(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】定量装置、定量方法、定量プログラム、及び、透析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240408BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20240408BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G01N27/416 336B
A61M1/16 163
G01N33/50 A
G01N27/416 336G
(21)【出願番号】P 2020122545
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000124959
【氏名又は名称】株式会社カイジョー
(74)【代理人】
【識別番号】100081318
【氏名又は名称】羽切 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100132458
【氏名又は名称】仲村 圭代
(72)【発明者】
【氏名】金 継業
(72)【発明者】
【氏名】沢田 利春
(72)【発明者】
【氏名】副島 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】若宮 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】笹原 脩佑
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-178347(JP,A)
【文献】特開平08-082614(JP,A)
【文献】特開2001-021525(JP,A)
【文献】特開2001-147211(JP,A)
【文献】特開2017-127635(JP,A)
【文献】米国特許第04348208(US,A)
【文献】特開平11-083799(JP,A)
【文献】AOKI, K. et al.,Differential normal pulse voltammetry-theory,Journal of Electroanalytical Chemistry and Interfacial Electrochemistry,1980年,Vol.110, No.1-3,p.1-18,doi.org/10.1016/S0022-0728(80)80361-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
A61M 1/16
G01N 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1物質を含む被検査液に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、前記作用電極における前記第1物質の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて前記被検査液中の前記第1物質の含有量を定量する定量装置であって、
前記電圧を与える印加部と、
前記印加部を制御する制御部と、
前記作用電極における電流値を計測する計測部と、
前記計測部による計測結果に基づいて前記第1物質の含有量を算出する演算部とを備え
、
前記被検査液は、前記第1物質の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質を含み
前記第1物質の酸化電位と前記第2物質の酸化電位との差は所定値以下であり、
前記制御部は、前記第2物質の酸化電位に対応する初期電位を
、前記被検査液に含まれると想定される前記第2物質の含有量に基づいて設定された第1パルス電位幅に渡って、前記被検査液に対して与えるように前記印加部を制御し、かつ、前記初期電位の印加後に、前記第1物質の酸化電位に対応する目標電位を第2パルス電位幅に渡って、前記被検査液に対して与えるように前記印加部を制御するとともに、これらを1パルス周期として各電位を所定電位ずつ増加させながらパルス周期を複数回繰り返し、
前記演算部は、前記各初期電位及び目標電位が与えられたときに前記計測部が計測した電流値に基づいて、前記第1物質の含有量を算出することを特徴とする定量装置。
【請求項2】
前記第1パルス電位幅と前記第2パルス電位幅は同一の時間であることを特徴とする請求項
1に記載の定量装置。
【請求項3】
前記第2パルス電位幅は、前記第1パルス電位幅よりも短時間であることを特徴とする請求項
1に記載の定量装置。
【請求項4】
第1物質を含む被検査液に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、前記作用電極における前記第1物質の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて前記被検査液中の前記第1物質の含有量を定量する定量方法であって、
前記被検査液は、前記第1物質の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質を含み、
前記第1物質の酸化電位と前記第2物質の酸化電位との差は所定値以下であり、
前記第2物質の酸化電位に対応する初期電位を
、前記被検査液に含まれると想定される前記第2物質の含有量に基づいて設定された所定のパルス電位幅に渡って前記被検査液に対して与える初期電位印加ステップと、
前記初期電位印加ステップの後に、前記第1物質の酸化電位に対応する目標電位を所定のパルス電位幅に渡って前記被検査液に対して与える目標電位印加ステップと、
前記初期電位及び目標電位を与えたときに計測された電流値に基づいて前記第1物質の含有量を算出する含有量算出ステップと、
を備え、前記初期電位印加ステップと前記目標電位印加ステップは、各電位を所定電位ずつ増加させながら複数回に渡って繰り返して実行されることを特徴とする定量方法。
【請求項5】
第1物質を含む被検査液に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、前記作用電極における前記第1物質の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて前記被検査液中の前記第1物質の含有量を定量する定量プログラムであって、
前記被検査液は、前記第1物質の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質を含み、
前記第1物質の酸化電位と前記第2物質の酸化電位との差は所定値以下であり、
制御部による制御に基づいて、印加部により、前記第2物質の酸化電位に対応する初期電位を
、前記被検査液に含まれると想定される前記第2物質の含有量に基づいて設定された所定のパルス電位幅に渡って前記被検査液に対して与える初期電位印加ステップと、
前記制御部による制御に基づいて、前記印加部により、前記初期電位印加ステップの後に、前記第1物質の酸化電位に対応する目標電位を所定のパルス電位幅に渡って前記被検査液に対して与える目標電位印加ステップと、
前記初期電位及び目標電位を与えたときに計測部によって計測された電流値に基づいて、演算部により前記第1物質の含有量を算出する含有量算出ステップと、
を備え、前記初期電位印加ステップと前記目標電位印加ステップは、各電位を所定電位ずつ増加させながら複数回に渡って繰り返して実行されることを特徴とする定量プログラム。
【請求項6】
透析患者に接続されるダイアライザと、前記ダイアライザに透析液を供給し、前記ダイアライザから透析排液を排出する透析装置と、前記透析排液中の尿酸の含有量を算出する尿酸定量装置とを備えた透析システムであって、
前記尿酸定量装置は、
第1物質としての尿酸を含む透析排液に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、前記作用電極における前記尿酸の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて前記透析排液中の前記尿酸の含有量を定量する定量装置であって、
前記電圧を与える印加部と、
前記印加部を制御する制御部と、
前記作用電極における電流値を計測する計測部と、
前記計測部による計測結果に基づいて前記尿酸の含有量を算出する演算部とを備え、
前記透析排液は、前記尿酸の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質としてのアスコルビン酸を含み、
前記制御部は、前記アスコルビン酸の酸化電位に対応する初期電位を所定のパルス電位幅に渡って、前記透析排液に対して与えるように前記印加部を制御し、かつ、前記初期電位の印加後に、前記尿酸の酸化電位に対応する目標電位を所定のパルス電位幅に渡って、前記透析排液に対して与えるように前記印加部を制御するとともに、これらを1パルス周期として各電位を所定電位ずつ増加させながらパルス周期を複数回繰り返し、
前記演算部は、前記初期電位及び目標電位が与えられたときに前記計測部が計測した電流値に基づいて、前記尿酸の含有量を算出することを特徴とする透析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット物質と、このターゲット物質の酸化電位に近い酸化電位を有する第2物質とを含む被検査液について、ターゲット物質の定量を行うための定量装置、定量方法、及び、定量プログラムに関し、特に、前記被検査液としての透析排液についてターゲット物質の定量を行うための透析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の尿酸測定装置は、作用電極、参照電極、及び、対電極を空間部に有する尿酸測定センサ本体と、上記空間部内に被測定液が供給され、作用電極、参照電極、及び、対電極からの信号を検出制御する信号制御検出部と、この検出部で検出制御された信号が供給され、この信号から物質を分析する分析装置とを備え、上記作用電極は陽極酸化処理されたダイヤモンド薄膜電極で構成されている。特許文献1の尿酸測定装置では、上記構成によって、尿酸の測定において尿酸とアスコルビン酸との明確な識別を図ろうとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の尿酸測定装置においては、作用電極に対して陽極酸化処理という、電極の修飾処理が必要であり、装置の製造工程が複雑となり、製造コストが増加し、また、装置の使用開始後においては陽極酸化皮膜のメンテナンスが必要となるという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、電極に対する修飾処理を行うことなく、妨害物質が併存する被検査液に対してターゲット物質の定量を可能とする定量装置、定量方法、及び、定量プログラム、さらに、透析排液中のターゲット物質である尿酸の定量を可能とする透析システムを提供することを目的とする。特に、本願の発明者らは、電極を修飾することがなく、マルチ電位ステップボルタンメトリー(Multi Potential Step Voltammetry)により、妨害成分であるアスコルビン酸を酸化・除去した後に尿酸を選択的に検出する可能性を検討し、より簡便で迅速な定量手法を確立できた。以下に示す実施形態、実施例、及び参考例においては、所定パルス幅で電位を付与して初期値に戻るパルス周期を、付与する電位を増加させながら所定回数繰り返すパルスボルタンメトリーの電位波形を用い、1パルス周期のパルス幅は、第1パルス所定幅とこれよりも電位の高い第2パルス所定幅との二つのパルスステップから構成されており、電流のサンプリングはそれぞれのパルス所定幅において行われ、このような工程からなるパルス周期を、所定電位ずつ増加させながら設定した回数だけ繰り返し、各パルス周期毎に2点間の電流差を記録することで妨害物質が併存する被検査液に対してターゲット物質の定量を正確かつ簡便に行う装置等を実現するに至った。また、本発明は、被検査液のpH(水素イオン指数)を調整することなくターゲット物質の定量を行うことができる定量装置等を提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の定量装置、定量方法、定量プログラム、及び、透析システムは、以下の特徴を有する。
(1)本発明の定量装置は、ターゲット物資としての第1物質(例えば尿酸)を含む被検査液(例えば、透析排液、リン酸緩衝液)に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、作用電極における第1物質の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて被検査液中の第1物質の含有量を定量する定量装置であって、電圧を与える印加部と、印加部を制御する制御部と、作用電極における電流値を計測する計測部と、計測部による計測結果に基づいて第1物質の含有量を算出する演算部とを備え、被検査液は、第1物質の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質(例えばアスコルビン酸)を含み、第1物質の酸化電位と第2物質の酸化電位との差は所定値以下であり、制御部は、第2物質の酸化電位に対応する初期電位を、被検査液に含まれると想定される第2物質の含有量に基づいて設定された第1パルス電位幅に渡って、被検査液に対して与えるように印加部を制御し、かつ、初期電位の印加後に、第1物質の酸化電位に対応する目標電位を第2パルス電位幅に渡って、被検査液に対して与えるように印加部を制御するとともに、これらを1パルス周期として各電位を所定電位ずつ増加させながらパルス周期を複数回繰り返し、演算部は、各初期電位及び目標電位が与えられたときに計測部が計測した電流値に基づいて、第1物質の含有量を算出することを特徴とする。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の定量装置においては、第1パルス電位幅と第2パルス電位幅は同一の時間であることを特徴とする。
【0009】
(4)上記(1)又は(2)の定量装置においては、第2パルス電位幅は、第1パルス電位幅よりも短時間であることを特徴とする。
【0010】
(5)本発明の定量方法は、第1物質を含む被検査液に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、作用電極における第1物質の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて被検査液中の第1物質の含有量を定量する定量方法であって、被検査液は、第1物質の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質を含み、第1物質の酸化電位と第2物質の酸化電位との差は所定値以下であり、第2物質の酸化電位に対応する初期電位を、被検査液に含まれると想定される第2物質の含有量に基づいて設定された所定のパルス電位幅に渡って被検査液に対して与える初期電位印加ステップと、初期電位印加ステップの後に、第1物質の酸化電位に対応する目標電位を所定のパルス電位幅に渡って被検査液に対して与える目標電位印加ステップと、初期電位及び目標電位を与えたときに計測された電流値に基づいて第1物質の含有量を算出する含有量算出ステップとを備え、初期電位印加ステップと目標電位印加ステップは、各電位を所定電位ずつ増加させながら複数回に渡って繰り返して実行されることを特徴とする。
【0011】
(6)本発明の定量プログラムは、第1物質を含む被検査液に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、作用電極における第1物質の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて被検査液中の第1物質の含有量を定量する定量プログラムであって、被検査液は、第1物質の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質を含み、第1物質の酸化電位と第2物質の酸化電位との差は所定値以下であり、制御部による制御に基づいて、印加部により、第2物質の酸化電位に対応する初期電位を、被検査液に含まれると想定される第2物質の含有量に基づいて設定された所定のパルス電位幅に渡って被検査液に対して与える初期電位印加ステップと、制御部による制御に基づいて、印加部により、初期電位印加ステップの後に、第1物質の酸化電位に対応する目標電位を所定のパルス電位幅に渡って被検査液に対して与える目標電位印加ステップと、初期電位及び目標電位を与えたときに計測部によって計測された電流値に基づいて、演算部により第1物質の含有量を算出する含有量算出ステップとを備え、初期電位印加ステップと目標電位印加ステップは、各電位を所定電位ずつ増加させながら複数回に渡って繰り返して実行されることを特徴とする。
【0012】
(7)本発明の透析システムは、透析患者に接続されるダイアライザと、ダイアライザに透析液を供給し、ダイアライザから透析排液を排出する透析装置と、透析排液中の尿酸の含有量を算出する尿酸定量装置とを備えた透析システムであって、尿酸定量装置は、第1物質としての尿酸を含む透析排液に接触させた、作用電極と対極との間に電圧を与え、作用電極における尿酸の電気化学的酸化反応によって流れる電流値に基づいて透析排液中の尿酸の含有量を定量する定量装置であって、電圧を与える印加部と、印加部を制御する制御部と、作用電極における電流値を計測する計測部と、計測部による計測結果に基づいて尿酸の含有量を算出する演算部とを備え、透析排液は、尿酸の酸化電位よりも低い酸化電位を有する第2物質としてのアスコルビン酸を含み、制御部は、アスコルビン酸の酸化電位に対応する初期電位を所定のパルス電位幅に渡って、透析排液に対して与えるように印加部を制御し、かつ、初期電位の印加後に、尿酸の酸化電位に対応する目標電位を所定のパルス電位幅に渡って、透析排液に対して与えるように印加部を制御するとともに、これらを1パルス周期として各電位を所定電位ずつ増加させながらパルス周期を複数回繰り返し、演算部は、初期電位及び目標電位が与えられたときに計測部が計測した電流値に基づいて、尿酸の含有量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、電極に対する修飾処理を行うことなく、かつ、被検査液のpH(水素イオン指数)を調整することなく、妨害物質が併存する被検査液に対してターゲット物質の定量が可能な定量装置等を提供することができる。特に、電極を修飾することがなく、マルチ電位ステップボルタンメトリー(Multi Potential Step Voltammetry)により、妨害成分である第2物質を酸化させながらターゲット物質の第1物質を選択的に検出する手法として、パルスボルタンメトリーの電位波形を用い、1パルス周期を第1パルス所定幅とこれよりも電位の高い第2パルス所定幅との二つのパルスステップから構成し、電流のサンプリングをそれぞれのパルス所定幅において行い、このような工程からなるパルス周期を、所定電位ずつ増加させながら設定した回数だけ繰り返し、各パルス周期毎に2点間の電流差を記録することにより、妨害物質が併存する被検査液に対してターゲット物質の定量を正確かつ簡便に行う装置等を実現するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る透析システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態における尿酸濃度測定(定量)の手順を示すフローチャートである。
【
図3】(a)は被検査液に対して印加する電位のパターンの例を示すグラフ、(b)は(a)のA1部分の拡大図、(c)は(b)に示す電位を与えたときの電流応答を示すグラフである。
【
図4】アスコルビン酸の水溶液、尿酸の水溶液、及び、上記2つの水溶液を混合した水溶液のそれぞれに対して、作用電極と対極を接触させてこれらの間に電圧を印加した場合に流れる電流の変化を示した参考例におけるグラフである。
【
図5】アスコルビン酸の水溶液に作用電極と対極を接触させてこれらの間に電圧を印加した場合に流れる電流の変化を示したグラフである。
【
図6】尿酸の水溶液に作用電極と対極を接触させてこれらの間に電圧を印加した場合に流れる電流の変化を示したグラフである。
【
図7】アスコルビン酸と尿酸を含む水溶液に作用電極と対極を接触させて、これらの間に、アスコルビン酸の酸化電位に対応する電圧を印加した場合に流れる電流の変化を示したグラフである。
【
図8】アスコルビン酸と尿酸を含む水溶液に作用電極と対極を接触させて、これらの間に、尿酸の酸化電位に対応する電圧を印加した場合に流れる電流の変化を示したグラフである。
【
図9】電位を与えていないときの電圧と初期電位に対応する電圧との差を変えたときの、目標電位に対応する電圧の印加値に対する、測定電流の変化を示すグラフである。
【
図10】(a)、(b)は、尿酸を含むリン酸緩衝液を被検査液として、作用電極と対極に接触させて、これらの間に電圧を印加したときに測定される電流の変化を示すグラフである。
【
図11】尿酸とアスコルビン酸を含む透析排液を被検査液として、作用電極と対極に接触させて、これらの間に電圧を印加したときに測定される電流の変化を示すグラフである。
【
図12】
図10(a)、(b)、及び
図11で得られた結果に基づいて作成された、尿酸の濃度に対する電流の変化を示す検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る、定量装置、定量方法、定量プログラム、及び、透析システムについて図面を参照しつつ詳しく説明する。
(1)透析システムの構成
図1に示すように、本実施形態にかかる透析システム1は、血液透析装置10と、透析液供給装置20と、定量装置(尿酸定量装置)としての尿酸含有量測定装置40と、を備えている。
なお、以下の説明において、尿酸(Uric Acid)を「UA」、アスコルビン酸(Ascorbic Acid)を「AA」とそれぞれ称することがある。
【0016】
血液透析装置10は、血液浄化器としてのダイアライザ11を有している。ダイアライザ11には、血液導入口11a、血液排出口(浄化血液排出口)11b、透析液導入口11c、透析排液排出口11dが形成されている。ダイアライザ11内の血液導入口11aと血液排出口11bとの間には、血液導入口11aから導入された血液が血液排出口11bまで流れる血液流路が設けられている。血液流路上には、血液浄化膜が設けられている。より詳しくは、ダイアライザ11には血液流路として多数の中空糸膜が設けられ、血液が中空糸膜の内側を通過するようになっていて、この中空糸膜が血液浄化膜として機能する。また、ダイアライザ11内の透析液導入口11cと透析排液排出口11dとの間には、透析液導入口11cから導入された透析液が透析排液排出口11dまで流れる透析液流路が形成されている。より詳しくは、中空糸膜の外側を血液の送液方向とは逆方向に、透析液が流れるようになっている。なお、ダイアライザ11としては、公知の種々のものを用いることができる。
【0017】
血液導入口11aには、透析患者Aに接続された動脈側血液路12が接続されており、血液排出口11bには、透析患者Aに接続された静脈側血液路13が接続されている。また、透析液導入口11cには、透析液導入路(透析液導入配管)14の下流端が接続されており、透析排液排出口11dには、透析排液排出路(透析排液排出配管)15の上流端が接続されている。また、透析液導入路14および透析排液排出路15は、それぞれ透析液計量チャンバを備えた計量装置16に接続されており、透析液導入路14を介して所定量の透析液をダイアライザ11に供給するとともに、透析排液排出路15を介して所定量の排液を排出させる。この際、計量装置16で計量してダイアライザ11への供給量よりも排出量を多くすることで血液から徐水を行う。
【0018】
主に、ダイアライザ11、透析液導入路14、透析排液排出路15、計量装置16、不図示の透析液送液ポンプ、血液ポンプおよびクランプ等により、血液透析装置10が構成される。動脈側血液路12および静脈側血液路13を血液透析装置10に含めて考えてもよい。
【0019】
透析液導入路14の上流端には、透析液供給装置20が接続されている。透析液供給装置20は、所要の濃度に調製された透析液を、透析液導入路14を介してダイアライザ11へ供給するように構成されている。なお、血液透析装置10に透析液調製機能を備えている場合は、透析液供給装置20は省略される。
【0020】
透析排液排出路15の下流端は、透析排液を回収する透析排液回収部30に接続されている。
【0021】
また、透析排液排出口11dと透析排液回収部30との間の透析排液排出路15には、血液透析装置10の内部もしくは
図1に示す外部において尿酸含有量測定装置40が接続されている。尿酸含有量測定装置40については後述する。なお、通常は1台の透析液供給装置20から複数台の血液透析装置10に透析液を供給するよう透析システム1が構成されるが、その場合も各血液透析装置10に対応させて尿酸含有量測定装置40を設けるようにする。
【0022】
透析システム1が備える各装置(各部)は、演算回路を有するコンピュータとして構成された制御部121に接続されている。制御部121には、表示部、入出力装置等が接続されている。制御部121が内蔵する記憶回路には、透析プログラムその他のプログラムが読み出し可能に格納されている。制御部121の演算回路は、上記記憶回路に格納された透析プログラムなどのプログラムを読み出して、読み出したプログラムから与えられた指令に基づいて、各工程(例えば、後述の初期電位印加ステップや含有量算出ステップ)を実行する。よって、後述する透析手順、透析条件、尿酸濃度測定手順等が制御される。また、制御部121は、定量した尿酸濃度を記録したり、制御部121に接続された表示部に表示したり、定量した尿酸濃度に基づいて血液透析装置10や透析液供給装置20等の透析システム1を制御し、血液流量や透析液流量等を調整したりする。
なお、本実施形態では、制御部121は透析システム1全体を制御するよう説明するが、血液透析装置10、透析液供給装置20、尿酸含有量測定装置40のそれぞれにおいて制御部を備え、これらを透析システム1とし連動させてもよい。
【0023】
(2)尿酸含有量測定装置の構成
尿酸含有量測定装置40について、
図1を参照しながら詳細に説明する。尿酸含有量測定装置40は、三電極方式による電気化学的測定を行って尿酸の含有量を算出するように構成されている。より具体的には、作用電極と、対極とを、尿酸を含む被検査液に接触させた状態で、作用電極と対極との間に所定の電圧を印加することで尿酸を電気分解し、尿酸の電気分解により流れる電流の値を測定し、測定した電流値に基づいて、ターゲット物質としての尿酸の含有量(濃度)を定量する。
【0024】
上述のように、尿酸含有量測定装置40は、透析排液排出口11dと透析排液回収部30との間の透析排液排出路15に接続されている。尿酸含有量測定装置40は、被検査液を収容する容器41を有している。容器41には、被検査液導入口41aと、検査排液排出口41bと、が設けられている。
【0025】
被検査液導入口41aには、被検査液導入路42の下流端が接続され、被検査液導入路42の上流端は透析排液排出路15に接続されている。被検査液導入路42には、開閉弁であるバルブV1が設けられている。被検査液導入路42からは、被検査液としての透析排液がバルブV1を介して容器41内へ供給される。
【0026】
検査排液排出口41bは、容器41の側壁下方に設けられている。検査排液排出口41bには、検査排液排出路45の上流端が接続され、検査排液排出路45の下流端は、検査排液を回収するように構成された検査排液回収部46に接続されている。検査排液排出路45には、バルブV2が設けられている。検査排液排出路45からは、検査排液である透析排液(被検査液)を含む溶液54が、バルブV2を介して検査排液回収部46へ導入されて回収される。
【0027】
容器41内には、作用電極51、対極52、および参照電極53が、透析排液を含む溶液54に接触する(浸漬する)ように配置されている。
【0028】
作用電極51としては、例えば、グラス状カーボン(グラッシーカーボン)、白金、導電性ダイヤモンドを用い、陽極酸化その他の修飾処理を行わずに用いることができる。
【0029】
対極52としては、例えば、ステンレスやワイヤ状、メッシュ状、又はコイル状の白金を用いる。参照電極53としては、例えば、銀/塩化銀電極、飽和カロメル電極(Hg/Hg2Cl2)を用いる。
【0030】
上述の尿酸の電気分解においては、作用電極51と対極52との間に電圧を印加した際に作用電極51上で電気化学的酸化反応が起きる。サイクリックボルタンメトリーにおける酸化反応では、+0.34V程度の電圧を印加した際に最も大きくなる。しかしながら、透析排液中には、尿酸以外の種々の成分が含まれており、これらについても、作用電極51と対極52との間に電圧を印加した際に作用電極51上で電気化学的酸化反応が起きる。
【0031】
ここで、透析排液中に含まれる成分のうち、アスコルビン酸(AA)では、+0.19V程度の電圧を印加した際に、電気化学的酸化反応が最も大きくなる。尿酸とアスコルビン酸とでは、電気化学的酸化反応が最も大きくなる「酸化電位」が互いに近いため、電気分解により流れる電流値の変化によって尿酸の含有量を算出する場合に、アスコルビン酸に起因する電流値の変化が重畳されてしまうことから、尿酸の含有量算出の妨げとなってしまう場合がある。
なお、尿酸は老廃物として血液中から透析液に排出されるが、尿酸濃度は血中と透析排液で相関性が高く、透析排液の尿酸濃度を測定することで血中の尿酸濃度を推測することも可能である。一方でアスコルビン酸はビタミンCのことであり、体内に吸収されると血液により運ばれることから透析時は透析液に排出されるため、透析排液中の尿酸濃度を測定する場合には、透析排液からアスコルビン酸を取り除くことが必要となる。
【0032】
作用電極51、対極52、参照電極53等は、制御部121が備えるポテンショスタット121A(
図1参照)に接続されている。ポテンショスタット121Aは、作用電極51と対極52との間に電圧を印加し、後述の電解電流を測定し、さらには参照電極53の電位を基準として作用電極51の電位を一定に維持するように構成されている。
すなわち、ポテンショスタット121Aは、作用電極51と対極52との間に電圧を与える印加部、及び、作用電極51における電流値を計測する計測部として機能する。計測部としてのポテンショスタット121Aは、単位時間あたりの電流値を測定する。制御部121上で実行されるプログラムによって、ポテンショスタット121Aの電圧印加手順、電流値計測手順が制御される。制御部121は、計測部による計測結果に基づいて尿酸の含有量を算出する演算部としても機能する。
【0033】
(3)尿酸濃度測定方法・尿酸濃度測定プログラム
図2は、尿酸濃度測定の手順を示すフローチャート、
図3(a)、(b)は、印加電位波形を、
図3(c)は、電流―電位曲線(ボルタモグラム)を示している。以下に、上述の尿酸含有量測定装置40を用い、透析システム1において、電気化学的測定を行って被検査液中の尿酸濃度を測定する方法及びプログラムについて説明する。以下の説明において、尿酸含有量測定装置40を含む透析システム1を構成する各部材の動作は制御部121により制御される。
【0034】
透析が開始されると、透析患者Aから脱血されて動脈側血液路12を流れた血液が、血液導入口11aを介して、ダイアライザ11内の血液流路に導入される。血液流路内に導入された血液は、血液流路内を通過し、血液排出口11bおよび静脈側血液路13を介して、透析患者Aに戻される。また、透析液供給装置20から、透析液が、透析液導入路14および透析液導入口11cを介して、ダイアライザ11内の透析液流路に導入される。透析液流路内に導入された透析液は、透析液流路内を通過し、透析排液排出口11dおよび透析排液排出路15を介して、透析排液回収部30に回収される。
【0035】
血液流路内に導入された血液が血液流路に設けられた血液浄化膜としての中空糸膜を通過する際、血液が中空糸膜を介して中空糸膜の外側の透析液流路内を流れる透析液と接触し、血液中の老廃物や余分な水分等が透析液内に透過される。これにより、透析患者Aから脱血した血液が浄化され、浄化血液が透析患者Aに戻される。本実施形態では、透析患者Aの血液を浄化しつつ、透析排液排出口11dから排出された透析液(透析排液)が透析排液排出路15を流れる際に尿酸含有量測定装置40を用いて透析排液の尿酸の濃度を測定する。
【0036】
尿酸含有量測定装置40を用いた尿酸濃度測定方法及び尿酸濃度測定プログラムでは、
図2に示すように、初期設定(ステップS1)の後に、初期電位印加ステップ(ステップS2)と、目標電位印加ステップ(ステップS3)と、初期値印加ステップ(カウントステップ)(ステップS4)と、含有量算出ステップ(ステップS5)と、判断ステップ(ステップS6)と、が順に実行され、判断ステップ(ステップS6)における判断にしたがってステップS2~S5の濃度測定のサイクルが終了すると、検査排液の回収ステップ(ステップS6)が実行される。各ステップについては、制御部121に格納されたプログラムから与えられた指令に基づいて、制御部121の演算回路が、各ステップにかかわるハードウエアの動作を制御する。
【0037】
(a)初期設定(ステップS1)
初期設定(ステップS1)においては、静止時間Tsと初期値Ei、初期電位印加ステップ(ステップS2)で初期電位を印加するための、初期値Eiから初期電位にステップ(正電位側への増加)する際の基礎電位(
図3の電位Es)と、初期電位を印加する時間としての第1パルス電位幅(
図3の時間t1)と、目標電位印加ステップ(ステップS3)で目標電位を印加するための、初期電位から目標電位にステップ(正電位側への増加)する際のパルス電位(
図3の電位ΔE)と、目標電位を印加する時間としての第2パルス電位幅(
図3の時間t2)と、目標電位から初期値Eiに戻って次のパルス周期に移行するまでの待機時間Twと、パルス周期の繰り返し回数nと、各パルス電位幅t1、t2において電流値を測定するサンプリングタイミングst1、st2とが設定される。設定は不図示の入力装置を用いて行い入力結果は制御部121内の記憶装置に保存される。第1パルス電位幅t1は、被検査液に含まれる第2物質としてのアスコルビン酸の想定量に基づいて設定する。第1パルス電位幅t1を適切に設定することにより、そのパルス周期における初期電位の印加中に反応するアスコルビン酸の多く又は全てを酸化させることができるため、第1パルス電位幅t1の経過後に、第1物質(ターゲット物質)としての尿酸に目標電位を与えて電気化学的酸化反応を起こさせると、そのときに計測される電流量における、アスコルビン酸の影響を小さく抑えることができ、尿酸の定量を正確に行うことが可能となる。なお、初期電位印加ステップ(ステップS2)で印加する初期電位は、初期値Ei+基礎電位Es×パルス周期の繰り返し回数nとなり、目標電位印加ステップ(ステップS3)で印加する目標電位は、初期値Ei+基礎電位Es×パルス周期の繰り返し回数n+パルス電位ΔEとなる。また、サンプリングタイミングst1、st2は、そのパルス周期における各パルス電位幅t1、t2において等しいタイミングとなるよう設定しており、本実施例では各パルス電位幅t1、t2の3/4のタイミングで電流値を測定している。
【0038】
ここで、「電位」は、被検査液に作用電極51と対極52を接触させた状態で作用電極51と対極52との間に印加される場合の電圧に対応し、参照電極の電位を基準にして、作用電極51に印加している電位を想定している。
【0039】
そして、目標電位は、第1物質としての尿酸の酸化電位に対応する電位であり、初期電位は、第2物質としてのアスコルビン酸の酸化電位に対応する電位である。ここで、尿酸の酸化電位とアスコルビン酸の酸化電位との差は所定値以下である。この「所定値以下」とは、尿酸(第1物質)に電気化学的酸化反応を起こさせたときに測定される電流に基づく定量において、アスコルビン酸(第2物質)の電気化学的酸化反応の影響が無視できない程度に互いの酸化電位が近いことを意味する。
【0040】
本発明のマルチ電位ステップボルタンメトリーは、尿酸(第1物質)とアスコルビン酸(第2物質)のいずれもが酸化されない電位として初期値Eiを設定し、この初期値Eiから目標電位を印加して初期値Eiに戻る1回のパルス周期において、目標電位よりも低い初期電位を第1パルス電位幅t1に渡って印加した後で、目標電位を第2パルス電位幅t2に渡って印加するようになっている。そして、このようなパルス周期を初期電位と目標電位を段階的に増加させながら繰り返すようになっており、各第1パルス電位幅t1と第2パルス電位幅t2の所定のサンプリングタイミングst1、st2で、そのパルス周期における初期電位の電流値I1と目標電位の電流値I2を測定し、それらの電流差i(I2-I1)を算出する。電位を印加するパルス周期は、尿酸(第1物質)とアスコルビン酸(第2物質)がともに酸化反応が生じにくい電位から、酸化反応が生じる電位に向けて段階的に電位が高まるようになっており、アスコルビン酸(第2物質)は尿酸(第1物質)よりも酸化電位が低いことから、印加電位を段階的に高める場合では、初期電位で測定される電流値I1には常にアスコルビン酸(第2物質)による酸化の影響が強く表れる。初期電位を印加した後でパルス電位ΔEだけ上昇させた目標電位では、アスコルビン酸(第2物質)は既に酸化が進んでいるため、電流値I2には尿酸(第1物質)の影響が強く表れる。さらに、このような電流値I2から電流値I1を減算することで、電流差iはより顕著に尿酸(第1物質)の酸化反応の度合いを現した数値となる。このようにして求めた各パルス周期毎の電流差iについて、初期値Ei+基礎電位Es+パルス電位ΔEから基礎電位Esずつシフトさせた電位に対応させていくことで、
図3(c)の電流―電位曲線(ボルタモグラム)が得られる。求められた各パルス周期毎の電流差iのうち最も高い値(電流―電位曲線のピーク値)を、事前に作成した検量線に当てはめることで、尿酸(第1物質)の含有量を定量することができる。
【0041】
また、初期設定(ステップS1)においては、尿酸濃度測定を繰り返し行う際の指標となる数字を設定する。この数字としては、例えば、含有量算出ステップ(ステップS5)で算出される電流値に対する閾値が挙げられる。含有量算出ステップで算出される電流値が上記閾値よりも大きい場合は、再び行う尿酸濃度測定における初期電位印加ステップを実行する時間(第1のパルス電位幅(
図3のt1))を、初回の初期電位印加ステップにおける時間よりも長く設定する。
【0042】
なお、第1パルス電位幅t1及び第2パルス電位幅t2は、含有量算出ステップ(ステップS5)における算出結果などに応じて、例えば被検査液に含まれると想定されるアスコルビン酸(第2物質)の含有量に基づいて、第1パルス電位幅t1及び第1目標電位印加時間t2とそれぞれ同じ時間に設定してもよいし変更してもよい。
【0043】
(b)初期電位印加ステップ(ステップS2)
バルブV1を開き、被検査液としての透析排液を被検査液導入路42から容器41内へ供給する。所定量(例えば5cc)の透析排液(被検査液)を容器41内に供給したらバルブV1を閉じる。つづいて、作用電極51と、対極52とを、尿酸を含む被検査液に接触させた状態で、作用電極51と対極52との間に、第2物質としてのアスコルビン酸の酸化電位に対応する電圧(初期電位:Ei+Es×n)を印加して、透析排液(被検査液)に電気化学的酸化反応を起こさせる。この電圧の印加時間はあらかじめ定めた第1パルス電位幅t1である。初期電位に対応する電圧の印加は、制御部121による制御に基づいて印加部としてのポテンショスタット121Aによって行われる。サンプリングタイミングst1で電気化学的酸化反応により生じる電流値を測定し、電流値I1として記録する。
【0044】
(c)目標電位印加ステップ(ステップS3)
初期電位印加ステップの後に、作用電極51と、対極52とを、尿酸を含む被検査液に接触させたままの状態で、作用電極51と対極52との間に、第1物質としての尿酸の酸化電位に対応する電圧(目標電位:Ei+Es×n+ΔE)を印加して、透析排液(被検査液)に電気化学的酸化反応を起こさせる。この電圧の印加時間はあらかじめ定めた第2パルス電位幅t2である。目標電位に対応する電圧の印加についても、制御部121による制御に基づいて印加部としてのポテンショスタット121Aによって行われる。電気サンプリングタイミングst2で化学的酸化反応により生じる電流値を測定し、電流値I2として記録する。
(d)初期値印加ステップ(ステップS4)
目標電位の印加の後で初期値Eiを印加して、初期電位の印加、目標電位の印加、初期値Eiの印加からなるパルス周期の実行回数をカウントし、予め設定した繰り返し回数nを達成した場合は次の含有量算出ステップに移行し、達成していなければ引き続き次のパルス周期に従う電位の印加を実施する。
【0045】
(e)含有量算出ステップ(ステップS5)
初期電位印加ステップにおいて主にアスコルビン酸が電気分解され、また、目標電位印加ステップにおいて主に尿酸が電気分解されることにより、それぞれ、作用電極51と対極52との間に見かけ上電流(酸化電流、以下、この電流を電解電流とも称する)が流れる。この電解電流の値(電解電流の量)は、初期電位印加ステップと目標電位印加ステップの両方で、所定のサンプリングタイミングst1、st2において121Aにより測定される。そして、含有量算出ステップでは、各パルス周期毎の目標電位印加ステップで記録した電流値I2から、対応する各パルス周期毎の初期電位印加ステップで記録した電流値I1を減算して、各パルス周期毎の電流差iを算出し、最も大きな値の電流差iを求める。求めた電流差iを、登録されている検量線に当てはめて尿酸の含有量として定量する。目標電位印加ステップの前に初期電位印加ステップにおいてアスコルビン酸の酸化電位に対応する初期電位を第1パルス電位幅t1に渡って与えているため、目標電位印加ステップの開始前に、酸化電位が尿酸に近いアスコルビン酸の多くが電気化学的酸化反応によって酸化されていることから、目標電位印加ステップにおいて流れる電解電流は尿酸の電気化学的酸化反応によるものであることが推定でき、精度の高い定量が可能となる。
【0046】
(f)判断ステップ(ステップS6)
制御部121は、含有量算出ステップ(ステップS5)の後に、所定の透析時間が終了するまでに次のサイクルの濃度測定が可能かどうかを判断し、測定が可能である場合(ステップS6でYES)は、初期電位印加ステップ(ステップS2)、目標電位印加ステップ(ステップS3)、初期値印加ステップ(ステップS4)及び、含有量算出ステップ(ステップS5)の濃度測定のサイクルを再び実行する。濃度測定のサイクルを再び実行する場合には、上述と同様の手順でバルブV1の開閉動作を行い、透析排液を被検査液導入路42から容器41内に再度供給し、溶液54中に被検査液(透析排液)を累加する。
【0047】
ここで、直近の含有量算出ステップで算出された最も大きな電流値iが、初期設定(ステップS1)で設定した閾値より大きいときには、初期電位印加ステップにおけるアスコルビン酸の酸化が十分ではないためにアスコルビン酸が残っている影響により電流値が大きくなっていると判断し、次の初期電位印加ステップの実行時間を直前の初期電位印加ステップにおける実行時間(第1パルス電位幅t1)よりも長い時間に設定するとよい。
【0048】
これに対して、含有量算出ステップで算出された最も大きな電流値iが初期設定で設定した閾値以下であったときは、次の初期電位印加ステップの実行時間を直前の初期電位印加ステップにおける実行時間(第1パルス電位幅t1)と同一のまま維持する。
【0049】
(g)検査排液の回収ステップ(ステップS7)
判断ステップ(ステップS6)において、所定の透析時間の終了までに次のサイクルの濃度測定ができないと判断した場合(ステップS6でNO)、制御部121は、バルブV2を開けて検査排液としての容器41内の溶液54を検査排液排出路45から検査排液回収部46に導入して回収する。
【0050】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(a)測定の対象となる第1物質、例えば尿酸の被検査液における含有量を、電気化学的酸化反応の際に流れる電流に基づいて算出する場合に、酸化電位が第1物質に近いために上記算出の妨げとなる第2物質、例えばアスコルビン酸が存在する場合であっても、第1物質の酸化電位を印加する前に、第2物質の酸化電位を印加して電気化学的酸化反応を進行させておくことにより、反応に用いる電極に修飾を施すことなく、簡便、迅速、かつ、正確に第1物質の含有量を算出、すなわち定量することが可能となる。
【0051】
(b)第2物質の酸化電位を印加すれば第2物質の酸化が進行し、第1物質の含有量の測定の妨げとならないため、水溶液のpHを調整することなく定量を行うことができる。
【0052】
(c)第2物質の酸化電位の印加(初期電位印加ステップ)の時間を調整することにより、第2物質の含有量が多い場合にも、第1物質の定量の精度を確保することができる。
【0053】
(d)濃度測定のサイクルを繰り返すことにより、被検査液を累加又は交換しつつ、連続的に定量を行うことができ、連続的に定量した結果の平均値をとるなどによって、より信頼性の高い定量結果を得ることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、以下のような、別の実施形態や変形も可能である。
【0055】
上述の実施形態では、三電極方式による電気化学的測定により尿酸の濃度を検出する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、参照電極53を設けることなく、作用電極51と対極52とを用いた二電極方式による電気化学的測定により尿酸を検出してもよい。
【0056】
また、上述の実施形態では、尿酸含有量測定装置40が透析システム1内に設けられる場合について説明したが、これに限定されず、透析システム1とは独立した形態としてもよく、透析排液排出路15にサンプリングポートを設け、シリンジ等を用いて透析排液を取り出して容器41に滴下するようにしてもよい。また、測定対象として、透析排液のほか、排尿、血液等の液状体液に含まれる尿酸濃度を測定する場合に用いてもよい。
【0057】
上記実施形態では、所定の透析時間が終了するまでで、可能な限り、濃度測定のサイクルを繰り返すこととしていたが、判断ステップにおいて、直近の所定回数のサイクルにおいて算出した含有量の値が、あらかじめ定めた所定範囲内に収まったと判断した場合は、所定の透析時間の残り時間に関わらず、含有量の測定結果が安定してきたことを測定者等に通知するようにしてもよい。通知は、制御部121の制御により、例えば、透析システム1が備える通知装置が行う。通知装置は、例えば、通知表示を行う表示部、通知音を発するスピーカー部を有する。通知を行う判断のための上記所定回数や上記所定範囲は、測定対象となる被験者の測定時の体調、過去の測定履歴などを勘案して定め、例えば所定回数として5回、所定範囲として電流値のばらつきがプラスマイナス5%以内とすることができる。
【0058】
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について、実施例及び参考例に基づいて説明する。
初期電位印加ステップ又は目標電位印加ステップにおいて印加する電位と、印加による作用電極における電流の測定値の変化に関する実施例及び参考例について、
図4~
図12を参照して説明する。
図4~
図12に示す参考例又は実施例では、電位は、上記作用電極51と対極52との間の電圧として印加し、参照電極53の電位を基準として電位を測定し、作用電極51における電流値を測定する。
【0059】
(参考例)
まず、初期電位印加ステップ(ステップS2)においてアスコルビン酸の酸化が十分でない場合の電解電流への影響について、
図4のサイクリックボルタモグラムで説明する。
図4は、アスコルビン酸の水溶液S1(曲線L1a)、尿酸の水溶液S2(曲線L1u)、及び、上記2つの水溶液S1、S2を混合した水溶液T(曲線L1t)のそれぞれに対して、作用電極と対極を接触させてこれらの間に電圧(横軸、単位V)を印加した場合に流れる電流(縦軸、単位μA)の変化を示したグラフである。アスコルビン酸の水溶液S1には尿酸は含まれておらず、尿酸の水溶液S2にはアスコルビン酸は含まれていない。
【0060】
水溶液S1、S2を混合した水溶液Tでは、アスコルビン酸の水溶液S1と同じく略0.19Vに電流変化の第1のピークP1tがあり、かつ、そのピークP1tにおける電流値は水溶液S1の場合の電流値と略同一である。すなわち、水溶液S1のピークP1aと水溶液S2の第1のピークP1tはほぼ重なっている。
【0061】
水溶液Tにおいては、尿酸の水溶液S2と同じく略0.34Vに第2のピークP1u’がある。しかし、このピークP1u’における電流値は、水溶液S2の場合のピークP1uにおける電流値よりも大幅に大きくなっており、第1のピークP1tとほぼ同じ電流値となっている。これにより、アスコルビン酸の水溶液S1と尿酸の水溶液S2を混合すると、アスコルビン酸に基づいて変化する電流の影響によって、尿酸の水溶液S2の電流変化のピークP1uが上側へ大きくシフトしていることが分かる。
【0062】
図4に示すように、アスコルビン酸の水溶液S1では約0.19Vに電流変化のピークP1aが現れている。これに対して、尿酸の水溶液S2では約0.34Vに電流変化のピークP1uが現れておりそれぞれの酸化ピーク電位が極めて近いため、尿酸を選択的な検出が困難である。
【0063】
次に、電位を印加する時間と測定される電流との関係について、
図5と
図6を参照して説明する。
図5と
図6は、それぞれの水溶液に作用電極と対極を接触させてこれらの間に電圧(横軸、単位V)を印加した場合に流れる電流(縦軸、単位μA)の変化を示したグラフである。
図5はアスコルビン酸の水溶液、
図6は尿酸の水溶液に対するグラフである。
図5において、5本の曲線L21、L22、L23、L24、L25は、それぞれ、電圧の印加時間(印加波形のパルス幅)を0.3秒、0.5秒、1.0秒、2.0秒、5.0秒とした場合を示している。
図6において、5本の曲線L31、L32、L33、L34、L35は、それぞれ、電圧の印加時間(印加波形のパルス幅)を0.3秒、0.5秒、1.0秒、2.0秒、5.0秒とした場合を示している。
【0064】
図5に示すように、アスコルビン酸の水溶液においては、印加時間の長短に関わらず電流変化のピークは同じ電圧値で現れており、印加時間が長いほどピークにおける電流値が小さくなっている。このような傾向は、
図6に示す尿酸の水溶液においても同様であって、印加時間の長短に関わらず電流変化のピークは同じ電圧値で現れており、印加時間が長いほどピークにおける電流値が小さくなっている。
図5と
図6に示す結果より、まず、アスコルビン酸、尿酸のいずれにおいても、電気化学的酸化反応がピークとなる電圧(電位)が存在することが分かる。さらに、電圧の印加時間を長くすることにより、電気化学的酸化反応が十分に進行するため、反応物としてのアスコルビン酸又は尿酸の量が減少することも分かる。
【0065】
つづいて、アスコルビン酸の酸化電位に対応する電圧を印加する時間と測定される電流について、
図7を参照して説明する。
図7は、アスコルビン酸の水溶液と尿酸の水溶液を混合した水溶液に作用電極と対極を接触させてこれらの間に電圧(横軸、単位V)を印加した場合に流れる電流の変化を示したグラフである。印加電圧は、アスコルビン酸の酸化電位に対応する電圧であって、3本の曲線L41、L42、L43は、それぞれ、電圧の印加時間(印加波形のパルス幅)を0.5秒、1.0秒、5.0秒とした場合を示している。なお、3本の曲線L41、L42、L43は、電流値の変化を比較するために縦方向にずらして表示しているが、互いの電流値の大小関係を示しているのではない。
【0066】
図7に示す3本の曲線L41、L42、L43を比較して分かるように、印加時間が短い曲線L41では、約0.3Vの尿酸の酸化電位に対応する電流のピークのほかに、約0.1V付近にアスコルビン酸の酸化電位に対応するピークがあるのに対して、印加時間を長くするほどアスコルビン酸の酸化電位に対応するピークは小さくなっている。これにより、アスコルビン酸の酸化電位に対応する電圧の印加時間を所定の範囲まで長くとることにより、尿酸の酸化電位に対応するピークが明確となった曲線を得ることができる。よって、この状態で尿酸の酸化電位に対応する電圧を印加すれば、測定された電流値によって精度の高い定量を行うことが可能となる。
【0067】
尿酸の酸化電位に対応する電圧を印加する時間と測定される電流について、
図8を参照して説明する。
図8は、アスコルビン酸の水溶液と尿酸の水溶液を混合した水溶液に作用電極と対極を接触させてこれらの間に電圧(横軸、単位V)を印加した場合に流れる電流(縦軸)の変化を示したグラフである。
図8は、第1パルス電位幅t1の変化に伴う電流応答の変化を示すグラフである。印加電圧は、尿酸の酸化電位に対応する電圧であって、3本の曲線L51、L52、L53は、それぞれ、電圧の印加時間(印加波形のパルス幅)を5ms、20ms、100msとした場合を示している。なお、3本の曲線L51、L52、L53は、電流値の変化を比較するために縦方向にずらして表示しているが、互いの電流値の大小関係を示しているのではない。
【0068】
図8に示す3本の曲線L51、L52、L53を比較して分かるように、印加時間が短い曲線L51では、約0.22Vの尿酸の酸化電位に対応する電流のピークが明確に現れているのに対して、印加時間を長くするほどアスコルビン酸の酸化電位に対応するピークが顕著に現れるようになっている。これにより、尿酸の酸化電位に対応する電圧の印加時間を所定の範囲までの短い時間にすることにより、尿酸の酸化電位に対応するピークが明確となった曲線を得ることができる。よって、この曲線に基づいて測定された電流値によって精度の高い定量を行うことが可能となる。
【0069】
これらより、目標電位を印加する第2パルス電位幅t2は、初期電位を印加する第1パルス電位幅t1よりも短時間である方が尿酸の定量を顕著なものとすることが明らかであり、より詳細には、第1パルス電位幅t1を1.0~5.0sに第2パルス電位幅t2は5~20msに設定することにより、高精度な定量化が可能である。
【0070】
図9は、電位を与えていないときの電圧(基礎電位Es)と初期電位に対応する電圧との差(パルス電位ΔE)を変えたときの、目標電位に対応する電圧の印加値に対する、測定電流の変化を示すグラフである。
図9における4つの線L61、L62、L63、L64は、それぞれ、パルス電位ΔEが0.50V、0.30V、0.15V、0.001Vであるときを示している。
図9に示す結果においては、初期電位を与える前の、電位を与えていない状態における電圧を0.004Vとし、初期電位印加ステップにおいて、上記0.0004Vから電圧をΔEだけ上昇させた電圧を、初期電位に対応する電圧として5秒与えた後に、目標電位に対応する電圧を5ms与えて電流を測定している。なお、4本の線L61、L62、L63、L64は、電流値の変化を比較するために縦方向にずらして表示しているが、互いの電流値の大小関係を示しているのではない。
【0071】
図9に示すように、パルス電位ΔEが0.15Vである曲線L63において、0.25V近傍に尿酸の酸化電位に対応する電流のピークが現れている一方、ほかの3本の線L61、L62、L64においては、明確にピークが現れなかった。したがって、パルス電位ΔEを0.15V前後の所定範囲で設定することにより、尿酸の定量を精度良く行うことが可能となることが分かる。
【0072】
(実施例)
図10(a)、(b)は、尿酸を含む、pH7.4のリン酸緩衝液を被検査液として上記実施形態の手法であるマルチ電位ステップボルタンメトリー手法で被検査液を、作用電極51と対極52に接触させて、これらの間に電圧を印加したときに測定される電流の変化を示すグラフである。
図10(a)は、被検査液がアスコルビン酸を含まない場合であって、5本の曲線L71、L72、L73、L74、L75は、それぞれ、被検査液に含まれる尿酸の濃度を300μM、200μM、100μM、75μM、50μMとした場合を示している。
図10(b)は、被検査液がアスコルビン酸を200μMの濃度で含まれる場合であって、5本の曲線L76、L77、L78、L79、L80は、それぞれ、被検査液に含まれる尿酸の濃度を300μM、200μM、100μM、75μM、50μMとした場合を示している。
図10(a)、(b)に示す結果においては、初期電位印加ステップにおける初期電位に対応する電圧0.004Vを5秒与えた後に、電圧を0.15V上昇させて、この電圧を5ms与えた後に電流を測定している。
【0073】
図10(a)に示すように、アスコルビン酸を含まないリン酸緩衝液では、0.24V付近の尿酸の酸化電位に対応するピークは維持しながら、尿酸の濃度が増えるほどピークにおける電流値も増大している。
図10(b)に示すように、アスコルビン酸を含むリン酸緩衝液においても、0.25V付近の尿酸の酸化電位に対応するピークは維持しながら、尿酸の濃度が増えるほどピークにおける電流値も増大している。
【0074】
図11は、尿酸とアスコルビン酸を含み、pHが7.42である透析排液を被検査液として、上記実施形態の手法であるマルチ電位ステップボルタンメトリー手法で被検査液を、作用電極51と対極52に接触させて、これらの間に電圧を印加したときに測定される電流の変化を示すグラフである。
図11において、5本の曲線L81、L82、L83、L84、L85は、それぞれ、被検査液に含まれる尿酸の濃度を300μM、200μM、100μM、75μM、50μMとした場合を示している。なお、この透析排液には、尿酸とアスコルビン酸のほかに、Na
+、K
+、Ca
2+、Mg
2+、Cl
-、HCO
3
-、CH
3COO
-といったイオンや、ブドウ糖が含まれている。
図11に示す結果においては、初期電位印加ステップにおける初期電位に対応する電圧0.004Vを5秒与えた後に、電圧を0.15V上昇させて、この電圧を5ms与えた後に電流を測定している。
【0075】
図11に示すように、
図10(a)、(b)に示すリン酸緩衝液の場合と同様に、透析排液においても、0.24V付近の尿酸の酸化電位に対応するピークは維持しながら、尿酸の濃度が増えるほどピークにおける電流値も増大している。
【0076】
図12は、
図10(a)、(b)、及び
図11で得られた結果に基づいて作成された、尿酸の濃度(横軸、単位μM)に対する電流の変化を示す検量線を示すグラフである。
図12における3本の直線L91、L92、L93は、それぞれ、尿酸を含むがアスコルビン酸を含まないリン酸緩衝液(
図10(a))、尿酸とアスコルビン酸を含むリン酸緩衝液(
図10(b))、尿酸とアスコルビン酸を含む透析排液(
図11)に基づく検量線である。
【0077】
図12に示すように、リン酸緩衝液(
図10(a)、(b))と透析排液(
図11)のいずれにおいても、尿酸濃度と電流は直線関係を示している。したがって、初期電位及び目標電位に対応する電圧値、並びに、これらの電圧の印加時間を所定の範囲に設定することにより、酸化電位の近いアスコルビン酸の影響を抑えて高い精度で尿酸の定量を行うことができることが分かる。さらに、
図12の直線L91、L92で示す場合は、直線L93で示す透析排液と同様に、pH7程度の中性の条件で電圧が印加されており、ほぼ同様の傾きの直線を得ていることから、pHを調整することによってアスコルビン酸の影響を抑える必要がないため、簡便かつ迅速に定量を行うことができる。
【符号の説明】
【0078】
1 透析システム
10 血液透析装置(透析装置)
11 ダイアライザ
20 透析液供給装置
30 透析排液回収部
40 尿酸濃度測定装置(定量装置、尿酸定量装置)
46 検査排液回収部
51 作用電極
52 対極
53 参照電極
121 制御部(演算部)
121A ポテンショスタット(印加部、計測部)
A 透析患者