(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】孵化後の鳥類ヒナの学習特性を利用した認知機能向上薬のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20240408BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240408BHJP
C07K 14/575 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C07K14/575
(21)【出願番号】P 2019115147
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-06-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 光一
(72)【発明者】
【氏名】山口 真二
(72)【発明者】
【氏名】青木 直哉
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0018282(US,A1)
【文献】特表2006-521115(JP,A)
【文献】YAMAGUCHI, S. et al.,Thyroid hormone determines the start of the sensitive period of imprinting and primes later learning,NATURE COMMUNICATIONS,2012年09月25日,Vol.3/No.1081,p.1-13,DOI: 10.1038/ncomms2088
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナと、前記被検物質を投与しない対照に対して第一の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと前記対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程、
(4)前記工程(2)において学習効果に差が認められず、且つ、前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程
を含む、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対する認知機能向上薬のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孵化後の鳥類ヒナの学習特性を利用した認知機能向上薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前頭連合野が主体となる高次脳機能は、高等哺乳動物のみが有すると考えられており、認知機能を向上させる薬物のスクリーニングは、主にげっ歯類を用いて行われている。例えば、非特許文献1には、マウスを使った実験系が開示されているが、実験装置に慣れるのに3日間、行動実験に8日間の計11日を要する。また、非特許文献2には、ラットを使った実験系が開示されているが、食事制限と実験装置に慣れるのに6日間、行動実験に12日間、計18日間を要する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Pathway-specific control of reward learning and its flexibility via selective dopamine receptors in the nucleus accumbens. PNAS (2012) 109(31): 12764-12769.
【文献】Evidence that the attentional set shifting test in rats can be applied in repeated testing paradigms. J Psychopharmacol. (2014) 28(7):691-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高等哺乳動物のみが有すると考えられていた、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対して、極めて安価で、且つ短期間で実施することができ、更に、統計的な扱いが可能な、認知機能向上薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、本発明による、
[1](1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナと、前記被検物質を投与しない対照に対して第一の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと前記対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程、
(4)前記工程(2)において学習効果に差が認められず、且つ、前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程
を含む、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対する認知機能向上薬のスクリーニング方法;
[2](1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナに対して第一の学習課題を実施する工程、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと、前記被検物質を投与したが、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しなかった対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程、
(4)前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程
を含む、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対する認知機能向上薬のスクリーニング方法;
[3](1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナに対して第一の学習課題を実施する工程、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと、前記被検物質を投与せず、且つ、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しなかった対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習を実施し、学習効果を比較する工程、
(4)前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程
を含む、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対する認知機能向上薬のスクリーニング方法
により解決することができる。
【0006】
また、本発明は、
[4](1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナに対して、第一の学習課題を実施する工程、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと、対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程、
(4)前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程
を含む、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対する認知機能向上薬のスクリーニング方法;
[1’]前記対照が、被検物質を投与しない鳥類ヒナであり、
前記工程(2)が、被検物質を投与した前記鳥類ヒナと、被検物質を投与しない前記対照に対して第一の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程であり、
前記工程(4)が、前記工程(2)において学習効果に差が認められず、且つ、前記工程(3)において対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程である、
前記[4]のスクリーニング方法;
[2’]前記対照が、被検物質を投与するが、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しない対照である、
前記[4]のスクリーニング方法;
[3’]前記対照が、被検物質を投与せず、且つ、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しない対照である、
前記[4]のスクリーニング方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高等哺乳動物ではなく、鳥類ヒナを用いるため、極めて安価に、受精卵として購入が可能である。また、本発明によれば、鳥類ヒナを用いるため、極めて短期間で実施することができ、具体的には、被検物質の投与から学習課題の実施、統計処理まで1日以内で終了できる。更に、本発明によれば、鳥類ヒナを用いるため、被検物質1種類当たり10数個体で充分な統計的な扱いが可能である。
また、本発明の好適態様であるニワトリヒナを用いる態様では、ニワトリとヒトとの比較において、遺伝子数や種類に関して、多くの相同遺伝子を有しており、本発明により選択される候補物質をヒトに適用できる可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で実施したタスクスイッチング(色フェーズ→位置フェーズ)を伴う学習の実施手順を示す説明図である。
【
図3】実施例1における第一回学習(色フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図4】実施例1における第二回学習(位置フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図5】実施例1における第二回学習(位置フェーズ)の学習効果(正解率)を、
図4とは別の対照群と比較して示すグラフである。
【
図6】実施例2で実施したタスクスイッチング(位置フェーズ→色フェーズ)を伴う学習の実施手順を示す説明図である。
【
図7】実施例1における第一回学習(位置フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図8】実施例1における第二回学習(色フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図9】実施例3で実施した色反転(カラーリバーサル)ラーニングを伴う学習の実施手順を示す説明図である。
【
図10】実施例3における第一回学習(色フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図11】実施例3における第二回学習(色反転フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図12】実施例4で実施した位置反転(ポジションリバーサル)ラーニングを伴う学習の実施手順を示す説明図である。
【
図13】実施例4における第一回学習(位置フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図14】実施例4における第二回学習(位置反転フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図15】参考例1で実施したノンスイッチング(色)を伴う学習の実施手順を示す説明図である。
【
図16】参考例1における第一回学習(第一回色フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図17】参考例1における第二回学習(第二回色フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図18】参考例2で実施したノンスイッチング(位置)を伴う学習の実施手順を示す説明図である。
【
図19】参考例2における第一回学習(第一回位置フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図20】参考例2における第二回学習(第二回位置フェーズ)の学習効果(正解率)を示すグラフである。
【
図21】行動の柔軟性を必要とする3種類の学習パラダイムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のスクリーニング方法によれば、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対する認知機能向上薬をスクリーニングすることができる。
本明細書において、「前頭連合野が主体となる高次脳機能」とは、前頭連合野が主体となる「セットシフティング」と呼ばれる状況の変化に直面した際の柔軟性を意味する。
【0010】
また、本明細書において、「認知機能向上」とは、状況の変化に直面した際に柔軟に行動を変えることができるようになることを意味する。
【0011】
本発明のスクリーニング方法は、
(1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程(投与工程)、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナに対して、第一の学習課題を実施する工程(第一学習工程)、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと、対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程(第二学習工程)、
(4)前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を含むことができる。
【0012】
本発明の前記スクリーニング方法には、対照(コントロール)の違いにより、複数の実施態様が含まれる。
例えば、対照が、被検物質を投与しない鳥類ヒナである場合には、
(1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程(投与工程)、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナと、前記被検物質を投与しない対照に対して第一の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程(第一学習工程)、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと前記対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程(第二学習工程)、
(4)前記工程(2)において学習効果に差が認められず、且つ、前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を含むスクリーニング方法(以下、本発明の実施態様1と称することがある)を挙げることができる。
【0013】
対照が、被検物質を投与するが、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しない対照である場合、
(1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程(投与工程)、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナに対して第一の学習課題を実施する工程(第一学習工程)、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと、前記被検物質を投与したが、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しなかった対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、学習効果を比較する工程(第二学習工程)、
(4)前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を含むスクリーニング方法(以下、本発明の実施態様2と称することがある)を挙げることができる。
【0014】
対照が、被検物質を投与せず、且つ、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しない対照である場合、
(1)鳥類ヒナに被検物質を投与する工程(投与工程)、
(2)前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナに対して第一の学習課題を実施する工程(第一学習工程)、
(3)前記工程(2)で使用した前記鳥類ヒナと、前記被検物質を投与せず、且つ、前記工程(2)の第一の学習課題を実施しなかった対照に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習を実施し、学習効果を比較する工程(第二学習工程)、
(4)前記工程(3)において前記対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を含むスクリーニング方法(以下、本発明の実施態様3と称することがある)を挙げることができる。
【0015】
以下、本発明のスクリーニング方法の基本的な実施態様である実施態様1に基づいて、本発明のスクリーニング方法を説明し、適時、実施態様2、実施態様3について説明する。
【0016】
本発明のスクリーニング方法における第一工程(投与工程)では、実施態様1~実施態様3のいずれにおいても、鳥類ヒナに被検物質を投与する(試験群)。
本発明に用いる鳥類ヒナは、前頭連合野が主体となる高次脳機能を有し、且つ、以下に詳述する第一学習課題および第二学習課題をこなすことができる鳥類のヒナであれば、特に限定されるものではなく、例えば、離巣性(早成性)の鳥類のヒナを挙げることができり、安価かつ大量に購入することができる点でニワトリヒナ(ヒヨコ)が好ましい。
【0017】
被検物質の投与は、脳内に到達できる投与経路であれば、特に限定されるものではなく、例えば、脳内への直接投与、足への静脈注射などを挙げることができる。
投与時期は、第一学習課題および第二学習課題をこなすことができる時期であれば、特に限定されるものではなく、例えば、孵化後3日目~10日目、好ましくは孵化後3日目~4日目である。
投与量は、被検物質の種類により調整が必要であるが、予備実験等を行い、適宜決定することができる。例えば、甲状腺ホルモン(T3)の場合は、10μmol/Lの濃度で200μLを静脈に投与することができる。
【0018】
本発明のスクリーニング方法における第二工程(第一学習工程)では、前記被検物質を投与した前記鳥類ヒナ(試験群)に対して、第一の学習課題を実施する。また、本発明のスクリーニング方法における第三工程(第二学習工程)では、前記第一課題を実施した前記鳥類ヒナ(試験群)と、対照(対照群)に対して、前記第一の学習課題と異なる第二の学習課題を実施する。
【0019】
本発明のスクリーニング方法で用いる第一学習課題と第二学習課題の組合せとしては、互いに同一の学習課題ではなく、前頭連合野が主体となる高次脳機能を評価できる学習課題の組合せであれば、特に限定されるものではなく、例えば、タスクスイッチングを伴う学習課題、リバーサルラーニングを伴う学習課題等を挙げることができる。
【0020】
タスクスイッチング(task switching)とは、第一学習課題(プレスイッチフェーズ)と第二学習課題(ポストスイッチフェーズ)との間で、それぞれの学習課題の内容を切り替える学習課題である。例えば、第一学習課題が、色に基づく記憶・判断が要求される課題(色フェーズ)であるとすると、第二学習課題として、位置に基づく記憶・判断が要求される課題(位置フェーズ)を挙げることができる(
図21のTask-switching)。
前記色フェーズとしては、例えば、色の異なる2つのビーズ(例えば、青色ビーズと緑色ビーズ)を適当な提示手段により鳥類ヒナの前に水平に提示し(
図2)、予め決められた色のビーズ(例えば、青色ビーズ)を選択すると、報酬(例えば、水)が与えられる学習課題を挙げることができる。
前記位置フェーズとしては、同様に、色の異なる2つのビーズ(例えば、青色ビーズと緑色ビーズ)を適当な提示手段により鳥類ヒナの前に水平に提示し、予め決められた位置のビーズ(例えば、右側のビーズ)を選択すると、報酬(例えば、水)が与えられる学習課題を挙げることができる。
第一学習課題および第二学習課題として、色フェーズおよび位置フェーズをこの順で実施することもできるし、あるいは、位置フェーズおよび色フェーズの順で実施することもできる。
【0021】
リバーサルラーニング(reversal learning)とは、第一学習課題(プレスイッチフェーズ)と第二学習課題(ポストスイッチフェーズ)との間で、それぞれの学習課題の正解を逆にする(すなわち、反転させる)学習課題である(
図21のReversal learning)。
例えば、第一学習課題および第二学習課題が色に基づく記憶・判断が要求される課題であって、色の異なる2つのビーズ(例えば、青色ビーズと緑色ビーズ)を用いる場合、第一学習課題(色フェーズ)における正解を一方の色のビーズ(例えば、青色ビーズ)とし、第二学習課題(色反転フェーズ)における正解を他方の色のビーズ(例えば、緑色ビーズ)とする学習課題を挙げることができる。
あるいは、第一学習課題および第二学習課題が位置に基づく記憶・判断が要求される課題であって、色の異なる2つのビーズ(例えば、青色ビーズと緑色ビーズ)を用いる場合、第一学習課題(位置フェーズ)における正解を一方の位置のビーズ(例えば、右側のビーズ)とし、第二学習課題(位置反転フェーズ)における正解を他方の位置のビーズ(例えば、左側のビーズ)とする学習課題を挙げることができる。
【0022】
本発明のスクリーニング方法における第一学習工程および第二学習工程では、課題の提示から鳥類ヒナによる選択、報酬の提供までの一連の過程を一回の試行とした場合、正しい選択を予め決められた回数行うまで前記試行を繰り返し、これを1セッションとして、このセッションを複数回実施することができる。
例えば、第一学習工程では、正しい選択を5回行うまで前記試行を繰り返し、これを1セッションとして、このセッションを5セッション行うことができる。また、第二学習工程では、正しい選択を5回行うまで前記試行を繰り返し、これを1セッションとして、このセッションを7セッション行うことができる。
【0023】
なお、本発明のスクリーニング方法では、第一学習工程を実施する前に、第一学習課題および第二学習課題を把握させるために、予備工程を実施することが好ましい。例えば、第一学習課題または第二学習課題として、前記色フェーズ及び/又は位置フェーズの学習課題を実施する場合、水平に設けた二つの穴のいずれか一方にビーズを提示し、鳥類ヒナがくちばしでビーズをつつくと、水一滴が与えられる予備工程を実施することができる。これを一回の試行とした場合、例えば、10回の試行を行うことができる。なお、予備工程で使用するビーズは、第一学習課題または第二学習課題で用いるビーズ(例えば、青色ビーズと緑色ビーズ)と異なる色のビーズ(例えば、赤色ビーズ)を用いることが好ましい。
【0024】
本発明のスクリーニング方法における第一学習工程および第二学習工程では、各工程での学習効果を評価するために、例えば、各セッションにおける正答率を用いることができる。前記正答率は、例えば、各セッションにおいて正しい選択を行った試行回数を、各セッションにおける全試行回数で除することにより算出することができる。各セッションにおける正答率を算出し、セッションの進行に伴って正答率が上昇した場合、学習効果の向上が認められたと判定することができる。
【0025】
本発明者は、孵化直後の親を記憶するヒヨコの刷り込み学習において、甲状腺ホルモン(T3)を脳内に投与することにより、認知機能の向上が認められることを過去に報告している(S. Yamaguchi et al., Thyroid hormone determines the start of the sensitive period of imprinting and primes later learning. Nature communications 3, 1081 (2012).)。本発明において、本発明者は、後述の実施例に示すように、前頭連合野が主体となる高次脳機能においてもT3が効果を示すことを確認しており、本発明のスクリーニング方法において、被検物質の中から、T3と同様の挙動を示す物質を選択することにより、前頭連合野が主体となる高次脳機能の認知機能向上薬をスクリーニングすることができる。
【0026】
本発明のスクリーニング方法には、対照(コントロール)の違いにより、複数の実施態様(例えば、実施態様1~実施態様3)が含まれる。
本発明の実施態様1では、対照として、被検物質を投与しない鳥類ヒナを使用する。本発明の実施態様1では、投与工程において、例えば、被検物質を溶解または懸濁するのに用いる溶媒のみを、被検物質を投与する試験群と同じ投与方法により対照に投与することが好ましい。
【0027】
本発明の実施態様1では、第一学習工程において、被検物質を投与した鳥類ヒナ(試験群)と、被検物質を投与しない対照に対して第一の学習課題を実施し、第一学習工程における学習効果を比較する。被検物質として甲状腺ホルモン(T3)を用いた場合、本発明の実施態様1における第一学習工程では、学習効果の向上に関して、試験群と対照群との間に有意差は認められない。
【0028】
本発明の実施態様1では、第二学習工程において、前記第一学習課題を実施した前記鳥類ヒナ(試験群)と前記対照に対して、前記第一学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、第二学習工程における学習効果を比較する。被検物質として甲状腺ホルモン(T3)を用いた場合、本発明の実施態様1における第二学習工程では、対照においても学習効果の向上が認められるが、試験群においては、より高い学習効果の向上が認められる。
【0029】
本発明の実施態様1では、選択工程において、前記第一学習工程および第二学習工程において甲状腺ホルモン(T3)と同様の挙動を示す被検物質、すなわち、第一学習工程において対照と学習効果に差が認められず、且つ、第二学習工程において対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択することにより、認知機能向上薬をスクリーニングすることができる。
【0030】
本発明の実施態様2では、対照として、被検物質を投与するが、第一学習課題を実施しない鳥類ヒナを使用する。本発明の実施態様2では、投与工程において、被検物質を投与する試験群と同じ投与方法により対照に被検物質を投与することが好ましい。
【0031】
本発明の実施態様2では、第一学習工程において、被検物質を投与した鳥類ヒナ(試験群)を対象に第一の学習課題を実施し、前記対照には第一学習課題を実施しない。
【0032】
本発明の実施態様2では、第二学習工程において、前記第一学習課題を実施した前記鳥類ヒナ(試験群)と、第一学習課題を実施しなかった前記対照に対して、前記第一学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、第二学習工程における学習効果を比較する。被検物質として甲状腺ホルモン(T3)を用いた場合、本発明の実施態様2における第二学習工程では、対照においても学習効果の向上が認められるが、試験群においては、より高い学習効果の向上が認められる。
【0033】
本発明の実施態様2では、選択工程において、前記第二学習工程において甲状腺ホルモン(T3)と同様の挙動を示す被検物質、すなわち、第二学習工程において対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択することにより、認知機能向上薬をスクリーニングすることができる。
【0034】
本発明の実施態様3では、対照として、被検物質を投与せず、且つ、第一学習課題を実施しない鳥類ヒナを使用する。本発明の実施態様3では、投与工程において、例えば、被検物質を溶解または懸濁するのに用いる溶媒のみを、被検物質を投与する試験群と同じ投与方法により対照に投与することが好ましい。
【0035】
本発明の実施態様3では、第一学習工程において、被検物質を投与した鳥類ヒナ(試験群)を対象に第一の学習課題を実施し、前記対照には第一学習課題を実施しない。
【0036】
本発明の実施態様3では、第二学習工程において、前記第一学習課題を実施した前記鳥類ヒナ(試験群)と、第一学習課題を実施しなかった前記対照に対して、前記第一学習課題と異なる第二の学習課題を実施し、第二学習工程における学習効果を比較する。被検物質として甲状腺ホルモン(T3)を用いた場合、本発明の実施態様3における第二学習工程では、対照においても学習効果の向上が認められるが、試験群においては、より高い学習効果の向上が認められる。
【0037】
本発明の実施態様3では、選択工程において、前記第二学習工程において甲状腺ホルモン(T3)と同様の挙動を示す被検物質、すなわち、第二学習工程において対照に対して学習効果の向上が認められた被検物質を候補物質として選択することにより、認知機能向上薬をスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
《実施例1:タスクスイッチングを伴う学習における甲状腺ホルモン(T
3)の効果》
孵化後4日目のヒヨコを用いて、以下に示す手順に従って、甲状腺ホルモン注射(T
3 injection)、予備学習(pre-training)、第一回学習(color phase)、第二回学習(position phase)の順に行い(
図1)、第一回学習および第二回学習における試験群(甲状腺ホルモン注射群)と対照群の学習効果を比較した。
【0040】
(1)甲状腺ホルモンの注射
甲状腺ホルモン(T3)を0.002mol/L水酸化ナトリウム溶液に10μmol/Lになるように溶解し、200μLを静脈に注射した。注射量は、血清中のT3濃度が20ng/mLを超えない程度とした。対照群には、同量の0.002mol/L水酸化ナトリウム溶液を静脈注射した。
【0041】
(2)予備学習
学習装置として、
図2に示すように、ビーズ(赤色、青色、緑色)を提示することのできる一対の穴(間隔=1.5cm、底面からの高さ=5.0cm)を側壁に水平に設けたチャンバー(30×20×30cm)を使用した。ヒヨコが正しいビーズをくちばしでつつくと、報酬として水一滴が穴から出るようになっている。
予備学習フェーズでは、二つの穴の一方に赤色ビーズを提示し、赤色ビーズを選択すると水一滴が与えられる。これを1トライアルとして10トライアル実施した。
【0042】
(3)第一回学習(色フェーズ)
第一回学習では、青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、10秒を上限として、二つの穴に同時に提示する。両ビーズの位置(右または左)はランダムに変更する。青色ビーズが正解である場合には、青色ビーズを選択すると、水一滴を与え、緑色ビーズはすぐに引き下げる。緑色を選択すると、両ビーズを引き下げ、水は与えられない。正しい選択を5回行うまでトライアルを繰り返し、これを1セッションとして5セッション行った。なお、第一回学習は、T3の注射から40分後に開始した。
【0043】
(4)第二回学習(位置フェーズ)
第二回学習でも、青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、10秒を上限として、二つの穴に同時に提示する。両ビーズの位置(右または左)はランダムに変更する。第二回学習では、ビーズの色に関係なく、2つの位置の一方(右または左)を正解とする。右側のビーズが正解である場合には、右側のビーズを選択すると、水一滴を与え、左側のビーズはすぐに引き下げる。左側のビーズを選択すると、両ビーズを引き下げ、水は与えられない。正しい選択を5回行うまでトライアルを繰り返し、これを1セッションとして7セッション行った。なお、第二回学習は、T3の注射から130分後に開始した。
【0044】
(5)結果
第一回学習における学習効果(正解率)を
図3に、第二回学習における学習効果(正解率)を
図4及び
図5に、それぞれ示す。
図3には、T
3注射群[T
3 injection (+)]と、T
3を注射しなかった対照群[T
3 injection (-)]の結果を示す。
図4には、T
3注射かつ第一回学習群[T
3 injection (+), color phase (+)]と、T
3注射なしで、第一回学習を行った対照群[T
3 injection (-), color phase (+)]との結果を示す。
図5には、T
3注射したが、第一回学習を行わなかった対照群[T
3 injection (+), color phase (-)]について、T
3注射かつ第一回学習群[T
3 injection (+), color phase (+)]との比較を示す。
【0045】
第一回学習における学習効果については、
図3に示すように、T
3注射群と、T
3を注射しなかった対照群との間で有意差は認められなかった。統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(23,1)=0.09,not significant[n.s.];F
B(92,4)=8.01,p<0.005;F
interaction(92,4)=0.38,n.s.。
一方、第二回学習における学習効果については、
図4に示すように、T
3注射かつ第一回学習群は、T
3を注射せず、第一回学習を行った対照群に対して、明らかな正解率の向上が認められた。
図4に示す統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(23,1)=6.42,p<0.025.;F
B(138,6)=6.82,p<0.005;F
interaction(138,6)=1.31,n.s.,**:p<0.025。
図5に示すように、T
3注射かつ第一回学習群と、T
3を注射したが第一回学習を行わなかった対照群との間で有意差が認められた。
図5に示す統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因Aを第一回学習の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(25,1)=13.43,p<0.005.;F
B(150,6)=10.70,p<0.005;F
interaction(150,6)=2.11,n.s.,***:p<0.005。
本発明者らは、孵化直後の親を記憶するヒヨコの刷り込み学習において、学習能力が短期間(孵化後3日程度)で消失する現象について、学習可能な期間を甲状腺ホルモン(T
3)の投与によって延長できる(孵化後1週間程度)ことを報告しており、刷り込み学習のように、本能的かつ簡単な学習に対してT
3が効果を示すことを報告している。本実施例では、タスクスイッチングのように、前頭連合野が主体となる高次脳機能においてもT
3が効果を示すことが確認され、本発明のスクリーニング系を使用すれば、T
3と同様の挙動を示す物質を選択することにより、前頭連合野が主体となる高次脳機能の認知機能向上薬をスクリーニングできる可能性を示すことができた。
【0046】
《実施例2:タスクスイッチング(逆手順)を伴う学習における甲状腺ホルモン(T
3)の効果》
本実施例では、第一回学習において、実施例1で実施した位置フェーズの学習(但し、5セッション)を行い、第二回学習において、実施例1で実施した色フェーズの学習(但し、7セッション)を行ったこと以外は、実施例1の手順を繰り返した(
図6)。
【0047】
第一回学習における学習効果(正解率)を
図7に、第二回学習における学習効果(正解率)を
図8に、それぞれ示す。
第一回学習における学習効果については、
図7に示すように、T
3注射群と、T
3を注射しなかった対照群との間で有意差は認められなかった。統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(38,1)=0.01,n.s.;F
B(152,4)=1.45,n.s;F
interaction(92,4)=0.49,n.s.。
一方、第二回学習における学習効果については、
図8に示すように、T
3注射かつ第一回学習群は、それ以外の対照群に対して、明らかな正解率の向上が認められ、T
3注射かつ第一回学習群と、それ以外の対照群との間で有意差が認められた。統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(38,1)=6.07,p<0.05;F
B(228,6)=11.57,p<0.005;F
interactionAxB(228,6)=0.94,n.s.。
【0048】
《実施例3:色反転(カラーリバーサル)ラーニングを伴う学習における甲状腺ホルモン(T
3)の効果》
孵化後4日目のヒヨコを用いて、以下に示す手順に従って、甲状腺ホルモン注射(T
3 injection)、予備学習(pre-training)、第一回学習(color phase)、第二回学習(color reversal phase)の順に行い(
図9)、第一回学習および第二回学習における試験群(甲状腺ホルモン注射群)と対照群の学習効果を比較した。
【0049】
(1)甲状腺ホルモンの注射
実施例1(1)に記載の手順に従って、甲状腺ホルモン注射を実施した。
【0050】
(2)予備学習
実施例1(2)に記載の手順に従って、予備学習を実施した。
【0051】
(3)第一回学習(色フェーズ)
実施例1(3)に記載の手順に従って、第一回学習を実施した。青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、青色ビーズを正解とした。
【0052】
(4)第二回学習(色反転フェーズ)
青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、緑色ビーズを正解としたこと以外は、実施例1(3)に記載の手順(但し、7セッション)に従って、第二回学習を実施した。なお、第二回学習は、第一回学習終了後、1時間後に実施した。
【0053】
(5)結果
第一回学習における学習効果(正解率)を
図10に、第二回学習における学習効果(正解率)を
図11に、それぞれ示す。
第一回学習における学習効果については、
図10に示すように、T
3注射群と、T
3を注射しなかった対照群との間で有意差は認められなかった。
図10の統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(23,1)=1.67,n.s.;F
B(92,4)=19.00,p<0.005;F
interaction(92,4)=0.40,n.s.。
一方、第二回学習における学習効果については、
図11に示すように、T
3注射かつ第一回学習群は、それ以外の対照群に対して、明らかな正解率の向上が認められ、T
3注射かつ第一回学習群と、それ以外の対照群との間で有意差が認められた。
図5Cの統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(23,1)=12.96,p<0.005;F
B(138,6)=16.58,p<0.005;F
interaction(138,6)=2.31,n.s.,***:p<0.01。
【0054】
《実施例4:位置反転(ポジションリバーサル)ラーニングを伴う学習における甲状腺ホルモン(T
3)の効果》
孵化後4日目のヒヨコを用いて、以下に示す手順に従って、甲状腺ホルモン注射(T
3 injection)、予備学習(pre-training)、第一回学習(position phase)、第二回学習(position reversal phase)の順に行い(
図12)、第一回学習および第二回学習における試験群(甲状腺ホルモン注射群)と対照群の学習効果を比較した。
【0055】
(1)甲状腺ホルモンの注射
実施例1(1)に記載の手順に従って、甲状腺ホルモン注射を実施した。
【0056】
(2)予備学習
実施例1(2)に記載の手順に従って、予備学習を実施した。
【0057】
(3)第一回学習(位置フェーズ)
5セッション行ったこと以外は、実施例1(4)に記載の手順に従って、第一回学習を実施した。青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、右側ビーズを正解とした。
【0058】
(4)第二回学習(位置反転フェーズ)
青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、左側ビーズを正解としたこと以外は、実施例1(4)に記載の手順に従って、第二回学習を実施した。なお、第二回学習は、第一回学習終了後、1時間後に実施した。
【0059】
(5)結果
第一回学習における学習効果(正解率)を
図13に、第二回学習における学習効果(正解率)を
図14に、それぞれ示す。
第一回学習における学習効果については、
図13に示すように、T
3注射群と、T
3を注射しなかった対照群との間で有意差は認められなかった。
図13の統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(45,1)=0.75,n.s.;F
B(180,4)=3.85,p<0.01;F
interaction(180,4)=0.16,n.s.。
一方、第二回学習における学習効果については、
図14に示すように、T
3注射かつ第一回学習群は、T
3を注射しなかった対照群に対して、明らかな正解率の向上が認められ、T
3注射かつ第一回学習群と、T
3を注射しなかった対照群との間で有意差が認められた。
図14の統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(45,1)=4.24,p<0.05;F
B(270,6)=14.32,p<0.01;F
interaction(270,6)=1.93,n.s.。
【0060】
《参考例1:ノンスイッチング(色)を伴う学習における甲状腺ホルモン(T
3)の効果》
孵化後4日目のヒヨコを用いて、以下に示す手順に従って、甲状腺ホルモン注射(T
3 injection)、予備学習(pre-training)、第一回学習(1st color phase)、第二回学習(2nd color phase)の順に行い(
図15)、第一回学習および第二回学習における試験群(甲状腺ホルモン注射群)と対照群の学習効果を比較した。
【0061】
(1)甲状腺ホルモンの注射
実施例1(1)に記載の手順に従って、甲状腺ホルモン注射を実施した。
【0062】
(2)予備学習
実施例1(2)に記載の手順に従って、予備学習を実施した。
【0063】
(3)第一回学習(第一回色フェーズ)
実施例1(3)に記載の手順に従って、第一回学習を実施した。青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、青色ビーズを正解とした。
【0064】
(4)第二回学習(第二回色フェーズ)
7セッション行ったこと以外は、実施例1(3)に記載の手順に従って、第二回学習を実施した。青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、青色ビーズを正解とした。なお、第二回学習は、第一回学習終了後、1時間後に実施した。
【0065】
(5)結果
第一回学習における学習効果(正解率)を
図16に、第二回学習における学習効果(正解率)を
図17に、それぞれ示す。
第一回学習における学習効果および第二回学習における学習効果のいずれも、T
3注射群と、T
3を注射しなかった対照群との間で有意差は認められなかった。
図16の統計処理には二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(29,1)=0.01,n.s.;F
B(116,4)=21.25,p<0.005;F
interaction(116,4)=0.96,n.s.。同様に、
図17の統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(29,1)=0.02,n.s.;F
B(174,6)=3.07,p<0.01;F
interaction(174,6)=1.30,n.s.。
【0066】
《参考例2:ノンスイッチング(位置)を伴う学習における甲状腺ホルモン(T
3)の効果》
孵化後4日目のヒヨコを用いて、以下に示す手順に従って、甲状腺ホルモン注射(T
3 injection)、予備学習(pre-training)、第一回学習(1st position phase)、第二回学習(2nd position phase)の順に行い(
図18)、第一回学習および第二回学習における試験群(甲状腺ホルモン注射群)と対照群の学習効果を比較した。
【0067】
(1)甲状腺ホルモンの注射
実施例1(1)に記載の手順に従って、甲状腺ホルモン注射を実施した。
【0068】
(2)予備学習
実施例1(2)に記載の手順に従って、予備学習を実施した。
【0069】
(3)第一回学習(第一回位置フェーズ)
5セッション行ったこと以外は、実施例1(4)に記載の手順に従って、第一回学習を実施した。青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、右側ビーズを正解とした。
【0070】
(4)第二回学習(第二回位置フェーズ)
実施例1(4)に記載の手順に従って、第二回学習を実施した。青色ビーズと緑色ビーズを1つずつ使用し、右側ビーズを正解とした。なお、第二回学習は、第一回学習終了後、1時間後に実施した。
【0071】
(5)結果
第一回学習における学習効果(正解率)を
図19に、第二回学習における学習効果(正解率)を
図20に、それぞれ示す。
第一回学習における学習効果および第二回学習における学習効果のいずれも、T
3注射群と、T
3を注射しなかった対照群との間で有意差は認められなかった。
図19の統計処理には二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(46,1)=0.41,n.s.;F
B(184,4)=4.84,p<0.005,n.s.;F
interaction(184,4)=1.46,n.s.。同様に、
図20の統計処理には、二元配置分散分析を用いた。要因AをT
3の有無、要因Bをセッションとした時、F値は以下のようになった。F
A(46,1)=1.67,n.s.;F
B(276,6)=2.48,p<0.05,n.s.;F
interaction(276,6)=0.21,n.s.。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、前頭連合野が主体となる高次脳機能に対する認知機能向上薬のスクリーニングに利用できる。