(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】記録装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20240408BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240408BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240408BHJP
B41J 2/195 20060101ALI20240408BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240408BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B41J2/17
B41J2/18
B41J2/01 451
B41J2/195
B41J2/165 211
B41J2/165 207
B41J2/175 111
B41J2/175 121
B41J2/175 131
(21)【出願番号】P 2019237553
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】横澤 琢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一生
(72)【発明者】
【氏名】国峯 昇
(72)【発明者】
【氏名】愛知 晶子
(72)【発明者】
【氏名】平 寛史
(72)【発明者】
【氏名】東 悟史
(72)【発明者】
【氏名】川藤 洋志
(72)【発明者】
【氏名】茂木 紗衣
(72)【発明者】
【氏名】寒河 裕人
(72)【発明者】
【氏名】冨田 麻子
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014151(JP,A)
【文献】特開2017-140807(JP,A)
【文献】特開2009-083261(JP,A)
【文献】特開2017-177489(JP,A)
【文献】特開2012-153096(JP,A)
【文献】特開2003-159782(JP,A)
【文献】特表2011-520671(JP,A)
【文献】特開2019-072909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に供給される液体が充填される圧力室と、を有する記録ヘッドと、
前記圧力室の内部を含む循環経路において液体を循環させる循環手段と、
前記吐出口からの液滴の速度を検知する検知手段と、
前記検知手段により検知された速度に基づいて前記循環経路内の液体の粘度に関する情報を取得する取得手段と、
前記
情報に基づいて前記循環経路内の液体の濃縮状態を解消する解消手段と、を備える
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記解消手段は、前記速度が閾値未満の場合に前記濃縮状態を解消することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドの前記吐出口が配された吐出口面をキャッピングするキャップと、
前記キャップに接続された吸引手段と、を備え、
前記解消手段は、前記キャップにより前記吐出口面をキャッピングした状態で前記吸引手段を駆動することで前記循環経路から液体を排出する排出動作を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記解消手段は、前記記録ヘッドから液体を予備吐出させることで前記循環経路から液体を排出する排出動作を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドへ供給される液体を収容する第1タンクと、
前記第1タンクへ供給される液体を収容する第2タンクと、を備え、
前記解消手段は、前記排出動作を行った後、前記第2タンクから前記第1タンクへ液体を供給することを特徴とする請求項3または4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記検知手段は、発光素子と受光素子を含む光学式センサであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記検知手段は、前回の検知から前記循環手段により循環した累積の循環時間が所定時間を超えた場合に検知を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記検知手段は、記録ジョブ間で前記速度の検知を行うことを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記検知手段は、記録ページ間で前記速度の検知を行うことを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録ヘッドを搭載し走査するキャリッジを備え、
前記検知手段は、前記キャリッジの走査間で前記速度の検知を行うことを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドは、前記検知手段により検知を行う前に予備吐出を行うことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記
取得手段は記録ヘッドの温度に
基づいて前記情報を取得
し、
前記解消手段は、前記取得手段により取得した前記
情報に基づいて前記濃縮状態を解消することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項13】
前記解消手段は、前記循環手段による前記循環経路における流速を、前記記録ヘッドによる記録動作のための流速よりも速くすることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項14】
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に供給される液体が充填される圧力室と、を有する記録ヘッドを備える記録装置の制御方法であって、
前記圧力室の内部を含む循環経路において液体を循環させる循環工程と、
前記吐出口からの液滴の速度を検知する検知工程と、
前記検知工程により検知された速度に基づいて前記循環経路内の液体の粘度に関する情報を取得する取得工程と、
前記
情報に基づいて前記循環経路内の液体の濃縮状態を解消する解消工程と、を有することを特徴とする制御方法。
【請求項15】
前記解消工程は、前記速度が閾値未満の場合に前記濃縮状態を解消することを特徴とする請求項14に記載の制御方法。
【請求項16】
前記記録装置は、前記記録ヘッドの前記吐出口が配された吐出口面をキャッピングするキャップと、前記キャップに接続された吸引手段と、を備え、
前記解消工程は、前記キャップにより前記吐出口面をキャッピングした状態で前記吸引手段を駆動することで前記循環経路から液体を排出する排出工程を含むことを特徴とする請求項15に記載の制御方法。
【請求項17】
前記解消工程は、前記記録ヘッドから液体を予備吐出させることで前記循環経路から液体を排出する排出工程を含むことを特徴とする請求項15または16に記載の制御方法。
【請求項18】
前記記録装置は、前記記録ヘッドへ供給される液体を収容する第1タンクと、前記第1タンクへ供給される液体を収容する第2タンクと、を備え、
前記解消工程は、前記排出工程の後に前記第2タンクから前記第1タンクへ液体を供給する供給工程を含むことを特徴とする請求項16または17に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクを吐出する吐出口と、吐出のための記録素子が内部に設けられた圧力室と、を有する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置が開示されている。圧力室の内部までインクを循環させる機構を備えることで、吐出口近傍におけるインクの目詰まりを抑制することができる。
【0003】
一方で、外気に露出する吐出口近傍においてインクを循環させることで、インクの水分が蒸発することにより循環経路内のインクが濃縮することがある。そのため、特許文献1では、記録時間や記録ヘッドをキャップによりキャッピングしていた時間等に基づいてインクの濃縮状態を推定し、その推定結果に基づいてインクの排出処理を行うことで、濃縮状態を解消する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるインクジェット記録装置では、適切にインクの濃縮状態を推定できない場合があり、濃縮状態の解消が適切なタイミングで行われない虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、循環経路内の液体の濃縮状態を適切なタイミングで解消することができる記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る記録装置は、液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に供給される液体が充填される圧力室と、を有する記録ヘッドと、前記圧力室の内部を含む循環経路において液体を循環させる循環手段と、前記吐出口からの液滴の速度を検知する検知手段と、前記検知手段により検知された速度に基づいて前記循環経路内の液体の粘度に関する情報を取得する取得手段と、前記情報に基づいて前記循環経路内の液体の濃縮状態を解消する解消手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、循環経路内の液体の濃縮状態を適切なタイミングで解消することができる記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】インクジェット記録装置の概略構成を示した図である。
【
図3】記録装置に適用される循環経路の循環形態を示す模式図である。
【
図4】記録ヘッドへのインク流入量を示した概略図である。
【
図6】記録ヘッドを構成する各部品またはユニットを示した分解斜視図である。
【
図7】第1~第3流路部材の各流路部材の表面と裏面を示した図である。
【
図9】
図8のIX-IXにおける断面を示した図である。
【
図12】記録素子基板およびカバープレートの断面を示す斜視図である。
【
図13】記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示した平面図である。
【
図15】吐出の発数と速度のグラフと圧力室でのインク濃縮度合を示した図である。
【
図16】吐出口の口径と吐出口からの平均蒸発速度の関係を示したグラフである。
【
図17】水分蒸発時のインク粘度を示したグラフである。
【
図18】光学式センサユニットを示した概略図である。
【
図19】飛翔速度検知処理を示したフローチャートである。
【
図20】インク粘度取得シーケンスを説明するフローチャートである。
【
図21】ヘッド温度に基づいてインク粘度を換算するテーブルである。
【
図22】飛翔速度とインク粘度の関係を示したグラフである。
【
図23】第2実施形態に係る粘度変化量取得シーケンスを説明するフローチャートである。
【
図24】第3実施形態に係る粘度変化量取得シーケンスを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。但し、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成要素の相対配置、形状等はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
(インクジェット記録装置の説明)
図1は、液体を吐出する液体吐出装置、特にはインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置(以下、記録装置)1000の概略構成を示した図である。記録装置1000は、記録媒体2を搬送する搬送部1と、記録媒体2の搬送方向と略直交するように配置されるフルライン型の記録ヘッド(液体吐出ヘッド)3とを備え、複数の記録媒体2を連続的もしくは間欠的に搬送しながら連続記録を行う。
【0012】
記録ヘッド3はインク経路内の圧力(負圧)を制御する負圧制御ユニット230と、負圧制御ユニット230と連通した液体供給ユニット220と、液体供給ユニット220へのインクの供給および排出口となる液体接続部111と、筐体80とを備えている。記録媒体2は、カット紙に限らず、ロール状に巻かれたロール紙であってもよい。
【0013】
記録ヘッド3は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのインクによるフルカラー記録が可能であり、記録ヘッド3へ供給されるインクを収容するサブタンク1003(
図3参照)と流体的に接続される。また、記録ヘッド3には、記録ヘッド3へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。記録ヘッド3内におけるインク経路および電気信号経路については後述する。
【0014】
記録装置1000は、インク等の液体をサブタンク1003(
図3参照)と記録ヘッド3との間で循環させる形態のインクジェット記録装置であり、記録ヘッド3の下流側で循環ポンプを可動することで循環させる循環形態である。以下、この循環形態について説明する。
【0015】
図2は、記録装置1000における制御構成を示すブロック図である。制御構成は、主に記録部を統括するプリントエンジンユニット417と、スキャナ部を統括するスキャナエンジンユニット411と、記録装置1000の全体を統括するコントローラユニット410によって構成されている。プリントコントローラ419は、コントローラユニット410のメインコントローラ401の指示に従ってプリントエンジンユニット417の各種機構を制御する。スキャナエンジンユニット411の各種機構は、コントローラユニット410のメインコントローラ401によって制御される。以下に制御構成の詳細について説明する。
【0016】
コントローラユニット410において、CPUにより構成されるメインコントローラ401は、ROM407に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM406をワークエリアとしながら記録装置1000の全体を制御する。例えば、ホストI/F402またはワイヤレスI/F403を介してホスト装置400から記録ジョブが入力されると、メインコントローラ401の指示に従って、画像処理部408が受信した画像データに対して所定の画像処理を施す。そして、メインコントローラ401はプリントエンジンI/F405を介して、画像処理を施した画像データをプリントエンジンユニット417へ送信する。
【0017】
なお、記録装置1000は無線通信や有線通信を介してホスト装置400から画像データを取得しても良いし、記録装置1000に接続された外部記憶装置(USBメモリ等)から画像データを取得しても良い。無線通信や有線通信に利用される通信方式は限定されない。例えば、無線通信に利用される通信方式として、Wi-Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)やBluetooth(登録商標)が適用可能である。また、有線通信に利用される通信方式としては、USB(Universal Serial Bus)等が適用可能である。また、例えばホスト装置400から読取コマンドが入力されると、メインコントローラ401は、スキャナエンジンI/F409を介してこのコマンドをスキャナ部に送信する。
【0018】
操作パネル404は、ユーザが記録装置1000に対して入出力を行うための機構である。ユーザは、操作パネル404を介してコピーやスキャン等の動作を指示したり、記録モードを設定したり、記録装置1000の情報を認識したりすることができる。
【0019】
プリントエンジンユニット417において、CPUにより構成されるプリントコントローラ419は、ROM420に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM421をワークエリアとしながら、記録部が備える各種機構を制御する。コントローラI/F418を介して各種コマンドや画像データが受信されると、プリントコントローラ419は、これを一旦RAM421に保存する。
【0020】
記録ヘッド3が記録動作に利用できるように、プリントコントローラ419は画像処理コントローラ422に、保存した画像データを記録データへ変換させる。記録データが生成されると、プリントコントローラ419は、ヘッドI/F427を介して記録ヘッド3に記録データに基づく記録動作を実行させる。この際、プリントコントローラ419は、搬送制御部426を介して搬送部1駆動して、記録媒体2を搬送する。プリントコントローラ419の指示に従って、記録媒体2の搬送動作に連動して記録ヘッド3による記録動作が実行され、記録処理が行われる。
【0021】
ヘッドキャリッジ制御部425は、記録装置1000のメンテナンス状態や記録状態といった動作状態に応じて記録ヘッド3の向きや位置を変更する。インク供給制御部424は、記録ヘッド3へ供給されるインクの圧力が適切な範囲に収まるように、液体供給ユニット220を制御する。メンテナンス制御部423は、記録ヘッド3に対するメンテナンス動作を行う際に、メンテナンスユニットにおけるキャップユニットやワイピングユニット、およびインク滴の飛翔速度検知するための光学式センサユニット6の動作を制御する。
【0022】
スキャナエンジンユニット411においては、メインコントローラ401が、ROM407に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM406をワークエリアとしながら、スキャナコントローラ415のハードウェアリソースを制御する。これにより、スキャナ部が備える各種機構は制御される。
【0023】
例えば、コントローラI/F414を介してメインコントローラ401がスキャナコントローラ415内のハードウェアリソースを制御することにより、ユーザがADFに搭載した原稿を、搬送制御部413を介して搬送し、センサ416によって読み取る。そして、スキャナコントローラ415は読み取った画像データをRAM412に保存する。なお、プリントコントローラ419は、上述のように取得された画像データを記録データに変換することで、記録ヘッド3に、スキャナコントローラ415で読み取った画像データに基づく記録動作を実行させることが可能である。
【0024】
(循環形態の説明)
図3は、記録装置1000に適用される循環経路の循環形態を示す模式図である。記録ヘッド3は、第1循環ポンプ1002およびサブタンク1003等に流体的に接続されている。なお
図3では、説明を簡略化するため、1色分のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には4色分のインクの循環経路が記録装置本体に設けられる。
【0025】
サブタンク1003内のインクは、第2循環ポンプ1004によって液体接続部111を介して記録ヘッド3の液体供給ユニット220に供給される。その後、液体供給ユニット220に接続された負圧制御ユニット230で異なる2つの負圧(高圧、低圧)に調整されたインクは、高圧側と低圧側の2つの流路に分かれて循環する。記録ヘッド3内のインクは、記録ヘッド3の下流にある第1循環ポンプ1002の作用で記録ヘッド内を循環し、液体接続部111を介して記録ヘッド3から排出されてサブタンク1003に戻る。
【0026】
第1循環ポンプ1002は、記録ヘッド3の液体接続部111からインクを引き出してサブタンク1003へ流す。第1循環ポンプとしては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。記録ヘッド3の駆動時には、第1循環ポンプ1002を稼働することによって、それぞれ共通供給流路211、共通回収流路212内を所定流量のインクが流れる。このようにインクを流すことで、記録時の記録ヘッド3の温度を最適の温度に維持している。
【0027】
記録ヘッド3を駆動して記録動作を行う際のインクの所定流量は、記録ヘッド3内の各記録素子基板10間の温度差が記録画質に影響しない程度に維持可能である流量以上に設定することが好ましい。なお、記録素子基板10、共通供給流路211、および共通回収流路212が設けられ実際にインクを吐出する液体吐出ユニット300は、記録ヘッド3に含まれる。インクの所定量をあまりに大きな流量に設定すると、液体吐出ユニット300内の流路における圧損の影響により、各記録素子基板10で負圧差が大きくなり画像の濃度ムラが生じてしまう。そのため、各記録素子基板10間の温度差と負圧差を考慮しながら流量を設定することが好ましい。
【0028】
負圧制御ユニット230は、第2循環ポンプ1004と液体吐出ユニット300との間の経路に設けられている。この負圧制御ユニット230は、単位面積あたりの吐出量の差等によって循環系におけるインクの流量が変動した場合でも、負圧制御ユニット230よりも下流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持するように動作する。負圧制御ユニット230を構成する2つの負圧制御機構としては、負圧制御ユニット230よりも下流の圧力を、所望の設定圧を中心として一定の範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような機構を用いてもよい。
【0029】
一例としては所謂「減圧レギュレータ」と同様の機構を採用することができる。記録装置1000における循環流路では、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の上流側を加圧している。このようにすると、サブタンク1003の記録ヘッド3に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるサブタンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。
【0030】
第2循環ポンプ1004としては、記録ヘッド3の駆動時に使用するインク循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が適用可能である。また第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクでも適用可能である。
【0031】
図3に示したように負圧制御ユニット230は、それぞれ互いに異なる制御圧が設定された2つの負圧調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、相対的に高圧設定側(
図3でHと記載)、相対的に低圧設定側(
図3でLと記載)は、それぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給流路211、共通回収流路212に接続されている。
【0032】
液体吐出ユニット300には、共通供給流路211、共通回収流路212、各記録素子基板10と連通する個別流路(個別供給流路213、個別回収流路214)が設けられている。共通供給流路211には負圧制御機構Hが、共通回収流路212には負圧制御機構Lが接続されており、2つの共通流路間に差圧が生じている。そして、個別流路は、共通供給流路211および共通回収流路212と連通しているので、液体の一部が、共通供給流路211から記録素子基板10の内部流路を通過して共通回収流路212へと流れる流れ(
図3の白抜き矢印)が発生する。
【0033】
このように、液体吐出ユニット300では、共通供給流路211および共通回収流路212内をそれぞれ通過するようにインクを流しつつ、一部のインクが各記録素子基板10内を通過するような流れが発生する。このため、共通供給流路211および共通回収流路212を流れるインクによって、各記録素子基板10で発生する熱を記録素子基板10の外部へ排出することができる。
【0034】
またこのような構成により、記録ヘッド3による記録を行っている際に、吐出を行っていないインクが吐出される吐出口(
図11参照)や圧力室(詳細は後述、
図11参照)においてもインクの流れを生じさせることができる。これによって、吐出口内で増粘したインクの粘度を低下させることで、インクの増粘を抑制することができる。また、増粘したインクやインク中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。これにより、記録ヘッド3は高速で高画質な記録が可能となる。
【0035】
なお、サブタンク1003は、メインタンク1006からインクを供給するための供給路に接続されている。供給路には、流路を開閉可能なバルブ1005が設けられている。メインタンク1006からサブタンク1003へインクを供給する際には、バルブ1011、1012をともに閉塞し、バルブ1010を開放した状態で、サブタンク1003に接続されたポンプ1001を駆動する。ポンプ1001を所定時間駆動することによりサブタンク1003内を減圧する。その後バルブ1005を開放状態にすることで、サブタンク1003内に発生した負圧によりメインタンク1006からサブタンク1003へインクを供給することができる。
【0036】
記録ヘッド3からインクを吐出していない記録待機状態でインクを循環している場合の、共通供給流路211および共通回収流路212内の流量の合計を流量Aとする。流量Aの値は、記録待機状態における液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な最小限の流量として定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口からインクを吐出する場合(全吐出時)の吐出流量を流量F(1吐出口当りの吐出量×単位時間当たりの吐出周波数×吐出口数)と定義する。
【0037】
図4は、記録装置1000の循環形態における、記録ヘッド3へのインクの流入量を示した概略図である。
図4(a)は記録待機状態を示し、
図4(b)は液体吐出ユニット300の全ての吐出口からインクを吐出している全吐出状態を示す。
【0038】
定量的な送液能力を有する第1循環ポンプ1002が記録ヘッド3の下流側に配置されている循環形態の場合、第1循環ポンプ1002の設定流量は流量Aとなる。この流量Aによって、記録待機状態の液体吐出ユニット300内の温度管理が可能となる。一方、全吐出状態の場合、第1循環ポンプ1002の設定流量は流量Aで一定だが、記録ヘッド3へ供給される最大流量は、記録ヘッド3からのインクの吐出による消費分の流量Fが流量Aに加算される。よって、記録ヘッド3に対するインクの供給量の最大値は、流量Fが流量Aに加算された、流量A+流量Fとなる。
【0039】
(記録ヘッド構成の説明)
続いて記録ヘッド3の構成について説明する。
図5(a)および
図5(b)は、記録ヘッド3の構成を示した外観斜視図である。記録ヘッド3は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を直線上に15個配列(インラインに配置)されるフルライン型の記録ヘッドである。
【0040】
図5(a)に示すように記録ヘッド3は、各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92を備える。信号入力端子91および電力供給端子92は、記録装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ吐出駆動信号および吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号入力端子91および電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくすることができる。これにより、記録装置1000に対して記録ヘッド3を組み付ける時または記録ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。
【0041】
図5(b)に示すように、記録ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、記録装置1000の液体供給系と接続される。これによりシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが記録装置1000の供給系から記録ヘッド3に供給され、また記録ヘッド3内を通ったインクが記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように各色のインクは、記録装置1000の経路と記録ヘッド3の経路を介して循環可能である。
【0042】
図6は、記録ヘッド3を構成する各部品またはユニットを示した分解斜視図である。液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220および電気配線基板90は筐体80に取り付けられている。液体供給ユニット220には液体接続部111(
図3参照)が設けられるとともに、液体供給ユニット220の内部には、供給されるインク中の異物を取り除くため、液体接続部111の各開口と連通する各色別のフィルタ221(
図3参照)が設けられている。
【0043】
2つの液体供給ユニット220は、それぞれに2色分ずつのフィルタ221が設けられている。フィルタ221を通過した液体は、それぞれの色に対応して液体供給ユニット220上に配置された負圧制御ユニット230へ供給される。負圧制御ユニット230は、各色別の負圧制御弁からなるユニットであり、それぞれの内部に設けられる弁やバネ部材などの働きで液体の流量の変動に伴って生じる記録装置1000の供給系内(記録ヘッド3の上流側の供給系)の圧損変化を大幅に減衰させる。
【0044】
これによって負圧制御ユニット230は、負圧制御ユニットよりも下流側(液体吐出ユニット300側)の負圧変化をある一定範囲内で安定化させることが可能である。各色の負圧制御ユニット230内には、
図3で記述したように各色2つの負圧制御弁が内蔵されている。2つの負圧制御弁は、それぞれ異なる制御圧力に設定され、高圧側が液体吐出ユニット300内の共通供給流路211(
図3参照)、低圧側が共通回収流路212(
図3参照)と液体供給ユニット220を介して連通している。
【0045】
筐体80は、液体吐出ユニット支持部81および電気配線基板支持部82とから構成され、液体吐出ユニット300および電気配線基板90を支持するとともに、記録ヘッド3の剛性を確保している。電気配線基板支持部82は、電気配線基板90を支持するためのものであり、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めによって固定されている。
【0046】
液体吐出ユニット支持部81は、液体吐出ユニット300の反りや変形を矯正して、複数の記録素子基板10の相対位置精度を確保する役割を有し、それにより記録物におけるスジやムラを抑制する。そのため液体吐出ユニット支持部81は、十分な剛性を有することが好ましく、材質としてはSUSやアルミなどの金属材料、もしくはアルミナなどのセラミックが好適である。液体吐出ユニット支持部81には、ジョイントゴム100が挿入される開口83、84が設けられている。液体供給ユニット220から供給される液体は、ジョイントゴムを介して液体吐出ユニット300を構成する第3流路部材70へと導かれる。
【0047】
液体吐出ユニット300は、複数の吐出モジュール200、流路部材210からなり、液体吐出ユニット300の記録媒体側の面にはカバー部材130が取り付けられる。ここで、カバー部材130は、
図6に示したように長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材であり、開口131からは吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10および封止部材110(後述する
図10(a)参照)が露出している。開口131の周囲の枠部は、記録待機時(非記録時)に記録ヘッド3をキャップするキャップ部材の当接面としての機能を有する。このため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、充填材等を塗布し、液体吐出ユニット300の吐出口面上の凹凸や隙間を埋めることで、キャップ時に閉空間が形成されるようにすることが好ましい。
【0048】
次に、液体吐出ユニット300に含まれる流路部材210の構成について説明する。
図6に示したように流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60および第3流路部材70を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配する。また流路部材210は、吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材である。流路部材210は、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されており、それにより流路部材210の反りや変形が抑制されている。
【0049】
図7は、第1~第3流路部材の各流路部材の表面と裏面を示した図である。
図7(a)は、第1流路部材50の吐出モジュール200が搭載される側の面を示し、
図7(f)は、第3流路部材70の液体吐出ユニット支持部81と当接する側の面を示す。第1流路部材50と第2流路部材60とは、夫々の流路部材の当接面である
図7(b)で示す部材と
図7(c)で示す部材が対向するように接合する。また、第2流路部材と第3流路部材とは、夫々の流路部材の当接面である
図7(d)で示す部材と
図7(e)で示す部材とが対向するように接合する。
【0050】
第2流路部材60と第3流路部材70を接合することで、各流路部材に形成される共通流路溝62、71とから、流路部材の長手方向に延在する8本の共通流路(211a~211d、212a~212d)が形成される。
【0051】
これによりインクの色毎に共通供給流路211と共通回収流路212のセットが流路部材210内に形成される。共通供給流路211から記録ヘッド3へインクが供給されて、記録ヘッド3に供給されたインクは共通回収流路212によって回収される。
【0052】
第3流路部材70の連通口72(
図7(f)参照)は、ジョイントゴム100の各穴と連通しており、液体供給ユニット220(
図6参照)と流体的に流通している。第2流路部材60の共通流路溝62の底面には、連通口61(共通供給流路211と連通する連通口61-1、共通回収流路212と連通する連通口61-2)が複数形成されており、第1流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成されており、連通口51を介して複数の吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により流路部材の中央側へ流路を集約することが可能となる。
【0053】
第1~第3流路部材は、液体に対して耐腐食性を有するとともに、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。材質としては例えば、アルミナや、LCP(液晶ポリマ)、PPS(ポリフェニルサルファイド)やPSF(ポリサルフォン)を母材としてシリカ微粒子やファイバなどの無機フィラーを添加した複合材料(樹脂材料)を好適に用いることができる。流路部材210の形成方法としては、3つの流路部材を積層させて互いに接着してもよいし、材質として樹脂複合樹脂材料を選択した場合には、溶着による接合方法を用いてもよい。
【0054】
図8は、
図7(a)のα部を示しており、第1~第3流路部材を接合して形成される流路部材210内の流路を第1の流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される面側から一部を拡大して示した透視図である。共通供給流路211と共通回収流路212とは、両端部の流路からそれぞれ交互に共通供給流路211と共通回収流路212とが配置されている。ここで、流路部材210内の各流路の接続関係について説明する。
【0055】
流路部材210には、色毎に記録ヘッド3の長手方向に伸びる共通供給流路211(211a~211d)および共通回収流路212(212a~212d)が設けられている。各色の共通供給流路211には、個別流路溝52によって形成される複数の個別供給流路213(213a~213d)が連通口61を介して接続されている。また、各色の共通回収流路212には、個別流路溝52によって形成される複数の個別回収流路214(214a~214d)が連通口61を介して接続されている。
【0056】
このような流路構成により各共通供給流路211から個別供給流路213を介して、流路部材の中央部に位置する記録素子基板10にインクを集約することができる。また記録素子基板10から個別回収流路214を介して、各共通回収流路212にインクを回収することができる。
【0057】
図9は、
図8のIX-IXにおける断面を示した図である。それぞれの個別回収流路(214a、214c)は連通口51を介して、吐出モジュール200と連通している。
図9では個別回収流路(214a、214c)のみ図示しているが、別の断面においては
図8に示すように個別供給流路213と吐出モジュール200とが連通している。
【0058】
各吐出モジュール200に含まれる支持部材30および記録素子基板10には、第1流路部材50からのインクを記録素子基板10に設けられる記録素子15に供給するための流路が形成されている。更に、支持部材30および記録素子基板10には、記録素子15に供給した液体の一部または全部を第1流路部材50に回収(環流)するための流路が形成されている。
【0059】
ここで、各色の共通供給流路211は、対応する色の負圧制御ユニット230(高圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されており、また共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されている。この負圧制御ユニット230により、共通供給流路211と共通回収流路212間に差圧(圧力差)を生じさせるようになっている。このため、
図8および
図9に示したように、各流路を接続した本実施形態の記録ヘッド内では、各色で共通供給流路211~個別供給流路213~記録素子基板10~個別回収流路214~共通回収流路212へと順に流れる流れが発生する。
【0060】
(吐出モジュールの説明)
図10(a)は、1つの吐出モジュール200を示した斜視図であり、
図10(b)は、その分解図である。吐出モジュール200の製造方法としては、まず記録素子基板10およびフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止部材110で覆って封止する。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(
図6参照)と電気接続される。
【0061】
支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材であるため、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
【0062】
(記録素子基板の構造の説明)
図11(a)は、記録素子基板10の吐出口13が形成される吐出口面側の平面図を示し、
図11(b)は、
図11(a)のAで示した部分の拡大図を示し、
図11(c)は、
図11(a)の裏面の平面図を示す。
図11(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材12に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口13が配列される方向を「吐出口列方向」と呼称する。
図11(b)に示すように、各吐出口13に対応した位置には液体を熱エネルギにより発泡させるための発熱素子である記録素子15が配置されている。隔壁22により、記録素子15を内部に備える圧力室23が区画されている。
【0063】
記録素子15は、記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、端子16と電気的に接続されている。そして記録素子15は、記録装置1000の制御回路から、電気配線基板90(
図6参照)およびフレキシブル配線基板40(
図10(b)参照)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。
【0064】
図11(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19が延在している。液体供給路18および液体回収路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に延びる流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口13と連通している。
【0065】
図11(c)に示すように、記録素子基板10の吐出口面の裏面にはシート状のカバープレート20が積層されており、カバープレート20には、液体供給路18および液体回収路19に連通する開口21が複数設けられている。記録ヘッド3においては、液体供給路18の1本に対して3個、液体回収路19の1本に対して2個の開口21がカバープレート20に設けられている。
【0066】
図11(b)に示すようにカバープレート20の夫々の開口21は、
図7(a)に示した複数の連通口51と連通している。カバープレート20は、液体に対して十分な耐食性を有している物が好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。このためカバープレート20の材質として、感光性樹脂材料やシリコン板を用い、フォトリソプロセスによって開口21を設けることが好ましい。このようにカバープレート20は、開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると厚みは薄い方が望ましく、フィルム状の部材で構成されることが望ましい。
【0067】
図12は、
図11(a)のXII-XIIにおける記録素子基板10およびカバープレート20の断面を示す斜視図である。ここで、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。カバープレート20は、記録素子基板10の基板11に形成される液体供給路18および液体回収路19の壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。
【0068】
記録素子基板10は、Siにより形成される基板11と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材12とが積層されており、基板11の裏面にはカバープレート20が接合されている。基板11の一方の面側には、記録素子15が形成されており(
図11(b)参照)、その裏面側には、吐出口列に沿って延在する液体供給路18および液体回収路19を構成する溝が形成されている。
【0069】
基板11とカバープレート20とによって形成される液体供給路18および液体回収路19は、それぞれ流路部材210内の共通供給流路211と共通回収流路212と接続されており、液体供給路18と液体回収路19との間には差圧が生じている。記録ヘッド3により記録を行っている際に吐出を行っていない吐出口では、この差圧によって基板11内に設けられた液体供給路18内の液体が、供給口17a、圧力室23、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる(
図12の矢印C)。
【0070】
この流れ(矢印C)によって、インクを吐出していない吐出口13や圧力室23において、吐出口13からの蒸発によって生じる増粘インク、泡および異物などを液体回収路19へ回収することができる。また、吐出口13や圧力室23のインクが増粘するのを抑制することができる。
【0071】
液体回収路19へ回収されたインクは、カバープレート20の開口21および支持部材30の液体連通口31(
図10(b)参照)を通じて、流路部材210内の連通口51(
図9参照)、個別回収流路214、共通回収流路212(
図9参照)の順に流れる。液体回収路19へ回収されたインクは、このように流れることで、記録装置1000の回収経路へと回収される。つまり、記録装置1000本体から記録ヘッド3へ供給されるインクは、下記の順に流動し、供給および回収される。
【0072】
インクは、まず液体供給ユニット220の液体接続部111から記録ヘッド3の内部に流入する。そしてインクは、ジョイントゴム100、第3流路部材に設けられた連通口72および共通流路溝71、第2流路部材に設けられた共通流路溝62および連通口61、第1流路部材に設けられた個別流路溝52および連通口51の順に供給される。その後、支持部材30に設けられた液体連通口31、カバープレート20に設けられた開口21、基板11に設けられた液体供給路18および供給口17aを順に介して圧力室23に供給される。
【0073】
圧力室23に供給されたインクのうち、吐出口13から吐出されなかったインクは、基板11に設けられた回収口17bおよび液体回収路19、カバープレート20に設けられた開口21、支持部材30に設けられた液体連通口31を順に流れる。その後インクは、第1流路部材に設けられた連通口51および個別流路溝52、第2流路部材に設けられた連通口61および共通流路溝62、第3流路部材70に設けられた共通流路溝71および連通口72、ジョイントゴム100を順に流れる。そしてインクは、液体供給ユニット220に設けられた液体接続部111から記録ヘッド3の外部へ流動する。
【0074】
図3に示す循環形態においては、液体接続部111から流入したインクは、負圧制御ユニット230を経由した後にジョイントゴム100に供給される。また液体吐出ユニット300の共通供給流路211の一端から流入した全てのインクが、個別供給流路213aを経由して圧力室23に供給されるわけではない。つまり、共通供給流路211の一端から流入しても、個別供給流路213aに流入することなく、共通供給流路211の他端から液体供給ユニット220に流動するインクもある。
【0075】
このように、記録素子基板10を経由することなく流動する経路を備えることで、微細で流抵抗の大きい流路を備える記録素子基板10を備える場合であっても、インクの逆流を抑制することができる。このように、本実施形態の記録ヘッド3では、圧力室23や吐出口近傍部のインクの増粘を抑制することができるので、吐出のヨレや不吐出を抑制することができ、結果として高画質な記録を行うことができる。
【0076】
(記録素子基板間の位置関係の説明)
図13は、隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板10の隣接部を部分的に拡大して示した平面図である。記録素子基板10は、略平行四辺形である。各記録素子基板10において吐出口13が配列される各吐出口列(14a~14d)は、記録ヘッド3の長手方向に対し一定角度傾くように配置されている。そして、記録素子基板10同士の隣接部における吐出口列は、少なくとも1つの吐出口が吐出口列方向おいてオーバーラップするようになっている。
図13では、線D上の2つの吐出口が互いにオーバーラップする関係にある。
【0077】
このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。複数の記録素子基板10を千鳥配置ではなく、直線上(インライン)に配置した場合も、
図13に示す構成により記録媒体の搬送方向における記録ヘッド3の長さの増大を抑え、記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜けも抑制できる。なお、記録素子基板10の主平面は平行四辺形に限らず、例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
【0078】
(記録素子基板内の循環の説明)
図14(a)は、記録ヘッド3の記録素子基板10を示した斜視図であり、
図14(b)は、記録素子基板10の内部の流路を示した平面図であり、
図14(c)は
図14(b)のA-A線に沿った断面図である。記録素子基板10は、基板11と、基板11に接合された吐出口形成部材12と、を有している。基板11にはインクを吐出するための記録素子15が設けられている。吐出口形成部材12には、記録媒体と対向する側に吐出口13が設けられており、吐出口13から記録媒体2に対してインクが吐出される。なお、吐出口形成部材12の吐出口13が開口した面(記録媒体と対向する面)を吐出口形成面(吐出口面)12aという場合がある。
【0079】
吐出口13は複数個形成され、複数の吐出口13は直線状に配列されて吐出口列を形成している。基板11と吐出口形成部材12との間に、記録素子15及び吐出口13と面する液流路24が画定されている。液流路24のうち、記録素子15と吐出口13が設けられている空間が圧力室23となっている。隣接する液流路24は壁26で仕切られている。
【0080】
液流路24の高さHは、25μm以下であることが好ましい。ここで、液流路24の高さHは、基板11の記録素子15が設けられた面と垂直な方向に測った基板11と吐出口形成部材12との間隔によって定められる。例えば600dpi相当以上の高密度の記録ヘッド3の場合、液流路24の高さHは3μm以上が好ましい。これは、流路幅が制限されるため、リフィル特性や循環特性を考慮して、一定の高さを確保するためである。
【0081】
液体供給路18と液体回収路19とが、基板11の表面から裏面までを貫通して設けられている。液体供給路18は、液流路24の入口端部24aに接続され、インクを液流路24に供給する。液体回収路19は液流路24の出口端部24bに接続され、吐出口13から吐出されなかったインクを液流路24から回収する。液流路24の途中、好ましくは液流路24の入口端部24aと出口端部24bとから等距離の位置に記録素子15と吐出口13が形成されている。
【0082】
液体供給路18の入口圧力Pinと液体回収路19の出口圧力Poutとの間に圧力差ΔPが設けられている。この圧力差ΔPは、入口圧力Pinが出口圧力Poutより大きくなるように設定されている。その結果、液体供給路18から液流路24を通って、記録素子15上にインクが流れ、液流路24をさらに通って液体回収路19へインクが流れる循環流Fが発生する。入口圧力Pinと出口圧力Poutは正圧でも負圧でもよく、入口圧力Pinが出口圧力Poutより大きければよい。
【0083】
(循環流速についての課題)
図15(a)は、循環流Fの循環流速が1mm/sと3mm/sの場合における、吐出発数と吐出速度との関係を示したグラフである。
図15(b)は、循環流速3mm/sの場合の圧力室23内部におけるインクの濃縮度合いを示した図である。
図15(c)は、循環流速1mm/sの場合の圧力室23内部におけるインクの濃縮度合いを示した図である。
【0084】
圧力室23内部におけるインクの濃縮度合いを確認するために、記録ヘッド3から記録ヘッド温度40℃でインク滴を吐出させ、1秒間休止した後、再びインク滴を20発連続して吐出させた。
図15(b)、
図15(c)において、色が濃いほどインクが濃縮され粘度が高くなっていることを示している。
【0085】
図15(c)に示すように循環流Fの流速が遅い場合、吐出口13からの蒸発速度の影響が大きいため、蒸発で濃縮したインクの吐出口13での滞留を循環流Fによって抑制しきれなくなる。その結果、増粘したインクが吐出口13の近傍に滞留しやすくなり、吐出を休止した後に次の記録動作を開始する1発目のインクの吐出速度が低下する(
図15(a)参照)。
【0086】
一方、
図15(b)に示すように循環流Fの流速が速い場合、循環流Fによって吐出口13で蒸発したインクの滞留が相対的に弱められる。そのため、吐出を休止した後に次の記録動作を開始する1発目のインクの吐出速度の低下が抑制される(
図15(a)参照)。従って、循環流Fの流速は吐出口13からのインクの蒸発速度より十分大きいことが望ましい。
【0087】
図16は、様々なヘッド温度における吐出口13の口径と吐出口13からの平均蒸発速度の関係を示したグラフである。蒸発速度は、吐出口13から蒸発するインクの速度であり、単位時間あたり蒸発するインク層の厚さとして定義される。より詳細には、蒸発速度は吐出口形成部材12を貫通する液滴吐出孔25の内部にあるインクの、単位時間あたりの蒸発分の厚さに等しい。また、記録ヘッド3が高温の場合、低温の場合と比較して、吐出口13における蒸発速度は非常に大きくなる。
【0088】
図16に示すように、吐出口13の口径が16μm、記録ヘッド温度が40℃の場合、蒸発速度は約150μm/sであることがわかる。従って、液流路24におけるインクの流速(循環流Fの流速)を3mm/s以上、または吐出口13における蒸発速度の20倍以上に設定することで、吐出口13からの蒸発により増粘したインクが吐出口13の近傍で滞留することを抑えることができる。
【0089】
(記録素子基板内の循環における課題)
このように、循環流Fの流速を速くすることで、増粘したインクが吐出口13の近傍に滞留しづらくなる。また、循環流Fが速い場合は、蒸発して増粘したインクが循環流Fの流れに沿って液流路24から出口端部24bへ戻り、液体回収路19を通り共通回収流路212へ流れ込み、最終的にはサブタンク1003へ回収される。
【0090】
全吐出状態のように、全ての吐出口13から常にインクを吐出する場合には、蒸発して増粘したインクは吐出されるため、液体回収路19へ戻ることはない。一方、記録する画像のデューティが低く記録のために使用する吐出口13が少ない場合には、インクを吐出しない吐出口13が多く存在することになるため、蒸発したインクの多くは液体回収路19へ戻ることになる。つまり、デューティが低い画像を記録し続けた場合、サブタンク1003と記録ヘッド3を含む循環経路に存在するインクは増粘し続けることになる。
【0091】
図17は、環境温度25℃における水分蒸発時のインク粘度を示したグラフである。インク中の水分蒸発率が高くなると、インク粘度が上昇していることがわかる。一方で、記録ヘッド3から安定的に吐出を行える粘度にも上限がある。仮に、安定吐出可能な粘度の上限が8cpとすると、8cpを超えて蒸発し続けると、吐出が不安定になり吐出不良が発生する。そのため、循環経路内のインクの蒸発量をできるだけ正確に把握し、安定吐出可能な粘度の上限を超えないように、予備吐出やクリーニング処理を行う必要がある。以下に、インクの粘度上昇具合を把握するためのインク飛翔速度検知機構について説明する。
【0092】
(吐出インク滴の飛翔速度検知手段の説明)
次にインク飛翔速度検知手段について説明する。
図18は、光学的にインク飛翔速度を検知する光学式センサユニット6の機構を模式的に示す図である。インクの飛翔速度を検知する検知手段として、発光素子600と受光素子601を含む光学式センサユニット6を用いる。
図18(a)に示すように、LEDなどの発光素子600は光を照射し、発光素子600に対向して設けられたフォトダイオードなどの受光素子601は発光素子600が照射した光を受光する。
【0093】
発光素子600と受光素子601は、4つの吐出口列14a~14dを挟むように配置されている。発光素子600が照射する光の中心(光軸)500と、吐出口列方向とが略直交するように配置されており、光軸500は記録素子基板10の傾き角度と同じ角度で傾いている。
【0094】
このような光学式センサユニット6では、記録ヘッド3からインクを吐出するタイミングと、吐出されたインク滴が発光素子600から照射された光を遮って受光素子601が受光する光量が低減したタイミングと、を検知する。インクを吐出したタイミングと受光素子601が受光したタイミングに基づいてインク滴の飛翔時間を取得し、吐出口面12aと光軸500までの高さLとから飛翔速度を取得する。
【0095】
なお、吐出口列14a~14dから吐出されるインク滴全てが、発光素子600と受光素子601からなる光学式センサユニット6の検知領域に収まらない場合には、当該検知領域に入るように光学式センサユニット6を吐出口列方向に微小移動させる。そして、検出可能な吐出口列14からインク滴を吐出して飛翔速度を検知し、1つの吐出口列14について飛翔速度の検知動作が終了したら、光学式センサユニット6を微小移動して次の吐出口列14に関して飛翔速度の検知動作を行えばよい。
【0096】
光学式センサユニット6の検知領域内に記録ヘッド3の吐出口列14がない場合、または、吐出口13から正常にインク滴が吐出されない場合は、
図18(a)のように光軸500上にインク滴が存在しない。そのため、発光素子600から照射された光は光量が低減することなく受光素子601へ到達する。このとき、受光素子601が受光する光量は低下しないため、受光素子601からの出力信号レベルも低下しない。そのため、プリントコントローラ419は光学式センサの出力に基づいてインクの吐出状態は不良状態または不吐出状態であると判断し、飛翔速度検知エラーとする。
【0097】
一方、光学式センサユニット6の検知領域に対応する位置に記録ヘッド3の吐出口13があり、吐出口13から正常にインク滴が吐出されたときには、
図18(b)に示すように、吐出されたインク滴501が光軸500を遮る。その結果、受光素子601が受光する光量が低下し、受光素子601からの出力信号レベルは低下する。そのため、プリントコントローラ419はインクの吐出状態は良好(正常)であると判断し、吐出タイミングと受光タイミングとの時間差から飛翔速度を算出する。
【0098】
また、インクの飛翔速度を検知するために吐出されたインク滴501は、
図18(b)のように廃インク503としてインク受け504で受け止められ、インク排出口502から排出されて廃インク吸収体(不図示)に導かれて吸収される。なお、廃インク吸収体に関わらず、インク溜め容器等に廃インクを回収してもよい。
【0099】
図19は、インク飛翔速度の検知動作(飛翔速度検知シーケンス)を説明するフローチャートである。検知フローが開始されると、S201で発光素子600のLEDが点灯する。次に、ヘッドキャリッジ制御部425によって光軸500と吐出口面12aとの距離がLとなるように記録ヘッド3の高さが調整される(S203)。
【0100】
記録ヘッド3が所定の高さに調整されると、S204にて検知前処理として記録ヘッド3からインクの予備吐出を行う。予備吐出とは、記録動作やインク飛翔速度の検知動作に使用されないインクを予備的に吐出することである。
【0101】
プリントコントローラ419は、S205にて検知対象となる吐出口13を設定し、S206にて光学式センサユニット6を設定された吐出口13に対応する位置へ移動させる(S206)。光学式センサユニット6の移動が完了すると、S207にて設定された吐出口13において検知前の予備吐出を実行した後、S208にて設定された吐出口13から検知用吐出を行う。
【0102】
プリントコントローラ419では、検知用吐出の吐出信号を送るタイミングと、受光素子601からの出力信号が低下するタイミングを検知し、その時間差と距離Lから飛翔速度を算出する。
【0103】
S209にて全ての吐出口列14に対して検知動作が終了したか確認する。終了していない場合は、S205まで戻って検知動作を繰り返す。全ての吐出口列14に対して検知動作が終了したら、S210にて終了処理を行う。終了処理としては、光学式センサユニット6を待機位置へ戻し、記録ヘッド3を待機位置へ戻す動作を含む。終了処理が完了すると、S211にて検知動作が終了する。
【0104】
〔第1実施形態〕
第1実施形態では、光学式センサユニット6を用いて定期的に飛翔速度を検知することでインク粘度を取得し、インクの濃縮状態を判定する制御について説明する。
図20は、第1実施形態における定期的に飛翔速度を検知することでインク粘度を取得するシーケンスのフローを説明するフローチャートである。
【0105】
本実施形態では、記録ヘッド3による記録動作のためにインクを循環した循環時間を累積的に計測し、その累積した循環時間が30分を超えるごとに記録ジョブ間で飛翔速度を検知する制御としている。すなわち、累積した循環時間が30分を超えたら、記録動作中の記録ジョブが完了次第、飛翔速度を検知する。
【0106】
一般的に、定期メンテナンスや吐出口13の吐出状態の検査は記録ヘッド3の使用頻度に応じて制御する必要があるため、総累積吐出回数が一定量加算されたタイミングで実施する場合が多い。しかしながら、インクの濃縮状態はインクの吐出回数よりも、キャップユニットが開放されて吐出口13が空気中に晒されている時間に依存して変化する。そのため、累積吐出回数ではなく、インク循環を行っていた累積時間に基づいて制御を実行する。なお、インク受け504がキャップユニットとして機能するものであってもよい。
【0107】
図20は、インク循環の累積時間が30分を超えた場合に開始されるインク粘度取得シーケンスを示すフローチャートである。S401にてインク粘度取得シーケンスが開始されると、S402にてプリントコントローラ419により記録ヘッド3のヘッド温度が取得される。S403にて
図19で示した飛翔速度検知シーケンスを実行する。飛翔速度検知シーケンスにより飛翔速度値Vt´が取得されると(S404)、プリントコントローラ419では飛翔速度値Vt´からインク粘度ηt´を算出(S405)する。
【0108】
ここで、プリントコントローラ419は、予め実験等で求めた飛翔速度とインク粘度の対応関係に基づいてインク粘度を算出する。例えば、
図22に示すグラフに基づいてインク粘度ηt´を算出する。
図22は、記録ヘッド3のヘッド温度が25℃の場合の、インク滴の飛翔速度Vとインク粘度ηとの関係を示すグラフである。例えば、S403にて取得された飛翔速度値Vt´が12m/sの場合には、インク粘度ηt´の換算値として2cpが算出される。
【0109】
S406にて、プリントコントローラ419は、
図21に示す温度粘度換算テーブルを参照して閾値と比較判定するために用いるインク粘度ηtを決定する。
図21は、飛翔速度Vを検知した時点におけるヘッド温度に基づいてインク粘度ηtを換算するためのテーブルである。ここで、記録ヘッド3のヘッド温度は記録動作に伴って記録素子15が発熱すると40℃を超える一方、記録動作を行わない記録待機状態においては25℃前後を維持する。
【0110】
従って、仮に飛翔速度Vt´を取得したときのヘッド温度が40℃であった場合は、実際にはインクの濃縮が進行していても、ヘッド温度が高いことでインク粘度が一時的に下がっているため、飛翔速度Vt´は速い速度が検知される。そのため、飛翔速度Vt´に基づいて算出されたインク粘度ηt´と閾値を単純に比較してしまうと、実際にはインクの濃縮が進行しているのに、インクの濃縮は許容範囲である、と誤検知する虞がある。
【0111】
すなわち、ヘッド温度が高温の状態で飛翔速度の取得が行われた場合、記録待機状態の25℃前後までヘッド温度が下がったときのインク粘度ηtに換算し直す必要があり、
図21に示すテーブルを参照してインク粘度ηtが決定される。
【0112】
S407にて、算出されたインク粘度ηtをRAM421へ保存して、以後のインクの濃縮状態の判定に使用し、S408にてインク粘度取得シーケンスを終了する。例えば、閾値を8cpと設定したとする。ヘッド温度が31℃のときに飛翔速度値Vt´が6.8m/sと検知された場合は、インク粘度値ηt´として8cpが算出される。さらに、温度粘度換算テーブルに基づき8cpに+3を加算することで、インク粘度値ηtとして11cpが算出される。閾値の8cpより大きいため、インクが濃縮したと判定されて、循環経路内のインクの排出処理が実行される。
【0113】
本実施形態では、濃縮したインクの排出処理として、記録ヘッド3のクリーニング動作を行う。具体的には、取得したインク粘度値が閾値を超えたと判断されると、メンテナンス制御部423は、記録ヘッド3の吐出口面12aをキャップユニットでキャッピングする。そして、バルブ1010を開放した状態で、キャップユニットに接続されたポンプ(吸引手段)を駆動することでキャップユニット内に負圧をかけて、吐出口13から濃縮したインクを所定時間、吸引排出する(排出動作)。すなわち、インク受け504がキャップユニットとして機能する場合は、インク受け504がインク排出処理を実行する排出手段を構成する。
【0114】
この所定時間の吸引によって、サブタンク1003及び循環経路内の全てのインクを吸引排出してもよいし、所定量のインクを吸引排出してもよい。あるいは、循環経路内の総インク量に対して所定の割合に対応する量のインクを排出するように制御してもよい。吸引する時間の設定は、インクの濃縮度合いに応じて変更可能である。所定時間が経過すると、ポンプによる吸引を停止する。
【0115】
濃縮したインクの排出後、循環経路のバルブ1011、1012をともに閉塞し、且つ、バルブ1005を開放した状態で、サブタンク1003に接続されたポンプ1001を駆動する。ポンプの駆動によりサブタンク1003内が減圧されて、メインタンク1006からサブタンク1003へインクが供給される。このとき、排出したインク量と同量のインクがサブタンク1003へ供給されるのが好ましい。メインタンク1006に収容されているインクは空気と接しておらず濃縮していないため、サブタンク1003と循環経路内のインクを濃縮していないインクに置換することができる。
【0116】
以上の制御により、インクの飛翔速度に基づいてインク粘度を算出することで、より正確なインク粘度値を取得することができる。また、取得したインク粘度値に基づいて、適切なタイミングでインクの排出処理を実施することが可能である。これにより、記録ヘッド3の吐出不良を抑制しつつ、廃インクを低減することができる。
【0117】
なお、本実施形態においては累積した循環時間が30分を超えると、記録ジョブ間でインクの飛翔速度を検知する制御としたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、記録ページ間で飛翔速度を検知する構成や、記録装置1000の電源を入れた直後に飛翔速度を検知する構成も採用可能である。
【0118】
また、インクの飛翔速度を一度インク粘度に換算してから閾値と比較する構成を開示したが、予め飛翔速度に関する閾値を設定して、取得した飛翔速度と閾値を比較する構成を採用することも可能である。その場合、飛翔速度が閾値以上であればインクは濃縮していないと判定され、閾値未満の場合はインクが濃縮していると判定される。
【0119】
さらには、記録ヘッド3はフルライン型に限らず、記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジに搭載されるシリアル型にも採用可能である。この場合、キャリッジの走査間においてインクの飛翔速度を検知する構成であってもよい。
【0120】
また、本実施形態におけるインクの循環経路は、記録ヘッド3とサブタンク1003の間を流体的に接続している経路全体においてポンプを駆動させることでインクを循環させる構成であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、ポンプを用いず、記録ヘッド3の内部だけでインクを循環させる構成や、吐出口13の近傍の流路においてのみインクを循環させる構成であっても、本発明を適用することで同様の効果が得られる。
【0121】
加えて、本実施形態においては、インク粘度が閾値を超えた場合は濃縮状態の解消手段として、記録ヘッド3に対するクリーニング動作によって循環経路内のインクを排出する処理を実行する制御としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、循環経路における循環の流速を高めることで、インクの濃縮状態を緩和する構成も採用可能である。
【0122】
〔第2実施形態〕
第2実施形態においては、第1実施形態の制御に加えて、循環経路内のインクの排出処理を実行した直後におけるインクの飛翔速度の検知結果と、所定時点での飛翔速度の検知結果との相対差に基づいて濃縮状態を判定する。第1実施形態と同様の構成や制御については説明を省略する。
【0123】
図23は、第2実施形態におけるインク粘度変化量を取得するシーケンスを説明するフローチャートである。第2実施形態においては、インクの排出処理として記録ヘッド3からインクの予備吐出を行う。また、インクの排出処理の完了後、メインタンク1006からサブタンク1003へインクが供給されてからの循環時間を累積的に計測し、累積された循環時間が30分を超えるとシーケンスを開始する。
【0124】
S101にて粘度変化量取得シーケンスが開始されると、S102にてインク排出処理の完了後に取得する飛翔速度か否かを判定する。インク排出処理後である場合は、S103にて粘度変化量取得シーケンスの実行回数であるnを0にリセットし、S104で検知される飛翔速度を初期飛翔速度値Viniとして保存する(S106)。
【0125】
S104にてプリントコントローラ419は
図19に示す飛翔速度検知シーケンスを実行し、S105にてn=0であるか、すなわちインク排出処理後であるか否かを判定する。n=0である場合は、上述したように、S106にて初期飛翔速度ViniとしてRAM421に保存する。一方、n=0ではない場合、すなわちインク排出処理後ではない場合は、S107にて飛翔速度値Vnを取得する。
【0126】
S108にて、プリントコントローラ419は、取得した飛翔速度値Vnと初期飛翔速度Viniを用いて、初期飛翔速度Viniからの速度変化値ΔVを算出する。予め実験等によって求めた速度変化値ΔVと粘度変化量Δηの関係から、S109にて粘度変化量Δηを算出する。S110にて、算出された粘度変化量ΔηをRAM421に保存する。
【0127】
プリントコントローラ419では、粘度変化量Δηを予め設定した閾値と比較することでインクの濃縮状態を判定し、濃縮が進行していると判定された場合には、循環経路内からインクを排出する。すなわち、プリントコントローラ419は、インクが濃縮しているか判定する判定手段としても機能する。排出したインク量に応じてメインタンク1006からサブタンク1003へインクを供給することで、循環経路内のインクの濃縮状態を緩和する。
【0128】
プリントコントローラ419、S111にて粘度変化量取得シーケンスの実行回数nに1を加算し、S112にてシーケンスを終了する。
【0129】
ここで、飛翔速度検知シーケンスにて得られる飛翔速度値は、部品交差や部品の取り付け誤差によって吐出口面12aと光学式センサユニット6の光軸500との距離Lの精度がばらつくことに起因して、正確な値を得られない場合がある。したがって、第2実施形態においては、取得された飛翔速度値の絶対値ではなく、初期飛翔速度値からの相対的な変化量に基づいた制御を実行することで、インクの濃縮状態の管理をより適切に行うことができる。
【0130】
例えば、初期飛翔速度Viniが12.2m/sで、飛翔速度検知シーケンスによって取得された現在の飛翔速度値Vnが8.6m/sである場合、速度変化値ΔVは3.6m/sと算出される。速度変化値ΔVを
図22のグラフに基づき粘度変化量Δηに換算すると、飛翔速度12.2m/sのときの粘度は2cp、飛翔速度8.6m/sのときの粘度は6cpであるため、粘度変化量Δηは4cpが取得される。
【0131】
メインタンク1006から供給されるインク粘度が2cpであり、循環経路内のインク粘度は8cpを超えると吐出不良の可能性がある場合は、粘度変化量Δηの閾値としては6cpが設定される。取得された粘度変化量Δηが6cpを超えると、インク排出処理が実行される。
【0132】
以上の制御により、記録ヘッド3から吐出させた実際のインク滴の吐出状態から粘度に関する情報を正しく取得することができ、インクの濃縮状態を判定して適切な制御を実施することが可能である。また、初期飛翔速度値を記憶させておき、現在飛翔速度の差分から粘度に関する情報を取得することで、相対的に粘度変化の値を正しく取得することができ、緻密な制御が可能である。
【0133】
なお、本実施形態においては粘度に関する情報を取得する制御としたが、例えば粘度情報から水分蒸発量などを算出する制御としてもよい。また、本実施形態においては累積した循環時間に基づいて飛翔速度を検知する構成としたが、記録パターンのデューティなどの吐出比率に基づき飛翔速度を検知する構成も採用可能である。
【0134】
〔第3実施形態〕
第3実施形態では、循環経路内の循環流速を変化させることでインク粘度(濃縮状態)に関する情報を取得する。第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成や制御については説明を省略する。
【0135】
図17にて示したように、インク粘度とインクの水分蒸発量の関係は非線形であり、水分蒸発が進んだ状態では、水分蒸発が進んでいない場合に比べてインク粘度の上昇が加速する。第3実施形態では、この非線形な関係を利用して、流速を変化させて一定の水分蒸発が進んだ状態の飛翔速度を検知し、その速度変化値からインクの濃縮状態が進行しているか否かを判定する。
【0136】
図24は、第3実施形態における粘度変化量取得シーケンスを説明するフローチャートである。S301にてシーケンスを開始すると、S302にてプリントコントローラ419は循環経路内の流速を第1設定値に設定し、S303にて
図19に示す飛翔速度検知シーケンスを実行する。本実施形態では、第1設定値として3mm/sを設定しており、これはS305にて設定する第2設定値よりも速い速度を設定する。
【0137】
流速を3mm/sに設定すると、
図15(b)に示したように濃縮したインクが吐出口13の近傍に滞留しにくい状態が形成される。そのため、
図19に示す飛翔速度検知シーケンスにおいて、S207で行う検知前予備吐出からS208で行う検知用吐出までの間に1秒間のタイムラグが発生する場合であっても、検知される飛翔速度V1の値は比較的安定している。S303で取得された飛翔速度V1の値は、S304にてプリントコントローラ419によりRAM421に保存される。
【0138】
S305では、第2設定値として第1設定値より遅い1mm/sを設定する。流速を1mm/sに設定すると、
図15(c)に示したように濃縮したインクが吐出口13付近に滞留する状態が形成される。したがって、ステップS306にて飛翔速度検知シーケンスを行い取得される飛翔速度V2の値は、V1の値よりも低下したものとなる。S306にて取得された飛翔速度V2の値は、S307にてプリントコントローラ419によりRAM421に保存される。
【0139】
S308にて、
図22のグラフに基づき、取得された飛翔速度V1とV2の値をそれぞれ粘度値η1、η2の値に換算する。S309にてプリントコントローラ419は、粘度値η1、η2の値から粘度変化量Δηの値を算出し、S310にてRAM421へ保存する。S311にて、シーケンスを終了する。
【0140】
ここで、循環流速が第1設定値の3mm/sから第2設定値を1mm/sに変化すると、吐出口13近傍の水分蒸発は約5%上昇することを実験的に確認した。
図17に示す通り、水分蒸発率が0%の状態から5%に上昇する場合の粘度変化量は約1.5cpであるが、水分蒸発率が15%の状態から20%に上昇する場合の粘度変化量は約4cpとなる。すなわち、水分蒸発が進んで既に増粘している状態からさらに水分蒸発が進むと、粘度が低い状態と比較して粘度変化量が大きくなることが分かった。
【0141】
本実施形態においては、この粘度変化量を用いて粘度情報を取得する。なお、粘度変化量Δηが4cpを超えると、循環流速が第1設定値のときのインク粘度が8cp程度まで上昇していることがわかる。インク粘度が8cpの場合、記録ヘッド3が吐出不良になる可能性があるため、本実施形態では粘度変化量Δηの閾値を4cpと設定する。
【0142】
以上の制御により、循環流速を変化させることでインクの粘度(濃縮状態)に関する情報を得ることができ、適切なタイミングでのインク排出処理の制御が可能となる。また、本実施形態においても、第2実施形態と同様、相対的に粘度変化の値を正しく取得することができ、緻密な制御が可能となる。
【0143】
なお、本実施形態においては濃縮判定する粘度変化量の値を4cpとしたが、環境温度や湿度に応じて濃縮判定する粘度変化量の値を変更してもよく、相対的に粘度変化量の大きさによって濃縮が判定できればよい。
【0144】
また、本実施形態においては、循環流速を変更することで異なる水分蒸発状態となるように制御したが、本発明はこれに限定されない。例えば、飛翔速度検知シーケンスにおけるS207の検知前予備吐出からS208の検知用吐出までの休止時間を変更する制御や、飛翔速度を検知する際のヘッド温度を変更する制御によっても、同様に粘度に関する情報を正確に取得することができる。
【符号の説明】
【0145】
3 記録ヘッド
6 光学式センサユニット(検知手段)
13 吐出口
23 圧力室
419 プリントコントローラ
1000 インクジェット記録装置
1003 サブタンク