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特許7466629ポリオールとポリ(無水物)とを含むフォトクロミック組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ポリオールとポリ(無水物)とを含むフォトクロミック組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20240405BHJP
   C08G 63/12 20060101ALI20240405BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20240405BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20240405BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C09D167/00
C08G63/12
C08G63/91
C08G73/00
G02C7/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022513280
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2019073175
(87)【国際公開番号】W WO2021037374
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】316008983
【氏名又は名称】トランジションズ オプティカル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Transitions Optical Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】レディ, ラマイアガリ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルドカンプ, ブラッド エス.
(72)【発明者】
【氏名】クマール, アニル
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-531680(JP,A)
【文献】特表2008-506031(JP,A)
【文献】米国特許第06268055(US,B1)
【文献】特表2008-525181(JP,A)
【文献】国際公開第2009/051209(WO,A1)
【文献】米国特許第04286957(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 167/00
C08G 63/12
C08G 63/91
C08G 73/00
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
(i)2つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも15,000のヒドロキシル当量を有する第1のポリオールと、
(ii)少なくとも3つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも300のヒドロキシル当量を有する、前記第1のポリオールとは異なる第2のポリオールと、
を含むポリオール成分、
(b)少なくとも3つの環状無水物基を有するポリ(カルボン酸無水物)、
(c)ポリ(カルボジイミド)、オキサゾリン官能性材料、及びこれらの混合物からなる群から選択される二次架橋剤、並びに
(d)フォトクロミック材料
を含有する、硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項2】
前記第1のポリオール(i)及び前記第2のポリオール(ii)が、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリシロキサンポリオール、ポリ(尿素)ウレタンポリオール、ポリアミドポリオール、これらのコポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項1に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項3】
前記第1のポリオール(i)が75,000未満のヒドロキシル当量を有する、請求項1又は2に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項4】
前記第1のポリオール(i)が熱可塑性ポリウレタンジオールを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項5】
前記第2のポリオール(ii)が、8,000未満のヒドロキシル当量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項6】
前記第2のポリオール(ii)が、ポリ(カプロラクトン)トリオール、ポリ(カプロ
ラクトン)テトラオール、ポリカーボネートトリオール、ポリカーボネートテトラオール、アクリルポリオール、又はこれらの混合物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項7】
前記ポリ(カルボン酸無水物)(b)が、
マレイン酸無水物とC~C24オレフィンとのコポリマー、
マレイン酸無水物と(メタ)アクリレートとのコポリマー、
マレイン酸無水物とスチレンとのコポリマー、
及びこれらの混合物からなる群から選択されるコポリマーを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項8】
前記ポリ(カルボン酸無水物)(b)が500~100,000g/molの範囲の数平均分子量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項9】
前記二次架橋剤(c)が、少なくとも3つのオキサゾリン基を有するオキサゾリン官能性材料を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項10】
前記フォトクロミック材料(d)が、ナフトピラン、ベンゾピラン、インデノナフトピランフェナントロピラン、スピロピラン、スピロオキサジン、水銀ジチゾネート、フルギド、フルギミド、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項11】
前記ポリ(カルボン酸無水物)(b)中に存在する無水物基の当量対前記ポリオール成分(a)中に存在するヒドロキシル基の当量の比が1:3~5:1の範囲である、請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項12】
(a)25~79.9重量パーセントのポリオール成分、
(b)10~55重量パーセントのポリ(カルボン酸無水物)、
(c)10~30重量パーセントの二次架橋剤、及び
(d)0.1~20重量パーセントのフォトクロミック化合物、
を含有するフォトクロミックコーティング組成物であって、前記重量パーセントが前記フォトクロミック組成物中に存在する総固形分基準である、請求項1~11のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物を含む光学物品。
【請求項14】
前記光学物品がレンズである、請求項13に記載の光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオール成分とポリ(無水物)とを含むフォトクロミックコーティング組成物、及びそのようなフォトクロミックコーティング組成物を含む光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、特定の波長の電磁放射(例えば「化学線」)に応答して、ある状態(又は形態)から別の状態へ変形する。それぞれの状態は特徴的な吸収スペクトルを持つ。例えば、多くのフォトクロミック化合物は、化学線に曝露されると、非活性化(例えば脱色又は実質的に無色)状態から活性化(例えば着色)状態に変形する。化学線が除去されると、フォトクロミック化合物は、活性化状態から非活性化状態へと戻って可逆的に変形する。
【0003】
フォトクロミック化合物は、例えばフォトクロミックである硬化フィルム又はシートなどの硬化層を形成するために、硬化性組成物において使用することができる。硬化したフォトクロミックコーティングでは、典型的には、硬さとフォトクロミック性能との組み合わせを提供することが望まれる。一般的に、閉じた形態(非活性化/無色)と開いた形態(活性化/着色)との間のフォトクロミック化合物の可逆的変形に関する速度は、軟らかいマトリックス中では速くなるが、硬いマトリックス(フォトクロミック化合物が中に存在する硬化したコーティング)では遅くなる。軟らかいマトリックスを有する硬化したフォトクロミックコーティングは典型的には低下した硬度を有する一方で、硬いマトリックスを有すものは典型的には増加した硬度を有している。
【0004】
改善されたフォトクロミック性能と十分な硬度との組み合わせを有する硬化したフォトクロミックコーティングを提供するフォトクロミックコーティング組成物を開発することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(a)(i)2つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも15,000g/molのヒドロキシル当量を有する第1のポリオールと、(ii)少なくとも3つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも300g/molのヒドロキシル当量を有する、第1のポリオールとは異なる第2のポリオールと、を含むポリオール成分、(b)少なくとも3つの環状無水物基を有するポリ(無水物)、(c)ポリ(カルボジイミド)、オキサゾリン官能性材料、及びこれらの混合物からなる群から選択される二次架橋剤、並びに(d)フォトクロミック材料、を含有する硬化性フォトクロミックコーティング組成物に関する。
【0006】
本発明は、フォトクロミックコーティング組成物を含む光学物品も提供する。
【0007】
本発明を特徴付ける特色は、特許請求の範囲における詳細で指摘され、それらは、本開示の一部に付加され、本開示の一部を形成する。本発明のこれらの及び他の特色、その動作の利点、及びその使用によって得られる特定の目的は、本発明の非限定的な実施形態が例示され説明されている以下の詳細な説明からより完全に理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書で用いられる、冠詞「a」、「an」、及び「the」は、明示的且つ明解に1つの指示対象に限定されない限り、複数形の指示対象を含む。本明細書で用いられる「含む(includes)」という用語は、「含む(comprises)」と同義である。
【0009】
別段の指示がない限り、本明細書で開示される全ての範囲又は比率は、そこに含まれるあらゆる部分範囲又は部分比率を包含すると理解されるべきである。例えば、「1~10」の指定された範囲又は比率は、最小値1と最大値10の間の(及びそれを含む)あらゆる部分範囲、つまり、限定するものではないが、1~6.1、3.5~7.8、及び5.5~10など、最小値が1以上で始まり最大値が10以下で終わる全ての部分範囲又は部分比率を含むとみなすべきである。
【0010】
本明細書において、別段の指示がない限り、二価連結基などの連結基の左から右への表現は、右から左への方向など(ただしこれに限定されない)の他の適切な方向を含む。非限定的な説明の目的で、二価の連結基
【化1】
又は等価な-C(O)O-の左から右への表現は、その右から左への表現
【化2】
、又は等価な-O(O)C-若しくは-OC(O)-を含む。
【0011】
実施例中又は別途指示がある場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、反応条件などを表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。「約」は、記載されている値のプラスマイナス10パーセントなど、記載されている値のプラスマイナス25パーセントが意図されている。ただし、これは均等論に基づく値の分析を制限するものとみなされるべきではない。
【0012】
本明細書で使用される重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)などのポリマーの分子量値は、単位g/molで表され、当該技術分野で認められている方法によって決定される。本明細書に記載のポリオール及びポリ無水物の数平均分子量は、Wyatt Technology光散乱検出器(miniDAWN)と、示差屈折率検出器(Optilab rEX)と、示差粘度計検出器(Viscostar)とを有するWaters 2695分離モジュールを備えたSEC-TD(三重検出サイズ排除クロマトグラフィー)によって測定される。溶離液として1ml/分の流量でテトラヒドロフラン(THF)を使用した。3本のPL Gel Mixed Cカラムを使用した。本明細書に記載のアクリルポリオールなどのポリオールの数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン標準を使用するTHF溶離液を用いたゲル浸透クロマトグラフィーによって決定することもできる。本明細書に記載の第2のポリオール(ii)などのポリオールの数平均分子量(Mn)は、H NMR分光法によって決定することもできる。
【0013】
本明細書において使用される「ヒドロキシル当量」は、g/molヒドロキシル基で表される、ヒドロキシル基1モル当たりのポリオールの質量を指す。ヒドロキシル当量は、ポリオールの数平均分子量(Mn)をポリオール中のヒドロキシル基の平均数で割ることによって決定することができる。ヒドロキシル当量は、ヒドロキシル値をヒドロキシル当量に数学的に変換することによっても決定することもできる。
【0014】
本明細書で使用される「オキサゾリン当量」は、g/molのオキサゾリン基で表される、オキサゾリン基1モル当たりのオキサゾリン官能性物質の質量を指す。本明細書で使用される「カルボジイミド当量」は、g/mol単位のカルボジイミド基で表される、カルボジイミド基1モル当たりのポリ(カルボジイミド)の質量を指す。
【0015】
本明細書で使用される「ポリマー」という用語は、ホモポリマー(例えば単一のモノマー種から調製される)、コポリマー(例えば少なくとも2つのモノマー種から調製される)、及びグラフトポリマーを意味する。
【0016】
本明細書で使用される「(メタ)アクリレート」という用語及び「(メタ)アクリル酸エステル」などの同様の用語は、アクリル酸及びメタクリル酸の誘導体を意味し、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、及びメタクリル酸を含む。本明細書で使用される「(メタ)アクリル酸」という用語は、メタクリル酸及び/又はアクリル酸を意味する。
【0017】
本発明のフォトクロミック化合物は、本明細書においてはフォトクロミック-ダイクロイック化合物とも呼ばれる(それらが1つ以上のメソゲン含有基を含む場合など)。
【0018】
本明細書で用いられる「フォトクロミック」という用語及び「フォトクロミック化合物」などの類似の用語は、少なくとも化学線の吸収に応答して変化する少なくとも可視光線のための吸収スペクトルを有することを意味する。さらに、本明細書で用いられる「フォトクロミック材料」という用語は、フォトクロミック特性を示すように構成された(少なくとも化学線の吸収に応答して変化する少なくとも可視光線のための吸収スペクトルを有するように構成されるなど)、及び少なくとも1種のフォトクロミック化合物を含む、任意の物質を意味する。
【0019】
本明細書で用いられる「化学線」という用語は、本明細書でさらに詳細に説明されるように、限定するものではないが、フォトクロミック材料を1つの形態又は状態から別の形態又は状態へ変形することなど、材料において応答を生じることが可能な電磁放射を意味する。
【0020】
本明細書で使用される「ダイクロイック」という用語は、少なくとも透過された放射の2つの直交する平面偏光成分のうちの一方を他方よりも強く吸収することができることを意味する。
【0021】
本明細書で使用される「フォトクロミック-ダイクロイック」という用語及び「フォトクロミック-ダイクロイック化合物」などの同様の用語は、フォトクロミック特性(すなわち少なくとも化学線に応答して変化する少なくとも可視光線の吸収スペクトルを有する)とダイクロイック特性(すなわち少なくとも透過された放射の2つの直交平面偏光成分のうちの一方を他方よりも強く吸収することができる)の両方を有する及び/又は提供することを意味する。
【0022】
本明細書において、別段の記載又は別段の限定がない限り、「フォトクロミック材料」という用語には、熱可逆性フォトクロミック材料及び化合物、並びに非熱可逆性フォトクロミック材料及び化合物が含まれる。本明細書で用いられる「熱可逆性フォトクロミック化合物/材料」という用語は、化学線に応答して第1の状態、例えば「透明状態」から第2の状態、例えば「着色状態」に転換すること、及び熱エネルギーに応答して第1の状態に戻ることが可能な化合物/材料を意味する。本明細書で用いられる「非熱可逆性フォトクロミック化合物/材料」という用語は、化学線に応答して第1の状態、例えば「透明状態」から第2の状態、例えば「着色状態」に転換すること、及び着色状態の吸収と実質的に同じ波長の化学線に応答して第1の状態に戻ること(例えばそのような化学線への暴露を中止)が可能な化合物/材料を意味する。
【0023】
本明細書で用いられる「状態」という用語を修飾するための「第1の」及び「第2の」という用語は、任意の特定の順序又は時系列を指すことを意図するものではなく、2つの異なる状態又は特性を指すことを意図するものである。非限定的な例示のために、フォトクロミック化合物の第1の状態及び第2の状態は、可視光線及び/又はUV照射の吸収などであるがこれらに限定されない、少なくとも1つの光学特性に関して異なり得る。したがって、本発明のフォトクロミック化合物は、第1の状態及び第2の状態のそれぞれにおいて異なる吸収スペクトルを有し得る。例えば、本明細書で限定されないが、本発明のフォトクロミック化合物は、第1の状態において透明であり、第2の状態において着色されていてもよい。代替的には、本発明のフォトクロミック化合物は、第1の状態において第1の色を有し、第2の状態において第2の色を有していてもよい。
【0024】
本明細書で用いられる「光学」という用語は、光及び/又は視覚に関する、又は関連付けられることを意味する。例えば、光学物品又は要素又はデバイスは、眼科用物品、要素、及びデバイス、ディスプレイ物品、要素、及びデバイス、窓、鏡、又は能動的及び受動的液晶セル物品、要素、及びデバイスから選択され得る。
【0025】
本明細書で用いられる「眼科用」という用語は、目及び視覚に関する、又は関連付けられることを意味する。眼科用物品又は要素の非限定的な例としては、シングルビジョン、又はセグメント化若しくは非セグメント化マルチビジョンレンズであってよいマルチビジョンレンズ(バイフォーカルレンズ、トライフォーカルレンズ、及びプログレッシブレンズなどであるが、これらに限定されない)を含む矯正レンズ及び非矯正レンズ、並びに、コンタクトレンズ、眼内レンズ、拡大レンズ、及び保護レンズ、又はバイザーなどの(ただしこれらに限定されない)、視覚を矯正、保護、若しくは強化する(美容的又はそれ以外の)ために使用される他の要素が挙げられる。
【0026】
本明細書で用いられる「ディスプレイ」という用語は、単語、数字、記号、デザイン、又は図における、情報の可視表現又は機械読取可能表現を意味する。ディスプレイ要素の非限定的な例は、スクリーン、モニタ、及びセキュリティマークなどのセキュリティ要素を含む。
【0027】
本明細書で用いられる「窓」という用語は、放射の透過を可能にするように構成された開口を意味する。窓の非限定的な例は、自動車及び航空機のトランスペアレンシー、ウィンドシールド、フィルター、シャッター、及び光学スイッチを含む。
【0028】
本明細書で用いられる「鏡」という用語は、入射光の大部分を鏡面反射する面を意味する。
【0029】
本明細書で用いられる「液晶セル」という用語は、整列されることが可能な液晶材料を含む構造を指す。液晶セル要素の非限定的な例は、液晶ディスプレイである。
【0030】
本明細書で使用される「上に形成された」、「上に堆積された」、「上に設けられた」、「上に塗布された」、「上に存在する」、又は「上に配置された」という用語は、上に形成される、堆積される、設けられる、塗布される、存在する、又は配置されるが、必ずしも下にある要素又は下にある要素の表面に直接(又は隣接して)接触していないことを意味する。例えば基材「の上に配置された」層は、配置された又は形成された層と基材との間に位置する同じ又は異なる組成の1つ以上の他の層、コーティング、又はフィルムの存在を排除しない。
【0031】
フォトクロミックコーティング組成物に関連して使用される「硬化性」、「硬化」などの用語は、コーティング組成物を構成する成分の少なくとも一部が重合性及び/又は架橋性であることを意味する。本発明のコーティング組成物は、周囲条件で、熱を用いて、又は化学線などの他の手段を用いて硬化させることができる。「周囲条件」という用語は、周囲環境の条件を指す(例えば基材が位置する部屋又は屋外環境の温度、湿度、及び圧力、例えば23℃の温度且つ35%~75%の空気中での相対湿度など)。フォトクロミックコーティング組成物は、熱硬化させることができる。
【0032】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、直鎖又は分岐の、環状又は非環状のC~C25アルキルを意味する。直鎖又は分岐のアルキルとしては、C~C25アルキル、例えばC~C20アルキル、例えば C~C10アルキル、例えばC~C12アルキル、例えばC~Cアルキルを挙げることができる。本発明の様々なアルキル基を選択することができるアルキル基の例には、本明細書でさらに列挙されるものが含まれるが、これらに限定されない。アルキル基は「シクロアルキル」基を含むことができる。本明細書で使用される「シクロアルキル」という用語は、限定するものではないが、C~C12シクロアルキル(限定するものではないが、環状C~Cアルキル又は環状C~C10アルキルなど)基などの適切に環状である基を意味する。シクロアルキル基の例には、本明細書でさらに列挙されるものが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される「シクロアルキル」という用語は、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル(又はノルボルニル)及びビシクロ[2.2.2]オクチルなどの(ただしこれらに限定されない)架橋環ポリシクロアルキル基(又は架橋環多環式アルキル基)、及びオクタヒドロ-1H-インデニル及びデカヒドロナフタレニルなどの(ただしこれらに限定されない)融合環ポリシクロアルキル基(又は融合環多環式アルキル基)も含む。
【0033】
本明細書で使用される「アリール基」という用語は、芳香族環状一価炭化水素ラジカルを指し、「芳香族」という用語は、安定性(非局在化による)が理論上の局在化構造よりも著しく大きい環状共役炭化水素を指す。アリール基の例としては、限定するものではないが、フェニル、ナフチル、フェナントリル、及びアントラセニルなどのC~C14アリール基が挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される「カルボジイミド基」という用語は、式RN=C=NR(Rはアルキル基又はアリール基である)を含む官能基を指す。
【0035】
本明細書で使用される「オキサゾリン基」という用語は、1つの窒素原子と1つの酸素原子とを含む5員のヘテロ環化合物であるオキサゾリンを含む官能基を指す。オキサゾリン基は、式(I)で示される2-オキサゾリンを含み得る。
【化3】
【0036】
本明細書で言及される特許及び特許出願などの(ただしこれらに限定されない)全ての文書又は文書の一部は、別段の指示がない限り、その全体が「参照により組み込まれる」とみなされるべきである。
【0037】
本明細書で用いられる「のうちの少なくとも1つ」は、要素が結合的に列挙されているか、又は選言的に列挙されているかにかかわらず、「のうちの1つ又は複数」と同義である。例えば、「A、B、及びCのうちの少なくとも1つ」、及び「A、B、若しくはCのうちの少なくとも1つ」という語句は、それぞれ、A、B、若しくはCのうちのいずれか1つ、又はA、B、若しくはCのうちの任意の2つ以上の任意の組み合わせを意味する。例えば、Aのみ、又はBのみ、又Cのみ、又はAとB、又はAとC、又はBとC、又はAとBとCの全てである。
【0038】
本明細書で用いられる「から選択される(selected)」は、要素が結合的に列挙されているか、又は選言的に列挙されているかにかかわらず、「から選択される(chosen)」と同義である。さらに、「A、B、及びCから選択される」、及び「A、B、又はCから選択される」という語句は、それぞれA、B、若しくはCのうちのいずれか1つ、又はA、B、若しくはCのうちの任意の2つ以上の任意の組み合わせを意味する。例えば、Aのみ、又はBのみ、又Cのみ、又はAとB、又はAとC、又はBとC、又はAとBとCの全てである。
【0039】
本発明の説明は、特定の特徴が、特定の限定の中に「特に」又は「好ましくは」ある(例えば特定の限定の中に「好ましくは」、「より好ましくは」、又は「さらにより好ましくは」ある)として記載される場合がある。本発明は、これらの特定の又は好ましい限定に限定されるものではなく、本開示の範囲全体を包含することは理解されるべきである。
【0040】
本明細書で使用される「含む(comprising又はincluding)」などの非限定的な用語は、「からなる」及び「本質的にからなる」などの制限的な用語を包含することが意図されている。本発明は、本発明の以下の態様を任意の組み合わせで含むか、それらからなるか、又は本質的にそれらからなる。
【0041】
前述したように、本発明による硬化性フォトクロミックコーティング組成物は(a)ポリオール成分を含む。(a)ポリオール成分は、(i)2つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも15,000g/molのヒドロキシル当量を有する第1のポリオールと、(ii)少なくとも3つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも300g/molのヒドロキシル当量を有する、第1のポリオールとは異なる第2のポリオールと、を含み得る。
【0042】
(a)ポリオール成分は、(i)少なくとも2つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも15,000g/molのヒドロキシル当量を有する第1のポリオールを含み得る。本発明の目的のためには、「ポリオール」という用語は、2つ以上のヒドロキシル基を有する分子を意味する。例えば、第1のポリオール(i)はジオールであってよい。本明細書で使用される「ジオール」という用語は、2つのヒドロキシル基を有する分子を意味する。
【0043】
第1のポリオール(i)は、少なくとも15,000、少なくとも16,000、少なくとも17,000、少なくとも20,000、又は少なくとも22,000g/molのヒドロキシル当量を有することができる。また、第1のポリオール(i)は、75,000未満、例えば60,000未満、50,000未満、又は40,000g/mol未満のヒドロキシル当量を有する。ポリオール成分の第1のポリオール(i)は、15,000~75,000、15,000~60,000、16,000~60,000、16,000~75,000、又は15,000~50,000g/molの範囲のヒドロキシル当量を有することができる。
【0044】
第1のポリオール(i)は、少なくとも30,000、少なくとも32,000、少なくとも34,000、少なくとも40,000、又は少なくとも44,000g/molの数平均分子量(Mn)を有し得る。また、第1のポリオール(i)は、150,000未満、100,000未満、又は80,000g/mol未満のMnを有し得る。ポリオール成分の第1のポリオール(i)は、30,000~150,000、30,000~120,000、34,000~120,000、34,000~150,000、又は30,000~100,000g/molの範囲内のMnを有し得る。第1のポリオール(i)は、1.1~4.0の分散度を有し得る。本明細書で使用される「分散度」という用語は、ポリマーの分子量分布の尺度であるMw/Mnを指し、ここでのMwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。
【0045】
ポリオール成分の第1のポリオール(i)は、少なくとも2つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも15,000g/molのヒドロキシル当量を有することを条件として、当該技術分野で公知の多数のポリオールのうちのいずれかから選択することができる。例えば、第1のポリオール(i)は、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリシロキサンポリオール、ポリ(尿素)ウレタンポリオール、ポリアミドポリオール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0046】
適切なポリウレタンポリオールの非限定的な例が知られており、ポリイソシアネートを過剰の有機ポリオールと反応させてヒドロキシル官能性ポリウレタンポリマーを形成することによって調製することができる。ポリウレタンポリオールの調製に有用なポリイソシアネートの例としては、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4,-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、パラ-フェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニレンジイソシアネート、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサン-1,6-ジイソシアネート、リシンメチルエステルジイソシアネート、ビス(イソシアナトエチル)フマレート、イソホロンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ドデカン-1,12-ジイソシアネート、シクロブタン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1-メチルシクロヘキサン-2,4-ジイソシアネート、1-メチルシクロヘキサン-2,6-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェノールイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4,-ジイソシアネート、及びこれらの混合物が挙げられる。ウレタンポリオールの調製に有用な有機ポリオールの例としては、本明細書に記載の他のポリオール、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アミド含有ポリオール、ポリアクリルポリオール、多価ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0047】
適切なポリウレタンポリオールの非限定的な例としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)が挙げられる。本明細書において使用される「熱可塑性」という用語は、加熱すると軟化するか流体になり、冷却すると固化するポリマーを指し、これらのプロセスは、ポリマーの化学的性質を変えることなく逆向きに繰り返すことができる。適切な熱可塑性ポリウレタンの非限定的な例としては、ポリカーボネートTPU、ポリエーテルTPU、及び/又はポリカプロラクトンTPUなどのポリエステルTPUが挙げられる。
【0048】
フォトクロミックコーティング組成物と共に使用するのに適した熱可塑性ポリウレタンとしては、芳香族TPU及び脂肪族TPUが挙げられる。適切な熱可塑性ポリウレタンとしては、ASTM D2240に従って測定されるショア硬度が90未満の脂肪族熱可塑性ポリウレタンを挙げることができる。
【0049】
適切な熱可塑性ポリウレタンは、TECOFLEX、CARBOTHANE、PEARLSTICK、PEARLBOND、PELLETHANE、及びESTANEの商品名でThe Lubrizol Corporation(Wickliffe,Ohio)から、CHRONOFLEX(AL、AR、AR-LT、及びCバージョン)及びCHRONOTHANE(P及びT)の商品名でAdvanSource Biomaterials(Wilmington,MA)から、TEXIN及びDESMOPANの商品名でCovestro AG(Leverkusen,Germany)から、IROGRAN、AVALON、IROCOAT、KRYSTALFLEX、及びKRYSTALGRANの商品名でHunstman Corporation(The Woodland,Texas)から、ELASTOLLANの商品名でBASF SE(Ludwigshafen,Germany)から、並びにDRYFLEXの商品名でHexpol (Malmo,Sweden)から市販もされている。適切なポリシロキサンポリオールの非限定的な例には、熱可塑性ポリウレタンを含むシリコーンも含まれ得る。ポリシロキサンには、ポリジメチルシロキサンが含まれ得る。熱可塑性ポリウレタンを含む適切なシリコーンは、CHRONOSILの商品名でAdvanSource Biomaterials(Wilmington,MA)から、及びELAST-EONの商品名でAortech International PLC(Dundee,United Kingdom)から市販されている。
【0050】
適切なポリ(尿素)ウレタンポリオールの非限定的な例は公知であり、ポリイソシアネート、ポリオール、及びポリアミンを反応させてヒドロキシル官能性ポリ(尿素)ウレタンポリマーを形成することによって調製することができる。適切なポリ(尿素)ウレタンポリオールは、ヒドロキシル官能性ポリ(尿素)ウレタンポリマーを形成するために、イソシアネート官能性尿素プレポリマーと有機ポリオールとから調製することもできる。イソシアネート官能性尿素プレポリマーは、ポリイソシアネートと水との反応から形成することができる。ポリ(尿素)ウレタンポリオールの調製に有用なポリイソシアネート及び有機ポリオールの例としては、上記ポリイソシアネート及びポリオールが挙げられる。ポリアミンは、一級アミン(-NH)、二級アミン(-NH-)、及びこれらの組み合わせから独立して選択される少なくとも2つの官能基を有するポリアミンであってよい。適切なポリアミンの例としては、限定するものではないが、脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0051】
適切なポリエーテルポリオールの非限定的な例は、広く知られている。ポリエーテルポリオールの例としては、様々なポリオキシアルキレンポリオール、ポリアルコキシル化ポリオール、例えばポリ(オキシテトラメチレン)ジオール、及びこれらの混合物を挙げることができる。ポリオキシアルキレンポリオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ソルビトールなどの多価開始剤又は多価開始剤の混合物を用いて、酸又は塩基触媒の添加を使用するアルキレンオキシド又はアルキレンオキシドの混合物の縮合によって、周知の方法に従って調製することができる。例示的なアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アミレンオキシド、アラルキレンオキシド、例えばスチレンオキシド、及びハロゲン化アルキレンオキシド、例えばトリクロロブチレンオキシドなどが挙げられる。より好ましいアルキレンオキシドとしては、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールとしても知られているポリ(テトラヒドロフラン)ジオールが挙げられる。
【0052】
ポリエステルポリオールは広く知られており、ポリカルボン酸と反応する当該技術分野でよく知られているようなジオール、トリオール、及び多価アルコールを利用する従来の技術によって調製することができる。適切なポリカルボン酸の例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、及びこれらの混合物を挙げることができる。存在する場合には上記酸の無水物も使用することができ、これらは「ポリカルボン酸」という用語に含まれる。さらに、酸と同様な形式で反応してポリエステルポリオールを形成する特定の物質も有用である。そのような物質としては、環状エステル、ラクトン、例えばカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン及びブチロラクトン、並びにヒドロキシカプロン酸、及びジメチロールプロピオン酸などのヒドロキシ酸を挙げることができる。トリオール又は多価アルコールが使用される場合、酢酸及び/又は安息香酸などのモノカルボン酸をポリエステルポリオールの調製に使用することができ、いくつかの目的のためには、そのようなポリエステルポリオールが望ましい場合がある。さらに、ポリエステルポリオールは、本明細書において、脂肪酸又は脂肪酸のグリセリド油で変性されたポリエステルポリオール(すなわちそのような変性を含む従来のアルキドポリオール)を含むと理解される。利用され得る別のポリエステルポリオールは、アルキレンオキシド、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシドなど、及びバーサティック酸のグリシジルエステルをメタクリル酸と反応させて対応するエステルを形成することによって調製されるものである。
【0053】
ポリカーボネートポリオールは、例えば米国特許第5,143,997号明細書第3欄第43行目から第6欄25行目、及び同第5,527,879号明細書第2欄第10行目から第3欄第48行目に開示されているように、当該技術分野で公知の方法によって形成することができる。例えば、ポリカーボネートは、通常、アルコール若しくはフェノールとホスゲンとの反応から、又はアルコール若しくはフェノールとジアルキル若しくはジアリールカーボネートとのエステル交換から得られる。1,6-ヘキサンジオール、C(エチレングリコール)~C36ジオール(ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、1,10-デカンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、Esterdiol204、及び/又はポリテトラヒドロフランなど)などのジオールと、ホスゲン又はジメチルカーボネートのいずれかとの反応により調製されたポリカーボネート官能性ポリオールを使用することができる。
【0054】
アクリルポリオールは、重合可能なエチレン性不飽和モノマーから調製することができ、これらは、典型的には、(メタ)アクリル酸又はエステル及びヒドロキシルアルキル(メタ)アクリル酸又はエステルのコポリマーである。適切な重合可能なエチレン性不飽和モノマーの非限定的な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシルアクリレートなど)、及びビニル芳香族化合物(スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなど)が挙げられる。適切なヒドロキシルアルキル(メタ)アクリル酸又はエステルの非限定的な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、及び12-ヒドロキシドデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。特に適切なアクリルポリオールは、例えば30~50重量パーセントのアルキル(メタ)アクリルエステルと、40~60重量パーセントのヒドロキシルアルキル(メタ)アクリルエステルと、1~10重量パーセントの(メタ)アクリル酸とを含み得る。
【0055】
ジイソシアネート、ポリカーボネートジオール、ポリシロキサン、C2~ジオール鎖延長剤、及び任意選択的な一官能性シロキサン連鎖停止剤を含む反応物の一段階反応の反応生成物を含み得るヒドロキシル末端ケイ素-ウレタンコポリマーなどのケイ素含有ポリオールを使用することができる。そのようなヒドロキシル末端ケイ素含有コポリマーの調製は、米国特許第8,242,189B2号明細書第2欄第49行目から第7欄第55行目に詳細に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。ヒドロキシル末端ケイ素含有コポリマーの調製は、米国特許第6,313,254B1号明細書第2欄第58行目から第8欄第40行目にも詳細に記載されている。同様に、適切なケイ素含有ポリオールとしては、米国特許第6,420,452B1号明細書第2欄第47行目から第5欄第7行目に詳細に記載されているケイ素含有ジオールを挙げることができ、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
ポリアミドポリオール及びその調製は公知である。例えば、アミド含有ポリオールは、ネオペンチルグリコール、アジピン酸、及びヘキサメチレンジアミンの反応によって調製することができる。ポリアミドポリオールは、例えばカルボン酸エステル、カルボン酸、又はラクトンとアミノアルコールとの反応によるアミノリシスによって調製することもできる。適切なジアミン及びアミノアルコールの例としては、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、フェニレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソホロンジアミンなどが挙げられる。
【0057】
ポリオール成分の第1のポリオール(i)は、ペンダント及び/又は末端ヒドロキシル基を有する直鎖ポリオール、例えば直鎖ジオールを含み得る。例えば、第1のポリオール(i)は、直鎖ポリエーテルジオール、直鎖ポリエステルジオール、直鎖ポリウレタンジオール、ポリカーボネートジオール、及び/又はこれらのコポリマーを含むことができる。
【0058】
ポリオール成分の第1のポリオール(i)は、熱可塑性ポリオールを含み得る。例えば、第1のポリオール(i)は、TPUジオールなどの熱可塑性ポリウレタン(TPU)ポリオールを含むことができる。第1のポリオール(i)は、ポリカーボネートTPUジオールなどのポリカーボネートTPUポリオールを含むことができる。さらに、第1のポリオール(i)は、ポリエーテルTPUジオールなどのポリエーテルTPUポリオールを含むことができる。
【0059】
ポリオール成分の第1のポリオール(i)は、上記熱可塑性ポリオールのいずれかの混合物又は組み合わせ、並びにこれらのコポリマーを含むことができる。
【0060】
(a)ポリオール成分は、(ii)少なくとも3つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも300g/molのヒドロキシル当量を有する第2のポリオールを含む。第2のポリオール(ii)は、第1のポリオール(i)とは異なるポリオールである。
【0061】
例えば第2のポリオール(ii)はトリオールであってよい。本明細書で使用される「トリオール」という用語は、3つのヒドロキシル基を有する分子を指す。例えば、第2のポリオール(ii)はテトラオールであってよい。本明細書で使用される「テトラオール」という用語は、4つのヒドロキシル基を有する分子を指す。
【0062】
第2のポリオール(ii)は、少なくとも300、少なくとも400、又は少なくとも450g/molのヒドロキシル当量を有することができる。また、第2のポリオール(ii)は、8,000未満、又は3,500g/mol未満のヒドロキシル当量を有することができる。ポリオール成分の第2のポリオール(ii)は、300~8,000、400~8,000、又は450~3,500g/molのヒドロキシル当量を有することができる。
【0063】
さらに、第2のポリオール(ii)は、少なくとも900、少なくとも1,200、又は少なくとも1,350g/molの数平均分子量(Mn)を有し得る。また、第2のポリオール(ii)は、32,000未満、又は14,000g/mol未満のMnを有し得る。ポリオール成分の第2のポリオール(ii)は、900~32,000、1,200~32,000、又は1,350~14,000g/molの範囲内のMnを有し得る。
【0064】
ポリオール成分の第2のポリオール(ii)は、少なくとも3つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも300g/molのヒドロキシル当量を有することを条件として、当該技術分野で公知の多数のポリオールのうちの任意のものから選択することができる。例えば、第2のポリオール(ii)は、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリジメチルシロキサンポリオール、ポリ(尿素)ウレタンポリオール、ポリアミドポリオール、及びこれらの組み合わせから選択することができる。
【0065】
ポリオール成分(a)の第2のポリオール(ii)は、ペンダント及び/又は末端ヒドロキシル基を有する分岐ポリオール又は樹枝状ポリオールを含み得る。第2のポリオール(ii)は、樹枝状ポリエステル及び/又は樹枝状ポリカーボネートを含むことができる。また、第2のポリオール(ii)は、ペンダント及び/又は末端ヒドロキシル基を有する直鎖ポリオールも含み得る。
【0066】
さらに、第2のポリオール(ii)は、ポリエステルトリオール、ポリエステルテトラオール、又はこれらの混合物を含むことができる。第2のポリオール(ii)は、ポリ(カプロラクトン)セグメントを含むことができる。例えば、第2のポリオール(ii)は、ポリ(カプロラクトン)トリオール、ポリ(カプロラクトン)テトラオール、又はこれらの混合物を含み得る。第2のポリオール(ii)は、ポリカーボネートトリオール、ポリカーボネートテトラオール、又はこれらの混合物を含むことができる。また、第2のポリオール(ii)は、アクリルポリオールを含むこともできる。
【0067】
ポリオール成分(a)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、フォトクロミックコーティング組成物の少なくとも10重量パーセント、少なくとも25重量パーセント、少なくとも30重量パーセント、少なくとも40重量パーセント、少なくとも50重量パーセント、少なくとも60重量パーセント、又は少なくとも70重量パーセントを占めることができる。ポリオール成分(a)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の最大60重量パーセント、最大75重量パーセント、最大79.9重量パーセント、最大90重量パーセント、又は最大95重量パーセントを占めることができる。ポリオール成分(a)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の10~95重量パーセント、25~79.9重量パーセント、30~79.9重量パーセント、40~79.9重量パーセント、50~79.9重量パーセント、又は55~70重量パーセントなどの範囲内の量を占めることもできる。
【0068】
ポリオール成分(a)の第1のポリオール(i)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、フォトクロミックコーティング組成物の少なくとも10重量パーセント、少なくとも25重量パーセント、少なくとも30重量パーセント、少なくとも40重量パーセント、又は少なくとも50重量パーセントを占めることができる。第1のポリオール(i)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の最大50重量パーセント、最大60重量パーセント、又は最大75重量パーセント、最大79.9重量パーセント、最大90重量パーセント、又は最大95重量パーセントを占めることができる。第1のポリオール(i)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の10~95重量パーセント、25~79.9重量パーセント、30~79.9重量パーセント、30~60重量パーセント、又は35~50重量%などの範囲内の量を占めることもできる。さらに、フォトクロミックコーティング組成物は、第2のポリオール(ii)よりも大きな重量パーセントの第1のポリオール(i)を含むことができる。
【0069】
ポリオール成分(a)の第2のポリオール(ii)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、フォトクロミックコーティング組成物の少なくとも5重量パーセント、少なくとも10重量パーセント、少なくとも25重量パーセント、少なくとも30重量パーセント、少なくとも40重量パーセント、又は少なくとも50重量パーセントを占めることができる。第2のポリオール(ii)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の最大40重量パーセント、最大60重量パーセント、最大75重量パーセント、最大79.9重量パーセント、最大90重量パーセント、又は最大95重量パーセントを占めることができる。第2のポリオール(ii)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の5~95重量パーセント、10~79.9重量パーセント、10~50重量パーセント、10~40重量パーセント、10~30重量パーセント、又は15~30重量パーセントなどの範囲内の量を占めることもできる。
【0070】
本発明による硬化性フォトクロミックコーティング組成物は、(b)少なくとも3つの環状無水物基を有するポリ(無水物)も含む。本発明の目的のためには、「ポリ(無水物)」は、複数の無水物基を有する分子を指す。
【0071】
ポリ(無水物)(b)は、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、プロペニルコハク酸無水物などの無水物官能基を有するエチレン性不飽和モノマーと、無水物官能基を実質的に含まない他のエチレン性不飽和モノマーとの、フリーラジカルにより開始される付加重合によって調製することができる。そのようなエチレン性不飽和材料の例としては、限定するものではないが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸のエステル、酢酸ビニルや塩化ビニルなどのビニル化合物、スチレン自体やα-メチルスチレンなどのスチレン系材料、塩化アリルや酢酸アリルなどのアリル化合物、並びにアクリロニトリルやメタクリロニトリルなどの他の共重合性エチレン性不飽和モノマー、アクリルアミドやメタクリルアミドなどのアミド、1,3-ブタジエン、C~C24オレフィンなどのジエン、並びにこれらのようなエチレン性不飽和材料の混合物を挙げることができる。
【0072】
本明細書で使用される「環状無水物」は、無水物基を含む少なくとも1つの閉環構造を含む分子を指す。ポリ(無水物)(b)は、1分子あたり少なくとも3つの環状無水物基を含み得る。少なくとも3つの環状無水物基を含むポリ(無水物)(b)は、マレイン酸無水物などの環状無水物モノマーから調製することができる。
【0073】
ポリ(無水物)(b)は、マレイン酸無水物のコポリマーを含み得る。ポリ(無水物)(b)は、マレイン酸無水物とC~C24オレフィンとのコポリマー、マレイン酸無水物と(メタ)アクリレートとのコポリマー、マレイン酸無水物とスチレンとのコポリマー、又はこれらの誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のコポリマーを含むことができる。ポリ(無水物)(b)は、マレイン酸無水物と、C~C24オレフィン、例えばC10~C24オレフィン、C10~C20オレフィン、C15~C24オレフィン、又はC15~C20オレフィンとのコポリマーを含み得る。例えば、ポリ(無水物)(b)は、マレイン酸無水物と1-オクタデセンとのコポリマーを含み得る。
【0074】
ポリ(無水物)(b)は、少なくとも500、少なくとも1,000、少なくとも5,000、少なくとも10,000、又は少なくとも25,000g/molの数平均分子量(Mn)を有し得る。いくつかの実施形態では、ポリ(無水物)(b)は、100,000未満、75,000未満、60,000未満、又は50,000g/mol未満のMnを有し得る。ポリ(無水物)(b)は、いくつかの実施形態では、500~100,000、1,000~100,000、5,000~75,000、10,000~60,000、25,000~60,000、又は25,000~50,000g/molの範囲内のMnを有し得る。
【0075】
ポリ(無水物)成分(b)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、フォトクロミックコーティング組成物の少なくとも1重量パーセント、少なくとも5重量パーセント、少なくとも10重量パーセント、少なくとも15重量パーセント、少なくとも20重量パーセント、少なくとも25重量パーセント、又は少なくとも30重量パーセントを占めることができる。ポリ(無水物)成分(b)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の最大30重量パーセント、最大40重量パーセント、最大45重量パーセント、最大50重量パーセント、最大55重量パーセント、又は最大60重量パーセントを占めることができる。ポリ(無水物)成分(b)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の1~60重量パーセント、5~55重量パーセント、10~55重量パーセント、10~50重量パーセント、又は10~30重量パーセントなどの範囲内の量を占めることもできる。
【0076】
フォトクロミックコーティング組成物は、0.1:1~10:1、1:4~20:1、1:2~10:1、1:3~5:1、1:2~4:1、1:1~5:1、1:1.5~1.5:1、又は約1:1の範囲の、ポリ(無水物)(b)中に存在する無水物基の当量と、ポリオール成分(a)中に存在するヒドロキシル基の当量との比を有し得る。
【0077】
示したように、本発明による硬化性フォトクロミックコーティング組成物は、(c)二次架橋剤も含む。本明細書で使用される「架橋剤」は、他の官能基との反応性を有しており、化学結合を介して2つ以上のモノマー又はポリマー分子を連結することができる2つ以上の官能基を含む分子を指す。本発明のフォトクロミックコーティング組成物は、ポリオール成分(a)のヒドロキシル基とポリ(無水物)(b)の無水物基との間の反応によって硬化することができ、その結果エステル結合とカルボン酸基が形成されることが理解されるであろう。二次架橋剤は、カルボン酸基と二次架橋剤の官能基との間でさらに架橋を起こすことができる。二次架橋剤(c)は、フォトクロミックコーティング組成物の機械的強度及び硬度を増加させることもできる。
【0078】
二次架橋剤(c)は、ポリ(カルボジイミド)及びオキサゾリン官能性材料からなる群から選択することができる。本発明の目的のためには、「ポリ(カルボジイミド)」は、少なくとも2つのカルボジイミド基を有する分子、又は構造:-N=C=N-を有する2つ以上の単位を含むポリマーを指す。本発明の目的のためには、「オキサゾリン官能性材料」は、少なくとも2つのオキサゾリン基を有する分子を指す。
【0079】
二次架橋剤(c)は、少なくとも3つのオキサゾリン基を有するオキサゾリン官能性材料を含むことができる。同様に、二次架橋剤(c)は、少なくとも3つのカルボジイミド基を有するポリ(カルボジイミド)も含むことができる。
【0080】
適切なオキサゾリン官能性材料架橋剤の非限定的な例としては、1,2-フェニレン-ビス-(2-オキサゾリン)、1,3-フェニレン-ビス-(2-オキサゾリン)、1,4-フェニレン-ビス-(2-オキサゾリン)、1,2-ビス(オキサゾリニル-4-メチル)ベンゼン、1,3-ビス(オキサゾリニル-4-メチル)ベンゼン、1,4-ビス(オキサゾリニル-4-メチル)ベンゼン、1,2-ビス(オキサゾリニル-5-エチル)ベンゼン、1,3-ビス(オキサゾリニル-5-メチル)ベンゼン、1,3-ビス(オキサゾリニル-5-エチル)ベンゼン、1,4-ビス(オキサゾリニル-5-エチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(オキサゾリニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(オキサゾリニル)ベンゼン、1,2,4,5テトラキス(オキサゾリニル)ベンゼン、オルト-、メタ-、又はパラ-置換フェニレンビスオキサゾリン、2,6-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ピリジン(及びオキサゾリン環にアルキル又はアリール置換基を有する誘導体)、2,6-ビス(8Hインデノ1,2-ジオキサゾリン-2-イル)ピリジン、1.2-ビス(4,4-ジメチル2-オキサゾリン-2-イル)エタン(及びオキサゾリン環にアルキル又はアリール置換基を有する誘導体)、2.2-イソプロピリデンビス-2-オキサゾリン(及びオキサゾリン環にアルキル又はアリール置換基を有する誘導体)、並びにNippon ShokubaiのEpocros(商標)RP-5、RP-6、及びRPS-1005などの2-イソプロペニル-2-オキサゾリンからなるコポリマーが挙げられる。重合性2-イソプロペニル-2-オキサゾリンとエチレン性不飽和材料との他のコポリマーとしては、限定するものではないが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸のエステル、酢酸ビニルや塩化ビニルなどのビニル化合物、スチレン自体やα-メチルスチレンなどのスチレン系材料、塩化アリルや酢酸アリルなどのアリル化合物、並びにアクリロニトリルやメタクリロニトリルなどの他の共重合性エチレン性不飽和モノマー、アクリルアミドやメタクリルアミドなどのアミド、1,3-ブタジエン、C~C24オレフィンなどのジエン、並びにこれらのようなエチレン性不飽和材料の混合物を挙げることができる。適切なオキサゾリン官能性材料架橋剤の非限定的な例には米国特許公開第2019/0185700A1号明細書[0026]段落から[0042]段落に記載されているものも含まれ、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0081】
二次架橋剤(c)は、70~10,000、100~5,000g/mol、又は100~1,000g/molの範囲内のオキサゾリン当量を有するオキサゾリン官能性材料を含み得る。
【0082】
また、二次架橋剤(c)は、140~200,000、200~100,000g/mol、又は250~10,000g/molの範囲内の数平均分子量(Mn)を有するオキサゾリン官能性材料も含み得る。
【0083】
適切なポリ(カルボジイミド)架橋剤の非限定的な例には、米国特許第9,957,394B2号明細書第4欄第11行目から第5欄第63行目に記載されているものが含まれ、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。ポリカルボジイミドは、通常、末端NCO官能基を有するポリカルボジイミド中間体を形成するために適切な触媒の存在下でのポリイソシアネートの縮合反応によって、並びに1種以上の活性水素含有化合物(アミン及び/又はヒドロキシ含有化合物など)の添加によりポリカルボジイミド中間体を停止及び/又は鎖延長することによって、調製することができる。
【0084】
縮合反応に適したポリイソシアネートとしては、限定するものではないが、脂環式を含む脂肪族のポリイソシアネートが挙げられる。そのようなポリイソシアネートは、例えば1分子あたり2~4個、例えば2個のイソシアネート基を含むことができる。適切な脂肪族及び脂環式ジイソシアネートの例は、メチレン-ビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メタ-テトラメチルキシレンジイソシアネート(「TMXDI」)、及び/又はこれらの混合物が挙げられる。置換基がイソシアネート基を非反応性にするように配置されていないことを条件として、置換基がニトロ、クロロ、アルコキシ、及びその他の基(ヒドロキシル基又は活性水素と反応しない基)である置換ポリイソシアネートも使用することができる。
【0085】
ポリイソシアネートは、例えば以下に記載されるようにポリカルボジイミド形成の前又は形成中に活性水素含有化合物が存在する場合に形成されるようなNCO含有付加物であってよい。
【0086】
前述のポリカルボジイミドポリマーは、末端NCO官能基を有するポリカルボジイミド中間体から出発する任意の様々な方法によって製造することができる。さらに、ポリカルボジイミドポリマーは、活性水素含有鎖延長剤を使用して又は使用せずに製造されたポリカルボジイミド中間体から製造することができる。
【0087】
活性水素含有鎖延長剤は、活性水素化合物がいつ添加されるかに応じて、ポリイソシアネートを一緒に連結するか、イソシアネート官能性ポリカルボジイミドを一体に連結するスペーサーである。例えば、鎖延長剤は、末端NCO官能基を有するポリカルボジイミド中間体の形成前、形成中、又は形成後に添加することができる。
【0088】
鎖延長剤が使用される場合、活性水素を含む任意の適切な化合物を鎖延長剤として使用することができる。「活性水素原子」という用語は、分子内でのその位置のためZerewitinoff試験により活性を示す水素を指す。したがって、活性水素には、酸素、窒素、又は硫黄に結合した水素原子が含まれ、そのため、有用な化合物には、少なくとも2つのヒドロキシル、チオール、一級アミン、及び/又は二級アミン基を(任意の組み合わせで)有するものが含まれる。例えば、活性水素含有鎖延長剤は、1分子あたり2~4個の活性水素を含む。
【0089】
活性水素を含むそのような化合物の例としては、ポリオールを含むアルコール、ポリアミンを含むアミン、アミノアルコール、及びメルカプト末端誘導体が挙げられる。いくつかの実施形態では、活性水素材料を含む化合物としては、1分子あたり平均2つ以上のヒドロキシル基を有する低分子量ポリオールを挙げることができ、ポリエトキシ又はポリプロポキシ(polypropxy)基を含む高分子量ポリオール(例えばポリエチレングリコール)は除外され得る。「低分子量材料」とは、重量平均分子量(Mw)が0~1000g/mol、例えば10~500g/mol又は20~300g/mol又は30~200g/mol又は50~150g/molの範囲の化合物を意味する。適切なポリオールとしては、低分子量のジオール、トリオール、及びそれ以上の多価アルコール、並びに低分子量のアミド含有ポリオールが挙げられる。低分子量のジオール、トリオール、及びそれ以上の多価アルコールには、1,2-シクロヘキサンジオール及びシクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ポリオール、脂肪族ポリオール、特に2~18個の炭素原子を含むアルキレンポリオールが含まれる。例としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが挙げられる。トリオール及びそれ以上の多価アルコールの例としては、トリメチロールプロパン、グリセロール、及びペンタエリスリトールが挙げられる。そのような鎖延長ポリカルボジイミドはウレタン結合を含む。
【0090】
上述したように、ポリカルボジイミドを調製するために、イソシアネート末端ポリカルボジイミド中間体は、ポリイソシアネートと先に説明したタイプの活性水素含有鎖延長剤との反応によって予め鎖延長されていてもいなくてもよいポリイソシアネートの縮合反応によって最初に形成される。ポリイソシアネートは、二酸化炭素の脱離と共に縮合して、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを形成する。
【0091】
縮合反応は、典型的には、ポリイソシアネートの溶液を適切な触媒の存在下で加熱することによって行われる。そのような反応は、例えばK.WagnerらによってAngew.Chem.Int.Ed.Engl.,vol.20,p.819-830(1981)の中に記載されている。適切な触媒の代表的な例は、例えば米国特許第2,941,988号明細書、同第3,862,989号明細書、及び同第3,896,251号明細書の中に記載されており、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。例としては、1-エチル-3-ホスホリン、1-エチル-3-メチル-3-ホスホリン-1-オキシド、1-エチル-3-メチル-3-ホスホリン-1-スルフィド、1-エチル-3-メチル-ホスホリジン、1-メチルホスホレン-1-オキシド、1-エチル-3-メチル-ホスホリジン-1-オキシド、3-メチル-1-フェニル-3-ホスホリン-1-オキシド、及び二環式テルペンアルキル若しくはヒドロカルビルアリールホスフィンオキシド、又はカンフェンフェニルホスフィンオキシドが挙げられる。使用される触媒の具体的な量は、触媒自体及び使用されるポリイソシアネートの反応性に大きく依存する。ポリイソシアネート100部あたり0.05~5部の触媒の濃度範囲が通常適切である。
【0092】
適切なポリカルボジイミドは、Nisshinbo Chemical Inc.(Tokyo,Japan)から商品名CARBODILITEとしても市販されている。
【0093】
二次架橋剤(c)は、200~10,000g/mol、200~5,000g/mol、又は250~1,000g/molの範囲内のカルボジイミド当量を有するポリ(カルボジイミド)を含み得る。また、二次架橋剤(c)は、400~300,000g/molの範囲内の数平均分子量(Mn)を有するポリ(カルボジイミド)も含み得る。
【0094】
二次架橋剤(c)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、フォトクロミックコーティング組成物の少なくとも1重量パーセント、少なくとも3重量パーセント、少なくとも5重量パーセント、少なくとも7重量パーセント、少なくとも10重量パーセント、少なくとも12重量パーセント、又は少なくとも15重量パーセントを占めることができる。二次架橋剤(c)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の最大50重量パーセント、最大40重量パーセント、最大35重量パーセント、最大30重量パーセント、又は最大25重量パーセントを占めることができる。二次架橋剤(c)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の1~50重量パーセント、5~35重量パーセント、10~30重量パーセント、5~25重量パーセント、又は7~30重量パーセントなどの範囲内の量を占めることもできる。
【0095】
本発明のフォトクロミックコーティング組成物は、0.1:1~10:1、1:3~5:1、1:2~4:1、又は約1:1の範囲の、ポリオール成分(a)とポリ無水物(b)との反応から形成されるカルボン酸基の当量と、二次架橋剤(c)中に存在するオキサゾリン基又はカルボジイミド基の当量との比を有し得る。
【0096】
示したように、本発明によるフォトクロミックコーティング組成物は、(d)フォトクロミック材料も含む。本明細書で使用される「フォトクロミック材料」という用語は、熱可逆性と非熱可逆性(又は光可逆性)のフォトクロミック化合物の両方を含む。フォトクロミック材料は、当該技術分野で認められている任意のフォトクロミック化合物を含むことができる。フォトクロミック化合物は、個別に使用することができ、或いは他の相補的なフォトクロミック化合物と組み合わせて使用することができる。通常、本明細書で限定するものではないが、2種以上のフォトクロミック材料が互いに組み合わせて使用される場合、望みの色又は色相を生成するために、様々な材料を互いに補完するように選択することができる。例えば、ほぼニュートラルグレー又はほぼニュートラルブラウンなどの特定の活性化色を達成するために、本明細書に開示の特定の非限定的な実施形態に従ってフォトクロミック化合物の混合物を使用することができる。例えば、ニュートラルなグレー及びブラウンの色を規定するパラメータについて記載されている米国特許第5,645,767号明細書第12欄第66行目から第13欄第19行目を参照のこと。この開示は参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0097】
フォトクロミック材料は、任意の様々な有機及び無機フォトクロミック材料を含むことができる。フォトクロミック材料としては、限定するものではないが、以下の分類の材料を挙げることができる:クロメン、例えばナフトピラン、ベンゾピラン、インデノナフトピラン、インドールナフトピラン、フェナントロピラン、又はこれらの混合物、スピロピラン、例えばスピロ(ベンズインドリン)ナフトピラン、スピロ(インドリン)ベンゾピラン、スピロ(インドリン)ナフトピラン、スピロ(インドリン)キノピラン、及びスピロ(インドリン)ピラン、オキサジン、例えばスピロ(インドリン)ナフトキサジン、スピロ(インドリン)ピリドベンゾオキサジン、スピロ(ベンズインドリン)ピリドベンゾオキサジン、スピロ(ベンズインドリン)ナフトキサジン、及びスピロ(インドリン)ベンゾオキサジン、水銀ジチゾネート、フルギド、フルギミド、及びそのようなフォトクロミック化合物の混合物。
【0098】
フォトクロミック材料(d)は、ナフトピラン、ベンゾピラン、インデノナフトピラン、インドールナフトピラン、フェナントロピラン、スピロピラン、オキサジン、水銀ジチオゾネート、フルギド、フルギミド、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0099】
そのようなフォトクロミック材料及び相補的フォトクロミック材料は、米国特許第4,931,220号明細書第8欄第52行目から第22欄第40行目、米国特許第5,645,767号明細書第1欄第10行目から第12欄第57行目、米国特許第5,658,501号明細書第1欄第64行目から第13欄第17行目、米国特許第6,153,126号明細書第2欄第18行目から第8欄第60行目、米国特許第6,296,785号明細書第2欄第47行目から第31欄第5行目、米国特許第6,348,604号明細書第3欄第26行目から第17欄第15行目、及び米国特許第6,353,102号明細書第1欄第62行目から第11欄第64行目に記載されており、前述した特許の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。スピロ(インドリン)ピランは、テキストであるTechniques in Chemistry,Volume III,“Photochromism”,Chapter 3,Glenn H.Brown,Editor,John Wiley and Sons,Inc.,New York,1971にも記載されている。
【0100】
フォトクロミック材料は、米国特許第5,166,345号明細書第3欄第36行目から第14欄第3行目に開示されている重合性ナフトキサジン、米国特許第5,236,958号明細書第1欄第45行目から第6欄第65行目に開示されている重合性スピロベンゾピラン、米国特許第5,252,742号明細書第1欄第45行目から第6欄第65行目に開示されている重合性スピロベンゾピラン及びスピロベンゾチオピラン、米国特許第5,359,085号明細書第5欄第25行目から第19欄第55行目に開示されている重合性フルギド、米国特許第5,488,119号明細書第1欄第29行目から第7欄第65行目に開示されている重合性ナフタセンジオン、米国特許第5,821,287号明細書第3欄第5行目から第11欄第39行目に開示されている重合性スピロオキサジン、米国特許第6,113,814号明細書第2欄第23行目から第23欄第29行目に開示されている重合性ポリアルコキシル化ナフトピラン、並びに国際公開第97/05213号パンフレット及び米国特許第6,555,028号明細書第1欄第16行目から第24欄第56行目に記載されている重合性フォトクロミック化合物などの重合性フォトクロミック材料であってもよい。重合可能なフォトクロミック材料に関する前述した特許の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0101】
他の適切なフォトクロミック材料としては、有機金属ジチオゾネート、例えば(アリールアゾ)-チオホルミックアリールヒドラジデート、例えば米国特許第3,361,706号明細書第2欄第27行目から第8欄第43行目に記載されている例えば水銀ジチゾネート、並びにフルギド及びフルギミド、例えば米国特許第4,931,220号明細書第1欄第39行目から第22欄第41行目に記載されている3-フリル及び3-チエニルフルギド及びフルギミドを挙げることができ、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0102】
適切なフォトクロミック材料としては、米国特許第6,113,814号明細書第2欄第24行目から第23欄第29行目に開示されている重合性ポリアルコキシル化ナフトピランも挙げることができ、この文献の引用部分は参照により本明細書に組み込まれる。加えて、適切なフォトクロミック材料としては、米国特許第6,555,028B2号明細書第2欄第40行目から第24欄第56行目に開示されているものなどのポリマーマトリックスに相溶化されたナフトピラン化合物を挙げることができ、この文献の引用部分は参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
さらに、フォトクロミック材料は、環状エステル及び/又は環状カーボネートを含む少なくとも1種の開環環状モノマーと、フォトクロミック開始剤との反応生成物を含むことができる。そのような材料及びその調製は、米国特許第7,465,415号明細書の第12欄第27行目から第74欄第64行目に詳細に記載されており、その引用部分は参照により本明細書に組み込まれる。
【0104】
フォトクロミック化合物は、個別に、又は他の相補的なフォトクロミック化合物、すなわち、約400~700ナノメートルの範囲内に少なくとも1つの活性化吸収極大を有する有機フォトクロミック化合物、又はそれを含む物質と組み合わせて使用することができ、これらはフォトクロミックコーティング組成物中に組み込まれ、例えば溶解又は分散され、適切な色相に活性化されたときにこの化合物又は化合物の混合物が着色する。
【0105】
本発明のフォトクロミック組成物中に存在するフォトクロミック材料の量は、通常、フォトクロミック材料を含むフォトクロミックコーティング組成物が化学線(例えば紫外線)に曝されたときに光学濃度の望まれる変化を示すのに十分な量である。典型的には、活性化後に肉眼で識別できるフォトクロミック効果を生じさせるために、十分な量が使用される。そのような量は、しばしば「フォトクロミック量」と呼ばれる。フォトクロミック量は、化学線への曝露後に望まれる色の強度、及びフォトクロミック材料を光学素子内又は光学素子上に組み込むために使用される方法に依存する。
【0106】
フォトクロミック材料(d)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、フォトクロミックコーティング組成物の少なくとも0.01重量パーセント、少なくとも0.05重量パーセント、少なくとも0.07重量パーセント、少なくとも0.1重量パーセント、少なくとも0.5重量パーセント、又は少なくとも1重量パーセントを占めることができる。フォトクロミック材料(d)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の最大30重量パーセント、最大25重量パーセント、最大20重量パーセント、最大15重量パーセント、又は最大10重量パーセントを占めることができる。フォトクロミック材料(d)は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として、コーティング組成物の0.01~30重量パーセント、0.05~25重量パーセント、0.1~20重量パーセント、0.1~15重量パーセント、又は0.5~10重量のパーセントなどの範囲内の量を占めることもできる。
【0107】
本発明による硬化性フォトクロミックコーティング組成物は、任意選択的に、流動及び湿潤のためのワックス、流動制御剤、例えばポリ(2-エチルヘキシル)アクリレート、コーティング特性を変更及び最適化するための補助剤樹脂、酸化防止剤、及び紫外(UV)光吸収剤などの添加剤を含むことができる。有用な酸化防止剤及びUV光吸収剤の例としては、BASF SE(Ludwigshafen,Germany)から商品名IRGANOX及びTINUVINとして市販されているものが挙げられる。これらの任意選択的な添加剤は、使用される場合、硬化性樹脂組成物の樹脂固形物の総重量を基準として、典型的には最大20重量パーセント(例えば0.5~10重量パーセント)の量で存在する。
【0108】
本発明によるフォトクロミック組成物、フォトクロミック物品、及びフォトクロミックコーティング組成物は、組成物又は物品の処理及び/又は性能を補助又は支援する、当該技術分野で認識されている添加剤をさらに含むことができる。そのような添加剤の非限定的な例としては、光開始剤、熱開始剤、重合阻害剤、溶媒、光安定剤(限定するものではないが紫外線吸収剤及び光安定剤、例えばヒンダードアミン光安定剤(HALS)など)、熱安定剤、離型剤、レオロジー制御剤、レベリング剤(限定するものではないが、界面活性剤など)、フリーラジカル捕捉剤、接着促進剤(ヘキサンジオールジアクリレート、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、及びカップリング剤など)、界面活性剤(シリコーン含有界面活性剤、例えばジメチルポリシロキサンコポリマーなど)、並びにこれらの組み合わせ及び混合物が挙げられる。
【0109】
本発明による硬化性フォトクロミックコーティング組成物は、イソシアネート官能性架橋剤を実質的に含まなくてもよく、本質的に含まなくてもよく、或いは完全に含まなくてもよい。この文脈で使用される「実質的に含まない」という用語は、硬化性フォトクロミック組成物がコーティング組成物の総固形分重量を基準として1000パーツパーミリオン(ppm)未満の成分を含むことを意味し、「本質的に含まない」は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として100ppm未満の成分を含むことを意味し、「完全に含まない」は、コーティング組成物の総固形分重量を基準として20パーツパービリオン(ppb)未満の成分を含むことを意味する。
【0110】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物は、1種以上の固定着色染料をさらに含むことができる。本明細書で使用される「固定着色染料」という用語及び「固定着色剤」、「静的着色剤」、「固定染料」、及び「静的染料」などの関連用語は、視覚的に観察されるその色に関して電磁放射に物理的に又は化学的に応答しない非感光性材料である染料を意味する。本明細書で使用される「固定着色染料」という用語及び関連する用語は、フォトクロミック化合物を含まず、それらと区別される。本明細書で使用される「非感光性材料」という用語は、限定するものではないが、固定着色染料などの、視覚的に観察されるその色に関して電磁放射に物理的に又は化学的に応答しない材料を意味する。
【0111】
1種以上の固定着色染料は、フォトクロミック化合物が活性化されていない場合の固定着色染料の少なくともベース(又は第1の)色特性を有し、任意選択的には化学線への曝露などによって活性化された場合の固定着色染料とフォトクロミック化合物との組み合わせの第2の色特性を有するフォトクロミック層及びフォトクロミック物品を提供することなど(ただしこれに限定されない)の目的のために、本発明の硬化性フォトクロミック組成物中に存在することができる。
【0112】
硬化性フォトクロミック組成物の任意選択的な固定着色染料は、アゾ染料、アントラキノン染料、キサンテン染料、アジン(azime)染料、ヨウ素、ヨウ化物塩、ポリアゾ染料、スチルベン染料、ピラゾロン染料、トリフェニルメタン染料、キノリン染料、オキサジン染料、チアジン染料、及びポリエン染料のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0113】
固定着色染料は、硬化性フォトクロミック組成物中に様々な量で存在して、それから製造される硬化物品に意図された効果を提供することができる。固定着色染料は、硬化性フォトクロミック組成物中に、0.001~15重量パーセント、又は0.01~10重量パーセント、又は0.1~2.5重量パーセントの量で存在することができ、それぞれの場合の重量パーセントは、硬化性フォトクロミック組成物の総固形分重量基準である(固定着色染料の重量を含み、記載された値を含む)。
【0114】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物は、水、有機溶媒、及びこれらの組み合わせから選択される溶媒を含むことができる。
【0115】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物中に存在することができる有機溶媒の分類としては、限定するものではないが、アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン、ジメチルエーテル及びメチルエチルエーテルなどのエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びジヒドロエボグルコセノンなどの環状エーテル、酢酸エチル、乳酸エチル、エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネートなどのエステル、ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどの窒素含有環状化合物、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド、ジメチルスルホキシド及びテトラメチレンスルホンなどの硫黄含有化合物、トルエン、キシレン、アニソール、及び安息香酸ブチルなどの芳香族化合物、並びにC~C10ジアルキル-及びトリアルキル-ベンゼンの市販の混合物であるAromatic 100 Fluidなど(ただしこれに限定されない)の芳香族化合物の混合物が挙げられる。
【0116】
溶媒は、本発明の硬化性フォトクロミック組成物中に、それぞれの場合で硬化性フォトクロミック組成物の総重量(溶媒の重量を含む)を基準として20~95重量パーセント、又は50~90重量パーセント、又は60~80重量パーセントの量で存在することができる。
【0117】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物は、当該技術分野で公知の任意の適切な方法によって硬化させることができる。例えば、硬化性フォトクロミック組成物は、約25℃の室温などの周囲条件で(又はその下で)硬化することができる。また、硬化性フォトクロミック組成物は、高温(周囲室温を超えて)に曝露することによって硬化させることもできる。本明細書で使用される「硬化」とは、ポリオール成分(a)のヒドロキシル基とポリ(無水物)(b)の無水物基との間などでの共有結合の形成によって形成される三次元架橋ネットワークを意味する。高温で硬化が行われる場合、硬化性フォトクロミック組成物は、本明細書では、熱硬化性フォトクロミック組成物と呼ぶことができる。本発明の熱硬化性フォトクロミック組成物が硬化する温度は変動し、硬化が行われる時間量にある程度依存する。例えば硬化性フォトクロミック組成物は、100℃~130℃の高温で、60~240分の時間硬化させることができる。
【0118】
硬化性フォトクロミックコーティング組成物は、限定するものではないが、押出法、スプレー塗布法、カーテンコーティング塗布法、ドローダウンブレード(又はバー)塗布法、ディップコーティング塗布法、スピンコーティング塗布法、ジェット印刷法(「インク」が本発明による硬化性フォトクロミック組成物に置き換えられたインクジェット印刷法など)、インモールドコーティング又は塗布法、並びにこれらの組み合わせなどの、当該技術分野で認められている方法に従って基材に塗布(又はその上に形成)することができる。
【0119】
適切な基材の非限定的な例としては、それらが光学的に透明であることを条件として、ガラス及び有機材料が挙げられる。基材を形成するために使用できる有機材料の非限定的な例としては、米国特許第5,962,617号明細書及び米国特許第5,658,501号明細書第15欄第28行目から第16欄第17行目に開示されているモノマー及びモノマーの混合物から調製されたポリマー系材料、例えばホモポリマー及びコポリマーが挙げられ、これらの米国特許の開示は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。例えばそのようなポリマー系材料は、熱可塑性又は熱硬化性のポリマー系材料とすることができ、これは透過性であっても光学的に透明であってもよく、また必要とされる任意の屈折率を有することができる。そのような開示されるモノマー及びポリマーの非限定的な例としては、ポリオール(アリルカーボネート)モノマー、例えばジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)などのアリルジグリコールカーボネート(このモノマーはPPG Industries,Inc.から商標CR-39(登録商標)として市販)、例えばポリウレタンプレポリマーとジアミン硬化剤との反応によって調製される、ポリ尿素-ポリウレタン(ポリ尿素-ウレタン)ポリマー(1つのそのようなポリマーの組成物は、PPG Industries,Inc.から商標TRIVEX(登録商標)として販売)、ポリオール(メタ)アクリロイル末端カーボネートモノマー、ジエチレングリコールジメタクリレートモノマー、エトキシル化フェノールメタクリレートモノマー、ジイソプロペニルベンゼンモノマー、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートモノマー、エチレングリコールビスメタクリレートモノマー、ポリ(エチレングリコール)ビスメタクリレートモノマー、ウレタンアクリレートモノマー、ポリ(エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ビスフェノールAとホスゲンとに由来するカーボネート結合樹脂などの熱可塑性ポリカーボネート(1つのそのような材料は、LEXAN(登録商標)の商標で販売)、商標MYLAR(登録商標)として販売されている材料などのポリエステル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリビニルブチラール、商標PLEXIGLAS(登録商標)として販売されている材料などのポリ(メチルメタクリレート)、並びに、ポリチオール、ポリイソシアネート、ポリイソチオシアネート、及び任意選択的なエチレン性不飽和モノマー若しくはハロゲン化芳香族含有ビニルモノマーと共重合及び/又は三元共重合されている、多官能性イソシアネートをポリチオール又はポリエピスルフィドモノマーと反応させることによって調製されたポリマーが挙げられる。また、そのようなモノマーのコポリマー、及び記載されているポリマーと他のポリマーを含むコポリマーとのブレンドも、例えばブロックコポリマー又は相互貫入ネットワーク生成物を形成するために想定されている。
【0120】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物は、フォトクロミックフィルム(すなわち、フォトクロミックコーティング)及びフォトクロミックシートなどのフォトクロミック層を作製するために使用される。本明細書で使用される「フィルム」という用語は、限定するものではないが、コーティングなどの自立型ではない層を意味する。本明細書で使用される「シート」という用語は、自立型且つ自己支持型の層を意味する。
【0121】
本発明のフォトクロミックコーティング組成物は、基材に塗布されてから硬化されて上にコーティングを形成する場合、5~50ミクロン、例えば10~30ミクロンの厚さを有し得る。
【0122】
フォトクロミックコーティング組成物は、基材に塗布されてから硬化されてコーティングを形成する場合、完全に硬化したときに少なくとも10N/mm且つ50N/mm未満のフィッシャー微小硬度値を有することができ、これは当該技術分野で認識されている方法に従って決定することができる。いくつかの実施形態では、硬化したフォトクロミック層のフィッシャー微小硬度は、Fischerscope HCV,Model H100SMC装置(Fischer Technology,Inc.から入手可能)を使用して、100ミリニュートンの荷重を15秒間かけた後、2ミクロンの侵入深さで決定することができ、単位は(N/mm)である。
【0123】
本発明のフォトクロミック物品のフォトクロミック性能は、本明細書の実施例にさらに詳細に記載されているような当該技術分野で認められている装置を使用する当該技術分野で認められている方法に従って決定することができる。
【0124】
本明細書において、飽和時の光学濃度の変化(ΔOD)は、活性化15分後であり、本明細書の実施例で詳しく説明される通りである。退色半減期(T1/2)の値は、本明細書の実施例で詳しく説明される通り、活性化光源を取り除いた後、フォトクロミック層内のフォトクロミック材料の活性化形態のΔODが23℃で15分のΔODの半分に到達するまでの時間(秒単位)である。
【0125】
本発明のフォトクロミック光学物品は、存在するフォトクロミック色素に応じて、23℃で70秒以下、又は50秒以下、又は40秒以下のT1/2(退色半減期)を示し得る。
【0126】
本発明は、本発明によるフォトクロミック組成物を含む光学物品にも関する。光学物品は、インビビション法、キャストインプレース法、コーティング法、インモールドコーティング法、オーバーモールド法、及びラミネーション法などの当該技術分野で認められている方法によって製造することができる。
【0127】
例えば、光学物品は、眼科用物品、ディスプレイ物品、窓、鏡、能動液晶セル物品、及び受動液晶セル物品から選択することができる。
【0128】
例えば、本発明の光学物品は、眼科用物品であってよく、眼科用物品は、矯正レンズ、非矯正レンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、拡大レンズ、保護レンズ、及びバイザーから選択することができる。
【0129】
本発明は、以下の非限定的条項のうちの1つ以上によってさらに特徴付けられ得る。
【0130】
条項1:2つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも15,000g/molのヒドロキシル当量を有する第1のポリオールと、少なくとも3つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも300g/molのヒドロキシル当量を有する第2のポリオールとを含むポリオール成分、少なくとも3つの環状無水物基を有するポリ(無水物)、ポリ(カルボジイミド)、オキサゾリン官能性材料、及びこれらの混合物からなる群から選択される二次架橋剤、並びにフォトクロミック材料、を含有する硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0131】
条項2:前記第1のポリオール(i)及び前記第2のポリオール(ii)が、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリジメチルシロキサンポリオール、ポリ(尿素)ウレタンポリオール、ポリアミドポリオール、これらのコポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群からそれぞれ独立して選択される、条項1に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0132】
条項3:前記第1のポリオール(i)が75,000g/mol未満のヒドロキシル当量を有する、条項1又は2に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0133】
条項4:前記第1のポリオール(i)が熱可塑性ポリウレタンジオールを含む、条項1~3のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0134】
条項5:前記第1のポリオール(i)がASTM D2240に従って測定される90未満のショア硬度を有する脂肪族熱可塑性ポリウレタンを含む、条項1~4のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0135】
条項6:前記第1のポリオール(i)が、ポリカーボネート熱可塑性ポリウレタンポリオール又はポリエーテル熱可塑性ポリウレタンポリオールを含む、条項1~5のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0136】
条項7:前記第2のポリオール(ii)が8,000g/mol未満のヒドロキシル当量を有する、条項1~6のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0137】
条項8:前記第2のポリオール(ii)が、ポリ(カプロラクトン)トリオール、ポリ(カプロラクトン)テトラオール、ポリカーボネートトリオール、ポリカーボネートテトラオール、アクリルポリオール、又はこれらの混合物を含む、条項1~7のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0138】
条項9:前記ポリ(無水物)(b)が1分子あたり少なくとも3つの環状無水物基を有する、条項1~8のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0139】
条項10:前記ポリ(無水物)(b)が、マレイン酸無水物とC~C24オレフィンとのコポリマー、マレイン酸無水物と(メタ)アクリレートとのコポリマー、マレイン酸無水物とスチレンとのコポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択されるコポリマーを含む、条項1~9のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0140】
条項11:前記ポリ(無水物)(b)が、マレイン酸無水物とC10~C24オレフィンとのコポリマー、例えばマレイン酸無水物と1-オクタデセンとのコポリマーを含む、条項1~10のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0141】
条項12:前記ポリ(無水物)(b)が500~100,000g/molの範囲の数平均分子量を有する、条項1~11のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0142】
条項13:前記二次架橋剤(c)が、少なくとも3つのオキサゾリン基を有するオキサゾリン官能性材料を含む、条項1~12のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0143】
条項14:前記二次架橋剤(c)が、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンのコポリマーを含むオキサゾリン官能性材料を含む、条項1~13のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0144】
条項15:前記フォトクロミック材料(d)が、ナフトピラン、ベンゾピラン、インデノナフトピラン、インドールナフトピラン、フェナントロピラン、スピロピラン、オキサジン、水銀ジチオゾネート、フルギド、フルギミド、及びこれらの混合物からなる群から選択される、条項1~14のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0145】
条項16:前記ポリ(無水物)(b)中に存在する無水物基の当量と、前記ポリオール成分(a)中に存在するヒドロキシル基の当量との比が1:3~5:1の範囲である、条項1~15のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0146】
条項17:(a)25~79.9重量パーセントのポリオール成分、(b)10~55重量パーセントのポリ(無水物)、(c)10~30重量パーセントの二次架橋剤、及び(d)0.1~20重量パーセントのフォトクロミック化合物、を含有し、これらの重量パーセントがフォトクロミック組成物中に存在する総固形分基準である、条項1~16のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0147】
条項18:前記第2のポリオール(ii)よりも大きい重量パーセントの前記第1のポリオール(i)を含む、条項1~17のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0148】
条項19:30~60重量パーセントの前記第1のポリオール(i)と10~30パーセントの第2のポリオール(ii)とを含む、条項1~18のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0149】
条項20:イソシアネート官能性架橋剤を実質的に含まない、本質的に含まない、又は完全に含まない、条項1~19のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0150】
条項21:完全に硬化したときに、少なくとも10N/mm且つ50N/mm未満のフィッシャー微小硬度値を有する、条項1~20のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0151】
条項22:23℃で70秒以下のT1/2(退色半減期)を示す、条項1~21のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0152】
条項23:前記第1のポリオールがジオールである、条項1~22のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0153】
条項24:前記第2のポリオールが前記第1のポリオールとは異なる、条項1~23のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
【0154】
条項25:条項1~24のいずれか1つに記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物を含む光学物品。
【0155】
条項26:前記光学物品がレンズである、条項25に記載の光学物品。
【0156】
本発明は、以下の実施例でより具体的に説明されるが、これらは、その中の多数の修正形態及び変形形態が当業者に明らかであるため、例示にすぎないことが意図されている。
【実施例
【0157】
以下の実施例は、本発明のフォトクロミックコーティング組成物を説明するために提供される。パート1は、処方成分の合成の説明を提供する。パート2は、本発明のフォトクロミックコーティング組成物及び比較のフォトクロミックコーティング組成物の調製の説明を提供する。パート3は、フォトクロミック試験片の作製の説明を提供する。パート4は、本発明のフォトクロミックコーティング組成物対比較のフォトクロミックコーティング組成物の特性の評価を提供する。
【0158】
パート1:処方成分の調製
実施例1
ポリカプロラクトンテトラオール
ペンタエリスリトール(6g)及びε-カプロラクトン(126g)を窒素下で3口フラスコ中で合わせ、均一になるまで150℃に加熱した。オクタン酸スズ(II)(1g)を5分間かけて添加したところ、180℃まで発熱した。フラスコを脱気し、窒素で3回パージし、その後窒素下で150℃で24時間撹拌した。冷却した反応混合物にヘキサン(3×300mL)を添加し、各添加後に上澄みをデカンテーションした。得られた粘稠な液体を真空下で40℃で乾燥させることで、低融点の白色固体(収量:107g)を得た。H NMRによって3332g/molの分子量及び833g/molのヒドロキシル当量が計算された。
【0159】
実施例2
ポリカプロラクトントリオール
1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン(7.4g)及びε-カプロラクトン(76g)を窒素下で3口フラスコ中で合わせ、均一になるまで150℃に加熱した。オクタン酸スズ(II)(0.83g)を5分間かけて添加したところ、180℃まで発熱した。フラスコを脱気し、窒素で3回パージし、その後窒素下で150℃で24時間撹拌した。冷却した反応混合物にヘキサン(3×300mL)を添加し、各添加後に上澄みをデカンテーションした。得られた粘稠な液体を真空下で40℃で乾燥させることで、低融点の白色固体(収量:80g)を得た。H NMRによって1502g/molの分子量及び500g/molのヒドロキシル当量が計算された。
【0160】
実施例3
アクリルオキサゾリン官能性材料の調製
ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(「DPMA」、31g)を窒素で15分間スパージングし、次いで130℃に加熱した。2-イソプロペニル-2-オキサゾリン(25g)、メタクリル酸n-ブチル(32g)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(5.2g)、亜リン酸トリフェニル(0.29g)、及びt-ドデシルメルカプタン(0.57g)の溶液を30分かけて滴下した。30分間撹拌した後、5mlのDPMA中の0.5gの2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)を添加し、溶液をさらに30分間撹拌した。5mlのDPMA中の追加の0.5gの2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)を添加し、溶液をさらに30分間撹拌した。その後、溶液を50℃まで冷却し、撹拌しながらヘキサン(0.5L)にゆっくり添加した。合わせた溶液を室温まで冷却した。溶媒をデカンテーションして粘稠な液体を得た。生成物をヘキサン(0.5L)に入れ、2回目のデカンテーションを行った。粗製固体生成物を50℃で真空下で乾燥した。収量: 45g。THF溶離液を使用してポリスチレン標準に対してGPCにより測定したMwは3610g/molであり、数平均分子量(Mn)は2120g/molであった。計算されたオキサゾリン当量は、H NMRに基づいて292g/molであった。
【0161】
パート2:フォトクロミックコーティング組成物の調製
実施例4~9
オキサゾリン官能性二次架橋剤を使用するフォトクロミックコーティング組成物を、表1に列挙されている成分を使用して調製した。全ての成分は、重量部として記載されている。表1に示されている各コーティング組成物については、チャージ1の成分を合わせ、50℃で最低30分間、又は固形分が溶解するまで加熱した。チャージ2を添加し、50℃で30分間撹拌を継続した。溶液を室温まで冷却し、続いてチャージ3を添加した。混合物を1時間撹拌し、続いてチャージ4を添加した。溶液は、使用前に室温で最低10時間撹拌した。全ての組成物は、30パーセントの理論上の固形分に処方した。
【表1】
【0162】
実施例10~11
ポリカルボジイミド二次架橋剤を使用するフォトクロミック組成物は、上の実施例4~9の手順を使用して、表2に列挙されている成分を使用して調製した。両方の組成物は、30パーセントの理論上の固形分に処方した。
【表2】
【0163】
比較例CE1及びCE2
比較例1(CE1)は、2つのヒドロキシル基を有し且つ少なくとも15,000g/molのヒドロキシル当量を有する第1のポリオール(i)を含まない。CE1は、高ヒドロキシル当量TPUジオールの代わりの等モル量の低ヒドロキシル当量ジオールと、オキサゾリン官能性二次架橋剤とを使用して、実施例4~9について記載した通りに調製した。比較例2(CE2)は、二次架橋剤(c)、又は少なくとも3つのヒドロキシル基を有し且つ少なくとも300g/molのヒドロキシル当量を有する第2のポリオール(ii)を含まない。CE2は、ポリオール成分としてTPUジオールのみを含み且つ二次架橋剤を含まない処方を使用して、実施例4~9について記載した通りに調製した。処方の詳細を表3に示す。
【表3】
【0164】
パート3:フォトクロミック試験片の作製
実施例4~11、CE1及びCE2の組成物を、それぞれ76ミリメートルの直径を有するPDQ(登録商標)コーティングされたGentex(登録商標)ポリカーボネートプラノレンズに塗布した。コーティングの前に、各レンズを、100ワットの出力で3分間、毎分100ミリリットル(mL)の酸素の流量で酸素プラズマ処理した。各組成物約1~2mLを基材上に分配し、次いで、実施例4~11については0.6~0.65gのウェットコーティング(30パーセント固形分)、CE1については0.3~0.33gのウェットコーティング、及びCE2については0.9gのウェットコーティングをレンズ上に堆積させるのに十分なスピン速度で8秒間回転させた。
【0165】
実施例4~11の試験片と同じものを複製し、その後強制空気オーブン内で125℃で4時間硬化した。比較例CE1は125℃で1時間硬化し、比較例CE2は125℃で6時間硬化した。
【0166】
パート4:試験片の特性
パート4a.微小硬度評価
一組の試験片を、105℃で3時間さらに熱硬化し、次いで、Fischer Technology,Inc.から入手可能なFischerscope HCV,Model H100SMCを使用して微小硬度試験を行った。硬度は、100ミリニュートンの荷重を15秒間加えた後、侵入深さ2ミクロンで測定した。各試験片を少なくとも2回測定した。得られたデータを平均化した。
【0167】
パート4b.フォトクロミック性能
試験片の2つ目の組を、前述のように酸素プラズマでさらに処理し、米国特許第7,410,691号明細書の実施例1の表1に報告されている処方に従って保護コーティングでスピンコーティングした。試験片を、D電球からのUV光を用いて窒素雰囲気下で硬化した。その後、各試験片を105℃で3時間熱硬化した。
【0168】
試験片のフォトクロミック性能は、Essilor,Ltd.France製のフォトクロミック測定用ベンチ(「BMP」)で試験した。試験中、BMPは73.4°F(23℃)の一定温度に維持した。試験の前に、コーティングされた各試験片を、約14センチメートルの距離で約10分間365ナノメートルの紫外線に曝露して、フォトクロミック材料を活性化した。レンズでのUVA(315~380nm)放射照度は、LICOR(登録商標)モデルLi-1800分光放射計で測定したところ、1平方メートルあたり22.2ワットであることが分かった。その後、各試験片を500ワットの高強度ハロゲンランプの下に約36センチメートルの距離で約10分間置き、フォトクロミック材料を脱色(不活性化)した。被験片の照度をLICOR(登録商標)分光放射計で測定したところ、21.9Kluxであることが分かった。その後、各試験片を、BMPで試験する前に、室温(70~75°F、又は21~24℃)の暗い環境で少なくとも1時間保持した。測定の前に、各レンズで390ナノメートル(Abs390nm)についての紫外線吸光度を測定した。
【0169】
BMP光学ベンチには、互いに直角に設定された2つの150ワットのNewport Model #6255キセノンアークランプが取り付けられていた。ランプ1からの光路は、必要なUV及び部分可視光放射照度レベルに寄与する3mmのSCHOTT(登録商標)KG-2バンドパスフィルターと適切な中性濃度フィルターとを通るように向けた。ランプ2からの光路は、補助的な可視光照度を提供するために、3mmのSCHOTT(登録商標)KG-2バンドパスフィルターと、SCHOTT(登録商標)短波帯400nmカットオフフィルターと、適切な中性濃度フィルターを通るように向けた。2つのビームを混合するために、各ランプに対して45°に設定された2インチ×2インチの50パーセントポルカドットビームスプリッターが使用される。中性濃度フィルターとキセノンアークランプの電圧制御との組み合わせを使用して、放射照度の強度を調整した。ソフトウェア、つまりBMPSoftバージョン2.1eをBMPで使用して、タイミング、放射照度、エアセル及びサンプルの温度、シャッター、フィルターの選択、及び応答測定を制御した。応答と色の測定には、レンズを介して光を送るための光ファイバーケーブルを備えたZEISS(登録商標)分光光度計、モデルMCS601を使用した。明所視反応の測定値を各レンズで収集した。
【0170】
光学ベンチの出力、すなわちレンズが曝された光の量は、315~380nmで積分された6.7ワット/平方メートル(W/m)のUVA、及び380~780nmで積分された50Kluxの照度に調整された。この出力の設定点の測定は、放射照度プローブと校正済みのZeiss分光光度計を使用して行った。レンズサンプルセルには、石英ウインドウとセルフセンタリングサンプルホルダーとが取り付けられていた。サンプルセル内の温度は、修正されたFacisモデルFX-10と、環境シミュレーターとを備えたソフトウェアにより23℃に制御した。サンプルの動的フォトクロミック応答の測定と色の測定は、タングステンハロゲンランプからサンプル通って光を送るための光ファイバーケーブルを備えた同じZeiss分光光度計を使用して行った。光ファイバーケーブルからの平行監視光ビームは、サンプルを通過する間試験サンプルに対して垂直に維持され、分光光度計に取り付けられた受信光ファイバケーブルアセンブリに向けられた。サンプルセル内のサンプルの正確な配置場所は、活性化キセノンアークビームと監視光ビームとが交差して2つの光の同心円を形成する場所であった。サンプル配置点におけるキセノンアークビームの入射角は、垂直から約30°であった。
【0171】
非活性化又は脱色状態から活性化又は着色状態への光学濃度の変化(ΔOD)に関する応答測定は、初期の非活性化透過率を確認し、キセノンランプからシャッターを開き、選択した時間間隔で活性化による透過率を測定することによって決定した。光学濃度の変化は、次の式に従って決定した:ΔOD=log10(%Tb/%Ta)、この式中の%Tは脱色状態におけるパーセント透過率であり、%Tは活性化状態におけるパーセント透過率である。光学濃度の測定は、明所視の光学濃度に基づいた。
【0172】
パート4c.結果
微小硬度及びフォトクロミック性能の結果を表4に示す。飽和時のΔODは、活性化15分後であり、退色半減期(「T1/2」)値は、活性化光源を除去した後、コーティング中のフォトクロミック材料の活性化形態のΔODが73.4°F(23℃)で15分におけるΔODの半分に到達する秒単位の時間である。
【表4】
【0173】
表4に示されているように、本発明のフォトクロミックコーティングは、許容可能な硬度と組み合わされた優れたフォトクロミック性能(良好な退色速度と組み合わされた良好な暗さ)を示した。対照的に、本発明の第1のポリオール(i)を含まないフォトクロミックコーティング組成物では、非常に硬いフィルムが得られたが、退色は非常に遅かった(CE1)。本発明の二次架橋剤(c)又は第2のポリオール(ii)を含まないフォトクロミックコーティング組成物は、TPUジオール及び無水物のみが良好な退色速度を与えるが、フィルム硬度を犠牲にする(CE2)ことを実証する。
【0174】
本発明を、その具体的な実施形態の特定の詳細事項を参照して説明してきた。そのような詳細事項は、それらが添付の特許請求の範囲に含まれる場合を除いて、本発明の範囲に対する限定とみなされることを意図するものではない。
一実施形態において、例えば、以下の項目が提供される。
(項目1)
(a)
(i)2つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも15,000g/molのヒドロキシル当量を有する第1のポリオールと、
(ii)少なくとも3つのヒドロキシル基を有し及び少なくとも300g/molのヒドロキシル当量を有する、前記第1のポリオールとは異なる第2のポリオールと、
を含むポリオール成分、
(b)少なくとも3つの環状無水物基を有するポリ(無水物)、
(c)ポリ(カルボジイミド)、オキサゾリン官能性材料、及びこれらの混合物からなる群から選択される二次架橋剤、並びに
(d)フォトクロミック材料
を含有する、硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目2)
前記第1のポリオール(i)及び前記第2のポリオール(ii)が、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリシロキサンポリオール、ポリ(尿素)ウレタンポリオール、ポリアミドポリオール、これらのコポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群からそれぞれ独立して選択される、項目1に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目3)
前記第1のポリオール(i)が75,000g/mol未満のヒドロキシル当量を有する、項目1又は2に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目4)
前記第1のポリオール(i)が熱可塑性ポリウレタンジオールを含む、項目1~3のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目5)
前記第2のポリオール(ii)が、8,000g/mol未満のヒドロキシル当量を有する、項目1~4のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目6)
前記第2のポリオール(ii)が、ポリ(カプロラクトン)トリオール、ポリ(カプロラクトン)テトラオール、ポリカーボネートトリオール、ポリカーボネートテトラオール、アクリルポリオール、又はこれらの混合物を含む、項目1~5のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目7)
前記ポリ(無水物)(b)が1分子あたり少なくとも3つの環状無水物基を有する、項目1~6のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目8)
前記ポリ(無水物)(b)が、
マレイン酸無水物とC ~C 24 オレフィンとのコポリマー、
マレイン酸無水物と(メタ)アクリレートとのコポリマー、
マレイン酸無水物とスチレンとのコポリマー、
及びこれらの混合物からなる群から選択されるコポリマーを含む、項目1~7のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目9)
前記ポリ(無水物)(b)が500~100,000g/molの範囲の数平均分子量を有する、項目1~8のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目10)
前記二次架橋剤(c)が、少なくとも3つのオキサゾリン基を有するオキサゾリン官能性材料を含む、項目1~9のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目11)
前記フォトクロミック材料(d)が、ナフトピラン、ベンゾピラン、インデノナフトピラン、インドールナフトピラン、フェナントロピラン、スピロピラン、オキサジン、水銀ジチオゾネート、フルギド、フルギミド、及びこれらの混合物からなる群から選択される、項目1~10のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目12)
前記ポリ(無水物)(b)中に存在する無水物基の当量対前記ポリオール成分(a)中に存在するヒドロキシル基の当量の比が1:3~5:1の範囲である、項目1~11のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目13)
(a)25~79.9重量パーセントのポリオール成分、
(b)10~55重量パーセントのポリ(無水物)、
(c)10~30重量パーセントの二次架橋剤、及び
(d)0.1~20重量パーセントのフォトクロミック化合物、
を含有するフォトクロミックコーティング組成物であって、前記重量パーセントが前記フォトクロミック組成物中に存在する総固形分基準である、項目1~12のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物。
(項目14)
項目1~13のいずれか一項に記載の硬化性フォトクロミックコーティング組成物を含む光学物品。
(項目15)
前記光学物品がレンズである、項目14に記載の光学物品。