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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】SPARCを発現する癌の治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20240408BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20240408BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K47/64
A61P35/00
A61K33/24
A61P25/00
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021174171
(22)【出願日】2021-10-25
(65)【公開番号】P2022127574
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0022433
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 行為時の権利者であり、発明者であるコン ウク カン、ミュン グン ソンおよびチョ ロン パクは、令和2(2020)年10月26日に、本発明のSPARCを発現する癌の治療用組成物をInt.J.Mol.Sci.2020,21,7932にて公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】521467917
【氏名又は名称】ソウル大学病院
【氏名又は名称原語表記】Seoul National University Hospital
【住所又は居所原語表記】(Yeongeon-dong) 101, Daehak-ro, Jongno-gu, Seoul, 03080, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】コン ウク カン
(72)【発明者】
【氏名】ミュン グン ソン
(72)【発明者】
【氏名】チョ ロン パク
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-537460(JP,A)
【文献】Biomaterials Science,2019年,Vol.7, No.12,pp.5270-5282
【文献】Electrophoresis,2019年,Vol.40,pp.2329-2335(技術常識を示す文献)
【文献】Chem. Commun.,2015年,Vol.51,pp.9436-9439(技術常識を示す文献)
【文献】ACS Nano,2016年,Vol.10,pp.9999-10012
【文献】Br. J clin. Pharmac.,1992年,Vol.33,pp.75-81
【文献】Life Sciences,2015年,Vol.142,pp.76-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミン及びそれに結合した1つ以上のシスプラチンを含むSPARC(Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)を発現する癌の治療用組成物であって、
前記シスプラチンは、前記アルブミンの表面に配位結合しており、前記アルブミン1分子当たりに前記シスプラチンが1~個結合し、前記癌は神経膠腫であり、前記シスプラチンの腎毒性を減少させた、癌の治療用組成物。
【請求項2】
前記アルブミンに4つの前記シスプラチンが結合して結合体を形成した場合、前記結合体の分子量は65,000~70,000Daである、請求項1に記載の癌の治療用組成物。
【請求項3】
前記アルブミンに4つの前記シスプラチンが結合して結合体を形成した場合、前記結合体の大きさは5nm~100nmである、請求項1に記載の癌の治療用組成物。
【請求項4】
前記シスプラチンは、前記アルブミン表面のHis側鎖残基またはMet側鎖残基に結合したものである、請求項1に記載の癌の治療用組成物。
【請求項5】
前記シスプラチンに前記アルブミン表面のHis105またはHis288が結合したものである、請求項4に記載の癌の治療用組成物。
【請求項6】
前記シスプラチンに前記アルブミン表面のMet298、Met329またはMet548が結合したものである、請求項4に記載の癌の治療用組成物。
【請求項7】
前記神経膠腫は、星状細胞腫、膠芽細胞腫、および乏突起膠腫からなる群より選択される1つ以上である、請求項1に記載の癌の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPARCを発現する癌の治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、神経膠腫の標準的な治療法は外科的切除術である。しかし、全ての神経膠腫は時々機能的な脳領域に位置するので、完全に除去することは困難である。
【0003】
抗がん化学療法は、一般的に人体に毒性副作用を誘発し、経済的負担も大きい高コストの治療法である。そのため、副作用を減らして薬効を最大化する製剤を設計するための開発が進められており、薬物-タンパク質複合体がその代表的な形態に該当する。
【0004】
シスプラチンは白金素材の薬物であり、抗がんに有効であることが知られている。しかし、細胞毒性による問題や、血液-脳関門を通過できず、脳腫瘍の治療用途には使用できない問題があった。また、HSAに結合したCDDP(HSA-CDDP)は、治療的に不活性であることが知られている。
【0005】
さらに、アルブミン結合タンパク質である神経膠腫におけるSPARCの高い発現にもかかわらず、神経膠腫の治療薬としての薬物送達HSAの妥当性は十分に研究されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第2016-0051995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、SPARC(Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)を発現する癌の治療用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.アルブミンおよびそれに結合した1つ以上のシスプラチンを含むSPARC(Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)を発現する癌の治療用組成物。
【0009】
2.前記項目1において、前記アルブミンに1~5つの前記シスプラチンが結合したものである、癌の治療用組成物。
【0010】
3.前記項目1において、前記アルブミンに4つの前記シスプラチンが結合したものである、癌の治療用組成物。
【0011】
4.前記項目3において、前記アルブミンに4つの前記シスプラチンが結合した結合体の分子量は65,000~70,000Daである、癌の治療用組成物。
【0012】
5.前記項目3において、前記アルブミンに4つの前記シスプラチンが結合した結合体の大きさは5nm~100nmである、癌の治療用組成物。
【0013】
6.前記項目1において、前記シスプラチンは、前記アルブミン表面のHis側鎖残基またはMet側鎖残基に結合したものである、癌の治療用組成物。
【0014】
7.前記項目6において、前記シスプラチンに前記アルブミン表面のHis105またはHis288が結合したものである、癌の治療用組成物。
【0015】
8.前記項目6において、前記シスプラチンに前記アルブミン表面のMet298、Met329またはMet548が結合したものである、癌の治療用組成物。
【0016】
9.前記項目6において、前記結合は配位結合によるものである、癌の治療用組成物。
【0017】
10.前記項目1において、前記SPARCを発現する癌は、脳腫瘍、黒色腫、乳癌、大腸癌および胃癌からなる群より選択される1つ以上である、癌の治療用組成物。
【0018】
11.前記項目10において、前記癌は前記脳腫瘍である、癌の治療用組成物。
【0019】
12.前記項目11において、前記脳腫瘍は神経膠腫である、癌の治療用組成物。
【0020】
13.前記項目12において、前記神経膠腫は、星状細胞腫、膠芽細胞腫、および乏突起膠腫からなる群より選択される1つ以上である、癌の治療用組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明の組成物を用いることにより、抗癌治療薬の血液循環時間を向上させることができる。
【0022】
本発明の組成物を用いることにより、抗癌治療薬の細胞毒性および腎毒性を減少させることができる。
【0023】
本発明の組成物は、SPARCを発現する癌の標的化に優れ、抗癌治療薬の癌細胞蓄積効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、HSA-CDDP(ヒト血清アルブミン-シスプラチン)の細胞取り込み(cellular uptake)の結果を示す。図1(a)は、細胞における細胞取り込みの代表的な画像である。HSA-CDDP取り込みにおけるSPARC依存性を観察するために、SPARC(exogenous secreted protein acidic and rich in cysteine)を処理した(スケールバー、50μm)。図1(b)は、細胞におけるFNR648-HSAの細胞取り込み定量化を示す。図1(c)は、FNR648-HSA-CDDP細胞における細胞取り込み定量化を示す。データは平均SD(n=5)で示す。***p<0.001。
図2図2は、U87MGおよびU87MG-shSPARC細胞におけるCDDPおよびHSA-CDDPの細胞毒性を示す。図2(a)は、U87MGおよびU87MG-shSPARC細胞におけるCDDPの細胞毒性を示す。図2(b)は、U87MGおよびU87MG-shSPARC細胞におけるHSA-CDDPの細胞毒性を示す(各濃度に対してn=5)。各化合物は72時間処理された。
図3図3は、HSA-CDDPの細胞毒性を確認した結果である。CDDPおよびHSA-CDDPの細胞死を分析した。CDDPまたはHSA-CDDPは、細胞で72時間処理された。各濃度は、図2のcck-8の結果において生きている細胞の30~40%に基づく。赤い数字は、各図のより小さいフォント数の合計である各グループの総細胞死の細胞の割合を意味する。
図4図4は、U87MGおよびU87MG-shSPARC細胞におけるCDDPおよびHSA-CDDPの細胞死を分析した結果である。図4(a)はCDDP、図4(b)はHSA-CDDPを、各濃度が異なるようにして細胞に72時間処理した結果を示す。
図5図5は、異種移植腫瘍モデルにおけるHSA-CDDPの抗腫瘍効果を示す。図5(a)はU87MG、図5(b)はU87MG-shSPARCの腫瘍体積を示す。異種移植腫瘍マウスにおいて、図5(c)はU87MG、図5(d)はU87MG-shSPARCのマウスの重量を示す。腫瘍モデルにおいて、図5(e)はU87MG、図5(f)はU87MG-shSPARCに対するカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)生存曲線を示す。データは平均SDで示す。***p<0.001。
図6図6は、ICP-MSを用いて、マウスにおけるHSA-CDDPの生体分布を分析した結果である。CDDPまたはHSA-CDDPは、治療と同様な方法に(隔日、7回)治療した。図6(a)は、臓器及び血液におけるCDDPの蓄積を示す。図6(b)は、腫瘍におけるCDDPの蓄積を示す(%ID;Percent injected dose、注射された容量の割合)。全ての臓器および腫瘍は、最後の薬物処理72時間後に収集された。データは平均SD(n=4)で示す。*p<0.05。
図7図7は、マウスにおけるHSA-CDDPの生物学的な安全性の分析結果を示す。図7(a)は、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(Aspratate tranaminase、AST)、アラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase、ALAN)、血中尿素窒素(blood urea nitrogen、BUN)及びクレアチニンの体重および血清濃度を示す。図7(b)は、腎臓、肝臓および脾臓におけるヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin-eosin、H&E)を用いた臓器染色の画像である。CDDPで処理されたマウスの腎臓では、腎臓の尿細管変性(黒矢印)および上皮空泡化(黄矢印)が観察された(スケールバー、腎臓および肝臓用100μm、脾臓用200μm)。
図8図8は、腎組織のTUNEL分析画像を示す。図8(a)は200倍の画像(スケールバー、100μm)である。図8(b)は、400倍の画像(スケールバー、50μm)である。黒矢印はTUNEL陽性領域を示す。
図9図9は、HSA-CDDPの血清安定性および生体分布画像である。図9(a)は、インビトロHSA-CDDPの血清安定性を示す。図9(b)は、腫瘍異種移植モデルにおいて、[177Lu]標識されたHSA-CDDPのSPECT画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、アルブミン及びそれに結合した1つ以上のシスプラチンを含むSPARC(Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)を発現する癌の治療用組成物に関するものである。
【0026】
アルブミンは血漿などに多くある球状の単純タンパク質であり、血漿に存在するアルブミンを血漿アルブミン(plasma albumin)という。アルブミンは生体細胞や体液中に広く分布しているが、血漿アルブミンは血漿のグロブリンとともに細胞と血漿の基礎物質を構成する。人体を構成するタンパク質の50~60%程度がアルブミンであり、浸透調節によって血液と体内の水分量を調節するなどの重要な役割を果たすことができる。
【0027】
前記アルブミンのうちのヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)は、血液中に存在する内因性および外因性リガンドの送達および配置に重要な役割を果たすことができる。
【0028】
本発明において、アルブミンはSPARC結合部位とシスプラチン結合部位を含むので、SPARCおよびシスプラチンと結合することができる。この場合、前記SPARCまたは前記シスプラチンの結合により、他の結合部位の結合に影響を及ぼさない。
【0029】
シスプラチン(Cisplatin、cis-diamminedichloroplatinum(II)、CDDP)は、固形がんに広く使用されている化学療法薬の1つである。シスプラチンは、血清中で最も豊富な血漿タンパク質であるヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)に結合することができる。
【0030】
SPARC(Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)は、いくつかの癌において高度に発現されるアルブミンと結合できるタンパク質であり、細胞-マトリックス相互作用、増殖、生存および移動を調節する機能を果たすことができる。
【0031】
本発明において、前記アルブミンと薬物が結合した結合体は、アルブミン-シスプラチン結合体であってもよい。例えば、HSA-CDDP(ヒト血清アルブミン-シスプラチン)結合体であってもよい。
【0032】
本発明において、アルブミン、またはアルブミンと薬物が結合した結合体は、血液-脳関門(BBB)の表面に存在するタンパク質(例えば、グリコプロテイン60(GP60)など)と結合することができる。
【0033】
本発明において、アルブミンにシスプラチンが結合した結合体は、血液-脳関門(BBB)を通過することができる。
【0034】
本発明において、アルブミン、またはアルブミンと薬物が結合した結合体は、BBBを通過した後、内部の脳腫瘍細胞が過剰発現するSPARCタンパク質をターゲットにして結合することができる。
【0035】
本発明において、アルブミン、またはアルブミンと薬物が結合した結合体は、SPARCによって媒介される受動的標的化および能動的標的化によって腫瘍に蓄積することができる。例えば、アルブミン、またはアルブミンと薬物が結合した結合体は、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果によって腫瘍に蓄積することができる。
【0036】
本発明において、アルブミン、またはアルブミンと薬物が結合した結合体を含む組成物は、SPARCを発現する癌の標的治療に使用することができる。例えば、HSA-CDDP結合体は、脳の残存神経膠腫の除去に使用することができる。
【0037】
本発明において、HSA-CDDP結合体は細胞内移入によって細胞に取り込まれ、細胞内でHSA-CDDP結合体が分解され、HSAから遊離CDDP状態に放出できる。
【0038】
本発明において、HSA-CDDP結合体を形成する場合には、排泄およびOCT2によって媒介されるCDDPの腎臓蓄積が減少し得る。
【0039】
本発明において、アルブミンにはシスプラチンが1つ以上結合することができる。例えば、前記アルブミンに1~10個、1~5個、または1~4個のシスプラチンが結合することができるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本発明において、1つのアルブミンに4つのシスプラチンが結合することができ、前記アルブミンはヒト血清アルブミンであってもよい。
【0041】
本発明において、アルブミンにシスプラチンが結合した結合体の分子量は、65,000~70,000Daであってもよく、例えば66,500~68,000Daであってもよい。
【0042】
本発明において、アルブミンにシスプラチンが結合した結合体の大きさは、5nm~100nmであってもよく、例えば7nm~10nmであってもよい。
【0043】
シスプラチンのアルブミンへの結合位置は特に限定されず、例えば、アルブミン表面のHis側鎖残基またはMet側鎖残基などであってもよい。
【0044】
本発明において、前記シスプラチンは、前記アルブミン表面のHis105、His288、Met298、Met329、またはMet548側鎖残基と結合することができる。
【0045】
本発明において、HSAへのCDDPの結合は不可逆的であってもよく、例えば、前記シスプラチンと前記アルブミンは配位結合によって結合体を形成することができる。
【0046】
本発明の組成物は、従来、抗癌効果が公知のシスプラチンを含んでいるので、シスプラチンが薬効を示すことが知られている癌は、いずれも治療対象に該当し得る。
【0047】
本発明の組成物において、シスプラチンはアルブミンに結合し、その結合体が癌細胞または組織が発現するSPARCに結合してその癌をターゲットにすることができる。そのため、SPARCを発現する癌に使用する場合、より有用な効果を示すことができる。
【0048】
その適用対象であるSPARCを発現する癌は、脳腫瘍、黒色腫、乳癌、大腸癌または胃癌であってもよく、他にもSPARCを発現することが知られている癌種はいずれも適用対象になり得る。本発明において、SPARCを発現する癌は脳腫瘍であってもよい。本発明において、SPARCは神経膠腫、黒色腫または乳癌において高濃度で発現され得る。
【0049】
本発明において、前記脳腫瘍は神経膠腫であってもよく、例えば、星状細胞腫、膠芽細胞腫、または乏突起膠腫であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0050】
本発明において、星状細胞腫(Astrocytic Tumor)は、星状細胞から発生し、周囲の正常組織との境界が明確ではない浸潤性腫瘍である。前記星状細胞腫は、発生位置、年齢、成長速度、浸潤性、形態学的形状、臨床経過などが非常に多様である。
【0051】
前記星状細胞腫は、その悪性度によって、以下のように陽性のグレード1から最も悪性のグレード4に分類することができる。
グレード1:毛様細胞性星状細胞腫(pilocytic astrocytoma)
グレード2:びまん性星状細胞腫
グレード3:退形成性星状細胞腫(anaplastic astrocytoma)
グレード4:膠芽細胞腫(glioblastoma)
【0052】
脳腫瘍の重症度が高いほど、SPARCの発現程度が増加することが知られているので(例えば、脳腫瘍細胞の近くでSPARCの濃度が増加する。)、本発明の組成物は、重症度の高い脳腫瘍に適用した場合に、より高いターゲット能を示すことができる。
【0053】
本発明において、乏突起膠腫(Oligodendroglial Tumor)は、中枢神経系の髄鞘を形成し維持する乏突起膠細胞(希突起膠細胞)で発生する腫瘍である。本発明において、前記乏突起膠腫は星状細胞腫と混合された混合膠腫の形態であってもよい。
【0054】
本発明において、脳腫瘍が形成された細胞は神経膠細胞であってもよい。前記神経膠細胞は星状膠細胞(Astrocyte)、ミクログリア(microglia)、乏突起膠細胞(希突起膠細胞、Oligodendroglia)、上衣細胞(ependymal cell)、シュワン細胞(Schwann's cell)、または神経節膠細胞(Capsular cell)であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0055】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明を具体的に説明することとする。
【0056】
1.材料および方法
1.1.細胞株(cell lines)
ヒト神経膠腫細胞(U87MG)としては、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection、ATCC;Manassas、VA、USA)および低SPARC発現U87MG細胞であるU87MG-shSPARCを用いた。
【0057】
細胞を10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Fetal bovine serum;Gibco、Grand Island、NY、USA)及びペニシリン/ストレプトマイシンを含む1%抗生物質(米国ニューヨーク州グランドアイランドのGibco)が補充された最少必須培地(MEM、Minimum essential medium;Invitrogen、Grand Island、NY、USA)で育成した。全ての細胞は、5%COで加湿された大気(atmosphere)中で37℃に維持した。
【0058】
1.2.CDDP結合HSAの製造
ヒト血清アルブミン(MP biomedicals、Irvine、CA、USA)を22mg/mLの濃度でPBSに溶解した。CDDP(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)をPBSに1mg/mLの濃度に溶解した。
【0059】
HSAおよびCDDP溶液を新しいボトルに1:10(体積比1:1)のモル比で添加し、37℃で24時間撹拌した。
【0060】
非結合CDDPおよび濃縮HSA-CDDPを除去するために、アミコン・ウルトラ(Amicon Ultra)遠心分離フィルター装置(公称分子量制限30kDa;Millipore、Burlington、MA、USA)を用いて遠心分離濾過を行った。
【0061】
HSA-CDDPの濃度は、BCA(bicinchoninic acid)タンパク質分析キット(Pierce Endogen、Rockford、IL、USA)により測定した。HSA-CDDPにおけるHSAあたりのCDDPの量を確認するために、分子量はTOF-TOF5800システム(AB SCIEX、米国マサチューセッツ州フレイミングハム)を用いて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(matrix-assisted laser desorption/ionization-time of flight、MALDI-TOF)によって分析した。
【0062】
1.3.HSA及びHSA-CDDPの蛍光染料の結合
HSA及びHSA-CDDPをFNR648蛍光染料と結合した。HSA-CDDPは、ジベンゾシクロオクチン(DBCO、Dibenzocyclooctyne)-NHSを用いて修飾した。DBCO-HSA-CDDPは、37℃で30分間1:1のモル比でFRN648染料と反応させた。蛍光標識されたHSA-CDDPは、PD-10カラム(GE Healthcare、Buckinghamshire、イギリス)を用いて精製し、PBSで溶出させた。
【0063】
1.4.FNR648-HSA-CDDPの細胞取り込み(for Cellular Uptake)の共焦点顕微鏡の画像(Confocal Microscopy Imaging)
蛍光標識されたHSAまたはHSA-CDDPを細胞取り込みさせた。37℃で2時間、FNR648-HSAまたはFNR648-HSA-CDDPで細胞を培養した。外因性SPARC処理群では、ヒトSPARC(5μg/mL)および各化合物(FNR648-HSAまたはFNR648-HSA-CDDP)を37℃で2時間共同培養した。細胞によるFNR648-HSAまたはFNR648-HSA-CDDPの取り込みを定量化するために、全てのテストにおいて5つのランダム画像を得た。各群におけるFNR648-HSAまたはFNR648-HSA-CDDPの平均シグナル強度をDAPI陽性細胞の数で割った。これは画像における生存可能な細胞の数を示す。この割合は、各群の細胞取り込みと見なされ、各物質の細胞取り込みを定量化するのに使用した。
【0064】
1.5.細胞毒性の実験(Cellular Cytotoxicity Studies)
U87MGおよびU87MG-shSPARC細胞を96ウェルプレート(4000細胞/ウェル)に添加した。一晩培養した後、細胞をCDDPまたはHSA-CDDPと共に互いに異なる濃度で72時間培養した。細胞生存率は、メーカーのプロトコルに従って細胞計数キット-8(CCK-8、Dojindo Molecular Technologies、Tokyo、Japan)を用いて分析した。
【0065】
1.6.細胞死の研究(Cell Apoptosis Study)
U87MGおよびU87MG-shSPARC細胞を6ウェルプレート(1.2×10細胞/ウェル)に配置した。一晩培養した後、細胞をCDDPまたはHSA-CDDPで72時間処理した。次に、細胞を回収し、アネキシン(Annexin)V-FITC細胞死検出キット(BD、San Jose、CA、USA)を用いてPIおよびアネキシンVで共同染色した。細胞の細胞死は、フローサイトメトリーで分析した。
【0066】
1.7.動物異種移植腫瘍モデル及びインビボ抗腫瘍の効果(Animal Xenografts Tumor Model and Anti-Tumor Effect In Vivo)
すべての動物研究は、ソウル大学の動物実験および使用委員会(IACUC No.18-0231、2018.11.01)の承認を得て行った。BALB/cヌードマウス(5週齢、オス)はオリエントバイオ社(Orient Bio Inc.(韓国、ソンナム))から購入した。U87MGまたはU87MG-shSPARC細胞(2×10個の細胞/部位)を右下脇腹に皮下注射した。
【0067】
腫瘍体積が50mmに近づくと、各細胞株のマウスをランダムに3つの群に分けた(U87MG:PBS群はn=12、CDDP群はn=9、HSA-CDDP群はn=11;U87MG-shSPARC:PBS群はn=7、CDDP群はn=6、HSA-CDDP群はn=9)。
【0068】
マウスにPBS、CDDPまたはHSA-CDDPをIV投与した(隔日7回)。CDDPの薬物容量は3mg/kgであり、HSA-CDDPの容量はCDDPの等価量であった(HSA-CDDPのCDDP3mg/kg)。
【0069】
各マウスの腫瘍サイズおよび体重は隔日で記録した。腫瘍体積は、方程式V=0.5×L×Wを用いて計算した(L:腫瘍の長さ、W:腫瘍の幅)。
【0070】
腫瘍モデルにおけるCDDPおよびHSA-CDDPの生存率を評価するために、人道的エンドポイントのガイドライン(humane endpoints guideline)に従ってマウスをモニターし、安楽死させた(特に、数日内に15~20%の急速な体重減少がある場合、または腫瘍体積が2000mm以上である場合)。
【0071】
1.8.ICP-MSを用いたCDDPの生体分布(Biodistribution of CDDP Using ICP-MS)
正常マウスを2つの群に分けて(各群に対してn=4)、抗腫瘍効果の検査と同じ容量および時間スケジュールでCDDPまたはHSA-CDDPをIV投与した(3mg/kgのCDDPおよびHSA-CDDPのCDDP等価容量、隔日、7回)。最後のIV投与72時間後(初回のIV投与15日後)にマウスを安楽死させ、臓器(脳、心臓、肝臓、腎臓、脾臓及び肺)および血液を取得して重量を測定した。
【0072】
腫瘍CDDP分布のために、U87MGまたはU87MG-shSPARC細胞(2×10細胞/部位)を右下脇腹に皮下注射した。腫瘍体積が50mmに近づくと、各細胞株を注射したマウスをランダムに2つの群に分けて(各群に対してn=5)、IV投与CDDPまたはHSA-CDDP(隔日、7回)を投与した。最後のIV投与72時間後(初回投与15日後)にマウスを安楽死させ、腫瘍を取得した。
【0073】
すべてのサンプル(臓器、血液および腫瘍)を凍結乾燥し、ソウル大学のNCIRF(The National Center for Inter-university Research Facilities)に設置されたICP-MS(NexION 350;Perkin-Elmer、Waltham、MA、USA)を用いて、CDDPの量を分析した。
【0074】
1.9.血液分析(Hematology Analysis)
マウスに対して、PBS、CDDPまたはHSA-CDDP(各群に対してn=4)を療法治療(the therapy treatment)(隔日、7回)で処理し、マウスの血液サンプル(murine blood samples)を最終投与72時間後(初回のtreatmentから15日後)に採取した。4℃で20分間遠心分離した後、血液生化学分析のために血漿を収集した。AST、ALT、BUN及びクレアチニンの濃度は、DKKorea(ソウル、韓国)で分析された。
【0075】
1.10.組織病理検査(Histopathology Examination)
薬物処理されたマウスの腎臓、肝臓および脾臓を取得し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。組織をパラフィン(paraffin)に包埋し、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)で染色した。H&E染色画像は、光学顕微鏡(Olympus BX43、Tokyo、Japan)を用いて撮影した。
【0076】
1.11.HSA-CDDPの血清安定性(Serum Stability of HSA-CDDP)
血清中のHSA-CDDPのCDDP安定性を測定した。血清アルブミン/HSA-CDDP溶液を37℃で培養し、血清中の遊離CDDPは、培養0.5、1、2、4、8、16、24、48、72及び120時間後に測定した。血清から遊離CDDPを得るために、アミコン・ウルトラ遠心分離フィルター装置(公称分子量の制限30kDa; Millipore、Burlington、MA、USA)を用いた。上清液(チューブの底部、30KDa未満)で測定されたCDDP濃度は遊離CDDPのレベルに相当する。上清液のCDDP濃度は、NCIRFに設置された誘導結合プラズマ質量分析計(Inductively coupled plasma-mass spectrometry、ICP-MS;NexION 350;PerkinElmer、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて分析した。
【0077】
1.12.SPECT画像
Nano SPECT/CT plus(Mediso medical imaging system、Budapest、Hungary)を用いて、腫瘍を有するマウスの小動物用SPECT画像を撮影した。マウスに尾静脈を介して18.5MBqの177Lu-HSAまたは177Lu-HSA-CDDPを注入した。SPECT画像は、注入10分、4時間、24時間、48時間および72時間後に撮影した。SPECT画像を得るために、マウスを2%イソフルランで麻酔した。SPECTスキャンは、フレーム当たり30秒、18゜角度ステップ(angular step)の40個のプロジェクション(フレーム)から収集した。177Luのエネルギーピークは56.1keV 10%、112.9keV 10%、および208.4keV 10%に設定した。SPECTで再構成されたデータは、InVivoScope(Bioscan、Washington、DC、USA)を用いて可視化した。
【0078】
1.13.免疫組織化学およびTUNEL分析(Immunohistochemistry and TUNEL Assay)
腫瘍および腎臓を4%パラホルムアルデヒドで固定してパラフィンに挿入し、4μmの切片に切った。腎臓における細胞死を評価するために、メーカーのプロトコルに従ってTUNELアッセイキット-HRP-DAB(ab206386;abcam、イギリスのケンブリッジ)を用いて腎臓切片を染色した。
【0079】
1.14.統計学的分析(Statistical Analysis)
全ての統計分析は、グラフパッド・プリズム(GraphPad Prism)を用いて行った。スチューデントのt検定(Student's t-test)を用いて、HSA-CDDPの細胞取り込み、異種移植の腫瘍モデルにおけるHSA-CDDPの抗腫瘍効果、およびマウスにおけるHSA-CDDPの生体分布の統計的有意性を決定した。0.05未満のPの値は統計的有意性を有するものとみなした。
【0080】
2.結果
2.1.HSA-CDDPの特性
HSA-CDDPの分子量は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(matrix-assisted laser desorption/ionization-time of flight、MALDI-TOF)で分析した。測定されたHSA-CDDPの分子量は67,522±129Daであった。HSAの1モル当たりのCDDPの割合は、HSA-CDDPとHSAとの間の分子量の差から計算した。HSAの1モルに結合したCDDPの平均分子数は4.07であった。CDDPをHSAに結合した後、MALDI-TOFを用いてHSA-CDDPの分子量を測定した。
【0081】
HSA-CDDPがSPARC媒介HSA依存的方法で膠芽細胞腫細胞(glioblastoma cells)によって取り込みされるかどうかを観察するために、共焦点顕微鏡を用いて細胞取り込み画像を撮影した。
【0082】
SPARCタンパク質を高度に発現するU87MG細胞およびSPARCタンパク質の低い発現を示すU87MG-shSPARC細胞の2種類のU87MG細胞株を使用した。
【0083】
客観的な比較のために、細胞の共焦点顕微鏡画像を取得して定量化した(各群に対してn=5)。その結果、U87MG-shSPARC細胞よりもU87MG細胞においてより高いHSA-CDDPの取り込みを示した(図1(a)及び(c)、FNR648-HSA-CDDP、p<0.001)。
【0084】
細胞におけるSPARC媒介HSA-CDDPの取り込みを評価するために、外因性のSPARCタンパク質を細胞内で共同処理した。この処理により、HSA-CDDPはU87MG-shSPARC細胞に高度に蓄積された(図1(a)、U87MG-shSPARCのFNR648-HSA-CDDPおよび図1(c)、+SPARC)。
【0085】
SPARC依存的な取り込みパターンは、細胞におけるHSA取り込み方式と類似していた(図1(a)、FNR648-HSAおよびFNR648-HSA-CDDP)。この結果は、細胞に対するHSA-CDDPの取り込みがHSAに依存的なことを意味する。
【0086】
2.2.HSA-CDDPインビトロの細胞毒性効果(Cytotoxic Effect of HSA-CDDP In Vitro)
癌細胞の生存力に対するHSA-CDDPの効果を調査した。
HSA-CDDPの細胞毒性は、細胞計数キット(cell counting kit-8、CCK-8)アッセイを用いて、U87MGおよびU87MG-shSPAR細胞を用いて研究した。
【0087】
HSA-CDDPは、細胞に対して容量依存的な毒性を示した(図2(b)、HSA-CDDP)。特に、HSA-CDDPの毒性は、U87MG-shSPARC細胞よりもU87MG細胞においてより高かった(図2(b)および表1)。
【0088】
U87MGおよびU87MG-shSPARCは、CDDPと類似した細胞毒性を示した(図2(a)および表1)。これはHSA-CDDPのU87MGおよびU87MG-shSPARCに対する細胞毒性がHSA-CDDPのSPARC媒介細胞取り込みに依存することを示す。
【0089】
下記表1は、細胞におけるCDDPおよびHSA-CDDPに対するIC50の値を示す。データは平均SD(n=5)で示す。
【0090】
【表1】
【0091】
HSA-CDDPによって誘発された細胞死(Apoptosis)は、アネキシンV-FITC/PI共同染色(co-staining)を用いたフローサイトメトリー分析(flow cytometry analysis)で観察した(図3及び図4)。その結果、HSA-CDDPが容量依存的な方法に細胞死を誘導することが示された(図4(b))。
【0092】
細胞死細胞の割合をCDDPの4.9μMおよびHSA-CDDPの19.3μMの濃度で比較し、CCK-8の結果から、薬物治療後、細胞の30~40%が生きていることを確認した。
【0093】
U87MGは、U87MG-shSPARC細胞よりも高い細胞死率を示した(図3、HSA-CDDP、19.3μM;U87MG、23.2%;U87MG-shSPARC、8.8%)。U87MG細胞におけるCDDPの4.9μMとHSA-CDDPの19.3μMを比較したとき、HSA-CDDPはCDDPよりも高い細胞死率を示したが、両方ともCCK-8で類似した細胞毒性を示した(図3)。
【0094】
この結果は、HSA-CDDPの細胞毒性がSPARC媒介であり、HSAが細胞取り込みおよび細胞死を増強することを示す。
【0095】
2.3.インビボでのHSA-CDDPの抗がん効果(Antitumor Effect of HAS-CDDP In Vivo)
HSA-CDDPの治療効果は、U87MGおよびU87MG-shSPARC細胞を使用する異種移植腫瘍マウスモデルで調べた。薬物投与は、腫瘍サイズが50mmに達したときに開始し、腫瘍体積が2000mmに達するまで腫瘍成長を観察した。マウスにPBS(Phosphate buffered saline)、CDDPまたはHSA-CDDPを隔日で合計7回静脈注射で投与した。
【0096】
U87MG腫瘍モデルにおいて、初回の薬物治療12日後、CDDP-およびHSA-CDDP処理されたマウスは、PBS群よりも腫瘍の成長が顕著に減少した(図5(a)、p<0.001)。
【0097】
U87MG-shSPARC腫瘍モデルにおいて、初回の薬物処理26日後にCDDP処理されたマウスは、PBS群よりも腫瘍の成長が顕著に減少したが(図5(b)、p<0.001)、HSA-CDDP処理されたマウスは、PBS群と比較して腫瘍成長に差がなかった。マウスの重量はCDDP処理群では顕著に減少したが(図5(c)、(d))、HSA-CDDP処理群では減少しなかった。これはCDDPがインビボ・システムでネガティブな影響を及ぼす可能性があることを意味するが、HSA-CDDP治療では、このようなネガティブな効果が示されなかった。
【0098】
U87MG腫瘍モデルの生存率に対して、CDDPおよびHSA-CDDP処理マウスは、PBS群よりも長い生存時間を示した(図5(e)および表2)。U87MG-shSPARC腫瘍モデルにおいて、HSA-CDDP処理マウスはPBS群と近似した生存率を示したのに対して、CDDP処理マウスは延長された生存率を示した(図5(f)および表2)。この結果は、HSA-CDDPの抗腫瘍効果が腫瘍においてSPARC媒介HSA依存性取り込みに基づいており、CDDPと類似していることを示す。
【0099】
下記表2は、U87MGおよびU87MG-shSPARC異種移植腫瘍モデルの中央生存日数(Median survival(days))を示す。
【0100】
【表2】
【0101】
2.4.インビボでのHSA-CDDPの生体分布(Biodistribution of HSA-CDDP In Vivo)
HSA-CDDPの生体分布は、最後のHSA-CDDP処理72時間後、正常マウスおよび腫瘍保持マウスにおける抗腫瘍効果(2日に1回ずつ7回投与、最初のHSA-CDDP処理15日後に開始)を分析した。
【0102】
各々の臓器(脳、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、肺および血液)でのCDDP量は誘導結合血漿質量分析法(inductively coupled plasma mass spectrometry、ICP-MS)を用いて測定した。
【0103】
HSA-CDDPは、CDDPよりも血液分布が高かった(図6(A))。長期間の血液分布により、脳を除く全ての機関において、HSA-CDDP群でCDDPがより多く蓄積されることが示された。特に、HSA-CDDPは肝臓で多く蓄積された(図6(a))。
【0104】
CDDPデータのU87MG腫瘍蓄積において、HSA-CDDP群のCDDP量はCDDP群よりも有意に高かった(図6(b)、p<0.05)。HSA-CDDP群において、U87MG腫瘍は、U87MG-shSPARC腫瘍よりもCDDPがより多く蓄積されることが示された(図6(b)、HSA-CDDP、p<0.05)。
【0105】
CDDP治療群では、U87MGとU87MG-shSPARCとの間でCDDP蓄積量に差がなかった(図6(b))。U87MG腫瘍では、HSA-CDDP群はCDDP群よりもCDDPの蓄積が大幅に増加した(図6(b))。
【0106】
この結果は、HSA-CDDPがHSA依存的な方法で腫瘍に取り込みされることを示す。
【0107】
2.5.インビボでのHSA-CDDPの生物学的な安定性(Biosafety of HSA-CDDP In Vivo)
抗腫瘍効果に関する結果から、CCDPで処理したマウスは、PBSで処理したマウスと比較して相当な体重減少を示した。この結果は、インビボ・システムのCDDPにネガティブな影響を及ぼす可能性があることを示す。
【0108】
生物学的分布の研究では、HSA-CDDPは肝臓に多く蓄積し、抗腫瘍効果計画で最後のHSA-CDDP治療72時間後に肝臓、腎臓の機能および体重の血液マーカーをモニターし、マウスにおけるHSA-CDDPの毒性を評価した(隔日、7回、最初のHSA-CDDP処理15日後)。
【0109】
CDDP処理群では、体重に対する抗腫瘍効果に関する結果と同様に、PBSおよびHSA-CDDP群と比較して相当な体重減少を示した(図7(a))。
【0110】
肝機能の観点から、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(Aspartate transaminase、AST)、アラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase、ALT)は、群間に有意な差を示さなかった(図7(a))。
【0111】
腎機能の場合には、CDDP群で血中尿素窒素(blood urea nitrogen、BUN)が増加した(図7(a))。ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色画像でCDDP処理された腎臓組織は、尿細管変性(図7(b)、黒矢印)と広範囲の上皮空泡形成(図7(b)、黄矢印)を示した。
【0112】
TUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase)アッセイでは、TUNEL陽性細胞はCDDP処理されたマウスの腎臓のみで確認された(図8)。
【0113】
前記結果は、HSA-CDDPがインビボでのCDDPの腎毒性を減少させることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図9