(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】大型の可変速ティルトロータを用いたeVTOL航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 27/28 20060101AFI20240408BHJP
B64C 27/473 20060101ALI20240408BHJP
B64D 27/30 20240101ALI20240408BHJP
B64U 10/20 20230101ALI20240408BHJP
B64U 30/10 20230101ALI20240408BHJP
B64U 30/295 20230101ALI20240408BHJP
B64U 30/297 20230101ALI20240408BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240408BHJP
【FI】
B64C27/28
B64C27/473
B64D27/30
B64U10/20
B64U30/10
B64U30/295
B64U30/297
B64U50/19
(21)【出願番号】P 2023090982
(22)【出願日】2023-06-01
(62)【分割の表示】P 2021077747の分割
【原出願日】2018-05-21
【審査請求日】2023-06-19
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521185365
【氏名又は名称】オーバーエアー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Overair,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】カレム、エイブ
(72)【発明者】
【氏名】ワイド、ウィリアム マーティン
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-528355(JP,A)
【文献】特表2010-510930(JP,A)
【文献】特表2017-506483(JP,A)
【文献】特開2012-020590(JP,A)
【文献】特表2016-501154(JP,A)
【文献】特表2018-526270(JP,A)
【文献】特開2017-059955(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009824(WO,A1)
【文献】特表2013-532601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0240274(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103693194(CN,A)
【文献】特表2015-526337(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0031556(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0024555(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0043413(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0061392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/00 -29/04
B64C 39/02
B64D 27/30 -27/359
B64U 10/00 -10/80
B64U 30/20 -30/299
B64U 50/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動VTOL航空機であって、
胴体と、
前記胴体に機械的に結合された翼と、
少なくとも500ポンド(約227kg)のペイロードを運ぶために揚力を付与するように全体として構成された、少なくとも4つの可変速ティルトロータと
を備え、前記少なくとも4つの可変速ティルトロータは少なくとも第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータを含み、当該少なくとも第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータが、前記翼に対して、当該翼の上方から当該翼の前方へ少なくとも90°傾斜するように構成されており、
前記少なくとも4つの可変速ティルトロータは、垂直離陸時の揚力の少なくとも70%を付与するように、全体としてサイズ設定及び寸法設定されるとともに、オープンロータであって、前記翼内に組み込まれておらず、
本航空機は、
第1の可変速リジッドティルト主ロータを駆動するように構成された少なくとも第1、第2の電気モータと、
第2の可変速リジッドティルト主ロータを駆動するように構成された少なくとも第3、第4の電気モータと、
を備える航空機。
【請求項2】
前記第1の可変速リジッドティルト主ロータを傾斜させるように構成された、パワープラント/ロータアセンブリをさらに備える、請求項1に記載の航空機。
【請求項3】
前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータのそれぞれは、VTOL飛行と固定翼巡航飛行の両方において本航空機のピッチを制御するために、フォースモーメントを付与するように構成されている、請求項1に記載の航空機。
【請求項4】
前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータのそれぞれは、前記可変速ティルトロータの最大揚力と6%のロータ半径の積に少なくとも等しいフォースモーメントを付与するように構成された、ブレード及びハブを備える、請求項3に記載の航空機。
【請求項5】
前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータのそれぞれは、10psf(約48.8kg/m
2)よりも低い円盤荷重と、8lb/HP(約4.8kg/kW)よりも高いホバリング馬力荷重を提供するように構成されている、請求項1に記載の航空機。
【請求項6】
前記翼は、40psf(約195.2kg/m
2)以下の翼面荷重と、90KIAS以下の固定翼失速速度を提供するように構成されている、請求項1に記載の航空機。
【請求項7】
前記翼は、ロータ飛行から固定翼飛行への移行時に20KIAS以上の飛行速度限界を提供するように、さらに構成されている、請求項6に記載の航空機。
【請求項8】
前記翼は、本航空機に10以上の固定翼巡航揚抗比を提供するように、さらに構成されている、請求項6に記載の航空機。
【請求項9】
前記翼は、翼端を20度~90度の間の上反角に動かすためのアクチュエータを有する翼端部を有する、請求項6に記載の航空機。
【請求項10】
前記翼は、少なくとも2.0の断面失速揚力係数を提供する作動スロット付きフラップを有する、請求項6に記載の航空機。
【請求項11】
前記作動スロット付きフラップは、航空機ロール制御のための補助翼として用いるために、上下の両方に少なくとも5度の撓みを有する、請求項10に記載の航空機。
【請求項12】
前記少なくとも4つの可変速ティルトロータのうち、前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータとは異なる別の1つは、前記第1の可変速リジッドティルト主ロータの円盤面積の50%以下の円盤面積を有する補助ロータである、請求項1に記載の航空機。
【請求項13】
前記少なくとも4つの可変速ティルトロータのうち、前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータとは異なる少なくとも別の2つのそれぞれは、前記第1の可変速リジッドティルト主ロータの円盤面積の50%以下の円盤面積を有する補助ロータである、請求項1に記載の航空機。
【請求項14】
前記少なくとも4つの可変速ティルトロータのうち、前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータとは異なる別の1つは、ロータ運転時に、前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータを合わせた全体の航空機ピッチフォースモーメント能力を超えない最大の航空機ピッチフォースモーメントを付与する補助ロータである、請求項12に記載の航空機。
【請求項15】
前記翼の全体の面積の10%~100%の間の面積を有する尾翼揚力面をさらに備える、請求項1に記載の航空機。
【請求項16】
前記翼の全体の面積の10%~100%の間の面積を有する先尾翼揚力面をさらに備える、請求項1に記載の航空機。
【請求項17】
前記胴体は、人間を着座させるように構成された少なくとも1つの座席を備えた乗員室を有する、請求項1に記載の航空機。
【請求項18】
少なくとも第1の電気モータは、少なくとも部分的に前記翼内に配置される、請求項1に記載の航空機。
【請求項19】
少なくとも第1の電気モータは、少なくとも部分的にナセル内に配置される、請求項1に記載の航空機。
【請求項20】
前記胴体及び前記翼の少なくとも一方から延びるランディングギアをさらに備える、請求項1に記載の航空機。
【請求項21】
人間のパイロットが搭乗することなく本航空機を飛行させるように構成された電子装置をさらに備える、請求項1に記載の航空機。
【請求項22】
前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータのそれぞれにおいて、ロータのブレード間に差動コレクティブピッチを有することで、ロータ推力が略一定に維持される一方、軸トルクは差動コレクティブを用いることなく所要トルクを超えるように増加させるための、個別ブレード制御システムをさらに備える、請求項1に記載の航空機。
【請求項23】
前記第1、第2の可変速リジッドティルト主ロータのそれぞれのブレードの各々は、ピッチ軸に対して軸方向に取り付けられた前記ブレードの内部にアクチュエータを有する、請求項1に記載の航空機。
【請求項24】
前記第1の可変速リジッドティルト主ロータは、すべて合わせて統合ロータ駆動システムとして構成された、回転ハブ、ハブベアリング、ギアボックス、及びモータ取り付け固定具を含む、請求項1に記載の航空機。
【請求項25】
前記第1の可変速リジッドティルト主ロータは、ロータハブと、前記ロータハブに径方向に結合された少なくとも2つのブレードとを有し、各ブレードは、前記ロータハブに対して近位の根元と、前記ロータハブに対して遠位の先端とを有し、ポンドで表す各ブレードの重量は、0.004×フィートで表すロータ直径の3乗の積を超えない、請求項1に記載の航空機。
【請求項26】
ポンドで表す各ブレードの重量は、0.004×フィートで表すロータ直径の3乗の積を超えない、請求項25に記載の航空機。
【請求項27】
ロータ回転中心から測定されるロータ半径の30%における、lbs・m
2で表される各ブレードのフラップ剛性は、200×フィートで表すロータ直径の4乗の積を下回らない、請求項25に記載の航空機。
【請求項28】
ロータ回転中心から測定されるロータ半径の30%における、lbs・m
2で表される各ブレードのフラップ剛性は、200×フィートで表すロータ直径の4乗の積を下回らない、請求項25に記載の航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、垂直離着陸航空機である。
【背景技術】
【0002】
背景技術の説明は、本発明の理解に有用であり得る情報を含んでいる。ここで提示する情報のいずれかが、本願の請求項に係る発明の従来技術であること、又は本願の請求項に係る発明に関連したものであることを認めるものではなく、あるいは、明示的又は黙示的に参照される刊行物のいずれかが従来技術であることを認めるものではない。
【0003】
電動輸送には、かなりの需要がある。充電式バッテリの現在の制約(220Wh/Kg~300Wh/Kgのエネルギー密度、放電深度、充電/放電速度、サイクル寿命の問題)によって、バッテリ乗り物の市場参入(ゴルフカートのような低速の短距離車両は考慮に入れない)の大まかな順序は以下の通りである。
【0004】
・自動車:これらは電力を採用するのが最も簡単な乗り物である。自動車は、重量の大きいバッテリを受け入れることができ、バッテリの消耗速度が比較的低く、バッテリの枯渇時に安全に動作を停止できる。
【0005】
・動力付きセールプレーン:この場合、さもなければ安全グライダであるものを発進させるためにパワープラントを用いる。
・固定翼練習機:短時間の飛行に有用であり、専門のインストラクタ、整備、管理によって常設の飛行場から運航される。
【0006】
・個人所有の固定翼:固定翼の高い揚抗比での滑走離着陸よって、次に最も簡単なものである。
・電動VTOL(eVTOL):特に高速かつ効率的な巡航も要求される場合に、ホバリングに必要な高馬力が理由で、さらに難しくなる。
【0007】
eVTOLは、十分に設備が整ったターミナル間で比較的短距離の飛行(25~60マイル(40~97km))を行う「専用輸送」航空機から、設備が不十分な少なくとも1つのランディングスポットを用いて比較的長距離の飛行を行う「アーバンモビリティ」航空機へと、市場がシフトするにつれて、より一層難しくなっている。その必要性は、Uber(登録商標)が公表した情報に示されており、それを、本明細書では従来技術の
図1A及び
図1Bとして複製している。
図1Aは、Uber(登録商標)が提案するハイブリッド電動垂直離着陸(eVTOL)航空機についての今後の都市輸送市場の概念イメージである。
図1Bは、このような航空機の開発及び運用の計画スケジュールである。
【0008】
安全性と効率性は、おそらく、この市場に応えるためのeVTOL航空機の開発にとって2つの最も重要な要素である。高い安全性を実現するために、従来技術の多くは、6つ、8つ、又はさらに多くの独立に作動させるロータを用いる航空機に着目している。そのような航空機では、いずれか1つのロータが故障すると、その他のロータによって安全に着陸できる可能性が高い。それでもクアッドロータ航空機が特にフォールトトレラントであるとみなされないのは、1つのロータの故障によって航空機が墜落する可能性があるからである。
【0009】
いくつかの提案された試作航空機は、この多ロータ戦略を用いて設計されている。例えば、
図2A及び
図2Bは、従来技術の16ロータVolocopter(登録商標)の想像画であり、
図3は、従来技術の8ロータEhang(登録商標)の写真であり、
図4は従来技術の8ロータCityAirbus(登録商標)の写真である。ところが、これらの設計はいずれも、ロータが垂直上昇位置から前方推進位置に傾斜せず、しかも翼がないため、問題がある。この組み合わせでは、前進飛行が極めて非効率的であり、これにより、航空機は比較的短距離に制限される。
【0010】
引き続き多ロータ戦略を用いつつ、前進飛行の効率を向上させるために翼を追加した、いくつかのeVTOL航空機が開発されている。例えば、
図5は、従来技術の36ロータLilium(登録商標)eVTOLの想像画であり、この場合、ロータは前翼及び後翼に関して傾斜する。メーカは、300kmの航続距離及び300km/時の速度であると主張している。ところが、この航空機は、高円盤荷重である結果として低馬力荷重(重量当たりの高い搭載馬力)となり、これにより、効率及び航続距離が低下するとともにノイズレベルが高くなるので、やはり問題がある。
【0011】
ロータを翼に関して傾斜させる代わりに、翼に対して固定位置に配置されたロータを有して、それらの翼を傾斜させることが可能である。この戦略の一例を、8ロータAirbus(登録商標)A3 Vahanaの想像画である
図6に示している。この航空機は、垂直上昇から前進飛行に移行するときの非常に高い動力要件と引き換えに、より高効率の前進飛行を犠牲にしているので、問題がある。そのような移行時には、それらの翼は、巨大なエアブレーキとして作用する。
【0012】
また、ロータを1つ以上の固定翼に関して傾斜させることも可能である。写真は入手できないが、
図7は、Joby(登録商標)6ロータeVTOLコンセプトについての計算流体力学的(CFD:Computational Fluid Dynamics)フローソリューションのイメージである。この航空機によって、上記の問題のいくつかは解決されるが、多ロータ戦略を用いることは、それらのロータが比較的小型であることを意味する。これは、必然的に高円盤荷重であることを意味し、その結果、低馬力荷重(重量当たりの高い搭載馬力)となり、ノイズレベルは高くなる。
【0013】
従来技術で想定されたと考えられる、その他のソリューションは、垂直揚力ロータを前方推進ロータ/プロペラから分離することのみである。このアイデアは、別々の上昇推進システムと巡航推進システムを用いることにより、各システムをその特定の機能に合わせて最適化できるようにすることである。
図8は、Aurora(登録商標)eVTOLコンセプトの想像画であり、この場合、8つの揚力ロータと1つの後尾プロペラを用いている。この設計は、二重推進システムによって、より高重量かつより高コストのハードウェアが必要となり、水平巡航用の巡航パワープラントのサイジングによって固定翼巡航では限界上昇速度があり、より高い巡航揚力係数(より小さい翼)のための設計最適化によって固定翼失速速度限界(突風の発生と回復)がより低くなる可能性があるので、問題がある。例として、130mph(209km/時)で飛行している場合に、20フィート/秒(6.1m/秒)の垂直突風によって、迎え角は6度増加し、その効率的な揚力係数が0.9である小さな翼は失速し得るが、CL=0.5であるより大きな翼は失速しないことがある。
【0014】
図9A及び
図9Bは、同様の設計であるTerrafugia(登録商標)eVTOLの想像画を示している。この設計には、二重推進システムに関連して上記の欠点があり、さらに、双発ティルトロータ構成では、ロータ飛行におけるピッチ制御のための方法が提供されない。
【0015】
また、従来技術におけるモータ搭載も、トルク要求量が小さい小型ロータを対象としたものである。例えば、
図10は、Airbus(登録商標)A3 Vahana(登録商標)のモータ搭載を示している。モータは、モータとプロペラが同じ回転速度で回転する直接駆動構成で配置されている。この単純な推進システムソリューションは、トルク要求量が大きい大型ロータの場合には問題がある。
【0016】
物理学が関わるために、小さいペイロード(500ポンド(約227kg)未満)を短距離にわたって運ぶ多ロータeVTOLを設計することは比較的単純である。より大きいペイロード重量かつ商業的に望ましい航続距離の場合には、多ロータを用いる戦略は、ますます問題となる。より多数のより小型のロータを用いると、より少数の大型ロータと比較して円盤面積は小さくなり、航空機の重量当たり、より大きい馬力が必要となり、より小さい総ロータ円盤面積の結果として、ブレード先端マッハ数がより大きくなるか、幅広コードのブレード数がより多くなるか、又はその両方であるため、低ノイズでのホバリングが難しく、さらに、ロータ円盤荷重の平方根に比例してオートローテーション降下率は増加し、高降下率からの回復は危険を伴うので、動力喪失後のオートローテーション飛行がより危険となる。
【0017】
少数(2つ、3つ、又は4つ)のより大型のロータを用いることで、上記の問題のいくつかを解決することができるが、そのアプローチは、一般的な通念に完全に反する。数ある中でも特に、垂直上昇を最適化するために必要な特性は、前進飛行を最適化するために必要な特性とは大きく異なる。さらに、当業者は、より少数のロータを持つことで、ロータのいずれかのモータ故障の場合の安全性が容認できないほど犠牲になるとともに、容認できない非効率性がeVTOLに取り込まれるという理由から、より少数のロータを持つという考えを却下する。さらに、これらの問題は、別々の上昇推進システムと前方推進システムを有することによって適切に解決することはできない。
【0018】
依然として必要とされているのは、いずれも現在の技術のバッテリによって動く4つ以下のロータを有する単一の上昇・前方推進システムを用いて、少なくとも500ポンド(約227kg)のペイロードを安全に運ぶことができる垂直離着陸回転翼航空機である。
【0019】
本明細書におけるすべての刊行物は、個々の刊行物又は特許出願がそれぞれ具体的かつ個別に提示されて参照により組み込まれるのと同じように、参照により組み込まれる。組み込まれた参考文献における用語の定義又は使用が、本明細書で提示されるその用語の定義に矛盾するか、又は反する場合には、本明細書で提示されるその用語の定義を適用し、参考文献におけるその用語の定義は適用しない。
【0020】
いくつかの実施形態では、本発明の特定の実施形態の記載及び請求のために使用される、成分の量、濃度のような特性、反応条件などを表す数値は、場合によっては、「約」という用語で修飾されるものと理解されるべきである。よって、いくつかの実施形態では、明細書及び添付の請求項に記載の数値パラメータは、具体的な実施形態で得ようとする所望の特性に応じて異なる可能性がある近似値である。いくつかの実施形態では、数値パラメータは、報告された有効桁数を考慮して、通常の丸め技術を適用することにより解釈されるべきである。本発明のいくつかの実施形態の広義の範囲を規定する数値範囲及びパラメータは近似値であるが、具体例において規定される数値は、実施できるほど正確に報告されるものである。本発明のいくつかの実施形態において提示される数値は、それらの個々の試験測定で認められる標準偏差からの必然的な結果としての何らかの誤差を含むことがある。
【0021】
本明細書における説明及び添付の請求項の全体を通して使用される場合の「a」、「an」、及び「the」の意味は、文脈上別段の明確な定めがない限り、複数の指示物を含むものである。また、本明細書における説明で使用される場合の「in」の意味は、文脈上別段の明確な定めがない限り、「in」及び「on」を含むものである。
【0022】
本明細書における値の範囲の記載は、単に、その範囲内にある別々の各値を個々に指す略記法としての役割を果たすものにすぎない。本明細書において別段の指定がない限り、個々の各値は、それが本明細書において個々に記載されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の方法はいずれも、本明細書において別段の指定がない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することが可能である。本明細書における特定の実施形態に関して提示される例又は例示的な表現(例えば「such as(~のような)」)をいずれも用いているのは、単に本発明をより明らかにするためにすぎず、請求項に記載されている以外の制限を本発明の範囲に課すものではない。本明細書における文言はいずれも、請求項に記載のない要素を本発明の実施に必須のものとして示すものと解釈されてはならない。矛盾を意味することが明記されていない限り、すべての範囲は、その端点を含むものであり、また、オープンエンドの範囲は、商業的に実現可能な実施形態によって、そのオープンエンドを制限されると解釈されるべきである。
【0023】
本明細書で開示する発明の代替選択的な要素又は実施形態のグループ化は、限定するものとして解釈されるべきではない。各グループメンバは、単独で、又はそのグループの他のメンバ若しくは本明細書に記載の他の要素との任意の組み合わせで、記載及び特許請求されることができる。あるグループの1つ以上のメンバを、便宜上及び/又は特許性の理由で、あるグループに包含すること、又はあるグループから削除することが可能である。このように包含又は削除するときにはいずれも、その規定が、本明細書において、その変更されたグループを含むものとみなされることで、添付の請求項で用いるすべてのマーカッシュ群の記載を満たす。
【0024】
本明細書で使用される場合の、「coupled to(~に結合された)」という用語は、文脈上別段の定めがない限り、(互いに結合された2つの要素が互いに接触している)直接的結合と、(2つの要素の間に少なくとも1つの追加の要素が配置された)間接的結合と、その両方を含むものである。よって、「coupled to(~に結合された)」と「coupled with(~と結合された)」という用語は、同義に用いられる。
【0025】
以下の考察では、本発明の主題についての多くの例示的な実施形態を提示する。それぞれの実施形態は、発明的要素の単一の組み合わせを表しているが、本発明の主題は、開示される要素のすべての可能な組み合わせを含むものとみなされる。従って、ある1つの実施形態が要素A、B、及びCを備え、第2の実施形態が要素B及びDを備える場合に、本発明の主題は、明確に開示されていなくても、A、B、C、又はDの他の残りの組み合わせも含むものとみなされる。
【発明の概要】
【0026】
本発明の主題は、電動垂直離着陸(eVTOL)航空機が、削減された数(例えば、2~4)の可変速リジッド(無関節型)ロータを用いて、少なくとも500ポンド(約227kg)を運ぶように設計された、装置、システム、及び方法を提供する。
【0027】
本発明の主題の種々の目的、特徴、態様、及び効果は、均等の構成要素を同様の数字で表す添付の図面と併せて、好ましい実施形態についての以下の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】Uber(登録商標)が提案するハイブリッド電動垂直離着陸(eVTOL)航空機についての今後の都市輸送市場の従来技術の概念イメージ。
【
図1B】
図1Aによる航空機の開発及び運用の従来技術の計画スケジュール。
【
図2A】従来技術の16ロータVolocopter(登録商標)の想像画。
【
図2B】従来技術の16ロータVolocopter(登録商標)の想像画。
【
図3】従来技術の8ロータEhang(登録商標)の想像画。
【
図4】従来技術の8ロータCityAirbus(登録商標)の想像画。
【
図5】ロータが前翼及び後翼に関して傾斜する、従来技術の36ロータLilium(登録商標)eVTOLの想像画。
【
図6】従来技術の8ロータAirbus(登録商標)A3 Vahana(登録商標)の想像画。
【
図7】従来技術のJoby(登録商標)6ロータeVTOLコンセプト航空機についての計算流体力学的(CFD)フローソリューションのイメージ。
【
図8】8つの揚力ロータと1つの後尾プロペラを用いている、Aurora(登録商標)eVTOLコンセプト航空機の従来技術の想像画。
【
図9A】Terrafugia(登録商標)eVTOL航空機の従来技術の想像画。
【
図9B】Terrafugia(登録商標)eVTOL航空機の従来技術の想像画。
【
図10】従来技術のAirbus(登録商標)A3 Vahana(登録商標)のモータ搭載。
【
図11】本明細書における発明概念による好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図13C】
図11の航空機の可能な座席配置及び計算された重量を示す表。
【
図14】4つの異なる位置で示す、
図11の航空機に使用可能なスロット付きフラップの概略側面図。
【
図15C】直径45フィート(約13.7m)の計画される円形の駐機スペースに航空機が収まるように、外翼が折り畳まれた向きにある、
図11の航空機の概略上面図。
【
図16A】
図11の航空機の無次元半径位置の関数として計算されたロータのジオメトリ及び特性を示す表。
【
図16B】
図11の航空機の提案されるロータブレードの計算された桁のフラップ方向の曲げ剛性を示すグラフ。
【
図16C】
図11の航空機の提案されるロータブレードの計算されたコード方向の曲げ剛性を示すグラフ。
【
図16D】
図11の航空機の提案されるロータブレードの計算されたねじり剛性を示すグラフ。
【
図16E】
図11の航空機の提案されるロータブレードの計算された単位長さ当たりの質量を示すグラフ。
【
図16F】
図11の航空機の提案されるロータブレードの計算されたブレードピッチ軸に対するコード方向の重心位置を示すグラフ。
【
図17】
図11の航空機のロータ速度の関数として計算された、ゼロ度のコレクティブ制御設定での最低ブレード固有振動数を示すグラフ。
【
図18】
図11の航空機の指定の半径位置におけるロータブレードの5つの翼型断面形状の概略図。
【
図19A】固定翼飛行に必要な位置で、流線型ナセルに収められた、
図11の航空機に使用可能な駆動システムの第1の概略斜視図。
【
図19B】
図11の航空機に使用可能な駆動システムの一部の第2の概略斜視図。
【
図20】
図11の航空機について、モータ速度がモータ重量に対して及ぼす計算された影響を示すグラフ。
【
図21A】
図11の航空機に使用可能な好ましい個別ブレード制御(IBC:Individual Blade Control)構成の垂直断面概略図。
【
図21B】
図11の航空機に使用可能な別の好ましい個別ブレード制御(IBC)構成の垂直断面概略図。
【
図22】
図21A又は21Bによる個別ブレード制御(IBC)アクチュエータを有し、4枚ブレードの主ロータ及び4枚ブレードの補助ロータを有する、
図11の航空機の概略斜視図。
【
図23A】バッテリが翼の下方かつナセル内部に配置されている、
図11の航空機に使用可能なナセルの概略断面図。
【
図23B】バッテリが翼内に配置されている、
図11の航空機に使用可能なナセル及び翼の概略断面図。
【
図24A】補助ロータを有していないバージョンである、本明細書における発明概念による別の好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図24B】補助ロータを有していないバージョンである、本明細書における発明概念による別の好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図24C】補助ロータを有していないバージョンである、本明細書における発明概念による別の好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図24D】補助ロータを有していないバージョンである、本明細書における発明概念による別の好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図24E】補助ロータを有していないバージョンである、本明細書における発明概念による別の好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図24F】補助ロータを有していないバージョンである、本明細書における発明概念による別の好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図24G】補助ロータを有していないバージョンである、本明細書における発明概念による別の好ましいVTOL航空機の概略斜視図。
【
図25A】
図13Gの4ロータ構成のものに相当する3列座席を示す、
図24A~24Gの別のVTOL航空機の垂直断面概略図。
【
図25B】
図13Gの4ロータ構成のものに相当する3列座席を示す、
図24A~24Gの別のVTOL航空機の垂直断面概略図。
【
図26】
図24A~24Gの2ロータの別のVTOL航空機の寸法及びパラメータの表。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の主題は、電動垂直離着陸(eVTOL)航空機が、全体として主ロータ及び補助ロータとして組み合わせられる削減された数(例えば、2~4)の可変速リジッド(無関節型)ロータを用いて、少なくとも500ポンド(約227kg)を運ぶように設計された、装置、システム、及び方法を提供する。それらのロータは、主ロータであるか補助ロータであるかに関わりなく、ロータ飛行(例えば、垂直離陸など)の際にロータの1つ以上によって、かなりの揚力(例えば、70%など)を付与するとともに、固定翼飛行の際には前方推力(又は空気ブレーキ)を付与するために、それらのロータを傾斜させることができるように、ティルトロータであることが好ましい。
【0030】
いくつかの想定される実施形態では、各ロータを、それに専用の電気モータ又は電気モータ群で駆動することができ、他の想定される実施形態では、複数のロータを、単一の電気モータで駆動することが可能である。特に好ましい実施形態では、個々のロータを3つの電気モータで駆動することが可能である。また、異なる電気モータを異なるバッテリパックで駆動できること、又は複数の電気モータを単一のバッテリパックで駆動できること、も想定される。
【0031】
「バッテリ」と「バッテリパック」という用語は、本明細書では、電気を発生させる1つ以上の化学電池を指して、区別なく用いられる。バッテリは、好ましくは、リチウムイオンケミストリを用いるものであって、約100kWh/lb(220kWh/kg)の特定のエネルギー密度を有する。その他に想定されるバッテリケミストリとして、リチウムポリマ及びリチウム金属が含まれる。
【0032】
VTOLと固定翼巡航飛行の両方における航空機のピッチ制御のためのフォースモーメントの付与に、個々のブレード角度の変更を用いることができるように、無関節型ロータが好ましい。ブレード角度制御は、ピッチ軸に対して軸方向に取り付けられた個々のブレードの内部に好ましくは収容された個別のブレード制御アクチュエータによって実現することが好ましい。第1、第2の主ロータのそれぞれにおいて少なくとも用いられる個別ブレード制御システムによって、そのロータのブレード間に差動コレクティブピッチを付与することで、ロータ推力は略一定に維持される一方、軸トルクは差動コレクティブを用いることなく所要トルクを超えるように増加させる。詳細は、係属中の米国仮特許出願第62/513930号明細書(Tigner)「A Propeller Or Rotor In Axial Flight For The Purpose Of Aerodynamic Braking(空力ブレーキを目的とした軸方向飛行におけるプロペラ又はロータ)」、及び第62/513925号明細書(Tigner)「Use Of Individual Blade Control To Enhance Rotorcraft Power Response Quickness(回転翼航空機のパワー応答の迅速性を高めるための個別ブレード制御の利用)」に記載されており、これらの文献の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
好ましい実施形態では、航空機は、主ロータ及び補助ロータを有する。主ロータは、[ロータの最大揚力]×[ロータ半径の6%、より好ましくはロータ半径の少なくとも9%、最も好ましくはロータ半径の少なくとも12%]に少なくとも等しいフォースモーメントを付与するように構成された、ブレード及びハブを備える。
【0034】
4つ以下のロータ及び現在利用できるバッテリ技術を用いて、商業的に実現可能な飛行時間、揚力及びその他の特性を実現するためには、少なくとも主ロータは比較的大型である必要がある。従って、主ロータの各々は、10psf(約48.8kg/m2)よりも低い円盤荷重と、8lb/HP(約4.8kg/kW)よりも高いホバリング馬力荷重を提供するように構成される。より好ましくは、主ロータの各々は、6psf(約29.3kg/m2)よりも低い円盤荷重と、10lb/HP(約6.0kg/kW)よりも高いホバリング馬力荷重を提供するように構成される。その他の想定される航空機の実施形態は、8lb/HP(約4.8kg/kW)よりも低い馬力荷重を有する。
【0035】
さらに、ロータ飛行及び固定翼飛行において高いロータ効率を実現するためには、(20%~100%のような)広範囲のロータRPMにわたる持続的なロータ動作が必要であり、想定される実施形態では、米国特許第6007298号明細書(Karem)「Optimum Speed Rotor(最適速度ロータ)」(OSR)及び米国特許第6641365号明細書(Karem)「Optimum Speed Tilt Rotor(最適速度ティルトロータ)」(OSTR)に開示されているロータ設計を利用する。
【0036】
OSR及びOSTRの教示を用いると、本明細書において想定される航空機は、ロータ回転中心から測定されるロータ半径の30%において、lbs・m2で測定される各ブレードのフラップ剛性として、[100さらに好ましくは200]×[フィートで表すロータ直径の4乗]の積を下回らないフラップ剛性を実現することが好ましい。
【0037】
また、OSR及びOSTRの教示を用いると、ポンドで表す各ブレードの重量は、0.004×[フィートで表すロータの直径の3乗]の積を超えないことが好ましい。
第1、第2の主ロータを有する実施形態は、少なくとも1つのオプションの第1の補助ロータを含むことが想定され、その各々は、主ロータの各々の円盤面積の50%以下である。より好ましい実施形態では、補助ロータの各々は、主ロータの各々の円盤面積の40%以下である。補助ロータは、互いに同じサイズである必要はない。
【0038】
また、1つ以上の補助ロータは、好ましくは、リジッド(無関節型)ロータであり、これらは、個々のブレードのピッチを変えることにより、ピッチフォースモーメントを発生させるように構成される。少なくとも第1の補助ロータは、効果的には、主ロータを合わせた全体の航空機ピッチフォースモーメント能力を超えない最大の航空機ピッチフォースモーメントを付与するように構成される。
【0039】
各ロータについて、回転ハブ、対応するハブベアリング、ギアボックス、及びモータ取付具は、すべて合わせて、統合ロータ駆動システムとして構成される。好ましい実施形態では、主ロータごとに、単一のギアボックスに連結された3つの独立に制御されるモータを含む。3つの独立に制御されるモータによって、冗長性により安全性効果が得られ、さらに、この構成は、可変速ロータに必要な高トルク出力のための軽量ソリューションであることが判明している。
【0040】
好ましい実施形態は、それらのロータのうちの少なくとも第1、第2のロータを支持する翼を含み、ロータの各々は、翼に対して少なくとも90°で傾斜するように構成されたロータアセンブリ内に配置される。特に好ましい実施形態では、対応するモータ又はその他のパワープラントは、ロータアセンブリと共に傾斜するように構成される。少なくとも主ロータはオープンであり、すなわち、ロータが傾斜するときに、それらは空気誘導バンドによって周方向に囲まれてない。
【0041】
ロータと同様に、翼は、航空機の重量及びペイロードに対して、比較的大きい。例えば、翼は、40psf(約195.2kg/m2)以下の翼面荷重を提供し、90KIAS(ノット指示対気速度)以下の固定翼失速速度を提供するように、サイズ設定及び寸法設定されることが好ましい。特に好ましい翼は、さらに、20psf(約97.6kg/m2)以下の翼面荷重を提供し、50KIAS以下の固定翼失速速度を提供するように構成される。好ましい翼は、さらに、完全なロータ水平飛行から完全な固定翼水平飛行への移行時に20KIAS以上の飛行速度限界を提供し、10以上の固定翼巡航揚抗比を提供するように構成される。特に好ましい翼は、さらに、40KIAS以上の遷移飛行速度限界を提供するように構成される。
【0042】
航空機の失速速度をさらに低減するために、好ましい翼は、作動スロット付きフラップが取り付けられている。特に好ましい構成では、航空機のロール制御を提供するために、フラップを用いることができる。翼は、好ましくは、翼端部に制御システムを有するように構成されて、(a)ホバリング時の翼の下向き荷重を低減するため、(b)横風の際の地上走行時にロールサポートを提供するため、及び(c)航空機のタイダウンを提供するために、電動アクチュエータ又はその他のアクチュエータによって翼端を20度~90度の間の下反角に調整する。
【0043】
本明細書で説明する翼、ロータ、及びその他の構成要素、並びに機構は、好ましくは、高度又は速度を低下させることなく、航空機を最大重量で3gで操縦できるとともに、それでもモータが故障した場合には持続的に低いオートローテーション降下率を航空機に提供するように、設計される。好ましい実施形態では、1,000フィート/分(約304.8m/分)未満の持続的なオートローテーション降下率を有する。
【0044】
いくつかの実施形態では、少なくとも第1のバッテリ又はその他の電源が、翼内に配置される。また、いくつかの実施形態では、胴体と翼の少なくとも一方から、ランディングギアが延びる。
【0045】
他の好ましい実施形態では、少なくとも第1のバッテリ又はその他の電源が、主ロータナセル内に配置される。
尾翼及び/又は先尾翼を有する実施形態が想定され、それらの各々は、好ましくは、翼の面積の10%~100%の間の面積を有する揚力面を有する。
【0046】
想定される実施形態は、有人の航空機と無人の航空機の両方を含む。従って、胴体がある場合には、その胴体は、人間を着座させるように構成された少なくとも1つの座席を備えた乗員室を有することが可能である。
【0047】
また、人間のパイロットが搭乗することなく航空機を飛行させるのに十分な電子制御も想定される。
図11は、本明細書における発明概念による好ましいVTOL航空機の斜視図である。航空機は、翼1101と、固定ナセル1102と、ティルトナセル1103と、胴体1150と、尾翼面1130と、第1のティルトロータシステム1110とを有する。特に好ましい実施形態は、第1のティルト補助ロータシステム1140を含む。
【0048】
ロータシステム1110は、ロータブレード1120を含む。ロータブレードは、例えば、米国特許第6641365号明細書(Karem)に記載されているものなど、剛性かつヒンジレスの様々なものである。ロータシステムは、全体として、矢印1113で示すような推力及びフォースモーメント1114を付与する。モーメント及びフォースは、ブレード1120の長さに沿って延びるフェザリング軸1121に関してブレードを回転させることにより、制御することが可能である。フェザリング軸1121の周りのピッチ角を矢印1122で表している。ロータブレードの先端は、円1116で表す回転軌道をたどる。ロータブレード1120及びティルトナセル1103は、ティルト軸1112に関して、矢印1111で表す経路に沿って傾斜することが可能である。ティルトロータ機能を図示するために、右側のナセルは固定翼飛行の向きにあり、一方、左側のナセルはロータ飛行の向きある。これらのナセルは、通常の操縦中は同様の向きにある。
【0049】
翼1101は、ロータシステムからの荷重を胴体1150に伝達する。胴体1150は、ペイロード及び乗員を乗せるように設計されているとともに、ランディングギアを含む種々のシステムを収容するように設計されている。
【0050】
図12は、好ましい実施形態の寸法及びパラメータの表であり、「*」は乱流を示している。この表に記載している好ましい実施形態は、約1,100lbs(453.6kg)の公称ペイロード及び4,767lbs(2162.3kg)の基本任務離陸重量として設計されている。250平方フィート(約23.2m
2)の翼面積によって、19.1psf(約93.2kg/m
2)の翼面荷重が得られる。849平方フィート(約78.9m
2)の総円盤面積によって、機体に対するロータウォッシュの影響を含めて6.62lb/Ft
2(約32.3kg/m
2)のホバリング円盤荷重が得られる。
【0051】
図13A及び
図13Bは、
図11に示す航空機に相当する好ましい実施形態の寸法が入った、上面図及び側面図をそれぞれ示している。1310は、胴体1150に装着されたメインランディングギアホイールである。1311は、胴体1150に装着されたノーズランディングギアホイールである。既に番号が付されているすべての要素は上記の通りである。
【0052】
図13Bは、好ましい実施形態の航空機の、上に開く2つのノーズハッチ1312と、自動車と同様の4つのドア1313及び1314と、荷物室1315とを示す側面図であり、これは次の3つの可能な構成を有する:a)パイロット1名、乗客4名のエアタクシ、b)最大で乗員8名の自家用、c)後部座席を折り畳むとともに荷物室に代えてオプションのランプを有する貨物用/救急輸送用。1,350lb(621.4kg)のペイロード容量を有する自家用構成は、大型SUVの構成と同様に一家族を収容することを目的としているが、ただし、2つのノーズハッチを有する航空機は、SUVの4つのドアと比較して、6つのドアに相当するものを提供する。
【0053】
図13Cは、好ましい航空機の座席配置及び計算された重量を示す表である。
1,350lb(621.4kg)のペイロード容量と、3列座席を搭載する場合に望ましい積載柔軟性と、さらに特に荷物室又は後部ランプの400lb(181.4kg)の後部積載によって、最大8.5インチ(21.58cm)(翼の平均空力コードの13.2%)の大きな航空機C.G.(重心)シフト(荷重ベクトル)が生じる。このような大きなC.G.シフトに対して航空機の安定性及び制御を提供することは、ロータ飛行では好ましい実施形態の補助ロータとリジッド主ロータのピッチモーメントの強力な組み合わせピッチ制御により、固定翼飛行では大きい尾翼昇降舵とリジッド主ロータのピッチモーメントの強力な組み合わせピッチ制御により、可能となる。
【0054】
図13D及び
図13Eは、ドア及びハッチが開いている好ましい実施形態の航空機の図を示している。
図13Fは、開いた後部ランプ1316を示している。ノーズギア1311は、オプションで可変高さを有し、胴体の対地角調整が可能となり、ランプ開口部に追加のクリアランスが提供される。
【0055】
図13Gは、
図13Cに相当する提案された座席配置を有する胴体の側断面図を示している。将来の運用では、人間のパイロットが搭乗することなく航空機を飛行させることが可能な電子装置1317が想定される。
【0056】
[空力設計]
本明細書において想定される航空機は、効率的な垂直飛行及び巡航飛行のために設計されている。さらに、このような航空機は、安全な飛行を提供するように設計されるとともに、「トランジション」として知られる完全な固定翼飛行と完全なロータ飛行との間の中間飛行状態において良好に動作するように設計される。
【0057】
垂直飛行に必要なロータ推力は、効率的な巡航飛行に必要な推力の10倍程度である。好ましい実施形態の航空機は、低速固定翼飛行での100RPMから、12,000フィート(約3.65km)でのホバリングでの460RPMまで、高効率を実現するために、米国特許第6641365号明細書(Karem)に記載の可変速ロータを用いる。ロータの空力設計は、典型的に、そのようなロータで利用できる5:1のRPMレンジで、ホバリングのためと、巡航飛行のためと、の間での最適な特性の比較的小さな妥協を意味する。広範囲の迎え角及びねじれ角に渡って線形揚力特性を有する翼型設計と、垂直飛行条件と巡航飛行条件とのバランスをとるコード分布と、の組み合わせが必要である。所望の特性を実現する翼型の設計及び調査のために、XFOILのような翼型断面設計及び解析ツールを用いることができる。所望の性能特性に合わせてロータジオメトリを最適化するために、XROTORのような巡航のためのロータ解析ソフトウェア、及びCHARM(CDI)のようなホバリングロータ性能のためのソフトウェアを用いることができる。その結果として得られる好ましいロータジオメトリを、
図16Aの表及び
図18の翼型断面として示している。
【0058】
効率的な巡航飛行のためには、少なくとも10の高い揚抗比が望ましい。推進及びペイロードのための容積、並びに構造要件のような実際的な考察によって、形状を解析して、反復的に最適化するために、計算流体力学(CFD)プログラムである例えばSTAR-CCM+を用いることにより、胴体及びナセルの抵抗を最小化する。翼の翼型は、前述のXFOILのようなエアフォイルツールを用いて、最適化することが可能である。翼の最適化に関する考察は、巡航抵抗と、垂直飛行での下向き荷重と、移行時の最大揚力と、構造要件と、の間での妥協を伴う。
【0059】
移行時に、巡航抵抗に悪影響を及ぼすことなく、最大揚力を増加させるための好ましい方法は、
図14の断面図に示すように、スロット付きフラップである。この図面は、複数のフラップ撓み角度位置である、最大上方撓み(-8)、撓みなし(0)、最大CL(+22)、最大下方撓み(+65)、を含む。フラップ1401は、単純なヒンジ1404に関して回転する。フラップ1401は、退避すると(位置0)、単一要素の翼型と比較して、最小限の追加抗力を発生させる。最適な高揚力角度(位置+22)に展開されると、スロットが露出して、これにより、空気流が第1の要素1402の下側からフラップ要素1401を通り越すことが可能となる。好ましい実施形態では、このスロット付きフラップが、さらに航空機のロール制御のための補助翼として正確な制御が可能であるように、フラップ及びスロットの形状は、わずかな撓み角度に対して線形揚力応答を提供するように設計される。好ましいスロット付きフラップは、胴体側から翼端まで、推進システムのナセルで中断して翼長方向に延びている。フラップは、翼の変形によって生じる応力を軽減するために、翼長方向の複数のセクションに分割されている。フラップが下方に撓むとスロットが開くように、フラップのヒンジは、翼面からオフセットしている。フラップがその退避位置にあるときに、抵抗は、可撓性の上面シール1403によって最小限に抑えられる。
【0060】
翼付きeVTOLの飛行の、飛行安全性が最も重要である段階は、安全な前進速度での完全なロータ飛行から固定翼飛行への移行である。これは、低高度の都市環境における強風乱流条件において、特に重要である。従来技術とは異なり、大型の主ロータと大きな翼面積を用いる組み合わせによって、安全な移行を実現する。
【0061】
(2つの補助ロータを有する)好ましい実施形態では、大型のロータを用いた結果としての円盤荷重によって、低ノイズ(350RPM、0.35未満のロータ先端マッハ数)、効率的かつ安定したホバリング、2gで495RPMでのロータ操縦、が得られる。22度のスロット付きフラップを有する大型(250Ft2(約23.2m2))の翼との組み合わせによって、航空機は、4,767lb(2162.3kg)の航空機重量で50KIASの失速速度が得られるように設計されている。550RPMのロータ速度で、航空機は、最低の固定翼速度よりも40KIAS高い90KIASで完全なロータ飛行(翼及び尾翼の揚力はゼロ)が可能であり、2.5gの瞬間ロータ揚力を持つことができる。90KIASで、航空機は、3.25gの固定翼揚力を持つことができる。これらの高い限界によって、低揚力に典型的な飛行事故並びに乱流天候での低速飛行及び移行に典型的なコントロール事故のほとんどは回避される。
【0062】
[外翼の折り畳み]
外翼折り畳み機構を
図15Aに示している。外翼1501は、内翼1502に対してヒンジ線1503の周りに折り畳まれ、その動きは、折り畳みアクチュエータ(図示せず)によって制御される。折り畳み翼の作動は、飛行荷重及び地上荷重に耐えるように設計されている。それは、着陸時に地面に接触するバネ付きスキッド1504を翼端に備える。効率的飛行及び許容できる遷移特性のために必要な大きい翼長によって、航空機は、地上で横風及び突風の影響を受けやすくなる。翼端スキッドは、航空機に追加の地上安定性及び安全性を与える。翼端は、さらに、駐機中の航空機を固定するためのタイダウン機構(図示せず)を含む。ロータ飛行では、外翼におけるロータウォッシュによる下向き荷重は、その下向き荷重がロータと翼の分離距離に反比例するので、低減する。
図15Bは、外翼が折り畳まれた航空機の正面図を示している。さらに、折り畳まれた航空機は、より小さい駐機エリア内に収めることができる。
図15Cは、直径45フィート(約13.7m)の計画される円形の駐機スペースに収まる航空機の上面図を示している。
【0063】
[ブレード設計]
図16Aは、無次元半径位置の関数としてロータのジオメトリ及び特性を示している。
図18は、指定の半径位置におけるロータブレードの翼型断面形状を示している。
【0064】
図16Bは、例示的な実施形態のロータブレードの、根元の半径位置ゼロから先端の半径位置1までの、フラップ方向すなわちコードに垂直な方向の曲げ剛性を示している。
図16Cは、例示的な実施形態のロータブレードの、根元の半径位置ゼロから先端の半径位置1までの、ラグ方向すなわちコード方向の曲げ剛性を示している。
図16Dは、例示的な実施形態のロータブレードの、根元の半径位置ゼロから先端の半径位置1までの、ねじり剛性を示している。
図16Eは、例示的な実施形態のロータブレードの、根元の半径位置ゼロから先端の半径位置1までの、単位長さ当たりの質量を示している。
図16Fは、例示的な実施形態のロータブレードの、根元の半径位置ゼロから先端の半径位置1までの、ブレードピッチ軸に対するコード方向の重心位置を示している。
【0065】
図16C~
図16Eは、提案される実施形態のブレードの桁のフラップ方向の曲げ剛性、コード方向の曲げ剛性、及びねじり剛性を示している。広範囲のロータ速度でロータを動作させつつ、構造力学的問題を回避するには、質量に対して高剛性である必要がある。提案される実施形態のブレードのブレード質量分布を、
図20Fに示している。空力弾性不安定性を回避するためには、ロータブレードのコード方向の質量中心は、ブレードピッチ軸すなわちフェザリング軸よりもはるかに後方にあることはできない。この実施形態のロータブレードは、
図16Fに示すように、バランスの取れた質量中心を有して、動作条件にわたって空力弾性不安定性がないことが判明した。
【0066】
図17は、ロータ速度の関数として、ゼロのコレクティブ設定での最低ブレード固有振動数を示している。原点からの放射線は、ロータの1/rev,2/rev,...,10/revの調和振動数を示している。動作速度範囲を横軸に示している。
図16A~
図16Fの剛性及び質量分布は、ロータブレードの固有振動数に対する一次的な影響である。これらの固有振動数は、動作範囲にわたって、互いに十分に分離されている。重量に対して高剛性の設計の結果として、固有振動数は、典型的なロータブレードと比較して、はるかに高い。第1のフラップモードでは、動作範囲全体にわたってロータの3/rev励起周波数よりも高く維持されるが、一方、より軽く減衰される第1のラグモードでは、4/rev励起周波数よりも高く維持される。一次ロータ励起周波数3/revよりも上でのこの分離によって、共振による過度の振動荷重又は振動を受けることなく、広いロータ速度範囲にわたる動作が可能となる。
【0067】
記載の所望の特性に従ってロータブレード設計を反復するために、CHARM及びCAMRADのようなロータ動力学シミュレーション・最適化ソフトウェアプログラムを用い得る。より高忠実度の構造解析のために、有限要素解析(FEA)ソフトウェアを用いることができ、より高忠実度の空力解析及び精緻化のために、CFDコードを用い得る。
【0068】
好ましい補助ロータブレードは、より小径の主ロータと同じ性能制約に従って設計される。
[ハブ駆動システム]
駆動システムは、固定翼飛行に必要な位置で、
図19Aに示す流線型ナセルに収められている。ロータの回転軸をX-Xとして示しており、飛行方向を矢印Aで示している。ティルトロータ航空機は、その名の通り、ロータの推力軸を水平飛行状態から垂直上昇状態に回転させる必要がある。この角度は、90度以上であり、105度以上である可能性がある。すべての駆動要素を含むナセルの前方部分が傾斜するための軸を、Y-Yとして示している。
【0069】
ブレードシャンク1901は、フェザリングベアリング収容フープ1902に取り付けられて、そしてこれが、大径ベアリング1904に支持された回転ハブ1903にボルト締めされている。3つのモータ1905は、ハブ中心に関して対称的に配置されており、そのうちの1つを断面1906で示している。出力サンギア1907は、スプラグクラッチ1908を介して駆動される。プラネットギア1909は、出力ピニオン1911に装着されたプラネットキャリア1910に取り付けられている。3つの同等の出力ピニオンが、リングギア1912に噛合している。ハブ荷重は、ハブベアリングから、モノコック複合構造の、ナセル1914に接合及びリベット締めにより装着された中間構造1913を通して、伝達される。シェル構造が、ヒンジ点1915で後部ナセルに装着されて、ティルト作動トラス1916が両方のナセル要素をアクチュエータ取付ブラケット1917に接続している。電子モータドライバボックス1918は、モータへの位相接続部1919を有して、冗長用に個別にパッケージ化されている。モータ液体冷却接続部1920を図示しており、同様にオイル格納サンプ1921を図示している。回転横軸上に取り付けられた別の回転ティルトアクチュエータ1922を図示している。
【0070】
図19Bは、
図19Aに示す流線型ナセルの一部の別の斜視図を示している。
図19Bは、フェザリングベアリング収容フープ1902に取り付けられたブレードシャンク1901、並びに大径ベアリング1904に支持された回転ハブ1903へのフェザリングベアリング収容フープ1902のボルト締めの、拡大図を提示している。
【0071】
電気駆動装置に結合されたブレードフェザリングベアリング及びピッチ操作システムを含むロータハブの全体で、統合アセンブリを形成している。システムは、3枚ブレード構成として図示しているが、他のブレード数も同様に搭載される。回転フレームからナセル構造までアセンブリを通して分解される4つの主な荷重は、ブレードフラップ荷重、マストモーメント、推力又は揚力ベクトル、及び駆動トルクである。大径のモーメント伝達ベアリングで、回転ハブ要素をナセル構造に接続している。大型の低速回転ロータによって、ロータのトルク/速度特性が直接駆動モータの能力をはるかに超える場合の駆動状態を作り出す。モータ速度がモータ重量に対して及ぼす影響の解析概要を
図20に示しており、これは、一定の動力で、減速ギアを有する高速モータによって、ギア比を増加させることにより軽量化が実現することを示しており、さらに、モータの多重化によって、さらなる軽量化が実現する。飛行安全性は最も重要であるので、多重化モータによって、完全な電気的冗長性を提供する。また、モータ出力軸のそれぞれにワンウェイクラッチ(「スプラグ」クラッチ)を含むことによって、ある程度の機械的冗長性も提供する。図示のシステムは、3つのモータを有するが、より多く補足されたモータに適応させることが可能である。
【0072】
eVTOL揚力ロータとして直接駆動電気モータを典型的に適用することには、いくつかの利点がある。それは単純であり、単純さによって固有の信頼性が得られる。また、ギアボックスによる追加重量も回避される。一方、軽量化は、電気モータのRPMを増加させて、出力段にギアを配置することによっても、得ることができる。固定動力でトルクと引き換えにRPMを得ることにより、大幅な軽量化が得られる。サイズが小さくなると冷却能力が制限されるので、軽量化には限界がある。従って、重量を最適化するために、直接駆動モータとギア付きモータのどちらを選択するかは、所望の動力出力及び所望のRPMに依る。より低い出力RPMでは、ギア駆動が重量的に有利であり、より高いRPMでは、直接駆動がより重量効率が良い。
図20は、好ましい実施形態におけるモータの重量と、300HP定格出力の主ロータの駆動を示している。この場合、重量ブレークポイントは2000RPM付近である。好ましい実施形態では、高馬力のホバリングにおける主ロータのRPMは400~460であり、高馬力の固定翼上昇におけるRPMは350であり、従って、ロータのギア駆動が明らかに望ましい。
【0073】
複数のモータを設計に組み込むことには、いくつかの利点がある。A)モータ数が多いほど、重量効率が高くなる可能性がある。放熱能力はモータの表面積に比例し、固定RPMでは、動力はモータの体積ひいては重量に比例する。表面積対体積比が大きいほど、より優れた冷却が可能となる。最小重量が主に冷却能力によって決まる場合には、モータ数が多いほど、表面積対体積比が大きいので、重量効率は高くなる。B)冗長性によって信頼性が高まる可能性がある。1つ以上の駆動モータが故障しても許容できる出力動力を維持できる構成では、冗長性によって全体的な信頼性が向上する。ただし、多数のモータの複雑性によって、信頼性が低減する可能性がある。
【0074】
ギア比が高いほど、軽量化に優れている。ギアボックス重量は高トルクの出力段によって駆動されるので、一次までは、ギアボックスの重量はギア比と無関係である。
図20に示すように、モータ重量はRPMに反比例する。ただし、サイズが小さくなると放熱能力が低下することによって、軽量化は制限される。さらに、モータRPMには、高遠心力下での磁石の保持(そのような設計タイプのモータの場合)、利用できるベアリング速度の制限、モータ転流のための電子スイッチング速度の制限など、実際的な制限がある。
【0075】
本例では、20:1のギア比によって、非常に高いモータRPMの課題を制限しつつ、軽量化が実現する。他の想定される実施形態では、ギアボックスは、3:1、5:1、10:1、20:1、又は30:1のギア比を有し得る。
【0076】
20:1に近いか、それを超える全体的なギア比では、高速モータの完全な軽量化効果を実現するためには、2段階のギア減速が必要である。各モータには、ハブに装着された結合リングギアを駆動する遊星減速装置を装備している。このアセンブリのすべての機構は、重量最小化のために最適化されており、例えば、単一の大型リングギアに係合する3つのドライバピニオンを用いることにより、リングの歯幅を最小化して、これにより材料を節減する。
【0077】
モータ、それらのドライバ電子装置、及びギアボックスは、全体として、冷却を必要とする。モータ及び電子装置の冷却に適した流体は、水/グリコールであり、さらに、ギアボックスの油冷却のために、液・油熱交換器が採用される。ギアボックスの油は、ギアボックスハウジングの下側後端に配置されたサンプに格納される。
【0078】
ナセルティルトシステムを、3つのリニアアクチュエータのシステムとして示しており、後部のペアによってナセルの60度の動きを提供し、前方のアクチュエータによって残りの55度を提供する。代替システムは、4節リンク機構を介して作動する高トルクのロータリアクチュエータを適用するものである。ロータリアクチュエータの実施について詳細に記載している米国特許第7871033号明細書(Karem等)は、参考文献に引用されている。
【0079】
[個別ブレード制御]
好ましい実施形態では、個別ブレード制御(IBC)アクチュエータ2101によって、ロータブレード軌道の正確な独立制御が可能となる。ブレード角度を独立に制御することにより、ロータのモーメント及びフォースの制御が可能である。
図22は、
図11に示すのと同様のものを示しているが、ただし、第1のティルトロータシステム2210及び第1のティルト補助ロータシステム2240に、4枚ブレードのロータを適用している。4枚ブレードのロータにIBC作動を適用することによって、大きいハブモーメントを導入することなく、固定翼飛行での航空機のブレーキング(負のロータ推力)が可能となる。
図11と同様に番号が付されているすべての要素は上記の通りである。詳細は、係属中の米国仮特許出願第62/513930号明細書(Tigner)「A Propeller Or Rotor In Axial Flight For The Purpose Of Aerodynamic Braking(空力ブレーキを目的とした軸方向飛行におけるプロペラ又はロータ)」、及び第62/513925号明細書(Tigner)「Use Of Individual Blade Control To Enhance Rotorcraft Power Response Quickness(回転翼航空機のパワー応答の迅速性を高めるための個別ブレード制御の利用)」に記載されており、これらの文献の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0080】
好ましいIBC構成を
図21Aに示している。その設計アプローチは、ブレード自体の中に電動アクチュエータを、アクチュエータとブレードのフェザリング軸が並列になるように位置決めして、配置することである。何らかのブレード設計条件は、このアプローチを実現可能にすることを満たすものでなければならない。OSTRロータブレードは、極めて効果的には、フラップの高い曲げ剛性及び高いリードラグ剛性を有するべきであり、これにより、ブレードの根元部のコード及び厚さは、従来のロータブレードに見られるものよりもはるかに大きくなる。その結果としてのブレードスパーは、中空かつ適切な直径であれば、円筒形の電動アクチュエータを簡便に受け入れる。減速ギアボックスと組み合わせることで、電気モータ駆動装置は、回転的に機械的リンクを必要とすることなくブレードをハブに連結することが可能であり、さらに、他の飛行制御アクチュエータと全く同じように指令及び制御を受けることが可能であることが分かる。このタイプの作動に適用される一般的な用語は、個別ブレード制御(IBC)であり、これにより、ブレードの方位角及びピッチ角の全く新規の最適化されたマトリクスが可能となる。このようにすることには、空気力学的効果がある。
【0081】
また、船上オペレーションに従事する軍用ヘリコプタは、折り畳むことによりコンパクトにされなければならない。現在の技術によるロータブレードを折り畳むとともに、ピッチリンケージの完全性を維持すると、その結果として、機械部品の構成配置が複雑となる。本発明は、この複雑さを排除しており、ブレードの内部にあるアクチュエータ設計の唯一の新たな要件は、電気ケーブルが折り畳み角度で曲がることである。この要件は、容易かつ簡単に達成される。
【0082】
中空ブレードスパー2101は、インナレース2104上に延びるベアリング2103でブレードを支持するハブ2102の収容穴に挿入されて、シール2105で封止される。折り畳む必要がある場合には、ブレード及びハブ部分をヒンジ2106に関して回転させる。1つのモータステータ2107又は2つのモータステータ2107及び2108のいずれかで、テールベアリング2110及びロータベアリング2111の案内によってロータ2109を作動させる。モータロータの位置ひいてはブレードの角度位置は、エンコーダ2112によって、固定コア2113による静的基準を用いて検知される。モータは、ブレードの根元に固定具2115で固定されたギアボックス2114を駆動する。ギアボックスの反作用トルクは、フレキシブルカップリング2116によって支持され、このフレキシブルカップリングの目的は、ブレードフラップ荷重及びリードラグ荷重に起因するモーメントによって生じる撓みからギアボックスを隔離することである。遠心荷重、並びにモーメントによって生じるラジアル荷重は、テーパローラベアリング2117によって支持される。ブレード作動トルクは、スプライン2117を介して反作用を受け、遠心力は、ナット2119による反作用を受ける。可撓性の電気接続ケーブル2120は、スリップリング2121からのモータ電力及び制御情報を伝達し、スリップリングは、(X-X軸で示す)ハブ回転軸2122に関して回転するとともに、スリップリングの静止部は機体構造2123によって支持されている。冷媒流体のフローライン及びリターンライン2124は、ロータリグランド2125を介して供給を受ける。
【0083】
図21Bは、別の部品レイアウトを示している。ロータブレードを折り畳む必要がなく、剛性フェザリングベアリングによってブレードフェザリング軸がハブに対して厳密に制御される場合には、ピッチアクチュエータは、ブレードに取り付けるのではなく、ハブに取り付けることができる。この構成では、1つ以上のモータ、減速ギアボックス、並びに必要なセンサ及び接続配線、で構成されるアクチュエータアセンブリを、ハブに接続する。この接続は、ねじり剛性を有するが、高荷重を受けるブレードに固有の撓みを受けるための調整には柔軟性がある。スプライン出力駆動ディスクは、ブレード内部の係合スプラインに噛合する。単一のハブにアクチュエータのセットを共に取り付けることは、一般的なドライバ、電源、及び冷却路との電気的接続が可能であるため、実用システム的な利点がある。
【0084】
円筒形ブレードスパー2131は、ベアリングリテーナフープ2132、アウタレース2133、ローラ及びケージ2134、インナレース2135、シール2136、で構成される外側フェザリングベアリングアセンブリによって、支持される。ブレードの根元は、リベット2138で固定されたインナダイヤフラム2137によって安定化される。ダイヤフラムは、内部で、フレキシブルドライブベローズ2140からのトルク伝達のために、2139でスプライン結合されている。これは、取り外されたブレードが固定アクチュエータ上を通って引き出されるときの分離点である。
【0085】
分割ブレード保持クランプ2141は、内側ルートフィッティング2142を、内側フェザリングベアリングアウタレース2143に固定する。テーパローラ及びケージ2144は、シール2146によって封止されるインナレース2145上に延びる。ベアリングの予荷重は、スラストワッシャ2148に作用する皿ばね2147によって付与される。
【0086】
ブレード遠心力は、固定具セット2150で保持されたアクチュエータハウジング2149による反作用を受け、また、固定具セットは、固定コア2151も回転ハブコンポーネント2152に固定している。固定コアは、モータステータ巻線2153と位置エンコーダ2154の両方を支持している。電気モータロータ2155は、ジャーナルベアリング2156及びテールベアリング2157に支持されており、減速ギアボックス2158を駆動する。
【0087】
回転しない機体構造に装着された管状延出部2159は、固定ワイヤリングハーネス2161を介してアクチュエータに電流及び制御信号を供給するスリップリング2160を支持している。
【0088】
[バッテリ]
好ましいバッテリ搭載を
図23Aのナセル断面図に示している。バッテリ2301は、翼2302の下方、かつナセル2303の内部に配置される。飛行方向をブロック矢印Bで示している。ナセルの後部容積は、電気推進システムに必要な冷却システムの部分を含むのに十分な容積を含んでいる。あるいは、
図23Bに示すように、バッテリ2311を翼構造2312内に収容することが可能である。バッテリ2311を、
図23Aよりも小さい断面寸法で示しているが、これは、長い翼2321で囲まれているので、同じ体積を提供する。この場合、ナセル2313は、第1の好ましい実施形態と比較して、顕著に小さく、かつ低抵抗であることが可能である。あるいは、電気モータ及びその他の航空機システムに動力を供給して、大幅に長い航続距離を提供するために、内燃エンジンと発電機(ハイブリッド推進)を備えたナセル構成を用いることができる。
【0089】
[代替構成]
図24A~24Gは、補助ロータを有していない別の好ましい実施形態を示している。この好ましい実施形態は、補助ロータ及び大きい尾翼面積を有する好ましい実施形態と比較して移行時及び突風時に航空機のより少ない制御を用いるとともに、C.G.シフト及びペイロードの多様性(貨物ランプなし、かつ荷物のボリューム及び重量の減少)への適応のレベルを抑えつつ、より低い重量、抵抗、搭載馬力、及びコストの航空機によって、同じ航空機性能を提供することを可能とするために、ロータ飛行における主ロータ2401の強力なピッチ制御と、固定翼飛行における長いコントロールアームの先尾翼面2411のピッチ制御とを用いる。
【0090】
別の好ましい実施形態は、胴体2421と、翼2431と、ロータブレード2401と、先尾翼2411とを備える。内部構成は、第1の好ましい実施形態と同様である。胴体は、前列2501、中列2502、及び後列2503の、3列座席を有する。
【0091】
2ロータの代替構成のキャビン容積は、4ロータ構成のキャビン容積と同等であるが、その固定翼抵抗は、以下のことにより低減する:a)250Ft2(約23.2m2)から140Ft2(約13.0m2)に減少した翼面積、b)尾部がない、c)補助ロータナセルがない、d)胴体への翼の取り付けがキャビン後方(下部前面領域)である、e)胴体層流の幅広いオプション、f)(機体の軽量化及びバッテリの小型化により、817lb(370.59kg)の軽量化と推定される)より低い巡航重量による、より低い巡航抵抗。
【0092】
図25A及び
図25Bは、4ロータ構成のものに相当する3列座席を示す、2ロータの代替構成の機内側面図を示している。
図26は、2ロータの代替構成の寸法及びパラメータの表である。
【0093】
[変形例]
本明細書における発明概念から逸脱することなく、前述のものに加えて、多くのさらなる変更が可能であることは、当業者には明らかであろう。よって、本発明の主題は、添付の請求項の趣旨以外に、限定されるべきではない。