(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】バイオ電池及びこれを用いた通電パッチ
(51)【国際特許分類】
A61N 1/30 20060101AFI20240408BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61N1/30
A61M37/00 510
(21)【出願番号】P 2020012024
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390001487
【氏名又は名称】サンアロー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】西澤 松彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昭太郎
(72)【発明者】
【氏名】小松原 椋
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-41592(JP,B1)
【文献】特開2014-207987(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61N 1/00 ― 1/44
H01M 4/00 ― 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極であるアノードと、
電極であるカソードと、
前記アノードに接して配置された第1の吸水体と、
前記カソードに接して配置された第2の吸水体と、
を含んで構成されたバイオ電池であって、
前記第1の吸水体は、気泡を有するスポンジと、電解質からなる緩衝剤と、前記バイオ電池の燃料となる有機物とを有し、前記気泡の内壁面に前記緩衝剤の固体が露出されており、
前記第2の吸水体は、気泡を有するスポンジと、電解質からなる緩衝剤とを有し、前記気泡の内壁面に前記緩衝剤の固体が露出されて
おり、
前記第1の吸水体が吸水して前記電解質が水に溶解して第1の電解液を生じ、かつ、前記第2の吸水体が吸水して前記電解質が水に溶解して第2の電解液を生じ、かつ、前記第1の吸水体と前記第2の吸水体とを含むイオン移動経路が形成されると、通電を開始することを特徴とする
バイオ電池。
【請求項2】
前記スポンジがポリウレタンスポンジであることを特徴とする請求項
1に記載の
バイオ電池。
【請求項3】
前記アノードが前記有機物の酸化反応を触媒する酵素を担持し、
前記カソードが還元反応を触媒する酵素を担持することを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオ電池。
【請求項4】
生体組織に通電する通電パッチであって、
請求項1~3のいずれか1項に記載の
バイオ電池を備え、前記バイオ電池により前記生体組織に通電することを特徴とする通電パッチ。
【請求項5】
前記吸水体に
接合されているポーラスマイクロニードル
を備えることを特徴とする請求項
4に記載の通電パッチ。
【請求項6】
前記アノードに接して配置された感水紙を備え、前記感水紙は、前記第1の吸水体が吸水して湿潤状態になったことを前記感水紙の変色により
示すことを特徴とする請求項
4又は5に記載の通電パッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ電池及びこれを用いた通電パッチに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚を通した微小電流が引き起こすイオントフォレシスは、皮膚下への水分や薬剤の輸送を促進する効果を有する。このため、イオントフォレシスは、病院や美容・育毛クリニックなどにおいて、リドカインなどの鎮痛剤をはじめとする各種薬剤の経皮投与や、美白成分や育毛成分の浸透などに広く利用されてきた。このような経皮輸送の促進効果以外にも、経皮通電には、しわ取り、制汗、疼痛の緩和、眼精疲労の緩和、さらに、広くマッサージ効果が認められ始めている。このため、経皮通電は、イオンシステムである生体への効果的なアプローチ技術として期待が高まっている。
【0003】
さらに、これまでの経皮通電治療は、外部電源が必要であるために通院やベットサイドでの利用に限られていた。しかし、小型・軽量な電池の搭載によって携帯型さらにパッチ型の経皮通電治療装置が提案され、湿布などのように日常生活の中で用いるパーソナルツールとして多様な分野で普及が進み始めようとしている(例えば、非特許文献1、2参照)。非特許文献2には、ヒト及び無毛マウスの皮膚に通電すると、組織液に含まれるカチオンの電気浸透流がアノードからカソードに向かって生じることが記載されている。組織液の分析は、健康検査に利用することができる。
【0004】
今回の発明は、電池を搭載した経皮通電パッチ、特に酵素を電極触媒に用いるバイオ電池が組み込まれたパッチへの「給水による起動」に関するものである。バイオ電池については、例えば、非特許文献3に記載されている。バイオ電池は、有機物のみで構成される安全な使い捨てパッチを実現すると期待されている(例えば、非特許文献4参照)。しかし、バイオ電池は、湿った状態では酵素が劣化し易いため、乾燥状態で保管(販売)され、使用時に水分を供給して起動する必要がある(例えば、特許文献1参照)。なお、非特許文献5には、酵素電極の作製方法が記載されている。特許文献2及び非特許文献6には、多孔質(ポーラス)マイクロニードルの作製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6377385号公報
【文献】特開2017-724号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Luca Lipani et al.,“Non-invasive,transdermal,path-selective and specific glucose monitoring via a graphene-based platform”,Nature Nanotechnology,2018年,第13巻,p.504-511
【文献】Michael J.Pikal,“The role of electroosmotic flow in transdermal iontophoresis”,Advanced Drug Delivery Reviews,2001年,第46巻,p.281-305
【文献】Carla Gonzalez-Solino et al.,“Enzymatic Fuel Cells:Towards Self-Powered Implantable and Wearable Diagnostics”,Biosensors,2018年、第8巻、第11号、p.1-18
【文献】Yudai Ogawa et al.“Organic Transdermal Iontophoresis Patch with Built-in Biofuel Cell”,Advanced Healthcare Materials,2015年,第4号,p.506-510
【文献】Yudai Ogawa et al.,“Stretchable biofuel cell with enzyme-modified conductive textiles”,Biosensors and Bioelectronics,2015年、第74巻,p.947-952
【文献】Liming Liu et al.“Porous polymer microneedles with interconnecting microchannels for rapid fluid transport”,RSC Advances,2016年,第6巻,p.48630-48635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池を搭載した通電パッチは、貼付性能を確保するために柔軟な薄いシート形状である。このため、通電パッチの内部構造が複雑になる傾向がある。特に、高電圧化のための直列繋ぎを通電パッチ上で実現する際などには、3次元の給水経路が通電パッチの内部に形成される。通電パッチの複雑な内部構造・3次元構造の隅々まで水分を行き渡らせる給水は容易でない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、通電パッチの内部に吸水経路を容易に形成することが可能な吸水体及びこれを用いた通電パッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の通電パッチは、タンクを構成する吸水体の吸水性によって、バイオ電池への給水が速やかに行われる。例えば、バイオ電池の内部で電解質(緩衝剤)と燃料を含む均一な水溶液のタンクが形成されることによって、簡便な操作で速やかに起動する。
【0010】
通電パッチに使用される吸水体は、乾燥状態で長期間安定に保管することができ、使用直前にユーザーによって給水される。通電パッチは、内部の3次元構造の給水経路の隅々まで速やかに行き渡る水によって、予め給水材に複合化してある電解質(緩衝剤)と燃料を含む水溶液に満たされたタンクが形成される。このため、通電パッチの速やかな起動が可能である。給水方法は、吸水体に水滴を垂らす、もしくは吸水体を皿などに溜めた水に曝す、などユーザーが気楽に実行できる簡便な操作である。給水が完了して通電の準備が整ったことが感水紙の色で容易に判断することができる。
【0011】
本発明の第1の態様は、気泡を有するスポンジと、電解質からなる緩衝剤とを有し、前記気泡の内壁面に前記緩衝剤の固体が露出されていることを特徴とする吸水体である。
前記吸水体が、バイオ電池の燃料となる有機物を含有する構成としてもよい。
前記スポンジがポリウレタンスポンジである構成としてもよい。
【0012】
本発明の第2の態様は、前記吸水体を通して給水されることを特徴とする通電パッチである。
前記通電パッチは、酵素電極を1種類以上利用するバイオ電池で駆動される構成としてもよい。
前記バイオ電池は、前記吸水体への給水によって通電が開始する構成としてもよい。
前記吸水体にポーラスマイクロニードルが接合されている構成としてもよい。
前記通電パッチは、給水完了が感水紙の変色により確認される構成としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通電パッチの内部に吸水経路を容易に形成することが可能な吸水体及びこれを用いた通電パッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】通電パッチの使用状態を例示する斜視図である。
【
図4】実施形態の通電パッチの内部構造を示す断面図である。
【
図5】実施例の通電パッチの(a)表面及び(b)裏面を示す図面代用写真である。
【
図6】スポンジの吸水性の評価方法として、(a)吸水させる状態、及び(b)吸水後の状態を示す斜視図である。
【
図7】スポンジの吸水性の評価結果として、(a)吸水させる水、(b)吸水前の状態、及び(c)吸水後の状態を例示する図面代用写真である。
【
図8】通電パッチの吸水チェック窓において、(a)吸水前の状態、及び(b)吸水後の状態を例示する図面代用写真である。
【
図9】吸水体の製造方法及び使用方法として、(a)スポンジ、(b)溶液を湿潤させたスポンジ、(c)乾燥させた吸水体、(d)給水された吸水体を示す側面図である。
【
図10】吸水体の吸水速度の測定方法として、(a)スポンジ、(b)吸水体、(c)吸水体に給水した状態を例示する図面代用写真である。
【
図11】(a)吸水体を用いたバイオ電池、(b)バイオ電池の吸水体に給水した状態、(c)バイオ電池が起動した状態を示す模式図である。
【
図12】吸水体を用いたバイオ電池の起動特性を例示するグラフである。
【
図13】吸水体に含まれる燃料の量を変えてバイオ電池の発電性能を測定したグラフである。
【
図14】吸水体に含まれる緩衝剤の量を変えてバイオ電池の発電性能を測定したグラフである。
【
図15】3次元形状のスポンジの吸水性の評価方法として、(a)吸水前の状態、及び(b)吸水後の状態を示す側面図である。
【
図16】3次元形状のスポンジの外観を例示する図面代用写真である。
【
図17】3次元形状のスポンジが下面から上面に給水される状態を(a)~(d)の順に例示する図面代用写真である。
【
図18】複数のバイオ電池を直列繋ぎにした通電パッチの内部構造を例示する断面図である。
【
図19】(a)吸水体のはめ込み穴にマイクロニードルアレイをはめ込む前の状態、及び(b)吸水体のはめ込み穴にマイクロニードルアレイをはめ込んだ状態における通電パッチの内部構造を例示する断面図である。
【
図20】はめ込み穴を形成した吸水体を例示する図面代用写真である。
【
図21】吸水体にはめ込んだマイクロニードルアレイを例示する図面代用写真である。
【
図22】マイクロニードルアレイの側面を例示する図面代用写真である。
【
図23】マイクロニードルアレイをはめ込んだ吸水体を例示する図面代用写真である。
【
図24】マイクロニードルアレイをはめ込んだ吸水体の吸水性の評価方法として、(a)吸水前の状態、及び(b)吸水後の状態を示す断面図である。
【
図25】マイクロニードルアレイをはめ込んだ吸水体の吸水性の評価結果として、(a)吸水前の状態、及び(b)吸水後の状態を示す図面代用写真である。
【
図26】吸水体にマイクロニードルアレイを接着した通電パッチの内部構造を例示する断面図である。
【
図27】接着層を形成した吸水体を例示する図面代用写真である。
【
図28】吸水体に接着したマイクロニードルアレイを例示する図面代用写真である。
【
図29】マイクロニードルアレイを接着した吸水体を例示する図面代用写真である。
【
図30】マイクロニードルアレイを接着した吸水体の吸水性の評価結果として、(a)吸水前の状態、及び(b)吸水後の状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に通電パッチ10を皮膚100に貼り付けた状態を例示する。
図2に通電パッチ10を構成する部材を示す。
図3に通電パッチ10の外観を示す。
図4に通電パッチ10の内部構造を示す。
【0016】
通電パッチ10は、バイオ電池101の電極であるアノード11及びカソード12の間をリード13で接続し、吸水体14を配置した構造を有する。吸水体14が皮膚100に接する側に、複数のポーラスマイクロニードル17を有するマイクロニードルアレイ16が配置されている。以下の説明では、アノード11及びカソード12を総称して、電極11,12という場合がある。
【0017】
電極11,12及びリード13の素材としては、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック(登録商標)、グラッシーカーボン(登録商標)、グラフェン、フラーレン、カーボンファイバ、カーボンファブリック、カーボンエアロゲル等の炭素材料;ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチオフェン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)等の導電性ポリマー;シリコーン、ゲルマニウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化チタン、酸化銅、酸化銀等の半導体;金、白金、チタン、アルミニウム、タングステン、銅、鉄、パラジウム等の金属等が挙げられる。特に、柔軟性や電気化学的な安定性等の観点から、カーボンファブリック、カーボンナノチューブ等の炭素材料が好ましい。特に、電極に酵素を高い密度で固定する場合には、カーボンファブリックにカーボンナノチューブを修飾したものが好ましい。
【0018】
アノード11には、酸化反応を触媒する触媒が担持される。このような触媒としては、例えば、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(Glucose Dehydrogenase,GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ(D-Fructose Dehydrogenase,FDH)、アルコールオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ等の酸化還元酵素が挙げられる。
【0019】
カソード12には、還元反応を触媒する触媒が担持される。このような触媒としては、例えば、ビルリビンオキシダーゼ(Bilirubin Oxidase、BOD)、ラッカーゼ、Cu efflux oxidase(Cueo)、アスコルビン酸オキシダーゼ等の酵素;鉄(II)フタロシアニン等の遷移金属錯体等が挙げられる。
【0020】
吸水体14は、各電極11,12に接して配置されている。吸水体14は、スポンジ15の内部に乾燥した燃料又は電解質を内包した構造を有する。アノード11に接する吸水体14Aには、アノード11で酸化反応を起こす有機物等の燃料が含まれる。燃料としては、グルコース、フルクトース、アスコルビン酸(ビタミンC)、アルコール、乳酸等が挙げられる。説明を分かりやすくするために、アノード11側の吸水体14Aと、カソード12側の吸水体14Cの符号を区別する場合がある。
【0021】
吸水体14には、電解質として、緩衝剤が内包されている。緩衝剤は、水溶液としたときに緩衝液となる電解質である。緩衝剤としては、弱酸、弱塩基等の塩類が挙げられる。吸水体14は、緩衝剤以外の電解質、例えば強酸と強塩基との塩を含有してもよく、又はこれを含有しなくてもよい。緩衝剤を構成する電解質としては、リン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸等の弱酸;これら弱酸のナトリウム塩、カリウム塩等;有機アミンなどの弱塩基、これらの塩類などが挙げられる。緩衝剤は、2以上の電解質から構成されてもよい。
【0022】
通電パッチ10を製造した後、使用する前までの吸水体14は、乾燥状態にある。通電パッチ10を使用する際に、通電パッチ10に給水することにより、吸水体14が水を吸収し、吸水体14の内部に電解質を含む電解液が内包される。これにより、皮膚100と電極11,12との間が電解液を通じて電気的に接続され、電極11,12、吸水体14、皮膚100を含むイオンの移動経路が形成される。例えば、水素イオン、ナトリウムイオン等のカチオンは、アノード11からカソード12へ向かって輸送される。
【0023】
吸水体14において、緩衝剤は、気泡を有するスポンジ15に内包されている。スポンジ15の材質としては、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等の合成樹脂;セルロース等の天然高分子、これらの誘導体などが挙げられる。スポンジ15の内部には、微細な連続気泡が形成されている。このため、電解質の水溶液からなる電解液をスポンジ15に吸収させた後で乾燥させることにより、スポンジ15中で溶質の電解質が乾燥状態となる。電解質の少なくとも一部は、スポンジ15の材質中に取り込まれることなく、気泡の内壁面に固体状態で露出されると考えられる。スポンジ15は、電解質の他にも、バイオ電池101の燃料、生体に作用し得る薬剤、その他の添加剤等を含有することができる。
【0024】
スポンジ15は、毛管現象、表面張力、親水性などにより、吸水性に優れるため、下面等の一部を水に浸しておくだけで、迅速に吸水する。さらに、スポンジ15の気泡の内部空間で電解質等の溶質が水に溶解し、電解液が調製される。スポンジ15の吸水力により、電解液が均一に混合されると共に、吸水体14全体に行き渡り、電極11,12と皮膚100との間を電解液で接続することができる。スポンジ15を用いて構成された吸水体14は、重力に逆らう方向、3次元形状等の複雑な形状であっても、水分を移動させることが可能である。
【0025】
スポンジ15としては、気孔径が例えば10~500μmが挙げられる。気孔径の具体例としては、10μm、20μm、25μm、30μm、50μm、80μm、100μm、150μm、200μm、300μm、500μm等、又はこれらの中間の値、近傍の値などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スポンジ15の気孔率としては、例えば、60~95%が挙げられる。
【0026】
スポンジ15は、乾燥状態でも柔軟性を有することが好ましい。例えば、スポンジ15のC硬度として、0.1~20程度が挙げられる。スポンジ15の見かけ密度としては、0.1~0.5g/cm3程度が挙げられる。スポンジ15の保水性としては、100~500%程度が挙げられる。スポンジ15の耐熱性としては、50~150℃程度が挙げられる。スポンジ15としては、ポリウレタンスポンジが好ましいが、これと同様に吸水性等の性能が優れるスポンジも好適に使用可能である。
【0027】
実施形態の吸水体14は、吸水性に優れるため、通電パッチ10等のバイオ電池101に給水する用途に好適である。バイオ電池101は、アノード11又はカソード12に酵素電極を1種類以上利用することができる。吸水体14が吸水すると、バイオ電池101の通電が開始され、通電パッチ10がバイオ電池101で駆動される。吸水体14は、タンクのように電解液を保持しつつ、電極11,12又は皮膚100との間で、イオン、燃料等の物質移動を可能にする。
【0028】
吸水体14には、ポーラスマイクロニードル17が接合されていてもよい。ポーラスマイクロニードル17は、スポンジ、ハイドロゲル、キセロゲル、樹脂、金属などから構成することができる。複数のポーラスマイクロニードル17を一体化して、マイクロニードルアレイ16が構成されてもよい。ポーラスマイクロニードル17は、皮膚100等の生体組織に刺し入れることが可能である。
【0029】
マイクロニードルアレイ16又はポーラスマイクロニードル17と吸水体14とを接合するには、スポンジ15に物理的な接合部(例えば、
図19(a)のはめ込み穴18)を形成する構成、スポンジ15に化学的な接合部(例えば、
図26の接着層19)を形成する構成が挙げられる。また、マイクロニードルアレイ16をスポンジ15に向けて押さえ込む等して、機械的に接合する構成をフレーム21、シェル23等に設けてもよい。
【0030】
アノード11に接する吸水体14Aと、カソード12に接する吸水体14Cとの間は、フレーム21によりイオン絶縁が保持されている。フレーム21の下には、通電パッチ10を皮膚100に貼るための粘着層22を設けることができる。フレーム21及び粘着層22には電気絶縁性の材料が用いられる。
【0031】
通電パッチ10は、電極11,12及び吸水体14を覆うようにシェル23で保護されている。カソード12に対して酸素を供給するため、シェル23のカソード12に対応する位置には、酸素供給窓24が形成されている。カソード12の露出を避けるため、酸素供給窓24には、酸素を透過可能な材質である綿25等を用いてカソード12が保護される。
図3及び
図5(a)では内部を確認しやすいようにシェル23を透明としたが、シェル23を不透明にしてもよい。
【0032】
電極11,12又は吸水体14が湿潤状態になったことを検知するため、シェル23には吸水完了チェック窓26が形成されている。吸水完了チェック窓26には、感水により変色する感水紙27が配置されている。通電パッチ10の給水完了は、感水紙27の変色により確認することができる。
【0033】
実施形態の通電パッチ10の場合は、吸水体14Aに燃料が内包されるアノード11まで湿潤状態になることが好ましいことから、アノード11に接して感水紙27が配置されている。また、空気中の酸素(O2)と反応するカソード12は、疎水性に構成されていることから、吸水体14Cがカソード12に接する箇所の近傍に感水紙27が配置されている。
【0034】
通電パッチ10は、体液の採取(サンプリング)、薬剤の用途等に用いることができる。実施形態の通電パッチ10は、電極11,12及び吸水体14を含んで構成されるバイオ電池101がフレーム21とシェル23との間に内蔵されているため、ユーザーが施術者等の事業者に限らず、消費者であっても、取り扱いが容易である。通電パッチ10を皮膚100に貼り付けて使用した後は、通電パッチ10から皮膚100から剥がすだけで、使用を完了することができる。合成樹脂、カーボンなどの可燃物から通電パッチ10を構成することにより、廃棄後の処理も容易になる。
【0035】
実施形態では、通電パッチ10を皮膚100に貼り付ける場合を例示したが、ヒトの各部に限らず、動植物等の各部に通電パッチ10を適用することも可能である。実施形態の吸水体14は、通電パッチ10、バイオ電池101等に限らず、生体組織に通電する用途、発電する用途などの各種装置に用いることができる。
【0036】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。
【0037】
実施形態の通電パッチ10は、1個のバイオ電池101を有するが、2個以上のバイオ電池を直列繋ぎ又は並列繋ぎにすることも可能である。詳しくは後述の実施例に示すように、スポンジ15は吸水性、加工性に優れることから、高さ方向及び水平方向に給水経路を有する3次元形状の吸水体14を構成することが可能である。
【0038】
例えば、
図18に示す通電パッチ20において、バイオ電池101が生体組織等に接する電池、バイオ電池102がバイオ電池101のアノード11とカソード12との間に直列繋ぎにされる電池である。バイオ電池102が生体組織等に接しにくいよう、バイオ電池102の吸水体14の下面が、バイオ電池101の吸水体14A,14Cの下面より少し高くされている。この場合でも、各吸水体14,14A,14Cに給水させることが可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
A.試薬、材料
・グルコースデヒドロゲナーゼ(GLUCDH Amano 8、天野エンザイム株式会社)
・鉄(II)フタロシアニン(Iron(II)Phthalocyanine、FePc、製品コード:P0774、東京化成工業株式会社)
・カーボンファブリック(Carbon fabric、CF、TCC-3250、Toho Tenax社)
・カーボンナノチューブ(Carbon nanotube、C70P、Bayer Material Science社)
【0041】
・エタノール(C2H5OH/Ethanol、Mw:46.07、製品コード:056-06663、Wako社)
・メタノール(Methanol、Mw:32.04、製品コード:137-01823、Wako社)
・イソプロパノール(C3H8O/Isopropyl alcohol、Mw:60.10、製品コード:166-04831、Wako社)
・N、N-ジメチルホルムアミド(DMF、N、N-Dimethylformamide、Mw:73.09、CAS番号:68-12-2、SigmaAldrich社)
【0042】
・リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4/Disodium hydrogen phosphate、Mw:141.96、Wako社)
・クエン酸(C6H8O7/Citric acid、Mw:192.13、Wako社)
・D-フルクトース(D(+)-fructose、Mw:180.16、Wako社)
・D-グルコース(D(+)-glucose、Mw:180.16、製品コード:049-31165、Wako社)
【0043】
・Triton(登録商標) X-100(ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、商品コード:12967-45、ナカライテスク株式会社)
・硝酸(Mw:63.00、製品コード:143-01326、Wako社)
・硫酸(Mw:98.08、製品コード:194-15761、Wako社)
・ポリ(テトラフルオロエチレン)(Polytetrafluoroethylene、PTFE、MW5000~20000、製品コード:165-13412、Wako社)
【0044】
・リン酸二水素カリウム(KH2PO4/Potassium dihydrogen phosphate、Mw:136.09、製品コード169-04245、Wako社)
・リン酸水素二カリウム(K2HPO4/Dipotassium hydrogen phosphate、Mw:174.2、製品コード:164-04315、Wako社)
・1-ピレン酪酸N-ヒドロキシスクシンアミドエステル(Pyrenebutanoic Acid Succinimidyl Ester(PBSE)、Mw:385.41、CAS番号:114932-60-4、SigmaAldrich社)
・N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(N-Isopropyl-N’-phenyl-p-phenylenediamine(IPPD)、Mw:226.32、CAS番号:101-72-4)
【0045】
・ポリウレタンスポンジ(ソフラス(登録商標)N、アイオン株式会社)
・ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ(ベルイーター(登録商標)D(D)及びベルイーター(登録商標)D(A)、アイオン株式会社)
・ポリウレタン-シリコーン粘着層(ポリビニルアルコール接着剤、人肌(登録商標)ゲルH0-100、株式会社エクシール)
・シリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン、Ecoflex、Smooth-On社)
・綿(BEMCOT(登録商標)、旭化成株式会社)
【0046】
・グリシジルメタクリレート(Glycidyl Methacrylate(GMA)、Wako社)
・トリエチレングリコールジメタクリレート(Triethylene Glycol Dimethacrylate(TEGDMA)、Wako社)
・トリメチロールプロパントリメタクリレート(Trimethylolpropane trimethacrylate(Trim)、SigmaAldrich社)
・ポリ(エチレングリコール)(Poly(ethylene glycol)(PEG)、SigmaAldrich社)
・2-メトキシエタノール(2-Methoxyethanol、Wako社)
・Irgacure(登録商標)184(BASF社)
【0047】
なお、Wako社(旧和光純薬株式会社)は、現在、富士フイルム和光純薬株式会社となっている。Toho Tenax社(旧東邦テナックス株式会社)のカーボン繊維は、現在、帝人株式会社からテナックス(登録商標)ブランドにて販売されている。
【0048】
B.通電パッチ
図2に通電パッチ10を構成する部材を示す。
図3及び
図4に通電パッチ10を示す。
図5に通電パッチ10の写真を示す。
図5(a)は通電パッチ10の表面、
図5(b)は、通電パッチ10の裏面である。
【0049】
シリコーンゴムを成型して作製したシェル23、綿25、感水紙27、アノード11、カソード12、リード13、タンクを構成する吸水体14、シリコーンゴム製のフレーム21、粘着層22を一体化することで通電パッチ10を構築した。
【0050】
アノード11は、非特許文献5に記載の方法で作製したフルクトース酸化用の酵素電極を用いたが、グルコース、ビタミンC、乳酸などを酸化する酵素電極もアノードになり得る。カソード12には、非特許文献5に記載の方法で作製する酸素還元用の酵素電極、もしくは非酵素触媒であるFeフタロシアニン(FePc)を修飾したカーボンファブリック電極が用いられる。
【0051】
シェル23には、カソード12に対して酸素を供給するための酸素供給窓24と、吸水体14の湿潤による発電開始を検知するための吸水完了チェック窓26を設けた。カソード12が直接通電パッチ10の外に露出することを避けるため、カソード12と酸素供給窓24との間に綿25を設けた。カソード12側の感水紙27は、カソード12裏面の吸水体14Cが湿潤状態になったことを検知するため吸水体14C上に触れるように設置した。アノード11側の感水紙27は、アノード11全体が十分に湿潤状態になったことを検知できるようにアノード11上に配置した。
【0052】
アノード11とカソード12とをイオン的に絶縁しながら電子的に導通させることを実現する構造として、リード13はカソード12と同じ工程で撥水処理を施した。アノード11とカソード12とは別々に、燃料であるグルコース及び緩衝作用を持つ電解質をスポンジ15の内部に保持した吸水体14上に接触させた。
【0053】
吸水体14に水が供給されたとき、吸水体14中で燃料及び電解質が溶けて溶液となることにより、アノード11上で酵素反応が開始される。また、酵素はpH変化によって失活してしまうため、そのpH変化を低減するために緩衝作用を持つ電解質を乾燥状態で吸水体14に保持させた。これらの燃料と電解質は、一度溶液としたものをスポンジ15に充填したのちに、乾燥させることで吸水体14に担持させた。
【0054】
アノード11とカソード12との間をイオン的に絶縁する仕組みの一つとして、シリコーンゴム製のフレーム21内に別々に吸水体14A及び吸水体14Cを保持させた。このフレーム21の下に粘着層22を設けることにより、通電パッチ10を皮膚に貼れるようにした。粘着層22の接着層は、シリコーン/ポリウレタンの絶縁性材料とすることで、アノード11とカソード12との間の絶縁性を担保した。
【0055】
後述のように、吸水体14にポーラスマイクロニードル17を有するマイクロニードルアレイ16を接合する場合もある。ポーラスニードルの作製は、特許文献2及び非特許文献6に従った。
【0056】
本構造の通電パッチ10によって、
図1に示すように、通電パッチ10を皮膚100に貼り付けた際に、皮膚100とポーラスマイクロニードル17と吸水体14Aとアノード11との間、及び皮膚100とポーラスマイクロニードル17と吸水体14Cとカソード12との間が、それぞれ別々にイオン的に導通される。かつ吸水体14の上部では、アノード11とカソード12との間がリード13を通じて電子的に導通することで、発電が生じる。その結果、電流が安定して皮膚100内を導通する効果が得られる。
【0057】
C.吸水性材料の検討
ポリウレタンスポンジ(ソフラス(登録商標)N)、吸水性PVAスポンジ(ベルイーター(登録商標)D(D))、通常のPVAスポンジ(ベルイーター(登録商標)D(A))について、幅1cm、奥行き1cm、厚み1mmのサイズのものを比較した。吸水・保持が可能な水分量は総ての素材で同等で140μl程度であった。柔軟性はポリウレタンスポンジ、吸水性PVAスポンジ、通常のPVAスポンジの順で高かった。
【0058】
次に、感水紙を用いて、スポンジの吸水速度を比較した。
図6(a)はスポンジに吸水させる状態、
図6(b)はスポンジに吸水させた後の状態を示す。写真としては、
図7(a)に吸水させる水、
図7(b)に吸水前のスポンジ、
図7(c)に吸水後のスポンジを示す。
図6(a)及び
図7(b)に示すように、各スポンジ15上に感水紙27を置き、スポンジ15の下面に100μlの水を接触させて、感水紙27が反応するまでの時間を比べた。
図6(b)及び
図7(c)に示すように、給水されたスポンジ30上で感水した感水紙27Aが変色することにより、吸水完了の時間を判定した。
【0059】
その結果、PVAスポンジ(ベルイーター(登録商標)D(A))は2分30秒、吸水性PVAスポンジ(ベルイーター(登録商標)D(D))は15秒かかった一方で、ポリウレタンスポンジ(ソフラス(登録商標)N)は1秒以下で吸水を完了することがわかった。このポリウレタンスポンジと感水紙を導入した
図2から
図4に示す通電パッチ10を構築して、下面に水を接触させたところ、タンクのポリウレタンスポンジが水を吸い、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、1秒以内でシェル23上部の吸水完了チェック窓26で給水完了をチェックすることが可能であった。
【0060】
対比として、PVAハイドロゲル、アガロースハイドロゲルを25℃、48h自然乾燥して得られた幅1cm、奥行き1cm、厚み1mmのサイズの乾燥ゲルについても、スポンジと同様にして、吸水速度を確認した。乾燥ゲルも、吸水・保持が可能な水分量はスポンジと同等で140μl程度であった。しかし、下面に水を接触させてから上面の感水紙が反応するまでの時間は、PVAハイドロゲルの乾燥ゲルでは10min、アガロースハイドロゲルの乾燥ゲルでは60minと時間がかかった。
【0061】
D.乾燥電解質及び乾燥燃料を内包するドライタンクの吸水性能
タンクを構成する吸水体14の製造方法及び使用方法として、
図9(a)にスポンジ15、
図9(b)に溶液を湿潤させたスポンジ31、
図9(c)に乾燥させた吸水体14、
図9(d)に給水された吸水体32を示す。スポンジに、200mMのMcIlvaine緩衝液(1.0Mのクエン酸溶液242.5mlと2.0MのNa
2HPO
4溶液257.5mlとの混合溶液)と燃料溶液(200mMのグルコース溶液)を合計100μl(すなわち100mm
3)となる割合で含ませ、それを乾燥させることで、乾燥電解質と乾燥燃料を内部に保持する吸水体からなるドライタンクを作製した。
【0062】
図10(a)にはスポンジからなるタンク、
図10(b)には吸水体からなるドライタンクの写真を示す。
図10(c)に示すように、ドライタンクの吸水性能を調べた。ドライタンクの寸法は、幅2mm、長さ140mm、厚み1mmとした。ドライタンクの端から100μl(すなわち100mm
3)となるように水を導入した際の、水の移動速度を計測した。
【0063】
結果として、電解質及び燃料を含有しないスポンジの吸水速度は1.5mm/s、乾燥電解質及び乾燥燃料を含有するドライタンクの吸水速度は1.1mm/sであった。これにより、タンクの厚みが0.1mm~1mm程度であれば1s程度で吸水が完了することが示唆された。また、ドライタンク内部に乾燥電解質及び乾燥燃料が存在しても十分速い吸水速度を有することが示された。
【0064】
E.給水による通電パッチの起動特性
図2から
図4に示す通電パッチ10の下面から給水した際に、発電が開始するまでの時間(起動時間)を調べた。
図11(a)には、吸水体14A,14Cを用いたバイオ電池を示す。
図11(b)には、模擬皮膚33を通して吸水体14A,14Cに給水した状態を示す。
図11(c)には、給水された吸水体32A,32Cを通してアノード11とカソード12との間に電流が流れ、バイオ電池が起動した状態を示す。
【0065】
アノードには、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を有する電極(15mm×10mm)を用いた。カソードには、鉄(II)フタロシアニン(FePc)を有する電極(6mm×10mm)を用いた。アノード直下の吸水体(ポリウレタンスポンジ)には、300μmolのグルコースと、60μmolのMcIlvaine緩衝液を構成する電解質を注入・乾燥した。カソード直下の吸水体(ポリウレタンスポンジ)には、60μmolのMcIlvaine緩衝液を構成する電解質のみを注入・乾燥した。
【0066】
皮膚の電気抵抗を模擬した外部抵抗10kΩをアノードとカソードとの間に配置した。模擬皮膚(コットン)を通して600μlの水を供給した際に、各電極(アノード、カソード)直下の吸水体内で燃料と電解質が溶けて溶液となり、各電極に接することで発電が始まるまでの時間を計測した。アノードとカソードとの間を流れる電流値を、並列に接続した電流計によって経時的に読み取った。
【0067】
図12に、起動特性を測定した結果のグラフを示す。結果として、水を給水するまでは発電はなかったが、給水してから10~30秒程度で安定して発電することがわかった。タンクを構成する吸水体自体の吸水完了が約1秒であることから、10~30秒はタンク内の燃料と電解質が溶け、安定して電極に供給されるまでにかかる時間だと考えられる。したがって、本構造を用いれば、通電パッチの下面に水を供給するだけで、高速に発電が開始され、皮膚通電が起動することが示された。
【0068】
F.通電パッチの出力の安定性と持続時間
通電パッチが給水による発電を開始した後、電流出力がどの程度安定するか、またどの程度出力が持続するかを調べた。ドライタンク内に保持するグルコース燃料の量について、それぞれ量を15μmol、60μmol、150μmolのように変えて調べた。その結果、
図13に示すグラフが得られた。緩衝液の電解質の量は15μmolで固定した。グルコース燃料の量は60μmolの場合に、12時間以上、安定して電流出力が得られることが分かった。燃料が少ないと発電持続時間が短く、また多くてもイオン強度が高いことによる酵素の失活に起因すると思われる発電量の低下が見られた。
【0069】
次に、燃料の量を60μmolで固定して、緩衝液の電解質(バッファ電解質)の量を15μmol、60μmol、150μmolのように変えて調べた。その結果、
図14に示すグラフが得られた。緩衝液の電解質の量も60μmolの場合に12時間以上安定した出力が得られることが分かった。緩衝液の量の変化は、燃料の量の変化ほど電流出力に大きな差を及ぼさなかった、60μmolが至適量であることが示唆された。以上より、構築した通電パッチは、使い捨て用途のパッチとして十分な半日程度の発電安定性及び持続性を有することが分かった。
【0070】
G.3次元形状タンクの吸水性能
ポリウレタンスポンジは加工性が高いため、3次元形状に成型可能である。このため、ポリウレタンスポンジをタンクに利用することで、3次元形状に沿った給水が可能になる。このことを確認するため、
図15(a)及び
図16に示すように、絶縁層41,42の間にスポンジ15を配置して、皮膚に接する下面と電極に接触する上面、及び周囲のイオン絶縁性シリコーンフレームを模擬した構造を構築した。スポンジ15の上面では吸水を検知するために感水紙27を設置した。
図15(b)に示すように、給水されたスポンジ30の上面まで水が到達すると、感水した感水紙27Aが変色する。
【0071】
3次元形状タンクの下面から給水した結果を
図17の(a)~(d)に示す。結果として、3次元形状の下面から上面まで、前述の1mmあたり1秒程度の速度で吸水ができることが分かった。この3次元形状タンクにより、皮膚又はニードルに接する面と、通電パッチ内部で電極と接触する面を、それぞれ別の形状に設計することができる。すなわち、電極の形状と、皮膚に電流が作用する領域の形状を別個に設計可能であり、通電パッチの貼付場所や用途に合わせたパッチ形状・サイズの自由なカスタマイズが可能になる。
【0072】
図18に、高電圧化のため2個のバイオ電池101,102を通電パッチ20内で直列繋ぎした構造の設計図を示す。フレーム21とシェル23との間において、異なるバイオ電池101,102を構成する電極11,12又はタンクの吸水体14A,14Cの間を絶縁するため、電気絶縁性の隔壁28が配置される。2個の電池を直列繋ぎすることにより、通電パッチ20から皮膚に通電される電圧が2倍となる。バイオ電池101,102の直列繋ぎを実現する際などには、3次元の給水経路が通電パッチ20の内部に形成される。このような通電パッチ20内部の3次元構造の隅々まで水分を行き渡らせる給水が、ポリウレタンスポンジによるドライタンクの加工によって可能であると考えられる。
【0073】
H.通電パッチへのポーラスマイクロニードルの接合
通電パッチのタンクにポーラスマイクロニードルを接合する方法として、タンクにはめ込み穴を設けることで物理的に接合する方法、マイクロニードルの周辺とタンクを接着する方法をそれぞれ実現した。
【0074】
物理的に接合する方法では、
図19(a)に、吸水体14のはめ込み穴18にマイクロニードルアレイ16をはめ込む前の状態、
図19(b)に、吸水体14のはめ込み穴18にマイクロニードルアレイ16をはめ込んだ通電パッチ10Aの内部構造を例示する。はめ込み穴をマイクロニードルアレイより0.5mm程度小さく設計することにより、マイクロニードルアレイを柔軟なスポンジからなるタンクのはめ込み穴に押し込み、物理的に保持されるようにした。
【0075】
図20には、はめ込み穴を形成した吸水体からなるタンクの写真を示す。
図21には、吸水体にはめ込んだマイクロニードルアレイの写真を示す。
図22には、マイクロニードルアレイの側面を示す。
図23には、マイクロニードルアレイをはめ込んだ吸水体の写真を示す。この構造により、マイクロニードルは脱離なく安定してタンクに接合することが可能であった。
【0076】
図24(a)及び
図25(a)に示すように、マイクロニードルを物理的に接合したタンクの裏面に感水紙を配置し、マイクロニードルから給水した。その結果、
図24(b)及び
図25(b)に示すように、水がマイクロニードル、タンクまで吸水されることが分かった。
【0077】
次に、接着剤を用いて接合する方法では、
図26に、接着層19を用いて、吸水体14にマイクロニードルアレイ16を接着した通電パッチ10Bの内部構造を例示する。ポリビニルアルコール(PVA)を接着剤に用いることによってもマイクロニードルを接合することが可能であった。
【0078】
図27には、接着層を形成した吸水体の写真を示す。
図28には、吸水体に接着したマイクロニードルアレイの写真を示す。
図29には、マイクロニードルアレイを接着した吸水体の側面を示す。マイクロニードルアレイとタンクの接触部の周囲0.5mm程度に接着剤が存在し、水の導通が中央部で起こる構造とした。
【0079】
図30(a)に示すように、マイクロニードルを接着したタンクの裏面に感水紙を配置し、マイクロニードルから給水した。その結果、水がマイクロニードル、タンクまで吸水されることが分かった。その結果、
図30(b)に示すように、水がマイクロニードル、タンクまで吸水されることが分かった。従って、接着剤を用いて接合する方法を用いても、タンクとマイクロニードルを安定して接合することが可能であり、またマイクロニードルを介したタンクへの吸水が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、通電パッチの内部に吸水経路を容易に形成することが可能な吸水体及びこれを用いた通電パッチを提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
10,10A,10B,20 通電パッチ
11 アノード
12 カソード
13 リード
14,14A,14C 吸水体
15 スポンジ
16 マイクロニードルアレイ
17 ポーラスマイクロニードル
21 フレーム
22 粘着層
23 シェル
24 酸素供給窓
25 綿
26 吸水完了チェック窓
27 感水紙
100 皮膚
101,102 バイオ電池