(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
F16H 61/433 20100101AFI20240408BHJP
F16H 47/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F16H61/433
F16H47/04 C
(21)【出願番号】P 2019169886
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】後野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】仁平 直也
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 裕司
(72)【発明者】
【氏名】武岡 達
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-130177(JP,A)
【文献】特開2009-243430(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010743(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 47/04
F16H 59/00-61/12
F16H 61/40-61/478
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置が設けられた車体と、
角度によって出力を変更する斜板を有した油圧ポンプと、前記油圧ポンプの出力によって回転数が変化する出力軸を有し且つ前記出力軸の動力が前記走行装置に伝達可能な走行モータと、を含む無段変速装置と、
前記斜板の角度である斜板角度を検出する角度検出装置と、
前記斜板角度を変更するレギュレータと、
前記斜板角度の制御に関する制御情報と、前記角度検出装置が検出した前記斜板角度である実斜板角度とに基づいて、前記斜板角度を制御する斜板制御部と、
前記走行モータの前記出力軸の前記回転数を検出する回転検出装置と、
前記走行モータの前記出力軸から出力された動力を変速し且つ変速段を変更する変速装置と、を備え、
前記斜板制御部は、
前記回転検出装置が検出した前記回転数である実回転数を前記制御情報とし、前記実回転数が前記走行モータの前記出力軸の目標回転数に一致するように、前記実回転数と前記実斜板角度とに基づいて前記斜板角度を制御する際に、
前記目標回転数に応じた前記斜板角度の目標である設定角度を求めて、前記斜板角度が前記設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、
その後、前記目標回転数と前記実回転数との回転数偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、
その後、前記設定角度と前記実斜板角度との角度偏差が第1閾値以上である場合、前記角度偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、
前記角度偏差が前記第1閾値未満である場合、前記設定角度を補正せずに保持して、前記斜板角度が当該保持した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、
前記変速装置が前記変速段を変更する場合において、前記斜板角度を制御する際には、前記回転数偏差が第2閾値以上であるときに、前記第2閾値以上でないときよりも、前記レギュレータによる前記斜板角度の変化速度を小さくする作業車両。
【請求項2】
走行装置が設けられた車体と、
角度によって出力を変更する斜板を有した油圧ポンプと、前記油圧ポンプの出力によって回転数が変化する出力軸を有し且つ前記出力軸の動力が前記走行装置に伝達可能な走行モータと、を含む無段変速装置と、
前記斜板の角度である斜板角度を検出する角度検出装置と、
前記斜板角度を変更するレギュレータと、
前記斜板角度の制御に関する制御情報と、前記角度検出装置が検出した前記斜板角度である実斜板角度とに基づいて、前記斜板角度を制御する斜板制御部と、
前記走行モータの前記出力軸の前記回転数を検出する回転検出装置と、を備え、
前記斜板制御部は、
前記回転検出装置が検出した前記回転数である実回転数を前記制御情報とし、前記実回転数が前記走行モータの前記出力軸の目標回転数に一致するように、前記実回転数と前記実斜板角度とに基づいて前記斜板角度を制御する際に、
前記目標回転数に応じた前記斜板角度の目標である設定角度を求めて、前記斜板角度が前記設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、
その後、前記目標回転数と前記実回転数との回転数偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、
その後、前記設定角度と前記実斜板角度との角度偏差が第1閾値以上である場合、前記角度偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、
前記角度偏差が前記第1閾値未満である場合、前記設定角度を補正せずに保持して、前記斜板角度が当該保持した設定角度になるように前記レギュレータを作動させる作業車両。
【請求項3】
原動機を備え、
前記無段変速装置は、前記原動機の駆動力を無段階に変速する静油圧式の無段変速装置である請求項1
又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記変速装置は、前記無段変速装置で変速された駆動力を変速する複数の遊星ギヤ変速装置を備え、
前記複数の遊星ギヤ変速装置は、前記走行装置に高速の駆動力を伝達する第1遊星ギヤ変速装置と、前記第1遊星ギヤ変速装置よりも低速の駆動力を伝達する第2遊星ギヤ変速装置とを含んでいる請求項
1に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無段変速装置を搭載したトラクタとして、特許文献1に示すものが知られている。特許文献1に開示されたトラクタは、油圧ポンプ及び油圧モータを有し、エンジンの動力が入力され、入力された動力を無段階の回転速度の動力に変速して出力する静油圧式の無段変速部と、入力された変速出力とエンジン動力とを合成して合成動力を出力する複合遊星伝動部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すようなトラクタにおいて、油圧モータの回転数が一致するように油圧ポンプの斜板角度等を制御することによって、油圧モータの回転数の回転数を一定にできるものの、負荷等が大きくなった場合には、無段変速装置の挙動を安定させることが難しい場合があった。
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、簡単に無段変速装置の挙動を安定させることができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
本発明の一態様の作業車両は、走行装置が設けられた車体と、角度によって出力を変更する斜板を有した油圧ポンプと、前記油圧ポンプの出力によって回転数が変化する出力軸を有し且つ前記出力軸の動力が前記走行装置に伝達可能な走行モータと、を含む無段変速装置と、前記斜板の角度である斜板角度を検出する角度検出装置と、前記斜板角度を変更するレギュレータと、前記斜板角度の制御に関する制御情報と、前記角度検出装置が検出した前記斜板角度である実斜板角度とに基づいて、前記斜板角度を制御する斜板制御部と、前記走行モータの前記出力軸の前記回転数を検出する回転検出装置と、前記走行モータの前記出力軸から出力された動力を変速し且つ変速段を変更する変速装置と、を備え、前記斜板制御部は、前記回転検出装置が検出した前記回転数である実回転数を前記制御情報とし、前記実回転数が前記走行モータの前記出力軸の目標回転数に一致するように、前記実回転数と前記実斜板角度とに基づいて前記斜板角度を制御する際に、前記目標回転数に応じた前記斜板角度の目標である設定角度を求めて、前記斜板角度が前記設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、その後、前記目標回転数と前記実回転数との回転数偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、その後、前記設定角度と前記実斜板角度との角度偏差が第1閾値以上である場合、前記角度偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、前記角度偏差が前記第1閾値未満である場合、前記設定角度を補正せずに保持して、前記斜板角度が当該保持した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、前記変速装置が前記変速段を変更する場合において、前記斜板角度を制御する際には、前記回転数偏差が第2閾値以上であるときに、前記第2閾値以上でないときよりも、前記レギュレータによる前記斜板角度の変化速度を小さくする。
【0006】
また、本発明の別の一態様の作業車両は、走行装置が設けられた車体と、角度によって出力を変更する斜板を有した油圧ポンプと、前記油圧ポンプの出力によって回転数が変化する出力軸を有し且つ前記出力軸の動力が前記走行装置に伝達可能な走行モータと、を含む無段変速装置と、前記斜板の角度である斜板角度を検出する角度検出装置と、前記斜板角度を変更するレギュレータと、前記斜板角度の制御に関する制御情報と、前記角度検出装置が検出した前記斜板角度である実斜板角度とに基づいて、前記斜板角度を制御する斜板制御部と、前記走行モータの前記出力軸の前記回転数を検出する回転検出装置と、を備え、前記斜板制御部は、前記回転検出装置が検出した前記回転数である実回転数を前記制
御情報とし、前記実回転数が前記走行モータの前記出力軸の目標回転数に一致するように、前記実回転数と前記実斜板角度とに基づいて前記斜板角度を制御する際に、前記目標回転数に応じた前記斜板角度の目標である設定角度を求めて、前記斜板角度が前記設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、その後、前記目標回転数と前記実回転数との回転数偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、その後、前記設定角度と前記実斜板角度との角度偏差が第1閾値以上である場合、前記角度偏差が小さくなるように前記設定角度を補正して、前記斜板角度が当該補正した設定角度になるように前記レギュレータを作動させ、前記角度偏差が前記第1閾値未満である場合、前記設定角度を補正せずに保持して、前記斜板角度が当該保持した設定角度になるように前記レギュレータを作動させる。
【0008】
また、本発明の一態様では、原動機を備え、前記無段変速装置は、前記原動機の駆動力を無段階に変速する静油圧式の無段変速装置である。
さらに、本発明の一態様では、前記変速装置は、前記無段変速装置で変速された駆動力を変速する複数の遊星ギヤ変速装置を備え、前記複数の遊星ギヤ変速装置は、前記走行装置に高速の駆動力を伝達する第1遊星ギヤ変速装置と、前記第1遊星ギヤ変速装置よりも低速の駆動力を伝達する第2遊星ギヤ変速装置とを含んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単に無段変速装置の挙動を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】走行モータの回転数と斜板角度との関係を示す図である。
【
図5A】自動変速条件に達する前にクラッチ機構を切断状態から接続状態に切り換えた場合のトラクタを増速する場合の変速の状態を示している。
【
図5B】自動変速条件に達してからクラッチ機構を切断状態から接続状態に切り換えた場合のトラクタを増速する場合の変速の状態を示している。
【
図7A】制動制御部の制御におけるクラッチ機構の切換状態の一例を示す図である。
【
図7B】制動制御部の制御におけるクラッチ機構の切換状態の他例を示す図である。
【
図7C】制動制御部の制御におけるクラッチ機構の切換状態の他例を示す図である。
【
図7D】制動制御部の制御におけるクラッチ機構の切換状態の他例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図8は、作業車両の一例であるトラクタ1を示している。トラクタ1を例にあげ説明するが、作業車両は、トラクタに限定されず、田植機等の農業機械である。
図8に示すように、トラクタ1は、走行装置7を有する車体3と、原動機4と、変速装置5と、操舵装置29とを備えている。走行装置7は、前輪7F及び後輪7Rを有する装置である。前輪7Fは、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。また、後輪7Rも、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。原動機4は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関である。この実施形態では、原動機4は、ディーゼルエンジンである。
【0012】
変速装置5は、変速によって走行装置7の推進力を切換可能であると共に、走行装置7の前進、後進の切換が可能である。車体3にはキャビン9が設けられ、当該キャビン9内には運転席10が設けられている。
また、車体3の後部には、昇降装置8が設けられている。昇降装置8には、作業装置2が着脱可能である。また、昇降装置8は、装着された作業装置2を昇降可能である。作業装置2は、耕耘する耕耘装置、肥料を散布する肥料散布装置、農薬を散布する農薬散布装置、収穫を行う収穫装置、牧草等の刈取を行う刈取装置、牧草等の拡散を行う拡散装置、牧草等の集草を行う集草装置、牧草等の成形を行う成形装置等である。
【0013】
図1に示すように、変速装置5は、無段変速装置50と、遊星ギヤ変速機構51と、クラッチ機構52と、副変速装置53とを備えている。無段変速装置50、遊星ギヤ変速機構51、クラッチ機構52及び副変速装置53は、ミッションケース12に収容されている。
無段変速装置50は、原動機4から伝達される駆動力を無段階に変速する装置である。この実施形態では、無段変速装置50は、静油圧式の無段変速装置である。
【0014】
原動機4の出力軸(クランク軸)4aから主軸(推進軸)54に伝達された駆動力を変更する。
図1に示すように、無段変速装置50は、油圧ポンプP1と、走行モータM1とを有している。
図2に示すように、油圧ポンプP1と走行モータM1とは作動油が流れる油路(循環油路)55によって接続されている。
図1に示すように、油圧ポンプP1は、入力軸56aと、斜板56bとを有している。油圧ポンプP1は、入力軸56aに伝達された動力によって駆動し、揺動自在に支持された斜板56bの角度(斜板角度)によって、出力(作動油の吐出量(流量)、圧力)を変更することができる。
【0015】
走行モータM1は、出力軸58を有している。出力軸58は、油圧ポンプP1の出力(作動油の流量、圧力)によって回転数が変化する。出力軸58の動力は、遊星ギヤ変速機構51等に伝達された後、走行装置7に伝達される。
詳しくは、
図1に示すように、油圧ポンプP1の入力軸56aは、主軸(推進軸)54の回転に伴って回転するギア等を有する駆動ギヤ機構59に接続されていて、駆動ギヤ機構59を介して主軸(推進軸)54の動力が伝達される。油圧ポンプP1の斜板角度によって出力が変更され、走行モータM1の出力軸58の回転数を変更する。
【0016】
遊星ギヤ変速機構51は、無段変速装置50で変速された駆動力をさらに変速する装置であって、複数の遊星ギヤ変速装置57を有している。この実施形態では、複数の遊星ギヤ変速装置57は、第1遊星ギヤ変速装置57Hと、第2遊星ギヤ変速装置57Lとを含んでいる。第1遊星ギヤ変速装置57Hは、高速の駆動力を伝達する遊星ギヤ変速装置であり、第2遊星ギヤ変速装置57Lは、第1遊星ギヤ変速装置57Hよりも低速の駆動力を伝達する遊星ギヤ変速装置である。
【0017】
第1遊星ギヤ変速装置57Hは、第1入力軸61aと、第1サンギヤ61bと、第1リングギヤ61cと、複数の第1プラネタリギヤ61dと、第1キャリア61eと、第1出力軸61fを有している。第1入力軸61aは、回転自在に支持されていて、無段変速装置50で変速された駆動力が伝達される。第1サンギヤ61bは、第1入力軸61aの回転に伴って回転するギアである。第1リングギヤ61cは、第1サンギヤ61bと同一軸上に配置されていて、回転自在に支持されている。第1リングギヤ61cと第1サンギヤ61bとの間には、複数の第1プラネタリギヤ61dが配置されている。複数の第1プラネタリギヤ61dは、第1キャリア61eに支持されている。第1出力軸61fは、第1リングギヤ43aの回転に伴って回転するように支持されている。
【0018】
第2遊星ギヤ変速装置57Lは、第2入力軸62aと、第2サンギヤ62bと、第2リングギヤ62cと、複数の第2プラネタリギヤ62dと、第2キャリア62eと、第2出力軸62fを有している。第2入力軸62aは、回転自在に支持されていて、無段変速装置50で変速された駆動力が伝達される。第2サンギヤ62bは、第2入力軸62aの回転に伴って回転するギアである。第2リングギヤ62cは、第2サンギヤ62bと同一軸上に配置されていて、回転自在に支持されている。第2リングギヤ62cと第2サンギヤ62bとの間には、複数の第2プラネタリギヤ62dが配置されている。複数の第2プラネタリギヤ62dは、第2キャリア62eに支持されている。第2出力軸62fは、第2キャリア62eの回転に伴って回転するように支持されている。
【0019】
さて、無段変速装置50の出力側、即ち、走行モータM1の出力軸58の動力は、第2遊星ギヤ変速装置57Lの第2入力軸62aを介して、第2遊星ギヤ変速装置57Lに伝達される。また、第1遊星ギヤ変速装置57Hには、第2遊星ギヤ変速装置57Lの第2入力軸62aに連結された動力伝達機構63によって伝達される。動力伝達機構63は、入力軸62aの回転に伴って回転するギア63aと、ギア63aに噛み合うギア63bと、第1遊星ギヤ変速装置57Hの第1入力軸61aに設けられたギア63cとを含んでいる。ギア63bは、ギア63cに噛みあっている。
【0020】
したがって、走行モータM1の出力軸58の動力は、第2入力軸62a、ギア63a、ギア63b及びギア63cを介して、第1遊星ギヤ変速装置57Hの入力軸61aに伝達される。
また、第1遊星ギヤ変速装置57Hの第2リングギヤ62cに設けたギアと、主軸(推進軸)54に設けたギヤ64とが噛み合っていて、ギヤ64は、第1キャリア61eに設けたギアに噛み合っている。
【0021】
以上、無段変速装置50及び遊星ギヤ変速機構51によれば、無段変速装置50から出力された駆動力が、第1遊星ギヤ変速装置57Hに入力された場合には高速に変換され、第2遊星ギヤ変速装置57Lに入力された場合には低速に変換することができる。
図1に示すように、変速装置5は、クラッチ機構52を備えている。クラッチ機構52は、遊星ギヤ変速機構51で変速された駆動力を走行伝達軸66に接続する接続状態と、走行伝達軸66に接続しない切断状態とに切り換え可能である。クラッチ機構52は、第1クラッチ装置52Aと、第2クラッチ装置52Bとを有している。第1クラッチ装置52Aは、第1遊星ギヤ変速装置57Hの駆動力を走行伝達軸66に伝達可能なクラッチである。第2クラッチ装置52Bは、第2遊星ギヤ変速装置57Lの駆動力を走行伝達軸66に伝達可能なクラッチである。
【0022】
第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bは、作動油によって接続状態と、切断状態とに切り換えられる油圧クラッチである。
第1クラッチ装置52Aは、第1遊星ギヤ変速装置57Hの第1出力軸61fと一体回転可能なハウジング71aと、円筒軸71bと、ハウジング71aと円筒軸71bとの間に配置された摩擦プレート71cと、押圧部材71dとを有している。押圧部材71dは、図示省略のバネ等の付勢部材により押圧部材71dから摩擦プレート71cから離れる方向に付勢されている。
【0023】
ハウジング71a内には、作動油を給排する油路71eが接続されていて、油路71eからハウジング71a側に作動油が供給されると、押圧部材71dはバネの付勢力に抗して押圧側(接続側)に移動することで、摩擦プレート71cがハウジング71側に圧接して、第1クラッチ装置52Aは接続状態になり、出力軸61fの動力が円筒軸71bと一体回転するギア73に伝達される。一方、ハウジング71a側から油路71eに作動油が排出されると、押圧部材71dはバネの付勢力によって切断側に移動することで、摩擦プレート71cがハウジング71a側から離れて、第1クラッチ装置52Aは切断状態になり、出力軸61fの動力はギア73に伝達されない。
【0024】
走行伝達軸66には、当該走行伝達軸66と一体回転する入力ギア74が設けられていて、入力ギア74は、第1クラッチ装置52Aの出力側のギア(出力ギア)73に噛み合っていて、第1クラッチ装置52Aが接続状態になった場合には、第1遊星ギヤ変速装置57Hによって高速側に変速された駆動力が走行伝達軸66に伝達される。
第2クラッチ装置52Bは、前進と後進とを切り換えるクラッチであり、前進クラッチ部75と、後進クラッチ部76とを有している。前進クラッチ部75及び後進クラッチ部76は、第2遊星ギヤ変速装置57Lの第2出力軸62fと一体回転するハウジング77を有している。
【0025】
前進クラッチ部75は、円筒軸75bと、ハウジング77と円筒軸75bとの間に配置された摩擦プレート75cと、押圧部材75dとを有している。押圧部材75dは、図示省略のバネ等の付勢部材により押圧部材75dから摩擦プレート75cから離れる方向に付勢されている。
前進クラッチ部75側のハウジング77内には、作動油を給排する油路75eが接続されていて、油路75eからハウジング77側に作動油が供給されると、押圧部材75dはバネの付勢力に抗して押圧側(接続側)に移動することで、摩擦プレート75cがハウジング77側に圧接して、前進クラッチ部75は接続状態になり、出力軸62fの動力が円筒軸75bと一体回転するギア78に伝達される。一方、ハウジング77側から油路75eに作動油が排出されると、押圧部材75dはバネの付勢力によって切断側に移動することで、摩擦プレート75cがハウジング77側から離れて、前進クラッチ部75は切断状態になり、出力軸62fの動力はギア78に伝達されない。
【0026】
後進クラッチ部76は、円筒軸76bと、ハウジング77と円筒軸76bとの間に配置された摩擦プレート76cと、押圧部材76dとを有している。押圧部材76dは、図示省略のバネ等の付勢部材により押圧部材76dから摩擦プレート76cから離れる方向に付勢されている。
走行伝達軸66には、当該走行伝達軸66と一体回転する入力ギア80が設けられていて、入力ギア80は、前進クラッチ部75の出力側のギア(出力ギア)78に噛み合っていて、前進クラッチ部75が接続状態になった場合には、第2遊星ギヤ変速装置57Lによって低速側に変速された駆動力が走行伝達軸66に伝達される。
【0027】
後進クラッチ部76側のハウジング77内には、作動油を給排する油路76eが接続されていて、油路76eからハウジング77側に作動油が供給されると、押圧部材76dはバネの付勢力に抗して押圧側(接続側)に移動することで、摩擦プレート76cがハウジング77側に圧接して、後進クラッチ部76は接続状態になり、出力軸62fの動力が円筒軸76bと一体回転するギア79に伝達される。一方、ハウジング77側から油路76eに作動油が排出されると、押圧部材76dはバネの付勢力によって切断側に移動することで、摩擦プレート76cがハウジング77側から離れて、後進クラッチ部76は切断状態になり、出力軸62fの動力はギア79に伝達されない。
【0028】
副変速装置53は、第1カウンタ軸91と後輪駆動軸93との間に備えた第1変速部95と、第2カウンタ軸92と同軸芯上に備えた第2変速部96と、これらに連係する伝動ギヤを備えて構成されている。副変速装置53は、第1低速伝動ギヤ97aと、第2低速伝動ギヤ97bと、高速伝動ギヤ97cと、中速伝動ギヤ97dとを備えていて、高速、中速、低速の3段の変速が可能である。
【0029】
副変速装置53によって変速された後輪駆動軸93は、後輪7Rを回転自在に支持する後車軸99が連結された後輪デフ装置100に接続され、前進の走行伝達軸66の駆動力は、副変速装置53及び後輪駆動軸93を介して、後輪7Rを有する走行装置7に伝達される。また、前進の走行伝達軸66の駆動力は、後輪駆動軸93に設けられた前輪伝達ギア98を介して、前輪伝動軸101に伝達される。前輪伝動軸101には、前輪7Fの回転等を変化させる駆動変換クラッチ102が設けられ、駆動変換クラッチ102の出力側には、前輪駆動軸103が接続されている。前輪駆動軸103は、前輪7Fを回転自在に支持する前車軸105が連結された前輪デフ装置106に接続され、前進の走行伝達軸66の駆動力は、副変速装置53及び後輪駆動軸93を介して、前輪7Fを有する走行装置7に伝達される。なお、駆動変換クラッチ102では、前輪7Fと後輪7Rとの回転を等速にしたり、前輪7Fと後輪7Rとの両方で走行する4WDにしたり、後輪7Rのみで走行する2WDにすることができる。
【0030】
推進軸54には、PTOクラッチ装置110が設けられている。PTOクラッチ装置110は、例えば、油圧クラッチ等で構成され、油圧クラッチの入切によって、推進軸54の動力をPTO推進軸111に伝達する状態(接続状態)と、推進軸54の動力をPTO推進軸111に伝達しない状態(切断状態)とに切り換わる。PTO推進軸111の中途部には、PTO推進軸111の駆動力(回転)を変速するPTO変速装置112が設けられ、PTO推進軸111の回転、即ち、PTO推進軸111にギアを介して接続されるPTO軸16の回転を変更することができる。
【0031】
図2に示すように、トラクタ1は、操舵装置29を備えている。操舵装置29は、ハンドル(ステアリングホイール)30と、ハンドル30の回転に伴って回転する回転軸(操舵軸)31と、ハンドル30の操舵を補助する補助機構(パワーステアリング機構)32と、を有している。補助機構32は、油圧ポンプ33と、油圧ポンプ33から吐出した作動油が供給される制御弁34と、制御弁34により作動するステアリングシリンダ35とを含んでいる。制御弁34は、制御信号に基づいて作動する電磁弁である。制御弁34は、例えば、スプール等の移動によって切り換え可能な3位置切換弁である。また、制御弁34は、操舵軸31の操舵によっても切換可能である。ステアリングシリンダ35は、前輪7Fの向きを変えるアーム(ナックルアーム)に接続されている。
【0032】
したがって、ハンドル30を操作すれば、当該ハンドル30に応じて制御弁34の切換位置及び開度が切り換わり、当該制御弁34の切換位置及び開度に応じてステアリングシリンダ35が左又は右に伸縮することによって、前輪7Fの操舵方向を変更することができる。なお、上述した操舵装置29は一例であり、上述した構成に限定されない。
トラクタ1は、測位装置40を備えている。測位装置40は、D-GPS、GPS、GLONASS、北斗、ガリレオ、みちびき等の衛星測位システム(測位衛星)により、自己の位置(緯度、経度を含む測位情報)を検出可能である。即ち、測位装置40は、測位衛星から送信された衛星信号(測位衛星の位置、送信時刻、補正情報等)を受信し、衛星信号に基づいて、トラクタ1の位置(例えば、緯度、経度)、即ち、車体位置を検出する。測位装置40は、受信装置41と、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)42とを有している。受信装置41は、アンテナ等を有していて測位衛星から送信された衛星信号を受信する装置であり、慣性計測装置42とは別に車体3に取付けられている。この実施形態では、受信装置41は、車体3、即ち、キャビン9に取付けられている。なお、受信装置41の取付箇所は、実施形態に限定されない。
【0033】
慣性計測装置42は、加速度を検出する加速度センサ、角速度を検出するジャイロセンサ等を有している。車体3、例えば、運転席10の下方に設けられ、慣性計測装置42によって、車体3のロール角、ピッチ角、ヨー角等を検出することができる。
さて、
図2に示すように、トラクタ1は、制御装置120と、記憶装置(記憶部)121とを備えている。制御装置120は、CPU、電気電子回路、当該制御装置120に格納されたプログラム等から構成されている。制御装置120は、トラクタ1に関する様々な制御を行う。記憶装置121は、不揮発性のメモリ等から構成されている。
【0034】
制御装置120には、角度検出装置122と、回転検出装置123が接続されている。角度検出装置122は、油圧ポンプP1の斜板56bの角度である斜板角度を検出するセンサである。回転検出装置123は、走行モータM1の出力軸58の実回転数(実モータ回転数)を検出するセンサである。また、制御装置120には、斜板角度を制御するレギュレータ125が接続されている。レギュレータ125は、電磁弁等の制御弁(電磁制御弁)126を含んでいる。電磁制御弁126は、ソレノイドを有していて、ソレノイドに励磁した電流に応じて開度が変化する弁である。ソレノイドに励磁した電流が大きくなるにつれて電磁制御弁126の開度は大きくなり、ソレノイドに励磁した電流が小さくなるにつれて電磁制御弁126の開度は小さくなる。電磁制御弁126のソレノイドを消磁する、電流を付与しない場合は、電磁制御弁126は全閉する。
【0035】
制御装置120は、油圧ポンプP1の制御、即ち、油圧ポンプP1の斜板56bの斜板角度の制御(斜板制御)を行う。
制御装置120は、斜板制御部120Aを備えている。斜板制御部120Aは、回転検出装置123が検出した回転数(実回転数)J1が走行モータM1の回転数の目標(目標回転数)J2に一致するように、斜板角度を制御する。斜板制御部120Aは、走行モータM1の実回転数J1をフィードバックして、フィードバックした実回転数J1と、予め定められた走行モータM1の回転数の目標(目標回転数)J2との偏差が小さくなるように、斜板角度の設定、即ち、斜板角度を設定する。
【0036】
例えば、
図3に示すように、記憶装置121には、走行モータM1の回転数と、油圧ポンプP1の斜板角度との関係を示す制御マップ、即ち、制御ラインL1
、L2を記憶している。
斜板制御部120Aは、走行モータM1を駆動するに際して、まず、走行モータM1の目標回転数J2が設定されると、設定された目標回転数J2と制御ラインL1とから、目標回転数J2に応じた斜板角度の設定角度(目標設定角度)θ1aを求める。
【0037】
次に、斜板制御部120Aは、目標設定角度θ1aを求めると、目標斜板角度θ1aになるように、電磁制御弁126の開度を決定し、電磁制御弁126のソレノイドを励磁する。斜板制御部120Aは、電磁制御弁126のソレノイドを励磁して、斜板角度を制御後、目標回転数J2と実回転数J1との偏差(回転数偏差ΔJ)を参照し、回転数偏差ΔJが小さくなるように、設定角度θ1aを設定角度θ1bに補正し、補正した設定角度θ1bになるように、電磁制御弁126の開度を補正する。つまり、斜板制御部120Aは、走行モータM1の実回転数J1をフィードバック(回転数フィードバック制御)をすることによって、走行モータM1の目標回転数J2になるように斜板角度を制御する。
【0038】
さて、斜板制御部120Aは、回転数フィードバック制御だけでなく、実斜板角度θ2を参照しながら制御を行う。具体的には、斜板制御部120Aは、斜板角度の制御に関する制御情報と、角度検出装置122が検出した斜板角度(実斜板角度)θ2とに基づいて、斜板角度の制御も行う。制御情報は、斜板角度を決定するための様々なパラメータであり、トラクタ1が駆動したときの様々な情報である。この実施形態では、制御情報は、実回転数J1である。つまり、斜板制御部120Aは、実回転数J1と、実斜板角度θ2とに基づいて斜板角度の制御を行う。
【0039】
具体的には、斜板制御部120Aは、走行モータM1を駆動している状況において、
図3に示すように、実斜板角度θ2(θ2a、θ2b)と、走行モータM1の目標回転数J2に対応して定められた設定角度(目標設定角度)θ1bとを参照する。斜板制御部120Aは、実斜板角度θ2(θ2a、θ2b)と設定角度(目標設定角度)θ1bとの偏差(角度偏差)Δθが閾値θ10以上である場合は、角度偏差Δθを小さくする制御を行い、角度偏差Δθが閾値未満θ10である場合は設定角度θ1bを保持する。
【0040】
例えば、斜板制御部120Aは、設定角度θ1bによって斜板角度の制御を行ったときの実斜板角度θ2が「θ2a」である場合、実斜板角度θ2aと設定角度θ1bとの角度偏差Δθは、閾値θ10未満である。そのため、斜板制御部120Aは、上述したように、制御ラインL1を用いて回転数フィードバック制御を行いながら、斜板制御を行う。
一方、斜板制御部120Aが設定角度θ1bを設定して制御したときの実斜板角度θ2が「θ2b」である場合、設定角度θ1bと実斜板角度θ2bとの角度偏差Δθが閾値θ10以上であるため、上述したように、制御ラインL1を用いて回転数フィードバック制御を行いながら斜板制御を行うのではなく、負荷が大きいと判断して、制御ラインL1とは異なる制御ラインL2を用いて制御を行う。
【0041】
制御ラインL2は、制御ラインL1に比べて同じ目標回転数J2であっても、設定角度θ1bに比べて設定角度θ1cを小さくするラインである。即ち、制御ラインL2は、目標回転数J2に対応する設定角度θ1cと実斜板角度θ2bとの角度偏差Δθを小さくする制御ラインである。つまり、斜板制御部120Aは、
図3に示すように、角度偏差Δθが閾値θ10以上になった場合は、制御ラインL1から制御ラインL2に基づいて、走行モータM1の目標回転数J2及び設定角度θ1cを求め、斜板角度の制御を行う。角度偏差Δθが閾値θ10以上である状態が継続する場合は、回転数フィードバック制御で、走行モータM1の目標回転数J2になるように斜板角度を制御してもよい。
【0042】
図4は、斜板制御の動作の流れを示す図である。
図4に示すように、斜板制御部120Aは、目標回転数J2と制御ラインL1に基づいて斜板角度(目標斜板角度)θ1の設定を行う(S1)。斜板制御部120Aは、実回転数J1を参照し(S2)、目標回転数J2と実回転数J1との回転数偏差ΔJを演算する(S3)。斜板制御部120Aは、回転数偏差ΔJが小さくなるように設定角度θ1の補正を行い、斜板制御を実行する(S4)。斜板制御部120Aは、実斜板角度θ2を参照し(S5)、設定角度θ1と実斜板角度θ2との角度偏差Δθを演算する(S6)。角度偏差Δθが閾値θ10以上であるか否かを判断し(S7)、角度偏差Δθが閾値θ10以上である場合(S7、Yes)、制御ラインL2に基づいて設定角度θ1の設定を行う(S8)。トラクタ1(車体3)が停止(走行停止、作業終了)したか否かを判断する(S9)。トラクタ1(車体3)の停止していない場合は、S2に戻る。
【0043】
なお、斜板制御部120Aは、変速装置5によって変速段を変更する場合、例えば、第1クラッチ装置52Aを切断状態から接続状態にすることで、第1遊星ギヤ変速装置57Hによって高速側に変速する場合、或いは、第2クラッチ装置52Bの前進クラッチ部75を切断状態から接続状態に切り換えることによって、第2遊星ギヤ変速装置57Lによって低速側に変速する場合、目標回転数J2と実回転数J1との偏差(回転数偏差ΔJ)を参照する。斜板制御部120Aは、回転数偏差ΔJが閾値以上である場合は、制御ラインL1ではなく、制御ラインL2を用いて制御を行い、回転数偏差ΔJが閾値未満である場合は、制御ラインL1を用いて制御を行ってもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では、斜板制御部120Aは、角度偏差Δθが閾値θ10以上である場合、又は、回転数偏差ΔJが閾値以上である場合、制御ラインL2によって、角度偏差Δθを小さくしていたが、変速装置5によって変速段を変更する場合など、回転数偏差ΔJが閾値以上である場合は、斜板角度の変化速度を小さくしてもよい。例えば、遊星ギヤ変速機構51を高速側又は低速側に切り換える場合は、制御ラインL2の傾きを小さくする(単位回転数当たりの斜板角度の増加量を小さくする)。
【0045】
なお、走行モータM1の目標回転数J2の設定方法は限定されない。例えば、運転者によってアクセル127の操作が行われると、原動機4の回転数(原動機回転数)が設定され、設定された原動機回転数(目標原動機回転数)に対応して、制御装置120が設定してもよいし、自動運転時に自動的に目標原動機回転数に対応して走行モータM1の目標回転数J2が設定されてもよいし、予め設定された車速に応じて走行モータM1の目標回転数J2が設定されてもよいし限定されない。
【0046】
作業車両1は、走行装置7が設けられた車体3と、斜板角度によって出力を変更する斜板56bを有する油圧ポンプP1と、油圧ポンプP1の出力によって回転数が変化する出力軸58を有し且つ出力軸58の動力が走行装置7に伝達可能な走行モータM1と、斜板56bの角度である斜板角度を検出する角度検出装置122と、斜板角度の制御に関する制御情報と、角度検出装置122が検出した斜板角度である実斜板角度θ2とに基づいて、斜板角度を制御する斜板制御部120Aと、を備えている。これによれば、斜板角度の制御に関する制御情報と実際の斜板角度である実斜板角度θ2との両方を用いて斜板角度を制御しているため、簡単に無段変速装置の挙動を安定させることができる。
【0047】
作業車両1は、走行モータM1の出力軸58の回転数を検出する回転検出装置123を備え、斜板制御部120Aは、回転検出装置123が検出した実回転数J1を制御情報とし、実回転数J1と実斜板角度θ2と基づいて、斜板角度を制御する。これによれば、走行モータM1の実回転数J1と、走行モータM1の回転数を制御したときの実斜板角度θ2との関係を簡単に把握することができる。即ち、制御において入力側である実斜板角度θ2と出力側である実回転数J1との関係がどのような状況であるかを把握して、状況に応じて制御を実行することができる。
【0048】
斜板制御部120Aは、回転数に応じて定められた斜板角度の設定角度θ1と、実斜板角度θ2との角度偏差Δθが閾値以上である場合は、角度偏差Δθを小さくする制御を行い、角度偏差Δθが閾値θ10未満である場合は設定角度θ1を保持する。これによれば、設定角度θ1と実斜板角度θ2との角度偏差Δθが閾値以上である場合には、設定した設定角度θ1に対して実斜板角度θ2が離れていることから、負荷が大きくなっていると判断することができ、角度偏差Δθを小さくする方向に制御することで安定性を確保することができる。例えば、トラクタ1の加速(増速)、減速時におけるオーバーシュート、ハンチングが発生することを低減することができる。
【0049】
斜板制御部120Aは、設定角度θ1として、走行モータM1の目標回転数J2と回転検出装置123が検出した回転数である実回転数J1との回転数偏差ΔJが小さくなる角度を設定する。これによれば、走行モータM1の回転数偏差ΔJが小さくなるような走行モータM1の回転数フィードバック制御を行うことができ、走行モータM1の実回転数J1を意図した回転数にすることができる。
【0050】
作業車両1は、走行モータM1の出力軸58から出力された動力によって変速段を変更する変速装置5を備え、斜板制御部120Aは、変速装置5が変速段を変更する場合は、回転数偏差ΔJを参照して、回転数偏差ΔJが閾値以上である場合は、斜板角度の変化速度を小さく制御する。これによれば、回転数偏差ΔJが閾値以上である場合は、斜板角度の変化速度を小さくしているため、走行モータM1の回転数制御を行うにあたって、オーバーシュート、ハンチングが発生することを低減することができる。
【0051】
油圧ポンプP1及び走行モータM1は、原動機の駆動力を無段階に変速する静油圧式の無段変速装置50である。これによれば、静油圧式の無段変速装置50において、負荷の変動があった場合でもより静油圧式の無段変速装置50を安定させて作動させることができる。
作業車両1は、無段変速装置50で変速された駆動力を変速する複数の遊星ギヤ変速装置57を備え、複数の遊星ギヤ変速装置57は、走行装置7に高速の駆動力を伝達する第1遊星ギヤ変速装置57Hと、第1遊星ギヤ変速装置よりも低速の駆動力を伝達する第2遊星ギヤ変速装置57Lとを含んでいる。これによれば、走行装置7に高速の駆動力を伝達する場合、低速の駆動力を伝達する場合の高速、低速の切換を行う場合でも、負荷に応じた制御を行うことができる。
【0052】
図2に示すように、制御装置120は、自動変速部120Bを備えている。自動変速部120Bは、無段変速装置50から出力される駆動力が自動変速条件に達する前に、クラッチ機構52を切断状態から接続状態に切り換える切換動作を開始する。自動変速部120Bは、無段変速装置50から出力される駆動力を伝達する出力軸58(走行モータM1の出力軸58)が自動変速条件である切換回転数に達する前に、クラッチ機構52の切換動作を開始する。
【0053】
以下、クラッチ機構52の切換動作について詳しく説明する。
制御装置120には、クラッチ機構52(第1クラッチ装置52A、第2クラッチ装置52B)を作動させる複数の電磁制御弁130が接続されている。複数の電磁制御弁130は、第1クラッチ装置52Aを作動させる第1電磁制御弁130aと、第2クラッチ装置52Bの前進クラッチ部75を作動させる第2電磁制御弁130bと、第2クラッチ装置52Bの後進クラッチ部76を作動させる第3電磁制御弁130cとを含んでいる。
【0054】
第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cは、それぞれソレノイドを有していて、ソレノイドに励磁した電流に応じて開度が変化する弁である。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cは、ソレノイドに励磁した電流が大きくなるにつれて開度は大きくなり、ソレノイドに励磁した電流が小さくなるにつれて開度は小さくなる。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cのソレノイドを消磁する、電流を付与しない場合は、第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cは全閉する。
【0055】
第1電磁制御弁130aは、油路71eに接続され、第2電磁制御弁130bは、油路75eに接続され、第3電磁制御弁130cは、油路76eに接続されている。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cには、油圧ポンプP1とは異なる油圧ポンプP2の油路131が接続されていて、作動油が供給可能である。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cには、作動油を排出する油路132が接続されていて、例えば、全閉状態である場合には、出力ポートから作動油が排出される。
【0056】
自動変速部120Bは、クラッチ機構52(第1クラッチ装置52A、第2クラッチ装置52B)を切り換える場合、即ち、遊星ギヤ変速機構51を高速側又は低速側に切り換える場合、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれか一方を接続状態にすると他方を切断状態にする。
具体的には、遊星ギヤ変速機構51を高速側にする場合は、第1電磁制御弁130aのソレノイドに電流(制御信号)を出力して当該第1電磁制御弁130aを全開にすることで、第1クラッチ装置52Aを切断状態から接続状態に切り換える。これに加え、遊星ギヤ変速機構51を高速側にする場合は、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cのソレノイドを消磁して、当該第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cを全閉にすることで、第2クラッチ装置52Bを切断状態(中立状態)にする。
【0057】
一方、遊星ギヤ変速機構51を低速側にする場合は、第1電磁制御弁130aのソレノイドを消磁して、当該第1電磁制御弁130aを全閉にすることで、第1クラッチ装置52Aを切断状態にする。これに加え、遊星ギヤ変速機構51を低速側にする場合は、第2電磁制御弁130b又は第3電磁制御弁130cのソレノイドのいずれかに電流(制御信号)を出力する。例えば、トラクタ1(車体3)を低速且つ前進の場合は、第2電磁制御弁130bのソレノイドを励磁して、前進クラッチ部75を接続状態にする。トラクタ1(車体3)が低速且つ後進の場合は、第3電磁制御弁130cのソレノイドを励磁して、後進クラッチ部76を接続状態にする。
【0058】
ここで、クラッチ機構52(第1クラッチ装置52A、第2クラッチ装置52B)を切り換える場合、自動変速部120Bは、走行モータM1の出力軸58と、遊星ギヤ変速機構51の出力軸(第1出力軸61f、第2出力軸62f)との回転差(回転偏差)が大きいと、クラッチ機構52を切断状態から接続状態にした場合に接続ショックが大きくなることから、走行モータM1の出力軸58と、遊星ギヤ変速機構51の出力軸(第1出力軸61f、第2出力軸62f)との回転差が閾値(第1閾値)以下になるように、走行モータM1の出力軸58の回転数(切換回転数)を設定し、設定した出力軸58の切換回転数を自動変速条件とする。走行モータM1の出力軸58が切換回転数J5になるように、油圧ポンプP1の斜板角度又は原動機回転数等を変更する。なお、遊星ギヤ変速機構51の出力軸(第1出力軸61f、第2出力軸62f)の回転数は、センサ等により検出してもよいし、ギア比等によって演算してもよいし限定はされない。第1閾値は、変速した場合に変速ショックを低減する閾値である。
【0059】
一方、自動変速部120Bは、走行モータM1の出力軸58が自動変速条件に達する前に、クラッチ機構52を切断状態から接続状態に切り換える切換動作を開始する。
図5A、
図5Bは、トラクタ1(車体3)を増速(加速)する場合の変速の状態を示している。
図5では、車速L10が徐々に増加し、実回転数J1は増速に応じて増加及び減少している。
図5A及び
図5Bにおいて、増速前は、L20に示すように、第1クラッチ装置52Aは切断状態(圧力零)、L21に示すように、第2クラッチ装置52Bの前進クラッチ部75は接続状態であることを前提として説明する。
【0060】
図5Aに示すように、トラクタ1(車体3)を増速する場合、制御装置120は、斜板角度、原動機回転数を上昇させることによって、走行モータM1の出力軸58の回転数を増加させる一方、走行モータM1の出力軸58の実回転数J1を切換回転数J5に向けて増加させる。
自動変速部120Bは、実回転数J1が切換回転数J5に一致する時点P20よりも早い時点P21で、切換動作を開始する。自動変速部120Bは、切換動作では、第1電磁制御弁130aのソレノイドを励磁して第1電磁制御弁130aの開度を最大にする(全開にする)。そうすると、第1電磁制御弁130aを全開にすると、期間T1において、ハウジング71aに作動油が徐々に充填され初め、ハウジング71a内の作動油が供給される供給室(押圧部材71dが収容されている空間)の圧力が時点P20を超えた時点で徐々に上がり、次第にピストン等の押圧部材71dが摩擦プレート71cを押して、時点P22にて摩擦プレート71cとハウジング71側に設けたプレートが圧接することで、第1クラッチ装置52Aは接続状態に切り換わる。
【0061】
時点P22にて第1クラッチ装置52Aが接続状態になると、第2クラッチ装置52Bの前進クラッチ部75は接続状態から切断状態に切り換わる。
なお、自動変速部120Bは、予測部120B1を有していてもよい。予測部120B1は、実回転数J1から切換回転数J5に達するまでの時間(到達時間)を予測する。予測部120B1は、トラクタ1(車体3)において、増速する動作を検出した場合、或いは、制御装置120によって増速する信号又は操作を取得した場合において、切換回転数J5が設定されると、実回転数を参照し、所定時間当たりの実回転数J1の増加量(傾き)を求め、実回転数J1の傾きから到達時間を予測する。例えば、到達時間が0.3秒と予測された場合、0.3秒後にハウジング71a内の供給室の作動油の圧力が所定以上となるように、自動変速部120Bは、切換動作を早める。即ち、走行モータM1の実回転数J1が切換回転数J5に到達した場合に、少なくとも摩擦プレート71cとハウジング71側に設けたプレートとが接触をし始めている状態になるように、到達時間前に切換動作を開始する。
【0062】
上述した実施形態では、トラクタ1(車体3)を増速する場合について説明をしたが、減速する場合でも適用可能である。減速の場合の動作は、上述した増速を減速に読み替えればよい。
図6は、切換動作の流れを示す図である。
図6に示すように、自動変速部120Bは、遊星ギヤ変速機構51の切換指令、即ち、増速、又は、減速の指令を取得する(S10)と、切換回転数J5の設定を行う(S11)。切換回転数J5の設定は、例えば、遊星ギヤ変速機構51の出力軸(第1出力軸61f、第2出力軸62f)の回転数を計測又は演算等によって求め、出力軸の回転数が走行モータM1の実回転数J1と所定以上乖離しない回転数を、切換回転数J5に設定する。なお、切換回転数J5の設定方法は一例であって、限定されない。
【0063】
切換回転数J5が設定されると、予測部120B1によって到達時間を予測する(S12)。自動変速部120Bは、例えば、走行モータM1の実回転数J1が切換回転数J5に到達する時点P20よりも到達時間以上早く、切換動作を開始する(S13)。
作業車両1は、原動機4と、走行装置7と、無段変速装置50と、遊星ギヤ変速機構51と、遊星ギヤ変速機構51で変速された駆動力を前記走行装置7に伝達する走行伝達軸66に接続する接続状態と、走行伝達軸66に接続しない切断状態とに切り換え可能なクラッチ機構52と、無段変速装置50から出力される駆動力が自動変速条件に達する前に、クラッチ機構52を切断状態から接続状態に切り換える切換動作を開始する自動変速部120Bと、を備えている。これによれば、駆動力を無段階に変速する無段変速装置と無段変速装置で変速された駆動力を変速する遊星ギヤ変速機構とを備えた作業車両において、変速時等において、無段変速装置の動力をスムーズに伝達することができる。
【0064】
無段変速装置50は、油圧ポンプP1と、走行モータM1と、を備え、自動変速部120Bは、無段変速装置50から出力される駆動力を伝達する出力軸の回転数が自動変速条件である切換回転数J5に達する前に、クラッチ機構52の切換動作を開始する。これによれば、例えば、
図5Aに示すように、切換回転数J5に達する前の時点P21で、切換動作を開始することができるため、走行モータM1の回転数が切換回転数J5に達した場合には、クラッチ機構52内への作動油の充填完了を早めることができ、無段変速装置の動力をスムーズに伝達することができる。一方、
図5Bに示すように、切換回転数J5に達した時点でクラッチ機構52の切換動作を開始した場合には、走行モータM1の回転数が切換回転数J5に達した時点でクラッチ機構52内への作動油の充填が始まったばかりなので、走行モータM1の回転数が切換回転数J5になっているのにも関わらず、クラッチ機構52が接続できない時間が長くなる。
【0065】
自動変速部120Bは、回転検出装置123が検出した回転数から切換回転数J5に達するまでの時間を予測する予測部120B1を有し、少なくとも予測部120B1が予測した時間に基づいて切換動作を行う。これによれば、予測部120B1によって切換回転数J5に達するまでの時間を予測することによって、より正確で素早く切換動作を早めることができる。
【0066】
遊星ギヤ変速機構51は、高速の駆動力を伝達する第1遊星ギヤ変速装置57Hと、第1遊星ギヤ変速装置57Hよりも低速の駆動力を伝達する第2遊星ギヤ変速装置57Lとを含み、クラッチ機構52は、第1遊星ギヤ変速装置57Hの駆動力を走行伝達軸66に伝達可能な第1クラッチ装置52Aと、第2遊星ギヤ変速装置57Lの駆動力を走行伝達軸66に伝達可能な第2クラッチ装置52Bとを含み、自動変速部120Bは、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれか一方を接続状態にした場合は、他方を切断状態にする。これによれば、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれか一方が接続状態になった場合には他方が切断状態になることから、高速側の駆動力と低速側の駆動力とが同時に伝達されてしまうことを防止することができ、増速又は減速時における走行装置7への動力の伝達をスムーズにすることができる。
【0067】
作業車両1は、油圧ポンプP1と、電磁制御弁130と、電磁制御弁130とクラッチ機構52とを接続する油路71e、75e、76eと、を備え、自動変速部120Bは、切換動作を開始する場合に電磁制御弁130を開放する制御信号を出力する。これによれば、電磁制御弁130を開放することによって作動油を素早くクラッチ機構52に供給(充填)することができる。
【0068】
図2に示すように、制御装置120は、制動制御部120Cを備えている。制動制御部120Cは、トラクタ1(車体3)の制動が行われない場合は、回転検出装置123が検出した実回転数J1に基づいて無段変速装置50を制御し、トラクタ1(車体3)の制動が行われた場合は、角度検出装置122が検出した実斜板角度(実斜板角度)θ2に基づいて無段変速装置50を制御する。
【0069】
制動制御部120Cは、トラクタ1(車体3)の制動が行われない場合は、実回転数J1と目標回転数J2との偏差(回転数偏差)ΔJが小さくなるように回転数フィードバック制御を行い、制動が行われた場合は、実斜板角度θ2と目標斜板角度θ1との角度偏差Δθが小さくなるように斜板フィードバック制御を行う。
以下、制動に伴う無段変速装置50の動作について説明する。
【0070】
図1に示すように、トラクタ1は、制動装置140を備えている。制動装置140は、走行装置7の制動を行う装置である。制動装置140は、制動操作部材141と、左制動装置142Fと、右制動装置142Rとを有している。制動操作部材141は、制動の操作を行う部材であって、運転者が手動で操作することができる部材である。制動操作部材141は、左ブレーキペダル141Fと、右ブレーキペダル141Rとを含んでいる。左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rは、車体3等に揺動自在に支持されていて、運転席10の近傍に設けられ、運転者が操作可能である。左制動装置142F及び右制動装置142Rは、ディスク型の制動装置であり、制動する制動状態と、制動を解除する解除状態に切換可能である。左制動装置142Fは、後車軸99の左側に設けられ、右制動装置142Rは、後車軸99の右側に設けられている。
【0071】
運転者が左ブレーキペダル141Fを操作する(踏み込む)ことによって、左ブレーキペダル141Fに連結された左連結部材143Fが制動方向へ動き、左制動装置142Fを制動状態にすることができる。運転者が右ブレーキペダル141Rを操作する(踏み込む)ことによって、右ブレーキペダル141Rに連結された右連結部材143Rが制動方向へ動き、右制動装置142Rを制動状態にすることができる。なお、左ブレーキペダル141Fと右ブレーキペダル141Rとには両者を連結する連結部材が係脱自在(左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rに掛止して、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rを連結する連結状態と、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rからの掛止が行われずに連結しない非連結状態)に設けられていて、連結部材によって左ブレーキペダル141Fと右ブレーキペダル141Rとを連結している場合には、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rのいずれかを踏み込むことによって、左制動装置142Fと右制動装置142Rとを同時に制動することができ、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rのいずれかの踏込を解除することによって、左制動装置142Fと右制動装置142Rとの制動を同時に解除することができる。
【0072】
図2に示すように、制御装置120には、制動操作部材141の操作量、即ち、制動操作部材141の踏込量を検出する操作量検出装置145が接続されている。操作量検出装置145は、連結部材が連結状態である場合の操作量(踏込量)G1を検出するセンサである。
制動制御部120Cは、操作量検出装置145が検出した操作量(踏込量)G1に応じて、制動時の目標斜板角度θ1を設定する。例えば、制動制御部120Cは、踏込量G1が増加するにつれて、目標斜板角度θ1を走行モータM1の回転数が減速する側に変更し、踏込量G1が減少するにつれて、目標斜板角度θ1を走行モータM1の回転数が増加する側に変更する。即ち、制動制御部120Cは、予め設定されている目標斜板角度θ1に対して、制動操作部材141が操作されて制動が行われた場合は、踏込量G1に応じて、予め設定されている目標斜板角度θ1を減少させる補正を行う。なお、制動制御部120Cは、制動操作部材141が操作されていない場合は、目標斜板角度θ1の補正、即ち、変更しない。
【0073】
さて、制動制御部120Cは、例えば、トラクタ1(車体3)が前進している状態において、制動装置140の制動が行われた場合は、クラッチ機構52を切断状態にする。
図7Aは、制動制御部120Cの制御におけるクラッチ機構52の切換状態を示している。
図7Aの時点P30に示すように、トラクタ1(車体3)が前進している場合において、遊星ギヤ変速機構51の駆動力が高速側であり(第1クラッチ装置52Aが接続状態であり)、且つ、制動装置140の制動が行われた場合、制動制御部120Cは、第1クラッチ装置52Aを接続状態から切断状態に切り換え、第2クラッチ装置52Bは、切断状態に維持する。つまり、トラクタ1(車体3)が前進且つ高速である場合に、制動が行われた場合、高速側の遊星ギヤ変速機構51の駆動力を走行伝達軸66に伝達しないようにする一方、第2クラッチ装置52B(前進クラッチ部75及び後進クラッチ部76)を切断状態にすることで、低速側の遊星ギヤ変速機構51の駆動力を中立側に維持し、遊星ギヤ変速機構51による動力の伝達を切る。
【0074】
そして、
図7Aの期間T2に示すように、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bが切断状態において、制動制御部120Cは、走行モータM1の回転数(実回転数)J1と、第2遊星ギヤ変速装置57Lにおける回転数(第2出力軸62fの回転数)との回転数偏差ΔJが閾値(第1閾値)以下になるように、走行モータM1の実回転数J1(第1出力軸58の回転数)を変化させる。
図7Aの時点P31に示すように、制動制御部120Cは、制動されている状態で、走行モータM1の実回転数J1を変化させることにより、回転数偏差ΔJが閾値(第1閾値)以下になった場合に、第2クラッチ装置52Bの前進クラッチ部75を切断状態から接続状態に切り換える。
【0075】
一方、
図7Bの時点P30に示すように、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bが切断状態において、時点P32にて、制動装置140の制動が解除された場合(踏込量G1が略零になった場合)、制動制御部120Cは、回転数偏差ΔJを閾値(第1閾値)以下にする制御(ショック低減制御)を実行しているときは、ショック低減制御を停止して、第1クラッチ装置52Aを切断状態から接続状態に切り換える。なお、
図7の時点P32の前にショック低減制御が実行していない場合は、制動制御部120Cは、第1クラッチ装置52Aを切断状態から接続状態に切り換える。
【0076】
また、
図7Cの時点P33に示すように、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bが切断状態において、制動制御部120Cは、トラクタ1(車体3)のアクセル127等を踏み込むことにより増速する場合は、第2クラッチ装置52Bを切断状態から接続状態に切り換える。
さて、上述した実施形態では、制動装置140の制動によって、クラッチ機構52を制御していたが、トラクタ1(車体3)の車速に応じてクラッチ機構52を制御してもよい。制御装置120には、車速検出装置146が接続されている。車速検出装置146は、トラクタ1(車体3)の走行速度(車速)を検出するセンサである。例えば、車速検出装置146は、前車軸105、後車軸99の回転を車速に変換するセンサであってもよいし、前輪7F,後輪7Rの回転を車速に変換するセンサであってもよく限定されない。
【0077】
制動制御部120Cは、車速検出装置146で検出された車速V1が閾値以下である場合に、クラッチ機構52を切断状態から接続状態に切り換える。例えば、
図7Dの時点P34に示すように、制動制御部120Cは、車速V1が閾値(車速閾値)以下である場合に、第2クラッチ装置52Bを切断状態から接続状態に切り換える。なお、車速閾値は、運転席10の近傍に設けられた設定部材150によって設定できるようにしてもよい。例えば、設定部材150によって車速閾値を零にした場合は、制動制御部120Cは、車速V1が零になった場合に、第2クラッチ装置52Bを切断状態から接続状態に切り換える。
【0078】
作業車両1は、車体3と、静油圧式の無段変速装置50と、遊星ギヤ変速機構51と、クラッチ機構52と、制動装置140と、制動装置140の制動が行われた場合はクラッチ機構52を切断状態にする制御装置120とを備えている。これによれば、静油圧式の無段変速装置を備えた作業車両において、制動時及び制動の解除時にトラクタの走行性を向上させることができる。例えば、制動装置140の制動が行なわれた場合に、制動に応じて静油圧式の無段変速装置50の出力を低減することができ、作業車両1の停止をスムーズにすることができる。
【0079】
作業車両1は、車体3と、油圧ポンプP1と走行モータM1とを有する静油圧式の無段変速装置50と、回転検出装置123と、角度検出装置122と、走行装置の制動を行う制動装置140と、制動装置140の制動が行われない場合は、回転検出装置123が検出した回転数に基づいて無段変速装置50を制御し、制動装置140の制動が行われた場合は角度検出装置122が検出した実斜板角度θ2に基づいて無段変速装置50を制御する制御装置120と、を備えている。これによれば、制動が行われない通常走行時には、作業車両1の車速(走行速度)等を安定させることができ、制動が行なわれた場合には制動走行時には、実斜板角度θ2に応じて走行モータM1の回転数を調整することができ、様々な状況に応じて適正な制動を行うことができる。
【0080】
制御装置120は、制動が行われない場合は、回転検出装置123が検出した回転数である実回転数J1と目標回転数J2との偏差が小さくなるように回転数フィードバック制御を行い、制動が行われた場合は、角度検出装置122が検出した実斜板角度θ2である実斜板角度θ2と目標斜板角度θ1との偏差が小さくなるように斜板フィードバック制御を行う。これによれば、制動が行なわれていない場合は、回転数フィードバック制御によって車速を目標車速にすることができ、斜板フィードバック制御によって、制動時には斜板角度を安定して、走行モータM1側の回転数を設定した値などに一定にすることができる。
【0081】
作業車両1は、制動装置140に対して制動を行う制動操作部材141を備え、制御装置120は、制動操作部材141の操作量に応じて、目標斜板角度θ1を設定する。これによれば、制動操作部材141の操作量が大きい場合には、目標斜板角度θ1を操作量に応じて小さくしたり、操作行が小さい場合には、目標斜板角度θ1を操作量に応じて大きくすることができ、制動の強さによって作業車両1の走行を安定することができる。
【0082】
作業車両1は、遊星ギヤ変速機構51と、クラッチ機構52と、を備え、制御装置120は、制動装置140の制動が行われた場合はクラッチ機構52を切断状態にする。これによれば、制動時において走行装置7への動力の伝達(駆動力の伝達)を切ることができる。
制御装置120は、遊星ギヤ変速機構51の駆動力が高速側である場合は、クラッチ機構52を切断状態にする。これによれば、制動時において高速側の駆動力が伝達されている場合は、走行装置7への高速側の駆動力の伝達を切ることができる。
【0083】
遊星ギヤ変速機構51は、第1遊星ギヤ変速装置57Hと、第2遊星ギヤ変速装置57Lと、有し、クラッチ機構52は、第1クラッチ装置52Aと、第2クラッチ装置52Bと、を含み、制御装置120は、第2クラッチ装置52Bが切断状態である場合は、走行モータM1の回転数と第2遊星ギヤ変速装置57Lにおける回転数との回転偏差が小さくなるように走行モータM1の回転数を変化させる。これによれば、制動時において低速側に切り換えるときの切換ショックを低減することができる。
【0084】
制御装置120は、回転数偏差が閾値以下である場合は第2クラッチ装置52Bを接続状態に切り換える。これによれば、低速側に切り換えた場合の切換ショックをより少なくすることができる。
制御装置120は、制動装置140の制動が解除された場合は第1クラッチ装置52Aを切断状態から接続状態に切り換える。これによれば、作業車両1が制動により減速している状態から切換ショックをした状態で素早く増速に切り換えることができる。
【0085】
制御装置120は、制動装置140の制動が行われている場合で車体3の速度が増加した場合は第2クラッチ装置52Bを切断状態から接続状態に切り換える。これによれば、作業車両1が制動により減速している状態から素早く増速に切り換えることができる。
制御装置120は、車体3の車速を検出する車速検出装置146を備え、車速検出装置146で検出された車速が閾値以下である場合に、クラッチ機構52を切断状態から接続状態に切り換える。これによれば、作業車両1の車速が十分に低くなった状態で、クラッチ機構52を切断状態から接続状態にしているため、作業車両1を安定して停止させることができる。
【0086】
制御装置120は、車速が閾値以下である場合に、第2クラッチ装置52Bを切断状態から接続状態に切り換える。これによれば、低速側である第2クラッチ装置52Bを切り換えることで、素早く作業車両1を停止することができ、制動の解除後に、低速側から走行装置7に対して駆動力を伝達することができる。
静油圧式の無段変速装置50は、油圧ポンプP1と、走行モータM1と、を有し、制御装置120は、制動装置140の制動が行われない場合は、走行モータM1の回転数に基づいて無段変速装置50を制御し、制動装置140の制動が行われた場合は油圧ポンプP1の斜板角度に基づいて無段変速装置50を制御する。これによれば、静油圧式の無段変速装置を備えた作業車両において、制動時及び制動の解除時にトラクタの走行性を向上させることができる。例えば、制動装置140の制動が行なわれた場合に、制動に応じて静油圧式の無段変速装置50の出力を低減することができ、トラクタ1の停止をスムーズにすることができる。また、制動装置140の制動が行なわれない場合には、作業車両1の走行を行うことができる。
【0087】
上述した実施形態では、変速装置5を制御可能な制御装置120において、斜板制御部120A、自動変速部120B、制動制御部120Cを備えているが、トラクタ1は、斜板制御部120A、自動変速部120B及び制動制御部120Cの全てを備える必要はなく、適宜組み合わせて、変速装置5の制御を行ってもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
1 :作業車両(トラクタ)
3 :車体
4 :原動機
5 :変速装置
7 :走行装置
33 :油圧ポンプ
50 :無段変速装置
56b :斜板
57 :遊星ギヤ変速装置
57H :第1遊星ギヤ変速装置
57L :第2遊星ギヤ変速装置
58 :出力軸
61f :出力軸
62f :出力軸
120A :斜板制御部
122 :角度検出装置
123 :回転検出装置
J1 :実回転数
J2 :目標回転数
M1 :走行モータ
P1 :油圧ポンプ
P2 :油圧ポンプ
ΔJ :回転数偏差
Δθ :角度偏差
θ1 :設定角度(目標斜板角度)
θ2 :実斜板角度