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  • 特許-搬送システムおよび物品の製造方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】搬送システムおよび物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20240408BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H02K41/03 A
B65G54/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019221444
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021093781
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 武
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-343105(JP,A)
【文献】特開平04-012657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0212505(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105119463(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
B65G 54/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に沿って配置された複数の第1のコイルよりなる第1のコイル群と、前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って配置された複数の第2のコイルよりなる第2のコイル群とを有する可動子と、
前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群に対向可能に前記第1の方向に沿って1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体と、を有し、
前記可動子は、前記第1のコイル群又は前記第2のコイル群に電流が流されることによって、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体との間に発生する力により姿勢が制御されつつ、前記第1の方向に移動可能であり、
前記第1のコイル群は、電流が流されることにより、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体との間に、前記第1の方向および前記第1の方向に交差する鉛直方向に印加される力を発生し、
前記第2のコイル群は、電流が流されることにより、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体との間に、前記第1方向および前記鉛直方向に交差する前記第2の方向に印加される力を発生する
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
前記第1のコイル群又は前記第2のコイル群は、前記磁性体との間に前記第1の方向とは異なる方向に力を発生させる
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記可動子は、前記第1の方向に沿った上面を有し、
前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群は、前記上面に配置されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群は、前記上面に配置され、
前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群は、
前記磁性体の間に引力が働きうるコアを有し、
前記コアは、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体と対向可能に配置されている
ことを特徴とする請求項に記載の搬送システム。
【請求項5】
前記第2のコイル群のうち、隣り合う2つのコイルは、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体と対向可能な位置に配置されており、
前記第2のコイル群のうちの隣り合う2つのコイルに流れる電流は、互いに方向が異なる
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項6】
前記第2の方向は、前記第1の方向と直交する水平方向である
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の搬送システムを用いて物品を製造する物品の製造方法であって、
前記可動子によりワークを搬送する工程と、
前記ワークに対して加工作業を施す工程と、を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送システムおよび物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工業製品を組み立てるための生産ラインや半導体露光装置等では、搬送システムが用いられている。特に、生産ラインにおける搬送システムは、ファクトリーオートメーション化された生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間で、部品等のワークを搬送する。また、プロセス装置中の搬送装置として使われる場合もある。搬送システムとしては、可動磁石型リニアモータによる搬送システムが既に提案されている。
【0003】
リニアモータによる搬送システムでは、リニアガイド等の機械的な接触を伴う案内装置を使って搬送システムを構成する。しかしながら、リニアガイド等の案内装置を使った搬送システムでは、リニアガイドの摺動部から発生する汚染物質、例えば、レールやベアリングの摩耗片や潤滑油、あるいはそれが揮発したもの等が生産性を悪化させるという問題があった。また、高速搬送時には摺動部の摩擦が大きくなってリニアガイドの寿命を小さくするという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、搬送トレイを非接触で搬送可能な磁気浮上搬送装置が記載されている。文献1には、搬送トレイの搬送方向に沿って、チャンバ下部に搬送方向用(以下、X方向)および浮上方向用(以下、Z方向)の制御用に永久磁石が2列配置され、さらに搬送方向と直交する水平方向用(以下、Y方向)に永久磁石が1列配置されている。搬送トレイ上にはその永久磁石に対応するようにコイルが3セット配置されて永久磁石と対応するように置かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-079368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の装置では、コイル列が最低3列必要で構造が大型化かつ複雑になる。また構造を小さくするためにX用のコイルとY用のコイルを近接して配置した場合、たとえは可動子がY側に変位すると本来Y用の永久磁石に対抗すべきY用コイルがX用のコイルと対向するようになり可動子の姿勢制御が困難になる。
【0007】
本発明は、システム構成の大型化を伴うことなく、可動子の姿勢を制御しつつ、可動子を非接触で搬送することができる搬送システム、可動子、制御装置、制御方法および物品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の搬送システムは、第1の方向に沿って配置された複数の第1のコイルよりなる第1のコイル群と、前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って配置された複数の第2のコイルよりなる第2のコイル群とを有する可動子と、前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群に対向可能に前記第1の方向に沿って1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体と、を有し、前記可動子は、前記第1のコイル群又は前記第2のコイル群に電流が流されることによって、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体との間に発生する力により姿勢が制御されつつ、前記第1の方向に移動可能であり、前記第1のコイル群は、電流が流されることにより、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体との間に、前記第1の方向および前記第1の方向に交差する鉛直方向に印加される力を発生し、前記第2のコイル群は、電流が流されることにより、前記1列に配置された隣り合う磁極が異なる複数の磁性体との間に、前記第1の方向および前記鉛直方向に交差する前記第2の方向に印加される力を発生することを特徴とする。
【0009】
本発明の可動子は、上面、側面、および下面を有し、前記上面には、第1の方向に沿って配置された第1のコイル群と、前記第1の方向と交差する方向に沿って配置された第2のコイル群とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の制御装置は、第1の方向に沿って配置された第1のコイル群と、前記第1の方向と交差する方向に沿って配置された第2のコイル群とを有する可動子を、前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群に対向可能に前記第1の方向に沿って配置された磁性体に沿って移動させる制御装置であって、前記第一のコイル群に印加する電流を制御することにより、前記第1の方向への前記可動子の搬送を制御する搬送制御手段と、前記第1のコイル群又は前記第2のコイル群に印加する電流を制御することにより、前記可動子の姿勢を制御する姿勢制御手段とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の制御方法は、第1の方向に沿って配置された第1のコイル群と、前記第1の方向と交差する方向に沿って配置された第2のコイル群とを有する可動子を、前記第1のコイル群及び前記第2のコイル群に対向可能に前記第1の方向に沿って配置された磁性体に沿って移動させる制御方法であって、前記第1のコイル群に印加する電流を制御することにより、前記第1の方向への前記可動子の搬送を制御し、前記第1のコイル群又は前記第2のコイル群に印加する電流を制御することにより、前記可動子の姿勢を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、システム構成の大型化を伴うことなく、可動子の姿勢を制御しつつ、可動子を簡単な構造によって非接触で搬送あるいは回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の第一の実施形態による搬送システムの可動子を示す概略図である。
図1B】本発明の第一の実施形態による搬送システムの固定子を示す概略図である。
図2】本発明の第一の実施形態による搬送システムの全体構成を示す概略図である。
図3A】本発明の第一の実施形態による搬送システムにおけるコイル群を示す概略図である。
図3B】本発明の第一の実施形態による搬送システムにおけるコイル群を示す概略図である。
図3C】本発明の第一の実施形態による搬送システムにおけるコイル群に電流を印加した際に発生する力の大きさを示す図である。
図4A】本発明の第一の実施形態による搬送システムを制御する制御システムを示す概略図である。
図4B】本発明の第二の実施形態による搬送システムを制御する制御システムを示す概略図である。
図5】本発明の第一の実施形態による搬送システムにおける可動子コントローラを説明する図である。
図6】本発明の第一の実施形態による搬送システムにおけるコイルの作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第一の実施形態]
以下、図面を参照して本発明の第一の実施形態について図1A乃至図6を用いて説明する。
【0015】
まず、本実施形態による搬送システムの全体構成について図1A及び図1Bを用いて説明する。図1A及び図1Bは、本実施形態による可動子101及び固定子201を示す概略図である。なお、図1A及び図1Bは、可動子101及び固定子201の主要部分を抜き出して示したものである。また、図1Aは可動子101を後述のZ方向から見た図、図1Bは固定子201を後述のY方向から見た図である。
【0016】
図1A及び図1Bに示すように、本実施形態による搬送システム1は、台車、スライダ又はキャリッジを構成する可動子101と、搬送路を構成する固定子201とを有している。搬送システム1は、可動コイル型リニアモータによる搬送システムである。さらに、搬送システム1は、リニアガイド等の案内装置を持たず、固定子201上において非接触で可動子101を搬送する磁気浮上型の搬送システムとして構成されている。
【0017】
搬送システム1は、例えば、固定子201により可動子101を搬送することにより、可動子101上のワーク102を、ワーク102に対して加工作業を施す工程装置に搬送する。なお、図1A及び図1Bでは、固定子201に対して1台の可動子101を示しているが、これに限定されるものではない。搬送システム1においては、複数台の可動子10が固定子201上を搬送されうる。
【0018】
ここで、以下の説明において用いる座標軸、方向等を定義する。まず、可動子101の搬送方向である水平方向に沿ってX軸をとり、可動子101の搬送方向をX方向とする。本明細書において、X方向を第一の方向と称する場合がある。また、X方向と直交する方向である鉛直方向に沿ってZ軸をとり、鉛直方向をZ方向とする。また、X方向及びZ方向に直交する方向に沿ってY軸をとり、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。さらに、X軸周りの回転をWx、Y軸、Z軸周りの回転を各々Wy,Wzとする。また、乗算の記号として“*”を使用する。また、可動子101の中心を原点Oとし、Y+側をR側、Y-側をL側として記載する。なお、可動子101の搬送方向は必ずしも水平方向である必要はないが、その場合も搬送方向をX方向として同様にY方向及びZ方向を定めることができる。
【0019】
次に、本実施形態による搬送システム1おける搬送対象である可動子101について図1A及び図2を用いて説明する。図2は、本実施形態による搬送システム1における全体構成を示す概略図である。なお、図2は、可動子101及び固定子201をX方向から見た図である。また、図2の左半分は、図1Bの(A)-(A)線に沿った断面(A)を示している。また、図2の右半分は、図1Bの(B)-(B)線に沿った断面(B)を示している。
【0020】
図1A及び図2に示すように、可動子101は、上面101a、側面101b、下面101cを有している。また、可動子101は、複数のコイルからなるコイル列103R、103Lを有している。本実施形態では可動子の上面のL側とR側に1列ずつ2列のコイル列を有す可動子101について説明するがこれに限るものではなく、1列のコイル列でもよいし3列以上のコイル列を有していてもよい。本明細書において可動子101の上面101aは、搬送方向であるX方向と平行方向であって、X方向と直交する方向である鉛直方向(Z方向)とは直交する面のうち、上を向いている面(Z+方向を向いている面)とする。可動子101の下面101cは、搬送方向であるX方向と平行方向であって、X方向と直交する方向である鉛直方向(Z方向)とは直交する面のうち、下を向いている面(Z-方向を向いている面)とする。可動子101の側面101bは、搬送方向であるX方向と平行方向であってX方向と直交する方向である鉛直方向(Z方向)と平行な面のうち、固定子と対向する面とする。
【0021】
図1Aに示すように、コイル103a1R~103a3R、103b1R~103b6R、103c1R~103c2Rは、可動子101の上面におけるR側の部分に配置されている。コイル103a1R~103a3R、103c1R~103c2Rは、それぞれの中心が可動子101の中心である原点OからY方向のR側に距離rx3だけ離れた位置に配置されている。また、コイル103b1Rとコイル103b4Rの間、コイル103b2Rとコイルb5Rの間、コイル103b3Rとコイルb6Rの間が可動子101の中心である原点OからY方向のR側に距離rx3だけ離れた位置に配置されている。
【0022】
また、コイル103a1L~103a3L、103b1L~103b6L、103c1L~103c2Lは、可動子101の上面におけるL側の部分に配置されている。コイル103a1L~103a3L、103c1L~103c2Lは、それぞれの中心が可動子101の中心である原点OからY方向のL側に距離rx3だけ離れた位置に配置されている。また、コイル103b1Lとコイル103b4Lの間、コイル103b2Lとコイルb5Lの間、コイル103b3Lとコイルb6Lの間が可動子101の中心である原点OからY方向のL側に距離rx3だけ離れた位置に配置されている。
【0023】
可動子101の上面において、上述のようにコイル103が配置されたR側の部分とL側の部分との間の中央部分は、搬送すべきワーク102が載せられる部分になっている。
【0024】
コイル列103R、103Lは、可動子101のX方向に沿った上面に配置されて取り付けられている。具体的には、可動子101のR側の上面に、コイル列103Rが取り付けられている。また、可動子101のL側の上面に、コイル列Lが取り付けられている。なお、以下では、特に区別する必要がないかぎり、可動子101のコイルを単に「コイル103」と表記する。また、R側とL側とを区別する必要まではないが、各コイル103を個別に特定する必要がある場合、各コイル103に対する符号の末尾からR又はLを除いた識別子としての小文字のアルファベットおよび数字までの符号を用いて各コイル103を個別に特定する。図1Aの場合、「コイル103a1~103a3」、「コイル103b1~103b6」、又は「コイル103c1~103c3」と表記して、各コイル103を個別に特定する。
【0025】
コイル103a1R、103c3Rは、可動子101のX方向に沿ったR側の上面におけるX方向の一方の端部及び他方の端部に取り付けられている。コイル103b1R~103b6Rは、可動子101のR側の上面のコイル103a3R、103c1R間に取り付けられている。コイル103a1R~103a3Rは、例えば、X方向に等ピッチにX方向に沿った直線R-R上に並ぶように配置されている。また、103c1R~103c3Rも、例えば、X方向に等ピッチにX方向に沿った直線R-R上に並ぶように配置されている。コイル103b1R~103b3Rおよびコイル103b4R~103b6Rは、直線R-Rを挟んでX方向に沿って2列に等ピッチで配置されている。
【0026】
コイル103a1L、103c3Lは、可動子101のX方向に沿ったL側の上面におけるX方向の一方の端部及び他方の端部に取り付けられている。コイル103b1L~103b6Lは、可動子101のL側の上面のコイル103a3L、103c1L間に取り付けられている。コイル103a1L~103a3Lは、例えば、X方向に等ピッチにX方向に沿った直線L-L上に並ぶように配置されている。また、103c1L~103c3Lも、例えば、X方向に等ピッチにX方向に沿った直線L-L上に並ぶように配置されている。コイル103b1L~103b3Lおよびコイル103b4L~103b6Lは、直線L-Lを挟んでX方向に沿って2列に等ピッチに配置されている。
【0027】
さらに、コイル103a1L~103a3L、103c1L~103c3Lは、X方向においてそれぞれコイル103a1R~103a3R、103c1R~103c3R1と同位置に配置されている。また、コイル103b1R、コイル103b4R、コイル103b1L、コイル103b4Lは、X方向においてそれぞれ同一に配置されている。また、コイル103b2R、コイル103b5R、コイル103b2L、コイル103b5Lは、X方向においてそれぞれ同一に配置されている。また、コイル103b3R、コイル103b6R、コイル103b3L、コイル103b6Lは、X方向においてそれぞれ同一に配置されている。
【0028】
コイル103a2R、103c2Rは、その中心が、それぞれ可動子101の中心である原点OからX方向の一方及び他方の側に距離ry3だけ離れた位置に取り付けられている。コイル103a2L、103c2Lは、それぞれ可動子101の中心である原点OからX方向の一方及び他方の側に距離ry3だけ離れた位置に取り付けられている。コイル103a1~103a3、103c1~103c3は、その中心が、それぞれ原点OからY方向に距離rx3だけ離れた位置に取り付けられている。コイル103bは、コイル103b1~103b3の中心を結ぶ線と、コイル103b4~103b6の中心を結ぶ線との間の中間線が、それぞれ原点OからY方向に距離rx3だけ離れた位置に取り付けられている例を示したがこれに限るものではない。
【0029】
コイル103b1Rと103b4R、103b2Rと103b5R、103b3Rと103b6Rは、それぞれY方向に沿って配置された2個のコイルのセットである。また、コイル103b1Lと103b4L、103b2Lと103b5L、103b3Lと103b6Lは、それぞれY方向に沿って配置された2個のコイルのセットが3セットで構成されるコイル群である。なお、コイル103bを構成するY方向に沿って配置されたコイルの数は、2個に限定されるものではない。また、コイル103bを構成するコイルが配置される方向は、必ずしも搬送方向であるX方向と直交するY方向である必要はなく、X方向と交差する方向であればよい。
【0030】
一方、コイル103aR、103cR、103aL、103cLは、それぞれX方向に沿って配置された3個のコイル群である。なお、コイル103a、103cを構成するX方向に沿って配置されたコイルの数は、3個に限定されるものではなく、複数個であればよい。
【0031】
本実施形態において、それぞれX方向に沿って配置されたコイル群を、第一のコイル群と称する場合がある。また、X方向と交差する方向に配置された2個のコイルのセットが複数セット配置されたコイル群を、第二のコイル群と称する場合がある。具体的に、本実施形態における第二のコイル群は、(103b1Lと103b4L、103b2Lと103b5L、103b3Lと103b6L)(103b1Rと103b4R、103b2Rと103b5R、103b3Rと103b6R)である。本実施形態において、103b1Lと103b4Lを103b1・4L、103b2Lと103b5Lを103b2・5L、103b3Lと103b6Lを103b3・6Lと示す場合がある。また、103b1Rと103b4Rを103b1・4R、103b2Rと103b5Rを103b2・5R、103b3Rと103b6Rを103b3・6Rと示す場合がある。
【0032】
コイル103は、コア有のコイルでもよいし、コアレス型のコイルでもよいが、本実施形態においては、磁気回路に磁性の鉄芯(コア)を使っているコア有のコイル103で構成することができる。これにより、コイル103のコアと永久磁石203との間には強い吸引力が働くため、可動子101を浮上させるのに寄与する。特に、コア有のコイル103は、可動子101の質量又は可動子101に置かれるワーク102の質量が大きい場合に好適である。なお、コイル103のコアは、永久磁石203の少なくともいずれかとの間で引力が働きうるものであればよい。前記コアは、前記複数の永久磁石と対向可能に配置されていることが好ましい。
【0033】
可動子101には、可動子101の上面のX軸に沿った中心軸を対称軸として、複数のコイル103がR側及びL側に対称に配置されている。複数のコイル103は、例えば3個ずつの単位で電流制御されるようになっている。そのコイル103の通電制御される単位を「コイルユニット1031」と記載する。複数のコイル103は、通電されることにより、後述する固定子201の永久磁石203との間で電磁力を発生して可動子101に対して力を印加することができる。複数のコイル103が配置された可動子101は、固定子201の複数の永久磁石203が受ける電磁力により姿勢が6軸制御されつつ移動可能に構成されている。
【0034】
可動子101は、X方向に沿って2列に配置された複数の永久磁石203に沿ってX方向に移動可能である。可動子101は、その上面あるいは下面に搬送すべきワーク102を保持した状態で搬送される。可動子101は、例えば、ワークホルダ等のワーク102を保持する保持機構を有していてもよい。
【0035】
次に、本実施形態による搬送システム1における固定子201について図1B図2を用いて説明する。図1Bは、永久磁石203をZ方向から見た図である。
【0036】
固定子201は、可動子101の搬送方向であるX方向に沿って2列に配置された複数の永久磁石203を有している。固定子201には、複数の永久磁石203がそれぞれ可動子の上面のコイルに対向するように取り付けられている。固定子201は、搬送方向であるX方向に延在して可動子101の搬送路を形成する。永久磁石203は固定子201の下側にヨーク221を介して取り付けられている。ヨーク221は、透磁率の大きな物質、例えば鉄で構成されている。永久磁石203は搬送方向に沿って所定の間隔で配置されていて交互に着磁されている。Ofは固定子201のX方向の基準位置を示している。
【0037】
固定子201上を搬送される可動子101は、Xエンコーダ111、Yセンサ112、Zセンサ113、可動子コントローラ302およびケーブルベア(登録商標)130を有している。固定子201は、スケール211、Yターゲット212及びZターゲット213を有している。Xエンコーダ111は、例えば可動子101の底部に取り付けられている。固定子には、可動子のXエンコーダ111と対向する位置にスケール211がX方向に沿って取り付けられている。Xエンコーダ111は、スケール211のパターンを検出してスケール211の基準位置に対する可動子101のX方向の距離を検出することが出来る。Yターゲット212は、例えば可動子の側面に取り付けられたYセンサ112と対向する位置にX方向に沿って取り付けられている。Yセンサ112はYターゲット212との間のY方向の距離を測定することが出来る。Zターゲット213は、例えば可動子の底部に取り付けられたZセンサ113と対向する位置にX方向に沿って取り付けられている。Zセンサ113は、Zターゲット213との間のZ方向の距離を測定することが出来る。Zセンサ113はL側に2か所、R側に1か所の合計3個(113bL、113fL、113cR)取り付けられていることが好ましい。可動子コントローラ302にはXエンコーダ111、Yセンサ112、Zセンサ113、コイルユニット1031、およびケーブル130が接続されている。ケーブル130は、後述する、例えば固定子に設けられる統合コントローラ301と繋がれている。また、ケーブル130によって可動子に負荷がかからないように、ケーブル130はケーブルベア等によって案内されていることが好ましい。
【0038】
複数の永久磁石203は、可動子101のR側及びL側の上面のコイル103と対向可能なように、X方向に沿って2列に配置されて固定子201に取り付けられている。R側において1列に配置された複数の永久磁石203は、可動子101のR側のコイル103aR、103bR、103cRと対向可能にX方向に沿って配置されている。また、L側において1列に配置された複数の永久磁石203は、可動子101のL側のコイル103aL、103bL、103cLと対向可能にX方向に沿って配置されている。
【0039】
案内部材108が、可動子101に取り付けられていてもよい。案内部材108は、可動子101のX方向に沿った側面に取り付けられていることが好ましい。そして、固定子201にZローラー262およびYローラー261が取り付けられていてもよい。案内部材108は、C型が好ましく、C型であると、Zローラー262およびYローラー261を内部に抱え込むように配置することができる。
【0040】
Zローラー262およびYローラー261は固定子201の搬送方向(第1の方向(X方向))に複数取り付けられている。図2においてはR側にZローラー262が、L側にYローラー261が取り付けられている例を記載したが、R側およびL側の両方にZローラー262およびYローラー261が取り付けられていてもよい。
【0041】
案内部材108は、例えば断面がC型あるいはコの字型を有していることが好ましい。C型あるいはコの字型であると、Zローラー262およびYローラー261を内部に抱え込むように配置することができる。
【0042】
案内部材108によって、一定量以上可動子101がZ方向に移動するとZローラー262が案内部材108の内側に当接してそれ以上移動しないように動作量を規制することができる。同様に案内部材108によって、一定量以上可動子がY方向に移動するとYローラー261が案内部材108の内側に当接してそれ以上移動しないように動作を規制することができる。
【0043】
本実施形態においては、案内部材108が、可動子101に取り付けられ、Zローラー262およびYローラー261が固定子201に取り付けられている例を示したが、案内部材108が、固定子201に取り付けられていてもよい。その場合、Zローラー262およびYローラー261は可動子101の側面のX方向(第1の方向)に沿って取り付けられる。
【0044】
次に、コイルユニット1031について図3を用いて説明する。
【0045】
本実施形態においては、コイルユニット1031は、第1の方向に沿って配置された6つのコイルからなる第1のコイル群を有している。また、前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って配置される2つのコイルを1組とするコイルが3組配置された第2のコイル群を有している。つまり、第1のコイル群6個と第二のコイル群6個から構成される例を示すがこれに限るものではない。図3Aはコイルユニット1031RをZ+方向から見た図である。コイルユニット1031Rは12個のコイル103a1R~103a3R、103b1R~103b6R、103c1R~103c3Rからなる。203は固定子の永久磁石である。
【0046】
コイルはそれぞれ可動子コントローラ302に接続され、103a1R~103a3Rと103c1R~103c3Rの6つのコイルは各々独立に電流量を制御することが出来る。
【0047】
また、コイル103b1Rと103b4Rには、同じ大きさの電流が逆方向に印加される。コイル103b2Rと103b5Rとの組みあわせ、コイル103b3Rと103b6Rとの組み合わせも同様に、同じ大きさの電流が逆方向に印加される。
【0048】
図6を用いてコイル103b1Rと103b4Rの作用について説明する。
【0049】
図6においてコイル103b1Rと103b4Rは巻き線されたコイルであり、コイル103b1Rと103b4Rは永久磁石側に現れる磁極が反対になるように巻き線がなされていることが好ましい。しかし、これに限らず、それぞれ同じ大きさの電流が逆方向に印加されるようにそれぞれのコイルを制御してもよい。
【0050】
例えば図6の様に、コイル103b1Rと103b4Rに、103b4Rの永久磁石203側の面がS極に、コイル103b1Rの永久磁石203側の面がN極となるように電流を印加する。永久磁石203のコイル側の面がS極になるように着磁されている場合、コイル103b1Rと103b4Rには両方ともY+側に力(FynとFyp)力が働くため、Y+方向に可動子101は移動する。
【0051】
一方、Z方向に働く力、FznとFzpは互いに打ち消しあうように働く。
【0052】
このように、コイルユニット1031Rおよび1031Lはそれぞれ独立した電流制御が可能な6つのコイルと、同じ大きさの電流が逆方向に印加される2つのコイルを1組とする3組のコイルから構成される。それぞれ独立した電流制御が可能な6つのコイルは、103a1~103a3と103c1~103c3である。同じ大きさの電流が逆方向に印加される2つのコイルを1組とする3組のコイルは、103b1と103b4、103b2と103b5、103b3と103b6である。
【0053】
図3Bはコイルユニット1031RをY+方向から見た図である。永久磁石203内の矢印はそれぞれの永久磁石の着磁方向を模式的に表している。
【0054】
図3Cはコイルユニット1031Rのそれぞれのコイル103に単位電流を印加した際に発生するX方向の力(Fx)、Y方向の力(Fy)、Z方向の力(Fz)の大きさを模式的に表した推力定数プロファイルである。
【0055】
固定子201の基準位置Ofから見た可動子101の基準位置Omまで距離を(X)とする。
【0056】
コイル103a1R~103a3R、103c1R~103c3Rは電流を印加すると、X方向およびZ方向に力が主に発生する。Y方向に発生する力は無視できる程度に小さい。
【0057】
コイル103b1Rと103b4R、103b2Rと103b5R、103b3Rと103b6Rは図6で説明した通り電流を印加するとY方向に主に力が発生する。X,Z方向にもわずかに力を発生するが無視できる程度に小さい。
【0058】
図3Aおよび図3Cにおいて、例えばFx(a1R,x)は可動子101のX方向の位置が(X)である場合、コイル103a1Rに単位電流を印加した際に発生するX方向の力の大きさを模式的に表している。Fxの括弧の最初の引数はコイルの指標を、二番目は可動子101のX方向の位置を表している。
【0059】
同様に、図3Bおよび図3C例えばFz(a3R,x)はコイル103a3Rに単位電流を印加した際に発生するZ方向の力の大きさを表している。
【0060】
同様に、図3Aおよび図3Cにおいて、Fy(b1R・b4R、X)はコイル103b1Rおよび103b4Rに単位電流を印加した際に発生するY方向の力の大きさを表している。
【0061】
永久磁石203とコイル103の大きさはコイル103が3個分で永久磁石203の2個分の大きさになるように構成されていることが好ましい。これらの関係は、コイルユニット1031Lについても同様である。
【0062】
次に本実施形態による搬送システム1を制御する制御システムについてさらに図4Aを用いて説明する。図4Aは、本実施形態による搬送システム1を制御する制御システムを示す概略図である。
【0063】
図4Aに示すように、制御システムは統合コントローラ301と、可動子コントローラ302を有し可動子101と固定子201とを含む搬送システム1を制御する制御装置として機能する。
【0064】
可動子コントローラ302にはコイルユニット103およびエンコーダ111、Yセンサ112およびZセンサ113が通信可能に接続されている。また可動子コントローラ302は統合コントローラ301とはケーブル130で繋がれていて統合コントローラ301から搬送の指令や電源の供給を受けることが出来る。可動子コントローラ302は接続されたコイル103の電流の大きさを個々に制御することが出来る。
【0065】
可動子コントローラ302は、エンコーダ111、Yセンサ112およびZセンサ113からの出力に基づき、可動子101の位置および姿勢を算出することが出来る。
【0066】
また、可動子コントローラ302は可動子101の位置およびその推移を元に複数のコイル103に印加する電流指令値を決定することが出来る。
【0067】
これにより、統合コントローラ301および可動子コントローラ302は、制御装置として機能し、固定子201に沿って可動子101を非接触で搬送するとともに、搬送する可動子101の姿勢を6軸で制御することが出来る。
【0068】
可動子101の位置のX座標の検出方法について図2で説明する。
【0069】
図2において可動子101に取り付けられたエンコーダ111は固定子201に取り付けられたスケール211のパターンを読み取って可動子1の搬送方向Xの座標を取得することが出来る。
【0070】
エンコーダ111およびスケール211は絶対位置検出型でもよいし、インクリメンタル型エンコーダと適切なリセット信号の組み合わせでもよい。
【0071】
可動子101のY位置の検出方法について図1および図2で説明する。
【0072】
Yセンサ112はYターゲット212の間の距離を検出するセンサである。Yターゲット212は搬送路に連続して延在している。
【0073】
Yセンサ112bRおよび112fRで検出される可動子101の検出値がそれぞれY112bRとY112fRであるとする。
【0074】
Yセンサ112bRおよび112fRの座標が(a2,b),(-a2,b)で表される場合、可動子101のY位置(Y)およびZ軸周りの回転量(Wz)はそれぞれ次式(5a)及び(5b)により
Y=(Y112bR+ Y112fR)/2 ---式(5a)
Wz=(Y112bR - Y112fR)/(2*a2) ---式(5b)
と計算することが出来る。
【0075】
可動子101のZ位置の検出方法について図1および図2で説明する。
【0076】
Zセンサ113はZターゲット213の間の距離を検出するセンサである。Zターゲット213は搬送路に連続して延在している。
【0077】
Zセンサ113は可動子101上に3か所以上設ける必要がある。
【0078】
例えば図1に示すように3か所のZセンサの位置(113bL,113fL,113cR)のXY座標が(-a,-b)、(a,-b)、(0,b)で表される。そして、Zセンサ113の検出値をそれぞれ(Z113bL,Z113fL,Z113cR)とするとき可動子101の姿勢、Zの位置(Z)Y軸周りの回転量(Wy)及びX軸周りの回転量(Wx)は、次式(5c)、(5d)及び(5e)により算出できる。
Z=(Z113bL + Z113fL + Z113cR)/3 ---式(5c)
Wx=(Z113cR -(Z113bL + Z113fL)/2)/(2*b) ---式(5d)
Wy=(Z113bL - Z113fL)/(2*a) ---式(5e)
で計算することが出来る。
【0079】
次に図5で可動子コントローラ302による姿勢制御方法について説明する。図5は可動子101に印加する力の大きさを算出するための制御ループを模式的に表したものである。
【0080】
refは統合コントローラ301から指令される可動子101の姿勢の目標値、posはセンサ群から得られる可動子101の姿勢情報である。姿勢コントローラ501は目標値refと現在位置posとの差分errから可動子101に印加するトルクTを算出する。
【0081】
算出されたトルクTの大きさからコイルユニット103に印加する電流Iが決定され所望の電流が出力されるとそれが可動子101に力Fとなって作用し最終的に姿勢posとして検出される。
【0082】
姿勢コントローラ501は例えばPID制御コントローラでもよいし、可動子101の特性に応じて適宜フィルタを入れるなどして可動子101の姿勢を安定させることが出来る。
【0083】
また、可動子101に対して印加される力ベクトルTを次式(6)により表記する。なお、Tx、Ty、Tzは、力の3軸成分であり、それぞれ力のX方向成分、Y方向成分及びZ方向成分である。また、TwX,Twy、Twzは、モーメントの3軸成分であり、それぞれモーメントのX軸周り成分、Y軸周り成分及びZ軸周り成分である。本実施形態による搬送システム1は、これら力Tの6軸成分(TX,Ty,Tz,TwX,Twy,Twz)を制御することにより、可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の搬送を制御する。
T=(TX,Ty,Tz,TwX,Twy,Twz) …式(6)
まず、所望の力Tが満足すべき一般式を示す。
【0084】
可動子の右側に配置された6個のコイルと2つのコイルを1組とした3組のコイル番号の指標を(j)で表す。コイル番号の指標とは、例えば、(103a1R,103a2R,103a3R,103b1・4R,103b2・5R,103b3・6R,103c1R,103c2R,103c3R)である。
【0085】
また、左側に配置された6個のコイルと2つのコイルを1組とした3組のコイル番号の指標(103a1L,103a2L,103a3L,103b1・4L,103b2・5L,103b3・6L,103c1L,103c2L,103c3L)も(j)で表す。
j番目のコイルに印加する電流の大きさをIjで表す。
j番目のコイルの座標を(Xj,Yj)とする。
jを1から18まで変化させた場合の総和をΣで表すと、
TX=ΣIj*Fx(j,x) ---式(7a)
Ty=ΣIj*Fy(j,x) ---式(7b)
Tz=ΣIj*Fz(j,x) ---式(7c)
TwX=-ΣIj*Fz(j,x)*Yj ---式(7d)
Twy=ΣIj*Fz(j,x)*Xj ---式(7e)
Twz=ΣIj*Fx(j,x)*Yj-ΣIj*Fy(j,x)*Xj ---式(7f)
で表すことが出来る。
【0086】
従って、式7a-7fを満足する電流値(Ij)を決定することが出来れば所望のトルクTを印加することが出来る。
【0087】
上記の電流値は18の自由度(6つのコイルと、2つのコイルを1組とした3組のコイルを2セット(R側とL側))であるのに対して力Tは6自由度であるから電流値の解は無数にあるので、適切な制約条件を設けて電流値の解を得ればよい。
【0088】
次にコイル電流値Ijを一意に決定する方法を説明する。なお以下で用いる力の表記において、X方向、Y方向及びZ方向の力が働く方向をそれぞれx、y、zで示し、図1におけるY+であるR側をR,Y-側をL、X+側をF、X-側をb、中心をcで示す。
【0089】
図1においてR側及びL側の各コイルユニット1031に働く力ベクトルFをそれぞれ次のように表記する。各コイルユニット1031に働く力は、電流が印加された複数のコイル103と永久磁石203との間に生じる電磁力である。永久磁石203と電流が印加された複数のコイル104とにより、可動子101の搬送方向であるX方向の電磁力のほか、X方向とは異なる方向であるY方向及びZ方向の電磁力を発生す。
【0090】
図1Aおよび図3Aにおいてコイル103から生成される力Fは以下の通りである。
FxbL:コイル103a1L、103a2L、103a3Lから生成されるX方向の力
FzbL:コイル103a1L、103a2L、103a3Lから生成されるZ方向の力
FycL:コイル103b1・4L(コイル103b1Lと・103b4L)、103b2・5L(コイル103b2Lと・103b5L)、103b3・6L(コイル103b3Lと・103b3L)から生成されるY方向の力
FxfL:コイル103c1L、103c2L、103c3Lから生成されるX方向の力
FzfL:コイル103c1L、103c2L、103c3Lから生成されるZ方向の力
FxbR:コイル103a1R、103a2R、103a3Rから生成されるX方向の力
FzbR:コイル103a1R、103a2R、103a3Rから生成されるZ方向の力
FycR:コイル103b1・4R(コイル103b1Rと103b4R)、103b2・5(R103b2Rと103b5R)、103b3・6R(103b3Rと103b6R)から生成されるY方向の力
FxfR:コイル103c1R、103c2R、103c3Rから生成されるX方向の力
FzfR:コイル103c1R、103c2R、103c3Rから生成されるZ方向の力
力ベクトルFを
F=(FxbL、FzbL、FycL、FxfL、FzfL、FxbR、FzbR、FycR、FxfR、FzfR)で定義する。
力T(TX、Ty、Tz、TwX、Twy、Twz)
は、それぞれ次式(8a)、(8b)、(8c)、(8d)、(8e)及び(8f)により算出される。
TX=FxfR+FxbR+FxfL+FxbL …式(8a)
Ty=FycL+FycR …式(8b)
Tz=FzbR+FzbL+FzfR+FzfL …式(8c)
TwX={(FzfL+FzbL)-(FzfR+FzbR)}*2*rx3 …式(8d)
Twy={(FzfL+FzfR)-(FzbL+FzbR)}*2*ry3 …式(8e)
Twz={(FxfL+FxbL)-(FxfR+FxbR)}*2*rx3 …式(8f)
力ベクトルFには10個の自由度があるので、6自由度の力Tから算出するにはさらに4個の制限を導入すればよい。
【0091】
同じ軸上に働く力を均等に配分するため以下の3式の制限を導入する。
FxfR=FxbR …式(8g)
FxfL=FxbL …式(8h)
FycL=FycR …式(8i)
また、Y軸周りの回転力をL側、R側に均等に配分するように以下の制限を導入する。
FzfR-FzbR=FzfL-FzbL …式(8j)
ここまでで式8a~8jまでの10式により力ベクトルTが決定されれば力ベクトルFを決定することが出来る。
【0092】
ここまでで、10個の力ベクトルFを一意に決定することが出来る。
【0093】
さらにここから各コイル103に対する電流値を一意に決定する方法を説明する。
【0094】
FxbLおよびFzbLは各コイル103a1L、103a2L、103a3Lの電流値(Ia1L,Ia2L,Ia3L)および推力定数プロファイルの大きさを使って以下の様に記述できる
FxbL=Fx(a1L,x)*IL1+Fx(a2L,x)*Ia1L+Fx(a3L,x)*Ia3L …式(9a)
FzbL=Fz(a1L,x)*Ia1L+Fz(a2L,x)*Ia2L+Fz(a3L,x)*Ia3L …式(9b)
ここで、
Ia1L+Ia2L+Ia3L=0 …式(9c)
の制限を導入すればIa1L,Ia2L,Ia3Lの未知数に対して3個の独立した条件が得られるので各電流値(Ia1L,Ia2L,Ia3L)を一意に決定できる。
【0095】
同様の手法で、FxfL、FzfLから各電流値(Ic1L,Ic2L,Ic3L)を決定できる。
FxfL=Fx(c1L,x)*Ic1L+Fx(c2L,x)*Ic2L+Fx(c3L,x)*Ic3L …式(10a)
FzbL=Fz(c1L,x)*Ic1L+Fz(c2L,x)*Ic2L+Fz(c3L,x)*Ic3L …式(10b)
Ic1L+Ic2L+Ic3L=0 ---式10c
【0096】
同様の手法で、FxbR、FzbRから各電流値(Ia1R,Ia2R,Ia3R)を決定できる。
Fxbr=Fx(a1R,x)*Ia1R+Fx(a2R,x)*Ia2R+Fx(a3R,x)*Ia3R …式(11a)
Fzbr=Fz(a1R,x)*Ia1R+Fz(a2R,x)*Ia2R+Fz(a3R,x)*Ia3R …式(11b)
Ia1R+Ia2R+Ia3R=0 ---式11c
【0097】
同様の手法で、FxfR、FzfRから各電流値(Ic1R,Ic2R,Ic3R)を決定できる。
FxfR=Fx(c1R,x)*Ic1R+Fx(c2R,x)*Ic2R+Fx(c3R,x)*Ic3R …式(12a)
FzbR=Fz(c1R,x)*Ic1R+Fz(c2R,x)*Ic2R+Fz(c3R,x)*Ic3R …式(12b)
Ic1R+Ic2R+Ic3R=0 ---式12c
【0098】
次にFycL,FycRから各電流値(I(b1・4L),I(b2・5L),I(b3・6L),I(b1・4R),I(b2・5R),I(b3・6R))を決定する方法を説明する。
FycL= Fy((b1・4L),x)*I(b1・4L)+Fy((b2・5L),x)*I(b2・5L)+Fy((b3・6L),x)*I(b3・6L) …式(13a)
に追加して
I(b1・4L)+I(b2・5L)+I(b3・6L)=0 ---式13b
I(b1・4L):I(b2・5L):I(b3・6L)=Fy((b1・3L),x):Fy((b2・5L),x):Fy((b3・6L),x)
すなわち、
I(b3・6L)*Fy((b1・4L),x)= I(b2・5L)* Fy((b2・5L),x)= I(b1・4L)* Fy((b3・6L),x) ---式13c
により各電流値(I(b1・4L),I(b2・5L),I(b3・6L))を一意に決定できる。
【0099】
同様に
FycR= Fy((b1・4R),x)*I(b1・4R)+Fy((b2・5R),x)*I(b2・5R)+Fy((b3・6R),x)*I(b3・6R) …式13d
に追加して
I(b1・4R)+I(b2・5R)+I(b3・6R)=0 ---式13e
I(b1・4R):I(b2・5R):I(b3・6R)=Fy((b1・4R),x):Fy((b2・5R),x):Fy((b3・6R),x)
すなわち、
I(b3・6R)*Fy((b1・4R),x)= I(b2・5R)* Fy((b2・5R),x)= I(b1・4R)* Fy((b3・6R),x) ---式13f
により各電流値(I(b1・4R),I(b2・5R),I(b3・6R))を一意に決定できる。
【0100】
こうして、可動子コントローラ212は、複数のコイル104に印加する電流を制御することにより、可動子101に印加する力の6軸成分のそれぞれを制御する。
【0101】
上述のようにして、可動子コントローラ212は、複数のコイル104に印加する電流の電流指令値を決定して制御することにより、固定子201上での可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の非接触での固定子201上の搬送を制御する。すなわち、可動子コントローラ212は、可動子101の搬送を制御する搬送制御手段として機能し、複数のコイル104により永久磁石203が受ける電磁力を制御することにより、固定子201上における可動子101の非接触での搬送を制御する。また可動子コントローラ212は、可動子101の姿勢を制御する姿勢制御手段として機能し、固定子201上における可動子101の姿勢を6軸で制御する。
【0102】
このように、本実施形態によれば、2列に配置された複数のコイル104により、可動子101に対して、3軸の力成分(TX,Ty,Tz)及び3軸のモーメント成分(TwX,Twy,Twz)の6軸の力を印加することができる。これにより、可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の搬送を制御することができる。本実施形態によれば、制御すべき変数である力の6軸成分の数よりも少ない列数である2列のコイルユニット103により、可動子101の姿勢の6軸制御しつつ、可動子101の搬送を制御することができる。
【0103】
したがって、本実施形態によれば、コイル104の列数を少なく構成することができるため、システムの大型化や複雑化を伴うことなく、可動子101の姿勢を制御しつつ、可動子101を非接触で搬送することができる。さらに、本実施形態によれば、コイル104の列数を少なく構成することができるため、安価に小型の磁気浮上型の搬送システムを構成することができる。
【0104】
本実施形態では、固定子に永久磁石を備える例を示したが、永久磁石でなくとも軟磁性体であっても、可動子のコイルに電流を流すことで固定子に備えた軟磁性体と可動子に備えたコイルとの間に力を発生させることができる。これにより、可動子の姿勢を制御しつつ、可動子を簡単な構造によって非接触で搬送あるいは回転させることができる。本明細書において、永久磁石等の硬磁性体または軟磁性体を単に磁性体と称する。
【0105】
[第二の実施形態]
第二の実施形態について、図4Bを用いて説明する。図4Bは、本実施形態による搬送システム1を制御する制御システムを示す概略図である。なお、上記第一の実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略し又は簡略にする。
【0106】
本実施形態による可動子101の基本的構成は、第一の実施形態による構成とほぼ同様である。第一の実施形態においては、可動子コントローラ302と統合コントローラ301とはケーブル130で繋がれている例を示した。しかし、本実施形態における可動子コントローラ302は、無線によって統合コントローラ301から搬送の指令等を受ける例を示す。
【0107】
図4Bにおいては、図4Aのケーブル130に代わって固定子側無線ユニット601および可動子側無線ユニット602、バッテリー603が追加されている。固定子側無線ユニット601および可動子側無線ユニット602は例えば5G無線ユニットが低レイテンシであり好適である。
【0108】
このような実施形態をとれば可動子はケーブルを伴わないため、より完全な非接触状態を実現出来るので例えば高真空中を移動するような蒸着装置などに好適である。
【0109】
[変形実施形態]
本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0110】
例えば、真空環境や水中環境で利用する場合に、コイル103の周りや芯材に用いられるプラスチックなどの部材から、有機物などが飛散、流出してしまうおそれがある。また、絶縁用の接着剤も、同様に一部成分の流出や劣化が進んでしまうおそれがある。
【0111】
そのため、特に真空環境や水中環境、またはクリーンルームのようなごみの少ない環境では、コイルやコイル周りの部品を何らかの部品で覆い、周囲環境と絶縁することが好ましい。
【0112】
絶縁の仕方はいくつか方法があるが、例えば金属のボックスで1又は複数のコイルを覆い、その中に、気体を入れておくことが好ましい。
【0113】
さらに、コイルから発生する熱を外部に発散、放出させるためには、その気体としては熱伝導率の大きい気体が好ましく、たとえばヘリウムガスが好ましく、水素ガスでもよい。
【0114】
しかしながら、窒素や二酸化炭素ガス、大気でも、コイル周りの部品保護性能は十分高い。
【0115】
さらに、1又は複数のコイルをまとめて並べてボックス状に囲ったものを、コイルボックスユニットとして構成し、複数のコイルボックスユニットを並べてコイル列を構成するようにしてもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、可動子101を浮上させる浮上力として、コイル103が永久磁石203から受ける電磁力のみを利用する場合を例に説明したが、これに限定されるものでなない。例えば、可動子101の質量又は可動子101の上面または下面に保持されるワーク102の質量が大きく鉛直方向へ印加すべき浮上力が大きい場合には、別途、空気等の流体による静圧を浮上用に使って浮上力を補助してもよい。
【0117】
また、上記実施形態では、第一のコイル群103が2列に配置されている場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば3列、4列及び5列のいずれかに配置することもできる。本発明によれば、可動子101の姿勢の6軸制御における変数の数6よりも少ない列数のコイル103の列で、可動子101の姿勢の6軸制御を実現することができる。
【0118】
また、本発明による搬送システムは、電子機器等の物品を製造する製造システムにおいて、可物品となるワークに対して各作業工程を実施する工作機械等の各工程装置の作業領域にワークを可動子とともに搬送する搬送システムとして利用することができる。作業工程を実施する工程装置は、ワークに対して部品の組み付けを実施する装置、塗装を実施する装置、蒸着装置等、あらゆる装置であってよい。また、製造される物品も特定のものに限定されるものではなく、あらゆる部品であってよい。
【0119】
このように、本発明による搬送システムを用いてワークを作業領域に搬送し、作業領域に搬送されたワークに対して作業工程を実施して物品を製造することができる。上述のように、本発明による搬送システムでは、システムの大型化や複雑化を伴うことない。したがって、本発明による搬送システムをワークの搬送に採用した物品の製造システムも、システムの大型化や複雑化を伴うことがなく、各作業工程を実施する装置のレイアウトを高い自由度で行うことができる。
【符号の説明】
【0120】
101 可動子
102 ワーク
103 コイル
201 固定子
203 永久磁石
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6