(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】義歯寸法評価システムとそのプログラム
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20240408BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61C19/00 B
A61C13/00 A
A61C19/00 Z
(21)【出願番号】P 2023209473
(22)【出願日】2023-12-12
【審査請求日】2023-12-12
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521041706
【氏名又は名称】株式会社マルチカラー
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】内田 英樹
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/044693(WO,A1)
【文献】特開2019-136346(JP,A)
【文献】国際公開第2022/174165(WO,A1)
【文献】特表2023-511199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
A61C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科医師によって作成された歯科技工指示書に示される義歯に対する製作レベルを製作寸法に変換し、前記歯科医師の指示特性に応じて前記製作寸法への落とし込みとそれに基づく義歯製作を可能とするための義歯寸法評価システムであって、
前記歯科医師による学習用義歯に対する前記製作レベルの歯列データと、前記製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、前記学習用義歯の前記特徴量に対応して予め付与された製作寸法と、の組合せを教師データとして学習させた義歯寸法評価モデルと、
前記歯科技工指示書に示される前記義歯に対する前記製作レベルの前記特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
この特徴量抽出部で抽出された前記特徴量を前記義歯寸法評価モデルに適用することにより前記義歯に対する前記製作寸法を評価する評価部と、
この評価部で評価された前記義歯に対する前記製作寸法を出力する出力部と、を有することを特徴とする義歯寸法評価システム。
【請求項2】
前記教師データを用いて前記義歯寸法評価モデルを生成する学習済モデル生成部を有することを特徴とする請求項1記載の義歯寸法評価システム。
【請求項3】
歯科医師によって作成された歯科技工指示書に示される義歯に対する製作レベルを製作寸法に変換し、前記歯科医師の指示特性に応じて前記製作寸法への落とし込みとそれに基づく義歯製作を可能とするためにコンピュータによって実行される義歯寸法評価プログラムであって、
前記歯科医師による学習用義歯に対する前記製作レベルの歯列データと、前記製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、前記学習用義歯の前記特徴量に対応して予め付与された前記学習用義歯の製作寸法と、の組合せを教師データとして学習させた義歯寸法評価モデルを備え、
前記歯科技工指示書に示される前記義歯に対する前記製作レベルの前記特徴量を抽出する特徴量抽出工程と、
前記特徴量を前記義歯寸法評価モデルに適用することにより前記義歯に対する前記製作寸法を評価する義歯寸法評価工程と、
この義歯寸法評価工程で評価された前記義歯に対する前記製作寸法を出力する出力工程と、を有することを特徴とする義歯寸法評価プログラム。
【請求項4】
前記教師データを用いて学習させた前記義歯寸法評価モデルを生成する学習済モデル生成工程を有することを特徴とする
請求項3に記載の義歯寸法評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医師によって作成される歯科技工指示書に記載された指示内容から義歯の製作寸法へ変換して義歯製作を可能とする義歯寸法評価システムとその方法とそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、う歯治療に際し、歯科医院は治療に必要な補綴物等の歯科技工物の製作のため、まず歯科医院において患者の歯型を採取し、その歯型と共に歯科技工指示書という書面を歯科技工所に送付して義歯の製作を依頼している。歯科技工指示書には患者の補綴物の製作に必要な歯科医師による指示が記載されており、歯科技工所は歯型と歯科技工指示書に記載された指示に基づいて歯科模型を製作する。そして、歯科技工所はその歯科模型上にワックスで技工物を構築し、そのワックス製の技工物の型を取って鋳型を製作した後、鋳型に金属等の材料を流し込むことで技工物を得ている。
しかしながら、歯科技工所は複数の歯科医院を顧客に持つことが多く、歯科医院から送付される歯科技工指示書を歯科医師毎及び患者毎に管理しなければならず煩雑であった。また、完成した技工物も歯科医院毎、患者毎に管理が必要であり、このことも管理を煩雑化させる要因となっていた。
そこで、例えば特許文献1には、「歯科技工物受発注システム、歯科技工物受発注プログラムおよび歯科技工物受発注方法」という発明が開示されており、この発明では、歯科医院と歯科技工所のそれぞれの端末を介して、指示書の作成と受付けを行い、指示書には指示書情報として歯科技工物の種別情報、治療位置情報及び材料情報が含まれており、システムの記憶部はこれらの指示書情報を記憶部DBに格納し、また、これらの情報に応じた技工料金に関するマスタデータを格納する。そして、システムの算出部では指示書情報及びマスタデータを参照しながら技工料金を算出し、歯科技工指示書の作成を端末を用いて行うことで紙による管理からデータによる管理としながら、そのデータを用いて技工物の受発注を行い、管理の煩雑化の低減が可能である。
また、特許文献2には、「指示書管理システム、指示書管理プログラムおよび指示書管理方法」という発明の名称で、紙の歯科技工指示書から電子的に管理する指示書管理システムが開示されている。この発明では、歯科技工指示書に記載されている指示書情報を更新することが可能であるため、歯科医院と歯科技工所とのやりとりも技工所端末と歯科医院端末を介して送受信することが可能となり、より管理の煩雑さを解消することが可能である。
さらに、特許文献3では、「技工物識別システム、技工物識別方法及びプログラム」という発明が開示されている。この発明は、完成した歯科技工物がどの患者のものであるかを識別する技術に関するものであり、具体的には技工指示書と関連づけられたSTLデータである基準形状データに基づく特徴量と、識別対象技工物形状データに基づく特徴量の類似度を判定する技術が開示されている。この発明では、これら2つの特徴量の類似度を判定することで、どの患者の歯科技工物であるかを識別することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2023-3999号公報
【文献】特許第6732354号公報
【文献】特開2022-146486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの特許文献に開示される発明では、歯科技工指示書及びそれによって製作された技工物の管理の煩雑さは低減されるものの、管理以前に歯科技工指示書に記載される歯科医師の指示特性が反映された指示内容の把握に関する煩雑さは解消することができない。
たとえば、従来、歯科技工指示書を記入する歯科医師も多忙を極めていることが多く、指示の記載も短時間で済ませる必要もあって明確に記載されていないこともあり、さらに、指示内容も歯科医師の指示特性によるばらつきによって曖昧となることもあるので、管理とは別にそもそも歯科技工指示書の内容を理解するのも困難なケースが生じていた。
具体的には、歯科技工指示書では患者の治療歯に関する位置を歯列で示しつつ、コンタクトと呼ばれる治療歯と隣接歯の隙間寸法に関する指示、また、バイトと呼ばれる治療歯と対合歯の隙間寸法に関する指示、フィットと呼ばれる治療歯と補綴物の隙間寸法に関する指示は「きつく」や「ゆるく」等、特徴量を表す用語自体が歯科医師自身の指示特性に基づく主観的かつ定性的なものであり曖昧になってしまうため、歯科技工所で義歯の製作寸法を客観的かつ定量的に決定することが困難であると同時に、一旦製作した技工物を歯科医院に納入しても歯科医師の意図とは一致しない場合もあり、歯科技工所で修正したり、再度製作する必要があるなどの煩雑さや歩留まりに対する非効率があった。
【0005】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、歯科医師によって作成される歯科技工指示書に記載された、指示特性に基づく主観的で定性的かつ曖昧な指示内容から義歯における客観的で定量的かつ明確な製作寸法へ変換して義歯製作を可能とする義歯寸法評価システムと義歯寸法評価方法及び義歯寸法評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1の発明である義歯寸法評価システムは、歯科医師によって作成された歯科技工指示書に示される義歯に対する製作レベルを製作寸法に変換し、前記歯科医師の指示特性に応じて前記製作寸法への落とし込みとそれに基づく義歯製作を可能とするための義歯寸法評価システムであって、前記歯科医師による学習用義歯に対する前記製作レベルの歯列データと、前記製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、前記学習用義歯の前記特徴量に対応して予め付与された製作寸法と、の組合せを教師データとして学習させた義歯寸法評価モデルと、前記歯科技工指示書に示される前記義歯に対する前記製作レベルの前記特徴量を抽出する特徴量抽出部と、この特徴量抽出部で抽出された前記特徴量を前記義歯寸法評価モデルに適用することにより前記義歯に対する前記製作寸法を評価する評価部と、この評価部で評価された前記義歯に対する前記製作寸法を出力する出力部と、を有することを特徴とするものである。
上記構成の義歯寸法評価システムでは、特徴量抽出部が歯科技工指示書に歯科医師によって記入された義歯に対する製作レベルの歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量を抽出するように作用する。また、評価部は学習済の義歯寸法評価モデルに、抽出された義歯に対する特徴量を入力して義歯の製作寸法を評価するように作用し、出力部は評価された製作寸法を出力するように作用する。
なお、本願において「製作レベル」とは、歯科医師によって示される義歯あるいは学習用義歯の製作に関する指示内容を意味する。具体的には、コンタクトと呼ばれる治療歯と隣接歯の隙間寸法に関する指示、また、バイトと呼ばれる治療歯と対合歯の隙間寸法に関する指示、フィットと呼ばれる治療歯と補綴物の隙間寸法に関する指示のそれぞれの内容(データ)を意味する。また、治療歯、隣接歯及び対合歯の特定も歯列データで示す必要であることから、便宜上、「製作レベル」には歯列データも含まれる。
【0007】
また、第2の発明である義歯寸法評価システムは、第1の発明において、前記教師データを用いて前記義歯寸法評価モデルを生成する学習済モデル生成部を有することを特徴とするものである。
上記構成の義歯寸法評価システムでは、学習済モデル生成部が、学習用義歯に対する製作レベルの歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、学習用義歯の特徴量に対応して正解ラベルとして予め付与された製作寸法と、を教師データとして用いて学習済の義歯寸法評価モデルを生成するように作用する。
【0008】
第3の発明である義歯寸法評価方法は、歯科医師によって作成された歯科技工指示書に示される義歯に対する製作レベルを製作寸法に変換し、前記歯科医師の指示特性に応じて前記製作寸法への落とし込みとそれに基づく義歯製作を可能とするための義歯寸法評価方法であって、前記歯科技工指示書に示される前記義歯に対する前記製作レベルの歯列データと、前記製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量を抽出する特徴量抽出工程と、前記特徴量を義歯寸法評価モデルに適用することにより前記義歯に対する前記製作寸法を評価する義歯寸法評価工程と、 この義歯寸法評価工程で評価された前記義歯に対する前記製作寸法を出力する出力工程と、を有し、前記義歯寸法評価モデルは、前記歯科医師による学習用義歯に対する前記製作レベルの前記特徴量と、前記学習用義歯の前記特徴量に対応して予め付与された前記学習用義歯の製作寸法と、の組合せを教師データとして学習させた義歯寸法評価モデルであることを特徴とするものである。
上記構成の義歯寸法評価方法では、特徴量抽出工程が歯科技工指示書に歯科医師によって記入された義歯に対する製作レベルの歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量を抽出するように作用する。また、義歯寸法評価工程は、学習済の義歯寸法評価モデルに、抽出された義歯に対する特徴量を入力して義歯の製作寸法を評価するように作用し、出力工程は評価された製作寸法を出力するように作用する。
【0009】
第4の発明である義歯寸法評価方法は、第3の発明において、前記教師データを用いて学習させた前記義歯寸法評価モデルを生成する学習済モデル生成工程を有することを特徴とするものである。
上記構成の義歯寸法評価方法では、学習済モデル生成工程が、学習用義歯に対する製作レベルの歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、学習用義歯の特徴量に対応して正解ラベルとして予め付与された製作寸法と、を教師データとして用いて学習済の義歯寸法評価モデルを生成するように作用する。
【0010】
第5の発明である義歯寸法評価プログラムは、歯科医師によって作成された歯科技工指示書に示される義歯に対する製作レベルを製作寸法に変換し、前記歯科医師の指示特性に応じて前記製作寸法への落とし込みとそれに基づく義歯製作を可能とするためにコンピュータによって実行される義歯寸法評価プログラムであって、前記歯科医師による学習用義歯に対する前記製作レベルの歯列データと、前記製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、前記学習用義歯の前記特徴量に対応して予め付与された前記学習用義歯の製作寸法と、の組合せを教師データとして学習させた義歯寸法評価モデルを備え、前記歯科技工指示書に示される前記義歯に対する前記製作レベルの前記特徴量を抽出する特徴量抽出工程と、 前記特徴量を前記義歯寸法評価モデルに適用することにより前記義歯に対する前記製作寸法を評価する義歯寸法評価工程と、この義歯寸法評価工程で評価された前記義歯に対する前記製作寸法を出力する出力工程と、を有することを特徴とするものである。
上記構成の義歯寸法評価プログラムでは、特徴量抽出工程が歯科技工指示書に歯科医師によって記入された義歯に対する製作レベルの歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量を抽出するように作用する。また、義歯寸法評価工程は、学習済の義歯寸法評価モデルに、抽出された義歯に対する特徴量を入力して義歯の製作寸法を評価するように作用し、出力工程は評価された製作寸法を出力するように作用する。
【0011】
第6の発明である義歯寸法評価プログラムは、第5の発明において、前記教師データを用いて学習させた前記義歯寸法評価モデルを生成する学習済モデル生成工程を有することを特徴とするものである。
上記構成の義歯寸法評価プログラムでは、学習済モデル生成工程が、学習用義歯に対する製作レベルの歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、学習用義歯の特徴量に対応して正解ラベルとして予め付与された製作寸法と、を教師データとして用いて学習済の義歯寸法評価モデルを生成するように作用する。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明である義歯寸法評価システムは、特徴量抽出部が歯科技工指示書に歯科医師によって記入された義歯に対する製作レベルの歯列データと、歯科医師自身が表現する主観的なコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量を抽出して、評価部では学習済の義歯寸法評価モデルに抽出された義歯に関する特徴量を入力して、歯科医師の指示特性に応じて客観的な義歯の製作寸法を評価することができる。したがって、歯科医師毎に、指示特性に基づく主観的で曖昧な義歯に対する特徴量を歯科技工所で製作が可能な客観的で明確な製作寸法に変換することが可能であり、義歯製作に対する品質の向上及び歩留まりを高めることが可能である。さらに、義歯に対する修正や再製作の依頼も減ることから、歯科技工所の歩留まりや労働環境の改善を推進することも可能である。
【0013】
第2の発明である義歯寸法評価システムは、学習済の義歯寸法評価モデルを生成でき、また、一旦生成した義歯寸法評価モデルに対して、評価に供した歯科技工指示書の特徴量と実際の製作寸法を教師データとしてさらに学習させることが可能であり、より精度の高い義歯寸法評価モデルを構築することが可能である。より精度の高い義歯寸法評価モデルを構築することで、第1の発明において述べた効果をより高めることが可能である。
【0014】
第3の発明である義歯寸法評価方法は、第1の発明である義歯寸法評価システムを方法発明として捉えた発明であるので、その方法発明の実施による効果は第1の発明の効果と同様である。
【0015】
第4の発明である義歯寸法評価方法は、第2の発明である義歯寸法評価システムを方法発明として捉えた発明であるので、その方法発明の実施による効果は第2の発明の効果と同様である。
【0016】
第5の発明である義歯寸法評価プログラムは、第3の発明である義歯寸法評価方法をコンピュータを用いて実行するプログラム発明として捉えた発明であるので、そのプログラム発明の実施による効果は第1,3の発明の効果と同様である。
【0017】
第6の発明である義歯寸法評価プログラムは、第4の発明である義歯寸法評価方法をコンピュータを用いて実行するプログラム発明として捉えた発明であるので、そのプログラム発明の実施による効果は第2,4の発明の効果と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る義歯寸法評価システムのブロック図である。
【
図2】(a)は人間の歯列を示す概念図、(b)は特徴量の1つであるコンタクトを示す概念図、(c)は特徴量の1つであるバイトを示す概念図、(d)は特徴量の1つのであるフィットを示す概念図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る義歯寸法評価システムを用いて学習によって義歯寸法評価モデルを生成するための流れと学習済の義歯寸法評価モデルを用いた義歯寸法評価の流れを示すフロー図である。
【
図4】歯科医師によって作成される歯科技工指示書の概念図である。
【
図5A】本実施の形態に係る義歯寸法評価モデルのパターン1の場合の構成を示す概念図である。
【
図5B】本実施の形態に係る義歯寸法評価モデルのパターン1の場合の入力層の歯列を国際基準に基づく数字で表現した場合の概念図である。
【
図6】本実施の形態に係る義歯寸法評価モデルのパターン2の場合の構成を示す概念図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る義歯寸法評価システムの評価部で運用される義歯寸法評価モデルを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る義歯寸法評価システムのブロック図である。
図1において、義歯寸法評価システム1は、入力部3、特徴量抽出部4a、学習済モデル生成部4b、評価部5及び出力部6から構成される処理部2、この処理部2に接続される教師データデータベース7、入力データデータベース13、出力データデータベース19及び学習済モデルデータベース24から構成されている。
この義歯寸法評価システム1は、コンピュータサーバ内でそれぞれの機能を発揮し得る演算回路や記憶装置を備えたシステムを想定することができる。
入力部3はデータ入力部あるいはデータ受信部として機能し、学習用歯科技工指示書や歯科技工指示書等に関するデータの受信装置や、義歯寸法評価システム1の管理者や使用者がデータ入力する際に利用するキーボード、マウス、ペンタブレット、光学式の読取り装置等が相当する。
また、出力部6としてはディスプレイ装置や情報通信ネットワークへの送信装置やデータ送信部として他の装置へデータを転送するトランスミッタのようなものが考えられる。すなわち、
図1の構成要素が一体でなくとも入力部3と出力部6を分離して別体に設けて、有線又は無線でデータや情報を処理部2やデータベース7,13,19,24、あるいは必要に応じて備えられる携帯端末(図示せず)や閲覧端末(図示せず)との間で送受信するシステム構成とすることも可能である。
【0020】
処理部2の特徴量抽出部4aは、学習済モデルとしての義歯寸法評価モデル25a,25bを生成する工程では、入力部3から入力された学習用の歯科技工指示書に記載された製作レベルの内容から、歯列データと、これにコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量を抽出する装置として機能する。
【0021】
ここで、
図2(a)~(d)を参照しながら、歯列データ、コンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータについて説明する。
図2(a)は人間の歯列を示す概念図、(b)は特徴量の1つであるコンタクトを示す概念図、(c)は特徴量の1つであるバイトを示す概念図、(d)は特徴量の1つのであるフィットを示す概念図である。
歯列とは、
図2(a)に示すように人間の歯の並びの位置を示すものである。人間は、上側歯列26と下側歯列27のそれぞれの左右毎に歯を8本備えている。そこで、歯科医師は、これらに上下左右毎の数字「1」~「8」を当てて歯の場所を特定しながら、歯科技工指示書に治療歯30(
図2(b)~(d))や隣在歯31(
図2(b))、対合歯33(
図2(c))を指示している。したがって、歯列データとは、歯科医師によって示された歯の場所を特定するための番号や、歯のアイコン位置で示されるデータを意味する。
次に、コンタクトデータとは、
図2(b)に示すように治療歯30と隣在歯31の隙間寸法(コンタクト32)に関する指示内容を意味し、バイトデータとは、
図2(c)に示すように治療歯30と対合歯33の隙間寸法(バイト34)に関する指示内容を意味し、フィットデータとは、
図2(d)に示すように治療歯30と被せ物(補綴物)35の隙間寸法(フィット36)に関する指示内容を意味している。なお、削った歯である治療歯30のみならず、入れ歯の場合は
図2(d)の治療歯30に代えて粘膜、被せ物35に代えて入れ歯とし、フィット36として装着感を表現する。
【0022】
図1に戻って、義歯寸法評価モデル25a,25bの運用工程では、入力部3から治療で用いる義歯の製作のために入力された歯科技工指示書に記載された製作レベルの内容から、歯列データと、これにコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量を抽出する装置として機能するものである。
学習済モデル生成部4bは、学習用の歯科技工指示書から抽出された学習用義歯に対する製作レベルの歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データのうち少なくとも1つと、を加えて成る特徴量と、学習用義歯の特徴量に対応して正解ラベルとして予め付与された製作寸法とを教師データとして用いて学習済の義歯寸法評価モデルを生成する装置である。以下、教師データにおける学習用義歯の特徴量のコンタクトデータ、バイトデータ、フィットデータと、それらのそれぞれに対応して正解ラベルとして予め付与される製作寸法の一対のデータをそれぞれコンタクト教師データ、バイト教師データ、フィット教師データという。
評価部5は、特徴量抽出部4aで抽出された義歯製作のための歯科技工指示書から抽出された特徴量を義歯寸法評価モデルに適用することによって義歯の製作寸法を評価する装置である。
【0023】
教師データデータベース7は、学習用の歯科技工指示書から抽出された学習用義歯に対する製作レベルの歯列データ9a~9cと、製作レベルのコンタクトデータとそれに対応して正解ラベルとして予め付与される製作寸法のコンタクトデータから成るコンタクト教師データ10a~10c、製作レベルのバイトデータとそれに対応して正解ラベルとして予め付与される製作寸法のバイトデータから成るバイト教師データ11a~11c、製作レベルのフィットデータとそれに対応して正解ラベルとして予め付与される製作寸法のフィットデータから成るフィット教師データ12a~12cを読み出し可能に格納するデータベースである。
なお、符号「a」から符号「c」が付されているのは、本実施の形態に係る義歯寸法評価システム1を運用する際の歯科医師が「a」から「c」の3名存在することを想定して、その歯科医師毎に教師データセット8a~8cとして格納するためである。前述のとおり、歯科医師の個性によるばらつきを低減する目的の義歯寸法評価システムであるので、歯科医師毎にデータセットを教師データデータベース7に格納することが望ましい。したがって、3人以外の歯科医師が存在している場合にも歯科医師毎にデータセットとして格納しつつ運用されることが望ましい。
【0024】
次に、入力データデータベース13は、義歯寸法評価システム1を利活用する際の歯科技工指示書から抽出された義歯に対する製作レベルの歯列データ15a~15cと、製作レベルのコンタクトデータ16a~16c、製作レベルのバイトデータ17a~17c、製作レベルのフィットデータ18a~18cを読み出し可能に格納するデータベースである。この入力データデータベース13においても、歯科医師を3名と想定して、3つの入力データセット14a~14cとして格納されている。
【0025】
最後に、出力データデータベース19は、評価部5が学習済モデル生成部4bで生成された義歯寸法評価モデル25a,25bを読み出して、これに入力データデータベース13に格納された入力データセット14a~14cを入力して、歯科技工指示書をベースに作成されるべき義歯の製作寸法を評価した結果のデータを読み出し可能に格納するデータベースである。具体的には、教師データデータベース7や入力データデータベース13と同様に、3名の歯科医師を想定して、コンタクト評価データ21a~21c、バイト評価データ22a~22c、フィット評価データ23a~23cに加えて、入力時と同じ歯列データ15a~15cを併せて出力データセット20a~20cとして読み出し可能に格納する。
【0026】
次に、
図1に加えて
図3~
図5A,5Bを参照しながら、義歯寸法評価システム1における義歯寸法評価モデル25a,25bの生成や学習済の義歯寸法評価モデル25a,25bを用いた義歯寸法評価の流れを説明する。
図3は本発明の実施の形態に係る義歯寸法評価システムによって実行される学習による義歯寸法評価モデルの生成にかかる流れと学習済の義歯寸法評価モデルを用いた義歯寸法評価の流れを示すフロー図である。この
図3は、本願発明の義歯寸法評価方法や義歯寸法評価プログラムに対してはその実行工程を表すものでもあり、この図を参照しながら義歯寸法評価システム1における義歯寸法評価モデルの生成や学習済の義歯寸法評価モデルを用いた義歯寸法評価の流れを説明することは義歯寸法評価方法及びコンピュータを用いた義歯寸法評価プログラムの実施の形態について説明することと同義である。
なお、
図3において、「S」で示す工程に関する記載から引き出し線を用いて示した符号や工程に関する記載を覆うようにした破線に接続される構成要素は
図1に示される義歯寸法評価システム1の構成要素であり、その符号を同一としている。
【0027】
図3において、上側の学習済モデルの生成工程のステップS1は学習用義歯に対する歯科技工指示書に示された特徴量に関する情報、すなわち、歯列データ、製作レベルのコンタクトデータ、製作レベルのバイトデータ及び製作レベルのフィットデータを入力部3から入力する工程である。このステップS1での特徴量に関する情報とは、上記のデータそのものあるいは、それらのデータを含む歯科技工指示書を含む概念である。
また、入力部3への特徴量に関する情報の入力は、データそのものの入力の場合は、この後
図4を参照しながら説明する歯科技工指示書に記載されている歯列データを表す文字と数字及びコンタクトデータ、バイトデータ、フィットデータの製作レベルを表す1~7等の数字(指標)に基づき入力されるとよい。一方、入力部3がスキャナー装置のような場合には、歯科技工指示書そのものをスキャニングすることで特徴量以外の情報も含めて入力されてもよい。
【0028】
ここで、
図4を参照しながら歯科技工指示書について説明を加える。
図4は歯科医師によって作成される歯科技工指示書の概念図である。
図4において、歯科技工指示書40には氏名・医院名表示欄41及びその歯科医院の所在地表示欄42が設けられており、歯科技工指示書40を作成した医師に関する情報が示される。上側歯列26と下側歯列27に関するアイコンが歯の位置を表す数字と共に示され、例えば、「左下」(図内では右下)の「5」番で示すハッチングされた歯が治療歯30であるとすると、歯科医師によって、歯列が「左下」の「5」番目の歯であることが歯科医師チェック48で示される。本実施の形態においては、歯科医師のよる記入として歯科医師チェック48が歯列の「左下」と歯番号43を示す数字の「5」に示されているが、その下方の歯形のアイコンそのものや歯形に付記されている歯番号43に歯科医師チェック48で特定してもよい。なお、本実施の形態では歯科医師チェック48が片仮名の「レ」のような図形で表現されているが、実際の歯科医師チェック48の形状は「レ」のような図形に限定されるものではなく、歯が特定されるのであればどのような図形、数字、文字あるいは記号でもよい。
歯列を示すエリアの左側に示されるのが、コンタクト記入欄45、バイト記入欄46及びフィット記入欄47である。これらは程度を示す「ゆるめ」、「ふつう」、「きつめ」の程度を表す文字及びその程度に対応するように数字の「1」から「7」と「目盛り」が指標44として表記されており、歯科医師はその「目盛り」上に歯科医師チェック48を記すことで、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータあるいはフィットデータを表現する。その指標44を表記する際に歯科医師の主観による指示特性が現れることになる。
なお、この歯科技工指示書40については、学習用義歯に対するものであっても治療用義歯に対するものであっても共通である。また、歯科技工指示書40は
図4に示されるものに限定されず、歯科医師名の表示と、歯列に関する指示と、製作のコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータに関する指示のうち少なくとも1つが表示されるものであればよい。例えば、指標44を示しながら、歯科医師による記入としては歯科医師チェック48に代えて数字そのもので示されるようにしてもよい。
【0029】
図3に戻って、ステップS2は、特徴量抽出部4aが、ステップS1で入力部3を介して入力された製作レベルに関する情報から製作レベルの特徴量を抽出する工程である。製作レベルの特徴量の抽出は、ステップS1における情報が製作レベルのデータそのものであれば(以下、この場合をパターン1という。)、その情報から必要とする製作レベルの歯列データ、コンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの組合せとしての特徴量を抽出する。
また、ステップS1において入力される情報が歯科技工指示書40全体あるいはその一部であれば(以下、この場合をパターン2という。)、その中から必要とする製作レベルの歯列データ、コンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの組合せとしての特徴量を読み取って抽出する。この場合の製作レベルの特徴量の抽出は、特徴量抽出部4aがOCR(光学文字認識)機能及び画像認識機能を備えた装置等とすることで、歯科技工指示書40に記載されている文字、数字、図形あるいは記号を読み取ることが可能である。
抽出された学習用義歯の製作レベルの特徴量は、特徴量抽出部4aによって、教師データデータベース7に歯列データ9a~9c、コンタクト教師データ10a~10c、バイト教師データ11a~11c及びフィット教師データ12a~12cとして読み出し可能に格納される。
【0030】
ステップS3は、正解ラベルとしての学習用義歯の製作寸法が入力部3を介して入力され、入力部3は教師データデータベース7にコンタクト教師データ10a~10c、バイト教師データ11a~11c及びフィット教師データ12a~12cとして読み出し可能に格納する。なお、前述のとおり、それぞれの教師データは、学習用義歯の製作レベルの特徴量と正解ラベルとしての製作寸法との一対のデータを意味しているので、一対のデータとして格納される。
ステップS4は、学習済モデル生成部4bが教師データデータベース7からコンタクト教師データ10a~10c、バイト教師データ11a~11c及びフィット教師データ12a~12cを読み出して機械学習を行う工程である。
【0031】
ここで
図5A,5Bを参照しながら、ステップS4における学習済モデル生成部4bによる機械学習工程について説明を加える。
図5Aは本実施の形態に係る義歯寸法評価モデルのパターン1の場合の構成を示す概念図であり、
図5Bは義歯寸法評価モデルのパターン1の場合の入力層の歯列を国際基準に基づく数字で表現した場合の概念図である。
図5Aにおいて、義歯寸法評価モデル25aの入力層50aには、学習用義歯に関する歯科技工指示書40から抽出された歯列データ9aに加えて、コンタクト教師データ10a、バイト教師データ11a及びフィット教師データ12aのうち、歯科技工指示書40に歯科医師によって記載された製作レベルのコンタクトデータ53a、バイトデータ54a及びフィットデータ55aが入力されている。
パターン1では、データとして抽出されており、それぞれコンタクトデータ53aが2.3、バイトデータ54aが4.5、そしてフィットデータ55aが4.8である。この数字は歯科技工指示書40に歯科医師によって直接記載されるか、表示されている目盛り等に付された歯科医師チェック48から何らかの方法で予め抽出して数値で表現したものであり単位はない。
【0032】
一方、出力層52aでは、歯列データ9aが入力層50aから中間層51aを経てもそのまま歯列データ9aとして出力されるが、入力層50aに入力された学習用義歯に対する製作レベルのコンタクトデータ53aの2.3、バイトデータ54aの4.5及びフィットデータ55aの4.8に対して、それぞれ学習用義歯の製作寸法として、正解ラベルのコンタクト製作寸法53bの0.23mm、バイト製作寸法54bの0.05mm及びフィット製作寸法55bの0.012mmが出力されている。これらの正解ラベルの製作寸法は、歯科医師の指示特性に応じて得られた製作レベルのコンタクトデータ53a等に対応して得られた客観的で定量的な製作寸法である。そして、これらは一対のコンタクト教師データ10a、バイト教師データ11a及びフィット教師データ12aを構成している。
なお、歯列データ9aについて、
図5Aでは歯番号43及び歯列の位置に対して歯科医師チェック48が付された状態のデータとして記載されているが、これらは予め「右上」を1、「左上」を2、「左下」を3、「右下」を4として、国際基準に基づく数字を付して、前歯から1~8となる歯番号43と共に、例えば
図5Aの歯列で歯科医師チェック48が示されている右下の前歯から4番目の歯であれば、
図5Bに示すとおり「44」等として表現するようにしておくと、入力部3における入力や特徴量抽出部4aにおける抽出も数値データそのものとして取り扱うことが可能である。
その際には、
図4に示す歯科技工指示書40の歯列の表示欄にも国際基準に基づく数字を歯番号43と共に記載するように指示しておくとよい。その際には「右上(1)」等のように歯番号43と共に併記しておいてもよく、さらに、歯科医師チェック48を入れてもらうようにしておいてもよい。また、入力層50aの歯列データ9aで「44」と入力されると、
図5Aの出力層52aにおいても同じく「44」として歯列データ9aが出力される。
このように、歯列データ9aは入力層50aからそのまま出力され、中間層51aの義歯寸法評価モデル関数56aには入力されないため、歯列における治療歯30の位置が特定され入力部3や特徴量抽出部4aにおける不具合がないのであればデータの様式にはとらわれなくともよい。
【0033】
中間層51aには、入力層50aで入力された学習用義歯の製作レベルのコンタクトデータ53a等から出力層52aで出力される正解ラベルとしての学習用義歯のコンタクト製作寸法53b等が導出されるように、機械学習させる義歯寸法評価モデル関数56aが配置されている。パターン1のように、入力層50aにおいて製作レベルのコンタクトデータ53a等が数値で表現されている場合には、このモデル関数としては、最小二乗法等を用いて回帰分析を行い、その結果として得られる関数が望ましいが、義歯寸法評価モデル関数56aの種類は特に限定するものではなく、入力値としてのコンタクトデータ53a等と出力値としてのコンタクト製作寸法53b等の因果関係や相関関係が明確化されるのであれば、一次関数の他、どのような関数であってもよい。
したがって、パターン1の場合には、ステップS4における学習済モデル生成部4bによる機械学習工程は、回帰分析を行いつつ、入力値としての製作レベルのコンタクトデータ53a等と出力値としての正解ラベルのコンタクト製作寸法53b等の因果関係や相関関係が得られる関数を求める工程となる。
このようにして、学習済モデル生成部4bは、学習用義歯の製作レベルのコンタクトデータ53a等の入力を受けてコンタクト製作寸法等を出力するための回帰分析等による学習済の義歯寸法評価モデル関数56aを生成し、これを中間層51aとし、前後の入力層50aと出力層52aを含めて学習済の義歯寸法評価モデル25aとして、学習済モデルデータベース24に読み出し可能に格納する。
【0034】
次に、
図6を参照しながら、ステップS4における学習済モデル生成部4bによる機械学習工程についてパターン2の場合の説明を加える。
図6は本実施の形態に係る義歯寸法評価モデルのパターン2の場合の構成を示す概念図である。
図6の義歯寸法評価モデル25bにおいて、パターン2の場合にパターン1と異なるのは、入力部3で入力されるものも特徴量抽出部4aで抽出されるものも数値データではなく、学習用の歯科技工指示書40そのもので、入力層50bに示されるような歯科技工指示書40内の指標44と歯科医師チェック48の画像であり、これが学習用義歯の製作レベルのコンタクトデータ画像57a、バイトデータ画像58a及びフィットデータ画像59aとして入力されるものである。
パターン2の場合では、
図6の入力層50bに示されるとおり、歯列データ9aとして歯列の位置や歯番号43に対して歯科医師チェック48を付した状態であっても、入力部3や特徴量抽出部4aでスキャニング、文字や図形の認識機能が備わったものを使用することから問題ない。また、パターン1と同様に中間層51bの義歯寸法評価モデル関数56bに入力する必要はない。
出力層52bでは、パターン1と同様に歯列データ9aはそのまま出力され、正解ラベルとしてのコンタクト製作寸法53b等もパターン1と同様である。
このようなパターン2の場合の機械学習手法としては、
図6の入力層50bに示されるような歯科技工指示書40内の指標44と歯科医師チェック48のコンタクトデータ画像57a、バイトデータ画像58a及びフィットデータ画像59aをそれぞれ入力して義歯のコンタクト製作寸法53b、バイト製作寸法54b及びフィット製作寸法55bを出力するニューラルネットワークを用いた義歯寸法評価モデル関数56bとすることが考えられる。
【0035】
この場合の機械学習工程では、歯科技工指示書40内の指標44と歯科医師チェック48のコンタクトデータ画像57a等を入力して出力された義歯のコンタクト製作寸法等を正解ラベルのコンタクト製作寸法53b等と比較して、出力された義歯のコンタクト製作寸法等が正解ラベルのコンタクト製作寸法53b等に近づくように中間層51bのニューラルネットワークを用いた義歯寸法評価モデル関数56bのパラメータを最適化する。このパラメータとしては、例えばニューロン間の重み(結合係数)や活性化関数に用いられる係数等がある。これらのパラメータの最適化方法については、例えば、誤差逆伝播法等を用いて実行する。
このようにして、学習済モデル生成部4bは、歯科技工指示書40内の指標44と歯科医師チェック48のコンタクトデータ画像57a等の入力を受けてコンタクト製作寸法等を出力するニューラルネットワークを用いる学習済の義歯寸法評価モデル関数56bを生成し、これを中間層51bとし、前後の入力層50bと出力層52bを含めて学習済の義歯寸法評価モデル25bとして、学習済モデルデータベース24に読み出し可能に格納する。
なお、ニューラルネットワークとしては、本実施の形態では、画像処理に適しているとされるコンボリューショナル(畳み込み)ニューラルネットワーク(CNN)を用いるが、その他、入力と出力の正しい相関関係を維持できるのであればサポートベクターマシン(SVM)等、他の学習アルゴリズムで構築されるものを用いてもよい。
【0036】
また、
図5A,5B及び
図6では、入力されるものとして歯科医師「a」による製作レベルのデータを用い、さらに、特徴量としては、歯列データと、製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータの3データすべてを用いたが、製作レベルに関するデータは、3つのデータのうち少なくとも1つを含めてもよい。ステップS4の学習済モデル生成部4bでは、特徴量における製作レベルのコンタクトデータ、バイトデータ及びフィットデータは、歯列データに対してそれぞれ独立に学習されるためである。さらに、対象とする歯科医師も「a」のみならず、「b」や「c」あるいは他にも増やしてもよいが、歯科医師の個性を反映させるため、学習済モデル生成部4bでは、個々の歯科医師に対して独立に学習される必要がある。
【0037】
図3に戻って、ステップS5は、学習済モデル生成部4bがステップS4で実行した機械学習によって学習済の義歯寸法評価モデル25a,25bを得る工程である。得られた義歯寸法評価モデル25a,25bは学習済モデル生成部4bが読み出し可能に学習済モデルデータベース24に格納する。
このステップS5までで、学習済の義歯寸法評価モデル25a,25bが得られ、学習済モデルの生成工程が終了する。
【0038】
次に、
図3に
図7を加えて参照しながら学習済モデルの運用工程について説明する。
図7は本発明の実施の形態に係る義歯寸法評価システムの評価部で運用される義歯寸法評価モデルを示す概念図である。この
図7では、義歯寸法評価モデル25a,25bの入力層50cに示される歯列データ15a~15c、コンタクトデータ16a~16c、バイトデータ17a~17c及びフィットデータ18a~18cとして、パターン1の場合とパターン2の場合の両方を記載している。
入力層50cにおいて、パターン1では、右下の歯番号43が「4」の歯であるという歯列データ15a~15c、「3.2」というコンタクトデータ16a~16c、「3.7」というバイトデータ17a~17c及び「4.6」というフィットデータ18a~18cが抽出された数値として入力されているが、パターン2では歯科技工指示書40からデータに関して抽出され、指標44を備えて歯科医師の指示特性が反映された歯科医師チェック48が示された画像が入力されている。なお、義歯寸法評価モデル25aはパターン1用であり、義歯寸法評価モデル25bはパターン2用である。
なお、歯列データ15a~15cについて、
図7では歯番号43及び歯列の位置に対して歯科医師チェック48が付された状態のデータとして記載されているが、
図5A,5Bを参照しながら説明した歯列データ9aと同様に、数値データとして表現しておいてもよい。そうすることで、入力部3における入力や特徴量抽出部4aにおける抽出も数値データそのものとして取り扱うことが可能である。但し、歯列データ15a~15cは入力層50cからそのまま出力され、中間層51cの義歯寸法評価モデル関数56a,56bには入力されないため、歯列における治療歯30の位置が特定され入力部3や特徴量抽出部4aにおける不具合がないのであればデータの様式にはとらわれなくともよい。
図3において、ステップS6は、義歯に対する歯科技工指示書40の入力工程である。歯科技工指示書40から、パターン1のように製作レベルのデータについて数値データとして何らかの方法で抜き出して入力してもよいし、パターン2のように歯科技工指示書40の記載そのものを入力してもよい。入力は入力部3に対して行われる。
【0039】
ステップS7は、特徴量抽出部4aがステップS6で入力部3を介して入力された製作レベルに関する情報から製作レベルの特徴量を抽出する工程である。製作レベルの特徴量の抽出は、ステップS6における情報がパターン1であれば、その情報から必要とする義歯の製作レベルの歯列データ15a~15c、コンタクトデータ16a~16c、バイトデータ17a~17c及びフィットデータ18a~18cの3データのうち少なくとも1つとの組合せとしての特徴量を抽出する。なお、ステップS6で予め製作寸法が必要な数値データのみが入力された場合には、ステップS7ではその入力された数値データをそのまま抽出する。
一方、ステップS6において入力される情報がパターン2であれば、歯科技工指示書40の中から必要とする義歯の製作レベルの歯列データ15a~15cと、コンタクトデータ画像57bをコンタクトデータ16a~16cとして、バイトデータ画像58bをバイトデータ17a~17cとして、フィットデータ画像59bをフィットデータ18a~18cとして、これらの3データのうち少なくとも1つと歯列データ15a~15cとの組合せとしての特徴量に関する画像を読み取って抽出する。
特徴量抽出部4aは抽出した特徴量を、パターン1及びパターン2のいずれの場合も入力データデータベース13に歯列データ15a~15c,コンタクトデータ16a~16c,バイトデータ17a~17c及びフィットデータ18a~18cの入力データセット14a~14cとして読み出し可能に格納する。
【0040】
ステップS8は、ステップS7で抽出された特徴量を義歯寸法評価モデル25a,25bに入力する工程である。この工程では、評価部5が、特徴量抽出部4aによって抽出された特徴量のパターンによって、学習済モデルデータベース24から義歯寸法評価モデル25a,25bのいずれかを読み出す。さらに、評価部5は、義歯寸法評価モデル25a,25bの入力層50cに対し、パターン1であれば
図7にパターン1として示されるようなデータセットを入力データデータベース13から読み出して入力し、パターン2であれば同じくパターン2として示されるようなデータセットを入力データデータベース13から読み出して入力する。
なお、
図7では入力層50cにおいてパターン1とパターン2の場合の両方のデータセットを示しており、また、コンタクトデータ16a~16c、バイトデータ17a~17c及びフィットデータ18a~18cのすべてを備えたデータセットを示しているが、抽出される特徴量としては製作寸法として必要な歯列データ15a~15cに対してコンタクトデータ16a~16c等の製作レベルに関する3データのうち、少なくとも1つとの組合せでよく、また、符号「a」~「c」の3名の歯科医師のデータを同時に入力しているように見えるが、1名ずつのデータを入力してもよいし、複数名同時に入力するようにしてもよい。
【0041】
ステップS9は、義歯寸法、すなわち義歯の製作寸法を評価する工程である。この工程では、評価部5が、入力層50cに入力された特徴量に応じて、中間層51cの義歯寸法評価モデル関数56a,56bを用いて義歯の製作寸法を評価する工程である。すなわち、歯科医師の主観的で定性的な指示特性を反映した特徴量に応じて、客観的で定量的な義歯の製作寸法が評価される工程である。
なお、ステップS8において、複数の歯科医師のデータを同時に入力しても良い旨の説明を行ったが、義歯寸法評価モデル関数56a,56bは歯科医師それぞれに対して教師データを用いて学習させているので、個々の歯科医師毎に個別の関数を用いる必要がある。
ステップS10は、義歯の製作寸法の出力工程である。この工程では、評価部5が、中間層51cの義歯寸法評価モデル関数56a,56bで評価した義歯に関する製作寸法として、歯列データ15a~15c、コンタクト評価データ21a~21c,バイト評価データ22a~22c及びフィット評価データ23a~23cのセットを出力層52cに出力し、さらに、評価部5がこれらのデータを出力データセット20a~20cとして読み出し可能に出力データデータベース19へ格納する工程である。
歯科技工所では、処理部2の出力部6を介して出力データデータベース19から必要な出力データセット20a~20cを読み出して、客観的で具体的かつ定量的に得られた義歯の製作寸法を基に義歯の製作を行うことができる。
【0042】
したがって、本実施の形態に係る義歯寸法評価システム1では、歯科医師毎に、歯科技工指示書に指示特性を反映して主観的かつ定性的で曖昧となる義歯に対する特徴量に応じて、歯科技工所で製作が可能な客観的かつ定量的で明確な製作寸法に変換することが可能であり、義歯製作に対する品質の向上及び歩留まりを高めることが可能である。さらに、歯科医師からの義歯に対する修正や再製作の依頼も減ることから、歯科技工所の作業効率の向上にも資することが可能であり、ひいては労働環境の改善を推進することも可能である。
さらに、義歯寸法評価システム1では学習済モデル生成部4b及び教師データデータベース7を備えることで、義歯寸法評価モデル25a,25bの生成に際して、経時的に教師データセット8a~8cを更新していくことが可能である。したがって、歯列データ9a~9c,コンタクト教師データ10a~10c,バイト教師データ11a~11c及びフィット教師データ12a~12cの蓄積に応じて学習済モデル生成部4bを用いて義歯寸法評価モデル25a,25bを更新してより精度の高い学習済モデルを構築することが可能であり、上述の効果をより高めることが可能である。
なお、義歯寸法評価システム1を方法発明として捉えた義歯寸法評価方法、プログラム発明として捉えた義歯寸法評価プログラムにおいても義歯寸法評価システム1が発揮し得る効果と同様の効果を発揮することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明は、歯科医師と歯科技工所の間でやり取りされる歯科技工指示書に基づいて、義歯製作所で義歯を製作する際に必要な義歯寸法を評価することができる義歯寸法評価システム、その方法及びそのプログラムに利用が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…義歯寸法評価システム 2…処理部 3…入力部 4a…特徴量抽出部 4b…学習済モデル生成部 5…評価部 6…出力部 7…教師データデータベース 8a~8c…教師データセット 9a~9c…歯列データ 10a~10c…コンタクト教師データ 11a~11c…バイト教師データ 12a~12c…フィット教師データ 13…入力データデータベース 14a~14c…入力データセット 15a~15c…歯列データ 16a~16c…コンタクトデータ 17a~17c…バイトデータ 18a~18c…フィットデータ 19…出力データデータベース 20a~20c…出力データセット 21a~21c…コンタクト評価データ 22a~22c…バイト評価データ 23a~23c…フィット評価データ 24…学習済モデルデータベース 25a,25b…義歯寸法評価モデル 26…上側歯列 27…下側歯列 30…治療歯 31…隣在歯 32…コンタクト 33…対合歯 34…バイト 35…被せ物 36…フィット 40…歯科技工指示書 41…氏名・医院名表示欄 42…所在地表示欄 43…歯番号 44…指標 45…コンタクト記入欄 46…バイト記入欄 47…フィット記入欄 48…歯科医師チェック 50a~50c…入力層 51a~51c…中間層 52a~52c…出力層 53a…コンタクトデータ 53b…コンタクト製作寸法 54a…バイトデータ 54b…バイト製作寸法 55a…フィットデータ 55b…フィット製作寸法 56a,56b…義歯寸法評価モデル関数 57a,57b…コンタクトデータ画像 58a,58b…バイトデータ画像 59a,59b…フィットデータ画像
【要約】
【課題】歯科医師によって作成される歯科技工指示書に記載された定性的かつ曖昧な指示内容から義歯における客観的かつ定量的な製作寸法へ変換して義歯製作を可能とする義歯寸法評価システムと義歯寸法評価方法及び義歯寸法評価プログラムを提供する。
【解決手段】義歯寸法評価システム1は、歯科医師による歯科技工指示書に示された義歯の製作レベルから義歯の製作寸法への落とし込みを行うために、教師データセット8a~8cを用いて学習させた義歯寸法評価モデル25a,25bを備え、特徴量抽出部4aで抽出された歯列データ15a~15c,コンタクトデータ16a~16c,バイトデータ17a~17c及びフィットデータ18a~18cをその評価モデルに入力し、評価された義歯寸法を出力データセット20a~20cとして出力する評価部5を有する。
【選択図】
図1