(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240408BHJP
B41J 2/145 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/145
(21)【出願番号】P 2019220471
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】但馬 裕基
(72)【発明者】
【氏名】戸田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】清水 直子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 晋平
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-125658(JP,A)
【文献】特開2005-313428(JP,A)
【文献】特開2018-024254(JP,A)
【文献】特開2007-136727(JP,A)
【文献】特開2002-086730(JP,A)
【文献】特開2017-144719(JP,A)
【文献】特開2010-018030(JP,A)
【文献】特開2009-184179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0204524(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109130169(CN,A)
【文献】特開2015-226988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体貯留部から供給される液体の流路と前記液体を流出する複数の流出口とを有する流路形成部と、
前記複数の流出口から流出する前記液体が流入する複数の流入口と、前記液体を吐出する複数の吐出素子が列状に配置された、各流入口に対応する複数の吐出素子列と、を有する液体吐出部と、
前記複数の流出口および前記複数の流入口と連通するシール開口を有し、前記複数の流出口と前記複数の流入口とが連通するように前記流路形成部と前記液体吐出部との間をシールするシール部材と、
を有し、
前記シール開口は複数設けられており、前記複数のシール開口のうちの少なくとも1つのシール開口に、前記複数の流入口の少なくとも2つの流入口が開口して
おり、
前記シール開口は、前記流出口および前記流入口の両方と接触しており、
前記シール開口は、ゴム材料により形成されている
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記少なくとも2つの流入口は第1の流入口と第2の流入口を含み、
前記第1の流入口に対応する前記吐出素子列と前記第2の流入口に対応する前記吐出素子列とが、互いに隣接して配置されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記少なくとも2つの流入口は第3の流入口と第4の流入口を含み、
前記第3の流入口に対応する前記吐出素子列と、前記第4の流入口に対応する前記吐出素子列との間には、前記少なくとも2つの流入口とは異なる流入口に流入する液体を吐出する吐出素子列が配置されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記複数の流出口のうちの第1の流出口が、前記少なくとも2つの流入口と連通し、
前記第1の流出口は、前記少なくとも2つの流入口と対向するそれぞれの領域を含む請求項1から3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記少なくとも2つの流入口は、前記少なくとも2つの流入口の各流入口に対応する前記吐出素子列の一端に偏った位置に配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記少なくとも2つの流入口の各流入口に対応する前記吐出素子列に並列した隣接吐出素子列に対応する流入口が、前記隣接吐出素子列の一端に対する他端に偏った位置に配置されている請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記複数のシール開口には、前記隣接吐出素子列の前記他端に偏った位置に配置されている複数の流入口が開口している1つのシール開口が含まれる請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
各吐出素子列は、吐出された前記液体が付着する記録媒体の搬送方向に略直交する方向に沿って延伸している請求項1から7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記液体吐出部は、各流入口に対応する前記吐出素子列ごとに、前記複数の吐出素子に一括して前記液体を供給する共通の液室をさらに有する請求項1から8のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記流路形成部と前記液体貯留部とを有する筐体をさらに有する請求項1から9のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件開示の技術は、インクなどの液体を記録媒体に吐出して画像記録を行うための液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙等の記録媒体に対して画像記録を行う手段として、液体吐出ヘッドを搭載した種々の記録方式が提案されており、例えば熱転写方式、ワイヤードット方式、感熱方式、インクジェット方式等が実用化されている。
【0003】
インクジェット方式において、画像形成に用いられるインクの液体吐出ヘッドへの供給は、種々の構成によって実現される。一形態による構成では、液体吐出ヘッドとは別体として設けられる、インク収容室を有するインクタンクが、液体吐出ヘッドに接続される。そして、インクタンク内のインクが液体吐出ヘッドに供給される。また、プリンタなどの画像記録装置内にセットされるインクタンク内のインクが、液体供給チューブを介して液体吐出ヘッドに供給される構成も実用化されている。
【0004】
インクは、液体吐出ヘッドの筐体内に形成されるインク流路を通じて、記録素子基板がマウントされる支持部材に導かれる。このインク流路において、筐体と支持部材との間には、インク流路の密閉性を確保してインクおよび空気が外部へ漏れ出ないように、ゴム材料で形成されるシール部材が設けられている。
【0005】
また、記録素子基板には、異なる色(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)等)のインクを個別に吐出するための、複数の吐出素子列が設けられることがある。筐体には、インク流路からのインクを流出するインク流出口が筐体に形成される。また、記録素子基板には、筐体のインク流出口から流出されるインクが流入するインク流入口が形成される。そして、シール部材によってインク流出口とインク流入口とが連通する部分の周囲が個別にシールされる構成が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される構成の場合、吐出素子列どうしが一定距離以上離れていれば、吐出素子列毎にインク流出口およびインク流入口を設け、インク流出口とインク流入口とを連通する部分の周囲を個別にシールすることは可能である。しかしながら、記録素子基板のサイズを小型化して吐出素子列間の距離を短くすると、シール部材のシール開口が互いに干渉して、十分なシール開口を確保することができず、所望のシール性が得られない可能性がある。この結果、インク流路の空気漏れやインク漏れが発生する可能性がある。
【0008】
一方で、所望のシール性を得るために十分なシール開口を確保できる位置にインク流入口を設ける構成とすると、インク流入口の配置自由度が低下することになる。また、インク流入口の配置は、インク流路における泡抜け性を良好にするため、最適な位置に配置する必要があるため、インク流入口のシール性の制約からその配置が制限されることは好ましくない。
【0009】
以上の問題を鑑み、本件開示の技術は、吐出素子列間の間隔が狭くなっても、シール部のシール開口を確保することが可能な液体吐出ヘッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件開示の技術に係る液体吐出ヘッドは、
液体貯留部から供給される液体の流路と前記液体を流出する複数の流出口とを有する流路形成部と、
前記複数の流出口から流出する前記液体が流入する複数の流入口と、前記液体を吐出する複数の吐出素子が列状に配置された、各流入口に対応する複数の吐出素子列と、を有する液体吐出部と、
前記複数の流出口および前記複数の流入口と連通するシール開口を有し、前記複数の流出口と前記複数の流入口とが連通するように前記流路形成部と前記液体吐出部との間をシールするシール部材と、
を有し、
前記シール開口は複数設けられており、前記複数のシール開口のうちの少なくとも1つのシール開口に、前記複数の流入口の少なくとも2つの流入口が開口しており、
前記シール開口は、前記流出口および前記流入口の両方と接触しており、
前記シール開口は、ゴム材料により形成されている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本件開示の技術によれば、記録素子基板を小型化し、吐出素子列間の距離が狭くなっても、シール部のシール開口を十分に確保して、所望のシール性を得ることができる。そして、吐出素子基板を小型化してより安価な構成としつつ、液体流路の高い密閉性を確保した液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図
【
図1B】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図
【
図2】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドとインクタンクの断面図
【
図3B】第1実施形態に係る記録素子基板およびインク流路の模式図
【
図4】第1実施形態に係る吐出素子列と記録媒体の搬送方向との関係を示す模式図
【
図5A】第1実施形態に係るインク供給経路を模式的に示す断面図
【
図5B】第1実施形態に係るインク供給経路を模式的に示す別の断面図
【
図5C】第1実施形態に係るインク供給経路を模式的に示すさらに別の断面図
【
図6A】従来技術に係るインク供給経路とシール部材の構成例を示す模式図
【
図6B】従来技術に係るインク供給経路とシール部材の構成例の断面図
【
図7A】従来技術に係るインク供給経路とシール部材の別の構成例を示す模式図
【
図7B】従来技術に係るインク供給経路とシール部材の別の構成例の断面図
【
図8A】第1実施形態に係るインク供給経路とシール部材の構成例を示す模式図
【
図8B】第1実施形態に係るインク供給経路とシール部材の構成例の断面図
【
図9A】第2実施形態に係るインク供給経路とシール部材の構成例を示す模式図
【
図9B】第2実施形態に係るインク供給経路とシール部材の構成例の断面図
【
図10A】一変形例に係るインク供給経路およびシール部材の構成例を示す模式図
【
図10B】一変形例に係るインク供給経路およびシール部材の構成例の断面図
【
図11】一変形例に係るインク供給経路およびシール部材の別の構成例の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しつつ、本件開示の技術の好適な実施の形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置等は、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。よって、
この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。特に図示あるいは記述をしない構成や工程には、当該技術分野の周知技術または公知技術を適用することが可能である。また、重複する説明は省略する場合がある。
【0014】
(第1実施形態)
以下に本件開示の技術の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドについて説明する。なお、以下の説明では、液体吐出ヘッドは、インクタンクと別体となっているいわゆるパーマネントタイプの液体吐出ヘッドを想定する。ただし、以下に説明する液体吐出ヘッドは、液体吐出ヘッドがインクタンクと一体となっているいわゆるディスポーザブルタイプ(カートリッジタイプ)の液体吐出ヘッドであってもよい。
図1は、第1実施形態に係る画像記録装置に用いられる液体吐出ヘッド1を示す。
図1Aは、液体吐出ヘッド1の斜視図であり、
図1Bは、液体吐出ヘッド1の分解斜視図である。
【0015】
第1実施形態に係る液体吐出ヘッド1は、インク等の液体を吐出する機能を備える記録素子基板5、6を有し、画像記録装置のキャリッジ(図示せず)に搭載されて走査されながら液体を記録媒体に吐出することで画像を形成する。なお、液体吐出ヘッド1は、キャリッジに搭載される代わりに、印字幅分だけ記録素子基板が配置された、いわゆるフルライン形態の液体吐出ヘッドであってもよい。
【0016】
画像形成のために吐出される液体であるインクは、液体貯留部であるインクタンク30(
図2参照)に貯留されている。当該インクタンクが液体吐出ヘッド1に装着されることにより、インクが液体吐出ヘッド1に供給される。液体吐出ヘッド1に供給されたインクは、筐体2から支持部材4を経由して記録素子基板5、6に供給される。筐体2の流路形成部材2bと支持部材4の間には、流路形成部材2bと支持部材4との間のインクのシール性を確保するためのシール部材3が設けられる。流路形成部材2bが、液体貯留部から供給される液体の流路を形成する流路形成部の一例である。
【0017】
記録素子基板5、6の駆動に用いられる信号および電力は、液体吐出ヘッド1が搭載される画像記録装置の電気接続部を通じてプリント基板7に送られる。プリント基板7に送られた信号および電力は、配線部材8を介して記録素子基板5、6に供給される。そして、供給された信号および電力によって、記録素子基板5、6に配置された記録素子(液体の吐出のためのエネルギーを発生する素子。例えば、ヒーター。)が所望のタイミングにて駆動されることで吐出口からインクが吐出され、画像が形成される。
【0018】
図2は、
図1Aに示すX1-X1線の断面図であって、本実施形態における液体吐出ヘッド1の筐体2とインクタンク30との接続を模式的に示す図である。
図2に示すように筐体2の凹形状の係止部2cに対して、インクタンク30の凸形状の係合部30aが係合することで、インクタンク30が筐体2に装着されて固定される。インクタンク30が筐体2に固定されると、筐体2のインク導入口2dとインクタンク側のインク供給口30bとが結合する。インクタンク30はインクを含浸保持するスポンジや繊維集合体等のインク吸収体が設けられ、インク吸収体に含浸されたインクは、インク供給口30bからインク導入口2dを通って筐体2に形成されたインク流路へと流れる。さらに、インクは、筐体2の筐体部材2aと流路形成部材2b、シール部材3、支持部材4を流れて記録素子基板5、6に到達する。各部材等の構成の詳細については後述する。
【0019】
図3Aは、支持部材4および記録素子基板5、6を模式的に示す図である。本実施形態では、液体吐出ヘッド1は、2つの記録素子基板5、6を有する。記録素子基板6には、インクを吐出する記録素子および吐出口がキャリッジの走査方向20と直交する方向に列状に配置された、複数(
図2の場合は6列)の吐出素子列9a~9fが設けられている。なお、本実施形態において、走査方向20と直交する方向は、吐出されたインクが付着す
る記録媒体が供給および排出される搬送方向に相当する。また、吐出素子列の記録素子が、液体の吐出素子の一例である。また、支持部材が、吐出素子列を有する液体吐出部の一例である。
【0020】
図3Bは、記録素子基板6の吐出素子列9a~9fと、吐出素子列9a~9fと接続するインク流路10a、10b、10cの概略図を示す。インクタンクから供給されるインクは、筐体2内に形成されたインク流路10a、10b、10cを流れて、吐出素子列9a~9fの直上まで導かれ、記録素子基板6に供給される。なお、本実施形態では、2つの吐出素子列9a、9fに対して共通のインク流路10aが設けられている。同様に、2つの吐出素子列9c、9dに対して共通のインク流路10bが、2つの吐出素子列9b、9eに対して共通のインク流路10cがそれぞれ設けられている。これにより、1つのインク流路から2つの吐出素子列にインクが供給される。なお、インク流路10a~10cの構成はこれに限らず、例えば1つもしくは2つ以上の吐出素子列に対して、共通のインク流路が設けられる構成であってもよい。
【0021】
図4は、本実施形態における記録素子基板6の吐出素子列9と記録媒体の搬送方向(矢印50)との関係を模式的に示す図である。吐出素子列9a~9fの各列において、複数の記録素子が所定間隔で1列に整列するように設けられている。また、吐出素子列9a~9fは互いに並行になるように間隔を開けて設けられている。そして、記録媒体は、吐出素子列9の延伸方向(矢印40)と略直交する方向(矢印50)に搬送される。ここで、延伸方向と略直交する方向とは、延伸方向と直交する方向から10度以内の方向のことをいう。なお、記録媒体は、カット紙や連続したロール紙などが挙げられる。
【0022】
次に、
図5を参照しながら、筐体2から記録素子基板6までのインク供給経路について説明する。
図5Aは、
図3Bにおけるa-a線による断面図であり、
図5Bは、
図3Bにおけるb-b線による断面図であり、
図5Cは、
図3Bのc-c線による断面図である。
【0023】
筐体2は、筐体部材2aと流路形成部材2bが互いに接合されることで構成され、流路形成部材2bに設けられた溝によってインク流路10a~10cが形成される。また、インク流路10a~10cの一端側には、対応する吐出素子列の直上において下流側、すなわち吐出素子列側に開口するインク流出口11a、11b、11cd、11e、11fが形成されている。インクタンクから供給されるインクは、筐体2内のインク流路10a~10cを経由して、それぞれのインク流路10a~10cに対応するインク流出口11a~11fに到達する。
【0024】
筐体2と支持部材4の間にはシール部材3が設けられている。
図5Aに示すように、流路形成部材2bには、吐出素子列9c、9dにインクを供給するための共通のインク流出口11cdが設けられている。また、シール部材3には、インク流出口とインク流入口と連通するシール開口が複数設けられている。具体的には、シール部材3は、インク流出口11cdとインク流入口12c、12dと連通するシール開口31cdを有する。また、シール部材3には、シール開口31cdを形成するシール部3cdが設けられている。
図3、
図5に示す例では、シール部材3には、インク流出口11a、11b、11cd、11e、11fに対してシール部3a、3b、3cd、3e、3fがそれぞれ設けられている。また、支持部材4には、上面開口であるインク流入口12dと、共通液室13dと、下面開口14dとが、互いに連通して設けられている。さらに、下面開口14dは吐出素子列9dと連通している。共通液室13dは、吐出素子列9dの複数の吐出素子に一括してインクを供給する共通の液室である。他の吐出素子列9a~9c、9e、9fに対しても共通液室13dと同様の液室が設けられている。
【0025】
上記の構成により、インクタンクから供給されるインクは、インク流路10bを流れて
インク流出口11cdに到達し、インク流出口11cdからシール開口31cdに流出する。インク流出口が、インクが流出する流出口の一例である。インク流出口11cdから流出したインクは、シール開口31cdを流れてインク流入口12dに流入する。インク流入口12dが、流出口から流出したインクが流入する流入口の一例である。インク流入口12dに流入したインクは、共通液室13d、下面開口14dを順に流れて吐出素子列9dに導かれる。
【0026】
また、
図5Bに示すように、インク流出口11cdは、シール部3cdによって形成されるシール開口31cdを介してインク流入口12cとも連通している。これにより、インク流路10bを流れるインクは、インク流出口11cdに到達した後、シール開口31cd、インク流入口12c、共通液室13c、下面開口14cを順に流れて吐出素子列9cにも導かれる。同様に、
図5Cに示すように、インク流路10aを流れるインクは、インク流出口11fに到達した後、シール部3fによって形成されるシール開口31f、インク流入口12f、共通液室13f、下面開口14fを順に流れて吐出素子列9fに導かれる。
【0027】
次に、本件開示の技術の特徴部分でもある、インク供給経路におけるインク流出口11a~11fからシール部3a~3fによって形成されるシール開口31a~31fを経由してインク流入口12a~12fに至るまでの部分の構成について説明する。
【0028】
まず、
図6Aに、従来技術に係る液体吐出ヘッドのインク供給経路におけるインク流出口からシール開口を経由してインク流入口に至るまでの部分の構成の一例を示す。なお、
図6Aは、
図6BのA-A線による断面図であり、
図6Bは、
図6AのB-B線による断面図である。
図6A、
図6Bに示すように、従来技術に係る液体吐出ヘッド101は、筐体102、シール部材103、支持部材104、記録素子基板105を有する。また、筐体102には、インク流路110a、110b、110cが設けられている。インク流路110a~110cの一端側には、インク流出口111a、111b、111c、111d、111e、111fが設けられている。また、シール部材103には、シール部103a、103b、103c、103d、103e、103fがそれぞれ設けられている。インク流出口111a~111fは、シール部103a~103fによって形成されるシール開口131a~131fは、それぞれインク流入口112a~112fとそれぞれ連通している。また、インク流入口112a~112fは、共通液室113a~113f、下面開口114a~114fとそれぞれ連通している。
【0029】
また、記録素子基板105には、複数の吐出素子列109が設けられている。吐出素子列109は、6列の吐出素子列109a~109fからなる。
図6Aに示すように、吐出素子列109a、109b、109c、109d、109e、109fが、それぞれA列、B列、C列、D列、E列、F列の吐出素子列に対応する。インクは、インク流路110a~110cを流れてインク流出口111a~111fに到達する。そして、インクは、シール部103a~103f、シール開口131a~131f、インク流入口112a~112f、共通液室113a~113f、下面開口114a~114fを順に流れて吐出素子列109a~109fに導かれる。
【0030】
このように、従来技術に係る液体吐出ヘッド101では、吐出素子列109a~109fそれぞれに対応するインク流出口、シール開口、シール部、インク流入口、共通液室、下面開口が独立に設けられている。
図6Aに示すように、吐出素子列109a、109fには、インクが共通のインク流路110aを経由して供給される。同様に、吐出素子列109c、109dには、インクが共通のインク流路110bを経由して、吐出素子列109b、109eには、インクが共通のインク流路110cを経由して供給される。すなわち、
図6Aに例示する構成では、A列の吐出素子列109aとF列の吐出素子列109f
によって同一色のインク(C)が吐出される。同様に、B列の吐出素子列109bとE列の吐出素子列109eによって同一色のインク(M)が、C列の吐出素子列109cとD列の吐出素子列109dによって同一色のインク(Y)がそれぞれ吐出される。
【0031】
したがって、液体吐出ヘッド101では、同一色のインクが複数の吐出素子列で吐出される構成において、インク供給経路が吐出素子列109a~109fごとに独立して設けられている。吐出素子列109a~109fのうち互いに隣接する吐出素子列に対して、列間の間隔を十分に確保できれば、シール部103a~103fを互いに干渉することなく配置することができる。しかしながら、記録素子基板105は、液体吐出ヘッド101を構成する部品の中でも比較的高価な部品であるため、液体吐出ヘッドをできるだけ安価に提供するには記録素子基板105の小型化が求められる場合ある。この場合、吐出素子列109a~109fのうち隣接する吐出素子列の間隔が狭くなる。
【0032】
そこで、
図7Aおよび
図7Bに示すように、
図6Aおよび
図6Bに示す構成に比べて隣接する吐出素子列の間隔を狭くする。また、
図7A、
図7Bでは、インク流出口111a~111fから共通液室113a~113fに至るまでのインク供給経路を、吐出素子列109a~109fごとに独立して設ける構成とする。なお、
図7Aは、
図7BのC-C線による断面図であり、
図7Bは、
図7AのD-D線による断面図である。
【0033】
この場合、シール部103a~103fのうち隣接する吐出素子列に設けられるシール部材(
図7Aの場合は、シール部103cとシール部103dや、シール部103dとシール部103e)どうしが干渉する可能性が高くなる。一方で、シール部103a~103fどうしの干渉を避けるためにシール部103a~103fの厚さを減少させると、シール部103a~103fによるシール性(密閉性)が低下し、供給されるインクもしくはエアーのリークが生じる可能性が高まる。また、シール部103a~103fどうしの干渉を避ける構成とすることは、インク流出口111a~111fの配置自由度が低下することを意味する。
【0034】
そこで、本実施形態に係る液体吐出ヘッド1においては、
図8Aおよび
図8Bに例示するようにシール部3a、3b、3cd、3e、3fが構成されている。なお、
図8Aは、
図8BのE-E線による断面図であり、
図8Bは、
図8AのF-F線による断面図である。液体吐出ヘッド1では、同一色のインクが共通のインク流路を経由して複数の吐出素子列に供給される。すなわち、
図8Aに例示する構成では、A列の吐出素子列9aとF列の吐出素子列9fによって同一色のインク(C)が吐出される。同様に、B列の吐出素子列9bとE列の吐出素子列9eによって同一色のインク(M)が、C列の吐出素子列9cとD列の吐出素子列9dによって同一色のインク(Y)がそれぞれ吐出される。
【0035】
図8Aおよび
図8Bに示す例では、インク流出口11cdとシール開口31cdとインク流入口12c、12dとが互いに連通している。また、インク流出口11a、11b、11e、11fと、シール開口31a、31b、31e、31fと、インク流入口12a、12b、12e、12fとが互いに連通している。ここで、インク流入口12cとインク流入口12dが、第1の流入口と第2の流入口の一例である。
【0036】
したがって、2つの吐出素子列9c、9dを対象として、同一色のインク(Y)が供給されるインク流出口11cd、シール開口31cd、シール部3cdが共通化されている。また、インク流出口11cdと2つのインク流入口12c、12dを連通するシール開口31cdが、1つのシール部3cdによって囲まれる。この構成によれば、少なくとも2つのインクの流入口がシール部の1つの開口によって囲まれる。したがって、吐出素子列9cと吐出素子列9dの間隔が狭くなっても、上記のシール部103cとシール部103dのように、シール部どうしの干渉に起因するシール部のシール性が低下する懸念がな
い。また、
図7Aに示す場合と異なり、インク(Y)用の吐出素子列9c、9dに設けられるシール部3cdと、異なる色のインク(M)用の吐出素子列9eに設けられるシール部3eとの干渉も回避できる。
【0037】
このように、本実施形態によれば、同一色のインクが供給される複数のインク流出口に設けられるシール部どうしの干渉を回避しつつ、異なる色のインクが供給されるインク流出口に設けられるシール部との干渉も回避することができる。この結果、各吐出素子列9a~9fに設けられるインク流出口11a~11fの配置自由度も高まることが期待できる。
【0038】
さらに、シール部3cdが複数のインク流入口12c、12dに跨がって設けられることで、
図7Bと
図8Bとの比較からわかるように、インク流出口11cdの開口を従来の構成によるインク流出口111c、111dの開口よりも大きく設けることができる。インク流出口11cdは、2つのインク流入口12c、12dと対向するそれぞれの領域を含むように幅広に形成されている。なお、インク流出口11cdが、少なくとも2つの流入口と対向するそれぞれの領域を含む第1の流出口の一例である。これにより、インク流路10bに入り込んだもしくは発生した気泡15cdがインク流出口11cd内に留まりやすくなり、気泡15cdが記録素子基板6の吐出素子列9c、9dに移動することによる吐出不良の発生を抑制することができる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る液体吐出ヘッドについて説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。上記の液体吐出ヘッド1の構成において、支持部材4に配置されるインク流入口12a~12fの位置が吐出素子列9a~9fの端部に近くなるほど、インク流路10a~10c内に生じた気泡を排出しやすいことがわかっている。そこで、本実施形態に係る液体吐出ヘッド200では、
図9Aおよび
図9Bに示すように、シール部3a、3b、3cd、3e、3fが、吐出素子列9a~9dの一端に偏った位置に設けられる構成が採用されてもよい。なお、
図9Aは、
図9BのG-G線による断面図であり、
図9Bは、
図9AのH-H線による断面図である。
【0040】
これにより、インク流出口11cdが吐出素子列9c、9dの中間に配置される構成よりも、インク流出口11cdが吐出素子列9c、9dの一端に偏った位置に配置される構成の方が、インク流路10bに生じた気泡15cdが排出しやすくなるといえる。さらに、
図9Aの例において、2つのインク流入口12c、12dに対応する吐出素子列9c、9dに並列した吐出素子列9b、9eに着目する。ここで、吐出素子列9c、9dに隣接する吐出素子列9b、9eが、隣接吐出素子列の一例である。そして、吐出素子列9c、9dに対応するインク流入口12b、12eは、吐出素子列9c、9dにおいて、インク流入口12c、12dが配置される吐出素子列9c、9dの一端に対して他端となる端部に偏った位置に配置されている。このように各インク流入口が対応する吐出素子列の一端に偏った位置に配置されることで、各インク流路10a、10cに生じた気泡も排出しやすくなるといえる。また、シール開口31cdを形成するシール部3dが、シール開口31bを形成するシール部3bおよびシール開口31eを形成するシール部3eと干渉する懸念もない。
【0041】
従来技術に係る液体吐出ヘッド101では、インク流出口111a~111fから共通液室113a~113fまでのインク供給経路がそれぞれ独立して設けられている。この場合、吐出素子列109a~109fのインク流入口112a~112fを吐出素子列109a~109fの端部に配置することは、シール部103a~103fの占有スペースの点から難しい。一方、本実施形態では、
図9Aに示す例のように、同一色のインク(Y
)が供給される2つの吐出素子列9c、9dに設けられるインク流出口11cdおよびシール部3cdが共通化されている。そして、1つのシール部3cdによって、インク流出口11cdとインク流入口12c、12dとを連通するシール開口31cdが囲まれる。これにより、筐体2と支持部材4との間において、2つの吐出素子列9c、9dに設けられるインク供給経路がシールされるように構成される。この結果、吐出素子列9a~9fのインク流入口12a~12fを各吐出素子列の端部に配置することが可能となり、上記の通り各インク流路10a~10cに生じた気泡の排出性能が高くなることが期待できる。
【0042】
なお、上記の説明では、互いに隣接する2つの吐出素子列9c、9dに対してインク流出口11cdおよびシール部3cdが共通化される。ただし、本実施形態では、2つ以上の吐出素子列に対してインク流出口およびシール部を共通化し、1つのシール部によって、2つ以上のインク流入口と連通するシール開口が形成されるように構成されてもよい。
【0043】
本実施形態によれば、記録素子基板6の小型化のために吐出素子列9a~9fにおける列の間隔を狭くした構成においても、インク流路の密閉性を維持して、液体吐出ヘッドの動作の信頼性を保つことができる。したがって、本実施形態によれば、従来と同様の動作安定性を実現しつつ、より小型かつ安価な液体吐出ヘッドを提供することができる。さらに、本実施形態によれば、インク流入口の配置自由度が高いことにより、インク流路に生じた気泡の排出性能も向上させることができる。
【0044】
以上が本件開示の技術に係る実施形態の説明であるが、上記の実施形態の説明は本件開示の技術を説明する上での例示であり、本件開示の技術は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更または組み合わせて実施することができる。以下に上記の実施形態の一変形例について説明する。なお、以下の説明において、上記の実施形態の構成と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0045】
【0046】
上記の実施形態では、同一色のインクが供給される吐出素子列9a~9fのうち互いに隣接する吐出素子列9c、9dを対象として、インク流出口11cdおよびシール部3cdを共通化する構成について説明した。本変形例に係る液体吐出ヘッド300では、同一色のインクが供給される吐出素子列9a~9fのうち互いに隣接しない吐出素子列に対しても、インク流出口およびシール部が共通化される。
【0047】
本変形例では、
図10Aに示すように、上記の実施形態と同様に、吐出素子列9c、9dの組に対してインク流出口11cdおよびシール部3cdが共通化されている。これに加えて、A列とF列の吐出素子列9a、9fの組に対しても、2つの吐出素子列の間にある他の吐出素子列を跨いで、インク流出口11afおよびシール部3afが共通化される。また、B列とE列の吐出素子列9b、9eの組に対しても、2つの吐出素子列の間にある他の吐出素子列を跨いで、インク流出口11beおよびシール部3beが共通化される。
【0048】
そして、同一色のインク(C)が供給される2つの吐出素子列9a、9fに設けられるインク流出口11a、11fとインク流入口12a、12fとを連通するシール開口31a、31fが、1つのシール部3afによって囲まれている。また、同一色のインク(M)が供給される2つの吐出素子列9b、9eに設けられるインク流出口11b、11eとインク流入口12b、12eとを連通するシール開口31b、31eが、1つのシール部
3beによって囲まれている。ここで、インク流入口12aとインク流入口12fが、第3の流入口と第4の流入口の一例である。
【0049】
このように、本変形例では、インク流入口12a、12fによってインクが供給される共通液室13a、13fに対応して設けられる吐出素子列9a、9fの間には、異なる液室13b~13eに対応して設けられる吐出素子列9b~9eが配置されている。同様に、吐出素子列9b、9eの間には吐出素子列9c、9dが配置されている。そして、インク流出口11a~11fの空間が、シール部3af、3cd、3beによって囲まれる空間の大きさに応じて設けられる構成となる。
【0050】
したがって、インク流出口11a~11fの空間は、従来のシール部103a~103fによって囲まれるインク流出口111a~111fの空間よりも大きくなる。この結果、インク流路10a~10cに気泡が留まりやすくなり、吐出素子列9a~9fにおいて気泡による吐出不良の発生がさらに抑制されることが期待できる。
【0051】
また、上記の説明では、例えば、2つのインク流入口12c、12dに対して1つのインク流出口11cdが設けられているように、複数のインク流入口に対して1つの共通のインク流出口が設けられるように構成されている。ただし、1つのインク流入口に対して1つのインク流出口が設けられており、複数のインク流入口と複数のインク流出口が1つのシール部で囲まれる1つのシール開口を介して互いに連通するように構成されていてもよい。例えば、
図11に示す構成としてもよい。
図11は、
図9Aに対応する本構成の断面図である。
図11に示すように、2つのインク流入口12c、12dに対して2つのインク流出口11c、11dが設けられている。そして、インク流出口11c、11dとインク流入口12c、12dは、1つのシール部3cdによって形成される1つのシール開口31cdを介して互いに連通している。このような構成によっても、複数の吐出素子列に対してシール部が共通化されるため、従来のシール部の構成に比べてシール部ひいてはインク流出口の配置の自由度が高まることが期待できる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・液体吐出ヘッド、3a~3f・・・シール部、9・・・吐出素子列、11a~11f・・・インク流出口、12a~12f・・・インク流入口、13a~13f・・・シール開口