(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ガラス組成物、ガラス、ガラス繊維及びそのガラス繊維を含む製品
(51)【国際特許分類】
C03C 3/093 20060101AFI20240405BHJP
C03C 3/118 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C03C3/093
C03C3/118
(21)【出願番号】P 2022144060
(22)【出願日】2022-09-09
【審査請求日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520409925
【氏名又は名称】富喬工業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】シュイ ウェン ホー
(72)【発明者】
【氏名】チェン ピー チョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン チー ユアン
(72)【発明者】
【氏名】リー ユエ ホン
(72)【発明者】
【氏名】ルオ ウェイ チー
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/187471(WO,A1)
【文献】特開平09-295827(JP,A)
【文献】特表2005-506267(JP,A)
【文献】特表2018-518440(JP,A)
【文献】特開平06-263479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
総量を100wt%として、
含有量が49wt%~59wt%の範囲内にあるSiO
2と、
含有量が9.5wt%~14.5wt%の範囲内にあるAl
2O
3と、
含有量が19wt%~35wt%の範囲内にあるB
2O
3と、
含有量が2wt%~5wt%の範囲内にあるCaOと、
含有量が0.25wt%~3wt%の範囲内にあるZnOと、
含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあるMgOと、
含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあるTiO
2と、
含有量が0wt%~3wt%の範囲内にあるZrO
2と、
含有量が0.1wt%~3.5wt%の範囲内にあるMnOと、
含有量が0wt%を超え、且つ3wt%以下のF
2
と、
を含むことを特徴とする、ガラス組成物。
【請求項2】
総量を100wt%として、含有量が0.5wt%以下のNa
2Oを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
総量を100wt%として、含有量が0.5wt%以下のK
2Oを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項4】
総量を100wt%として、含有量が1wt%以下のFe
2O
3を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のガラス組成物
からなることを特徴とする、ガラス。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のガラス組成物
からなることを特徴とする、ガラス繊維。
【請求項7】
請求項
6に記載のガラス繊維を含むことを特徴とする、製品。
【請求項8】
プリント基板、集積回路基板またはレーダードームから選ばれることを特徴とする、請
求項
7に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、ガラス及びガラス繊維に関し、特に優れた紡糸の成形ウィンドウ(forming window)を有するガラス組成物、該ガラス組成物を含み低誘電率(low dielectric constant)及び低誘電正接(low dielectric loss tangent)を有するガラス及びガラス繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、泡数が少なく誘電率の低いガラス組成物及びガラス繊維が開示されている。
該ガラス組成物は、52wt%~58wt%の範囲内にあるSiO2と、12wt%~16wt%の範囲内にあるAl2O3と、16wt%~26wt%の範囲内にあるB2O3と、0wt%超え且つ2wt%以下の範囲内にあるMgOと、1wt%~6wt%の範囲内にあるCaOと、1wt%超え且つ5wt%未満の範囲内にあるTiO2と、0wt%超え且つ0.6wt%以下の範囲内にあるNa2Oと、0wt%~0.5wt%の範囲内にあるK2Oと、0wt%~1wt%の範囲内にあるF2と、1wt%~5wt%の範囲内にあるZnOと、0wt%超え且つ1wt%以下の範囲内にあるFe2O3と、0.1wt%~0.6wt%の範囲内にあるSO3とを含む。ガラス繊維は、該ガラス組成物によるものである。
【0003】
特許文献1に開示されているガラス組成物は、良好な紡糸の成形ウィンドウを有し、且つ該ガラス組成物によるガラス繊維は、低泡数、低誘電率及び低誘電正接の利点を有する。しかしながら、該ガラス組成物によるガラス繊維は、周波数が10GHzの環境で使用されると、誘電率及び誘電正接がやはり高すぎるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を少なくとも一つ解決できるガラス組成物、ガラス、ガラス繊維及びそのガラス繊維を含む製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を実現するために、本発明は、
総量を100wt%として、
含有量が49wt%~59wt%の範囲内にあるSiO2と、
含有量が9.5wt%~14.5wt%の範囲内にあるAl2O3と、
含有量が19wt%~35wt%の範囲内にあるB2O3と、
含有量が2wt%~5wt%の範囲内にあるCaOと、
含有量が0.25wt%~3wt%の範囲内にあるZnOと、
含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあるMgOと、
含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあるTiO2と、
含有量が0wt%~3wt%の範囲内にあるZrO2と、
含有量が0.1wt%~3.5wt%の範囲内にあるMnOと、
を含むことを特徴とするガラス組成物を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記のガラス組成物を含むことを特徴とするガラスを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記のガラス組成物を含むことを特徴とするガラス繊維を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記のガラス繊維を含むことを特徴とする製品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
上記の成分及び含有量の組み合わせ設計により、本発明のガラス組成物は、優れた紡糸の成形ウィンドウ及び低誘電率と低誘電正接を有しながら相分離(phase separation)の現象がなく、本発明のガラス組成物を含むガラス及びガラス繊維も低誘電率及び低誘電正接を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガラス組成物は、該ガラス組成物の総量を100wt%として、含有量が49wt%~59wt%の範囲内にあるSiO2と、含有量が9.5wt%~14.5wt%の範囲内にあるAl2O3と、含有量が19wt%~35wt%の範囲内にあるB2O3と、含有量が2wt%~5wt%の範囲内にあるCaOと、含有量が0.25wt%~3wt%の範囲内にあるZnOと、含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあるMgOと、含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあるTiO2と、含有量が0wt%~3wt%の範囲内にあるZrO2と、含有量が0.1wt%~3.5wt%の範囲内にあるMnOとを含む。
【0012】
SiO2の含有量が49wt%~59wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、適度の粘度を有してガラス繊維を形成するための紡糸成形工程に利することができ、且つ該ガラス組成物によるガラス及びガラス繊維は、低誘電率及び低誘電正接を有する。
【0013】
Al2O3の含有量が9.5wt%~14.5wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、相分離の現象がなく且つ優れた紡糸の成形ウィンドウを有する。
【0014】
B2O3の含有量が19wt%~35wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物によるガラス及びガラス繊維は、低誘電率及び低誘電正接を有すると共に、優れた引張強度(tensile strength)も有してプリント基板(printed circuit board)に応用する際プリント基板の機械強度を向上させることができる。
【0015】
CaOの含有量が2wt%~5wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、相分離の現象がなく且つ優れた紡糸の成形ウィンドウを有し、且つ該ガラス組成物によるガラス及びガラス繊維は、低誘電率及び低誘電正接を有する。
【0016】
ZnOの含有量が0.25wt%~3wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、優れた紡糸の成形ウィンドウを有し且つ相分離の現象がない。
【0017】
MnOの含有量が0.1wt%~3.5wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、紡糸の成形ウィンドウが大きくなり紡糸加工の操作利便性が向上し、且つ該ガラス組成物は低誘電率及び低誘電正接を有する。
【0018】
MgOの含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、粘度が低くなり紡糸加工などでの操作性が向上し、且つ相分離の現象がない。
【0019】
ZrO2の含有量が0wt%~3wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、優れた紡糸の成形ウィンドウと低誘電率及び低誘電正接を有し、且つ相分離の現象がない。
【0020】
TiO2の含有量が0wt%~1wt%の範囲内にあると、該ガラス組成物は、優れた紡糸の成形ウィンドウを有する。
【0021】
該ガラス組成物に優れた溶融性及びより低い粘度を有させて紡糸加工などの操作性を向上させ且つより低い誘電率及び誘電正接を与えるために、本発明の一部の実施形態において、該ガラス組成物は、該ガラス組成物の総量を100wt%として、含有量が0.5wt%以下のNa2Oをフラックス(flux)として更に含む。
【0022】
該ガラス組成物に優れた溶融性及びより低粘度のガラス及びガラス繊維を形成する工程の操作性を向上させ、且つ該ガラス組成物により低い誘電率及び誘電正接を与えるために、本発明の一部の実施形態において、該ガラス組成物は、該ガラス組成物の総量を100wt%として、含有量が0.5wt%以下のK2Oをフラックスとして更に含む。
【0023】
該ガラス組成物が窯における耐火煉瓦を腐食することにより窯の使用寿命が短くなりコストが上がる問題点を低減し、且つ該ガラス組成物により低い誘電率及び誘電正接を与えるために、本発明の一部の実施形態において、該ガラス組成物は、該ガラス組成物の総量を100wt%として、含有量が3wt%以下のF2を更に含む。
【0024】
該ガラス組成物を溶融する時の環境雰囲気及び該ガラス組成物の泡を除去する時の安定性を監視制御し、且つ該ガラス組成物により低い誘電率及び誘電正接を与えるために、本発明の一部の実施形態において、該ガラス組成物は、該ガラス組成物の総量を100wt%として、含有量が1wt%以下のFe2O3を更に含む。
【0025】
誘電率及び誘電正接の特性を損なわないことを前提として、該ガラス組成物は、該ガラス組成物の総量を100wt%として、含有量が3wt%以下の他の成分を更に含むことができる。該他の成分は、Li2O、Cr2O3、As2O3、Sb2O3、V2O3、P2O5、Cl2、BeO、BaO、Sc2O3、SnO2及びSrOのうちの少なくとも1種を含む。
【0026】
本発明のガラスは上記のガラス組成物を含む。
【0027】
本発明のガラス繊維は、上記のガラス組成物を含む。
【0028】
本発明の製品は、上記のガラス繊維を含む。
【0029】
本発明の製品は、例えばプリント基板、集積回路基板またはレーダードームが挙げられるが、それらに限らない。
【0030】
本発明の一部の実施形態において、製品は、例えばプリント基板、集積回路基板またはレーダードームから選ばれるものである。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は、例示的かつ説明的なものであり、且つ、本発明を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
[実施例1]
表1に示される実施例1の含有量を有するガラス組成物にできるように各原料粉末を量り取って均一に混合した後、ガラス原料組成物を得た。
【0032】
該ガラス原料組成物を高温炉中に配置して1500℃~1550℃の温度で3~5時間恒温加熱し、完全に溶融した液状ガラスを得た。そして、該液状ガラスを直径40mmの黒鉛るつぼ(graphite crucible)に注入し、該黒鉛るつぼを800℃まで予熱した焼鈍炉(annealing furnace)に配置し、該液状ガラスを徐々に室温にまで冷却することでガラスブロックに形成した。該ガラスブロックを研磨して、厚さ該0.60mm~0.79mmのガラスシートを作成した。
【0033】
本発明に係る各種ガラス品はガラス組成物とみなすことができ、即ち、実施例及び比較例におけるガラスブロック、ガラスシートは、いずれもガラス組成物とみなすことができる。
【0034】
[実施例2~実施例7及び比較例1~比較例9]
実施例2~実施例7及び比較例1~比較例9の製造方法は、表1及び表2に示される実施例2~実施例7及び比較例1~比較例9の含有量を有するガラス組成物にできるように各原料粉末を量り取る以外、実施例1と同じである。
【0035】
[評価項目]
<誘電率及び誘電正接>
ベクトルネットワークアナライザ(Vector Network Analyzer、ドイツR&S社のZNB20)をスプリットポスト誘電体共振器(台湾WAVERAY TECHNOLOGY CO., LTD.社)と合わせて、周波数が10GHz時の、実施例1~実施例7及び比較例1~比較例9のガラスシートの誘電率及び誘電正接を測定した。その結果は、表1及び表2に示される。
【0036】
<紡糸の成形ウィンドウ(ΔT)>
実施例1~実施例7及び比較例1~比較例9のガラスブロックから2.25gを取って高温炉中に配置した後、特定温度まで加熱し且つ2時間温度を維持し、そして該ガラスブロックを高温の溶鉱炉から取り出して静置で室温まで冷却した後、該ガラスブロック中の結晶の有無を観察した。結晶がある場合、該特定温度は実施例1~実施例7及び比較例1~比較例9のガラス組成物の失透温度である。実施例1~実施例7及び比較例1~比較例9のガラス組成物が粘度1000ポイズ(poise)になる時の温度から失透温度を引くと、実施例1~実施例7及び比較例1~比較例9のガラス組成物の紡糸の成形ウィンドウ(ΔT、単位:℃)が得られる。紡糸の成形ウィンドウ(ΔT)が大きいほど、ガラス繊維を製造する際の紡糸成形工程が行いやすくなる。
【0037】
<相分離テスト>
実施例1~実施例7及び比較例1~比較例9のガラスブロックの外観を目視にて観察した。ガラスブロックの外観が均一な色沢を呈する場合、該ガラスブロックは均一相であって相分離がないことを示す。ガラスブロックの外観が乳濁且つ不均一な色沢を呈する場合、該ガラスブロックは均一相ではなく相分離が起きていることを示す。
【0038】
【0039】
【0040】
表1及び表2に示されるように、本発明のガラス組成物は、SiO2とAl2O3とB2O3とCaOとZnOとMgOとTiO2とZrO2とMnOとの組み合わせ、且つ、それぞれ含有量範囲をSiO2が49wt%~59wt%、Al2O3が9.5wt%~14.5wt%、B2O3が19wt%~35wt%、CaOが2wt%~5wt%、ZnOが0.25wt%~3wt%、MgOが0wt%~1wt、TiO2が0wt%~1wt%、ZrO2が0wt%~3wt%、MnOが0.1wt%~3.5wt%とすることにより、本発明のガラスブロック(ガラス組成物)によるガラスシートは、10GHzの周波数で使用されると、誘電率が4.5以下及び誘電正接が2.4×10-3以下になった、即ち、本発明のガラス組成物によるガラス繊維も、同等の性質を有し、その上に、本発明のガラス組成物は、相分離の現象が生じないと共に優れた紡糸の成形ウィンドウを有する。
【0041】
それに対して、比較例1において、Al2O3の含有量が14.5wt%を超えるため、比較例1のガラスブロック(ガラス組成物)によるガラスシートは、10GHzの周波数で使用されると、誘電率が4.5を超え且つ誘電正接が2.4×10-3を超えてしまい、該ガラス組成物によるガラス繊維をプリント基板に応用すると、プリント基板における電気信号伝導の完全性及び伝導速度が悪くなるという問題が生じる。また、該ガラス組成物は、紡糸の成形ウィンドウが悪い問題点もある。
【0042】
比較例2~比較例7及び比較例9において、Al2O3、MgO、TiO2、ZnO、ZrO2及びMnOの含有量が順に9.5wt%~14.5wt%、0wt%~1wt%、0wt%~1wt%、0.25wt%~3wt%、0wt%~3wt%及び0.1wt%~3.5wt%の範囲内に制御されていないため、該ガラス組成物は、相分離が発生している問題点や紡糸の成形ウィンドウが悪いという問題点がある。
【0043】
比較例8において、MnOの含有量が3.5wt%を超えるため、比較例8のガラスブロック(ガラス組成物)によるガラスシートは、10GHzの周波数で使用されると、誘電率が4.5を超え且つ誘電正接が2.4×10-3を超えてしまい、該ガラス組成物によるガラス繊維をプリント基板に応用すると、プリント基板における電気信号伝導の完全性及び伝導速度が悪くなるという問題が生じる。
【0044】
上記の内容によれば、上記の成分及び含有量の組み合わせ設計により、本発明のガラス組成物は、優れた紡糸の成形ウィンドウと、低誘電率及び低誘電正接を有しながら相分離の現象がなく、且つ、本発明のガラス組成物を含むガラス及びガラス繊維も低誘電率と低誘電正接とを有して、本発明の目的を達成できる。
【0045】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々な構成として、全ての修飾および均等な構成を包含するものとする。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のガラス組成物は、低誘電率と低誘電正接とを有するガラス製品にすることに好適である。