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特許7466865自己抜去発生予測装置、自己抜去発生予測方法、プログラム、転倒転落発生予測装置、転倒転落発生予測方法および医療安全性向上支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】自己抜去発生予測装置、自己抜去発生予測方法、プログラム、転倒転落発生予測装置、転倒転落発生予測方法および医療安全性向上支援方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20240408BHJP
【FI】
G16H50/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020135195
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030883
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515318326
【氏名又は名称】サスメド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】明智 龍男
(72)【発明者】
【氏名】久保田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】市川 太祐
【審査官】鹿谷 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194807(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199445(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0221315(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2018-0050812(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測する自己抜去発生予測装置であって、
ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測部と、
前記予測部の教師あり学習を行う学習部とを備え、
前記学習部によって行われる教師あり学習に用いられる教師データには、
自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、
前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、
前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記学習部による教師あり学習が行われた前記予測部は、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かを予測し、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、
自己抜去発生予測装置。
【請求項2】
前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、
前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、
前記自己抜去発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、
前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、
前記コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、
前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、
前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる、
請求項1に記載の自己抜去発生予測装置。
【請求項3】
前記自己抜去発生予測装置のアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いる、
請求項2に記載の自己抜去発生予測装置。
【請求項4】
前記予測部は、
前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれる薬剤が向精神薬であるか否かに応じて、前記予測対象患者が前記所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かの予測の重み付けを異ならせる、
請求項2に記載の自己抜去発生予測装置。
【請求項5】
入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測する自己抜去発生予測方法であって、
ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測ステップと、
前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを備え、
前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、
自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、
前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、
前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かが予測され、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、
自己抜去発生予測方法。
【請求項6】
コンピュータに、
入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測ステップと、
前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップと
を実行させるためのプログラムであって、
前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、
自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、
前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、
前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かが予測され、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、
プログラム。
【請求項7】
患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する転倒転落発生予測装置であって、
転倒転落の発生の有無を予測する予測部と、
前記予測部の教師あり学習を行う学習部とを備え、
前記学習部によって行われる教師あり学習に用いられる教師データには、
転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である転倒転落発生群の電子カルテデータと、
前記転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記転倒転落発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、
前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記学習部による教師あり学習が行われた前記予測部は、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かを予測し、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記転倒転落発生予測装置のアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いる、
転倒転落発生予測装置。
【請求項8】
前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、
前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、
前記転倒転落発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、
前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、
前記コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、
前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、
前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる、
請求項7に記載の転倒転落発生予測装置。
【請求項9】
患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する転倒転落発生予測方法であって、
転倒転落の発生の有無を予測する予測ステップと、
前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを備え、
前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、
転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である転倒転落発生群の電子カルテデータと、
前記転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記転倒転落発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、
前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かが予測され、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記予測対象患者が入院中の前記所定期間内に転倒または転落するか否かを予測するアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いる、
転倒転落発生予測方法。
【請求項10】
コンピュータに、
患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する予測ステップと、
前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップと
を実行させるためのプログラムであって、
前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、
転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である転倒転落発生群の電子カルテデータと、
前記転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記転倒転落発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、
前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かが予測され、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記予測対象患者が入院中の前記所定期間内に転倒または転落するか否かを予測するアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いる、
プログラム。
【請求項11】
入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測することによって医療の安全性向上の支援を行う医療安全性向上支援方法であって、
ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測ステップと、
前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを備え、
前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、
自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、
前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、
前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、
前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かが予測され、
前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、
医療安全性向上支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己抜去発生予測装置、自己抜去発生予測方法、プログラム、転倒転落発生予測装置、転倒転落発生予測方法および医療安全性向上支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院内で発生する医療事故の中で最も頻度が高く、患者の心身の状態や医療スタッフの労働負荷に深刻な問題をもたらし得るものの一つに点滴やドレーン類の自己抜去がある。
集中治療室において点滴やドレーン類の自己抜去に関する要因などの知見は散見されるが、一般病棟においてこれらを可能とする技術は存在していない。
【0003】
病院内では、高齢者、認知症およびせん妄患者によるドレーンや点滴類の自己抜去、転倒・転落などの医療事故が多発しているが、そのような医療事故の予測方法であって、医療現場の要求を満足する高精度な予測方法は存在していない。
【0004】
超高齢社会を迎え、病院内では、フレイルや認知症、せん妄等を背景としたドレーンや点滴類の自己抜去、転倒・転落などの医療事故が多発しているが、こうして発生した医療事故は、原疾患の悪化の一因となり、入院期間の長期化、在宅への移行を阻む要因になるのみならず、時として寝たきりや生命の危機状態といった深刻な転帰をとることもある。またこれらの医療事故が発生すると、医師、看護師などの医療者は、事故後の患者の状態の評価、医療処置に加え、その状態に対する専門家へのコンサルテーションなど多くの労力を費やすことになり、病院勤務における深刻な負担となっている。
以上のような背景から、病院内で発生する医療事故を予測するチェックシート等が開発されているが、精度は不十分であり、社会実装には程遠いのが現状である。
このような問題が発生する最大の要因として、医療事故の原因となるフレイルや認知症、せん妄を合併した高齢者の入院が激増している。加えて、医療の高度化により、様々な薬剤および医療機器が開発され、これらが医療現場で利用されることも一因となっている。
【0005】
特許文献1には、患者の転倒に加えて、患者の転落等患者側の行動や事情による事故、危険行為の発生を予測するデータ分析システムについて記載されている。また、特許文献1には、データ分析システムが、ロジスティック回帰分析のために、電子カルテから回帰に寄与する情報を、スコアとして予測符号化の処理によって取得する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/199445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究において、例えば特許文献1に記載された技術のような予測モデルのアルゴリズム(過学習を抑制しないアルゴリズム)を用いて患者の転倒転落の発生の予測を行うと、予測モデルの学習段階において過学習を起こしてしまい、患者の転倒転落の発生を高精度に予測できないことを見い出したのである。
また、特許文献1に記載された技術では、患者の転倒転落の発生が予測されるものの、特許文献1に記載された技術によっては、患者によるドレーンなどの自己抜去の発生を高精度に予測することができない。
【0008】
上述した問題点に鑑み、本発明は、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を高精度に予測することができる自己抜去発生予測装置、自己抜去発生予測方法およびプログラムを提供することを目的とする。
また、本発明は、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を高精度に予測することができる転倒転落発生予測装置、転倒転落発生予測方法およびプログラムを提供することを目的とする。
換言すれば、本発明は、医療の安全性向上の支援を行うことができる医療安全性向上支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測する自己抜去発生予測装置であって、ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測部と、前記予測部の教師あり学習を行う学習部とを備え、前記学習部によって行われる教師あり学習に用いられる教師データには、自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記学習部による教師あり学習が行われた前記予測部は、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かを予測し、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、自己抜去発生予測装置である。
【0010】
本発明の一態様の自己抜去発生予測装置では、前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、前記自己抜去発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、前記コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれてもよい。
【0011】
本発明の一態様の自己抜去発生予測装置では、前記自己抜去発生予測装置のアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いてもよい。
【0012】
本発明の一態様の自己抜去発生予測装置では、前記予測部は、前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれる薬剤が向精神薬であるか否かに応じて、前記予測対象患者が前記所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かの予測の重み付けを異ならせてもよい。
【0013】
本発明の一態様の自己抜去発生予測装置では、前記予測部は、前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに、前記予測対象患者による向精神薬の利用履歴が含まれる場合に、前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに、前記予測対象患者による向精神薬の利用履歴が含まれない場合よりも、前記予測対象患者が前記所定期間内にライン類の自己抜去を行う可能性を高く予測してもよい。
【0014】
本発明の一態様の自己抜去発生予測装置では、前記予測部は、前記予測対象患者の性別が男性である場合に、前記予測対象患者の性別が女性である場合よりも、前記予測対象患者が前記所定期間内にライン類の自己抜去を行う可能性を高く予測してもよい。
【0015】
本発明の一態様の自己抜去発生予測装置では、前記予測部は、前記予測対象患者の年齢が65歳以上である場合に、前記予測対象患者の年齢が65歳未満である場合よりも、前記予測対象患者が前記所定期間内にライン類の自己抜去を行う可能性を高く予測してもよい。
【0016】
本発明の一態様は、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測する自己抜去発生予測方法であって、ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測ステップと、前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを備え、前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かが予測され、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、自己抜去発生予測方法である。
【0017】
本発明の一態様は、コンピュータに、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測ステップと、前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを実行させるためのプログラムであって、前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かが予測され、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、プログラムである。
【0018】
鋭意研究において、本発明者等は、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する予測モデルのアルゴリズムとして、ロジスティック回帰を用いることによって、予測モデルの学習段階における過学習を抑制できることを見い出したのである。
【0019】
本発明の一態様は、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する転倒転落発生予測装置であって、転倒転落の発生の有無を予測する予測部と、前記予測部の教師あり学習を行う学習部とを備え、前記学習部によって行われる教師あり学習に用いられる教師データには、転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である転倒転落発生群の電子カルテデータと、前記転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記転倒転落発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記学習部による教師あり学習が行われた前記予測部は、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かを予測し、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記転倒転落発生予測装置のアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いる、転倒転落発生予測装置である。
【0020】
本発明の一態様の転倒転落発生予測装置では、前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、前記転倒転落発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、前記コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれ、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、前記予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれてもよい。
【0021】
本発明の一態様は、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する転倒転落発生予測方法であって、転倒転落の発生の有無を予測する予測ステップと、前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを備え、前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である転倒転落発生群の電子カルテデータと、前記転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記転倒転落発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かが予測され、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記予測対象患者が入院中の前記所定期間内に転倒または転落するか否かを予測するアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いる、転倒転落発生予測方法である。
【0022】
本発明の一態様は、コンピュータに、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する予測ステップと、前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを実行させるためのプログラムであって、前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である転倒転落発生群の電子カルテデータと、前記転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記転倒転落発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、前記転倒転落発生群の電子カルテデータには、前記転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かが予測され、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記予測対象患者が入院中の前記所定期間内に転倒または転落するか否かを予測するアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰を用いる、プログラムである。
【0023】
本発明の一態様は、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測することによって医療の安全性向上の支援を行う医療安全性向上支援方法であって、ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する予測ステップと、前記予測ステップが実行される前に教師あり学習を行う学習ステップとを備え、前記学習ステップにおいて行われる教師あり学習に用いられる教師データには、自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、前記自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、前記自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれ、前記自己抜去発生群の電子カルテデータには、前記自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記コントロール群の電子カルテデータには、前記コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれ、前記学習ステップが実行された後に実行される前記予測ステップでは、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、前記予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かが予測され、前記予測対象患者の電子カルテデータには、前記予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データが含まれる、医療安全性向上支援方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を高精度に予測することができる自己抜去発生予測装置、自己抜去発生予測方法およびプログラムを提供することができる。
また、本発明によれば、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を高精度に予測することができる転倒転落発生予測装置、転倒転落発生予測方法およびプログラムを提供することができる。
換言すれば、本発明によれば、医療の安全性向上の支援を行うことができる医療安全性向上支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ドレーンや点滴類の自己抜去、転倒・転落などの医療事故が発生した場合の影響を説明するための図である。
図2】病院内における転倒・転落発生後の対応フローチャートの一例を示す図である。
図3】第1実施形態の自己抜去発生予測装置1の一例を示す図である。
図4】第1実施形態の自己抜去発生予測装置1の具体的構成の一例を示す図である。
図5】第1実施形態の自己抜去発生予測装置1において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図6】第2実施形態の転倒転落発生予測装置2の一例を示す図である。
図7】第2実施形態の転倒転落発生予測装置2において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の自己抜去発生予測装置、自己抜去発生予測方法、プログラム、転倒転落発生予測装置、転倒転落発生予測方法および医療安全性向上支援方法の実施形態の説明の前に、ドレーンや点滴類の自己抜去、転倒・転落などの医療事故が発生した場合の影響について説明する。
【0027】
図1はドレーンや点滴類の自己抜去、転倒・転落などの医療事故が発生した場合の影響を説明するための図である。
図1に示すように、ドレーンや点滴類の自己抜去の医療事故が発生すると、ドレーンや点滴類の自己抜去を行った入院患者の身体抑制が必要になるおそれがある。また、転倒・転落の医療事故が発生すると、転倒・転落した入院患者が骨折してしまうおそれがある。その結果、入院患者の健康寿命が短縮してしまうおそれがある。
また、ドレーンや点滴類の自己抜去、転倒・転落などの医療事故が発生すると、医療事故発生後の医療者による対応が必要になる。具体的には、医療者による患者の状態評価・処置・緊急検査・専門医コンサルト・医療安全レポート作成等が必要になる。そのため、医療者の負担増・燃え尽きのおそれが生じてしまう。
【0028】
図2は病院内における転倒・転落発生後の対応フローチャートの一例を示す図である。
図2に示す例では、転倒・転落が発生すると、次いで、初期評価、応援要請などが行われる。
初期評価、応援要請などが行われた後、場合によっては、一次救命処置、コードブルーなどの対応がとられる。
また、初期評価、応援要請などが行われた後、場合によっては、バイタル、外傷、可動域制限等の患者状態評価が行われる。
患者状態評価の結果、異状がある場合には、診療科医師への診察依頼が行われ、診療科医師による診察が行われる。
患者状態評価の結果、異状がない場合には、診療科医師への報告が行われる。次いで、診療科医師は、自ら診察を行うか、あるいは、診察を行う者などに対する指示を行う。
【0029】
以下、本発明の自己抜去発生予測装置、自己抜去発生予測方法、プログラム、転倒転落発生予測装置、転倒転落発生予測方法および医療安全性向上支援方法の実施形態について説明する。
【0030】
<第1実施形態>
図3は第1実施形態の自己抜去発生予測装置1の一例を示す図である。図4は第1実施形態の自己抜去発生予測装置1の具体的構成の一例を示す図である。
図4に示す例では、自己抜去発生予測装置1を構成するDeep neural networkが、入力層と出力層と4つの隠れ層を備えているが、他の例では、自己抜去発生予測装置1を構成するDeep neural networkが、入力層と出力層と4以外の任意の数の隠れ層を備えていてもよい。
【0031】
図4に示す例では、自己抜去発生予測装置1がDeep neural networkによって構成されているが、他の例では、自己抜去発生予測装置1において、Deep neural network以外の機械学習の手法(例えばL1正則化ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシンなど)が用いられてもよい。
【0032】
図3および図4に示す例では、自己抜去発生予測装置1が、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測する。自己抜去発生予測装置1は、予測部11と、学習部12とを備えている。
予測部11は、ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する。学習部12は、予測部11の教師あり学習を行う。
学習部12によって行われる教師あり学習に用いられる教師データには、自己抜去発生群の電子カルテデータと、コントロール群の電子カルテデータとが含まれる。自己抜去発生群は、自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である。コントロール群は、自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、自己抜去発生群に含まれない患者を含む群である。
【0033】
図3および図4に示す例では、自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、自己抜去発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが、自己抜去発生群の電子カルテデータに含まれる。また、コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが、コントロール群の電子カルテデータに含まれる。
他の例では、自己抜去発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、自己抜去発生群の電子カルテデータに含まれず、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、コントロール群の電子カルテデータに含まれなくてもよい。
【0034】
図3および図4に示す例では、自己抜去発生群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科が含まれ、コントロール群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科が含まれるが、他の例では、自己抜去発生群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれず、コントロール群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれなくてもよい。更に他の例では、自己抜去発生群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のもの(例えば体重、血液生化学データ、疾患、治療に関するデータ、医師、看護師のカルテ記録、バイタルサインなど)が含まれ、コントロール群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のもの(例えば体重、血液生化学データ、疾患、治療に関するデータ、医師、看護師のカルテ記録、バイタルサインなど)が含まれてもよい。
【0035】
図3および図4に示す例では、学習部12による教師あり学習が行われた予測部11が、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かを予測する。
図3および図4に示す例では、所定期間が30日に設定されているが、他の例では、所定期間が30日以外の日数に設定されていてもよい。
【0036】
図3および図4に示す例では、予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが、予測対象患者の電子カルテデータに含まれる。
他の例(詳細には、自己抜去発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、自己抜去発生群の電子カルテデータに含まれず、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、コントロール群の電子カルテデータに含まれない例)では、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、予測対象患者の電子カルテデータに含まれなくてもよい。
【0037】
図3および図4に示す例では、予測対象患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科が含まれるが、他の例(詳細には、自己抜去発生群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれず、コントロール群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれない例)では、予測対象患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれなくてもよい。
更に他の例(詳細には、自己抜去発生群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のものが含まれ、コントロール群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のものが含まれる例)では、予測対象患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のもの(例えば体重、血液生化学データ、疾患、治療に関するデータ、医師、看護師のカルテ記録、バイタルサインなど)が含まれてもよい。
【0038】
図4に示す例では、学習部12による教師あり学習が行われた予測部11が、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、予測対象患者が本日夜間帯にライン類の自己抜去を行う確率が70%であると予測し、自動アラートとして出力する。
【0039】
図3および図4に示す例では、自己抜去発生予測装置1のアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰が用いられる。
他の例では、自己抜去発生予測装置1のアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰以外のアルゴリズム(例えば決定木、XGBoostなど)が用いられてもよい。
【0040】
図3および図4に示す例では、予測部11は、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれる薬剤が向精神薬であるか否かに応じて、予測対象患者が所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かの予測の重み付けを異ならせる。
具体的には、予測部11は、予測対象患者による向精神薬の利用履歴が、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれる場合に、予測対象患者による向精神薬の利用履歴が、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれない場合よりも、予測対象患者が所定期間内にライン類の自己抜去を行う可能性を高く予測する。
【0041】
図3および図4に示す例では、予測部11は、予測対象患者の性別が男性である場合に、予測対象患者の性別が女性である場合よりも、予測対象患者が所定期間内にライン類の自己抜去を行う可能性を高く予測する。
更に、予測部11は、予測対象患者の年齢が65歳以上である場合に、予測対象患者の年齢が65歳未満である場合よりも、予測対象患者が所定期間内にライン類の自己抜去を行う可能性を高く予測する。
【0042】
図5は第1実施形態の自己抜去発生予測装置1において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図5に示す例では、ステップS11において、学習部12が、予測部11の教師あり学習を行う。
ステップS11において行われる教師あり学習に用いられる教師データには、自己抜去または事故抜去として過去に記録された入院中の患者を含む群である自己抜去発生群の電子カルテデータと、自己抜去発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、自己抜去発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれる。
自己抜去発生群の電子カルテデータには、自己抜去発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、自己抜去発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる。
コントロール群の電子カルテデータには、コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる。
【0043】
次いで、ステップS12では、予測部11が、ライン類の自己抜去の発生の有無を予測する。
つまり、ステップS11が実行された後に実行されるステップS12では、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、予測対象患者が入院中の所定期間内にライン類の自己抜去を行うか否かが予測される。
予測対象患者の電子カルテデータには、予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる。
すなわち、図5に示す例では、入院中の予測対象患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無が、高精度に予測される。
【0044】
次に、第1実施形態の自己抜去発生予測装置1(図3および図4参照)に関する本発明者等による研究結果について説明する。
【0045】
[方法]
本発明者等は、65歳以上の患者を対象に入院中30日以内のドレーン、点滴類の自己抜去発生の有無を予測する予測モデルを構築した。予測モデルの学習に用いるデータとして病院内のインシデントレポートにおいて自己抜去もしくは事故抜去と記録されている群を自己抜去発生群(せん妄発生群)として抽出した。この群に対して、性別・年齢・発生病棟をマッチさせる形でコントロール群を抽出した。予測モデルの目的変数として自己抜去発生の有無を、特徴量として属性データ(性別、年齢、BMI、身長、診察科)、入院時点の薬剤別利用状況を設定した。予測モデルのアルゴリズムには、L1正則化ロジスティック回帰、決定木、XGBoostの3種類を用いた。予測モデルの最終的なパラメータはベイズ最適化を用いて決定した。予測モデルの評価指標としてはArea Under Receiver Operating Curve(ROC曲線下面積:AUROC)を用いた。評価は8分割のクロスバリデーションを用いた。全ての分析にはPython3.8.1を用いた。
【0046】
[結果の応用]
ドレーン、点滴類の自己抜去発生群783件、コントロール群で2570件を抽出し、合計約3000件で入院中30日以内の自己抜去発生の有無を予測する予測モデルを構築した。AUROCは属性データのみを利用した場合で、L1正則化ロジスティック回帰で0.616、決定木で0.882、XGBoostで0.988、入院時点の薬剤別利用状況を加えた場合でL1正則化ロジスティック回帰で0.723、決定木で0.707、XGBoostで0.986だった。このうち決定木およびXGBoostについては想定よりもAUROCの値が高く、過学習を起こしている可能性があるため、今後の検討にはL1正則化ロジスティック回帰を採用する。
今回構築された予測モデルにより、入院患者のドレーン、点滴類の自己抜去の危険性が予測可能となる。
【0047】
つまり、第1実施形態の自己抜去発生予測装置1は、入院中の患者がドレーン、点滴針、輸血針、カテーテルおよび体内挿入チューブの少なくともいずれかを自己抜去することであるライン類の自己抜去の発生の有無を予測することによって、医療の安全性向上の支援を行うことができる。
【0048】
第1実施形態の自己抜去発生予測装置1では、患者の電子カルテデータおよび人工知能技術を用いることによって、従来技術よりも高精度に病院内における自己抜去の発生の有無を予測することができる。その結果、医療費削減および高齢者の健康寿命延伸に貢献することができる。
【0049】
<第2実施形態>
図6は第2実施形態の転倒転落発生予測装置2の一例を示す図である。
第2実施形態の転倒転落発生予測装置2は、図4に示す自己抜去発生予測装置1と同様に、Deep neural networkによって構成することができる。あるいは、転倒転落発生予測装置2において、Deep neural network以外の機械学習の手法(例えばL1正則化ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシンなど)が用いられてもよい。
【0050】
図6に示す例では、転倒転落発生予測装置2は、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測する。転倒転落発生予測装置2は、予測部21と、学習部22とを備えている。
予測部21は、転倒転落の発生の有無を予測する。学習部22は、予測部21の教師あり学習を行う。
学習部22によって行われる教師あり学習に用いられる教師データには、転倒転落発生群の電子カルテデータと、コントロール群の電子カルテデータとが含まれる。転倒転落発生群は、転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である。コントロール群は、転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、転倒転落発生群に含まれない患者を含む群である。
【0051】
図6に示す例では、転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、転倒転落発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが、転倒転落発生群の電子カルテデータに含まれる。また、コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが、コントロール群の電子カルテデータに含まれる。
他の例では、転倒転落発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、転倒転落発生群の電子カルテデータに含まれず、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、コントロール群の電子カルテデータに含まれなくてもよい。
【0052】
図6に示す例では、転倒転落発生群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科が含まれ、コントロール群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科が含まれるが、他の例では、転倒転落発生群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれず、コントロール群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれなくてもよい。更に他の例では、転倒転落発生群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のもの(例えば体重、血液生化学データ、疾患、治療に関するデータ、医師、看護師のカルテ記録、バイタルサインなど)が含まれ、コントロール群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のもの(例えば体重、血液生化学データ、疾患、治療に関するデータ、医師、看護師のカルテ記録、バイタルサインなど)が含まれてもよい。
【0053】
図6に示す例では、学習部22による教師あり学習が行われた予測部21が、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かを予測する。
図6に示す例では、所定期間が30日に設定されているが、他の例では、所定期間が30日以外の日数に設定されていてもよい。
【0054】
図6に示す例では、予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが、予測対象患者の電子カルテデータに含まれる。
他の例(詳細には、転倒転落発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、転倒転落発生群の電子カルテデータに含まれず、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、コントロール群の電子カルテデータに含まれない例)では、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データが、予測対象患者の電子カルテデータに含まれなくてもよい。
【0055】
図6に示す例では、予測対象患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科が含まれるが、他の例(詳細には、転倒転落発生群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれず、コントロール群に含まれる患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれない例)では、予測対象患者の属性データに、BMIおよび/または身長が含まれなくてもよい。
更に他の例(詳細には、転倒転落発生群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のものが含まれ、コントロール群に含まれる患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のものが含まれる例)では、予測対象患者の属性データに、性別、年齢、BMI、身長および診療科以外のもの(例えば体重、血液生化学データ、疾患、治療に関するデータ、医師、看護師のカルテ記録、バイタルサインなど)が含まれてもよい。
【0056】
図6に示す例では、転倒転落発生予測装置2のアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰が用いられる。
【0057】
図6に示す例では、予測部21は、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれる薬剤が向精神薬であるか否かに応じて、予測対象患者が所定期間内に転倒または転落するか否かの予測の重み付けを異ならせる。
具体的には、予測部21は、予測対象患者による向精神薬の利用履歴が、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれる場合に、予測対象患者による向精神薬の利用履歴が、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データに含まれない場合よりも、予測対象患者が所定期間内に転倒または転落する可能性を高く予測する。
【0058】
図6に示す例では、予測部21は、予測対象患者の性別が男性である場合に、予測対象患者の性別が女性である場合よりも、予測対象患者が所定期間内に転倒または転落する可能性を高く予測する。
更に、予測部21は、予測対象患者の年齢が65歳以上である場合に、予測対象患者の年齢が65歳未満である場合よりも、予測対象患者が所定期間内に転倒または転落する可能性を高く予測する。
【0059】
図7は第2実施形態の転倒転落発生予測装置2において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図7に示す例では、ステップS21において、学習部22が、予測部21の教師あり学習を行う。
ステップS21において行われる教師あり学習に用いられる教師データには、転倒または転落として過去に記録された入院中の患者を含む群である転倒転落発生群の電子カルテデータと、転倒転落発生群に含まれる患者と少なくとも性別、年齢および入院病棟が合致する入院中の患者であって、転倒転落発生群に含まれない患者を含む群であるコントロール群の電子カルテデータとが含まれる。
転倒転落発生群の電子カルテデータには、転倒転落発生群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、転倒転落発生群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる。
コントロール群の電子カルテデータには、コントロール群に含まれる患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、コントロール群に含まれる患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる。
【0060】
次いで、ステップS22では、予測部21が、転倒転落の発生の有無を予測する。
つまり、ステップS21が実行された後に実行されるステップS22では、入院中の予測対象患者の電子カルテデータに基づいて、予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かが予測される。
予測対象患者の電子カルテデータには、予測対象患者の少なくとも性別、年齢および診療科を含む属性データと、予測対象患者による薬剤の利用状況を示す薬剤別利用状況データとが含まれる。
図7に示す例では、予測対象患者が入院中の所定期間内に転倒または転落するか否かを予測するアルゴリズムとして、L1正則化ロジスティック回帰が用いられる。そのため、予測部21の過学習を抑制することができる。
すなわち、図7に示す例では、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無が、高精度に予測される。
【0061】
次に、第2実施形態の転倒転落発生予測装置2(図6参照)に関する本発明者等による研究結果について説明する。
【0062】
[方法]
本発明者等は、65歳以上の患者を対象に入院中30日以内の転倒転落発生の有無を予測する予測モデルを構築した。予測モデルの学習に用いるデータとして病院内のインシデントレポートにおいて転倒・転落と記録されている群を転倒転落発生群として抽出した。この群に対して、性別・年齢・発生病棟をマッチさせる形でコントロール群を抽出した。予測モデルの目的変数として転倒転落発生の有無を、特徴量として属性データ(性別、年齢、BMI、身長、診察科)、入院時点の薬剤別利用状況を設定した。予測モデルのアルゴリズムには、L1正則化ロジスティック回帰、決定木、XGBoostの3種類を用いた。予測モデルの最終的なパラメータはベイズ最適化を用いて決定した。予測モデルの評価指標としてはAUROCを用いた。評価は8分割のクロスバリデーションを用いた。全ての分析にはPython3.8.1を用いた。
【0063】
[結果の応用]
転倒転落発生群834件、コントロール群で3379件を抽出し、合計約4000件で入院中30日以内の転倒転落発生の有無を予測する予測モデルを構築した。AUROCは属性データのみを利用した場合で、L1正則化ロジスティック回帰で0.607、決定木で0.861、XGBoostで0.986、入院時点の薬剤別利用状況を加えた場合でL1正則化ロジスティック回帰で0.649、決定木で0.788、XGBoostで0.986だった。このうち決定木およびXGBoostについては想定よりもAUROCの値が高く、過学習を起こしている可能性があるため、今後の検討にはL1正則化ロジスティック回帰を採用する。
今回構築された予測モデルにより、入院患者の転倒転落の危険性が予測可能となる。
【0064】
つまり、第2実施形態の転倒転落発生予測装置2は、患者が入院中の所定期間内に転倒または転落することである転倒転落の発生の有無を予測することによって、医療の安全性向上の支援を行うことができる。
【0065】
第2実施形態の転倒転落発生予測装置2では、患者の電子カルテデータおよび人工知能技術を用いることによって、従来技術よりも高精度に病院内における転倒転落の発生の有無を予測することができる。その結果、医療費削減および高齢者の健康寿命延伸に貢献することができる。
【0066】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0067】
なお、上述した実施形態における自己抜去発生予測装置1または転倒転落発生予測装置2が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0068】
1…自己抜去発生予測装置、11…予測部、12…学習部、2…転倒転落発生予測装置、21…予測部、22…学習部
図1
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図7