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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】薬液注入器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/152 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
A61M5/152
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022145907
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2018143989の分割
【原出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2022168261
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2022-09-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 慎吾
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-068383(JP,A)
【文献】特開2002-159572(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0112149(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0204649(US,A1)
【文献】特開平08-257120(JP,A)
【文献】特開2015-119832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/152
A61M 5/145
A61M 5/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液貯留領域を有する薬液リザーバを備えていると共に、該薬液貯留領域に連通された薬液流出口を備えており、該薬液リザーバに貯留された薬液を該薬液流出口から持続的に流出させる薬液注入器具において、
前記薬液リザーバの底部を押圧して該薬液リザーバを収縮させるプランジャが設けられて、該薬液リザーバの底部と該プランジャが分離可能とされており、且つ、
該薬液リザーバを収縮状態に保持するリザーバ収縮保持手段が設けられていると共に、該プランジャから該薬液リザーバに及ぼされる押圧力を解除する押圧解除手段が設けられていることを特徴とする薬液注入器具。
【請求項2】
前記薬液リザーバを収容する硬質のハウジングには内側へ突出する小突起が設けられており、該薬液リザーバが該小突起に対して係止されることにより前記リザーバ収縮保持手段が構成されている請求項に記載の薬液注入器具。
【請求項3】
前記薬液リザーバが前記小突起に対して薬液の流入圧力で解除可能な力で係止されることにより前記リザーバ収縮保持手段が構成されている請求項に記載の薬液注入器具。
【請求項4】
前記プランジャを収容する硬質のハウジングが設けられていると共に、該プランジャと該ハウジングの底部との間には該プランジャを前記薬液リザーバの底部に向けて付勢するばね部材が設けられており、該プランジャを該ばね部材の付勢力に抗して該薬液リザーバから離れた位置に保持可能とする前記押圧解除手段が設けられている請求項の何れか1項に記載の薬液注入器具。
【請求項5】
前記薬液リザーバが蛇腹構造を有している請求項の何れか1項に記載の薬液注入器具。
【請求項6】
前記薬液リザーバの底部と前記プランジャとの間に緩衝体が配されている請求項の何れか1項に記載の薬液注入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麻酔薬や鎮痛薬、抗がん剤、抗生物質などの薬液を体内に持続的に注入するための薬液注入器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
麻酔薬や鎮痛薬、抗がん剤、抗生物質などの薬液を患者に投与する際に、数時間乃至は数日といった長時間に亘って薬液を少量ずつ持続的に投与することが求められる場合もある。このような場合には、薬液リザーバに貯留された薬液を持続的に流出させて患者の体内に注入する携帯型の薬液注入器具が、従来から用いられている。例えば、特開平8-68383号公報(特許文献1)に記載されている流体吐出装置が、上記薬液注入器具の一例であって、特許文献1の図1に開示されているように、薬液を貯留するタンク部材(薬液リザーバ)がバネ部材によって押圧される構造を有しており、タンク部材がバネ部材の押圧力によって徐々に収縮することで、薬液がタンク部材から所定量ずつ流出して患者の体内に注入されるようになっている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の流体吐出装置には、以下に示すような改善すべき点があった。
【0004】
特許文献1に開示された流体吐出装置において改善すべき1つ目の点は、タンク部材内に貯留される薬液に空気が残留し易いということである。すなわち、特許文献1の図1に示されているように、薬液の流出口がタンク部材の側方に開口する向きで流体吐出装置を使用すると、タンク部材内に貯留された薬液に混入した空気が、プライミングによっても外部に排出され難く、残留した空気が薬液とともにタンク部材から流出するおそれがあった。さらに、流体吐出装置によって薬液を投与する場合には、異物除去のためのフィルタに薬液を通すことになるが、このフィルタをタンク部材と患者の間の注入ライン上に配する構造では、フィルタを正しい向きや位置に設定する作業が煩雑であるという問題もあった。
【0005】
特許文献1において改善すべき2つ目の点は、タンク部材の外形が円形とされていることで、タンク部材の容量を確保しようとすると、タンク部材を衣服のポケットなどに入れて携行する場合に、タンク部材が嵩張るということである。その結果、タンク部材が患者に押し付けられて違和感を生じたり、衣服が歪に盛り上がってしまって見栄えが良くないなどの携行し難い問題があった。
【0006】
特許文献1において改善すべき3つ目の点は、薬液のタンク部材への注入作業が難しいことである。すなわち、タンク部材がバネ部材によって常に加圧されていることから、タンク部材内に薬液を注入する際に、薬液をバネ部材の付勢力に抗してタンク部材内に注入して貯留させる必要がある。その結果、薬液がタンク部材に入り難く、また、あまりに勢いよく速い流速で注入すると、タンク部材内の薬液に空気が混入し易くなるという不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-68383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであり、第1の発明は前記改善すべき1つ目の点に鑑みてなされたものであって、第1の発明が解決課題とするところは、フィルタが適切に配されると共に、プライミングによって薬液リザーバ内への空気の残留を防ぎ易い、新規な構造の薬液注入器具を提供することにある。
【0009】
第2の発明は前記改善すべき2つ目の点に鑑みてなされたものであって、第2の発明が解決課題とするところは、必要な薬液リザーバの容積を確保しつつ、携行性にも優れた、新規な構造の薬液注入器具を提供することにある。
【0010】
第3の発明は前記改善すべき3つ目の点に鑑みてなされたものであって、第3の発明が解決課題とするところは、薬液リザーバへの薬液の充填作業を簡単に行うことができる、新規な構造の薬液注入器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0012】
第1の発明の第1の態様は、薬液貯留領域を有する薬液リザーバを備えていると共に、該薬液貯留領域に連通された薬液流出口を備えており、該薬液リザーバに貯留された薬液を該薬液流出口から持続的に流出させる薬液注入器具において、前記薬液貯留領域に貯留された薬液内の異物を除去するフィルタが前記薬液流出口に設けられていると共に、該薬液流出口が前記薬液リザーバの上側に位置する向きで該薬液リザーバを保持せしめる保持手段が設けられていることを特徴とする。
【0013】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、フィルタが薬液流出口に予め設けられていることから、仮にフィルタに方向性がある場合等であっても、薬液流出口に接続される注入流路の向きなどに関わらず、薬液リザーバから流出する流体を、正しく設定されたフィルタに対して確実に通過させることができる。
【0014】
さらに、保持手段によって、薬液流出口が薬液リザーバの上側に位置する向きで薬液リザーバを保持することにより、薬液リザーバ内の空気が浮力によって薬液流出口に集まることから、プライミングに際して、薬液リザーバ内の空気を薬液流出口から外部へ効率的に排出することができる。
【0015】
第1の発明の第2の態様は、前記第1の発明の第1の態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバにおける前記薬液貯留領域の上壁面が、前記薬液流出口に向けて上傾するテーパ面を含んで構成されているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、プライミングに際して、薬液リザーバ内を浮上する空気(気泡)が、テーパ面によって薬液流出口へ導かれることから、プライミングによって気泡が薬液リザーバ内に留まり難くなる。
【0017】
第1の発明の第3の態様は、前記第1の発明の第1又は第2の態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液流出口が前記薬液貯留領域への連通口において拡径されて、前記フィルタが該連通口に配設されていると共に、該連通口における該フィルタよりも上側部分と下側部分との少なくとも一方が上方に向けて小径となるテーパ形状を有しているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、薬液流出口の連通口がフィルタよりも上側と下側との少なくとも一方においてテーパ形状とされていることで、空気がフィルタや薬液流出口付近に留まり難い。
【0019】
特に、フィルタより上側部分をテーパ形状とすれば、薬液流出口の連通口が拡径されて、フィルタの配設スペースを大きく得ることができるし、また、接続されるチューブ等の外部管路に合わせて薬液流出口を小径にしつつ、フィルタの有効面積を大きく確保することも可能となる。
【0020】
第1の発明の第4の態様は、前記第1の発明の第1~第3の何れかの態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバを収容する硬質のハウジングが設けられており、前記薬液流出口が該ハウジングの上壁部を貫通して設けられていると共に、前記保持手段が平坦な支持面に載置可能な該ハウジングの下面によって構成されているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、硬質のハウジングを平坦な支持面に置くことで、ハウジングの上壁部に設けられた薬液流出口が、ハウジングに収容された薬液リザーバの上側に位置することから、ハウジングを支持面に置いた状態でプライミングを行うことによって、薬液リザーバ内の空気を効率的に排出することができる。
【0022】
第2の発明の第1の態様は、薬液貯留領域を有する薬液リザーバを備えていると共に、該薬液貯留領域に連通された薬液流出口を備えており、該薬液リザーバに貯留された薬液を該薬液流出口から持続的に流出させる薬液注入器具において、前記薬液リザーバが蛇腹構造を有しており、該薬液リザーバの前記薬液貯留領域に貯留された薬液を、該薬液リザーバの収縮によって前記薬液流出口から持続的に流出させることが可能とされている一方、該薬液リザーバの横断面が扁平な形状とされていると共に、該薬液リザーバを収容する硬質のハウジングの横断面が該薬液リザーバに対応する方向で扁平な形状とされており、該薬液リザーバが扁平な横断面形状のままで収縮可能とされていることを特徴とする。
【0023】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、ハウジングが横断面において扁平な形状とされていることで、例えば患者が衣服のポケット等に入れて携帯する場合に、ハウジングが患者を圧迫して違和感を与えたり、ポケット等を押し広げて膨らみを生じたりし難く、携帯性に優れている。
【0024】
また、ハウジングに収容された薬液リザーバも、横断面において扁平な形状とされることから、薬液注入器具の携帯性の向上を図るためにハウジングを薄くしても、薬液リザーバの容積を確保することができる。
【0025】
第2の発明の第2の態様は、前記第2の発明の第1の態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバに収縮方向の力を及ぼすばね部材が設けられていると共に、複数の該ばね部材が該薬液リザーバの横断面における長手方向に並んで並列的に設けられているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、扁平な横断面形状を有する薬液リザーバを、長手方向に傾かせることなく、複数のばね部材によって安定して収縮させることができる。
【0027】
第2の発明の第3の態様は、前記第2の発明の第1又は第2の態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバの横断面と前記ハウジングの横断面が何れも長円形状とされているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、ハウジングの角が使用者や衣服などに押し付けられるのを防ぐことができて、携帯性の更なる向上が図られる。
【0029】
第3の発明の第1の態様は、薬液貯留領域を有する薬液リザーバを備えていると共に、該薬液貯留領域に連通された薬液流出口を備えており、該薬液リザーバに貯留された薬液を該薬液流出口から持続的に流出させる薬液注入器具において、前記薬液リザーバの底部を押圧して該薬液リザーバを収縮させるプランジャが設けられて、該薬液リザーバの底部と該プランジャが分離可能とされており、且つ、該薬液リザーバを収縮状態に保持するリザーバ収縮保持手段が設けられていると共に、該プランジャから該薬液リザーバに及ぼされる押圧力を解除する押圧解除手段が設けられていることを特徴とする。
【0030】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、例えば、薬液リザーバがプランジャから離れた収縮状態に保持された状態で、薬液を薬液リザーバに充填することにより、薬液の充填に伴う薬液リザーバの伸長が、プランジャからの押圧力によって制限されず、薬液の薬液リザーバへの流入がプランジャによって妨げられ難い。それ故、薬液が薬液リザーバへスムーズに充填されると共に、薬液リザーバ内に残留する空気を少なくすることができる。
【0032】
また、本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、薬液リザーバをリザーバ収縮保持手段によって収縮状態に保持した状態で、薬液を薬液リザーバに充填することにより、薬液リザーバの伸長がプランジャからの押圧力によって制限されずに許容されることから、薬液が薬液リザーバへスムーズに充填される。しかも、薬液を大きな圧力で薬液リザーバへ充填する必要がなく、薬液リザーバ内に残留する空気を少なくすることができる。
【0033】
さらに、薬液の薬液リザーバへの充填が完了した後で、押圧解除手段によるプランジャの保持を解除すれば、薬液リザーバの底部をプランジャで押して薬液リザーバを収縮させることで、薬液を薬液流出口から流出させることができる。
【0034】
第3の発明の第の態様は、前記第3の発明の第の態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバを収容する硬質のハウジングには内側へ突出する小突起が設けられており、該薬液リザーバが該小突起に対して係止されることにより前記リザーバ収縮保持手段が構成されているものである。
【0035】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、薬液リザーバを縮めた状態でハウジングに収容することで、薬液リザーバがハウジングの内側に突出する小突起に係止されて、薬液リザーバが収縮状態に保持されることから、リザーバ収縮保持手段を簡単な構造で実現することができる。
【0036】
第3の発明の第の態様は、前記第3の発明の第の態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバが前記小突起に対して薬液の流入圧力で解除可能な力で係止されることにより前記リザーバ収縮保持手段が構成されているものである。
【0037】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、薬液リザーバに対する薬液の流入時に、薬液リザーバと小突起の係止が自動的に解除されることから、薬液リザーバの伸長を伴う薬液の流入がスムーズに実現される。
【0038】
第3の発明の第の態様は、前記第3の発明の第~第の何れかの態様に係る薬液注入器具であって、前記プランジャを収容する硬質のハウジングが設けられていると共に、該プランジャと該ハウジングの底部との間には該プランジャを前記薬液リザーバの底部に向けて付勢するばね部材が設けられており、該プランジャを該ばね部材の付勢力に抗して該薬液リザーバから離れた位置に保持可能とする前記押圧解除手段が設けられているものである。
【0039】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、プランジャから薬液リザーバの底部に及ぼされる力を、プランジャとハウジングの底部との間に配されたばね部材の弾性によって、簡単な構造で得ることができる。しかも、ばね部材の弾性力に抗してプランジャをハウジングの底部に接近させた状態で、ハウジングに設けられた押圧解除手段を、例えばプランジャに係止させるなどすれば、プランジャを薬液リザーバから離れた位置に保持することができる。
【0040】
第3の発明の第の態様は、前記第3の発明の第1~第の何れかの態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバが蛇腹構造を有しているものである。
【0041】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、薬液リザーバの伸縮を、外周形状の変化を抑えながら、大きく許容することができる。
【0042】
第3の発明の第の態様は、前記第3の発明の第1~第の何れかの態様に係る薬液注入器具であって、前記薬液リザーバの底部と前記プランジャとの間に緩衝体が配されているものである。
【0043】
本態様に従う構造とされた薬液注入器具によれば、押圧解除手段によるプランジャの保持を解除して、プランジャを薬液リザーバの底部に押し当てる際に、プランジャと薬液リザーバとの打ち当たりによる異音を、緩衝体によって低減することができる。
【発明の効果】
【0044】
第1の発明に従う構造とされた薬液注入器具によれば、薬液をフィルタを通じて安定して流出させることができると共に、プライミングを効率的に行うことができる。第2の発明に従う構造とされた薬液注入器具によれば、ハウジングと薬液リザーバを扁平形状とすることで、薬液リザーバの容積を確保しながら、優れた携帯性を実現できる。第3の発明に従う構造とされた薬液注入器具によれば、収縮状態の薬液リザーバに薬液を充填することで、薬液リザーバ内に残留する空気の量を少なくすることができると共に、薬液リザーバに対する薬液の充填が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の一実施形態としての薬液注入器具を示す斜視図。
図2図1に示す薬液注入器具の斜視断面図。
図3図1の薬液注入器具を別の断面で示す斜視断面図。
図4図1の薬液注入器具をまた別の断面で示す斜視断面図。
図5図1に示す薬液注入器具の正面図。
図6図1に示す薬液注入器具の平面図。
図7図1に示す薬液注入器具の底面図。
図8図5のVIII-VIII断面図。
図9図8のIX-IX断面図。
図10図9のX-X断面図。
図11図1に示す薬液注入器具を示す断面図であって、薬液を薬液リザーバに充填する前の状態を示す図。
図12図1に示す薬液注入器具を示す斜視断面図であって、薬液の充填が完了し、且つ薬液の患者への注入が開始される前の状態を示す図。
図13図1に示す薬液注入器具を示す断面図であって、薬液の患者への注入が完了した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0047】
図1~10には、本発明の一実施形態としての薬液注入器具10が示されている。この薬液注入器具10は、中空のハウジング12と、ハウジング12に収容される薬液リザーバ14およびアクチュエータ16を備えている。なお、以下の説明において、上下方向とは、図1中の上下方向をいう。
【0048】
ハウジング12は、硬質の合成樹脂などで形成されて、内部に収容空間18を備える中空構造とされていると共に、図10に示すように、横断面が扁平な略長円形状とされている。本実施形態のハウジング12は、図1~5や図8,9に示すように、有底長円筒状のハウジング本体20と、ハウジング本体20の上開口を塞ぐカバー部材22とを備えている。
【0049】
ハウジング本体20は、内周形状が後述する薬液リザーバ14の周壁部80の最大外周形状よりも大きくされており、薬液リザーバ14を内周へ配設可能とされている。さらに、ハウジング本体20の内側(内周面)には、図8に示すように、複数の小突起23が設けられている。この小突起23は、突出先端に向けて上下寸法が小さくなる先細形状とされており、後述する突出部102,102が乗り越えやすくなっている。さらに、ハウジング本体20の底部24には、後述するコイルスプリング108,108の下端部分に嵌め入れられる下取付筒部26,26が上向きに突出して一体形成されている。なお、本実施形態のハウジング本体20は、透明乃至は半透明とされていると共に、外周面には、図1,5に示すように、上下に複数の目盛線28が印刷や凹凸などによって形成されている。
【0050】
さらに、ハウジング本体20の底部24には、押圧解除手段としてのスライドフック30が設けられている。スライドフック30は、図2~4に示すように、ハウジング本体20の下面においてスライド操作される操作部32と、操作部32から上方へ突出するフック部34とを、一体で備えている。
【0051】
より詳細には、操作部32は、略三角板形状とされており、ハウジング本体20の下面において短軸方向へ直線的に延びる溝部36に配されて、溝部36内を短軸方向へ移動可能とされている。
【0052】
また、ハウジング本体20の溝部36には、上下に貫通するフック挿通孔38が形成されており、このフック挿通孔38にフック部34が挿通されて、フック部34がハウジング12の収容空間18に差し入れられている。フック部34は、操作部32の一部から上方へ延び出していると共に、先端部分がハウジング本体20の短軸方向に突出している。そして、操作部32が溝部36内で移動することにより、フック部34がフック挿通孔38内で短軸方向に移動するようになっている。なお、操作部32には、フック挿通孔38の開口縁部に摺動可能に係合される係合片40,40が設けられており、フック部34の基端部と係合片40,40との何れかが、フック挿通孔38の内周面に短軸方向(図7中の上下方向)で接することにより、スライドフック30のハウジング本体20に対するスライド変位量が、短軸方向の両側で制限されている。また、本実施形態では、ハウジング本体20の短軸方向に移動可能な構造のフック部34を例示したが、フック部34は、ハウジング本体20の長軸方向に移動する構造であってもよい。
【0053】
一方、カバー部材22は、全体として略長円板形状を有しており、外周部分の下面には、ハウジング本体20の開口部に嵌め入れられる嵌合突部42が、周方向で連続的に設けられている。さらに、嵌合突部42は、周方向の複数箇所が部分的に大きく突出していると共に、その下端部には外周へ突出する係止突起44が形成されている。
【0054】
さらに、カバー部材22の内周部分には、下方へ突出するリザーバ連結片46,46が一体形成されている。このリザーバ連結片46は、周方向に湾曲する湾曲板形状とされており、カバー部材22の長軸方向で対向する一対が設けられていると共に、下端部には内周(カバー部材22の長軸方向の内側)へ向けて突出する係合爪48が設けられている。なお、リザーバ連結片46,46の内周には、カバー部材22を上下に貫通するスリット50,50が、リザーバ連結片46,46に隣接して形成されている。
【0055】
さらに、カバー部材22におけるリザーバ連結片46,46よりも内周には、リザーバ接続部52が一体形成されている。リザーバ接続部52は、円筒形状とされており、シリコーンゴムなどで形成された筒状のシールリング54が外嵌されている。
【0056】
さらに、カバー部材22におけるリザーバ接続部52の内周には、シリンジ接続部56とチューブ接続部58が設けられている。シリンジ接続部56は、全体として、カバー部材22において上下に突出する有底筒状とされており、シリンジ接続部56の下部には、径方向に貫通する円形穴が形成されて、当該円形穴とシリンジ接続部56の内腔とリザーバ接続部52の内周領域とによって、カバー部材22を貫通して、後述する薬液リザーバ14の薬液貯留領域78に接続される薬液流入口60が構成されている。さらに、シリンジ接続部56の下部には、筒状の弾性体である弁体62が嵌合されており、薬液流入口60が弁体62によって塞がれている。更にまた、シリンジ接続部56の上端部には、外周へ突出するフランジ状のロック部64が一体形成されており、ロック部64の外周面に形成されたねじ山によって、後述するシリンジ118がシリンジ接続部56に接続可能とされている。
【0057】
チューブ接続部58は、略円筒形状を有して、シリンジ接続部56と並列的に設けられており、カバー部材22において上方へ突出している。さらに、チューブ接続部58の下側には、チューブ接続部58に比して大径のフィルタ収容部66が一体形成されており、このフィルタ収容部66の内周にフィルタ68が配設されている。
【0058】
フィルタ68は、多孔質体などで形成されており、薬液流出口72(後述)を通じた薬液の流出時に、薬液を濾過して異物などを捕捉するものであって、本実施形態では円板形状とされて、フィルタ収容部66に嵌め込まれた状態で接着されている。なお、フィルタ収容部66の上下中間部分に段差が設けられて、段差よりも下側が上側に比して大径とされており、フィルタ68は、外周端部が段差に重ね合わされた状態で、フィルタ収容部66の内周に配されている。
【0059】
さらに、フィルタ収容部66における上記段差よりも上側には、テーパ面70が形成されている。テーパ面70は、上方に向けて内周へ傾斜する形状とされて、フィルタ68よりも上側に設けられており、フィルタ68を通過した気泡が、テーパ面70によって、チューブ接続部58の内腔に案内されるようになっている。
【0060】
また、チューブ接続部58の内腔は、フィルタ収容部66の内腔を介して、リザーバ接続部52の内周領域に接続されており、それらチューブ接続部58の内腔と、フィルタ収容部66の内腔と、リザーバ接続部52の内周領域とによって、本実施形態の薬液流出口72が構成されている。この薬液流出口72は、カバー部材22を上下に貫通して設けられていると共に、フィルタ収容部66の内腔とリザーバ接続部52の内周領域とによって、薬液流出口72の下側の開口部である連通口74が構成されている。
【0061】
この連通口74は、リザーバ接続部52の内周領域で構成された下部が、フィルタ収容部66の内腔で構成された上部よりも大径とされており、フィルタ収容部66の周囲に位置するリザーバ接続部52の内周領域の上底面が、内周に向けて上傾するテーパ面75とされている。要するに、本実施形態では、薬液流出口72の連通口74において、フィルタ68よりも上側にテーパ面70が設けられていると共に、フィルタ68よりも下側にテーパ面75が設けられている。
【0062】
そして、カバー部材22の嵌合突部42がハウジング本体20の上開口部に嵌め入れられると共に、カバー部材22の嵌合突部42に設けられた複数の係止突起44が、ハウジング本体20の上部に貫通形成された複数の係合穴76にそれぞれ嵌め入れられて、係合穴76の内面に上下方向で係止されることにより、ハウジング本体20とカバー部材22が相互に固定されている。これにより、ハウジング12がハウジング本体20とカバー部材22によって構成されて、ハウジング12の内部には、ハウジング本体20とカバー部材22の間に収容空間18が形成されている。なお、ハウジング本体20とカバー部材22は、溶着によって固定することも可能であり、例えば、溶着だけで固定する他、上述した係止突起44と係合穴76の内面との係止による固定と、溶着による固定とを、組み合わせて採用することなどもできる。
【0063】
また、ハウジング本体20の下面は、溝部36を外れた部分が平坦な載置面77とされており、ハウジング12は、載置面77が平坦な支持面としての水平面124(後述)に重ね合わされた状態で、自立可能とされている。そして、ハウジング12の自立状態において、カバー部材22がハウジング12の上部を構成しており、薬液流出口72がハウジング12の上部に位置して、上下方向に直線的に延びている。
【0064】
また、ハウジング12は、携帯性と薬液リザーバ14の容積の確保とを両立する観点から、横断面における長軸と短軸の比(横断面のアスペクト比)が6:4~8:2の範囲とされていることが望ましく、本実施形態では7:3とされている。尤も、横断面のアスペクト比がより大きなハウジング12を採用することによって、携帯性の向上を図ることもできるし、横断面のアスペクト比がより小さなハウジング12を採用することによって、薬液リザーバ14の容積を大きく得ることもできる。
【0065】
このハウジング12の収容空間18には、薬液リザーバ14が収容されている。薬液リザーバ14は、図2~4や図8~10に示すように、横断面が扁平な略長円形状を呈する袋状とされており、内部に薬液が貯留される薬液貯留領域78を備えている。
【0066】
より詳細には、薬液リザーバ14は、周壁部80が蛇腹構造を有しており、上下方向の伸縮変形が蛇腹構造によって許容されていることから、薬液貯留領域78の容積が薬液リザーバ14の伸縮変形によって変化可能とされている。薬液貯留領域78の容積は、特に限定されないが、薬液注入器具10の携帯性などを考慮して、好適には、後述するプランジャ106が最下端に位置する状態、換言すれば、薬液を最大量まで充填した状態において、50~150mlとされる。なお、薬液リザーバ14は、周壁部80における蛇腹構造の襞の角度変化によって伸縮可能とされる一方、周壁部80の材質による伸縮性はほとんどないことが望ましい。また、薬液リザーバ14の製造方法は、特に限定されないが、例えば合成樹脂のブロー成形によって製造され得る。
【0067】
さらに、薬液リザーバ14の上底部82には、上下に貫通する連通穴84が形成されていると共に、連通穴84の開口周縁部から上方へ突出する筒状係合部86が一体形成されている。筒状係合部86は、内周へ突出する当接突部88を下部に備えていると共に、外周へ突出する係合突部90を上部に備えており、この筒状係合部86によって、薬液リザーバ14が、ハウジング12に対して、上下方向で位置決めされるようになっている。本実施形態では、薬液リザーバ14における薬液貯留領域78の上底壁面が、当接突部88の内周面を含んで構成されていると共に、当接突部88の内周面が、内周へ向けて上傾するテーパ面92とされている。
【0068】
さらに、薬液リザーバ14の底部94は、周壁部80に比して厚肉とされていると共に、下面に開口する凹所96を備えており、凹所96に対して緩衝体としてのスポンジ98が嵌め込まれている。スポンジ98は、緩衝性に優れた多孔質の発泡合成樹脂などで形成されて、長円板状とされており、上部が凹所96に差し入れられて接着されていると共に、下部が凹所96から突出して薬液リザーバ14の底部94よりも下側に位置している。なお、凹所96の周壁は、薬液リザーバ14の周壁部80よりも内周側に位置しており、薬液リザーバ14の収縮状態において凹所96の周壁が、折り畳まれた薬液リザーバ14の周壁部80に対して、内周へ差し入れられるようになっている。
【0069】
更にまた、凹所96の底壁部には、上方へ突出する押出突部100が設けられている。この押出突部100は、薬液リザーバ14の上底部82に設けられた連通穴84と上下に対応する位置に設けられており、薬液リザーバ14の収縮状態において連通穴84から筒状係合部86の内周へ差し入れられるようになっている。
【0070】
更にまた、薬液リザーバ14の底部94には、外周へ突出する突出部102,102が設けられている。突出部102は、薬液リザーバ14の短軸方向(図8の左右方向)の両側に突出しており、周壁部80の収縮状態での最外周端よりも外周まで突出している。
【0071】
そして、薬液リザーバ14は、ハウジング本体20の内周に差し入れられていると共に、薬液リザーバ14の係合突部90が、カバー部材22のリザーバ連結片46の係合爪48に上下方向で係止されていることにより、カバー部材22に吊り下げられた状態で、ハウジング12の収容空間18に配されている。ハウジング12は、図10に示すように、収容空間18に配された薬液リザーバ14に対応する方向で扁平な形状とされて、それらハウジング12と薬液リザーバ14の長軸方向が互いに同じ方向(図10中の左右方向)とされている。さらに、本実施形態では、ハウジング本体20の内周面と薬液リザーバ14の周壁部80との隙間が、全周に亘って略一定とされている。
【0072】
また、薬液リザーバ14の当接突部88が、カバー部材22のリザーバ接続部52に上下方向で接していることによって、薬液リザーバ14のカバー部材22に対する上側への変位が制限されており、係合突部90と係合爪48の係止が解除され難くなっている。
【0073】
さらに、薬液リザーバ14の筒状係合部86とカバー部材22のリザーバ接続部52との間でシールリング54が径方向に圧縮されていることにより、筒状係合部86とリザーバ接続部52との間が液密にシールされている。これによって、薬液リザーバ14の薬液貯留領域78とリザーバ接続部52の内周領域が外部から流体密に隔てられた状態で接続されており、リザーバ接続部52の内周領域を含んで構成された薬液流入口60と薬液流出口72が、薬液貯留領域78に連通されている。
【0074】
なお、薬液リザーバ14がカバー部材22に取り付けられた状態において、薬液リザーバ14に設けられたテーパ面92の内周縁は、カバー部材22に設けられたリザーバ接続部52の内周面に対して、径方向で略同じ位置とされており、テーパ面92に接する気泡が、薬液流出口72に導かれ易くなっている。
【0075】
一方、ハウジング12の収容空間18において、薬液リザーバ14よりも下側には、アクチュエータ16が配されている。アクチュエータ16は、薬液リザーバ14の底部94に重ね合わされるプランジャ106と、プランジャ106を上向きに付勢するばね部材としてのコイルスプリング108とを、備えている。
【0076】
プランジャ106は、薬液リザーバ14の底部94に対して、外周部分において直接重ね合わされていると共に、内周部分においてスポンジ98を挟んで間接的に重ね合わされている。そして、プランジャ106が上下に変位することで、薬液リザーバ14の底部94の位置が周壁部80の変形を伴って変化するようになっている。なお、プランジャ106の外周面には、周方向に延びる標示線110が印刷や粘着テープなどで形成されている。
【0077】
さらに、プランジャ106は、全体として上下逆向きの有底筒状とされており、上底部の外周縁から下向きに長円筒状のガイド筒部112が延び出した構造とされている。更にまた、プランジャ106の上底部には、コイルスプリング108の上端部分に嵌め入れられる上取付筒部114が、プランジャ106の横断面における長手方向(長軸方向)に2つ並んで設けられている。
【0078】
上取付筒部114は、ハウジング本体20の底部24に設けられた下取付筒部26に対して、上下方向で対応する位置で、且つ上下に離れて配置されている。また、ガイド筒部112は、上取付筒部114に対して外周へ離れた位置に設けられており、上取付筒部114よりも上下寸法が大きくされている。
【0079】
また、プランジャ106における長軸方向の中央部分には、図3,4に示すように、押圧解除手段を構成するフック係止部116が設けられている。フック係止部116は、プランジャ106が最も下側に位置する状態で、ハウジング本体20に取り付けられたスライドフック30のフック部34に対して、上下方向で係止可能とされている。そして、フック係止部116とフック部34の係止によって、プランジャ106の上方への変位が阻止されて、プランジャ106が下端位置に保持されるようになっている。
【0080】
また、プランジャ106とハウジング本体20の底部24との上下間には、図2,8に示すように、コイルスプリング108が配設されている。コイルスプリング108は、プランジャ106の上取付筒部114が上端部に嵌め入れられていると共に、ハウジング本体20の下取付筒部26が下端部に嵌め入れられていることにより、上下両端部がプランジャ106とハウジング本体20の各一方に連結されている。本実施形態では、2つのコイルスプリング108が、薬液リザーバ14の横断面における長手方向(長軸方向)、即ち、プランジャ106の横断面における長手方向に並んで、並列的に設けられている。
【0081】
さらに、コイルスプリング108の上部は、ガイド筒部112の内周に差し入れられており、コイルスプリング108とハウジング本体20の周壁部80との間にガイド筒部112が介在している。
【0082】
なお、図2~4,8,9には、コイルスプリング108が収縮せしめられていると共に、フック部34とフック係止部116の係止が解除された状態が示されている。かかる状態では、プランジャ106が、コイルスプリング108の弾性によって、薬液リザーバ14の底部94に向けて上向きに付勢されており、プランジャ106が薬液リザーバ14の底部94に対して下方から押し付けられる。そして、コイルスプリング108が、プランジャ106を介して、薬液リザーバ14に収縮方向の力を及ぼしており、プランジャ106が薬液リザーバ14の底部94を押圧することで、薬液を収容した薬液リザーバ14の薬液貯留領域78が、コイルスプリング108の弾性に基づいて加圧されている。
【0083】
加えて、図2~4,8,9において接触している薬液リザーバ14の底部94とプランジャ106は、相互に固定されることなく重ね合わされており、それら薬液リザーバ14の底部94とプランジャ106は、上下方向で相互に分離可能とされている。
【0084】
かくの如き構造とされた薬液注入器具10は、薬液リザーバ14に薬液が注入されていない状態で提供されることから、先ず、空の薬液リザーバ14に薬液が注入される。
【0085】
すなわち、薬液を注入する前の薬液注入器具10は、図11に示すように、薬液リザーバ14が最も収縮した状態に保持されている。本実施形態では、薬液リザーバ14の底部94に設けられた突出部102,102が、ハウジング12の内周面に突出する複数の小突起23に対して、上下方向で係止されることによって、薬液リザーバ14の底部94がハウジング12に対して位置決めされており、薬液リザーバ14が収縮状態に保持されている。このように、薬液リザーバ14を収縮状態に保持するリザーバ収縮保持手段は、底部94を構成する突出部102,102が、複数の小突起23に係止されることで構成されている。尤も、小突起23は必須ではなく、例えば、突出部102,102とハウジング12の内周面との摩擦抵抗によって、薬液リザーバ14を収縮状態に保持する保持力を確保してもよい。また、小突起23の具体的な形状は、特に限定されず、例えば薄肉の可撓片とされていてもよい。さらに、本実施形態では、小突起23がハウジング本体20に一体形成されて硬質とされているが、例えば、ゴムや樹脂エラストマなどで形成された弾性変形可能な小突起23を採用することもできる。
【0086】
なお、突出部102,102は、薬液リザーバ14に薬液を充填する際に、薬液の流入時に作用する圧力(流入圧力)によって解除される程度の小さな保持力で、複数の小突起23に係止されている。本実施形態では、突出部102,102と複数の小突起23との係止代や、突出部102,102の先端角部の傾斜、小突起23の上下面の傾斜などによって、薬液リザーバ14を収縮状態に保持する保持力が調節されている。また、小突起23を可撓片とする場合や弾性材料で形成する場合には、小突起23のばね定数によって保持力を調節することもできる。
【0087】
さらに、アクチュエータ16のプランジャ106は、薬液リザーバ14の底部94に対して下方に離れている。即ち、プランジャ106が最下端まで押し下げられて、コイルスプリング108が圧縮された状態で、スライドフック30の操作部32を短軸方向(図7の上下方向)に変位させることにより、ハウジング12のスライドフック30のフック部34が、プランジャ106のフック係止部116に係止される。これにより、プランジャ106が、ハウジング12に対して上方へ変位不能とされて、コイルスプリング108の付勢力に抗して最下端に保持されることから、収縮状態とされた薬液リザーバ14の底部94に対して、プランジャ106が下方に離れた位置に保持されており、薬液リザーバ14にはプランジャ106からの押圧力が作用していない。このように、本実施形態では、プランジャ106から薬液リザーバ14に及ぼされる押圧力を解除する押圧解除手段が、フック部34とフック係止部116の係止によって構成される。
【0088】
そして、薬液リザーバ14とアクチュエータ16がそれぞれ収縮した状態で、ハウジング12のシリンジ接続部56にシリンジ118を接続し、シリンジ118から薬液リザーバ14へ薬液を注入する。なお、薬液リザーバ14への薬液の注入時には、チューブ接続部58に接続されたチューブ120が、図示しないクランプによって遮断されて、薬液流出口72からの薬液の流出が阻止される。また、シリンジ118から薬液を注入する際には、シリンジ接続部56に外挿された弁体62が薬液の注入圧によって押し広げられることから、薬液流入口60の弁体62による遮断が解除される。
【0089】
シリンジ118から薬液リザーバ14へ薬液が流入すると、薬液リザーバ14の突出部102,102とハウジング12の小突起23との係止は、薬液の流入圧によって自動的に解除される。その結果、薬液リザーバ14が薬液の流入量に応じて伸長して、薬液貯留領域78の容積が拡大することから、薬液を小さな抵抗でスムーズに注入することができると共に、収縮状態とされた薬液リザーバ14内の初期の空気量が少ないことから、薬液の注入後に薬液貯留領域78に残留する空気の量を少なくすることができる。
【0090】
しかも、アクチュエータ16のプランジャ106が、ハウジング12に対して、スライドフック30で位置決め保持されていることにより、薬液リザーバ14の伸長がコイルスプリング108の弾性によって妨げられることがなく、薬液を小さな圧力で容易に注入することができる。
【0091】
次に、図12に示す薬液の薬液リザーバ14への充填が完了した状態において、ハウジング12のスライドフック30を短軸方向(図8中の左右方向)にスライドさせて、スライドフック30のフック部34とプランジャ106のフック係止部116との係止を解除する。なお、スライドフック30の操作部32は、図8に示すように、側面視で略直角三角形とされて、短軸方向の一方に向けて厚肉となっており、斜辺部分を押すことで、フック部34とフック係止部116の係止を解除する方向へ容易にスライドさせることができる。特に本実施形態では、操作部32の斜辺部分に滑り止めの突起が設けられて、操作し易くなっている。一方、フック部34とフック係止部116の係止が解除されたスライド変位後の状態では、操作部32の厚肉側の端部が溝部36の壁面に接近していることから、操作部32と溝部36の間に指を差し入れて、操作部32をスライド変位前の位置へ移動させることが難しくなっており、誤って再使用されないようになっている。
【0092】
このようにして、フック部34とフック係止部116の係止が解除されることにより、図2~4,8,9に示すように、底部94に対してプランジャ106が押し当てられて、薬液リザーバ14がコイルスプリング108の弾性に基づいて加圧される。本実施形態では、薬液リザーバ14の底部94とプランジャ106の間にスポンジ98が配されていることから、フック部34とフック係止部116の係止を解除する際に、底部94とプランジャ106の打ち当たりによる異音が低減される。
【0093】
なお、薬液リザーバ14内の加圧によって、弁体62がシリンジ接続部56の外周面に押し付けられて、薬液流入口60が遮断状態とされることから、薬液の薬液流入口60への逆流は生じない。このように、弁体62は、薬液流入口60において、薬液リザーバ14に対する薬液の流入を許容すると共に、薬液リザーバ14からの薬液の流出を阻止する一方向弁として機能する。
【0094】
さらに、チューブ接続部58に接続されたチューブ120の図示しないクランプによる遮断を解除する。このチューブ120は、一端がチューブ接続部58に接続されると共に、他端には留置針などに接続される図示しないコネクタが設けられている。クランプによるチューブ120の遮断を解除することで、加圧された薬液リザーバ14内に貯留されている薬液が、薬液流出口72からチューブ120の内腔へ流出して、コネクタの開口から外部へ流出する。これにより、薬液リザーバ14内とチューブ120を含む注入ライン122内の空気が、コネクタから外部へ排出されて、プライミングが完了する。
【0095】
本実施形態の薬液注入器具10は、ハウジング12を水平面124上に自立状態で載置することによって、薬液流出口72が薬液リザーバ14の上側に位置する向きで、薬液リザーバ14を保持することが可能とされている。それ故、薬液注入器具10を水平面124に載置した状態でプライミングを行うことにより、薬液リザーバ14内の空気を薬液流出口72側に集めて、空気を薬液流出口72から外部へ排出することができる。なお、本実施形態の保持手段は、水平面124に載置可能とされたハウジング12の載置面77によって構成されており、特に載置面77が水平面124に対応する水平な平面とされていることで構成されている。
【0096】
特に本実施形態では、薬液リザーバ14における連通穴84の周囲がテーパ面92とされていることから、薬液リザーバ14内の空気がテーパ面92によって薬液流出口72へ導かれ易くなっている。さらに、カバー部材22におけるフィルタ収容部66の下開口の周囲がテーパ面75とされていることによって、連通穴84から筒状係合部86の内周へ入った空気が、テーパ面75によって注入ライン122へ導かれ易くなっている。これらによって、プライミングに際して、薬液リザーバ14内の空気が、より効率的に排出される。
【0097】
プライミングが完了した後、チューブ120に接続された図示しないコネクタを、患者の体内管腔(血管など)に留置された図示しない留置針に接続して、薬液の患者への投与を開始する。
【0098】
薬液流出口72には、フィルタ68が配されていることから、薬液貯留領域78から薬液流出口72へ押し出された薬液は、必ずフィルタ68を通過して異物を除去された後、注入ライン122を通じて患者に投与されるようになっており、投与される薬液において異物の混入が防止されている。なお、チューブ接続部58と留置針とを繋いで、薬液を薬液リザーバ14から患者の体内へ注入する注入ライン122は、チューブ120やコネクタの他に、例えば、図示しない流量制御部やクランプ、PCA装置などを備えていてもよい。
【0099】
さらに、薬液流出口72の連通口74におけるフィルタ68よりも上側(患者側)が、傾斜形状のテーパ面70を備えており、連通口74よりも上側において薬液流出口72の横断面積が小さくなっている。これにより、薬液流出口72内において段差による空気の残留を防ぎながら、フィルタ68を通過する薬液の流速が小さくされており、薬液がフィルタ68をゆっくりと通過することで、異物除去性能の向上が図られている。
【0100】
さらに、薬液流出口72の連通口74におけるフィルタ68よりも下側(薬液リザーバ側)が、傾斜形状のテーパ面75を備えており、薬液リザーバ14の薬液貯留領域78から薬液流出口72に入った空気が、フィルタ収容部66の内周へ案内されることによって、リザーバ接続部52の内周領域に残留し難くなっている。
【0101】
また、薬液は、注入ライン122の流通抵抗などによって、単位時間当たりの流量(流速)が設定されており、薬液リザーバ14の底部94が、コイルスプリング108の弾性によってプランジャ106で上向きに押されても、薬液リザーバ14が一度に大きく収縮することはない。すなわち、プランジャ106で加圧された薬液リザーバ14が、蛇腹の変形によって上下方向で少しずつ収縮すると共に、薬液が、薬液リザーバ14の収縮によって、薬液貯留領域78から薬液流出口72へ少量ずつ持続的に流出する。そして、薬液流出口72から注入ライン122へ流出した薬液は、注入ライン122に接続された図示しない留置針を通じて、患者の体内へ持続的に所定量ずつ注入される。
【0102】
本実施形態では、プランジャ106の外周面に標示線110が設けられていると共に、透明乃至は半透明とされたハウジング12の周壁に目盛線28が設けられており、それら標示線110と目盛線28によって、薬液リザーバ14内の薬液の残量や注入完了までの時間などを、外部から把握することが可能とされている。特に本実施形態では、薬液リザーバ14が蛇腹構造とされて、薬液リザーバ14の変形態様が一様とされていると共に、薬液リザーバ14の軸直角方向の形状変化が抑えられていることから、標示線110と目盛線28による薬液リザーバ14内の薬液の残量や注入完了までの時間などの把握を、より精度よく実現することができる。
【0103】
薬液注入器具10は、長時間に亘って薬液を持続的に注入するために、例えば患者の衣服のポケットなどに入れられて携行されてもよい。本実施形態の薬液注入器具10は、ハウジング12が扁平な横断面形状を有していることから、衣服の胸ポケット等に入れて持ち運ぶ際に嵩張らず、ポケット部分の突っ張りや突出などが低減される。それ故、薬液注入器具10は、従来の円形断面のものに比べて携行し易く、長時間の使用に適している。特に、本実施形態のハウジング12は、横断面形状が略長円形とされていることから、角部での突っ張りや突出が問題になり難く、より携帯し易い。
【0104】
しかも、薬液リザーバ14が扁平な横断面形状を有していることにより、ハウジング12の扁平な横断面形状を許容しながら、薬液貯留領域78の容積を十分に大きく得ることも可能とされている。加えて、薬液リザーバ14が袋状とされていることから、薬液リザーバ14の横断面形状に関係なく薬液貯留領域78の外部に対する流体密性を確保することができる。
【0105】
さらに、プランジャ106も薬液リザーバ14に対応する扁平な横断面形状を有しているが、プランジャ106の長手方向に並んで2つのコイルスプリング108,108が配されていることによって、プランジャ106の傾きが生じ難くなっている。本実施形態では、プランジャ106の外周端部に設けられたガイド筒部112によっても、プランジャ106のハウジング12に対する傾きが制限されている。
【0106】
最後に、図13に示すように、薬液リザーバ14が薬液を充填する前の状態まで収縮して、薬液の患者への注入が完了すると、図示しないコネクタを留置針から取り外す。使用済みの注入ライン122と薬液注入器具10は、洗浄して再使用することも可能であるが、衛生面を考慮して廃棄されることが望ましい。要するに、本実施形態の薬液注入器具10は、使い捨てタイプとされている。
【0107】
なお、図13に示す薬液リザーバ14の収縮状態において、薬液リザーバ14の底部94に設けられた押出突部100は、薬液リザーバ14の連通穴84を通じてカバー部材22の筒状係合部86に差し入れられる。これにより、薬液の注入完了後に、筒状係合部86の内周に残る薬液の量が少なくされている。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0109】
たとえば、前記実施形態では、フィルタ68が薬液流出口72の薬液貯留領域78への連通口74に配された例を示したが、フィルタ68は、チューブ接続部58の内周に設けられてもよい。
【0110】
また、前記実施形態では、薬液リザーバ14を特定の向きに保持する保持手段が、平坦な水平面124に載置可能とされたハウジング12の平坦な下面によって構成されていたが、例えば、ハウジング12の下面において、周方向の複数箇所で下方へ突出する突起が設けられて、それら突起によってハウジング12が水平面124に載置可能とされることによっても、保持手段が構成され得る。これによれば、必ずしも平坦ではない支持面に対してもハウジング12を安定して載置することが可能となる。さらに、ハウジング12を支持面に載置可能とする別体のスタンドによって、保持手段を構成することも可能である。また、例えば、ハウジング12を壁面などに掛けた状態で特定の向きに保持するフックを設けることにより、薬液リザーバ14を特定の向きに保持することなども可能である。
【0111】
また、ハウジング12,薬液リザーバ14,プランジャ106は、何れも互いに対応する方向で扁平な横断面形状であることが望ましいが、必ずしも長円形の横断面には限定されず、例えば、横断面形状は長方形などの扁平多角形とされ得る。さらに、ハウジング12,薬液リザーバ14,プランジャ106は、軸直角方向の外寸が周方向で変化する平たい形状であれば、最大外寸と最小外寸は適宜に設定され得る。更にまた、扁平な形状を有するハウジング12,薬液リザーバ14,プランジャ106の横断面形状は、前記実施形態に示す長円形の横断面のような長軸と短軸を有する形状であってもよいし、明確な長軸と短軸を有していない形状(扁平な異形など)であってもよい。また、ハウジング12と薬液リザーバ14は、互いに対応する横断面形状ではなくてもよく、例えば、長円形横断面のハウジングと長方形横断面の薬液リザーバを組み合わせることもできる。このことは、ハウジングとプランジャ、或いは、薬液リザーバとプランジャの横断面形状についても、同様である。
【0112】
さらに、前記実施形態では、扁平な横断面形状のプランジャ106が傾くのを防ぐために、複数のコイルスプリング108が、プランジャ106の長手方向に並んで配されていたが、コイルスプリング108はプランジャ106の中央部分に1つだけが配されていてもよい。なお、コイルスプリング108を1つにする場合には、一般的な円筒状のものであってもよいが、例えば、長円筒状とすることで、プランジャ106の安定した変位を実現し易くなる。
【0113】
更にまた、ばね部材は、前記実施形態で例示したコイルスプリング108に限定されるものではなく、例えば、板ばねや空気圧による空気ばねなどを採用することもできる。
【0114】
また、押圧解除手段は、前記実施形態に示したスライドフック30による係止に限定されない。例えば、ハウジング12の周壁を貫通する孔にピンを挿通可能として、当該孔に挿通されたピンをプランジャ106の上面に係止させることで、プランジャ106を最下端に保持可能とすると共に、ピンを孔から抜くことで、プランジャ106とピンの係止を解除して、コイルスプリング108の弾性力が薬液リザーバ14におよぼされるようにしてもよい。
【0115】
さらに、リザーバ収縮保持手段は、前記実施形態に示した突出部102,102と小突起23の係止によるものに限定されず、例えば、上述した押圧解除手段の別態様と同様に、ハウジングの周壁に対して抜差可能とされたピンによって、薬液リザーバ14の収縮状態での保持とその解除を切替可能にできる。また、例えば、リザーバ収縮保持手段として、薬液の流入圧で収縮する程度のばね定数が小さなコイルスプリングを、ばね部材とは別に設けてもよい。
【0116】
前記実施形態では、薬液注入器具10が薬液を充填されていない空の状態で提供されて、使用前に薬液を充填する場合について説明したが、薬液を予め充填した状態の薬液注入器具を提供することもできる。この場合には、使用前に薬液が薬液流出口72からこぼれないように、薬液流出口72が栓などで塞がれる。
また、本発明は、もともと以下(i)~(vii)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) 薬液貯留領域を有する薬液リザーバを備えていると共に、該薬液貯留領域に連通された薬液流出口を備えており、該薬液リザーバに貯留された薬液を該薬液流出口から持続的に流出させる薬液注入器具において、
前記薬液リザーバの底部を押圧して該薬液リザーバを収縮させるプランジャが設けられて、該薬液リザーバの底部と該プランジャが分離可能とされていることを特徴とする薬液注入器具、
(ii) 前記薬液リザーバを収縮状態に保持するリザーバ収縮保持手段が設けられていると共に、前記プランジャから該薬液リザーバに及ぼされる押圧力を解除する押圧解除手段が設けられている(i)に記載の薬液注入器具、
(iii) 前記薬液リザーバを収容する硬質のハウジングには内側へ突出する小突起が設けられており、該薬液リザーバが該小突起に対して係止されることにより前記リザーバ収縮保持手段が構成されている(ii)に記載の薬液注入器具、
(iv) 前記薬液リザーバが前記小突起に対して薬液の流入圧力で解除可能な力で係止されることにより前記リザーバ収縮保持手段が構成されている(iii)に記載の薬液注入器具、
(v) 前記プランジャを収容する硬質のハウジングが設けられていると共に、該プランジャと該ハウジングの底部との間には該プランジャを前記薬液リザーバの底部に向けて付勢するばね部材が設けられており、該プランジャを該ばね部材の付勢力に抗して該薬液リザーバから離れた位置に保持可能とする前記押圧解除手段が設けられている(ii)~(iv)の何れか1項に記載の薬液注入器具、
(vi) 前記薬液リザーバが蛇腹構造を有している(i)~(v)の何れか1項に記載の薬液注入器具、
(vii) 前記薬液リザーバの底部と前記プランジャとの間に緩衝体が配されている請求項(i)~(vi)の何れか1項に記載の薬液注入器具、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、例えば、薬液リザーバがプランジャから離れた収縮状態に保持された状態で、薬液を薬液リザーバに充填することにより、薬液の充填に伴う薬液リザーバの伸長が、プランジャからの押圧力によって制限されず、薬液の薬液リザーバへの流入がプランジャによって妨げられ難い。それ故、薬液が薬液リザーバへスムーズに充填されると共に、薬液リザーバ内に残留する空気を少なくすることができる。
上記(ii)に記載の発明では、薬液リザーバをリザーバ収縮保持手段によって収縮状態に保持した状態で、薬液を薬液リザーバに充填することにより、薬液リザーバの伸長がプランジャからの押圧力によって制限されずに許容されることから、薬液が薬液リザーバへスムーズに充填される。しかも、薬液を大きな圧力で薬液リザーバへ充填する必要がなく、薬液リザーバ内に残留する空気を少なくすることができる。さらに、薬液の薬液リザーバへの充填が完了した後で、押圧解除手段によるプランジャの保持を解除すれば、薬液リザーバの底部をプランジャで押して薬液リザーバを収縮させることで、薬液を薬液流出口から流出させることができる。
上記(iii)に記載の発明では、薬液リザーバを縮めた状態でハウジングに収容することで、薬液リザーバがハウジングの内側に突出する小突起に係止されて、薬液リザーバが収縮状態に保持されることから、リザーバ収縮保持手段を簡単な構造で実現することができる。
上記(iv)に記載の発明では、薬液リザーバに対する薬液の流入時に、薬液リザーバと小突起の係止が自動的に解除されることから、薬液リザーバの伸長を伴う薬液の流入がスムーズに実現される。
上記(v)に記載の発明では、プランジャから薬液リザーバの底部に及ぼされる力を、プランジャとハウジングの底部との間に配されたばね部材の弾性によって、簡単な構造で得ることができる。しかも、ばね部材の弾性力に抗してプランジャをハウジングの底部に接近させた状態で、ハウジングに設けられた押圧解除手段を、例えばプランジャに係止させるなどすれば、プランジャを薬液リザーバから離れた位置に保持することができる。
上記(vi)に記載の発明では、薬液リザーバの伸縮を、外周形状の変化を抑えながら、大きく許容することができる。
上記(vii)に記載の発明では、押圧解除手段によるプランジャの保持を解除して、プランジャを薬液リザーバの底部に押し当てる際に、プランジャと薬液リザーバとの打ち当たりによる異音を、緩衝体によって低減することができる。
【符号の説明】
【0117】
10:薬液注入器具、12:ハウジング、14:薬液リザーバ、23:小突起(リザーバ収縮保持手段)、30:スライドフック(押圧解除手段)、68:フィルタ、70:テーパ面、72:薬液流出口、74:連通口、75:テーパ面、77:下面(保持手段)、78:薬液貯留領域、92:テーパ面、94:底部、98:スポンジ(緩衝体)、102:突出部(リザーバ収縮保持手段)、106:プランジャ、108:コイルスプリング(ばね部材)、116:係止部(押圧解除手段)、124:水平面(支持面)
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