IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッドの特許一覧

特許7467100心臓の波ベクトルを検知するための電極構成
<>
  • 特許-心臓の波ベクトルを検知するための電極構成 図1
  • 特許-心臓の波ベクトルを検知するための電極構成 図2A
  • 特許-心臓の波ベクトルを検知するための電極構成 図2B
  • 特許-心臓の波ベクトルを検知するための電極構成 図3
  • 特許-心臓の波ベクトルを検知するための電極構成 図4
  • 特許-心臓の波ベクトルを検知するための電極構成 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】心臓の波ベクトルを検知するための電極構成
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/367 20210101AFI20240408BHJP
   A61B 5/287 20210101ALI20240408BHJP
【FI】
A61B5/367
A61B5/287 200
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019229090
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2020099691
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】16/228,403
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0116539(US,A1)
【文献】特開2017-140389(JP,A)
【文献】特開2016-127919(JP,A)
【文献】米国特許第5921923(US,A)
【文献】特表2002-543908(JP,A)
【文献】実開昭57-128805(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/283-5/287
A61B 5/367
A61B 18/14-18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
2つ以上の電極対であって、(i)それぞれの対の前記電極同士は互いに平行であり、(ii)前記対同士は互いに平行ではなく、前記電極は、患者の心臓への挿入のためのカテーテルの遠位端部の上にわたって配設されている、2つ以上の電極対と、
プロセッサであって、
前記電極対によって取得された電気生理学的(EP)信号を受信し、
受信された前記EP信号のタイミングに基づいて、受信された前記EP信号が前記心臓内で伝播する局所方向を算出するように構成されたプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、少なくとも2つの電極対に前記EP信号が到着するタイミングが等しいことを検出することによって、前記局所方向が前記心臓の表面に対して垂直であることを確認するように構成されている、システム。
【請求項2】
前記電極対は互いに直交する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電極は線状ストリップを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記電極は卵型の形状を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、受信された前記EP信号の大きさを算出するように更に構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
プロセッサ及び2つ以上の電極対を備えるシステムの作動方法であって、
前記2つ以上の電極対、(i)それぞれの対の前記電極同士は互いに平行であり、(ii)前記対同士は互いに平行ではなく、前記電極は、患者の心臓への挿入のためのカテーテルの遠位端部の上に配設されており
前記プロセッサが、
前記2つ以上の電極対によって取得された電気生理学的(EP信号のタイミングに基づいて、受信された前記EP信号が前記心臓内で伝播する局所方向を算出
前記局所方向を算出することは、前記プロセッサが、少なくとも2つの電極対に前記EP信号が到着するタイミングが等しいことを検出することによって、前記局所方向が前記心臓の表面に対して垂直であることを確認する、方法。
【請求項7】
前記プロセッサが、受信された前記EP信号の大きさを算出することを含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね、電気解剖学的マッピング、特に心臓の電気解剖学的マッピングに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓電気解剖学的マップを生成するための侵襲的な診断心臓学技術は、特許文献に既に記載されている。例えば、米国特許出願公開第2017/0079542号は、少なくとも1つの積層電極対の配列を含む、患者における心臓細動の最適化されたマッピング、最小化、及び治療のためのカテーテル、システム、及び関連する方法について記載したものである。いくつかの実施形態では、各電極対は、第1の電極と第2の電極とを含み、各電極対は、心臓組織基質の表面に直交するように構成されている。いくつかの実施形態では、各第1の電極は、第1の信号を記録するために表面と接触し、各第2の電極は、第2の電極が第2の信号を記録することを可能にする距離だけ第1の電極から離される。カテーテルは、心臓組織基質全体の、ある持続時間にわたる電気回路コアの数及び電気回路コアの分布を示す、心臓組織基質内の電気的活動に応答する少なくとも第1の信号及び第2の信号からの1つ又は2つ以上の測定値を取得するように構成される。
【0003】
別の例として、米国特許出願公開第2002/0055674号は、実質的に剛性の構成体を有する構造を備えた、対象の身体に挿入するための細長プローブ装置について記載したものである。プローブ上の複数の生理学的センサが、生理学的活動に応答して信号を生成し、それらのセンサは、当該構成における構造体上に実質的に固定された位置を有する。1つ又は2つ以上のデバイスが、当該構成における構造体上の生理学的センサの位置を示す位置信号を生成する。極信号は、任意の電極対を通過する軸線に平行な成分と垂直な成分とに分解されてよく、これらの電極間の双極信号の振幅は、平行な成分の相対的な大きさに比例する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のある実施形態は、2つ以上の電極対とプロセッサとを備えるシステムを提供する。電極は、患者の心臓に挿入するためのカテーテルの遠位端部の上にわたって配設されている。それぞれの対の電極同士は互いに平行であり、また対同士は互いに平行ではない。プロセッサは、電極対によって取得された電気生理学的(EP)信号を受信し、受信されたEP信号のタイミングに基づいて、受信されたEP信号が心臓内で伝播する局所方向を算出するように構成されている。
【0005】
いくつかの実施形態では、ストリップ電極の対は互いに直交する。
【0006】
ある実施形態では、電極は線状ストリップを含む。別の実施形態では、電極は卵型の形状を有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、少なくとも2つの電極対にEP信号が到着するタイミングが最大でも所与の許容差まで等しいことを検出することによって、局所方向が心臓の表面に対して垂直であることを確認するように構成されている。
【0008】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、受信されたEP信号の大きさを算出するように更に構成されている。
【0009】
本発明のある実施形態によれば、患者の心臓に挿入するためのカテーテルの遠位端部の上に配設された2つ以上の電極対によって取得された電気生理学的(EP)信号を受信することを含む方法であって、(i)それぞれの対の電極同士は互いに平行であり、(ii)それらの対同士は互いに平行ではない、方法が更に提供される。受信されたEP信号のタイミングに基づいて、受信されたEP信号が心臓内で伝播する方向が算出される。
【0010】
いくつかの実施形態では、局所方向を算出することは、EP信号が少なくとも2つの電極対に到着するタイミングが最大でも所与の許容差まで等しいことを検出することによって、局所方向が心臓の表面に対して垂直であることを確認することを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、本方法は、受信されたEP信号の大きさを算出することを更に含む。
【0012】
本発明のある実施形態によれば、患者の心臓に挿入するためのカテーテルの遠位端部の上に2つ以上の電極対を配設することを含む製造方法であって、(i)それぞれの対の電極同士は互いに平行であり、(ii)それらの対同士は互いに平行ではない、製造方法が更に提供される。2つ以上の電極対は、カテーテルの近位端部に位置するコネクタに電気的に接続される。
【0013】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のある実施形態による、電気解剖学的マッピングのためのシステムの模式的な描写図である。
図2A】本発明の実施形態による、電気生理学的(EP)波の方向を示す電気信号を取得するように構成された電極対パターンの模式的な描写図である。
図2B】本発明の実施形態による、電気生理学的(EP)波の方向を示す電気信号を取得するように構成された電極対パターンの模式的な描写図である。
図3】本発明の実施形態による、垂直方向に伝播し、図2Aの電極対パターンによって検出される、進行するEP波の模式的な描写図である。
図4】本発明のある実施形態による、進行するEP波の方向を検出するための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。
図5】本発明のある実施形態による、進行するEP波の方向を示す電気信号を取得するように構成された電極対パターンの製造方法を模式的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
概論
心内電気生理学的(EP)マッピング(以下、「電気解剖学的マッピング」とも呼ばれる)は、不整脈などの心臓EP異常を特徴付けるために適用されることがあるカテーテルベースの方法である。典型的なカテーテルベースの処置では、検知電極を備えたカテーテルの遠位端部が、EP信号を検知するために心臓に挿入される。EPマップを作成するために、医師は心臓内で遠位端部を移動させ、EPマッピングシステムは、様々な心臓位置でEP信号を獲得するだけでなく、それぞれの位置をも取得する。
【0016】
しかしながら、診断のために、EP波の伝播方向もまた必要とされ得る。心臓組織上でこのような方向を見つけるために、従来法では、システムによって労力のかかる計算を実施することが必要である。例えば、心臓波の伝播の方向は、心臓の各区間の局所興奮時間(LAT)マップを作成することによって求めることができる。タイミング図(例えば、LATマップ)のそのような空間解析は、比較的時間がかかることに加えて、例えば、最初に複数の心臓位置からデータ点を収集しなければならないため、容易かつ迅速に実施され得るものではない。
【0017】
以下に記載される本発明の実施形態は、カテーテルの遠位端部の上の基材上にわたって配設された電極対パターンを設けるものである。電極対パターンは、心臓の内側表面と物理的に接触すると、移動するEP波の方向を示す電気信号を取得するように構成されている。いくつかの実施形態では、カテーテルの遠位端部は、2つ以上の電極対を備え、(i)それぞれの対の電極同士は互いに平行であり、(ii)それらの対同士は互いに平行ではない。プロセッサは、電極対によって取得されたEP信号を受信し、受信されたEP信号のタイミングに基づいて、受信されたEP信号が心臓内で伝播する局所方向を計算するように構成されている。
【0018】
いくつかの実施形態では、電極対パターンは、双極EP信号を測定するように構成されている。このような実施形態では、以下に更に記載されるように、各電極対は、平行なストリップ電極を含み、1つの電極対は他の対に直交して位置合わせされる。
【0019】
いくつかの実施形態では、EP波がある心臓位置を通って進行すると、電極対パターンのうちの2つ以上の電極対のそれぞれは、異なるタイミングでEP電位を取得し、プロセッサは、進行するEP波の方向及び大きさをそれぞれ提供するために、電位の到着の電極間の相対的なタイミングを解析し(例えば、ピーク電位が発生する時間を比較することによって)、信号強度を分析する。
【0020】
ある実施形態では、プロセッサは、特定の位置において、進行するEP波が、心臓表面に対して垂直方向に(すなわち、基質の平面に沿った方向に対して垂直に)伝播しているか否かを更に示す。プロセッサは、以下に記載されるように、電極対パターンのうちの2つ以上の電極対によって測定された信号到着のタイミングが実質的に等しい(すなわち、最大でも所与の許容差まで等しい)ときに、そのようなEP波を確認する。このような垂直な進行波は、心臓の特定の部分において発生し得る。例えば、そのような垂直方向の伝播は、瘢痕組織の近くで健康な組織が急速に終端する付近で生じ得る。
【0021】
通常、プロセッサは、上記で概説されたプロセッサ関連の工程及び機能の各々をプロセッサによって実行することを可能にする特定のアルゴリズムを含むソフトウェアでプログラムされる。
【0022】
開示される電極対パターンは、プロセッサによって、垂直方向に伝播するEP波を検出することを含めて、EP波が伝播する局所方向をリアルタイムで容易に推定することを可能にする。このようにして、開示される技術は、心臓内EPマッピング手順の診断価値を改善し得る。
【0023】
システムの説明
図1は、本発明のある実施形態による、電気解剖学的マッピングのためのシステム20の模式的な描写図である。図1は、患者25の心臓23の電気解剖学的マッピングを実施するために電気解剖学的カテーテル29を使用している医師27を示す。カテーテル29は、その遠位端に、機械的に可撓性であり得る1つ又は2つ以上のアーム20を備え、各アームに1つ又は2つ以上の電極22が連結されている。マッピング手技中に、電極22は、心臓23の組織から信号を取得する、及び/又は心臓23の組織に信号を注入する。プロセッサ28は、電気的インターフェース35を介してこれらの信号を受信し、これらの信号に含められた情報を用いて電気解剖学的マップ31を構築する。手技中及び/又は手技の後に、プロセッサ28は、ディスプレイ26上に電気解剖学的マップ31を表示してもよい。
【0024】
手技中に、追跡システムを使用して感知電極22のそれぞれの位置を追跡することで、信号のそれぞれとその信号が取得された位置とを関連付けることができる。例えば、米国特許第8,456,182号で説明され、その開示が参照により本明細書に組み込まれるBiosense-Webster(Irvine,California)製のActive Current Location(ACL)システムが使用されてもよい。ACLシステムでは、プロセッサは、感知電極22のそれぞれと患者25の皮膚に連結されている複数の表面電極24との間で測定されたインピーダンスに基づいて電極のそれぞれの位置を推定する。例えば、3つの表面電極24を患者の胸部に、別の3つの表面電極を患者の背部に、連結してもよい。(例示しやすいように、1本の表面電極のみを図1に示す。)患者の心臓23内部の電極22と表面電極24との間に電流が流される。プロセッサ28は、表面電極24で測定して得られた電流振幅間(又はこれらの振幅によって示されるインピーダンス間)の比及び患者の身体上の電極24の既知の位置に基づいて、患者の心臓内の全ての電極22の推定位置を計算する。こうして、プロセッサは、電極22から受信した任意の所与のインピーダンス信号と信号が取得された位置とを関連付けることができる。
【0025】
プロセッサ28は、通常、本明細書に記載の機能を実施するようにソフトウェアでプログラムされる。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形式でコンピュータにダウンロードされてもよく、あるいは、代替的に若しくは追加的に、磁気的、光学的、又は電子的メモリなどの非一時的な有形媒体上に提供及び/又は記憶されてもよい。具体的には、プロセッサ28は、以下に記載するように、開示されたステップをプロセッサ28が実行することを可能にする専用アルゴリズムを稼働させる。
【0026】
図1に示される例示的な図は、純粋に概念を分かりやすくするために選択されたものである。Lasso(登録商標)カテーテル(Biosense-Webster製)など、他のタイプの感知用カテーテルも同等に採用され得る。接触センサは電気解剖学的カテーテル29の遠位端に取り付けられてもよい。上述したように、アブレーションに使用される電極などの他のタイプの電極が、必要な位置データを取得するための電極22に取り付けられて同様の方法で利用されてもよい。よって、位置データを収集するために使用されるアブレーション電極が、この場合、感知電極とみなされる。ある任意の実施形態では、プロセッサ28は、測定中の電極22のそれぞれと心室の内表面との間の物理的接触の質を示すように更に構成されている。
【0027】
システム21の要素及び本明細書に記載の方法は、ACLパッチ電極49又は他の皮膚取り付け電極間に電圧勾配を印加することによって実施され得るものであり、カテーテル29上の検知電極22を用いて(例えば、Biosent-Websterにより考案されたCarto(登録商標)4技術を使用して)、誘導された体内電位を測定し得るものである。したがって、本発明の実施形態は、検知電極が心臓内のその位置を示す信号を生成するEPマッピングに用いられる任意の位置検知方法に適用される。
【0028】
心臓の波ベクトルを感知するための電極構成
図2A及び図2Bは、本発明の実施形態による、電気生理学的(EP)波50の方向を示す電気信号を取得するようにそれぞれ構成された電極対パターン30A及び30Bの模式的な描写図である。
【0029】
取得された波形に基づいて、波到着の相対的なタイミング(例えば、最大電位値が各電極によって検知される時間の差)がプロセッサによって導出される。電極は、身体表面の電極、又は、冠状静脈洞の内側に配置される冠状静脈洞カテーテルの電極などの共通電極に対して、あるいはそれらの電極の一方を共通電極として使用して、進行するEP波50の電位を測定する。
【0030】
図2Aは、電極対パターン30a(直交する電極対22a1及び22a2として示されている)が共通の中心の周りに整列される実施形態を示す。図示のように、領域55は電極対22a1及び22a2によって区切られている。領域55は有限であり(すなわち、電極が線の上に整列されていない)、そのため、電極対パターンは、EP波50の伝播の全ての可能な面内方向を1対1の対応で符号化する(すなわち、「つなぐ」)。
【0031】
ある実施形態では、アーム20は、予め設定された数のこのような電極対パターンを備えて配設され、これらのうちの2つが図2Aに示されている。
【0032】
どのようにして電極対パターン30Aが、1対1の対応において、基材40の平面における進行するEP波の伝播方向を符号化するかを示すために、4つの電極が、図2Aの挿入図においてE1、E2、E3、及びE4として記されている。挿入図に示される進行波のEP電位の到着タイミングの、結果として得られる符号化は、(1)-(4)-(3)-(2)、すなわち、(1432)であり、これは、それぞれの電極E1-E2-E3-E4が波を検知するタイミング順序である。
【0033】
図2Aの挿入図では、電極は円形の物体として示されているが、電極の形状は異なるものであってもよく、例えば卵形であってもよい。
【0034】
同様の伝播方向の場合、上述した符号化されるタイミングの順序は、通常は依然として同じであるが、電極間におけるタイミングの定量的な差は常に変化する。取得された定量的なタイミング差を用いて、プロセッサ28は、例えば、カテーテルアーム20の長手方向軸44に対して、固有の伝播方向を決定する。したがって、図2Aの挿入図に示されるように、EP波が伝播する局所方向(すなわち、EP波の局所波ベクトル)は、相対的なタイミングを測定することによって抽出され得る。
【0035】
ある実施形態では、典型的には最大で数ミリメートル離間される電極に関して、進行波の様々なタイミングを測定するために、EPマッピングシステム21は、数十MHzの速度で時間依存信号を取得する。
【0036】
別の例として、図2Bは、電極対パターン30bが、隣接する対22b2に直交して整列された電極対22b1を含む実施形態を示す。パターン30は、事前設定された数のパターン30が、カテーテルのアーム20に取り付けられた基材40上に配置されるように、それ自体を繰り返す。この構成は、円形電極を使用して、図2Bの挿入図に更に例示される。
【0037】
いくつかの実施形態では、電極対パターン30A及び30Bは、図2Aに示される電極対パターンの実施形態について図3に記載されるように、垂直方向に伝播するEP波を検出するように構成されている。
【0038】
図2に記載された電極の構成は、例として示されたものである。アーム20の長手方向軸線に対して様々な角度をなして整列されたものなど、他の構成も考えられる。開示された基材は、例えば、組織に対して任意のカテーテルの向きで十分に強いEP信号を測定することを確実にするために、様々な角度でアーム20の上に電極対パターンを巻き付けることを可能にする軟質材料から作製されてもよい。ある実施形態では、アーム20は、両方のパターン30a及び30bを備えて配設される。
【0039】
図3は、本発明の実施形態による、垂直方向57に伝播し、図2Aの電極対パターン30Aによって検出される、進行するEP波の模式的な描写図である。
【0040】
図3は、そのような有限の信号が存在するとき、結果として4つの全ての時間依存電位V、V、V、及びVが関連する時間窓において事実上同じとなる、EP伝播の独特な例を示す。上記の例を引き起こすEP波は、領域55において基材40へと向かう方向57によって示されるように、基材40に対して垂直に位置合わせされたEP波の局所波ベクトルを有する必要がある。したがって、開示される電極対パターンは、「面内」伝播に対してほぼ垂直である組織内の伝播を検出することが可能である。上述したように、このような伝播は、健康な組織、例えば、瘢痕組織の近くで健康な組織が急速に終端する付近で生じ得る。
【0041】
ある実施形態では、プロセッサ28は、ほぼ垂直向きの波ベクトルの小さいが測定可能な面内成分に基づいて、ほぼ垂直な伝播(例えば、基板から出る又は基板に入る)方向を決定する。
【0042】
図4は、本発明のある実施形態による、進行するEP波の方向を検出するための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。このプロセスは、医師30が、EP信号取得工程70において、心臓26内部のカテーテルの遠位端部に取り付けられている、パターン30a及び/又は30bなどの電極対パターンをなして含められた2つ以上の電極対を使用して、伝播する心臓EP電位を取得することから始まる。次に、取得されたEP信号に対して用い、プロセッサによって実行される提示の実施形態によるアルゴリズムを用いて、プロセッサ28は、EP波タイミング算出工程72において、電極対間における取得されたEP信号(すなわち、電位)の取得タイミングの差を算出する。
【0043】
次に、プロセッサ28は、方向算出工程74において、EP波(すなわち、波ベクトル)の伝播の局所方向を算出する。プロセッサ28は、EPマップ更新工程76において、算出された方向をEPマップに(方向が垂直である場合は図示)追加する。
【0044】
図4に示される例示的なフロー図は、純粋に概念を分かりやすくするために選択されたものである。代替的な実施形態では、電極のいずれかと組織との物理的接触の程度の検出など、追加の工程が用いられてもよい。
【0045】
図5は、本発明のある実施形態による、進行するEP波の方向を示す電気信号を取得するように構成された電極対パターンの製造方法を模式的に示すフローチャートである。このプロセスは、電極パターン配設工程80において、カテーテルの遠位端部の上に、有限の領域を区切る電極対パターンを配設することから始まる。次に、電気配線工程82において、電極対パターンは、カテーテルの近位端部に位置するコネクタに電気的に接続され、それによってインターフェース35に信号が伝達される。
【0046】
本明細書に記述される実施形態は、主として心臓EPマッピングに関するものであるが、本明細書に記載される方法及びシステムは、例えば神経学などの他の用途で用いられてもよい。
【0047】
上に述べた実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上述に具体的に示し説明したものに限定されない点が理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、上述の様々な特徴の組み合わせ及びその一部の組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者により想到されるであろう、また従来技術において開示されていない、それらの変形形態及び修正形態を含むものである。参照により本特許出願に援用される文献は、これらの援用文献においていずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0048】
〔実施の態様〕
(1) システムであって、
2つ以上の電極対であって、(i)それぞれの対の前記電極同士は互いに平行であり、(ii)前記対同士は互いに平行ではなく、前記電極は、患者の心臓への挿入のためのカテーテルの遠位端部の上にわたって配設されている、2つ以上の電極対と、
プロセッサであって、
前記電極対によって取得された電気生理学的(EP)信号を受信し、
前記受信されたEP信号のタイミングに基づいて、前記受信されたEP信号が前記心臓内で伝播する局所方向を算出するように構成されたプロセッサと、を備えるシステム。
(2) 前記ストリップ電極の対は互いに直交する、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記電極は線状ストリップを含む、実施態様1に記載のシステム。
(4) 前記電極は卵型の形状を有する、実施態様1に記載のシステム。
(5) 前記プロセッサは、少なくとも2つの電極対に前記EP信号が到着するタイミングが最大でも所与の許容差まで等しいことを検出することによって、前記局所方向が前記心臓の表面に対して垂直であることを確認するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
【0049】
(6) 前記プロセッサは、前記受信されたEP信号の大きさを算出するように更に構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(7) 方法であって、
2つ以上の電極対によって取得された電気生理学的(EP)信号を受信することであって、(i)それぞれの対の前記電極同士は互いに平行であり、(ii)前記対同士は互いに平行ではなく、前記電極は、患者の心臓への挿入のためのカテーテルの遠位端部の上に配設されている、ことと、
前記受信されたEP信号のタイミングに基づいて、前記受信されたEP信号が前記心臓内で伝播する方向を算出することと、を含む、方法。
(8) 前記局所方向を算出することは、少なくとも2つの電極対に前記EP信号が到着するタイミングが最大でも所与の許容差まで等しいことを検出することによって、前記局所方向が前記心臓の表面に対して垂直であることを確認することを含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記受信されたEP信号の大きさを算出することを含む、実施態様7に記載の方法。
(10) 製造方法であって、
患者の心臓に挿入するためのカテーテルの遠位端部の上に2つ以上の電極対を配設することであって、(i)それぞれの対の前記電極同士は互いに平行であり、(ii)前記対同士は互いに平行ではない、ことと、
前記カテーテルの近位端部に位置するコネクタに前記2つ以上の電極対を電気的に接続することと、を含む、製造方法。
【0050】
(11) 前記電極対を配設することは、互いに直交するストリップ電極の対を配設することを含む、実施態様10に記載の製造方法。
(12) 前記電極対を配設することは、卵型の形状を有する電極を配設することを含む、実施態様10に記載の製造方法。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5