(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】刺しゅう装置
(51)【国際特許分類】
D05B 39/00 20060101AFI20240408BHJP
D05C 9/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
D05B39/00
D05C9/00
(21)【出願番号】P 2020101641
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100186358
【氏名又は名称】齋藤 信人
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐野 整博
(72)【発明者】
【氏名】白土 宏樹
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-135663(JP,A)
【文献】特開2001-104672(JP,A)
【文献】特開2002-052281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
D05C 1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンのベッド部に着脱する装置本体部と、
刺しゅう枠が装着される刺しゅう枠保持部を第1方向に移動する第1移動機構と、
前記第1移動機構を前記装置本体部の上面に沿って、前記第1方向と直交する第2方向に移動する第2移動機構と、
前記第1移動機構を前記第2移動機構によって前記装置本体部の側面から支持し、前記第1移動機構を昇降する昇降機構と、
を備え、
刺しゅう縫いから通常縫いへ切替える際に、前記昇降機構により前記第1移動機構を装置本体部の上面から装置本体部外方へ自動的に退避させることを特徴とする刺しゅう装置。
【請求項2】
前記昇降機構は、前記第2移動機構に揺動自在に支持され、互いに拡縮することにより前記第1移動機構を水平に昇降する一対のヒンジ腕を備えることを特徴とする請求項1に記載の刺しゅう装置。
【請求項3】
前記第1移動機構は、第1方向を軸方向として回動する昇降駆動軸と、前記昇降駆動軸の回動により前記第1方向に移動する第1支持台部と、を有し、
前記ヒンジ腕は、前記第2移動機構に支点軸で支持された第1端部と、前記第1支持台部に回動自在に連結された第2端部と、を有することを特徴とする請求項2に記載の刺しゅう装置。
【請求項4】
前記昇降機構は、前記第2移動機構に回動自在に支持され、正転または逆転することにより前記第1移動機構を昇降する昇降軸を備えることを特徴とする請求項1に記載の刺しゅう装置。
【請求項5】
前記昇降機構は、前記第2移動機構に設けられ、前記昇降軸を回動する駆動部と、前記第1移動機構を前記昇降軸によって昇降自在に支持する第2支持台部と、を有することを特徴とする請求項4に記載の刺しゅう装置。
【請求項6】
退避指令を受けると、前記第1移動機構は、前記刺しゅう枠保持部を前記第1移動機構の端部まで移動することにより第1退避準備完了通知を発するとともに、前記第2移動機構は、前記第1移動機構を前記第2方向の装置本体部外方まで移動することにより第2退避準備完了通知を発し、
前記第1退避準備完了通知および第2退避準備完了通知を受けると、前記昇降機構は、前記第1移動機構の上面が前記装置本体部の上面と面一になるように下降することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の刺しゅう装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺しゅう縫いと通常縫いとを切替え可能なミシンに装着する刺しゅう装置に関し、とくに通常縫いの際に、刺しゅう枠を装着するキャリッジ部(Y方向移動機構)が退避できる刺しゅう装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常縫い以外に、種々の刺しゅう模様を縫うために、刺しゅう枠を着脱可能に装着できる刺しゅう装置付きミシンが従来から知られている。
この種の刺しゅう縫いと通常縫いとを切替え可能なミシンに装着する刺しゅう装置は、通常縫いの際に、ミシンから刺しゅう装置を取外すか、または、刺しゅう装置から刺しゅう枠を装着するキャリッジ部を取外す必要がある。
【0003】
このため、通常縫いと刺しゅう縫いとを切替え可能なミシンにおいて、刺しゅう縫いの際に、刺しゅう枠19をX-Y方向に移動させるキャリッジAが作業ベッド2上に配置されるので、通常縫いの際に、キャリッジAは、作業ベッド2の端部側面箇所へスライド移動かつ端部側面箇所に倒れ状態で退避するとともに、キャリッジAを駆動するキャリッジ駆動部Bは、作業ベッド2に内装された刺しゅう装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
同様に、刺しゅう枠28が着脱可能に連結されるキャリッジ52をX方向と直交するY方向に移動駆動するY方向駆動機構34を、装置本体部31の上面近くに水平姿勢にして刺しゅう縫い可能な刺しゅう位置から鉛直姿勢に起立させた起立位置に切替える第1切替え機構61と、この起立位置から装置本体部31の前側に沿って水平に倒した姿勢となる収納位置とに切替える第2切替え機構65を設け、更に、Y方向駆動機構34が収納位置に切替えられたとき、Y方向駆動機構34の外装カバー35の上面と装置本体部31の外装カバーの上面とがほぼ同一高さになるように構成された刺しゅう装置も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4330728号公報
【文献】特開2007-135663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の刺しゅう装置では、キャリッジAが作業ベッド2上をX方向に往復移動するために、作業ベッド2には、キャリッジAの倒れ用腕部5b,5bが貫通するように溝状貫通孔2d,2dが形成されており、作業ベッド2を通常縫いの補助テーブルとして使用する際に、縫製する布が溝状貫通孔に入り込み、引っかかるおそれがあるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2記載の刺しゅう装置では、刺しゅう縫いに代えて通常縫いを行う場合に、Y方向駆動機構34を内蔵するY方向カバー体33は、切替え位置まで自動的に駆動されるが、起立位置および収納位置への切替えは、作業者が手動で行う必要があり、手間を要するという問題があった。
さらに、特許文献1記載の刺しゅう装置と同様に、非係合板81の左端部には下向きの当接ピン85が固着され、当接ピン85は、装置本体部31に左右方向向きに形成された直線状スリット31a内を係合板材80と共に左右方向に移動可能であるために、装置本体部31を通常縫いの補助テーブルとして使用する際に、縫製する布が直線状スリット31aに入り込み、引っかかるおそれがあるという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決することを課題とし、刺しゅう縫いと通常縫いとを切替え可能なミシンに着脱する刺しゅう装置において、装置本体部の上面にキャリッジ部を支持する溝がなく、通常縫いの際に、刺しゅう枠を装着するキャリッジ部が装置本体部外方に自動的に退避できる刺しゅう装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、刺しゅう装置として、ミシンのベッド部に着脱する装置本体部と、刺しゅう枠が装着される刺しゅう枠保持部を第1方向に移動する第1移動機構と、前記第1移動機構を前記装置本体部の上面に沿って、前記第1方向と直交する第2方向に移動する第2移動機構と、前記第1移動機構を前記第2移動機構によって前記装置本体部の側面から支持し、前記第1移動機構を昇降する昇降機構と、を備え、刺しゅう縫いから通常縫いへ切替える際に、前記昇降機構により前記第1移動機構を装置本体部の上面から装置本体部外方へ自動的に退避させることを特徴とする構成を採用する。
【0010】
本発明の刺しゅう装置における昇降機構の実施形態として、前記昇降機構は、前記第2移動機構に揺動自在に支持され、互いに拡縮することにより前記第1移動機構を水平に昇降する一対のヒンジ腕を備えることを特徴とする構成を採用し、また、前記第1移動機構は、第1方向を軸方向として回動する昇降駆動軸と、前記昇降駆動軸の回動により前記第1方向に移動する第1支持台部と、を有し、前記ヒンジ腕は、前記第2移動機構に支点軸で支持された第1端部と、前記第1支持台部に回動自在に連結された第2端部と、を有することを特徴とする構成を採用する。
さらに、昇降機構の別の実施形態として、前記昇降機構は、前記第2移動機構に回動自在に支持され、正転または逆転することにより前記第1移動機構を昇降する昇降軸を備えることを特徴とする構成を採用し、また、前記昇降機構は、前記第2移動機構に設けられ、前記昇降軸を回動する駆動部と、前記第1移動機構を前記昇降軸によって昇降自在に支持する第2支持台部と、を有することを特徴とする構成を採用する。
【0011】
本発明の刺しゅう装置の実施形態として、退避指令を受けると、前記第1移動機構は、前記刺しゅう枠保持部を前記第1移動機構の端部まで移動することにより第1退避準備完了通知を発するとともに、前記第2移動機構は、前記第1移動機構を前記第2方向の装置本体部外方まで移動することにより第2退避準備完了通知を発し、前記第1退避準備完了通知および第2退避準備完了通知を受けると、前記昇降機構は、前記第1移動機構の上面が前記装置本体部の上面と面一になるように下降することを特徴とする構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の刺しゅう装置は、上記構成を採用することにより、装置本体部の上面に第1移動機構を支持する貫通溝が存在しないために、装置本体部を補助テーブルとして使用する際に、縫製する布が貫通溝に入り込むおそれがなく、通常縫いの際に、装置本体部の上面を補助テーブルとして活用できる。
また、本発明の刺しゅう装置は、刺しゅう縫いから通常縫いへの切替える際に、第1移動機構を装置本体部の上面から装置本体部外方へ自動的に退避した後、第1移動機構の上面を装置本体部の上面と面一にすることにより、装置本体部の上面とともに、第1移動機構の上面を補助テーブルとして活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置を装着したミシンの外観を示す全体斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置の内部機構を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置のX方向移動機構の内部機構を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置のY方向移動機構の内部機構を示す斜視図である。
【
図5】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置のY方向移動機構に配置された昇降機構を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置の昇降機構の要部を示す分解図である。
【
図7】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置の昇降機構を示す図であり、(a)は左側面図、(b)は、要部拡大斜視図である。
【
図8】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置の外観を示す斜視図である。
【
図9】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置のキャリッジ部の位置を示す正面図であり、(a)はホームポジション位置、(b)は退避準備位置、(c)は退避完了位置である。
【
図10】本発明の第1実施例に係る刺しゅう装置の各機構の位置を示す斜視図であり、(a)はX方向移動機構のホームポジション位置、(b)は、X方向移動機構の退避位置、(c)はY方向移動機構のホームポジション位置、(d)はY方向移動機構の退避位置、(e)は昇降機構の上昇位置、(f)は昇降機構の下降位置である。
【
図11】本発明の第2実施例に係る刺しゅう装置の内部機構を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図である。
【
図12】本発明の第2実施例に係る刺しゅう装置の昇降機構の要部を示す図であり、(a)は組立図、(b)は分解図である。
【
図13】本発明の第2実施例に係る刺しゅう装置の昇降機構の要部を示す図であり、(a)は側面断面図、(b)は(a)の要部拡大図である。
【
図14】本発明の第2実施例に係る刺しゅう装置の昇降機構が下降した状態を示す斜視図である。
【
図15】本発明の第2実施例に係る刺しゅう装置を示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施の形態に係る刺しゅう装置について、実施例に示した図面を参照して説明する。
以下の説明では、
図1の斜視図でみて、縦方向を「上下」、左下から右上方向を「左右」、右下から左上方向を「前後」とし、さらに、左右方向を「X方向」、前後方向を「Y方向」ということもある。
【実施例1】
【0015】
図1において、Aはミシン本体であり、下方のベッド部1と、ベッド部1の右端部から立設される脚柱部2と、脚柱部2の上端からベッド部1に対向するように左方へ延びるアーム部3と、アーム部3の左端部に設けられたヘッド部4とを備え、Bはミシン本体Aに着脱自在に装着する刺しゅう装置であり、ミシン本体Aへの装着時に、上面をベッド部1と面一に形成することにより補助テーブルを兼ねる装置本体部Cと、装置本体部Cの上面に沿ってX方向(第2方向)に移動するキャリッジ部D(第1移動機構)とを備える。
【0016】
図1に示すように、ミシン本体Aは、ベッド部1の上面に、布送り用の送り歯が出没する針板5が配置され、脚柱部2には、選択された刺しゅう模様や各種選択キーなどを表示するとともに、タッチスイッチとして機能する透明なタッチパネルが前面に積層された表示装置6が配置され、ヘッド部4には、下端に針が装着され、上下往復動する針棒と、針板5の上面で布を押える押え足が装着された押え棒とが設けられている。
【0017】
図1および2に示すように、刺しゅう装置Bは、装置本体部C内に、後述する昇降機構50によって支持するキャリッジ部DをY方向(第1方向)と直交するX方向に往復移動するX方向移動機構10(第2移動機構)が配置されるとともに、キャリッジ部D内に、刺しゅう枠(図示せず)が取付けられる刺しゅう枠保持部34をY方向に往復移動するY方向移動機構30(第1移動機構)が配置されている。
装置本体部Cは、上面8aを補助テーブルとする外装カバー8を備え、外装カバー8には、ミシン本体Aのベッド部1の外側面と嵌合する形状に切欠いた切欠き凹部8bと、正面および背面の左方に水平方向のスリット部8cとが形成されている。
【0018】
図2および3に示すように、X方向移動機構10は、外装カバー8の下部に装着されるベース台板11上に配置され、X方向と平行する一対の第1ガイドレール12と、第1ガイドレール12に跨ってX方向に摺動する一対の第1Xキャリッジ案内13と、第1Xキャリッジ案内13を第1駆動ベルト16および第2駆動ベルト17によって駆動するX駆動モータ14とを備えている。
【0019】
X駆動モータ14は、Xアイドラープーリ15を回動して第1駆動ベルト16を往復動し、第1駆動ベルト16の往復動に応じて、第2駆動ベルト17も往復動し、Xベルト固定台18により第2駆動ベルト17に固定された第1Xキャリッジ案内13は、第2駆動ベルト17の往復動に伴って第1ガイドレール12上をX方向に移動する。
【0020】
また、第1Xキャリッジ案内13には、Xセンサ遮蔽板20を取付け、Xセンサ遮蔽板20の移動方向に沿ってベース台板11上に、HP(ホームポジション)位置検知用の第1Xセンサ21と、退避位置検知用の第2Xセンサ22とを設け、後述するY方向移動機構30を内蔵するキャリッジ部DがX方向に移動する際の基準位置を設定している。
さらに、Xプーリ取付板19は、第2駆動ベルト17の緊張具合を調節するために設けている。
【0021】
図2および4に示すように、Y方向移動機構30は、キャリッジカバー29の下部に装着するYキャリッジベース板31上に配置し、Y方向に沿って設けた第2ガイドレール32と、第2ガイドレール32に跨って刺しゅう枠保持部34をY方向に摺動するYキャリッジ案内33と、Yキャリッジ案内33をY駆動ベルト37によって駆動するY駆動モータ35とを備えている。
【0022】
Y駆動モータ35は、Yアイドラープーリ36を回動してY駆動ベルト37を往復動し、Y駆動ベルト37が往復動すると、Yベルト固定台38によりY駆動ベルト37に固定されたYキャリッジ案内33は、Y駆動ベルト37の往復動に伴って第2ガイドレール32上をY方向に移動する。
【0023】
また、Yキャリッジ案内33には、Yセンサ遮蔽板40を取付け、Yセンサ遮蔽板40の移動方向に沿ってYキャリッジベース板31上に、HP位置検知用の第1Yセンサ41と、退避位置検知用の第2Yセンサ42とを設け、刺しゅう枠保持部34がY方向に移動する際の基準位置を設定している。
さらに、Yプーリ取付板39は、Y駆動ベルト37の緊張具合を調節するために設けている。
【0024】
図2、5および
図6に示すように、昇降機構50は、X方向移動機構10の第1Xキャリッジ案内13とY方向移動機構30のYキャリッジベース板31との間に配置しており、最初に、Y方向移動機構30側について説明すると、
図5に示すように、Yキャリッジベース板31の下面には、Y方向に沿って前方および後方に設けた一対の第3ガイドレール51と、第3ガイドレール51に跨ってY方向に摺動する一対の第1Yキャリッジ台52と、Y方向を軸方向として回動することにより第1Yキャリッジ台52を移動する昇降駆動軸54と、昇降駆動軸54を回動する第1昇降モータ53とを備えている。
【0025】
第1昇降モータ53は、Yキャリッジベース板31からY方向に沿って起立された起立板部31aに取付け、第1昇降モータ53の回動軸には、ウォームギア55を固定している。第1昇降モータ53のウォームギア55と噛み合うウォームホイール56は、駆動軸支え57で回動自在に支持する昇降駆動軸54の中央部に固定し、昇降駆動軸54は、駆動軸支え57と摺接する一対のブッシュ58によってスラスト方向の動きを規制している。
【0026】
昇降駆動軸54は、両端にそれぞれの回動方向が異なる雄ねじ部54aを形成し、雄ねじ部54aと螺合するように、雌ねじを形成した駆動台59を第1Yキャリッジ台52に固定している。
第1昇降モータ53は、ウォームギア55の回動によりウォームホイール56を減速回動すると、ウォームホイール56に固定した昇降駆動軸54が回動し、駆動台59は、昇降駆動軸54の回動方向に応じた方向へスラスト移動し、駆動台59に固定した第1Yキャリッジ台52も同様に、第3ガイドレール51上をスラスト移動する。
【0027】
また、駆動台59には、昇降センサ遮蔽板60を取付け、昇降センサ遮蔽板60の移動方向に沿ってYキャリッジベース板31の起立板部31aには、下降位置検知用の昇降センサ61を設け、駆動台59が下降したときの基準位置を設定している。
さらに、Yキャリッジベース板31の後部寄り下面には、後述する装置本体部Cのガイド溝67に沿って摺動するガイド部材62を固定している。
【0028】
つぎに、X方向移動機構10の第1Xキャリッジ案内13と昇降機構50の第1Yキャリッジ台52との接続関係について説明すると、
図6および7に示すように、X方向移動機構10の第1Xキャリッジ案内13は、支点軸受け13aに、ヒンジ腕であるYキャリッジ支え63の第1端部に設けられた支点嵌合部63aを支点軸64によって回動自在に接続するとともに、駆動台59を固定した第1Yキャリッジ台52は、枢支軸受け52aに、Yキャリッジ支え63の第2端部に設けられた枢支嵌合部63bを枢支軸65によって回動自在に接続している。
さらに、Yキャリッジ支え63の内側下部には、突き当て部材66を固定している。
【0029】
ここで、突き当て部材66の役割について説明すると、
図7(a)に示すように、X方向移動機構10の一対の第1Xキャリッジ案内13と昇降機構50の一対の第1Yキャリッジ台52は、それぞれ一対のYキャリッジ支え63によって支点軸64および枢支軸65で回動自在に連結し、4節リンクを構成しているため、第1Yキャリッジ台52を取付けたキャリッジ部Dは、可動範囲内で自由に動いてしまう。
しかしながら、キャリッジ部Dは、刺しゅう中に縫いずれなく縫うために、所定の位置で確実に固定しなければならない。このため、
図7(b)に詳しく示すように、キャリッジ部Dが刺しゅう縫いの際に、上昇して装置本体部Cの上面にある時は、Yキャリッジ支え63の揺動を規制する部材として突き当て部材66を設けている。
【0030】
さらに、突き当て部材66を取付けるYキャリッジ支え63の取付部は、突き当て部材66の高さ方向位置を調整できるようになっているので、Yキャリッジ支え63は、適正な位置で左右の突き当て部材66がそれぞれ第1Xキャリッジ案内13のフラット面13bに突き当たるように取付位置を調整することにより、キャリッジ部Dは、ガタつきなしにYキャリッジ支え63に固定することができる。
【0031】
また、
図8に示すように、装置本体部Cの外装カバー8には、上面8aの後端部から左側面にかけてガイド溝67をX方向に沿って形成し、ガイド溝67の直上に位置する箇所には、Yキャリッジベース板31の下面に固定されたガイド部材62を設けているため、ガイド部材62は、ガイド溝67と嵌合することにより、キャリッジ部Dの前後方向(Y方向)の動きを規制することができる。
【0032】
つぎに、本実施例の使用態様と作用効果について説明する。
まず、刺しゅう縫いを開始する場合の刺しゅう装置Bについて説明すると、
図9(a)に示すように、キャリッジ部Dは、装置本体部Cの上面8aにおける刺しゅう縫いを開始するHP位置にあり、
図2および3に示すように、X方向移動機構10の第1Xキャリッジ案内13は、昇降機構50によってキャリッジ部Dを支持している。
【0033】
第1Xキャリッジ案内13は、X駆動モータ14の駆動により往復動する第1駆動ベルト16を介して往復動する第2駆動ベルト17に固定され、一対の第1ガイドレール12上をX方向に移動可能であるが、キャリッジ部DがHP位置にあるときには、
図10(a)に示すように、第1Xキャリッジ案内13に取付けられたXセンサ遮蔽板20は、ベース台板11に設けたHP位置検知用の第1Xセンサ21を遮蔽している。
【0034】
同様に、
図4に示すように、Y方向移動機構30は、刺しゅう枠保持部34をY方向に摺動するYキャリッジ案内33を備え、Yキャリッジ案内33は、Y駆動モータ35の駆動により往復動するY駆動ベルト37に固定され、第2ガイドレール32上をY方向に移動可能であるが、Y方向移動機構30の刺しゅう枠保持部34がHP位置にあるときには、
図10(c)に示すように、Yキャリッジ案内33に取付けられたYセンサ遮蔽板40は、Yキャリッジベース板31に設けたHP位置検知用の第1Yセンサ41を遮蔽しているが、
図10(e)に示すように、昇降機構50の駆動台59に取付けた昇降センサ遮蔽板60は、下降位置検知用の昇降センサ61を遮蔽していない。
なお、刺しゅう装置Bによって刺しゅう縫いを開始するには、作業者は、布を保持した刺しゅう枠(図示せず)を刺しゅう枠保持部34に装着する必要がある。
【0035】
つぎに、刺しゅう縫いが終了して、通常縫いへの切替え操作について説明する。
刺しゅう縫いが終了すると、キャリッジ部Dは、
図8に示すように、下面に固定されたガイド部材62が装置本体部C上面に形成されたガイド溝67に嵌合して
図9(a)に示すHP位置に自動的に復帰するので、作業者は、Y方向移動機構30の刺しゅう枠保持部34から刺しゅう済みの布が保持された刺しゅう枠を取外す。
その後、作業者は、ミシン本体Aの表示装置6に表示された通常縫いへの切替えキーをタッチすると、ミシン本体Aの制御装置は、切替えキーからの通常縫い切替え要求を受けることにより、刺しゅう装置Bに退避指令を発する。
【0036】
退避指令を受けると、刺しゅう装置Bは、キャリッジ部D内に配置したY方向移動機構30のY駆動モータ35を駆動することにより、刺しゅう枠保持部34を取付けたYキャリッジ案内33は、後方に向けて移動を開始する。
図10(d)に示すように、Yキャリッジ案内33が移動すると、Yキャリッジ案内33に取付けたYセンサ遮蔽板40は、Yキャリッジベース板31に設けた退避位置検知用の第2Yセンサ42を遮蔽することにより、Y駆動モータ35は、Yキャリッジ案内33の後方への移動を停止し、
図8に示すように、キャリッジ部Dは、刺しゅう枠保持部34を装置本体部Cよりも外側の退避位置に保持する。
【0037】
同時に、装置本体部C内に配置したX方向移動機構10のX駆動モータ14を駆動することにより、第1Xキャリッジ案内13は、左方に向けて移動を開始する。
図10(b)に示すように、第1Xキャリッジ案内13が移動すると、第1Xキャリッジ案内13に取付けたXセンサ遮蔽板20は、ベース台板11に設けた退避位置検知用の第2Xセンサ22を遮蔽することにより、X駆動モータ14は、第1Xキャリッジ案内13の左方への移動を停止し、
図9(b)に示すように、装置本体部Cは、昇降機構50によりキャリッジ部Dを装置本体部Cよりも外方の退避位置に保持する。
【0038】
このとき、刺しゅう装置Bは、Y方向移動機構30のYキャリッジ案内33に取付けたYセンサ遮蔽板40が退避位置検知用の第2Yセンサ42を遮蔽することにより第1退避準備完了通知を発するとともに、X方向移動機構10の第1Xキャリッジ案内13に取付けたXセンサ遮蔽板20が退避位置検知用の第2Xセンサ22を遮蔽することにより第2退避準備完了通知を発する。
【0039】
第1退避準備完了通知および第2退避準備完了通知を受けると、昇降機構50は、第1昇降モータ53を駆動して昇降駆動軸54を回動することにより、昇降駆動軸54と螺合するそれぞれの駆動台59に固定された第1Yキャリッジ台52は、互いに遠ざかるように、キャリッジ部Dの両端方向に向けて移動を開始する。
すると、第1Yキャリッジ台52は、第1Xキャリッジ案内13に支点軸64によって第1端部63aを回動自在に接続するYキャリッジ支え63の第2端部63bが枢支軸65を回動自在に接続しているので、第1Yキャリッジ台52がキャリッジ部Dの両端方向に向けて移動すると、Yキャリッジ支え63は、それぞれの第1端部63aを支点として第2端部63bの間隔を拡げることにより、キャリッジ部Dがガイド部材62を装置本体部Cの左側面に形成されたガイド溝67に沿って下降を開始する。
【0040】
図10(f)に示すように、第1Yキャリッジ台52が移動し、キャリッジ部Dが水平に下降すると、駆動台59に取付けた昇降センサ遮蔽板60は、Yキャリッジベース板31の起立板部31aに設けた下降位置検知用の昇降センサ61を遮蔽することにより、第1昇降モータ53は、駆動台59の両端方向への移動を停止し、
図9(c)に示すように、キャリッジ部Dは、キャリッジカバー29の上面と装置本体部Cの外装カバー8の上面8aとが面一の状態になる。
この状態で通常縫いを行う場合、作業者は、ミシン本体Aのベッド部1とともに、装置本体部Cの外装カバー8の上面8aと、キャリッジ部Dのキャリッジカバー29の上面とを補助テーブルとして使用できる。
【0041】
つぎに、通常縫いが終了して、刺しゅう縫いに復帰するための切替え操作について説明する。
通常縫いから刺しゅう縫いに復帰するには、ミシン本体Aの表示装置6に表示された刺しゅう縫いへの切替えキーをタッチすると、ミシン本体Aの制御装置は、切替えキーからの刺しゅう縫い切替え要求を受けることにより、刺しゅう装置BにHP復帰指令を発する。
【0042】
HP復帰指令を受けると、刺しゅう装置Bは、昇降機構50の第1昇降モータ53を駆動して昇降駆動軸54を回動することにより、昇降駆動軸54と螺合するそれぞれの駆動台59に固定された第1Yキャリッジ台52は、互いに近づくように、キャリッジ部Dの中央方向に向けて移動を開始する。
すると、第1Yキャリッジ台52は、第1Xキャリッジ案内13に支点軸64によって第1端部63aを回動自在に接続するYキャリッジ支え63の第2端部63bが枢支軸65を回動自在に接続しているので、第1Yキャリッジ台52がキャリッジ部Dの中央方向に向けて移動すると、Yキャリッジ支え63は、それぞれの第1端部63aを支点として第2端部63bの間隔を狭めることにより、キャリッジ部Dは、ガイド部材62を装置本体部Cのガイド溝67に沿って上昇を開始する。
【0043】
図7(a)に示すように、第1Yキャリッジ台52が移動し、キャリッジ部Dが水平に上昇すると、第1昇降モータ53は、下降位置検知用の昇降センサ61が検知した位置を基準として、下降位置から上昇位置までの昇降駆動軸54の回動数をカウントし、予め設定された昇降駆動軸54の回動数に達することにより、第1昇降モータ53は、駆動台59の中央方向への移動を停止し、
図9(b)に示すように、キャリッジ部Dは、装置本体部Cの外装カバー8の上面8aより高い上昇位置に保持され、復帰準備を完了するので、昇降機構50は、刺しゅう装置Bに対して復帰準備完了通知を発する。
【0044】
復帰準備完了通知を受けると、刺しゅう装置Bは、キャリッジ部D内に配置したY方向移動機構30のY駆動モータ35を駆動することにより、刺しゅう枠保持部34を取付けたYキャリッジ案内33は、前方に向けて移動を開始する。
図10(c)に示すように、Yキャリッジ案内33が移動すると、Yキャリッジ案内33に取付けたYセンサ遮蔽板40は、Yキャリッジベース板31に設けたHP位置検知用の第1Yセンサ41を遮蔽することにより、Y駆動モータ35は、Yキャリッジ案内33の前方への移動を停止し、キャリッジ部Dは、刺しゅう枠保持部34をHP位置に保持する。
【0045】
同時に、装置本体部C内に配置したX方向移動機構10のX駆動モータ14を駆動することにより、第1Xキャリッジ案内13は、右方に向けて移動を開始する。
図10(a)に示すように、第1Xキャリッジ案内13が移動すると、第1Xキャリッジ案内13に取付けたXセンサ遮蔽板20は、ベース台板11に設けたHP位置検知用の第1Xセンサ21を遮蔽することにより、X駆動モータ14は、第1Xキャリッジ案内13の右方への移動を停止し、
図9(a)に示すように、装置本体部Cは、昇降機構50によりキャリッジ部DをHP位置に保持する。
なお、昇降機構50は、第1昇降モータ53と昇降駆動軸54との接続を一般的な平歯車などとしても、昇降駆動軸54の停止時に第1昇降モータ53を励磁しておけばキャリッジ部Dが荷重により下降するのを防止できるが、本実施例のように、第1昇降モータ53と昇降駆動軸54との接続をウォームギア55とウォームホイール56とし、セルフロックが働くようにしたことにより、勝手に昇降駆動軸54が回動することを阻止できるので、昇降駆動軸54の停止時に、第1昇降モータ53を励磁する必要がない。
【0046】
以上説明したように、本実施例の刺しゅう装置Bは、刺しゅう縫いから通常縫いへの切替え、および通常縫いから刺しゅう縫いへの切替えが自動的に完了できるとともに、キャリッジ部Dを昇降機構50によって装置本体部Cの側面から支持するようにしたことにより、通常縫いの際に、装置本体部Cの外装カバー8の上面8aと、キャリッジ部Dのキャリッジカバー29の上面とを補助テーブルとして使用することができる。
【実施例2】
【0047】
つぎに、第1実施例の昇降機構50の構造を変更した第2実施例について説明する。
本実施例については、第1実施例と同一の構成部分には同一の符号を付して図示することで詳しい説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0048】
図11および15において、Baは刺しゅう装置であり、後述する昇降機構70によって支持するキャリッジ部DをX方向に往復移動するX方向移動機構10が配置される装置本体部Cと、装置本体部Cの上面に沿ってX方向に移動し、刺しゅう枠保持部34をY方向に往復移動するY方向移動機構30が配置されるキャリッジ部Dとを備える。
【0049】
図11に示すように、X方向移動機構10は、ベース台板11上に配置され、X方向と平行する一対の第1ガイドレール12と、第1ガイドレール12に跨ってX方向に摺動する一対の第2Xキャリッジ案内23と、第2Xキャリッジ案内23を第1駆動ベルト16および第2駆動ベルト17によって駆動するX駆動モータ14とを備えている。
また、第2Xキャリッジ案内23には、Xセンサ遮蔽板20を取付け、Xセンサ遮蔽板20の移動方向に沿ってベース台板11上に、HP位置検知用の第1Xセンサ21と、退避位置検知用の第2Xセンサ22とを設けている。
【0050】
Y方向移動機構30は、Yキャリッジベース板31上に配置され、Y方向に沿って設けた第2ガイドレール32と、第2ガイドレール32に跨って刺しゅう枠保持部34をY方向に摺動するYキャリッジ案内33と、Yキャリッジ案内33をY駆動ベルト37によって駆動するY駆動モータ35とを備えている。
また、Yキャリッジ案内33には、Yセンサ遮蔽板40を取付けられ、Yセンサ遮蔽板40の移動方向に沿ってYキャリッジベース板31上に、HP位置検知用の第1Yセンサ41と、退避位置検知用の第2Yセンサ42とを設けている。
【0051】
図11および15に示すように、昇降機構70は、X方向移動機構10の第2Xキャリッジ案内23とY方向移動機構30のYキャリッジベース板31との間に配置しており、
図12~14に示すように、Y方向移動機構30のYキャリッジベース板31の下面を前後で支持する一対の第2Yキャリッジ台71は、X方向移動機構10の第2Xキャリッジ案内23に設けられた昇降軸72および案内軸73がそれぞれ貫通する第1貫通孔71aおよび第2貫通孔71bを有する。
【0052】
図12に示すように、昇降軸72は、外周に最上死点と最下死点とを水平溝としたスパイラル溝72aを形成し、第2Xキャリッジ案内23に設けた昇降軸受け24に回動自在に支持され、案内軸73は、第2Xキャリッジ案内23に取付けた案内軸固定部25に回動不能に固定されている。
図12および13に示すように、第2Yキャリッジ台71には、カムコロ74を回動自在に遊嵌したカシメ軸75aを固定したカム取付け板75が接続され、昇降軸72は、スパイラル溝72aにカムコロ74が嵌合し、昇降軸72が回動すると、嵌合するカムコロ74がスパイラル溝72aに沿って摺動することにより、カムコロ74がカム取付け板75によって接続された第2Yキャリッジ台71も昇降する。
【0053】
図12に示すように、昇降軸72は、下端に駆動ギア76を取付け、外部からの動力により昇降軸72を回動する構造になっている。
このため、駆動ギア76は、外部動力と結合していない場合に、昇降軸72が第2Yキャリッジ台71の荷重によって回動しないように、駆動ギア76と係合するストッパ部材77を設け、ストッパ部材77は、爪部77aと離脱片77bとを備え、第2Xキャリッジ案内23のストッパ軸受け26に回動自在に支持され、ストッパ部材77とばね掛け27との間を連結する付勢ばね78によりストッパ部材77の爪部77aを駆動ギア76と係合する方向に付勢している。
なお、ベース台板11には、ストッパ部材77の移動する経路上に離脱片当接部28が立設されている。
【0054】
図14に示すように、昇降軸72を回動するために、駆動ギア76は、第2Xキャリッジ案内23が退避位置に移動した時に、第2昇降モータ80により駆動される昇降駆動ベルト81によって回動される昇降ギア79と噛み合うようになっている。
昇降ギア79は、揺動ばね82によって駆動ギア76と噛み合う方向に付勢された揺動板83に取付けられ、駆動ギア76と昇降ギア79との噛み合い時に、歯先同士が衝突して破損するのを防止している。
なお、
図15に示すように、昇降ギア79、揺動ばね82および揺動板83等の昇降軸72の駆動関係の部材は、概ねベース台板11上に前後対称に配置されている。
【0055】
また、第2Yキャリッジ台71には、昇降センサ遮蔽板84を取付け、昇降センサ遮蔽板84の移動方向に沿って、ベース台板11から立設されたセンサ取付け板86には、上昇位置検知用の昇降センサ85を設け、第2Yキャリッジ台71が上昇位置に達し、カムコロ74がスパイラル溝72aの最上死点に形成された水平溝に来たときの基準位置を設定している。
【0056】
つぎに、本実施例の使用態様と作用効果について説明する。
刺しゅう縫いの際には、刺しゅう装置Baは、キャリッジ部Dが昇降機構70によって装置本体部Cの上部に保持されており、昇降軸72が不用意に回動してキャリッジ部Dが下降しないように、駆動ギア76は、付勢ばね78の付勢力によりストッパ部材77の爪部77aと係合し、昇降軸72の回動を阻止している。
刺しゅう縫いが終了すると、キャリッジ部Dは、
図11に示すHP位置に自動的に復帰するので、Y方向移動機構30の刺しゅう枠保持部34から刺しゅう枠を取外した後、第1実施例と同様に、ミシン本体Aの表示装置6に表示された通常縫いへの切替えキーをタッチすると、ミシン本体Aの制御装置は、切替えキーからの通常縫い切替え要求を受けることにより、刺しゅう装置Baに退避指令を発する。
【0057】
退避指令を受けると、刺しゅう装置Baは、Y方向移動機構30のY駆動モータ35を駆動することにより、刺しゅう枠保持部34が取付けられたYキャリッジ案内33は、後方に向けて移動を開始し、Yキャリッジ案内33に取付けたYセンサ遮蔽板40は、退避位置検知用の第2Yセンサ42を遮蔽することにより、Y駆動モータ35は、Yキャリッジ案内33の後方への移動を停止し、Y方向移動機構30は、刺しゅう枠保持部34を装置本体部Cよりも外側の退避位置に保持する。
【0058】
同時に、刺しゅう装置Baは、X方向移動機構10のX駆動モータ14を駆動することにより、第2Xキャリッジ案内23が左方に向けて移動を開始し、第2Xキャリッジ案内23に取付けられたXセンサ遮蔽板20は、退避位置検知用の第2Xセンサ22を遮蔽することにより、X駆動モータ14は、第2Xキャリッジ案内23の左方への移動を停止し、X方向移動機構10は、昇降機構70によりY方向移動機構30を装置本体部Cよりも外方の退避位置に保持する。
【0059】
刺しゅう装置Baは、X方向移動機構10を退避位置に移動すると、昇降機構70は、昇降軸72の駆動ギア76が昇降ギア79と噛み合うと同時に、ストッパ部材77の離脱片77bがベース台板11上の離脱片当接部28と当接することにより、昇降ギア79の回動を許容する。
【0060】
このとき、刺しゅう装置Baは、Y方向移動機構30のYキャリッジ案内33に取付けたYセンサ遮蔽板40が退避位置検知用の第2Yセンサ42を遮蔽することにより第1退避準備完了通知を発するとともに、X方向移動機構10の第2Xキャリッジ案内23の退避位置検知用の第2Xセンサ22を遮蔽することにより第2退避準備完了通知を発する。
【0061】
第1退避準備完了通知および第2退避準備完了通知を受けると、昇降機構70は、第2昇降モータ80を駆動し、昇降駆動ベルト81により昇降ギア79を回動すると、昇降ギア79と噛み合う駆動ギア76は、昇降軸72を回動し、第2Yキャリッジ台71は、下降を開始する。
昇降軸72が回動すると、昇降軸72のスパイラル溝72aに嵌合するカムコロ74は、スパイラル溝72aに沿って下降し、カムコロ74に追随して第2Yキャリッジ台71は、下降を開始する。
【0062】
第2Yキャリッジ台71が下降すると、第2昇降モータ80は、上昇位置検知用の昇降センサ85が検知した上昇位置を基準として、上昇位置から下降位置までの回動数をカウントし、予め設定された回動数に達することにより、第2昇降モータ80は、昇降ギア79の回動を停止し、第2Yキャリッジ台71が下降位置に達し、カムコロ74がスパイラル溝72aの最下死点に形成された水平溝に来ると、
図9(c)と同様に、キャリッジ部Dは、外装カバーの上面と装置本体部Cの外装カバーの上面とが面一の状態になる。
【0063】
つぎに、通常縫いが終了して、刺しゅう縫いに復帰するための切替え操作については、第1実施例と同様に、昇降機構70によってキャリッジ部Dを上昇位置まで上昇させた後、キャリッジ部Dは、X方向移動機構10およびY方向移動機構30により、HP位置に復帰するので、詳細な説明は省略する。
なお、本実施例では、昇降機構70は、昇降軸72の駆動ギア76と係合するストッパ部材77を設けたことにより、勝手に昇降軸72が回動することを阻止できるとともに、昇降軸72に形成されたスパイラル溝72aの最上死点と最下死点とを水平溝としたことと相まって、昇降軸72の駆動ギア76が外部動力と結合していない時に、キャリッジ部Dが荷重により下降することがない。
【0064】
以上説明したように、本実施例の刺しゅう装置Baは、刺しゅう縫いから通常縫いへの切替え、および通常縫いから刺しゅう縫いへの切替えが自動的に完了するとともに、キャリッジ部Dを昇降機構70の昇降軸72の回動によって装置本体部Cの側面から昇降するようにしたことにより、通常縫いの際に、装置本体部Cの上面とキャリッジ部Dの上面とを補助テーブルとして使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の刺しゅう装置は、刺しゅう縫いから通常縫いへの切替える際に、第1移動機構を装置本体部の上面から装置本体部外方へ自動的に退避した後、第1移動機構の上面を装置本体部の上面と面一にすることにより、装置本体部の上面とともに、第1移動機構の上面を補助テーブルとして活用することができ、刺しゅう縫いと通常縫いとを切替え可能なミシンに広く適用して有利なものである。
【符号の説明】
【0066】
A ミシン本体
B、Ba 刺しゅう装置
C 装置本体部
D キャリッジ部(第1移動機構)
1 ベッド部
2 脚柱部
3 アーム部
4 ヘッド部
5 針板
6 表示装置
8 外装カバー
8a 上面
8b 切欠き凹部
8c スリット部
10 X方向移動機構(第2移動機構)
11 ベース台板
12 第1ガイドレール
13 第1Xキャリッジ案内
13a 支点軸受け
13b フラット面
14 X駆動モータ
15 Xアイドラープーリ
16 第1駆動ベルト
17 第2駆動ベルト
18 Xベルト固定台
19 Xプーリ取付板
20 Xセンサ遮蔽板
21 第1Xセンサ
22 第2Xセンサ
23 第2Xキャリッジ案内
24 昇降軸受け
25 案内軸固定部
26 ストッパ軸受け
27 ばね掛け
28 離脱片当接部
29 キャリッジカバー
30 Y方向移動機構(第1移動機構)
31 Yキャリッジベース板
31a 起立板部
32 第2ガイドレール
33 Yキャリッジ案内
34 刺しゅう枠保持部
35 Y駆動モータ
36 Yアイドラープーリ
37 Y駆動ベルト
38 Yベルト固定台
39 Yプーリ取付板
40 Yセンサ遮蔽板
41 第1Yセンサ
42 第2Yセンサ
50、70 昇降機構
51 第3ガイドレール
52 第1Yキャリッジ台(第1支持台部)
52a 枢支軸受け
53 第1昇降モータ
54 昇降駆動軸
54a 雄ねじ部
55 ウォームギア
56 ウォームホイール
57 駆動軸支え
58 ブッシュ
59 駆動台
60、84 昇降センサ遮蔽板
61、85 昇降センサ
62 ガイド部材
63 Yキャリッジ支え(ヒンジ腕)
63a 支点嵌合部(第1端部)
63b 枢支嵌合部(第2端部)
64 支点軸
65 枢支軸
66 突き当て部材
67 ガイド溝
71 第2Yキャリッジ台(第2支持台部)
71a 第1貫通孔
71b 第2貫通孔
72 昇降軸
72a スパイラル溝
73 案内軸
74 カムコロ
75 カム取付け板
75a カシメ軸
76 駆動ギア
77 ストッパ部材
77a 爪部
77b 離脱片
78 付勢ばね
79 昇降ギア
80 第2昇降モータ(駆動部)
81 昇降駆動ベルト
82 揺動ばね
83 揺動板
86 センサ取付け板