(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-04
(45)【発行日】2024-04-12
(54)【発明の名称】状態監視装置、状態異常判別方法及び状態異常判別プログラム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20240405BHJP
【FI】
B25J19/06
(21)【出願番号】P 2022540261
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027426
(87)【国際公開番号】W WO2022024946
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2020127513
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】川井 淳
(72)【発明者】
【氏名】永浜 恭秀
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-102001(JP,A)
【文献】特開2011-59790(JP,A)
【文献】特開平9-136287(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1955830(EP,A1)
【文献】国際公開第2013/051101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
初回以降の少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データ
である初期データと、前記
初期データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された
複数の前記時系列データに基づく
複数の比較用データ
のそれぞれと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価部は、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算することを特徴とする状態監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態監視装置であって、
前記トレンドラインを表示可能な表示部を備え、
前記表示部は、前記非類似度と異なる評価量が予め設定された条件を満たした場合のアラームを、前記トレンドラインと同時に表示可能であることを特徴とする状態監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の状態監視装置であって、
前記非類似度算出部は、
前記初期データから取り出したm個のサンプリング値を第1軸に時系列順で配置し、前記比較用データから取り出したn個のサンプリング値を第2軸に時系列順で配置し、それぞれのサンプリング値の対応付けをm×n個のセルからなるマトリクスで表現し、対応付けられるサンプリング値の間の差異を各セルに関連付ける場合に、
前記第1軸に配置された前記初期データのサンプリング値のうち時系列で最先のタイミングに相当するサンプリング値と、前記第2軸に配置された前記比較用データのサンプリング値のうち時系列で最先のタイミングに相当するサンプリング値と、の対応付けに相当する始点セルから、
前記第1軸に配置された前記初期データのサンプリング値のうち時系列で最後のタイミングに相当するサンプリング値と、前記第2軸に配置された前記比較用データのサンプリング値のうち時系列で最後のタイミングに相当するサンプリング値と、の対応付けに相当する終点セルに至る経路のうち、
通過する前記セルに関連付けられている差異の合計が最小となる経路を求め、
求められた経路が通過するそれぞれの前記セルに関連付けられる差異の合計又は平均値を前記非類似度とすることを特徴とする状態監視装置。
【請求項4】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価部は、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算し、
前記非類似度算出部は、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記比較用データの間の前記非類似度である第1非類似度と、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記比較用データの間の前記非類似度である第2非類似度と、
を求め、
前記第1非類似度と第2非類似度との差を第2評価量として出力することを特徴とする状態監視装置。
【請求項5】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価部は、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算し、
前記非類似度算出部は、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記比較用データの間の前記非類似度である第3非類似度と、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記比較用データの間の前記非類似度である第2非類似度と、
を求め、
前記第3非類似度と前記第2非類似度との差を第3評価量として出力することを特徴とする状態監視装置。
【請求項6】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価部は、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算し、
前記非類似度算出部は、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記比較用データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記比較用データの間の前記非類似度である第4非類似度を求め、
前記第4非類似度を第4評価量として出力することを特徴とする状態監視装置。
【請求項7】
請求項
4から6までの何れか一項に記載の状態監視装置であって、
前記トレンドラインを表示可能な表示部を備え、
前記表示部は、前記非類似度と異なる評価量が予め設定された条件を満たした場合のアラームを、前記トレンドラインと同時に表示可能であることを特徴とする状態監視装置。
【請求項8】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記非類似度算出部は、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記比較用データの間の前記非類似度である第1非類似度と、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記比較用データの間の前記非類似度である第2非類似度と、
を求め、
前記第1非類似度と第2非類似度との差を第2評価量として出力することを特徴とする状態監視装置。
【請求項9】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記非類似度算出部は、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記比較用データの間の前記非類似度である第3非類似度と、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記基準データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記比較用データの間の前記非類似度である第2非類似度と、
を求め、
前記第3非類似度と前記第2非類似度との差を第3評価量として出力することを特徴とする状態監視装置。
【請求項10】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記非類似度算出部は、
前記時系列データに対してフィルタ処理を行った前記比較用データ、及び、前記時系列データに対してフィルタ処理を行っていない前記比較用データの間の前記非類似度である第4非類似度を求め、
前記第4非類似度を第4評価量として出力することを特徴とする状態監視装置。
【請求項11】
請求項
4から
10までの何れか一項に記載の状態監視装置であって、
前記非類似度算出部は、
前記基準データから取り出したm個のサンプリング値を第1軸に時系列順で配置し、前記比較用データから取り出したn個のサンプリング値を第2軸に時系列順で配置し、それぞれのサンプリング値の対応付けをm×n個のセルからなるマトリクスで表現し、対応付けられるサンプリング値の間の差異を各セルに関連付ける場合に、
前記第1軸に配置された前記基準データのサンプリング値のうち時系列で最先のタイミングに相当するサンプリング値と、前記第2軸に配置された前記比較用データのサンプリング値のうち時系列で最先のタイミングに相当するサンプリング値と、の対応付けに相当する始点セルから、
前記第1軸に配置された前記基準データのサンプリング値のうち時系列で最後のタイミングに相当するサンプリング値と、前記第2軸に配置された前記比較用データのサンプリング値のうち時系列で最後のタイミングに相当するサンプリング値と、の対応付けに相当する終点セルに至る経路のうち、
通過する前記セルに関連付けられている差異の合計が最小となる経路を求め、
求められた経路が通過するそれぞれの前記セルに関連付けられる差異の合計又は平均値を前記非類似度とすることを特徴とする状態監視装置。
【請求項12】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価部は、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算し、
前記非類似度算出部は、
前記基準データの波形と、前記比較用データの波形と、のうち少なくとも一方を時間軸方向に複数段階で移動させながら、2つの波形の間のユークリッド距離をそれぞれ求め、
前記ユークリッド距離の最小値を前記非類似度とすることを特徴とする状態監視装置。
【請求項13】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価部は、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算し、
前記非類似度算出部は、
それぞれ複数のサンプリング値を取得された前記基準データの波形と、前記比較用データの波形と、の間で、
一方の波形のi番目のサンプリング値である第1サンプリング値と、他方の波形のi-p番目からi+p番目まで(ただし、i及びpは1以上の整数)のサンプリング値のうち前記第1サンプリング値に最も近い第2サンプリング値と、の差を、2つの波形で対応するサンプリング値の差であるとみなしてユークリッド距離を求め、
前記ユークリッド距離を前記非類似度とすることを特徴とする状態監視装置。
【請求項14】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度を第2時系列とし、前記非類似度の前記第2時系列のうち注目点の直近のN個のデータに対する、注目点データのホテリング理論の異常度を求め、前記異常度をあらかじめ定めた閾値と比較して、前記異常度が前記閾値を上回った場合に、異常と判定することを特徴とする状態監視装置。
【請求項15】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度を第2時系列とし、前記非類似度の前記第2時系列のうち注目点までの全てのデータ又は前記注目点の直近のN個のデータ(ただし、Nは2以上の整数)を対象として、平均値aと標準偏差σを計算し、
前記ロボット状態評価部は、あらかじめ定めた正の値をkとしたときに、前記注目点のデータである前記非類似度がa+kσの値よりも上回った場合、又は、あらかじめ定めた閾値をa+kσの値が上回った場合に、異常と判定することを特徴とする状態監視装置。
【請求項16】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視装置であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶部と、
少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データに基づく基準データと、前記基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された前記時系列データに基づく比較用データと、の非類似度を求める非類似度算出部と、
前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いるロボット状態評価部と、
を備え、
前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度を第2時系列とし、前記非類似度の前記第2時系列の全部に対する、注目点データのホテリング理論の異常度を求め、前記異常度をあらかじめ定めた閾値と比較して、前記異常度が前記閾値を上回った場合に、異常と判定することを特徴とする状態監視装置。
【請求項17】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視方法であって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得工程と、
前記時系列データ取得工程で取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶工程と、
初回以降の少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データ
である初期データと、前記
初期データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された
複数の前記時系列データに基づく
複数の比較用データ
のそれぞれと、の非類似度を求める非類似度算出工程と、
前記非類似度算出工程で算出された前記非類似度を評価量として用いて、ロボットの状態を評価するロボット状態評価工程と、
を有し、
前記ロボット状態評価工程では、前記非類似度算出工程で求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価工程では、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算することを特徴とする状態監視方法。
【請求項18】
予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する状態監視プログラムであって、
ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する時系列データ取得ステップと、
前記時系列データ取得ステップで取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する記憶ステップと、
初回以降の少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データ
である初期データと、前記
初期データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された
複数の前記時系列データに基づく
複数の比較用データ
のそれぞれと、の非類似度を求める非類似度算出ステップと、
前記非類似度算出ステップで算出された前記非類似度を評価量として用いて、ロボットの状態を評価するロボット状態評価ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記ロボット状態評価ステップでは、前記非類似度算出ステップで求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成し、
前記ロボット状態評価ステップでは、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算することを特徴とする状態監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、ロボットの状態を監視し、ロボットのメンテナンスを支援する状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットを工場等で反復的に稼動させると、ロボットの各部(例えば、機械部品)が劣化していくことが避けられない。状況が進行すると、やがてロボットが故障する。ロボットが故障してラインが長期間停止した場合、大きな損失となることから、ロボットの故障発生前にメンテナンス(保全)を実施することが強く求められている。一方で、メンテナンスを頻繁に行うことも、メンテナンス費用等の観点から困難である。
【0003】
適切なタイミングでメンテナンスを行うために、ロボットの減速機等の残余寿命を予測するための装置が提案されている。特許文献1は、この種のロボット保守支援装置を開示する。
【0004】
特許文献1のロボット保守支援装置は、ロボット駆動系を構成するサーボモータの電流指令値のデータに基づいて電流指令値の将来の変化傾向を診断し、診断された変化傾向に基づいて、電流指令値が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の構成は、電流指令値の診断項目として、I2モニタ、デューティ、及びピーク電流を例示している。これらの項目はロボットの故障の予兆を捉えるために有効な場合もあるが、あまり有効でない場合もあった。従って、ロボットが故障に近づいていることを的確に検知できる新しい指標が求められていた。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主な目的は、ロボットの故障の予兆を良好に捉えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の状態監視装置が提供される。即ち、この状態監視装置は、予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する。前記状態監視装置は、時系列データ取得部と、記憶部と、非類似度算出部と、ロボット状態評価部と、を備える。前記時系列データ取得部は、ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する。前記記憶部は、前記時系列データ取得部により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する。前記非類似度算出部は、初回以降の少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データである初期データと、前記初期データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された複数の前記時系列データに基づく複数の比較用データのそれぞれと、の非類似度を求める。前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により算出された前記非類似度を、ロボットの状態評価のための評価量として用いる。前記ロボット状態評価部は、前記非類似度算出部により求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成する。前記ロボット状態評価部は、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算する。
【0010】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の状態監視方法が提供される。即ち、この状態監視方法では、予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する。この状態監視方法は、時系列データ取得工程と、記憶工程と、非類似度算出工程と、ロボット状態評価工程と、を有する。前記時系列データ取得工程では、ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する。前記記憶工程では、前記時系列データ取得工程で取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する。前記非類似度算出工程では、初回以降の少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データである初期データと、前記初期データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された複数の前記時系列データに基づく複数の比較用データのそれぞれと、の非類似度を求める。前記ロボット状態評価工程では、前記非類似度算出工程で算出された前記非類似度を評価量として用いて、ロボットの状態を評価する。前記ロボット状態評価工程では、前記非類似度算出工程で求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成する。前記ロボット状態評価工程では、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算する。
【0011】
本発明の第3の観点によれば、以下の構成の状態監視プログラムが提供される。即ち、この状態監視プログラムは、予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する。前記状態監視プログラムは、時系列データ取得ステップと、記憶ステップと、非類似度算出ステップと、ロボット状態評価ステップと、をコンピュータに実行させる。前記時系列データ取得ステップでは、ロボットの状態を反映する状態信号の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、前記状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、前記状態信号の時系列データを取得する。前記記憶ステップでは、前記時系列データ取得ステップで取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボットの再生動作を特定する再生識別情報と関連付けて記憶する。前記非類似度算出ステップでは、初回以降の少なくとも1回の再生動作で取得された前記時系列データである初期データと、前記初期データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された複数の前記時系列データに基づく複数の比較用データのそれぞれと、の非類似度を求める。前記ロボット状態評価ステップでは、前記非類似度算出ステップで算出された前記非類似度を評価量として用いて、ロボットの状態を評価する。前記ロボット状態評価ステップでは、前記非類似度算出ステップで求められた前記非類似度が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成する。前記ロボット状態評価ステップでは、前記トレンドラインに基づいて残余寿命を計算する。
【0012】
これにより、ロボットの故障の予兆を容易に把握することができる。従って、ロボットのメンテナンスを故障前に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロボットの故障の予兆を良好に捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るロボットの構成を示す斜視図。
【
図2】ロボット及び状態監視装置の電気的構成を概略的に示すブロック図。
【
図3】時系列データの取得に関するトリガ信号のタイミングを説明するグラフ。
【
図5】(a)ノイズを含まない電流値に関する波形を示す図。(b)ノイズを印加した電流値に関する波形を示す図。
【
図6】時系列データのDTW距離による評価結果の推移を示すグラフ。
【
図7】時系列データのPTPによる評価結果の推移を示すグラフ。
【
図8】時系列データの2乗平均平方根による評価結果の推移を示すグラフ。
【
図9】基準データと比較用データの具体例を示すグラフ。
【
図11】DTW距離に関し、a+kσの推移をグラフに表示する例を示す図。
【
図12】DTW距離に関し、ホテリング理論の異常度の推移をグラフに表示する例を示す図。
【
図13】時系列データを取得する処理を説明するフローチャート。
【
図14】DTW距離を計算する処理を説明するフローチャート。
【
図15】基準データ及び比較用データのバリエーションを説明するグラフ。
【
図16】時系列データの第2DTW距離による評価結果の推移を示すグラフ。
【
図17】時系列データの第3評価量の推移を示すグラフ。
【
図18】時系列データの第4評価量の推移を示すグラフ。
【
図20】第2実施形態で計算される非類似度を説明する概念図。
【
図21】第3実施形態で計算される非類似度を説明する概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るロボット1の構成を示す斜視図である。
図2は、ロボット1及び状態監視装置5の電気的な構成を示すブロック図である。
【0016】
本発明に関する状態監視装置5は、例えば、
図1に示すようなロボット(産業用ロボット)1に適用される。ロボット1は、作業対象のワークに対して塗装、洗浄、溶接、搬送等の作業を行う。ロボット1は、例えば、垂直多関節ロボットによって実現される。
【0017】
以下、ロボット1の構成について、
図1及び
図2等を参照しながら簡単に説明する。
【0018】
ロボット1は、旋回ベース10と、多関節アーム11と、手首部12と、を備える。旋回ベース10は、地面(例えば、工場の床面)に固定される。多関節アーム11は、複数の関節を有する。手首部12は、多関節アーム11の先端に取り付けられる。手首部12には、作業対象のワークに対して作業を行うエンドエフェクタ13が取り付けられる。
【0019】
図2に示すように、ロボット1は、アーム駆動装置21を備える。
【0020】
これらの駆動装置は、例えばサーボモータとして構成されるアクチュエータ、及び減速機等から構成される。しかし、駆動装置の構成は上記に限定されない。それぞれのアクチュエータは、コントローラ90に電気的に接続される。アクチュエータは、コントローラ90から入力された指令値を反映するように動作する。
【0021】
アーム駆動装置21を構成するそれぞれのサーボモータからの駆動力が、減速機を介して、多関節アーム11の各関節と、旋回ベース10と、手首部12と、に伝達される。それぞれのサーボモータには、その回転位置を検出する図略のエンコーダが取り付けられている。
【0022】
ロボット1は、教示によって記録された動作を再生することで作業を行う。コントローラ90は、教示者が事前に教示した一連の動作をロボット1が再現するように、上記アクチュエータを制御する。ロボット1への教示は、図略の教示ペンダントを教示者が操作することにより行うことができる。
【0023】
ロボット1への教示により、ロボット1を動かすためのプログラムが生成される。プログラムは、ロボット1への教示が行われる毎に生成される。ロボット1へ教示する動作が異なれば、プログラムも異なる。実行するプログラムを複数のプログラムの間で切り換えることで、ロボット1に行わせる動作を変更することができる。
【0024】
コントローラ90は、例えば、CPU、ROM、RAM、補助記憶装置等を備える公知のコンピュータとして構成されている。補助記憶装置は、例えばHDD、SSD等として構成される。補助記憶装置には、ロボット1を動かすプログラム等が記憶されている。
【0025】
状態監視装置5は、
図1に示すように、コントローラ90に接続される。状態監視装置5は、アクチュエータ(サーボモータ)に流れる電流の電流値等の推移を、コントローラ90を介して取得する。
【0026】
サーボモータ、及びこれに連結される減速機等に仮に異常が生じていれば、サーボモータの電流値は、その影響を受けて変動すると考えられる。従って、この電流値は、ロボット1の状態を反映する状態信号に相当する。電流値の推移は、当該電流値を短い時間間隔で反復して取得し、多数の電流値を時系列で並べることで表現することができる。以下、状態信号の値を時系列で並べたデータを、時系列データと呼ぶことがある。
【0027】
状態監視装置5は、取得した時系列データを監視することで、ロボット1の異常の有無を判定することができる。本実施形態では、状態監視装置5は、それぞれの関節のサーボモータ及び減速機を主に対象として、異常の有無を判定する。ここで、「異常」とは、動作不良/不能まで至らないが、その予兆となる何らかの状況がサーボモータ、減速機又は軸受けに生じている場合を含む。
【0028】
状態監視装置5は、
図2に示すように、時系列データ取得部(時系列データ取得部)51と、記憶部52と、時系列データ評価部(非類似度算出部)53と、ロボット状態評価部54と、表示部55と、を備える。
【0029】
状態監視装置5は、CPU、ROM、RAM、補助記憶装置等を備える公知のコンピュータとして構成されている。補助記憶装置は、例えばHDD、SSD等として構成される。補助記憶装置には、ロボット1の状態評価等のためのプログラム等が記憶されている。これらのハードウェア及びソフトウェアの協働により、コンピュータを、時系列データ取得部51、記憶部52、時系列データ評価部53、ロボット状態評価部54等として動作させることができる。
【0030】
時系列データ取得部51は、上述の時系列データを取得する。時系列データ取得部51は、ロボット1のアーム駆動装置21が備える全てのサーボモータを対象として、時系列データを取得する。時系列データは、ロボット1の各部に配置される複数のサーボモータ(言い換えれば、複数の減速機)のそれぞれに対して、個別に取得される。
【0031】
本実施形態において、状態信号は電流値である。ここで、電流値とは、サーボモータに流れる電流の大きさをセンサによって測定した測定値を意味する。センサは、サーボモータを制御する図略のサーボドライバに設けられている。ただし、センサが、サーボドライバとは別に監視用に設けられても良い。これに代えて、サーボドライバがサーボモータに与える電流指令値が、状態信号として採用されても良い。サーボドライバは、現在の電流値を電流指令値に近づけるようにサーボモータをフィードバック制御する。従って、サーボモータ又は減速機の異常を検出する目的からすれば、電流値と電流指令値は殆ど違いがない。
【0032】
サーボモータのトルクの大きさは、電流の大きさに比例する。従って、状態信号として、トルク値又はトルク指令値が用いられても良い。
【0033】
状態信号として、サーボモータの回転位置に関する目標値と、前記エンコーダによって得られる実際の回転位置と、の偏差(回転位置偏差)が用いられても良い。通常、サーボドライバは、この偏差にゲインを乗じたものを電流指令値としてサーボモータに与える。従って、回転位置の偏差の推移は電流指令値の推移と似た傾向を示す。状態信号として、サーボモータの実際の回転位置が用いられても良い。
【0034】
時系列データ取得部51は、教示された動作をロボット1が再生する毎に、それぞれのサーボモータについて時系列データを取得する。ただし、時系列データを全ての再生動作に対して取得する代わりに、例えば1日につき1回又は数回の再生動作だけを対象として取得しても良い。
【0035】
時系列データ取得部51は、取得開始信号を受信したタイミングと、取得終了信号を受信したタイミングと、の間の、各サーボモータに流れる電流値の時系列データを取得する。この取得開始信号及び取得終了信号は、例えば、コントローラ90により出力される。
【0036】
図3のグラフは、ロボット1が再生動作を行う場合に、ある関節のサーボモータに流れる電流値の一例を示している。
図3に示すように、再生動作のプログラムが実行される前の状態では、サーボモータの電流値はゼロである。このとき、各関節において図示しない電磁ブレーキが動作しているため、多関節アーム11等の姿勢は保持される。
【0037】
続いて、ロボット1の再生動作のプログラムが開始される。これに伴ってブレーキが開放され、これとほぼ同時にサーボモータに電流が流れ始める。この時点では、サーボモータの出力軸は停止するように制御される。サーボモータの出力軸の角度が安定するのに必要なある程度の時間が経過した後、サーボモータの回転が開始される。これにより、ロボット1の動作が実質的に開始される。
【0038】
コントローラ90は、ブレーキが開放された後、サーボモータの回転が開始される少し前の時点で、取得開始信号を状態監視装置5(ひいては時系列データ取得部51)に出力する。
【0039】
ロボット1に教示した一連の動作が全て完了すると、サーボモータは回転を停止するように制御される。コントローラ90は、サーボモータが回転停止状態となった後、プログラムが終了する前の時点で、取得終了信号を時系列データ取得部51に出力する。
【0040】
記憶部52は、例えば、上述の補助記憶装置から構成される。記憶部52は、時系列データ取得部51により取得された時系列データを記憶する。
【0041】
本実施形態で、時系列データは、短い一定の時間間隔で繰り返し検出することで得られた多数の電流値を時間順に並べたものである。従って、時系列データにおける電流値はサンプリング値である。電流値を検出する時間間隔(サンプリング間隔)は、例えば数ミリ秒である。電流値のサンプリング間隔は、ロボット1の制御周期と一致していても良いし、異なっていても良い。時系列データは、
図3のグラフにおいて、取得開始信号のタイミングから取得終了信号のタイミングまでの電流値の推移に相当する。
【0042】
なお、取得開始信号又は取得終了信号は、時系列データの取得等の計測のために特別に用意せずに、他の既存の信号を用いて実質的に実現しても良い。例えば、主に安全確保の目的に用いられる「再生運転中」信号の立下りを、取得終了信号として使用することができる。
【0043】
記憶部52には、データの取得時期を示す時期情報が、当該時系列データに関連付けて記憶される。時期情報は、例えば、上記の取得開始信号の受信日時を示すタイムスタンプとすることができる。
【0044】
同様に、記憶部52には、時系列データの取得時にロボット1が行っていた動作を示す再生識別情報が、当該時系列データに関連付けて記憶される。ロボット1の一連の動作は、再生動作のプログラムにより定義される。従って、再生識別情報は、例えば、再生動作のプログラムを一意に特定するために付与されたプログラム番号又はプログラム名称とすることができる。
【0045】
時系列データの保存について、具体的に説明する。コンピュータである状態監視装置5が備えるOSのファイルシステムを用いて、上述の補助記憶装置に、プログラム番号又はプログラム名称を名前とするフォルダが作成される。このフォルダに、当該番号のプログラムを実行したときに得られた時系列データのファイルが自動的に保存される。このファイルには、6つの関節のサーボモータの電流値に関する時系列データが、例えばカンマ区切り形式(CSV)で記述される。ファイルの名前には、タイムスタンプの文字列が含められる。以上により、時系列データに対する時期情報と再生識別情報の関連付けが実現される。ただし、上記は例示であり、関連付けは他の方法で実現されても良い。
【0046】
時系列データ取得部51は、ロボット1が工場等で稼動する過程で、時系列データを長期にわたって反復して取得する。時系列データが1回取得される毎に、上記のファイルが1つ保存される。
【0047】
時系列データは、初期に収集されたデータである基準データと、それより後に収集された比較用データと、に分けることができる。時系列データ評価部53は、基準データと、比較用データと、を比較することにより、比較用データを評価する。時系列データ評価部53は、この評価結果に基づいて、ロボット1の状態を評価するための評価量を出力する。
【0048】
基準データとしては、例えば、ロボット1に動作を教示した後、当該動作を初回に再生したときに、時系列データ取得部51により取得された時系列データが用いられる。ただし、初回を含む複数回にわたってロボット1に再生動作を行わせ、複数回の時系列データを平均することで平均値の時系列データを計算して、この平均値の時系列データを基準データとして用いても良い。上記の複数回は、1回目、2回目、3回目・・・というように連続した回でも良いし、1回目、4回目、6回目、・・・というように非連続の回でも良い。
【0049】
基準データの取得タイミングは、厳密な初期(初回)でなくても良く、実質的な初期(初回)であれば十分である。例えば、動作教示後に慣らし運転としてロボット1に再生動作を1又は複数回行わせた後に、基準データを取得しても良い。
【0050】
基準データとしては、初回の時系列データ、又は、初回を含む複数回の平均値の時系列データに対して、フィルタ処理したものが用いられても良い。
【0051】
比較用データとしては、基準データの元となる時系列データより後に取得された時系列データが用いられる。時系列データをそのまま比較用データとしても良いし、時系列データに対してフィルタ処理したものを比較用データとしても良い。
【0052】
以下では、基準データ及び比較用データに関して、フィルタ処理をしない場合を「生」と呼び、フィルタ処理をした場合を「フィルタ済」と呼ぶことがある。
【0053】
フィルタ処理は、例えば、時系列データに含まれるノイズ等を除去するために行われる。データに対するフィルタ処理は公知であるため詳細な説明を省略するが、例えば移動平均フィルタ、CR回路模擬フィルタ等の任意のフィルタを用いることができる。
【0054】
基準データは、ロボット1の再生動作毎に(言い換えれば、プログラム毎に)用意される。教示済の全ての動作について基準データを取得しても良いが、例えば、ロボット1にメインで行わせる動作、又は、メインではないものの単純な動きであって1日に1回再生される動作があれば、これについてだけ基準データを取得しても良い。
【0055】
時系列データ評価部53は、DTW法を用いて、基準データと、比較用データと、を比較する。DTWは、Dynamic Time Warpingの略称である。
【0056】
ここで、DTW法について簡単に説明する。DTW法は、2つの時系列データが類似する度合いを計算するために用いられる。DTW法の大きな特徴は、類似度の計算にあたって、時系列データの時間軸方向での非線形な伸縮を許容する点である。これにより、DTW法は、時系列データの類似度に関して、人間の直観に近い結果を得ることができる。
【0057】
時系列データ評価部53は、比較用データと基準データとの差異の大きさを示すDTW距離(非類似度)を評価量として出力する。
【0058】
DTW法の原理について、
図4を用いて説明する。基準データに含まれる複数(m個)の電流値を、横方向に延びる第1軸に沿って、時系列順に配置する。比較用データに含まれる複数(n個)の電流値を、縦方向に延びる第2軸に沿って配置する。
【0059】
続いて、縦横の軸で定義される平面に、マトリクス状に配置されたm×n個のセルを定義する。それぞれのセル(i,j)は、基準データにおけるi番目の電流値と、比較用データにおけるj番目の電流値と、の対応付けを表している。ただし、1≦i≦m、1≦j≦nである。
【0060】
それぞれのセル(i,j)には、基準データにおけるi番目の電流値と、比較用データにおけるj番目の電流値と、の差異を表す数値が関連付けられている。本実施形態では、各セルに、i番目の電流値とj番目の電流値の差の絶対値が関連付けて記憶される。
【0061】
時系列データ評価部53は、
図4のマトリクスの左下隅に位置する始点セルから、右上隅に位置する終点セルに至るワーピングパス(経路)を求める。
【0062】
始点セル(1,1)は、基準データにおけるm個の電流値のうち、時系列で最先のタイミング(即ち、1番目)の電流値と、比較用データにおけるn個の電流値のうち、時系列で最先のタイミング(即ち、1番目)の電流値と、を対応付けることに相当する。
【0063】
終点セル(m,n)は、基準データにおけるm個の電流値のうち、時系列で最後のタイミング(即ち、m番目)の電流値と、比較用データにおけるn個の電流値のうち、時系列で最後のタイミング(即ち、n番目)の電流値と、を対応付けることに相当する。
【0064】
以上のように構築されたm×n個のマトリクスにおいて、以下の[1]及び[2]のルールに従い、始点セルを出発して終点セルへ到達する経路を考える。[1]縦、横、又は斜めに隣接するセルにだけ移動できる。[2]基準データの時間を戻す方向には移動できず、比較用データの時間を戻す方向にも移動できない。
【0065】
このようにセルが連なったものは、経路、又は、ワーピングパスと呼ばれる。ワーピングパスは、基準データにおけるm個の電流値と、比較用データにおけるn個の電流値とを、どのようにそれぞれ対応付けるかを示している。別の観点で言えば、ワーピングパスは、2つの時系列データを時間軸方向でどのように伸縮させるかを表している。
【0066】
始点セルから終点セルへ至るワーピングパスは複数通り考えられる。時系列データ評価部53は、考え得るワーピングパスの中で、通過するセルに関連付けられる差異を表す数値(本実施形態では、各セルに、i番目の電流値とj番目の電流値の差の絶対値が関連付けられている)の合計が最小となるワーピングパスを求める。
【0067】
以下では、このワーピングパスを最適ワーピングパスと呼ぶことがある。また、この最適ワーピングパスにおける各マスの値の合計値をDTW距離と呼ぶ。DTW距離の代わりに、最適ワーピングパスが通過したマスの数でDTW距離を除算した平均値を用いて比較データを評価しても良い。また、DTW距離を何れかの時系列データの要素数m又はnで除算した値を前記平均値に代えて用いて比較データを評価しても良い。
【0068】
m及びnが大きい場合、膨大な数のワーピングパスが考えられる。従って、考え得る全てのワーピングパスを仮に考慮すると、最適ワーピングパスを求めるための計算量が爆発的に増大してしまう。この課題を解決するために、本実施形態の時系列データ評価部53は、DPマッチング手法(動的計画法)を用いてDTW距離を求める。DPは、Dynamic Programmingの略称である。
【0069】
DPマッチング手法は公知であるので、以下、簡単に説明する。上記のルールを考慮すると、
図4の矢印に示すように、あるセルに注目した場合、当該セルへ移動可能な移動元のセルは3つしかない。これらの3つのセルとは、注目セルに左側で隣接するセル、注目セルに下側で隣接するセル、及び、注目セルに左下側で隣接するセルである。本実施形態の時系列データ評価部53は、上記の特徴を利用してDTW距離を求める。
【0070】
具体的に説明する。時系列データ評価部53は最初に、
図4のマトリクスのうち下端の行の全てのセル(1,1)、(2,1)、・・・、(m,1)のそれぞれについて、始点セル(1,1)から当該セルまでの経路に含まれる各セルの値の合計を求める。以下では、この合計値をセル合計と呼ぶことがある。また、始点セル(1,1)からあるセルまでの経路が1又は複数考えられる場合に、セル合計の最小値をセル合計最小値と呼ぶことがある。
【0071】
上記のルールを考慮すれば、始点セル(1,1)から、マトリクスの下端の行の各セルに至る経路は、直線的な1とおりしかあり得ない。従って、各セルに関するセル合計は、セル合計最小値であるということができる。マトリクスの下端の行のセルに関して、セル合計(セル合計最小値)の計算は、始点セル(1,1)から順番にセルの値を加算していくことで容易に行うことができる。
【0072】
次に、下端から数えて2番目の行に着目する。
【0073】
最初に、セル(1,2)を考える。経路がセル(1,2)に到達する直前のセルとしては、始点セル(1,1)しか考えられない。従って、始点セル(1,1)からセル(1,2)までの経路の各セルの値の合計は、簡単に求めることができる。始点セル(1,1)からセル(1,2)までの経路は1とおりしかあり得ない。従って、得られた合計は、セル(1,2)に関するセル合計最小値である。
【0074】
続いて、セル(2,2)を考える。経路がセル(2,2)に到達する直前のセルとしては、始点セル(1,1)、セル(2,1)、セル(1,2)の3とおりである。3つのセルについて、セル合計最小値は、今までの計算で求められている。時系列データ評価部53は、3つのセルのうちセル合計最小値が最も小さいものを選択し、それに当該セル(2,2)の値を加算して、得られた値を、セル(2,2)に関するセル合計最小値として定める。時系列データ評価部53は、上記の3つのセルのうちセル合計最小値が最も小さかったセルの位置を、セル(2,2)の位置に関連付けて記憶しておく。
【0075】
次に、セル(3,2)を考える。セル(3,2)に到達する直前のセルは、セル(2,1)、セル(2,2)、セル(3,1)の3とおりである。セル(2,2)の場合と同様に、時系列データ評価部53は、考えられる3つのセルのうちセル合計最小値が最も小さいものを選択し、それに当該セル(3,2)の値を加算して、得られた値を、セル(3,2)に関するセル合計最小値として定める。時系列データ評価部53は、上記の3つのセルのうちセル合計最小値が最も小さかったセルの位置を、セル(3,2)の位置に関連付けて記憶しておく。
【0076】
時系列データ評価部53は、同様の処理を、下端から数えて2番目の行の最後のセル(m,2)まで1つずつ順番に繰り返す。
【0077】
時系列データ評価部53は、下端から数えて3番目の行、4番目の行、・・・についても上記の処理を1行ずつ順番に繰り返す。全てのセルの計算が完了すれば、終点セル(m,n)のセル合計最小値が得られる。このセル合計最小値は、始点セル(1,1)から終点セル(m,n)までの経路のうち、通過するセルの値の合計が最も小さい経路(最適ワーピングパス)に関する、当該合計値を意味している。時系列データ評価部53は、終点セル(m,n)のセル合計最小値を、DTW距離として出力する。
【0078】
DTW距離に加えて具体的な最適ワーピングパスを求める必要がある場合は、終点セル(m,n)から、始点セル(1,1)まで、セル合計最小値が最も小さかったセルとして記憶されたセルの位置を順次辿っていけば良い。上記はマトリクスの1行毎に計算していく例であるが、1列毎に計算しても良い。
【0079】
DPマッチング手法は、考え得るワーピングパスを全て考慮しているわけではないので、精度は完璧ではない。しかし、DPマッチング手法を用いることで、計算量を大幅に削減しつつ、実用に十分な精度の最適ワーピングパスを求めることができる。
【0080】
DTW距離は、2つの時系列データ(言い換えれば、2つの信号波形)が、互いに非類似である度合いである。知られているように、DTW法では、2つの波形の時間軸方向での差異を反映させない一方、波形の振幅等の差異を良好に反映させた形で、2つの波形の非類似度(DTW距離)を得ることができる。
【0081】
2つの波形の差異が、互いに周期が異なるだけ、又は、位相が異なるだけであれば、DTW距離はゼロである。これは、2つの波形が一致していると評価されることを意味する。
【0082】
次に、
図5に示す2つの電流波形を考える。
図5(a)は基本波形であり、
図5(b)は、基本波形にノイズを意図的に付加した波形である。
図5に示す波形は説明のために作成されたものであり、サーボモータから実際に得られたものではない。
【0083】
図5(a)の基本波形は、2cos(ωt)で表され、振幅が2である。
図5(b)の波形は、
図5(a)の基本波形の電流値が-1.732Aの部分に-2.266Aのノイズを加え、-1Aの箇所に+2.5Aのノイズを加えたものに相当する。
【0084】
各グラフに示すプロット点を時系列データとして、2つの時系列データの間のDTW法距離を求めると、4.766である。これは、加えられたノイズである、-2.266Aと+2.5Aの絶対値の合計と等しい。このように、DTW法により求められたDTW距離には、ノイズが直接的に反映される。また、DTW距離には、プラス方向のノイズとマイナス方向のノイズが互いに相殺されることなく反映されることになる。
【0085】
時系列データ評価部53は、基準データと比較用データとの間で上述のDTW距離を計算し、得られたDTW距離を出力する。
【0086】
基準データ及び比較用データは、6つの関節のサーボモータの時系列データを含む。時系列データ評価部53は、DTW距離の計算を、関節毎に(言い換えれば、サーボモータ毎に)行う。
【0087】
ロボット1に行わせる動作が異なれば、サーボモータの電流値の推移も勿論異なる。これを考慮して、時系列データ評価部53によるDTW距離の計算は、再生動作毎に行われる。具体的に言えば、時系列データ評価部53は、同一の再生動作に関する比較用データと基準データとの間で、DTW距離を計算する。これにより、時系列データを適切に比較することができる。
【0088】
時系列データ評価部53により出力されたDTW距離は、記憶部52に記憶される。このとき、DTW距離に関連付けられて、様々な情報が記憶部52に記憶される。DTW距離とともに記憶される情報には、時期情報と、再生識別情報と、が含まれる。時期情報は、比較用データの取得時期を示す情報であり、例えばタイムスタンプである。再生識別情報は、例えば、比較用データの取得時におけるロボット1の再生動作を特定するためのプログラム番号又はプログラム名称である。
【0089】
プログラム番号又はプログラム名称に代えて、例えば、プログラムに含まれる特別な信号を再生識別情報としても良い。例えば、前述の取得開始信号又は/及び取得終了信号等の信号が1つのプログラムにしか含まれない場合、この信号の有無で他のプログラムと識別することができる。
【0090】
ロボット状態評価部54は、記憶部52に記憶されたDTW距離を用いて、ロボット1(各部のそれぞれ)の状態を評価する(ロボット状態評価工程及びロボット状態評価ステップ)。
【0091】
ロボット状態評価部54は、各サーボモータに対して取得されたDTW距離を用いて、当該サーボモータの状態を評価する。
【0092】
時間の経過に伴って、初回に得られた電流値の時系列データに相当する波形に対して、現在の電流値の時系列データに相当する波形が乖離していくことが想定される。DTW距離は、この乖離の度合いを数値化したものと考えることができる。ロボット状態評価部54は、DTW距離を用いて、6つの関節のサーボモータのそれぞれに異常があるか否かを判定する。また、現在までの時間の経過に伴うDTW距離の推移に基づいて、サーボモータが将来に動作不良/不能となるタイミングを予測することができる。
【0093】
図6には、ロボット1が備えるサーボモータの1つに関し、DTW距離の推移の一例が示されている。1つ1つの点が、計算されたDTW距離を示している。
【0094】
図6の例で、ロボット1の運用は2019年8月頃に開始された。運用開始から半年程度の間、DTW距離の増大傾向は僅かであったが、2020年2月頃に増大傾向を強めるようになった。サーボモータは、2020年6月頃に動作不能となった。
【0095】
2020年3月~4月頃の2回、DTW距離は、特異的に上に外れた値を示した。その後にあまり時間をおかずにサーボモータが動作不能になったことを考慮すると、この2つの点は、サーボモータが動作不能となる予兆を示していたと考えられる。
【0096】
サーボモータ等が動作不能となる予兆の現象は様々に考えられるが、例えば、制御ケーブルのシールド性低下によるノイズの混入、軸受の劣化による機械的な振動、減速機のギア歯面の摩損による軋み等である。
図6に「異常予兆」で示す2つの点は、上記のような現象が発生して電流値の時系列データに影響を与え、これがDTW距離の特異な変化となったものと考えられる。
【0097】
図7及び
図8には、
図6と同一のケースにおいて、時系列データの変化を表現する他の指標の推移が比較例として示されている。
【0098】
図7に示すPTP(Peak to Peak)は、電流波形の高いピークの電流値から低いピークの電流値を減算した値である。このPTPは、特許文献1にいう「ピーク電流」の一種である。
図7に示すように、PTPを用いる手法では、2020年3月~4月頃のデータにおいて異常の予兆を捉えることが極めて難しい。
【0099】
図8に示すI2は、電流の2乗平均平方根の値である。このI2は、特許文献1にいう「I2」に相当する。
図8に示すように、I2を用いる手法によっても、2020年3月~4月頃のデータにおいて異常の予兆を捉えることが極めて難しい。
【0100】
PTP及びI2は、時系列データを統計的に処理して得られる値である。
図7及び
図8において異常の予兆がグラフに見当たらない理由は、上記の統計処理の過程で、時系列データが含んでいる、異常の予兆を示す何らかの特徴が失われてしまっているためと考えられる。一方、
図6に示すDTW距離は、統計処理を行わず、時系列データ同士を比較することにより得られた値である。従って、DTW距離は、時系列データが含んでいる、異常の予兆を示す特徴に応じて敏感に変動し易い値ということができる。
【0101】
図9には、あるサーボモータに関する基準データ及び比較用データが示されている。比較用データは、基準データよりも約10月後に取得されたものである。時間の経過によって、2つの時系列データの間に多少の乖離が生じていることがわかる。
【0102】
図9の電流波形のうち、A1で示す範囲は、ロボット1のアームを降下させる動作に相当する。この範囲で、比較用データの電流値は基準データよりも概ね下回っている。これは、経年劣化等で生じた機械的なロスが、アームの降下に抗する向きに働くため、これがサーボモータに対する一種のアシストとなって、サーボモータに流れる電流値が減少していると考えられる。
【0103】
図9の電流波形のうちA2で示す範囲は、ロボット1のアームを保持する動作に相当する。A3で示す範囲は、ロボット1のアームを上昇させる動作に相当する。A2及びA3の範囲で、比較用データの電流値は基準データよりも概ね上回っている。これは、経年劣化で生じた機械的なロスが、アームの保持又は上昇に対して抗する向きに働くため、サーボモータに流れる電流値が増加していると考えられる。
【0104】
このように、故障の予兆となる現象の1つとしての機械的なロスが、状況に応じて、時系列データの電流値を増加させる方向に作用したり、減少させる方向に作用したりする。例えば上述のI2を用いた場合、両方向の作用が一部相殺された形で評価されてしまう。しかしながら、本実施形態のDTW距離を用いれば、両方向の作用を十分に考慮して、時系列データの非類似度を求めることができる。
【0105】
本実施形態では、基準データ及び比較用データの元となる時系列データが、
図3に示す取得開始信号から取得終了信号までの期間に限られている。仮に、例えば
図3のブレーキ開放に相当するタイミングの波形が時系列データに含められた場合、非類似度が増大し、異常があると誤判定されるおそれがある。この点、本実施形態では、取得開始信号と取得終了信号のタイミングを適切に設定することで、電流値の推移のうち、故障の予兆を捉える観点で実質的に意味がある期間だけを取り出して評価することができる。
【0106】
ロボット状態評価部54は、適宜の計算によって、
図6に「異常予兆」と示されているような点の有無を判定することもできる。この計算手法は様々であるが、例えば以下のようにすることができる。即ち、ある点に注目し、それまでの直近のN個の点について、DTW距離の平均値aと標準偏差σが計算される。Nは2以上である。そして、注目した点のDTW距離が、a+kσよりも上回っている場合に、当該点は異常を予兆する点である(言い換えれば、サーボモータ又は減速機に異常が発生している)と判定される。kは、適宜設定される正の値である。また、閾値を設けてこれを上回れば「異常予兆」と評価しても良い。DTW距離に代えて、後述のユークリッド距離等が用いられても良い。
図11のグラフには、DTW距離に関し、a+3σの値の推移が示されている。このグラフでは、直近の10個の点が参照されて、平均値aと標準偏差σが計算されている。
【0107】
また、以下のようにすることもできる。即ち、ある点に注目し、それまでの直近のN個の点について、DTW距離の平均値aと標準偏差σが計算される。そして、注目した点のDTW距離xを用いて、ホテリング理論で異常度といわれる(x-a)
2/σ
2の値が計算され、グラフ化される。必要に応じて、この値に係数を乗じることもできる。この値が所定の閾値を上回れば「異常予兆」と評価しても良い。ホテリング理論は、統計モデルに基づく異常検知手法の1つである。値xが正規分布に従う場合、上記の異常度の値は、自由度1のカイ2乗分布に従うことが知られている。この性質を用いて、ホテリング理論では、異常度の値を適宜の閾値と比較することで外れ値検出を行う。xとして、DTW距離に代えて、後述のユークリッド距離等を用いることもできる。
図12のグラフには、DTW距離に関し、(x-a)
2/σ
2の値の推移が示されている。
図12のグラフを考慮すれば、異常度の閾値を例えば10程度にすれば、異常予兆を検出するのに適当であると考えられる。
【0108】
a+kσを計算する場合でも、(x-a)2/σ2を計算する場合でも、直近のN個の点だけを対象にすることに代えて、評価開始からの全ての点を対象とすることができる。
【0109】
DTW距離又はユークリッド距離等は、2つの波形の対応する点間の距離をとることで特徴を捉え易くなる利点がある。これらの距離を対象として標準偏差又は異常度を計算して得ることで、例えば、故障監視作業者に分かりやすいグラフを提供することができる。
【0110】
表示部55は、
図6に相当するグラフを表示可能である。表示部55は、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置から構成される。オペレータは、DTW距離の普段の傾向から外れた特異な点がグラフに現れているか否かを監視する。オペレータは、この情報を活用して、将来のメンテナンス計画を適切に立てることができる。
【0111】
表示部55は、1又は複数のサーボモータに異常が発生しているとロボット状態評価部54が判定した場合、その旨の情報を表示する。例えば、異常発生の旨を示す警告メッセージを表示部55に表示することが考えられる。これにより、オペレータが状況を早期に把握することができる。
【0112】
ロボット状態評価部54は、時間経過に伴うDTW距離の傾向を示すトレンドラインを計算により求めることができる。トレンドラインの例が、
図10に示されている。トレンドラインは、グラフにプロットされる点群を近似する直線として求めることができる。近似直線は、公知の最小2乗法を用いることで得ることができるが、方法は限定されない。
【0113】
ロボット状態評価部54は、上記のようにして得られたトレンドラインが、予め定められた寿命閾値に到達する日時を計算する。ロボット状態評価部54は、現在から当該日時までの期間を計算することで、サーボモータ等の残余寿命を予測することができる。
【0114】
トレンドラインは、
図10のグラフに重ねられる形で表示部55に表示される。オペレータは、表示部55の画面を参照してトレンドラインを確認することで、メンテナンスを適切に計画することができる。
【0115】
DTW距離のトレンドラインを計算するにあたって、全てのDTW距離を近似しなくても良い。例えば、ロボット1が同一の再生動作を1日に多数回繰り返す場合、ロボット状態評価部54がDTW距離の代表値を日毎に求め、代表値を近似するようにトレンドラインを求めても良い。
【0116】
代表値としては、例えば、その日に得られた複数のDTW距離の中央値とすることができる。中央値を用いる場合、極端にイレギュラーなDTW距離が含まれている場合でも影響を受けにくい利点がある。中央値に代えて平均値を用いても良い。
【0117】
代表値として、その日に得られた複数のDTW距離のうち最大値を用いても良い。この場合、異常の予兆をトレンドラインに反映させ易くすることができる。
【0118】
続いて、本実施形態の時系列データ取得部51による時系列データの取得処理の一例を、
図13のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0119】
図13に示すように、ロボット1の再生動作が開始すると、ロボット1の動作を制御するコントローラ90は状態監視装置5を起動する(ステップS101)。
【0120】
続いて、コントローラ90は、ロボット1を再生動作させるプログラムのプログラム番号を取得する(ステップS102)。再生動作のプログラムにおいては、エンドエフェクタ13を動かす経路が、経由する複数のポイント(1),(2),・・・,(E)を記述することで定義されている。
【0121】
コントローラ90は更に、各サーボモータの現在の回転位置を取得する(及びステップS103)。
【0122】
コントローラ90は、上記のステップS102で取得されたプログラム番号を状態監視装置5に出力する(ステップS104)。
【0123】
その後、コントローラ90は、動作のための準備が完了した後、取得開始信号を状態監視装置5に出力する(ステップS105)。動作のための準備には、
図3で説明したブレーキの開放が含まれる。
【0124】
コントローラ90は、エンドエフェクタ13を上述のポイント(1)へ移動させるように、サーボモータのそれぞれを動作させる(ステップS106)。
【0125】
エンドエフェクタ13がポイント(1)に到達すると、コントローラ90は、エンドエフェクタ13を次のポイント(2)へ移動させるように、サーボモータのそれぞれを動作させる(ステップS107)。同様の動作が繰り返されて、最終的には、エンドエフェクタ13が最終のポイント(E)に移動する(ステップS108)。
【0126】
エンドエフェクタ13がポイント(E)に到達した後、コントローラ90は、取得終了信号を状態監視装置5に出力し(ステップS109)、再生動作のプログラムを終了する。
【0127】
次に、状態監視装置5側の処理を説明する。
【0128】
状態監視装置5は、コントローラ90がステップS101の処理を行うことにより起動される。起動後、状態監視装置5は、ロボット1のコントローラ90がステップS104で出力したプログラム番号を取得する(ステップS201)。
【0129】
状態監視装置5は、次に、コントローラ90により出力される取得開始信号を受信するまで待機する(ステップS202)。
【0130】
取得開始信号を受信した場合、状態監視装置5は、ロボット1を駆動する各サーボモータに流れる電流の電流値のそれぞれを取得する(ステップS203)。このステップは、時系列データ取得ステップ(時系列データ取得工程)に相当する。
【0131】
ステップS203の処理は、コントローラ90により出力された取得終了信号を状態監視装置5が受信するまで反復される(ステップS204)。6つの関節それぞれのサーボモータから電流値が得られ、これらの電流値は、状態監視装置5が備えるRAMに蓄積される。
【0132】
取得終了信号を受信した場合、状態監視装置5は、補助記憶装置に、ステップS201で得られたプログラム番号を名前とするフォルダを作成する(ステップS205)。当該フォルダが既に作成されている場合は、ステップS205の処理はスキップされる。
【0133】
状態監視装置5は、取得開始信号を受信したタイミングと、取得終了信号を受信したタイミングと、の間に取得した電流値のデータを、ステップS205で作成されたフォルダにファイルとして保存する(ステップS206)。ファイルには、多数の電流値のデータが時系列順に並べて記述される。保存されるファイルの名前は、取得開始信号を受信した日時を表すタイムスタンプの文字列を含むように定められる。その後、状態監視装置5は実質的に処理を停止する。上記ステップS205及びステップS206は、記憶ステップ(記憶工程)に相当する。
【0134】
続いて、基準データと比較用データとのDTW距離を求めるためのフローチャートの一例について、
図14を参照して詳細に説明する。このフローチャートに示すDTW距離の算出は、非類似度算出ステップ(非類似度算出工程)に相当する。
【0135】
図14に示す処理は、1日につき1回、例えば工場の操業時間が終わった後に行われる。
図14の処理が開始されると、時系列データ評価部53は、ある再生動作に対応するプログラム番号のフォルダ内で、最も古くに収集された時系列データを取得する(ステップS301)。収集された日時は、ファイルの名前に含まれるタイムスタンプから簡単に得ることができる。ステップS301により得られる時系列データは、基準データに相当する。
【0136】
次に、時系列データ評価部53は、同じフォルダ内に保存された、ロボット1の本日の再生動作に伴って収集された時系列データを取得する(ステップS302)。ステップS302により得られる時系列データは、比較用データに相当する。
【0137】
時系列データ評価部53は、取得した基準データと比較用データとの間のDTW距離を求める(ステップS303)。
【0138】
その後、時系列データ評価部53は、本日収集された他の比較用データがあるか否かを判定する(ステップS304)。同一日の他の比較用データが存在する場合、当該比較用データについて、ステップS302及びステップS303の処理が同様に行われる。
【0139】
本日収集された比較用データの全てについて、基準データとの間でDTW距離が求められると、処理はステップS305に進む。ステップS305で、時系列データ評価部53は、本日収集された比較用データから求められたDTW距離の中央値を求め、記憶部52に記憶する。
【0140】
次に、ロボット状態評価部54は、ステップS305で得られたDTW距離の中央値の日毎の推移を示すグラフを作成する(ステップS306)。このグラフは、表示部55に表示される。グラフの例が
図10に示されている。グラフには、ロボット状態評価部54が中央値の近似直線を計算することにより計算したトレンドラインと、上述の寿命閾値を示す基準線と、が表示される。
【0141】
次に、DTW距離のバリエーションについて説明する。
【0142】
上記のように、DTW距離は、生の基準データと生の比較用データとの間で計算される。生の基準データの例は
図15(a)に、生の比較用データの例は
図15(b)に、それぞれ示されている。以下、この場合のDTW距離を、第1DTW距離と呼ぶことがある。第1DTW距離は、第1非類似度に相当するとともに、第1評価量に相当する。
【0143】
ただし、以下に例示するように、DTW距離は、生の基準データと生の比較用データとの間で計算されなくても良い。
【0144】
フィルタ済の基準データとフィルタ済の比較用データとの間でDTW距離が計算されても良い。フィルタ済の基準データの例は
図15(c)に、フィルタ済の比較用データの例は
図15(d)に、それぞれ示されている。
図15の例では、移動平均フィルタが用いられている。以下、この場合のDTW距離を、第2DTW距離と呼ぶことがある。第2DTW距離は、第2非類似度に相当する。
【0145】
図15(c)に示すフィルタ済の基準データと、
図15(b)に示す生の比較用データと、の間でDTW距離が計算されても良い。以下、この場合のDTW距離を、第3DTW距離と呼ぶことがある。第3DTW距離は、第3非類似度に相当する。
【0146】
時系列データ評価部53は、上記のように求められた第1DTW距離と第2DTW距離との差を計算して、評価量(第2評価量)として出力しても良い。また、第3DTW距離と第2DTW距離との差を計算して、評価量(第3評価量)として出力しても良い。
【0147】
図16には、第2DTW距離による評価結果の推移が示されている。基準データ及び比較用データに対してフィルタ処理により高周波成分が除去されているので、第2DTW距離は、経年による減速機の効率変化、機械的ロスの変化等を、より強く反映したものと考えることができる。
図16に示すように、第2DTWの値は、途中まであまり変化しないが、後半部分において加速度的に増加する傾向を示している。
【0148】
図17には、第3評価量の推移が示されている。当該第3評価量は、上述のように、第3DTW距離と第2DTW距離との差である。第3DTW距離は、フィルタ済の基準データと生の比較用データとのDTW距離である。従って、この第3評価量は、比較用データに含まれる振動及び軋み等の高周波成分(例えば、波形がパルス状になっている部分)を、より強く反映したものと考えることができる。
【0149】
図17のグラフにおいて、2020年3月~4月頃に、第3評価量の値が特異に増加していることが容易に分かる。この特異値は、故障の予兆として使用できる可能性が高い。
【0150】
基準データ及び比較用データのうち少なくとも一方にフィルタ済のものを用いることで、比較用データが含んでいる、故障の予兆を表す何らかの特徴を、相対的に強調できる可能性がある。この意味で、第2DTW距離、第3DTW距離、第2評価量、及び第3評価量のうち少なくとも何れかを用いることが有効である。
【0151】
基準データと比較用データとの間で非類似度を求めるものではないが、
図15(c)に示す生の比較用データと、
図15(d)に示すフィルタ済の比較用データと、の間でDTW距離を求めても良い。以下では、このDTW距離を第4DTW距離と呼ぶことがある。第4DTW距離は、第4非類似度に相当するとともに、第4評価量に相当する。
【0152】
図18には、第4評価量の推移が示されている。やや不明確ではあるが、2020年3月~4月頃に、第4評価量の値が特異的に増加していることが分かる。
【0153】
この第4評価量も、比較用データに含まれている軋み等のノイズ成分を相対的に強調したものであるため、状況に応じて、故障の予兆を捉えるために有効な場合がある。
【0154】
ロボット状態評価部54が第1DTW距離を求める毎に、表示部55には、第1DTW距離についてプロットされたグラフが、例えば
図10のように表示される。このグラフには、ロボット状態評価部54が求めたトレンドラインが併せて表示される。これと同時に、ロボット状態評価部54は、第1DTW距離以外の評価量(例えば、
図17に示す第3評価量)に特異値が現れているか否かを監視する。特異値が現れた場合は、ロボット状態評価部54は、
図19に示すように、グラフと同一の画面に警告メッセージ(アラーム)を表示して、オペレータに注意を喚起する。これにより、オペレータは状況を適切に把握することができる。
【0155】
以上に説明したように、本実施形態の状態監視装置5は、予め決められた動作を再生可能な産業用ロボットの状態を監視する。状態監視装置5は、時系列データ取得部51と、記憶部52と、時系列データ評価部53と、ロボット状態評価部54と、を備える。時系列データ取得部51は、ロボット1の状態を反映する状態信号(具体的には、サーボモータの電流値)の取得開始を示す取得開始信号のタイミングから、状態信号の取得終了を示す取得終了信号のタイミングまでの期間を対象として、状態信号の時系列データを取得する。記憶部52は、時系列データ取得部51により取得された時系列データを、前記時系列データの取得時期を示す時期情報、及び、当該時系列データを取得したときのロボット1の再生動作を特定するプログラム番号と関連付けて記憶する。時系列データ評価部53は、基準データと、比較用データと、の非類似度であるDTW距離を求める。基準データは、少なくとも1回の再生動作で取得された時系列データに基づくものである。比較用データは、基準データに係る時系列データの取得時よりも後に行われた同一の再生動作で取得された時系列データに基づくものである。ロボット状態評価部54は、時系列データ評価部53により算出されたDTW距離を、ロボット1の状態評価のための評価量(第1評価量)として用いる。
【0156】
これにより、ロボット1が故障する予兆を容易に把握して、メンテナンスを故障前に行うことができる。
【0157】
また、本実施形態の状態監視装置5において、時系列データ評価部53は、以下の処理を行う。即ち、基準データから取り出したm個の電流値を横軸に時系列順で配置し、比較用データから取り出したn個の電流値を縦軸に時系列順で配置し、それぞれの電流値の対応付けをm×n個のセルからなるマトリクスで表現し、対応付けられるサンプリング値の間の差異を各セルに関連付ける場合を考える。横軸に配置された基準データの電流値のうち、時系列で最先のタイミングに相当する電流値と、縦軸に配置された比較用データの電流値のうち、時系列で最先のタイミングに相当する電流値と、の対応付けに相当するセルを、始点セルとする。横軸に配置された基準データの電流値のうち、時系列で最後のタイミングに相当する電流値と、縦軸に配置された比較用データの電流値のうち、時系列で最後のタイミングに相当する電流値と、の対応付けに相当するセルを、終点セルとする。上記の前提で、時系列データ評価部53は、始点セルから終点セルに至る経路のうち、通過するセルに対応する差異の合計が最小となる経路を求める。時系列データ評価部53は、求められた経路が通過するそれぞれのセルに対応する差異の合計(DTW距離)又は平均値を、非類似度とする。
【0158】
これにより、比較用データが含んでいる異常の予兆を敏感に捉えながら非類似度を求めることができる。
【0159】
また、本実施形態の状態監視装置5において、基準データは、複数回取得された時系列データを平均することにより求めることもできる。
【0160】
この場合、計測誤差を抑制することができる。
【0161】
また、本実施形態の状態監視装置5において、基準データは、時系列データをフィルタ処理することにより得ることもできる。
【0162】
この場合、比較用データが含んでいる異常の予兆のうち、適宜の成分(例えば、高周波成分)を相対的に強調した形で、非類似度を求めることができる。
【0163】
また、本実施形態の状態監視装置5において、比較用データは、時系列データをフィルタ処理することにより得ることもできる。
【0164】
この場合、比較用データが含んでいる異常の予兆のうち、適宜の成分(例えば、低周波成分)を相対的に強調した形で、非類似度を求めることができる。
【0165】
また、本実施形態の状態監視装置5において、時系列データ評価部53は、第1DTW距離と、第2DTW距離と、を求めるように構成することもできる。第1DTW距離は、時系列データに対してフィルタ処理を行っていない基準データ、及び、時系列データに対してフィルタ処理を行っていない比較用データの間のDTW距離である。第2DTW距離は、時系列データに対してフィルタ処理を行った基準データ、及び、時系列データに対してフィルタ処理を行った比較用データの間のDTW距離である。時系列データ評価部53は、第1DTW距離と第2DTW距離との差を第2評価量として出力する。
【0166】
また、本実施形態の状態監視装置5において、時系列データ評価部53は、第3DTW距離と、第2DTW距離と、を求めるように構成することもできる。第3DTW距離は、時系列データに対してフィルタ処理を行った基準データ、及び、時系列データに対してフィルタ処理を行っていない比較用データの間のDTW距離である。第2DTW距離は、時系列データに対してフィルタ処理を行った基準データ、及び、時系列データに対してフィルタ処理を行った比較用データの間のDTW距離である。時系列データ評価部53は、第3DTW距離と第2DTW距離との差を第3評価量として出力する。
【0167】
また、本実施形態の状態監視装置5において、時系列データ評価部53は、第4DTW距離を求めるように構成することもできる。第4DTW距離は、時系列データに対してフィルタ処理を行った比較用データ、及び、時系列データに対してフィルタ処理を行っていない比較用データの間のDTW距離である。時系列データ評価部53は、第4DTW距離を第4評価量として出力する。
【0168】
以上の評価量により、比較用データが含んでいる異常の予兆を容易に捉えることができる。
【0169】
また、本実施形態の状態監視装置5において、時系列データは、ロボット1を駆動するサーボモータの電流値、電流指令値、トルク値、トルク指令値、回転位置偏差、及び実際の回転位置のうち、少なくとも何れかに関するデータである。
【0170】
これにより、サーボモータ及び周辺の構成の状態を容易に評価することができる。
【0171】
また、本実施形態の状態監視装置5において、ロボット状態評価部54は、時系列データ評価部53により求められたDTW距離が時間の経過に伴って変化する傾向を表すトレンドラインのデータを作成する。ロボット状態評価部54は、トレンドラインに基づいて残余寿命を計算する。
【0172】
これにより、ロボット1のメンテナンス時期を適切に計画するための情報をオペレータが得ることができる。
【0173】
また、本実施形態の状態監視装置5は、トレンドラインを表示可能な表示部55を備える。表示部55は、DTW距離と異なる評価量が予め設定された条件を満たした場合のアラームを、
図19のように、トレンドラインと同時に表示可能である。
【0174】
これにより、注意すべき状況をオペレータが早期に把握することができる。
【0175】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。なお、本実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0176】
本実施形態の時系列データ評価部53は、DTW距離の代わりに、基準データと比較用データとのユークリッド距離を算出することにより、2つのデータの非類似度を求めている。
【0177】
時系列データ評価部53は、基準データの波形と、比較用データの波形と、のうち一方を時間軸方向に複数段階で移動させ、各段階について、ユークリッド距離を計算により取得する。
【0178】
ユークリッド距離は良く知られているので、以下、簡単に説明する。時系列データaと時系列データbとの間のユークリッド距離Dは、時系列データの長さをmとして、以下の式(1)で表される。
【数1】
【0179】
図20には、比較用データを、時間軸のマイナス方向に1段階、プラス方向に1段階の合計2段階移動させる例が示されている。ユークリッド距離は、移動なしも含めて3段階分計算される。1段階あたりの時間軸方向での移動量、及び移動の段階数は、何れも任意に定めることができる。
【0180】
この波形の移動は、ユークリッド距離の計算時において、基準データに含まれるm個の電流値と、比較用データに含まれるm個の電流値と、の対応関係を一律にズラすことで、実質的に実現することができる。
【0181】
時系列データ評価部53は、上記で得られた複数のユークリッド距離の最小値を求める。時系列データ評価部53は、この最小値を、基準データと比較用データとの非類似度として出力する。
【0182】
ここで、第1実施形態で用いたDTW距離は、2つの時系列データの間で例えば時間遅れが大きく生じたり、時間軸方向での歪みが大きく生じたりしても、その影響を実質的に強力に除外して非類似度を評価している。しかし、時系列データの時間軸方向での遅れ及び歪みを評価することが、異常の予兆を捉えるために有効となる場合もあり得る。この点、本実施形態の変則的なユークリッド距離を用いる場合、許容される時間遅れが、時系列データを時間軸方向で段階的にズラす最大範囲までに制限される。従って、少しの時間遅れは許容しつつ、時系列データの時間軸方向でのある程度大きな遅れ及び歪みを適切に反映させた非類似度を得ることができる。言い換えれば、計測誤差としての位相ズレは無視する一方で、サーボモータ等の劣化を示す大きな位相ズレは適切に検出することができる。
【0183】
なお、
図20に示すように時系列データを時間軸方向で相対的にズラした結果、相手のない組み合わせが発生する。相手のない要素(電流値)が多いと、ユークリッド距離が、相手のある要素数の減少に伴って減ってしまう。これを解消するために、上記のように求められたユークリッド距離を、相手のある要素の数で除算し、得られた平均値を非類似度として評価に用いることが考えられる。あるいは、時系列データの両端の相手のない要素に対して、測定で得られた始点又は終点の値と等しい値の要素をその相手として追加する方法等で補正しても良い。
【0184】
以上に説明したように、本実施形態の状態監視装置5は、基準データの波形と、比較用データの波形と、のうち少なくとも一方を時間軸方向に複数段階で移動させながら、2つの波形の間のユークリッド距離をそれぞれ求める。ユークリッド距離の最小値を非類似度とする。
【0185】
これにより、時系列データにおける時間軸方向での歪み等を精度良く反映した非類似度を得ることができる。
【0186】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。なお、本実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0187】
本実施形態の時系列データ評価部53は、基準データに含まれるm個の電流値のうちi番目の電流値と、比較用データに含まれるm個の電流値のうちi-p番目からi+p番目までの電流値と、の差をそれぞれ求める。
図21はp=2である場合を示す模式図であり、電流値の差が下線付きの数値で表されている。
【0188】
続いて、時系列データ評価部53は、比較用データのi-p番目からi+p番目までの電流値のうち、基準データのi番目の電流値に最も近いものは何れになるかを調べる。
図21の例で、比較用データのi-2番目からi+2番目までの電流値のうち、基準データのi番目の電流値に対して差の絶対値が最も小さいのはi-1番目であり、その差は-0.2となっている。基準データのi番目の電流値が第1サンプリング値に相当し、比較用データのi-1番目の電流値が第2サンプリング値に相当する。
【0189】
時系列データ評価部53は、非類似度としてユークリッド距離を計算する。このとき、基準データのi番目の電流値と、比較用データのi-2番目からi+2番目までの電流値のうち、基準データのi番目の電流値に最も近い電流値と、の差が、基準データのi番目の電流値と比較用データのi番目の電流値の差の絶対値(上述の式(1)における|ai-bi|)であるとみなされる。
【0190】
このようにして得られた非類似度は、少しの時間遅れ及び歪みを許容しつつ、時系列データのある程度大きな時間軸方向での遅れ及び歪みを適切に反映させたものとなる。言い換えれば、計測誤差としての位相ズレが補正され、劣化を示す大きな位相ズレを検出する。
【0191】
以上に説明したように、状態監視装置5は、それぞれ複数のサンプリング値を取得された基準データの波形と、比較用データの波形と、の間で、一方の波形のi番目の電流値である第1電流値と、他方の波形のi-p番目からi+p番目まで(ただし、i及びpは1以上の整数)の電流値のうち第1電流値に最も近い第2電流値と、の差を、2つの波形で対応するサンプリング値の差であるとみなしてユークリッド距離を求める。状態監視装置5は、このユークリッド距離を非類似度とする。
【0192】
これにより、時系列データにおける時間軸方向での歪み等を精度良く反映した非類似度を得ることができる。
【0193】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0194】
状態監視装置5は、ロボット1に直接に接続しなくても良く、例えばインターネット等の通信回線を介してロボット1のコントローラ90からロボット1の状態を反映する時系列データを取得しても良い。この場合、コントローラ90は、再生動作において、リアルタイムで電流値を取得して保存し、バッチ処理等によってプログラム番号、電流値の取得日時、サーボモータを識別する情報とともに、電流値の時系列データをまとめて状態監視装置5に送信する。
【0195】
DTW距離は、DPマッチング手法を用いずに求められても良い。
【0196】
状態監視装置5は、コントローラ90と別途に設けず、コントローラ90に内蔵されても良い。また、状態監視装置5の、CPU、ROM、RAM、補助記憶装置等として機能するコンピュータを設けず、状態監視装置5は、ロボット1のコントローラ90のコンピュータを用いて実現されても良い。この場合、表示部55は、例えばロボット1の教示ペンダントの一部として構成され、前述の警告メッセージを切替式で表示することができる。
【符号の説明】
【0197】
1 ロボット
5 状態監視装置
51 時系列データ取得部(時系列データ取得部)
52 記憶部
53 時系列データ評価部(非類似度算出部)
54 ロボット状態評価部