェノールの群からのモノマー性化合物(10%以下の濃度)、
(ここで、それらの濃度は、それぞれの場合において、フェノール樹脂成分(i)の合計質量を基準としたものである)、
を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のバインダーシステム。
〔5〕前記ポリイソシアネート成分(ii)において、
c)以下のものからなる群から選択される、1分子あたり少なくとも2個のイソシアネート基を有するイソシアネート:
- メチレンビス(フェニルイソシアネート)、
- ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、
- 脂肪族イソシアネート、
- 脂環族イソシアネート、
- 1分子あたり、少なくとも2個のイソシアネート基及び1個のカルボジイミド基を有するイソシアネート、
- 1分子あたり、少なくとも2個のイソシアネート基及びウレトンイミン基を有するイソシアネート、
及び/又は、前記ポリイソシアネート成分(ii)がさらに、
d)溶媒、
ここで前記溶媒が、好ましくは、以下のものからなる群から選択される:
- C 4 ~C 6 ジカルボン酸のジアルキルエステル、
- 飽和及び不飽和脂肪酸アルキルエステル、
- アルキレンカーボネート、
- 液状の炭化水素、
- アルキルシラン、アルキル/アルコキシシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン、アルキル/アルコキシシロキサン、及び式(I)のアルコキシシロキサン
の群からの化合物、
【化2】
[式中、nは、0~20の整数であり、且つ
それぞれのRは、他のRから独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基及び1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基の群から選択される]
並びに、それらの混合物、
を含み、
及び/又は
前記ポリイソシアネート成分(ii)がさらに、
m)1種又は複数のβ-ジカルボニル化合物(ここで、前記β-ジカルボニル化合物の濃度が、前記ポリイソシアネート成分の合計質量を基準にして、1%~38%である)
を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のバインダーシステム。
〔6〕成形材料混合物であって、
成形材料基材、
並びに、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の、バインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)、
を含む成形材料混合物。
〔7〕ホルムアルデヒドと、1種又は複数のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)との、1種又は複数の反応生成物をさらに含む、前記〔6〕に記載の成形材料混合物。
〔8〕前記成形材料混合物が、
- 未反応の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、
及び、
- アミノ酸及び尿素からなる群から選択される、ホルムアルデヒドとの反応生成物の中に結合された、物質e)
を含む、前記〔6〕又は〔7〕のいずれか一項に記載の成形材料混合物。
〔9〕- 未反応のアミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、
及び、
- ホルムアルデヒドとの反応生成物の中に結合された、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、
の合計量が、前記成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.1%~5.0%である、前記〔6〕~〔8〕のいずれか一項に記載の成形材料混合物。
〔10〕成形物を製造するためのプロセスであって、前記プロセスが、
- 成形材料基材を、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の、バインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)と混合することにより、成形材料混合物を製造するステップ、
- 前記成形材料混合物を成形するステップ、
- 前記成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させて、成形物を形成するステップ
を含む、プロセス。
〔11〕前記成形材料混合物が、
- 前記バインダーシステムの成分(i)及び(ii)を、前記バインダーシステムの成分(i)及び(ii)の合計濃度が、前記成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.6%~14%になるように、計量仕込みするか、
及び/又は
- 前記バインダーシステムの成分(i)及び(ii)を、前記イソシアネートc)の中のイソシアネート基の、前記フェノール樹脂a)の中のヒドロキシル基に対する化学量論比が、0.5~1.5の範囲に入るように、計量仕込みするか、
及び/又は
- 前記バインダーシステムの成分(iii)を、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)の合計量が、前記成形材料混合物の合計質量を基準にして、0.1%~5.0%となるように、計量仕込みする、
ことによって製造される、前記〔10〕に記載のプロセス。
〔12〕成分(iii)と共に前記成形材料混合物の中に導入される、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される前記物質e)の濃度が、前記フェノール樹脂成分(i)と共に前記成形材料混合物の中に導入される分子状ホルムアルデヒドg)の量に対して、過剰モルである、前記〔10〕又は〔11〕に記載のプロセス。
〔13〕前記バインダーシステムが、前記成形された成形材料混合物を、
- ガス状の第三級アミン、若しくは2種以上のガス状の第三級アミンの混合物、
又は
- 液状の第三級アミン、若しくは2種以上の液状の第三級アミンの混合物、
と接触させることによって、前記成形された成形材料混合物の中で硬化される、前記〔10〕~〔12〕のいずれか一項に記載のプロセス。
〔14〕- 成形材料基材を、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のバインダーシステムの成分(i)、(ii)、及び(iii)と混合し、前記成形材料混合物を成形し、そして前記成形された成形材料混合物の中のバインダーシステムを硬化させて成形物を得ることにより、成形材料混合物を製造するステップ、
- キャリヤー液体の中に分散された1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティング組成物を前記成形物に塗布して、その表面に前記コーティング組成物を備えた領域を有する、コーティングされた成形物を形成させるステップ、
- 前記コーティングされた成形物を、50℃~200℃の範囲の温度で加熱処理して、その表面に1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングが配された領域を有する、鋳造用型及び鋳造用中子からなる群からの物品を形成させるステップ、
を含む、前記〔10〕~〔13〕のいずれか一項に記載のプロセス。
〔15〕鋳造用型及び鋳造用中子からなる群からの物品であって、前記〔10〕~〔14〕のいずれかに記載のプロセスで製造することが可能であり、
及び/又は
- 前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材、
- 及びさらには、1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)、及び/又は1種又は複数の、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質e)とホルムアルデヒドとの、1種又は複数の反応生成物、
を含む成形物を含む、物品。
〔16〕前記物品の表面が、1種又は複数の耐火物の粒子状物質を含むコーティングがその中に配されている領域を有する、前記〔15〕に記載の物品。
〔17〕前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のバインダーシステム、又は前記〔6〕~〔9〕のいずれかに記載の成形材料混合物を製造するための、
e)アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質、
の使用。
〔18〕不揮発性の反応生成物を形成させることによる、熱負荷の下で成形物から放出される前記分子状ホルムアルデヒドを結合するための、アミノ酸及び尿素からなる群から選択される物質の使用であって、前記成形物が、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のバインダーシステムを硬化させることによって形成されるポリウレタンによって結合された成形材料基材を含む、使用。