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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】乗り物用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20240408BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20240408BHJP
   B68G 7/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02
B68G7/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019232899
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100837
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-07-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 厚
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-046663(JP,A)
【文献】特開昭63-122493(JP,A)
【文献】特開平04-044843(JP,A)
【文献】特開平11-350712(JP,A)
【文献】特開2008-230346(JP,A)
【文献】特開2011-058128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0107556(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/02
B68G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮と、熱膨張性を有する膨張性部材とを積層したカバー部材を含む複数のカバー部材を準備し、前記複数のカバー部材を縫合してカバーを形成する工程と、
前記カバーをパッドに組み付けた後、前記膨張性部材の一部を膨張させて厚みを非一様とする工程と、を備える乗り物用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車用シートに用いるパッド及び表皮の接着成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-358865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車及び電車等の車両、航空機、並びに船舶等の乗り物に搭載されるシートは、ウレタン等によって構成されるパッドと、パッドを覆うカバーと、を備える。カバーは、複数のカバー部材が縫合されて形成される。パッドとカバーは、パッドにカバーを組み付けた状態にて、カバーにシワ又はダブつき等が生じて外観品質を低下させないよう、互いに隙間がほぼ生じないように設計されて製造される。
【0005】
しかし、パッドとカバーの各々の公差、カバーを製造する際の表皮部材同士の縫合状態の理想状態からのずれ、又はパッドとカバーの組み付け誤差等によって、パッドとカバーの間には許容できない隙間が形成される場合がある。特に、カバーにおける表皮部材同士の縫合箇所の近傍において、このような隙間が生じやすい。また、パッドとカバーの間に隙間が形成されなかった場合でも、シートクッション等に近接されるサイドフィニッシャー等の樹脂部品とカバーとの間に、公差等によって隙間が形成される場合がある。この隙間も外観品質を低下させる要因となる。
【0006】
特許文献1には、加熱された型によってパッドの接着面を溶かし、その溶けた接着面に表皮を押し付けて接着する方法が開示されている。しかし、この方法では、パッドの設計が複雑となったり、製造工程が複雑となったりする。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な方法にて外観品質を向上させることが可能な乗り物用シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の乗り物用シートの製造方法は、表皮と、熱膨張性を有する膨張性部材とを積層したカバー部材を含む複数のカバー部材を準備し、前記複数のカバー部材を縫合してカバーを形成する工程と、前記カバーをパッドに組み付けた後、前記膨張性部材を膨張させる工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な方法にて外観品質を向上させることが可能な乗り物用シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の乗り物用シートの一実施形態である自動車用シート1の概略構成を示す外観模式図である。
図2図1のA-A線の断面模式図である。
図3】トリムカバー12とパッド11の間に隙間C1が生じた状態を示す模式図である。
図4図3の状態から膨張性シート123を加熱した状態を示す模式図である。
図5図1のB-B線の断面模式図である。
図6】サイドフィニッシャー40とシートクッション20の間に隙間C2が生じた状態と、この隙間C2を埋めた状態と、を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の乗り物用シートの一実施形態である自動車用シート1の概略構成を示す外観模式図である。自動車用シート1は、図示省略のシートフレームと、利用者の上半身を主に支持するためのシートバック10と、シートバック10に取り付けられた利用者の頭部を支持するためのヘッドレスト30と、利用者の主に下半身を支持するためのシートクッション20と、シートクッション20の側部に近接配置されたサイドフィニッシャー40(リクライニング機構を覆ったり、シート高さ調整のための操作部が設けられたりする樹脂部品)と、を備える。
【0013】
以下では、自動車用シート1に正規の姿勢にて座る利用者の前方を前方向と記載し、その利用者の後方を後ろ方向と記載し、これらを併せて前後方向と記載する。また、前後方向に直交する方向(その利用者の右方向及び左方向)を左右方向と記載する。また、前後方向及び左右方向に垂直な方向であって、ヘッドレスト30からシートクッション20側に向かう方向を下方向と記載し、下方向の逆方向を上方向と記載する。
【0014】
シートバック10は、スポンジ又はウレタン樹脂等で構成されたパッド(後述のパッド11)と、このパッドを覆うトリムカバー12と、を備える。
【0015】
トリムカバー12は、複数のカバー部材が縫合されて形成された袋状のカバーである。図1の例では、トリムカバー12は、シートバック10の前面の右端部に位置するカバー部材12Aと、シートバック10の前面の中央部の上側に位置するカバー部材12Bと、シートバック10の前面の左端部に位置するカバー部材12Cと、シートバック10の前面の中央部の下側に位置するカバー部材12Eと、シートバック10の左右の側面及び背面に位置するカバー部材12Dと、が縫合されて構成されている。なお、トリムカバー12の構成は一例であり、これに限定されるものではない。
【0016】
シートクッション20は、スポンジ又はウレタン樹脂等で構成されたパッド(後述のパッド21)と、このパッドを覆うトリムカバー22と、を備える。
【0017】
トリムカバー22は、複数のカバー部材が縫合されて形成された袋状のカバーである。図1の例では、トリムカバー22は、シートクッション20の上面の右端部に位置するカバー部材22Aと、シートクッション20の上面の中央部の後側に位置するカバー部材22Bと、シートクッション20の上面の左端部に位置するカバー部材22Cと、シートクッション20の上面の中央部の前側に位置するカバー部材22Eと、シートクッション20の左右の側面及び背面に位置するカバー部材22Dと、が縫合されて構成されている。なお、トリムカバー22の構成は一例であり、これに限定されるものではない。
【0018】
サイドフィニッシャー40は、シートクッション20の右側部にあるカバー部材22Dに当接する状態にて、図示省略のシートフレームに装着されている。
【0019】
図2は、図1のA-A線の断面模式図である。なお、図2においてシートフレームの図示は省略されている。シートバック10のパッド11は、利用者の上半身の背面を主に支持するための略平坦な平坦部11Bと、平坦部11Bの左右の両端から前側に向けて隆起し、利用者の上半身の左右の側面を主に支持するための隆起部11A及び隆起部11Cと、を備えている。
【0020】
カバー部材12Aは、隆起部11Aの前側の表面を主に覆っている。カバー部材12Bは、平坦部11Bの前側の表面を主に覆っている。カバー部材12Cは、隆起部11Cの前側の表面を主に覆っている。カバー部材12Dは、パッド11の左右の側面と背面を主に覆っている。
【0021】
カバー部材12Aは、右端部においてカバー部材12DとシームL1にて縫合されており、左端部においてカバー部材12BとシームL2にて縫合されている。カバー部材12Bは、左端部においてカバー部材12CとシームL3にて縫合されている。カバー部材12Cは、左端部においてカバー部材12DとシームL4にて縫合されている。
【0022】
カバー部材12A、カバー部材12B、及びカバー部材12Cは、それぞれ、パッド11側と反対側の最外層に設けられた表皮121と、パッド11側の最内層に設けられた熱膨張性を有する膨張性シート123と、表皮121及び膨張性シート123の間に設けられた緩衝部材としてのワディング122と、を備え、これらが互いに固着されて構成されている。
【0023】
カバー部材12Dは、パッド11側と反対側の最外層に設けられた表皮121と、パッド11側の最内層に設けられたワディング122と、を備え、これらが互いに固着されて構成されている。
【0024】
表皮121は、牛皮等の天然皮革、又は、合成皮革等によって構成されたシート状の部材である。表皮121は、ウレタン系材料を含む合成皮革によって構成されていることが好ましい。ウレタン系材料を含む合成皮革は、加熱による熱変形量が少ない表皮である。
【0025】
ワディング122は、スポンジ等の反発性のある材料によって構成されたシート状の部材である。ワディング122の表皮121側と反対側の面には、裏基布が更に固着されていてもよい。この場合、ワディング122と裏基布を合わせて緩衝部材が構成される。ワディング122は、例えば接着又は縫合等によって表皮121に固着されている。
【0026】
表皮121とワディング122を合わせた厚みは、図2の例では、カバー部材12A、カバー部材12B、カバー部材12C、及びカバー部材12Dのそれぞれにおいて同じとなっているが、カバー部材毎に異なる厚みとなっていてもよい。
【0027】
膨張性シート123は、加熱することで膨張する熱膨張性を持つ膨張性部材である。膨張性シート123は、例えば、特開2011-058128号公報、特開2011-224968号公報、又は特開2019-143259号公報等、各種知られているものを採用することができる。より具体的には、膨張性シート123は、積水化学株式会社のアドバンセルEMを用いたもの、又は、ニチアス株式会社のバーモフレックス(登録商標)等を採用することができる。膨張性シート123は、例えば、接着、塗布、吹き付け、又は縫合等によって、ワディング122に固着されている。
【0028】
膨張性シート123は、100℃以上の温度にて膨張するものが特に好ましく用いられる。膨張性シート123は、加熱していない初期の状態においては、厚みが一様となっている。
【0029】
シートクッション20のトリムカバー22を構成するカバー部材22A、カバー部材22B、カバー部材22C、カバー部材22D、及びカバー部材22Eは、それぞれ、例えば、カバー部材12A、カバー部材12B、及びカバー部材12Cの各々と同じ層構造(表皮121、ワディング122、及び膨張性シート123を有する構造)となっている。
【0030】
シートバック10を製造する場合には、まず、製造者は、カバー部材12A、カバー部材12B、カバー部材12C、カバー部材12D、及びカバー部材12Eを縫合してトリムカバー12を作製する。その後、製造者は、パッド11にトリムカバー12を組み付ける。トリムカバー12とパッド11がそれぞれ完全に設計通りに作製されていれば、図2に示すように、トリムカバー12の各カバー部材とパッド11との間にはほとんど隙間が生じない。
【0031】
しかし、例えば、トリムカバー12の公差とパッド11の公差とが逆方向に組み合わさったり、カバー部材同士の縫合状態が理想状態からずれていたり、トリムカバー12の組み付け誤差が生じていたりすると、図3に示すように、トリムカバー12とパッド11の間に隙間C1が形成される場合がある。この隙間C1は、非一様な厚みとなり、トリムカバー12のシワ又はダブつきの要因となる。
【0032】
そこで、製造者は、パッド11にトリムカバー12を組み付けた後、パッド11及びトリムカバー12をシートフレームに取り付ける。そして、その状態にて、トリムカバー12にシワ又はダブつき等が発生していないかを検査する。製造者は、該当する箇所があった場合には、その箇所に高温のスチームを当てて加熱し、その箇所にある膨張性シート123を膨張させる。
【0033】
図3の例では、シームL3近傍の範囲R1にスチームを噴射することで、カバー部材12Bとカバー部材12Cにそれぞれ含まれる膨張性シート123が膨張し、図4に示すように、隙間C1が膨張性シート123の膨張した部分によって埋められることになる。
【0034】
上述したように加熱が行われると、図4から分かるように、カバー部材12Bとカバー部材12Cの各々における膨張性シート123の厚みは、隙間C1の大きさに応じた非一様な状態となる。このように、トリムカバー12を構成するカバー部材に膨張性シート123が含まれることで、隙間C1を埋めることが可能となり、トリムカバー12のシワ又はダブつきの発生を防いで、自動車用シート1の外観品質を向上させることができる。
【0035】
シートクッション20を製造する場合には、まず、製造者は、カバー部材22A、カバー部材22B、カバー部材22C、カバー部材22D、及びカバー部材22Eを縫合してトリムカバー22を作製する。その後、製造者は、パッド21にトリムカバー22を組み付ける。
【0036】
シートバック10のときと同様に、製造者は、パッド21にトリムカバー22を組み付けた後、パッド21及びトリムカバー22をシートフレームに取り付ける。製造者は、その状態にて、トリムカバー22にシワ又はダブつき等が発生していないかを検査する。製造者は、該当する箇所があった場合には、その箇所に高温のスチームを当てて加熱し、その箇所にある膨張性シート123を膨張させることで、隙間を埋める作業を行う。
【0037】
その後、製造者は、シートクッション20にサイドフィニッシャー40を組み付ける。図5は、図1のB-B線の断面模式図である。サイドフィニッシャー40とシートクッション20とがそれぞれ完全に設計通りに作製されていれば、図5に示すように、トリムカバー22のカバー部材22Dとサイドフィニッシャー40の間にはほとんど隙間が生じない。
【0038】
しかし、例えば、サイドフィニッシャー40の公差とシートクッション20の公差とが逆方向に組み合わさる等すると、図6の上段に示すように、サイドフィニッシャー40とカバー部材22Dの間に隙間C2が形成される場合がある。
【0039】
そこで、製造者は、サイドフィニッシャー40を組み付けた後、サイドフィニッシャー40とシートクッション20の間に許容できない隙間が生じていないかを検査する。図6の上段に示すように、許容できない隙間C2が生じていた場合には、製造者は、カバー部材22Dにおけるサイドフィニッシャー40の近接部分に高温のスチームを当てて、カバー部材22Dの膨張性シート123を加熱して、この膨張性シート123を膨張させる。これにより、図6の下段に示すように、隙間C2がカバー部材22Dによって埋められることになる。
【0040】
上述したように加熱が行われると、図6から分かるように、カバー部材22Dにおける膨張性シート123の厚みは、隙間C2の大きさに応じた非一様な状態となる。このように、サイドフィニッシャー40と対面する位置にあるトリムカバー22のカバー部材22Dに膨張性シート123が含まれることで、隙間C2を埋めることが可能となり、自動車用シート1の外観品質を向上させることができる。
【0041】
なお、シートクッション20のカバー部材22Dは、サイドフィニッシャー40と対面する領域にのみ、膨張性シート123が設けられる構成であってもよい。これにより、膨張性シート123の使用量を減らして、自動車用シート1の製造コストを低減することができる。
【0042】
膨張性シート123は、シートバック10のトリムカバー12を構成する全てのカバー部材に含まれていてもよいし、上述したようにトリムカバー12を構成する全てのカバー部材のうちの一部(1つ又は複数)にのみ含まれていてもよい。
【0043】
特に、トリムカバー12の前面(自動車用シート1の正面側の部分)は、図1に示したように、多くのカバー部材を縫合して形成されることが多いため、シワ又はダブつきが生じやすく、更に、シワ又はダブつきが目立ちやすい。したがって、図2に示したように、トリムカバー12の前面に配置されるカバー部材(カバー部材12A、カバー部材12B、カバー部材12C、及びカバー部材12E)については、膨張性シート123を含む構成とし、トリムカバー12の背面に配置されるカバー部材12Dについては、膨張性シート123を含まない構成とすることが好ましい。このようにすることで、外観品質の向上と製造コストの低減を両立させることができる。
【0044】
同様に、膨張性シート123は、シートクッション20のトリムカバー22を構成する全てのカバー部材のうちの一部(1つ又は複数)にのみ含まれていてもよい。特に、トリムカバー22の上面(自動車用シート1の正面側の部分)は、図1に示したように、多くのカバー部材を縫合して形成されることが多いため、シワ又はダブつきが生じやすく、更に、シワ又はダブつきが目立ちやすい。したがって、トリムカバー22の上面に配置されるカバー部材(カバー部材22A、カバー部材22B、カバー部材22C、及びカバー部材22E)については、膨張性シート123を含む構成とし、トリムカバー22の下面に配置されるカバー部材22Dについては、膨張性シート123を含まない構成とすることで、外観品質の向上と製造コストの低減を両立させることができる。また、カバー部材22Dについては、上述したように、部分的に膨張性シート123を設ける構成とすることで、外観品質の向上と製造コストの低減を両立させることができる。
【0045】
膨張性シート123は、最大で厚さ5mmまで膨張可能なものが用いられることが好ましい。膨張性シート123の最大厚み(これ以上膨張しない状態での厚み)を5mmとすることで、上述した隙間C1又は隙間C2は十分に埋めることができる。また、膨張性シート123の膨張によって、必要以上にトリムカバーが変形するのを防ぐことができ、座り心地と外観品質の安定化を図ることができる。
【0046】
(変形例)
トリムカバー12とトリムカバー22の各々に含まれる膨張性シート123を有する各カバー部材については、ワディング122を省略し、表皮121に膨張性シート123が直接固着された構成としてもよい。この構成では、例えば、膨張性シート123の厚みが、加熱していない初期の状態においては、前述してきたワディング122の厚みと同じであり、加熱した状態で、最大5mmまで厚みが膨張するように設計される。この構成によれば、表皮121とワディング122からなる汎用的なカバー部材におけるワディング122の役割を膨張性シート123に持たせることができる。この結果、ワディング122の省略による部品コスト及び部品管理コストの低減によって、製造コストを下げることができる。
【0047】
以上の説明では、乗り物用シートの一実施形態として、自動車に搭載される自動車用シート1を例にした。しかし、本発明は、自動車に搭載されるシートに限らず、自動車及び電車等の車両、航空機、並びに船舶等の乗り物に搭載されるシートであれば適用可能である。
【0048】
本明細書には少なくとも以下の事項が開示されている。
【0049】
(1)
複数のカバー部材が縫合されて構成されたカバーと、上記カバーによって覆われたパッドと、を有する乗り物用シートであって、
上記複数のカバー部材のうちの少なくともいずれか1つは、上記パッド側と反対側の最外層に設けられた表皮と、上記パッド側の最内層に設けられた熱膨張性を有する膨張性部材と、を備える乗り物用シート。
【0050】
(1)によれば、例えば、膨張性部材を含むカバー部材とパッドの間に生じてしまった隙間を膨張性部材によって埋めることが可能なため、カバーのシワ又はダブつきを防いで、外観品質を向上させることができる。また、この隙間は、カバーをパッドに組み付けた後、膨張性部材を熱によって膨張させるだけで埋めることが可能である。このため、製造工程の複雑化を招くことなく、外観品質を向上させることができる。
【0051】
(2)
(1)記載の乗り物用シートであって、
上記膨張性部材を含む上記カバー部材には、上記膨張性部材の厚みが非一様となっているものが含まれる乗り物用シート。
【0052】
(2)によれば、膨張性部材を含むカバー部材とパッドの間に生じてしまった非一様な隙間が膨張性部材によって埋められる。このため、カバーのシワ又はダブつきを防いで、外観品質を向上させることができる。
【0053】
(3)
(1)又は(2)記載の乗り物用シートであって、
上記膨張性部材を含む上記カバー部材は、上記表皮と上記膨張性部材の間に緩衝部材を有する乗り物用シート。
【0054】
(3)によれば、表皮と緩衝部材からなる汎用的なカバー部材を流用することができ、また、膨張性部材の厚みを薄くすることができる。この結果、製造コストを下げることができる。
【0055】
(4)
(1)又は(2)記載の乗り物用シートであって、
上記膨張性部材を含む上記カバー部材は、上記表皮と上記膨張性部材が直接固着されている乗り物用シート。
【0056】
(4)によれば、表皮と緩衝部材からなる汎用的なカバー部材における緩衝部材の役割を膨張性部材に持たせることができる。この構成により、緩衝部材が省略可能となるため、製造コストを下げることができる。
【0057】
(5)
(1)から(4)のいずれか1つに記載の乗り物用シートであって、
上記表皮は、ウレタン系材料を含む合成皮革で構成されている乗り物用シート。
【0058】
(5)によれば、膨張性部材を膨張させるための熱によって表皮が収縮するのを防ぐことができ、外観品質を向上させることができる。ウレタン系材料を含む合成皮革のように、表皮の熱収縮性が少ない場合、表皮自体を例えばスチームによって収縮させることによるシワ又はダブつきの改善が難しい。そのため、本発明が特に有効となる。
【0059】
(6)
(1)から(5)のいずれか1つに記載の乗り物用シートであって、
上記膨張性部材は、100℃以上の温度にて膨張するものである乗り物用シート。
【0060】
(6)によれば、通常使用時における膨張性部材の予期せぬ膨張を防ぐことができ、座り心地と外観品質を安定させることができる。
【0061】
(7)
(1)から(6)のいずれか1つに記載の乗り物用シートであって、
上記膨張性部材は、最大で厚さ5mmまで膨張可能なものが用いられている乗り物用シート。
【0062】
(7)によれば、膨張性部材が最大限膨張した状態であっても、座り心地と外観品質を確保することができる。
【0063】
(8)
(1)から(7)のいずれか1つに記載の乗り物用シートであって、
樹脂部品を備え、
上記膨張性部材を含む上記カバー部材は、上記樹脂部品と対面する位置に設けられている乗り物用シート。
【0064】
(8)によれば、樹脂部品とカバー部材との間に生じてしまった隙間を、膨張性部材の膨張によって埋めることが可能となり、外観品質を向上させることができる。
【0065】
(9)
(1)から(7)のいずれか1つに記載の乗り物用シートであって、
上記膨張性部材は、上記乗り物用シートの正面側を覆う上記カバー部材に設けられている乗り物用シート
【0066】
(9)によれば、シワ又はダブつきが特に発生しやすい部分に膨張性部材が設けられることで、外観品質を特に向上させることができる。また、例えば、乗り物用シートの背面部分では膨張性部材を省略することで、製造コストを低減することができる。
【0067】
(10)
表皮と、熱膨張性を有する膨張性部材とを積層したカバー部材を含む複数のカバー部材を準備し、上記複数のカバー部材を縫合してカバーを形成する工程と、
上記カバーをパッドに組み付けた後、上記膨張性部材を膨張させる工程と、を備える乗り物用シートの製造方法。
【0068】
(10)によれば、カバーをパッドに組み付けた後、膨張性部材を加熱するだけで、例えば、この膨張性部材を含むカバー部材とパッドの間に生じてしまった隙間、又は、カバー部材と樹脂部品との間に生じてしまった隙間を膨張性部材によって埋めることができる。このため、製造工程の複雑化を招くことなく、外観品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 自動車用シート
L1,L2,L3,L4 シーム
C1,C2 隙間
R1 範囲
10 シートバック
11A,11C 隆起部
11B 平坦部
11,21 パッド
12A,12B,12C,12D,12E カバー部材
22A,22B,22C,22D,22E カバー部材
12,22 トリムカバー
20 シートクッション
30 ヘッドレスト
40 サイドフィニッシャー
121 表皮
122 ワディング
123 膨張性シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6