(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】水上離発着可能な無人飛行体
(51)【国際特許分類】
B64C 25/54 20060101AFI20240408BHJP
B64C 37/00 20060101ALI20240408BHJP
B64D 45/04 20060101ALI20240408BHJP
B64U 10/16 20230101ALI20240408BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240408BHJP
【FI】
B64C25/54
B64C37/00
B64D45/04 B
B64U10/16
B64U50/19
(21)【出願番号】P 2022542560
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 JP2020030859
(87)【国際公開番号】W WO2022034681
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】516145390
【氏名又は名称】イームズロボティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127328
【氏名又は名称】八木澤 史彦
(72)【発明者】
【氏名】ザルチンスキ ピョートル ミラソワフ
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-32858(JP,A)
【文献】特開2020-111217(JP,A)
【文献】特開2019-1308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 25/54
B64C 37/00
B64D 45/04
B64U 10/16
B64U 50/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモーターにそれぞれ接続されるプロペラの回転によって推力を得て飛行する無人飛行体であって、
下方に向かって凸の球面状に構成され、平面視において、すべての前記プロペラの回転面よりも大きな面積において形成された浮遊部材を有し、
前記浮遊部材は、前記複数のモーターの数と同数の上下方向に貫通する貫通孔を有し、
前記プロペラは前記貫通孔内に配置さ
れ、
前記モーターは扁平な円形状の外形に構成されており、前記無人飛行体において、前記モーターの回転軸は下方に位置するように配置される、
無人飛行体。
【請求項2】
前記モーターに電力を供給する電池は、平面視において、前記浮遊部材の中心部を含む領域に形成された陥没部に配置される、
請求項
1に記載の無人飛行体。
【請求項3】
前記陥没部の周縁部と液密に係合する蓋部を有し、
前記無人飛行体の制御装置は、前記陥没部と前記蓋部で構成される筐体に格納される、
請求項
2に記載の無人飛行体。
【請求項4】
前記浮遊部材は中空構造である、
請求項1乃至請求項
3のいずれかに記載の無人飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上離発着可能な無人飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水上離発着可能な無人飛行体(「ドローン」、「無人機」とも呼ばれる。)の利用が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の技術において、無人機100は、その底部に板状の底板541を要素とする浮遊部材54を備え、水面に着陸することができる。しかし、無人機100は、少なくともプロペラと底板541の間の高さを要するから、水上における安定性が不十分である。
【0005】
本発明はかかる問題の解決を試みたものであり、上下方向の高さを抑止しつつ、水上離発着が可能な無人飛行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、複数のモーターにそれぞれ接続されるプロペラの回転によって推力を得て飛行する無人飛行体であって、下方に向かって凸の球面状に構成され、平面視において、すべての前記プロペラの回転面よりも大きな面積において形成された浮遊部材を有し、前記浮遊部材は、前記複数のモーターの数と同数の上下方向に貫通する貫通孔を有し、前記プロペラは前記貫通孔内に配置される、無人飛行体である。
【0007】
第一の発明の構成によれば、無人飛行体は、浮遊部材を有するから、水上離発着可能であり、プロペラは浮遊部材の貫通孔内に配置されるから、プロペラだけのために高さは必要がない。このため、上下方向の高さが抑止される。また、プロペラが貫通孔内に配置されるから、浮遊部材は、プロペラを配置するためのフレームとして機能し、また、ダクテッドファンのダクトとしても機能し、さらに、プロペラが外部と接触することを防止するためのプロペラガードとしても機能する。そして、浮遊部材は下方に向かって球面状に形成されているから、離陸の際の水の表面張力は平準化され、円滑に離陸することができる。
【0008】
第二の発明は、第一の発明の構成において、前記モーターは扁平な円形状の外形に構成されており、前記無人飛行体において、前記モーターの回転軸は下方に位置するように配置される、無人飛行体である。
【0009】
第二の発明の構成によれば、モーターは扁平な円形状であり、回転軸は下方に位置するように配置されるから、無人飛行体全体の高さに対するモーターの高さの影響は低減される。
【0010】
第三の発明は、第一の発明または第二の発明の構成において、前記モーターに電力を供給する電池は、平面視において、前記浮遊部材の中心部を含む領域に形成された陥没部に配置される、無人飛行体である。
【0011】
第三の発明の構成によれば、無人飛行体の部品のうち最も重量が大きい部品である電池が、平面視において、浮遊部材の中心部に形成された陥没部に位置するから、水上における無人飛行体の安定度が大きい。この場合、浮遊部材は、電池を含む部品の格納部としても機能する。
【0012】
第四の発明は、第三の発明の構成において、前記陥没部の周縁部と液密に係合する蓋部を有し、前記無人飛行体の制御装置は、前記陥没部と前記蓋部で構成される筐体に格納される、無人飛行体である。
【0013】
第四の発明の構成によれば、制御装置は、陥没部と液密に係合する蓋部で構成される筐体に格納されるから、水の影響を受けにくい。このため、制御の信頼性が高い。
【0014】
第五の発明は、第一の発明乃至第四の発明のいずれかの構成において、前記浮遊部材は中空構造である、無人飛行体である。
【0015】
第五の発明の構成によれば、浮遊部材は中空構造内に、例えば、農薬などの薬剤を格納するタンクとしても機能し、薬剤を散布することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上下方向の高さを抑止しつつ、水上離発着が可能な無人飛行体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る無人飛行体を示す概略斜視図である。
【
図5】蓋部を外した状態の無人飛行体を示す概略平面図である。
【
図7】陥没部にバッテリー及び制御装置を配置した状態を示す概略図である。
【
図10】フロートによる表面張力の平準化を示す概念図である。
【
図11】フロートによる表面張力の平準化を示す概念図である。
【
図12】フロートによる表面張力の平準化を示す概念図である。
【
図13】比較例として、底面が平面のフロートの表面張力を示す概念図である。
【
図14】比較例として、底面が平面のフロートの表面張力を示す概念図である。
【
図15】比較例として、底面が平面のフロートの表面張力を示す概念図である。
【
図16】第二の実施形態に係る無人飛行体の概略端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以下の説明においては、同様の構成には同じ符号を付し、その説明を省略又は簡略する。なお、当業者が適宜実施できる構成については説明を省略し、本発明の基本的な構成についてのみ説明する。
【0019】
<第一の実施形態>
図1乃至
図4に示すように、本実施形態の無人飛行体1(以下、「無人機1」という。)は、フロート10、枠部20、蓋部40、モーター50、プロペラ60及びアンテナ70を有する。本明細書において、フロート10が位置する方向を下方とし、蓋部40が位置する方向を上方とする。
【0020】
無人機1は、モーター50を複数備え、それぞれのモーター50の回転軸にプロペラ60が接続されている。無人機1は、プロペラ60の回転によって推力を得て飛行するように構成されている。本実施形態の無人機1は、モーター50を6個有する。
【0021】
モーター50は、平面視において円形であり、扁平な形状の外形に構成されている。すなわち、直径に対して高さが小さい円柱形状に構成されている。無人機1において、モーター50の回転軸は下方に突出するように配置される。したがって、プロペラ60はモーター50の下方に位置する。
【0022】
図1及び
図4に示すように、フロート10の全体形状は、下方に向かって凸の球面状に構成されており、上面は平面として構成されている。また、
図1及び
図2に示すように、フロート10の平面視における全体形状は円状であり、すべてのプロペラ60の回転面よりも大きな面積において形成されている。具体的には、6枚のプロペラ60の回転面の面積の合計の面積よりも、フロート10の平面視における面積が大きい。
図4に示すように、フロート10の側面視における全体的な概略形状は、楕円の長軸において切断した形状である。フロート10は浮遊部材の一例である。フロート10は、固形浮力体で形成されている。固形浮力体は、プラスチック樹脂を発泡させた材料であり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、スチロール等を発泡させたものである。
【0023】
図1乃至
図4に示すように、フロート10には、モーター50の数と同数の上下に貫通するダクトSHが形成されている。ダクトSHは、周壁12によって画される。ダクトSHは貫通孔の一例である。なお、
図4においては、中央の周壁12に対応するダクトSHのみを点線で示しているが、実際には左右の周壁12に対応するダクトSHも存在する。プロペラ60は、ダクトSH内に配置される。すなわち、無人機1の推力は、ダクテッドファンによって生じる。ここで、ダクテッドファンは、円筒形のダクトやナセルの中にプロペラ状のファンを据え、それを回転させることによって推力を生み出す推進器である。ダクテッドファンの利点として、プロペラ先端部から発生する気流を全て進行方向側に整流することができ、エネルギー効率が上がると同時に衝撃波の発生を抑えて騒音を減らすこともできることが知られている。また、円筒状のダクトの空気取入れ口を排出口に比べて広い断面形状にすることによって、ダクト自体が推力を生み出すことができる。すなわち、フロート10は、浮力材としての機能とダクテッドファンのダクトとしての機能を有する。なお、モーター50の全体または一部はダクトSH内に配置される。モーター50の全体がダクトSH内に配置される場合、モーター50の高さによって、無人機1全体の高さが増加することはない。モーター50の一部がダクトSH内に配置される場合、モーター50の高さが無人機1全体の高さへ与える影響は低減される。
【0024】
図1、
図2及び
図4に示すように、枠部20は、円環状の板の形状に形成されており、円環状の形状の内側に突出する突出部20cを有する。突出部20cには貫通孔(図示せず)が形成されている。
図1及び
図2に示すように、ネジ30が突出部20cを貫通してフロート10に固定されることによって、枠部20とフロート10は固定される。なお、フロート10において、ネジ30が固定される部分は、非発泡性の樹脂によって強化されている。
【0025】
図1、
図2、
図3及び
図5に示すように、枠部20は円環状の内側に延在する枝部20bを有する。枝部20bは、モーター50の数と同数形成されている。モーター50は、枝部20bの下面に固定される。
【0026】
図2、
図5及び
図6に示すように、フロート10には、陥没部14が形成されている。陥没部14は、
図5に示すように、無人機1の平面視において、フロート10の中心を含む領域に形成されている。また、陥没部14は、複数のダクトSHに対して、中心に近い位置に形成されている。陥没部14は、平面視において円形の空間を形成している。陥没部14は、非発泡性の樹脂によって強化されている。
【0027】
蓋部40は、陥没部14の周縁部と液密に係合する。
図6に示すように、蓋部40と陥没部14の周縁部10aの間に枠部20の内環部20d(
図5参照)を挟んだ状態において、蓋部40と陥没部14が係合することによって、液密な構造を形成している。
【0028】
図7に示すように、モーター50に電力を供給するバッテリー16は、陥没部14によって形成される空間S1の内部に配置される。バッテリー16は電池の一例である。無人機1の制御装置18は、陥没部14と蓋部40によって形成される筐体に格納される。バッテリー16の最下部の位置は、無人機1において、フロート10以外の他の部品の位置よりも低い。すなわち、バッテリー16は、フロート10において、無人機1のすべての部品のなかで最も低い位置に配置される。バッテリー16は、無人機1において相対的に最も重量が大きい部品であるから、フロート10内における下方に配置することによって、無人機1の水上及び空中における姿勢の安定性を向上させることができる。すなわち、バッテリー16は、無人機1の姿勢安定手段として機能する。
【0029】
図8に示すように、ダクトSHは、円筒状であり、空気取入れ口の直径d1は、排出口の直径d2よりも大きい。これにより、プロペラ60の回転によって生じる推力TH1に加えて、ダクトSH自体が推力TH2を生み出すことができる。
【0030】
図9は、一つのモーター50に接続したプロペラ60の推力と消費電力の関係を示すグラフであり、プロペラ60をダクトSH内に配置した場合(with DUCT)と、ダクトSH内に配置しない場合(without DUCT)との対比を示す。いずれの推力においても、プロペラ60をダクトSH内に配置した場合(with DUCT)の方が、ダクトSH内に配置しない場合(without DUCT)よりも、消費電力が小さい。逆に言うと、いずれの消費電力においても、プロペラ60をダクトSH内に配置した場合(with DUCT)の方が、ダクトSH内に配置しない場合(without DUCT)よりも、推力が大きい。すなわち、プロペラ60をダクトSH内に配置した本実施形態の無人機1のプロペラ60の配置は、エネルギー効率に優れている。
【0031】
図10乃至
図12は、無人機1が水上から離陸するときの表面張力を示す概念図である。無人機1が、水100から離陸するときには、水100の表面張力によって、下方への力を受ける。無人機1が上方に移動し、
図10の位置から
図11の位置、
図11の位置から
図12の位置に移動するに連れて、フロート10と水100の表面との界面が、界面A1、界面A2、界面A3というように変動する。無人機1のフロート10は、側面視の概略形状は、楕円形状であるから、水100の表面と接するフロート10の外面の接線は、接線L1(
図10)、接線L2(
図11)、接線L3(
図12)というように、無人機1が上昇するに連れて、水平に近くなる。無人機1のフロート10の最も低い位置が水100の表面に接した状態(
図12参照)において、表面張力の影響が最も大きいのであるが、無人機1のフロート10は、側面視の概略形状は楕円形状であるから界面A3と界面A1との大きさの相違は、側面視の形状が矩形である場合に比べて小さい。すなわち、後述の比較例の無人機200に比べて、無人機1が水上から離陸するときの水100の表面張力の影響は平準化されるから、無人機1は円滑に離陸することができる。このため、離陸時の制御が容易であり、信頼性が大きい。
【0032】
これに対して、
図13乃至
図15に示す比較例の無人機200においては、フロート210の側面視の概略形状は長方向である。無人機200においては、フロート210の側面は垂直であるから、フロート210と水100の表面との界面の状態に急激な変動はなく、
図13及び
図14に示すように、離陸直前までは表面張力の変動の影響は小さい。ところが、
図15に示す離陸直前においては、それまでの状態と比べて、フロート210の平面的な底面と水100の表面との界面A4の状態が大きく変動するから、表面張力の影響を大きく受ける。すなわち、無人機200においては、離陸寸前に表面張力の影響が急激に大きくなるから、円滑な離陸が妨げられる。
【0033】
上述のように、無人機1において、フロート10は、水上離発着を可能にする浮力材としての機能、プロペラ60を配置するフレームとしての機能、プロペラガードとしての機能、ダクテッドファンのダクトとしての機能、及び、バッテリーなどの格納部としての機能を有する。また、フロート10において、平面視における中心部に陥没部14を形成し、バッテリー16などの重量物を無人機1において他の部品よりも下方に配置することによって、水上及び空中における安定性を向上することができる。また、フロート10の陥没部14と蓋部40によって液密の筐体を形成し、制御装置16を格納している。なお、一般的にはドローンにおいては、プロペラガードはドローンの重量を増加する要因になるから、推力の負担を大きくする。これに対して、本実施形態の無人機1においては、プロペラガードとしても機能するフロート10は、かえって推力の向上に資するという大きな相違がある。
【0034】
<第二の実施形態>
図16を参照して、第二の実施形態について説明する。第一の実施形態と共通する事項は説明を省略し、第一の実施形態と異なる事項についてのみ説明する。
【0035】
図16に示すように、第二の実施形態の無人機1Aのフロート10Aは、中空構造に形成されている。フロート10Aは、発泡性を有さない樹脂によって形成され、中空構造によって水に対する浮力を得るようになっている。中空構造の空間S2には、例えば、農薬等の薬剤を格納し、薬剤を散布することも可能である。
【0036】
なお、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0037】
1,1A 無人飛行体
12 周壁
14 陥没部
10 フロート
20 枠部
40 蓋部材
50 モーター
60 プロペラ
100 水
SH ダクト