(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】オレフィンメタセシス用の触媒前駆体としての有機ルテニウム錯体
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20240408BHJP
C07B 37/06 20060101ALI20240408BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20240408BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C07F15/00 A CSP
C07B37/06
B01J31/22 Z
B01J31/24 Z
(21)【出願番号】P 2020567893
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 IB2019054879
(87)【国際公開番号】W WO2020003035
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-19
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514216030
【氏名又は名称】アペイロン シンセシス エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】スコヴェルスキ クシシュトフ
(72)【発明者】
【氏名】フヴァルバ ミハウ
(72)【発明者】
【氏名】ガヴィン アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ガヴィン ラファウ
(72)【発明者】
【氏名】クライチィ パトリク
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525776(JP,A)
【文献】特表2014-503356(JP,A)
【文献】特表2021-529855(JP,A)
【文献】国際公開第2014/201300(WO,A1)
【文献】Chem. Soc. Rev.,2009年,38,3360-3372
【文献】Macromol. Symp.,2010年,293,1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07B
B01J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物:
【化1】
(式中、
【化2】
は、一価のアニオン性二座配位子であり、
Yは、酸素又は硫黄であり、
L
2は、中性の配位子であり、
R
1は、水素、(C
1~C
20)アルキル、(C
2~C
20)アルケニル、(C
2~C
20)アルキニル及び(C
6~C
10)アリールからなる群から選択され、
R
2、R
3、R
4及びR
5は同一であるか若しくは異なり、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、(C
1~C
16)アルキル、(C
1~C
16)アルコキシ、(C
1~C
16)ペルハロゲンアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル、(C
2~C
16)アルケニル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロゲンアリール、(C
3~C
12)ヘテロシクリル、-OR
6、-NO
2、-COOH、-COOR
6、-CONR
6R
7、-SO
2NR
6R
7、-SO
2R
6、-CHO、-COR
6からなる群から選択され、式中、R
6及びR
7は同一であるか若しくは異なり、それぞれ独立して、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)ペルハロゲンアルキル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロゲンアリールからなる群から選択される、或いは、R
2、R
3、R
4及びR
5のうちの2つ以上は、それらが結合している炭素原子と一緒に、置換若しくは非置換縮合(C
4~C
8)炭素環又は置換若しくは非置換縮合芳香環を形成する)。
【請求項2】
Yが酸素であり、
R
1が水素であり、
R
2、R
3、R
4及びR
5は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル及び-NO
2からなる群から選択され、
【化3】
が式2:
【化4】
(式中、
a及びbは0~5の整数であり、
R
8及びR
9はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C
1~C
16)アルキル、(C
1~C
16)アルコキシ、(C
1~C
16)ペルハロゲンアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル、(C
2~C
16)アルケニル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロゲンアリール、(C
3~C
12)ヘテロシクリル、-OR
6、-NO
2、-COOH、-COOR
6、-CONR
6R
7、-SO
2NR
6R
7、-SO
2R
6、-CHO、-COR
6からなる群から選択され、式中、R
6及びR
7は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)ペルハロゲンアルキル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロゲンアリールからなる群から選択される)
を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Yは酸素であり、
R
1は水素であり、
R
2、R
3、R
4及びR
5は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル及び-NO
2からなる群から選択され、
L
2は、式3a又は3b:
【化5】
の配位子であり、
式中、
R
10及びR
11は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C
1~C
12)アルキル、(C
3~C
12)シクロアルキル、(C
2~C
12)アルケニル及び置換又は非置換(C
6~C
14)アリールからなる群から選択され、
R
12、R
13、R
14及びR
15は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、任意選択により(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)ペルハロアルキル、(C
1~C
6)アルコキシ又はハロゲンのうちの少なくとも1つで置換された、(C
1~C
12)アルキル、(C
3~C
12)シクロアルキル、(C
2~C
12)アルケニル、(C
6~C
14)アリールからなる群から選択されるか、或いは
R
12、R
13、R
14、R
15は、任意選択により、それらが結合している炭素原子と一緒に、置換若しくは非置換縮合(C
4~C
8)炭素環、又は置換若しくは非置換縮合芳香環を形成することができる、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
【化6】
が、
式2aの基:
【化7】
式2bの基:
【化8】
式2cの基:
【化9】
式2eの基:
【化10】
式2fの基:
【化11】
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
L2が、
【化12】
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
【化13】
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
少なくとも1種のオレフィンを、触媒
(前駆体
)としての請求項1
から6のいずれか一項に記載の化合物と接触させることを含む、オレフィンのメタセシス反応を行うための方法。
【請求項8】
前記メタセシス反応が、
ジクロロメタン、ジクロロエタン、トルエン、酢酸エチル及びこれらの任意の組み合わせの混合物からなる群から選択される有機溶媒中で行われる、
又は一切の溶媒なしで行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記メタセシス反応が、化学活性剤の存在下で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記化学活性剤が、ブレーンステッド若しくはルイス酸又はアルカン若しくはシランのハロ誘導体である、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記化学活性剤が、塩化水素、クロロトリメチルシラン又はp-トルエンスルホン酸である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記メタセシス反応が、ジシクロペンタジエンの開環メタセシス重合である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
一般式1の触媒(前駆体)が固体形態でジシクロペンタジエンに添加される、請求項
12記載の方法。
【請求項14】
前記重合反応が、ジシクロペンタジエンと一般式1の触媒(前駆体)との混合物を30℃以上の温度に加熱することによって開始される、請求項
12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記メタセシス反応が、20~120℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記メタセシス反応が、架橋結合の形成を促進する添加剤の存在下で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記メタセシス反応が、1000ppm以下の量の触媒(前駆体)を使用して行われる、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連の金属錯体、メタセシス反応における触媒(前駆体)としてのその使用、並びにメタセシス反応を行うための方法に関する。より詳細には、本発明は、好適な条件下で活性化したときに広範囲のメタセシス反応に対して改善された触媒作用を示す一連の有機ルテニウム化合物に関する。本発明はまた、これらの化合物の作製方法にも関する。これに応じて、本発明の化合物は、多種多様なオレフィンメタセシス反応(特に開環メタセシス重合(ROMP)を含む)を行うための触媒前駆体として有用である。
【背景技術】
【0002】
オレフィンのメタセシスは、有機合成において重要な手段である(Handbook of Metathesis,I~III,Grubbs, R. H.,ed.; Wiley-VCH、2003)。
【0003】
オレフィンのメタセシスを能動的に触媒作用する多くのルテニウム錯体は、当該技術分野において周知である(例えば、Vougioukalakis、G. C.; Grubbs, R. H. Chem. Rev. 2010、110、1746参照)。第三世代錯体(Gru-III、Ind-III等)は開環メタセシス重合(ROMP)反応の非常に有用な触媒(前駆体)であることが示された。
【0004】
【0005】
第三世代触媒は、非常に迅速にメタセシス反応を開始するが、鋳型ROMP重合等のいくつかのメタセシス応用例では、基質へ添加した直後に反応を開始しないが、化学物質、温度又は光による適切な開始後のみ開始する触媒(前駆体)を使用することが有利である。遅延された開始によって特徴付けられる錯体は、多くの場合、「潜在性触媒(dormant catalysts)」と称する(Monsaert,S.;Vila,A.L.;Drozdzak,R.;Van Der Voort,P.;Verpoort,F.,Chem.Soc.Rev.,2009,38,3360;R.Drozdzak,N.Nishioka,G.Recher,F.Verpoort,Macromol.Symp.2010、293、1-4)。例示的な「潜在性触媒」は、錯体A~F、並びに近年得られたP-1及びP-2である(Pietraszuk,C.;Rogalski,S.;Powala,B.;Mitkiewski,M.;Mubicki,M.;Spolnik,G.;Danikiewicz,W.;Wozniak,K.;Pazio,A.;Szadkowska,A.;Kozlowska,A.;Grela,K.,Chem.Eur.J、2012、18、6465-6469)。
【0006】
鋳型ROMP重合は、完成品を得ることを可能にする。ジシクロペンタジエンは、鋳型重合によく使用されるモノマーの1つである。ポリジシクロペンタジエンは、ジシクロペンタジエンの重合によって得られ、特に低い吸湿性並びに応力及び高温に対する耐性を特徴とする。これが、乗用車の部品及び化学工業用の特殊容器がジシクロペンタジエンの(鋳型)ROMP重合によって製造されることがより多い理由である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
参照により関連部分が本明細書に組み込まれる米国特許第9,328,132(B2)号は、オレフィンのメタセシス反応のより堅牢な「潜在性触媒」を実現させる上で当該技術分野が直面するこれらの欠陥の一部に対処する。しかしながら、所望のROMP重合条件下で活性化でき、目的とする末端用途に基づく、改善された「潜在性触媒」が依然として必要とされている。これに応じて、本発明の目的は、一連の改善された「潜在性触媒」を提供することである。
【0008】
また、本発明の目的は、本明細書で開示する該有機ルテニウム潜在性触媒の調製方法を提供することでもある。
【0009】
本発明の他の目的及び更なる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実際の工業用途の観点から、触媒(前駆体)は、その合成中及び精製中の両方で、並びにメタセシス反応中にそれを使用する間、酸素及び水分の存在下で安定性であることが極めて重要である。文献中に報告されたオレフィンのメタセシス用の安定性かつ活性の触媒(前駆体)の開発により、この変換の可能な使用範囲が有意に広がる。それにもかかわらず、これらの錯体は、酸素及び水分に対するその安定性が限定されるため、依然として不活性ガスの雰囲気下、乾燥溶媒中でのメタセシス反応の中で調製及び使用される。
【0011】
驚くべきことに、現在、式Iによって表されるルテニウム錯体は、空気及び水分の存在下で安定性であることが発見されている。
【0012】
【0013】
式中、
【0014】
【0015】
は、一価のアニオン性二座配位子であり、
Yは、酸素又は硫黄であり、
L2は、中性の配位子であり、
R1は、水素、(C1~C20)アルキル、(C2~C20)アルケニル、(C2~C20)アルキニル及び(C6~C10)アリールからなる群から選択され、
R2、R3、R4及びR5は同一であるか若しくは異なり、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、(C1~C16)アルキル、(C1~C16)アルコキシ、(C1~C16)ペルハロゲンアルキル、(C3~C7)シクロアルキル、(C2~C16)アルケニル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロゲンアリール、(C3~C12)ヘテロシクリル、-OR6、-NO2、-COOH、-COOR6、-CONR6R7、-SO2NR6R7、-SO2R6、-CHO、-COR6からなる群から選択され、式中、R6及びR7は同一であるか若しくは異なり、それぞれ独立して、(C1~C6)アルキル、(C1~C6)ペルハロゲンアルキル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロゲンアリールからなる群から選択される、或いは、R2、R3、R4及びR5のうちの2つ以上は、それらが結合している炭素原子と一緒に、置換若しくは非置換縮合(C4~C8)炭素環又は置換若しくは非置換縮合芳香環を形成する。
【0016】
現在では、金属-酸素又は金属-硫黄共有結合を構造中に有する式(I)の化合物が非常に安定性であり、一切の不活性ガスの保護雰囲気なしで、かつ分析用(pro analysi)の溶媒中で調製できることが確認されている。好適な活性化の後、一般式(I)の錯体は、空気の存在下で行われるメタセシス反応を能動的に触媒作用する。その上、一般式(I)の錯体がメタセシス反応を能動的に触媒作用するのは、化学物質によって活性化された後のみであり、熱活性化の影響は非常に受けにくい。これらの性質により、反応の開始時間を優秀に制御でき、このような性質は、特にROMPタイプの反応に非常に有用である。意外にも、一般式(I)の錯体が、空気中で行われるROMPタイプの反応によってポリジシクロペンタジエンを得ることを可能にしたが、使用した触媒(前駆体)の量が、古典的錯体を使用した場合より有意に少なかったことが観察された。NHC配位子(下記のN-複素環カルベン配位子)を含有する本発明による錯体の量が100ppm(重量による100万分の1)であっても、ジシクロペンタジエン(DCPD)の重合を効果的に触媒作用する。この量は、65,000:1のモノマーと触媒(前駆体)のモル比に対応する。したがって、この触媒(前駆体)の量は、触媒Gの場合の半分に満たない(M.Perring,N.B.Bowden Langmuir、2008、24、12480~10487)。また、2種のホスフィン配位子を含有する本発明による触媒(前駆体)は、構造的に類似した錯体G’と比べて、ポリジシクロペンタジエンのROMP反応においてより活性である。それ以外にも、意外なことに、触媒(前駆体)の開始速度に与える電子受容体置換基の効果が、古典的なHoveyda-Grubbsタイプの錯体の場合と比べて、一般式(I)の錯体に場合には逆になることが観察された(K.Grela,S.Harutyunyan,A.Michrowska,Angew.Chem.Int.Ed.2002、41、No.21)。
【0017】
その配位子を変えることによって触媒(前駆体)の性質に影響を及ぼす可能性、また、その結果、特異反応に対するその働きの最適な調整の可能性は極めて有用である。原則として、SIMes配位子を含有する触媒(前駆体)に比べて、その構造中にN-複素環SIPr配位子を含有する触媒でより高い安定性が観察されるが、これらのメタセシス反応における効果には通常、ほとんど差がない。意外なことに、N-複素環カルベン配位子(NHC)を変更すると、本発明による一般式(I)の錯体の効果に大きな影響があることが判明した。NHC配位子SIPrを含有する触媒は、閉環メタセシス反応及びエンインタイプの反応を効果的に触媒作用したのに対し、ROMPタイプの反応及びCM(交差メタセシス)反応の両方における作用は低かったことが実証された。そして、NHC配位子SIMesを含有する一般式(I)の触媒は、非常に効果的にCM反応及びROMPタイプの反応を触媒作用するのに対し、閉環メタセシス反応における効果は低いことが実証されている。
【0018】
これに応じて、オレフィンメタセシス反応のための触媒(前駆体)として、上記の本発明による一般式(I)の化合物が提供される。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明による式(I)の化合物では、
Yは酸素であり、
R1は水素であり、
R2、R3、R4及びR5は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル及び-NO2からなる群から選択され、
【0020】
【0021】
は、式(II)を有する:
【0022】
【0023】
(式中、
a及びbは0~5の整数であり、
R8及びR9はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C1~C16)アルキル、(C1~C16)アルコキシ、(C1~C16)ペルハロゲンアルキル、(C3~C7)シクロアルキル、(C2~C16)アルケニル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロゲンアリール、(C3~C12)ヘテロシクリル、-OR6、-NO2、-COOH、-COOR6、-CONR6R7、-SO2NR6R7、-SO2R6、-CHO、-COR6からなる群から選択され、式中、R6及びR7は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C1~C6)アルキル、(C1~C6)ペルハロゲンアルキル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロゲンアリールからなる群から選択される)。
【0024】
いくつかの他の実施形態において、本発明による式(I)の化合物では、
Yは酸素であり、
R1は水素であり、
R2、R3、R4及びR5は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル及び-NO2からなる群から選択され、
L2は、式(IIIA)又は(IIIB):
【0025】
【0026】
のN-複素環カルベン配位子であり、
式中、
R10及びR11は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C1~C12)アルキル、(C3~C12)シクロアルキル、(C2~C12)アルケニル及び置換又は非置換(C6~C14)アリールからなる群から選択され、
R12、R13、R14及びR15は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、任意選択により(C1~C6)アルキル、(C1~C6)ペルハロアルキル、(C1~C6)アルコキシ又はハロゲンのうちの少なくとも1つで置換された、(C1~C12)アルキル、(C3~C12)シクロアルキル、(C2~C12)アルケニル、(C6~C14)アリールからなる群から選択されるか、或いは
R12、R13、R14、R15は、任意選択により、それらが結合している炭素原子と一緒に、置換若しくは非置換縮合(C4~C8)炭素環、又は置換若しくは非置換縮合芳香環を形成する。
【0027】
更に他のいくつかの実施形態において、本発明による式(I)の化合物は、
式(IIA)の基:
【0028】
【0029】
式(IIB)の基:
【0030】
【0031】
式(IIC)の基:
【0032】
【0033】
式(IID)の基:
【0034】
【0035】
式(IIE)の基:
【0036】
【0037】
式(IIF)の基:
【0038】
【0039】
からなる群から選択される
【0040】
【0041】
を有する。
【0042】
公知のN-複素環カルベン化合物のいずれも、L2配位子として使用することができる。このようなN-複素環式化合物の非限定例は、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン、3-ブロモピリジン、ピペリジン、モルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、1,2,3-トリアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,2,3-トリアジン及び1,2,4-トリアジンからなる群から選択される。これに応じて、いくつかの実施形態において、本発明による式(I)の化合物は、
【0043】
【0044】
からなる群から選択されるL2を有する。
【0045】
式(I)の化合物の代表的な非限定例には、以下を列挙することができる。
【0046】
【0047】
本発明は、メタセシス反応における触媒(前駆体)としての上記の一般式(I)の化合物の使用にも関する。いくつかの実施形態において、一般式(I)の化合物は、閉環メタセシス、交差メタセシス、ホモメタセシス、アルケン-アルキン型メタセシスの反応における触媒(前駆体)として使用される。他のいくつかの実施形態において、一般式(I)の化合物は、開環メタセシス重合反応における触媒(前駆体)として使用される。
【0048】
本発明はまた、少なくとも1種のオレフィンを、触媒(前駆体)としての一般式(I)の化合物と接触させる、オレフィンのメタセシス反応を行うための方法にも関する。
【0049】
一般的に、メタセシス反応は有機溶媒中で行われる。このような重合反応を行わせると考えられる有機溶媒は全て使用可能である。そのような有機溶媒の非限定例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トルエン、酢酸エチル及びこれらの任意の組み合わせの混合物が挙げられる。
【0050】
いくつかの実施形態において、メタセシス反応は、一切の溶媒を使わずに行われる。他のいくつかの実施形態において、メタセシス反応は、化学活性剤の存在下で行われる。一般的に、化学活性剤は、ブレーンステッド若しくはルイス酸又はアルカン若しくはシランのハロ誘導体である。このような活性剤の非限定例としては、塩化水素、クロロトリメチルシラン又はp-トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0051】
いくつかの実施形態において、メタセシス反応は、ジシクロペンタジエンの開環メタセシス重合である。
【0052】
更に他のいくつかの実施形態において、一般式(I)の触媒(前駆体)を固体形態でジシクロペンタジエンに添加する。
【0053】
一実施形態において、ジシクロペンタジエンと一般式(I)の触媒(前駆体)との混合物を30℃以上の温度まで加熱することによって重合反応を開始する。
【0054】
いくつかの実施形態において、出発物質は、少なくとも94重量%のジシクロペンタジエンを含有する。
【0055】
別の実施形態において、メタセシス反応は、20~120℃の温度で行われる。更に別の実施形態において、メタセシス反応は、1分~24時間の間で行われる。
【0056】
いくつかの実施形態において、メタセシス反応は、架橋結合を促進する添加剤の存在下で行われる。
【0057】
一実施形態において、メタセシス反応は、1000ppm以下の量の触媒(前駆体)を使用して行われる。
【0058】
本発明の明細書及び特許請求の範囲を通して、物質の量に関してppm(100万分の1)単位が使用される場合、これは重量ベースである。
【0059】
本発明者らは、いかなる特定の触媒作用の機構にも束縛されることを望むものではないため、「触媒(前駆体)」という用語は、本発明による化合物が、触媒それ自体又は実際の触媒となる活性種の前駆体のいずれであってもよいことを示すために用いられる。
【0060】
以下で定義しない群の定義は、当該技術分野において既知の最も広い意味を有するものとする。
【0061】
用語「任意選択により置換された」は、問題とする基の1個又は複数の水素原子が指定の基で置き換えられるが、但し、該置換によって安定性の化合物が形成されることを条件とすることを意味する。
【0062】
用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、F、Cl、Br、Iから選択される元素を表す。
【0063】
用語「アルキル」は、指定の数の炭素原子を有する飽和の直鎖状又は分枝状炭化水素置換基に関する。アルキルの非限定例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチルである。
【0064】
用語「アルコキシ」は、酸素原子を介して結合された上記のアルキル置換基に関する。
【0065】
用語「ペルハロゲンアルキル」は、全ての水素がハロゲン原子で置き換えられ、該ハロゲン原子が同一であっても異なっていてもよい、上記のアルキルを表す。
【0066】
用語「シクロアルキル」は、指定の数の炭素原子を有する飽和の単環式又は多環式炭化水素置換基に関する。シクロアルキル置換基の非限定例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルである。
【0067】
用語「アルケニル」は、指定の数の炭素原子を有し、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有する非環式直鎖状又は分枝状炭化水素鎖に関する。アルケニルの非限定例は、ビニル、アリル、1-ブテニル、2-ブテニルである。
【0068】
用語「アリール」は、指定の数の炭素原子を有する芳香族の短環式又は多環式炭化水素置換基に関する。アリールの非限定例は、フェニル、メシチル、アントラセニルである。
【0069】
用語「複素環式」は、指定の数の炭素原子を有するが、1個又は複数の炭素原子が、窒素、リン、硫黄、酸素等のヘテロ原子で置き換えられ、但し、環中に2個の直接連結された酸素又は硫黄原子は存在しないことを条件とする、芳香族及び非芳香族の環式置換基に関する。非芳香族複素環式基は、4~10個の原子を環中に含むことができるのに対し、芳香族複素環式基は、必然的に少なくとも5個の原子を環中に含む。ベンゾ縮合系も複素環式基に属する。非芳香族複素環式基の非限定例は、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、2-ピロリニル、インドリニルである。芳香族複素環式基の非限定例は、ピリジニル、イミダゾリル、ピリミジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、フリル、チエニルである。上記の基は、炭素原子又は窒素原子を介して結合されていてもよい。例えば、結合ピロールによって得られた置換基は、ピロール-1-イル(N結合)又はピロール-3-イル(C結合)のいずれであってもよい。
【0070】
用語「中性配位子」は、ルテニウム原子に配位結合できる、電荷を持たない置換基に関する。このような配位子の非限定例は、N-複素環式カルベン配位子、アミン、イミン、ホスフィン及びその酸化物、亜リン酸及びリン酸アルキル及びアリール、エーテル、硫化アルキル及びアリール、配位炭化水素、ハロアルカン及びハロアレーンである。用語「中性配位子」は、N-複素環式化合物も包含し、その非限定例は、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、3-ブロモピリジン、ピペリジン、モルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、1,2,3-トリアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,2,3-トリアジン及び1,2,4-トリアジンである。
【0071】
用語「アニオン性配位子」は、金属中心に配位結合できる、金属中心の電荷を補完できる電荷を持つ置換基であって、該補完が完全であっても部分的であってもよい、置換基に関する。アニオン性配位子の非限定例は、フッ化物、塩化物、臭化物又はヨウ化物アニオン、カルボン酸アニオン、アルコール及びフェノールアニオン、チオール及びチオフェノールアニオン、(有機)硫酸及び(有機)リン酸アニオン、並びにこれらのエステルのアニオンである。
【0072】
用語「二座アニオン性配位子(X-L1)」は、中性配位子L1がアニオン性配位子Xと一緒に結合して、二座配位子を形成することを意味する。同様に、様々な二座配位子も、X及びL1の組み合わせによって可能である。多座配位子の非限定例は、二座配位子(X1-L1)、三座配位子(X1-L1-L2)である。このような配位子の非限定例は、2-ヒドロキシアセトフェノンのアニオン、アセチルアセトンのアニオン及び上記のアリールイミノアリールオキシ基である。
【0073】
用語「カルベン」は、原子価数2及び2つの不対の価電子を有する中性炭素原子を含有する分子に関する。用語「カルベン」は、炭素原子がホウ素、ケイ素、窒素、リン、硫黄等の別の化学元素で置換されたカルベン類似体も包含する。用語「カルベン」は、N-複素環式カルベン(NHC)配位子に特に関連する。NHC配位子の非限定例は、
【0074】
【0075】
である。
【0076】
架橋結合の形成を促進する好ましい作用剤の非限定例は、過酸化tert-ブチル、過酸化ジ-tert-ブチル、及び更にはこれらの混合物である。
【実施例】
【0077】
以下の実施例は、本発明の化合物の調製に用いられる手順と、オレフィンメタセシスにおけるその使用を説明する。以下の実施例は、本発明を例示し、その特定の態様を説明することを唯一の目的とする。本発明による触媒1cの作用を、LatMet-Pcy3と比較した(該LatMet-Pcy3の構造を以下に示す)。
【0078】
【0079】
DCPDは、6%m/mのトリシクロペンタジエン(TCPD)、トリシクロヘキシルホスフィン、リチルムビス(トリメチルシリル)アミドの溶液、tert-五酸化カリウムの溶液、塩化水素溶液(THF中、市販)を含有する。化合物1-7は、文献の手順に従って調製した。全ての反応はアルゴン下で実施した。トルエンをクエン酸、水で洗浄し、4Å分子篩で乾燥し、アルゴンで脱酸素した。THFを4Å分子篩で乾燥し、アルゴンで脱酸素した。
【実施例1】
【0080】
【0081】
リチウムビス(トリメチルシリル)アミドのトルエン溶液(1M、12.4mL、1.1当量)をトルエン(82mL)中の塩1(5.11g、1.15当量)の懸濁液に添加した。結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌し、次いで80℃の温度の油浴に入れた。10分後、Ind.0(10.0g、11.3mmol、1当量、CInd.00.12M)を添加し、混合物を10分間攪拌した。次に、2(2.27g、1.5当量)を添加し、更に30分経った後、トリフェニルホスフィン(1.48g、0.5当量)を添加した。反応混合物を80℃で90分間攪拌し、次いで室温まで冷却し、シリカゲルのショートパッドに通してろ過した(溶離剤:トルエン)。粗生成物をジクロロメタン/n-ヘプタン混合物からの結晶化及び再結晶化によって精製して緑色の固形物4.2gを収率46%で得た。
【実施例2】
【0082】
【0083】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、2.09mL、1.22当量)をイミン3(0.80g、1.22当量)のテトラヒドロフラン(27mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を40℃で20分間攪拌した。次に、LatMet-PPh3(2.36g、2.91mmol、1当量)を添加し、反応を20分間継続させた。溶媒を蒸発させて乾燥し、残留物をシクロヘキサン:酢酸エチルの95:5混合物(溶離剤1)に溶解し、シリカゲルのショートパッドに通してろ過した(溶離剤1→シクロヘキサン:酢酸エチル9:1(溶離剤2))。粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して茶色の結晶1.81g(84%)を得た。
【0084】
【実施例3】
【0085】
【0086】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、1.51mL、1.15当量)をイミン4(0.65g、1.15当量)のテトラヒドロフラン(22mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を40℃で20分間攪拌した。次に、LatMet-PPh3(1.81g、2.23mmol、1当量)を添加し、反応を20分間継続させた。溶媒を蒸発させて乾燥し、残留物をシクロヘキサン:酢酸エチルの95:5混合物(溶離剤1)に溶解し、シリカゲルのショートパッドに通してろ過した(溶離剤1→シクロヘキサン:酢酸エチル9:1(溶離剤2))。粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して茶色の結晶1.36g(80%)を得た。
【0087】
【実施例4】
【0088】
【0089】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.89mL、1.22当量)をイミン5(0.42g、1.22当量)のテトラヒドロフラン(12mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を40℃で20分間攪拌した。次に、LatMet-PPh3(1.0g、1.23mmol、1当量)を添加し、反応を20分間継続させた。溶媒を蒸発させて乾燥し、残留物をシクロヘキサン:酢酸エチルの95:5混合物(溶離剤1)に溶解し、シリカゲルのショートパッドに通してろ過した(溶離剤1→シクロヘキサン:酢酸エチル9:1(溶離剤2))。粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して茶色の結晶0.64g(65%)を得た。
【0090】
【実施例5】
【0091】
【化22】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、1.33mL、1.22当量)をイミン6(0.51g、1.22当量)のテトラヒドロフラン(18mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を40℃で20分間攪拌した。次に、LatMet-PPh
3(1.5g、1.85mmol、1当量)を添加し、反応を20分間継続させた。溶媒を蒸発させて乾燥し、残留物をシクロヘキサン:酢酸エチルの95:5混合物(溶離剤1)に溶解し、シリカゲルのショートパッドに通してろ過した(溶離剤1→シクロヘキサン:酢酸エチル9:1(溶離剤2))。粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して茶色の結晶1.11g(60%)を得た。
【0092】
【実施例6】
【0093】
【0094】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、6.74mL、1.1当量)をトルエン(80mL)中の塩1(4.72g)の懸濁液に添加した。結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌し、次いで80℃の温度の油浴に入れた。10分後、Ind.0(9.24g、10.4mmol、1当量、CInd.00.12M)を添加し、混合物を10分間攪拌した。次に、7(2.8g、1.5当量)及びトリフェニルホスフィン(2.73g、1.0当量)を添加した。反応混合物を80℃で90分間攪拌し、次いで室温まで冷却し、シリカゲルのショートパッドに通してろ過した(溶離剤:トルエン)。粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物からの結晶化及び2回の再結晶化によって精製して深緑色の固形物3.5gを収率39%で得た。
【実施例7】
【0095】
【0096】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.52mL、1.25当量)をイミン5(0.42g、1.22当量)のテトラヒドロフラン(12mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を45℃で20分間攪拌した。次に、ニトロ-LatMet-PPh3(0.6g、0.7mmol、1当量)を添加し、反応を20分間継続させた。溶媒を蒸発させて乾燥した。得られた暗色の固形物をジクロロメタン/メタノール混合物からの2回の再結晶化によって精製し、黒色の結晶0.69gを94%で得た。
【0097】
【実施例8】
【0098】
2種の配合物を調製した。配合物A:5mLのDCPD(6%m/m TCPD)、LatMet-PCy3(50μLの乾燥トルエン中、1.228mg、40ppm)。配合物B:5mLのDCPD(6%m/m TCPD)、THF中の塩化水素溶液(0.75M、40μL、800ppm)。配合物Bを配合物Aに添加した。結果は以下の通りである:
【0099】
【実施例9】
【0100】
2種の配合物を調製した。配合物A:5mLのDCPD(6%m/m TCPD)、1c(50μLの乾燥トルエン中、1.176mg、40ppm)。配合物B:5mLのDCPD(6%m/m TCPD)、THF中の塩化水素溶液(0.75M、60μL、1200ppm)。配合物Bを配合物Aに添加した。結果は以下の通りである:
【0101】
【0102】
本発明を先の実施例によって例示してきたが、それによって限定されると解釈すべきではなく、本発明は先に開示した一般的な領域も包含するものとする。様々な変更及び実施形態を、その趣旨及び範囲から逸脱することなく施すことが可能である。