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特許7466846ポリエステル樹脂、並びに、当該ポリエステル樹脂を含む成形体、延伸フィルム及びボトル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、並びに、当該ポリエステル樹脂を含む成形体、延伸フィルム及びボトル
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20240408BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C08G63/672
C08J5/00 CFD
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021532998
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2020026649
(87)【国際公開番号】W WO2021010242
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019131846
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森下 隆実
(72)【発明者】
【氏名】安達 恒貴
(72)【発明者】
【氏名】永井 雅之
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-512936(JP,A)
【文献】特開2017-105873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸構成単位と、ジオール構成単位と、を含むポリエステル樹脂であって、
前記ジオール構成単位の0モル%超20モル%以下が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、
前記ジオール構成単位の70~98モル%が脂環式骨格を有するジオールに由来する単位であり、
前記ジオール構成単位にエチレングリコールに由来する単位を含み、
前記ジカルボン酸構成単位の80モル%以上がテレフタル酸に由来する単位であり、
下記(A)で示される物性を有するポリエステル樹脂。

(A)280℃で溶融して150℃から230℃10℃間隔で変化させて定温結晶化した際の脱偏光強度法に基づく半結晶化時間の最小値が30秒~400秒
【請求項2】
前記環状アセタール骨格を有するジオールが下記式(1)及び式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【化1】
(式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基を表す。)
【化2】
(式(2)中、R1は式(1)と同様であり、R3は炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基を表す。)
【請求項3】
前記環状アセタール骨格を有するジオールが、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンである、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記脂環式骨格を有するジオールが、1,4-シクロヘキサンジメタノールである、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記ジオール構成単位中、前記エチレングリコールに由来する単位の含有量が、0.1~10モル%である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含む、成形体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含む、延伸フィルム。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含む、ボトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂、並びに、当該ポリエステル樹脂を含む成形体、延伸フィルム及びボトルに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族系飽和ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある。)は、機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、ボトルやフィルムなどの用途を中心に幅広く用いられている。しかしながら、PETには耐熱性に改善点が存在する。すなわち、PETのガラス転移温度は80℃程度であるため、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等高い耐熱性、透明性が要求される用途には不向きといえる。
【0003】
これに対し、耐熱性を向上させたPETとしては、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、「スピログリコール」又は「SPG」ということがある。)及び1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下、「CHDM」ということがある。)を共重合したPETが挙げられる(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-183423号公報
【文献】特開2003-292593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐熱性に優れ、且つ、透明な延伸成形体(例えば、延伸フィルムなど)を形成する観点からは、高いTgを有する樹脂を用いるほか、非晶性ではなく結晶性を示すポリエステル樹脂を用いることも一つの手段となる。
例えば、結晶化度を高めて樹脂の耐熱性を向上させるためには、Tgよりも高い温度で延伸配向結晶化をおこなうことも有効な手段である。
ここで、通常のPETは、Tgは低いものの結晶化速度が速く、透明性を維持したままTgよりも高い温度で延伸配向結晶化をおこなうことが可能である。しかし、SPG及びCHDMを共重合したPETは、通常のPETよりもガラス転移温度(Tg)が高いものの、結晶化速度が遅い。このため、Tgよりも高い温度で延伸配向結晶化をおこなうことができず、SPG及びCHDMを共重合したPETは、非晶性樹脂として扱われている。
【0006】
一方、耐熱性の要求される分野に関しては、ガラス転移温度の高いポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(以下「PCT」ということがある。)等のポリエステル樹脂が用いられてきた。しかしながら、PCTも耐熱性は改善されるものの、結晶性が高く透明性に劣る。
例えば、PCTは、PETに比してTgが高いものの、逆に結晶化速度が速すぎるため、透明性を維持したまま射出成形品の作製や押出成形をおこなうことが困難である。このため、例えば、PCTをエチレングリコール(以下、「EG」ということがある)やイソフタル酸(以下、「PIA」ということがある)等で変性することで、PCTの結晶化速度をPET並みに遅くすることができる。しかし、これら変性PCTは、透明性はPETに対して改善されるものの、結晶化速度の低下に伴ってTgもPET並みに低下してしまい、耐熱性に劣ってしまう。
【0007】
以上のように、従来用いられているポリエステル樹脂は、耐熱性や透明性に優れた成形体を形成するとの点で未だ改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決すべく、優れた耐熱性及び透明性を有する成形体を形成可能なポリエステル樹脂、並びに、当該ポリエステル樹脂を含む成形体、延伸フィルム及びボトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1> ジカルボン酸構成単位と、ジオール構成単位と、を含むポリエステル樹脂であって、前記ジオール構成単位の0モル%超20モル%以下が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、前記ジオール構成単位の70~98モル%が脂環式骨格を有するジオールに由来する単位であり、前記ジオール構成単位にエチレングリコールに由来する単位を含み、前記ジカルボン酸構成単位の80モル%以上がテレフタル酸に由来する単位であり、下記(A)で示される物性を有するポリエステル樹脂。

(A)280℃で溶融して150~230℃で定温結晶化した際の脱偏光強度法に基づく半結晶化時間の最小値が600秒以下。
<2> 前記環状アセタール骨格を有するジオールが下記式(1)及び式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種である、前記<1>に記載のポリエステル樹脂。
【化1】

(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基を表す。)
【化2】

(式(2)中、Rは式(1)と同様であり、Rは炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基を表す。)
<3> 前記環状アセタール骨格を有するジオールが、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンである、前記<1>又は<2>に記載のポリエステル樹脂。
<4> 前記脂環式骨格を有するジオールが、1,4-シクロヘキサンジメタノールである、前記<1>~<3>のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
<5> 前記ジオール構成単位中、前記エチレングリコールに由来する単位の含有量が、0.1~10モル%である前記<1>~<4>のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
<6> 前記<1>~<5>のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含む、成形体。
<7> 前記<1>~<5>のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含む、延伸フィルム。
<8> 前記<1>~<5>のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含む、ボトル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた耐熱性及び透明性を有する成形体を形成可能なポリエステル樹脂、並びに、当該ポリエステル樹脂を含む成形体、延伸フィルム及びボトルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0012】
《ポリエステル樹脂》
本実施形態のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸構成単位と、ジオール構成単位と、を含むポリエステル樹脂であって、
前記ジオール構成単位の0モル%超20モル%以下が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、
前記ジオール構成単位の70~98モル%が脂環式骨格を有するジオールに由来する単位であり、
前記ジオール構成単位にエチレングリコールに由来する単位を含み、
前記ジカルボン酸構成単位の80モル%以上がテレフタル酸に由来する単位であり、
下記(A)で示される物性を有する。
【0013】
(A)280℃で溶融して150~230℃で定温結晶化した際の脱偏光強度法に基づく半結晶化時間の最小値(以下、単に「結晶化速度」と称することがある)が600秒以下
【0014】
本実施形態のポリエステル樹脂は、ジオール構成単位中の、環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位、脂環式骨格を有するジオールに由来する単位、及び、エチレングリコールに由来する単位の含有量;ジカルボン酸構成単位中のテレフタル酸に由来する単位の含有量が特定の範囲にあり、且つ、結晶化速度が600秒以下であるため、結晶性を有し、Tgも高い。さらに、本実施形態のポリエステル樹脂は、透明性を維持したままTgよりも高い温度で延伸配向結晶化をおこなうことができる。これにより、本実施形態のポリエステル樹脂を用いることで、優れた耐熱性及び透明性を有する成形体を形成することができる。
【0015】
<ジオール構成単位>
本実施形態のポリエステル樹脂は前記ジオール構成単位として少なくとも以下の単位を含む。
・環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位:0モル%超20モル%以下
・脂環式骨格を有するジオールに由来する単位:70~98モル%
・エチレングリコールに由来する単位
【0016】
(環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位)
本実施形態のポリエステル樹脂は、ジオール構成単位として、環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位を有する。
前記単位の由来となる「環状アセタール骨格を有するジオール」としては、特に限定されないが、例えば、下記式(1)及び式(2)で表される化合物(ジオール)から選ばれる少なくとも一種が好ましい。環状アセタール骨格を有するジオールとして、下記式(1)及び式(2)で表される化合物を用いると、得られる成形体の透明性や耐熱性がより向上する傾向にある。
【0017】
【化3】

(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基を表す。)
【化4】

(式(2)中、Rは式(1)と同様であり、Rは炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基を表す。)
【0018】
式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して(式(2)においてはRのみ)、炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基であり、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基を表す。
式(2)において、Rは炭素数が1~10の脂肪族基、炭素数が3~10の脂環式基、又は炭素数が6~10の芳香族基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピル基、イソブチル基を表す。
【0019】
式(1)で表される環状アセタール骨格を有するジオールとしては、例えば、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンが特に好ましく、式(2)で表される環状アセタール骨格を有するジオールとしては、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサンが特に好ましい。これらの中でも環状アセタール骨格を有するジオールとしては、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(SPG)が特に好ましい。
【0020】
(脂環式骨格を有するジオールに由来する単位)
本実施形態のポリエステル樹脂は、ジオール構成単位として、脂環式骨格を有するジオールに由来する単位を有する。本実施形態のポリエステル樹脂は、脂環式骨格を有するジオールに由来する単位を含むことで、耐熱性と結晶性を向上させることができる。
前記単位の由来となる「脂環式骨格を有するジオール」としては、特に限定されるものではないが、例えば、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等のジオールが挙げられ、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、2,6-デカヒドロナフタレンジメタノールが好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)が特に好ましい。
【0021】
(エチレングリコール)
本実施形態のジオール構成単位には、エチレングリコールに由来する単位が含まれる。本実施形態のポリエステル樹脂は、エチレングリコールに由来する単位を含むため、樹脂を合成する際に各モノマーを結合させやすく生産効率を高めることができる。
【0022】
(他のジオール構成単位)
本実施形態のポリエステル樹脂は、環状アセタール骨格を有するジオール単位、脂環式骨格を有するジオールに由来する単位及びエチレングリコールに由来する単位以外の他のジオール構成単位を含んでもよい。他のジオール構成単位としては、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;4,4’-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’-スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;前記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等のジオールに由来する単位が例示できる。
【0023】
(ジオール構成単位中の各構成単位の含有量)
全ジオール構成単位中、環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位の含有量は、0モル%超20モル%以下である。環状アセタール骨格を有する単位の含有量が0モル%であると耐熱性が低下し、20モル%を超えるとポリエステル樹脂の結晶性が低下し延伸後の熱固定が困難となる。環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位の含有量は、耐熱性と結晶性との観点から、8モル%以上20モル%以下が好ましく、10.1モル%以上20モル%以下がさらに好ましい。
全ジオール構成単位中、脂環式骨格を有するジオールに由来する単位の含有量は、70~98モル%である。脂環式骨格を有するジオールに由来する単位の含有量が70モル%未満であるとポリエステル樹脂の結晶性が低下し延伸後の熱固定が困難となり、98モル%を超えるとポリエステル樹脂の結晶化速度が速すぎるため、透明性を維持したまま成形することが困難となる。脂環式骨格を有するジオールに由来する単位の含有量は、耐熱性と結晶性との観点から、70~95モル%が好ましく、75~90モル%がさらに好ましい。
全ジオール構成単位中、エチレングリコールに由来する単位の含有量が0モル%であると樹脂を合成する際に各モノマーを結合させ難く生産効率が悪くなる。エチレングリコールに由来する単位の含有量は、生産効率と結晶性の観点から、0.1~10モル%が好ましく、0.1~8モル%がさらに好ましく、0.1~5モル%が特に好ましい。
【0024】
<ジカルボン酸構成単位>
(テレフタル酸に由来する単位)
本実施形態のポリエステル樹脂はジカルボン酸構成単位として、少なくともテレフタル酸に由来する単位を80モル%以上含む。全ジカルボン酸構成単位中、テレフタル酸に由来する単位の含有量が80モル%未満であるとポリエステル樹脂の結晶性が低下し延伸後の熱固定が困難となる。テレフタル酸に由来する単位の含有量は、結晶性の観点から、80~100モル%が好ましく、90~100モル%がさらに好ましく、95~100モル%が特に好ましい。
【0025】
(他のジカルボン酸構成単位)
本実施形態のポリエステル樹脂中のジカルボン酸構成単位は、テレフタル酸に由来する単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。
他のジカルボン酸単位としては、以下に限定されないが、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-カルボキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5-カルボキシ-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-カルボキシエチル)-1,3-ジオキサン等の脂肪族ジカルボン酸に由来する単位;イソフタル酸、フタル酸、2-メチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来する単位が挙げられる。
【0026】
<他の構成単位>
本実施形態のポリエステル樹脂には、本実施形態の目的を損なわない範囲でブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコールなどのモノアルコール単位やトリメチロールプロパン、グリセリン、1,3,5-ペンタントリオール、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール単位、安息香酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸単位、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸単位、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸単位を含んでもよい。
本実施形態のポリエステル樹脂が、ジオール構成単位及びジカルボン酸構成単位以外の他の構成単位を含む場合、本発明の効果を十分に発揮する観点から、当該他の構成単位の含有率は、ポリエステル樹脂全体に対して、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
<ポリエステル樹脂>
さらに、本実施形態のポリエステル樹脂中におけるジオール構成単位(O)とジカルボン酸構成単位(C)とのモル比〔O/C〕は、耐熱性と結晶性との観点から、90/100~110/100が好ましく、95/100~105/100がさらに好ましく、99/100~101/100が特に好ましい。
本実施形態のポリエステル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、耐熱性と耐衝撃性との観点から、10,000~200,000が好ましく、20,000~150,000がさらに好ましく、30,000~100,000が特に好ましい。前記重量平均分子量は、例えば、単分散ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0028】
本実施形態のポリエステル樹脂を製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることができる。
本実施形態のポリエステル樹脂としては、特に限定はないが、ジオール構成単位(スピログリコール(SPG)に由来する単位、4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に由来する単位、及び、エチレングリコール(EG)に由来する単位)と、ジカルボン酸構成単位(テレフタル酸に由来する単位)との組み合わせが挙げられる。
【0029】
(物性)
本実施形態のポリエステル樹脂は、下記(A)で示される物性(結晶化速度)を有する。
【0030】
(A)280℃で溶融して150~230℃で定温結晶化した際の脱偏光強度法に基づく半結晶化時間の最小値が600秒以下。
【0031】
本実施形態のポリエステル樹脂において前記半結晶化時間の最小値が600秒以下であると、透明性を維持しつつ、樹脂のTgよりも高い温度で延伸配向結晶化をおこなうことができ、十分な結晶性を発揮することができる。
【0032】
式(A)に規定される半結晶化時間は、具体的には、ポリエステル樹脂をシート状とし、カバーガラスにはさみ、280℃で6分間溶融した後、所定温度の結晶化浴に入れ脱偏光強度の経時変化を測定して、その温度での半結晶化時間を求める。半結晶化時間の最小値は、結晶化浴の温度を150から230℃まで10℃間隔で変化させて定温結晶化した際の半結晶化時間を測定し、その中で最小の値をその樹脂の半結晶化時間(秒)とする。
【0033】
本実施形態におけるポリエステル樹脂の結晶化速度としては、特に限定はないが、樹脂の結晶性、得られる成形体の耐熱性、透明性を維持したまま射出成形品の作製や押出成形をおこなう観点から、20~600秒が好ましく、25~500秒がさらに好ましく、30~400秒が特に好ましい。
【0034】
本実施形態におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定はないが、91℃以上であることが好ましく、より好ましくは95℃以上であり、更に好ましくは100℃以上である。
ガラス転移温度が上述の範囲内にある場合、本実施形態のポリエステル樹脂はより耐熱性に優れる傾向にある。したがって、従来のPETや1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸で一部共重合された変性PETでは使用できなかった高い耐熱性が要求される用途での使用が可能になる。例えば、自動車内や赤道を通過する船倉(70~80℃に達するといわれる)での使用が可能となるので、自動車の内装、自動車内で使用する芳香剤、目薬などの容器、ブリスターパックなど輸出入に用いる包装材に好適に用いることができる。また、電子レンジ加熱やレトルト処理を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等の容器など、高温処理を行う用途にも好適に用いることができる。前記ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。また、当該ガラス転移温度は、例えば、本実施形態のポリエステル樹脂中のジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを前述した好ましい態様に基づいて適宜選択すること等により上述した好ましい範囲に調整することができる。
【0035】
また、本実施形態のポリエステル樹脂の降温時結晶化ピークの熱量は、15J/g以上であることが好ましく、より好ましくは20J/g以上である。また、前記降温時結晶化ピークの熱量の上限は特に限定はないが、降温時結晶化ピークの熱量の好ましい範囲としては、15~50J/gが好ましく、20~50J/gがさらに好ましい。降温時結晶化ピークの熱量は、示査走査型熱量計を使用し、例えば、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした後、280℃で1分間保持し、10℃/分間の降温速度で降温した際に現れる発熱ピークの面積から測定することができる。
【0036】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物を押出成形して得られる厚さ40μmの二軸延伸フィルムのヘイズは1.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下である。ヘイズが上述の範囲にある場合、本実施形態のポリエステル樹脂はより高い透明性を示す傾向にある。ヘイズは、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。また、当該ヘイズは、例えば、本実施形態のポリエステル樹脂中のジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを前述した好ましい態様に基づいて適宜選択すること等により上述した好ましい範囲に調整することができる。
【0037】
[任意成分]
本実施形態のポリエステル樹脂は、任意成分を含むポリエステル樹脂組成物として用いてもよい。任意成分としては、以下に限定されないが、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、増量剤、艶消し剤、乾燥調節剤、帯電防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、フィラー、着色剤、補強剤、表面平滑剤、レベリング剤、硬化反応促進剤などの各種添加剤、成形助剤を添加することができる。また、その他任意成分として、ポリオレフィン樹脂、本実施形態のポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド樹脂、AS樹脂等の樹脂、オリゴマーを含んでいてもよい。任意成分の含有量としては、特に限定されないが、良好な耐熱性及び透明性を確保する観点から、ポリエステル樹脂組成物100質量%に対して2.9質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下であることがとりわけ好ましい。
【0038】
<ポリエステル樹脂の用途>
本実施形態のポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂を含む成形体は、種々の用途に用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂を含む成形体は、ポリエステル樹脂を用いて形成することができる。
【0039】
また、上述のように、本実施形態のポリエステル樹脂は、結晶化速度(半結晶化時間の最小値)が600秒以下であるため、透明性を維持したまま、Tgよりも高い温度で延伸配向結晶化をおこなうことが可能である。ポリエステル樹脂を用いて形成した成形体を延伸すると、分子が配向すると共に、配向結晶化と呼ばれる特徴的な結晶化が起こり、熱物性などが大きく向上した成形体とすることができる。前記Tgよりも高い温度でおこなわれる延伸配向結晶化は、例えば、未延伸シートなどの成形体をガラス転移温度より10~30℃高い温度で、例えば、3.5×3.5倍に同時二軸延伸をおこなった後、210~230℃で10~30秒間熱固定処理することでおこなうことができる。
【0040】
本実施形態のポリエステル樹脂を用いて形成したシートは単層でも多層でもよく、フィルムも単層でも多層でもよく、また未延伸のものでも、一方向(一軸)、又は二方向に延伸(二軸延伸)されたものでもよく、鋼板などに積層してもよい。
本実施形態のポリエステル樹脂を含む延伸フィルムを得る方法としては特に制限されるものではないが、押し出し成形やカレンダー成形等の公知の方法でポリエステル樹脂のフィルムを製膜し、一方向に1.1~7倍、好ましくは2~6倍、特に好ましくは2.5~5倍に延伸し、該方向と直角方向に1.1~7倍、好ましくは2~6倍、特に好ましくは2.5~5倍に延伸することで形成することができる。延伸フィルムの延伸手段としては、ロール延伸、長間隙延伸、テンター延伸などの方法が適用でき、また、延伸時の形状においてもフラット状、チューブ状等の方法が適用できる。更に、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、一軸延伸あるいはこれらの組み合わせなどでおこなうことができる。また、これらの延伸におけるヒートセットは30~240℃の加熱ゾーンを1~30秒間通すことによりおこなうことができる。
【0041】
上述のように、本実施形態のポリエステル樹脂は、例えば、射出成形体、シート、フィルム(絶縁性フィルム)、パイプ等の押し出し成形体、容器等の熱成形体、ボトル、発泡体、粘着材、接着剤、塗料等に用いることができる。より詳細には、射出成形体はインサート成形でも二色成形でもよい。フィルムはインフレーション成形でもよい。容器は、シートやフィルムを真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成型といった熱成形することで得られる成形体でもよい。ボトルはダイレクトブローボトルでもインジェクションブローボトルでもよく、射出成型されたものでもよい。特に、本実施形態のポリエステル樹脂を用いて形成した成形体は透明性、耐熱性及び繰り返し疲労特性に優れるため、ポリエステル樹脂を含むボトルは、例えば、繰り返し使用が必要なボトルとして好適に用いることができる。発泡体は、ビーズ発泡体でも押し出し発泡体でもよい。特に自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等の容器など、高い耐熱性が要求される用途に好適に用いることができる。またUVバリア性が求められる容器などの包装材等に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態のポリエステル系射出成形体、ポリエステル系押し出し成形体、ポリエステル系発泡体、ポリエステル系容器、ポリエステル系ボトル、ポリエステル系食器、ポリエステル系哺乳瓶は、それぞれ、本実施形態のポリエステル樹脂組成物を含むものということができる。これらは、本実施形態のポリエステル樹脂を含むものであれば特に限定されず、各々の用途に沿った種々公知の形態とすることができる。
【実施例
【0042】
以下に、実施例を挙げて本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0043】
1.ポリエステル樹脂の製造
[実施例1]
分縮器、全縮器、コールドトラップ、トルク検出機付き攪拌機、加熱装置、及び窒素導入管を備えた30Lのポリエステル樹脂製造装置にテレフタル酸ジメチル(DMT)7919g、エチレングリコール(EG)1786g、スピログリコール(SPG)1900g、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)5535g、チタンテトラブトキシド(TBT)1.3879g、酢酸カリウム(酢酸K)0.8005gを仕込み、225℃まで昇温しつつ常法にてエステル交換反応をおこなった。
ついで、エステル交換反応にて生成するメタノールの留出量が理論量の90%となった後、反応液に対して、三酸化二アンチモン(Sb)2.3777g、リン酸トリエチル(TEP)3.7412gを加えた。その後、反応液を225℃に維持したまま13.3kPaまで1時間かけて減圧した後、280℃、130Paまで1時間かけて昇温、減圧して重縮合反応をおこなった。そして、撹拌速度を100rpmから徐々に下げていき、撹拌速度が15rpm、攪拌機のトルクが140N・mとなったところで反応を終了しポリエステル樹脂をペレットとして約8kgを得た。
【0044】
[他の実施例及び比較例]
SPG、CHDM、EG、DMT、TBT、酢酸K、TEP、及びSbについて、仕込み量を下記表に従って変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂のペレットを得た。なお、実施例3においては、実施例1において、エステル交換反応にて生成するメタノールの留出量が理論量の90%となった後、反応液に対して、リン酸トリエチル(TEP)と共に、二酸化ゲルマニウム(GeO)を下記表に従って添加した。
【0045】
【表1】
【0046】
なお、比較例5、比較例6は下記の市販樹脂を用いた。
比較例5:製品名「UNIPETRT553C」(日本ユニペット(株)製)
比較例6:製品名「EastarBR203」(EastmanChemical Company製)
【0047】
2.樹脂の評価
(環状アセタール骨格を有するジオールの共重合率)
ポリエステル樹脂中の、(1)ジオール構成単位中の、環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位(SPG)、脂環式ジオールに由来する単位(CHDM)、及び、(2)ジカルボン酸構成単位中の、エチレングリコールに由来する単位(EG)の共重合率、並びに、ジカルボン酸単位中のテレフタル酸に由来する単位(PTA)及びイソフタル酸(PIA)の共重合率をH-NMR測定にて算出した。測定装置はBruker BioSpin K.K.製、「AscendTM500」を用いた。溶媒には重クロロホルムを用いた。なお、重クロロホルムに不溶な場合は、トリフルオロ酢酸を数滴使用し、重クロロホルムに溶解させた。
【0048】
(半結晶化時間)
各実施例及び比較例で作製したペレットを押し潰してシート状とし、280℃で溶融して150~230℃で定温結晶化した際の脱偏光強度法に基づく半結晶化時間を測定した。具体的には、カバーガラスにはさみ、280℃で6分間溶融した後、所定温度の結晶化浴に入れ脱偏光強度の経時変化を測定して、その温度での半結晶化時間を求めた。半結晶化時間は、結晶化浴の温度を150から230℃まで10℃間隔で変化させて定温結晶化した際の半結晶化時間を測定し、その中で最小の値をその樹脂の半結晶化時間(秒)とした。結果を表2に示す。なお、表中においては、半結晶化時間の最小値が600秒未満の場合を「A」、600秒以上の場合を「C」として評価した。
【0049】
(ガラス転移温度及び降温時結晶化ピーク熱量)
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、(株)島津製作所製、示査走査型熱量計(型式:DSC/TA-50WS)を使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。結果を表2に示す。なお、表中においては、Tgが100℃以上の場合を「A」、100℃未満の場合を「C」として評価した。
降温時結晶化発熱ピークは、ガラス転移温度を測定後、280℃で1分間保持し、その後、10℃/分間の降温速度で降温した際に現れる発熱ピークの面積から測定した。
【0050】
3.二軸延伸フィルムの作製
各実施例及び比較例で得られたポリエステル樹脂のペレットを用いて、押し出し成形により、シリンダー温度250~290℃、ダイ温度250~290℃、ロール温度75~100℃の条件で、厚さ約0.5mmの未延伸シートを作製した。
ついで、該未延伸シートをガラス転移温度より10~30℃高い温度で3.5×3.5倍に同時二軸延伸を行った後、210~230℃で10~30秒間熱固定処理して、厚さ40μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0051】
4.二軸延伸フィルムの評価
(耐熱性(熱収縮率))
上述の3.で得られた二軸延伸フィルムを幅10mm、長さ150mmのサイズに長辺(150mm)が長手方向と一致する方向に沿ってカットし、100mm間隔で印をつけた。5.8gの一定張力(長手方向)下で印の間隔(間隔A)を測った。続いて、無荷重で、200℃の雰囲気のオーブン中で30分間放置した。フィルムをオーブンから取り出し、室温まで冷却した後、5.8gの一定張力下(長手方向)で印の間隔(間隔B)を求め、以下の式にから熱収縮率(MD)を算出した。結果を表2に示す。なお、表中においては、熱収縮率が6%未満の場合を「A」、6%以上の場合を「C」として評価した。
熱収縮率(%)=[(A-B)/A]×100
【0052】
(ヘイズ)
JIS-K-7105、ASTMD1003に準じ、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH-300A)を使用し、上述の3.で得られた二軸延伸フィルム(厚さ40μm)のヘイズ(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
上述の表からも明らかなように、実施例のポリエステル樹脂は、Tgが高く、結晶化速度が600秒未満であり、Tgよりも高い温度で延伸配向結晶化をおこなっても透明性に優れていた。
これに対しSPG、CHDM及びEGを含み、ジオール構成単位中、SPGの共重合比率が20mol%を超え、CHDMの共重合比率が70mol%未満の比較例1,2,4のポリエステル樹脂はいずれも非晶性であった。このため、Tgよりも高い温度で延伸配向結晶化を行う際に、同時二軸延伸後の熱固定が出来ずフィルムを得ることが出来なかった。
また、SPG、EGを含むがCHDMを含まない比較例3のポリエステル樹脂、EGとPTAとからなる比較例5(PET)、イソフタル酸で変性されたPCTである比較例6結晶性の樹脂であったが、Tgが低く、耐熱性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリエステル樹脂は、耐熱性、透明性、に優れ、延伸フィルム、繰り返し使用されるボトルの他、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材、加熱殺菌処理を行う哺乳瓶や食器等の容器、高い耐熱性が要求される用途等に好適に用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。
【0056】
2019年7月17日に出願された日本国特許出願2019-131846号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。