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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】塑性加工用潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/02 20060101AFI20240405BHJP
   C10M 125/10 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 129/26 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 143/00 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 145/10 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 145/22 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 145/40 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 149/14 20060101ALN20240405BHJP
   C10M 155/02 20060101ALN20240405BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20240405BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240405BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240405BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20240405BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20240405BHJP
【FI】
C10M173/02
C10M125/10
C10M129/26
C10M143/00
C10M145/10
C10M145/14
C10M145/22
C10M145/40
C10M149/14
C10M155/02
C10N20:06 Z
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:24 Z
C10N10:02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022521795
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2021016113
(87)【国際公開番号】W WO2021230023
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020086055
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】浜島 研太郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-279689(JP,A)
【文献】特開平07-324195(JP,A)
【文献】特開平08-209183(JP,A)
【文献】特開平05-295387(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087573(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098434(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機酸のアルカリ金属塩と、
(b)水分散型水系樹脂粒子と、
(c)水溶性ポリマーと、
(d)水と、を含み、
前記(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記(b)水分散型水系樹脂粒子の重量比((b)水分散型水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10未満であり、
前記(b)水分散型水系樹脂粒子は、粒子径が0.1μm以下の粒子を、(b)水分散型水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む、鉄系材料の塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記(b)水分散型水系樹脂粒子の重量比((b)水分散型水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が0.02以上である、請求項1に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記水分散型水系樹脂粒子は、アクリル樹脂、スチレン‐アクリル樹脂、酢ビ‐アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン‐アクリル樹脂、シリコーン‐アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン‐ウレタン樹脂、及びポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記(b)水分散型水系樹脂粒子は、粒子径が0.1μm以下の粒子を、(b)水分散型水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含み、且つ、平均粒子径が0.01~10μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項5】
さらに、(e)無機酸塩、及び(f)無機粉体から選択される少なくともいずれかを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系材料の塑性加工用潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、ばね鋼、及び軸受鋼等の鉄系材料の被加工用材料に、温間領域又は熱間領域にて、鍛造、圧延、伸線及び押出し等の金型を用いた塑性加工を行う際には、当該金型と当該被加工用材料との間の潤滑性及び離型性を向上させるために潤滑剤を使用する。
【0003】
このような潤滑剤としては、従来、黒鉛を油中又は水中に分散させた黒鉛系塑性加工用潤滑剤が使用されている。黒鉛系塑性加工用潤滑剤は、潤滑性及び離型性に優れているが、黒鉛を含んでいるために作業環境を黒く汚染するといった問題がある。
【0004】
そのため、近年、黒鉛系塑性加工用潤滑剤組成物に匹敵する性能を有する、黒鉛を含まない塑性加工用潤滑剤、すなわち、非黒鉛系塑性加工用潤滑剤の開発が求められている。
【0005】
かかる非黒鉛系塑性加工用潤滑剤として、特許文献1には、(a)平均粒子径が0.1μmから10μmの範囲にあって、粒子径が0.1μm以下の粒子が5重量%以下でかつ粒子径が10μm以上の粒子が5重量%以下の粒径分布を有する樹脂粉末0.1~30重量%、(b)イソフタル酸とアジピン酸のアルカリ金属塩0.1~30重量%、(c)水溶性高分子化合物0.1~10重量%、を含有し、残部が水からなる熱間塑性加工用水溶性潤滑剤が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、ワックス及びカルボン酸塩のうちの少なくともワックスと、水とを含有し、潤滑用無機系粉末を含有しない温間・熱間鍛造用型潤滑剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国公開特許公報特開平5-279689号公報
【文献】日本国公開特許公報特開平5-125384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のような非黒鉛系塑性加工用潤滑剤は、黒鉛系塑性加工用潤滑剤に匹敵する潤滑性及び離型性を有する塑性加工用潤滑剤を提供するという観点からは更なる改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明の一態様は、潤滑性及び離型性に優れる非黒鉛系の塑性加工用潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含み、前記(b)水系樹脂粒子が、粒子径が0.1μm以下の粒子を所定量含み、(a)と(b)の配合比が所定の範囲である、塑性加工用潤滑剤組成物を用いることにより、潤滑性及び離型性に優れる非黒鉛系の、鉄系材料の塑性加工用潤滑剤組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一実施形態に係る塑性加工用潤滑剤組成物は、
(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含み、前記(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記(b)水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10未満であり、前記(b)水系樹脂粒子は、粒子径が0.1μm以下の粒子を、(b)水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む、鉄系材料の塑性加工用潤滑剤組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、作業環境を黒く汚染するという問題がないとともに、潤滑性及び離型性に優れる塑性加工用潤滑剤組成物を提供できる、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0014】
〔1.塑性加工用潤滑剤組成物〕
本発明の一実施形態に係る塑性加工用潤滑剤組成物は、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含み、前記(b)水系樹脂粒子は、粒子径が0.1μm以下の粒子を、(b)水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む、鉄系材料の塑性加工用潤滑剤組成物である。
【0015】
本明細書において、「塑性加工用潤滑剤組成物」とは、被加工用材料を塑性加工する際の潤滑剤として用いることができる組成物を意図する。ここで、被加工用材料は、塑性加工されうる鉄系材料であれば特に限定されるものではない。鉄系材料とは、鉄を主成分として含む材料をいい、好ましくは鉄を50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含む材料である。かかる鉄系材料としては、例えば、炭素鋼、合金鋼(クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼、マンガンボロン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロムバナジウム鋼等)、ステンレス鋼、ばね鋼、及び軸受鋼等が塑性加工に好適に用いられる。塑性加工は、好ましくは、温間領域又は熱間領域にて行われる。また、塑性加工の例としては、例えば、鍛造、押出し、圧延、プレス、伸線及び、スピニング加工のような回転成形等の加工が挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明の一実施形態に係る塑性加工用潤滑剤組成物(以下、本明細書において単に「潤滑剤組成物」と称することがある。)は、特に、温間及び熱間鍛造用潤滑離型剤として効果的に用いることができる。本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物を温間及び熱間鍛造用潤滑離型剤として使用する場合、従来公知の温間及び熱間鍛造用潤滑離型剤と同様の使用方法によって使用することができる。温間及び熱間の温度領域は、200~1250℃であり、好ましくは600~1250℃である。
【0016】
本明細書において、「潤滑性に優れる」との表現は、金型を用いて被加工用材料を加工する際に、潤滑剤組成物を用いると、金型と被加工用材料との間の摩擦を低減することができることを意図する。これにより、金型の摩耗を減少させることができ、さらに良好な塑性加工品を得ることができる。潤滑性は、例えば、実施例に記載のリング圧縮試験において横伸びの長さを比較することによって評価することができる。ここで、横伸びとは、プレス方向に垂直な方向の伸びを意図する。リング圧縮試験により評価される潤滑性に優れた潤滑剤組成物を用いると、例えば鍛造を行う場合、潤滑性に劣る潤滑剤組成物を用いた場合に得られる鍛造品に比べて、横伸びが長い鍛造品を得ることができる。また、潤滑性は、実施例に記載のスパイク試験において、軸伸びの長さを比較することによって評価することができる。スパイク試験により評価される潤滑性に優れた潤滑剤組成物を用いると、例えば鍛造を行う場合、潤滑性に劣る潤滑剤組成物を用いた場合に得られる鍛造品に比べて、軸伸びが長い鍛造品を得ることができる。
【0017】
本明細書において、「離型性に優れる」との表現は、金型を用いて被加工用材料を加工する際に、潤滑剤組成物を用いると、加工された被加工用材料と金型とが焼付くことなく、加工された被加工用材料が金型から外れることを意図する。離型性は例えば、実施例に記載のスパイク試験において、加工された被加工用材料の焼付きを確認することによって評価することができる。
【0018】
〔(a)有機酸のアルカリ金属塩〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、有機酸のアルカリ金属塩を含む。本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、有機酸のアルカリ金属塩を含んでいることにより、潤滑性が向上する。
【0019】
前記有機酸のアルカリ金属塩の有機酸としては、これに限定されるものではないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、及びヘキサヒドロ無水フタル酸等の飽和カルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、シクロヘキセン-1及び2-ジカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸;安息香酸、サリチル酸、無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸及びナフタレンジカルボン酸等の芳香族カルボン酸;等が挙げられる。前記アルカリ金属としては、例えばナトリウム及びカリウムが挙げられる。前記有機酸は、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムと塩を形成させてアルカリ金属塩とすることにより、水溶性化される。さらに、これらの有機酸のアルカリ金属塩は単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、有機酸のアルカリ金属塩の含有量は、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、好ましくは20~95重量%であり、より好ましくは25~95重量%であり、さらに好ましくは30~90重量%である。有機酸のアルカリ金属塩の含有量が、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、20重量%以上であれば、金型と被加工用材料との間で潤滑皮膜の被加工用材料への追随性が向上し、潤滑皮膜切れを抑制すると考えられる。これは黒鉛系潤滑剤の劈開に似た現象であり、この現象により優れた潤滑性及び離型性が得られると考えられる。
【0021】
〔(b)水系樹脂粒子〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、水系樹脂粒子を含む。本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物が水系樹脂粒子を含んでいることにより、潤滑剤組成物の潤滑性が向上する。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記水系樹脂粒子は、水系樹脂の粒子であればよい。前記水系樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン‐アクリル樹脂、酢ビ‐アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン‐アクリル樹脂、シリコーン‐アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン‐ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、天然多糖類、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ロジン系樹脂、石油樹脂、及びケトン系樹脂等を挙げることができる。また、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でもよい。これら水系樹脂は、1種又は複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
前記水系樹脂は、水溶性型であってもよいし、コロイダルディスパーション型、エマルション型等の水分散型であってもよい。水溶性型及びコロイダルディスパーション型の水系樹脂粒子は、例えば、親水性溶剤を使用して合成された樹脂に、中和剤を加えることにより、水に溶解又は半溶解させて得られる。エマルション型の水系樹脂粒子は、例えば、乳化重合によって、又は、疎水性樹脂を機械的に強制乳化することによって得られる。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記水系樹脂粒子は、粒子径が0.1μm以下の粒子を、前記水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む。このように、粒子径の小さい水系樹脂粒子の割合を多くすることにより、例えばスプレー等により塗布した時に金型上で緻密な潤滑皮膜が形成でき、潤滑性及び離型性に優れる潤滑剤組成物を実現できることが見出された。また、粒子径の小さい水系樹脂粒子の割合が多い潤滑剤組成物は分散性にも優れ、沈降により堆積したり、ノズルに詰まったりする水系樹脂粒子の割合が減少したことが、塑性加工用潤滑剤組成物の潤滑性、離型性の低下を抑制できる一因となっていると考えられる。
【0025】
前記水系樹脂粒子は、より好ましくは、粒子径が0.1μm以下の粒子を5重量%超含み、且つ、平均粒子径が0.01~10μmであり、さらに好ましくは、粒子径が0.1μm以下の粒子を5重量%超含み、且つ、平均粒子径が0.02~5μmであり、さらにより好ましくは、粒子径が0.1μm以下の粒子を5重量%超含み、且つ、平均粒子径が0.03~2μmであり、特に好ましくは、粒子径が0.1μm以下の粒子を5重量%超含み、且つ、平均粒子径が0.05~1μmである。
【0026】
さらに、前記水系樹脂粒子は、より好ましくは、粒子径が10μm以上の粒子が前記水系樹脂粒子の全量に対して5重量%以下であり、さらに好ましくは、粒子径が1.0μm以上の粒子が前記水系樹脂粒子の全量に対して5重量%以下である。
【0027】
前記水系樹脂粒子の平均粒子径及び/又は粒子径分布が前記範囲内であれば、塑性加工用潤滑剤組成物の潤滑性、離型性及び分散性が向上するため好ましい。
【0028】
なお、本明細書において、水系樹脂粒子の全量に対する粒子径が0.1μm以下の粒子の割合、及び、水系樹脂粒子の全量に対する粒子径が所定のサイズ以上の粒子の割合は、レーザ回析/散乱式粒子径分布測定装置を用いた測定により得られる粒度分布、具体的には累積頻度%値より得られる割合である。また、本明細書において、平均粒子径とは、前記粒度分布から得られるメジアン径(中位径、頻度の累積が50%になる粒子径D50)を意図する。
【0029】
前記アクリル樹脂とは、アクリル酸エステルモノマー又はメタクリル酸エステルモノマー(以下、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーをアクリルモノマーと称することがある)の重合反応(単独重合又は共重合)によって合成される高分子化合物の総称である。前記アクリル樹脂は、他のモノマーと共重合することにより改質することができ、このようにして改質されたアクリル樹脂も、本発明におけるアクリル樹脂に含まれる。前記改質されたアクリル樹脂としては、アクリルモノマーと、これと共重合し得る付加重合性モノマーと、の共重合物、等を挙げることができる。
【0030】
前記アクリルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、スルホエチルアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等を挙げることができる。アクリルモノマーと共重合し得る付加重合性モノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、シリコーン、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。
【0031】
前記ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオールと、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族イソシアネート及び/又は芳香族ポリイソシアネート化合物との縮重合物であるウレタン樹脂であって、前記ポリオールの一部としてポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのようなポリオキシエチレン鎖を有するポリオールを用いて得られたポリウレタン等を挙げることができる。
【0032】
前記ポリエステル樹脂としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸等の多塩基酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,4-CHDM、1,6-ヘキサンジオール等のポリオールとを縮合させたポリエステルポリオール;前記した多塩基酸と、ポリマーポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンポリオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタジオール等のポリオールと、を縮合させた縮合樹脂;等を挙げることができる。
【0033】
前記ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン;ポリエチレン;プロピレンとエチレンとα-オレフィンとの共重合体;等のポリオレフィンを、不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸やメタクリル酸)で変性した変性ポリオレフィン;エチレンとアクリル酸(メタクリル酸)との共重合体;等を挙げることができる。これらのポリオレフィン樹脂に、さらに他のエチレン性不飽和モノマーを少量、共重合させたものでもよい。水性化の手段としては、ポリオレフィン樹脂に導入したカルボン酸を、アンモニアやアミン類で中和する手段を挙げることができる。
【0034】
前記した各種の水系樹脂粒子は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明の一実施形態において、水系樹脂粒子の含有量は、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、好ましくは0.5~50重量%であり、より好ましくは1.0~45重量%であり、さらに好ましくは1.5~40重量%である。水系樹脂粒子の含有量が、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、0.5重量%以上であれば、優れた潤滑性、離型性及び分散性が得られる。
【0036】
本発明の一実施形態において、有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)は10未満であることが好ましい。前記重量比が10未満であれば、優れた潤滑性を有する潤滑剤組成物が得られるであるため好ましい。前記重量比は、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下であり、さらに好ましくは1以下である。
【0037】
本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物に対する前記水系樹脂粒子の含有量は、0より大きければ特に限定されるものではないが、0.5重量%以上であることがより好ましい。前記水系樹脂粒子の含有量が0.5重量%以上であれば、より優れた潤滑性を有する潤滑剤組成物が得られるであるため好ましい。
【0038】
また、本発明の一実施形態において、有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)は、0より大きければ特に限定されるものではないが、0.02以上であることがより好ましい。前記重量比が0.02以上であれば、より優れた潤滑性を有する潤滑剤組成物が得られるであるため好ましい。
【0039】
〔(c)水溶性ポリマー〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、水溶性ポリマーを含む。本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物が水溶性ポリマーを含んでいることにより、高温の金型表面に対して充分に塗布でき、潤滑剤組成物の潤滑性及び離型性が発現する。
【0040】
本発明の一実施形態において使用される水溶性ポリマーは、水に溶解すると、増粘する。これにより、前記水系樹脂粒子の分散性を向上させることができる。さらに増粘により、潤滑剤組成物を高温の金型上にスプレー塗布する場合に、水溶性ポリマーがバインダー成分として機能するため、(a)有機酸のアルカリ金属塩及び(b)水系樹脂粒子の付着効率を向上させることができると考えられる。それゆえ、温間あるいは熱間塑性加工の過酷な環境下でも耐熱性のある均質で強固な硬い潤滑皮膜を形成する、付着性に優れた潤滑剤組成物を得ることができる。
【0041】
本明細書において、「付着性に優れた」との表現は、潤滑剤組成物を金型表面に塗布した際に、各成分の付着効率が向上すると同時に、当該金型表面に強固に付着した潤滑皮膜が形成されることを意図する。
【0042】
水溶性ポリマーとしては、例えば、セルロース誘導体、ポリマレイン酸系樹脂のアルカリ金属塩、及びポリアクリル酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記セルロース誘導体としては、これに限定されるものではないが、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩及びヒドロキシメチルセルロースナトリウム塩等が挙げられる。更に、これらのセルロース誘導体は、単独で用いても、2種以上組み合わせてもよい。その重量平均分子量は、1万~1000万であることが好ましく、5万~500万であることがより好ましく、10万~200万であることがさらに好ましい。
【0044】
前記ポリマレイン酸系樹脂としては、これに限定されるものではないが、例えば、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物、スチレン・無水マレイン酸共重合物、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合物及びα-メチルスチレン・無水マレイン酸共重合物等のポリマーが挙げられる。これらのポリマーをイミド変性又はアンモニア変性したポリマーも前記ポリマレイン酸系樹脂に含まれる。前記アルカリ金属としては、例えばナトリウム及びカリウムが挙げられる。前記ポリマレイン酸系樹脂は、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムと塩を形成させてアルカリ金属塩とすることにより、水溶性化される。更に、これらのポリマレイン酸系樹脂のアルカリ金属塩は、単独で用いても、2種以上組み合わせてもよい。
【0045】
ポリアクリル酸のアルカリ金属塩としては、これに限定されるものではないが、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリル酸カリウム等が挙げられる。これらは、従来公知の市販品を使用することができる。その平均分子量は、1000~500万であることが好ましく、2000~300万であることがより好ましく、3000~100万であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態において、水溶性ポリマーの含有量は、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、好ましくは0.5~20重量%であり、より好ましくは0.7~17重量%であり、さらに好ましくは1.0~15重量%である。水溶性ポリマーの含有量が、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、0.5~20重量%であれば、本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物を金型表面に塗布した際に潤滑性が向上する。また、各成分の付着効率が向上すると同時に、当該金型表面に強固に付着する潤滑皮膜を形成することができる。
【0047】
〔(d)水〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、水を含んでいる。水としては、各成分を均一に溶解又は分散させることができる限りにおいて、特に限定されないが、イオン交換水又は純水等の精製水が好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態において、水の含有量は、塑性加工用潤滑剤組成物100重量%に対して、各成分の含有量を差し引いた残部であることが好ましい。
【0049】
本発明の一実施形態において、水の含有量は、使用する成分及び金型に塗布する量等によって適宜調整すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、塑性加工用潤滑剤組成物全量に対して、好ましくは50~95重量%であり、より好ましくは60~95重量%である。
【0050】
〔その他の成分〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含んでいればよいが、本発明の効果に好ましくない影響を与えない範囲で、その他の成分を含み得る。
【0051】
前記その他の成分としては、無機酸塩、無機粉体、分散剤、極圧添加剤、金属腐食抑制剤、防腐剤及び消泡剤等が挙げられる。特に、耐熱性の高い無機酸塩及び無機粉体については、金型と被加工用材料との間での金属接触が抑制され、潤滑性及び離型性の更なる向上も期待できる。
【0052】
従って、本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、に加えて、さらに、(e)無機酸塩、及び(f)無機粉体から選択される少なくともいずれかを含むことも好ましい。
【0053】
前記無機酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、無機酸のアルカリ金属塩、無機酸のアルカリ土類金属塩、無機酸のアルミニウム塩、及び無機酸のアンモニウム塩等を挙げることができる。前記無機酸塩としては、より具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩;ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、リン酸カルシウム等のリン酸塩;モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム等のモリブデン酸塩;及びタングステン酸ナトリウム等のタングステン酸塩等が挙げられる。これらの無機酸塩は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0054】
前記無機粉体としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、合成マイカ、天然マイカ、セピオライト、カオリン、シリカ、タルク、窒化ホウ素、硫酸バリウム、ベントナイト、メラミンシアヌレート、アルミナ、セリサイト、バーミキュライト及びハイドロタルサイト等が挙げられる。これらの無機粉体は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物に無機酸塩が含まれる場合その含有量は、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、好ましくは0.1~25重量%であり、より好ましくは0.5~20重量%である。
【0056】
また、本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物に無機粉体が含まれる場合その含有量は、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、好ましくは0.05~15重量%であり、より好ましくは0.1~10重量%である。
【0057】
本発明の一実施形態において、無機酸塩及び無機粉体以外の前記その他の成分の合計含有量は、本発明の効果に好ましくない影響を与えない範囲であれば特に限定されるものではないが、塑性加工用潤滑剤組成物の全固形分に対して、好ましくは20重量%以下である。
【0058】
〔2.塑性加工用潤滑剤組成物の製造方法及び使用方法〕
本発明の一実施形態に係る塑性加工用潤滑剤組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、前述の(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水とを含む各成分を混合することによって製造される。
【0059】
前記各成分を混合する順序も特に限定されるものではないが、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水とを、例えば以下の順序で混合することができる。好ましい一例としては、例えば、水にアルカリ金属塩を加えて溶液とした後、40~100℃で加熱撹拌しながら有機酸を加えて中和反応により溶解させる。有機酸が溶解後、水溶性ポリマーを加えて、40~100℃で加熱撹拌しながら溶解させる。水溶性ポリマーが溶解後、得られた水溶液を常温に冷却し、水性樹脂粒子を加えて撹拌し溶液とする。アルカリ金属塩としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。
【0060】
その他の成分として、無機酸塩を使用する場合は、例えば、前述の例において、有機酸が溶解後、水溶性ポリマーを加える前に、無機酸塩を40~100℃で加熱撹拌しながら加えることができる。また、その他の成分として、無機紛体を使用する場合は、例えば、前述の例において、水性樹脂粒子と同時に無機紛体を加えることができる。
【0061】
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物において、各成分の含有量の好ましい組み合わせとしては、前記(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記(b)水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10未満であれば、特に限定されない。例えば、各成分の含有量の好ましい組み合わせとしては、塑性加工用潤滑剤組成物100重量%に対して、(a)有機酸のアルカリ金属塩の含有量が1~35重量%であり、(b)水系樹脂粒子の含有量が0.1~20重量%であり、(c)水溶性ポリマーの含有量が0.01~15重量%であり、残部が(d)水である。より好ましくは、塑性加工用潤滑剤組成物100重量%に対して、(a)有機酸のアルカリ金属塩の含有量が3~30重量%であり、(b)水系樹脂粒子の含有量が0.3~15重量%であり、(c)水溶性ポリマーの含有量が0.05~10重量%であり、残部が(d)水である。さらに好ましくは、塑性加工用潤滑剤組成物100重量%に対して、(a)有機酸のアルカリ金属塩の含有量が5~25重量%であり、(b)水系樹脂粒子の含有量が0.5~12重量%であり、(c)水溶性ポリマーの含有量が0.1~5重量%であり、残部が(d)水である。
【0062】
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物は、そのまま潤滑剤として使用されてもよく、水等で希釈されて使用されてもよい。本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物の希釈率は、使用する成分及び金型に塗布する量等によって適宜調整すればよい。
【0063】
本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物を金型に塗布する方法としては、金型表面に均一に塗布できればよく、特に限定されないが、例えば、スプレー噴霧が挙げられる。本発明の一実施形態に係る潤滑剤組成物を金型表面に塗布すると、金型の熱によって水等の溶液成分が蒸発し、潤滑皮膜が形成される。
【0064】
すなわち、本発明は、以下の構成からなるものである。
【0065】
〔1〕(a)有機酸のアルカリ金属塩と、(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含み、前記(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記(b)水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10未満であり、前記(b)水系樹脂粒子は、粒子径が0.1μm以下の粒子を、(b)水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む、鉄系材料の塑性加工用潤滑剤組成物。
【0066】
〔2〕前記(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、前記(b)水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が0.02以上である、〔1〕に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【0067】
〔3〕前記水系樹脂粒子は、アクリル樹脂、スチレン‐アクリル樹脂、酢ビ‐アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン‐アクリル樹脂、シリコーン‐アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン‐ウレタン樹脂、及びポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、〔1〕又は〔2〕に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【0068】
〔4〕前記(b)水系樹脂粒子は、粒子径が0.1μm以下の粒子を、(b)水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含み、且つ、平均粒子径が0.01~10μmである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【0069】
〔5〕さらに、(e)無機酸塩、及び(f)無機粉体から選択される少なくともいずれかを含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
【実施例
【0070】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
〔1.潤滑剤組成物の調製〕
<実施例1>
水にNaOHを加えて溶液とした。その後、当該溶液を40~100℃で加熱撹拌しながら、有機酸を加えて中和反応により溶解させた。有機酸が溶解した後、必要に応じて、無機酸のアルカリ金属塩を40~100℃で加熱撹拌しながら溶解させた。溶解後、水溶性ポリマーを加えて40~100℃で加熱撹拌しながら溶解させた。得られた水溶液を40℃以下に冷却した。冷却した水溶液に、水性樹脂粒子、及び、必要に応じて、無機粉体を添加して撹拌下で混合した。このようにして、表1~3に記載の配合量で各成分を含有する、実施例及び比較例の塑性加工用潤滑剤組成物を調製した。
【0072】
表1~3において、各成分の配合量は、固形分の量(単位:塑性加工用潤滑剤組成物の全重量に対する重量%)を示す。また、各成分の詳細は以下のとおりである。
【0073】
<(a)成分:有機酸のアルカリ金属塩>
前述のとおり、水にNaOHを加えて溶液とし、当該溶液を40~100℃で加熱撹拌しながら有機酸を加えて中和反応により調製した。
(a‐1)イソフタル酸二ナトリウム:LOTTE CHEMICAL CORPORATION製イソフタル酸を中和。
(a‐2)アジピン酸二ナトリウム:BASFジャパン株式会社製アジピン酸を中和。
【0074】
<(b)成分:水系樹脂粒子>
水を媒体として、以下に示す樹脂が水溶性型、コロイダルディスパーション型、又はエマルション型等に分散されている市販製品を用いた。表に記載の数値は、潤滑剤組成物中の水系樹脂粒子の有効成分を示す。
(b‐1)アクリル樹脂:DIC株式会社製、ボンコート(登録商標)CF8700。
(b‐2)スチレン‐アクリル樹脂(1):昭和電工株式会社製、ポリゾール(登録商標)AP5695。
(b‐3)スチレン‐アクリル樹脂(2):昭和電工株式会社製、ポリゾール(登録商標)AP2675PN。
(b‐4)スチレン‐アクリル樹脂(3):DIC株式会社製、ボンコート(登録商標)SK‐105‐E。
(b‐5)スチレン‐アクリル樹脂(4):昭和電工株式会社製、ポリゾール(登録商標)AP1700N。
(b‐6)スチレン‐アクリル樹脂(5):DIC株式会社製、ボンコート(登録商標)EC905EF。
(b‐7)スチレン‐アクリル樹脂(6):昭和電工株式会社製、ポリゾール(登録商標)AP1272。
(b‐8)酢ビ‐アクリル樹脂:DIC株式会社製、ボンコート(登録商標)CF2800。
(b‐9)シリコーン‐アクリル樹脂:DIC株式会社製、ボンコート(登録商標)SA6340。
(b‐10)シリコーン‐ウレタン樹脂:日信化学工業株式会社製、シャリーヌ(登録商標)RU‐911。
(b‐11)ウレタン‐アクリル樹脂:DIC株式会社製、ボンコート(登録商標)HY364。
(b‐12)ウレタン樹脂:第一工業製薬株式会社製、スーパーフレックス(登録商標)210。
(b‐13)ポリエステル樹脂:互応化学工業株式会社製、プラスコート(登録商標)z‐687。
(b‐14)ポリエチレン樹脂:ビックケミー・ジャパン株式会社製、HORDAMER PE03。
(b-15)フェノール樹脂:市販品白色系潤滑剤。
【0075】
<(c)成分:水溶性ポリマー>
(c-1)ヒドロキシエチルセルロース:ダイセルファインケム製、ダイセルSP‐500。
(c-2)イソブチレン無水マレイン酸のナトリウム塩:株式会社クラレ製イソブチレン無水マレイン酸を中和。
【0076】
<(d)成分:水>
(d-1)水:イオン交換水。
【0077】
<その他の成分>
(無機紛体)
シリカ:エボニック・ジャパン製、カープレックス(登録商標)#80。
炭酸カルシウム:白石カルシウム株式会社製、白艶華(登録商標)T-DD
メラミンシアヌレート:日産化学工業株式会社製、MC-6000
マイカ:株式会社レプコ製、レプコマイカM-XF
窒化ホウ素:YINGKOU LIAOBIN METICULOUS CHEMICAL CO., LTD
(無機酸塩)
硫酸ナトリウム:和光純薬株式会社
ホウ酸ナトリウム:和光純薬株式会社
硝酸ナトリウム:和光純薬株式会社
炭酸ナトリウム:和光純薬株式会社
リン酸水素二ナトリウム:和光純薬株式会社
(市販品黒鉛系潤滑剤)
黒鉛系:日立化成株式会社製、ヒタゾル(登録商標)GA‐651E
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表4に、実施例及び比較例において使用した(b)水系樹脂粒子の平均粒子径(メジアン径)及び累積頻度%値を、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA‐960V2(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した結果を示す。測定結果は、各水系樹脂粒子につき、表中の「種類」に記載の樹脂の屈折率に基づき算出された結果である。
【0082】
【表4】
【0083】
〔2.評価試験〕
<リング圧縮試験>
リング圧縮試験により潤滑性の指標として摩擦係数を測定した。試験条件は次のとおりとした。
【0084】
実施例1~35及び比較例1~8にて調製した塑性加工用潤滑剤組成物をイオン交換水で10倍に希釈した後、200℃に加熱した鉄製の金型(上型及び下型)に対して、スプレー圧0.3MPa、スプレー距離300mm、スプレー量4ccの条件にてスプレー塗布した。スプレー塗布後の金型を150tクランクプレス(コマツ産機株式会社製)にセットした。
【0085】
次いで、鉄リング(材質:S45C φ30×φ15×10mm)を電気炉にて1000℃に加熱し、上下金型間に置きプレス成形した。前述のようにプレス成形された試験片の圧縮率と内径変形により摩擦係数を算出した。摩擦係数が小さいほど、プレス方向に垂直な方向の潤滑性に優れるといえる。結果を表1~3に示す。
【0086】
<分散性試験>
分散性試験により希釈液中の樹脂微粒子もしくは粉体の沈降具合を評価した。条件は次のとおりとした。
【0087】
実施例3、4、5、35及び比較例1~3にて調製した塑性加工用潤滑剤組成物を、サンプル管内にて水で10倍に希釈した後、当該サンプル管を24時間静置させた。その後、サンプル管底部の沈降物有無を観察し、以下の基準により評価した。結果を表5に示す。
○:24時間静置させたサンプル管底部に沈降物は全く確認されない。
×:24時間静置させたサンプル管底部に沈降物が少しでも確認される。
【0088】
<スパイク試験>
(軸伸び)
スパイク試験にて潤滑性の指標として軸伸び性を評価した。試験条件は次のとおりとした。
【0089】
実施例5、8及び比較例1、2にて調製した塑性加工用潤滑剤組成物をイオン交換水で50倍に希釈した後、150℃に加熱したスパイク試験用金型に対して、スプレー圧0.3MPa、スプレー距離300mm、スプレー量4ccの条件にてスプレー塗布した。スプレー塗布後の前記金型を150tクランクプレス(コマツ産機株式会社製)にセットした。
【0090】
次いで、試験片(材質:S45C φ25×30mm)を電気炉にて1200℃に加熱しプレス成形した。プレス成形された試験片の高さ(軸伸び)を測定した。結果を表6に示す。
【0091】
(金型への焼付き(張付き))
前述のように試験片を成形した際、試験片が金型に焼付いていないかどうかを、以下の基準により評価した。この評価により、塑性加工用潤滑剤組成物が離型性に優れているかどうかを評価できる。結果を表6に示す。
○:成形された試験片が金型に焼付くことなく、当該試験片が金型から外れる。
×:成形された試験片が金型に焼付き、当該試験片が金型から外れない。
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
表1~2に記載の実施例1~35の評価結果より、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、粒子径が0.1μm以下の粒子を水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含み、(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、(b)水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10未満である塑性加工用潤滑剤組成物は、比較例1の黒鉛系潤滑剤を用いた場合に匹敵する、優れた潤滑性を有することがわかる。
【0095】
これに対して、水系樹脂粒子として、粒子径が0.1μm以下の粒子を水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む水系樹脂粒子の代わりに、粒子径が0.1μm以下の粒子を含まないフェノール樹脂を用いた比較例2の塑性加工用潤滑剤組成物は、潤滑性に劣る。
【0096】
また、比較例3、7及び8の結果より、(a)有機酸のアルカリ金属塩、粒子径が0.1μm以下の粒子を水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む(b)水系樹脂粒子、及び(c)水溶性ポリマーの少なくともいずれかが欠けている塑性加工用潤滑剤組成物は、潤滑性に劣ることがわかる。
【0097】
さらに、実施例1、2、8、30~34と比較例4~6の結果より、(b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10以上である比較例4~6の塑性加工用潤滑剤組成物は、10未満である実施例1、2、8、30~34の塑性加工用潤滑剤組成物よりも、潤滑性に劣ることがわかる。
【0098】
表5に記載の実施例3、4、5及び35の評価結果より、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、粒子径が0.1μm以下の粒子を水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含み、(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、(b)水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10未満である塑性加工用潤滑剤組成物は、分散性に優れることがわかる。一方、比較例1~3の評価結果より、比較例1の黒鉛系潤滑剤、粒子径が0.1μm以下の粒子を含まないフェノール樹脂を用いた比較例2の塑性加工用潤滑剤組成物及び水系樹脂粒子を含まない比較例3の塑性加工用潤滑剤組成物は分散性に劣る。
【0099】
表6に記載の実施例5及び8の評価結果より、(a)有機酸のアルカリ金属塩と、粒子径が0.1μm以下の粒子を水系樹脂粒子の全量に対して5重量%超含む(b)水系樹脂粒子と、(c)水溶性ポリマーと、(d)水と、を含み、(a)有機酸のアルカリ金属塩に対する、(b)水系樹脂粒子の重量比((b)水系樹脂粒子の重量/(a)有機酸のアルカリ金属塩の重量)が10未満である塑性加工用潤滑剤組成物は、軸方向の潤滑性及び離型性に優れることがわかる。一方、比較例1の黒鉛系潤滑剤は軸方向の潤滑性に劣り、粒子径が0.1μm以下の粒子を含まないフェノール樹脂を用いた比較例2の塑性加工用は離型性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、温間領域又は熱間領域において、鉄系材料の塑性加工を行う際の潤滑剤として利用することができる。