IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社サクラクレパスの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】水性マーキングインキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20240408BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20240408BHJP
   C09B 11/12 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C09D11/17
C09B67/20 F
C09B11/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020095709
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021187972
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】福尾 英敏
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-154772(JP,A)
【文献】特開2003-073602(JP,A)
【文献】特開昭51-112625(JP,A)
【文献】特開2018-009172(JP,A)
【文献】米国特許第03705045(US,A)
【文献】特開昭55-137175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09B
A61Q
A61K 8/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は(2)で表されるトリアリールメタン系塩基性染料の1種類以上、
水、
脂肪族モノアルコール、及び、
多価アルコール、
を含む、手術時のマーキングに用いられる水性マーキングインキ組成物。
【化1】
(式(1)中、R~Rは、それぞれ独立にH又は炭素数2~4のアルキル基のいずれかの基を表し、RはH、炭素数2~4のアルキル基又はフェニル基のいずれかの基を表し、RはHを表し、Y は無機又は有機のアニオンを表す。)
【化2】
(式(2)中、R~R10は、それぞれ独立にH又は炭素数2~4のアルキル基のいずれかの基を表し、R11はH、炭素数2~4のアルキル基又はフェニル基のいずれかの基を表し、R12はHを表し、Y は無機又は有機のアニオンを表す。)
【請求項2】
水性マーキングインキ組成物全量に対する水の含有量が、50質量%以上である、請求項1に記載の水性マーキングインキ組成物。
【請求項3】
脂肪族モノアルコールが、炭素数2~4の脂肪族モノアルコールである、請求項1又は2に記載の水性マーキングインキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性マーキングインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マーキングインキ組成物は、種々のマーキングに用いられており、その用途の一つとして、手術する際に、メス等を入れる箇所をあらかじめマーキングする用途がある。このようなマーキングは、直接皮膚に行う場合と、手術用ドレープを貼った上に行う場合がある。
これらのマーキングは、生理食塩水や血液、消毒用アルコールで簡単に取れないことが要求されている。
【0003】
幼児用水性マーカーや墨汁等の一般的な水性マーキングインキは、着色剤として食用染料のような酸性染料や顔料が使用されている。水性マーキングインキは、主に紙等の吸収性の物品に適用することが想定されており、主として物品が水等の溶剤を吸収し表面が乾燥する作用により筆跡が形成される。
しかしながら、水性マーキングインキにより形成した筆跡は、通常は水に溶解するものである。そのため、皮膚に筆記した場合において、生理食塩水や血液、消毒用アルコールで簡単に除去可能である。
【0004】
一方、油性のマーキングインキ組成物は、主として非吸収面で筆記する用途が多く、結着材等として樹脂が使用され、着色剤として染料や顔料が使用されていることが多い。
しかしながら、油性のマーキングインキ組成物により形成した筆跡は、通常は、アルコール等の溶剤に溶解・分散するものである。このため、皮膚に筆記した場合において、消毒用アルコールで容易に除去可能である。
また、マーキングインキ組成物に樹脂や顔料等の固形分が含まれると、手術時に切開部から人体内に入り込んでしまう可能性がある。
このように、生理食塩水、血液及び消毒用アルコールで簡単に拭き取れないマーキングインキ組成物であって、樹脂や着色剤といった粉体固形分を極力含まず、安全性に優れたものが要望されていた。
【0005】
特許文献1には、トリフェニルメタン系塩基性染料(マラカイトグリーン、ダイヤモンドグリーン、メチルバイオレット又はクリスタルバイオレット)、水、脂肪族モノアルコール(エチルアルコール、イソプロピルアルコール又はノルマルプロピルアルコール)、多価アルコール(グリセリン及びプロピレングリコール)、タンニン酸を含むスキンマーク用インキ組成物が記載されている。
しかしながら、特許文献1のスキンマーク用インキ組成物に含まれるトリフェニルメタン系塩基性染料は、色素の皮膚等への固着強度が必ずしも強固でなく、摩擦等や水分を含んだ布切れ等による弱い払掃によってはげ落ちてしまうおそれがある。このため、タンニン酸を補助調整剤として添加して固着させる必要があり、これにより製造工程が煩雑になるおそれがある。さらに、タンニン酸が固形分となるため、マーキングインキ組成物の筆跡から固形分が発生し、手術時に切開部から人体内に入り込んでしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-154772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水性マーキングインキ組成物において、発色性、耐生理食塩水性、耐アルコール性に優れ、筆跡からの固形分の発生が抑制され、手術等に際して皮膚等にマーキングを行う場合であっても安全性に優れる水性マーキングインキ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記の水性マーキングインキ組成物及びマーキングペンにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下のとおりである。
[1] 下記式(1)又は(2)で表されるトリアリールメタン系塩基性染料の1種類以上、
水、
脂肪族モノアルコール、及び、
多価アルコール、
を含む、水性マーキングインキ組成物。
【化1】
(式(1)中、R~Rは、それぞれ独立にH又は炭素数2~4のアルキル基のいずれかの基を表し、RはH、炭素数2~4のアルキル基又はフェニル基のいずれかの基を表し、RはHを表し、Y は無機又は有機のアニオンを表す。)
【化2】
(式(2)中、R~R10は、それぞれ独立にH又は炭素数2~4のアルキル基のいずれかの基を表し、R11はH、炭素数2~4のアルキル基又はフェニル基のいずれかの基を表し、R12はHを表し、Y は無機又は有機のアニオンを表す。)
[2] 水性マーキングインキ組成物全量に対する水の含有量が、50質量%以上である、[1]に記載の水性マーキングインキ組成物。
[3] 脂肪族モノアルコールが、炭素数2~4の脂肪族モノアルコールである、[1]又は[2]に記載の水性マーキングインキ組成物。
[4] 医療用である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性マーキングインキ組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、水性マーキングインキ組成物において、発色性、耐生理食塩水性、耐アルコール性に優れ、筆跡からの固形分の発生が抑制され、手術等に際して皮膚等にマーキングを行う場合であっても安全性に優れる水性マーキングインキ組成物を得ることができる。
【0010】
本発明の水性マーキングインキ組成物は、特定の構造のトリアリールメタン系塩基性染料、水、脂肪族モノアルコール及び多価アルコールを含む構成とすることにより、その筆跡を、生理食塩水、血液及び消毒用アルコールで容易に除去することが困難となる。さらに、この処方とすることで、筆跡から発生する固形のインキ成分が人体内に入り込む危険性がない。
本発明の水性マーキングインキ組成物が、このような効果を奏する機構については明らかではないが、例えば、皮膚や手術用フィルム上にマーキングした際に、水及び脂肪族モノアルコールが最初に蒸発し、乾燥の遅い多価アルコール中にトリアリールメタン系塩基性染料が溶解した状態となり、溶解状態を保ったまま、皮膚や手術用ドレープ(手術用フィルム)に強固に染着することで、生理食塩水、血液及び消毒用アルコールで容易に除去することが困難となるのではないかと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[水性マーキングインキ組成物]
<トリアリールメタン系塩基性染料>
本発明の水性マーキングインキ組成物には、下記式(1)又は(2)で表されるトリアリールメタン系塩基性染料の1種類以上が含まれる。
【0012】
【化3】
(式(1)中、R~Rは、それぞれ独立にH又は炭素数2~4のアルキル基のいずれかの基を表し、RはH、炭素数2~4のアルキル基又はフェニル基のいずれかの基を表し、RはHを表し、Y は無機又は有機のアニオンを表す。)
【0013】
【化4】
(式(2)中、R~R10は、それぞれ独立にH又は炭素数2~4のアルキル基のいずれかの基を表し、R11はH、炭素数2~4のアルキル基又はフェニル基のいずれかの基を表し、R12はHを表し、Y は無機又は有機のアニオンを表す。)
【0014】
式(1)中のR~R及び式(2)中のR~R11における炭素数2~4のアルキル基は、それぞれ独立に、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基のいずれかである。
また、式(1)中のY 及び式(2)中のY は、それぞれ独立に、OH、F、Cl、Br、I、NO 、CHCOO、HCO 、MnO 、1/2(SO 2-)、Ph-SO 等のいずれかがあげられる。
【0015】
本発明において、式(1)で表される化合物としては、例えば、R~Rが以下の基である染料の1種類以上を用いることができる。
【表1】
【0016】
本発明において、式(2)で表される化合物としては、例えば、R~R12が以下の基である染料の1種類以上を用いることができる。
【表2】
【0017】
染料の含有量は、本発明の水性マーキングインキ組成物中0.1~10質量%、好ましくは0.2~8質量%である。
水性マーキングインキ組成物中、染料の含有量が10質量%を超えると、水性マーキングインキ組成物中への溶解性が悪くなったり、水性マーキングインキ組成物の粘度が高くなりすぎたりするおそれがある。また、0.1質量%未満であると、発色性や発色維持性が低下するおそれがある。
【0018】
<水>
本発明の水性マーキングインキ組成物には、構成成分を溶解させるため、溶剤として機能する水が含まれる。水としては、例えば、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水又は純水が用いられる。好ましくは、純水、イオン交換水又は蒸留水等が用いられる。
水の含有量は、水性マーキングインキ組成物中の各成分の含有量、粘度等に応じて適宜調整することができる。例えば、水性マーキングインキ組成物中50~90質量%とすることができ、好ましくは50~80質量%、より好ましくは55~75質量%である。水の含有量が50質量%未満であると、筆記時のカスレ発生や保存性低下のおそれがある。90質量%を超えると、乾燥性が遅くなり作業性が悪くなるおそれがあり、さらに、十分な発色効果が得られない(色が薄い)ことがある。
【0019】
<脂肪族モノアルコール>
本発明の水性マーキングインキ組成物に含まれる脂肪族モノアルコールは、C2n+1OH(nは1以上の整数)で表される化合物の1種類以上であって、前記式(1)又は式(2)で表される染料を溶解するものである。本発明において、染料の溶解性や揮発速度の観点から、脂肪族モノアルコールとしては、例えば、直鎖状又は分岐状のアルコールであって、炭素数nが1~20、好ましくは1~12、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4のものである。
【0020】
脂肪族モノアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、イソペンタノール、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、4-メチル-2-ペンタノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、1-ノナノール、イソノナノール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-ミリスチルアルコール、セチルアルコール、1-ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルデカノール、2-オクチルドデカノール、2-ヘキシルデカノール、オレイルアルコール等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
本発明において、これらのうち、例えば、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコールからなる群より選ばれる1種類以上を用いることが好ましい。
【0021】
脂肪族モノアルコールの含有量は、例えば、本発明の水性マーキングインキ組成物全量に対して30質量%以下、好ましくは5~25質量%である。
水性マーキングインキ組成物中、脂肪族モノアルコールの含有量が30質量%を超えると、水性マーキングインキ組成物の発色性が悪くなるおそれがあり、また、染料の溶解性が悪くなるおそれがある。
【0022】
<多価アルコール>
本発明の水性マーキングインキ組成物に含まれる多価アルコールは、グリコール類等の2価アルコールやグリセリン等の3価以上のアルコールからなる群より選ばれる1種類以上であって、前記式(1)又は式(2)で表される染料を溶解するものである。さらに、本発明においては、多価アルコールとして、水や前記の脂肪族モノアルコールよりも蒸発が遅いものが用いられる。
【0023】
多価アルコールとしては、特に限定されるものではないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコ-ル、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ポリエチレングリコ-ル等のグリコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
本発明においては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール及びグリセリンからなる群より選ばれる1種類以上が好ましく、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール及びグリセリンからなる群より選ばれる1種類以上がより好ましい。
【0024】
多価アルコールの含有量は、例えば、本発明の水性マーキングインキ組成物中1~40質量%、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~25質量%である。多価アルコールの含有量が40質量%を超えると、水性マーキングインキ組成物の指触乾燥速度が低下してしまい、筆跡がベタつくおそれがある。また、1質量%未満であると、水性マーキングインキ組成物の染着性が低下するおそれがあり、また、ペン先で乾燥しやすくなり、カスレや筆記不能が発生(キャップオフ性低下)するおそれがある。
【0025】
<その他の添加剤>
本発明の水性マーキングインキ組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、マーキングペン用水性マーキングインキ組成物に用いられるものであれば特に限定されない。必要に応じて、潤滑剤、防腐防黴剤、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、非熱変色性染料、蛍光増白剤、粘度調整剤(増粘剤)、湿潤剤、pH調整剤等からなる群より選ばれる1種類以上を、適宜の量で用いることができる。
なお、手術時のマーキング等に用いられる水性マーキングインキ組成物とする場合には、固形分となる成分が多く含まれないようにすることが好ましい。
【0026】
<粘度>
本発明の水性マーキングインキ組成物の粘度は、適宜設定すればよく、例えば1~30mPa・s、好ましくは1.5~15mPa・s、より好ましくは2~10mPa・s(E型回転粘度計(例えば、東機産業社製、TVE型粘度計、1°34‘コーン、50rpm))の範囲とすることができる。水性マーキングインキ組成物の粘度が1mPa・s未満であると、筆記具先端からのインキの流出が過剰となり的確に筆跡を形成できないおそれがある。粘度が30mPa・sを超えると、粘度が高くなりすぎ、筆記具先端からインキが流出しなくなるおそれがあり、また、インキの取扱性、沈降安定性、筆跡のカスレ、製造コスト等の点で問題となるおそれがある。
【0027】
<水性マーキングインキ組成物の製造方法>
本発明の水性マーキングインキ組成物の製造方法は、格別限定されるものではなく、公知の水性マーキングインキ組成物の作製方法のいずれも用いることができる。
例えば、容器に水を投入した後に、前記の水以外の成分を水に加え、撹拌して均一に混合することによって製造することができる。
本発明の水性マーキングインキ組成物の作製に際しては、必要に応じて、濾過、遠心分離、脱泡等の操作を行い、固形物、気体、気泡等を除いてもよい。水性マーキングインキ組成物の作製時に加熱、冷却、加圧、減圧、不活性ガス置換等の手段を採用することもできる。さらに、水性マーキングインキ組成物作製後にエージング工程を行ってもよい。
【0028】
[マーキングペン]
本発明のマーキングペンは、繊維芯又はプラスチック芯からなるペン先と、インキ収容部とを備え、前記水性マーキングインキ組成物が前記インキ収容部に収容されている。
マーキングペンとしては、例えば、フェルトペンともいわれる筆記具であって、繊維束、焼結体又はプラスチックよりなるペン先を有すると共に、本体内にフェルトや繊維束からなる所謂中芯にインキを含浸させてなるインキ貯蔵手段を備え、このようなインキ貯蔵手段からペン先に毛細管現象を利用してインキを供給し、筆記を可能とする筆記具、所謂中芯式マーキングペンがあげられる。また、筒状の本体内にインキをそのまま貯蔵し、このインキをペン先に供給するようにした非中芯式又は所謂フリー・インキ型マーキングペンがあげられる。本発明によるインキ組成物は、このようなマーキングペンのいずれにも好適に用いられる。
【実施例
【0029】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は質量部を意味する。
【0030】
[実施例1~6、比較例1、2]
表3に示す成分を表3に示す量(質量部)準備し、水(イオン交換水)と染料とを混合した後に、脂肪族モノアルコール及び多価アルコールを添加し撹拌することで、水性マーキングインキ組成物を得た。
【0031】
表3中の染料A~Gは、それぞれ以下の化合物である。
(染料A)
下記式(1)で表され、R~Rがエチル基、Rが水素、Y がClの化合物。
(染料B)
下記式(2)で表され、R~R11がエチル基、R12が水素、Y がClの化合物。
(染料C)
下記式(1)で表され、R~Rがエチル基、R及びRが水素、Y がClの化合物。
(染料D)
下記式(2)で表され、R~R10がエチル基、R11がフェニル基、R12が水素、Y がClの化合物。
(染料E)
下記式(1)で表され、R、Rがエチル基、R、R、R及びRが水素、Y がClの化合物。
(染料F)
下記式(1)で表され、R~Rがメチル基、Y がClの化合物。
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
(染料G)
下記式(3)で表される化合物(Acid Blue 15)。
【化7】
【0035】
得られた水性マーキングインキ組成物を、それぞれ繊維束からなるペン先を有する中芯式マーキングペンに充填し、マーキングペンを作製した。
作製したマーキングペンを用いて、水性マーキングインキ組成物の評価を以下のように行った。結果を表3に併せて記載する。
【0036】
<発色性>
上記マーキングペンにより、ヒトの皮膚に直接筆記した際の筆記線の発色性を、下記の基準により目視で評価した。
A:発色が明瞭である。
B:発色が若干不明瞭であるが、十分視認できる。
C:発色が不明瞭で、視認が困難であり、実用上問題がある。
【0037】
<耐生理食塩水性>
上記マーキングペンにより、ヒトの皮膚及び手術用フィルム(3M社製、Ioban 2 Antimicrobial Incise Drape)に直接筆記して筆記線を形成した。それぞれの筆記線の上に生理食塩水を滴下してガーゼで軽く拭き取り、筆記線の残り具合を下記の基準により目視で評価した。
A:筆記線が明瞭である。
B:筆記線が若干不明瞭であるが、十分視認できる。
C:筆記線が不明瞭で、視認が困難であり、実用上問題がある。
【0038】
<耐アルコール性>
上記マーキングペンにより、ヒトの皮膚及び手術用フィルム(3M社製、Ioban 2 Antimicrobial Incise Drape)に直接筆記して筆記線を形成した。それぞれの筆記線の上に水/エチルアルコール混合溶液(容積比5/5)を滴下してガーゼで軽く拭き取り、筆記線の残り具合を下記の基準により目視で評価した。
A:筆記線が明瞭である。
B:筆記線が若干不明瞭であるが、十分視認できる。
C:筆記線が不明瞭で、視認が困難であり、実用上問題がある。
【0039】
【表3】
【0040】
表3より、本発明の水性マーキングインキ組成物は、染料として特定の構造(式(1)又は式(2))の化合物を用いたことにより、耐生理食塩水性と耐アルコール性とを備え、発色性の良好な筆記線(筆跡)を、皮膚及び手術用フィルム上に形成できることがわかる。
一方、染料として特定の構造(式(1)又は式(2))の化合物を用いたものではない比較例の水性マーキングインキ組成物は、皮膚及び手術用フィルム上の筆記線(筆跡)が、耐生理食塩水性や耐アルコール性に劣ることがわかる。