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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ガラス板モジュール
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/02 20060101AFI20240408BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20240408BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20240408BHJP
   H01R 12/51 20110101ALI20240408BHJP
   H05B 3/16 20060101ALI20240408BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20240408BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20240408BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20240408BHJP
   H05B 3/86 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H05B3/02 B
C03C27/12 M
H01R4/02 Z
H01R12/51
H05B3/16
H05B3/20 392A
B60J1/00 B
H05K3/12 610F
H05B3/86
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2019134188
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2021018932
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】矢野 陽太
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-521337(JP,A)
【文献】特開2017-212148(JP,A)
【文献】特開2017-027799(JP,A)
【文献】特開2019-099405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/20-3/38,3/84-3/86
B60J 1/00
B60S 1/00-1/68
C03C 27/12
H01R 12/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を供給する配線が接合可能なガラス板モジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板上に配置される加熱線と、
前記ガラス板上に配置され、前記配線が直接または接続端子を介して接合され、前記加熱線に電力を供給する給電部と、
を備え、
前記給電部には、前記配線を介して外力が作用するおそれがあり、
前記加熱線及び前記給電部は、前記ガラス板より熱膨張率が大きい金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより一体的に形成され、
前記給電部の厚みが、前記加熱線の厚みよりも薄い、ガラス板モジュール。
【請求項2】
前記給電部の幅が前記加熱線の幅よりも広い、請求項1に記載のガラス板モジュール。
【請求項3】
前記加熱線は、前記給電部と同じ金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成されている、請求項1または2に記載のガラス板モジュール。
【請求項4】
前記加熱線を形成する前記導電性プリントの厚みが、4μm以上である、請求項3に記載のガラス板モジュール。
【請求項5】
前記加熱線の幅は、1~500μmである、請求項1から4のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項6】
前記給電部の幅は前記加熱線の幅より広く、前記給電部の厚さD1、前記加熱線の厚さD2としたとき、0.4≦D1/D2≦0.9を満たす、請求項5に記載のガラス板モジュール。
【請求項7】
前記加熱線は、前記ガラス板において、カメラによって撮影が行われる領域に配置されるカメラウインドウ用加熱線、またはデアイサ用加熱線である、請求項1から6のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項8】
電力を供給する配線が接合可能なガラス板モジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板上に配置され、電気素子と接続される導電性の接続部材と、
前記ガラス板上に配置され、前記配線が直接または接続端子を介して接合され、前記接続部材を介して前記電気素子に電力を供給する給電部と、
を備え、
前記給電部には、前記配線を介して外力が作用するおそれがあり、
前記接続部材及び前記給電部は、前記ガラス板より熱膨張率が大きい金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより一体的に形成され、
前記給電部の厚みが、前記接続部材の厚みよりも薄い、ガラス板モジュール。
【請求項9】
前記給電部の幅が前記接続部材の幅よりも広い、請求項8に記載のガラス板モジュール。
【請求項10】
前記接続部材は、前記給電部と同じ金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成されている、請求項8または9に記載のガラス板モジュール。
【請求項11】
前記接続部材を形成する前記導電性プリントの厚みが、4μm以上である、請求項10に記載のガラス板モジュール。
【請求項12】
前記接続部材の幅は、1~500μmである、請求項8から11のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項13】
前記給電部の幅は前記接続部材の幅より広く、前記給電部の厚さD1、前記接続部材の厚さD2としたとき、0.4≦D1/D2≦0.9を満たす、請求項12に記載のガラス板モジュール。
【請求項14】
前記電気素子は、調光素子または破損検出素子である、請求項8から13のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項15】
電力を受ける配線が接合可能なガラス板モジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板上に配置されるアンテナ導体と、
前記ガラス板上に配置され、前記配線が直接または接続端子を介して接合され、前記アンテナ導体から電力を受ける給電部と、
を備え、
前記給電部には、前記配線を介して外力が作用するおそれがあり、
前記アンテナ導体及び前記給電部は、前記ガラス板より熱膨張率が大きい金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより一体的に形成され、
前記給電部の厚みが、前記アンテナ導体の厚みよりも薄い、ガラス板モジュール。
【請求項16】
前記給電部の幅が前記アンテナ導体の幅よりも広い、請求項15に記載のガラス板モジュール。
【請求項17】
前記アンテナ導体は、前記給電部と同じ金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成されている、請求項15または16に記載のガラス板モジュール。
【請求項18】
前記アンテナ導体を形成する前記導電性プリントの厚みが、4μm以上である、請求項17に記載のガラス板モジュール。
【請求項19】
前記アンテナ導体の幅は、1~500μmである、請求項15から18のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項20】
前記給電部の幅は前記アンテナ導体の幅より広く、前記給電部の厚さD1、前記アンテナ導体の厚さD2としたとき、0.4≦D1/D2≦0.9を満たす、請求項19に記載のガラス板モジュール。
【請求項21】
前記金属微粒子は、銀または銅の微粒子を主成分とする、請求項1から20のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項22】
前記給電部上に配置される半田と、
前記半田を介して前記給電部に固定される端子と、
をさらに備えている、請求項1から21のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項23】
前記給電部上に配置される半田と、
前記半田を介して前記給電部に固定される前記配線と、
をさらに備えている、請求項1から21のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項24】
前記半田は、無鉛半田である、請求項22または23に記載のガラスモジュール。
【請求項25】
前記ガラス板は、クリアガラス、熱線吸収ガラス、またはソーダ石灰系ガラスである、請求項1から24のいずれかに記載のガラスモジュール。
【請求項26】
前記給電部が形成されているガラス板の厚みをDxとしたとき、前記ガラス板の給電部の破壊強度Hが以下の式を満たすことを特徴とする請求項25に記載のガラス板モジュール。
H≧76.8/Dx2
【請求項27】
前記給電部の厚さをD1としたとき、下記の式を満たす、請求項26に記載のガラス板モジュール。
D1≦(81.4-(76.8÷Dx2))/3.0
【請求項28】
前記給電部は、銀微粒子を含む導電性プリントからなり、前記導電性プリントの伝導率が2μΩ・cm以上、10Ω・cm以下である、請求項27に記載のガラス板モジュール。
【請求項29】
前記ガラス板上に積層されるマスク層をさらに備え、
前記マスク層上に前記給電部が配置されている、請求項1から28のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項30】
前記ガラス板は、強化ガラスではない、請求項1から29のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項31】
前記ガラス板は、外側ガラス板、内側ガラス板、及び前記外側ガラス板と前記内側ガラス板との間に配置される中間膜を備える合わせガラスによって形成されている、請求項1から30のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【請求項32】
前記内側ガラス板に切り欠きが形成されており、
前記給電部は、前記切り欠きを介して外部に露出する前記外側ガラス板の露出面に配置されている、請求項31に記載のガラス板モジュール。
【請求項33】
前記給電部は、前記内側ガラス板上に配置されている、請求項31に記載のガラス板モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車のガラス板に形成された導電性の給電部に接続される接続端子が開示されている。この給電部には、デフォッガ等の加熱線や、アンテナ導体が接続される。そして、接続端子には、ケーブルなどの配線が接続され、接続端子を介して給電部に給電が行うことで、加熱線によってガラス板を加熱したり、あるいは、アンテナ導体から給電部を介して電力を受けることで電波を受信するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2014-519149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような接続端子は、給電部に半田を介して固定される。しかしながら、接続端子に外力が作用すると、給電部やガラス板にクラックが生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、給電部に接続端子や配線が固定されたガラス板モジュールにおいて、接続端子や配線に外力が作用しても、ガラス板や給電部にクラックが生じるのを抑制することができるガラス板モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
項1.電力を供給する配線が接合可能なガラス板モジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板上に配置される加熱線と、
前記ガラス板上に配置され、前記配線が接続され、前記加熱線に電力を供給する給電部と、
を備え、
前記給電部は、前記ガラス板より熱膨張率が大きい金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成され、
前記給電部の厚みが、前記加熱線の厚みよりも薄い、ガラス板モジュール。
【0007】
項2.前記給電部の幅が5mm以上である、項1に記載のガラス板モジュール。
【0008】
項3.前記加熱線は、前記給電部と同じ金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成されている、項1または2に記載のガラス板モジュール。
【0009】
項4.前記加熱線を形成する前記導電性プリントの厚みが、3μm以上である、項3に記載のガラス板モジュール。
【0010】
項5.前記加熱線の幅は、0.2mm以上3.0mm以下である、項1から4のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0011】
項6.前記給電部の幅は前記加熱線の幅より広く、前記給電部の厚さD1、前記加熱線の厚さD2としたとき、0.4≦D1/D2≦0.9を満たす、項5に記載のガラス板モジュール。
【0012】
項7.前記加熱線は、前記ガラス板において、カメラによって撮影が行われる領域に配置されるカメラウインドウ用加熱線、またはデアイサ用加熱線である、項1から6のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0013】
項8.電力を供給する配線が接合可能なガラス板モジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板上に配置され、電気素子と接続される導電性の接続部材と、
前記ガラス板上に配置され、前記配線が接続され、前記接続部材を介して前記電気素子に電力を供給する給電部と、
を備え、
前記給電部は、前記ガラス板より熱膨張率が大きい金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成され、
前記給電部の厚みが、前接続部材の厚みよりも薄い、ガラス板モジュール。
【0014】
項9.前記給電部の幅が5mm以上である、項8に記載のガラス板モジュール。
【0015】
項10.前記接続部材は、前記給電部と同じ金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成されている、項8または9に記載のガラス板モジュール。
【0016】
項11.前記接続部材を形成する前記導電性プリントの厚みが、3μm以上である、項10に記載のガラス板モジュール。
【0017】
項12.前記接続部材の幅は、0.2mm以上3.0mm以下である、項8から11のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0018】
項13.前記給電部の幅は前記接続部材の幅より広く、前記給電部の厚さD1、前記接続部材の厚さD2としたとき、0.4≦D1/D2≦0.9を満たす、項12に記載のガラス板モジュール。
【0019】
項14.前記電気素子は、調光素子または破損検出素子である、項8から13のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0020】
項15.電力を受ける配線が接合可能なガラス板モジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板上に配置されるアンテナ導体と、
前記ガラス板上に配置され、前記配線が接続され、前記アンテナ導体から電力を受ける給電部と、
を備え、
前記給電部は、前記ガラス板より熱膨張率が大きい金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成され、
前記給電部の厚みが、前記アンテナ導体の厚みよりも薄い、ガラス板モジュール。
【0021】
項16.前記給電部の幅が5mm以上である、項15に記載のガラス板モジュール。
【0022】
項17.前記アンテナ導体は、前記給電部と同じ金属微粒子を主成分とする導電性プリントにより形成されている、項15または16に記載のガラス板モジュール。
【0023】
項18.前記アンテナ導体を形成する前記導電性プリントの厚みが、3μm以上である、項17に記載のガラス板モジュール。
【0024】
項19.前記アンテナ導体の幅は、0.3mm以上3.0mm以下である、項15から18のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0025】
項20.前記給電部の幅は前記アンテナ導体の幅より広く、前記給電部の厚さD1、前記アンテナ導体の厚さD2としたとき、0.4≦D1/D2≦0.9を満たす、項19に記載のガラス板モジュール。
【0026】
項21.前記金属微粒子は、銀または銅の微粒子を主成分とする、項1から20のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0027】
項22.前記金属微粒子は、銀または銅の微粒子を主成分とする、項21に記載のガラス板モジュール。
【0028】
項23.前記給電部上に配置される半田と、
前記半田を介して前記給電部に固定される端子と、
をさらに備えている、項1から22のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0029】
項24.前記給電部上に配置される半田と、
前記半田を介して前記給電部に固定される前記配線と、
をさらに備えている、項1から22のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0030】
項25.前記半田は、無鉛半田である、項23または24に記載のガラスモジュール。
【0031】
項26.前記ガラス板は、クリアガラス、熱線吸収ガラス、またはソーダ石灰系ガラスである、項1から25のいずれかに記載のガラスモジュール。
【0032】
項27.前記給電部が形成されているガラス板の厚みをDxとしたとき、前記ガラス板の給電部の破壊強度Hが以下の式を満たすことを特徴とする項26に記載のガラス板モジュール。
H≧76.8/Dx2
【0033】
項28.前記給電部の厚さをD1としたとき、下記の式を満たす、項27に記載のガラス板モジュール。
D1≦(81.4-(76.8÷Dx2))/3.0
【0034】
項29.前記給電部は、銀微粒子を含む導電性プリントからなり、前記導電性プリントの伝導率が2μΩ・cm以上、10Ω・cm以下である、項28に記載のガラス板モジュール。
【0035】
項30.前記ガラス板上に積層されるマスク層をさらに備え、
前記マスク層上に前記給電部が配置されている、項1から29のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0036】
項31.前記ガラス板は、強化ガラスではない、項1から30のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0037】
項32.前記ガラス板は、外側ガラス板、内側ガラス板、及び前記外側ガラス板と前記内側ガラス板との間に配置される中間膜を備える合わせガラスによって形成されている、項1から31のいずれかに記載のガラス板モジュール。
【0038】
項33.前記内側ガラス板に切り欠きが形成されており、
前記給電部は、前記切り欠きを介して外部に露出する前記外側ガラス板の露出面に配置されている、項32に記載のガラス板モジュール。
【0039】
項34.前記給電部は、前記内側ガラス板上に配置されている、項32に記載のガラス板モジュール。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、給電部やガラス板にクラックが生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明に係るウインドシールドの一実施形態を示す平面図である。
図2図1の断面図である。
図3】合わせガラスの断面図である。
図4】車載システムの概略構成を示すブロック図である。
図5】加熱体を示す平面図である。
図6】加熱体の給電部付近の断面図である。
図7】加熱体のスクリーン印刷を示す断面図である。
図8】リング曲げ試験の概要を示す図である。
図9】ガラス板の種類毎の給電部の膜厚と破壊応力との関係を示すグラフである。
図10】ガラス板の厚みの2乗の逆数と破壊応力との関係を示すグラフである。
図11】ガラス板の厚みと給電部の厚みとの関係を示すグラフである。
図12】加熱体の配置の他の例を示す断面図である。
図13】アンテナを配置したウインドシールドの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
まず、図1及び図2を用いて、本実施形態に係るウインドシールドの構成について説明する。図1はウインドシールドの平面図、図2図1の断面図である。なお、説明の便宜のため、図1の上下方向を「上下」、「垂直」、「縦」と、図1の左右方向を「左右」と称することとする。図1は、車内側から見たウインドシールドを例示している。すなわち、図1の紙面奥側が車外側であり、図1の紙面手前側が車内側である。
【0043】
このウインドシールドは、略矩形状の合わせガラス10を備えており、傾斜状態で車体に設置されている。そして、この合わせガラス10の車内側を向く内面130には、車外からの視野を遮蔽するマスク層110が設けられており、撮影装置2は、このマスク層110により車外から見えないように配置されている。但し、撮影装置2は、車外の状況を撮影するためのカメラである。そのため、マスク層110には撮影装置2と対応する位置に撮影窓(開口)113が設けられ、この撮影窓113を介して、車内に配置された撮影装置2は、車外の状況を撮影可能となっている。
【0044】
撮影装置2には画像処理装置3が接続しており、撮影装置2により取得された撮影画像は、この画像処理装置3で処理される。撮影装置2及び画像処理装置3は車載システム5を構成しており、この車載システム5は、画像処理装置3の処理に応じて様々な情報を乗車者に提供することができる。
【0045】
また、ウインドシールドの車内側の面には、撮影窓113と対応する領域に、後述するように、加熱体6が配置されており、ウインドシールドにおいて撮影窓113に対応する領域の防曇及び解氷を行うようになっている。以下、各構成要素について説明する。
【0046】
<1.合わせガラス>
図3は合わせガラスの断面図である。同図に示すように、この合わせガラス10は、外側ガラス板11及び内側ガラス板12を備え、これらガラス板11、12の間に樹脂製の中間膜3が配置されている。以下、これらの構成について説明する。
【0047】
<1-1.ガラス板>
まず、外側ガラス板11及び内側ガラス板12から説明する。外側ガラス板11及び内側ガラス板12は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、これらのガラス板11、12は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板11により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板12により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの一例を示す。
【0048】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al23:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23):0.08~0.14質量%
【0049】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl23)をT-Fe23、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0050】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al23:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
23:0~5質量%
Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23):0.02~0.03質量%
【0051】
本実施形態に係る合わせガラスの厚みは特には限定されないが、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、例として2.1~6mmとすることができ、軽量化の観点からは、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、2.4~3.8mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板11と内側ガラス板12との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板のそれぞれの厚みは、特には限定
されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みを決定することができる。
【0052】
外側ガラス板11は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、例えば、この合わせガラスを自動車のウインドシールドとして用いる場合には、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板11の厚みは1.8~2.3mmとすることが好ましく、1.9~2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0053】
内側ガラス板12の厚みは、外側ガラス板11と同等にすることができるが、例えば、合わせガラスの軽量化のため、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.6~2.0mmであることが好ましく、0.8~1.6mmであることが好ましく、1.0~1.4mmであることが特に好ましい。更には、0.8~1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板12についても、何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0054】
ここで、ガラス板(合わせガラス)1が湾曲している場合の厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、ガラス板の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線S上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にガラス板の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでガラス板の端部を挟持して測定する。なお、ガラス板が平坦な場合でも、湾曲している場合と同様に測定することができる。
【0055】
後述するように、合わせガラス1には、加熱体6に給電するための給電部64,65が設けられるが、これら給電部64,65への接続端子や配線の取付には、少なくとも9mm2の領域が必要である。そして、配線には力が加わることから、この領域に50Nの力が加わったときに、ガラスが破損しない程度の破壊強度をガラス板が有することが好ましい。これは、ドイツの自動車の規格の試験(Test specification of the AK2.1 of German Car Manufacturer)に基づく。
【0056】
具体的には、合わせガラスのうち、給電部64,65が設けられる外側ガラス板11または内側ガラス板12の厚みをDx(mm)としたとき、これらのガラス板の破壊強度H(MPa)が以下の式を満たすことが好ましい。
H≧76.8/Dx2 (1)
【0057】
<1-2.中間膜>
中間膜3は、少なくとも一層で形成されており、一例として、図3に示すように、軟質のコア層131を、これよりも硬質のアウター層132で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、コア層131と、外側ガラス板11側に配置される少なくとも1つのアウター層132とを有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層131と、外側ガラス板11側に配置される1つのアウター層132を含む2層の中間膜3、またはコア層131を中心に両側にそれぞれ2層以上の偶数のアウター層132を配置した中間膜3、あるいはコア層131を挟んで一方に奇数のアウター層132、他方の側に偶数のアウター層132を配置した中間膜3とすることもできる。なお、アウター層132を1つだけ設ける場合には、上記のように外側ガラス板11側に設けているが、これは、車外や屋外からの外力に対する耐破損性能を向上するためである。また、アウター層132の数が多いと、遮音性能も高くなる。
【0058】
コア層131はアウター層132よりも軟質であるかぎり、その硬さは特には限定されない。各層131,132を構成する材料は、特には限定されないが、例えば、ヤング率を基準として材料を選択することができる。具体的には、周波数100Hz,温度20度において、1~20MPaであることが好ましく、1~18MPaであることがさらに好ましく、1~14MPaであることが特に好ましい。このような範囲にすると、概ね3500Hz以下の低周波数域で、STLが低下するのを防止することができる。一方、アウター層132のヤング率は、後述するように、高周波域における遮音性能の向上のために、大きいことが好ましく、周波数100Hz,温度20度において560MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上、880MPa以上、または1300MPa以上とすることができる。一方、アウター層132のヤング率の上限は特には限定されないが、例えば、加工性の観点から設定することができる。例えば、1750MPa以上となると、加工性、特に切断が困難になることが経験的に知られている。
【0059】
また、具体的な材料としては、アウター層132は、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層131は、例えば、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0060】
一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、それらの条件から選ばれる少なくとも1つを適切に調整することにより、同じポリビニルブチラール樹脂であっても、アウター層132に用いる硬質なポリビニルブチラール樹脂と、コア層131に用いる軟質なポリビニルブチラール樹脂との作り分けが可能である。さらに、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化によっても、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層132がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層131には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-へプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。なお、所定のヤング率が得られる場合は、上記樹脂等に限定されることはい。
【0061】
また、中間膜3の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。また、コア層131の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層132の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜3の総厚を一定とし、この中でコア層131の厚みを調整することもできる。
【0062】
コア層131及びアウター層132の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によって合わせガラスの断面を175倍に拡大して表示する。そして、コア層131及びアウター層132の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値をコア層131、アウター層132の厚みとする。例えば、合わせガラスの拡大写真を撮影し、このなかでコア層やアウター層132を特定して厚みを測定する。
【0063】
なお、中間膜3のコア層131、アウター層132の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜3のコア層131やアウター層132の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。中間膜3が楔形の場合、外側ガラス板及び内側ガラス板は、平行に配置されないが、このような配置も本発明におけるガラス板に含まれる物とする。すなわち、本発明においては、例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが大きくなるコア層131やアウター層132を用いた中間膜3を使用した時の外側ガラス板と内側ガラス板の配置を含む。
【0064】
中間膜3の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜3は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
【0065】
<2.マスク層>
次に、マスク層110について説明する。図1及び図2に例示されるように、本実施形態では、マスク層110は、合わせガラス10の車内側の内面(内側ガラス板12の内面)130に積層され、合わせガラス10の周縁部に沿って形成されている。具体的には、図1に例示されるように、本実施形態に係るマスク層110は、合わせガラス10の周縁部に沿う周縁領域111と、合わせガラス10の上辺部から下方に矩形状に突出した突出領域112とに分けることができる。周縁領域111は、ウインドシールドの周縁部からの光の入射を遮蔽する。一方、突出領域112は、車内に配置される撮影装置2を車外から見えないようにする。
【0066】
但し、撮影装置2の撮影範囲をマスク層110が遮蔽してしまうと、撮影装置2によって車外前方の状況を撮影することができなくなってしまう。そのため、本実施形態では、マスク層110の突出領域112に、撮影装置2が車外の状況を撮影可能なように、当該撮影装置2に対応する位置に台形状の撮影窓113が設けられている。すなわち、撮影窓113は、マスク層110より面方向内側の非遮蔽領域120から独立して設けられる。また、この撮影窓113は、マスク層110の材料が積層されない領域であり、合わせガラスが上述した可視光の透過率を有することで、車外の状況を撮影可能となっている。なお、撮影窓113の大きさは特には限定されないが、例えば、7000mm2以上にすることができる。
【0067】
マスク層110は、上記のように、内側ガラス板12の内面に積層する以外に、例えば、外側ガラス板11の内面、内側ガラス板12の外面に積層することもできる。また、外側ガラス板11の内面と内側ガラス板12の内面の2箇所に積層することもできる。
【0068】
次に、マスク層110の材料について説明する。このマスク層110の材料は、車外からの視野を遮蔽可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されても良く、例えば、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックを用いてもよい。
【0069】
マスク層110の材料に黒色のセラミックが選択された場合、例えば、内側ガラス板12の内面130上の周縁部にスクリーン印刷等で黒色のセラミックを積層し、内側ガラス板12と共に積層したセラミックを加熱する。これによって、内側ガラス板12の周縁部にマスク層110を形成することができる。また、黒色のセラミックを印刷する際に、黒色のセラミックを部分的に印刷しない領域を設ける。これによって、撮影窓113を形成することができる。なお、マスク層110に利用するセラミックは、種々の材料を利用することができる。例えば、以下の表1に示す組成のセラミックをマスク層110に利用することができる。
【0070】
【表1】
*1,主成分:酸化銅、酸化クロム、酸化鉄及び酸化マンガン
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0071】
<3.車載システム>
次に、図4を用いて、撮影装置(情報取得装置)2及び画像処理装置3を備える車載システム5について説明する。図4は、車載システム5の構成を例示する。図4に例示されるように、本実施形態に係る車載システム5は、上記撮影装置2と、当該撮影装置2に接続される画像処理装置3と、を備えている。
【0072】
画像処理装置3は、撮影装置2により取得された撮影画像を処理する装置である。この画像処理装置3は、例えば、ハードウェア構成として、バスで接続される、記憶部31、制御部32、入出力部33等の一般的なハードウェアを有している。ただし、画像処理装置3のハードウェア構成はこのような例に限定されなくてよく、画像処理装置3の具体的なハードウェア構成に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の追加、省略及び追加が可能である。
【0073】
記憶部31は、制御部32で実行される処理で利用される各種データ及びプログラムを記憶する(不図示)。記憶部31は、例えば、ハードディスクによって実現されてもよいし、USBメモリ等の記録媒体により実現されてもよい。また、記憶部31が格納する当該各種データ及びプログラムは、CD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体から取得されてもよい。更に、記憶部31は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0074】
上記のとおり、合わせガラス10は、垂直方向に対して傾斜姿勢で配置され、かつ、湾曲している。そして、撮影装置2は、そのような合わせガラス10を介して車外の状況を撮影する。そのため、撮影装置2により取得される撮影画像は、合わせガラス10の姿勢、形状、屈折率、光学的欠陥等に応じて、変形している。また、撮影装置2のカメラレンズに固有の収差も加わる。そこで、記憶部31には、このような合わせガラス10およびカメラレンズの収差によって変形した画像を補正するための補正データが記憶されていてもよい。
【0075】
制御部32は、マイクロプロセッサ又はCPU(Central Processing Unit)等の1又は複数のプロセッサと、このプロセッサの処理に利用される周辺回路(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース回路等)と、を有する。ROM、RAM等は、制御部32内のプロセッサが取り扱うアドレス空間に配置されているという意味で主記憶装置と呼ばれてもよい。制御部32は、記憶部31に格納されている各種データ及びプログラムを実行することにより、画像処理部321として機能する。
【0076】
画像処理部321は、撮影装置2により取得される撮影画像を処理する。撮影画像の処理は、実施の形態に応じて適宜選択可能である。例えば、画像処理部321は、パターンマッチング等によって当該撮影画像を解析することで、撮影画像に写る被写体の認識を行ってもよい。本実施形態では、撮影装置2は車両前方の状況を撮影するため、画像処理部321は、更に、当該被写体認識に基づいて、車両前方に人間等の生物が写っていないかどうかを判定してもよい。そして、車両前方に人物が写っている場合には、画像処理部321は、所定の方法で警告メッセージを出力してもよい。また、例えば、画像処理部321は、所定の加工処理を撮影画像に施してもよい。そして、画像処理部321は、画像処理装置3に接続されるディスプレイ等の表示装置(不図示)に当該加工した撮影画像を出力してもよい。
【0077】
入出力部33は、画像処理装置3の外部に存在する装置とデータの送受信を行うための1又は複数のインタフェースである。入出力部33は、例えば、ユーザインタフェースと接続するためのインタフェース、又はUSB(Universal Serial Bus)等のインタフェースである。なお、本実施形態では、画像処理装置3は、当該入出力部33を介して、撮影装置2と接続し、当該撮影装置2により撮影された撮影画像を取得する。
【0078】
このような画像処理装置3は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置が用いられてもよい。
【0079】
また、上記撮影装置2は、図示を省略するブラケットに取り付けられ、このブラケットが、マスク層に110取り付けられる。したがって、この状態で、撮影装置2のカメラの光軸が撮影窓113を通過するように、撮影装置2のブラケットへの取付、及びブラケットのマスク層110への取付を調整する。また、ブラケットには撮影装置2を覆うように、図示を省略するカバーが取り付けられる。したがって、撮影装置2は、合わせガラス10、ブラケット、及びカバーで囲まれた空間内に配置され、車内側から見えないようなるとともに、車外側からも撮影窓113を通して撮影装置2の一部しか見えないようになっている。そして、撮影装置2と上述した入出力部33とは、図示を省略するケーブルで接続され、このケーブルはカバーから引き出され、車内の所定の位置に配置された画像処理装置3に接続されている。
【0080】
<4.加熱体の概要>
次に、加熱体6について、図5を参照しつつ説明する。図5に示すように、加熱体6は、第1加熱線61、第2加熱線62、接続線63、及び2個の給電部64,65によって構成されており、第1加熱線61及び第2加熱線62が、撮影窓113を通過するように、内側ガラス板12の車内側の面に配置されている。より詳細に説明すると、第1加熱線61及び第2加熱線62は、並列に接続され撮影窓113を通過するように配置されている。第1加熱線61は、撮影窓113の上部を通過するように配置され、第2加熱線62は、撮影窓113の下部を通過するように配置されている。
【0081】
第1加熱線61は、撮影窓113を通過し、平行に配置された複数の主部611と、撮影窓113の外側に配置され、隣接する主部611の端部同士を連結する複数の連結部612とを組み合わせることで構成されている。すなわち、第1加熱線61は、複数の主部611と連結部612とを組み合わせることで、撮影窓113を複数回往復するように配置される。隣接する主部611の間隔は特には限定されないが、例えば、1mm以上とすることが好ましく、5mm以上とすることがさらに好ましい。特に、第1加熱線61の主部611の間隔は、線幅の20倍以上であることが好ましい。これは、第1加熱線61の線幅と間隔のバランスのためである。例えば、線幅を小さくすると、抵抗値が上がり、一定電圧下では十分な発熱量が得られないからであり、第1加熱線61の間隔を小さくすると、撮影装置2からの視界を遮ることになり、視野に影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0082】
連結部612は、U字状に形成されているが、全体として曲線状に形成することもできる。これは、連結部612に鋭利な角部(屈曲部)が設けられていると、異常発熱を生じるおそれがあることによる。
【0083】
また、第1加熱線61の両端部には、第1給電部64及び第2給電部65が、上記接続線63を介して連結されている。各給電部64,65は、矩形状に形成されており、各給電部64,65上に、後述するように半田を介して端子が固定される。そして、各端子には、例えば、10~50Vの電源電圧が印加される。
【0084】
第1給電部64及び第2給電部65は、撮影窓113から離れた位置に配置されているが、いずれもマスク層110上に配置されている。また、接続線63もマスク層110上に配置されている。
【0085】
第2加熱線62も、第1加熱線61と同様に構成されている。すなわち、撮影窓113を通過し、平行に配置された複数の主部621と、撮影窓113の外側に配置され、隣接する主部621の端部同士を連結する複数の屈曲部622とを組み合わせることで構成されている。第2加熱線62も、複数の主部621と屈曲部622とを組み合わせることで、撮影窓113を複数回往復するように配置される。なお、第2加熱線62の主部621は、第1加熱線61の主部611と平行に配置されている。そして、第2加熱線62の両端部は、第1給電部64及び第2給電部65に、上記接続線63を介して連結されている。したがって、第1加熱線61と第2加熱線62とは、2つの給電部64,65に対して並列に接続されており、それぞれが並列回路を構成している。例えば、撮影窓113の面積が大きい場合には、主部611,612の長さが長くなるため、主部の発熱量が小さくなおそれがある。そこで、複数の並列回路で、加熱体6を構成すると、第1加熱線61と第2加熱線62の長さが短くなるため、十分な発熱量を得ることができる。なお、印加電圧が一定の場合、抵抗値を小さくすることで十分な電流を流すことができる。その結果、十分な発熱量を得ることができる。
【0086】
また、接続線63の長さを長くすると、この部分の抵抗が大きくなるため、発熱量を調整することができる。すなわち、第1及び第2加熱線61,62における発熱量を小さくするように調整することができる。
【0087】
各加熱線61,62の線幅は、例えば、1~500μmであることが好ましく、1~400μmであることがさらに好ましい。更には、1~300μmであることが好ましい。これは、線幅が小さいほど、視認しがたくなるため、撮影窓113には適しているからである。特に、各加熱線61,62の主部611,621の線幅を上記の範囲にすることが好ましい。その一方で、線幅が小さすぎると、製造できないおそれがある。また、並列回路の印加電圧が一定の場合、線幅が小さすぎると、抵抗が大きくなり、その結果、回路に流れる電流が小さくなり、十分に加熱することができない。なお、この線幅は、各加熱線61,62の断面形状のうち、最も大きい部分の線幅のことをいう。例えば、加熱線61,62の断面形状が台形である場合には、下辺の幅が線幅となり、加熱線61,62の断面形状が円形の場合には、直径が線幅となる。加熱線61,62の幅は、例えば、VHX-200(キーエンス社製)などのマイクロスコープを1000倍にして測定することができる。
【0088】
また、加熱線61,62及び接続線63の厚みは、4~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがさらに好ましい。これは、4μm未満であると、例えば、マスク層110上に加熱線61,62や接続線63を印刷したとき、後述するように加熱線等61~63に含まれる金属微粒子がマスク層110に吸収されるおそれがあり、これによって、加熱線等61~63の厚みが変化し、均一な抵抗値が得られない可能性が有ることによる。一方、20μmを超えると、抵抗値が低くなりすぎるため、局所的にガラス板が破損する可能性があることによる。
【0089】
加熱体6を構成する加熱線61,62、接続線63、及び給電部64,65は、銀によって形成されている。そして、加熱線61,62、接続線63、及び給電部64,65は、例えば、スクリーン印刷などの印刷によって形成される。すなわち、金属微粒子として銀を含有する銀ペーストなどを印刷によって塗布し、その後、乾燥することで、加熱線61,62、接続線63、及び給電部64,65を形成する。なお、加熱体6は、全ての部分を印刷などで一体的に形成してもよいが、異なる材料で形成することもできる。例えば、給電部64,65のみを銀で形成し、加熱線61,62、接続線63を銀とは異なる材料で形成することもできる。例えば、加熱線61,62、接続線63を、銅(またはスズメッキされた銅)、金、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、タングステン、など、種々の金属微粒子を含有する材料で形成することができる。このうち、特に、電気抵抗率が3.0×10-8Ωm以下の材料である、銅、金、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0090】
また、銀金属微粒子として給電部64,65を形成する場合には、銀ペーストによる給電部64,65の伝導率が2μΩ・cm以上、10Ω・cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、2μΩ・cm以上、4Ω・cm以下であることが好ましい。銀プリントの熱収縮率差は、銀の含有量に大きく依存する。また、抵抗率は、銀の含有率に依存する。したがって、上記のような伝導率であることが好ましい。
【0091】
<5.給電部における端子の配置>
次に、給電部64,65における端子の配置について説明する。図6に示すように、給電部64,65には、半田7を介して端子8が固定されている。端子8は、板状の設置部81と、この設置部81の端部から起立する起立部82と、起立部82の上端から設置部81とほぼ並行に延びる延在部83とを備えており、これらは板状の導電材料によって一体的に形成されている。延在部83の両側には板状の固定部831が設けられており、これら固定部831によって導電ケーブル9を加締めるように構成されている。したがって、導電ケーブルによって供給される電力が端子8、及び半田7を介して給電部64,65に給電され、これによって加熱線61,62が発熱する。
【0092】
半田7は、無鉛半田及び有鉛半田の何れでもよいが無鉛半田であることが好ましい。無鉛半田を用いる場合には、例えば、Sn含有量が90%以上の無鉛半田は硬く、合わせガラス板に接合するとクラックが発生する可能性がある。そのような場合であっても、インジウム系やビスマス系の柔らかい無鉛半田を用いて接合するとよい。なお、無鉛半田は有鉛半田に比べて延性が低いので、ガラス板に加わる力が大きくなる。そのため、無鉛半田を用いると、有鉛半田に比べてガラス板にクラックが生じやすい。このことから、本実施形態では、後述するように、無鉛半田を用いると、特にクラック防止効果が大きい。
【0093】
本実施形態では、給電部64,65は、矩形状に形成されているが、端子8の設置部81よりも大きく形成されていれば、その形状は特には限定されない。また、給電部64,65の厚みは、加熱線61,62及び接続線63よりも薄く形成されている。より詳細に説明すると、給電部64,65の厚みは、例えば、3~15μmであることが好ましく、3~10μmであることがさらに好ましい。一方、加熱線61,62及び接続線63の厚みは、給電部64,65よりも厚く、例えば、4~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがさらに好ましい。なお、以下で説明する給電部64,65と加熱線61,62との関係は、給電部64,65と接続線63との関係にも適用することができる。
【0094】
給電部64,65の厚みが3μm未満であると、半田7に銀の微粒子が吸収されて、コネクタもしくはハーネスと接合することができないおそれがある。一方、給電部64,65の厚みが15μm以上では、加熱線61,62または接続線63によって生じる引張応力により、ガラスの破壊強度が低下し、必要なガラスの破壊強度を得られないおそれがある。
【0095】
また、給電部64,65の厚みをD1、接続線63(または加熱線61,62)の厚みをD2としたとき、D1は、D2よりも薄く形成されており、好ましくはD1/D2が0.4以上、0.9以下である。
【0096】
さらには、給電部64,65の厚みD1と、給電部64,65が設けられる内側ガラス板12または外側ガラス板11の厚みDxとの関係は、以下の式(2)を満たすことが好ましい。
D1≦(81.4-(76.8/Dx2))/3.0 (2)
【0097】
給電部64,65をスクリーン印刷で形成する場合には、例えば、図7に示すように、スクリーン91の周縁を支持する支持部92が、スクリーン91よりも高く形成されている。また、厚みの相違する給電部64,65と加熱線61~63とでは、スクリーン91の高さが相違している。そのため、スキージ93がスクリーン91の周縁を十分に押圧できないことから、給電部64,65の縁部は、中央部よりも高く形成される傾向にある。ここで、中央部とは、端子8の設置部81及び半田7が配置される部分であり、この部分の厚みが、上述した給電部64,65の厚みとなり、上述したD1となる。また、給電部64,65の縁部の厚みをD5と称することとする。上記のように、給電部64,65の縁部の厚みD5は中央部の厚みD1よりも大きいが、これらの厚みD1,D5の関係は、以下の式(3)を充足することが好ましい。
0.4≦D1/D5≦0.9 (3)
【0098】
D1/D5を0.4以上にすることで、端子8による抵抗値を確保でき、端子8での発熱を抑制することができる。一方、D1/D5を0.9以下にすることで、銀とガラス板との熱膨張の差によって発生する引っ張り応力を抑制することができる。
【0099】
上記のように構成された加熱体6は、ブラケット及びそのカバーによって覆われ、車内からは見えないようになっている。また、接続線63及び給電部64,65はマスク層110上に配置されているため、車外からも見えないようになっている。なお、加熱線の6全てがブラケット及びカバーによって覆われていなくてもよく、少なくとも撮影窓113に相当する部分が、ブラケット及びカバーによって覆われるようにしてもよい。あるいは、給電部64,65及び接続線63の一部のみがブラケットからはみ出してもよい。但し、車内から接触しないようにするには、加熱線6の全てがブラケットやカバーによって覆われていることが好ましい。なお、例えば、加熱線6の一部がブラケットからはみ出していても、カバーによって覆われていればよい。
【0100】
<6.ウインドシールドの製造方法>
次に、ウインドシールドの製造方法について説明する。まず、所定の形状に形成された外側ガラス板11及び内側ガラス板12の少なくとも一方にマスク層110を積層する。続いて、上述した加熱体6を印刷によって内側ガラス板12の車内側の面(マスク層110を含む)に形成する。これ続いて、これらのガラス板11,12が湾曲するように成形する。この方法は、特には限定されないが、例えば、公知のプレス成形により行うことができる。あるいは、成形型上に外側ガラス板11及び内側ガラス板12を重ねて配置した後、この成形型を加熱炉を通過させて加熱する。これによって、これらのガラス板11,12を自重により湾曲させることができる。
【0101】
こうして、外側ガラス板11及び内側ガラス板12が成形されると、これに続いて、中間膜3を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟んだ積層体を形成する。なお、中間膜3は、ガラス板11,12よりも大きい形状とする。
【0102】
次に、この積層体を、ゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能であり、次の方法を採ることもできる。例えば、上記積層体をオーブンにより45~65℃で加熱する。次に、この積層体を0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。続いて、この積層体を、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0103】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた積層体を、オートクレーブにより、例えば、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で135℃の条件で本接着を行うことができる。以上の予備接着及び本接着を通して、中間膜3が各ガラス板11,12に接着される。続いて、外側ガラス板11及び内側ガラス板12からはみ出した中間膜3を切断する。
【0104】
その後、半田7によって端子8を各給電部64,65に固定する。こうして、ウインドシールドが完成する。
【0105】
<7.特徴>
以上説明したウインドシールドによれば、次のような効果を得ることができる。
(1)加熱線61,62が、撮影窓113を通過するように設けられているため、撮影窓113において、合わせガラス10が曇るのを防止することができる。また、加熱線61,62によって合わせガラス10の解氷を行うこともできる。そのため、撮影装置2により、撮影窓113を介して光を受光する際、撮影窓113の曇りによって、光の通過に支障を来たし、測定が正確に行えないなどの不具合を防止することができる。その結果、情報の処理を正確に行うことができる。
【0106】
(2)加熱体6がブラケット及びそのカバーによって覆われるため、車内側から見えなくすることができる。また、搭乗者が加熱体6に接触するのを防止することができる。
【0107】
(3)加熱線61,62は、外部から引張の力が加わるおそれはないが、給電部64,65には、給電のための接続端子や配線が接合され、これらに外力が作用するおそれがあり、これによって給電部やガラス板にクラックが生じるおそれがある。そのため、給電部64,65は加熱線61,62に比べて、高いガラス破壊強度が必要である。そこで、本実施形態では、給電部64,65の厚さD1を加熱線64,65の厚さD2より薄くしている。給電部64,65は、銀などの金属微粒子が含有されており、ガラス板10との熱収縮率の差が大きいため、給電部の厚みが大きいと、ガラス板10に生じる引張応力を減少し、ガラス板10の破壊強度が低下するという問題がある。
【0108】
そこで、本実施形態では、給電部64,65の厚みを加熱線61,62よりも小さくすることで、ガラス板10に生じる引張応力を減少し、給電部64,65と対応するガラス板10の破壊強度を向上している。その結果、給電部64,65に外力が作用しても、ガラス板10や給電部64,65にクラックが生じるのを抑制することができる。
【0109】
特に、給電部64,65の厚みD1、及び最も細い部分の加熱線61,62(または接続線63)の厚みD2の関係について、D1/D2が0.4以上0.9以下であることが好ましい。その理由は、次の通りである。給電部64,65は加熱線61,62より幅が広いため、単位幅当たりの電流密度が低くなり、発熱が抑えられる。しかしながら、加熱線61,62との接合部では電流密度が高まる。そのため、D1/D2の値が0.4より小さいと、給電部64,65と加熱線61,62との接合部分の厚みの差が大きくなって発熱するため、エネルギーロスが生じるおそれがある。一方、D1/D2が0.9より大きいと、給電部64,65の厚みが大きすぎるため、上記のように、給電部64,65での破壊強度が小さくなり、ガラス板10において、クラックが生じるおそれがある。
【0110】
(4)給電部64,65の幅が、加熱線61,62や接続線63よりも大きいため、発熱が不要な給電部64,65における発熱量を低減し、加熱線61,62の発熱を高めることができるため、撮影窓113の発熱を効率的に行うことができる。
【0111】
また、給電部64,65は、銀などの金属微粒子を含有する導電性プリントによって形成されている。給電部64,65を含む加熱体6は、ガラス板の成形前に印刷され、ガラス成形時に内側ガラス板12に固着するが、常温まで冷却されると、ガラス板との熱膨張が異なるため、内側ガラス板12との界面に熱応力が発生する。その結果、給電部64,65が形成されている箇所において、内側ガラス板12の破壊強度が弱くなる。
【0112】
上記のように、本実施形態では、給電部64,65の厚みを、加熱線61,62よりも小さくしているが、以下の式(4)に示すように、給電部64,65の厚みd(上述したD1)を小さくすると、ガラス板の反り(1/RDTE)を小さくすることができるため、ガラス板の表面に発生する引張応力を小さくすることができる。その結果、給電部64,65が形成されている部分のガラス板12の破壊強度の低下を抑えることができる。
【数1】
但し、Ef:銀のヤング率、Es:ガラス板のヤング率、νf:銀のポアソン比、νS:ガラス板のポアソン比、d:給電部の厚さ、D:ガラス板の厚さ、αf:銀の熱膨張係数、αs:ガラス板の熱膨張係数、ΔT:給電部が固着したときの温度から室温までの温度差、1/RDTE:給電部とガラス板界面の曲率
【0113】
(5)ところで、上記のような撮影窓113に配置される加熱線61,62は、カメラの視野を阻害しないようにするために、線幅を補足するとともに、一定の発熱量を確保するために、抵抗を低くする必要がある。そのため、加熱線61,62の厚みを厚くする必要がある。
【0114】
また、後述するように、デアイサとして加熱線を用いる場合にも、単位面積当たりの発熱量を確保するために、線幅を補足し、且つ一定の電流で十分に加熱できるように抵抗値を低くする必要がある。そのため、上記と同様に、加熱線の厚みを厚くする必要がある。
【0115】
さらに、後述するように、アンテナ導体においても、線幅が広いと乗員に視認されやすくなるため、線幅が細いことが好ましい。しかし、アンテナ導体のインピーダンスを調整するために、アンテナ導体の厚みを厚くする必要がある。
【0116】
しかしながら、スクリーン印刷で加熱線61,62、接続線63、及び給電部64,65(以下、加熱線等という)を形成する場合は、スクリーンのメッシュの高さや厚みによって印刷される加熱線等の厚みが定まるため、厚みを変えることができなかった。
【0117】
そこで、本発明者は、スクリーン印刷において、線幅が狭い加熱線等においては、スクリーンに付与される乳剤の厚みによって加熱線等の厚みを制御できることを見出した。すなわち、スクリーンの上面に乳剤を付与することで、スクリーンの厚みを制御し、これによって加熱線等の厚みを制御する。したがって、例えば、乳剤の厚みを厚くすれば、形成される印刷物の厚みを厚くすることができ、乳剤の厚みを薄くする、あるいは乳剤を付与しなければ、印刷物の厚みを薄くすることができる。これにより、給電部64,65と加熱線等の厚みを異ならせることができる。
【0118】
なお、スクリーン印刷以外の方法では、インクジェットプリンタを用いる方法がある。この手法では、ガラスとインクの濡れ性によって、印刷の厚みが定めるため、印刷される厚みの制御が難しい。これに対しては、インクを溶媒で希釈することで、導電性金属微粒子の濃度を調整することで、焼成後の厚みを調整することができる。これにより、加熱線等の厚みを薄くすることができる。一方、加熱線等の厚みを厚くしたい場合は、重ねて印刷するか、もしくは、希釈量が少ないインクを用いればよい。
【0119】
ここで、給電部64,65の厚み等について検討するため、以下の試験を行った。
【0120】
(A.試験1)
以下に示すように、厚みが1.8mmのソーダライム系ガラスからなるガラス板、またはこのガラス板に厚みが10μmのマスク層(組成は上記表1の通り)を積層したものを準備し、引張試験を行った。引張試験は、ガラス板上に銀(導電性金属微粒子)を含有するペーストまたは銅(導電性金属微粒子)を含有するペーストにより5mm×10mmの給電部を形成し、その給電部に対して、9mm2の大きさの無鉛半田を塗布した。この無鉛半田には配線を固定し、配線をガラス板に対して90°の角度で50Nの力を作用させて引っ張った。このとき、以下のように評価した。
A:ガラス板から給電部が剥離しない
B:給電部の一部が残るが、ガラス板との界面で給電部が剥離する
C:給電部が、ガラス板との界面またはマスク層から剥離する
D:給電部の下部のガラス板で、ガラスが破損して剥離する。
【0121】
結果は、以下の通りである。
【表2】
【0122】
以上の結果より、給電部の厚みは、3.0μm以上であることが好ましいことが分かった。なお、銀と銅とを比べると、銀の線熱膨張率が18.9μm/(m・K)であるのに対し、銅の熱膨張率は16.5μm/(m・K)である。したがって、銀の方が、熱膨張率が高いため、ガラス板の熱膨張率の差が大きくなりやすい。そのため、給電部を銀で形成した方が、クラック発生の可能性が高い。したがって、次に説明する試験2では、銀により給電部を形成した。特に、焼成後の金属含有率が95%の銀ペーストを用いた。なお、マクス層は、ガラス板との熱膨張率差が銀と比べて小さいため、マスク層による影響は無視できるものとしている。
【0123】
(B.試験2)
異なる厚みの3種類のガラス板を用いるともに、異なる厚みの銀による給電部を形成した。そして、この給電部に対し、試験1と同様に、無鉛半田を介して配線を接続した。但し、試験2ではマスク層を形成せず、ガラス板に直接給電部を形成した。このように準備されたサンプルに対し、上述した引張試験及びリング曲げ試験(ASTM-C1499-1)を施した。
【0124】
リング曲げ試験においては、図8に示すように直径が12mmの負荷リングを給電部上に配置し、ガラス板の下面に直径が60mmの支持リングを配置した。そして、応力速度を1MPa/secにて負荷リングで給電部を押圧し、ガラス板の破壊応力(破壊強度)を算出した。結果は、以下の通りである。
【0125】
【表3】
【0126】
図9は、表3から抽出した、給電部の膜厚と破壊強度との関係を示すグラフである。図9のグラフによれば、ガラスの種類にかかわらず、給電部の膜厚と破壊強度の関係がほぼ同じであることが分かった。したがって、ガラスの種類によって破壊強度が相違しないことが分かった。また、図9のグラフから、給電部の膜厚(以下のx)と破壊強度(以下のy)との関係は、以下の式(5)で表される。
y=-3.0025x+81.35 (5)
【0127】
図10は、表3から抽出した、ガラス板の厚みの2乗の逆数と、破壊強度の関係を示すグラフであり、さらに引張試験の結果も付している。図10によれば、ガラス板の厚みDxの2乗の逆数をxとし、破壊強度(H)をyとしたときの関係式y=76.8xを境界に、引張試験における給電部の剥離が見られた。すなわち、上述した式(1)を充足することで、給電部のガラス板からの剥離が抑制できることが分かった。
【0128】
また、式(1)と式(5)とから、上述した式(2)を導出することができる。すなわち、給電部の厚みとガラス板との関係を規定することができる。図11は、式(2)を示したものである。なお、上記の例では、焼成後の金属微粒子の含有量が95%の銀ペーストを用いているが、95%以下であっても、上記各式の関係を充足する。これは、り立つ。なぜなら、金属微粒子の含有量が少なくなると、熱膨張率を支配する金属が少なくなるため、熱膨張率が小さくなる傾向を示すからである。この点は、銀以外の金属微粒子を用いても同様である。例えば、銀は銅よりも熱膨張率が高いからである。
【0129】
<8.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0130】
<8-1>
加熱体6の配線パターンは、上記実施形態で示したものに限定されず、種々のパターンが可能である。例えば、第1及び第2加熱線61,62の主部611,621の数、連結部612,622の数、主部611,621の向き、接続線63の長さ、接続線63の向き、給電部64,65の位置などは、適宜変更することができる。また、上記実施形態では、2つの加熱線61,62を並列に接続しているが、3以上の加熱線を並列に接続することもできる。あるいは、1本の加熱線を給電部64,65に対して直列に接続することもできる。さらに、加熱線61,62、接続線63の線幅は同じでもよいし、例えば、加熱線61,62の連結部612,622及び接続線63を、主部611,621に対して大きくすることもできる。これにより、撮影窓113の加熱に寄与しない部分の発熱量を低下することができる。
【0131】
また、撮影窓113の形状は台形状以外でもよく、撮影装置2での撮影が可能であれば、適宜変更することができる。そして、撮影窓の形状が変われば、加熱体6の配線パターンも適宜、変更することができる。
【0132】
<8-2>
上記実施形態では、加熱体6の一部(給電部64,65、接続線63、及び連結部612,622)をマスク層110上に配置しているが、内側ガラス板12に直接配置することもできる。
【0133】
<8-3>
図12に示すように、加熱体6を外側ガラス板11の車内側の面に配置することもできる。この場合、内側ガラス板12の端部に切り欠き125を形成し、この切り欠き125から外側ガラス板11が外部に露出するようにする。そして、この露出部分に給電部6を配置すれば、端子が取り付けやすくなる。
【0134】
<8-4>
マスク層110の一部または全部を、合わせガラス10へ貼り付け可能な遮蔽フィルムで構成し、これによって車外からの視野を遮蔽することもできる。なお、遮蔽フィルムを内側ガラス板12の車外側の面に貼り付ける場合には、予備接着の前、または本接着の後に貼り付けを行うことができる。
【0135】
また、合わせガラス10において、光の通路の曇りを防止するという観点からすれば、必ずしもマスク層110は必要ではなく、光が通過する領域(撮影窓:情報取得領域)に加熱線6や防曇シート7が取り付けられていればよい。
【0136】
<8-5>
上記実施形態では、撮影窓113を加熱するための加熱線に本発明を適用しているが、ガラス板を加熱するものであれば、例えば、ウインドシールドに設けられるデアイサ、リアガラスに設けられるデフォッガ等を加熱線として、本発明を適用することができる。また、加熱線がデアイサ用加熱線の場合、合わせガラスにおける外側ガラス板11の車内側の面に、マスク層を形成し、このマスク層上にデアイサ用の加熱線を形成することができる。この場合、内側ガラス板12にはマスク層を形成しないようにすることができる。なお、加熱線等61~63は、合わせガラスではなく、単板のガラス板上に配置することができる。
【0137】
<8-6>
上記実施形態では、給電部64,65に電力を給電することで、加熱線61,62(及び接続線63)を発熱させているが、電力を供給する対象としては、加熱線等61~63以外に、調光素子、破損検出素子などの電気素子を用いることができる。このような電気素子を用いる場合は、加熱線等61~63と同様の構成の接続部材をガラス板1またはマスク層110上に配置し、この接続部材を介して給電部と電気素子とを接続する。したがって、接続部材の寸法等の仕様は、上述した加熱線と同様にすることができる。
【0138】
<8-7>
電力を受けるアンテナ導体を配置する場合も、加熱線と同様に構成することができる。例えば、図13に示すように、内側ガラス板12または外側ガラス板11の車内側の面(あるいはマスク層110上)にアンテナ導体69を配置し、これを給電部64に接続することができる。給電部64はいずれか一方のガラス板11,12上またはそのガラス板上に形成されたマスク層110上のいずれにも配置することができる。アンテナ導体69は、加熱線61,62と同様の方法(スクリーン印刷など)で形成される線材によって構成されており、給電部64,65の厚みよりも小さくなっている。また、給電部64の構成は上記実施形態と同じである。なお、図13に示すアンテナ導体69の形状は、1例であり、アンテナ導体69は、AM用、FM用、デジタルテレビ用、DAB用等、種々のメディア用に適宜、アンテナパターンにより構成することができる。そして、給電部64には、半田7を介して端子8を固定し、この端子8に接続される導電ケーブルは、アンプを介して、各メディア用の受信機に接続される。以上のように、アンテナを設ける場合であっても、上記実施形態と同様に、給電部64が設けられている箇所のガラス板11,12の破壊強度の低下を抑えることができる。
【0139】
<8-8>
給電部64,65の厚みを小さくするためには、例えば、給電部用の銀ペーストとして、溶剤で希釈したものを用いることができる。これにより、銀ペーストを塗布し、乾燥することで、溶剤が蒸発するため、乾燥後の銀の厚み、つまり給電部64,65の厚みを小さくすることができる。
【0140】
<8-9>
上記実施形態では、給電部64,65に接続端子8を半田7によって固定し、接続端子8に導電ケーブル9を接続することで、給電部64,65に電力を供給しているが、給電部64,65には、導電ケーブル9の導線などの配線を半田7を介して直接固定することもできる。この点は、上述したアンテナや電気素子を給電部に接続する場合においても同様である。
【0141】
<8-10>
上記実施形態では、本発明の情報取得装置として、カメラを有する撮影装置2を用いたが、これに限定されるものではなく、種々の情報取得装置を用いることができる。すなわち、車外からの情報を取得するために、光の照射及び/または受光を行うものであれば、特には限定されない。例えば、レーザレーダ、ライトセンサ、レインセンサ、光ビーコンなどの車外からの信号を受信する受光装置など、種々の装置に適用することができる。また、上記撮影窓113のような開口は、光の種類に応じて、マスク層110に適宜設けることができ、複数の開口を設けることもできる。例えば、ステレオカメラを設ける場合には、マスク層110に2つの撮影窓が形成され、各撮影窓113に対して加熱線が配置される。なお、情報取得装置はガラスに接触していても接触していなくても良い。また、撮影窓113は、全周が閉じている必要はなく、一部が開放される形状であってもよい。
【符号の説明】
【0142】
1 合わせガラス
11 外側ガラス板
12 内側ガラス板
3 中間膜
110 マスク層
113 撮影窓(開口)
61~63 加熱線
64,65 給電部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
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図11
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図13