(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】歯科患者用椅子
(51)【国際特許分類】
A61G 15/12 20060101AFI20240408BHJP
A61G 15/00 20060101ALI20240408BHJP
A61G 15/04 20060101ALI20240408BHJP
A47C 1/024 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61G15/12
A61G15/00 P
A61G15/04
A47C1/024
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019192248
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】102018000009691
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513000908
【氏名又は名称】チェフラ エッセ.チ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ ジレッリ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ グランディ
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03108867(EP,A1)
【文献】実公昭47-039355(JP,Y1)
【文献】特開2005-342333(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0071503(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 15/12
A61G 15/00
A61G 15/04
A47C 1/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リクライニング可能な歯科用椅子(1)であって、トレンデレンブルグ位置まで
前記歯科用椅子(1
)をリクライニング
可能にするリクライニング機構
を備え、前記
歯科用椅子(1)は、ヘッドレスト(20)と、座面(3)に対して運動可能な背もたれ(2)とを備え、前記背もたれが、案内プレート(9)内を摺動するパッド(8)に締結された円弧部(6)
であって、第1のモータ減速機(17)によって作動される
円弧部(6)を備える前記リクライニング機構によって支持さ
れ、前記
リクライニング機構が、
更に
支持として機能する少なくとも1つの可動台形レバー(5)と、
鉛直に重ねられた1対のローラ(12)であって、そのうちの下部ローラが、静置されており、上部ローラが、前記座面のフレームと一体化されており、各ローラが、前記
少なくとも1つの可動台形レバー(5)の下縁部及び上縁部を摺動する、鉛直に重ねられた1対のローラ(12)と
を備え、
前記少なくとも1つの
可動台形レバー
(5)が、
前記歯科用椅子の前後方向に平行である、前記
歯科用椅子の長手方
向において、前記パッドとともに前後に動くことができ、
前記
少なくとも1つの可動台形レバー
(5)が、
前記少なくとも1つの可動台形レバー(5)の前記下縁部及び前記上縁部では、前記
歯科用椅子
の長手方
向に配向され、前記
1対のローラ(12)が、平行な軸の周りで、前記
歯科用椅子
の長手方
向に対して垂直に枢動可能であり、それにより、
前記パッド(8)が
前記案内プレート(9)に沿ってそれぞれ前後に移動するのと同時に、前記座面の前記フレームが、前
記座面の前端部に対応するその端部を上又は下に動かすレオノミックな(rheonomous)傾斜運動を実施することを特徴とする、
リクライニング可能な歯科用椅子(1)。
【請求項2】
前記
歯科用椅子がその直立位置にあるときと、前記
歯科用椅子が前記トレンデレンブルグ位置にあるときの両方で、前記
少なくとも1つの可動台形レバー(5)の形状、及びその前方側と後方側の高さの差により、前記座面(3)
の傾斜が決定される、請求項1に記載のリクライニング可能な
歯科用椅子(1
)。
【請求項3】
前記
歯科用椅子(1)の長手方向補償用の機構
と組み合わされている請求項1又は2に記載のリクライニング可能な歯科用椅子(1)であって、
前記長手方向補償用の機構が、前記案内プレート(9)が取り付けられる第1のフレーム(10)と、前記座面(3)及び前記背もたれ(2)を支持するパンタグラフ・アーム(4)の上部にある第2のフレーム(13)とを備え、前記第1及び第2のフレーム(10
、13)が
、互いに対し
て
患者の
一方の側に対応する、
前記歯科用椅子の一方の側に配置された、2つの
第2のローラを備えるC字形状案内部(18)と、
前記患者の
反対側に対応する、前記
歯科用椅子の反対側に配置された直線的案内部(11)
であって、前記C字形状案内部(18)及び直線的案内部(11)が、前記第1のフレーム(10)が前記第2のフレーム(13)に対して前記歯科用椅子の前後方向に移動することを可能にするように、互いに平行であり、前記歯科用椅子の長手方向に平行である、直線的案内部(11)と、
ラック(15)及びピニオン(14)のシステム
であって、
前記ピニオン(14)を回転するように作動させる第2のモータ減速機(16
)を備え
るラック(15)及びピニオン(14)のシステムと
によって摺動し、
前記円弧部(6)及び前記ピニオンをそれぞれ作動させる前記第1及び第2のモータ減速機(16、17)の作動が、前記第1及び第2のモータ減速機(16、17)が同時に作動することを可能にする専用のファームウェアをのせた少なくとも1つの電子基板の存在によって同期されて、前記背もたれ(2)のリクライニング運動を前記座面(3)の長手方向の補償運動に同期させることを特徴とする、
リクライニング可能な歯科用椅子(1)。
【請求項4】
前記背もたれ(2)が床に対して少なくとも45°の傾斜に到達すると、前記リクライニング運動と前記長手方向の補償運動を結合解除することができ、それにより、患者の頭又は足の方への前記長手方向
の補償運動のみが可能になる、請求項
3に記載のリクライニング可能な
歯科用椅子(1
)。
【請求項5】
前記座面(3)が、一体式に作成され、患者の脚の大腿と遠位部分が、固定的な角度を形成する、請求項1から
4までの
何れか一
項に記載の
リクライニング可能な歯科用椅子(1)。
【請求項6】
前記座面(3)が、2つの部分に分割され、患者の脚の大腿と遠位部分が、変動的な角度を形成する、請求項1から
4までの
何れか一
項に記載の
リクライニング可能な歯科用椅子(1)。
【請求項7】
請求項1から
6までの
何れか一
項に記載の
リクライニング可能な歯科用椅子(1)を使用して、
前記リクライニング可能な
歯科用椅子(1
)の前記背もたれ(2)と前記座面(3)を互いに対して動かす方法であって、前記
少なくとも1つの可動台形レバー(5)の幾何形状に依存
して、前記座面に対して前記背もたれを動かすことを含む、方法。
【請求項8】
請求項
3又は4に記載の
リクライニング可能な歯科用椅子(1)を使用して、
前記リクライニング可能な
歯科用椅子(1
)の前記背もたれ(2)と前記座面(3)を互いに対して動かす方法であって、
前記リクライニング
運動を担う前記
第1のモータ減速機(17)と前記長手方向の補償運動を担う前記
第2のモータ減速機(16)との間の前記同期が解除され、それにより
、歯科顕微鏡
を含む拡大器具に対して前記
リクライニング可能な歯科用椅子自体を中央に位置決めし、結果として患者の口腔を中央に位置決めするという目標をもって、前記長手方向において患者の頭又は患者の足の方へ前記
リクライニング可能な歯科用椅子(1)を動かすことが可能になる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科診療に使用する患者用椅子の技術分野に関する。より詳細には、本発明は、椅子の座面に対して背もたれをリクライニングさせる第1の機構を、リクライニング中に椅子の長手方向軸に沿って座面を動かす第2の補償機構に同期させる椅子の運動を可能にする機器及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯学の歴史では、少なくとも60年代までは歯科医は立って作業をしていたが、現在では、歯科医は決まって座って作業する。歯科ユニットの製造業者は、歯科医が人間工学的に作業すること、すなわち歯科治療を行う間、快適に且つ自身の筋骨格系を傷めることなく作業することを可能にする歯科治療ユニットを提供するよう努めている。
【0003】
同時に、歯科患者用椅子は、患者にとって快適でなければならない。快適さを感じている患者はよりリラックスしており、歯科医にとっては、作業がより容易になる。
【0004】
知られている技術では、以下の2種類の患者用椅子が提供されている。
- 単一(unique)パーツに存在する座面が提供され、唯一の連結部が患者の股関節部の高さに存在する患者用椅子。これは、患者の大腿と脚の遠位部分が一定の角度を形成することを意味する。
- 患者の股関節部の高さの第1の連結部と、患者の膝の高さの第2の連結部とを有する、二部式の座面を有する患者用椅子。二部式の座面が設けられたこれらの椅子では、患者は、任意の椅子の場合のように身体を起こして座ることができ、脚の遠位部分は、大腿に対して約90°の角度を形成する。この種類の椅子では、床に対して実質的に平行なままの座面と、床に対して実質的に平行な位置から床に対して実質的に垂直な位置へと回転することができるレッグレストとが設けられ、言い換えれば、大腿と脚の遠位部分の間の角度は変動的である。
【0005】
歯科患者用椅子の、評価されている特徴の1つは、患者をトレンデレンブルグ体位に保持できることである。トレンデレンブルグ体位、又はショック対策体位は、ショックの場合、又は特定の作業の実施中に患者が横たわる体位である。患者は、仰臥位で自身の頭が自身の膝及び骨盤よりも低くなるように横たわって、血液が脳に流れるのを助ける。さらに、トレンデレンブルグ体位では、患者にとって不快な場合がある体位で胸及び脚をアライメントさせるのではなく、胸と脚がある角度を形成することを可能にして、患者の身体をリクライニングさせる。トレンデレンブルグ体位により、何らかの治療を実施する際、歯科医の作業が容易になる。
【0006】
背もたれのリクライニングに関連する課題の1つには、背もたれがリクライニングしている間、歯科医が作業する患者の頭が、患者の股関節と実質的にアライメントした位置から、患者の頭が患者の股関節部からかなりの距離、たとえば数十センチメンートル程度になる位置まで、空間内で次第に位置変更するということがある。これにより、普通は患者の横又は患者の後ろに位置している歯科医は、背もたれのリクライニングとともに、部屋及び歯科治療ユニットに対して移動することを強いられる。図、特に
図3及び
図4が、この影響をより明確にする助けとなろう。
【0007】
さらに、作業位置が椅子の長手方向軸に揃えられているとき、したがって歯科医が患者の頭の後ろに位置しているとき、椅子をリクライニングさせると、歯科医のための空間が残っていないことが多い。したがって、歯科治療ユニット、並びに歯科医が必要とするあらゆるアクセサリ及びツールを収容するには、広い空間が必要になる。
【0008】
製造業者らは、100年以上にわたって歯科用椅子を生産しており、歯科患者用椅子に関する特許の1つには、たとえばPelton&Craneの特許文献1がある。
【0009】
他の多くの特許とともに、上に引用した特許には、椅子の運動を可能にする、患者用椅子の内部構造が記載されている。実際、椅子は、使用中には通常、その背もたれが床に対して約90°である位置(直立位置)、及び背もたれが床に対して実質的に平行である位置(リクライニング位置)を、前記2つの限界の間のあらゆる中間位置とともに有する。多種多様な比較的複雑な機構及びアクチュエータにより、前記位置を得ることが可能になる。
【0010】
同じ出願人が、背もたれが揺動機構によって支持される歯科患者用椅子であって、
- 事前設定された曲線的外形を有する少なくとも1つのカムであって、前記カムが、前記座面を支持し、座面の揺動軸に実質的に対応する軸の周りで少なくとも揺動する、カムと、
- 少なくとも1つの可動部又は摺動部と、
- 実質的に前記カムの外形の方向に延在する、前記可動部用の少なくとも1つの案内穴と
を備え、
- 前記可動部が、前記カムの外形との協働手段を有し、前記可動部が、背もたれの揺動機構によって摺動するように作動され、
それにより、前記可動部が作動システムにより前記案内穴の内部を摺動するとき、前記可動部は、カムの外形と干渉して、カム自体の外形によって制御される少なくとも1回の揺動運動を命じ、前記揺動により、前記カムは、前記カムが前記協働可動部手段と協働的に干渉する位置から、前記カムが前記協働手段からある距離のところになる位置まで自由に動くことができる歯科患者用椅子を記載した特許文献2を出願した。
【0011】
しかし、特許文献2に記載されている機械的な解決法は、機械試験においていくつかの限界を示した。支持ローラの応力、及びローラとピンの間の摩擦が過度になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第3804460号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3108867号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目標は、効率的であり、経済的な構造であり、先行する解決策の欠点を克服する、椅子の背もたれを直立位置からリクライニング位置に、また逆も同様に動かすことを可能にする機構を提供することである。
【0014】
本発明の第2の目標は、椅子のリクライニングに関連する、歯科医の位置移動を制限することである。本発明による機構は、座面の運動と同期された背もたれの運動を生じさせ、背もたれの運動は、トレンデレンブルグ体位において最大伸展(maximal extension)まで至ることが必要とされる場合には、人間工学的に正しい患者の体位に到達するまで傾斜する。言い換えれば、背もたれのリクライニング中、座面と同時に、背もたれの(患者の足の方向への)前方への摺動が生じる。これは、背もたれが固定された回転軸にヒンジ留めされている場合に背もたれがリクライニングすることによって生じる、逸れる動き(sheer movement)を補償するという目標をもち、それにより、患者の頭は、患者が身体を起こしているときに保持されているのと可能な限り同じ位置にとどまる(長手方向の補償運動又は摺動)。この運動により、ハイドログループ(hydrogroup)、器具台、無影灯及び環境(歯科診療所の備品及び壁)に対する、患者の頭の相対位置関係を保つことが可能になる。
【0015】
本発明の第3の目標は、椅子自体がリクライニングされたとき、椅子の長手方向軸に沿って運動可能な椅子を得ることである。前記運動は、たとえば歯科顕微鏡のような観察器具の位置に患者の口腔を位置合わせするのに有用である。実際、前記顕微鏡は、非常に幅広い倍率を有し、したがって、歯科医が拡大して観察することを望むものは、顕微鏡の対物レンズに完璧に位置合わせされなければならない。
【0016】
別の目標は、以下のような製造のモジュール性をもつ椅子の構造を得ることである。
- 1)背もたれのリクライニングによって得られるトレンデレンブルグ位置をもち、長手方向の補償運動のない、単一パーツの座面の患者用椅子。
- 1)トレンデレンブルグ位置に到達し、2)長手方向の補償を得る、単一パーツの座面を備える患者用椅子。
- 1)トレンデレンブルグ位置、2)長手方向の補償、3)座面とレッグレストの間の相対運動を含む、二部式の座面を備える患者用椅子。
【課題を解決するための手段】
【0017】
椅子を持ち上げるための同じ基本的構造から始まり、構造座面/背もたれを追加し、構造座面/背もたれの運動のシステムを修正し、モータ減速機の数を増やして、ロー・エンド製品からハイ・エンド製品まで、患者用椅子の性能を区別することができる。このようにして、生産コードが限られることに関連して生産コストが低減された完璧な性能範囲を顧客に提供することができる。
【0018】
この目的は、独立請求項に記載の特徴を有する機器及び方法によって達成される。有利な実施例及び改良形態は、そこに従属する請求項に規定される。
【0019】
本発明による椅子には、実質的に、機械的に別個の2つのシステムが提供される。第1のシステムにより、椅子の背もたれをリクライニングさせ、椅子の座面を限界トレンデレンブルグ位置まで傾斜させることが可能になる。前記第1の機構は、(患者の足の方の)前方高さ及び(患者の頭の方の)後方高さである、2つの異なる高さが与えられた台形形状をもつレバーによって機能し、このレバーに接して1対のパッドが摺動する。前記レバーの形状、並びに前方高さ及び後方高さにより、前記背もたれが完全に直立しているか又は完全にリクライニングした、2つの限界位置を得ることが可能になる。この上下機構は、第1のモータ減速機の動作によって作動される。
【0020】
本発明による第2の機械的システムは、椅子の一方の側には再循環するボールねじの直線的案内レールを提供し、椅子の他方の側には2つのローラを備えるC字形状案内部を提供する摺動システムを使用して、一方が他方に対して摺動する2つのフレームの形をとって提供される。前記第2のシステムは、ラック/ピニオンのシステムを使用して、第2のモータ減速機によって作動される。
【0021】
ファームウェア(すなわち椅子の電子基板に含まれるソフトウェア)によって2つの前記モータ減速機の同期が得られることにより、背もたれのリクライニングが長手方向の補償運動と同期された運動を実現することが可能になる。
【0022】
好ましい一実施例では、患者用椅子がリクライニングされたとき、すなわち床に対する背もたれの角度が最大15°である場合、リクライニングと摺動の2つの運動を同期解除して、摺動のモータ減速機のみを作動させることができる。これにより、たとえば歯科顕微鏡のような観察システムに対して、患者の口腔を中央に位置決めすることが可能になる。
【0023】
本発明のさらなる利点及び特性は以下の説明に開示され、以下の説明では、本発明の例示的な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】背もたれが直立した歯科用椅子の側面図である。
【
図2】背もたれがリクライニングした歯科用椅子の側面図である。
【
図3】背もたれが直立した歯科用椅子の側面図である。
【
図4】背もたれがリクライニングした歯科用椅子の側面図である。
【
図5】装置をよりよく説明する詳細部M及び詳細部Nを伴う、座面の内部の不等角投影図である。
【
図6】歯科顕微鏡によって患者の口腔を観察するために得られる限界位置における、背もたれがリクライニング位置にある椅子の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1には、床に対してほぼ垂直な、完全に直立した背もたれを備えた、通常の歯科用椅子1が示してある。図示されている椅子1には、単一部分を有する座面が設けられている。
【0026】
前記椅子1は、背もたれ2、ヘッドレスト20、座面3、及び図示されていない床の土台に締結されたパンタグラフ・アーム4を備える。背もたれ2と座面3は、円弧部6を介して連結される。パンタグラフ・アーム4により、具体的には380mmの高さから810mmの高さまで、座面3を上下に動かすことが可能になる。パンタグラフ・アームの上端部は、背もたれのリクライニング運動及び座面の同期運動を支持するフレーム13によって形成される。
【0027】
円の中に示された
図1の詳細部には、前記円弧部6に締結されたレバー5が提示してある。前記レバーは、円弧部6の座面部分の方に、長手方向における延在部を形成する。
【0028】
図では、背もたれ2が完全に直立しているとき、前記レバー5は、(患者の頭近くの)その後方位置にある。前記位置により、座面3が一体的に締結されたフレーム7の高さXが定められる。前記座面3は、床に対して約12°である角度αを形成する。前記角度αは、レバー5の前部の高さを変えることによって修正することができる。
【0029】
背もたれ2は、前記円弧部6に一体的に連結され、前記円弧部6は、1対のパッド8を介して(
図5に見ることができる)案内プレート9に連結され、これら案内プレート9は、フレーム10に取り付けられる。フレーム10は、前記椅子に座っている患者の右に対応する椅子の右側に配置された直線的案内レール11、及び前記椅子に座っている患者の左に対応する椅子の左側に配置された、2つのローラを備えるC字形状18案内部により、フレーム13に対して直線的に摺動する。直線的案内レール11とC字形状案内部18は、互いに対して平行であり、前記椅子の長手方向軸に対して平行である。これらにより、フレーム10がフレーム13に対して椅子の前後方向に、すなわち前方又は後方に移動することが可能になる。非対称な案内システムでは必要とされる精度の制約がより小さいので、椅子のマウントを容易にするために、2つの案内システムの非対称が選択された。
【0030】
図2には、その背もたれ2が床に対してほぼ平行である、リクライニングしたトレンデレンブルグ位置にある同じ椅子1が示してあり、座面3は、床に対して約20°である角度βを形成する。
図2には、円弧部6に締結された前記レバー5が示してあり、背もたれ2が完全にリクライニングされたとき、前記レバー5は、(患者の足近くの)その前方位置にある。前記位置により、座面3が一体的に固定されたフレーム7の高さYが定められる。前記フレーム7は案内プレート9にヒンジ留めされているので、前記フレーム7は回転する。
【0031】
座面3に対する背もたれ2の運動は、円弧部6及びフレーム7に締結されたモータ減速機17によって作動される。
【0032】
図2の詳細部には、背もたれが完全にリクライニングされたとき、(患者の足近くの)その限界前方位置にある前記レバー5が示してある。レバー5の前進は、1対のローラ12によって可能になり、各ローラは、前記レバー5の頭側/足側の端部うちの一方に、且つあらゆる中間位置に位置することができ、下部ローラはフレーム10に固定され、上部ローラはフレーム7に固定される。前記位置により高さY>Xが定められ、座面3がトレンデレンブルグ位置に到達することが可能になる。前記レバー5には、長い方のその底辺が患者の頭の方に配置され、短い方のその底辺が患者の足の方に配置された全体的な台形形状が与えられ、前記底辺は、床に対して実質的に垂直であり、脚は、実質的に椅子の長手方向軸の方向になる。レバー5の長い方と短い方の2つの底辺の長さの差が、トレンデレンブルグ位置において座面3が上方に傾く要因である。背もたれ2が座面3に対して動く運動法則は、レバー5の形状によって定義され、すなわちその形状、及び/又はその鉛直面の高さを修正することにより、異なる運動法則を得ることができる。
【0033】
図3では、側面図において、前記椅子1を、その背もたれ2がその限界直立位置にある状態で示してある。点線は、(図示されていない)患者の頭の位置に対する、長手方向の補償運動又は摺動の効果を示す。患者が
図3の場合のように着座するとき、患者の頭はヘッドレスト20によって支持され、患者の口腔は、おおよそ線aと線bが交わる位置になる。背もたれが摺動せずにリクライニングすると、患者の頭は、前記頭を最終位置Cに持ってくる円bの円弧を描く。一方、摺動が機能しているとき、座面3は、背もたれ2の下降運動と同期する形で患者の足に向かって前方に摺動して、患者の頭を最終的な位置Dに運ぶ鉛直軌道を決定する。このように、リクライニングした患者の最終位置に合わせるために、歯科医は位置移動する必要がなく、無影灯を位置移動させる必要がない。具体的には、この実施例による機構の場合、C点とD点の間の直線距離は、約175mmである。
【0034】
図4には、その背もたれ2がリクライニングした状態の椅子1が示してあり、座面3がパンタグラフ・アーム4に対して摺動したことが理解され得る。太い矢印は、前方摺動の方向を示す。フレーム7とフレーム13の間の直線運動は、床に対して完全に平行ではなく、約8.5度傾いた方向に生じる。
【0035】
図5によりよく見ることができる別の特徴によれば、前記円弧部6には、椅子の各側において、椅子自体の長手方向に、すなわち患者の体位を基準にして頭から足に配向されたパッド8が提供され、前記2つのパッドのそれぞれは、対応する案内部9の円弧状トラックに係合される。図示してある実施例では、前記円弧状トラックは穴の形をとり、そこにパッド8のホイールが係合される。
【0036】
一方のパッド8のみに連結されたたった1つのレバーが提供されてもよく、各パッド8について1つのレバーが提供されてもよい。
【0037】
一実施例では、1つだけのレバーが提供され、このレバーは、2つのパッド8の間の中間位置にマウントされ、椅子の後部側に向かって配向されたその端部において、椅子の前端部、すなわち足側の端部に向かって配向された円弧部6の端部の中間点に連結され、この中間点は、椅子の長手方向軸に対して平行な軸に沿ってローラ12に位置合わせされる。
【0038】
別の実施例によれば、レバーは、その後部とともにその支点を有して、椅子の長手方向軸に対して平行に配向される鉛直平面において、円弧部6又はパッド8の対応する端部に、揺動するように固定される。
【0039】
背もたれの運動を座面の運動にリンクさせる機構に関しては、パッド8がその各案内部9の中で動くことにより、前記レバーの前後の運動が決定し、したがってレバー5の領域の、座面フレームに固定されたローラ12とフレーム11に固定されたローラである各ローラ12の間の介在物(interposition)が、異なる高さを有し、すなわち上及び下の2つの縁部から異なる距離を有する。このことにより、背もたれの運動の方向、したがって前記レバーの運動の方向に従って、水平平面に対する座面の傾きが大きく又は小さくなることにより、座面の上昇又は下降が生じる。
【0040】
図5には、座面3の下に配置された、椅子1の運動機構の不等角投影図が示してある。詳細部Mは、全体図の中の円で示した、椅子の右側の拡大した詳細である。詳細部Nは、椅子の左側の拡大した詳細である。
【0041】
摺動運動を実現するために、モータ減速機16によって制御される、ピニオン14-ラック15のシステムが使用される。背もたれ2がリクライニングすると当時に座面3が前方に摺動することを可能にするモータ減速機16とモータ減速機17の間の同期は、電子基板のファームウェア・プログラムミングがモータ減速機16及びモータ減速機17を制御することによって得られる。
【0042】
図6には好ましい一実施例が示してあり、これにより、背もたれ2がリクライニングされると、モータ減速機16及びモータ減速機17の同期を解除し、モータ減速機16のみを使用して、椅子1を動かすことができる。これにより、横たわっている患者を椅子の長手方向軸に沿って、すなわち椅子に横たわっている患者の長手方向軸に沿って動かすこと、具体的には位置Cと位置Dの間で、ミリメートルの精度で患者の頭を動かすことが可能になり、したがって、たとえば歯科顕微鏡のような観察器具に対して、患者の口腔の位置を調節することができる。言い換えれば、顕微鏡の代わりに、患者が動かされる。
【0043】
患者の頭の方向において椅子を摺動させることは、背もたれ2が完全にリクライニングされたとき、又は少なくとも15°の角度を形成しているときのみ可能である。いずれにしても、歯科顕微鏡は、一般に、患者が身体を起こしているときではなく、リクラインイングされたときに使用される。
【0044】
説明した機構に別のモータ減速機を加え、膝関節の高さで座面3を分割すると、最高の性能をもつ椅子を得ることができる。当然、この別のモータ減速機は、椅子の脚部分の運動を椅子のリクライニング及び長手方向の補償運動に同期させることを可能にするプログラミング・ファームウェアによって制御される。
【符号の説明】
【0045】
1 歯科用椅子
2 背もたれ
3 座面
4 パンタグラフ・アーム
5 レバー
6 円弧部
7 フレーム
8 パッド
9 案内プレート
10 フレーム
11 直線的案内レール
12 ローラ
13 フレーム
14 ピニオン
15 ラック
16 摺動モータ減速機
17 背もたれ減速機
18 C字形状案内部
20 ヘッドレスト