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  • 特許-砂防堰堤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】砂防堰堤
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020062589
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161679
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:sabo,Vol.127 2020 Winter,第5頁,一般財団法人砂防・地すベり技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000173681
【氏名又は名称】一般財団法人砂防・地すべり技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000219358
【氏名又は名称】東亜グラウト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】浦 真
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳嗣
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 広幸
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157384(JP,A)
【文献】特開2003-268747(JP,A)
【文献】特開2015-028253(JP,A)
【文献】特開平11-209987(JP,A)
【文献】特開2017-106271(JP,A)
【文献】特開2002-339338(JP,A)
【文献】特開2001-193038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0158122(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
谷部に設けられる砂防堰堤において、
少なくとも前記谷部の幅方向両側の位置で該谷部の底部に配置され、安定設置に必要な重量の収納物を収納可能な重量物収納体と、
前記谷部の幅方向両側の重量物収納体間に架け渡されるロープと、
該ロープと係合又は連結されることで、前記谷部の幅方向両側間で底部又は底部近傍から所定高さ位置までの領域に伸展されて張設されるネット体と、を備え
前記重量物収納体には、前記谷部の底部又は底部近傍に下端部が位置するように上下方向に伸長するロープ設置用支柱が取付けられ、
前記ロープは、前記谷部の幅方向両側の重量物収納体に取付けられたロープ設置用支柱間に架け渡されることを特徴とする砂防堰堤。
【請求項2】
谷部に設けられる砂防堰堤において、
少なくとも前記谷部の幅方向両側の位置で該谷部の底部に配置され、安定設置に必要な重量の収納物を収納可能な重量物収納体と、
前記谷部の幅方向両側の重量物収納体間に架け渡されるロープと、
該ロープと係合又は連結されることで、前記谷部の幅方向両側間で底部又は底部近傍から所定高さ位置までの領域に伸展されて張設されるネット体と、を備え
前記重量物収納体が、
上部が開放された箱体を前記谷部の底部上方に形成するために該箱体の壁部を構成する複数の板部材と、
前記板部材の前記箱体外側面に略水平方向に伸長するように取付けられ、互いに係合又は連結されることで該板部材によって該箱体を構成する複数の梁部材と、
前記箱体の外周面に沿って前記谷部の底部から上向きに立設され、前記梁部材又は板部材に係合又は連結される複数の柱部材と、で構成されることを特徴とする砂防堰堤。
【請求項3】
谷部に設けられる砂防堰堤において、
少なくとも前記谷部の幅方向両側の位置で該谷部の底部に配置され、安定設置に必要な重量の収納物を収納可能な重量物収納体と、
前記谷部の幅方向両側の重量物収納体間に架け渡されるロープと、
該ロープと係合又は連結されることで、前記谷部の幅方向両側間で底部又は底部近傍から所定高さ位置までの領域に伸展されて張設されるネット体と、
前記重量物収納体の少なくとも底部を覆うように張設される網体と、を備えたことを特徴とする砂防堰堤。
【請求項4】
前記重量物収納体の底部が開放され、
前記重量物収納体を構成する板部材の下端部の一部又は全部が、前記谷部の底部に接していないことを特徴とする請求項に記載の砂防堰堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂防堰堤、特に、土石流災害や土砂災害を防止するため、緊急で設置する砂防堰堤(土石捕捉工)に関する。
【背景技術】
【0002】
砂防堰堤は、土砂災害、特に土石流による被害を低減するために、一般的には、重力式コンクリートダムの形状を模して設けられ、砂防ダムとも呼ばれる。この形態の砂防堰堤は、土石流発生時、大きな速度で流れる巨礫や流木といった流下物に加えて流体圧を頑強に受け止める剛構造であるため、コンクリート構造物の基礎構造が大規模なため施工に長期間を要し、地山を大きく改変するという課題がある。
【0003】
そこで、下記特許文献1に記載される柔構造の砂防堰堤(土石捕捉工)を提案された。この砂防堰堤は、少なくとも谷部の幅方向中間部に支柱を立設し、谷部の幅方向両側間に架け渡したロープを上記支柱に係合又は連結し、このロープにネット体を係合又は連結することにより、谷部の底部から所定高さ位置までの領域に伸展された状態のネット体が谷部の略幅方向に張設されるものである。
【0004】
この砂防堰堤では、上記ロープに係合されるネット体の谷部幅方向中間部が谷部幅方向両側よりも谷部下流側に位置するように支柱を配置することにより、土石流発生時、ネット体に捕捉される流下物は、谷部幅方向の両側が高く、谷部幅方向の中間部が低くなるようにネット体上に堆積し、水はネット体上に堆積する流下物の上から、又は流下物の隙間を通って谷部幅方向の中間部に流れ、谷部幅方向の両側、即ち谷部の岸部の浸食が回避される。
【0005】
この砂防堰堤は、土石流の発生源又はその近傍である小規模な谷部に有効な砂防堰堤を構築することができ、土石流発生時の水や流下物が下流側に流れて流下物の容量や運動エネルギーが増大する以前に流下物を堰き止めることができ、しかも前述のように谷部の岸部の浸食が回避され、その結果、土石流の被害を効果的に低減することができる。また、巨大なコンクリート構造物を構築する必要がなく、地形や植生の改変が少ないので、景観・環境を保全することができる。なお、ロープを係合又は連結するための支柱は、谷部の幅方向両側近傍にも必要となることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-157384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ひとたび土砂災害が発生した場合には、人命救助、再度災害防止、避難経路確保、早期復旧などの活動のため、土石に対する緊急対策が求められている。しかしながら、上記特許文献1に記載される砂防堰堤は、支柱を立設するための土台を必要とする。この土台は、例えば、コンクリート基台の上に鋼板を搭載して構成され、この鋼板の上から谷部の底部の安定化地層までアンカーを穿って固定される。この土台を構築したり、アンカーで固定したりする工事に期間を要する。すなわち、上記特許文献1に記載される砂防堰堤は、上記従来の剛構造の砂防堰堤と比較すれば、遥かに簡易で、したがって工期も短いものの、それでも完成までに或る程度の期間を要する。一方、ひとたび土石流が発生した地域では、例えば、災害復旧のために、土石流が再発した場合の流下物を堰き止める砂防堰堤を極めて短期間に構築する必要があり、その期間で上記特許文献1に記載される砂防堰堤を構築するのは困難である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、短期間に完成させることができる砂防堰堤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の砂防堰堤は、
谷部に設けられる砂防堰堤において、少なくとも前記谷部の幅方向両側の位置で該谷部の底部に配置され、安定設置に必要な重量の収納物を収納可能な重量物収納体と、前記谷部の幅方向両側の重量物収納体間に架け渡されるロープと、該ロープと係合又は連結されることで、前記谷部の幅方向両側間で底部又は底部近傍から所定高さ位置までの領域に伸展されて張設されるネット体と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、重量物収納体の内部に、例えば、施工現場近傍の巨礫や岩石のような重量物を収納物として収納することで、それら収納物の重量で重量物収納体が安定設置される。したがって、土石流発生時に、谷部の幅方向両側の重量物収納体間に張設されたネット体によって谷部を流れる巨礫や流木などの流下物が衝突して堰き止められても、それらの重量物収納体は安定している。そして、流下物を堰き止めたネット体の変形性能によって土石流の持つ運動エネルギーが吸収されることにより、ネット体全体で流下物を堰き止めることができる。
【0011】
この砂防堰堤の施工に際し、重量物収納体の壁部を形成する複数の板部材や、その板部材を支持して重量物収納体を構成する複数の梁部材や、それら板部材や梁部材を支持するために重量物収納体の外周面に立設される複数の柱部材を用いて、施工現場で重量物収納体を構築することで工期を短縮することができ、これにより、例えば、土石流が既には発生した地域における土石流再発時の流下物を堰き止める砂防堰堤を短期間に構築することが可能となる。また、既に土石流が発生した地域に砂防堰堤を構築する場合には、前の土石流で運ばれた巨礫や岩石を上記収納物として容易に用いることができるので、その分だけ、工期を短縮することができる。
【0012】
また、本発明の他の構成は、前記重量物収納体には、前記谷部の底部又は底部近傍に下端部が位置するように上下方向に伸長するロープ設置用支柱が取付けられ、前記ロープは、前記谷部の幅方向両側の重量物収納体に取付けられたロープ設置用支柱間に架け渡されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、上記ロープとロープ設置用支柱を係合又は連結するための構造を予め上記ロープ設置用支柱に設けておくことが可能となり、これにより谷部の幅方向両側の重量物収納体へのロープの取付作業が容易になる。
【0014】
本発明の更なる構成は、前記重量物収納体が、上部が開放された箱体を前記谷部の底部上方に形成するために該箱体の壁部を構成する複数の板部材と、前記板部材の前記箱体外側面に略水平方向に伸長するように取付けられ、互いに係合又は連結されることで該板部材によって該箱体を構成する複数の梁部材と、前記箱体の外周面に沿って前記谷部の底部から上向きに立設され、前記梁部材又は板部材に係合又は連結される複数の柱部材と、で構成されることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、複数の板部材と、複数の梁部材と、複数の柱部材を用いて、施工現場で重量物収納体の箱体を構築することができ、これにより、砂防堰堤施工に係る工期を短縮することができる。
【0016】
本発明の更なる構成は、前記重量物収納体の少なくとも底部を覆うように張設される網体を備えたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、例えば、重量物収納体の壁部を構成する板部材を谷部の底部に密着させることが困難である場合やその手間がかかるような場合にあっても、重量物収納体の底部が網体で覆われていれば、重量物収納体の底部と谷部の底部との間に隙間があっても、内部の収納物がはみ出したりこぼれたりすることが防止され、重量物収納体を安定設置することが可能となる。
【0018】
本発明の更なる構成は、前記重量物収納体の底部が開放され、前記重量物収納体の下端部の一部又は全部が、前記谷部の底部に接していないことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、重量物収納体の内部の収納物は網体内に収納されているので、この重量物収納体は網体を支持する枠部材であればよく、したがって重量物収納体の底部が開放され、その重量物収納体の下端部は谷部の底部に接していなくともよい。したがって、重量物収納体の壁部を構成する板部材の下端部を谷部の底部に接するようにする工事が不要であり、その分だけ、砂防堰堤施工に係る工期を短縮することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、土石流発生時には、谷部の幅方向両側に安定設置された重量物収納体の支柱間に張設されたネット体によって巨礫や流木などの流下物が堰き止められ、その際、ネット体の変形性能により土石流の持つ運動エネルギーが吸収されることにより、ネット体全体で流下物を堰き止めることができる。重量物収納体は、板部材や梁部材、柱部材を用いて施工現場で構築することができ、これにより施工期間を短縮することができる。また、重量物収納体内に収納される収納物に、例えば、前の土石流で運ばれた巨礫や岩石を用いることで、土石流発生地域での砂防堰堤施工期間を更に短縮することができる。特に、土石流捕捉時に反力体となるアンカー体を現地で組み立て可能なコンテナ方式にすることで、現地搬入が容易で短期間で施工ができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の砂防堰堤の一実施の形態の全体構成を示す概略構成図である。
図2図1の砂防堰堤の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の砂防堰堤の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態に係る砂防堰堤の全体構成を示す斜視図、図2は、図1の砂防堰堤の縦断面図である。この実施の形態に係る砂防堰堤は、既存の砂防堰堤と同様に、土砂災害、特に、土石流による被害を防止すること等を目的に谷部Rの幅方向に延設されるものであるが、この実施の形態では、例えば、土石流が既に発生した地域の谷部Rに構築することを目的とする。すなわち、土石流発生地域の復旧活動時に土石流が再発した場合の流下物を堰き止めることを目的としている。
【0023】
この砂防堰堤では、土石流発生時の巨礫や流木などの流下物を堰き止めるために、ネット体1を、谷部Rの底部B側から所定高さ位置まで伸展するようにして谷部Rの略幅方向に張設する。なお、流下物を堰き止めるネット体1は、一部のみを図示している。ネット体1が土石流発生時の流下物を堰き止める原理は、ネット体1自身が変形することによって流下物の運動エネルギーを吸収することができることによる。この実施の形態のネット体1は、例えば図1に示すような、いわゆる菱形金網を用いているが、上記特許文献1に記載されるリングネットを用いてもよい。更には、他の形態のネット体1を用いることも可能である。ネット体1を構成する線材には、例えば、硬鋼線材を用いることができ、これにより流下物のエネルギー吸収量を増大させることが可能となる。
【0024】
この実施の形態では、ネット体1は、谷部Rの幅方向両側に立設されたロープ設置用支柱2間に架け渡されたロープ3に係合又は連結されている。ロープ設置用支柱2は、それぞれ、下端部が谷部Rの底部B又はその近傍に位置し、上下方向に伸長する状態で、後述する重量物収納体4に取付けられている。上記ロープ3には、例えばワイヤロープを用いることができる。この実施の形態では、谷部Rの高さ方向に3本のロープ3を配設し、それぞれの谷部幅方向両端部をロープ設置用支柱2に係合又は連結している。また、ロープ3とネット体1は、例えばネット体1の網目にロープ3を挿通することにより、両者を係合している。ロープ3とネット体1の接続構造は、例えばシャックルと呼ばれる個別の連結具を用いて互いに連結してもよい。また、ロープ3の数は3本に限らず、例えば2本以上であれば何本でもよい。また、その配置も、例えば、上下に2本、上部と中間部に1本ずつといったように任意に設定可能である。
【0025】
また、この実施の形態では、ロープ設置用支柱2とロープ3は、例えば、ロープ設置用支柱2に予め設けられた穴部とロープ3の端部の輪とをターンバックルなどの連結具11を介して連結されている。このロープ設置用支柱2とロープ3の接続構造は、例えばロープ設置用支柱2に設けられた鉤状のフックにロープ3の端部の輪を引っ掛けて両者を係合するようにしてもよい。このように、ロープ設置用支柱2とロープ3の係合又は連結に際し、例えばロープ設置用支柱2にロープ3を係合又は連結するための構造を予め設けておくことにより、両者の係合又は連結作業が容易になる。また、このロープ3には、例えば、上記特許文献1に記載されるブレーキ装置を設けてもよい。このブレーキ装置は、ロープ3の伸びを許容し、且つ、その伸びの際、例えばブレーキ装置の変形によってロープ3を伸ばそうとするエネルギーを吸収するものである。
【0026】
上記ロープ設置用支柱2は、谷部Rの幅方向両側に配置された重量物収納体4に取付けられている。重量物収納体4とロープ設置用支柱2の取付けには、例えばボルト・ナットなどの締結具を用いることができる。重量物収納体4は、上方が開放された箱体5の内部に巨礫や岩石などの重量物を収納物Sとして収納し、その重量で谷部Rの底部Bに安定設置されるものであり、上記ネット体1で土石流の流下物を堰き止めたときに生じる反力を受け、その場にとどまってネット体1やロープ設置用支柱2を支持するものである。この実施の形態では、重量物収納体4は、砂防堰堤の施工現場で組み立てられる。なお、重量物収納体4の箱体5の内部には、後述するように、網体6が収納され、その網体6の内部に巨礫や岩石などの収納物Sが収納されている。
【0027】
この実施の形態の重量物収納体4は箱体5であり、この箱体5は、板部材7、梁部材8、柱部材9で構成される。重量物収納体4の箱体5のそれぞれは、箱体5の壁部を構成する板部材7と、板部材7の箱体外側面に略水平方向に伸長するように取付けられ、互いに係合又は連結されることで上記板部材7により箱体5を構成する梁部材8と、箱体5の外周面に沿って谷部Rの底部Bから上向きに立設され、上記梁部材8又は板部材7に係合又は連結される柱部材9とを用いて、施工現場で構築される。なお、箱体5の上部は開放され、下端部も、一部又は全部が谷部Rの底部Bに接していない。
【0028】
上記板部材7には、例えば、3.0m×3.0mの大きさで、厚さが3~5mm程度の鋼板を用いることができる。この鋼板からなる板部材7を4つ、壁部に用い、上部が開放された方形の箱体5を構成する。上記梁部材8には、例えば、鋼製の角パイプを用いることができる。この鋼製角パイプからなる梁部材8を、1つの鋼板あたり2つ用い、例えば上部と下部、或いは中部と下部に1つずつ、略水平方向に伸長するように板部材7の箱体外側面に取付ける。板部材7への取付構造には、例えばボルト・ナットなどの締結具を用いることができる。梁部材8には、多数の穴部が設けられており、この穴部にボルト・ナットなどの締結具を挿通して板部材7に取付ける。このように板部材7の箱体外側面に梁部材8を取付けることにより、板部材7の箱体5としての強度を増大することができる。そして、これら梁部材8を互いに係合又は連結することで板部材7により箱体5が構成される。梁部材8同士の連結には、例えばボルト・ナットなどの締結具を用いることができる。また、例えば、梁部材8の端部に設けた鉤状の係合部同士を互いに引っ掛けて係合することで、梁部材8同士を接続することも可能である。なお、梁部材8には、H型鋼を用いることもできる。
【0029】
上記柱部材9には、例えばH型鋼を用いることができる。このH型鋼からなる柱部材9を、1つの鋼板あたり3つ用い、下端部を谷部Rの底部Bに接して立設し、それぞれのフランジ部を上記鋼製角パイプからなる梁部材8に係合又は連結する。柱部材9と梁部材8の連結には、例えばボルト・ナットなどの締結具を用いることができる。柱部材9には、多数の穴部が設けられており、後述するように、谷部Rの底部Bの不陸に合わせて高さを調整した状態で、それらの穴部にボルト・ナットなどの締結具を挿通して梁部材8に連結する。また、柱部材9と梁部材8に、例えば鉤状の係合部を設け、それらを互いに引っ掛けて係合することで、両者を接続することも可能である。また、柱部材9を板部材7に係合又は連結することも可能である。柱部材9と箱体5の位置関係は、柱部材9の下端部が谷部Rの底部Bに接しているのに対し、箱体5の上面は略水平になるように配置する。したがって、箱体5を構成する板部材7が、上記のように正方形である場合、板部材7の下端部、すなわち箱体5の下端部は、一部又は全部が谷部Rの底部Bから離れている。
【0030】
重量物収納体4の箱体5の内部に配置される網体6には、例えば硬鋼線材からなるネット体が袋のようにして用いられる。この実施の形態では、袋状の網体6の上端部は、箱体5の壁部を構成する板部材7の外側に折り返され、図示しない固定具によって板部材7又は梁部材8に固定されている。前述のように、箱体5の下端部は、一部又は全部が谷部Rの底部Bから離れているが、収納物Sである巨礫や岩石は網体6の内部に入っているので、それらが箱体5の下端部と谷部Rの底部Bの間の隙間からはみ出したりこぼれたりすることはない。そして、この実施の形態の砂防堰堤は、土石流が既に発生した地域に施工されるので、重量物収納体4の内部に収納する巨礫や岩石は近くにたくさんあり、したがってそれらを重量物収納体4の内部に収納する作業も簡易で、時間も短縮できる。
【0031】
そして、土石流再発時には、流下物を堰き止めたネット体1の変形によって流下物の持つエネルギーが吸収される。また、重量物収納体4の内部には重量物である巨礫や岩石が多量に収納されているので、ネット体1が流下物を堰き止めても重量物収納体4はその場にとどまり、ネット体1やロープ設置用支柱2を支持し続けることができる。この実施の形態では、ネット体1を支持するためのロープ設置用支柱2の基礎を必要としない。また、ロープ設置用支柱2が倒れないように支持するための支持用ロープも必要としない。上記特許文献1に記載される砂防堰堤では、ロープ設置用支柱を支持するための基礎を必要とし、同時にロープ設置用支柱を支持するための支持用ロープも必要とし、こうした基礎の構築やロープの配索に時間を要することから、2カ月程度の施工期間を要する。これに対し、ロープ設置用支柱支持のための基礎の構築や支持用ロープの配索を必要としない、この実施の形態の砂防堰堤は、凡そ1週間程度で施工が完了する。
【0032】
土石流が発生した現場の多くは、谷部と渓岸部が浸食され、不陸が発生しているうえ、谷部縦断方向にも勾配を有している。重量物収納体4は、こうした不陸の底部Bに設置できるよう、高さ調整可能な柱部材7により箱体5を水平に保ち、さらに網体6をその内部に配置して、収納物Sが底部Bに接触することで、重量物収納体4と底部Bの摩擦抵抗を高めると共に、砂防堰堤を安定させる特徴を有する。
【0033】
このように、この実施の形態の砂防堰堤によれば、谷部Rの幅方向両側の重量物収納体4に取付けられたロープ設置用支柱2間にロープ3を架け渡し、そのロープ3にネット体1を係合又は連結して谷部Rの略幅方向にネット体1が想定される土石流を捕捉できる所定高さ位置までの領域で張設される。重量物収納体4の箱体5の内部には、例えば、施工現場近傍の巨礫や岩石のような重量物を収納物Sとして収納することで、それら収納物Sの重量で重量物収納体4が安定設置される。したがって、土石流発生時に、ネット体1によって谷部Rを流れる巨礫や流木などの流下物が衝突して堰き止められた場合でも、それら重量物収納体4はその場にとどまり、ロープ設置用支柱2やネット体1を安定支持することができる。そして、流下物を堰き止めたネット体1の変形性能によって土石流の持つ運動エネルギーが吸収されることにより、ネット体1全体で流下物を捕捉することができる。
【0034】
この砂防堰堤の施工に際し、重量物収納体4の箱体5の壁部を形成する複数の板部材7や、その板部材7を支持して箱体5を構成する複数の梁部材8や、それら板部材7や梁部材8を支持するために箱体5の外周面に立設される複数の柱部材9を用いて、施工現場で重量物収納体4の箱体5を構築することで工期を短縮することができ、これにより、例えば、土石流発生地域における土石流再発時の流下物を堰き止める砂防堰堤を短期間に構築することが可能となる。また、土石流発生地域では、土石流で運ばれた巨礫や岩石を上記収納物Sとして容易に用いることができるので、その分だけ、工期を短縮することができる。
【0035】
また、重量物収納体4の箱体5の少なくとも底部が網体6で覆われ、その上方に上記収納物Sが収納されているので、箱体5の壁部を構成する板部材7と谷部Rの底部Bの間に隙間があっても、その隙間から巨礫や岩石などの収納物Sがはみ出したりこぼれたりすることがなく、重量物収納体4を安定して定置させることができる。
【0036】
また、重量物収納体4の箱体内部の収納物Sは網体6内に収納されているので、箱体5は網体6を支持する枠部材であればよく、したがって箱体5の底部Bが開放され、その箱体5の壁部を構成する板部材7の下端部は谷部Rの底部Bに接していなくともよい。したがって、箱体5の壁部を構成する板部材7の下端部を谷部Rの底部Bに接するようにする工事が不要であり、その分だけ、砂防堰堤施工に係る工期を短縮することができる。
【0037】
以上、実施の形態について説明したが、本発明の構成はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。例えば、上述したロープ3の本数や材質については現場の状況に応じて適宜選択されるものであり、また、それらのブレーキ装置は、上述の構成に限定されるものではなく、制動力を伴いながらロープ3の伸びを許容するものであれば如何なるものを用いてもよい。
【0038】
また、上記実施の形態では、重量物収納体4の箱体5の壁部を構成する板部材7の上端部まで網体6を張設しているが、前述のように、この網体6は、必ずしも谷部の底部に密着していない箱体5の底部から巨礫や岩石などの収納物Sがはみ出したりこぼれたりするのを防止するものであるから、少なくとも箱体5の底部を覆うように張設されていればよい。
【0039】
また、上記実施の形態では、谷部Rの幅方向両側にのみロープ設置用支柱2を配置しているが、ロープ設置用支柱2の配置、すなわちロープ設置用支柱2及び重量物収納体4の配置はこれに限定されない。例えば、谷部Rの幅方向中間部に重量物収納体4及びロープ設置用支柱2を1以上配置し、そのロープ設置用支柱2にもロープ3を係合又は連結するようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施の形態では、箱体5を構成するための柱部材9とロープ設置用支柱2を個別に設けているが、両者の機能を1つの柱部材で兼用してもよい。すなわち、箱体5を構成するための柱部材9をロープ設置用支柱2として、その柱部材9にロープ3を係合又は連結するようにしてもよい。
【0041】
また、重量物収納体4の箱体5を構成するための板部材7、梁部材8、柱部材9には、上記以外の適宜の部材を用いることもできる。また、箱体5の構成手法も上記に限定されない。例えば、上記実施の形態では、重量物収納体4の箱体5を構築するための柱部材7は、略鉛直方向に立設されているが、例えば箱体5の壁部を構成する板部材7が収納物Sの重量で谷側に傾くのを事前に防止するために、この柱部材7をやや山側に傾斜させてもよい。すなわち、柱部材7の上端部が谷部Rの斜面に接近するように柱部材7をやや斜めに立設する。また、網体6を谷部Rの底部Bにピンなどで係合することで、網体6と一緒に収納物Sが谷部Rの下方に滑り落ちたり転がり落ちたりするのを防止することができる。また、重量物収納体4の内部に巨礫や岩石などの収納物Sを収納した後、それらの間にウレタン材などの充填材を注入固化して一体化することも可能である。そして、こうした充填材であれば、例えば、土石流災害の復旧活動後に砂防堰堤を解体する場合であっても、収納物Sを容易に解体することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ネット体
2 ロープ設置用支柱
3 ロープ
4 重量物収納体
5 箱体
6 網体
7 板部材
8 梁部材
9 柱部材
R 谷部
B 底部
S 収納物
図1
図2